特許第6407278号(P6407278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6407278アルケンを気相酸化して不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸にするための、機械的に安定な中空円筒形触媒成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407278
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】アルケンを気相酸化して不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸にするための、機械的に安定な中空円筒形触媒成形体
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/888 20060101AFI20181004BHJP
   B01J 23/882 20060101ALI20181004BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20181004BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20181004BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20181004BHJP
   C07C 51/25 20060101ALI20181004BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20181004BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20181004BHJP
【FI】
   B01J23/888 Z
   B01J23/882 Z
   B01J35/02 301A
   C07C47/22 A
   C07C45/35
   C07C51/25
   C07C57/05
   !C07B61/00 300
【請求項の数】15
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-529945(P2016-529945)
(86)(22)【出願日】2014年11月5日
(65)【公表番号】特表2016-538120(P2016-538120A)
(43)【公表日】2016年12月8日
(86)【国際出願番号】EP2014073820
(87)【国際公開番号】WO2015067659
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2017年10月27日
(31)【優先権主張番号】13192277.5
(32)【優先日】2013年11月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ マハト
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ヴァルスドルフ
(72)【発明者】
【氏名】コーネリア カタリーナ ドープナー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン リップ
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ハモン
(72)【発明者】
【氏名】カトリン アレクサンドラ ヴェルカー−ニーヴァウト
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ボアヒャート
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−012589(JP,A)
【文献】 特開平05−049938(JP,A)
【文献】 特表2007−505740(JP,A)
【文献】 特開昭58−119346(JP,A)
【文献】 特開2004−002323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07C 45/35
C07C 47/22
C07C 51/25
C07C 57/05
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケンを気相酸化してα,β−不飽和アルデヒド及び/又はα,β−不飽和カルボン酸にするための中空円筒形触媒成形体であって、該中空円筒形触媒成形体は、圧縮された複合金属酸化物を有し、外径AD、内径ID、及び高さHを備えるものであり、ここで
(i)ADは、3.5〜4.5mmの範囲で選択されており、
(ii)下記等式による比率q:
【数1】
は、0.4〜0.55の範囲で選択されており、かつ
(iii)下記等式による比率p:
【数2】
は、0.5〜0.95の範囲で選択されている、前記中空円筒形触媒成形体。
【請求項2】
ADが、3.7〜4.3mmの範囲で選択されている、請求項1に記載の中空円筒形触媒成形体。
【請求項3】
qが、0.45〜0.55mmの範囲で選択されている、請求項1又は2に記載の中空円筒形触媒成形体。
【請求項4】
pが、0.65〜0.9の範囲で選択されている、請求項1から3までのいずれか1項に記載の中空円筒形触媒成形体。
【請求項5】
触媒成形体の形状体積が、22〜34mm3である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の中空円筒形触媒成形体。
【請求項6】
触媒成形体の形状面積対、触媒成形体の形状体積の比率が、22〜32cm-1である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の中空円筒形触媒成形体。
【請求項7】
触媒成形体の密度が、1.2〜2.0g/cm3である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の中空円筒形触媒成形体。
【請求項8】
下記等式による値WS:
【数3】
が、0.8〜1.2mmの範囲で選択されている、請求項1から7までのいずれか1項に記載の中空円筒形触媒成形体。
【請求項9】
ADが3.7〜4.3mmの範囲で、Hが2.8〜3.2mmの範囲で、かつIDが1.8〜2.2mmの範囲で選択されている、請求項1から8までのいずれか1項に記載の中空円筒形触媒成形体。
【請求項10】
前記複合金属酸化物が、少なくともモリブデン、鉄、及びビスマスの元素を有する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の中空円筒形触媒成形体。
【請求項11】
以下の工程:
(i)複合金属酸化物の元素構成成分の供給源から、密接な乾燥混合物を作製する工程、
(ii)前記密接な乾燥混合物を圧縮して、中空円筒形成形体の前駆体にする工程、及び
(iii)350〜650℃の範囲の温度でか焼する工程
によって得られる、請求項1から10までのいずれか1項に記載の中空円筒形触媒成形体の製造方法
【請求項12】
前記密接な乾燥混合物を、タブレット化によって圧縮して、中空円筒形成形体の前駆体にする、請求項11に記載の中空円筒形触媒成形体の製造方法
【請求項13】
か焼の前に、触媒成形体の前駆体の最大相対質量低減率が1分あたり1%という値を超えない条件下で、前記中空円筒形成形体の前駆体を熱により前処理することによって得られる、請求項11又は12に記載の中空円筒形触媒成形体の製造方法
【請求項14】
アルケンを分子状酸素とともに、充填物が請求項1から10までのいずれか1項に記載の中空円筒形触媒成形体を有する触媒固定床に通す、α,β−不飽和アルデヒド及び/又はα,β−不飽和カルボン酸を製造するための方法。
【請求項15】
プロペンの気相酸化によってアクロレインを製造するための、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケンを気相酸化してα,β−不飽和アルデヒド及び/又はα,β−不飽和カルボン酸にするための中空円筒形触媒成形体に関し、この中空円筒形触媒成形体は、外径AD、内径ID、及び高さHを有する、圧縮された複合金属酸化物を有する。本発明はさらに、中空円筒形触媒成形体の製造方法、並びに有機化合物を不均一系触媒により部分気相酸化するための触媒としての、前記中空円筒形触媒成形体の使用、特にプロペンから部分気相酸化して、主生成物としてのアクロレインに、また副生成物としてのアクリル酸にするための触媒としての使用に関する。
【0002】
近年、α,β−不飽和アルデヒド及び/又はα,β−不飽和カルボン酸、特にアクロレイン及びアクリル酸の大規模工業的な製造は、実質的に、アルケンの不均一系触媒による部分酸化によって行われている(例えばDE-A103 36 386「プロペンの部分酸化によるアクリル酸の製造」参照)。
【0003】
中空円筒形は、触媒成形体に適した形状として知られている。
【0004】
米国特許第4,366,093号には、外径が3〜6mm、内径が少なくとも1.0mm、肉厚が最大1.5mm、そして高さが3〜6mmである中空円筒形触媒成形体が記載されている。具体的には、外径4mm、内径1.8mm、そして高さが3mmの中空円筒形成形触媒も開示されている。開示された中空円筒形成形触媒は、焼結酸化アルミニウムを含有し、この成形触媒から含浸によって、塩化銅を18質量%、及び塩化カリウムを1.5質量%含有する触媒成形体が得られた。この触媒成形体は、エテンをオキシクロロ化するために使用された。
【0005】
中空円筒形触媒成形体の使用はまた、アルケンを気相酸化してα,β−不飽和アルデヒド、及びα,β−不飽和カルボン酸にするための方法に、従来技術でも提案されている。
【0006】
US 4,438,217からは、プロペンからアクロレインへと気相酸化するための、複合金属酸化物を含有する中空円筒形触媒成形体の使用が知られている。特に、外径4mm、内径1.0mm、高さ4.4mm、肉厚2mmの触媒が開示されている。中空円筒形触媒成形体を用いることによって、同一の外径及び高さを有する中実円筒形の触媒成形体に比べて、選択性及び活性が向上し、圧力損失が低減し、伝熱性が改善する。
【0007】
DE 101 01 695 A1は、三次元物体に成形された混合酸化物活性物質を含有する固定床で、不均一系触媒により(メタ)アクリル酸の前駆体化合物を気相酸化する方法を記載しており、ここで三次元物体の表面には、少なくとも1つの中空空間が組み込まれており、三次元物体の体積対、基礎となる三次元基体の体積の比率は、最大0.63であり、物体の表面積対、物体の体積の比率は、少なくとも22cm-1である。複合金属酸化物を含有する中空円筒形触媒成形体、特に外径×高さ×内径が5.5×3×3.5mm(肉厚1mm)、6×3×4mm(肉厚1mm)、7×3×4.5mm(肉厚1.25mm)、7×3×5mm(肉厚1mm)であるものの使用が好ましいと述べられている。
【0008】
DE 101 01 695 A1の教示に相当する触媒成形体は、不均一系触媒によりプロペンを酸化するための方法における使用で、有価生成物形成(すなわち、アクロレインとアクリル酸の形成)の選択性改善につながった。
【0009】
気相において成形体寸法が、不均一系触媒による酸化の選択性と速度に影響を与えることが観察された理由は多分、いわゆる内部輸送影響による制限である。ここで、活性中心における反応体の本来の変換は、細孔構造の内部では反応速度を制限せず、触媒の細孔構造における反応体の拡散速度(すなわち、活性中心への反応体の輸送)が、制限工程となる。この物質輸送制限は、特有の拡散長を低減させることによって減少させることができる。物体の表面積対、物体の体積の比率が高い触媒成形体によって、特有の拡散長を減少させることにつながる。
【0010】
中空円筒形触媒成形体の表面積対体積の比率は、特に、肉厚の低減によって低下させることができる。
【0011】
アルケンをα,β−不飽和アルデヒド及び/又はα,β−不飽和カルボン酸へと気相酸化するための方法では、US 4,366,093でエチレンのオキシクロロ化のために記載された担持触媒に似た、複合金属酸化物を含有する三次元形状の中空円筒形触媒成形体が開示されていないことは、注目に値する。比較的厚い肉厚、比較的大きな外径、又は比較的大きな高さを有する形状のみが記載されている。
【0012】
特に輸送現象にとって重要な肉厚については、既にUS 4,438,217で開示された肉厚が非常に薄い触媒形状(内壁が比較的厚い)は明らかに、US 4,366,093で担持触媒のために開示された肉厚が非常に薄い実施態様よりも明らかに劣る。そこで、プロペン酸化法での従来技術に対して特徴的な、相応して肉厚が厚いリング状タブレットが、例えばDE 103 44 149 A1に見られる。この技術的教示を発展させるために、様々な評価、想像、又は考察が貢献し得る。この文脈では、触媒床の圧力損失、又は成形体の機械的安定性を考慮すべきである。しかしながら特に、粉末状前駆体の圧縮及び/又はタブレット化によって製造されている触媒の場合、その最適化には限界が示されている。非常に肉厚が薄い触媒成形体は、機械的安定性が不充分なため、例えば反応管への充填に際して、過剰な破断が起こってしまうからである。
【0013】
物体の表面積対、物体の体積の比率が高い(22cm-1以上)ことによる利点は、DE 101 01 695 A1から知られている。DE 101 01 695 A1の中空円筒形触媒成形体の肉厚は、1〜1.25mmの範囲にある。
【0014】
しかしながら、DE 101 01 695 A1の中空円筒形触媒成形体の欠点は、機械的安定性が低いことであり、三次元物体の体積対、基礎となる三次元基体の体積の比率が低い(0.63以下)ことにより、触媒充填物の触媒質量密度が低い。機械的安定性が低いことにより、大規模工業的な触媒製造における材料損失が大きくなり、また反応管への充填に際して過剰に破断することにより、管束型反応器の各反応管への貫流が不均一になり、収率の損失につながる。従って、触媒充填物の触媒質量密度が低いことは欠点である。それと言うのも、これによって条件付けられた比較的高い反応温度は、触媒失活の促進につながるからである。
【0015】
本発明の課題は、アルケンから有価生成物のα,β−不飽和アルデヒド及びα,β−不飽和カルボン酸にする部分酸化を高い選択性で触媒する、機械的に安定した触媒成形体を提供することである。さらなる課題は、触媒充填物の触媒質量密度が充分に高いことによって、許容可能な圧力損失で良好な貯蔵安定性を保証する、触媒成形体を提供することである。
【0016】
上記課題は、アルケンを気相酸化してα,β−不飽和アルデヒド及び/又はα,β−不飽和カルボン酸にするための中空円筒形触媒成形体によって解決されることが判明し、この中空円筒形触媒成形体は、外径AD、内径ID、及び高さHを有する、圧縮された複合金属酸化物を含有するものであり、ここで
(i)ADは、3.5〜4.5mmの範囲にあり、
(ii)下記等式による比率q:
【数1】
は、0.4〜0.55の範囲で、
かつ
下記等式による比率p:
【数2】
は、0.5〜1の範囲で選択する。
【0017】
中空円筒形触媒成形体は、反応器への充填に際して充分な機械的な安定性(破断安定性)を有する。用意する触媒粒子の機械的安定性のための基準は、以下の落下試験である:触媒50gを、長さ3m、内径23mmの垂直の管を通して落下させる。触媒は、管の真下にある陶器製のシャーレに落とし、衝突の際に生じる粉塵と破断物から分離する。分離された無傷の触媒成形体を秤量する。無傷の触媒成形体の割合は、この際に測定した質量を、落下試験に使用した触媒成形体の質量と比較することによって特定する。無傷の触媒成形体の割合は、機械的な負荷に対する触媒成形体の耐久性についての基準である。落下試験で測定された無傷の触媒成形体の割合は、好適には少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、さらに好ましくは少なくとも80%である。
【0018】
中空円筒形触媒成形体の横方向圧壊強度(Seitendruckfestigkeit)は一般的に、少なくとも4N、好ましくは少なくとも6N、特に好ましくは少なくとも7Nである。中空円筒形触媒成形体の横方向圧壊強度は通常、23N未満、たいてい20N未満、たいていは14N未満である。横方向圧壊強度は特に好ましくは、7〜14Nである。ここで横方向圧壊強度の実験的な測定は、WO 2005/030393及びWO 2007/017431に記載されたように行う。
【0019】
本発明による触媒成形体の中空円筒形形状は、軸が一致する、高さが同じ2個の円筒形によって記載することができる。円筒形の一方は、直径IDを有する。もう一方の円筒形は、直径ADを有する。内部円筒形の外側表面は、中空円筒形触媒成形体の内部表面と一致する。外部円筒形の外側表面は、中空円筒形触媒成形体の外部表面と一致する。
【0020】
外径ADは好適には、3.6〜4.4mmの範囲、好ましくは3.7〜4.3mmの範囲、特に好ましくは3.8〜4.2mmの範囲で選択する。
【0021】
商qは、中空円筒形触媒成形体の内径対、中空円筒形触媒成形体の外径の比率に相当する。qは好適には、0.45〜0.55の範囲で選択される。
【0022】
商pは、中空円筒形触媒成形体の高さ対、中空円筒形触媒成形体の外径の比率に相当する。pは好適には、0.60〜0.95の範囲、特に好ましくは0.65〜0.90の範囲で選択される。
【0023】
中空円筒形触媒成形体の形状体積は好適には、22〜34mm3である。この形状体積は、中空円筒形の高さH、外径AD、及び内径IDに基づき、算出することができる。寸法がAD=4mm、H=3mm、及びID=2mmの中空円筒形は例えば、28.27mm3の形状体積を有する。
【0024】
触媒成形体の形状体積対、基礎となる形状基体の体積の比率は、好適には0.7〜0.85である。基礎となる形状基体とは、触媒成形体を取り囲む形状基体とみなされる。中空円筒形の基礎となる形状基体は、ADが同じでHが同じ中実円筒形である。
【0025】
触媒成形体の形状面積対、触媒成形体の形状体積の比率(以下、有効面積とも呼ぶ)は、好適には22〜32cm-1である。形状面積とは理想化された大きさであり、成形体の多孔性又は表面粗さによって条件付けられる表面増大を考慮していない。中空円筒形触媒成形体の形状面積は、以下の式によって算出される:
【数3】
【0026】
中空円筒形触媒成形体の密度は好適には、1.2〜2.0g/cm3である。この密度は、触媒成形体の質量を、その形状体積で割ることによって算出される。
【0027】
中空円筒形触媒成形体の肉厚WSが薄いことが有利である。それと言うのも、これにより触媒成形体の有効表面増大につながるからであり、このことは、特有の拡散長の減少、及びこれによる有価生成物選択性の向上、及び目的生成物形成速度の向上につながる。一方、肉厚は任意で減少させることができない。それと言うのもさもなくば、触媒成形体の機械的な耐久性が、著しく低下するからである。従ってWSの値は、以下の等式:
【数4】
の通りであり、好適には0.8〜1.2mmの範囲、好ましくは0.8〜1.1mmの範囲、特に好ましくは0.85〜1.05mmの範囲で選択する。
【0028】
本発明による好ましい中空円筒形触媒成形体は、外径が3.7mm〜4.3mmの範囲、高さが2.3〜3.2mmの範囲、内径が1.8〜2.2mmの範囲にある。本発明による特に好ましい中空円筒形触媒成形体は、外径が3.9mm〜4.1mmの範囲、高さが2.9〜3.1mmの範囲、内径が1.9〜2.1mmの範囲にある。本発明による極めて特に好ましい中空円筒形触媒成形体は、外径が4mm、高さが3mm、内径が2mmである。
【0029】
中空円筒形触媒成形体の端面は、EP-A 184790、又はUS 4,656,157の双方、又はその一方のみに記載されたカーブ状であってもよく、例えばこのカーブの半径は好適には、外径Aの0.4〜5倍である。本発明によれば、端面はいずれもカーブしていないのが好ましい。
【0030】
中空円筒形触媒成形体は、圧縮された複合金属酸化物を含有する。中空円筒形触媒成形体は好適には、主に、特に80〜100質量%、さらに好ましくは85〜100質量%、特に好ましくは90〜100質量%が、圧縮された複合金属酸化物(いわゆる非担持型触媒成形体)から成る。加えて、中空円筒形触媒成形体は特に、成形助剤、例えば強化剤を含有することができる。強化剤としては特に、マイクロ繊維が考慮される。マイクロ繊維は例えば、ガラス、アスベスト、炭化ケイ素、又はチタン酸カリウムから成り得る。これらは、成形体の結合性に有益な影響を与える。
【0031】
加えて、中空円筒形触媒成形体は、滑剤、例えば黒鉛を含有することができる。好ましい滑剤は、黒鉛、カーボンブラック、ポリエチレングリコール、ステアリン酸、デンプン、ポリアクリル酸、鉱油、若しくは植物油、水、グリセリン、セルロースエーテル、三フッ化ホウ素、及び/又は窒化ホウ素である。特に好ましい滑剤は、黒鉛である。前述の添加量は通常、0.5質量%以上、たいていは2.5質量%以上である。本発明に従って添加するのが好ましい黒鉛は、Timcal T44、Asbury 3160、及びAsbury 4012である。滑剤は、完全に若しくは部分的に気体状化合物(例えばCO、CO2)の形で、特にか焼の際に放出される。
【0032】
アルケンを気相酸化してα,β−不飽和アルデヒド及び/又はα,β−不飽和カルボン酸にするための複合金属酸化物は、それ自体公知である。従って、気相酸化を触媒可能なあらゆる複合金属酸化物が考慮される。複合金属酸化物は好適には、少なくとも鉄、ビスマスの元素、及びモリブデン及びタングステンのうち少なくとも1つの元素を含有する(例えば少なくともモリブデン、鉄、及びビスマスの元素)。
【0033】
複合金属酸化物は例えば、式(I)に相当し得る:
【化1】
上記式中、
1は、ニッケル及び/又はコバルトであり、
2は、タリウム、アルカリ金属、及び/又はアルカリ土類金属であり、
3は、亜鉛、リン、ヒ素、ホウ素、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、バナジウム、クロム、及び/又はタングステンであり、
4は、ケイ素、アルミニウム、チタン、及び/又はジルコニウムであり、
aは、0.2〜5の範囲の数であり、
bは、0.01〜10の範囲の数であり、
cは、0〜10の範囲の数であり、
dは、0〜2の範囲の数であり、
eは、0〜8の範囲の数であり、
fは、0〜10の範囲の数であり、かつ
nは、式(I)中の酸素とは異なる元素の価数と頻度によって特定される数であり、
又は式(II)に相当し得る:
【化2】
【0034】
1は、ビスマス、又はビスマスとテルル、アンチモン、スズ、及び銅の元素のうち少なくとも1種であり、
2は、モリブデン若しくはタングステン、又はモリブデン及びタングステンであり、
3は、アルカリ金属、タリウム、及び/又はサマリウムであり、
4は、アルカリ土類金属、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、スズ、カドミウム、及び/又は水銀であり、
5は、鉄、又は鉄とバナジウム、クロム、及びセリウムの元素のうち少なくとも1種であり、
6は、リン、ヒ素、ホウ素、アンチモン、及び/又はビスマスであり、
7は、希土類金属、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、レニウム、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、金、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、鉛、トリウム、及び/又はウランであり、
8は、モリブデン若しくはタングステン、又はモリブデン及びタングステンであり、
a’は、0.01〜8の範囲の数であり、
b’は、0.1〜30の範囲の数であり、
c’は、0〜4の範囲の数であり、
d’は、0〜20の範囲の数であり、
e’は、0〜20の範囲にある0より大きい数であり、
f’は、0〜6の範囲の数であり、
g’は、0〜15の範囲の数であり、
h’は、8〜16の範囲の数であり、
x’及びy’は、式(II)中の酸素とは異なる元素の価数と頻度によって特定される数であり、かつ
p及びqは、その比率p/qが、0.1〜10である数である。
【0035】
式(I)中において、化学量論的な係数bは好適には2〜4、化学量論的な係数cは好適には3〜10、化学量論的な係数dは好適には0.02〜2、化学量論的な係数eは好適には0〜5、化学量論的な係数aは好適には0.4〜2である。化学量論的な係数fは有利には、0.5又は1〜10である。特に好ましくは、上記化学量論的な係数は同時に、上記好ましい範囲にある。
【0036】
さらにX1は好適にはコバルトであり、X2は好適にはK、Cs、及び/又はSrであり、特に好ましくはKであり、X3は好適にはタングステン、亜鉛、及び/又はリンであり、かつX4は好適にはSiである。特に好ましくは、変項X1〜X4は同時に、上記意味を有する。
【0037】
特に好ましくは、全ての化学量論的な係数a〜f、及び全ての変項X1〜X4は同時に、上記有利な意味を有する。
【0038】
式(I)の化学量論内では、式(Ia)に相当するものが好ましい;
【化3】
上記式中、
1は、Co及び/又はNiであり、
2はアルカリ金属であり、
4は、Si及び/又はAlであり、
aは、0.3〜1の範囲の数であり、
bは、0.5〜10の範囲の数であり、
cは、2〜10の範囲の数であり、
dは、0〜0.5の範囲の数であり、
fは、0〜10の範囲の数であり、かつ
nは、式(Ia)中の酸素とは異なる元素の価数と頻度によって特定される数である。
【0039】
好適には、式(I)の複合金属酸化物の結晶割合中に、主成分としてのβ−X1MoO4以外に、副成分としてのFe2(MoO43が存在し、MoO3は存在しない。
【0040】
式(Ia)の金属酸化物のうち、コバルト含有複合金属酸化物が特に有用であると実証されている。特に好ましい実施態様において、複合金属酸化物は式(Ia)に相当し、ここでX1はCoであり、X2はKであり、X4はSiであり、aは0.5〜1の範囲の数であり、bは1.5〜3の範囲の数であり、cは7〜8.5の範囲の数であり、dは0〜0.15の範囲の数であり、fは0〜2.5の範囲の数である。
【0041】
式(Ia)に記載の複合金属酸化物の組成は、Mo12Bi0.6Fe3Co70.08Si1.6nが好ましく、Mo12Bi0.6Fe2.1Co8.30.08Si1.6nが特に好ましい。
【0042】
式(Ia)の複合金属酸化物は好適には、以下の条件1、2、及び3を満たす:
条件1:12−c−1.5×b=A、ここでAは、0.5〜1.5の範囲の数であり、
条件2:商a/Aが、0.2〜1.3の範囲の数であり、
条件3:商c/bが、2.5〜9の範囲の数である。
【0043】
式(II)の複合金属酸化物において、化学組成[Y1a'2b'x']の範囲、及び化学組成[Y3C'4d'5e'6f'7g'8h'y']の範囲は、相互に相対的に、例えば微粒子状の[Y1a'2b'x']、及び微粒子状の[Y3c'4d'5e'6f'7g'8h'y']との混合物中のように分布している。
【0044】
ここで、三次元的な広がりを有し、その局所的な環境とは異なる組成が原因でその局所的な環境とは区別されるY1a'2b'x'という化学組成の領域を有する、式(II)の複合金属酸化物が好ましく、その最大直径(領域の表面(界面)に存在する2つの点の間を、領域の重心を通って結んだ最長の線)は、1nm〜100μm、しばしば10nm〜500nm、又は1μm〜50μm若しくは25μmである。
【0045】
さらに、化学量論(II)の複合金属酸化物の[Y1a'2b'x'pの全体の割合の少なくとも25mol%(好ましくは少なくとも50mol%、特に好ましくは100mol%)が、化学量論(II)の複合金属酸化物において三次元の広がりを有する、その局所的な環境とは異なる化学組成が原因でその局所的な環境とは区別されるY1a'2b'x'という化学組成の領域の形で存在すれば有利であり、その最大直径は、1nm〜100μmの範囲である。
【0046】
化学量論(II)の有利な複合金属酸化物は、Y1が、ビスマスのみのものである。式(II)の複合金属酸化物のうち、式(IIa)に相当するものが好ましい;
【化4】
上記式中、
2は、モリブデン若しくはタングステン、又はモリブデン及びタングステンであり、
3は、アルカリ金属及び/又はタリウム、好適にはK、Csであり、
4は、アルカリ土類金属、ニッケル、コバルト、及び/又はスズであり、
6は、リン、ヒ素、ホウ素、アンチモン、及び/又はビスマスであり、
7は、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素、銅、銀、及び/又は金であり、好適にはSiであり、
8は、モリブデン若しくはタングステン、又はモリブデン及びタングステンであり、
a’は、0.1〜2の範囲の数であり、
b’は、0.2〜4の範囲の数であり、
c’は、0.02〜2の範囲の数であり、
d’は、3〜10の範囲の数であり、
e’は、0.01〜5、好適には0.1〜4の範囲の数であり、
f’は、0〜5の範囲の数であり、
g’は、0〜10の範囲の数であり、好適には0〜10の範囲にある0より大きい数であり、特に好ましくは0.2〜10の範囲にある数であり、極めて特に好ましくは0.4〜3の範囲にある数であり、
x’及びy’は、式(IIa)中の酸素とは異なる元素の価数と頻度によって特定される数であり、かつ
p及びqは、その比率p/qが、0.1〜5、好適には0.4〜2である数である。
【0047】
式(IIa)の複合金属酸化物のうち、Y2がタングステンであり、Y8がモリブデンであるものが好ましい。
【0048】
さらに、三次元的な広がりを有し、その局所的な環境とは異なる化学組成が原因でその局所的な環境とは区別されるBia'2b'x'という化学組成の領域を有する、化学量論(IIa)の複合金属酸化物が好ましく、その最大直径(領域の表面(界面)に存在する2つの点の間を、領域の重心を通って結んだ最長の線)は、1nm〜100μm、しばしば10nm〜500nm、又は1μm〜50μm若しくは25μmである。
【0049】
相応して、化学量論(IIa)の複合金属酸化物の[Bia'2b'x'pの全体の割合の少なくとも25mol%(好ましくは少なくとも50mol%、特に好ましくは少なくとも100mol%)が、化学量論(IIa)の複合金属酸化物において三次元の広がりを有する、その局所的な環境とは異なる化学組成が原因でその局所的な環境とは区別される[Bia'2b'x']という化学組成の領域の形で存在すれば有利であり、その最大直径は、1nm〜100μmである。
【0050】
(IIa)による複合金属酸化物の組成は例えば、[Bi229・2WO30.50[Mo12Co5.4Fe3.1Si1.50.08y']、[Bi12x'0.5[K0.08Co5.5Fe3Si1.6Mo12y']、又は[Bi12X'0.4[K0.08Co5.5Fe3Si1.6Mo12y']、好適には[Bi229・2WO30.50[MO12CO5.4Fe3.1Si1.50.08y']である。
【0051】
複合金属酸化物は好適には、元素酸化物(例えば酸化鉄)製の局所的な中心を実質的に有さないことを特徴とする。これらの元素はむしろ事実上、錯体の混合型オキソモリブデートの構成要素である。これにより、有機の反応ガス構成要素の不所望な完全燃焼が減少する。
【0052】
複合金属酸化物は、(特に酸素とは異なる)元素の構成成分の適切な供給源から、好適には微粒子状の、各化学量論に相応して構成された、密接な乾燥混合物を作成し、これを選択的に成形助剤を用いて、圧縮(成形)して中空円筒形の成形体にした後、350〜650℃の範囲の温度でか焼することによって製造することができる。このか焼は、不活性ガス下、また酸化性雰囲気、例えば空気(又は不活性ガスと、分子状酸素との別の混合物)下、また還元性雰囲気(例えば不活性ガス、NH3、CO、及び/又はH2からの混合物)下、又は真空下で行うことができる。か焼時間は、数分から数時間であってよく、通常はか焼温度により減少する。中空円筒形触媒成形体の前駆体のか焼には通常、数時間(たいていは5時間超)かかる。か焼の合計時間はしばしば、10時間超にわたる。か焼の合計時間は好適には、45時間、又は25時間を超えない。
【0053】
密接な乾燥混合物は、圧縮を行った後に初めて、か焼するのが好ましい。この場合、か焼後に直ちに、中空円筒形の触媒成形体が得られる。本発明の対象はまた、以下の工程により得られる、中空円筒形触媒成形体である:
(i)複合金属酸化物の元素の構成成分の供給源から、密接な乾燥混合物を作成する工程、
(ii)密接な乾燥混合物を圧縮して、中空円筒形成形体の前駆体にする工程、
(iii)350〜650℃の範囲の温度でか焼する工程。
【0054】
好適には、密接な乾燥混合物をタブレット化によって圧縮し、中空円筒形成形体の前駆体にする。
【0055】
本明細書において供給源とは、複合金属酸化物を製造するための出発物質を言う。
【0056】
供給源としては、既に金属酸化物中に含有されている金属の酸化物である化合物、及び/又は少なくとも酸素の存在下における加熱によって、酸化物へと移行可能な化合物が考慮される。
【0057】
酸化物に加えて、供給源としては特に、金属酸化物中に含有されている金属のハロゲン化物、硝酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、アミン錯体、アンモニウム塩、及び/又は水酸化物、並びに上記塩の水和物が考慮される。NH4OH、(NH4)CO3、NH4NO3、NH4CHO2、CH3COOH、NH4CH3CO2、及び/又はシュウ酸アンモニウムといった化合物(遅くとも後のか焼の際に分解及び/又は崩壊して気体状で放出される化合物になり得るもの)は、密接な乾燥混合物へとさらに加工することができる。か焼の際に分解する物質としてはまた、有機材料、例えばステアリン酸、マロン酸、上記酸のアンモニウム塩、デンプン(例えばジャガイモデンプン、及びコーンスターチ)、セルロース、粉砕したナッツの殻、及び微粒子状のプラスチック粉砕物(例えばポリエチレンやポリプロピレン製のものなど)が考慮される。
【0058】
複合金属酸化物を製造するための供給源の密接な混合は、乾燥状態、又は湿潤状態で行うことができる。これを乾燥状態で行う場合、供給源は適切には、微粒子状粉末として使用する。しかしながら密接な混合は、湿潤状態で行うのが好ましい。
【0059】
ここで本発明によれば、供給源を溶液及び/又は懸濁液の形で相互に混合し、その際に生じる湿潤混合物を引き続き乾燥させて、密接な乾燥混合物にすることが有利である。溶剤及び/又は懸濁剤としては、水、及び/又は水溶液を使用するのが好ましい。
【0060】
特に密接な乾燥混合物は、前述の混合法で、溶解された形でのみ存在する、元素の構成成分の供給源から、及び/又はコロイド状に溶解した、元素の構成成分の供給源から出発すると得られる。出発化合物は一般的に、1種のみ、又は1種より多い元素の構成成分のための供給源であり得る。これに相応して、先に述べた溶解された形、及び/又はコロイド状で存在する供給源は、1種のみ、又は1種より多い元素の構成要素を有することができる。生成する湿潤混合物の乾燥は、好適には噴霧乾燥によって行う。
【0061】
元素のケイ素は例えばシリカゾルの形で、湿潤混合物を作成するために導入することができる。シリカゾルは、非晶質二酸化ケイ素を水中に入れたコロイド溶液である。この溶液は水のように流動性であり、沈殿し得る構成要素を含有しない。そのSiO2含分は、しばしば何年にもわたって(沈殿せずに)、最大50質量%以上であり得る。
【0062】
供給源はまた、部分的に溶解していてもよく、また部分的にコロイド状で存在し得る。
【0063】
有利なMo供給源は、アンモニウムヘプタモリブデート四水和物である。Mo供給源としてさらにあり得るのは、アンモニウムオルトモリブデート((NH42MoO4)、アンモニウムジモリブデート((ΝΗ42Μo27)、アンモニウムテトラモリブデート二水和物((NH42Mo413×5H2O)、及びアンモニウムデカモリブデート二水和物((NH44Mo1032×2H2O)である。しかしながら基本的には、例えば三酸化モリブデンも使用できる。
【0064】
好ましいK供給源は、KOH(水酸化カリウム)である。しかしながら基本的には、KNO3、及び/又はその水和物もK供給源として使用できる。
【0065】
好ましいBi供給源は、BiをBi3+として有する。Bi供給源としては例えば、酸化ビスマス(III)、ビスマス(III)オキシドニトレート(次硝酸ビスマス)、ハロゲン化ビスマス(III)(例えばフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)であり、特に硝酸ビスマス(III)五水和物が考慮される。
【0066】
W供給源としては、好適にはタングステン酸、又はタングステン酸のアンモニウム塩が用いられる。水中で実質的に不溶性のタングステン酸は、好適には微粒子状粉末として使用する。微粒子状粉末のd90は、適用技術において適切には、5μm以下、又は2μm以下、好適には0.1〜1μmである。
【0067】
好ましいFe供給源は、Fe3+の塩であり、このうち硝酸鉄(III)水和物が、特に好ましい(例えばDE-A 102007003076参照)。特に好ましいFe供給源は、硝酸鉄(III)九水和物である。もちろんまた、Fe2+の塩も、Fe供給源として使用できる。
【0068】
複合金属酸化物を製造するためには、その中に含有されているFeの合計モル量に対して、少なくとも50mol%、より好ましくは少なくとも75mol%、好ましくは少なくとも95mol%を、FeをFe3+として有するFe供給源の形で導入する。Fe2+と同様にFe3+も有するFe供給源もまた、使用できる。
【0069】
適切なCo供給源は、CoをCo2+及び/又はCo3+として有するコバルト塩である。このようなものとしては例えば、硝酸コバルト(II)六水和物、Co34、CoO、ギ酸コバルト(II)、及び硝酸コバルト(III)が挙げられる。硝酸コバルト(II)六水和物が好ましい。
【0070】
湿潤混合物の製造は一般的には、空気中で行うのが好ましい(湿潤混合物が空気で飽和されているのが有利である)。このことは特に、Co供給源及びFe供給源として、Co2+の塩、またFe2+の塩を使用する場合に当てはまる。これらの塩が、硝酸塩及び/又はその水和物である場合は、特にそうである。
【0071】
複合金属酸化物を製造するための供給源の密接な混合は、湿潤状態で、特に好ましくは水性の状態で行うのが好ましい。
【0072】
例えば、元素Co、Fe、及びBiの供給源少なくとも1つから、水溶液Aを作製することができる。水溶液Aは、Co、Bi、及びFeの硝酸塩及び/又は硝酸塩水和物の水溶液であるのが好ましい。水溶液Aが、水性硝酸中の硝酸塩及び/又は硝酸塩水和物の水溶液であるのが、特に好ましい。このような溶液はまた、水性硝酸中で相応する金属を溶解させることによって得ることができる。
【0073】
元素Moの供給源少なくとも1つから、また選択的には元素Kの供給源1つ以上から、水溶液Bを作製することができる。
【0074】
水溶液Bを調製するためのMo供給源は、アンモニウムヘプタモリブデート四水和物((NH46Mo724×4H2O)であるのが好ましい。水溶液BがKを含有する場合、水溶液Bを調製するための供給源としては、KOHを使用するのが有利である。
【0075】
水溶液Aについて、Co、Fe、及びBiの合計含分は、水溶液A中に含有される水の量に対して適切には、10〜25質量%、有利には15〜20質量%である。
【0076】
水溶液Bについて、Moの合計含分は、水溶液B中に含有される水の量に対して適切には、3〜25質量%、有利には5〜15質量%である。
【0077】
水溶液A及び水溶液Bを、相互に混合するのが好ましい。この際、水溶液Aを連続的に水溶液Bに入れて撹拌するように行うことが有利であり、ここで初充填した水溶液Bは、その際に激しく撹拌するのが好ましい。水溶液Aと水溶液Bとから生じる湿潤混合物について、Mo、Co、Fe、及びBiの合計含分は適切には、湿潤混合物中に含有される水の量に対して、5〜25質量%、有利には8〜20質量%である。
【0078】
一般式II又はIIaの化学量論の活性物質を製造するために、混合酸化物のY1a'2b'x'、及び/又はBia'2b'x'を、元素Y1、Y2、及び/又はBi、Y2の供給源として、複合金属酸化物のその他の構成成分の不在下で事前に作製することが有利である。
【0079】
混合酸化物のY1a'2b'x'、及び/又はBia'2b'x'は好適には、少なくとも1つのBi供給源、及び少なくとも1種のW供給源を水性媒体中で相互に密接に混合し、この水性混合物を乾燥、例えば噴霧乾燥することによって、事前に作製する。この際に生じる乾燥物体を、400〜900℃の範囲の温度(好適には600〜900℃、特に好ましくは700〜900℃)でか焼する。続いて、この際に生じるか焼体を分割して、微粒子状の出発材料にする。すなわち、前述の中空円筒形触媒成形体は、前述のように工程(i)、(ii)、及び(iii)によって得られるが、工程(i)から出発する混合酸化物の形成は、か焼工程を包含することもできる。
【0080】
混合酸化物を製造する際のか焼温度は好適には、か焼生成物が特定の相組成に達するようにする一方で、か焼された材料のBET比表面積が、0.2m2/g以上になるように調整する。WO3(単斜)及びBi229(面心斜方)の相が望ましく、γ−Bi2WO6(ルッセライト)の存在は望ましくない。か焼後に化合物γ−Bi2WO6の割合が5強度%超の場合(X線粉末回折図において2Θ=28.4°(CuKα放射)におけるγ−Bi2WO6の回折反射の強度対、2Θ=30.0°におけるBi229の反射強度の比率として算出)、好適には製造を繰り返し、か焼温度を上昇させるか、又は同じか焼温度で滞留時間を伸ばして、5強度%という境界値に達するか、又はこれを下回るようにする。
【0081】
一般式II又はIIaの化学量論の活性物質を製造するためにはさらに、複合金属酸化物のその他の構成成分の供給源を、Bi及びWの元素の不在下で事前混合して、その他の構成成分の事前混合物を得ることが有利である。複合金属酸化物のその他の構成成分の供給源は、溶液及び/又は懸濁液の形で相互に予備混合するのが好ましい。溶剤及び/又は懸濁剤としては、水、及び/又は水溶液を使用するのが好ましい。こうして得られた混合物は、乾燥、好適には噴霧乾燥によって、乾燥した予備混合物にするのが好ましい。
【0082】
事前作製の後、混合酸化物は、複合金属酸化物のその他の構成成分の供給源と、好適にはその他の構成成分の予備混合物と、特に好ましくはその他の構成成分の乾燥した事前混合物と、ひとつにまとめ、この際に場合によっては乾燥後、好適には噴霧乾燥後に、複合金属酸化物の元素の構成成分の供給源の密接な乾燥混合物が得られる。
【0083】
混合酸化物が、密接な乾燥混合物の製造の際に、溶剤、特に水と接触する場合、混合酸化物のY1a'2b'x'、及び/又はBia'2b'x'が、顕著な規模で溶液に行かないよう注意するのが好ましい。上述の製造法は、DE-A 4407020、EP-A 835、EP-A 575897、及びDE-C 3338380の文献に詳細に記載されている。
【0084】
複合金属酸化物が、元素の構成成分Siを含有する場合、その供給源としては水性シリカゾル(例えばDE-A 102006044520参照)を使用して、これを適切に、湿潤混合物に入れて撹拌するのが有利であり、ここで湿潤混合物は事前に水に添加することができる。水性シリカゾル及び水は、同時に添加するのが好ましい。
【0085】
密接な乾燥混合物を製造する過程で、前述のように様々な加工段階、乾燥段階、好適には噴霧乾燥工程を行うことができる。噴霧乾燥の場合、各加工段階において乾燥させる混合物をまず微粒子状液滴に分け、そして微粒子状の液滴を、引き続き乾燥させる。噴霧乾燥は、熱した空気流中で行うのが好ましい。しかしながら基本的には、噴霧乾燥のためにはその他の熱い気体を使用することもできる(例えば窒素、又は窒素で希釈した空気、又はその他の不活性ガス)。
【0086】
ここで噴霧乾燥は、熱した気体に対して、液滴の並流でも、向流でも行うことができる。ここで、通常のガス取り入れ温度は、250〜450℃の範囲、好適には270〜370℃の範囲にある。通常のガス排出温度は、100〜160℃の範囲にある。噴霧乾燥は、熱したガスに対して、液滴の並流で行うのが好ましい。
【0087】
噴霧乾燥によって行う代わりに、各加工工程において乾燥させる混合物を慣用の蒸発(好適には減圧下で、乾燥温度は通常の場合、150℃を超えない)によって乾燥させることもできる。基本的には、乾燥は凍結乾燥によって行うこともできる。
【0088】
密接な乾燥混合物は基本的に、そのままか焼することもできる。しかしながら、密接な乾燥混合物はしばしば、直接か焼するには微細すぎる。
【0089】
密接な乾燥混合物は、後続の稠密化によって粗大化することができる(通常は100μm〜1mmの粒度に)。続いて、粗大化した粉末を用いて、中空円筒形成形体の前駆体を成形することができ、ここで必要な場合には、事前に再度、微粒子状の滑剤を添加することができる。粒度を大きくするためのこのような稠密化は、例えばHosokawa Bepex GmbH社(D-7421 1 Leingarten在)の圧縮機K 200/100型によって行うことができる。
【0090】
中空円筒形触媒成形体の高い機械的安定性を保証するため、得られる粗大化された粉末粒子が、成形され、か焼されていない中空円筒形成形体の前駆体の目標密度を明らかに下回るかさ密度を有するように、稠密化を制御する。すなわち、(例えばタブレット化による)成形に際して、粗大化した粉末粒子の圧縮を充分に行う。
【0091】
稠密化を乾燥状態で行う場合、稠密化の前に例えば、微粒子状黒鉛、及び/又は本明細書に挙げたその他の成形助剤(例えば滑剤、及び/又は強化剤)を、密接な乾燥混合物と混合することができる(例えばドラムフープ式混合機により)。稠密化は例えば、対向する2つの鋼製ローラを有するカレンダーによって行うことができる。続いて稠密体を、意図するさらなる使用のために測定された粒径へと適切に微粉砕して、微粒子状前駆体材料にすることができる。これは例えば、稠密体を規定の網目幅を有する篩いに押しつけることによって行うことができる。
【0092】
しかしながら稠密化は基本的に、湿潤状態で行うこともできる。例えば密接な乾燥混合物は、水を添加しながら混練することができる。混練に続いて、混練した物体を後続の使用に調整し、微粉砕して所望の微粒子度にし(例えばDE-A 10049873参照)、乾燥させて微粒子状前駆体材料にすることができる。
【0093】
上記のようにして得られる微粒子状前駆体材料は、そのままか焼するか、又はまず成形して中空円筒形成形体の前駆体にし、続いてか焼することができる。
【0094】
微粒子状前駆体材料をそのままか焼する場合、引き続き、中空円筒形の形に圧縮することによって(例えばタブレット化、押出成形、又はストランド成形によって)、中空円筒形触媒成形体を製造することができ、ここで任意の助剤、例えば黒鉛、又はステアリン酸を滑剤として、及び/又は成形助剤、及び強化剤、例えばガラス、アスベスト、炭化ケイ素、又はチタン酸カリウム製のマイクロ繊維を、添加することができる。
【0095】
密接な乾燥混合物は好適には、中空円筒形成形体の前駆体へと圧縮することによって成形し、中空円筒形成形体の前駆体はか焼によって、中空円筒形触媒成形体へと移行させる。
【0096】
この措置は特に、複合金属酸化物の元素構成成分の供給源を乾燥状態で密接混合して、微粒子状の密接な乾燥混合物にする場合に好ましい(例えばWO 2008/087116、及びDE-A 102008042060参照)。
【0097】
ここで成形助剤としては例えば、滑剤、例えば黒鉛、カーボンブラック、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ステアリン酸、デンプン、鉱油、植物油、水、グリセリン、セルロースエーテル、三フッ化ホウ素、及び/又は窒化ホウ素を添加することができる。成形助剤としてはさらに、強化剤、例えばガラス、アスベスト、炭化ケイ素、又はチタン酸カリウム製のマイクロ繊維が考慮され、これらは圧縮の終了後、生成する成形体の前駆体の結合性に良い影響を与える。相応する圧縮の範囲における滑剤の併用は、例えばDE-A 102007004961、WO 2008/087116、WO 2005/030393、US-A 2005/0131253、WO 2007/017431、DE-A 102007005606、及びDE-A 102008040093といった文献に見られる。
【0098】
滑剤としては、微粒子状の黒鉛のみを用いるのが好ましい。ここで、使用すべき微粒子状黒鉛としては特に、WO 2005/030393、US-A 2005/0131253、WO 2008/087116、及びDE-A 102007005606の文献で推奨されたものが考慮される。これは特に、これらの文献において実施例及び比較例で使用された黒鉛について当てはまる。極めて特に好ましい黒鉛は、米国New Jersey 08802在、Asbury Graphite Mills, Inc.社製のAsbury 3160とAsbury 4012、及びスイス国Bodio 6743在、Timcal Ltd.社のTimrex(登録商標)T44である。非担持型触媒成形体の前駆体へと成形する物体に対して、本発明により使用する黒鉛を通常は、合計で15質量%以下、たいていは9質量%以下、多くは5質量%以下、しばしば4質量%以下、添加する。
【0099】
密接な乾燥混合物の質量に対して、これは例えば、微粒子状滑剤(例えば黒鉛)を最大15質量%含有することができる。しかしながら滑剤含分はたいてい、最大9質量%、多くは最大5質量%、しばしば最大4質量%である。微粒子状滑剤が黒鉛である場合には、特にそうである。前述の添加量は通常、少なくとも0.5質量%、たいていは少なくとも2.5質量%である。
【0100】
一般的に、中空円筒形成形体の前駆体への圧縮は、外的な力(圧力)を乾燥混合物に作用させることによって行う。この際に適用すべき成形装置、及び/又はこの際に適用される成形法は、何ら制限されることはない。
【0101】
圧縮は例えば、ストランド成形、タブレット化、又は押出成形によって行うことができる。ここで、密接な乾燥混合物は、手で触れて乾いた状態で使用するのが好ましい。しかしながら例えば、その合計質量の最大10%、標準条件下(25℃、1気圧(1.01bar))で液状の物質を含有することができる。密接な乾燥混合物はまた、化学的、及び/又は物理的に結合された状態の液状物質を有する固体溶媒和物(例えば水和物)を含有することができる。密接な乾燥混合物はまた、このような物質について完全に不含であり得る。
【0102】
好ましい成形法は、タブレット化である。タブレット化の概要は例えば、"Die Tablette", Handbuch der Entwicklung, Herstellung und Qualitaetssicherung, W. A. Ritschel 、及びA. Bauer-Brandl, 2. Auflage, Edition Verlag Aulendorf, 2002に記載されており、密接な乾燥混合物のタブレット化については、転用できる。
【0103】
中空円筒形成形体の前駆体へと成形するためには例えば、Kilianロータリープレス機(Koeln D-50735在、Kilian社製)RX 73型、又はS 100型が考慮される。或いは、Berlin D-13509在、Korsch社製のタブレットプレス機(PH 800-65型)が使用できる。
【0104】
タブレット化の際、タブレット化機を取り囲む温度は通常、25℃である。適用技術に応じて、密接な乾燥混合物の粒径は、選択的に稠密化による事前の粗大化の結果として、100〜2000μmの範囲、好ましくは150〜1500μmの範囲、特に好ましくは400〜1250μmの範囲、又は400〜1000μmの範囲、又は400〜800μmの範囲である(圧縮の前に混入した成形助剤については、ここでは考慮していない)。成形圧力は有利には、50〜5000kg/cm2、好ましくは200〜3500kg/cm2、特に好ましくは600〜2500kg/cm2である。
【0105】
中空円筒形成形体の前駆体は、できるだけ残留湿分が少ないのが好ましい。
【0106】
中空円筒形成形体の前駆体の残留湿分は好適には、最大10質量%、より好ましくは最大8質量%、さらに好適には最大6質量%、最も好適には最大4質量%、又は最大2質量%である(ここで残留湿分の測定は、"Die Bibliothek der Technik", Band 229, "Ther-mogravimetrische Materialfeuchtebestimmung", Grundlagen und praktische Anwendungen, Horst Nagel, Verlag moderne Industrieに記載されたように、例えばArizona Instruments社製のComputrac MAX 5000 XLを用いて行うことができる)。
【0107】
こうした背景から、生成する密接な乾燥混合物の残留湿分ができるだけ少なくなるように、湿潤混合物の噴霧乾燥を行うのが望ましい。
【0108】
中空円筒形成形体の前駆体は、できる限り(空気中に湿分を有する)周辺空気を遮断して貯蔵するのが望ましい(か焼までの貯蔵は好適には、無水の不活性ガス、及び/又は事前に乾燥させた空気の下で行う)。
【0109】
有利には、密接な乾燥混合物の圧縮は、既に(空気中に湿分を有する)周辺空気を遮断して(例えばN2雰囲気下)行う。
【0110】
中空円筒系成形体の前駆体(及び/又は一般的にはか焼されていない微粒子状の前駆体材料、又はこれにより被覆された担持成形体)のか焼は通常、少なくとも350℃に達する温度、又は通常はこれを超える温度で行うことができる。しかしながらか焼の範囲において通常、650℃の温度を超えることはない(ここでか焼温度という用語は、本明細書では、か焼物に存在する温度を言う)。か焼の範囲では、好適には600℃の温度、好適には550℃の温度、しばしば500℃の温度を超えない。このか焼の範囲ではさらに、好適には380℃の温度、有利には400℃の温度、特に有利には420℃の温度、極めて特に好ましくは440℃の温度を超える。
【0111】
か焼は時間的な経過において、複数の区間で構成されていてもよい。最終的なか焼温度についての好ましい温度領域は、400〜600℃の温度範囲、好適には420〜550℃の温度範囲、特に好ましくは440〜500℃の温度範囲である。
【0112】
か焼の所要時間は通常、10時間超である。この所要時間はたいてい、45時間、又は25時間を超えない。この所要時間はしばしば、20時間未満である。基本的には比較的高いか焼温度で、通常は、低いか焼温度よりもか焼を短く行う。
【0113】
か焼の所要時間は好適には、430〜500℃の温度範囲で10〜20時間にわたる。
【0114】
好適にはか焼の前に、120〜350℃の範囲、好適には150〜320℃の範囲、特に好ましくは220〜290℃の範囲の温度で熱による前処理を行う。このような熱による前処理は、熱による事前処理は、気体状化合物に分解する構成成分が充分に(好適には完全に)気体状化合物に分解する条件になるほど長く、適切に行う(これに関して必要な時間は、例えば3〜10時間、しばしば4〜8時間である)。熱による前処理は好適には、触媒成形体の前駆体の最大相対質量低減率(すなわち、触媒成形体の前駆体の質量に対する質量の変化)が、1分あたり1%を超えない値となる条件で行う。最大相対質量低減率がより高いと、触媒成形体の機械的安定性は、例えば亀裂形成を通じて、触媒成形体の前駆体中に生じる分解ガスによって損なわれることがある。熱による前処理の条件に該当するのは特に、温度、温度上昇の速度、周辺気体雰囲気の組成、及び周辺気体雰囲気の対流である。
【0115】
か焼、またか焼の前に行う熱による前処理は、不活性ガス下、また酸化性雰囲気、例えば空気(又は不活性ガスと、分子状酸素とのその他の混合物)下、並びに還元性雰囲気(例えば不活性ガス、NH3、CO、及び/又はH2との混合物、又はメタン、アクロレイン、メタクロレイン)下で行うことができる。か焼及び/又は熱による前処理はまた、真空で行うことができる。雰囲気もまた、か焼及び/又は熱による前処理の経過によって、変えることができる。
【0116】
か焼、及び選択的にはまたか焼の前に行う熱による前処理は好適には、酸化性雰囲気で行う。これは適切には、主に移動しない、又は(好適には)移動する空気から成る(特に好ましくはか焼物に空気流を貫流させる)。しかしながら酸化性雰囲気は同様に、移動しない、又は移動する混合物からなっていてもよく、例えばN225体積%と空気75体積%、又はN250体積%と空気50体積%、又はN275体積%と空気25体積%からなり得る(N2100体積%の雰囲気も、同様に可能である)。
【0117】
原則的にか焼、及び選択的にはまたか焼の前に行われる熱による前処理は、様々な種類の炉、例えば加熱可能な空気循環式チャンバ(空気循環式炉、例えば空気循環式高炉)、階段式炉、回転管、ベルトか焼、又は高炉で行うことができる。好適にはベルト式か焼装置、例えばDE-A 10046957、及びWO 02/24620で推奨されたものを使用する。か焼物体の内部におけるホットスポット形成は、か焼物体を運ぶガス透過性の輸送ベルトによる換気によって、か焼雰囲気においてより多い体積流量が、か焼物を通じて輸送されることにより、充分に回避することができる。
【0118】
か焼の際、及び任意でまたか焼の前に行われる熱による前処理において、成形助剤はそのまま得られるか、又は反応して、放出される気体状化合物(例えばCO、CO2)になり得る。
【0119】
中空円筒形触媒成形体は、微粒子状の不活性な希釈材料を含有することができる。このような微粒子状不活性な希釈材料としてはまた、特に、高温で燃焼され、それによって比較的細孔の少ない元素酸化物、例えば酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化トリウム、及び二酸化ジルコニウムが適している。しかしながら、微粒子状の炭化ケイ素、又は微粒子状のケイ酸塩、例えばケイ酸マグネシウム、及びケイ酸アルミニウム、又はステアタイトも、不活性な希釈材料として、触媒成形体中に含まれていてよい。か焼した複合金属酸化物は、粉砕して微粒子状粉末にすることができ、これを微粒子状希釈材料と混合し、こうして得られた混合粉末を、本明細書で紹介した成形法で成形して(好適にはタブレット化によって)、中空円筒形成形体にすることができる。続いてさらにこの成形体をか焼することによって、中空円筒形状の触媒成形体が得られる。
【0120】
或いは、微粒子状の不活性な希釈材料はまた、乾燥前に湿潤混合物に加工することができる。さらに、微粒子状の不活性な希釈材料を、複合金属酸化物の元素構成要素の供給源の微粒子状乾燥混合物に加工することもできる。しかしながらこのような手法は、あまり好ましくない。
【0121】
中空円筒形触媒成形体の比表面積は、有利には2〜20又は15m2/g、好適には3〜10m2/g、特に好ましくは4〜8m2/gである。細孔体積は有利には、0.1〜1又は0.8m3/gの範囲、好適には0.1〜0.5m3/gの範囲、特に好ましくは0.2〜0.4m3/gの範囲である。
【0122】
本明細書において、固体の比表面積に関する全ての記載は、DIN 66131((BET:Brunauer-Emmert-Teller)によるガス吸着(N2)による固体の比表面積の測定)に従った測定による(特に明示的に何も言及されていなければ)。
【0123】
好適には、細孔半径が最大0.1μmの細孔は、細孔の合計体積に最大0.05cm3/g貢献する。このような比較的狭い細孔が、細孔の合計体積に0.05cm3/g超貢献する場合、か焼持続時間及び/又はか焼温度の向上によって、この貢献の有利な低減作用がもたらされる。
【0124】
0.2〜0.4μmの範囲の細孔直径を有する細孔は、細孔全体の体積に対して少なくとも70体積%、有利には少なくとも75体積%、特に有利には少なくとも85体積%、細孔の合計体積に貢献するのが好ましい。
【0125】
本明細書において、細孔の合計体積についてのあらゆる記載、並びにこの細孔合計体積に関する細孔直径分布のあらゆる記載は、Moenchengladbach D-41238在、Micromeritics GmbH社のAuto Pore 9500という装置を用いた、水銀細孔測定計による測定に関連するものである(バンド幅0.003〜300μm)。
【0126】
乾燥粉末における粒子直径分布を測定するため、またこの乾燥粉末から読み取った粒径直径、例えばd10、d50、及びd90は(特に明示的に何も言及しない限り)、それぞれの微粒子状粉末を分散流路を介して、乾燥分散機のSympatec RODOS(Clausthal-Zellerfeld D-38678在、Sympatec GmbH社、System-Partikel-Technik, Am Pulverhaus 1)によって撹拌し、そこで空気圧により乾燥状態で分散させ、自由放射で測定セルへと吹き込む。ここではISO 13320に従い、レーザー回折スペクトル分析機のMalvern Mastersizer S(Malvern Instruments、英国Worcestshire WR 14 1AT在)を用いて、体積に対する粒子直径分布を測定する。ここで測定結果として記載される粒子直径dxは、粒子の合計体積のX%が、これ以下の直径を有する粒子から成るものであると規定されている。これはつまり、粒子合計体積の(100−x%)が、直径がdxより大きい粒子から成るということである。本明細書で特に明示的に何も言及しない場合、粒径の測定、及びそこから読み取れるdxは、測定の際に適用される(測定の間に特定される、乾燥粉末の分散の強度)2bar(絶対圧)という分散圧に関するものである。
【0127】
か焼された触媒成形体の貯蔵は好ましくは、内部に材料厚さ0.1mmのLupolen製の麻袋で内張りされた、120lの金属容器中で行う。
【0128】
本発明の対象はまた、α,β−不飽和アルデヒド及び/又はα,β−不飽和カルボン酸を製造するための方法であり、この方法では、アルケンを分子状酸素とともに、充填物が本発明による中空円筒形触媒成形体を含有する触媒床に通す。
【0129】
アルケンは好適には、3〜6個、すなわち3、4、5、又は6個の炭素原子を有するアルケンから選択され、好適にはプロペン及びイソブテンから選択される。プロペンが特に好ましい。特に、ポリマー状の直鎖プロペン、及び化学グレードのプロペンが考慮され、これらは例えばDE-A 102 32 748に記載されている。
【0130】
触媒固定床は好適には、複数の反応帯域を有する充填物を含有する。充填物は、少なくとも1つの反応帯域において、不活性な希釈成形体を含有することができる。不活性な希釈成形体の割合は、少なくとも2つの反応帯域で異なっていてよい。充填物は好適には、不活性な希釈成形体を含有しない反応帯域、又は不活性な希釈成形体を僅かな割合で含有する反応帯域に、本発明による中空円筒形触媒成形体を含有する。充填物は例えば、触媒固定床の局所的な最大温度が生じる反応帯域に、本発明による中空円筒形触媒成形体を含有することができる。本方法の1つの実施態様では、充填物は、本発明による中空円筒形触媒成形体、及び本発明によらない触媒成形体を含有する。
【0131】
この方法は、α,β−不飽和アルデヒドを製造するため、特にプロペンの気相酸化によってアクロレインを製造するため、及びイソブテンの気相酸化によってメタクロレインを製造するために、特に適している。これは好適には、プロペンの気相酸化によって、アクロレインを製造するための方法である。
【0132】
分子状酸素及びアルケンを触媒固定床に通すことにより、分子状酸素及びアルケンを、触媒固定床と接触させる。好適には、分子状酸素とアルケンを含有する反応ガスを触媒固定床に通し、生成ガスへと反応させる。
【0133】
分子状酸素は、好適には空気の形態で、方法に供給する。
【0134】
反応ガス中に含有されるアルケンの割合は、それぞれ反応ガスに対して、一般的に4〜20体積%、好適には5〜15体積%、好ましくは5〜12体積%、特に好ましくは5〜8体積%である。
【0135】
好適には反応ガスがさらに、少なくとも1種の不活性な希釈ガスを含有する。不活性な希釈ガスとは、気相酸化の過程で少なくとも95mol%、好適には少なくとも98mol%が、化学的に不変のまま残存するガスと理解される。不活性な希釈ガスのための例としては、N2、CO2、H2O、及び希ガス、例えばAr、並びに蒸気ガスの混合物である。不活性な希釈ガスとして好適には、分子状酸素を用いる。不活性な希釈ガスは例えば、少なくとも20体積%、好適には少なくとも40体積%、特に少なくとも60体積%、特に好ましくは少なくとも80体積%、極めて特に好ましくは少なくとも95体積%、分子状酸を含有することができる。
【0136】
好適には循環ガスを、反応ガス構成成分として併用する。循環ガスとは、気相酸化の生成ガスから、α,β−不飽和アルデヒド及び/又はα,β−不飽和カルボン酸を実質的に選択的に分離した場合に残る残留ガスであると理解される。ここで、本発明による方法は場合によっては、二段階の気相酸化のうち最初の工程のみが、本来の目的化合物としてのα,β−不飽和カルボン酸のためのものであってよく、これによって循環形成はたいてい、第二段階の後で初めて行われることが考慮されるべきである。このような二段階の気相酸化の範囲では通常、第一段階の生成ガスを、任意で冷却及び/又は二次的な酸素(通常は空気の形で)供給の後、第二の気相酸化に供給する。
【0137】
反応ガスはさらに、少なくとも1種のさらなるガス構成成分を含有することができる。さらなるガス構成成分は好適には、CO、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン及びH2である。
【0138】
反応ガスは好適には、アルケン:分子状酸素:不活性な希釈ガスを1:(1.0〜3.0):(5〜25)、好ましくは1:(1.5〜2.3):(10〜20)の体積比で含有する。
【0139】
一般的には反応ガス中に、0.5〜4bar、好ましくは1.5〜3barの合計圧力が存在する。本明細書における全ての圧力の記載は、絶対圧に関する。
【0140】
負荷率は一般的に、触媒1g、1時間当たり、少なくとも0.05Nlアルケンである。負荷率は好適には、触媒1g、1時間当たり、少なくとも0.08Nlアルケン、好ましくは1つの温度帯域で触媒1g、1時間当たり、少なくとも0.08Nlアルケン、好ましくは2つの温度帯域で触媒1g、1時間当たり、少なくとも0.12Nlアルケンである。負荷率は好適には、触媒1g、1時間当たり、最大0.6、好ましくは最大0.5、さらに好ましくは最大0.4、特に好ましくは最大0.35Nlアルケンである。触媒1g、1時間当たり、0.08〜0.35Nlアルケンの範囲における負荷率、好ましくは複数の温度帯域において触媒1g、1時間当たり、0.14〜0.35Nlアルケン、及び/又は好適には1つの反応帯域において触媒1g、1時間当たり、0.08〜0.18Nlアルケンという負荷率が特に適切である。「触媒1g、1時間当たり、Nlアルケン」で表現される負荷率は、反応器内に存在する触媒の質量(グラム)に対して、反応器に供給されるアルケン体積流(Nlアルケン/h)に相当する。「Nlアルケン」とは、供給されるアルケンを標準条件(すなわち、0℃、及び1気圧(1.01bar))に仮定した場合のアルケンの体積(リットル)に相当する。
【0141】
充填物中には、本発明による中空円筒形触媒成形体のみ、又は本発明による中空円筒形触媒成形体と希釈成形体との充分に均一な混合物が、存在し得る。希釈成形体は、不均一系触媒による部分気相酸化に関して、実質的に不活性である。希釈成形体のための材料としては例えば、多孔質又は非多孔質の酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、ケイ酸塩、例えばケイ酸マグネシウム、又はケイ酸アルミニウム、及び/又はステアタイト(例えばドイツ国CeramTec社製のTyp C220型)が考慮される。
【0142】
希釈成形体の形状は、原則的に任意であり得る。すなわち、ビーズ、ポリゴン、中実円筒形、又は中空円筒形であり得る。中空円筒形の希釈成形体を使用することができる。特に寸法が、中空円筒形触媒成形体と、充填物(及び/又は反応帯域)の同じ部分において実質的に一致する中空円筒形希釈成形体が使用できる。
【0143】
充填物は、1つ以上の反応帯域を有することができる。反応帯域とは、触媒成形体を含有し、充填物との関連で実質的に均質な充填物の関連区間を言う。反応帯域の内部でも、充填物は近似的にのみ均一である。それと言うのも、中空円筒形触媒成形体、及び場合により希釈成形体は、反応低域において通常、ばらばらに配向されており、ランダムに分布しているからである。各反応帯域は、不活性な希釈成形体の含分、触媒の形状、触媒の空間充填率、触媒の活性材料、及び活性材料の化学組成から選択される少なくとも1つの特性において異なる。少なくとも1つの反応帯域は、本発明による中空円筒形触媒成形体を含有する。
【0144】
触媒固定床はしばしば、複数の反応帯域を有する充填物を含有し、ここで少なくとも1つの反応帯域における充填物は、不活性な希釈成形体を含有し、不活性な希釈成形体の割合は、少なくとも2つの反応帯域において異なっている。
【0145】
本発明による中空円筒形触媒成形体を、不活性な希釈成形体を含有しない、又は不活性な希釈成形体を僅かな割合で含有する、少なくとも1つの反応帯域において使用することが有利である。
【0146】
さらに、本発明による中空円筒形触媒成形体を、触媒固定床の局所的な最大温度が発生する反応帯域で使用することが有利である。
【0147】
触媒固定床は好適には、連続する2つの反応帯域を有し、ここで(i)第一の反応帯域は、触媒固定床の体積の25〜50%を占める。本発明による中空円筒形触媒成形体は、少なくとも第一の反応帯域において、又は両方の反応帯域において使用する。例えば、第一の反応帯域において、外径4mm、高さ3mm、内径2mmの触媒成形体を使用し、第二の反応帯域において、外径5mm、高さ3mm、内径2mmの触媒成形体を使用することができる。
【0148】
特に高い負荷率(触媒1g、1時間あたり、0.12Nlアルケン超)の場合(またしばしば複数の温度帯域とともに)にはさらに、第二の反応帯域で、例えば外径4mm、高さ3mm、内径2mmの本発明による中空円筒形触媒成形体を用いることが有利である。
【0149】
触媒固定床が3つの連続する反応帯域を有することが特に好ましく、ここで(i)第一の反応帯域は、触媒固定床の体積の2〜5体積%、(ii)第二の反応帯域は、触媒固定床の体積の25〜45%、及び(iii)第三の反応帯域は、触媒固定床の体積の50〜73%を占める。第二の反応帯域において好ましくは、本発明による触媒成形体を、例えば外径4mm、高さ3mm、及び内径2mmで使用するのが好ましい。特に高い負荷率(触媒1g、1時間あたり、0.12Nlアルケン超)の場合(またしばしば複数の温度帯域とともに)にはさらに、第三の反応帯域で、例えば外径4mm、高さ3mm、内径2mmの本発明による中空円筒形触媒成形体を用いることが有利である。
【0150】
本方法は例えば、温度帯域を有する多接触管型固定床反応器(例えばDE-A 44 31 957、EP-A 700 714、及びEP-A 700 893に記載のもの)で行うことができる。このような反応器内には、接触管に分配された触媒床が存在する。上記反応器には通常、フェライト鋼製の接触管が作製されており、その肉厚は一般的に1〜3mmである。その内径は通常、20〜30mm、しばしば21〜26mmである。接触管の典型的な長さは例えば、3.20mである。管束型反応器内に設けられた接触管の数は好適には、少なくとも1000、好適には少なくとも5000である。反応容器内に設けられた接触管の数はしばしば、15000〜35000である。接触管の数が40000を超える管束型反応器は、むしろ例外に属する。容器内では通常の場合、接触管が均一に分配して配置されており、相互に隣接する接触管(いわゆる接触管配分)の中心の内軸の距離は、35〜45mmである(例えばEP-B 468 290参照)。
【0151】
しかしながら本方法はまた、複数の温度帯域を有する多接触管型固定床反応器で行うこともできる(例えばDE-A 199 10 506、DE-A 103 13 213、DE-A 103 13 208、及びEP-A 1 106 598で推奨されたもの)。通常の接触管の長さは、温度帯域を2つ有する多接触管型固定床の場合、3.50mである。他のことも実質的に全て、1つの温度帯域を有する多接触管型固定床反応器に記載されたことが当てはまる。
【0152】
管束型反応器の反応管において、触媒固定床に沿って温度プロフィールを特定するため反応管は、中心部に反応管を通って上方から下方に流れるサーモウェルを有することができ、ここではサーモウェルへと通じる熱電対によって、反応管の長さ全体にわたって温度を伝えることができる。基本的に、管束型反応器に存在し、かつ触媒固定床が充填されたあらゆる反応管が、上述のように備えられていてよい。
【0153】
しかしながら適用技術に応じて、管束型反応器は、このような熱反応管(又はサーモチューブ)を限定的な数でのみ有する(例えばWO 2007/082827のp.56、EP-A 873783、EP-A 1270065、及びUS 7,534,339 B2参照)。
【0154】
サーモチューブは触媒固定床に加えてさらに、サーモウェルを受け入れなければならないので、その他の点では同一の管形状の場合、確かに同じぐらいの大きさの熱交換表面を有するが、比較的小さな開放された、触媒固定床を受け入れ可能な断面を、ただの「反応管」として有することになるだろう。管における開放断面積体、サーモチューブ及び反応管における管の周囲に対する比率が同じであるように、サーモチューブが構成されることを考慮に入れる。その他の点では、反応管、及びサーモ管は、同一の管の長さで、その管の長さによって、それぞれ同じ触媒固定床構造を有する。触媒固定床による充填に際してさらに、管の長さを介して反応管及び/又はサーモ管に反応混合物を貫流させる際、それぞれ調整する圧力損失特性が、2種類の管において統一されていることに注意すべきである。成形体による管充填の速度によって、及び/又は微粉砕された(バラバラにされた)成形体を併用することによって、相応する方法で、影響を与えることができる(例えばEP-A 873783、及びUS 7,534,339 B2参照)。総じてこのようにして、サーモチューブ及び反応管は、管の長さ全体に沿って、管内部における反応熱の発生と、管内部からの反応熱の排出について相互に同じ比率を有することが保証される。サーモチューブは、多数の反応管について代表的になるよう、反応管における温度経過を形成することができた。
【0155】
サーモチューブで測定した温度によって、触媒固定床の非常に高い局所温度、及び触媒固定床におけるその位置を規定することができる。
【0156】
触媒固定床が分配されている接触管の回りには、あらゆる温度帯域で熱交換媒体を通す。好ましい熱交換媒体は、塩の溶融物、例えば硝酸カリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、及び/又は硝酸ナトリウム、又は低温で溶ける金属塩、例えばナトリウム塩、水銀、並びに様々な金属の合金である。
【0157】
熱交換媒体の入口温度は好適には、280〜420℃、好ましくは300〜400℃、特に好ましくは320〜380℃に調整する。
【0158】
熱交換媒体は、それぞれの温度帯域について考慮し、反応ガス混合物に対して並流、又は向流で通すことができる。各温度帯域における熱交換媒体の流速は通常、熱交換媒体の温度が、入口箇所から温度帯域〜温度帯域からの出口箇所で、0〜15℃、しばしば1〜10℃、又は2〜8℃、又は3〜6℃上昇するように選択する。温度帯域の内部で、熱交換媒体を、蛇行形状で通すのが好ましい。
【0159】
本方法の作業開始は例えば、DE-A 103 37 788、又はDE-A 102009047291に記載されたように行うことができる。
【0160】
本発明による方法で製造されたα,β−不飽和アルデヒドは、第二の段階で、さらにα,β−不飽和カルボン酸へと変換することができる。
【0161】
α,β−不飽和アルデヒド(アクロレイン、メタクロレイン)へのアルケン(プロペン、イソブテン)の気相酸化に伴う、α,β−不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸)の副生成物形成は、通常望ましくない。有価生成物(アルデヒド、及びカルボン酸)は、後の方法工程で分離することができる。
【0162】
実施例
アルケンを気相酸化して不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸にするための、機械的に安定な中空円筒形触媒成形体
I)以下のような活性物質の化学量論を有する、中空円筒形非担持型触媒成形体の製造:
[Bi229・2WO30.50[Mo12Co5.4Fe3.1Si1.50.08x1
a)出発材料1の製造(Bi127.5=1/2Bi229・1WO3
1.75m3の特殊鋼製ダブルジャケット式容器(ジャケットの間に温度調整用の水を貫流させたもの、十字型撹拌機付)内で、硝酸水溶液に入れた25℃の硝酸ビスマス溶液(Bi:11.2質量%、遊離硝酸3〜5質量%;ベルギー国、Tilly 1495在のSidech S.A.社製のビスマス金属から硝酸で製造、その純度は、Biが99.997質量%超、Pbが7mg/kg未満、Ni、Ag、Feがそれぞれ5mg/kg未満、Cu、Sbが3mg/kg未満、Cd、Znは1mg/kg未満)780kg中に、25℃で20分以内に、何回かに分けて25℃のタングステン酸(Wが74.1質量%、平均粒度0.4〜0.8μm(ASTM B 330により製造者が測定)、強熱減量(750℃で2時間、空気中)6〜8質量%、Goslar D-38615在のH. C. Starck社製)214.7kgを入れて撹拌した(70回転/分)。続いて、生成した水性混合物をさらに3時間、25℃で撹拌し、それから噴霧乾燥した。噴霧乾燥は、Niro社製のFS 15型回転ディスク式噴霧塔で、熱した並流の空気で、ガス取り入れ温度300±10℃、ガス排出温度100±10℃、ディスク回転数18000回転/分、処理量200l/h、空気量1900Nm3/hで行った。生じた噴霧粉末は、強熱損失が12.8質量%(900℃で質量が一定になるまで強熱した陶器製るつぼ内で、600℃で3時間、空気下で強熱)であり、(絶対圧1.1barの分散圧で)d50が28.0μm(d10=9.1μm、d90=55.2μm)であった。
【0163】
こうして得られた噴霧粉末を、続いて25℃の水16.7質量%(粉末に対して)とともに、圧力式混練機(Auspresskneter)で30分間ペースト化し、回転数20回転/分で混練し、押出機によって直径6mmのストランドに押出成形した。このストランドを6cmの間隔で切断し、3つのゾーンを有するベルト式乾燥機で、滞留時間40分で、各ゾーンについて90〜95℃(ゾーン1)、115℃(ゾーン2)、及び125℃(ゾーン3)の温度で、空気により乾燥させ、それから830℃あたりの範囲の温度で、空気を貫流させた回転管炉で(0.3mbarの負圧、空気200Nm3/h、押出成形体50kg/h、回転数1回転/分)か焼した。こうして得られる、事前に作製され、か焼された混合酸化物を、Biplexクロスフロー分級ミル(Augsburg在のHosokawa Alpine AG社製の500 BQ型)で、2500回転/分で粉砕し、これによって微粒子状の出発材料1の
【数5】
の値は、2.8μm(2.0barの分散圧(絶対圧)で測定)であり、BET比表面積は0.6m2/g(真空で4時間、200℃で活性化した後に窒素吸着で測定)であり、γ−Bi2WO6含分は、2強度%であった(X線粉末回折図において2Θ=28.4°(CuKα照射)でのγ−Bi2WO6の回折反射対、2Θ=30.0°におけるBi229の回折の強度の比率として算出)。c)に記載するさらなる加工の前に、微粒子状の出発材料1をそれぞれ20kgに分けて、混合翼と切断翼を有する傾斜配置型混合機(混合翼の回転数:60回転/分、切断翼の回転数:3000回転/分)内で、5分以内に均一に、(それぞれの微粒子状出発材料1に対して)0.5質量%の微粒子状の疎水化されたSiO2(Degussa社製のSipernat(登録商標)D17、タップ密度150g/l、SiO2粒子のd50値(ISO13320-1によるレーザー回折)=10μm、比表面積(ISO 5794-1 Annex Dによる窒素吸着))と均一に混合した。
【0164】
b)出発材料2の製造(Mo12Co5.4Fe3.1Si1.50.08x
以下のようにして溶液Aを作製した:水で温度調整した1.75m3の特殊鋼製ダブルジャケット式容器(十字型撹拌機付)で、60℃で撹拌しながら(70回転/分)、温度60℃の水660lに、1分以内で、温度60℃の水酸化カリウム水溶液(KOH47.5質量%)1.075kg、及び引き続き供給速度600kg/hで差動供給秤量によって、温度が25℃のアンモニウムヘプタモリブデート四水和物(粒度dが1mm未満の白色結晶、MoO381.5質量%、NH37.0〜8.5質量%、アルカリ金属最大150mg/kg、Goslar D-38642在、H.C. Starck社製)237.1kgを供給し、生成した溶液を、60℃で60分間撹拌した(70回転/分)。
【0165】
溶液Bを以下のようにして作製した:水で温度調整した1.75m3の特殊鋼製ダブルジャケット式容器(十字型撹拌機付)に60℃で、温度60℃の硝酸コバルト(II)水溶液(Co12.5質量%、Viersen D-41747在、MFT Metals & Ferro-Alloys Trading GmbH製のコバルト金属から硝酸により作製、純度99.6質量%超、Ni0.3質量%未満、Fe100mg/kg未満、Cu50mg/kg未満)を282.0kg初充填し、これに撹拌しながら(70回転/分)、60℃に熱した硝酸鉄(III)九水和物溶融体(Fe13.8質量%、アルカリ金属0.4質量%未満、塩化物0.01質量%未満、硫酸塩0.02質量%未満、Emmerthal D-81857在、Dr. Paul Lohmann GmbH製)142.0kg供給した。続いて、60℃を保ちながら30分間、後撹拌した。
【0166】
60℃を維持しながら、溶液Bを初充填した溶液Aに入れ、さらに15分間、70回転/分で60℃で撹拌した。続いて、25℃のケイ酸ゾル(Grace社のLudox TM 50型、SiO250.1質量%、密度1.29g/ml、pH8.5〜9.5、アルカリ金属含分最大0.5質量%)の生成した水性混合物19.9kgを添加し、その後、さらに15分間、70回転/分で、60℃で撹拌した。
【0167】
続いて、Niro社のFS-15型回転ディスク塔で、熱した空気と向流で、18000回転/分のディスク回転数で噴霧乾燥した(ガス取り入れ温度350±10℃、ガス排出温度:140±5℃、処理量270kg/h)。生じた噴霧粉末は、強熱損失が31質量%(900℃で質量が一定になるまで強熱した陶器製るつぼ内で、600℃で3時間、空気下で強熱)であり、(絶対圧1.1barの分散圧で)d50が33.0μmであった。
【0168】
c)出発材料1及び2から中空円筒形の非担持型触媒成形体を製造
出発材料2を134kg、混合翼と切断翼(混合翼の回転数:39回転/分、切断翼の回転数3000回転/分)を備える傾斜配置型混合機(VIL型、充填体積200l、Aachener Misch- und Knetmaschinenfabrik社製)に初充填し、1分間、事前混合した。これに対して10分以内にさらなる混合で、セルホイール式ゲートを介して、出発材料1を下記化学量論の複合金属酸化物:
[Bi22g・2WO30.50[MO12CO5.4Fe3.1Si1.50.08x1
に必要な量を10分以内に計量供給した。それから、混合工程をさらに15分間続け、両方の出発材料を強力かつ完全に均質化した(存在する場合にはアグロメレートの粉砕を含む)。上記材料全体に対して、さらに2分以内に、Timcal AG製の黒鉛であるTIMREX T44を混ぜた。
【0169】
その後、生成する混合物を、Hosokawa Bepex GmbH社製の圧縮機(K200/100型)で、凹型の波形表面加工ローラ(ギャップ幅2.8mm、ローラ回転数9回転/分、圧縮力目標値:約75kN)により圧縮した。Allgaier社の一体型揺動式篩い(篩いの目幅:上限1.5mm、篩いの目幅:下限400μm)によって、ボール型篩い助剤(直径22mm)を用いて、大部分が400μm〜1.5mmの間にある粒径の圧縮物を単離した。
【0170】
タブレット化のため、圧縮物をDrais社製の乱流型ミキサーで2分以内に、さらにTimcal AG社の黒鉛TIMREX T44を2.5質量%、添加混合した。
【0171】
続いて、先に記載したように作製した粉末状アグリゲートを、ロータリープレス機のKorsch PH 865(Berlin D-13509在、Korsch AG製)によって、空気雰囲気下で圧縮する(タブレット化)した。以下のような寸法(外径×高さ×内径:mm)を有する中空円筒形成形体が作製された:
4×3×2
4×2×2
5×3×2
ロータリープレス機の回転速度は、35〜45回転/分であった。
【0172】
全ての場合においてタブレット化は、中空円筒形成形体の密度(タブレットの質量とタブレットの体積の比率)が同一であり、かつ1ミリリットルあたり2.5グラムとになるように行った。
【0173】
最後に熱処理するため、異なる寸法で製造した中空円筒形成形体をそれぞれ250g一緒に、150mm×150mmという正方形の基礎面積をそれぞれ有する、隣接して配置された4つの格子ネット(充填高さ:約15mm)に、4500Nl/hで、140℃の温度で空気を貫流させた空気循環式高炉(Nabertherm社製、炉の型番:S60/65A)に組み込んだ。続いてまず72分以内に、室温(25℃)から130℃に加熱した。ここで温度は、4つの格子網目それぞれの中心で、触媒充填物中に直接存在する4つの測定要素によってそれぞれ測定し、ここでこれらの測定要素のうちの1つは、炉を温度制御するための実測値をもたらす。この温度は72分間維持し、それから36分以内に190℃に上げた。190℃は72分間保ち、それから温度を36分以内にさらに220℃に上げた。220℃は72分間保ち、それから温度を36分以内にさらに265℃に上げた。265℃は72分間保ち、それから温度を93分以内にさらに380℃に上げた。380℃は187分間保ち、それから温度を93分以内にさらに430℃に上げた。430℃は187分間保ち、それから温度を93分以内にさらに最終的なか焼温度の464℃に上げた。最終的なか焼温度は、467分間維持した。その後、12時間以内に、室温に冷却した。このために炉の加熱を切り、さらに、4500Nl/hの空気流を保ちながら、上述の空気流予熱を切った。
【0174】
II)気相酸化
反応管(V2A鋼製、外形21mm、肉厚3mm、内径15mm、長さ120cm)を、上方から下方へと流れ方向で、以下のように充填した:
・区間1:長さ約30cm
事前充填物として、直径1.5〜2.0mmのステアタイトビーズ40g
・区間2:長さ約70cm
I)で作製し、か焼した中空円筒形成形体40gと、ステアタイトの中空円筒形(寸法5mm×3mm×2mm、外径×高さ×内径)60gとの均質な混合物で触媒を充填。
【0175】
反応管の温度調節は、それぞれ、分子状の窒素でバブリングした、塩浴温度TSBが380℃である塩浴(硝酸カリウム53質量%、亜硝酸ナトリウム40質量%、及び硝酸ナトリウム7質量%)により行った。塩浴は、円筒形カバー内に存在していた。円筒形カバーは、反応管と同じ長さを有していた。反応管は円筒形カバー内で、2つの対称軸が一致するように、上方から下方へと通じていた。塩浴へと下方からバブリングさせる窒素流は、40Nl/hであった。周囲環境への塩浴の熱損失は、部分酸化の間に反応器から生成する反応熱よりも大きかった。そこで塩浴は、電気的な加熱によって、塩浴のTSB(℃)に保った。このようにして、反応管の外壁が常に、相応する温度TSB(℃)を有することが保証された。
【0176】
反応器には、以下の組成の充填ガス混合物(空気、ポリマーグレードのプロピレン、及び窒素から成る混合物)を充填した:
プロペン5体積%、
酸素9.5体積%、及び
100体積%になる残量としてのN2
【0177】
混合ガス流量は、以下のように規定されるプロペン転化率U(反応管を通る反応混合物の1回のバッチに対して、mol%):
【数6】
が、380℃の塩浴温度で95.4mol%になるように制御した。反応管の入口における圧力は、1.2bar(絶対圧)であった。
【0178】
落下試験
触媒50gを、長さ3m、内径23mmの垂直管を通じて、落下させた。触媒は、管の真下にある陶器製のシャーレに落とし、衝突の際に生じる粉塵と破断物から分離した。粉塵から分離された無傷の触媒成形体を秤量した。無傷の触媒成形体の割合は、この際に測定した質量を、落下試験に使用した触媒成形体の質量と比較することによって特定した(表1における「落下試験」の欄を参照)。無傷の触媒成形体の割合は、触媒成形体の機械的な耐久性についての基準である。その結果が、以下の表1にまとめてある。
【0179】
活性の基準としての負荷率は、反応器に存在する触媒の質量(グラム)に対する、反応器に供給したプロペン体積流(Nl/h)に相当する。より高い負荷率は、より高い活性に相当する。
【0180】
有価生成物選択性(mol%)は、下記式:
【数7】
に相当する。
【0181】
負荷率と有価生成物選択性の特定は、時間の経過における活性と有価生成物選択性が実質的に不変となる7日超の稼動時間後に行った。
【表1】
*):比較例
1):外径
2):高さ
3):内径。
【0182】
本発明による触媒成形体は安定であり(落下試験において無傷の触媒成形体が85%超)、95.3mol%超という高い有価生成物選択性を保証した。比較例3では、有価生成物選択性が、本発明による例1及び2よりも明らかに劣る(94.9mol%)。本発明による触媒の活性(触媒1g、及び1時間あたり、プロペン0.08Nl以上)は、例3の本発明によらない触媒の活性よりも高い(触媒1g、及び1時間あたり、プロペン0.06Nl)。