(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6407370
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】有機白金化合物からなる気相蒸着用原料及び該気相蒸着用原料を用いた気相蒸着法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20181004BHJP
C07F 15/00 20060101ALI20181004BHJP
C07C 211/40 20060101ALI20181004BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20181004BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
C23C16/18
C07F15/00 F
C07C211/40
H01L21/285 C
H01L21/28 301R
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-143327(P2017-143327)
(22)【出願日】2017年7月25日
【審査請求日】2018年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】原田 了輔
(72)【発明者】
【氏名】大武 成行
(72)【発明者】
【氏名】重冨 利幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和治
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/052672(WO,A2)
【文献】
国際公開第2013/054863(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/144455(WO,A1)
【文献】
特開2016−211048(JP,A)
【文献】
特開平11−292889(JP,A)
【文献】
特表2001−504159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
C07F 15/00
C07C 211/40
H01L 21/205
H01L 21/28−21/288
H01L 21/365
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相蒸着法により白金薄膜又は白金化合物薄膜を製造するための気相蒸着用原料において、
次式で示される、2価の白金に、シクロペンテン−アミン配位子とアルキル配位子が配位した有機白金化合物からなる気相蒸着用原料。
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、イソシアノ基のいずれか1種であり、且つ、いずれも炭素数4以下である。R
4及びR
5は、それぞれ、炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
【請求項2】
R1、R2は、それぞれ、水素、メチル基又はエチル基のいずれかである請求項1に記載の気相蒸着用原料。
【請求項3】
R3は、水素である請求項1又は請求項2に記載の気相蒸着用原料。
【請求項4】
R4及びR5は、いずれもメチル基である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の気相蒸着用原料。
【請求項5】
有機白金化合物からなる原料を気化して原料ガスとし、前記原料ガスを基板表面に導入しつつ加熱する白金薄膜又は白金化合物薄膜の気相蒸着法において、
前記原料として請求項1〜請求項4のいずれかに記載された気相蒸着用原料を用いる気相蒸着法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD(化学気相蒸着)法、ALD(原子層堆積)法等の気相蒸着法により白金薄膜又は白金化合物薄膜を製造するための、有機白金化合物からなる気相蒸着用原料に関する。詳しくは、低温での成膜を可能としつつも適度な熱安定性を有し、効率的な白金薄膜等を形成できる気相蒸着用原料に関する。
【背景技術】
【0002】
各種半導体素子、半導体デバイスの電極・配線材料として、従来から、白金薄膜又は白金化合物薄膜(以下、白金薄膜等と称する)が適用されている。そして、白金薄膜等の製造にあっては、CVD法、ALD法等の気相蒸着法が利用されている。
【0003】
気相蒸着法により白金薄膜等を製造する原料としては、従来から多くの有機白金化合物からなるものが知られている。この有機白金化合物としては、例えば、下記の(シクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV))錯体(特許文献1)、(1,5−ヘキサジエン)ジメチル白金(II)(特許文献2)等が提案されている。
【0004】
【化1】
【0005】
【化2】
【0006】
ここで気相蒸着用原料の要求性能としては、一般に、蒸気圧が高く気化特性が良好であることに加えて、低温で成膜可能でありながら適度な熱安定性を有することが挙げられる。上記した2種の有機白金化合物は、この要求性能をバランス良く具備するものではない。即ち、特許文献1の(シクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)は、良好な気化特性を有するものの、分解温度が高く熱安定性が高過ぎるため低温成膜に不向きの原料である。一方、特許文献2の(1,5−ヘキサジエン)ジメチル白金(II)は、分解温度の低減により低温成膜に対応可能であるが、保管時や成膜前の気化段階等において、稀に化合物が分解することがあった。
【0007】
そこで、本願出願人は、上記の従来技術に対して、低温での成膜を可能としつつも好適な熱安定性を有し、気化段階等では熱分解し難い気相蒸着用の白金原料として、白金にアルケン−アミン配位子とアルキル配位子が配位する下記の有機白金化合物からなる原料を提案している(特許文献3)。
【0008】
【化3】
(式中、nは1以上5以下である。R
1〜R
5は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、イソシアノ基のいずれか1種であり、且つ、いずれも炭素数4以下である。R
6及びR
7は、それぞれ、炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−292889号公報
【特許文献2】国際公開第2012/144455号パンフレット
【特許文献3】特開2016−211048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した本願出願人による有機白金化合物からなる原料は、低温成膜が可能でありながら熱安定性も改良されており、保管時や気化段階等での有機白金化合物の分解も抑制されている。よって、この有機白金化合物からなる原料は、これまでの白金薄膜等に対する要求特性や成膜環境・成膜条件に対して有効に対応することが可能であった。
【0011】
しかしながら、半導体デバイス等の製造効率向上のため、成膜条件・成膜環境がよりシビアになりつつある近年においては、上記した有機白金化合物からなる原料でも対応が困難となっている。具体的には、薄膜製造装置における成膜エリアの広範囲化やハイスループット化が要求されており、そのような条件のもとでは、上記従来の原料には、有機白金化合物の不意な分解や、膜厚不足等による成膜不良が発生するおそれがある。
【0012】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、気相蒸着用原料の要求特性、即ち、気化特性と熱安定性とのバランスに関して、従来以上に良好な特性を発揮し、低温成膜に対応し得る有機白金化合物を見出すことを目的とする。そして、本発明は、かかる有機白金化合物を適用する最適な気相蒸着用原料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に関して、成膜エリアの広範囲化やハイスループット化等によって、有機白金化合物の分解や成膜不良が発生するとすれば、それらの成膜条件に対しては、適用される有機白金化合物の熱安定性に不足があることが考えられる。そこで、本発明者等は、従来の有機白金化合物の構成を考慮しつつ、熱安定性を適切に改善し、低温成膜性及び気化特性とのバランスを良好な有機白金化合物を見出すべく鋭意検討を行った。そして好適な有機白金化合物として、2価の白金に、シクロペンテン−アミン配位子と2つのアルキル配位子が配位する化合物を見出し、本発明に想到した。
【0014】
即ち、本発明は、気相蒸着法により白金薄膜又は白金化合物薄膜を製造するための気相蒸着用原料において、次式で示される、2価の白金に、シクロペンテン−アミン配位子とアルキル配位子が配位した有機白金化合物からなる気相蒸着用原料である。
【0015】
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、イソシアノ基のいずれか1種であり、且つ、いずれも炭素数4以下である。R
4及びR
5は、それぞれ、炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
【0016】
以下、本発明に係る気相蒸着用原料を構成する有機白金化合物について詳細に説明する。上記のとおり、本発明で適用する有機白金化合物は、白金に対する配位子としてシクロペンテン−アミン配位子とアルキル配位子を適用するものである。この有機白金化合物は、上述した従来の有機白金化合物(特許文献3)のアルケン−アミン配位子における鎖状アルケン配位子を、環状アルケン配位子(シクロペンテン配位子)とすることで熱安定性の最適化を図るものである。
【0017】
本発明で適用されるシクロペンテン−アミン配位子は、特許文献3記載の有機白金化合物で適用されたアルケン−アミン配位子と同じく、1つのアミンと1つの二重結合を有する配位子である。即ち、本発明も、配位子中の2重結合(C=C結合)の数を適正にすることを前提とし、これにより熱安定性と気化特性等とのバランスを好適化している。配位子中の二重結合が減ることで、化合物の熱安定性は向上するが、本発明では特許文献3と同じく、アミンを1つ結合させて二重結合の数が1つの配位子を適用することとした。これは、二重結合のない配位子、例えば、ジアミン配位子を適用すると、化合物の熱安定性が過度に高くなると共に、気化特性が悪化する傾向があることを考慮したからである。
【0018】
そして、本発明は、配位子の構成として、環状のアルケン配位子であるシクロペンテンとアミンとからなる配位子(シクロペンテン−アミン配位子)を適用している。本発明者等によれば、鎖状アルケン配位子を環状アルケン配位子とすることで、白金化合物全体の熱安定性を適度に向上させることができる。そして、この場合において低温成膜性や気化特性の悪化は生じない。その結果、本発明に係る有機白金化合物は、低温成膜性と気化特性と熱安定性においてトータルで最適な特性を発揮し得る。これにより、広範囲で白金膜等を成膜する場合等において、有機白金化合物の不測の分解を生じさせることなく安定的な薄膜製造が可能となる。
【0019】
更に、本発明の有機白金化合物では、シクロペンテン−アミン配位子と共にアルキル配位子(R
4、R
5)が白金に配位している。アルキル配位子は構成が簡易な炭化水素基であり、白金化合物の分子量の調整のために有益な配位子である。そして、アルキル配位子は、白金化合物が分解した後、低沸点の炭化水素として放出されるので残留不純物になりにくい。以上のようなメリットから、アルキル配位子は、シクロペンテン−アミン配位子と共に必須の配位子となっている。
【0020】
ここで、本発明で適用される有機白金化合物においては、シクロペンテン−アミン配位子及びその誘導体として、所定範囲の置換基(R
1、R
2、R
3)を有することができる。
【0021】
シクロペンテン−アミン配位子の窒素部分への置換基R
1及びR
2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、イソシアノ基のいずれか1種であり、且つ、いずれも炭素数4以下のものである。置換基R
1及びR
2は、それぞれ、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基のいずれか1種が好ましく、水素、メチル基又はエチル基が特に好ましい。炭素数3以上のアルキル基を適用する場合、構造異性体である直鎖(n−)、分岐鎖(iso−、sec−、tert−)のいずれとしてもよいが、好ましくは直鎖のアルキル基である。
【0022】
シクロペンテン−アミン配位子のシクロペンテンへの置換基R
3についても、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、又はイソシアノ基のいずれかであり、且つ、炭素数4以下のものとなる。置換基R
3は、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。炭素数3以上のアルキル基を適用する場合、構造異性体である直鎖(n−)、分岐鎖(iso−、sec−、tert−)のいずれとしてもよいが、好ましくは直鎖のアルキル基である。
【0023】
また、もう一方の配位子であるアルキル配位子R
4及びR
5は、それぞれ、炭素数1以上3以下のアルキル基、すなわち、メチル基、エチル基、プロピル基(n−、iso−)のいずれか1種である。R
4とR
5とは、同じアルキル基であっても良いが、異なるアルキル基でも良い。アルキル基の炭素数増大により白金化合物全体の安定性が減少する傾向にあるため、これらのアルキル配位子の炭素数は3以下とする。R
4、R
5として好ましいのは双方をメチル基とする場合である。メチル基は、錯体分解後に低沸点のメタンになるため、形成される金属薄膜中に不純物を残さずに放出できるからである。
【0024】
尚、以上で説明したシクロペンテン−アミン配位子と2つのアルキル配位子が配位する中心金属である白金は、2価の白金である。有機白金化合物(白金錯体)の多くは2価又は4価の正電荷を持つ白金を中心金属とするものが安定である。本発明者等によれば、合成・精製・保存の各段階における化合物の取り扱性を考慮したとき、適度な安定性を発揮し得るのは2価白金の化合物である。
【0025】
以上説明した本発明に係る気相蒸着用原料について、これを構成する有機白金化合物の構成の具体例を以下に例示列挙する。但し、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0026】
【化5】
【0027】
以上説明した本発明の気相蒸着用原料は、適宜の白金塩(白金化合物)を出発原料とし、それにシクロペンテン−アミン化合物を反応させることで製造可能である。白金塩としては、2価白金の有機白金化合物であって、目的となるアルキル配位子(R
4、R
5)が配位したもの好ましく、例えば、(1,5−ヘキサジエン)ジメチル白金(上記化2、特許文献2)等の有機白金化合物が適用できる。
【0028】
そして、本発明に係る気相蒸着用原料は、CVD法、ALD法等の気相蒸着法による白金薄膜等の製造に有用である。この薄膜形成方法は、有機白金化合物からなる原料を気化して反応ガスとし、前記反応ガスを基板表面に導入し、前記有機白金化合物を分解して白金を析出させるものであり、原料として、上記した本発明に係る有機白金化合物を用いるものである。
【0029】
白金形成時の反応雰囲気としては、還元性雰囲気が好ましい。本発明の原料は、特に還元性雰囲気において、良好な低温成膜性を示す傾向がある。また、還元性雰囲気とすると、白金薄膜と共に他の金属薄膜を形成する場合、当該他の金属薄膜の酸化を抑制できるというメリットもある。例えば、白金薄膜はFET(電界効果トランジスタ)の立体電極(Ni−Ptシリサイド電極)への適用が知られている。白金薄膜の成膜条件を還元性雰囲気とすることで、Ni薄膜の酸化を抑制できる。尚、還元性雰囲気としては、水素又はアンモニアを反応ガスとして導入するのが好ましく、水素が特に好ましい。
【0030】
白金薄膜等の成膜温度、即ち、基板上における有機白金化合物の加熱温度は、100℃以上350℃以下とするのが好ましい。100℃未満では、成膜反応が進行し難く必要な膜厚が得られ難いためである。また、350℃を超えると、基板への影響が懸念されるからである。また、低温成膜という本発明の趣旨を考慮すると、350℃を超える成膜温度は好適ではない。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明に係る気相蒸着用原料を構成する有機白金化合物は、蒸気圧が高く、低温で白金薄膜の製造が可能であるとともに、適度な熱安定性も兼ね備えている。尚、本発明に係る原料は、CVD法やALD法等の気相蒸着法に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施例1の有機白金化合物のTG−DTA曲線。
【
図2】実施例1の有機白金化合物を原料として製造した白金薄膜の断面のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明における最良の実施形態について説明する。本実施形態では、3種類の有機白金化合物(実施例1〜実施例3)を合成した。合成した有機白金化合物について物性を評価し、気相蒸着用原料として成膜試験を行った。
【0035】
実施例1:ヘキサン90mlを入れたフラスコに、N,N−ジメチル−3−シクロペンテン−1−アミン1.62g(14.6mmol)、(1,5−ヘキサジエン)ジメチル白金1.78g(5.8mmol)の順でそれぞれ加えた後、室温で16時間攪拌した。反応終了後、濃縮して白色固体を得た。得られた白色固体について昇華精製を行うことで目的物である、(N,N−ジメチル−3−シクロペンテン−1−アミン)ジメチル白金1.68g(5.0mmol)を得た(収率86%)。この実施例1の有機白金化合物の合成反応式は、次のとおりである。
【0037】
実施例2:ヘキサン50mlを入れたフラスコに、3−シクロペンテン−1−アミン0.27g(3.3mmol)、(1,5−ヘキサジエン)ジメチル白金0.68g(2.2mmol)の順でそれぞれ加えた後、室温で3時間攪拌した。反応終了後、濃縮して白色固体を得た。得られた白色固体について昇華精製を行うことで目的物である(3−シクロペンテン−1−アミン)ジメチル白金0.61g(2.0mmol)を得た(収率91%)。この実施例2の有機白金化合物の合成反応式は、次のとおりである。
【0039】
実施例3:ヘキサン30mlを入れたフラスコに、N−メチル−3−シクロペンテン−1−アミン0.21g(2.2mmol)、(1,5−ヘキサジエン)ジメチル白金0.45g(1.5mmol)の順でそれぞれ加えた後、室温で15時間攪拌した。反応終了後、濃縮して白色固体を得た。得られた白色固体について昇華精製を行うことで目的物であるジメチル(N−メチル−3−シクロペンテン−1−アミン)白金0.43g(1.3mmol)を得た(収率87%)。この実施例3の有機白金化合物の合成反応式は、次のとおりである。
【0041】
比較例:上記各実施例に対する比較例として、従来技術(特許文献3)記載の有機白金化合物であるジメチル(N,N−ジメチル−3−ブテン−1−アミン)白金を製造した。
【0042】
ヘキサン50mlを入れたフラスコに、N,N−ジメチル−3−ブテン−1−アミン0.75g(7.5mmol)、(1,4−ヘキサジエン)ジメチル白金1.54g(5.0mmol)の順でそれぞれ加えた後、室温で20時間攪拌させた。反応終了後、濃縮して白色固体を得た。得られた白色固体について昇華精製を行うことで目的物であるジメチル(N,N−ジメチル−3−ブテン−1−アミン)白金1.55g(4.8mmol)を得た(収率96%)。この比較例の有機白金化合物の合成反応式は、次のとおりである。
【0044】
物性評価:実施例1で製造した有機白金化合物((N,N−ジメチル−3−シクロペンテン−1−アミン)ジメチル白金)について、TG−DTAによる物性評価を行った。分析は、BRUKER社製TG‐DTA2000SAにて、窒素雰囲気下、有機白金化合物試料(5mg)を昇温速度5℃/minにて、測定温度範囲の室温〜450℃加熱した際の試料の熱量及び重量変化を観察した。結果を
図1に示す。
【0045】
図1について、DTAの結果より、実施例1の有機白金化合物は、吸熱ピークより融点が約159℃、発熱ピークより分解温度が約186℃である。気相蒸着法における原料加熱温度は、一般に100℃付近の温度が設定されることが多いが、実施例1の有機白金化合物は、かかる原料加熱温度において十分な熱安定性を有することが分かる。また、より高い蒸気圧を得るためには、加熱温度を10℃〜30℃程度上昇させることが想定されるが、実施例1の有機白金化合物は、そのような加熱条件にも対応できるといえる。
【0046】
また、TGの結果を検討すると、実施例1の有機白金化合物は、分解温度に達した時点で気化がほぼ完了していることがわかる。この白金化合物は、比較的低温で速やかに気化しており気化特性も良好であることが分かる。また、化合物分解により生じる残渣量も比較的多い。この残渣は金属白金と推定される。このTG−DTAの結果は、実施例1の白金化合物は、比較的低温で気化可能であり、気化と共に分解も速やかに生じることを示し、低温成膜に好適であることも示している。
【0047】
そして、実施例2、実施例3、比較例の有機白金化合物についても同様の分析を行った。各実施例のTG−DTAの結果を表1に示す。
【0049】
実施例2、3の有機白金化合物については、実施例1の化合物よりも融点の低下は見られたものの、分解温度は同等あるいは若干低い程度であった。よって、各実施例の有機白金化合物は、いずれも好適な気化特性と熱安定性を有することが示された。比較例の有機白金化合物は、融点及び分解温度が各実施例と比較して低いことがわかる。よって、各実施例の白金化合物は、従来技術に対して熱安定性が高いことが確認された。
【0050】
加熱試験による熱安定性評価:
上記のTG−DTAは、化合物固有の物性(分解温度)を静的に且つ正確に測定する点で優れた分析法である。もっとも、実際の薄膜製造の際の原料加熱操作においては、分解温度未満の加熱であっても長時間加熱により有機化合物に局所的な分解が生じることがある。また、そのような局所的な分解が起点となり、連鎖的な分解が生じることがある。そこで、薄膜製造における原料加熱操作を想定した動的な熱安定性評価を行うこととした。この評価試験は、実施例1と比較例の有機白金化合物を一定時間加熱して化合物分解の有無を判定した。具体的方法としては、実施例1と比較例の有機白金化合物をそれぞれ0.2g採取して試験管に入れ、大気中、100℃で1時間加熱した。そして、この1時間の加熱後、白金化合物の外観変化の有無を確認した。
【0051】
この加熱試験において、実施例1の有機白金化合物には、加熱前後で外観上の変化は見られず白色の固体状態を維持していた。一方、比較例の有機白金化合物には、1時間の加熱後で黒色の固体に変化していた。これは、有機白金化合物の分解(一部分解)を示すものと考えられる。今回の加熱試験における加熱温度(100℃)は、双方の有機白金化合物にとって分解温度未満の温度である。実施例1では、化合物の分解は全く見られなかったが、比較例では分解が生じていた。これは、比較例の有機白金化合物は、分解温度未満の温度であっても、長時間の加熱によって分解する可能性があること、即ち、熱安定性に乏しいことを示している。
【0052】
本発明の課題である広範囲成膜や高スループット成膜等の成膜条件に対応するためには、蒸気圧の高い有機白金化合物原料が要求される。これは、所望の蒸気圧を示す温度まで加熱可能な、熱安定性の高い有機白金化合物の適用を意味する。上記加熱試験の結果から、実施例の有機白金化合物は、比較例と対比して熱安定性が高いことが確認された。つまり、実施例の有機白金化合物は、比較例よりも熱安定性と気化特性とのバランスが良好であるといえる。そして、実施例の有機白金化合物は、広範囲成膜や高スループット成膜にも好適に対応できる。
【0053】
成膜試験:次に、実施例1で製造した有機白金化合物((N,N−ジメチル−3−シクロペンテン−1−アミン)ジメチル白金)を原料化合物とし、CVD法にて白金薄膜の成膜試験を行った。この成膜試験では、成膜装置としては、ホットウォールタイプの熱CVD装置を用いた。反応ガスとして水素をマスフローコントローラーにより一定流量で流した。成膜条件は、次の通りである。
【0054】
基板:SiO
2、Si
基板寸法:15mm×15mm
成膜温度175℃
試料温度:100℃
成膜圧力:5torr
反応ガス(水素)流量:100sccm
成膜時間:120min
【0055】
この成膜試験の結果、いずれの基板(SiO
2、Si)に対しても白金薄膜を成膜できることが確認された。膜厚及び比抵抗を測定したところ、SiO
2基板に対しては、Pt膜厚18nmであり、Si基板に対しては、Pt膜厚13nmであり、いずれも十分な膜厚での白金薄膜が形成された。また、各薄膜の比抵抗を測定したところ、それぞれ、36μΩ・cm、40μΩ・cmと良好な値であった。
【0056】
図2は、本実施形態で形成した白金薄膜断面のSEM写真である。本実施形態で形成した薄膜は、いずれも均一な膜厚であり、表面の平滑性も良好であった。この成膜試験の結果から、実施例の有機白金化合物は、気相蒸着用の原料化合物として、好適な気化特性と熱安定性を有し、低温成膜に有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る気相蒸着用原料は、蒸気圧が高く、低温で高精度の白金薄膜等を形成できるとともに、適度な熱安定性も有し、取扱い性に優れる。本発明は、各種半導体素子、半導体デバイスの電極・配線材料の形成に有用である。特に、立体構造への成膜にも有効であり、電界効果トランジスタの3次元構造を有する立体電極(立体型Ni−Ptシリサイド電)等の形成も適用できる。
【要約】 (修正有)
【課題】気化特性と熱安定性とのバランスに優れ、低温成膜に対応可能な有機白金化合物の提供。
【解決手段】気相蒸着法により白金薄膜又は白金化合物薄膜を製造するための気相蒸着用原料であって、次式で示される、2価の白金に、シクロペンテン−アミン配位子とアルキル配位子が配位した有機白金化合物。
(R
1〜R
3は夫々独立にH、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基又はイソシアノ基、且つ、いずれもC4以下;R
4及びR
5は夫々独立にC1〜3以下のアルキル基)
【選択図】なし