【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書では、気体状の熱開始剤を熱分解してラジカルを形成する段階と、フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物を含む単量体混合物と、前記形成されたラジカルとが反応する高分子合成段階と、前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階とを含み、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率が0.10〜0.80である、撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法が提供される。
【0010】
[一般式1]
蒸着分圧=Pm/Psat
【0011】
前記一般式1において、Psatは、前記合成された高分子が蒸着される基材の表面温度における当該単量体または化合物の飽和蒸気圧(saturation vapor pressure)を意味し、Pmは、前記蒸着が行われる反応器内における当該単量体または化合物の分圧(partial pressure)を意味する。
【0012】
また、本明細書では、フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位;およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位を100:10〜100:80のモル比で含む高分子樹脂を含み、3μlの蒸留水に対して120°以上の静接触角を有し、3μlのオレイン酸(oleic acid)に対して80°以上の静接触角を有する、撥水性および撥油性を有する高分子薄膜が提供される。
【0013】
以下、発明の具体的な実施形態に係る撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法および撥水性および撥油性を有する高分子薄膜に関してより詳細に説明する。
【0014】
本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート[acrylate]および(メタ)クリレート[(meth)acrylate]を全て含む意味である。
【0015】
発明の一実施形態によれば、気体状の熱開始剤を熱分解してラジカルを形成する段階と、フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物を含む単量体混合物と、前記形成されたラジカルとが反応する高分子合成段階と、前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階とを含み、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する前記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する前記一般式1の蒸着分圧の比率が0.10〜0.80、または0.13〜0.50である、撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法が提供できる。
【0016】
前記一般式1の蒸着分圧(Pm/Psat)は、前記蒸着が行われる基材の表面温度における当該単量体または化合物の飽和蒸気圧(saturation vapor pressure)に対する、蒸着が行われる反応器内における当該単量体または化合物の分圧(partial pressure)の比(ratio)である。
【0017】
具体的には、前記一般式1において、Psatは、前記合成された高分子が蒸着される基材の表面温度における当該単量体または化合物の飽和蒸気圧(saturation vapor pressure)を意味し、Pmは、前記蒸着が行われる反応器内における当該単量体または化合物の分圧(partial pressure)を意味する。
【0018】
前記蒸着が行われる反応器の具体的な種類や形状などは大きく制限されるわけではなく、化学気相蒸着反応に使用できると知られた蒸着反応器や蒸着チャンバを用いてもよい。
【0019】
前記発明の一実施形態の製造方法では、それぞれの反応物の濃度は、投入した単量体または化合物の分圧ではなく、蒸着を行う基材の表面温度における単量体または化合物の飽和蒸気圧に対する、蒸着が行われる反応器内における当該単量体または化合物の分圧の比(ratio)として定義される。
【0020】
前記蒸着が行われる反応器内における単量体または化合物の分圧は、投入した総気体流量に対する当該単量体または化合物の流量の比(ratio)に、蒸着工程圧を乗算して得られる値であってもよい。
【0021】
また、前記蒸着基材の表面温度における当該単量体または化合物の飽和蒸気圧は、Clausius−Clapeyronの関係式で計算することができる。
【0022】
本発明者らは、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率が、最終的に製造される高分子薄膜においてそれぞれの反応物由来の繰り返し単位のモル比と一致することを確認した。
【0023】
また、本発明者らは、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体と、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物とを、上述した特定の蒸着分圧の比率を適用して、熱開始剤のラジカルの存在下で気相反応させて得られた高分子を蒸着すれば、全体領域にわたって均一な物性および厚さを有しながらも、低い平均表面粗さと共に高い耐久性および耐薬品性を有する撥水性および撥油性を有する高分子薄膜または高分子蒸着薄膜が得られるという点を確認し、発明を完成した。
【0024】
前記製造方法により得られる前記撥水性および撥油性を有する高分子薄膜では、副産物の発生がわずかである上に、高分子薄膜の形成後に追加的な高温のアニーリング工程が不必要で、形成された薄膜表面の均一な物性を有するだけでなく、未反応で残留する反応性官能基の量がわずかで、安定した表面特性を有することができる。
【0025】
前記製造される高分子薄膜は、水に対してのみならず、有機成分に対しても高い接触角を有し、3次元構造のない平坦な表面においても撥水性および撥油性を実現することができ、逆テーパ3次元構造などを有する表面に蒸着される場合、超撥水性および超撥油性を実現することができて、転写される汚染物質の量を最小化しながらも、転写された汚染物質を除去しやすくする特性を有する。
【0026】
具体的には、前記製造される高分子薄膜は、高い撥水性および撥油性を有することができ、例えば、前記高分子薄膜は、3μlの蒸留水に対して120°以上の静接触角、または120°〜140°の静接触角を有してもよく、3μlのオレイン酸(oleic acid)に対して80°以上の静接触角、または80°〜120°の静接触角を有してもよい。
【0027】
また、前記製造される高分子薄膜が30μlのオレイン酸(oleic acid)に対して有するスライディング角度(sliding angle)が30°以下、または3°〜30°であってもよい。
【0028】
前記製造される高分子薄膜は、液体や有機物質に対して相互作用エネルギーが低いため、液体類に対するスライディング角度が相対的に小さい。例えば、前記高分子薄膜に指紋の成分と最も類似のオレイン酸(oleic acid)30μlを載せ、水平面に対して傾斜角を設けながら前記オレイン酸の流れ始める角度、つまり、スライディング角度(sliding angle)が30°以下、または3°〜30°であってもよい。つまり、前記高分子薄膜は、有機成分や水分成分に対して低い相互作用エネルギーを示し、かつ、前記成分に対するスライディング角度も低くなるため、表面に転写される汚染物質の量を大きく低減できるだけでなく、転写された汚染物質が表面に残留する現象を防止することができ、前記汚染物質自体を除去しやすくする特性を有する。
【0029】
それだけでなく、前記製造される高分子薄膜は、均一な表面特性を有することができ、具体的には、前記高分子薄膜の平均表面粗さが15nm以下、または0.1nm〜15nmであってもよい。
【0030】
前記高分子薄膜の厚さ100nmあたりの平均表面粗さが3nm以下、または0.1〜3nmであってもよい。例えば、厚さ200nmの前記高分子薄膜は、平均表面粗さ6nm以下の値を有する。
【0031】
上述のように、前記製造される高分子薄膜は、高い機械的表面物性および耐熱性を有することができる。具体的には、ASTM D3363により、500gの錘を用いて測定した前記製造される高分子薄膜の鉛筆硬度がHB以上、またはHB〜2Hであってもよい。
【0032】
前記製造される高分子薄膜は、10nm〜1,000nmの厚さを有してもよい。
【0033】
上述のように、前記製造される高分子薄膜の特性は、前記一実施形態の製造方法において、熱分解過程により形成された熱開始剤のラジカルの存在下、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率を0.10〜0.80、または0.13〜0.50として、反応を進行させることにより得られる。
【0034】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体のみで製造した高分子薄膜は、ガラス転移温度(Tg)が常温以下で熱安定性が低下し、手で触るような軽い摩擦によっても脱膜または蒸着膜が損傷する程度に物理的耐久性も弱い。また、フッ素系溶媒によって溶解しやすいなど化学的耐久性も低下し、蒸着膜の表面粗さも高い方で、平坦な蒸着膜を得ることができない。
【0035】
しかし、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体と、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物とが上述した比率で反応することによって、架橋作用によって物理的耐久性が与えられ、熱的安定性を高めることができる。また、架橋されたフッ素系(メタ)アクリレート系高分子は、フッ素系溶媒はもちろん、大部分の有機溶媒に溶解しないなど化学的耐久性が増大し、蒸着膜の表面を平坦にして平均表面粗さを大きく低下させることができる。
【0036】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率が小さすぎると、前記形成される高分子薄膜が十分な機械的物性や耐薬品性などを確保することができず、熱安定性が低下し、平均表面粗さを低下させにくいことがある。
【0037】
また、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体が有する下記一般式1の蒸着分圧に対する、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が有する下記一般式1の蒸着分圧の比率が大きすぎると、前記形成される高分子薄膜が本来のフッ素系高分子の特性を損なうことになるため、十分な撥水性および撥油性を有しにくいことがあり、過剰に含まれている官能基によって未反応官能基の残量が増加し、これは経時変化の原因として作用し得て、高分子蒸着膜の安定性を阻害することがある。
【0038】
前記一実施形態の製造方法では、気体状の熱開始剤が熱分解してラジカルを形成し、このようなラジカルが前記単量体混合物と反応し、連鎖重合反応を進行させて高分子が合成できる。そして、前記合成される高分子が所定の基材上に蒸着されることによって、前記高分子薄膜が形成できる。また、前記形成されたラジカルが所定の基材上に蒸着された単量体混合物と反応し、連鎖重合反応を進行させて高分子蒸着薄膜が形成できる。
【0039】
前記気体状の熱開始剤を熱分解する方法は、通常知られた方法を大きな制限なく使用できるが、より効率的な高分子重合を行うために、高い温度に加熱して維持される金属フィラメントを用いてもよい。
【0040】
つまり、前記一実施形態の高分子薄膜の製造方法は、前記気体状の熱開始剤を熱分解してラジカルを形成する段階は、前記気体状の熱開始剤と、150℃〜500℃の温度に加熱した金属フィラメントとを接触する段階を含むことができる。
【0041】
前記熱開始剤の具体例が大きく限定されるものではないが、前記気相蒸着反応に適用するためには、常温または分解温度以下で液状タイプで、かつ、常圧以下に減圧しながら常温または分解温度以下に加熱時に気化しやすくて流れを形成可能な開始剤を使用することが好ましい。
【0042】
このような熱開始剤の具体例としては、過酸化物、アゾ系化合物、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。前記過酸化物およびアゾ系化合物の具体例が大きく限定されるものではないが、前記過酸化物の例としては、di−tert−ブチルペルオキシド(di−tert−butyl peroxide)、di−tert−アミルペルオキシド(di−tert−amyl peroxide)などが挙げられ、前記アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(2−メチル−プロパン)(2,2’−azobis(2−methyl−propane)などが挙げられる。
【0043】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体は、フッ素原子を1以上または3以上含む有機官能基が置換された(メタ)アクリレート系化合物を意味し、その具体例としては、炭素数2〜12のペルフルオロアルキル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロベンジル(メタ)アクリレート、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0044】
また、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体のより具体的な例としては、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0045】
前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物は、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体と気相蒸着反応過程でより高い機械的物性、耐薬品性、耐熱性および表面平坦度を有する高分子薄膜を形成させることができる。
【0046】
前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物としては、ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含み、20℃〜200℃の温度で1mmHg〜100mmHgの蒸気圧を有する化合物を用いてもよい。このような前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、またはジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0047】
一方、前記高分子合成段階と、前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階とは、同時に行われてもよい。つまり、前記単量体混合物と、前記形成されたラジカルとが反応して高分子が形成される段階は、前記基材上で行われてもよいし、前記高分子が形成される時点で基材上に蒸着される段階も進行できる。具体的には、前記単量体混合物が基材上に吸着した後、前記形成されたラジカルが反応して高分子が合成され得、前記合成された高分子が基材上に蒸着されることで、上述した撥水性および撥油性を有する高分子薄膜が形成可能になる。
【0048】
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階における圧力は、0.1Torr〜1Torrであってもよい。前記蒸着時の圧力が低すぎると、蒸着速度が過度に遅くなったり、最終的に製造される高分子薄膜の機械的物性などが十分に確保しにくいことがある。また、前記蒸着時の圧力が高すぎると、気相反応が過剰に起こり、蒸着薄膜の表面に粉末が発生するなどの問題が発生し得、蒸着表面の品質が低下することがある。
【0049】
前記一実施形態の高分子薄膜の製造方法は、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物、および前記熱開始剤を、それぞれ、または同時に、20℃〜200℃の温度で気化させる段階をさらに含んでもよい。
【0050】
また、前記一実施形態の高分子薄膜の製造方法は、前記気化したフッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、および前記気化したビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物の全体流量対比の、前記気化した熱開始剤の流量が10%〜100%となるようにして、前記高分子合成段階に注入する段階を含むことができる。
【0051】
前記気化させる段階で使用可能な装置および方法に大きな制限はなく、例えば、ヒーティングマントル(heating mantle)、ヒーティングバンド(heating band)、ヒーティングジャケット(heating jacket)、ヒーティングボックス(heating box)、ヒーティングブロック(heating block)などの直接的加熱装置、および水浴のような間接的加熱装置のうちの1つ以上を用いて、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物、および前記熱開始剤が含まれている容器を加熱し、容器と蒸着チャンバ、または真空ポンプを連結する管を通して工程圧またはそれ以下の圧力レベルまで減圧して、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物、および前記熱開始剤を、それぞれ、または同時に気化させることができる。
【0052】
前記気化させる段階を経た前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系単量体、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物、および前記熱開始剤は、前記高分子合成段階、および前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階に投入可能である。
【0053】
具体的には、前記気化した単量体、および反応性化合物と、前記熱開始剤は、質量流量計(MFC、Mass Flow Controller)を通して一定の流量で蒸着チャンバに投入することができる。特に、常温以上の温度に加熱して気化させた物質に対しては、加熱装置を含む質量流量計または蒸気質量流量計(Vapor MFC)を通して流量を調節してこそ、流量計内で気体が凝結するのを防止することができる。
【0054】
また、前記単量体および反応性化合物を気化した容器から蒸着チャンバまで連結される供給管は、容器を加熱した温度以上に維持されなければならず、蒸着チャンバへ向かうほど供給管の温度を増加させることが、気化した物質の輸送により好ましい。例えば、前記単量体および反応性化合物を気化した容器から蒸着チャンバまでの温度勾配は、0℃〜50℃、または5℃〜20℃であってもよい。
【0055】
前記単量体および反応性化合物の流量(flow rate)は大きく限定されないが、前記流量が高いほど蒸着速度をより高めることができる。また、前記蒸着チャンバの容量が大きいほどより高い流量で供給することが好ましい。
【0056】
例えば、約30Lの蒸着チャンバを用いる場合、前記単量体および反応性化合物の流量は、それぞれ0.2〜10sccm(Standard Cubic Centimeters per Minute)の範囲で調節することが好ましく、開始剤は、全体単量体および反応性化合物の流量対比10%〜100%の範囲で投入することが好ましい。ただし、前記高分子薄膜の製造方法の具体的な内容がこの例に限定されるものではない。
【0057】
前記合成された高分子が蒸着される基材の具体的な種類が限定されるものではなく、例えば、シリコンウエハ、ガラス基板、金属基板、高分子基板、バッテリ分離膜、バッテリの負極材または正極材、各種メンブレン、印刷回路基板、LCDまたはOLEDなどの電気素子、またはその他の微細電気素子などであってもよい。
【0058】
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階では、前記基材が零下20℃〜100℃、または0℃〜60℃の温度で維持できる。
【0059】
前記蒸着が行われる反応器内の温度は、前記基材の温度、前記気体状の熱開始剤を熱分解してラジカルを形成する段階が行われる温度、前記高分子合成段階の温度やこのような合成過程で使用できる金属フィラメントの温度などによって影響を受けられ、約20℃〜200℃程度の温度であってもよい。
【0060】
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階などが行われる時間は、最終的に製造される高分子薄膜の厚さおよび物性に応じて決定可能であり、例えば、10秒〜120分、または30秒〜60分の時間内で行われてもよい。
【0061】
前記合成された高分子が基材上に蒸着される段階において、蒸着チャンバの工程圧力は、0.01Torr〜10Torr、または0.1Torr〜1Torrの圧力に維持できる。
【0062】
前記一実施形態の撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法において、圧力は、0.1Torr〜1Torrの範囲で行われてもよい。
【0063】
一方、発明の他の実施形態によれば、フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位;およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位を100:10〜100:80のモル比で含む高分子樹脂を含み、3μlの蒸留水に対して120°以上の静接触角を有し、3μlのオレイン酸(oleic acid)に対して80°以上の静接触角を有する、撥水性および撥油性を有する高分子薄膜が提供できる。
【0064】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位;およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位を100:10〜100:80、または100:13〜100:50のモル比で含む高分子樹脂を含む高分子薄膜は、全体領域にわたって均一な物性および厚さを有しながらも、低い平均表面粗さと共に高い耐久性および耐薬品性を有することができる。
【0065】
前記高分子薄膜は、前記一実施形態の撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法により製造されたものであってもよいし、具体的には、前記高分子薄膜は、熱開始剤を用いた化学気相蒸着により製造できる。
【0066】
前記熱開始剤を用いた化学気相蒸着に関する内容は、前記一実施形態の撥水性および撥油性を有する高分子薄膜の製造方法に関して上述した内容を含む。
【0067】
前記高分子樹脂において、前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位;およびビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位間のモル比率は、100:10〜100:80、または100:13〜100:50であってもよい。
【0068】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位対比の、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位のモル比率が小さすぎると、前記形成される高分子薄膜が十分な機械的物性や耐薬品性などを確保することができず、熱安定性が低下し、平均表面粗さを低下させにくいことがある。
【0069】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位対比の、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位のモル比率が大きすぎると、前記形成される高分子薄膜が十分な撥水性および撥油性を有しにくいことがあり、本来のフッ素系高分子の特性を損なうことになるため、十分な撥水性および撥油性を有しにくいことがあり、過剰に含まれている官能基によって未反応官能基の残量が増加し、これは経時変化の原因として作用し得て、高分子蒸着膜の安定性を阻害することがある。
【0070】
前記フッ素系官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位は、フッ素原子を1以上または3以上含む有機官能基が置換された(メタ)アクリレート系繰り返し単位を意味し、例えば、炭素数2〜12のペルフルオロアルキル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロベンジル(メタ)アクリレート、またはこれらの2種以上の混合物の化合物に由来の繰り返し単位を意味する。
【0071】
前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物由来の繰り返し単位は、前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物が重合反応に参加することによって形成される繰り返し単位を意味する。前記ビニル基または(メタ)アクリレート系官能基を2以上含む反応性化合物の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、またはジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0072】
一方、前記高分子薄膜は、水に対してのみならず、有機成分に対しても高い接触角を有し、3次元構造のない平坦な表面においても撥水性および撥油性を実現することができ、逆テーパ3次元構造のような表面に蒸着される場合、超撥水性および超撥油性を実現することができて、転写される汚染物質の量を最小化しながらも、転写された汚染物質を除去しやすくする特性を有する。
【0073】
具体的には、前記高分子薄膜は、高い撥水性および撥油性を有することができ、例えば、前記高分子薄膜は、3μlの蒸留水に対して120°以上の静接触角、または120°〜140°の静接触角を有してもよいし、3μlのオレイン酸(oleic acid)に対して80°以上の静接触角、または80°〜120°の静接触角を有してもよい。
【0074】
また、前記高分子薄膜が30μlのオレイン酸(oleic acid)に対して有するスライディング角度(sliding angle)が30°以下、または3°〜30°であってもよい。前記製造される高分子薄膜は、液体や有機物質に対して相互作用エネルギーが低いため、液体類に対するスライディング角度が相対的に小さい。
【0075】
例えば、前記高分子薄膜に指紋の成分と最も類似のオレイン酸(oleic acid)30μlを載せ、水平面に対して傾斜角を設けながら前記オレイン酸の流れ始める角度、つまり、スライディング角度(sliding angle)が30°以下、または3°〜30°であってもよい。つまり、前記高分子薄膜は、有機成分や水分成分に対して低い相互作用エネルギーを示し、かつ、前記成分に対するスライディング角度も低くなるため、表面に転写される汚染物質の量を大きく低減できるだけでなく、転写された汚染物質が表面に残留する現象を防止することができ、前記汚染物質自体を除去しやすくする特性を有する。
【0076】
前記高分子薄膜は、均一な表面特性を有することができ、具体的には、前記高分子薄膜の平均表面粗さが15nm以下、または0.1nm〜15nmであってもよい。また、前記高分子薄膜の100nmあたりの平均表面粗さが3nm以下、または0.1〜3nmであってもよい。
【0077】
上述のように、前記高分子薄膜は、高い機械的表面物性および耐熱性を有することができる。具体的には、前記高分子薄膜は、ASTM D3363により、500gの錘を用いて測定した鉛筆硬度がHB以上、またはHB〜2Hであってもよい。
【0078】
前記製造される高分子薄膜は、10nm〜1,000nmの厚さを有してもよい。
【0079】
前記高分子樹脂が10,000〜1,000,000の重量平均分子量を有してもよい。前記高分子樹脂の重量平均分子量が小さすぎると、前記高分子薄膜が十分な機械的物性や熱安定性および耐薬品性を確保しにくいことがある。
【0080】
前記高分子樹脂は、架橋された状態で存在し得、架橋状態が高くなるにつれ、前記高分子薄膜は、有機溶媒に対する溶解度が大きく低下することがあり、前記高分子薄膜の重量平均分子量も非常に高くなり得る。