(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、架橋した天然由来高分子およびトレハロースからなる粒状の吸水剤を吸収体の構成要素として含む吸収性物品であって、吸水剤のボルテックス法により測定した吸水速度が25秒以下である、吸収性物品である。
本発明は、また、架橋した天然由来高分子およびトレハロースからなる粒状の吸水剤であって、ボルテックス法により測定した吸水速度が25秒以下である吸水剤である。
【0012】
トレハロースは、二糖類の1つで、2分子のD−グルコースがその還元性基どうしで結合したものである。結合様式がα結合か、β結合かによってα,α−、α,β−、β,β−の3つの異性体があり、いずれの異性体も使用できるが、なかでもα,α−トレハロースが、天然に存在するので、好ましい。化学式はC
12H
22O
11である。α,α−トレハロースは、二水化物と無水物がある。
【0013】
天然由来高分子は、天然由来の高分子であれば、特に限定するものではない。天然由来高分子は、微生物による発酵で得られる高分子、天然物から抽出される高分子などをいい、一般にバイオポリマーとも呼ばれる。
【0014】
天然由来高分子の具体例としては、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、ポリアルギニンなどのポリアミノ酸またはその塩、アルギン酸、ヒアルロン酸、キトサンなどの多糖類、カルボキシメチルセルロースなど天然高分子に化学修飾が施されたものが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、好ましい天然由来高分子はポリグルタミン酸またはカルボキシメチルセルロースである。ポリアミノ酸は共重合体でもよい。また、天然由来高分子は2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
天然由来高分子は、縮合性の官能基を有していてもよい。架橋が縮合反応により起こる場合は、縮合性の官能基は、架橋剤と反応して、天然由来高分子を架橋するために寄与する。縮合性の官能基の例としては、カルボキシル基、アミノ基などが挙げられるが、なかでもカルボキシル基が、親水性をも付与するので、好ましい。架橋が付加反応により起こる場合は、天然由来高分子は、縮合性の官能基の有無が架橋には関与しないが、高い吸水性を発現させるためにはカルボキシル基を有することが好ましい。
【0016】
なお、架橋した天然由来高分子は水溶液中で架橋反応させることによって得られるため、天然由来高分子は、親水性であることが好ましく、水溶性の塩の形態であることがより好ましい。たとえば、カルボキシル基を有する天然由来高分子は、ナトリウム塩、カリウム塩などの金属塩、またはアンモニウム塩、アミン塩などの形態であることが好ましく、アミノ基を有する天然由来高分子は、塩酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、または酢酸塩などの有機酸塩の形態であることが好ましい。
【0017】
天然由来高分子の分子量は、特に限定されないが、質量平均分子量が好ましくは1万〜1300万であり、より好ましくは5万〜1000万であり、さらに好ましくは30万〜500万である。分子量が小さすぎると単位質量あたりでの未架橋の分子鎖が増え、溶出分が多く強度が低いゲルになる。分子量が大きすぎると溶解時の粘度が大きくなり、トレハロースや架橋剤が均一に分散されない。
【0018】
架橋した天然由来高分子とは、天然由来高分子を架橋剤と反応させて化学架橋したもの、または天然由来高分子に放射線を照射して放射線架橋したものをいう。架橋方法については後述する。
【0019】
本発明の吸水剤は、ボルテックス法により測定した吸水速度(以下単に「吸水速度」ともいう。)が25秒以下である。吸水速度は、値が小さいほど好ましく、好ましくは20秒以下であり、より好ましくは15秒以下である。吸水速度の下限は特に限定するものではないが、通常、5秒程度である。
【0020】
吸水速度は次のように測定する。
(1)生理用食塩水(0.9質量%塩化ナトリウム水溶液)25gを50mLビーカーにとる。
(2)50mLビーカーをマグネチックスターラー(アズワン社製RS−1DN)の上に置き、550rpmで攪拌させる。
(3)試料(あらかじめ篩で分級し、粒子径500〜850μmの範囲のものを用いる。)を1.00g精秤し、(2)のビーカーの中に投入する。試料投入と同時にストップウォッチをスタートさせ、ビーカー内の液表面がフラットになったときストップウォッチを止め、時間(秒)を読み取り、それを吸水速度の値とする。
【0021】
吸水剤の瞬間吸水倍率は2.5以上であることが好ましい。瞬間吸水倍率は、高いほど好ましく、3.5以上であることがより好ましく、5.0以上であることがさらに好ましい。瞬間吸水倍率の上限は特に限定するものではないが、通常、10程度である。
【0022】
瞬間吸水倍率は、次のように測定する。
(1)吸引濾過装置をセットし、ブフナー漏斗上に濾紙(ADVANTEC社製定性濾紙N0.1−55mm)を置く。
(2)試料(あらかじめ篩で分級し、粒子径500〜850μmの範囲のものを用いる。)0.100±0.005gを取り、濾紙上に載せる。試料の質量をA(g)とする。
(3)生理用食塩水(50mL)を注入する。注入と同時にストップウォッチをスタートさせる。
(4)生理用食塩水吸引後、20秒間そのまま吸引を続ける。
(5)濾紙上の試料の質量を測定し、B(g)とする。
(6)次式により、瞬間吸水倍率を算出する。
瞬間吸水倍率(g/g)=(B−A)/A
【0023】
吸水剤中のトレハロースの含有量は、好ましくは0.5〜30.0質量%であり、より好ましくは1.0〜20.0質量%であり、さらに好ましくは5.0〜15.0質量%である。トレハロースの含有量が少なすぎると、充分な機能向上効果が得られない。多すぎると、吸水骨格の割合が減るため吸水性能が低下する。ここで、トレハロースの質量は、C
12H
22O
11換算質量、すなわち結合水を含まない質量で表すものとする。また、吸水剤の質量は、乾燥状態における質量で表すものとする。吸水剤の乾燥状態における質量とは、70℃、90分の条件で乾燥した後の質量をいうものとする。
【0024】
本発明の吸水剤は粒状である。吸水剤の粒子の形状および粒径は、本発明の効果を奏する限り、限定されないが、吸水剤の平均粒子径は、好ましくは10μm〜10mmであり、より好ましくは100μm〜3mmであり、さらに好ましくは300μm〜1mmである。
【0025】
平均粒子径の測定方法は次のとおりである。
JIS標準ふるい(JIS Z8801−1)で分級をおこない、以下の計算式で算出する。
各ふるいと次の段のふるいとを一組にし、各組の下の段(小さい開口寸法の方)に残留した試験試料の平均粒子径を以下の式によって算出する。
Dr=(D1+D2)/2
ただし、
Dr:小さい開口寸法のふるいが保持する試験試料の平均粒子径(μm)
D1:大きい開口寸法の網をもつふるいの網の公称目開き(μm)
D2:小さい開口寸法の網をもつふるいの網の公称目開き(μm)
試験試料の平均粒子径(D)は、以下の式によって算出する。
D={(D1×R1)+(D2×R2)+・・・・(Dn×Rn)}/100
ただし、
Dn:ふるいの各ペアでの平均粒子径
Rn:各ペアで小さい開口の方のふるいの試験試料残率(%)
【0026】
次に、本発明の吸水剤の製造方法を説明する。
本発明の架橋した天然由来高分子およびトレハロースを含む吸水剤を製造する方法は、天然由来高分子およびトレハロースを水に溶かして原料水溶液を調製する工程(以下「原料水溶液調製工程」ともいう。)、および原料水溶液に架橋剤を添加または放射線を照射して天然由来高分子を架橋する工程(以下「架橋工程」ともいう。)を含む。
本発明の製造方法は、さらに、天然由来高分子を架橋する工程において得られた架橋した天然由来高分子を含むヒドロゲルを湿式粉砕する工程(以下「粉砕工程」ともいう。)、湿式粉砕したヒドロゲルに水混和性有機溶媒を加え、ヒドロゲルを脱水する工程(以下「脱水工程」ともいう。)、脱水したヒドロゲルを乾燥する工程(以下「乾燥工程」ともいう。)の1つ以上の工程を含んでもよい。
【0027】
原料水溶液調製工程は、水に天然由来高分子およびトレハロースを溶解させることにより、行なうことができる。溶解の方法は、限定するものではないが、水に天然由来高分子およびトレハロースを加え、撹拌することによって、行なうことができる。溶解の順序は、限定されるものではなく、水に天然由来高分子とトレハロースを同時に添加し撹拌して原料水溶液を調製してもよいし、水に天然由来高分子を添加し攪拌して天然由来高分子水溶液を調製し、その天然由来高分子水溶液にトレハロースを添加し撹拌して原料水溶液を調製してもよいし、水にトレハロースを添加し攪拌してトレハロース水溶液を調製し、そのトレハロース水溶液に天然由来高分子を添加し撹拌して原料水溶液を調製してもよいし、天然由来高分子水溶液とトレハロース水溶液を別々に調製し、それらの天然由来高分子水溶液とトレハロース水溶液を混合して原料水溶液を調製してもよいが、トレハロースをより均一に分散させる観点から、あらかじめトレハロース水溶液を調製し、それに天然由来高分子を溶解させて原料水溶液を調製するのが好ましい。
【0028】
原料水溶液は、天然由来高分子、トレハロースおよび水を含む。
原料水溶液中の天然由来高分子の濃度は、好ましくは1〜30質量%であり、より好ましくは3〜20質量%であり、さらに好ましくは5〜15質量%である。天然由来高分子の濃度が薄すぎると吸水剤の回収量が低く生産性が悪くなる。天然由来高分子の濃度が濃すぎると粘度が高くなり、トレハロースや架橋剤の分散性が悪くなる。天然由来高分子の質量は、乾燥状態における質量で表すものとする。天然由来高分子の乾燥状態における質量とは、70℃、90分の条件で乾燥した後の質量をいうものとする。
原料水溶液中のトレハロースの濃度(C
12H
22O
11基準)は、特に限定されないが、たとえば1〜10質量%である。
原料水溶液中のトレハロースの量は、特に限定されないが、たとえば、天然由来高分子100質量部を基準として、10〜100質量部である。
なお、原料水溶液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、天然由来高分子、トレハロース、水以外の物質(たとえば、分散剤、乳化剤、有機溶媒など)を含んでもよい。
【0029】
次に、原料水溶液中の天然由来高分子を架橋する。架橋は、天然由来高分子を架橋剤と反応させて架橋(化学架橋)してもよいし、天然由来高分子に放射線を照射して架橋(放射線架橋)してもよいが、架橋の均一性や量産性の観点から、化学架橋が好ましい。
以下、原料水溶液に架橋剤を添加し、天然由来高分子を架橋する工程について詳しく説明する。
架橋剤としては、天然由来高分子を架橋することができるものであれば、特に限定されない。
たとえば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどの2つ以上のエポキシ基を有する化合物を架橋剤として使用することができる。
また、天然由来高分子がカルボキシル基を有する場合は、1,2−エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ヘプタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミンなどのアルキレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミンなどのアミノ基を2個以上有する化合物(以下「ポリアミン」ともいう。)、ポリリジン、キトサンなどのアミノ基含有ポリマーなどを架橋剤として使用することができる。
天然由来高分子がアミノ基を有する場合は、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、トリメリット酸などのカルボキシル基を2個以上有する化合物、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリグルタミン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸などのカルボキシル基含有ポリマーなどを架橋剤として使用することができる。
【0030】
天然由来高分子を架橋させる際の架橋剤の使用量は、天然由来高分子100質量部に対し、好ましくは0.5〜25質量部であり、より好ましくは1.0〜20質量部であり、さらに好ましくは1.5〜15質量部である。架橋剤の量が少なすぎると、架橋密度が低くなりやすく、ゲルの状態が得られにくくなるおそれがある。架橋剤の量が多すぎると、架橋密度が高くなりやすく、得られる吸水剤の膨潤度が低くなるおそれがある。
【0031】
架橋剤とともに、縮合剤や縮合助剤を併用してもよい。縮合剤や縮合助剤を併用すると、より効率よくアミド結合を形成させることができる。
縮合剤としては、水溶性カルボジイミドが挙げられる。水溶性カルボジイミドとは、分子内にカルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物であって、水溶性を有する化合物をいう。水溶性カルボジイミドの具体例としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドまたはその塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド−メト−p−トルエン硫酸またはその塩、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどが挙げられ、好ましくは1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド−メト−p−トルエン硫酸塩である。
縮合剤の使用量は、使用される架橋剤1モルに対し、0〜50モル、好ましくは1〜40モル、より好ましくは2〜30モルである。
【0032】
縮合助剤としては、N−ヒドロキシイミドが挙げられる。N−ヒドロキシイミドとは、分子内にN−ヒドロキシイミド基(−C(=O)−N(−OH)−C(=O)−)を有する化合物である。すなわち、この化合物は、次の一般式で表される。
R
1−C(=O)−N(−OH)−C(=O)−R
2
ここで、R
1およびR
2が結合することにより、環構造が形成されてもよい。R
1およびR
2が結合してR
1およびR
2中の2つの炭素とN−ヒドロキシイミド基とで5員環を形成した化合物が好ましい。また、N−ヒドロキシイミドは、水溶性であることが好ましい。使用可能なN−ヒドロキシイミドの具体例としては、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシへキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸イミドが挙げられる。N−ヒドロキシイミドの中でも、N−ヒドロキシコハク酸イミドが最も好ましい。
縮合助剤の使用量は、使用される架橋剤1モルに対し、0〜50モル、好ましくは1〜40モル、さらに好ましくは2〜30モルである。なお、縮合助剤の使用量は、使用される縮合剤の使用量と等モルとすることが好ましい。
【0033】
架橋工程の条件は特に限定されない。室温でもよく、加温してもよい。ただし、温度が低すぎる場合には、架橋反応に極めて長時間を有するので、加熱を行うことが好ましい。架橋工程の温度は、好ましくは10〜100℃であり、より好ましくは15〜70℃であり、さらに好ましくは20℃〜50℃である。高すぎる場合には、天然由来高分子が分解しやすい。したがって、室温付近で行うことが好ましい。架橋反応の際のpHは特に限定されないが、好ましくは5〜12であり、より好ましくは6〜11であり、さらに好ましくは7〜10である。
【0034】
架橋工程の反応時間は、好ましくは5分〜6時間であり、より好ましくは10分〜3時間であり、さらに好ましくは20分〜2時間である。架橋反応の際には、必要に応じて、反応溶液を攪拌してもよく、静置しておいてもよい。好ましくは、静置しておく。架橋反応に充分な時間が経過した後、反応液中にゲルが得られる。この反応液を水(好ましくはイオン交換水、蒸留水)で洗うことにより、反応液中の未反応の架橋剤、縮合剤、縮合助剤が除去され、天然由来高分子が架橋剤で架橋されたゲルが得られる。
【0035】
次に、架橋工程において得られた架橋した天然由来高分子を含むヒドロゲルを湿式粉砕する(粉砕工程)。この工程では、ヒドロゲルは、含水状態で所望の大きさに粉砕される(すなわち湿式粉砕)。粉砕は、予め粗粉砕した後、本粉砕することが好ましい。粗粉砕は、架橋反応により得られたヒドロゲルを、たとえば、スパーテルなどで撹拌することにより行われる。本粉砕では、ヒドロゲルは、たとえば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ビーズミル、パイプミキサーなどの湿式粉砕に適する装置を用いて粉砕される。本明細書において、粉砕されたヒドロゲルを、ヒドロゲル粒子という。ヒドロゲル粒子の平均粒子径は、最終的に得られる乾燥ゲル粉末の用途によって、あるいは粉砕に用いる装置に応じて適宜設定され得るが、好ましくは10μm〜10mm、より好ましくは、100μm〜3mmである。
【0036】
ヒドロゲルの粘度が高く、粉砕が困難である場合、後述する水混和性有機溶媒を加えてもよい。すなわち、水混和性有機溶媒を加えた後に粉砕してもよい。水混和性有機溶媒を加えることによって、ヒドロゲルは脱水されて減容(収縮)し、湿式粉砕中の分散液の粘度が低くなり、流動性が回復する。粉砕中に増粘した場合も、途中で水混和性有機溶媒を添加して、粉砕を続けることができる。このように、湿式粉砕工程と後述の脱水工程とが同時に行われてもよい。
【0037】
カルボキシル基を有する天然由来高分子を原料として用いる場合、上記のように、天然由来高分子のカルボキシル基部分を、ナトリウム塩などの水溶性の塩形態にして、ヒドロゲルが調製される。しかし、塩形態のヒドロゲルを乾燥ゲル粉末にした場合、大気中で吸湿して粉末同士が合着するおそれがある。したがって、ヒドロゲルを調製後、無機酸または有機酸を加えて一部を塩形態から遊離酸形態にしてもよい。遊離酸形態のヒドロゲルから得られた乾燥ゲル粉末は、塩形態の乾燥ゲル粉末と比べて吸湿性が低減され、そのため粉末同士の合着が起こりにくい。無機酸および有機酸としては、たとえば、硫酸、塩酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられる。無機酸または有機酸は、水混和性有機溶媒と混合してヒドロゲル粒子に加えることが好ましい。無機酸または有機酸を加えると、ヒドロゲルが均一に中和され、均一な遊離酸形態のヒドロゲル粒子が得られるからである。
【0038】
次に、湿式粉砕したヒドロゲルに水混和性有機溶媒を加え、ヒドロゲルを脱水する(脱水工程)。ヒドロゲル粒子を水混和性有機溶媒に浸漬させると、ヒドロゲル粒子中に含まれる水が、水混和性有機溶媒中に排出される。ヒドロゲル粒子は脱水されて、微粒子サイズに収縮する場合もある。さらに、天然由来高分子を架橋させるために用いた未反応の架橋剤、縮合剤、縮合助剤などの不要物質も、ヒドロゲル粒子中から水とともに排出される。
【0039】
水混和性有機溶媒は、特に限定されない。たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、第三級ブタノールなどの低級アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類、およびアセトンが挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびアセトンが好ましく、メタノールが特に好ましい。これらの水混和性有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよく、あるいは2種以上の溶媒を分散状態に応じて、逐次的に加えてもよい。
【0040】
水混和性有機溶媒へのヒドロゲル粒子の浸漬は、数回繰り返してもよい。この場合、ヒドロゲル粒子から排出された水を含む溶媒を、ろ過またはデカンテーションで除去し、新しく水混和性有機溶媒をヒドロゲル粒子に加える。このように数回の浸漬を繰り返すことによって、ヒドロゲル粒子は、より脱水されて収縮し、非常に含水率の低い微粒子となる。数回の浸漬を繰り返す場合、1回の浸漬ごとに異なる水混和性有機溶媒を用いてもよい。
【0041】
水混和性有機溶媒の使用量は、その種類、ヒドロゲル調製時の水の量などに応じて異なるが、1回あたりの浸漬につき、ヒドロゲルに対して好ましくは1倍容量(等量)〜20倍容量であり、より好ましくは2倍容量〜10倍容量であり、さらに好ましくは3倍容量〜7倍容量である。
ヒドロゲル粒子を水混和性有機溶媒に浸漬させる時間は、溶媒の種類、量などに応じて異なるが、1回あたりの浸漬につき、作業性を考慮すると、好ましくは1分〜2時間であり、より好ましくは2分〜1時間であり、さらに好ましくは3分〜30分である。
必要に応じて、水混和性有機溶媒に浸漬後のヒドロゲル粒子を、適切な液体でリンスしてもよい。
【0042】
次に、脱水したヒドロゲルを乾燥する(乾燥工程)。脱水工程後に得られるヒドロゲル粒子は、含水率が低く、ほとんど水分は含まれていない。したがって、ろ過またはデカンテーションによって、水混和性有機溶媒を除去し、好ましくは室温〜150℃、より好ましくは35℃〜125℃、さらに好ましくは50℃〜100℃で送風乾燥または静置乾燥することにより、乾燥ゲル粉末が得られる。このように、ヒドロゲル粒子は、過酷な乾燥条件に曝されることがないので、乾燥中に粒子同士が合着することもない。
【0043】
得られる乾燥ゲル粉末の粒子径は、乾燥ゲル粉末の用途などを考慮して決定することができ、特に限定されない。すなわち、上記の粉砕工程において用いられる粉砕装置(ホモミキサー、ホモジナイザーなど)およびその粉砕力に応じて、所望の粒子径を有する乾燥ゲル粉末を得ることができる。
【0044】
一般に、ポリマーが網目構造(ゲル状態)を保持していない場合には、ポリマーは、水に浸すと溶解してしまう。しかし、上記の方法で得られる乾燥ゲル粉末は、水に浸すと溶解せずに膨潤し、ヒドロゲルを再生する。したがって、上記の方法で得られる乾燥ゲル粉末は、網目構造(ゲル状態)を保持している。
【0045】
本発明の架橋した天然由来高分子およびトレハロースを含む吸水剤を製造するもう1つの方法は、架橋した天然由来高分子にトレハロース水溶液を吸収させる工程、トレハロース水溶液を吸収した架橋した天然由来高分子を水混和性有機溶媒中で湿式粉砕するとともに脱水する工程、および脱水した架橋した天然由来高分子を乾燥する工程を含む方法である。
架橋した天然由来高分子は、前述した吸収剤の製造方法において、原料水溶液にトレハロースを添加せずに原料水溶液調製工程を実施し、次いで架橋工程、粉砕工程、脱水工程、乾燥工程を実施することにより、製造することができる。
架橋した天然由来高分子にトレハロース水溶液を吸収させる工程(以下「吸収工程」ともいう。)は、トレハロース水溶液が架橋した天然由来高分子に吸収されるならば、いかなる方法を用いてもよい。たとえば、トレハロース水溶液に架橋した天然由来高分子を浸してもよいし、架橋した天然由来高分子にトレハロース水溶液を散布や滴下等により添加してもよい。この工程に供する架橋した天然由来高分子は乾燥したものであることが好ましい。この工程に供するトレハロース水溶液の濃度は、限定されないが、好ましくは0.03〜30質量%、より好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。トレハロース水溶液は、加温してもよいが、室温のままでもよい。
【0046】
本発明は、また、前記吸水剤を吸収体の構成要素として含む吸収性物品である。吸収性物品としては、使い捨ておむつ、生理用ナプキンなどが挙げられる。吸収性物品は、通常、少なくとも透水性のトップシート、吸収体および不透水性のバックシートから構成され、吸収体はパルプと吸水剤から構成されることが多い。本発明の吸収性物品は、吸収体の構成要素として前記吸水剤を含む。
【0047】
本発明の吸水剤は、吸水速度および瞬間吸水倍率に優れる。
本発明の方法によれば、吸水速度および瞬間吸水倍率に優れる吸水剤が得られる。
【0048】
天然由来高分子を架橋する際にトレハロースを共存させることにより、または架橋した天然由来高分子にトレハロース水溶液を吸収させることにより、吸水速度および瞬間吸水倍率に優れる、すなわち吸水・再膨潤の初期レスポンスに優れる吸水剤が得られる理由は定かではないが、発明者は、次のように推定している。
天然由来高分子を架橋して得た含水架橋体(ヒドロゲル)を脱水し乾燥すると、脱水時に架橋構造の網目が縮む。しかし、天然由来高分子を架橋する際にトレハロースを共存させるまたは架橋した天然由来高分子にトレハロース水溶液を吸収させると、トレハロース分子が架橋構造の網目の中に取り込まれ、脱水・乾燥工程で水が抜けても、トレハロース分子は架橋構造の網目から抜けない。すなわち、脱水時に、トレハロースが水と置き換わることで網目が広いまま維持される。その結果、得られた吸水剤は吸水・再膨潤の初期レスポンスに優れると推定される。
本発明の方法により製造した吸水剤について、液体クロマトグラフィーおよび元素分析を行ったところ、吸水剤にトレハロースが取り込まれていることが確認された。
ただし、本発明は、上記の理論によって限定されない。
【実施例】
【0049】
実施例1
トレハロース(和光純薬工業株式会社製,α,α−トレハロースの二水化物,C
12H
22O
11・2H
2O)6.04gをイオン交換水722gに分散し、ホモジナイザー(アズワン株式会社製AHG−160D,シャフトジェネレーターHT1018)を用いて1000rpmで3分間分散した。ポリグルタミン酸(Na型,分子量200万,バイオリーダーズ社製)(以下「PGA」ともいう。)54.4g(PGAユニット分子量を151として360ミリモル)(PGA:トレハロース=90:10(質量比))を加えて溶解させた。PGA濃度は7%とした。ジエチレントリアミン(以下「DETA」ともいう。)(和光純薬工業株式会社製)1.11g(10.8ミリモル)、N−ヒドロキシコハク酸イミド(以下「NHS」ともいう。)(和光純薬工業株式会社製)3.73g(32.4ミリモル)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下「EDC・HCl」ともいう。)(和光純薬工業株式会社製)6.21g(32.4ミリモル)を順次加えて攪拌し、約1分40秒でヒドロゲルを得た。添加終了30分後、得られた白濁ヒドロゲルをスパーテルで粗粉砕した。次いで、粗粉砕したヒドロゲルに20gのメタノール(和光純薬工業株式会社製)を加え、ホモジナイザー(アズワン株式会社製AHG−160D,シャフトジェネレーターHT1018)を用いて750rpmの条件で湿式粉砕した。湿式粉砕後、分散液を静置すると、半透明なヒドロゲル粒子が沈降したので、デカンテーションにより溶媒を除去し、新たに2倍量のメタノールを加え攪拌した。一連の操作を繰り返し、ヒドロゲル粒子が収縮して白色粒子になるまで脱水を行なった。脱水した粒子を70℃、90分の条件で送風乾燥し、乾燥ゲル粉末の吸水剤を得た。
【0050】
実施例2
トレハロース12.1g、イオン交換水642g、PGA48.3g(PGA:トレハロース=80:20(質量比))、DETA0.99g、NHS3.31g、EDC・HCl5.52gとし、他は実施例1と同じ手順で、吸水剤を調製した。
【0051】
実施例3
トレハロース18.1g、イオン交換水562g、PGA42.3g(PGA:トレハロース=70:30(質量比))、DETA0.87g、NHS2.90g、EDC・HCl4.83gとし、他は実施例1と同じ手順で、吸水剤を調製した。
【0052】
実施例4
トレハロース24.2g、イオン交換水481.5g、PGA36.2g(PGA:トレハロース=60:40(質量比))、DETA0.75g、NHS2.49g、EDC・HCl4.14gとし、他は実施例1と同じ手順で、吸水剤を調製した。
【0053】
実施例5
トレハロース30.20g、イオン交換水334.17g、PGA30.20g(PGA:トレハロース=50:50(質量比))、DETA0.63g、NHS2.08g、EDC・HCl3.45gとし、他は実施例1と同じ手順で、吸水剤を調製した。
【0054】
実施例6
トレハロースを加えなかった以外は実施例1と同じ手順で調製した吸水剤35.0gに、トレハロース水溶液(トレハロース3.5g、イオン交換水422.7g)(PGA:トレハロース=90:10(質量比))を吸水させた。次いで、20gのエタノール(和光純薬工業株式会社製)を加え、ホモジナイザー(アズワン株式会社製AHG−160D,シャフトジェネレーターHT1018)を用いて750rpmの条件で湿式粉砕した。湿式粉砕後、分散液を静置すると、半透明なヒドロゲル粒子が沈降したので、デカンテーションにより溶媒を除去し、新たに2倍量のエタノールを加え攪拌した。一連の操作を繰り返し、ヒドロゲル粒子が収縮して白色粒子になるまで脱水を行なった。脱水した粒子を70℃、90分の条件で送風乾燥し、乾燥ゲル粉末の吸水剤を得た。
【0055】
実施例7
トレハロースを7.0gにした以外は実施例6と同じ手順で、吸収剤を調製した。
【0056】
比較例1
トレハロースを加えなかった以外は、実施例1と同じ手順で、吸水剤を調製した。
【0057】
実施例8
イオン交換水190.7gにNaOH7.62gを溶解して調製した水酸化ナトリウム水溶液に、カルボキシメチルセルロース(Na型,F800FC,日本製紙株式会社製)(以下「CMC−Na」ともいう。)35.0gを加え、ホモジナイザー(AHG−160D,シャフトジェネレーターHT1018,アズワン株式会社製)を用いて1000rpmの条件で3分間混ぜることで、溶解させた。CMC−Na濃度は15質量%とした。エチレングリコールジグリシジルエーテル(以下「EGDE」ともいう。)(ナガセケムテック株式会社製)1.47mLを加え、再びホモジナイザー(同上)で混ぜた後、70℃、15時間で架橋反応させた。得られたヒドロゲルはスパーテルで粗粉砕し、次いで粗粉砕したヒドロゲルに2倍量のエタノール(和光純薬工業株式会社製)を加え、ホモジナイザー(同上)を用いて750rpmの条件で湿式粉砕をおこなった。湿式粉砕後、分散液を静置すると、半透明なヒドロゲル粒子が沈降したので、デカンテーションにより溶媒を除去し、新たにエタノールを加え攪拌した。一連の操作を繰り返し、ヒドロゲル粒子が収縮して白色粒子になるまで脱水を行なった。脱水した粒子を70℃、90分の条件で送風乾燥し、乾燥ゲル粉末の吸水剤を得た。
上記方法で合成した吸水剤35.0gに、トレハロース水溶液(トレハロース3.5g、イオン交換水422.7g)(CMC−Na:トレハロース=90:10(質量比))を吸水させた。次いで、2倍量のエタノール(和光純薬工業株式会社製)を加え、ホモジナイザー(アズワン株式会社製AHG−160D,シャフトジェネレーターHT1018)を用いて750rpmの条件で湿式粉砕した。湿式粉砕後、分散液を静置すると、半透明なヒドロゲル粒子が沈降したので、デカンテーションにより溶媒を除去し、新たにエタノールを加え攪拌した。一連の操作を繰り返し、ヒドロゲル粒子が収縮して白色粒子になるまで脱水を行なった。脱水した粒子を70℃、90分の条件で送風乾燥し、乾燥ゲル粉末の吸水剤を得た。
【0058】
比較例2
トレハロースを加えなかった以外は、実施例8と同じ手順で、吸水剤を調製した。
【0059】
実施例および比較例で得られた吸水剤について、トレハロース含有量、吸水速度および瞬間吸水倍率を測定した。結果を表1および表2に示す。
【0060】
なお、トレハロース含有量は次の2つの方法で求めた。
[液体クロマトグラフィーによるトレハロース含有量の測定法]
(1)標準溶液→検量線
トレハロース約50mgを精密に量り、水で溶かして正確に100mLとした。この液を希釈し、0.5〜5μg/mLの標準溶液を4点調製した。
(2)試料溶液
試料約0.1gを採取し、水100mLを加えて還流抽出した。抽出液を濾過し、得られた濾液を凍結乾燥した。乾固物全量を水に溶解させ、正確に10mLとした。この液を水で400倍に希釈しメンブランフィルター(孔径0.45μm)で濾過したものを試料溶液とした。
(3)測定条件
装置:イオンクロマトグラフ
検出器:電気化学検出器
カラム:CarboPac PA1
移動相:10mmol/L 水酸化ナトリウム溶液
流量:1.0mL/min
分析時間:15分
注入量:15μL
【0061】
[元素分析によるトレハロース含有量の測定法]
元素分析により、試料中の炭素と窒素のモル比(C/N)を求める。
架橋剤のジエチレントリアミンは、完全に架橋に寄与しており、仕込み量と調製された吸水剤中の含有量とは等しいと仮定し、仕込み量から吸水剤中のPGAに対するジエチレントリアミンのモル%(q)を計算する。
吸水剤中のPGAに対するトレハロースのモル%をpとすると、次式が成立する。
C/N=(5+4×0.06+12×p/100)/(1+3×q/100)
この式に、元素分析により求めたC/Nの値と仕込み量から計算したqの値を代入し、pを算出する。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
吸収剤中のトレハロースの含有量が0.5〜30質量%の範囲で、吸水速度が早くなり、瞬間吸水倍率が高くなることが分かる。また、天然由来高分子を架橋し乾燥した後にトレハロースを水溶液の状態で吸収させて再乾燥させるような後添加の系でも、天然由来高分子の架橋時にトレハロースを共存させた場合と同様の効果が得られる。