特許第6407281号(P6407281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6407281撥水性および撥油性を有する高分子薄膜およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407281
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】撥水性および撥油性を有する高分子薄膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/12 20060101AFI20181004BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20181004BHJP
   C08F 220/22 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C23C14/12
   C08F2/00 C
   C08F220/22
【請求項の数】16
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-532060(P2016-532060)
(86)(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公表番号】特表2017-502167(P2017-502167A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】KR2014011932
(87)【国際公開番号】WO2015084107
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2016年5月18日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0151759
(32)【優先日】2013年12月6日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2014-0173000
(32)【優先日】2014年12月4日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ジョン・イ
(72)【発明者】
【氏名】キ−ファン・キム
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ヒョン・パク
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−516100(JP,A)
【文献】 Laura C. et al.,Formation of Heterogeneous Polymer Films via Simultaneous or Sequential Depositions of Soluble and Insoluble Monomers onto lonic Liquids,Langmuir,2013年 8月 6日,29,10448-10454
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
C08F 2/00
C08F 220/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体状の熱開始剤を熱分解してラジカルを形成する段階と、
フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物を含む単量体混合物と、前記形成されたラジカルとが反応する高分子合成段階と、
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階とを含み、
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率が0.13〜0.50であり、
3μlの蒸留水に対して120°〜140°の静接触角を有し、3μlのオレイン酸(oleic acid)に対して80°〜120°の静接触角を有し、30μlのオレイン酸(oleic acid)に対して有するスライディング角度(sliding angle)が3°〜30°であり、
平均表面粗さが15nm以下であり、
厚さ100nmあたりの平均表面粗さが3nm以下である、撥水性および撥油性を有する高分子蒸着薄膜の製造方法:
[一般式1]
蒸着分圧=Pm/Psat
前記一般式1において、
Psatは、前記合成された高分子が蒸着される基材の表面温度における当該単量体または化合物の飽和蒸気圧(saturation vapor pressure)を意味し、
Pmは、前記蒸着が行われる反応器内における当該単量体または化合物の分圧(partial pressure)を意味する。
【請求項2】
ASTM D3363により、500gの錘を用いて測定した前記製造される高分子薄膜の鉛筆硬度がHB以上である、請求項1に記載の高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項3】
10nm〜1,000nmの厚さを有する、請求項1に記載の高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記気体状の熱開始剤を熱分解してラジカルを形成する段階は、前記気体状の熱開始剤と、150℃〜500℃の温度に加熱した金属フィラメントとを接触する段階を含む、請求項1に記載の高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記熱開始剤は、過酸化物およびアゾ系化合物からなる群より選択された1種以上を含む、請求項1に記載の高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体は、炭素数2〜12のペルフルオロアルキル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレート、およびペンタフルオロベンジル(メタ)アクリレートからなる群より選択された1種以上を含む、請求項1に記載の高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物は、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、およびジビニルベンゼンからなる群より選択された1種以上を含む、請求項1に記載の高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物、および前記熱開始剤を、それぞれ、または同時に、20℃〜200℃の温度で気化させる段階をさらに含む、請求項1に記載の高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階において、前記基材が0℃〜60℃の温度で維持される、請求項1に記載の撥水性および撥油性を有する高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階における圧力が0.1Torr〜1Torrである、請求項1に記載の高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記高分子合成段階の前に、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物、および前記熱開始剤を、それぞれ、または同時に、20℃〜200℃の温度で気化させる段階をさらに含む、請求項1に記載の高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項12】
前記気化したフッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、および前記気化したビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物の全体流量対比の、前記気化した熱開始剤の流量が10%〜100%となるようにして、前記高分子合成段階に注入する段階を含む、請求項11に記載の高分子蒸着薄膜の製造方法。
【請求項13】
フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位;およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位を100:13〜100:50のモル比で含む高分子樹脂を含み、
平均表面粗さが15nm以下であり、厚さ100nmあたりの平均表面粗さが3nm以下であり、
3μlの蒸留水に対して120°〜140°の静接触角を有し、3μlのオレイン酸(oleic acid)に対して80°〜120°の静接触角を有し、30μlのオレイン酸(oleic acid)に対して有するスライディング角度(sliding angle)が3°〜30°である、撥水性および撥油性を有する高分子蒸着薄膜。
【請求項14】
ASTM D3363により、500gの錘を用いて測定した鉛筆硬度がHB以上である、請求項13に記載の高分子蒸着薄膜。
【請求項15】
10nm〜1,000nmの厚さを有する、請求項13に記載の高分子蒸着薄膜。
【請求項16】
前記高分子樹脂が10,000〜1,000,000の重量平均分子量を有する、請求項13に記載の高分子蒸着薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性および撥油性を有する高分子薄膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子物質の化学気相蒸着工程(chemical vapor deposition、CVD)は、従来よく知られた液相有機合成反応を気相反応工程に適用したものである。この工程は、気化した単量体が気相反応器内で活性化して高分子重合反応が行われ、基板上に高分子薄膜が形成される工程であって、高分子重合反応と薄膜蒸着が1つの工程で同時に行われる。したがって、多様な種類の高分子薄膜が基板表面のマイクロ、あるいはナノサイズの様々な形態をそのまま維持したまま、均一な薄膜を形成することができるという大きな利点がある。
【0003】
実際に、CVD工程は、半導体素子作製工程において最も重要で幅広く使用される工程の1つであって、概して無機物の蒸着に幅広く用いられてきており、工程自体に対する開発もよくなされている。CVD工程は、超高純度の薄膜形成、そして界面特性制御の容易性などの重要な利点がある。何よりも、既存のCVD工程に対する開発経験により、薄膜の物性制御のために必要な多くの知識が非常によく知られている。したがって、よく開発されたCVD工程を多様な機能を有する高分子物質に拡張すれば、既存の液相工程によっては解決しにくかった様々な難題を高分子薄膜のCVD工程を通して解決することができる。
【0004】
揮発性有機溶媒の使用や高温の工程条件を適用しなければならないなどの従来の蒸着過程の制限事項を解決するために、開始剤を用いた化学気相蒸着工程(initiated chemical vapor deposition、iCVD)が幅広く使用されている。このようなiCVD工程は、開始剤と単量体を気化して気相で高分子反応が行われるようにすることで、高分子薄膜を基板の表面に蒸着する工程である。
【0005】
iCVD工程は、基材の表面から均一な厚さに成膜できるため、ナノメートルまたはマイクロメートルの大きさを有する複雑な構造の基材に対して構造の形態を維持しながら高分子薄膜を形成することができる。
【0006】
しかし、iCVD工程に使用できると知られた単量体化合物が制限的である上に、このような単量体から形成される高分子薄膜は、それ自体の機械的性質や化学的耐久性が十分でなく、撥油性および撥水性などの機能性を付与して製品に適用するには一定の限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、全体領域にわたって均一な物性および厚さを有しながらも、低い平均表面粗さと共に高い耐久性および耐薬品性を有する撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、全体領域にわたって均一な物性および厚さを有しながらも、低い平均表面粗さと共に高い耐久性および耐薬品性を有する撥水性および撥油性を有する高分子薄膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書では、気体状の熱開始剤を熱分解してラジカルを形成する段階と、フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物を含む単量体混合物と、前記形成されたラジカルとが反応する高分子合成段階と、前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階とを含み、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率が0.10〜0.80である、撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法が提供される。
【0010】
[一般式1]
蒸着分圧=Pm/Psat
【0011】
前記一般式1において、Psatは、前記合成された高分子が蒸着される基材の表面温度における当該単量体または化合物の飽和蒸気圧(saturation vapor pressure)を意味し、Pmは、前記蒸着が行われる反応器内における当該単量体または化合物の分圧(partial pressure)を意味する。
【0012】
また、本明細書では、フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位;およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位を100:10〜100:80のモル比で含む高分子樹脂を含み、3μlの蒸留水に対して120°以上の静接触角を有し、3μlのオレイン酸(oleic acid)に対して80°以上の静接触角を有する、撥水性および撥油性を有する高分子薄膜が提供される。
【0013】
以下、発明の具体的な実施形態に係る撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法および撥水性および撥油性を有する高分子薄膜に関してより詳細に説明する。
【0014】
本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート[acrylate]および(メタ)クリレート[(meth)acrylate]を全て含む意味である。
【0015】
発明の一実施形態によれば、気体状の熱開始剤を熱分解してラジカルを形成する段階と、フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物を含む単量体混合物と、前記形成されたラジカルとが反応する高分子合成段階と、前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階とを含み、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する前記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する前記一般式1の蒸着分圧の比率が0.10〜0.80、または0.13〜0.50である、撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法が提供できる。
【0016】
前記一般式1の蒸着分圧(Pm/Psat)は、前記蒸着が行われる基材の表面温度における当該単量体または化合物の飽和蒸気圧(saturation vapor pressure)に対する、蒸着が行われる反応器内における当該単量体または化合物の分圧(partial pressure)の比(ratio)である。
【0017】
具体的には、前記一般式1において、Psatは、前記合成された高分子が蒸着される基材の表面温度における当該単量体または化合物の飽和蒸気圧(saturation vapor pressure)を意味し、Pmは、前記蒸着が行われる反応器内における当該単量体または化合物の分圧(partial pressure)を意味する。
【0018】
前記蒸着が行われる反応器の具体的な種類や形状などは大きく制限されるわけではなく、化学気相蒸着反応に使用できると知られた蒸着反応器や蒸着チャンバを用いてもよい。
【0019】
前記発明の一実施形態の製造方法では、それぞれの反応物の濃度は、投入した単量体または化合物の分圧ではなく、蒸着を行う基材の表面温度における単量体または化合物の飽和蒸気圧に対する、蒸着が行われる反応器内における当該単量体または化合物の分圧の比(ratio)として定義される。
【0020】
前記蒸着が行われる反応器内における単量体または化合物の分圧は、投入した総気体流量に対する当該単量体または化合物の流量の比(ratio)に、蒸着工程圧を乗算して得られる値であってもよい。
【0021】
また、前記蒸着基材の表面温度における当該単量体または化合物の飽和蒸気圧は、Clausius−Clapeyronの関係式で計算することができる。
【0022】
本発明者らは、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率が、最終的に製造される高分子薄膜においてそれぞれの反応物由来の繰り返し単位のモル比と一致することを確認した。
【0023】
また、本発明者らは、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体と、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物とを、上述した特定の蒸着分圧の比率を適用して、熱開始剤のラジカルの存在下で気相反応させて得られた高分子を蒸着すれば、全体領域にわたって均一な物性および厚さを有しながらも、低い平均表面粗さと共に高い耐久性および耐薬品性を有する撥水性および撥油性を有する高分子薄膜または高分子蒸着薄膜が得られるという点を確認し、発明を完成した。
【0024】
前記製造方法により得られる前記撥水性および撥油性を有する高分子薄膜では、副産物の発生がわずかである上に、高分子薄膜の形成後に追加的な高温のアニーリング工程が不必要で、形成された薄膜表面の均一な物性を有するだけでなく、未反応で残留する反応性官能基の量がわずかで、安定した表面特性を有することができる。
【0025】
前記製造される高分子薄膜は、水に対してのみならず、有機成分に対しても高い接触角を有し、3次元構造のない平坦な表面においても撥水性および撥油性を実現することができ、逆テーパ3次元構造などを有する表面に蒸着される場合、超撥水性および超撥油性を実現することができて、転写される汚染物質の量を最小化しながらも、転写された汚染物質を除去しやすくする特性を有する。
【0026】
具体的には、前記製造される高分子薄膜は、高い撥水性および撥油性を有することができ、例えば、前記高分子薄膜は、3μlの蒸留水に対して120°以上の静接触角、または120°〜140°の静接触角を有してもよく、3μlのオレイン酸(oleic acid)に対して80°以上の静接触角、または80°〜120°の静接触角を有してもよい。
【0027】
また、前記製造される高分子薄膜が30μlのオレイン酸(oleic acid)に対して有するスライディング角度(sliding angle)が30°以下、または3°〜30°であってもよい。
【0028】
前記製造される高分子薄膜は、液体や有機物質に対して相互作用エネルギーが低いため、液体類に対するスライディング角度が相対的に小さい。例えば、前記高分子薄膜に指紋の成分と最も類似のオレイン酸(oleic acid)30μlを載せ、水平面に対して傾斜角を設けながら前記オレイン酸の流れ始める角度、つまり、スライディング角度(sliding angle)が30°以下、または3°〜30°であってもよい。つまり、前記高分子薄膜は、有機成分や水分成分に対して低い相互作用エネルギーを示し、かつ、前記成分に対するスライディング角度も低くなるため、表面に転写される汚染物質の量を大きく低減できるだけでなく、転写された汚染物質が表面に残留する現象を防止することができ、前記汚染物質自体を除去しやすくする特性を有する。
【0029】
それだけでなく、前記製造される高分子薄膜は、均一な表面特性を有することができ、具体的には、前記高分子薄膜の平均表面粗さが15nm以下、または0.1nm〜15nmであってもよい。
【0030】
前記高分子薄膜の厚さ100nmあたりの平均表面粗さが3nm以下、または0.1〜3nmであってもよい。例えば、厚さ200nmの前記高分子薄膜は、平均表面粗さ6nm以下の値を有する。
【0031】
上述のように、前記製造される高分子薄膜は、高い機械的表面物性および耐熱性を有することができる。具体的には、ASTM D3363により、500gの錘を用いて測定した前記製造される高分子薄膜の鉛筆硬度がHB以上、またはHB〜2Hであってもよい。
【0032】
前記製造される高分子薄膜は、10nm〜1,000nmの厚さを有してもよい。
【0033】
上述のように、前記製造される高分子薄膜の特性は、前記一実施形態の製造方法において、熱分解過程により形成された熱開始剤のラジカルの存在下、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率を0.10〜0.80、または0.13〜0.50として、反応を進行させることにより得られる。
【0034】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体のみで製造した高分子薄膜は、ガラス転移温度(Tg)が常温以下で熱安定性が低下し、手で触るような軽い摩擦によっても脱膜または蒸着膜が損傷する程度に物理的耐久性も弱い。また、フッ素系溶媒によって溶解しやすいなど化学的耐久性も低下し、蒸着膜の表面粗さも高い方で、平坦な蒸着膜を得ることができない。
【0035】
しかし、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体と、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物とが上述した比率で反応することによって、架橋作用によって物理的耐久性が与えられ、熱的安定性を高めることができる。また、架橋されたフッ素系(メタ)アクリレート系高分子は、フッ素系溶媒はもちろん、大部分の有機溶媒に溶解しないなど化学的耐久性が増大し、蒸着膜の表面を平坦にして平均表面粗さを大きく低下させることができる。
【0036】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率が小さすぎると、前記形成される高分子薄膜が十分な機械的物性や耐薬品性などを確保することができず、熱安定性が低下し、平均表面粗さを低下させにくいことがある。
【0037】
また、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率が大きすぎると、前記形成される高分子薄膜が本来のフッ素系高分子の特性を損なうことになるため、十分な撥水性および撥油性を有しにくいことがあり、過剰に含まれている官能基によって未反応官能基の残量が増加し、これは経時変化の原因として作用し得て、高分子蒸着膜の安定性を阻害することがある。
【0038】
前記一実施形態の製造方法では、気体状の熱開始剤が熱分解してラジカルを形成し、このようなラジカルが前記単量体混合物と反応し、連鎖重合反応を進行させて高分子が合成できる。そして、前記合成される高分子が所定の基材上に蒸着されることによって、前記高分子薄膜が形成できる。また、前記形成されたラジカルが所定の基材上に蒸着された単量体混合物と反応し、連鎖重合反応を進行させて高分子蒸着薄膜が形成できる。
【0039】
前記気体状の熱開始剤を熱分解する方法は、通常知られた方法を大きな制限なく使用できるが、より効率的な高分子重合を行うために、高い温度に加熱して維持される金属フィラメントを用いてもよい。
【0040】
つまり、前記一実施形態の高分子薄膜の製造方法は、前記気体状の熱開始剤を熱分解してラジカルを形成する段階は、前記気体状の熱開始剤と、150℃〜500℃の温度に加熱した金属フィラメントとを接触する段階を含むことができる。
【0041】
前記熱開始剤の具体例が大きく限定されるものではないが、前記気相蒸着反応に適用するためには、常温または分解温度以下で液状タイプで、かつ、常圧以下に減圧しながら常温または分解温度以下に加熱時に気化しやすくて流れを形成可能な開始剤を使用することが好ましい。
【0042】
このような熱開始剤の具体例としては、過酸化物、アゾ系化合物、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。前記過酸化物およびアゾ系化合物の具体例が大きく限定されるものではないが、前記過酸化物の例としては、di−tert−ブチルペルオキシド(di−tert−butyl peroxide)、di−tert−アミルペルオキシド(di−tert−amyl peroxide)などが挙げられ、前記アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(2−メチル−プロパン)(2,2’−azobis(2−methyl−propane)などが挙げられる。
【0043】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体は、フッ素原子を1以上または3以上含む有機官能基が置換された(メタ)アクリレート系化合物を意味し、その具体例としては、炭素数2〜12のペルフルオロアルキル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロベンジル(メタ)アクリレート、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0044】
また、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体のより具体的な例としては、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0045】
前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物は、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体と気相蒸着反応過程でより高い機械的物性、耐薬品性、耐熱性および表面平坦度を有する高分子薄膜を形成させることができる。
【0046】
前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物としては、ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含み、20℃〜200℃の温度で1mmHg〜100mmHgの蒸気圧を有する化合物を用いてもよい。このような前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、またはジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0047】
一方、前記高分子合成段階と、前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階とは、同時に行われてもよい。つまり、前記単量体混合物と、前記形成されたラジカルとが反応して高分子が形成される段階は、前記基材上で行われてもよいし、前記高分子が形成される時点で基材上に蒸着される段階も進行できる。具体的には、前記単量体混合物が基材上に吸着した後、前記形成されたラジカルが反応して高分子が合成され得、前記合成された高分子が基材上に蒸着されることで、上述した撥水性および撥油性を有する高分子薄膜が形成可能になる。
【0048】
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階における圧力は、0.1Torr〜1Torrであってもよい。前記蒸着時の圧力が低すぎると、蒸着速度が過度に遅くなったり、最終的に製造される高分子薄膜の機械的物性などが十分に確保しにくいことがある。また、前記蒸着時の圧力が高すぎると、気相反応が過剰に起こり、蒸着薄膜の表面に粉末が発生するなどの問題が発生し得、蒸着表面の品質が低下することがある。
【0049】
前記一実施形態の高分子薄膜の製造方法は、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物、および前記熱開始剤を、それぞれ、または同時に、20℃〜200℃の温度で気化させる段階をさらに含んでもよい。
【0050】
また、前記一実施形態の高分子薄膜の製造方法は、前記気化したフッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、および前記気化したビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物の全体流量対比の、前記気化した熱開始剤の流量が10%〜100%となるようにして、前記高分子合成段階に注入する段階を含むことができる。
【0051】
前記気化させる段階で使用可能な装置および方法に大きな制限はなく、例えば、ヒーティングマントル(heating mantle)、ヒーティングバンド(heating band)、ヒーティングジャケット(heating jacket)、ヒーティングボックス(heating box)、ヒーティングブロック(heating block)などの直接的加熱装置、および水浴のような間接的加熱装置のうちの1つ以上を用いて、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物、および前記熱開始剤が含まれている容器を加熱し、容器と蒸着チャンバ、または真空ポンプを連結する管を通して工程圧またはそれ以下の圧力レベルまで減圧して、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物、および前記熱開始剤を、それぞれ、または同時に気化させることができる。
【0052】
前記気化させる段階を経た前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物、および前記熱開始剤は、前記高分子合成段階、および前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階に投入可能である。
【0053】
具体的には、前記気化した単量体、および反応性化合物と、前記熱開始剤は、質量流量計(MFC、Mass Flow Controller)を通して一定の流量で蒸着チャンバに投入することができる。特に、常温以上の温度に加熱して気化させた物質に対しては、加熱装置を含む質量流量計または蒸気質量流量計(Vapor MFC)を通して流量を調節してこそ、流量計内で気体が凝結するのを防止することができる。
【0054】
また、前記単量体および反応性化合物を気化した容器から蒸着チャンバまで連結される供給管は、容器を加熱した温度以上に維持されなければならず、蒸着チャンバへ向かうほど供給管の温度を増加させることが、気化した物質の輸送により好ましい。例えば、前記単量体および反応性化合物を気化した容器から蒸着チャンバまでの温度勾配は、0℃〜50℃、または5℃〜20℃であってもよい。
【0055】
前記単量体および反応性化合物の流量(flow rate)は大きく限定されないが、前記流量が高いほど蒸着速度をより高めることができる。また、前記蒸着チャンバの容量が大きいほどより高い流量で供給することが好ましい。
【0056】
例えば、約30Lの蒸着チャンバを用いる場合、前記単量体および反応性化合物の流量は、それぞれ0.2〜10sccm(Standard Cubic Centimeters per Minute)の範囲で調節することが好ましく、開始剤は、全体単量体および反応性化合物の流量対比10%〜100%の範囲で投入することが好ましい。ただし、前記高分子薄膜の製造方法の具体的な内容がこの例に限定されるものではない。
【0057】
前記合成された高分子が蒸着される基材の具体的な種類が限定されるものではなく、例えば、シリコンウエハ、ガラス基板、金属基板、高分子基板、バッテリ分離膜、バッテリの負極材または正極材、各種メンブレン、印刷回路基板、LCDまたはOLEDなどの電気素子、またはその他の微細電気素子などであってもよい。
【0058】
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階では、前記基材が零下20℃〜100℃、または0℃〜60℃の温度で維持できる。
【0059】
前記蒸着が行われる反応器内の温度は、前記基材の温度、前記気体状の熱開始剤を熱分解してラジカルを形成する段階が行われる温度、前記高分子合成段階の温度やこのような合成過程で使用できる金属フィラメントの温度などによって影響を受けられ、約20℃〜200℃程度の温度であってもよい。
【0060】
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階などが行われる時間は、最終的に製造される高分子薄膜の厚さおよび物性に応じて決定可能であり、例えば、10秒〜120分、または30秒〜60分の時間内で行われてもよい。
【0061】
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階において、蒸着チャンバの工程圧力は、0.01Torr〜10Torr、または0.1Torr〜1Torrの圧力に維持できる。
【0062】
前記一実施形態の撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法において、圧力は、0.1Torr〜1Torrの範囲で行われてもよい。
【0063】
一方、発明の他の実施形態によれば、フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位;およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位を100:10〜100:80のモル比で含む高分子樹脂を含み、3μlの蒸留水に対して120°以上の静接触角を有し、3μlのオレイン酸(oleic acid)に対して80°以上の静接触角を有する、撥水性および撥油性を有する高分子薄膜が提供できる。
【0064】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位;およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位を100:10〜100:80、または100:13〜100:50のモル比で含む高分子樹脂を含む高分子薄膜は、全体領域にわたって均一な物性および厚さを有しながらも、低い平均表面粗さと共に高い耐久性および耐薬品性を有することができる。
【0065】
前記高分子薄膜は、前記一実施形態の撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法により製造されたものであってもよいし、具体的には、前記高分子薄膜は、熱開始剤を用いた化学気相蒸着により製造できる。
【0066】
前記熱開始剤を用いた化学気相蒸着に関する内容は、前記一実施形態の撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法に関して上述した内容を含む。
【0067】
前記高分子樹脂において、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位;およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位間のモル比率は、100:10〜100:80、または100:13〜100:50であってもよい。
【0068】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位対比の、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位のモル比率が小さすぎると、前記形成される高分子薄膜が十分な機械的物性や耐薬品性などを確保することができず、熱安定性が低下し、平均表面粗さを低下させにくいことがある。
【0069】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位対比の、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位のモル比率が大きすぎると、前記形成される高分子薄膜が十分な撥水性および撥油性を有しにくいことがあり、本来のフッ素系高分子の特性を損なうことになるため、十分な撥水性および撥油性を有しにくいことがあり、過剰に含まれている官能基によって未反応官能基の残量が増加し、これは経時変化の原因として作用し得て、高分子蒸着膜の安定性を阻害することがある。
【0070】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位は、フッ素原子を1以上または3以上含む有機官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位を意味し、例えば、炭素数2〜12のペルフルオロアルキル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロベンジル(メタ)アクリレート、またはこれらの2種以上の混合物の化合物に由来の繰り返し単位を意味する。
【0071】
前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位は、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が重合反応に参加することによって形成される繰り返し単位を意味する。前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、またはジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0072】
一方、前記高分子薄膜は、水に対してのみならず、有機成分に対しても高い接触角を有し、3次元構造のない平坦な表面においても撥水性および撥油性を実現することができ、逆テーパ3次元構造のような表面に蒸着される場合、超撥水性および超撥油性を実現することができて、転写される汚染物質の量を最小化しながらも、転写された汚染物質を除去しやすくする特性を有する。
【0073】
具体的には、前記高分子薄膜は、高い撥水性および撥油性を有することができ、例えば、前記高分子薄膜は、3μlの蒸留水に対して120°以上の静接触角、または120°〜140°の静接触角を有してもよいし、3μlのオレイン酸(oleic acid)に対して80°以上の静接触角、または80°〜120°の静接触角を有してもよい。
【0074】
また、前記高分子薄膜が30μlのオレイン酸(oleic acid)に対して有するスライディング角度(sliding angle)が30°以下、または3°〜30°であってもよい。前記製造される高分子薄膜は、液体や有機物質に対して相互作用エネルギーが低いため、液体類に対するスライディング角度が相対的に小さい。
【0075】
例えば、前記高分子薄膜に指紋の成分と最も類似のオレイン酸(oleic acid)30μlを載せ、水平面に対して傾斜角を設けながら前記オレイン酸の流れ始める角度、つまり、スライディング角度(sliding angle)が30°以下、または3°〜30°であってもよい。つまり、前記高分子薄膜は、有機成分や水分成分に対して低い相互作用エネルギーを示し、かつ、前記成分に対するスライディング角度も低くなるため、表面に転写される汚染物質の量を大きく低減できるだけでなく、転写された汚染物質が表面に残留する現象を防止することができ、前記汚染物質自体を除去しやすくする特性を有する。
【0076】
前記高分子薄膜は、均一な表面特性を有することができ、具体的には、前記高分子薄膜の平均表面粗さが15nm以下、または0.1nm〜15nmであってもよい。また、前記高分子薄膜の100nmあたりの平均表面粗さが3nm以下、または0.1〜3nmであってもよい。
【0077】
上述のように、前記高分子薄膜は、高い機械的表面物性および耐熱性を有することができる。具体的には、前記高分子薄膜は、ASTM D3363により、500gの錘を用いて測定した鉛筆硬度がHB以上、またはHB〜2Hであってもよい。
【0078】
前記製造される高分子薄膜は、10nm〜1,000nmの厚さを有してもよい。
【0079】
前記高分子樹脂が10,000〜1,000,000の重量平均分子量を有してもよい。前記高分子樹脂の重量平均分子量が小さすぎると、前記高分子薄膜が十分な機械的物性や熱安定性および耐薬品性を確保しにくいことがある。
【0080】
前記高分子樹脂は、架橋された状態で存在し得、架橋状態が高くなるにつれ、前記高分子薄膜は、有機溶媒に対する溶解度が大きく低下することがあり、前記高分子薄膜の重量平均分子量も非常に高くなり得る。
【発明の効果】
【0081】
本明細書では、全体領域にわたって均一な物性および厚さを有しながらも、低い平均表面粗さと共に高い耐久性および耐薬品性を有する撥水性および撥油性を有する高分子薄膜および前記高分子薄膜の製造方法が提供できる。
【0082】
また、前記撥水性および撥油性を有する高分子薄膜では、副産物の発生がわずかである上に、高分子薄膜の形成後に追加的な高温のアニーリング工程が不必要で、形成された薄膜表面の均一な物性を有するだけでなく、未反応で残留する反応性官能基の量がわずかで、安定した表面特性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1】実施例1で得られた高分子薄膜の表面の原子力顕微鏡(AFM)イメージを示すものである。
図2】実施例2で得られた高分子薄膜の表面の原子力顕微鏡(AFM)イメージを示すものである。
図3】実施例3で得られた高分子薄膜の表面の原子力顕微鏡(AFM)イメージを示すものである。
図4】比較例1で得られた高分子薄膜の表面の原子力顕微鏡(AFM)イメージを示すものである。
図5】比較例2で得られた高分子薄膜の表面の原子力顕微鏡(AFM)イメージを示すものである。
図6】比較例3で得られた高分子薄膜の表面の原子力顕微鏡(AFM)イメージを示すものである。
図7】EGDA/PFDAの比率に応じた蒸着膜の厚さ100nmあたりの平均表面粗さの分布を示すグラフである。
図8】EGDA/PFDAの比率に応じたオレイン酸のスライディング角の分布を示すグラフである。
図9】実施例1および比較例2の耐熱性の比較結果を示すものである。
図10】実施例1および比較例1で得られた高分子薄膜の表面に対する耐薬品性の測定結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0084】
発明の具体的な実施形態を下記の実施例でより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は発明の具体的な実施形態を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0085】
[実施例:高分子薄膜の製造]
蒸着基板のシリコンウエハを酸素プラズマで前処理洗浄し、熱線化学気相蒸着反応器の内部に位置させた。前記気相蒸着反応器において、基板の表面温度は20℃に維持し、工程圧を0.1Torrで適用し、ニッケル−クロム(8:2)の熱線を300℃に加熱した。
【0086】
そして、前記気相蒸着反応器の内部に、気体状態の1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルアクリレートおよびエチレングリコールジアクリレートを、それぞれ計測バルブ(metering valve)を用いて投入量を調節しながら注入した。この時、前記1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルアクリレート(PFDA)およびエチレングリコールジアクリレート(EGDA)を気化させる適用温度および前記計測バルブの開放程度は、下記表1に示した通りである。
【0087】
前記1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルアクリレートおよびエチレングリコールジアクリレートを注入する過程で、質量流量計(Mass Flow Controller)を用いて、気化したtert−ブチルペルオキシドを2sccmの量で注入した。
【0088】
実施例1〜2では約15分程度蒸着を行い、実施例3では5分間蒸着を行うことで、高分子薄膜を製造した。
【0089】
[比較例1:高分子薄膜の製造]
前記エチレングリコールジアクリレートを使用せず、下記表1に記載の気化時の適用温度および計測バルブの開放程度を適用した点を除き、実施例1と同様の方法で高分子薄膜を製造した。この時、比較例1では約30分程度蒸着を行った。
【0090】
[比較例2、3:高分子薄膜の製造]
実施例1と同様の方法で高分子薄膜を製造するが、この時、下記表1に記載のように、エチレングリコールジアクリレートを相対的に微量または相対的に過剰注入して、比較例2および比較例3の高分子薄膜を製造した。この時、比較例2〜3では約15分程度蒸着を行った。
【0091】
[実験例]
実験例1:蒸着膜の成分分析
X線光電子分光分析器(XPS or ESCAモデル名:ESCALAB250(VG))を用いて、次のようなシステム条件で蒸着膜の成分分析を実施した。
【0092】
【表1】
【0093】
下記表2に記載のパラメータでサーベイおよびナローデータ(narrow data)を得て、定性および定量、結合形態の分析を行った。
【0094】
【表2】
【0095】
サーベイスキャンを通してC、O、F元素の含有の有無を定性的に分析した後、PFDAとEGDAの混合比を確認するために、C1sピークに対してナロースキャン(narrow scan)を実施した。この時、表面の汚染による混同を防止するために、表面から深さ方向に10nm内で検出された含有量を基準とした。
【0096】
C1sピークデコンボリューション[deconvolution]により知られたバインディングエネルギーに相応するピークを確認した。前記蒸着膜に関連する炭素ピークは、−C−C*H−C−(285.0eV)、−C*H−CO−(285.7eV)、−O−C*H−CH−(286.7eV)、−CH−C*H−CF−(286.8eV)、−O−C*=O−(289.2eV)、−C*F−(291.2eV)、−C*F−(293.3eV)の通りである。この時、PFDAには分子1個あたり7個の−C*F−が存在し、1個の−O−C*=O−が存在する。また、EGDAには分子1個あたり2個の−O−C*=O−が存在するので、C1sピークデコンボリューション[deconvolution]により指定されたピークのうち、「−O−C*=O−」/「−C*F−」の面積比率を求めると、これは「(PFDAのモル数+EGDAのモル数)/PFDAのモル数」となる。これから高分子蒸着膜内の1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルアクリレート(PFDA)およびエチレングリコールジアクリレート(EGDA)の含有モル比をそれぞれ求めて、表3に示した。
【0097】
実験例2:表面粗さの測定
原子力顕微鏡(Large stage AFM(Veeco社Dimension3100))を用いて、タッピングモード(Tapping mode)5μmx5μmの領域に対してスキャンを実施して、前記実施例および比較例で得られた高分子蒸着薄膜の平均表面粗さ(Ra)を測定した。
【0098】
図1図6には、実施例および比較例で得られた高分子薄膜の表面の原子力顕微鏡(AFM)イメージを示した。
【0099】
図1図3に示されているように、実施例1〜3で得られた高分子薄膜の表面は、非常に平坦な表面形状を示すことが確認された。ただし、実施例2の場合、厚さの増加によって表面粗さがやや増加したが、単位厚さあたりの平均表面粗さでは実施例3と類似していることは表3に示した。反面、図4の比較例1の場合、表面粗さが非常に大きくなり、図5の比較例2の場合にも、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物(EGDA)の含有比率が低すぎて、表面粗さが増加した。
【0100】
図7に、EGDA/PFDAの比率に応じた蒸着膜の厚さ100nmあたりの平均表面粗さの分布を示した。蒸着膜の厚さ100nmあたりの平均表面粗さ3nm以下のレベルを満たすためには、EGDA/PFDAの比率が0.10以上となるべきであることが分かる。
【0101】
実験例3:静接触角および動接触角の測定
(1)静接触角の測定
タンジェント方法(Tangent method)により、水とオレイン酸(oleic acid)それぞれ3μlを、前記実施例および比較例で得られた高分子蒸着薄膜の表面に載せ、DSA100測定装置を用いて静接触角を測定した。
【0102】
表3に示しているように、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物(EGDA)を含有した実施例1〜3の場合にも、水の接触角およびオレイン酸の接触角が阻害されず、比較例1のようにフッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系(PFDA)のみからなる高分子蒸着膜のような撥水性および撥油性を維持することを確認した。
【0103】
(2)動接触角の測定
前記実施例および比較例で得られた高分子蒸着薄膜の表面に、30μlのオレイン酸(oleic acid)を載せた後に、ステージの一方を持ち上げて前記フィルムに傾斜角を設けながら前記オレイン酸の流れ落ちる時点の角度[スライディング角度、sliding angle]を、チルティングテーブル方法(Tilting table method)でDSA100測定装置を用いて測定した。
【0104】
表3に示しているように、比較例3では、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系(PFDA)繰り返し単位対比の、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物(EGDA)由来の繰り返し単位のモル比率が大きすぎて、オレイン酸のスライディング角が30°以上の高い値を示し、指紋のような表面の汚染除去に不利であり得る。図8に、EGDA/PFDAの比率に応じたオレイン酸のスライディング角の分布を示した。実験結果から得られた関係式(y=19.619x+14.147)により計算した時、オレイン酸のスライディング角が30°以下となるためには、EGDA/PFDAの比率が0.8以下とならなければならない。
【0105】
実験例4:機械的強度の測定
ASTM D3363試験規格に基づいた方法により、鉛筆硬度テスト器を用いて500gの錘を載せ、多様な硬度の鉛筆を用いて、前記実施例および比較例で得られた高分子蒸着薄膜の表面の鉛筆硬度を測定した。
【0106】
表3に示しているように、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物(EGDA)を含有しない比較例1と、含有比率が小さすぎる比較例2の場合、3B以下の低い機械的強度を示すのに対し、フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系(PFDA)繰り返し単位に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物(EGDA)由来の繰り返し単位の含有比率が100:13以上である実施例1〜3では、HB以上の鉛筆硬度を示した。
【0107】
実験例5:耐熱性の測定
前記実施例および比較例で得られた高分子蒸着試験片を、250℃のオーブンで1時間熱処理した後、加熱前と後の薄膜の表面状態を顕微鏡を通して観察した。
【0108】
図9に示されているように、実施例1で得られた高分子薄膜の表面は、加熱前後で変化がないのに対し、比較例2で得られた高分子薄膜の表面は、加熱後の表面形状に変化が発生することが確認された。比較例2の場合、架橋された形態の高分子膜であるにもかかわらず、先に説明したように、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系(PFDA)繰り返し単位対比の、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物(EGDA)由来の繰り返し単位のモル比率が小さすぎて、前記形成される高分子薄膜が十分な熱安定性を確保することができなかった。
【0109】
実験例6:耐薬品性の測定
前記実施例および比較例で得られた高分子蒸着薄膜の表面にヘキサフルオロイソプロパノールを0.5mLを滴加し、溶解が発生したか否かを確認した。
【0110】
図10に示されているように、実施例1で得られた高分子薄膜の表面は、ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解しないのに対し、比較例1で得られた高分子薄膜の表面は、ヘキサフルオロイソプロパノールが滴加されてすぐに表面で溶解が発生することが確認された。
【0111】
前記実験例の結果を表3に示した。
【0112】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10