特許第6407411号(P6407411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6407411荷電粒子線装置、およびその真空排気方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407411
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置、およびその真空排気方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/18 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
   H01J37/18
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-512504(P2017-512504)
(86)(22)【出願日】2015年4月15日
(86)【国際出願番号】JP2015061543
(87)【国際公開番号】WO2016166825
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2017年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老根 裕太
(72)【発明者】
【氏名】赤津 光男
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−034744(JP,A)
【文献】 特開2012−160384(JP,A)
【文献】 特開2012−221766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子源を収容する荷電粒子銃室と、
前記試料を配置する試料室と、
前記荷電粒子銃室および前記試料室を真空排気するターボ分子ポンプと、
前記ターボ分子ポンプの主吸気口と前記荷電粒子銃室との間を連結する第1排気管と、 前記ターボ分子ポンプの中間吸気口と前記試料室との間を連結する第2排気管と、
前記試料室と前記第1排気管との間を連結する第3排気管と、
前記第2排気管を開閉する第1バルブと、
前記第3排気管を開閉する第2バルブと、
前記ターボ分子ポンプにおいて前記中間吸気口より前記主吸気口に近い位置にある第2中間吸気口と、前記荷電粒子銃室と前記試料室を接続する中間室と、の間を連結する第4排気管と、
を備える荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記ターボ分子ポンプを背圧排気する油回転ポンプを備え、
当該油回転ポンプが前記荷電粒子銃室または前記試料室を真空排気しないことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2記載の荷電粒子線装置において、
前記第1バルブおよび前記第2バルブならびに前記ターボ分子ポンプを制御する制御部を備え、
当該制御部は、前記試料室を所定真空度より高い高真空度に排気するときは、前記第1バルブを閉じるとともに前記第2バルブを開けた上で、前記ターボ分子ポンプの前記主吸気口により前記荷電粒子銃室および前記試料室を真空排気し、
前記試料室を前記所定真空度よりも低い低真空度に排気するときは、前記第1バルブを開けるとともに前記第2バルブを閉じた上で、前記ターボ分子ポンプの前記主吸気口により前記荷電粒子銃室を真空排気し、かつ前記中間吸気口により前記試料室を真空排気することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、前記試料室を前記所定真空度より低い低真空度に排気するときは、前記第1バルブを閉じるとともに前記第2バルブを開けた上で、前記ターボ分子ポンプの前記主吸気口により前記試料室を予備排気した後に、前記第1バルブを開けるとともに前記第2バルブを閉じた上で、前記ターボ分子ポンプの前記中間吸気口により前記試料室を真空排気することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項記載の荷電粒子線装置において、
前記第1排気管と前記主吸気口を連結する箇所の直径は、前記第4排気管と前記第2中間吸気口を連結する箇所の直径よりも大きく形成され、
前記第4排気管と前記第2中間吸気口を連結する箇所の直径は、前記第2排気管と前記中間吸気口を連結する箇所の直径よりも大きく形成されている
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項記載の荷電粒子線装置において、
前記第3排気管を開閉する第3バルブと、
前記荷電粒子銃室または前記試料室と前記中間室との間を連結するバイパス配管と、
を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項記載の荷電粒子線装置において、
前記試料室の内部に、前記試料を配置する第2試料室を備え、
当該第2試料室は、前記試料に対して照射された荷電粒子線を透過させるとともに前記第2試料室の真空状態を前記試料室の真空状態から分離する膜が配置されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子源を収容する荷電粒子銃室と、
前記試料を配置する試料室と、
前記荷電粒子銃室および前記試料室を真空排気するターボ分子ポンプと、
前記ターボ分子ポンプの主吸気口と前記荷電粒子銃室との間を連結する第1排気管と、
前記ターボ分子ポンプの中間吸気口と前記試料室との間を連結する第2排気管と、
前記試料室と前記第1排気管との間を連結する第3排気管と、
前記第2排気管を開閉する第1バルブと、
前記第3排気管を開閉する第2バルブと、
前記第2排気管から分岐する第5排気管と、当該第5排気管に流れる流体の流量を調整する可変流量バルブとを備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
荷電粒子線装置の荷電粒子銃室および試料室を真空排気する排気方法であって、
前記試料室を所定真空度より高い高真空度に排気するときは、ターボ分子ポンプの中間吸気口と前記試料室を閉塞した上で、前記ターボ分子ポンプの主吸気口と前記荷電粒子銃室および前記試料室を連結し、前記主吸気口により前記荷電粒子銃室および前記試料室を真空排気し、
前記試料室を前記所定真空度よりも低い低真空度に排気するときは、前記主吸気口と前記試料室を閉塞した上で前記中間吸気口と前記試料室を連結し、前記主吸気口により前記荷電粒子銃室を真空排気しつつ、前記中間吸気口により前記試料室を真空排気し、
前記ターボ分子ポンプにおいて前記中間吸気口より前記主吸気口に近い位置にある第2中間吸気口と、前記荷電粒子銃室と前記試料室を接続する中間室と、を連結し、前記第2中間吸気口により前記中間室を真空排気する、
排気方法。
【請求項10】
請求項記載の排気方法において、
油回転ポンプにより前記ターボ分子ポンプを背圧排気しつつ、当該油回転ポンプが前記荷電粒子銃室または前記試料室を真空排気しないことを特徴とする排気方法。
【請求項11】
請求項記載の排気方法において、
前記試料室を前記所定真空度より低い低真空度に排気するときは、前記中間吸気口と前
記試料室を閉塞した上で、前記主吸気口と前記荷電粒子銃室および前記試料室を連結し、
前記主吸気口により前記試料室を予備排気した後に、前記主吸気口と前記試料室を閉塞し
た上で、前記中間吸気口と前記試料室を連結し、前記中間吸気口により前記試料室を
真空排気する排気方法。
【請求項12】
荷電粒子線装置の荷電粒子銃室および試料室を真空排気する排気方法であって、
前記試料室を所定真空度より高い高真空度に排気するときは、ターボ分子ポンプの中間吸気口と前記試料室を閉塞した上で、前記ターボ分子ポンプの主吸気口と前記荷電粒子銃室および前記試料室を連結し、前記主吸気口により前記荷電粒子銃室および前記試料室を真空排気し、
前記試料室を前記所定真空度よりも低い低真空度に排気するときは、前記主吸気口と前記試料室を閉塞した上で、前記中間吸気口と前記試料室を連結し、前記主吸気口により前記荷電粒子銃室を真空排気しつつ、前記中間吸気口により前記試料室を真空排気し、
油回転ポンプにより前記ターボ分子ポンプを背圧排気しつつ、前記油回転ポンプは前記荷電粒子銃室または前記試料室を真空排気せず、
前記試料室を前記所定真空度より高い高真空度に排気するときは、前記ターボ分子ポンプにおいて前記中間吸気口より前記主吸気口に近い位置にある第2中間吸気口と、前記荷電粒子銃室と前記試料室を接続する中間室と、を閉塞した上で、前記荷電粒子銃室または前記試料室と前記中間室とを連結し、前記主吸気口により前記中間室を真空排気し、
前記試料室を前記所定真空度よりも低い低真空度に排気するときは、前記荷電粒子銃室または前記試料室と前記中間室とを閉塞した上で、前記第2中間吸気口と前記試料室を連結し、前記第2中間吸気口により前記中間室を真空排気する
排気方法。
【請求項13】
請求項9または12記載の排気方法において、
前記試料室を前記所定真空度より低い低真空度に排気するときは、前記中間吸気口と前記試料室を閉塞した上で、前記主吸気口と前記荷電粒子銃室および前記試料室を連結し、前記主吸気口により前記試料室を予備排気した後に、前記主吸気口と前記試料室を閉塞した上で、前記中間吸気口と前記試料室を連結し、前記中間吸気口により前記試料室を真空排気する排気方法。
【請求項14】
請求項記載の排気方法において、
油回転ポンプにより前記ターボ分子ポンプを背圧排気しつつ、当該油回転ポンプが前記荷電粒子銃室または前記試料室を真空排気せず、
前記試料室の真空状態とは分離されている第2試料室と、前記油回転ポンプとを連結し、前記油回転ポンプにより前記第2試料室を減圧または真空排気することを特徴とする排気方法。
【請求項15】
請求項12記載の排気方法において、
前記試料室の真空状態とは分離されている第2試料室と、前記油回転ポンプとを連結し、前記油回転ポンプにより前記第2試料室を減圧または真空排気することを特徴とする排気方法。
【請求項16】
請求項9または12記載の排気方法において、
前記試料室を前記所定真空度よりも低い低真空度に排気するときは、可変流量バルブにより前記試料室に流れる流体の流量を調整することを特徴とする排気方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高真空排気と低真空排気が可能な荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高真空排気と低真空排気が可能な荷電粒子線装置として、例えば、下記特許文献に記載されているような真空排気系を備える低真空走査電子顕微鏡がある。
【0003】
特開2007−141633号公報(特許文献1)は、最小限のポンプで、電子銃室の高真空排気と低真空排気を可能とする真空排気システムを目的として、電子銃室を高真空排気する第1のポンプ(ターボ分子ポンプ)と、当該第1のポンプの背圧排気と試料室の低真空排気を併せて行う第2のポンプ(油回転ポンプ)を設けた構成を開示している。
【0004】
また、特開2011−034744号公報(特許文献2)は、特許文献1などの低真空走査電子顕微鏡では、試料交換時に試料室と中間室および電子銃室は大気開放されるのが一般的であったため、試料交換から観察までのスループット向上を図ることなどを目的として、電子銃室と試料室の間に電子線が通過する複数の中間室を有し、当該複数の中間室の間の開口部にバルブを有し、前記バルブより試料室側の中間室および試料室の圧力が、前記バルブより電子源側の中間室および電子銃室の圧力より高くなるように排気する排気システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−141633号公報
【特許文献2】特開2011−034744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者が、高真空排気と低真空排気をクリーンに実現する小型真空排気系について鋭意検討した結果、次の知見を得るに至った。
【0007】
特許文献1では、その図1および図2に示されているように、試料室10内の真空度を計測し、所定の真空度以下になったら、バルブV4を開放し、油回転ポンプによる真空室内の真空排気を行い、速やかに高真空モードから低真空モードへ移行させている。
【0008】
しかしながら、真空室内の予備排気を行う油回転ポンプから蒸発した油が、試料室内や真空排気管内に流れ込むことにより、試料室内や真空排気管などの装置内部を汚染する。また、汚染された試料室内に配置されている観察試料に電子ビームを照射することにより、観察試料を汚染してしまう可能性もある。そして、長年の装置使用により、電子銃室まで汚染が到達すると、電子銃室が所定の高真空に到達しない可能性もある。
【0009】
特許文献1の改良発明である特許文献2でも、その図1〜5に示されているように、補助真空ポンプ11により真空室7と第二中間室4を予備排気して排気時間を短縮し、試料交換から低真空観察に至るスループット向上を図っているため、真空室の予備排気を行う油回転ポンプから蒸発した油により装置内部が汚染される。
【0010】
一方、補助真空ポンプとしてドライポンプを使用することにより、装置内部汚染を防止する方法が考えられる。しかしながら、ドライポンプは一般的に油回転ポンプと比較して設置スペースが大きくなり、またコストが高いなどのデメリットもある。
【0011】
本発明の目的は、装置内部を汚染することなく高真空排気および低真空排気することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、高真空排気するときは、ターボ分子ポンプの主吸気口により荷電粒子銃室と試料室を真空排気し、低真空排気するときは、主吸気口により荷電粒子銃室を真空排気しつつ、ターボ分子ポンプの中間吸気口により試料室を真空排気することに関する。また、油回転ポンプが、荷電粒子銃室や試料室を真空排気しないことに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高真空排気および低真空排気のいずれにおいても、装置内部の汚染を抑制できるため、観察試料の汚染を防止でき、到達真空度の経年劣化も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1に係る荷電粒子線装置100の構成を示す側面図である。
図2】荷電粒子線装置100が低真空観察を実施する際における排気シーケンス制御を説明するフローチャートである。
図3】実施例2に係る荷電粒子線装置100の構成を示す側面図である。
図4】実施例3に係る荷電粒子線装置100の構成を示す側面図である。
図5】実施例4に係る荷電粒子線装置100の構成を示す側面図である。
図6】実施例5に係る荷電粒子線装置100の構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
図1は、本実施例に係る荷電粒子線装置100の構成を示す側面図である。荷電粒子線装置100は、荷電粒子銃室1、中間室15、対物レンズ2、試料室18を備える。荷電粒子銃室1は、試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子源を収容する。中間室15は、電子光学系を収容し、荷電粒子銃室1から試料に対して照射された荷電粒子線が通過する。対物レンズ2は、荷電粒子線を細く絞って試料に対して照射する。試料室18は、試料を収容する。対物レンズ2は、試料室18と中間室15との間の差動排気を実施するため、試料室18から吹き上がるガス量を制限するオリフィス3を備える。また、荷電粒子銃室1、中間室15、および試料室18は、複合ターボ分子ポンプ6により真空排気される。
【0016】
複合ターボ分子ポンプ6は、主吸気口11ならびに第1中間吸気口13および第2中間吸気口12を有する。複合ターボ分子ポンプ6では、主吸気口11から遠いほど低い真空度となるが、第1中間吸気口13は、第2中間吸気口12より主吸気口11に遠い位置にあり、第2中間吸気口12よりも低い真空度となる。また、第2中間吸気口12は、第1中間吸気口13より主吸気口11に近い位置にあり、主吸気口11より低いが、第1中間吸気口13より高い真空度となる。言い換えると、主吸気口11が最も高い真空度となり、第1中間吸気口13が最も低い真空度となり、第2中間吸気口がその間の真空度となる。
【0017】
荷電粒子銃室1は、真空排気管4を介して複合ターボ分子ポンプ6の主吸気口11に接続される。真空排気管4には真空計8aが配置され、これにより荷電粒子銃室1の真空度を監視する。試料室18は、真空排気管4から分岐する排気管を介して主吸気口11に接続されている。試料室18はさらに、真空排気管22を介して複合ターボ分子ポンプ6の第1中間吸気口13に接続される。中間室15は、真空排気管5を介して複合ターボ分子ポンプ6の第2中間吸気口12に接続される。真空計8bは、試料室18の真空度を監視する。
【0018】
可変流量バルブNVは、試料室18に導入するガス量を調節することにより、試料室18の真空度を可変する。可変流量バルブNVは、真空排気管22から分岐する排気管を介して試料室18に接続されている。
【0019】
バルブBV1は、試料室18と主吸気口11との間の排気管を開閉する。バルブSV2は、真空排気管22を開閉する。バルブSV3は、複合ターボ分子ポンプ6の排気口と補助真空ポンプ7との間の排気管を開閉する。バルブSV4は、試料室18と可変流量バルブNVとの間を開閉する。リークバルブLV1は、荷電粒子銃室1、中間室15、試料室18を大気開放する。リークバルブLV2は、複合ターボ分子ポンプ6の背圧側を大気開放する。
【0020】
補助真空ポンプ7は、複合ターボ分子ポンプ6の背圧側に接続され、複合ターボ分子ポンプ6の背圧排気を実施する。補助真空ポンプ7は、例えば油回転ポンプなどの比較的安価なポンプを用いて構成することができる。
【0021】
制御部110は、各バルブ、各ポンプ、電子光学系など荷電粒子線装置100全体の動作を制御する。制御部110は、例えばマイクロコンピュータやCPU(Central
Processing Unit)などの演算装置を用いて構成することができる。
【0022】
荷電粒子銃室1内の圧力は極力低く保つ必要があるため、複合ターボ分子ポンプ6の主吸気口11に接続された真空排気管4の径を大きくしてコンダクタンスを向上させている。これにより、低い到達圧力を得る。
【0023】
試料室18は、試料を搭載して観察視野を移動するための試料ステージや、観察試料からの信号を検出する検出器など、多くの部品を収容している。そのため試料室18は、荷電粒子銃室1や中間室15と比較して容積が大きいので、真空排気管4から分岐して試料室18に接続された排気管の径を大きくしてコンダクタンスを向上させている。これにより排気時間が短縮され、また低い到達圧力を得る。
【0024】
荷電粒子銃室1と中間室15の間、および中間室15と試料室18の間には差動排気絞りが配置されている。試料室18を低真空状態にしたとき、オリフィス3を介して試料室18から中間室15へガスが吹き上がる。第2中間吸気口12を介して中間室15を排気することにより、中間室15から荷電粒子銃室1へのガスの吹き上がりを抑えることができる。これにより、荷電粒子銃室1を高真空状態に維持する。差動排気を実施するため、真空排気管5の径は真空排気管4の径よりも小さく形成されている。
【0025】
試料室18の圧力は荷電粒子銃室1の圧力や中間室15の圧力と比べて高いため、試料室18は主吸気口11から離れた第1中間吸気口13と接続している。これにより、荷電粒子銃室1を高真空状態に維持する。真空排気管22は後述する低真空排気シーケンスにおいて用いるので、真空排気管22が第1中間吸気口13と連結する部分の径を真空排気管5の径よりも小さく形成することにより、その他排気管と比較してコンダクタンスを小さくしている。
【0026】
高真空観察を実施する際には、制御部110はバルブBV1とSV3を開き、バルブSV2、SV4、LV1、LV2、NVを閉じる。その結果、荷電粒子銃室1と試料室18は複合ターボ分子ポンプ6の主吸気口11を介して排気し、中間室15は複合ターボ分子ポンプ6の第2中間吸気口12を介して排気することになる。中間室15は、荷電粒子銃室1から試料室18へと照射された荷電粒子線が通過するところであり、ここの真空度が観察に及ぼす影響は比較的小さい。そこで、中間室15は第2中間吸気口12により排気し、その分、主吸気口11が排気する容積を小さくして、荷電粒子銃室1と試料室18の排気時間が短縮している。
【0027】
図2は、荷電粒子線装置100が低真空観察を実施する際における排気シーケンス制御を説明するフローチャートである。以下図2の各ステップについて説明する。
【0028】
図2:ステップS201)
制御部110は、大気開放モードを開始する。大気開放モードにおいて、制御部110はまずバルブSV2、SV3、SV4を閉じ、複合ターボ分子ポンプ6を停止する。その後、リークバルブLV1を開き、荷電粒子銃室1、中間室15、および試料室18を大気開放する。
【0029】
図2:ステップS202)
ユーザが試料室18内の試料を交換した後、制御部110は以下に説明する低真空排気モードを開始する。
【0030】
図2:ステップS203〜S205)
制御部110は、バルブLV1、SV2、SV4を閉じるとともに、バルブBV1、SV3を開く(S203)。制御部110は、複合ターボ分子ポンプ6により荷電粒子銃室1、中間室15、および試料室18の排気を開始する(S204)。制御部110は、真空計8bの測定値があらかじめ設定した真空度、例えば500Paに到達するまで排気を継続する(S205)。
【0031】
図2:ステップS204:補足)
本ステップにおいて、荷電粒子銃室1と試料室18は主吸気口11を介して排気し、中間室15は第2中間吸気口12を介して排気することになる。
【0032】
図2:ステップS206)
設定真空度が得られると、制御部110はまずバルブBV1を閉じる。制御部110は次にバルブSV2を開き、複合ターボ分子ポンプ6の第1中間吸気口13を介して試料室18を排気する。制御部110は次にバルブSV4を開き、可変流量バルブNVの制御を開始する。制御部110は、可変流量バルブNVにより試料室18の真空度を調整する。制御部110は、真空計8bの値を常時読み取り、可変流量バルブNVの流量を自動制御するようにしてもよい。また可変流量バルブNVと第1中間吸気口13を介した排気を併用して試料室18内の圧力を微調整することもできる。
【0033】
図2:ステップS207)
ユーザは、試料室18の真空度が所望の低真空度に達した時点で、試料の低真空観察を開始する。低真空観察時は、試料室18の圧力が例えば1〜270Paとなるように、ステップS206において試料室18の圧力を調整する。
【0034】
本実施例に係る荷電粒子線装置100は、低真空排気を実施する際に、複合ターボ分子ポンプ6の第1中間吸気口13を介して試料室18を排気する。これにより、補助真空ポンプ7として油回転ポンプを使用している場合であっても、油回転ポンプから蒸発した油が荷電粒子線装置100の内部(試料室18、荷電粒子銃室1、電子光学系など)に流れ込むことを抑制することができる。その結果、荷電粒子線装置100内部や観察試料の汚染を防ぎ、従来よりもクリーンな真空排気を実施することができる。
【0035】
また、本実施例においては、中間室15は第2中間吸気口12により常に排気される。これにより、高真空排気を短時間で実施できるだけでなく、中間室15は第2中間吸気口12を開閉するためのバルブが不要となり、排気系統が小型となるメリットもある。
【0036】
本実施形態1においては、試料交換時に複合ターボ分子ポンプ6を停止する。これにより、複合ターボ分子ポンプ6の真空を保持するためのバルブが不要となるので、排気系統が小型となるメリットがある。
【実施例2】
【0037】
図3は、本実施例に係る荷電粒子線装置100の構成を示す側面図である。本実施例に係る荷電粒子線装置100は、実施例1で説明した構成に加えて第2中間室16と真空排気管21を備える。複合ターボ分子ポンプ6は、実施例1で説明した構成に加えて第3中間吸気口14を備える。第3中間吸気口14は、第1中間吸気口13より主吸気口11に近い位置にあり、第2中間吸気口12より主吸気口11に遠い位置にある。つまり、第3中間吸気口14は、第1中間吸気口13と第2中間吸気口12の間の真空度となる。真空排気管21は、第2中間室16と第3中間吸気口14との間を接続する。中間室15と第2中間室16の間には、差動排気を実施ためのオリフィスが設けられている。その他の構成は実施例1と同様である。
【0038】
第2中間室16は、第3中間吸気口14を介して中間室15と並行して排気することができる。差動排気の効果を高めるため、真空排気管21の径は例えば真空排気管5の径よりも小さく、真空排気管22が第1中間吸気口13と連結する部分の径よりも大きくなるように形成することができる。
【0039】
本実施例に係る荷電粒子線装置100は、中間室を複数備えているので、試料室18から荷電粒子銃室1に至る経路において差動排気を実施することができる。これにより実施例1と同様の効果を発揮しつつ、荷電粒子銃室1の真空度をより高く保つことができる。
【実施例3】
【0040】
図4は、本実施例に係る荷電粒子線装置100の構成を示す側面図である。本実施例に係る荷電粒子線装置100は、実施形態1で説明した構成に加えて、中間室15と試料室18との間を接続するバイパス配管を備える。さらに、真空排気管5を開閉するバルブSV5、バイパス配管を開閉するバルブSV6、を備える。その他構成は実施例1と同様である。
【0041】
本実施例において高真空観察を実施する際には、制御部110はバルブBV1、SV3、SV6を開き、バルブSV2、SV4、SV5、LV1、LV2、NVを閉じる。その結果、荷電粒子銃室1と試料室18は主吸気口11を介して排気し、中間室15はバイパス配管と試料室18を介して同じく主吸気口11により排気することになる。
【0042】
本実施例において低真空観察を実施する際には、制御部110はステップS201〜S205を実施した後、バルブBV1とSV6を閉じ、バルブSV2とSV5を開き、第1中間吸気口13を介して試料室18を排気するとともに第2中間吸気口12を介して中間室15を排気する。その後制御部110は、実施例1と同様に可変流量バルブNVを用いて試料室18の真空度を調整する。以後は実施例1と同様である。
【0043】
本実施例に係る荷電粒子線装置100は、高真空観察時においてバイパス配管と試料室18を介して主吸気口11により中間室15を排気するので、中間室15の真空度を実施形態1よりも高めることができる。なお、中間室15の容積は試料室18の容積より小さいため、容積増加による真空度低下の影響は小さく、試料室18の真空度はほとんど変化しない。したがって、中間室15の真空度を高めることが望ましい用途において特に有用である。
【0044】
なお、試料室18と接続するバイパス配管の代わりとして、荷電粒子銃室1と接続するバイパス配管を備え、荷電粒子銃室1を介して中間室15を排気してもよい。試料室18より荷電粒子銃室1は容量が小さく、荷電粒子銃室1と中間室15の総量が小さいため、中間室15の真空度をより高めることができる。
【実施例4】
【0045】
図5は、本実施例に係る荷電粒子線装置100の構成を示す側面図である。本実施例に係る荷電粒子線装置100において、複合ターボ分子ポンプ6は実施例1で説明した第2中間吸気口12を備えていない。中間室15と複合ターボ分子ポンプ6との間は、真空排気管4(または真空排気管4と試料室18との間を接続する排気管)から分岐する排気管によって接続されている。その他構成は実施例1と同様である。
【0046】
本実施例に係る荷電粒子線装置100の動作は、実施例1と同様である。ただし本実施例においては第2中間吸気口12がないので、高真空観察時と低真空観察時のいずれの場合においても、中間室15は複合ターボ分子ポンプ6の主吸気口11を介して排気することになる。本実施形態4においては第2中間吸気口12がないので、複合ターボ分子ポンプ6の構造が簡易化される利点がある。
【実施例5】
【0047】
図6は、本実施例に係る荷電粒子線装置100の構成を示す側面図である。本実施例に係る荷電粒子線装置100は、試料室18内に第2試料室18aを備える。試料室18と第2試料室18aとの間には薄膜18bが配置されている。薄膜18bは荷電粒子銃室1から出射される荷電粒子線を通過させるように構成されており、さらに試料室18と第2試料室18aとの間の真空状態を分離する役割も兼ねている。
【0048】
本実施例において試料を観察する際には、試料を第2試料室18a内に配置し、試料室18内を真空排気するとともに、第2試料室18a内は大気圧開放する。例えば試料が真空雰囲気下においてダメージを受ける場合などにおいて、第2試料室18aを用いることにより、そのような試料を観察することができる(例えば特開2012−221766号公報参照)。
【0049】
必要に応じて、第2試料室18aを減圧(もしくは真空排気)することもできる。この場合は例えば排気管を介して第2試料室18aと補助真空ポンプ7との間を接続し、さらにこの排気管を開閉するバルブSV7を設ける。バルブSV7を開閉することにより、第2試料室18aを減圧するか否かを選択することができる。
【0050】
<本発明の変形例について>
本発明は上記した実施例の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。
【0051】
以上の実施例においては、試料を真空環境下(または大気圧下)で観察する低真空走査電子顕微鏡の構成例を説明したが、走査透過型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡または集束イオンビーム装置などにおいて試料室を真空排気する際にも、同様の構成を用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1:荷電粒子銃室
2:対物レンズ
3:オリフィス
4、5:真空排気管
6:複合ターボ分子ポンプ
7:補助真空ポンプ
8a、8b:真空計
11:主吸気口
12:第2中間吸気口
13:第1中間吸気口
14:第3中間吸気口
15:中間室
16:第2中間室
18:試料室
18a:第2試料室
18b:薄膜
21、22:真空排気管
100:荷電粒子線装置
BV1、SV1〜SV7:バルブ
NV:可変流量バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6