特許第6407497号(P6407497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6407497酢酸菌体含有食品組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6407497
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】酢酸菌体含有食品組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20181004BHJP
【FI】
   A23L33/135
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-529669(P2018-529669)
(86)(22)【出願日】2017年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2017031827
【審査請求日】2018年6月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】奥山 洋平
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−131765(JP,A)
【文献】 J. Dairy Sci., (2013), 96, [7], p.4149-4159
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/40−5/49
A23L 31/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸菌体を含有する酢酸菌体含有食品組成物であって、
酢酸と、n−酪酸と、イソ酪酸とを含み、
前記食品組成物の香気成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、前記酢酸と前記n−酪酸のピーク面積比が、40:1〜1:20であり、かつ前記酢酸と前記イソ酪酸のピーク面積比が、1:1〜138:1である、酢酸菌体含有食品組成物。
【請求項2】
酢酸菌体を含有する酢酸菌体含有食品組成物であって、
酢酸と、n−酪酸と、イソ酪酸とを含み、
前記食品組成物の香気成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、前記酢酸と前記n−酪酸のピーク面積比が、40:1〜1:20であり、かつ前記酢酸と、前記n−酪酸と前記イソ酪酸の合計のピーク面積に対する比が、5:1〜1:10である、酢酸菌体含有食品組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の酢酸菌体含有食品組成物であって、
前記酢酸と前記n−酪酸のピーク面積比が、1:1〜1:20である、酢酸菌体含有食品組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の酢酸菌体含有食品組成物であって、
前記酢酸と前記n−酪酸のピーク面積比が、1:1〜1:5である、酢酸菌体含有食品組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の酢酸菌体含有食品組成物であって、
前記イソ酪酸のピーク面積の値が、前記n−酪酸のピーク面積の値よりも低い、酢酸菌体含有食品組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載の酢酸菌体含有食品組成物であって、
粉末状または液状である、酢酸菌体含有食品組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の酢酸菌体含有食品組成物であって、
前記酢酸菌体がグルコンアセトバクター属である、酢酸菌体含有食品組成物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の酢酸菌体含有食品組成物を含む、飲食品。
【請求項9】
酢酸菌体を含有する食品組成物の製造方法であって、
前記食品組成物の香気成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、酢酸とn−酪酸のピーク面積比が40:1〜1:20となり、かつ酢酸とイソ酪酸のピーク面積比が1:1〜138:1となるように酢酸、n−酪酸、イソ酪酸、及び酢酸菌体の混合物を調製することを含む、酢酸菌体含有食品組成物の製造方法。
【請求項10】
酢酸菌体を含有する食品組成物の製造方法であって、
前記食品組成物の香気成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、酢酸とn−酪酸のピーク面積比が40:1〜1:20となり、かつ酢酸と、n−酪酸とイソ酪酸の合計のピーク面積に対する比が5:1〜1:10となるように酢酸、n−酪酸、イソ酪酸、及び酢酸菌体の混合物を調製することを含む、酢酸菌体含有食品組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸菌体含有食品組成物およびその製造方法に関する。また、酢酸菌体含有食品組成物を用いた飲食品にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳酸菌等の菌体を含有する発酵食品が好まれている。例えば、乳酸菌は、ヨーグルトやチーズ等に含まれており、乳酸菌が腸内環境改善等の健康改善・増進に役立つことが知られている。最近では、乳酸菌を含む塩麹や酒粕等を他の食品に混ぜることで、健康改善のみならず、うまみ成分や発酵香の付与によって食品の美味しさを改良することも行われている。
【0003】
一方、酢酸菌は食酢の製造に使用されていることは周知であるが、酢酸菌体自体を用いた食品は、乳酸菌に比べて少なく、十分に活用されているとは言えない。例えば、豆乳中に、特定の乳酸菌と酢酸菌との共棲体が含有され、発酵させた豆乳発酵物が提案されている(特許文献1を参照)。しかし、特許文献1の技術では、特定の乳酸菌を用いることが前提となっており、酢酸菌体自体の十分な活用が実現できているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−261174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、酢酸菌体をベースとした新たな飲食品の開発を検討してきたが、酢酸菌体が産生する酢酸臭によって、酢酸菌体をベースとした飲食品の香気に悪影響を及ぼすことがあった。また、酢酸菌体をベースとした飲食品から酢酸を取り除いたとしても、それだけでは良好な香気が得られず、近年消費者に好まれている発酵香を付与することもできなかった。したがって、本発明の目的は、良好な香気を有する酢酸菌体含有食品組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酢酸菌体含有食品組成物において、単独では比較的不快な匂いを有するn−酪酸を酢酸に対して特定の割合となるように調節することで、意外にも米糠様の発酵香が生じることを知見した。一方、酢酸菌体含有食品組成物において、酢酸を取り除いた上でn−酪酸のみを添加したとしても米糠様の発酵香が生じないことを知見した。また、酢酸菌体を用いずに、食酢等の酢酸含有食品にn−酪酸を添加したとしても米糠様の発酵香が生じないことを知見した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明の一態様によれば、
酢酸菌体を含有する食品組成物であって、
酢酸と、n−酪酸とを含み、
前記食品組成物の香気成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、前記酢酸と前記n−酪酸のピーク面積比が、40:1〜1:20である、酢酸菌体含有食品組成物が提供される。
【0008】
本発明の態様においては、前記酢酸と前記n−酪酸のピーク面積比が、1:1〜1:5であることが好ましい。
【0009】
本発明の態様においては、前記酢酸菌体含有食品組成物がイソ酪酸をさらに含むことが好ましい。
【0010】
本発明の態様においては、前記酢酸菌体含有食品組成物が粉末状または液状であることが好ましい。
【0011】
本発明の態様においては、前記酢酸菌体がグルコンアセトバクター属であることが好ましい。
【0012】
本発明の態様においては、上記の酢酸菌体含有食品組成物を含む飲食品が提供される。
【0013】
本発明の別の態様によれば、
酢酸菌体を含有する食品組成物の製造方法であって、
前記食品組成物の香気成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、酢酸とn−酪酸のピーク面積比が40:1〜1:20となるように酢酸、n−酪酸、及び酢酸菌体の混合物を調製することを含む、酢酸菌体含有食品組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酢酸菌体含有食品組成物において、単独では比較的不快な匂いを有するn−酪酸を酢酸に対して特定の割合となるように調節することで、意外にも米糠様の発酵香を生じさせることができる。これにより、消費者の食欲を惹起することができ、酢酸菌体含有食品組成物を用いた飲食品によって食品市場のさらなる拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[食品組成物]
本発明による食品組成物は酢酸菌体を含有するものであって、少なくとも酢酸を含み、下記の特定の香気成分を含むものである。食品組成物中の酢酸は、酢酸菌体に由来するものであってもよいし、添加したものであってもよい。食品組成物が酢酸菌体を含有することで健康改善・増進に寄与することができる。
【0016】
(香気成分)
食品組成物の香気成分は、必須の第1香気成分としてn−酪酸を含む。食品組成物の香気成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、酢酸とn−酪酸のピーク面積比は、40:1〜1:20であり、好ましくは30:1〜1:10であり、より好ましくは1:1〜1:5であり、さらにより好ましくは1:1〜1:3である。n−酪酸は単独では比較的不快な匂いを有するものであるが、n−酪酸が上記の特定の割合で香気成分中に含まれることで、意外にも米糠様の発酵香を生じさせることができる。
【0017】
食品組成物の香気成分は、第2香気成分としてイソ酪酸をさらに含むことが好ましい。食品組成物の香気成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、酢酸とイソ酪酸のピーク面積比は、好ましくは1:1〜1000:1であり、より好ましくは10:1〜100:1であり、さらに好ましくは20:1〜50:1である。また、イソ酪酸のピーク面積の値は、n−酪酸のピーク面積の値よりも低いことが好ましい。さらに、酢酸と、n−酪酸とイソ酪酸の合計のピーク面積に対する比は、好ましくは5:1〜1:10であり、より好ましくは1:1〜1:5であり、さらに好ましくは1:1〜1:3である。イソ酪酸は単独では比較的不快な匂いを有するものであるが、イソ酢酸が上記の特定の割合で香気成分中に含まれることで、米糠様の発酵香をさらに強く生じさせることができる。
【0018】
食品組成物の香気成分は、第3香気成分としてベンズアルデヒドをさらに含むことが好ましい。食品組成物の香気成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、酢酸とベンズアルデヒドのピーク面積比は、好ましくは1:1〜10000:1であり、より好ましくは2:1〜500:1であり、さらに好ましくは5:1〜200:1である。ベンズアルデヒドが上記の特定の割合で香気成分中に含まれることで、アーモンド香を生じさせることができる。
【0019】
食品組成物の香気成分中の第1〜3香気成分は、酢酸菌体に各香気成分をそれぞれ添加してもよいし、各香気成分が含まれる香料、食品材料、食品添加物等を添加してもよい。また、各香気成分が予め含まれている酢酸菌体を用いてもよい。各香気成分の量は、香料、食品材料、食品添加物 等および酢酸菌体の量を調節することで、所望の範囲内に調節することができる。
【0020】
食品組成物の香気成分は、第1〜第3香気成分以外にも他の成分を含んでもよい。他の成分については特に限定されないが、食品組成物の香りが食品として不快なものにならないことが好ましい。
【0021】
(酢酸菌体)
本発明の食品組成物に用いる酢酸菌の種類としては、例えば、グルコンアセトバクター(Gluconacetobacter)属、アセトバクター(Acetobacter)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属等を挙げることができる。
【0022】
グルコンアセトバクター属の菌としては、グルコンアセトバクター・ディアゾトロフィカス(gluconacetobacter diazotrophicus)、グルコンアセトバクター・アゾトカプタンス(gluconacetobacter azotocaptans)、グルコンアセトバクター・スウィングシ(Gluconacetobacter swingsii)、グルコンアセトバクター・キシリヌス(Gluconacetobacter xylinus)、グルコンアセトバクター・ユーロペウス(Gluconacetobacter europaeus)、グルコンアセトバクター・マルタセティ(Gluconacetobacter maltaceti)、グルコンアセトバクター・コンブチャ(Gluconacetobacter kombuchae)、グルコンアセトバクター・ハンゼニイ(Gluconacetobacter hansenii)、及びグルコンアセトバクター・リックウェフェシエンス(Gluconacetobacter liquefaciens)等を挙げることができる。これらの一種を用いてもよく、複数種を用いてもよい。特に、本発明の効果を奏しやすいことから、グルコンアセトバクター・コンブチャ(Gluconacetobacter kombuchae)又はグルコンアセトバクター・ハンゼニイ(Gluconacetobacter hansenii)から選ばれる一種又は二種を用いるとよい。なお、酢酸菌を培養して酢酸菌体を得る場合には、従来公知の方法により行うことができる。
【0023】
本発明の食品組成物は、酢酸菌体を含有し、酢酸およびn−酪酸を特定の割合となるように調節する。食品組成物中の酢酸菌体の含有量が多いほど、米糠様の発酵香をさらに強く生じさせることができる。具体的には、前記食品組成物が粉末などの乾燥状である場合、好ましくは3〜100%であり、より好ましくは10〜100%であり、さらに好ましくは30〜100%である。前記食品組成物が液状である場合、食品組成物中に概均一に分散または溶解できる上限量が30%であるため、好ましくは1〜30%であり、より好ましくは3〜30%であり、さらに好ましくは5〜30%である。
【0024】
(形状)
食品組成物の形状は特に限定されるものではないが、健康補助食品やサプリメント等の食品、飲料への加工適性を考慮して粉末状または液状であることが好ましい。製剤化の具体的方法としては、例えば、粉末状食品組成物は、酢酸菌体にデキストリン、乳糖等を配合し、噴霧乾燥処理又は凍結乾燥処理を施すことで、熱ダメージを抑えながら乾燥して成型することができる。また、液状食品組成物は、酢酸菌体の培養液から培養成分を除いて、液状中に酢酸菌体を分散させたものを用いることができる。酢酸菌体が分散した液状は、用途に応じて酢酸菌体の濃度を調節したり、粘度やpHを調整したりしてもよい。
【0025】
[飲食品]
本発明の飲食品は、上記食品組成物を含むものである。飲食品としては、健康補助食品やサプリメント等の食品、清涼飲料水等の飲料等が挙げられる。例えば、サプリメント等のカプセル状の食品に成型する場合、食品組成物中の酢酸菌体を中心にゼラチンやグア―ガムの被膜処理を施して成型することができる。なお、成型にあたり、賦形剤として乳由来の蛋白質や大豆由来の蛋白質等を使用してもよい。
【0026】
(他の原料)
本発明の食品組成物を飲食品に用いる場合、上記食品組成物に他の原料を組合せて用いることができる。他の原料としては、例えば、トレハロース、スクロース、アスパルテーム、フェニルアラニン等の甘味料、クエン酸、酢酸、乳酸、リン酸、レモン果汁などの酸味料、蔗糖、乳糖、塩、醤油等のその他調味料、ウコン、肝臓エキス、ケイヒ、ウイキョウ、シャクヤク、甘草等の生薬、コラーゲン、ヒアルロン酸、プラセンタ、コエンザイムQ10、コンドロイチン、ローヤルゼリー等の美容原料、タウリン、アラニン等のアミノ酸、大豆多糖類、グアーガム、キサンタンガム等の増粘多糖類、グレープフルーツ、レモン等の香料が挙げられる。
【0027】
[食品組成物の製造方法]
本発明の食品組成物の製造方法は、固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、酢酸とn−酪酸のピーク面積比が40:1〜1:20となるように、酢酸、n−酪酸、及び酢酸菌体の混合物を調製する。酢酸、n−酪酸および酢酸菌体を食品組成物に含有させる方法は、特に限定されないが、例えば、これらの成分が含まれる食品や食品添加物を配合する方法が挙げられる。なお、酢酸菌体含有食品組成物の成分や形状については上記で説明した通りである。
【0028】
[測定・分析方法]
本発明の食品組成物の香気成分は、以下の条件に従って、固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS)で測定することができる。
(1)香気成分の分離濃縮方法
SPMEファイバーと揮発性成分抽出装置を用い、以下の条件に従って、固相マイクロ抽出法で香気成分の分離濃縮を行う。
<固相マイクロ抽出条件>
・SPMEファイバー:
外側に膜厚50μmのジビニルベンゼン分散ポリジメチルシロキサン層、内側に膜厚30μmのCarboxen分散ポリジメチルシロキサン層を有する、2層積層コーティングされたSPMEファイバー(StableFlex 50/30μm,DVB/Carboxen/PDMS(Sigma−Aldrich社製))
・揮発性成分抽出装置:Combi PAL、CTC Analitics製
・予備加温:40℃,15min
・攪拌速度:300rpm
・揮発性成分抽出:40℃,20min
・脱着時間:10min
(2)香気成分の測定方法
ガスクロマトグラフ法及び質量分析法を用い、以下の条件に従って、食品組成物中の酢酸、n−酪酸、イソ酪酸、及びベンズアルデヒドのピーク面積を測定し、酢酸のピーク面積の、n−酪酸、イソ酪酸、n−酪酸とイソ酪酸の合計、及びベンズアルデヒドの各ピーク面積に対する比を算出する。
<ガスクロマトグラフ条件>
・測定機器:
Agilent 6890N(Agilent Technologies社製)
・カラム:
素材内壁にポリエチレングリコールからなる液相を膜厚0.25μmでコーティングしたキャピラリーカラム 長さ30m,口径0.25mm,膜厚0.25μm(SOLGEL−WAX(SGE社製))
・温度条件:
35℃(5min)保持→120℃まで5℃/min昇温
→220℃まで15℃/min昇温→6min保持
・キャリアー:Heガス、 ガス流量1.0mL/min
<質量分析条件>
・質量分析計:
四重極型質量分析計
(Agilent 5973N(Agilent Technologies社製))
・スキャン質量:m/z29.0〜350.0
・イオン化方式:EI(イオン化電圧70eV)
【実施例】
【0029】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0030】
[実施例1〜7・比較例1〜3]:酢酸菌体含有食品組成物の製造
まず、酢酸菌株(グルコンアセトバクター・ハンゼニイ(NRB14817))を培養して、酢酸菌体の粉末を得た。次に、n−酪酸、イソ酪酸、及びベンズアルデヒドを添加混合して、実施例1〜7・比較例2〜3の9種類の酢酸菌体含有食品組成物を調製した。酢酸菌体含有食品組成物の香気成分を上記の固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定し、酢酸、n−酪酸、イソ酪酸、及びベンズアルデヒドのピーク面積を測定し、酢酸のピーク面積の、n−酪酸、イソ酪酸、n−酪酸とイソ酪酸の合計、及びベンズアルデヒドの各ピーク面積に対する比を算出した。測定結果および算出結果を表1に示した。また、n−酪酸、イソ酪酸、及びベンズアルデヒドのいずれも添加していない上記の酢酸菌体含有食品組成物を対照品(比較例1)とした。なお、得られた実施例1〜7・比較例2〜3の酢酸菌体含有食品組成物中の酢酸菌体含有量は固形分換算でいずれも98質量%であった。
【0031】
実施例1〜7および比較例1〜3の粉末状酢酸菌体含有食品組成物は、30mL蓋付きガラス容器に1gずつ充填密封したサンプルを作成した。各サンプルについて、下記の基準に従って官能評価を行った。官能評価の結果を表1に示した。特に、比較例2では酢酸臭が強すぎて香気が悪く、比較例3では酪酸由来の銀杏のような異臭がしていた。
【0032】
〔評価基準〕
5:米糠様の発酵香やアーモンド香が対照品に比べて大変強い。
4:米糠様の発酵香が対照品に比べてかなり強い。
3:米糠様の発酵香が対照品に比べて強い。
2:米糠様の発酵香が対照品に比べてやや強い。
1:米糠様の発酵香が対照品に比べて少し強い。
0:香気が対照品と比べて改善していなかった。
【0033】
【表1】
【0034】
[実施例8]
酢酸菌株を、グルコンアセトバクター・ハンゼニイ(NRB14817)からグルコンアセトバクター・コンブチャ(NRB105051)に変更した以外は、実施例4と同様にして酢酸菌体含有食品組成物を調製した。得られた粉末状酢酸菌体含有食品組成物の官能評価を行った結果、実施例4と同じ程度に米糠様の発酵香やアーモンド香を感じることができた。
【0035】
[比較例4]
食酢(酢酸菌体含有量:不検出、n−酪酸含有量:0質量%)にn−酪酸を添加した液状食品組成物を準備した。該液状食品組成物の香気成分を、上記と同様に固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した結果、酢酸とn−酪酸の比は26:1であった。該液状食品組成物の官能評価を行った結果、米糠様の発酵香がせず、酢酸臭が強すぎて香気が悪かった。
【0036】
[実施例9]:乾燥状食品の製造
次に、実施例4で得られた酢酸菌体含有食品組成物0.01%、デキストリン97.99%、ショ糖脂肪酸エステル2%を混合し、常法により本発明の乾燥状食品(打錠)を製造した。この乾燥状食品(打錠)は、米糠様の発酵香を有し好ましい風味であった。
【0037】
[実施例10]:乾燥状食品の製造
次に、実施例4で得られた酢酸菌体含有食品組成物3%、デキストリン95%、ショ糖脂肪酸エステル2%を混合し、常法により本発明の乾燥状食品(打錠)を製造した。この乾燥状食品(打錠)は、米糠様の発酵香を有し好ましい風味であった。また、実施例9と比べ米糠様の発酵香に優れて好ましかった。
【0038】
[実施例11]:味噌汁の製造
次に、実施例4で得られた粉末状酢酸菌体含有食品組成物1%を、味噌10%、清水89%に懸濁し、常法により本発明の味噌汁を製造した。この味噌汁は、本発明の酢酸菌体含有食品組成物を配合していないものと比べ、米糠様の発酵香が増しており好ましい風味であった。
【要約】
【課題】良好な香気を有する酢酸菌体含有食品組成物およびその製造方法の提供。
【解決手段】本発明の酢酸菌体を含有する食品組成物は、酢酸と、n−酪酸とを含み、食品組成物の香気成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した場合に、酢酸とn−酪酸のピーク面積比が、40:1〜1:20である。このような食品組成物は、意外にも米糠様の発酵香を有しており、消費者の食欲を惹起することができる。