特許第6406795号(P6406795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星エスディアイ株式会社の特許一覧

特許6406795リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用正極活物質層、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ層
<>
  • 特許6406795-リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用正極活物質層、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ層 図000031
  • 特許6406795-リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用正極活物質層、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ層 図000032
  • 特許6406795-リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用正極活物質層、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ層 図000033
  • 特許6406795-リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用正極活物質層、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ層 図000034
  • 特許6406795-リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用正極活物質層、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ層 図000035
  • 特許6406795-リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用正極活物質層、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ層 図000036
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6406795
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用正極活物質層、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ層
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20181004BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20181004BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20181004BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20181004BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20181004BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20181004BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M2/16 P
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
   H01M10/052
   H01M10/0567
【請求項の数】6
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-256429(P2012-256429)
(22)【出願日】2012年11月22日
(65)【公開番号】特開2014-103083(P2014-103083A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年8月25日
【審判番号】不服2017-4689(P2017-4689/J1)
【審判請求日】2017年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000981
【氏名又は名称】アイ・ピー・ディー国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 浩成
(72)【発明者】
【氏名】横辻 北斗
【合議体】
【審判長】 千葉 輝久
【審判官】 土屋 知久
【審判官】 板谷 一弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−28311(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/049184(WO,A1)
【文献】 特開2010−49928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極活物質層と、
負極活物質を含む負極活物質層と、
リチウムイオン及び溶媒を含む電解液と、
前記電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、前記電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を前記正極活物質と前記電解液との界面に形成可能な保護膜形成物質と、を含み、
前記保護膜形成物質は、前記正極活物質層に含まれ、かつ、以下の化学式1〜3のいずれかで示される組成を有し、
【化1】
【化2】
【化3】
前記化学式1〜3中、n1は0〜3の範囲内の整数であり、n2は0〜3の範囲内の整数であり、n3は0〜2の範囲内の整数であり、X〜Xはシアノ基以外の任意の配位子であり、
前記正極活物質層は、前記正極活物質及び前記保護膜形成物質を含むスラリーを集電体上に塗工し、乾燥することで形成されることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記保護膜形成物質が前記化学式1で示される組成を有する場合、前記保護膜形成物質の添加量は、0.5質量%以上w1質量%以下であり、前記w1は、n1=0のときに6となり、かつ、n1が大きいほど小さくなり、n1=1のときに4となり、n1=2のときに3となり、n1=3のときに2となり、n1=3かつX1=OCHとなる場合、w1=1となり、
前記保護膜形成物質が前記化学式2で示される組成を有する場合、前記保護膜形成物質の添加量は、0.3質量%以上w2質量%以下であり、前記w2は、n2=3のときに3となり、かつ、|3−n2|の値が大きいほど小さくなり、|3−n2|=1の時に2、|3−n2|=2の時に1.5、|3−n2|=3の時に1.0となり、
前記保護膜形成物質が前記化学式3で示される組成を有する場合、前記保護膜形成物質の添加量は、0.5質量%以上w3質量%以下であり、前記w3は、n3=0のときに3となり、かつ、n3の値が大きいほど小さくなり、n3=1のときに2となり、n3=2のときに1となることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
正極活物質を含む正極活物質層と、
負極活物質を含む負極活物質層と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に配置され、少なくとも前記正極活物質層に接触する多孔質層と、
リチウムイオン及び溶媒を含む電解液と、
前記電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、前記電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を前記正極活物質と前記電解液との界面に形成可能な保護膜形成物質と、を含み、
前記保護膜形成物質は、前記多孔質層に含まれ、かつ、以下の化学式1〜3のいずれかで示される組成を有し、
【化4】
【化5】
【化6】
前記化学式1〜3中、n1は0〜3の範囲内の整数であり、n2は0〜3の範囲内の整数であり、n3は0〜2の範囲内の整数であり、X〜Xはシアノ基以外の任意の配位子であり、
前記多孔質層は、前記多孔質層を構成する樹脂及び前記保護膜形成物質を含む塗工液を基材上に塗工し、ついで、前記塗工液が塗工された前記基材を凝固液で処理することで形成されることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記電解液は、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤からなる群から選択される添加剤を含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
正極活物質と、
電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、前記電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を前記正極活物質と前記電解液との界面に形成可能な保護膜形成物質と、を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質層であって、
前記正極活物質層内の前記保護膜形成物質は、以下の化学式1〜3のいずれかで示される組成を有し、
【化7】
【化8】
【化9】
前記化学式1〜3中、n1は0〜3の範囲内の整数であり、n2は0〜3の範囲内の整数であり、n3は0〜2の範囲内の整数であり、X〜Xはシアノ基以外の任意の配位子であり、
前記正極活物質層は、前記正極活物質及び前記保護膜形成物質を含むスラリーを集電体上に塗工し、乾燥することで形成されることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用正極活物質層。
【請求項6】
正極活物質層と負極活物質層との間に配置され、少なくとも前記正極活物質層に接触する多孔質層と、
電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、前記電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を前記正極活物質層と前記多孔質層との界面に形成可能な保護膜形成物質と、を含み、
前記保護膜形成物質は、前記多孔質層に含まれ、かつ、以下の化学式1〜3のいずれかで示される組成を有し、
【化10】
【化11】
【化12】
前記化学式1〜3中、n1は0〜3の範囲内の整数であり、n2は0〜3の範囲内の整数であり、n3は0〜2の範囲内の整数であり、X〜Xはシアノ基以外の任意の配位子であり、
前記多孔質層は、前記多孔質層を構成する樹脂及び前記保護膜形成物質を含む塗工液を基材上に塗工し、ついで、前記塗工液が塗工された前記基材を凝固液で処理することで形成されることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用セパレータ層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用正極活物質層、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ層に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1〜2に開示されるように、二次電池の一種として、リチウムイオン二次電池が知られている。リチウムイオン二次電池は、鉛電池やニッカド電池よりも高いエネルギー密度のエネルギーが得られるので、広く実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−171293号公報
【特許文献2】特開2010−49928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リチウムイオン二次電池には、サイクル寿命が十分でないという問題があった。この問題の原因の一つとして、充電時に正極活物質上で溶媒が分解することが考えられている。
【0005】
特許文献1、2は、上記の問題を解決することを目的とする技術を開示するが、これらの技術によっても上記の問題を根本的に解決することができなかった。具体的には、特許文献1に開示された技術は、溶媒としてγ−ブチロラクトン及びプロピレンカーボネート等の高誘電率溶媒を用い、かつ、高誘電率溶媒にリチウムテトラシアノボレート(LiTCB)等のリチウム化合物を溶解させる。すなわち、特許文献1では、リチウムテトラシアノボレート(LiTCB)等のリチウム化合物を電解液の電解質として利用することで、サイクル寿命の向上を図っている。
【0006】
しかし、特許文献1に開示された技術では、リチウムテトラシアノボレート(LiTCB)等のリチウム化合物は高誘電率溶媒に少量(具体的には0.7mol/L)しか溶解しなかったので、実用的な電流密度(例えば1mA/cm)でのサイクル寿命の改善効果は十分でなかった。さらに、特許文献1に開示された技術では、電解液の溶媒として高誘電率溶媒を使用していたので、電流密度(すなわち、エネルギー密度)が充分でないという別の問題があった。この問題を解決する方法として、高誘電率溶媒を低誘電率溶媒(例えばジエチルカーボネート)で溶解する方法が考えられるが、この方法では溶媒にリチウム化合物が全く溶解しなくなってしまう。
【0007】
さらに、特許文献1に開示された技術では、リチウムイオン二次電池の駆動電圧が低かった。具体的には、近年のリチウムイオン二次電池には、4.3V以上の駆動電圧が要求されることが多いが、特許文献1に開示されたリチウムイオン二次電池はこのような高い駆動電圧に対応していなかった。特許文献1に開示されたリチウムイオン二次電池を高い駆動電圧に対応させる方法として、低電位の電極(例えば黒鉛)を負極として使用することが考えられる。しかし、この方法では、リチウム化合物が負極上で容易に分解してしまう。そして、この分解により生成された分解生成物は、負極の保護膜として機能せず、かえって負極での反応を阻害する(例えば抵抗の増加等をもたらす)。これにより、サイクル寿命がかえって悪化してしまう。
【0008】
このように、特許文献1に開示された技術では、溶媒及び負極の種類が限定されるので、リチウムイオン二次電池の電流密度、駆動電圧を高くすることができないという別の問題があった。
【0009】
一方、特許文献2は、電解液の溶媒として引用文献1と同様の溶媒を用い、かつ、シアノ基を有するリチウム化合物を電極もしくは電解液に含有させる技術を開示する。また、引用文献2には、正極にリチウム化合物を含めることで、正極活物質層の表面にリチウム化合物からなる保護膜が形成されることが開示されている。
【0010】
しかし、引用文献2で使用されるリチウム化合物は、電解液に非常に溶解しやすいので、保護膜を正極活物質層の表面に選択的に形成することができなかった。具体的には、仮に正極にリチウム化合物を添加したとしても、リチウム化合物が容易に電解液中に溶出してしまっていた。そして、電解液に溶出したリチウム化合物は、負極で分解し、この分解により生成された分解生成物が負極での反応を阻害していた。
【0011】
さらに、この保護膜は膜体というよりはむしろ堆積物であり、保護膜としての機能が十分であるとはいえなかった。具体的には、この保護膜では、溶媒の通過をある程度抑えられるものの、同時にリチウムイオンの通過も阻害すると考えられる。したがって、特許文献2に開示された技術では、サイクル寿命を十分に改善することができなかった。
【0012】
さらに、引用文献2に開示された技術でも、溶媒として高誘電率溶媒を使用していたので、電流密度(すなわち、エネルギー密度)が充分でないという別の問題があった。この問題を解決する方法として、高誘電率溶媒を低誘電率溶媒(例えばジエチルカーボネート)で溶解する方法が考えられるが、この方法であっても、リチウム化合物は依然として電解液に溶解してしまう。
【0013】
以上の理由により、特許文献1、2に開示された技術は、サイクル寿命の問題を根本的に解決することができなかった。そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を向上させることが可能な、新規かつ改良されたリチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用正極活物質層、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、正極活物質と、リチウムイオン及び溶媒を含む電解液と、電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を正極活物質と電解液との界面に形成可能な保護膜形成物質と、を含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池が提供される。
【0015】
この観点によるリチウムイオン二次電池は、電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を正極活物質と電解液との界面に形成可能な保護膜形成物質を含む。この保護膜は、リチウムイオンと正極活物質との反応を促進しつつ、溶媒の分解を抑制することができる。したがって、リチウムイオン二次電池の高電流密度、高駆動電圧下でのサイクル寿命が向上する。
【0016】
ここで、保護膜形成物質は、リチウムイオンと、アニオン化した中心原子と、中心原子に配位したシアノ基とを含むリチウム化合物であってもよい。
【0017】
この観点によれば、保護膜形成物質は、アニオン錯体を含む。そして、保護膜形成物質は、充電時にシアノ基同士が結合することで保護膜となる。また、アニオン錯体の中心元素が保護膜中のアニオンポイントとなるので、リチウムイオンはこのアニオンポイントを介して保護膜を通過することができる。
【0018】
また、中心原子は、ホウ素、リン、及び炭素からなる群から選択されてもよい。
【0019】
この観点によれば、中心原子は、ホウ素、リン、及び炭素からなる群から選択される。したがって、保護膜は、これらの中心原子から成るアニオンポイントを介してリチウムイオンを通過させることができるので、リチウムイオンをより容易に通過させることができる。
【0020】
また、保護膜形成物質は、以下の化学式1〜3のいずれかで示される組成を有していてもよい。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
【化3】
化学式1〜3中、n1は0〜3の範囲内の整数であり、n2は0〜5の範囲内の整数であり、n3は0〜2の範囲内の整数であり、X〜Xはシアノ基以外の任意の配位子である。
【0024】
この観点によれば、保護膜形成物質は、上述した化学式1〜3のいずれかで示される組成を有する。したがって、保護膜は、リチウムイオンをより容易に通過させることができ、かつ、溶媒の通過をより確実に抑制することができる。
【0025】
また、保護膜形成物質が化学式1で示される組成を有する場合、保護膜形成物質の添加量は、0.5質量%以上w1質量%以下であり、w1は、n1=0のときに6となり、かつ、n1が大きいほど小さくなり、保護膜形成物質が化学式2で示される組成を有する場合、保護膜形成物質の添加量は、0.3質量%以上w2質量%以下であり、w2は、n2=3のときに3となり、かつ、|3−n2|の値が大きいほど小さくなり、保護膜形成物質が化学式3で示される組成を有する場合、保護膜形成物質の添加量は、0.5質量%以上w3質量%以下であり、w3は、n3=0のときに3となり、かつ、n3の値が大きいほど小さくなってもよい。
【0026】
この観点によれば、保護膜形成物質は、その組成に応じて添加量が適切に調整されるので、サイクル寿命をより確実に向上させることができる。
【0027】
また、保護膜形成物質は、正極活物質を含む正極活物質層に添加されてもよい。
【0028】
この観点によれば、保護膜形成物質は、正極活物質層に含まれるので、正極活物質と電解液との界面に保護膜を形成することができる。
【0029】
また、正極活物質を含む正極活物質層と、負極活物質を含む負極活物質層と、正極活物質層と負極活物質層との間に配置され、少なくとも正極活物質層に接触する多孔質層とを備え、保護膜形成物質は、多孔質層に添加されてもよい。
【0030】
この観点によれば、保護膜形成物質は、多孔質層に含まれるので、正極活物質層と多孔質層との界面、すなわち正極活物質と電解液との界面に保護膜を形成することができる。
【0031】
また、電解液は、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤からなる群から選択される添加剤を含んでいてもよい。
【0032】
この観点によれば、電解液に各種の添加剤が添加されるので、これによってもサイクル寿命が向上する。
【0033】
本発明の他の観点によれば、正極活物質と、電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を正極活物質と電解液との界面に形成可能な保護膜形成物質と、を含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池用正極活物質層が提供される。
【0034】
この観点によるリチウムイオン二次電池用正極活物質層は、電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を正極活物質と電解液との界面に形成可能な保護膜形成物質を含む。この保護膜は、リチウムイオンと正極活物質との反応を促進しつつ、溶媒の分解を抑制することができる。したがって、この正極活物質層をリチウムイオン二次電池に適用することで、リチウムイオン二次電池の高電流密度、高駆動電圧下でのサイクル寿命が向上する。
【0035】
本発明の他の観点によれば、正極活物質層と負極活物質層との間に配置され、少なくとも正極活物質層に接触する多孔質層と、電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を正極活物質層と多孔質層との界面に形成可能な保護膜形成物質と、を含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池用セパレータ層が提供される。
【0036】
この観点によるリチウムイオン二次電池用セパレータ層は、電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を正極活物質層と多孔質層との界面に形成可能な保護膜形成物質を含む。この保護膜は、リチウムイオンと正極活物質との反応を促進しつつ、溶媒の分解を抑制することができる。したがって、このセパレータ層をリチウムイオン二次電池に適用することで、リチウムイオン二次電池の高電流密度、高駆動電圧下でのサイクル寿命が向上する。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように本発明によるリチウムイオン二次電池は、電解液中のリチウムイオンを通し、かつ、電解液中の溶媒の通過を抑制する保護膜を正極活物質と電解液との界面に形成可能な保護膜形成物質を含む。この保護膜は、リチウムイオンと正極活物質との反応を促進しつつ、溶媒の分解を抑制することができる。したがって、リチウムイオン二次電池の高電流密度、高駆動電圧下でのサイクル寿命が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す断面図である。
図2】リチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
図3】リチウム化合物の添加量とリチウムイオン二次電池の放電容量との対応関係を示すグラフである。
図4】リチウム化合物の添加量とリチウムイオン二次電池の放電容量維持率との対応関係を示すグラフである。
図5】リチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
図6】リチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0040】
[リチウムイオン二次電池の構成]
まず、図1に基づいて、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の構成について説明する。
【0041】
リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ層40とを備える。リチウムイオン二次電池10の充電到達電圧(酸化還元電位)は、例えば4.3V(vs.Li/Li)以上5.0V以下、特に4.5V以上5.0V以下となる。リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されない。即ち、リチウムイオン二次電池10は、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等のいずれであってもよい。
【0042】
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを備える。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。
【0043】
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質及び保護膜形成物質を含み、導電剤と、結着剤とをさらに含んでいてもよい。正極活物質は、例えばリチウムを含む固溶体酸化物であるが、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。固溶体酸化物は、例えば、LiMnCoNi(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnCoNi(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、LiMn1.5Ni0.5となる。正極活物質の含有量は、正極合剤(正極活物質、結着剤、及び導電剤)の総質量に対して85質量%以上96以下質量%であること好ましく、88質量%以上94質量%以下であることが更に好ましい。正極活物質の含有量がこのような範囲のときに、サイクル寿命及び正極20のエネルギー密度が特に向上する。例えば、エネルギー密度については、正極活物質、導電剤、及び結着剤の含有量と、正極活物質層22の密度とを本実施形態で示される範囲とすることで、530Wh/l(180Wh/kg)以上を引き出すことができる。
【0044】
保護膜形成物質は、リチウムイオン二次電池10の充電時(具体的には、初回充電時)に保護膜を形成可能な物質である。保護膜は、電解液43中のリチウムイオンを通し、かつ、電解液43中の溶媒の通過を抑制するものである。
【0045】
保護膜形成物質は、具体的には、リチウムイオンと、アニオン化した中心原子と、中心原子に配位したシアノ基とを含むリチウム化合物である。すなわち、保護膜形成物質は、リチウムイオンと、シアノ基を含むアニオン錯体とのリチウム化合物(リチウム塩)である。中心原子は、ホウ素、リン、及び炭素からなる群から選択される。
【0046】
保護膜形成物質は、より具体的には、以下の化学式1〜3のいずれかで示される組成を有する。
【0047】
【化4】
【0048】
【化5】
【0049】
【化6】
化学式1〜3中、n1は0〜3の範囲内の整数であり、n2は0〜5の範囲内の整数であり、n3は0〜2の範囲内の整数であり、X〜Xはシアノ基以外の任意の配位子である。X〜Xとしては、例えばアルコキシ基、ハロゲン、炭素数が1から4のフルオロアルキル基、鎖状もしくは環状カルボキシル基、スルホニル基等が挙げられる。
【0050】
すなわち、本発明者は、溶媒と正極活物質との接触を防止する技術について鋭意検討を重ねた結果、化学式1〜3で示される組成を有する保護膜形成物質を正極活物質層22の添加剤として使用することを見出した。保護膜形成物質を正極活物質層22の添加剤として使用することで、リチウムイオン二次電池10の初回充電時に保護膜形成物質が上述した保護膜を形成する。すなわち、本実施形態は、引用文献1に開示された技術とリチウム化合物の用途が異なる。これにより、本実施形態では、高電流密度、及び高駆動電圧下でのサイクル寿命が大幅に向上する。
【0051】
なお、保護膜の形成過程について、本発明者は以下のように考えている。すなわち、正極活物質は、結晶構造を有しているので、複数の活性点を有する。そして、充電時には、各活性点の近傍に存在する保護膜形成物質は、シアノ基の窒素原子が有する孤立電子対から電子を活性点に供給する。これにより、シアノ基の窒素原子がカチオンラジカルとなる。すなわち、保護膜形成物質が分解する。なお、CN三重結合を構成する電子の一つが活性点に供給する場合もあると考えられる。そして、カチオンラジカルは、当該カチオンラジカルに隣接する他の保護膜形成物質中のシアノ基に付加する。具体的には、カチオンラジカルは、シアノ基の孤立電子対にアタックすることで、シアノ基に付加する。これにより、保護膜形成物質同士が重合する。なお、カチオンラジカルは、CN三重結合部分にアタックすることも考えられる。他の保護膜形成物質が複数のシアノ基を有する場合、フリーの(すなわち、他のシアノ基が付加していない)シアノ基中の窒素原子が新たにカチオンラジカルとなる。その後、同様の付加反応(重合反応)が繰り返されることで、活性点上に保護膜形成物質のポリマー、すなわち保護膜が形成される。なお、保護膜形成物質の分解及び重合は、溶媒の分解よりも低い電位で起こる。すなわち、保護膜形成物質の分解及び重合は、溶媒の分解よりも優先的に起こる。
【0052】
このように形成された保護膜は、溶媒の通過を抑制することができる。また、保護膜はアニオン錯体を含むので、リチウムイオンは、アニオン錯体の中心原子を介して保護膜を通過することができる。このように、アニオン錯体の中心原子はアニオンポイントとして機能する。したがって、保護膜は、電解液43中のリチウムイオンを通過させ、かつ、電解液43中の溶媒の通過を抑制することができる。すなわち、保護膜は、2回目以降の充電時に、活性点とリチウムイオンとの反応を促進しつつ、活性点と溶媒との反応、すなわち溶媒の分解を抑制することができる。これにより、サイクル寿命が向上する。
【0053】
なお、従来のリチウムイオン二次電池では、上記の保護膜が存在しなかったので、充電時に溶媒が分解していた。そして、分解生成物によってリチウムイオン二次電池の不可逆容量が増大していた。具体的には、活性点近傍の溶媒は、リチウムイオン二次電池の充電時に活性点に電子を供給し、分解する。分解生成物は、活性点上に沈殿し、リチウムイオンを通さない。したがって、次回以降の充電時には、その活性点はリチウムイオンとの反応に寄与しない。そして、溶媒は、充電のたびに裸の(すなわち、溶媒の分解生成物が堆積していない)活性点で分解し、分解生成物となる。すなわち、充放電を繰り返すごとに分解生成物が増加する。したがって、充放電を繰り返すごとに不可逆容量が増大する。言い換えれば、サイクル寿命が低下する。本実施形態では、このような溶媒の分解を抑制することができるので、サイクル寿命が向上する。溶媒の分解は、高電流密度、高駆動電圧下で特に生じやすいので、本実施形態に係る保護膜は特に有益である。
【0054】
なお、充電条件や溶媒組成によっては、溶媒の分解生成物がガスや電解液に溶解する場合がある。例えば、大きな電流密度での充電時には、溶媒の分解生成物は電解液に溶解する場合がある。この場合、分解生成物は活性点に堆積しないが、従来のリチウムイオン二次電池では、やはりサイクル寿命が低下する。この理由は以下のとおりである。すなわち、溶媒の分解生成物がガスまたは電解液に溶解する場合、活性点は常に溶媒に露出しているので、各充放電サイクルで溶媒が活性点で分解する。このため、充放電を繰り返すごとに溶媒が少なくなる。したがって、充放電を繰り返すごとに不可逆容量が増大する。言い換えれば、サイクル寿命が低下する。本実施形態では、このような溶媒の分解も抑制することができるので、サイクル寿命が向上する。
【0055】
また、従来でも、酸化アルミニウム、LiZrO、LiZrO等の添加剤を正極活物質層22に添加することが行われていた。しかし、これらの添加剤は、溶媒のみならずリチウムイオンも通過させないので、やはりサイクル寿命を向上させることができなかった。
【0056】
上述した観点によれば、保護膜形成物質中のシアノ基の数は、原則として多ければ多いほど好ましい。シアノ基の数が多いほど、複雑かつ安定した構造の保護膜を形成することができるからである。また、シアノ基の数が多いほど、保護膜形成物質は溶媒に溶解しにくいからである。溶媒に溶解した保護膜形成物質は、負極上で分解する可能性がある。分解生成物は、上述したように、負極上での反応に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0057】
したがって、n1、n3は0がもっとも好ましい。ただし、n2については、立体構造上の観点から、3がもっとも好ましい。リンを中心原子とした錯体は正八面体の構造をとるので、シアノ基が3つとなる場合が立体構造上もっとも安定するからである。また、n1=0、n2=3、n3=0となる場合、シアノ基は中心原子を介して互いに対照の位置に配置されるので、この点でも保護膜が安定化すると考えられる。
【0058】
また、保護膜形成物質の添加量は任意ではなく、適切な範囲が存在する。添加量がこの範囲を下回る場合、保護膜が薄すぎて、溶媒の通過を抑止できない可能性がある。また、添加量が多すぎると、保護膜が厚くなりすぎて、リチウムイオンの通過がかえって抑制されてしまう可能性がある。また、添加量が多すぎると、過剰の保護膜形成物質が電解液に溶出する可能性がある。電解液に溶出した保護膜形成物質は、負極上で分解し、分解生成物が負極上での反応を阻害する。したがって、添加量が適切な範囲を下回る場合、適切な範囲を超える場合のいずれであっても、本実施形態が意図する保護膜が形成されない場合がある。
【0059】
保護膜形成物質の適切な添加量は保護膜形成物質の組成毎に異なる。具体的には、保護膜形成物質が化学式1で示される組成を有する場合、保護膜形成物質の添加量は、0.5質量%以上w1質量%以下であり、w1は、n1=0のときに6となり、かつ、n1が大きいほど小さくなる。具体的には、w1は、n1=1のときに4となり、n1=2のときに3となり、n1=3のときに2となる(なお、n1=3かつX=OCHとなる場合、w1=1となる)。このように、シアノ基の数が多いほど添加量の上限値が大きくなる。シアノ基の数が多い場合、多量の保護膜形成物質を正極活物質層22に含めても、保護膜形成物質の電解液43への溶解量を低く抑えることができるからである。なお、本実施形態では、保護膜形成物質の添加量は、正極合剤の総質量に対する質量%(外数)で示される。
【0060】
なお、n1=0の場合、添加量の好ましい範囲は1質量%以上5質量%以下であり、より好ましい範囲は1.5質量%以上4質量%以下である。また、n1=1の場合、添加量の好ましい範囲は0.7質量%以上2質量%以下である。添加量がこれらの範囲内の値となる場合、後述する実施例に示されるように、サイクル寿命がより向上する。
【0061】
一方、保護膜形成物質が化学式2で示される組成を有する場合、保護膜形成物質の添加量は、0.3質量%以上w2質量%以下であり、w2は、n2=3のときに3となり、かつ、|3−n2|の値が大きいほど小さくなる。具体的には、w2は、|3−n2|=1の時に2、|3−n2|=2の時に1.5、|3−n2|=3の時に1.0となる。このように、添加量の上限値は、n2=3のときにもっとも大きくなる。保護膜形成物質は、シアノ基の数が3となるときに立体構造上最も安定になるからである。
【0062】
一方、保護膜形成物質が化学式3で示される組成を有する場合、保護膜形成物質の添加量は、0.5質量%以上w3質量%以下であり、w3は、n3=0のときに3となり、かつ、n3の値が大きいほど小さくなる。具体的には、w3は、n3=1のときに2となり、n3=2のときに1となる。このように、シアノ基の数が多いほど添加量の上限値が大きくなる。シアノ基の数が多い場合、多量の保護膜形成物質を正極活物質層22に含めても、保護膜形成物質の電解液43への溶解量を低く抑えることができるからである。
【0063】
本実施形態では、保護膜形成物質は、正極活物質層22または後述する多孔質層42に添加される。すなわち、保護膜形成物質は、電解液43及び負極30には添加されない。保護膜形成物質が電解液43または負極30に添加された場合、保護膜形成物質は保護膜をほとんど形成することができない。また、保護膜形成物質は、負極30上で分解され、分解生成物が負極上での反応に悪影響を及ぼす。例えば、LiMCB(化学式1でn1=1、X=メトキシ基となるもの)及びLiECB(化学式1でn1=1、X=エトキシ基となるもの)は、後述する実施例1の溶媒に0.01mol/L以上0.1mol/L未満の濃度範囲で溶解する。しかし、これらのリチウム化合物を電解液43に溶解させた場合、サイクル寿命がかえって悪化する(比較例2参照)。
【0064】
なお、保護膜形成物質が多孔質層42に添加された場合、保護膜は、多孔質層42と正極活物質層22との界面に形成される。この場合であっても、保護膜は、正極活物質と電解液43との界面に形成されることとなるので、上述した機能を発揮する(後述する変形例参照)。
【0065】
導電剤は、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等であるが、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。導電剤の含有量は、正極合剤の総質量に対して3質量%以上10質量%以下が好ましく、4質量%以上6質量%以下が更に好ましい。導電剤の含有量がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。
【0066】
結着剤は、例えばポリフッ化ビニリデン、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等であるが、正極活物質及び導電剤を集電体21上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。結着剤の含有量は、正極合剤の総質量に対して3質量%以上7質量%以下であることが好ましく、4質量%以上6質量%以下であることが更に好ましい。結着剤の含有量がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。
【0067】
正極活物質層22の密度(g/cm)は、特に制限されないが、例えば、2.0以上3.0以下であることが好ましく、2.5以上3.0以下であることが更に好ましい。正極活物質層22の密度がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。なお、密度が3.0g/cmを超えると正極活物質の粒子が破壊されてしまい、破壊粒子間の電気的接触が損なわれる。この結果、正極活物質の利用率が低下するので、本来の放電容量が得られず、分極が起こりやすくなる。さらに、正極活物質は、設定電位以上の電位まで充電された状態となり、電解液の分解や活物質遷移金属の溶出を引き起こし、サイクル特性を低下させてしまう。このような観点からも、正極活物質層22の密度は上記範囲内であることが好ましい。なお、正極活物質層22の密度は、正極活物質層22の圧延後の面密度を正極活物質層22の圧延後の厚さで除算することで得られる。
【0068】
正極活物質層22は、例えば、以下の製法により作製される。すなわち、まず、正極活物質、導電剤、及び結着剤を乾式混合することで正極合剤を作製する。ついで、正極合剤及び保護膜形成物質を乾式混合することで乾式混合物を作製する。ついで、乾式混合物を適当な有機溶媒に分散させることで正極合剤スラリーを形成し、この正極合剤スラリーを集電体21上に塗工し、乾燥、圧延することで正極活物質層が形成される。
【0069】
なお、有機溶媒は、保護膜形成物質を溶解可能であることが好ましい。この場合、保護膜形成物質をより均一に正極活物質層22内に分散させることができる。このような有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。有機溶媒が保護膜形成物質を溶解可能である場合、正極合剤が分散した正極合剤スラリーを形成し、この正極合剤スラリーに保護膜形成物質を溶解させるようにしてもよい。すなわち、保護膜形成物質を正極活物質層22に添加する方法は制限されない。もちろん、溶媒は保護膜形成物質を溶解しないものであってもよい。
【0070】
負極30は、集電体31と、負極活物質層32とを含む。集電体31は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。負極活物質層32は、少なくとも負極活物質を含み、結着剤をさらに含んでいてもよい。負極活物質は、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、ケイ素もしくはスズもしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金、及びLiTi12等の酸化チタン系化合物等が考えられる。ケイ素の酸化物は、SiO(0≦x≦2)で表される。なお、負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。負極活物質の含有量は、負極合剤(負極活物質、及び結着剤)の総質量に対して90質量%以上98質量%以下であることが好ましい。負極活物質の含有量がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。
【0071】
結着剤は、正極活物質層22を構成する結着剤と同様のものでもある。正極活物質層22を集電体21上に塗布する際に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(以下、CMC)を結着剤の質量の1/10以上同質量以下で併用してもよい。増粘剤を含めた結着剤の含有量は、負極合剤の総質量に対して1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。増粘剤を含めた結着剤の含有量がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。
【0072】
負極活物質層32の密度(g/cm)は、特に制限されないが、例えば1.0以上2.0以下であることが好ましい。負極活物質層32の密度がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。負極活物質層32は、例えば、負極活物質、及び結着剤を適当な溶媒(例えばN−メチル−2−ピロリドンや水)に分散させることでスラリーを形成し、このスラリーを集電体31上に塗工し、乾燥させることで形成される。なお、負極活物質層32の密度は、負極活物質層32の圧延後の面密度を負極活物質層32の圧延後の厚さで除算することで得られる。
【0073】
セパレータ層40は、セパレータ40aと、電解液43とを含む。セパレータ40aは、基材41と、多孔質層42とを含む。基材41は、ポリエチレン及びポリプロピレン等から選択される材料で構成され、多数の第1の気孔(細孔)41aを含む。なお、図1では、第1の気孔41aが球形となっているが、第1の気孔41aは様々な形状をとりうる。第1の気孔41aの孔径は、例えば0.1〜0.5μmの範囲内で分布している。第1の気孔41aの孔径は、例えば、第1の気孔41aを球とみなした時の直径、即ち球相当径である。第1の気孔41aは、例えば自動ポロキシメータAutoporeIV、島津製作所株式会社によって測定される。この測定装置は、例えば、第1の気孔41aの孔径分布を測定し、さらに、分布が最も高い孔径を代表値として測定する。なお、基材41の表面層に存在する気孔41aの孔径は、例えば、走査型電子顕微鏡JSM−6060 日本電子株式会社によっても測定可能である。この測定装置は、例えば、表面層における第1の気孔41aの各々について孔径を測定する。
【0074】
基材41の気孔率は、例えば38〜44%となる。基材41の気孔率がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。基材41の気孔率は、第1の気孔41aの総体積を基材41の総体積(基材41の樹脂部分及び第1の気孔41aの総体積)で除算することで得られる。基材41の気孔率は、例えば自動ポロキシメータAutoporeIV、島津製作所株式会社によって測定される。基材41の厚さは、6〜19μmであることが好ましい。基材41の厚さがこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。
【0075】
多孔質層42は、基材41と異なる材料、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリアミドイミド、及びアラミド(芳香族ポリアミド)等から選択される材料で構成され、多数の第2の気孔(細孔)42aを含む。なお、図1では、第2の気孔42aが球形となっているが、第2の気孔42aは様々な形状をとりうる。
【0076】
第2の気孔42aは第1の気孔41aと異なる。具体的には、第2の気孔42aの孔径及び気孔率が第1の気孔41aの値よりも大きくなる。即ち、第2の気孔42aの孔径は、例えば1〜2μmの範囲内で分布している。第2の気孔42aの孔径は、例えば、第2の気孔42aを球とみなした時の直径、即ち球相当径であり、例えば、走査型電子顕微鏡JSM−6060 日本電子株式会社によって測定される。この測定装置は、第2の気孔42aの各々について孔径を測定する。
【0077】
なお、多孔質層42に適用されるポリフッ化ビニリデンとしては、例えば、株式会社クレハ製KFポリマー #1700、#9200、#9300等が考えられる。ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量は約50万〜100万となる。多孔質層42は、自ら合成しても良いし、既存のものを購入するようにしてもよい。
【0078】
セパレータ40aの気孔率は、例えば39〜58%となる。セパレータ40aの気孔率がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。ここで、セパレータ40aの気孔率は、第1の気孔41a及び第2の気孔42aの総体積を、セパレータ40aの総体積(基材41の樹脂部分及び第1の気孔41aと、多孔質層42の樹脂部分及び第2の気孔42aとの総体積)で除算することで得られる。セパレータ40aの気孔率は、例えば、自動ポロキシメータAutoporeIV、島津製作所株式会社によって測定される。セパレータ40aの気孔率が基材41の気孔率よりも大きいので、多孔質層42の気孔率、即ち第2の気孔42aの気孔率は、基材41の気孔率、即ち第1の気孔41aの気孔率よりも高いと言える。
【0079】
多孔質層42の厚さは、1〜5μmであることが好ましい。セパレータ40aの総厚さ、即ち基材41の厚さと多孔質層42の厚さとの総和は、10〜25μmとなることが好ましい。多孔質層42やセパレータ40aの厚さがこれらの範囲となる場合に、サイクル寿命が特に向上する。また、図1では、多孔質層42は基材41の表裏両面、即ち正極20側の面と負極30側の面との両方に設けられるが、少なくとも負極30側の面に設けられればよい。リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を向上させるという観点からは、多孔質層42は、基材41の表裏両面に設けられることが好ましい。
【0080】
なお、基材41の透気度(JIS P8117で定義される透気度)は、特に制限されないが、例えば250〜300sec/100ccであることが好ましい。セパレータ40aの透気度は、特に制限されないが、例えば220〜340sec/100ccであることが好ましい。基材41及びセパレータ40aの透気度がこれらの範囲となる場合に、サイクル寿命が特に向上する。基材41及びセパレータ40aの透気度は、例えば、ガーレー式透気度計G−B2 東洋精器株式会社によって測定される。
【0081】
セパレータ40aは、例えば、多孔質層42を構成する樹脂及び水溶性有機溶媒を含む塗工液を基材41に塗工し、その後、樹脂の凝固及び水溶性有機溶媒の除去等を行なうことで形成される。
【0082】
電解液43は、リチウム塩と、溶媒と、添加剤となる第1のリチウム化合物及び第2のリチウム化合物と、を含む。
【0083】
リチウム塩は、電解液43の電解質となるものである。このようなリチウム塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウムの他、LiClO、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiSOCF、LiN(SOCF)、LiN(SOCFCF)、LiC(SOCFCF、LiC(SOCF、LiI、LiCl、LiF、LiPF(SOCF)、LiPF(SOCF等が挙げられる。これらのリチウム塩のうち、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiSbFが特に好ましい。これらのリチウム塩が電解液43に溶解される場合、サイクル寿命が特に向上する。電解液43は、これらのリチウム塩のうちいずれか1種類が溶解していてもよく、複数種類のリチウム塩が溶解していてもよい。
【0084】
リチウム塩の濃度(電解液43に複数種類のリチウム塩が溶解している場合には、リチウム塩の濃度の総和)は、1.15〜1.5mol/Lであることが好ましく、1.3〜1.45mol/Lであることがより好ましい。リチウム塩の濃度がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。
【0085】
溶媒は、リチウムイオン二次電池に使用される各種の非水溶媒を含む。溶媒には、少なくとも一部の水素原子がフッ素で置換されたフッ素化エーテル(HFE)及びモノフルオロ炭酸エチレンのうち、すくなくとも一方が含まれていてもよい。
【0086】
フッ素化エーテルは、エーテルの水素をフッ素に置換することで、耐酸化性が向上したものである。このようなフッ素化エーテルとしては、正極材料の充電電圧及び電流密度に対する耐性等を鑑みると、2,2,2−トリフルオロエチルメチルエーテル(CFCHOCH)、2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(CFCHOCHF)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメチルエーテル(CFCFCHOCH)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル(CFCFCHOCHF)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル(CFCFCHOCFCFH)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル(HCFCFOCH)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテル(HCFCFOCHCH)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルプロピルエーテル(HCFCFOC)、 1,1,2,2−テトラフルオロエチルブチルエーテル(HCFCFOC)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソブチルエーテル(HCFCFOCHCH(CH)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソペンチルエーテル(HCFCFOCHC(CH)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(HCFCFOCHCF)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(HCFCFOCHCFCFH)、ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル((CFCHOCH)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−トリフルオロメチルプロピルメチルエーテル((CFCHCFOCH)、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(CFCHFCFOCH)、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルエチルエーテル(CFCHFCFOCHCH)及び2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルジフルオロメチルエーテル(CFCHFCFCHOCHF)等が挙げられる。フッ素化エーテルは、これらの物質のいずれか1つから構成されていてもよいが、これらの物質の混合物であってもよい。フッ素化エーテルの体積比は、電解液43の溶媒の総体積に対して10〜60体積%が好ましく、30〜50体積%がより好ましい。フッ素化エーテルの体積比がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。なお、フッ素化エーテルは、保護膜形成物質の溶解度が炭酸エチレン系の有機溶媒に比べて非常に低い。したがって、フッ素化エーテルは、保護膜形成物質の電解液43への溶出を抑制することができる。この観点からも、フッ素化エーテルを電解液43に添加することが好ましい。
【0087】
モノフルオロ炭酸エチレンの体積比は、電解液43の溶媒の総体積に対して10〜30体積%が好ましく、15〜20体積%がより好ましい。モノフルオロ炭酸エチレンの体積比がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。また、電解液43は、リチウムイオン二次電池に使用される各種の非水溶媒をさらに含んでいてもよい。
【0088】
なお、電解液43には、各種の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種を電解液43に添加しても良いし、複数種類の添加剤を電解液43に添加してもよい。
【0089】
負極作用添加剤としては、例えばセントラル硝子製のWCA−1、WCA−2、WCA−3等が挙げられる。正極作用添加剤としては、ビスフルオロスルホニルイミドリチウム(LiFSI)等が挙げられる。
【0090】
エステル系の添加剤としては、ジフロロ酢酸メチル、トリフロロ酢酸ジエチル、酢酸ビニル、酢酸ジフロロエチル等が挙げられる。炭酸エステル系の添加剤としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジフロロエチレンカーボネート(cis体、trans体)、ジアリルカーボネート、2,5−ジオキサヘキサンニジメチル酸等が挙げられる。
【0091】
硫酸エステル系の添加剤としては、亜硫酸エチレン、亜硫酸ジメチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、3−スルホレン、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、プロペンスルトン等が挙げられる。リン酸エステル系の添加剤としては、トリメチルリン酸、トリオクチルリン酸、トリメチルシリルリン酸、トリメチルシリルホスフィン等が挙げられる。
【0092】
ホウ酸エステル系の添加剤としては、トリメチルホウ酸、トリメチルシリルホウ酸等が挙げられる。酸無水物系の添加剤としては、コハク酸無水物、アリルコハク酸無水物、エタンジスルホン酸無水物等が挙げられる。電解質系の添加剤としては、ビス(オキサラト−O,O‘)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト−O,O‘)ホウ酸リチウム、リチウムジフルオロビス(オキサラト−O,O‘)リン酸リチウム等が挙げられる。
【0093】
添加剤の添加量は、電解液43の電解質及び溶媒の総質量に対して、0.01〜5.0質量%(外数)であることが好ましい。添加剤の添加量がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。
【0094】
[変形例]
次に、本実施形態の変形例について説明する。この変形例では、保護膜形成物質は少なくとも正極20側の多孔質層42に添加される。これにより、正極側の多孔質層42内に分散した保護膜形成物質のうち、正極活物質層22に接触しているものは、充電時に上述した分解及び重合を行うことで、多孔質層42と正極活物質層22との界面に保護膜を形成することができる。すなわち、保護膜形成物質は、正極活物質と電解液43との界面に保護膜を形成することができる。なお、負極30側の多孔質層42にも保護膜形成物質を添加してもよい。また、多孔質層42及び正極活物質層22の両方に保護膜形成物質を含ませても良い。保護膜形成物質の含有比は、多孔質層及び保護膜形成物質の総質量に対して10〜90質量%が好ましく、特に40〜90質量%質量%以上が好ましい。含有比がこのような範囲となる場合に、正極活物質と接触する保護膜形成物質の量をより多くすることができ、かつ、多孔質層42の気孔率をリチウムイオン二次電池10に要求される特性を満足するために必要な値に調整しやすくなる。
【0095】
この変形例では、多孔質層42を構成する樹脂、保護膜形成物質、及び水溶性有機溶媒を含む塗工液を基材41に塗工し、その後、樹脂の凝固及び水溶性有機溶媒の除去等を行なうことで形成される。この変形例では、水溶性溶媒は、保護膜形成物質を溶解可能であるものが好ましい。
【0096】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
次に、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。正極20は、以下のように製造される。まず、正極活物質、保護膜形成物質、導電剤、及び結着剤を上記の割合で混合したものを、有機溶媒(例えばN−メチル−2−ピロリドン)に分散させることでスラリーを形成する。次いで、スラリーを集電体21上に形成(例えば塗工)し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。なお、塗工の方法は、特に限定されない。塗工の方法としては、例えば、ナイフコーター法、グラビアコーター法等が考えられる。以下の各塗工工程も同様の方法により行われる。次いで、プレス機により正極活物質層22を上記の範囲内の密度となるようにプレスする。これにより、正極20が製造される。
【0097】
負極30も、正極20と同様に製造される。まず、負極活物質及び結着剤を上記の割合で混合したものを、有機溶媒(例えばN−メチル−2−ピロリドン)に分散させることでスラリーを形成する。次いで、スラリーを集電体31上に形成(例えば塗工)し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成する。次いで、プレス機により負極活物質層32を上記の範囲内の密度となるようにプレスする。これにより、負極30が製造される。
【0098】
セパレータ40aは、以下のように製造される。まず、多孔質層42を構成する樹脂と、水溶性有機溶媒とを5〜10:90〜95の質量比で混合することで、塗工液を製造する。ここで、水溶性有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド(DMAc)、トリプロピレングリコール(TPG)等が考えられる。ついで、この塗工液を基材41の両面または片面に1〜5μmの厚さで形成(例えば塗工)する。次いで、塗工液が塗工された基材41を凝固液で処理することで、塗工液中の樹脂を凝固させる。ここで、塗工液が塗工された基材41を凝固液で処理する方法としては、例えば、塗工液が塗工された基材41を凝固液に含浸させる方法、塗工液が塗工された基材41に凝固液を吹きつける方法等が考えられる。これにより、セパレータ40aが製造される。ここで、凝固液は、例えば、上記の水溶性有機溶媒に水を混合させたものである。水の混合量は、凝固液の総体積に対して40〜80体積%が好適である。次いで、セパレータ40aを水洗、乾燥することで、セパレータ40aから水及び水溶性有機溶媒を除去する。
【0099】
次いで、セパレータ40aを正極20及び負極30で挟むことで、電極構造体を製造する。多孔質層42が基材41の一方の面にのみ形成されている場合、負極30を多孔質層42に対向させる。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に上記組成の電解液を注入することで、セパレータ40a内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池が製造される。
【実施例】
【0100】
次に、実施例を説明する。なお、以下の各実施例における各パラメータ(例えば孔径)は、上述した装置により測定された。本発明者は、まず、化学式1で示される保護膜形成物質(以下、「ホウ素系リチウム化合物」とも称する)による効果を確認するために、以下の実施例1に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例1に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
[実施例1]
実施例1では、リチウムイオン二次電池10を以下のように製造した。正極20については、まず、固溶体酸化物Li1.20Mn0.55Co0.10Ni0.1590質量%、ケッチェンブラック6質量%、ポリフッ化ビニリデン4質量%、LiTCB(リチウムテトラシアノボレート、化学式1でn1=0となる組成)1質量%(外数)をN−メチル−2−ピロリドンに分散させることで、スラリーを形成した。次いで、スラリーを集電体21であるアルミニウム集電箔上に塗工し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成した。次いで、プレス機により正極活物質層22をプレスすることで、正極活物質層22の密度を2.3g/cmとした。これにより、正極20を製造した。
【0101】
負極30については、人造黒鉛96質量%、スチレンブタジエンゴム4質量%をN−メチル−2−ピロリドンに分散させることで、スラリーを形成した。次いで、スラリーを集電体31であるアルミニウム集電箔上に塗工し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成した。次いで、プレス機により負極活物質層32をプレスすることで、負極活物質層32の密度を1.45g/cmとした。これにより、負極30を製造した。
【0102】
セパレータ40aについては、アラミド(シグマルドリッチジャパン株式会社商品 Poly[N,N‘−(1,3−phenylene)isophthalamide])と水溶性有機溶媒とを(5.5:94.5質量%)の割合で混合することで、塗工液を製造した。ここで、DMAcとTPGとを50:50の質量比で混合したものを水溶性有機溶媒とした。
【0103】
一方、基材41に多孔質ポリエチレンフィルム(厚さ13μm、気孔率42%)を用いた。ついで、塗工液を基材41の両面に2μmの厚さで塗工した。次いで、塗工液が塗工された基材41を凝固液に含浸させることで、塗工液中の樹脂を凝固させた。これにより、セパレータ40aを製造した。ここで、水とDMAcとTPGとを50:25:25の割合で混合したものを凝固液とした。次いで、セパレータ40aを水洗、乾燥することで、セパレータ40aから水及び水溶性有機溶媒を除去した。
【0104】
次いで、セパレータ40aを正極20及び負極30で挟むことで、電極構造体を製造した。次いで、電極構造体を試験容器に挿入した。一方、モノフルオロ炭酸エチレン(FEC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、及びHCFCFOCHCFCFHを15:5:45:35の体積比で混合した溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1.00mol/Lの濃度となるように溶解することで、電解液を製造した。次いで、試験容器内に電解液を注入することで、セパレータ40a内の各気孔に電解液を含浸させた。これにより、評価用のリチウムイオン二次電池10を製造した。
【0105】
[比較例1]
LiTCBを使用しなかった他は実施例1と同様の処理を行うことで、評価用のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0106】
[評価]
以下の化成及びサイクル試験を行うことで、リチウムイオン二次電池を評価した。
【0107】
[化成]
実施例1に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例1に係るリチウムイオン二次電池とのそれぞれについて、化成を行った。具体的には、電池電圧が3Vを示すまで充電(0.2mA/cmで定電流充電)した後、その状態で12時間放置した。これにより、保護膜形成物質は分解及び重合することで、保護膜を形成した。その後、電池電圧が4.65Vとなるまで0.2mA/cmで定電流定電圧充電を行い、電池電圧が2.00Vとなるまで0.2mA/cmで定電流放電を行う充放電サイクルを1回行った。
【0108】
[サイクル試験]
つぎに、サイクル試験を行った。具体的には、電池電圧が4.55Vとなるまで3mA/cmで定電流定電圧充電を行い、電池電圧が2.40Vとなるまで定電流放電を行う充放電サイクルを500サイクル行った。また、サイクル毎に放電容量を測定した。1サイクル目の放電容量を初期容量とし、500サイクル目の放電容量を初期容量で除算した値を容量維持率とした。なお、上記の試験はすべて25℃の温度環境下で行われた。放電容量の測定は、TOSCAT3000 東洋システム株式会社により行われた。
【0109】
評価結果を図2、及び表1に示す。図2は、サイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。なお、実施例2については後述する。表1は、電解液の組成と、ホウ素系リチウム化合物の組成及び添加部位と、放電容量と、容量維持率との対応関係を示す。
【0110】
【表1】
【0111】
実施例1及び比較例1によれば、保護膜によって高電流密度、高駆動電圧下でのサイクル寿命が格段に向上していることがわかる。
【0112】
[実施例2]
本発明者は、電解液への添加剤の添加による効果を確認するために、実施例2に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。具体的には、実施例1の溶媒及び電解質の総質量に対して1.6質量%(外数)のリチウムジフルオロ−O,O‘−オキサラトボレートを実施例1の電解液に添加した。それ以外は実施例1と同様の処理を行った。評価結果を図1及び表2に示す。表2は、電解液の組成と、ホウ素系リチウム化合物の組成及び添加部位と、放電容量と、容量維持率との対応関係を示す。
【0113】
【表2】
【0114】
実施例2によれば、電解液に本実施形態に係る添加剤を添加することによって、容量維持率がさらに向上していることがわかる。
【0115】
[実施例3〜31]
本発明者は、ホウ素系リチウム化合物の好ましい添加量がホウ素系リチウム化合物の組成毎に異なることを確認するために、実施例3〜31に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。具体的には、保護膜形成物質の組成及び添加量を表3に示すように調整した他は、実施例1と同様の処理を行った。
【0116】
【表3】
【0117】
表3中、LiMCBはn1=1、X=OCHの組成を有するホウ素系リチウム化合物であり、LiECBはn1=1、X=OCHCHの組成を有するホウ素系リチウム化合物である。評価結果を図3図4、表4、及び表5に示す。
【0118】
【表4】
【0119】
【表5】
【0120】
評価結果によれば、保護膜形成物質としてLiTCBを使用した場合に、サイクル寿命が最も向上することがわかる。したがって、保護膜形成物質として最も好ましいホウ素系リチウム化合物は、LiTCBであることがわかる。LiTCBは、配位子が全てシアノ基となっているので、非常に複雑かつ安定した保護膜を形成することができるからである。
【0121】
保護膜形成物質がLiTCBとなる場合、好ましい添加量は0.5質量%以上6質量%以下となることがわかる。添加量がこの範囲内の値となる場合に、保護膜形成物質無添加のリチウムイオン二次電池よりも容量維持率が向上するからである。同様に、添加量の好ましい範囲は1質量%以上5質量%以下であり、より好ましい範囲は1.5質量%以上4質量%以下であることがわかる。添加量がこれらの範囲内の値となる場合に、保護膜形成物質無添加のリチウムイオン二次電池よりも容量維持率が特に向上するからである。
【0122】
また、保護膜形成物質がLiMCBまたはLiECBとなる場合、好ましい添加量は0.5質量%以上4質量%以下となることがわかる。添加量がこの範囲内の値となる場合に、保護膜形成物質無添加のリチウムイオン二次電池よりも容量維持率が向上するからである。同様に、添加量の好ましい範囲は0.7質量%以上2質量%以下であることがわかる。添加量がこの範囲内の値となる場合に、保護膜形成物質無添加のリチウムイオン二次電池よりも容量維持率が特に向上するからである。
【0123】
[実施例32及び比較例2]
本発明者は、電解液43の溶媒にフッ素化エーテルを含有させない場合であっても効果が得られることを確認するために、実施例32に係るリチウムイオン二次電池10及び比較例2に係るリチウムイオン二次電池を製造した。具体的には、実施例1の電解液43及び比較例1の電解液にフッ素化エーテルを含めないようにした他は、実施例1及び比較例1と同様の処理を行った。実施例32の電解液43の組成、比較例2の電解液の組成、及び評価結果を表6に示す。
【0124】
【表6】
【0125】
この評価結果によれば、電解液にフッ素化エーテルを含めない場合であっても、保護膜形成物質によってサイクル寿命が向上することがわかる。
【0126】
[比較例3]
本発明者は、電解液にホウ素系リチウム化合物を添加するとかえってサイクル寿命が悪化することを確認するために、比較例3に係るリチウムイオン二次電池を製造した。具体的には、電解液にホウ素系リチウム化合物を添加した他は、実施例1と同様の処理を行った。リチウムイオン二次電池の組成及び評価結果を表7に示す。
【0127】
【表7】
【0128】
評価結果によれば、電解液にホウ素系リチウム化合物を添加すると実施例1のみならず比較例1よりもサイクル寿命が悪化することがわかる。この理由としては、電解液に溶解したホウ素系リチウム化合物が負極上で分解し、分解生成物が負極上での反応を阻害することが考えられる。なお、この比較例3が示すように、アニオン錯体のシアノ基が他の置換基(ここではエトキシ基)で置換される場合、ホウ素系リチウム化合物は溶媒にわずかながら溶解する。これに対し、LiTCBは、電解液にほとんど溶解しない。したがって、電解液への溶解性という観点からも、保護膜形成物質として最も好ましいホウ素系リチウム化合物はLiTCBであることがわかる。
【0129】
[比較例4]
本発明者は、負極活物質層にホウ素系リチウム化合物を添加するとかえってサイクル寿命が悪化することを確認するために、比較例4に係るリチウムイオン二次電池を製造した。具体的には、負極活物質層にホウ素系リチウム化合物を添加した他は、実施例1と同様の処理を行った。リチウムイオン二次電池の組成及び評価結果を表8に示す。
【0130】
【表8】
【0131】
評価結果によれば、負極活物質層にホウ素系リチウム化合物を添加すると実施例1のみならず比較例1よりもサイクル寿命が悪化することがわかる。この理由としては、ホウ素系リチウム化合物が負極上で分解し、分解生成物が負極上での反応を阻害することが考えられる。
【0132】
[実施例33及び比較例5]
本発明者は、ホウ素系リチウム化合物をセパレータ層40の多孔質層42に含めた場合でもサイクル寿命が向上することを確認するために、実施例33に係るリチウムイオン二次電池10及び比較例5に係るリチウムイオン二次電池を製造した。具体的には、ホウ素系リチウム化合物を正極合剤スラリーの代わりに多孔質層製造用の塗工液に含有させた他は、実施例1と同様の処理を行うことで、実施例33に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。ここで、ホウ素系リチウム化合物の添加量は、ポリフッ化ビニリデン/ホウ素系リチウム化合物=40/60質量%とした。また、酸化アルミニウムを多孔質層製造用の塗工液に含有させた他は、比較例1と同様の処理を行うことで、比較例5に係るリチウムイオン二次電池を製造した。ここで、酸化アルミニウムの添加量は、ポリフッ化ビニリデン/酸化アルミニウム=40/60質量%とした。評価結果を表9に示す。
【0133】
【表9】
【0134】
評価結果によれば、多孔質層にホウ素系リチウム化合物を含めた場合であっても、保護膜によりサイクル寿命が向上することがわかる。
【0135】
[実施例34〜37、比較例6]
本発明者は、化学式2で示される保護膜形成物質(以下、「リン系リチウム化合物」とも称する)による効果を確認するために、実施例34〜37に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例6に係るリチウムイオン二次電池を製造した。具体的には、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度を1.2mol/Lとし、保護膜形成物質をLiPF(CN)とし、保護膜形成物質の添加量を調整した他は実施例1と同様の処理を行うことで、実施例34〜37に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。また、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度を1.2mol/Lとした他は、比較例1と同様の処理を行うことで、比較例6に係るリチウムイオン二次電池を製造した。評価結果を図5及び表10に示す。
【0136】
【表10】
【0137】
表10及び図5によれば、リン系リチウム化合物が分解、重合することで保護膜が形成され、この保護膜によって高電流密度、高駆動電圧下でのサイクル寿命が格段に向上していることがわかる。さらに、好ましい添加量は0.3質量%以上3質量%以下となることがわかる。添加量がこの範囲内の値となる場合に、保護膜形成物質無添加のリチウムイオン二次電池よりも容量維持率が向上するからである。
【0138】
[実施例38〜40、比較例7]
本発明者は、化学式3で示される保護膜形成物質(以下、「メチド系リチウム化合物」とも称する)による効果を確認するために、実施例38〜40に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例7に係るリチウムイオン二次電池を製造した。具体的には、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度を1.2mol/Lとし、保護膜形成物質をLiC(CN)とし、保護膜形成物質の添加量を調整した他は実施例1と同様の処理を行うことで、実施例38〜40に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。また、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度を1.2mol/Lとした他は、比較例1と同様の処理を行うことで、比較例7に係るリチウムイオン二次電池を製造した。評価結果を図6及び表11に示す。
【0139】
【表11】
【0140】
図6及び表11によれば、メチド系リチウム化合物が分解、重合することで保護膜が形成され、この保護膜によって高電流密度、高駆動電圧下でのサイクル寿命が格段に向上していることがわかる。さらに、好ましい添加量は0.5質量%以上3質量%以下となることがわかる。添加量がこの範囲内の値となる場合に、保護膜形成物質無添加のリチウムイオン二次電池よりも容量維持率が向上するからである。
【0141】
[実施例41]
本発明者は、LiTCB、LiMCB、及びLiECB以外のホウ素系リチウム化合物でも同様の効果が得られることを確認するために、実施例41を行った。具体的には、n1=2、X=OCHとなるホウ素系リチウム化合物、n1=3、X=OCHとなるホウ素系リチウム化合物を用意し、実施例3〜31と同様の処理を行った。この結果、本発明者は、n1=2、X=OCHとなるホウ素系リチウム化合物の添加量が0.5質量%以上3質量%以下となり、n1=3、X=OCHとなるホウ素系リチウム化合物の添加量が0.5質量%以上1質量%以下となる場合に、容量維持率が比較例1よりも向上することを確認した。
【0142】
[実施例42]
本発明者は、LiPF(CN)以外のリン系リチウム化合物でも同様の効果が得られることを確認するために、実施例42を行った。具体的には、|3−n2|=1、X=Fとなるリン系リチウム化合物、|3−n2|=2、X=Fとなるリン系リチウム化合物、|3−n2|=3となるリン系リチウム化合物を用意し、実施例3〜31と同様の処理を行った。この結果、本発明者は、|3−n2|=1、X=Fとなるリン系リチウム化合物の添加量が0.3質量%以上2質量%以下となり、|3−n2|=2、X=Fとなるリン系リチウム化合物の添加量が0.5質量%以上1.5質量%以下となり、|3−n2|=3となるリン系リチウム化合物の添加量が0.5質量%以上1.0質量%以下となる場合に、容量維持率が比較例1よりも向上することを確認した。
【0143】
[実施例43]
本発明者は、LiC(CN)以外のメチド系リチウム化合物でも同様の効果が得られることを確認するために、実施例43を行った。具体的には、n3=1、X=OCHとなるホウ素系リチウム化合物、n3=2、X=OCHとなるメチド系リチウム化合物を用意し、実施例3〜31と同様の処理を行った。この結果、本発明者は、n3=1、X=OCHとなるメチド系リチウム化合物の添加量が0.5質量%以上2質量%以下となり、n3=2、X=OCHとなるメチド系リチウム化合物の添加量が0.5質量%以上1質量%以下となる場合に、容量維持率が比較例1よりも向上することを確認した。
【0144】
以上により、本実施形態によるリチウムイオン二次電池10は、電解液43中のリチウムイオンを通し、かつ、電解液43中の溶媒の通過を抑制する保護膜を正極活物質と電解液43との界面に形成可能な保護膜形成物質を含む。保護膜形成物質は、充電時に分解、重合することで、保護膜を形成する。この保護膜は、リチウムイオンと正極活物質との反応を促進しつつ、溶媒の分解を抑制することができる。したがって、リチウムイオン二次電池10の高電流密度、高駆動電圧下でのサイクル寿命が向上する。
【0145】
さらに、保護膜形成物質は、リチウムイオンと、アニオン化した中心原子と、中心原子に配位したシアノ基とを含むリチウム化合物である。すなわち、保護膜形成物質は、アニオン錯体を含む。そして、保護膜形成物質は、充電時にシアノ基同士が結合することで保護膜となる。また、アニオン錯体の中心元素が保護膜中のアニオンポイントとなるので、リチウムイオンはこのアニオンポイントを介して保護膜を通過することができる。
【0146】
また、中心原子は、ホウ素、リン、及び炭素からなる群から選択される。したがって、保護膜は、これらの中心原子から成るアニオンポイントを介してリチウムイオンを通過させることができるので、リチウムイオンをより容易に通過させることができる。
【0147】
さらに、保護膜形成物質は、上述した化学式1〜3のいずれかで示される組成を有する。したがって、保護膜は、リチウムイオンをより容易に通過させることができ、かつ、溶媒の通過をより確実に抑制することができる。
【0148】
さらに、保護膜形成物質は、その組成に応じて添加量が適切に調整されるので、サイクル寿命をより確実に向上させることができる。
【0149】
さらに、電解液には、各種の添加剤が添加されるので、これによってもサイクル寿命が向上する。
【0150】
さらに、保護膜形成物質は、正極活物質層22に含まれるので、正極活物質と電解液43との界面に保護膜を形成することができる。
【0151】
さらに、保護膜形成物質は、多孔質層42に含まれるので、正極活物質層22と多孔質層42との界面、すなわち正極活物質と電解液43との界面に保護膜を形成することができる。
【0152】
さらに、多孔質層42に形成された第2の気孔42aの特性が基材41に形成された第1の気孔41aと異なっている。さらに、電解液43は、フッ素化エーテルを含む。したがって、リチウムイオン二次電池10は、サイクル寿命を大幅に向上させることができる。即ち、多孔質層42により、電極近傍の電解液が強固に保持される。多孔質層42により、セパレータ40aが電気化学的に分解されることが防止される。フッ素化エーテルにより、電解液43が電気化学的に酸化分解されることが防止される。これらの要因により、サイクル寿命が大幅に向上するものと推定される。
【0153】
さらに、多孔質層42は、基材41の表裏両面に形成されることもできる。この場合、サイクル寿命が更に向上する。
【0154】
さらに、第2の気孔42aの孔径は、第1の気孔41aの孔径よりも大きいので、堆積物によるセパレータ40aの目詰まりを防止することができる。これにより、サイクル寿命が向上する。
【0155】
さらに、多孔質層42の気孔率、即ち第2の気孔42aの気孔率は、第1の気孔41aの気孔率、即ち基材41の気孔率よりも大きいので、この点においても、堆積物によるセパレータ40aの目詰まりを防止することができる。これにより、サイクル寿命が向上する。
【0156】
さらに、フッ素化エーテルは、2,2,2−トリフルオロエチルメチルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルプロピルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルブチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソブチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソペンチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル、ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル、1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−トリフルオロメチルプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルエチルエーテル、及び2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルジフルオロメチルエーテルからなる群から選択される。実施例に示されるように、フッ素化エーテルがこれらの物質である場合、サイクル寿命が大幅に向上する。
【0157】
さらに、電解液43は、フッ素化エーテルを、電解液43の総体積に対して10〜60体積%含むので、この点においてもサイクル寿命が大幅に向上する。
【0158】
さらに、電解液43は、モノフルオロ炭酸エチレンを含むので、この点においてもサイクル寿命が大幅に向上する。
【0159】
さらに、電解液43は、モノフルオロ炭酸エチレンを、電解液43の総体積に対して10〜30体積%含むので、この点においても、サイクル寿命が大幅に向上する。
【0160】
さらに、電解液43は、リチウム塩を1.15〜1.5mol/Lの濃度で含むので、この点においても、サイクル寿命が大幅に向上する。
【0161】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0162】
10 リチウムイオン二次電池
20 正極
30 負極
40 セパレータ
41 基材
41a 第1の気孔
42 多孔質層
42a 第2の気孔
43 電解液
図1
図2
図3
図4
図5
図6