(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記細胞計測器により得たデータに基づいて少なくとも液体駆動手段を制御する細胞分散計測機構制御手段をさらに有する請求項3に記載の細胞分散計測機構であって、前記制御手段は、細胞計測器により得たデータに基づいて細胞が所定の分散度に達したか否かを判断し、所定の分散度に達していない場合、細胞懸濁液が前記断面積が減少した流路を通過するよう液体駆動手段を駆動することを特徴とする、上記細胞分散計測機構。
断面積が減少した流路が、弾性素材からなる流路を圧迫して流路の狭窄度を任意に設定する流路潰し器により設けられたものであり、前記制御手段は細胞計測器により得たデータに基づいて流路潰し器を制御する、請求項4に記載の細胞分散計測機構。
流路に、少なくとも2つ以上の流路が並列に設けられ、かつ切替え弁によりその一部の流路を選択して細胞懸濁液を通すように構成された並列流路を有し、断面積が減少した流路が並列流路に含まれる少なくとも1つの流路に設けられている、請求項4に記載の細胞分散計測機構。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細胞培養熟練者の経験によらずとも細胞を十分に分散させ、細胞数又は細胞濃度の計測を正確に行うことができる細胞分散計測機構及びそれを含む自動細胞培養装置、並びに細胞分散計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明者は、流路において細胞懸濁液を循環させ、前記循環流路内で流動中の細胞懸濁液に含まれる細胞数若しくは細胞濃度及び/又は細胞の分散度を経時的に測定することによって、細胞懸濁液に含まれる細胞数又は細胞濃度の計測を正確に行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
したがって、本発明は以下の態様を包含する。
1.細胞懸濁液を通流させる流路、前記流路内の細胞懸濁液を送液する液体駆動手段、及び前記流路内で流動中の細胞懸濁液に含まれる細胞数若しくは細胞濃度及び/又は細胞の分散度を、液体駆動手段を用いて細胞懸濁液を混和させながら、経時的に測定する測定手段を含む細胞計測器。
2.上記1に記載の細胞計測器、及び細胞懸濁液に含まれる細胞塊を分散させる分散手段を備える、細胞分散計測機構。
3.前記測定手段が、散乱光強度又は透過率により測定する、上記2に記載の細胞分散計測機構。
4.前記分散手段が、細胞懸濁液にせん断力を発生させる、上記2又は3に記載の細胞分散計測機構。
5.前記せん断力は、断面積が減少した流路により発生する、上記4に記載の細胞分散計測機構。
6.前記細胞計測器により得たデータに基づいて少なくとも液体駆動手段を制御する細胞分散計測機構制御手段をさらに有する上記5に記載の細胞分散計測機構であって、前記制御手段は、細胞計測器により得たデータに基づいて細胞が所定の分散度に達したか否かを判断し、所定の分散度に達していない場合、細胞懸濁液が前記断面積が減少した流路を通過するよう液体駆動手段を駆動することを特徴とする、上記細胞分散計測機構。
7.断面積が減少した流路が、弾性素材からなる流路を圧迫して流路の狭窄度を任意に設定する流路潰し器により設けられたものであり、前記制御手段は細胞計測器により得たデータに基づいて流路潰し器を制御する、上記6に記載の細胞分散計測機構。
8.流路に、少なくとも2つ以上の流路が並列に設けられ、かつ切替え弁によりその一部の流路を選択して細胞懸濁液を通すように構成された並列流路を有し、断面積が減少した流路が並列流路に含まれる少なくとも1つの流路に設けられている、上記6に記載の細胞分散計測機構。
9.2つ以上の断面積が減少した流路が設けられており、各断面積が減少した流路の断面積が異なる、上記8に記載の細胞分散計測機構。
10.細胞を培養して増殖させ、増殖させた細胞を剥離させる拡大培養機構、前記拡大培養機構によって剥離された細胞を分散させ、測定する上記2〜9のいずれかに記載の細胞分散計測機構、及び前記細胞分散計測機構によって分散させた細胞懸濁液を前記拡大培養機構に送液する細胞播種機構を有する自動細胞培養装置。
11.細胞の増殖速度を記憶し、細胞懸濁液を前記増殖速度に基づいて定められた所定の濃度に調整する自動細胞培養装置制御部を含む、上記10に記載の自動細胞培養装置。
12.流路において細胞懸濁液を循環する工程、前記細胞懸濁液に含まれる細胞塊を分散させる工程、及び前記循環流路内で流動中の細胞懸濁液に含まれる細胞数若しくは細胞濃度及び/又は細胞の分散度を経時的に測定する工程を含む細胞分散計測方法。
13.前記測定工程では、散乱光強度又は透過率により測定する、上記12に記載の細胞分散計測方法。
14.前記分散工程では、細胞懸濁液にせん断力を発生させる、上記12又は13に記載の細胞分散計測方法。
15.前記せん断力は、断面積が減少した流路により発生する、上記14に記載の細胞分散計測方法。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2014-148768号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の機構及び方法によれば、細胞懸濁液を均一化して計測することから、サンプリングに伴うばらつきがなく、正確な細胞数又は細胞濃度の計測が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一態様において、本発明は、細胞懸濁液を通流させる流路、前記流路内の細胞懸濁液を送液する液体駆動手段、及び前記流路内で流動中の細胞懸濁液に含まれる細胞数若しくは細胞濃度及び/又は細胞の分散度を、液体駆動手段を用いて細胞懸濁液を混和させながら経時的に測定する測定手段を含む細胞計測器に関する。
【0013】
本発明において、流路の形態は特に限定しない。流路は環状流路であっても、
図7を用いて以下で説明する線形流路であってもよい。
【0014】
本明細書において、液体駆動手段は特に限定するものではない。例えば流路内に設けられたスクリュー等の回転手段により流路内で水流を生じさせて送液してもよいし、外部から圧力をかけて送液させてもよい。細胞へ与える負荷が少ないという点から、特に外部から圧力をかけて液体を駆動させるのが好ましい。外部から圧力をかけて送液する液体駆動手段の例として、外部から流路をしごいて流体を移動させるペリスタポンプ等が挙げられる。
【0015】
本明細書において、「細胞の分散」とは、細胞間接着により形成された細胞塊が個々の細胞に分かれることを意味する。また、「細胞の分散度」とは、細胞懸濁液に含まれる細胞の分散の程度を意味し、細胞懸濁液において細胞塊が少ないほど分散度が高く、逆に細胞塊が多いほど分散度が低い。
【0016】
本発明において、細胞を分散させる手段及び方法は、特に限定しない。化学的手段、例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、及びディスパーゼ等のタンパク質分解酵素により分散させてもよいし、物理的手段、例えば、ボルテックス、ピペッティング、及び撹拌等により分散させてもよく、これらの一以上を組み合わせてもよい。本発明において、細胞懸濁液に含まれる細胞塊の分散は、細胞懸濁液の送液又は循環、例えば送液又は循環に伴う水流によってなされてもよく、この場合、液体駆動又は細胞液の循環が分散の役割も兼ねることとなる。したがって、本発明の細胞分散計測機構において液体駆動と分散は同一の手段によってなされてもよい。同様に、本発明の細胞分散計測方法において、細胞懸濁液の循環と細胞塊の分散は同一の工程によりなされてもよい。
【0017】
また、本発明は、上記細胞計測器、及び細胞懸濁液に含まれる細胞塊を分散させる分散手段を備える、細胞分散計測機構に関する。本発明において、細胞の分散は細胞懸濁液にせん断力を発生させることによりなされてもよく、せん断力は、断面積が減少した流路(本明細書において、「狭窄部」とも称する)により発生させることができる。この場合、流路の一部の断面積が狭いものを用いてもよく、又はオリフィス等の仕切り板を設けることにより流路の一部の断面積を減少させてもよい。断面積が減少した流路は、流路の断面積に対して、例えば1.1〜100倍、2倍〜10倍、特に3倍〜5倍小さい断面積を有してよい。例えば、流路の内径が約3mmである場合、減少した断面積の径は、約0.05〜2mm、約0.1mm〜1mm、特に約0.5〜0.8mmであってよい。減少した断面積の径は、細胞の大きさ、接着性等に応じて適宜変更し得る。
【0018】
細胞の分散の程度は、様々な条件、例えば狭窄部を分散手段として用いる場合は、狭窄部の数、狭窄部の内径、狭窄部の長さ、細胞が狭窄部を通過する回数、並びに流速及び流路内径等により調製することができる。
【0019】
オリフィスに代えて、流路の潰し量を制御できる流路潰し器により狭窄部を形成してもよい。流路潰し器は、弾性を持つ流路を外側から潰す機能を有し、ピンチ弁のように完全に閉塞するのではなく、ある間隙を保った状態で流路を潰す。流路潰し器は制御部により制御されていることが好ましい。流路の潰し量を変化させることにより、内部を流動する細胞懸濁液の細胞集塊に与えられるせん断力を変化させることができる。また、細胞集塊がまだ大きい場合は流路の狭窄部の断面積が小さすぎると流路に細胞が詰まることも考えられるが、流路の潰し量を変化させることができる流路潰し器を用いる場合には、適度な流路潰し量を選択することによりそのような問題を回避することができる。
【0020】
制御部は、細胞分散測定機構から得た細胞分散度に関するデータに基づいて流路潰し器を制御し、流路の潰し量を変化させることが好ましい。例えば、流路潰し器は、その間隙を、流路を全く潰さない全開の状態から流路を完全に潰して閉塞させる状態まで変化できるようにし、その間隙の大きさをステッピングモータのような位置決めできるアクチュエータを使用して制御するようなものとすることができる。あるいは、間隙は間隙量の指標となる部材を挟むことにより決定してもよい。そのような部材は、複数の間隙量に対応できるようになっていてもよい。なお、
図1、6、7、及び8を用いて以下に説明する分散手段についても、オリフィスに代えて流路潰し器を採用してもよい。
【0021】
流路潰し器の他、分散手段の異なる2つ以上の並列流路を設け、切換え弁により流路を選択できるようにしてもよい。このようにすると、細胞計測器から得た細胞分散度に関するデータに基づいて、例えば細胞集塊が比較的大きいと判断される場合には径が大きなオリフィスを通過するように、また細胞塊がある程度ほぐれてきたと判断される場合にはより小さなオリフィスを通過するようにすることができる。流路の選択は、切替え弁を制御部により制御することにより行うことができる。このような構成とすることにより、上記の流路潰し器のような複雑な構造としなくとも、細胞計測器から得た細胞分散度に関するデータに基づいて適切な細胞分散処理を行うことができ、細胞塊によってオリフィスが閉塞することも予防することができる。
【0022】
本明細書において、細胞懸濁液に含まれる細胞数若しくは細胞濃度及び/又は細胞の分散度を測定する方法は、特に限定するものではない。例えば、流路中に観察窓を備え、CCDカメラ付きの顕微鏡で画像を取り込み、画像から測定してもよいし、フローセルと光源によって散乱光強度又は透過率から測定してもよいし、また、蛍光により測定してもよい。細胞数又は細胞濃度を散乱光強度又は透過率に基づいて測定する場合、細胞数若しくは細胞濃度が高いほど、散乱光強度は高く、透過率は低くなる。また、細胞の分散度を散乱光強度又は透過率に基づいて測定する場合、細胞の分散度が高いほど測定値のばらつきが小さくなり、また、分散過程に伴う測定値の変化が小さくなる。散乱光強度又は透過率による測定は迅速な処理が可能であり、顕微鏡視野が限定される画像データに基づく細胞計測より、細胞計測のダイナミックレンジ及び再現精度が優れ、正確な細胞数若しくは細胞濃度及び/又は細胞の分散度の計測ができるため、好ましい。
【0023】
本発明において、細胞懸濁液の定量は特に限定されるものではないが、例えば、溶液の比色分析の定量と同じ方法で行うことができる。すなわち、予め同じ細胞、又は同じ粒径のビーズを使用して、数種類の既知濃度試料における散乱光強度又は透過率を測定し、検量線を作製する。この検量線を用いることにより、未知濃度の細胞懸濁液から得られた散乱光強度又は透過率を相関式に代入して細胞濃度を算出することができる。
【0024】
一態様において、本発明の細胞分散計測機構は、細胞懸濁液に含まれる細胞数若しくは細胞濃度及び/又は細胞の分散度を経時的に測定する。本明細書において、「経時的に測定する」とは、時間の経過とともに測定することを意味する。経時的な測定は、連続的な測定であっても、測定間隔が存在する不連続的な測定であってもよい。不連続的な測定における測定間隔は、特に限定するものではないが、例えば、0.01秒〜50秒毎、0.1秒〜5秒毎、特に1秒〜2秒毎であってよい。
【0025】
一態様において、本発明は細胞を培養して増殖させ、増殖させた細胞を剥離させる拡大培養機構、前記拡大培養機構によって剥離された細胞を分散させ測定する細胞分散計測機構、及び前記細胞分散計測機構によって分散させた細胞懸濁液を前記拡大培養機構に送液する細胞播種機構を有する自動細胞培養装置に関し、一態様において、該自動細胞培養装置は、細胞の増殖速度を記憶し、細胞懸濁液を前記増殖速度に基づいて定められた所定の濃度に調整する自動細胞培養装置制御部を含む。
【0026】
本明細書において、「細胞の増殖速度」とは、時間の経過と共に細胞が増減する速度を意味する。増殖速度は、例えば細胞の増殖曲線によって表すことができる。本明細書において、「所定の濃度」とは、一定の時間の培養後に、所望の細胞数まで増殖し得る細胞濃度を意味する。例えば、2日後に底面積78.5cm
2の培養容器に50%コンフルエントの状態の細胞を含むプレートが必要だとすると、2日後に上記培養容器において上記細胞数まで増殖する細胞懸濁液の濃度が「所定の濃度」である。所定の濃度は、例えば細胞の増殖曲線から決定することができる。
【0027】
本発明において、「所定の濃度に調整する」とは、例えば、細胞懸濁液の濃度が所定の濃度よりも高い場合、生理食塩水、培養液、及びPBS等の希釈液により所定の濃度まで希釈し、細胞懸濁液の濃度が所定の濃度と同じか又は低い場合、希釈しないか又は所定の濃度まで濃縮することを意味する。本発明に係る装置及び方法では、正確に細胞懸濁液の濃度が測定されるため、上記の増殖速度に基づく予測機能を用いることで、継代培養において所望の日時に所望の細胞数を正確に得ることができる。
【0028】
本明細書において、拡大培養機構は、一つ又は二つ以上の培養容器を有していてもよい。二つ以上の培養容器が存在する場合、それぞれの培養容器は、大きさ、形状、及び材質等が異なってもよい。培養容器は、細胞を増殖させるものであれば特に限定しないが、例えば、培養プレート及び培養フラスコ等であってよい。細胞播種機構は、使用後に洗浄した培養容器に細胞懸濁液を送液してもよいし、又は新たな細胞培養容器に細胞懸濁液を送液してもよい。
【0029】
本発明に係る自動細胞培養装置において、細胞懸濁液は、拡大培養機構、細胞分散計測機構、又は細胞播種機構のいずれかから取り出されて、他の培養やアッセイに用いられてもよい。本発明に係る自動細胞培養装置は、拡大培養機構、細胞分散計測機構、又は細胞播種機構のいずれかから細胞懸濁液を取り出すための取得機構を有してよい。
【0030】
一態様において、本発明は、流路において細胞懸濁液を循環する工程、前記細胞懸濁液に含まれる細胞塊を分散させる工程、及び前記循環流路内で流動中の細胞懸濁液に含まれる細胞数若しくは細胞濃度及び/又は細胞の分散度を経時的に測定する工程を含む細胞分散計測方法に関する。当該細胞分散計測方法は、本発明に係る細胞分散計測機構を使用してもよいし、使用しなくてもよい。
【0031】
本発明の機構及び方法では、細胞懸濁液が、細胞塊の多い状態から分散していく過程をリアルタイムでモニターするため、必要かつ十分な細胞分散度となるように分散操作を制御することができる。これにより細胞へのダメージを最小限にでき、細胞生存率を最大に保持することができる。また、細胞懸濁液が十分に分散され、均一な状態に維持されるため、送液の際の細胞の沈降や分散度の差等により起こる継代培養間のばらつきを防ぐことができる。
【0032】
また、本発明の自動細胞培養装置は、細胞継代培養操作の全てを自動化できるため省力化が可能であり、また、作業者の熟練度の違いから起こる人的誤差を少なくすることができる。
【0033】
以下、本発明に係る細胞分散計測機構及びそれを含む細胞培養装置、並びに細胞分散計測方法を、図面を用いて説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0034】
図1に、本発明に係る自動細胞培養装置の第1構成例を模式的に示す。自動細胞培養装置1は、細胞を培養して増殖させ、増殖させた細胞を剥離させる拡大培養機構15、前記拡大培養機構によって剥離された細胞を分散させ、測定する細胞分散計測機構16、前記細胞分散計測機構によって分散させた細胞懸濁液を前記拡大培養機構に送液する細胞播種機構17、及び制御機構(図示は省略する)から構成される。制御機構(本明細書では「制御部」又は「制御手段」とも称する)は、装置全体を制御するものであってもよいし、拡大培養機構15、細胞分散計測機構16、及び細胞播種機構17又は各機構中の手段の一以上を制御するものであってもよい。制御機構の例として、個々の手段又は機構を制御するプログラムを有する計算機(コンピューター)が挙げられる。
【0035】
本明細書において、「細胞分散計測機構制御手段」とは、細胞分散計測機構を制御する手段を意味する。細胞分散計測機構制御手段は、例えば、細胞計測器により得たデータに基づいて細胞数濃度を所望の濃度とするのに必要な希釈液の量を判断し、必要量の希釈液を流路に取り込みかつ細胞懸濁液と希釈液を混合するよう液体駆動手段を駆動することができる。また、細胞分散計測機構制御手段は、細胞計測器により得たデータに基づいて細胞が所定の分散度に達したか否かを判断し、所定の分散度に達していない場合、細胞懸濁液が狭窄部を通過するよう液体駆動手段を駆動してもよい。本明細書において、「自動細胞培養装置制御部」とは、自動細胞培養装置を制御する部分を意味する。自動細胞培養装置制御部は、例えば細胞計測器により得たデータに基づいて、細胞懸濁液を所定の濃度に調整するために、各機構を連結する流路に配置されたバルブ及び/又は液体駆動部を制御する。
【0036】
拡大培養機構15はCO
2インキュベーター内に格納されている。細胞分散計測機構16及び細胞播種機構17もまた、CO
2インキュベーター内に格納されていてもよい。自動細胞培養装置1の全流路内は閉鎖系で無菌となっており、動作中流路内に導入される空気はHEPAフィルターを介しているため、細胞継代操作を含む細胞培養を無菌的に実施することができる。
【0037】
拡大培養容器2で培養する細胞は、細胞供給手段10から液体駆動手段であるシリンジポンプ等を用いて導入される。その後、培養液供給手段3により適当量の培養液が導入され、自動駆動系により細胞が培養液中で均一な濃度の状態となるように容器を揺り動かした後に静置され、CO
2インキュベーター内で適切な条件下(例えば37℃、5%CO
2濃度)で数日間培養される。その間、顕微鏡観察により細胞の拡大培養容器2における底面面積占有率を観察し、細胞増殖率が低下しない状態(100%コンフルエントになる以前)まで増殖させる。その後、細胞洗浄溶液供給手段11から導入されたPBS(Phosphate Buffered Saline)やHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)緩衝液等、細胞に適合した洗浄溶液を用いて培養液、死細胞、及びごみ等を除去する。続いて細胞剥離溶液供給手段12からトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ等のタンパク質分解酵素を導入し、37℃で一定時間放置する。酵素により細胞と培養容器底面を接着しているインテグリン等のタンパク質が分解され、細胞が拡大培養容器2から剥離される。前記酵素は細胞間を接着しているタンパク質を完全に分解するものではないため、細胞剥離後は細胞の塊が多数存在する。また、酵素が共存した状態で長時間放置すると細胞の活性が弱まり、播種後の増殖が悪くなったり、死細胞が多くなったりするため、最適な剥離条件を決めておく必要がある。これらの条件を自動細胞培養装置制御部に記憶させておくことにより、最適な細胞剥離作業が自動で行える。細胞剥離の後、タンパク質分解酵素の活性を停止させるために、細胞剥離溶液阻害剤供給手段13からトリプシンインヒビターや培養液等の酵素活性阻害剤を導入する。これにより酵素活性による細胞へのダメージが低減される。
【0038】
続いて、拡大培養容器2から供給された細胞剥離試料を回収し、試料導入手段4に送液する。拡大培養容器2の底面の細胞残渣が多い場合は、培養液供給手段3から導入した培養液で何度か容器底面を共洗いして試料導入手段4に送液して回収することにより回収率を高めることもできる。
【0039】
回収された細胞剥離試料、好ましくはその全量を液体駆動手段であるシリンジポンプ等を用いて、細胞分散計測機構16の環状配管内に、細胞懸濁液として導入する。循環流路である環状配管内には分散手段5、測定手段6、液体駆動手段であるペリスタポンプ7がある。細胞分散計測機構16により処理する前の細胞懸濁液に含まれる細胞のほとんどは、数10個〜シート状の塊の状態である。この細胞懸濁液を分散手段5に通過させることにより、ピペッティングと同等以上の分散効果を得ることができる。細胞の分散に必要な条件は細胞大きさ及び接着性等によって異なり、分散条件は細胞種に応じて適宜変更し得る。
【0040】
ペリスタポンプ7を稼働すると、試料は環状配管内を循環し、分散手段5を通過するたびに分散されながら、測定手段6により計測される。自動細胞培養装置制御部は使用する細胞の分散度と測定値の関係を予め記憶しており、当該細胞の測定値の経時変化をモニターした結果から、細胞が播種されるのに最適な状態と判断されたら、3方バルブ8を切り替えて細胞播種試料調製手段9へ細胞懸濁液を送液するように、細胞分散計測機構及び細胞播種機構を制御する。自動細胞培養装置制御部は、測定手段6の測定値から、予め記憶された検量線に基づいて細胞懸濁液の濃度を計算する。また、自動細胞培養装置制御部は、予め記憶された増殖曲線に基づいて、一定の時間の経過後に目的の細胞数まで増殖し得る播種細胞数と濃度を計算し、細胞懸濁液を該濃度まで希釈するために必要な培養液を培養液供給手段3から供給して細胞播種試料調製手段9に送液し、細胞懸濁液と共に混合するように、細胞分散計測機構及び細胞播種機構を制御する。細胞播種試料調製手段9では、設けた環流配管内を環流させることにより混合してもよいし、容器内に設けた撹拌子等により混合してもよい。細胞播種試料が均一な状態になったら、ペリスタポンプ7を稼働させて送液し、拡大培養容器2に注入する。
【0041】
細胞懸濁液の希釈は、上記の様に細胞播種試料調製手段9で行ってもよいが、細胞分散計測機構16内で行ってもよい。この場合、
図1の様に培養液供給手段3から希釈液を細胞分散計測機構16の流路内に送液してもよいし、流路の一部に希釈液バッグ及び切換え弁等を設けて希釈液を流路内に送液してもよい。希釈を細胞分散計測機構内で行うことで、希釈後の細胞数をより正確に測定することができる。細胞懸濁液及び希釈液の取り込みは1回ずつ行ってもよいし、少量ずつ複数回に分けて行ってもよい。複数回に分けて取り込むと、2液がより混合しやすくなり、細胞にかかる負担を低減することができるため好ましい。このとき、
図6を用いて以下で説明する試料溜め18があると、希釈液の混合が容易である。
【0042】
拡大培養容器2に各溶液を導入した後は、常に自動駆動系により容器を揺り動かすことで、細胞や溶液が容器底面にまんべんなく均一に導入される。拡大培養容器2に注入した細胞は、上記の様に培養し、再び継代操作に供することができる。
【0043】
本発明の自動細胞培養装置の第2構成例を
図6に示す。
図6に示す自動細胞培養装置20は、
図1の細胞分散計測機構16の環状配管内に試料溜め18を追加したものである。この流路を使用することにより、試細胞懸濁液の量が増減しても、環状配管の容量を交換しなくても良く、播種試料調製後の細胞懸濁液試料濃度を同時に計測することができる。
【0044】
本発明の自動細胞培養装置の第3構成例を
図7に示す。
図7に示す自動細胞培養装置21の線形流路では、
図1のように試料を環流させながら細胞分散と計測を行うのではなく、分散手段5を何度か往復させることにより細胞懸濁液を分散させる。また細胞の分散と計測を同時に行うのではなく、細胞を分散処理後、測定手段6で計測して細胞濃度を算出し、播種する細胞濃度に調製するため培養液供給手段3から培養液を導入する。自動細胞培養装置21では試料を混合するため撹拌コイル19を通過させる。
【0045】
本発明の細胞分散計測機構により、ビーズ等の担体を用いて培養した細胞の分散を計測することもできる。
図8は、担体を用いて培養した細胞の、本発明に係る細胞分散機構による測定例を示し、22は細胞、23は培養担体、縦軸は散乱光強度、横軸は時間を示す。
図8は、担体を用いて培養した細胞がトリプシン処理によって担体から離れ、単一細胞になる様子を、散乱光強度の変化によってモニターすることができることを示している。
【実施例】
【0046】
<実施例1:自動細胞培養装置1を用いたCaco−2細胞の培養及び継代>
まず拡大培養機構における動作を説明する。−80℃にて冷凍保存されたCaco−2(ヒト大腸がん細胞株)4.6×10
6cellsを、10%FBS(Fetal Bovine Serum)を添加したCaco−2用培養液(Minimum Essential Medium Eagle,Non-Essential Amino Acid Solution、Stabilized Penicillin 100 unit/mL,Streptomycin 100μg/mL、Amphotericin B 0.25μg/mL)9mLに懸濁して細胞供給手段10に入れ、シリンジポンプを稼働させて底面積78.5cm
2の拡大培養容器2に全量播種した。2日後、倒立顕微鏡観察の結果80%コンフルエントになったため、細胞剥離作業を行った。具体的には、拡大培養容器2内で以下の通り自動運転した。拡大培養容器2内の培養液をペリスタポンプ7で廃液へ流して除去した後、細胞洗浄溶液供給手段11からPBSを3mL導入し、拡大培養容器2を揺り動かして底面全体に行き渡らせ細胞を洗浄した。PBSをペリスタポンプ7で吸引除去後、細胞剥離溶液供給手段12から0.25%トリプシン−1mM EDTA 2mLを導入し、拡大培養容器2を揺り動かして底面全体に行き渡らせ、37℃にて4分静置し細胞を剥離した。倒立顕微鏡により拡大培養容器2の底面に接着している細胞がないことを確認した後、トリプシンの活性を停止させるために培養液供給手段3から培養液3mLを導入し、剥離した細胞と共に培養液をペリスタポンプ7を稼働させて、試料導入手段4に送液した。
【0047】
次に細胞分散計測機構における動作を説明する。本機構は、分散手段5、測定手段6、ペリスタポンプ7、3方バルブ8が内径3.15mmのシリコンチューブ合計520mmで接続されている。測定手段内には容量1mLのフローセルがあり、流路と接続されている。はじめに培養液供給手段3から培養液を導入し環状の流路に培養液を充填しておく。このときペリスタポンプ7のチューブ押さえをはずし、環状流路内の3方バルブ8を切り替えながら流路に気泡が入らないように培養液を充填する。次に試料導入手段4に蓄積された細胞懸濁液試料を全量(5mL)環状流路に充填する。このとき押し出された培養液は細胞播種試料調製手段9に流出する。環状配管内のペリスタポンプ7の押さえを元に戻しポンプを稼働させると、充填した細胞懸濁液試料は分散手段5と測定手段6を通過しながら環状流路内にて環流される。
【0048】
図2に、本発明の一態様における分散手段5(オリフィスの径0.7mm×長さ1mm)を10回通過させた後、ピペッティングを10回行った後、又は無処理の細胞懸濁液中の細胞塊及び単一細胞の存在比率を示す。各処理後に顕微鏡写真を撮影し、画像処理により細胞懸濁液中の細胞塊又は単一細胞の個数を数え、単一細胞と2〜4個の細胞塊の存在比率を棒グラフにした結果、本発明の分散法により手作業のピペッティングと同等以上の分散効果が得られていることがわかった。
【0049】
細胞分散と同時に測定手段6により散乱光強度(波長700nm、測定角度20度)を計測した。Caco−2細胞の散乱光強度経時変化を
図3に示す。細胞懸濁液中の細胞が環流され経時的に分散するに伴い、散乱光強度が変化していく様子が計測された。すなわちはじめは細胞懸濁液の散乱光強度の測定値が大きくばらついているが、分散手段5を通過する度に、散乱光強度の測定値のばらつきが次第に減少し、また、分散工程に伴う測定値の変化も小さくなった。特に測定開始から160秒程度経過した後は、散乱光強度の測定値のばらつき及び分散工程に伴う測定値の変化が非常に小さくなった。この結果から、試料中の細胞は、測定開始から160秒程度経過することにより分散されて細胞が均一に分散したことがわかる。このように分散手段5による分散時間の最適値を判断できることは、必要以上に環流させることによる細胞活性の低下を防ぐことができるため好ましい。
【0050】
次に細胞播種機構における動作を説明する。
【0051】
以下の定量法により、細胞懸濁液の細胞濃度を定量した。すなわち、数種類の既知濃度のCaco−2細胞における散乱光強度を測定することにより検量線を作成した。その後、測定された散乱光強度を相関式に代入して細胞懸濁液の細胞濃度を算出した。その結果、細胞懸濁液の濃度は1.2×10
6cells/mLであった。
図4にCaco−2細胞の検量線を示す。
【0052】
自動細胞培養装置制御部により目的細胞を得るための最適な播種細胞濃度が計算され、必要量の培養液が培養液供給手段3から供給された。すなわち、2日後に50%コンフルエントの状態の細胞を含む底面積78.5cm
2の培養プレートが2枚必要だとして、自動細胞培養装置制御部に予めインプットされているCaco−2細胞の増殖曲線を使用して播種細胞濃度が自動計算され、培養液供給手段3から培養液15mLが供給された。該培養液と細胞播種試料調製手段9にあるCaco−2細胞が混合され、拡大培養容器2に設けられた2枚のプレートに各10mL播種された。このように細胞継代作業が自動で行われた。
【0053】
継代された細胞の活性度を確認するために播種した細胞を2日間培養し、増殖率と生存率を調べた。その結果、2日後の細胞濃度は、3.8×10
6cells/mL、細胞生存率は96〜97%であった(n=4)。見た目の細胞占有率は50%コンフルエントであった。
【0054】
<実施例2:ラテックス粒子を用いた計測法の比較>
ラテックス粒子を用いて、散乱光強度による計測方法と、一般に広く使用されているセルカウンターを用いる計測方法を比較した。試料は、濃度既知(5.0×10
5Particles/mL、5mL、溶媒はH
2O)のラテックス粒子(ポリサイエンス社製、10μm、Lot No.643763)を用いた。
【0055】
散乱光強度による計測では、試料を試料導入手段4に入れ、全量の5mLを本発明の一態様の細胞分散計測機構16の環状配管に導入した。環流により試料を均一化した後、ペリスタポンプ7を停止しストップドフロー法により計測した。10μmのラテックス粒子0〜1.0×10
6 Particles/mLの検量線を
図5に示す。同一試料をストップドフロー法で6回計測したところ、平均濃度は5.2×10
5Particles/mL、標準偏差は0.0097×10
5Particles/mL、相対標準偏差RSDは、0.19%であった。
【0056】
セルカウンターによる計測では、トリパンブルー色素と試料を各10μLとり、ピペッティングを行い充分混合したものを試料に供した。計測方法は専用スライドガラス上のA及びBの2か所に試料を負荷し、A及びBとも連続3回の濃度計測を行った。3回計測の平均値を算出し、さらにA及びBの平均値を求めた。専用スライドガラス6枚について同様の計測を実施した結果、平均濃度は、4.6×10
5Particles/mL、標準偏差は、0.3×10
5Particles/mL、相対標準偏差RSDは、7.3%であった。
【0057】
以上の様に、セルカウンターによる計測よりも散乱光強度による計測の方が、正確度が高く、かつばらつきも少なかった。
【0058】
<実施例3:NIH/3T3細胞を用いた分散条件の最適化>
狭窄部を用いて細胞を分散させる場合、分散条件には、流路内径、狭窄部の内径、狭窄部の数、狭窄部の長さ、流速、及び細胞が狭窄部を通過する回数(流速と稼働時間から算出)等がある。このうち、狭窄部の内径、長さ、流速、及び細胞が狭窄部を通過する回数を自動的に最適化する方法の1例を以下に示す。
【0059】
図9は、本発明に係る細胞分散計測機構の1例であり、流路は環状で、
図6の分散手段5を並列に並べたものである。多方(N方)バルブ24を切り替えることにより、1分散手段を選択することができる。
【0060】
未分散のNIH/3T3細胞 3.0〜4.0×10
6cellsを20mLの培地で回収したものを、試料溜め18に入れ、ペリスタポンプ7を稼働して環流させ、以下の手順で自動最適化を行った。
【0061】
はじめに狭窄部の内径及び長さを最適化した。分散手段5-1は狭窄部無しの場合で、全体として3.15mmi.d.×720mmの流路からなる。分散手段5-2〜5-7に、それぞれ以下のサイズの狭窄部(オリフィス等)を設置した:1.6mmi.d.×1mm(5-2)、1.0mmi.d.×1mm(5-3)、0.7mmi.d.×1mm(5-4)、0.4mmi.d.×1mm(5-5)、0.4mmi.d.×10mm(5-6)、及び0.4mmi.d.×30mm(5-7)。多方バルブ24により流路を切り替えることによって狭窄部を変更した。
【0062】
流速とポンプ稼働時間を一定にし、分散手段5-1を通過した細胞試料を測定手段6が測定し、その結果を制御部に送信する。制御部には予め基準値が設定されていて分散が不十分と判断された場合、多方バルブ24を切り替え、新たな試料を次の分散手段5-2に通過させる。同様に、制御部は分散手段5-2を通過した細胞試料の分散度合いを判断し、不十分な場合さらに、5-3、5-4、5-5と順に試料を通過させる。これを測定手段6の結果が基準値をクリアするまで継続する。いずれの条件も基準値をクリアしない場合は最も基準値に近い分散手段を最適値とする。その結果、狭窄部の内径×長さは、0.4mmi.d.×30mmが最適であった。
【0063】
次に、流速を最適化した。一定の狭窄部とポンプ稼働時間の条件で、ペリスタポンプ7を調節し、流速を20mL/min、30mL/min、40mL/minと変更して細胞試料を送液した。最も基準値に近い分散度となる流速を最適値とした。その結果、流速は、40mL/minが最適であった。
【0064】
次に細胞が狭窄部を通過する回数を最適化した。狭窄部を通過する回数は、流速とポンプ稼働時間から算出できるため、ポンプ稼働時間を最適化した。狭窄部と流速を一定にし、通過回数に比例する通過時間90sec、180sec、及び270secにおける分散度合いを評価した。その結果、180secが最適であった。
【0065】
以上の結果を
図10に示す。細胞塊の数0を分散度合いの基準値とした。また、狭窄部無しの結果は細胞塊が多数のため計数不可能であった。
【0066】
最適化された分散条件によりNIH/3T3細胞を分散し、継代培養を行ったところ、2日後の生存率は95%以上であった。
【0067】
なお、最適化された分散条件で処理しても、分散度合いが基準値をクリアしない場合、同一試料を分散条件を変更して再度処理してもよい。この場合、1)分散手段の内径を細くする、2)ペリスタポンプの流速を上げる、及び3)分散手段の長さを長くする、の順番で行うとよい。