(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が58%以上であり、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が90質量%以上であるメタクリル樹脂(A)、および
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)10〜80質量%とアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)90〜20質量%とを有するブロック共重合体(B)を含み、且つ
メタクリル樹脂(A)に対するブロック共重合体(B)の質量比が1/99〜90/10であり、
メタクリル樹脂(A)は、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が65%以上であるメタクリル樹脂(a1)と、 三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が45〜58%であるメタクリル樹脂(a2)とを、メタクリル樹脂(a1)/メタクリル樹脂(a2)の質量比40/60〜70/30で含有する、
メタクリル樹脂組成物。
前記アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)が、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位50〜90質量%と(メタ)アクリル酸芳香族エステルに由来する構造単位50〜10質量%とを含む請求項1に記載のメタクリル樹脂組成物。
メタクリル樹脂(A)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の総含有量が99質量%以上であり、且つ波長587.6nm(D線)、23℃での屈折率が1.488〜1.490であり、
ブロック共重合体(B)は、波長587.6nm(D線)、23℃での屈折率が1.485〜1.495である、請求項1〜3のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物。
メタクリル樹脂(A)は、重量平均分子量が50000〜150000であり、分子量200000以上の成分の含有量が0.1〜10%であり、且つ 分子量15000未満の成分の含有量が0.2〜5%である、請求項1〜4のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂(A)とブロック共重合体(B)とを含有するものである。
【0016】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)は、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が、58%以上、好ましくは59%以上、より好ましくは60%以上である。メタクリル樹脂(A)の三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)の上限は、特段に制限されないが、成形加工性の観点から、好ましくは99%、より好ましくは85%、さらに好ましくは77%、より好ましくは70%、よりさらに好ましくは65%、最も好ましくは64%である。
【0017】
三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(以下、単に「シンジオタクティシティ(rr)」と称することがある。)は、連続する3つの構造単位の連鎖(3連子、triad)中に在る2つの連鎖(2連子、diad)が、ともにラセモ(rrと表記する)である割合である。なお、ポリマー分子中の構造単位の連鎖(2連子、diad)において立体配置が同じものをメソ(meso)、逆のものをラセモ(racemo)と称し、それぞれm、rと表記する。
【0018】
三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(%)は、重水素化クロロホルム中、30℃で、
1H-NMRスペクトルを測定し、そのスペクトルからTMSを0ppmとした際の、0.6〜0.95ppmの領域の面積(X)と0.6〜1.35ppmの領域の面積(Y)とを計測し、式:(X/Y)×100にて算出した値である。
【0019】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)は、重量平均分子量Mw
Aが、好ましくは5万〜15万、より好ましくは6万〜14万、さらに好ましくは7万〜12万である。Mw
Aが5万以上で、かつ、シンジオタクティシティ(rr)が58%以上あることで、得られるフィルムは、強度が大きく、割れ難く、延伸し易い。そのためフィルムをより薄くすることができる。またMw
Aが15万以下であることで、メタクリル樹脂は成形加工性が高まるので、得られるフィルムの厚さが均一で且つ表面平滑性に優れる傾向がある。
【0020】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)は、Mw
Aと数平均分子量Mn
Aの比(Mw
A/Mn
A)が、好ましくは1.2〜5.0、より好ましくは1.3〜3.5である。Mw
A/Mn
Aが1.2以上であることでメタクリル樹脂の流動性が向上し、得られるフィルムは表面平滑性に優れる傾向となる。Mw
A/Mn
Aが5.0以下であることで得られるフィルムは耐衝撃性および靭性に優れる傾向となる。なお、Mw
AおよびMn
Aは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0021】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)は、分子量200000以上の成分(高分子量成分)の含有量が、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは0.5〜5%である。また、本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)は、分子量15000未満の成分(低分子量成分)の含有量が、好ましくは0.2〜5%、より好ましくは1〜4.5%である。メタクリル樹脂(A)が高分子量成分および低分子量成分をこの範囲にて含有していることで、製膜性が向上し、均一な膜厚のフィルムを得やすい。
分子量200000以上の成分の含有量は、GPCで測定されたクロマトグラムとベースラインとで囲まれる部分の面積のうちの、分子量200000の標準ポリスチレンの保持時間より前に検出されるクロマトグラムとベースラインとで囲まれる部分の面積の割合として算出する。分子量15000未満の成分の含有量は、GPCで得られるクロマトグラムとベースラインとで囲まれる部分の面積のうちの、分子量15000の標準ポリスチレンの保持時間より後に検出されるクロマトグラムとベースラインとで囲まれる部分の面積の割合として算出する。
【0022】
なお、GPC測定は、次のようにして行う。溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして東ソー株式会社製のTSKgel SuperMultipore HZM−Mの2本とSuperHZ4000を直列に繋いだものを用いる。検出装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC−8320(品番)を使用した。試料は、メタクリル樹脂4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させた溶液を用いた。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μlを注入して、クロマトグラムを測定した。
【0023】
分子量が400〜5000000の範囲の標準ポリスチレンを測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。クロマトグラムの高分子量側の傾きがゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとした。クロマトグラムが複数のピークを示す場合は、最も高分子量側のピークの傾きがゼロからプラスに変化する点と、最も低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとした。
【0024】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)は、JIS K7210に準拠して、230℃、3.8kg荷重の条件において測定される、メルトフローレートが、好ましくは0.1〜20g/10分、さらに好ましくは0.5〜15g/10分、最も好ましくは1.0〜10g/10分である。
【0025】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)は、耐熱性向上の観点からメタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が、メタクリル樹脂(A)の質量を基準にして、90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0026】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位以外の構造単位を含んでいても良く、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸8−トリシクロ〔5.2.1.0
2,6〕デカニル、メタクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェニルなどのアクリル酸アリールエステル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル;アクリルアミド;メタクリルアミド;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;などの一分子中に重合性の炭素−炭素二重結合を一つだけ有するビニル系単量体に由来する構造単位を挙げることができる。
【0027】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)のガラス転移温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは123℃以上、さらに好ましくは124℃以上である。該メタクリル樹脂のガラス転移温度の上限は、好ましくは135℃、より好ましくは130℃である。ガラス転移温度は、分子量やシンジオタクティシティ(rr)を調節することによって制御することができる。ガラス転移温度がこの範囲にあると、得られるフィルムの熱収縮などの変形が起こり難い。なお、ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して測定される中間点ガラス転移温度である。具体的には、試料を、230℃まで昇温し、次いで室温まで冷却し、その後、室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にてDSC曲線を測定した。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を決定した。
【0028】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)の23℃、50%RHで測定した波長587.6nm(D線)での屈折率n
23Dは、得られるメタクリル樹脂組成物の透明性の観点から、好ましくは1.488〜1.490、より好ましくは1.4885〜1.4897である。
【0029】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)は、1種のメタクリル樹脂によって前記特性を満たすようにしたものであってもよいし、複数種のメタクリル樹脂の混合物によって前記特性を満たすようにしたものであってもよい。
【0030】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)を構成する1種または2種以上のメタクリル樹脂は、公知の重合方法によって製造することができる。前述したメタクリル樹脂(A)の各特性は、重合温度、重合時間、連鎖移動剤の種類や量、重合開始剤の種類や量などの重合条件を調整することによって実現できる。
【0031】
メタクリル樹脂の製造に用いられる重合反応形態として、例えば、ラジカル重合法、アニオン重合法などを挙げることができる。
【0032】
ラジカル重合法においては、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法などの重合手法を採用することができる。これらのうち、生産性および耐熱分解性の観点から、懸濁重合法、塊状重合法が好ましい。
アニオン重合法においては、塊状重合法、溶液重合法などの重合手法を採用することができる。
【0033】
重合反応は重合開始剤によって開始される。ラジカル重合に用いられる重合開始剤は、反応性ラジカルを発生するものであれば特に限定されない。係る重合開始剤は、1時間半減期温度が、好ましくは60〜140℃、より好ましくは80〜120℃である。
ラジカル重合において用いられる重合開始剤としては、例えば、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエ−ト、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエ−ト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ベンゾイルパーオキシド 、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などを挙げることができる。中でも、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)が好ましい。これら重合開始剤は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤の添加量や添加方法などは、目的に応じて適宜設定すればよく特に限定されない。例えば、懸濁重合法に用いられる重合開始剤の量は、重合反応の供される全単量体100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.1質量部、より好ましくは0.001〜0.07質量部である。
【0034】
アニオン重合に用いられる重合開始剤は、反応性アニオンを発生するものであれば特に限定されない。係る重合開始剤として、有機アルカリ金属化合物、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の鉱酸塩、有機アルカリ金属化合物と有機アルミニウム化合物との組み合わせからなるもの、有機希土類金属錯体などを挙げることができる。
アニオン重合法に用いられる重合開始剤の具体例としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、イソブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のアルキルリチウムなどを挙げることができる。
また、有機アルミニウム化合物としては、AlR
1R
2R
3で表わされる化合物を挙げることができる。
なお、式中、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアルコキシル基、置換基を有してもよいアリールオキシ基またはN,N−二置換アミノ基を表す。さらに、R
2およびR
3は、それらが結合してなる、置換基を有していてもよいアリーレンジオキシ基であってもよい。
有機アルミニウム化合物の具体例としては、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム等を挙げることができる。
【0035】
得られるメタクリル樹脂の重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布を調節するための手法として、ラジカル重合においては連鎖移動剤、アニオン重合においては重合停止剤を反応系に添加することができる。
【0036】
ラジカル重合に用いられる連鎖移動剤は特に限定されない。例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス−(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタン類;α−メチルスチレンダイマー;テルピノレンなどを挙げることができる。これらのうちn−オクチルメルカプタン、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタンが好ましい。これら連鎖移動剤は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
かかる連鎖移動剤の使用量は重合反応に供される全単量体100質量部に対して好ましくは0.1〜1質量部、より好ましくは0.15〜0.8質量部、さらに好ましくは0.2〜0.6質量部、最も好ましくは0.2〜0.5質量部である。また、該連鎖移動剤の使用量は、重合開始剤100質量部に対して好ましくは2500〜10000質量部、より好ましくは3000〜9000質量部、さらに好ましくは3500〜6000質量部である。連鎖移動剤の使用量を上記範囲にすると、得られるメタクリル樹脂の分子量を制御できるため、良好な成形加工性と高い力学強度を持たせることができる。
【0038】
アニオン重合法に用いられる重合停止剤としては、アルコールや水などを挙げることができる。重合停止剤の使用量は特に限定されないが、重合反応の途中で重合開始剤の量より少ない量、具体的には、重合開始剤の量に対して、好ましくは1モル%〜50モル%、より好ましくは2モル%〜20モル%、さらに好ましくは5モル%〜10モル%である。
アニオン重合においては、得られるメタクリル樹脂の重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布を調節するために、重合反応の途中に重合開始剤を追加添加することができる。重合反応の途中に追加添加する重合開始剤の量は、重合開始時に添加した重合開始剤の量に対して、好ましくは1モル%〜50モル%、より好ましくは2モル%〜20モル%、さらに好ましくは5モル%〜10モル%である。
【0039】
メタクリル樹脂の製造に用いられる、各単量体、重合開始剤、連鎖移動剤は、それら全てを一括して反応槽に供給してもよいし、それらを別々に反応槽に供給してもよい。
【0040】
溶液重合法に用いられる溶媒は、単量体およびメタクリル樹脂を溶解でき、ラジカルやアニオンを失活させないものであれば特に制限されない。係る溶媒として、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素が好ましい。これらの溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。溶媒の使用量は、反応液の粘度と生産性との観点から適宜設定できる。溶媒の使用量は、例えば、重合反応原料100質量部に対して好ましくは100質量部以下、より好ましくは90質量部以下である。
【0041】
重合反応時の温度は、反応形態に応じて、または重合反応速度、重合反応液の粘度、副生物の生成抑制などの観点から、適宜設定することができる。ラジカル重合において、懸濁重合を行う場合、重合反応時の温度は、好ましくは50〜180℃、より好ましくは60〜140℃である。ラジカル重合において、塊状重合を行う場合、重合反応時の温度は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは110〜180℃である。
【0042】
メタクリル樹脂製造のための重合反応は、回分式反応または連続流通式反応で行うことができる。回分式反応では、例えば窒素雰囲気下などで重合反応原料(単量体、重合開始剤、連鎖移動剤などを含む混合液)を調製し、それをすべて反応器に仕込み、所定時間の反応を行って、反応物を取り出す。一方、連続流通式反応では、例えば窒素雰囲気下などで重合反応原料(単量体、重合開始剤、連鎖移動剤などを含む混合液)を調製し、それを反応器に一定流量で供給し、該供給量に対応する流量で反応器内の液を抜き出す。本発明においては生産性および安定性の観点から連続流通式が好ましい。連続流通式反応器として、栓流に近い状態にすることができる管型反応器および/または完全混合に近い状態にすることができる槽型反応器を用いることができる。また、1基の反応器で連続流通式の重合を行ってもよいし、2基以上の反応器を繋いで連続流通式の重合を行ってもよい。本発明においては少なくとも1基は連続流通式の槽型反応器を採用することが好ましい。重合反応時における槽型反応器内の液量は、槽型反応器の容積に対して好ましくは1/4〜3/4、より好ましくは1/3〜2/3である。反応器には通常、撹拌装置が取り付けられている。撹拌装置としては静的撹拌装置、動的撹拌装置を挙げることができる。動的撹拌装置としては、マックスブレンド式撹拌装置、中央に配した縦型回転軸の回りを回転する格子状の翼を有する撹拌装置、プロペラ式撹拌装置、スクリュー式撹拌装置などを挙げることができる。これらのうちでマックスブレンド式撹拌装置が均一混合性の点から好ましく用いられる。
【0043】
重合終了後、必要に応じて、未反応単量体等の揮発分を除去する。除去方法は特に制限されない。懸濁重合、溶液重合、乳化重合においては、重合反応終了後に、公知の操作によって、懸濁媒体、溶媒または乳化媒体を除去し、残された樹脂成分を必要に応じて洗浄、乾燥することができる。塊状重合法においては、未反応の単量体を除去し、残された樹脂成分を必要に応じて乾燥することができる。
懸濁媒体、溶媒、乳化媒体または未反応単量体などの除去のために、公知の脱揮法を採用することができる。脱揮法としては、平衡フラッシュ方式や断熱フラッシュ方式を挙げることができる。断熱フラッシュ方式による脱揮温度は、好ましくは200〜280℃、より好ましくは220〜260℃である。断熱フラッシュ方式で樹脂を加熱する時間は、好ましくは0.3〜5分、より好ましくは0.4〜3分、さらに好ましくは0.5〜2分である。このような温度範囲および加熱時間で脱揮させると、着色の少ないメタクリル樹脂を得やすい。除去した未反応単量体は、回収して、再び重合反応に使用することができる。回収された単量体のイエロインデックスは回収操作時などに加えられる熱によって高くなっていることがある。回収された単量体は、適切な方法で精製して、イエロインデックスを小さくすることが好ましい。
【0044】
本発明に用いられるメタクリル樹脂(A)を構成する複数種のメタクリル樹脂の混合物を得るために、公知の混練方法、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いた方法を採用することができる。混練時の温度は、使用するメタクリル樹脂の溶融温度に応じて適宜調節することができ、通常150℃〜300℃である。
【0045】
また、複数種のメタクリル樹脂の混合物を得るために、ある1種のメタクリル樹脂の存在下に、別の1種のメタクリル樹脂を得ることができる単量体を重合する方法を採用することができる。かかる重合は前述のラジカル重合法やアニオン重合法にて行うことができる。この方法は、混練による方法よりも、メタクリル樹脂に掛かる熱履歴が短くなるので、メタクリル樹脂の熱分解が抑制され、着色や異物の少ないフィルムが得られやすい。
【0046】
メタクリル樹脂(A)としての複数種のメタクリル樹脂の混合物は、メタクリル樹脂(a1)とメタクリル樹脂(a2)とを含有するものが好ましい。
【0047】
メタクリル樹脂(a1)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含有するものである。耐熱性の観点からメタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量は、メタクリル樹脂(a1)の質量を基準にして、好ましくは92質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0048】
メタクリル樹脂(a1)は、メタクリル酸メチル以外の単量体に由来する構造単位を含んでいても良い。メタクリル酸メチル以外の単量体としては、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸8−トリシクロ〔5.2.1.0
2,6〕デカニル、メタクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェニルなどのアクリル酸アリールエステル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル;アクリルアミド;メタクリルアミド;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;などの一分子中に重合性の炭素−炭素二重結合を一つだけ有するビニル系単量体を挙げることができる。
【0049】
メタクリル樹脂(a1)は、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が、好ましくは65%以上、より好ましくは70〜90%、さらに好ましくは72〜85%である。かかるシンジオタクティシティ(rr)が65%以上である。
【0050】
メタクリル樹脂(a1)の重量平均分子量Mw
a1は、好ましくは4万〜15万、より好ましくは4万〜12万、さらに好ましくは5万〜10万である。Mw
a1が4万以上であると耐衝撃性や靭性が向上する傾向がある。Mw
a1が15万以下であると成形加工性が向上する傾向がある。
【0051】
メタクリル樹脂(a1)は、Mw
a1と数平均分子量Mn
a1の比(Mw
a1/Mn
a1)が、好ましくは1.01〜3.0、より好ましくは1.05〜2.0、さらに好ましくは1.05〜1.5である。このような範囲内にあるMw
a1/Mn
a1を有するメタクリル樹脂(a1)を用いると、力学強度に優れた成形体を得易くなる。Mw
a1およびMn
a1は、メタクリル樹脂(a1)の製造の際に使用する重合開始剤の種類や量を調整することによって制御できる。Mw
a1およびMn
a1は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0052】
メタクリル樹脂(a1)のガラス転移温度は、好ましくは125℃以上、より好ましくは128℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。メタクリル樹脂(a1)のガラス転移温度の上限は好ましくは140℃である。ガラス転移温度は、分子量やシンジオタクティシティ(rr)などを調節することによって制御することができる。メタクリル樹脂(a1)のガラス転移温度が高くなるにしたがって、得られるメタクリル樹脂組成物のガラス転移温度が高くなり、該メタクリル樹脂組成物からなる成形体は熱収縮などの変形が起こり難い。
【0053】
メタクリル樹脂(a2)は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を含有するものである。メタクリル樹脂(a2)に含有するメタクリル酸エステルに由来する構造単位の量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。かかるメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルネニルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステルを挙げることができ、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0054】
メタクリル樹脂(a2)は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位のうち、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0055】
メタクリル樹脂(a2)は、メタクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含有してもよい。メタクリル酸エステル以外の単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェニルなどのアクリル酸アリールエステル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリルアミド;メタクリルアミド;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;などの一分子中に重合性の炭素−炭素二重結合を一つだけ有するビニル系単量体を挙げることができる。
【0056】
メタクリル樹脂(a2)は、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が、好ましくは45〜58%、より好ましくは49〜55%である。
【0057】
メタクリル樹脂(a2)の重量平均分子量Mw
a2は、好ましくは8万〜15万、より好ましくは8万〜14万、さらに好ましくは8万〜13万である。Mw
a2が8万以上であることで耐衝撃性や靭性が向上する傾向がある。Mw
a2が15万以下であることで成形加工性が向上する傾向がある。
【0058】
メタクリル樹脂(a2)は、Mw
a2と数平均分子量Mn
a2の比(Mw
a2/Mn
a2)が、好ましくは1.7〜2.6、より好ましくは1.7〜2.3、さらに好ましくは1.7〜2.0である。このような範囲内にあるMw
a2/Mn
a2を有するメタクリル樹脂(a2)を用いると、力学強度に優れた成形体を得易くなる。Mw
a2およびMn
a2は、メタクリル樹脂(a2)の製造の際に使用する重合開始剤の種類や量を調整することによって制御できる。Mw
a2およびMn
a2は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0059】
メタクリル樹脂(a2)は、ガラス転移温度が、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、最も好ましくは117℃以上である。メタクリル樹脂(a2)のガラス転移温度の上限は好ましくは125℃である。ガラス転移温度は、分子量やシンジオタクティシティ(rr)などを調節することによって制御できる。メタクリル樹脂(a2)のガラス転移温度がこの範囲にあると、耐熱性が高くなり、熱収縮などの変形が起き難い成形体が得られ易い。
【0060】
メタクリル樹脂(a1)およびメタクリル樹脂(a2)の製造方法に特に制限はない。メタクリル樹脂(a1)およびメタクリル樹脂(a2)の製造方法として、前述のラジカル重合法、アニオン重合法などを採用することができる。メタクリル樹脂(a1)の製造方法としては、高いシンジオタクティシティ(rr)と高いガラス転移温度になるという観点から、アニオン重合法もしくは低温での懸濁重合法が好ましい。
【0061】
メタクリル樹脂(a1)とメタクリル樹脂(a2)とから得られるメタクリル樹脂(A)を高いガラス転移温度および良好な成形加工性に両立させる観点から、メタクリル樹脂(a1)の含有量は、好ましくは40〜95%、より好ましくは40〜70質量%、さらに好ましくは45〜65質量%、最も好ましくは50〜60質量%であり、メタクリル樹脂(a2)の含有量は、好ましくは5〜60%、より好ましくは30〜60質量%、さらに好ましくは35〜55質量%、最も好ましくは40〜50質量%である。さらに、メタクリル樹脂(a1)/メタクリル樹脂(a2)の質量比は、好ましくは40/60〜95/5、より好ましくは40/60〜70/30、さらに好ましくは45/55〜65/35、最も好ましくは50/50〜60/40である。
【0062】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂(A)とブロック共重合体(B)を含有するものである。ブロック共重合体(B)を含有することによって、透明性が高く、広い温度範囲においてヘイズの変化が小さく、ガラス転移温度が高くかつ機械的強度が大きく、低分子化合物(紫外線吸収剤)のブリードアウトが抑えられたメタクリル樹脂組成物を得ることができる。
【0063】
本発明に用いられるブロック共重合体(B)は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)とアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)とを有する。ブロック共重合体(B)が有するメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)はひとつのみであってもよいし、ふたつ以上であってもよい。メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)がふたつ以上であるとき、それぞれのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を構成する構造単位の比率や分子量は相互に同じであっても異なってもよい。また、ブロック共重合体(B)が有するアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)はひとつのみであってもよいし、ふたつ以上であってもよい。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)がふたつ以上であるとき、それぞれのアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を構成する構造単位の比率や分子量は相互に同じであっても異なってもよい。
【0064】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を主たる構成単位とするものである。メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)におけるメタクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
【0065】
メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリルなどを挙げることができる。これらの中でも、透明性、耐熱性を向上させる観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。これらメタクリル酸エステルは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、本発明の目的および効果の妨げにならない限りにおいて、メタクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでもよい。メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)に含まれるメタクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位の割合は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0067】
メタクリル酸エステル以外の単量体としては、アクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどを挙げることができる。これらメタクリル酸エステル以外の単量体は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、本発明のメタクリル樹脂組成物の透明性を高める観点から、23℃、50%RHで測定した波長587.6nm(D線)での屈折率が、好ましくは1.485〜1.495である。
【0069】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量Mw
b1は、下限が、好ましくは5千、より好ましくは8千、さらに好ましくは1万2千、よりさらに好ましくは1万5千、最も好ましくは2万であり、 上限が、好ましくは15万、より好ましくは12万、さらに好ましくは10万である。なお、ブロック共重合体(B)にメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)が複数含まれる場合には、上記の重量平均分子量Mw
b1は、すべてのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)について各々の重量平均分子量を算出し、その数値を合計したものとして定義する。
【0070】
また、Mw
A/Mw
b1は、好ましくは0.5以上6以下、より好ましくは0.5以上3.5以下、さらに好ましくは0.6以上2.7以下、最も好ましくは0.7以上2.5以下である。Mw
A/Mw
b1が小さすぎるとメタクリル樹脂組成物から作製した成形品の耐衝撃性が低下する傾向がある。一方、Mw
A/Mw
b1が大きすぎるとメタクリル樹脂組成物から作製した成形品の表面平滑性およびヘイズの温度依存性が悪化する傾向がある。Mw
A/Mw
b1が上記範囲にある場合は、温度変化によらず低いヘイズを維持し、広い温度範囲においてヘイズの変化が小さくなる。これは、ブロック共重合体(B)がメタクリル樹脂(A)中に小さな粒径で均一に分散するからである。
【0071】
ブロック共重合体(B)におけるメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の割合は、透明性、柔軟性、成形加工性、表面平滑性の観点から、好ましくは10質量%以上80質量%以下、より好ましくは20質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは40質量%以上60質量%以下である。ブロック共重合体(B)におけるメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の割合が上記範囲内にあると、本発明のメタクリル樹脂組成物またはそれからなる成形品の透明性、可撓性、耐屈曲性、耐衝撃性、柔軟性などに優れる。ブロック共重合体(B)にメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)が複数含まれる場合には、上記の割合は、すべてのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の合計質量に基づいて算出する。
【0072】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、アクリル酸エステルに由来する構造単位を主たる構成単位とするものである。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)におけるアクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどを挙げることができる。これらアクリル酸エステルは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、本発明の目的および効果の妨げにならない限りにおいて、アクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでもよい。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)に含まれるアクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位の量は、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。アクリル酸エステル以外の単量体としては、メタクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどを挙げることができる。これらアクリル酸エステル以外の単量体は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、本発明のメタクリル樹脂組成物の透明性を向上させる観点などから、アクリル酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸芳香族炭化水素エステルとからなることが好ましい。
アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシルなどを挙げることができる。これらのうち、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0075】
(メタ)アクリル酸芳香族炭化水素エステルはアクリル酸芳香族炭化水素エステルまたはメタクリル酸芳香族炭化水素エステルを意味する。(メタ)アクリル酸芳香族炭化水素エステルとしては、例えば、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸スチリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸スチリルなどを挙げることができる。中でも、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸ベンジルが好ましい。
【0076】
アクリル酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸芳香族炭化水素エステルとからなるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を好ましくは50〜90質量%、より好ましくは60〜80質量%含有し、且つ(メタ)アクリル酸芳香族エステルに由来する構造単位を好ましくは50〜10質量%、より好ましくは40〜20質量%を含有する。
【0077】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、メタクリル樹脂組成物の透明性を高める観点から、23℃50%RHで測定した波長587.6nm(D線)での屈折率が、好ましくは1.485〜1.495である。
【0078】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量Mw
b2は、下限が、好ましくは5千、より好ましくは1万5千、さらに好ましくは2万、よりさらに好ましくは3万、最も好ましくは4万であり、上限が、好ましくは12万、より好ましくは11万、さらに好ましくは10万である。Mw
b2が小さいと、メタクリル樹脂組成物から作製した成形品の耐衝撃性が低下する傾向がある。一方、Mw
b2が大きいと、メタクリル樹脂組成物から作製した成形品の表面平滑性が低下する傾向がある。なお、ブロック共重合体(B)にアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)が複数含まれる場合には、上記の重量平均分子量Mw
b2は、すべてのアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)について各々の重量平均分子量を算出し、その数値を合計したものとして定義する。
【0079】
なお、Mw
b1およびMw
b2は、ブロック共重合体(B)の製造の各段階、具体的にはメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を製造するための重合の終了時およびアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を製造するための重合の終了時に重量平均分子量をそれぞれ測定し、当該重合開始前の重量平均分子量の測定値と当該重合終了時の重量平均分子量の測定値との差を当該重合で得られた重合体ブロックの重量平均分子量と見做して求めた値である。各重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算値である。
【0080】
ブロック共重合体(B)におけるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の割合は、透明性、柔軟性、成形加工性、表面平滑性の観点から、好ましくは20質量%以上90質量%以下、より好ましくは30質量%以上80質量%以下である。ブロック共重合体(B)におけるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の割合が上記範囲内にあると、本発明のメタクリル樹脂組成物またはそれからなる成形品の耐衝撃性、柔軟性などに優れる。ブロック共重合体(B)にアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)が複数含まれる場合には、上記の割合は、すべてのアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の合計質量に基づいて算出する。
【0081】
ブロック共重合体(B)は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)とアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)との結合形態によって特に限定されない。例えば、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の一末端にアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の一末端が繋がったもの((b1)−(b2)構造のジブロック共重合体);メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の両末端のそれぞれにアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の一末端が繋がったもの((b2)−(b1)−(b2)構造のトリブロック共重合体);アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の両末端のそれぞれにメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の一末端が繋がったもの((b1)−(b2)−(b1)構造のトリブロック共重合体)などのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)とアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)とが直列に繋がった構造のブロック共重合体を挙げることができる。
【0082】
また、複数の(b1)−(b2)構造の腕ブロック共重合体の一末端が繋がって放射状構造を成したブロック共重合体(〔(b1)−(b2)−〕
mX構造星型ブロック共重合体);複数の(b2)−(b1)構造の腕ブロック共重合体の一末端が繋がって放射状構造を成したブロック共重合体(〔(b2)−(b1)−〕
mX構造星型ブロック共重合体);複数の(b1)−(b2)−(b1)構造の腕ブロック共重合体の一末端が繋がって放射状構造を成したブロック共重合体(〔(b1)−(b2)−(b1)−〕
mX構造星型ブロック共重合体);複数の(b2)−(b1)−(b2)構造の腕ブロック共重合体の一末端が繋がって放射状構造を成したブロック共重合体(〔(b2)−(b1)−(b2)−〕
mX構造星型ブロック共重合体)などの星型ブロック共重合体や、分岐構造を有するブロック共重合体などを挙げることができる。なお、ここでXはカップリング剤残基を表す。これらのうち、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、星型ブロック共重合体が好ましく、(b1)−(b2)構造のジブロック共重合体、(b1)−(b2)−(b1)構造のトリブロック共重合体、〔(b1)−(b2)−〕
mX構造の星形ブロック共重合体、〔(b1)−(b2)−(b1)−〕
mX構造の星形ブロック共重合体がより好ましい。mは、それぞれ独立に、腕ブロック共重合体の数を示す。
【0083】
また、ブロック共重合体(B)は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)およびアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)以外の重合体ブロック(b3)を有するものであってもよい。
重合体ブロック(b3)を構成する主たる構造単位はメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位である。かかる単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;スチレン、α−メチルスチレン、p-メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、アクリルアミド、メタクリルアミド、ε−カプロラクトン、バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0084】
かかるブロック共重合体(B)における、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)および重合体ブロック(b3)の結合形態は特に限定されない。メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)および重合体ブロック(b3)からなるブロック共重合体(B)の結合形態としては、例えば、(b1)−(b2)−(b1)−(b3)構造のブロック共重合体、(b3)−(b1)−(b2)−(b1)−(b3)構造のブロック共重合体などを挙げることができる。ブロック共重合体(B)中に重合体ブロック(b3)が複数ある場合、それぞれの重合体ブロック(b3)を構成する構造単位の組成比や分子量は、相互に同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0085】
ブロック共重合体(B)は、必要に応じて、分子鎖中または分子鎖末端に水酸基、カルボキシル基、酸無水物、アミノ基などの官能基を有していてもよい。
【0086】
ブロック共重合体(B)は、重量平均分子量Mw
Bが、好ましくは3万2千以上30万以下、より好ましくは4万5千以上23万以下である。Mw
Bが小さいと、溶融押出成形において十分な溶融張力を保持できず、良好な板状成形体が得られにくく、また得られた板状成形体の破断強度などの力学物性が低下する傾向がある。一方、Mw
Bが大きいと、溶融樹脂の粘度が高くなり、溶融押出成形で得られる板状成形体の表面に微細なシボ調の凹凸や未溶融物(高分子量体)に起因するブツが発生し、良好な板状成形体が得られにくい傾向がある。
【0087】
また、ブロック共重合体(B)は、Mw
Bと数平均分子量Mn
Bとの比(Mw
B/Mn
B)が、好ましくは1.0以上2.0以下、より好ましくは1.0以上1.6以下である。このような範囲内にMw
B/Mn
Bがあることにより、本発明のメタクリル樹脂組成物からなる成形品におけるブツの発生原因となる未溶融物の含有量を極めて少量とすることができる。なお、Mw
BおよびMn
Bは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算の分子量である。
【0088】
ブロック共重合体(B)は、屈折率が、好ましくは1.485〜1.495、より好ましくは1.487〜1.493である。屈折率がこの範囲内であると、本発明のメタクリル樹脂組成物の透明性が高くなる。なお、本明細書で「屈折率」とは、後述する実施例のとおり、波長587.6nm(D線)で測定した値を意味する。
【0089】
ブロック共重合体(B)の製造方法は、特に限定されず、公知の手法に準じた方法を採用することができる。例えば、各重合体ブロックを構成する単量体をリビング重合する方法が一般に使用される。このようなリビング重合の手法としては、例えば、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩などの鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法、有機希土類金属錯体を重合開始剤として用い重合する方法、α−ハロゲン化エステル化合物を開始剤として用い銅化合物の存在下ラジカル重合する方法などを挙げることができる。また、多価ラジカル重合開始剤や多価ラジカル連鎖移動剤を用いて、各ブロックを構成するモノマーを重合させ、本発明に用いられるブロック共重合体(B)を含有する混合物として製造する方法なども挙げられる。これらの方法のうち、特に、ブロック共重合体(B)が高純度で得られ、また分子量や組成比の制御が容易であり、かつ経済的であることから、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法が好ましい。
【0090】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂(A)に対するブロック共重合体(B)の質量比(B/A)が、好ましくは1/99〜90/10、より好ましは5/95〜85/15、さらに好ましくは5/95〜25/75である。メタクリル樹脂(A)に対するブロック共重合体(B)の質量比が大きいと、Tダイを用いた溶融押出成形により得られる板状成形体の表面に微細なスジ状の凹凸が発生し、表面平滑性の良好な板状成形体が得られにくい傾向がある。逆に、メタクリル樹脂(A)に対するブロック共重合体(B)の質量比が小さいと、メタクリル樹脂組成物およびそれからなる板状成形体の引張弾性率が増加し、柔軟性が低下する傾向がある。
【0091】
本発明の好ましい実施形態に係るメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂(A)とブロック共重合体(B)とポリカーボネート樹脂とを含有するものである。ポリカーボネート樹脂を含有することによって、位相差の調整が容易なメタクリル樹脂組成物を得ることができる。ポリカーボネート樹脂の量は、メタクリル樹脂(A)とメタクリル樹脂ブロック共重合体(B)の合計量100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜7質量部、さらに好ましくは3〜6質量部である。
【0092】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、メタクリル樹脂との相溶性、並びに得られるフィルムの透明性および面内均一性の観点から、300℃、1.2KgでのMVR値が、好ましくは130〜250cm
3/10分、より好ましくは150〜230cm
3/10分、さらに好ましくは180〜220cm
3/10分である。MVR値はJIS K7210に準拠して、300℃、1.2kg荷重、10分間の条件で、測定される値である。
【0093】
また、本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量Mw
pが、好ましくは15000〜28000、より好ましくは18000〜27000、さらに好ましくは20000〜24000である。なお、ポリカーボネート樹脂のMVR値や重量平均分子量の調節は末端停止剤や分岐剤の量を調整することによって行うことができる。なお、Mw
pは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算の分子量である。
【0094】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、好ましくは130℃以上、より好ましくは135℃以上、さらに好ましくは140℃以上である。該ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度の上限は、好ましくは180℃である。
【0095】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、その製造方法によって特に限定されない。例えば、ホスゲン法(界面重合法)、溶融重合法(エステル交換法)などを挙げることができる。また、本発明に好ましく用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂は、溶融重合法で製造したポリカーボネート樹脂に末端ヒドロキシ基量を調整するための後処理を施したものであってもよい。
【0096】
ポリカーボネート樹脂を製造するための原料である多官能ヒドロキシ化合物としては、置換基を有していてもよい4,4'−ジヒドロキシビフェニル類;置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類;置換基を有していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル類;置換基を有していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド類;置換基を有していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド類;置換基を有していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン類;置換基を有していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン類;置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類;置換基を有していてもよいジヒドロキシ−p−ターフェニル類;置換基を有していてもよいジヒドロキシ−p−クォーターフェニル類;置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシフェニル)ピラジン類;置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシフェニル)メンタン類;置換基を有していてもよいビス〔2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル〕ベンゼン類;置換基を有していてもよいジヒドロキシナフタレン類;置換基を有していてもよいジヒドロキシベンゼン類;置換基を有していてもよいポリシロキサン類;置換基を有していてもよいジヒドロパーフルオロアルカン類などを挙げることができる。
【0097】
これらの多官能ヒドロキシ化合物の中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4'−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、α,ω−ビス〔3−(2−ヒドロキシフェニル)プロピル〕ポリジメチルシロキサン、レゾルシン、2,7−ジヒドロキシナフタレンが好ましく、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0098】
炭酸エステル形成性化合物としては、ホスゲンなどの各種ジハロゲン化カルボニルや、クロロホーメートなどのハロホーメート、ビスアリールカーボネートなどの炭酸エステル化合物を挙げることができる。この炭酸エステル形成性化合物の量は、多官能ヒドロキシ化合物との反応における化学量論比を考慮して適宜調整すればよい。
【0099】
重合反応は、通常、酸結合剤の存在下に溶媒中で行われる。酸結合剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、ジメチルアニリンなどの三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリブチルベンジルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイドなどの四級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイドなどの四級ホスホニウム塩などを挙げることができる。さらに、所望により、この反応系に亜硫酸ナトリウムやハイドロサルファイドなどの酸化防止剤を少量添加してもよい。酸結合剤の量は、反応における化学量論比を考慮して適宜調整すればよい。具体的には、原料の多官能ヒドロキシ化合物の水酸基1モルに対して、酸結合剤は、好ましくは1グラム当量もしくはそれより過剰な量、好ましくは1〜5グラム当量を使用する。
【0100】
また、反応には、公知の末端停止剤や分岐剤を用いることができる。末端停止剤としては、p−tert−ブチル−フェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−パーフルオロノニルフェノール、p−(パーフルオロノニルフェニル)フェノール、p−(パーフルオロへキシルフェニル)フェノール、p−tert−パーフルオロブチルフェノール、1−(P−ヒドロキシベンジル)パーフルオロデカン、p−〔2−(1H,1H−パーフルオロトリドデシルオキシ)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル〕フェノール、3,5−ビス(パーフルオロヘキシルオキシカルボニル)フェノール、p−ヒドロキシ安息香酸パーフルオロドデシル、p−(1H,1H−パーフルオロオクチルオキシ)フェノール、2H,2H,9H−パーフルオロノナン酸、1,1,1,3,3,3−テトラフロロ−2−プロパノールなどを挙げることができる。
【0101】
分岐剤としては、フロログリシン、ピロガロール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプテン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−3−ヘプテン、2,4−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス〔4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル〕プロパン、2,4−ビス〔2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル〕フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、テトラキス〔4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ〕メタン、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、シアヌル酸、3,3−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−オキソ−2,3−ジヒドロインドール、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロモイサチンなどを挙げることができる。
【0102】
ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート単位以外に、ポリエステル構造、ポリウレタン構造、ポリエーテル構造もしくはポリシロキサン構造などを有する単位を含有するものであってもよい。
【0103】
本発明の好ましい実施形態に係るメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂(A)とブロック共重合体(B)とフェノキシ樹脂とを含有するものである。フェノキシ樹脂を含有することによって、位相差の調整が容易なメタクリル樹脂組成物を得ることができる。フェノキシ樹脂の量は、メタクリル樹脂(A)とメタクリル樹脂ブロック共重合体(B)の合計量100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜7質量部、さらに好ましくは3〜6質量部である。
【0104】
フェノキシ樹脂は熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂である。フェノキシ樹脂は、例えば、式(1)で表される構造単位を1種以上含み、かつ式(1)で表される構造単位を50質量%以上含む。
式(1)中、Xは少なくとも一つのベンゼン環を含む2価基であり、Rは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である。式(1)で表される構造単位は、ランダム、交互、若しくはブロックのいずれの形態で繋がっていてもよい。
フェノキシ樹脂は、式(1)で表される構造単位を10〜1000個含むことが好ましく、より好ましくは15〜500個、さらに好ましくは30〜300個含むことが好ましい。
【0105】
フェノキシ樹脂は、末端にエポキシ基を有しないものが好ましい。末端にエポキシ基を有しないフェノキシ樹脂を用いるとゲル欠点が少ないフィルムを得やすい。
【0106】
フェノキシ樹脂の数平均分子量は、好ましくは3000〜2000000、より好ましくは5000〜100000、最も好ましくは10000〜50000である。数平均分子量がこの範囲にあることで、耐熱性が高く、強度が高いメタクリル樹脂組成物を得ることができる。
【0107】
フェノキシ樹脂のガラス転移温度は、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、95℃以上が最も好ましい。フェノキシ樹脂のガラス転移温度が低いと、得られるメタクリル樹脂組成物の耐熱性が低くなってしまう。フェノキシ樹脂のガラス転移温度の上限は、特に規定しないが、一般的には、150℃である。フェノキシ樹脂のガラス転移温度が高すぎると、得られるメタクリル樹脂組成物よりなる成形体が脆くなってしまう。
【0108】
フェノキシ樹脂は、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、あるいは2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得ることができる。該反応は溶液中あるいは無溶媒下に行うことができる。
フェノキシ樹脂の製造に用いる2価フェノール化合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシン、4,4−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、1、3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル)ベンゼン、1、4−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1、1−3、3、3−ヘキサフルオロプロパン、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどを挙げることができる。これらの中でも物性、コスト面から特に4,4−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、又は9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが好ましい。
【0109】
フェノキシ樹脂の製造に用いる2官能エポキシ樹脂類としては、上記の2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応で得られるエポキシオリゴマー、例えば、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールSタイプエポキシ樹脂、ビスフェノールAタイプエポキシ樹脂、ビスフェノールFタイプエポキシ樹脂、メチルハイドロキノンジグリシジルエーテル、クロロハイドロキノンジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルオキシドジグリシジルエーテル、2,6−ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ジクロロビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAタイプエポキシ樹脂、9,9’−ビス(4)−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらの中でも、物性、コスト面から特にビスフェノールAタイプエポキシ樹脂、ビスフェノールSタイプエポキシ樹脂、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールFタイプエポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAタイプエポキシ樹脂、又は9,9’−ビス(4)−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルが好ましい。
【0110】
フェノキシ樹脂の製造において用いることができる反応溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトフェノン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホランなどを好適に用いることができる。
フェノキシ樹脂の製造に用いることのできる反応触媒としては、従来公知の重合触媒として、アルカリ金属水酸化物、第三アミン化合物、第四アンモニウム化合物、第三ホスフィン化合物、及び第四ホスホニウム化合物が好適に使用される。
【0111】
本発明に好ましく用いられるフェノキシ樹脂は、式(1)中のXが、式(2)〜(8)に示す化合物に由来する2価基であることが好ましい。
なお、2価基を構成する2つの結合の手の位置は化学的に可能な位置であれば特に限定されない。式(1)中のXは、式(2)〜(8)に示す化合物中のベンゼン環上から2つの水素原子が引き抜かれてできる結合の手を有する二価基であることが好ましい。特に、式(3)〜(8)に示す化合物中のいずれか二つのベンゼン環上からそれぞれ1つの水素原子が引き抜かれてできる結合の手を有する二価基であることが好ましい。
【0112】
式(2)中、R
4は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または炭素数2〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、pは、1〜4のいずれかの整数である。
【0113】
式(3)中、R
1は、単結合、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、または炭素数3〜20のシクロアルキリデン基である。
式(3)および(4)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または炭素数2〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、nおよびmは、それぞれ独立に、1〜4のいずれかの整数である。
【0114】
式(5)および(6)中、R
6及びR
7は、それぞれ独立に、単結合、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、または炭素数3〜20のシクロアルキリデン基である。
式(5)、(6)、(7)および(8)中、R
5及びR
8は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または炭素数2〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、q及びrは、それぞれ独立に、1〜4のいずれかの整数である。
【0115】
式(1)中、Xは、複数のベンゼン環が脂環またはヘテロ環と縮合してなる化合物に由来する2価基であっても良い。例えば、フルオレン構造やカルバゾール構造を有する化合物に由来する2価基を挙げることができる。
【0116】
上記式(2)〜(8)で表される化合物に由来する2価基の例としては、以下のようなものを挙げることができる。なお、この例示は、本願発明におけるXがこれらに限定されることを意味しない。
【0117】
式(1)で表される構造単位は、好ましくは式(9)若しくは(10)で表される構造単位、より好ましくは式(11)で表される構造単位である。好ましい態様のフェノキシ樹脂は当該構造単位を10〜1000個含むことが好ましい。
式(9)中、R
9は、単結合、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、または炭素数3〜20のシクロアルキリデン基である。
式(9)または(10)中、R
10は、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である。
【0118】
これらフェノキシ樹脂としては、新日鉄住金化学のYP−50やYP−50S、三菱化学のjERシリーズ、InChem社のフェノキ樹脂であるPKFEやPKHJ等を用いることができる。
【0119】
本発明のメタクリル樹脂組成物には、メタクリル樹脂(A)、ブロック共重合体(B)およびポリカーボネート樹脂若しくはフェノキシ樹脂以外に、他の重合体が含有されていてもよい。
【0120】
他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂;メチルメタクリレート系重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、シリコーンゴム;SEPS、SEBS、SISなどのスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDMなどのオレフィン系ゴムなどを挙げることができる。本発明のメタクリル樹脂組成物に含有し得る他の重合体の量は好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは0質量%である。
【0121】
本発明に係るメタクリル樹脂組成物には、フィラー、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、蛍光体などの通常の樹脂に配合されることがある添加剤が含まれていてもよい。これらは、メタクリル樹脂(A)またはブロック共重合体(B)を製造する際の重合反応液のいずれか一方または両方に添加してもよいし、重合反応により製造されたメタクリル樹脂(A)またはブロック共重合体(B)のいずれか一方または両方に添加してもよい。
【0122】
フィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。本発明のメタクリル樹脂組成物に含有し得るフィラーの量は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。
【0123】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などを挙げることができる。これらの酸化防止剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。
リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤の使用量:ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量は、質量比で、1:5〜2:1が好ましく、1:2〜1:1がより好ましい。
【0124】
リン系酸化防止剤としては、2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(ADEKA社製;商品名:アデカスタブHP−10)、トリス(2,4−ジt−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)、3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサー3,9−ジホスファスピロ〔5.5〕ウンデカン(ADEKA社製;商品名:アデカスタブPEP−36)などが好ましい。
【0125】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANO01010)、オクタデシル−3−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANO01076)などが好ましい。
【0126】
熱劣化防止剤は、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。
該熱劣化防止剤としては、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、2,4−ジt−アミル−6−(3’,5’−ジt−アミル−2’−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)などが好ましい。
【0127】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物である。紫外線吸収剤は、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる化合物である。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などを挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、または波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値ε
maxが1200dm
3・mol
-1cm
-1以下である紫外線吸収剤が好ましい。
【0128】
ベンゾトリアゾール類は紫外線被照による着色などの光学特性低下を抑制する効果が高いので、本発明のメタクリル樹脂組成物をかかる特性が要求される用途に適用する場合に用いる紫外線吸収剤として好ましい。ベンゾトリアゾール類としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール〕(ADEKA社製;LA−31)、2−(5−オクチルチオ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−tert−ブチル−4−メチルフェノールなどが好ましい。
【0129】
また、波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値ε
maxが1200dm
3・mol
-1cm
-1以下である紫外線吸収剤は、得られる成形体の黄色味を抑制できる。このような紫外線吸収剤としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;商品名サンデユボアVSU)などを挙げることができる。
これら紫外線吸収剤の中、紫外線被照による樹脂劣化が抑えられるという観点からベンゾトリアゾール類が好ましく用いられる。
【0130】
また、波長380nm付近の波長を効率的に吸収したい場合は、トリアジン類の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。このような紫外線吸収剤としては、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシ−3−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(ADEKA社製;LA−F70)や、その類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;CGL777MPA−DやTINUVIN460)、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジンなどを挙げることができる。
【0131】
なお、紫外線吸収剤のモル吸光係数の最大値ε
maxは、次のようにして測定する。シクロヘキサン1Lに紫外線吸収剤10.00mgを添加し、目視による観察で未溶解物がないように溶解させる。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに注入し、日立製作所社製U−3410型分光光度計を用いて、波長380〜450nmでの吸光度を測定する。紫外線吸収剤の分子量(M
UV)と、測定された吸光度の最大値(A
max)とから次式により計算し、モル吸光係数の最大値ε
maxを算出する。
ε
max=〔A
max/(10×10
-3)〕×M
UV
【0132】
さらに380nm〜400nmの波長の光を特に効果的に吸収したい場合は、WO2011/089794A1、WO2012/124395A1、特開2012−012476号公報、特開2013−023461号公報、特開2013−112790号公報、特開2013−194037号公報、特開2014−62228号公報、特開2014−88542号公報、特開2014−88543号公報等に開示される複素環構造の配位子を有する金属錯体(例えば、式(A)で表される構造の化合物など)を紫外線吸収剤として用いることが好ましい。
【0133】
【化1】
〔式(A)中、Mは金属原子である。
Y
1、Y
2、Y
3およびY
4はそれぞれ独立に炭素原子以外の二価基(酸素原子、硫黄原子、NH、NR
5など)である。R
5はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロアラルキル基、アラルキル基などの置換基である。該置換基は、該置換基にさらに置換基を有してもよい。
Z
1およびZ
2はそれぞれ独立に三価基(窒素原子、CH、CR
6など)である。R
6はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロアラルキル基、アラルキル基などの置換基である。該置換基は、該置換基にさらに置換基を有してもよい。
R
1、R
2、R
3およびR
4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシル基、ハロゲノ基、アルキルスルホニル基、モノホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基、ピペラジノスルホニル基などの置換基である。該置換基は、該置換基にさらに置換基を有してもよい。a、b、cおよびdはそれぞれR
1、R
2、R
3およびR
4の数を示し且つ1〜4のいずれかの整数である。〕
【0134】
当該複素環構造の配位子としては、2,2’−イミノビスベンゾチアゾール、2−(2−ベンゾチアゾリルアミノ)ベンゾオキサゾール、2−(2−ベンゾチアゾリルアミノ)ベンゾイミダゾール、(2−ベンゾチアゾリル)(2−ベンゾイミダゾリル)メタン、ビス(2−ベンゾオキサゾリル)メタン、ビス(2−ベンゾチアゾリル)メタン、ビス[2−(N−置換)ベンゾイミダゾリル]メタン等およびそれらの誘導体が挙げられる。このような金属錯体の中心金属としては、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛が好ましく用いられる。また、これら金属錯体を紫外線吸収剤として用いるために、低分子化合物や重合体などの媒体に金属錯体を分散させることが好ましい。該金属錯体の添加量は、本発明のフィルム100質量部に対して、好ましくは0.01質量部〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部である。前記金属錯体は380nm〜400nmの波長におけるモル吸光係数が大きいので、十分な紫外線吸収効果を得るために添加する量が少なくて済む。添加量が少なくなればブリードアウト等による樹脂フィルム外観の悪化を抑制することができる。また、前記金属錯体は耐熱性が高いので、成形加工時の劣化や分解が少ない。さらに前記金属錯体は耐光性が高いので、紫外線吸収性能を長期間保持することができる。
【0135】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類を挙げることができる。
【0136】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油などを挙げることができる。
【0137】
離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルなどを挙げることができる。本発明においては、離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコール類の使用量:グリセリン脂肪酸モノエステルの使用量は、質量比で、2.5:1〜3.5:1が好ましく、2.8:1〜3.2:1がより好ましい。
【0138】
高分子加工助剤としては、通常、乳化重合法によって製造できる、0.05〜0.5μmの粒子径を有する重合体粒子を用いる。該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましいものとして挙げられる。高分子加工助剤は、極限粘度が3〜6dl/gであることが好ましい。極限粘度が小さすぎると成形性の改善効果が低い傾向がある。極限粘度が大きすぎるとメタクリル樹脂組成物の成形加工性の低下を招く傾向がある。具体的には、三菱レイヨン社製メタブレン−Pシリーズやロームアンドハース社製パラロイドシリーズを挙げることができる。
【0139】
有機色素としては、紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。
【0140】
光拡散剤や艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどを挙げることができる。
【0141】
蛍光体としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などを挙げることができる。
【0142】
本発明のメタクリル樹脂組成物に含有し得る、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、および蛍光体の合計量は、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。
【0143】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、公知の方法によって製造することができる。本発明のメタクリル樹脂組成物は、例えば、メタクリル樹脂(A)およびブロック共重合体(B)と他の重合体などとを溶融混練することによって、メタクリル樹脂組成物を製造することができる。溶融混練は、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができる。混練時の温度は、メタクリル樹脂(A)、ブロック共重合体(B)および他の重合体の軟化温度に応じて適宜設定することができ、好ましくは150℃〜300℃である。
【0144】
メタクリル樹脂組成物は、ブロック共重合体(B)の存在下にメタクリル樹脂(A)の原料である単量体を重合することによっても製造することができる。かかる重合は、メタクリル樹脂(A)の製造のための重合方法と同様にして行うことができる。ブロック共重合体(B)の存在下にメタクリル樹脂(A)の原料である単量体を重合することによる製造方法は、メタクリル樹脂(A)とブロック共重合体(B)を溶融混練することによって製造する方法に比べて、メタクリル樹脂に掛かる熱履歴が短くなるので、メタクリル樹脂の熱分解が抑制され、着色や異物の少ない成形体が得られやすい。
【0145】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、重量平均分子量Mw
cが、好ましくは3万2千〜30万、より好ましくは4万5千〜23万、さらに好ましくは6万〜20万である。本発明のメタクリル樹脂組成物は、Mw
cと数平均分子量Mn
cとの比Mw
c/Mn
cが、好ましくは1.2〜2.5、より好ましくは1.3〜2.0である。Mw
cやMw
c/Mn
cがこの範囲にあると、メタクリル樹脂組成物の成形加工性が良好となり、耐衝撃性や靭性に優れた成形体を得易くなる。なお、Mw
cおよびMn
cは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算の分子量である。
【0146】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、230℃および3.8kg荷重の条件で測定して決定されるメルトフローレートが、好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは0.2〜30g/10分、さらに好ましくは0.5〜20g/10分、最も好ましくは1.0〜10g/10分である。
【0147】
また、本発明のメタクリル樹脂組成物は、ガラス転移温度が、好ましくは120℃以上、より好ましくは123℃以上、さらに好ましくは124℃以上である。メタクリル樹脂組成物のガラス転移温度の上限は特に制限はないが、好ましくは130℃である。
【0148】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、保存、運搬、または成形時の利便性を高めるために、ペレットなどの形態にすることができる。
【0149】
本発明の成形体は、本発明のメタクリル樹脂組成物からなる。本発明の成形体の製造法は特に限定されない。例えば、Tダイ法(ラミネート法、共押出法など)、インフレーション法(共押出法など)、圧縮成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、真空成形法、射出成形法(インサート法、二色法、プレス法、コアバック法、サンドイッチ法など)などの溶融成形法ならびに溶液キャスト法などを挙げることができる。これらのうち、生産性の高さ、コストなどの点から、Tダイ法、インフレーション法または射出成形法が好ましい。
【0150】
本発明の成形体の用途としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明部品;ペンダント、ミラーなどのインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機用ディスプレイカバーなどの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;ディスプレイ装置のフロントライト用導光板およびフィルム、バックライト用導光板及びフィルム、液晶保護板、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板、反射材などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスクなどを挙げることができる。
【0151】
本発明の成形体は、透明性が高く、広い温度範囲においてヘイズの変化が小さく、ガラス転移温度が高く、厚さ方向の位相差が小さく、熱収縮率が小さく、強度が大きく且つ成形加工性に優れる。本発明の成形体は、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、映像・光記録・光通信・情報機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ、各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板の保護フィルム、光スイッチ、光コネクター、液晶ディスプレイ、液晶ディスプレイ用導光フィルム・シート、フラットパネルディスプレイ、フラットパネルディスプレイ用導光フィルム・シート、プラズマディスプレイ、プラズマディスプレイ用導光フィルム・シート、電子ペーパー用導光フィルム・シート、位相差フィルム・シート、偏光フィルム・シート、偏光板保護フィルム・シート、偏光子保護フィルム・シート、波長板、光拡散フィルム・シート、プリズムフィルム・シート、反射フィルム・シート、反射防止フィルム・シート、視野角拡大フィルム・シート、防眩フィルム・シート、輝度向上フィルム・シート、液晶やエレクトロルミネッセンス用途の表示素子基板、タッチパネル、タッチパネル用導光フィルム・シート、各種前面板と各種モジュール間のスペーサーなど、各種の光学用途へ特に好適に適用可能である。さらに本発明の成形体は、例えば、携帯電話、デジタル情報端末、ポケットベル、ナビゲーション、車載用液晶ディスプレイ、液晶モニター、調光パネル、OA機器用ディスプレイ、AV機器用ディスプレイ等の各種液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子あるいはタッチパネルなどに用いることができる。また、耐候性、柔軟性などに優れている点から、本発明の成形体は、例えば、建築用内・外装用部材、カーテンウォール、屋根用部材、屋根材、窓用部材、雨どい、エクステリア類、壁材、床材、造作材、道路建設用部材、再帰反射フィルム・シート、農業用フィルム・シート、照明カバー、看板、透光性遮音壁など、公知の建材用途へも特に好適に適用可能である。
【0152】
本発明のフィルムは、本発明のメタクリル樹脂組成物からなる。本発明のフィルムは、厚さ方向の位相差を小さくするという観点から、ポリカーボネート樹脂を、好ましくは1〜9質量%、より好ましくは2〜7質量%、さらに好ましくは3〜6質量%含む本発明のメタクリル樹脂組成物からなる。
本発明のフィルムは、溶液キャスト法、溶融流延法、押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法などによって製造することができる。これらのうち、透明性に優れ、改善された靭性を持ち、取扱い性に優れ、靭性と表面硬度および剛性とのバランスに優れたフィルムを得ることができるという観点から、押出成形法が好ましい。押出機から吐出されるメタクリル樹脂組成物の温度は好ましくは160〜270℃、より好ましくは220〜260℃に設定する。
【0153】
押出成形法のうち、良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢、低ヘイズのフィルムが得られるという観点から、メタクリル樹脂組成物を溶融状態でTダイから押出し、次いでそれを二つ以上の鏡面ロールまたは鏡面ベルトで挟持して成形することを含む方法が好ましい。鏡面ロールまたは鏡面ベルトは金属製であることが好ましい。一対の鏡面ロールまたは鏡面ベルトの間の線圧は好ましくは10N/mm以上、より好ましくは30N/mm以上である。
【0154】
また、鏡面ロールまたは鏡面ベルトの表面温度は共に130℃以下であることが好ましい。また、一対の鏡面ロール若しくは鏡面ベルトは、少なくとも一方の表面温度が60℃以上であることが好ましい。このような表面温度に設定すると、押出機から吐出されるメタクリル樹脂組成物を自然放冷よりも速い速度で冷却することができ、表面平滑性に優れ且つヘイズの低いフィルムを製造し易い。押出成形で得られる未延伸フィルムの厚さは、10〜300μmであることが好ましい。フィルムのヘイズは、厚さ100μmにおいて、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下である。
【0155】
本発明のフィルムは、延伸処理が施されたものであってもよい。延伸処理が施されたフィルムは、高い機械的強度を有し、且つひび割れし難い。延伸処理の方法は、特に限定されず、一軸延伸、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チュブラー延伸法などを挙げることができる。延伸時の温度は、均一に延伸でき、高い強度のフィルムが得られるという観点から、100〜200℃が好ましく、120℃〜160℃がより好ましい。延伸は、長さ基準で、通常、100〜5000%/分で行われる。延伸の後、熱固定を行うことによって、熱収縮の少ないフィルムを得ることができる。
【0156】
本発明のフィルムは、その厚さによって特に制限されないが、光学フィルムとして用いる場合の厚さは、好ましくは1〜300μm、より好ましくは10〜50μm、さらに好ましくは15〜40μmである。
【0157】
本発明のフィルムは、厚さ50μmにおけるヘイズが、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下である。これにより、表面光沢や透明性に優れる。また、液晶保護フィルムや導光フィルムなどの光学用途においては、光源の利用効率が高まり好ましい。さらに、表面賦形を行う際の賦形精度に優れるため好ましい。
【0158】
本発明のフィルムの表面に機能層を設けてもよい。機能層としては、ハードコート層、アンチグレア層、反射防止層、スティッキング防止層、拡散層、防眩層、静電気防止層、防汚層、微粒子などの易滑性層等を挙げることができる。
【0159】
<ハードコート層>
ハードコート層は、本発明のフィルムの表面を高硬度化して保護する機能を有する層である。ハードコート層は従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。ハードコート層としては、硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層であることが好ましい。ハードコート層として適用可能な硬化性樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂、その他公知の硬化性樹脂などを要求性能などに応じて適宜採用すればよい。電離放射線硬化性樹脂としては、アクリレート系、オキセタン系、シリコーン系などが挙げられる。例えば、アクリレート系の電離放射線硬化性樹脂は、単官能(メタ)アクリレートモノマー、2官能(メタ)アクリレートモノマーモノマー、3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルオリゴマー若しくは(メタ)アクリル酸エステルプレポリマーなどからなる。さらに3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。ハードコート層は、上記硬化性樹脂を含むハードコート層用樹脂組成物を、本発明のフィルムに直接塗工、もしくはプライマー層を塗布した本発明のフィルムのプライマー層面に塗布し、硬化することにより得られる。
【0160】
<反射防止層>
反射防止層は、外来光の鏡面反射による背景の映り込みを防止する層である。本発明のフィルムの表面に積層する反射防止層は、従来公知の反射防止層の中から適宜選択して用いることができる。反射防止層としては、例えば、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層し、最表面が低屈折率層となる様に多層化(マルチコート)した樹脂層や、微細凹凸形状等のナノ構造が形成された反射防止層等が挙げられる。上記高屈折率層としては、チタン、タンタル、ジルコニウム、インジウム等の金属酸化物微粒子を含有する高屈折率層形成用樹脂組成物及びその硬化物等が挙げられる。また、上記低屈折率層としては、フッ素系の樹脂や、中空シリカ微粒子等を含有する低屈折率層形成用樹脂組成物及その硬化物等が挙げられる。これらの反射防止層を用いることにより、層界面での反射光を干渉によって相殺することで、表面の反射を抑え、良好な反射防止効果を得る反射防止層等とすることができる。また、前述のハードコート層を該ハードコート層によって保護されるフィルムの屈折率よりも高い屈折率のものにすることによって、ハードコート層に反射防止機能を付与することができる。
【0161】
<防眩層>
防眩層は、外来光を散乱もしくは拡散させる層である。例えば、光の入射面を粗面化することにより、外来光を拡散することができる。この粗面化処理には、サンドブラスト法やエンボス法等などのような基体表面自体に微細凹凸を形成して粗面化する方法、基体表面にシリカなどの無機フィラーまたは/および樹脂粒子などの有機フィラーを含有させた放射線硬化性または熱硬化性の樹脂組成物を塗布して微細凹凸塗膜を形成して粗面化する方法、海島構造を形成し得る樹脂組成物を塗布して多孔質膜を形成して粗面化する方法などを挙げることができる。塗布される樹脂組成物に使用される樹脂としては、表面層の強度を高める観点から、硬化性アクリル樹脂や、上記ハードコート層に使用され得る電離放射線硬化性樹脂等が好ましく使用される。
【0162】
<静電気防止層>
本発明のフィルムの静電気を抑制するために静電気防止層を設けてもよい。静電気防止層は、従来公知のもののなかから適宜選択して用いることができる。例えば、上記ハードコート層用の樹脂組成物中に、公知の静電気防止剤を混合して用いることにより、静電気防止層とすることができる。静電気防止剤の具体例としては、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1〜第3アミノ基等のカチオン性基を有する各種のカチオン性化合物、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基などのアニオン性基を有するアニオン性化合物、アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系などの両性化合物、アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系などのノニオン性化合物、スズ及びチタンのアルコキシドのような有機金属化合物及びそれらのアセチルアセトナート塩のような金属キレート化合物等が挙げられ、さらに上記に列記した化合物を高分子量化した化合物が挙げられる。また、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、又は金属キレート部を有し且つ電離放射線により重合可能なモノマー又はオリゴマー、或いは電離放射線により重合可能な重合可能な官能基を有し且つカップリング剤のような有機金属化合物等の重合性化合物を静電気防止剤として使用することができる。また、静電気防止剤として導電性ポリマーやカーボンナノチューブ、銀ナノワイヤー等を用いてもよい。
【0163】
本発明のフィルムの表面に接着剤層を設けてもよい。接着剤層を構成する接着剤として、例えば、水系接着剤、溶剤系接着剤、ホットメルト系接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤などを用いることができる。これらのうち、水系接着剤および活性エネルギー線硬化型接着剤が好適である。
【0164】
本発明のメタクリル樹脂組成物は複屈折性が小さいので、面内方向位相差または厚さ方向位相差の小さいフィルムを得やすい。本発明のフィルムは、波長590nmの光に対する面内方向位相差Reが、フィルムの厚さ40μmの時に、好ましくは5nm以下、より好ましくは4nm以下、さらに好ましくは3nm以下、特に好ましくは2nm以下、最も好ましくは1nm以下である。また、本発明のフィルムは、波長590nmの光に対する厚さ方向位相差Rthが、フィルムの厚さ40μmの時に、好ましくは−5nm以上5nm以下、より好ましくは−4nm以上4nm以下、さらに好ましくは−3nm以上3nm以下、特に好ましくは−2nm以上2nm以下、最も好ましくは−1nm以上1nm以下である。
面内方向位相差および厚さ方向位相差がこのような範囲内にあれば、位相差に起因する画像表示装置の表示特性への影響が顕著に抑制され得る。より具体的には、干渉ムラや3Dディスプレイ用液晶表示装置に用いる場合の3D像の歪みが顕著に抑制され得る。 なお、面内方向位相差Reおよび厚さ方向位相差Rthは、それぞれ、以下の式で定義される値である。
Re=(n
x−n
y)×d
Rth=((n
x+n
y)/2−n
z)×d
ここで、n
xはフィルムの遅相軸方向の屈折率であり、n
yはフィルムの進相軸方向の屈折率であり、n
zはフィルムの厚さ方向の屈折率であり、d(nm)はフィルムの厚さである。遅相軸は、フィルム面内の屈折率が最大になる方向をいい、進相軸は、面内で遅相軸に垂直な方向をいう。
【0165】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、高い透明性と高い耐熱性とを有し、且つ薄いフィルムに成形できる。本発明に係るフィルムは、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、液晶保護板、携帯型情報端末の表面材、携帯型情報端末の表示窓保護フィルム、導光フィルム、銀ナノワイヤーやカーボンナノチューブを表面に塗布した透明導電フィルム、各種ディスプレイの前面板などに好適である。特に本発明によって得られる位相差が小さいフィルムは偏光子保護フィルムに好適である。また、本発明のフィルムは、IRカットフィルム、防犯フィルム、飛散防止フィルム、加飾フィルム、金属加飾フィルム、太陽電池のバックシート、フレキシブル太陽電池用フロントシート、シュリンクフィルム、インモールドラベル用フィルム、ウインドウフィルム、ガスバリアフィルムの基盤フィルムなどに使用することができる。
【0166】
本発明のフィルムを偏光子保護フィルムや位相差フィルムとして用いる場合、偏光子フィルムの片面だけに積層しても良いし、両面に積層してもよい。偏光子フィルムと積層する際は、接着層や粘着層を介して積層することができる。偏光子フィルムとしては、ポリビニルアルコール系樹脂とヨウ素からなる延伸フィルムを用いることができ、その膜厚は1μm〜100μmである。
【0167】
本発明の偏光子保護フィルムを使用した偏光板は、本発明の偏光子保護フィルムを少なくとも1枚含むものである。好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光子と本発明の偏光子保護フィルムが接着剤層を介して積層されてなるものである。
【0168】
本発明の好ましい一実施形態に係る偏光板は、
図1に示すように、偏光子11の一方の面に、接着剤層12、および本発明の偏光子保護フィルム14がこの順で積層され、偏光子11のもう一方の面に、接着剤層15、および光学フィルム16がこの順で積層されてなるものである。接着剤層12と接する本発明の偏光子保護フィルム14の表面には易接着層13を設けても良いが(
図2参照)、本発明の偏光子保護フィルム14の場合、好適には易接着層13を設けずとも接着性を保持できる。易接着層13を設けた場合、接着剤層12と偏光子保護フィルム14の接着性がより良好となる点で好ましいが、生産性とコストの点では劣る。
【0169】
上記ポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光子は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性物質(代表的には、ヨウ素、二色性染料)で染色して一軸延伸することによって得られる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を任意の適切な方法(例えば、樹脂を水または有機溶媒に溶解した溶液を流延成膜する流延法、キャスト法、押出法)にて製膜することによって得ることができる。
該ポリビニルアルコール系樹脂は、重合度が、好ましくは100〜8000、さらに好ましくは1400〜6000である。また、偏光子に用いられるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚さは、偏光板が用いられるLCDの目的や用途に応じて適宜設定され得るが、代表的には1〜80μmである。
【0170】
本発明の偏光子保護フィルムを使用した偏光板に設けることができる接着剤層は光学的に透明であれば特に制限されない。接着剤層を構成する接着剤として、例えば、水系接着剤、溶剤系接着剤、ホットメルト系接着剤、UV硬化型接着剤などを用いることができる。これらのうち、水系接着剤およびUV硬化型接着剤が好適である。
【0171】
水系接着剤としては、特に限定されないが、例えば、ビニルポリマー系、ゼラチン系、ビニル系ラテックス系、ポリウレタン系、イソシアネート系、ポリエステル系、エポキシ系等を例示できる。このような水系接着剤には、必要に応じて、架橋剤や他の添加剤、酸等の触媒も配合することができる。前記水系接着剤としては、ビニルポリマーを含有する接着剤などを用いることが好ましく、ビニルポリマーとしては、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。またポリビニルアルコール系樹脂には、ホウ酸やホウ砂、グルタルアルデヒドやメラミン、シュウ酸などの水溶性架橋剤を含有することができる。特に偏光子としてポリビニルアルコール系のポリマーフィルムを用いる場合には、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する接着剤を用いることが、接着性の点から好ましい。さらには、アセトアセチル基を有するポリビニルアルコール系樹脂を含む接着剤が耐久性を向上させる点からより好ましい。前記水系接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤として用いられ、通常、0.5〜60質量%の固形分を含有してなる。
【0172】
また前記接着剤には、金属化合物フィラーを含有させることができる。金属化合物フィラーにより、接着剤層の流動性を制御することができ、膜厚を安定化して、良好な外観を有し、面内が均一で接着性のバラツキのない偏光板が得られる。
【0173】
接着剤層の形成方法は特に制限されない。例えば、上記接着剤を対象物に塗布し、次いで加熱または乾燥することによって形成できる。接着剤の塗布は本発明の偏光子保護フィルムまたは光学フィルムに対して行ってもよいし、偏光子に対して行ってもよい。接着剤層を形成した後、偏光子保護フィルム若しくは光学フィルムと偏光子とを押し合わせることによって両者を積層することができる。積層においてはロールプレス機や平板プレス機などを用いることができる。加熱乾燥温度、乾燥時間は接着剤の種類に応じて適宜決定される。
接着剤層の厚さは、乾燥状態において、好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは0.03〜5μmである。
【0174】
本発明の偏光子保護フィルムを使用した偏光板に施すことができる易接着処理は、偏光子保護フィルムと偏光子とが接する面の接着性を向上させるものである。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、低圧UV処理等の表面処理を挙げることができる。
【0175】
また、易接着層を設けることも可能である。易接着層としては、例えば、反応性官能基を有するシリコーン層を挙げることができる。反応性官能基を有するシリコーン層の材料は、特に制限されないが、例えば、イソシアネート基含有のアルコキシシラノール類、アミノ基含有アルコキシシラノール類、メルカプト基含有アルコキシシラノール類、カルボキシ含有アルコキシシラノール類、エポキシ基含有アルコキシシラノール類、ビニル型不飽和基含有アルコキシシラノール類、ハロゲン基含有アルコキシラノール類、イソシアネート基含有アルコキシシラノール類を挙げることができる。これらのうち、アミノ系シラノールが好ましい。シラノールを効率よく反応させるためのチタン系触媒や錫系触媒を上記シラノールに添加することにより、接着力を強固にすることができる。また上記反応性官能基を有するシリコーンに他の添加剤を加えてもよい。他の添加剤としては、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン-フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂などの粘着付与剤;紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤等を挙げることができる。また、易接着層として、セルロースアセテートブチレート樹脂をケン化させたものからなる層も挙げられる。
【0176】
上記易接着層は公知の技術により塗工、乾燥して形成される。易接着層の厚さは、乾燥状態において、好ましくは1〜100nm、さらに好ましくは10〜50nmである。塗工の際、易接着層形成用薬液を溶剤で希釈してもよい。希釈溶剤は特に制限されないが、アルコール類を挙げることができる。希釈濃度は特に制限されないが、好ましくは1〜5質量%、より好ましくは1〜3質量%である。
【0177】
光学フィルム16は本発明の偏光子保護フィルムであってもよいし、別の任意の適切な光学フィルムであってもよい。光学フィルムは、偏光子保護機能、輝度向上機能、視野角調節機能、光拡散機能などの機能を発揮するものであることができる。光学フィルムは、その材料によって特に制限されず、例えば、セルロース樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等からなるフィルムを挙げることができる。
【0178】
セルロース樹脂は、セルロースと脂肪酸のエステルである。このようセルロースエステル系樹脂の具体例としては、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネート等を挙げることができる。これらのなかでも、セルローストリアセテートが特に好ましい。セルローストリアセテートは多くの製品が市販されており、入手容易性やコストの点でも有利である。セルローストリアセテートの市販品の例としては、富士フイルム社製の商品名「UV−50」、「UV−80」、「SH−80」、「TD−80U」、「TD−TAC」、「UZ−TAC」や、コニカミノルタ社製の「KCシリーズ」等を挙げることができる。
【0179】
環状ポリオレフィン樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、例えば、特開平1−240517号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報等に記載されている樹脂を挙げることができる。具体例としては、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα−オレフィンとその共重合体(代表的にはランダム共重合体)、および、これらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、ならびに、それらの水素化物などを挙げることができる。環状オレフィンの具体例としては、ノルボルネン系モノマーを挙げることができる。
【0180】
環状ポリオレフィン樹脂としては、種々の製品が市販されている。具体例としては、日本ゼオン株式会社製の商品名「ゼオネックス」、「ゼオノア」、JSR株式会社製の商品名「アートン」、ポリプラスチックス株式会社製の商品名「トーパス」、三井化学株式会社製の商品名「APEL」を挙げることができる。
【0181】
光学フィルム16を構成するメタクリル樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲内で、任意の適切なメタクリル樹脂を採用し得る。例えば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリメタクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂など)、脂環族炭化水素基を有する重合体( 例えば、メタクリル酸メチル− メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体など)を挙げることができる。
【0182】
光学フィルム16を構成するメタクリル樹脂の具体例として、例えば、三菱レイヨン株式会社製のアクリペットVHやアクリペットVRL20A 、特開2013−033237やWO2013/005634号公報に記載のメタクリル酸メチルとマレイミド系単量体を共重合したアクリル樹脂、WO2005/108438号公報に記載の分子内に環構造を有するアクリル樹脂、特開2009−197151号公報に記載の分子内に環構造を有するメタクリル樹脂、分子内架橋や分子内環化反応により得られる高ガラス転移温度(Tg)メタクリル樹脂を挙げることができる。
【0183】
光学フィルム16を構成するメタクリル樹脂として、ラクトン環構造を有するメタクリル樹脂を用いることもできる。高い耐熱性、高い透明性、二軸延伸することにより高い機械的強度を有するからである。
【0184】
ラクトン環構造を有するメタクリル樹脂としては、特開2000−230016号公報、特開2001−151814号公報、特開2002−120326号公報、特開2002−254544号公報、特開2005−146084号公報などに記載の、ラクトン環構造を有するメタクリル樹脂を挙げることができる。
光学フィルム16を構成するポリエチレンテレフタレート樹脂としては、WO2011−162198号広報、WO2015−037527号公報、WO2007−020909号公報、特開2010−204630号公報などに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂を挙げることができる。
【0185】
本発明の偏光子保護フィルムを使用した偏光板は、画像表示装置に使用することができる。画像表示装置の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)のような自発光型表示装置、液晶表示装置を挙げることができる。液晶表示装置は、液晶セルと、当該液晶セルの少なくとも片側に配置された上記偏光板とを有する。
【0186】
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0187】
(重合転化率)
島津製作所社製ガスクロマトグラフ GC−14Aに、カラムとしてGL Sciences Inc.製 Inert CAP 1(df=0.4μm、I.D.=0.25mm、長さ=60m)を繋ぎ、インジェクション温度180℃、検出器温度180℃、カラム温度を60℃で5分間保持、60℃から昇温速度10℃/分で200℃まで昇温して、200℃で10分間保持する条件にて測定し、その結果に基づいて重合転化率を算出した。
【0188】
(重量平均分子量Mw、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn、高分子量成分含有量および低分子量成分含有量)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)にて下記の条件でクロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値を算出した。ベースラインはGPCチャートの高分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てマイナスからゼロに変化する点を結んだ線とした。検量線を用いて算出した積分分子量分布から、分子量15000未満の成分(低分子量成分)の割合と、分子量200000以上の成分(高分子量成分)の割合を算出した。
GPC装置:東ソー株式会社製、HLC−8320
検出器:示差屈折率検出器
カラム:東ソー株式会社製のTSKgel SuperMultipore HZM−Mの2本とSuperHZ4000を直列に繋いだものを用いた。
溶離剤: テトラヒドロフラン
溶離剤流量: 0.35ml/分
カラム温度: 40℃
検量線:標準ポリスチレン10点のデータを用いて作成
【0189】
(三連子表示のシンジオタクティシティ(rr))
核磁気共鳴装置(Bruker社製 ULTRA SHIELD 400 PLUS)を用いて、溶媒として重水素化クロロホルムを用い、室温、積算回数64回の条件にて、
1H−NMRスペクトルを測定した。そのスペクトルからTMSを0ppmとした際の0.6〜0.95ppmの領域の面積A
0と、0.6〜1.35ppmの領域の面積A
Yとを計測し、次いで、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)を式:(A
0/A
Y)×100にて算出した。
【0190】
(ガラス転移温度Tg)
JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定装置(島津製作所製、DSC−50(品番))を用いて、230℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後、室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にてDSC曲線を測定した。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度とした。
【0191】
(メタクリル樹脂(A)、ブロック共重合体(B)の屈折率n
23D)
3cm×3cm、厚さ3mmのシートをプレス成形にて作製し、カルニュー光学工業株式会社「KPR−200」を用いて、23℃、50%RHにて波長587.6nm(D線)で屈折率n
23Dを測定した。
【0192】
(メルトマスフローレート(MFR))
JIS K7210に準拠して、230℃、3.8kg荷重、10分間の条件で測定した。
【0193】
製造例1 (メタクリル樹脂〔A−1〕の製造)
撹拌翼と三方コックが取り付けられた5Lのガラス製反応容器内を窒素で置換した。これに、室温下にて、トルエン1600g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン2.49g(10.8mmol)、濃度0.45Mのイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムのトルエン溶液53.5g(30.9mmol)、および濃度1.3Mのsec−ブチルリチウムの溶液(溶媒:シクロヘキサン95%、n−ヘキサン5%)6.17g(10.3mmol)を仕込んだ。撹拌しながら、これに、20℃にて、蒸留精製したメタクリル酸メチル550gを30分間かけて滴下した。滴下終了後、25℃で90分間撹拌した。溶液の色が黄色から無色に変わった。この時点におけるメタクリル酸メチルの重合転化率は100%であった。得られた溶液にトルエン1500gを加えて希釈した。次いで、希釈液をメタノール100kgに注ぎ入れ、沈澱物を得た。得られた沈殿物を80℃、140Paにて24時間乾燥して、Mw
A79400、Mw
A/Mn
A1.08、シンジオタクティシティ(rr)70%で、ガラス転移温度130℃、低分子量成分含有量0.19質量%、高分子量成分含有量0.02質量%、MFR0.9g/10分、n
23D1.489、およびメタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量100質量%であるメタクリル樹脂〔A−1〕を得た。
【0194】
製造例2 (メタクリル樹脂〔A−2〕の製造)
攪拌機および採取管が取り付けられたオートクレーブ内を窒素で置換した。これに、精製されたメタクリル酸メチル100質量部、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル(水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)0.0052質量部、およびn−オクチルメルカプタン0.23質量部を入れ、撹拌して、原料液を得た。かかる原料液中に窒素を送り込み、原料液中の溶存酸素を除去した。
オートクレーブと配管で接続された槽型反応器に容量の2/3まで原料液を入れた。温度を140℃に維持して先ずバッチ方式で重合反応を開始させた。重合転化率が55質量%になったところで、平均滞留時間150分間となる流量で、原料液をオートクレーブから槽型反応器に供給し、且つ原料液の供給流量に相当する流量で、反応液を槽型反応器から抜き出して、反応器内の反応液温度を140℃に維持し、連続流通方式の重合反応に切り替えた。切り替え後、定常状態における重合転化率は55質量%であった。
【0195】
定常状態になった槽型反応器から抜き出される反応液を、平均滞留時間2分間となる流量で内温230℃の多管式熱交換器に供給して加温した。次いで加温された反応液をフラッシュ蒸発器に導入し、未反応単量体を主成分とする揮発分を除去して、溶融樹脂を得た。揮発分が除去された溶融樹脂を内温260℃の二軸押出機に供給してストランド状に吐出し、ペレタイザーでカットして、Mw
A101000、Mw
A/Mn
A1.87、シンジオタクティシティ(rr)52%、ガラス転移温度120℃、低分子量成分含有量2.54質量%、高分子量成分含有量0.73質量%、MFR1.6g/10分、n
23D1.491、およびメタクリル酸メチルに由来する構造単位含有量100質量%である、ペレット状のメタクリル樹脂〔A−2〕を得た。
【0196】
製造例3 (メタクリル樹脂〔A−3〕の製造)
メタクリル樹脂〔A−1〕57質量部およびメタクリル樹脂〔A−2〕43質量部を混ぜ合わせ、二軸押出機((株)テクノベル製、商品名:KZW20TW-45MG-NH-600)で250℃にて混練押出して、Mw
A88600、Mw
A/Mn
A1.32、シンジオタクティシティ(rr)62%、ガラス転移温度126℃、低分子量成分含有量1.20質量%、高分子量成分含有量0.33質量%、MFR1.3g/10分、n
23D1.489、およびメタクリル酸メチルに由来する構造単位含有量100質量%である、ペレット状のメタクリル樹脂〔A−3〕を得た。
【0197】
製造例4 (メタクリル樹脂〔A−4〕の製造)
メタクリル酸メチル100質量部に0.07質量部の重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、水素引抜能:1%、10時間半減期温度:51℃)および0.26質量部の連鎖移動剤(n−オクチルメルカプタン)を加え、溶解させて原料液を得た。
イオン交換水100質量部に0.03質量部の硫酸ナトリウムおよび0.46質量部の懸濁分散剤を混ぜ合わせて混合液を得た。
耐圧重合槽に、420質量部の前記混合液と210質量部の前記原料液を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度を60℃にして重合反応を開始させた。重合反応開始から4時間経過時に、温度を70℃に上げ、70℃にて撹拌を引き続き1時間行って、ビーズ状の微粒子が分散した分散液を得た。該分散液から微粒子を漉し取り、該微粒子をイオン交換水で洗浄し、次いで80℃、100Paで4時間減圧乾燥し、Mw
A89700、Mw
A/Mn
A1.91、シンジオタクティシティ(rr)60%、ガラス転移温度124℃、MFR1.3g/10分、n
23D1.489、低分子量成分含有量2.91質量%で、高分子量成分含有量0.38質量%、およびメタクリル酸メチルに由来する構造単位含有量100質量%である、ビーズ状のメタクリル樹脂〔A−4〕を得た。
【0198】
製造例5 (メタクリル樹脂〔A−5〕の製造)
メタクリル酸メチル85質量部およびアクリル酸メチル15質量部に0.10質量部の重合開始剤(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)および0.2質量部の連鎖移動剤(n−オクチルメルカプタン)を加え、溶解させて原料液を得た。
イオン交換水100質量部に0.03質量部の硫酸ナトリウムおよび0.46質量部の懸濁分散剤を混ぜ合わせて混合液を得た。
耐圧重合槽に、420質量部の前記混合液と210質量部の前記原料液を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度を70℃にして重合反応を開始させた。重合反応開始から3時間経過時に、温度を90℃に上げ、90℃にて撹拌を引き続き1時間行って、ビーズ状の微粒子が分散した分散液を得た。該分散液から微粒子を漉し取り、該微粒子をイオン交換水で洗浄し、次いで80℃、100Paで4時間減圧乾燥し、Mw
A107000、Mw
A/Mn
A1.91、シンジオタクティシティ(rr)58%、ガラス転移温度100℃、低分子量成分含有量2.23質量%、高分子量成分含有量0.63質量%、MFR1.2g/10分、n
23D1.490、およびメタクリル酸メチルに由来する構造単位含有量85質量%である、ビーズ状のメタクリル樹脂〔A−5〕を得た。
【0199】
製造例6 (メタクリル樹脂〔A−6〕の製造)
撹拌翼と三方コックが取り付けられた5Lのガラス製反応容器内を窒素で置換した。これに、室温下にて、トルエン1600g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン3.19g(13.9mmol)、濃度0.45Mのイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムのトルエン溶液68.6g(39.6mmol)、および濃度1.3Mのsec−ブチルリチウムの溶液(溶媒:シクロヘキサン95質量%、n−ヘキサン5質量%)7.91g(13.2mmol)を仕込んだ。撹拌しながら、これに、20℃にて、蒸留精製したメタクリル酸メチル550gを30分間かけて滴下した。適下終了後、20℃で90分間撹拌した。溶液の色が黄色から無色に変わった。この時点におけるメタクリル酸メチルの重合転化率は100%であった。
得られた溶液にトルエン1500gを加えて希釈した。次いで、該希釈液をメタノール100kgに注ぎ入れ、沈澱物を得た。得られた沈殿物を80℃、140Paにて24時間乾燥して、Mw
A58900、Mw
A/Mn
A1.06、シンジオタクティシティ(rr)74%、ガラス転移温度130℃、低分子量成分含有量0.02質量%、高分子量成分含有量0.01質量%、MFR2.1g/10分、n
23D1.489、およびメタクリル酸メチルに由来する構造単位含有量100質量%であるメタクリル樹脂〔A−6〕を得た。
【0200】
製造例7(メタクリル樹脂〔A−7〕の製造)
マレイン酸無水物が20質量%濃度となるようにメチルイソブチルケトンに溶解させた20%マレイン酸無水物溶液と、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートが2質量%となるようにメチルイソブチルケトンに希釈した2%t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート溶液とを事前に調製し、重合に使用した。
攪拌機を備えた10Lオートクレーブ中に、20%マレイン酸無水物溶液28g、スチレン224g、メチルメタクリレート130g、t−ドデシルメルカプタン0.4gを仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、攪拌しながら40分かけて88℃まで昇温した。昇温後88℃を保持しながら、20%マレイン酸無水物溶液を21g/時、および2%t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート溶液を3.75g/時の速度で各々連続的に8時間かけて添加し続けた。その後、2%t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート溶液の添加を停止し、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを0.4g添加した。20%マレイン酸無水物溶液はそのまま21g/時の添加を維持しながら、8℃/時の昇温速度で4時間かけて120℃まで昇温した。20%マレイン酸無水物溶液の添加は、添加量が積算252gになった時点で停止した。昇温後、1時間120℃を保持して重合を終了させた重合液にトルエン3000gを加えて希釈した。次いで、該希釈液をメタノール
200kgに注ぎ入れ、沈澱物を得た。得られた沈殿物を80℃、140Paにて24時間乾燥して、メタクリル樹脂〔A−7〕を得た。
13C‐NMR分析を実施したところ、得られた樹脂の組成は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位が26質量%、環状構造を有する無水マレイン酸に由来する構造単位が18質量%、スチレンに由来する構造単位が56質量%であった。
得られた樹脂は、Mw:169000、Mw/Mn:2.47、Tg:137℃であった。
【0201】
メタクリル樹脂(A−1)〜(A−7)の物性を表1に示す。
【0203】
以下に示す製造例8〜13においては、化合物は常法により乾燥精製し、窒素にて脱気したものを使用した。また、化合物の移送および供給は窒素雰囲気下で行なった。
【0204】
製造例8 (ジブロック共重合体〔B−1〕の製造)
内部を脱気し、窒素で置換した三口フラスコに、室温にて乾燥トルエン735g、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン0.4g、およびイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム20mmolを含有するトルエン溶液39.4gを入れた。これにsec−ブチルリチウム1.17mmol加えた。さらにこれにメタクリル酸メチル39.0gを加え、室温で1時間反応させてメタクリル酸メチル重合体(b1
1)を得た。反応液に含まれるメタクリル酸メチル重合体(b1
1)の重量平均分子量Mw
b11は45800であった。
【0205】
次いで、反応液を−25℃にし、アクリル酸n−ブチル29.0gおよびアクリル酸ベンジル10.0gの混合液を0.5時間かけて滴下して、メタクリル酸メチル重合体(b1
1)の末端から重合反応を継続させて、メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)とアクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸ベンジルからなるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)とからなるジブロック共重合体〔B−1〕を得た。反応液に含まれるブロック共重合体〔B−1〕は、重量平均分子量Mw
Bが92000、重量平均分子量Mw
B/数平均分子量Mn
Bが1.06であった。メタクリル酸メチル重合体(b1
1)の重量平均分子量が45800であったので、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸ベンジルからなるアクリル酸エステル重合体(b2)の重量平均分子量を46200と決定した。アクリル酸エステル重合体(b2)に含まれるアクリル酸ベンジルの割合は25.6質量%であった。
【0206】
続いて、反応液にメタノール4gを添加して重合を停止させた。その後、反応液を大量のメタノールに注ぎジブロック共重合体〔B−1〕を析出させ、該析出物を濾し取り、80℃、1torr(約133Pa)で、12時間乾燥させた。得られたジブロック共重合体〔B−1〕のn
23Dは1.490であった。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の質量に対するメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1
1)の質量の比は50/50であった。
【0207】
製造例9 (ジブロック共重合体〔B−2〕の製造)
メタクリル酸メチルの量を78gに変え、アクリル酸n−ブチルの量を58gに変え、アクリル酸ベンジルの量を20gに変えた他は製造例7と同じ方法でメタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)とアクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸ベンジルからなるアクリル酸エステル重合体(b2)とからなるジブロック共重合体〔B−2〕を得た。
メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)は、Mw
b11が74300であった。アクリル酸エステル重合体(b2)は、Mw
b2が81700で、アクリル酸ベンジルの割合が25.6質量%であった。ジブロック共重合体〔B−2〕は、Mw
Bが156000、Mw
B/Mn
Bが1.08、n
23Dが1.490であった。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の質量に対するメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1
1)の質量の比は48/52であった。
【0208】
製造例10 (トリブロック共重合体〔B−3〕の製造)
内部を脱気し、窒素で置換した三口フラスコに、室温にて乾燥トルエン2003g、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン2.1g、およびイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム20mmolを含有するトルエン溶液51.5gを入れた。これにsec−ブチルリチウム1.13mmolを加えた。さらにこれにメタクリル酸メチル108.5gを加え、室温で1時間反応させてメタクリル酸メチル重合体(b1
1)を得た。反応液に含まれるメタクリル酸メチル重合体(b1
1)の重量平均分子量Mw
b11は19000であった。
【0209】
次いで、反応液を−30℃にし、アクリル酸n−ブチル219.6gおよびアクリル酸ベンジル77.1gの混合液を0.5時間かけて滴下することによって、メタクリル酸メチル重合体(b1
1)の末端から重合反応を継続させて、メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)とアクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸ベンジルからなるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)とからなるジブロック共重合体を得た。反応液に含まれるジブロック重合体の重量平均分子量は57800であった。メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)の重量平均分子量が19000であったので、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸ベンジルからなるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量を38800と決定した。アクリル酸エステル重合体(b2)に含まれるアクリル酸ベンジルの割合は25.6質量%であった。
【0210】
続いて、メタクリル酸メチル125.6gを添加して、反応液を室温に戻し、8時間攪拌することによって、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の末端から重合反応を継続させて、メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)とアクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸ベンジルからなるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)とメタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
2)とからなるトリブロック共重合体〔B−3〕を得た。
【0211】
その後、反応液にメタノール4gを添加して重合を停止させた。その後、反応液を大量のメタノールに注ぎトリブロック共重合体〔B−3〕を析出させ、該析出物を濾し取り、80℃、1torr(約133Pa)で、12時間乾燥させた。得られたトリブロック共重合体〔B−3〕は重量平均分子量Mw
Bが75800、Mw
B/Mn
Bが1.10、n
23Dが1.490であった。ジブロック共重合体の重量平均分子量が57800であったので、メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
2)の重量平均分子量を18000と決定した。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の質量に対するメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1
1)と(b1
2)の合計質量の比は49/51であった。
【0212】
メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)の重量平均分子量が19000であり、メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
2)の重量平均分子量が18000であるので、メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量Mw
b1は37000である。
【0213】
製造例11 (ジブロック共重合体〔B−4〕の製造)
メタクリル酸メチルの量を90gに変え、アクリル酸n−ブチルの量を4gに変え、アクリル酸ベンジルの量を14gに変えた他は製造例7と同じ方法でメタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)とアクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸ベンジルからなるアクリル酸エステル重合体(b2)とからなるジブロック共重合体〔B−4〕を得た。メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)はMw
b11が88900であった。アクリル酸エステル重合体(b2)は、Mw
b2が5200で、アクリル酸ベンジルの割合が26.0質量%であった。ジブロック共重合体〔B−4〕はMw
Bが94100、Mw
B/Mn
Bが1.08、n
23Dが1.490であった。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の質量に対するメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1
1)の質量の比は94/6であった。
【0214】
製造例12 (ジブロック共重合体〔B−5〕の製造)
メタクリル酸メチルの量を5gに変え、アクリル酸n−ブチルの量を63gに変え、アクリル酸ベンジルの量を22gに変えた他は製造例7と同じ方法でメタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)とアクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸ベンジルからなるアクリル酸エステル重合体(b2)とからなるジブロック共重合体〔B−5〕を得た。
メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)はMw
b11が4500であった。アクリル酸エステル重合体(b2)は、Mw
b2が88300で、アクリル酸ベンジルの割合が26.0質量%であった。ジブロック共重合体〔B−5〕はMw
Bが92800、Mw
B/Mn
Bが1.10、n
23Dが1.489であった。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の質量に対するメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1
1)の質量の比は5/95であった。
【0215】
製造例13 (ジブロック共重合体〔B−6〕の製造)
メタクリル酸メチルの量を50gに変え、アクリル酸n−ブチルの量を50gに変え、アクリル酸ベンジルの量を0gに変えた他は製造例7と同じ方法でメタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)とアクリル酸n−ブチルからなるアクリル酸エステル重合体(b2)とからなるジブロック共重合体〔B−6〕を得た。
メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1
1)はMw
b11が45000であった。アクリル酸エステル重合体(b2)は、Mw
b2が45000で、アクリル酸ベンジルの割合が0質量%であった。ジブロック共重合体〔B−6〕はMw
Bが90000、Mw
B/Mn
Bが1.08、n
23Dが1.476であった。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の質量に対するメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1
1)の質量の比は50/50であった。
【0216】
ブロック共重合体(B−1)〜(B−6)の物性を表2に示す。
【0218】
製造例14 (多層構造重合体粒子(A)を含むエマルジヨンの製造)
コンデンサー、温度計および撹拌機を備えたグラスライニングを施した反応槽(100リットル)に、イオン交換水48kgを投入し、次いでステアリン酸ナトリウム416g、ラウリルザルコシン酸ナトリウム128gおよび炭酸ナトリウム16gを投入して溶解させた。次いで、メタクリル酸メチル11.2kgおよびメタクリル酸アリル110gを投入し撹拌しながら70℃に昇温した。その後、2%過硫酸カリウム水溶液560gを添加して重合を開始させた。重合による発熱により内部温度が上昇し、その後下降し始めた後、30分間にわたって70℃に保持してエマルジヨンを得た。
得られたエマルジヨンに、2%過硫酸ナトリウム水溶液720gを添加した。その後、アクリル酸ブチル12.4kg、スチレン1.76kgおよびメタクリル酸アリル280gからなる単量体混合物を60分間かけて滴下し、さらに60分間経過するまで、グラフト重合させた。
グラフト重合後のエマルジヨンに、2%過硫酸カリウム水溶液320gを添加し、さらにメタクリル酸メチル6.2kg、アクリル酸メチル0.2kgおよびn−オクチルメルカプタン200gからなる単量体混合物を30分間かけて添加した。その後60分間撹拌を続けて重合を完結させた。平均粒径0.23μmの多層構造重合体粒子(A)を40%含有するエマルジヨン(A)を得た。
【0219】
製造例15 ((メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(B)を含むエマルジヨンの製造)
コンデンサー、温度計および撹拌機を備えたグラスライニングを施した反応槽(100リットル)に、イオン交換水48kgを投入し、次いで界面活性剤(花王株式会社製「ペレックスSS−H」)252gを投入して溶解させた。これを70℃に昇温した。これに2%過硫酸カリウム水溶液160gを添加し、次いでメタクリル酸メチル3.04kg、アクリル酸メチル0.16kgおよびn−オクチルメルカプタン15.2gからなる混合物を添加して重合を開始させた。重合による発熱が終了した時から30分間経過した時に、2%過硫酸カリウム水溶液160gを添加し、次いでメタクリル酸メチル27.4kg、アクリル酸メチル1.44kgおよびn−オクチルメルカプタン98gからなる混合物を2時間かけて滴下して重合を行った。滴下終了時から60分間経過した後、反応液を冷却して、平均粒径0.12μmで且つ極限粘度0.44g/dlの(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(B)を40%含有するエマルジヨン(B)を得た。
【0220】
製造例16 〔耐衝撃性改良剤〔C〕の製造〕
エマルジヨン(A)とエマルジヨン(B)とを、多層構造重合体粒子(A):(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(B)の重量比が2:1になるように、混ぜ合わせた。それを−20℃で2時間かけて凍らせた。得られた凍結物を、その質量の2倍量の80℃の温水に投入して溶解させてスラリーを得た。該スラリーを80℃にて20分間保持した。次いで、脱水し、固形分を70℃で乾燥させて、粉末状の耐衝撃性改良剤〔C〕を得た。
【0221】
以下のポリカーボネート樹脂を用意した。
PC1:住化スタイロンポリカーボネート社製、SD POLYCA TR−2201(品番)、MVR(300℃、1.2Kg、10分間;JIS K7210準拠)=210cm
3/10分 PC2:三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロンHL−8000(品番)、MVR(300℃、1.2Kg、10分間;JIS K7210準拠)=136cm
3/10分
【0222】
以下のフェノキシ樹脂を用意した。
Phenoxy1:(新日鉄住金化学社製、YP−50S(品番)、MFR(230℃、3.8Kg、10分間;JIS K7210準拠)=22g/10分、Mw=55000、Mw/Mn=2.5)
【0223】
以下の紫外線吸収剤を用意した。
UVA1:2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシ−3−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(ADEKA社製;LA−F70)
UVA2:2,2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール〕(ADEKA社製;LA−31)
【0224】
製造例1〜7で得たメタクリル樹脂以外に、以下のメタクリル樹脂を用意した。
A−8:パラペットHR−1000S(クラレ社製)
A−9:耐衝撃性改良剤を含有するアクリペットVRL40(三菱レイヨン社製)
【0225】
<実施例1>
メタクリル樹脂〔A−3〕90質量部、ブロック共重合体〔B−1〕10質量部、ポリカーボネート樹脂〔PC1〕4質量部および加工助剤(パラロイドK125−P(クレハ社製))2質量部を混ぜ合わせ、二軸押出機((株)テクノベル製、商品名:KZW20TW-45MG-NH-600)で250℃にて混練押出してメタクリル樹脂組成物〔C−1〕を製造した。
【0226】
(全光線透過率)
メタクリル樹脂組成物〔C−1〕を熱プレス成形して130mm×50mm×3.2mmの板状成形体を得た。JIS K7361−1に準じて、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM−150)を用いて3.2mm厚の全光線透過率を測定した。
【0227】
(ヘイズ(23℃))
メタクリル樹脂組成物〔C−1〕を熱プレス成形して130mm×50mm×3.2mmの板状成形体を得た。JIS K7136に準拠して、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM−150)を用いて3.2mm厚部のヘイズを23℃にて測定した。
【0228】
(ヘイズ(70℃))
メタクリル樹脂組成物〔C−1〕を熱プレス成形して130mm×50mm×3.2mmの板状成形体を得た。70℃の恒温器内に30分間放置した。板状成形体を恒温器から取り出し、直ぐに、JIS K7136に準拠して、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM−150)を用いて3.2mm厚部のヘイズを測定した。
【0229】
(ノッチ付き曲げ強度)
メタクリル樹脂組成物〔C−1〕を230℃にて射出成形して、80mm×10mm×厚さ4.0mmの試験片を得た。該試験片を用いてノッチ角度のみを45°とした以外は、ASTM E399−83に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して、23℃における3点曲げを実施した。その時の最大点応力をノッチ付き曲げ強度とした。
【0230】
メタクリル樹脂組成物〔C−1〕の物性を表3に示す。
【0231】
<実施例2〜17、比較例1〜9>
表3、4または5に示す配合とする以外は実施例1と同じ方法でメタクリル樹脂組成物〔C−2〕〜〔C−26〕を製造した。メタクリル樹脂組成物〔C−2〕〜〔C−26〕の物性を表3、4または5に示す。
【0235】
表3、4または5に示すとおり、本発明のメタクリル樹脂組成物(実施例)は、透明性が高く、広い温度範囲においてヘイズの変化が小さく、ガラス転移温度が高くかつ機械的強度が大きい。
【0236】
<実験例A>
メタクリル樹脂組成物〔C−6〕を、80℃で12時間乾燥させた。20mmφ単軸押出機(OCS社製)を用いて、樹脂温度260℃にて、メタクリル樹脂組成物〔C−6〕
を150mm幅のTダイから押し出し、それを表面温度85℃のロールにて引き取り、幅110mm、厚さ160μmの未延伸フィルムを得た。
【0237】
(表面平滑性)
未延伸フィルムの表面を目視により観察し以下の基準で表面平滑性を評価した。
A:表面が平滑である。
B:表面に凹凸がある。
【0238】
未延伸フィルムから100mm×100mmのサイズの切片を切り出した。該切片を、パンタグラフ式二軸延伸試験機(東洋精機(株)製)にセットし、延伸温度:ガラス転移温度+20℃、延伸速度1000%/分、延伸倍率2倍で縦方向に延伸し、次いで延伸温度:ガラス転移温度+20℃、延伸速度1000%/分、延伸倍率2倍で横方向に延伸した。このようにして面積比4倍に逐次二軸延伸されたフィルムを徐冷して、厚さ40μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0239】
(延伸性)
10枚の切片について上記の逐次二軸延伸を行って、割れやクラックのないフィルムを5枚以上取得できたもの場合を「A」、割れやクラックのないフィルムが4枚以下しか取得できなかった場合を「B」と評価した。
【0240】
(全光線透過率)
JIS K7361−1に準じて、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM−150)を用いてフィルムの全光線透過率を測定した。
【0241】
(ヘイズ(23℃))
JIS K7136に準拠して、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM−150)を用いてフィルムのヘイズを23℃にて測定した。
【0242】
(膜厚方向の位相差(Rth))
40mm×40mmの試験片を、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)にセットし、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、40°傾斜方向の位相差を測定し、その値と平均屈折率nから屈折率n
x、n
yおよびn
zを算出し、さらに厚さ方向位相差Rth(=((n
x+n
y)/2−n
z)×d)を算出した。n
xは面内遅相軸方向の屈折率、n
yは遅相軸に対して面内で直角方向の屈折率、n
zは厚さ方向の屈折率である。
試験片の厚さd[nm]は、デジマティックインジケータ(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。屈折率n
x、n
yおよびn
zの算出に必要な平均屈折率nは、デジタル精密屈折計(カルニュー光学工業株式会社 KPR−200)で測定した波長587.6nm(D線)での平均屈折率の値を用いた。
【0243】
<実験例B〜I>
表6に示すメタクリル樹脂組成物を用いる以外は実験例Aと同じ方法で厚さ40μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムについての延伸性、全光線透過率、ヘイズおよび厚み方向位相差(Rth)の測定結果を表6に示す。なお、実験例GおよびHで得られたフィルムはヘイズ値が高いため、Rthは測定しなかった。また、実験例Eの製膜後のロールを観察したが、樹脂組成物が紫外線吸収剤を含むにもかかわらず、ブリードアウトによるロール汚れはなかった。
【0245】
表6に示すとおり、本発明に係るメタクリル樹脂組成物を用いて得られる二軸延伸フィルムは、透明性が高く、延伸性が良好であり、厚さ方向位相差を小さくすることができる。また、本発明のフィルムは延伸性が良いため、このようにして薄い延伸フィルムを得ることができる。