特許第6406724号(P6406724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6406724電源制御装置、電力変換システム及び電源制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6406724
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】電源制御装置、電力変換システム及び電源制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 5/297 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
   H02M5/297
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-39782(P2017-39782)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-148644(P2018-148644A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2018年7月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳崎 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 貴志
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 悟司
(72)【発明者】
【氏名】小高 渉
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/020898(WO,A1)
【文献】 特開2014−45566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 5/297
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を有する複数のスイッチ回路により、前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御装置であって、
前記電力変換装置から出力させる出力電圧の階段状波形を作成する波形作成手段と、
前記波形作成手段が作成した階段状波形に基づく出力電圧の基本波の位相、前記波形作成手段が作成した階段状波形で示される出力電圧の絶対値を最大にした時の位相を示す立ち上がり位相、及び前記スナバ素子の放電に必要な期間に基づく放電位相差に基づいて、前記電力変換装置から出力する出力電圧の基本波の位相及び出力電流の位相の位相差を導出する位相差導出手段と、
前記位相差導出手段が導出した位相差となる周波数を導出する周波数導出手段と、
前記周波数導出手段が導出した周波数となるように、前記電力変換装置の前記スイッチ回路を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする電源制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電源制御装置であって、
前記位相差導出手段は、
前記波形作成手段が作成した階段状波形をフーリエ級数展開した結果に基づいて出力電圧の基本波の位相を導出する
ことを特徴とする電源制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電源制御装置であって、
前記位相差導出手段は、
前記波形作成手段が作成した階段状波形に基づく出力電圧の変化、前記共振回路の共振回路特性及び前記波形作成手段が作成した階段状波形をフーリエ級数展開した結果に基づく出力電圧の基本波の振幅から求めた出力電流の大きさに基づいて、前記スナバ素子の放電位相差を導出する
ことを特徴とする電源制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電源制御装置であって、
前記制御手段は、
前記位相差導出手段が導出した位相差に基づいて、前記スイッチ回路の切替制御により出力周波数を制御する
ことを特徴とする電源制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の電源制御装置であって、
設定された出力電圧指令値を読み取る指令値読取手段と、
多相交流電源から入力される各相の入力電圧を検出する電圧検出手段と
を備え、
前記波形作成手段は、
前記指令値読取手段が読み取った出力電圧指令値及び前記電圧検出手段が検出した各相の入力電圧に基づいて、階段状波形を作成する
ことを特徴とする電源制御装置。
【請求項6】
多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を有する複数のスイッチ回路により、前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置と、
前記電力変換装置を制御する請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の電源制御装置と
を備えることを特徴とする電力変換システム。
【請求項7】
多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を有する複数のスイッチ回路により、前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御方法であって、
前記電力変換装置から出力させる出力電圧の階段状波形を作成する波形作成ステップと、
前記波形作成ステップにて作成した階段状波形に基づく出力電圧の基本波の位相、前記波形作成ステップにて作成した階段状波形で示される出力電圧の絶対値を最大にした時の位相を示す立ち上がり位相、及び前記スナバ素子の放電に必要な期間に基づく放電位相差に基づいて、前記電力変換装置から出力する出力電圧の基本波の位相及び出力電流の位相の位相差を導出する位相差導出ステップと、
前記位相差導出ステップにて導出した位相差となる周波数を導出する周波数導出ステップと、
前記周波数導出ステップが導出した周波数となるように、前記電力変換装置の前記スイッチ回路を制御する制御ステップ
実行することを特徴とする電源制御方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多相交流電源の相毎に接続され、複数のスイッチ回路により、AC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御装置、そのような電源制御装置を備える電力変換システム、及びそのような電力変換システムにて実行される電源制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多相交流電源から入力を受け、マトリックスコンバータにより、AC−AC変換を行って負荷側に出力する電力変換装置が注目されている。マトリックスコンバータは、入力である多相交流電源の相毎に接続したスイッチ回路をオン/オフすることで、直流に変換することなく、AC−AC変換し、交流を負荷側に出力する。マトリックスコンバータは、負荷側に出力する交流の電圧、周波数等に応じて、双方向スイッチの切り替えを制御する。交流から交流に変換するマトリックスコンバータは、交流から直流に変換した後、再度交流に変換するインバータを用いた電力変換に比べ変換損失が小さく、また、インバータを必要としないので小型化が容易であるといった利点がある。
【0003】
本願出願人は、このようなマトリックスコンバータについて、出力側に共振回路を配設することにより、電圧と電流との間に位相差を生じさせ、電圧又は電流がゼロの状態でスイッチングを行うソフトスイッチングの技術を開示している(特許文献1参照。)。
【0004】
ソフトスイッチングは、電圧が印加されて電流が流れている状態で強制的にオン/オフを行うことで変換処理をするハードスイッチングと比べて、スイッチング損失の抑制、変換効率の低下の抑制、半導体デバイスにかかるストレスの抑制等の様々な効果が見込める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−149857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らは、前述の特許文献1に開示した技術を更に改良し、伝達効率を高めることを課題として取り組んだ。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、電流の位相を最適化することにより、出力の伝達効率を高めることが可能な電源制御装置の提供を主たる目的とする。
【0008】
また、本発明は、本発明に係る電源制御装置を用いた電力変換システムの提供を他の目的とする。
【0009】
更に、本発明は、本発明に係る電力変換システムにて実施可能な電源制御方法の提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願記載の電源制御装置は、多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を有する複数のスイッチ回路により、前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御装置であって、前記電力変換装置から出力させる出力電圧の階段状波形を作成する波形作成手段と、前記波形作成手段が作成した階段状波形に基づく出力電圧の基本波の位相、前記波形作成手段が作成した階段状波形で示される出力電圧の絶対値を最大にした時の位相を示す立ち上がり位相、及び前記スナバ素子の放電に必要な期間に基づく放電位相差に基づいて、前記電力変換装置から出力する出力電圧の基本波の位相及び出力電流の位相の位相差を導出する位相差導出手段と、前記位相差導出手段が導出した位相差となる周波数を導出する周波数導出手段と、前記周波数導出手段が導出した周波数となるように、前記電力変換装置の前記スイッチ回路を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、前記電源制御装置において、前記位相差導出手段は、前記波形作成手段が作成した階段状波形をフーリエ級数展開した結果に基づいて出力電圧の基本波の位相を導出することを特徴とする。
【0012】
また、前記電源制御装置において、前記位相差導出手段は、前記波形作成手段が作成した階段状波形に基づく出力電圧の変化、前記共振回路の共振回路特性及び前記波形作成手段が作成した階段状波形をフーリエ級数展開した結果に基づく出力電圧の基本波の振幅から求めた出力電流の大きさに基づいて、前記スナバ素子の放電位相差を導出することを特徴とする。
【0013】
また、前記電源制御装置において、前記制御手段は、前記位相差導出手段が導出した位相差に基づいて、前記スイッチ回路の切替制御により出力周波数を制御することを特徴とする。
【0014】
また、前記電源制御装置において、設定された出力電圧指令値を読み取る指令値読取手段と、多相交流電源から入力される各相の入力電圧を検出する電圧検出手段とを備え、前記波形作成手段は、前記指令値読取手段が読み取った出力電圧指令値及び前記電圧検出手段が検出した各相の入力電圧に基づいて、階段状波形を作成することを特徴とする。
【0016】
更に、本願記載の電力変換システムは、多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を有する複数のスイッチ回路により、前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置と、前記電力変換装置を制御する前記電源制御装置とを備えることを特徴とする。
【0017】
更に、本願記載の電源制御方法は、多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を有する複数のスイッチ回路により、前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御方法であって、前記電力変換装置から出力させる出力電圧の階段状波形を作成する波形作成ステップと、前記波形作成ステップにて作成した階段状波形に基づく出力電圧の基本波の位相、前記波形作成ステップにて作成した階段状波形で示される出力電圧の絶対値を最大にした時の位相を示す立ち上がり位相、及び前記スナバ素子の放電に必要な期間に基づく放電位相差に基づいて、前記電力変換装置から出力する出力電圧の基本波の位相及び出力電流の位相の位相差を導出する位相差導出ステップと、前記位相差導出ステップにて導出した位相差となる周波数を導出する周波数導出ステップと、前記周波数導出ステップにて導出した周波数となるように、前記電力変換装置の前記スイッチ回路を制御する制御ステップとを実行することを特徴とする。
【0018】
本願記載の電源制御装置、電力変換システム及び電源制御方法は、電流の位相を好適化することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、電力変換装置から階段状波形として出力する電圧の絶対値を最大にした時の位相を示す立ち上がり位相及びスイッチ回路に含まれるスナバ素子の放電に必要な期間に基づく位相に基づいて好ましい位相差を導出し、導出した位相差に基づき電力変換装置を制御する。これにより、電流の位相が好適化される。従って、好ましいタイミングでのスイッチングを可能とし、出力側の力率を高めて、出力の伝達効率を向上させることが可能である等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本願記載の電力変換システムの回路構成の一例を示す概略構成図である。
図2】本願記載の電力変換システムにおいて、三相交流電源の電圧波形及びスイッチング素子の制御パターンを示す説明図である。
図3】本願記載の電力変換システムにおいて、電力変換装置の出力電圧及び出力電流の関係を経時的に示すグラフである。
図4A】本願記載の電力変換システムにおける電力変換装置が備えるスイッチング素子の動作状況を経時的に示すタイムチャートである。
図4B】本願記載の電力変換システムにおける電力変換装置が備えるスイッチング素子の動作状況を経時的に示すタイムチャートである。
図5】本願記載の電力変換システムにおける電力変換装置が備えるスイッチング素子並びに出力電圧及び出力電流の状況を経時的に示すグラフである。
図6】本願記載の電力変換システムが備える電力変換装置からの出力波形を概略的に示すグラフである。
図7】本願記載の電力変換システムが備える電力変換装置のスイッチ回路の一例を示す回路図である。
図8】本願記載の電力変換システムが備える電力変換装置からの出力波形を概略的に示すグラフである。
図9】本願記載の電源制御装置の処理を概念的に示すブロック図である。
図10】本願記載の電力変換システムが備える電力変換装置からの出力波形を概略的に示すグラフである。
図11】本願記載の電力変換システムが備える電力変換装置が実行する位相算出処理の一例を示すフローチャートである。
図12】本願記載の電力変換システムにおいて、電源制御装置の制御に基づいて電力変換装置から出力される出力電圧及び出力電流の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具現化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0022】
<電力変換システム>
図1は、本願記載の電力変換システムの回路構成の一例を示す概略構成図である。図1に例示する電力変換システム1は、三相交流電源等の多相交流電源から入力された交流電力をAC−AC変換する。図1に示す電力変換システム1では、変換された交流電力を、例えば車両に搭載された二次電池等の電力負荷2への充電用に出力する形態を例示している。電力変換システム1から出力された交流電力は、トランスTを介して非接触状態で車両側へ出力され、車両側のAC−DC変換装置により変換された直流電力として電力負荷2へ供給される。なお、AC−DC変換装置は、車両に搭載されていても、車両外に配置されていてもよい。
【0023】
電力変換システム1は、複数のスイッチ回路を有するマトリックスコンバータ110及びLLC回路等の共振回路111を有する電力変換装置11、並びに電力変換装置11を制御する電源制御装置12を備えている。
【0024】
図1に例示するマトリックスコンバータ110は、6組のスイッチ回路を有しており、各組のスイッチ回路は、双方向スイッチとして機能する。入力される三相交流電源10の各相(R相,S相,T相)には、それぞれスイッチ回路として、2つの双方向スイッチが並列に接続されている。各双方向スイッチは、2つのスイッチング素子と、2つのダイオードと、スナバ素子として機能する1つのコンデンサ(スナバコンデンサ)とをそれぞれ備えている。以下では、スイッチング素子S1,S2を備えるスイッチ回路を例示して説明するが、スイッチング素子S3〜S12を備える他のスイッチ回路についても同様である。
【0025】
スイッチング素子S1,S2は、逆導通しない構造をもつ半導体スイッチであり、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ(IGBT)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等の素子が用いられる。スイッチ回路は、2つのスイッチング素子S1,S2を逆並列接続しているため、双方向スイッチとして機能する。
【0026】
スナバ素子として機能するコンデンサC1は、逆並列接続されたスイッチング素子S1,S2のコレクタ−エミッタ間に接続されている。
【0027】
また、スイッチング素子S1,S2のコレクタ−ベース間には、ダイオードD1,D2(図4A図4B等参照)が接続されている。
【0028】
スイッチング素子S3〜S12を備える他のスイッチ回路も同様に、コンデンサC2〜C6及びダイオード(図4A図4Bにて、D3〜D6を図示)を備えている。
【0029】
これら6組のスイッチ回路を有するマトリックスコンバータ110は、三相交流電源10の相ごとに接続され、各スイッチング素子S1,S2,…,S11,S12のオン/オフ切り替えにより、三相交流電源10のうちいずれか2相の相間電圧を出力する。また、R相、S相及びT相からなる三相交流電源10からの出力は、スイッチング素子S1〜S6を用いて形成されるU相側及びスイッチング素子S7〜S12を用いて形成されるV相側に電流の方向に応じて分岐する。各スイッチング素子S1,S2,…,S11,S12のオン/オフ切り替えは、電源制御装置12により制御される。
【0030】
共振回路111は、コンデンサC111と、コイルL111とを直列に接続し、更に電力負荷2に非接触で接続するトランスTの一次側コイルLt1が接続されたLLC回路である。共振回路111の共振周波数は、電力変換装置11から出力する交流電圧の周波数に基づいて決定されている。なお、一次側コイルLt1と共にトランスTを構成する二次側コイルLt2には、AC−DC変換装置を介して電力負荷2が接続されている。
【0031】
電源制御装置12は、入力電圧検出部120、演算部121及びパルス出力部122、その他にも出力電圧検出部123等の各種構成を備えている。
【0032】
入力電圧検出部120は、三相交流電源10から入力を受ける各相の電圧をそれぞれ検出する回路である。図1に例示する電力変換システム1では、各相R,S,Tの電圧er ,es ,et をそれぞれ検出し、演算部121に入力電圧E、並びに位相θr ,θs ,θt として出力する。
【0033】
演算部121は、入力電圧検出部120が検出した入力電圧及び入力電圧位相の初期値の入力に基づいて、電力変換装置11の変換の対象となる各相の位相差及び位相差に基づく周波数を導出する。そして、演算部121は、導出した位相差及び周波数になるようにマトリックスコンバータ110を制御すべくパルス出力部122へ位相差及び周波数に基づく出力値を出力する。
【0034】
パルス出力部122は、演算部121から出力された出力値に基づいて、マトリックスコンバータ110の各スイッチング素子S1,S2,…,S11,S12を制御すべく、PWMパルス信号を生成し、生成したPWMパルス信号をマトリックスコンバータ110へ出力する。
【0035】
演算部121による演算及び演算結果に基づく各スイッチング素子S1,S2,…,S11,S12の制御の詳細については後述する。
【0036】
このような電源制御装置12は、演算部121により、装置全体を制御されて動作する。なお、演算部121は、VLSI、LSI等の論理回路を用いたハードウェアとして実現しても良く、フラッシュメモリ等の記録回路及び記録回路に記録されたコンピュータプログラムを実行するCPU等の制御回路として実現しても良く、更にはこれらを適宜組み合わせて実現しても良い。即ち、電源制御装置12は、論理回路が搭載された制御基板、本願記載の電源制御方法を実現する電源制御プログラムが記録され、その電源制御プログラムを実行するコンピュータ等の態様で構成される。
【0037】
<制御方法>
図2は、本願記載の電力変換システム1において、三相交流電源10の電圧波形及びスイッチング素子の制御パターンを示す説明図である。図2(a)は、横軸に時間をとり、縦軸に入力電圧Vinの電圧値をとって、三相交流電源10から出力された各相の電圧値の経時変化を示している。各相の電圧波形er ,es ,et は、位相が2/3π(120°)ずつずれている。電源制御装置12は、各相の電圧の大小関係で分類した6パターンの区間(図2に示すA〜Fの区間)毎に、その区間に応じた制御パターンで電力変換装置11の6組のスイッチ回路の状態(スイッチング素子S1〜S12のオン/オフ状態)を制御する。
【0038】
図2(b)は、横軸に概念的な時間をとって、スイッチング素子S1〜S12の制御パターン及び出力電圧Vout の電圧値の経時変化を示している。なお、横軸は、説明の便宜上、概念的な時間として、時刻T1〜T6〜次の周期の各区間を等分して示しているが、各区間の時間間隔は必ずしも一定ではない。また、図2(b)に示す制御パターンは、図2(a)に示した区間Dにおけるスイッチング素子S1〜S12の制御パターンを示している。なお、図2において、スイッチング素子S1〜S12の経時変化のうちオンとなる区間を斜線にて示している。
【0039】
電源制御装置12は、スイッチング素子S1〜S12のオン/オフの切り替えを繰り返し行うことにより、電力変換装置11から出力される相間電圧が図2に示すように周期的に変化する。
【0040】
図3は、本願記載の電力変換システム1において、電力変換装置11の出力電圧及び出力電流の関係を経時的に示すグラフである。図3は、横軸に時間をとり、左側に示す縦軸に出力電圧Vout をとり、右側に示す縦軸に出力電流Iout をとって、出力電圧Vout 及び出力電流Iout の経時変化を示している。なお、出力電流Iout は、図1を例示して説明した電力変換装置11において、スイッチング素子S1〜S6を用いて形成されるスイッチ回路から電力負荷2側へ出力されるU相の電流を示している。図3に示すように、出力電圧Vout は階段状の波形を示す階段状波として出力される。階段状波として出力される出力電圧Vout は、時刻T1で反転し、時刻T2で、最後の立ち上がりが起こり最大となる。また、出力電圧Vout は、時刻T3〜T5の間で段階的に下がり、時刻T4で反転し、時刻T5で最小となる(所謂、立ち下がりの最後となる)。また、電力変換装置11は、共振回路111を備えているため、出力電流Iout の位相は、出力電圧Vout の位相より、位相θに相当する時間分の遅延が生じる。なお、本願では、負から正への反転が発生する時刻T1を基準に位相を定義する。
【0041】
図4A及び図4Bは、本願記載の電力変換システム1における電力変換装置11が備えるスイッチング素子S1〜S6の動作状況を経時的に示すタイムチャートである。図4A及び図4Bに示すスイッチング回路は、S1〜S6にて示すスイッチング素子、C1〜C3として示すスナバコンデンサ、及びD1〜D6として示すダイオードを備えている。また、図5は、本願記載の電力変換システム1における電力変換装置11が備えるスイッチング素子S1〜S4並びに出力電圧及び出力電流の状況を経時的に示すグラフである。図4A及び図4B並びに図5は、図2及び図3に例示したR相からS相へ切り替わる時刻T5以降の制御の状況をt1〜t4の区間に細分化して示している。なお、図4A及び図4Bは、図4A(a)、図4A(b)、図4A(c)、図4B(a)、図4B(b)の順でスイッチング素子の切替が行われる。図5に示すVcrは、スイッチング素子S1、S2のコレクタ−エミッタ間に接続されたコンデンサC1の両端電圧であり、Vcsは、スイッチング素子S3、S4のコレクタ−エミッタ間に接続されたコンデンサC2の両端電圧である。また、Ir はR相を流れる電流であり、Is は、S相を流れる電流である。なお、実際には、R相及びS相を流れる電流は、スイッチング状態が変化しない状態においても一定では無く変動するが、図5では、理解を容易にするため、電流が流れており、かつスイッチングが変化しない状態では一定であるものとして概念的な図示としている。
【0042】
まず、電源制御装置12は、図2及び図3に示した時刻T5になった直後のt1において、スイッチング素子S4をオフ状態からオン状態に切り替える(図4A(a)→図4A(b))。このスイッチング素子S4の状態の切り替え時には、電流がS相を流れていないので(Is =0)、t1におけるスイッチング素子S4の状態の切り替えがゼロ電流シーケンス(ZCS)で行われる。即ち、t1におけるスイッチング素子S4の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。
【0043】
次に、電源制御装置12は、t2において、スイッチング素子S2をオン状態からオフ状態に切り替える(図4A(b)→図4A(c))。このスイッチング素子S2の状態の切り替え時には、コンデンサC1の両端電圧が0Vであるので、t2におけるスイッチング素子S2の状態の切り替えがゼロ電圧シーケンス(ZVS)で行われる。即ち、t2におけるスイッチング素子S2の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。また、スイッチング素子S2をオフ状態にしたことにより、コンデンサC1の充電が開始され、S相の電流Is が流れ始める。なお、スイッチング素子S2を切り替えたt2の直後は、充電が開始されるコンデンサC1にて接続されることにより、一時的に双方に電流が流れることになる。従って、図5に示すように、t2の直後はコンデンサC1の充電及びコンデンサC2の放電が完了するまで、R相の電流Ir とS相の電流Is とに電流が分けられることになる。
【0044】
電源制御装置12は、t3において、スイッチング素子S3をオフ状態からオン状態に切り替える(図4A(c)→図4B(a))。このスイッチング素子S3の状態の切り替え時には、コンデンサC2の両端電圧が0Vであるので、t3におけるスイッチング素子S3の状態の切り替えがゼロ電圧シーケンス(ZVS)で行われる。即ち、t3におけるスイッチング素子S3の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。
【0045】
なお、コンデンサC1〜C6の容量と、共振回路111の共振周波数及び電力負荷2の大きさとの関係については後述する。
【0046】
電源制御装置12は、t4において、スイッチング素子S1をオン状態からオフ状態に切り替える(図4B(a)→図4B(b))。このスイッチング素子S1の状態の切り替え時には、電流がR相を流れていないので(Ir =0)、t4におけるスイッチング素子S4の状態の切り替えがゼロ電流シーケンス(ZCS)で行われる。即ち、t4におけるスイッチング素子S1の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。
【0047】
このように、電力変換装置11の転流動作にかかるスイッチング素子S1〜S12の状態の切り替えが、全てソフトスイッチングで行われ、ハードスイッチングで行われることがない。このような電力変換装置11としては、例えば、特開2015−149857号公報にて詳述した技術を適用することが可能である。
【0048】
<制御及び各種演算>
次に、本願記載の電力変換システム1において、電力変換装置11からの出力に係る出力周波数を、電力負荷2に応じて動的に最適化することで、ソフトスイッチングを達成しながらも、力率が高くなるように制御する方法及びそのための各種演算について説明する。具体的には、前述の電力変換システム1によるソフトスイッチングにおいて、出力電圧及び出力電流の最適な位相差を導出し、導出した位相差にすべく、電源制御装置12が電力変換装置11を制御する方法である。
【0049】
電力負荷2に対して最適化された出力周波数とし、ソフトスイッチングを達成しながらも力率を最高にするためには、下記の条件1及び条件2を充足し、更に条件3を充足するように出力周波数を制御する。
【0050】
条件1.出力電圧の絶対値が増加している期間に、出力電流が出力電圧の反対極性
即ち、
条件1.1 出力電圧増加時に出力電流iuv<0
条件1.2 出力電圧減少時に出力電流iuv>0
のうち一方の条件を充足する。
条件2.スナバ素子が放電する期間内に出力電流の極性変化無し
条件3.上記条件1及び条件2を充足し、出力電圧及び出力電流の位相差が最小
【0051】
条件1について説明する。図6は、本願記載の電力変換システム1が備える電力変換装置11からの出力波形を概略的に示すグラフである。図6は、横軸に位相をとり、縦軸に出力値をとって、出力電圧及び出力電流の波形の変化を示している。図6中、階段状波を示す実線は、電力変換装置11から出力される出力電圧の階段状波形を示しており、正弦波を示す破線は、出力電圧の基本波を示している。基本波は、電力変換装置11から出力する出力電圧の階段状波形から高次成分を除いた出力電圧の波形である。更に、実線で示した正弦波は、電力変換装置11から出力される出力電流の波形を示している。なお、ここではU相からV相の方向へと流れる電流を出力電流として示している。
【0052】
図6に示すように、階段状波として出力される出力電圧が正であり、かつ出力電圧の値が立ち上がって増加している時点を含む期間Trにおいて、実線で示す出力電流iuv<0の条件を充足している。
【0053】
条件2について説明する。図7は、本願記載の電力変換システム1が備える電力変換装置11のスイッチ回路の一例を示す回路図である。図7に示すスイッチ回路は、2つのスイッチング素子S1,S2を逆並列接続した双方向スイッチであり、逆並列接続されたスイッチング素子S1,S2のエミッタ−コレクタ間をスナバ素子として機能するコンデンサ(スナバコンデンサ)C1により接続している。また、スイッチング素子S1のコレクタ−ベース間には、ダイオードD1が接続されており、スイッチング素子S2のコレクタ−ベース間には、ダイオードD2が接続されており、それぞれ逆流防止用の素子として機能する。図7に向かって左側がR相となる三相交流電源10側を示しており、右側がU相となる電力負荷2側を示している。スナバコンデンサC1は、転流時に充放電を行うことにより、スイッチ回路の両端の急激な電圧変化を抑制する。即ち、図7において、R相とU相との電位差となるVruが正(Vru>0)の場合に、三相交流電源10側から電力負荷2側へ流れる電流iu が正(iu >0)のときは、スナバ素子への充電が行われ、電流iu が負(iu <0)のときは、スナバ素子が放電する。
【0054】
図8は、本願記載の電力変換システム1が備える電力変換装置11からの出力波形を概略的に示すグラフである。図8は、横軸に時間をとり、縦軸に出力値をとって、出力電圧及び出力電流の波形の変化を示している。図8中、階段状波は、電力変換装置11から出力される出力電圧Vout の波形を示しており、正弦波は、電力変換装置11から出力される出力電流iuvの波形を示している。前述の様に、スナバ素子は、転流時に充放電を行うことにより、スイッチ回路の両端の急激な電圧変化を抑制している。従って、スナバ素子が完全に放電するまで、スイッチ回路を流れる出力電流iuvの方向(極性)が変化しないように制御する必要がある。即ち、条件2.「スナバ素子が放電する期間内に出力電流の極性変化無し」を充足しなければならない。図8では、出力電流iuvが負から正になるまで、即ち、時刻tr から時刻ti に到達するまでに放電を完了しなければならない。従って、スナバ素子の放電に必要な期間を考慮し、放電に必要な期間内に出力電流が極性変化しないように制御しなければならない。
【0055】
なお、図8中に時刻tr として示す出力電圧の絶対値を最大にする時点から後は、転流と電流との極性変化の時間差が小さくなるので、スナバ素子の静電容量を考慮して、精度良く制御する必要がある。即ち、下記式(1)にて示す条件を充足するように制御しなければならない。なお、出力電圧の絶対値を最大にする時点とは、階段状波である出力電圧が、極小値から極大値へ遷移するまで、複数回の立ち上がりを行ううちで、その最後に立ち上がる時点のことであり、例えば、前述の図3に例示した時刻T2の時点をいう。極大値から極小値に遷移する場合は、最後に出力電圧が下がる、所謂立ち下がりの最後の時点であり、前述の図3では、時刻T5として例示している。
【0056】
【数1】
【0057】
図9は、本願記載の電源制御装置12の処理を概念的に示すブロック図である。図9は、上述した条件1及び条件2並びに条件3を充足させるために必要な演算をブロック図として示している。電源制御装置12は、入力又は設定された出力電圧指令値を読み取り、階段状の出力波となる出力電圧波形(階段状波形)を形成する。
【0058】
電源制御装置12の演算部121は、形成した出力電圧波形をフーリエ級数展開し、その結果に基づいて出力電圧の基本波の位相φ1 と、出力電圧の基本波の振幅V1 とを導出する。
【0059】
演算部121は、出力電圧の基本波の振幅V1 及び共振回路111のインピーダンスZから下記式(2)により、出力電流の大きさIを導出する。なお、インピーダンスZは、後述する方法で導出した位相差(φi −φ1 )から導出される角周波数ωをフィードバックすることにより設定する。
【0060】
I=V1/|Z| ・・・式(2)
但し、I:出力電流の大きさI
V1:出力電圧の基本波の振幅
Z:インピーダンス
【0061】
演算部121は、形成した出力電圧波形から導出される出力電圧の絶対値を最大にする時点(出力電圧の最後の立ち上がり時)における出力電圧の変化ΔVと、導出した出力電流の大きさIとから、スナバ素子の静電容量C等の条件2として、前述の式(1)に基づいて放電に必要な位相差Δφs を導出する。位相差Δφs は、図8に示したti −tr に対応している。
【0062】
演算部121は、形成した出力電圧波形から導出される出力電圧の絶対値を最大にする時点(出力電圧の最後の立ち上がり時)の位相φr と、導出した放電に必要な位相差Δφs とを加算し、最適な電流位相φi (φi =φr +Δφs )を導出する。
【0063】
演算部121は、導出した最適な電流位相φi から、フーリエ級数展開にて導出した出力電圧の基本波の位相φ1 を減じて、最適な出力電流の位相差(φi −φ1 )を導出する。
【0064】
演算部121は、導出した最適な出力電流の位相差(φi −φ1 )に基づく共振回路111のインピーダンスZ(ω)を導出し(φi −φ1 =Z(ω))、更に角周波数ωを導出する。導出した角周波数ωは、出力電流の大きさIの導出にフィードバックされる。また、演算部121は、導出した角周波数ωから最適な出力周波数fを導出する。
【0065】
そして、演算部121は、位相差(φi −φ1 )に基づき出力周波数fに制御すべく、パルス出力部122へ出力値を出力し、パルス出力部122は演算部121から出力された出力値に基づいて電力変換装置11のマトリックスコンバータ110を制御する。
【0066】
前述の演算処理において、演算部121が、基本波の各要素を導出する際のフーリエ級数展開について説明する。出力電圧波形に基づく周期関数vout のフーリエ級数展開式は、下記式(3)のように表される。
【0067】
vout =a0 +Σan cos(nωt)+b0 +Σbn sin(nωt)
=V0 +ΣVn sin(nωt+φn ) (n=0,1,2,…)
∴Vn =(an 2 +bn 2 )1/2 , φ1 =tan(a1 /b1 ) ・・式(3)
【0068】
なお、上記式において、ωはvout の角周波数である。また、上記式のうちn=1の成分が上述した基本波の成分であり、この成分を用いて基本波は、下記式(4)で表される。
【0069】
V1 sin(ωt+φ1 ) ・・・式(4)
【0070】
更に、式(4)にて示される基本波の各成分は、vout の周期Tを用いて下記式(5)で表される。
【0071】
【数2】
【0072】
このようにして、演算部121は、フーリエ級数展開を行って、出力電圧波形に基づき振幅V1及び位相φ1 等の基本波の成分を導出し、導出した基本波の成分を各種演算に使用する。
【0073】
前述の演算処理において、演算部121が、スナバ素子として用いられているスナバコンデンサの放電に必要な位相差Δφs を導出する処理について説明する。
【0074】
条件2として式(1)を用いて説明したように、出力電流の極性が変化するまで、例えば、出力電流が負から正になるまで、スナバコンデンサは放電を完了しなければならない。
【0075】
図10は、本願記載の電力変換システム1が備える電力変換装置11からの出力波形を概略的に示すグラフである。図10は、横軸に位相をとり、縦軸に出力値をとって、出力電圧及び出力電流の波形の変化を示している。図10に示される出力電流iを、下記の式(6)とする。
【0076】
i=iuv=Isin(ωt−φi ) ・・・式(6)
【0077】
上記式(6)を解くことにより、下記の式(7)が得られる。
【0078】
φi −φr >cos-1(1−2ωCΔV/I) ・・・式(7)
【0079】
演算部121は、式(7)を用いて、スナバ素子として用いられるスナバコンデンサの放電に必要な位相差Δφs (=φi −φr )を導出する。
【0080】
前述の演算処理において、演算部121が、出力電圧波形から出力電圧の絶対値を最大にする時点の位相φr と、フーリエ級数展開により導出する出力電圧の基本波の位相φ1 とを導出する具体的な処理について更に説明する。図11は、本願記載の電力変換システム1が備える電力変換装置11が実行する位相算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0081】
電力変換装置11の演算部121は、入力又は設定された出力電圧指令値を読み取り(ステップS1)、更に予め設定されている入力電圧位相の初期値を読み取る(ステップS2)。ステップS1及びステップS2の読取処理は、予め設定値として内部に記録されている値を読み取るようにしても良く、また、外部から入力された値を読み取るようにしても良い。
【0082】
演算部121は、読み取った出力電圧指令値及び入力電圧位相の初期値に基づいて、マトリックスコンバータ110が備えるスイッチ回路の各スイッチング素子についてのオン/オフの時間比率(スイッチング時比率)を導出する(ステップS3)。
【0083】
読み取った出力電圧指令値及び導出したスイッチング時比率に基づいて、演算部121は、電力変換装置11から階段状波として出力させる出力電圧波形(階段状波形)を作成する(ステップS4)。
【0084】
作成した出力電圧波形に基づいて、演算部121は、出力電圧の絶対値を最大にした時の位相φr を導出する(ステップS5)。また、演算部121は、作成した出力電圧波形をフーリエ級数展開して(ステップS6)、出力電圧の基本波の位相φ1 を導出する(ステップS7)。
【0085】
そして、演算部121は、演算の対象とする入力電圧の位相を更新し(ステップS8)、演算を終了するか否かを判定する(ステップS9)。ステップS9において、演算を終了しないと判定した場合(ステップS9:NO)、演算部121は、ステップS3へ戻り以降の処理を繰り返す。また、ステップS9において、演算を終了すると判定した場合(ステップS9:YES)、制御部は、位相算出処理を終了する。ステップS9の終了判定条件は、仕様に応じて適宜設定される。例えば、入力電圧位相の初期と最終値との差が所定値以下にまで収束した場合に、演算を終了すると判定する。
【0086】
以上のようにして、位相算出処理が実行される。
【0087】
以上、詳述したように、本願記載の電力変換システム1では、図9のブロック図、図11のフローチャート等の図を用いて概念的に処理を例示したように、出力電圧指令値に基づいて、スイッチング時比率の導出、出力電圧波形の作成、出力周波数の導出等の各種処理を繰り返し行う再帰的アルゴリズムを用いて漸近的に解が収束するように演算する。そして、演算により得られた解、即ち前述の条件1(条件1.1,条件1.2)、条件2及び条件3に基づいて制御することにより、電力変換装置11からの出力に係る周波数fを動的に最適化し、力率が1又は可及的に1に近付くようにソフトスイッチングを実施することができる。
【0088】
<実験結果>
次に、本願記載の電力変換システム1において、電源制御装置12により制御される電力変換装置11の出力を実験した結果について説明する。図11は、本願記載の電力変換システム1において、電源制御装置12の制御に基づいて電力変換装置11から出力される出力電圧及び出力電流の実験結果を示すグラフである。図11(a)、(b)及び(c)は、横軸に時間をとり、縦軸に出力値をとって、出力電圧及び出力電流の経時変化を示すグラフである。図11(a),(b),(c)は、それぞれスイッチング時比率を変化させて作成した様々な階段状波形にて示される出力電圧に対し、出力電流の波形がどのようになるかを示している。
【0089】
図11(a)、(b)及び(c)に示すように、出力電圧の波形がどのような階段状波形であっても、出力電流が追従した結果となり、最適な位相制御がなされている。そして、いずれの実験においても、前述の条件1乃至条件3を充足している。即ち、出力電圧の絶対値が増加している期間に、出力電流が出力電流の反対極性であり、スナバ素子の放電期間内に出力電流の極性変化が無く、当該条件下において出力電圧及び出力電流が最小となっている。
【0090】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、他の様々な形態で実施することが可能である。そのため、上述した実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。更に、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0091】
例えば、前記実施形態では、電力変換システム1から出力する交流電力を直流に変換する形態を例示したが、直流に変換することなく、交流電力として使用するようにしても良い。
【0092】
また、電力変換装置11のマトリックスコンバータ110に用いられるスイッチ回路は、双方向スイッチであれば、他の回路構成であっても良い。例えば、還流ダイオードとして機能するダイオードが逆並列接続された2つのスイッチング素子を逆向きに直列接続し、直列接続されたスイッチング素子と並列にスナバコンデンサを接続した回路構成の双方向スイッチを用いることも可能である。
【0093】
また、電力変換システム1は、出力先の電力負荷2に係る電圧を出力電圧検出部123にて検出し、フィードバック制御する等、適宜設計することが可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 電力変換システム
10 多層交流電源(三相交流電源)
11 電力変換装置
110 マトリックスコンバータ
111 共振回路(LLC回路)
C1〜C6 スナバコンデンサ(スナバ素子)
S1〜S12 スイッチング素子
12 電源制御装置
120 入力電圧検出部
121 演算部
122 パルス出力部
123 出力電圧検出部
2 電力負荷
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12