(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
なお、本願明細書において、「〜」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
本発明は、前記一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、融点が200℃以上であるリン系安定剤(B)0.001〜1質量部を含有することを特徴とする。
以下、本発明の樹脂組成物を構成する各成分等につき、詳細に説明する。
【0016】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂(A)は、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む。
【化7】
(一般式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、
【化8】
のいずれかを示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Zは炭素原子(C)と結合して置換基を有していてもよい炭素数6〜12の脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【0017】
一般式(1)において、R
1及びR
2の、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられ、置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、R
1及びR
2は、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。
【0019】
また、一般式(1)におけるR
1、R
2の結合位置は、好ましくはXに対して、5位である。
【0020】
一般式(1)において、XのR
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示すが、特には水素原子が好ましい。
Zは、一般式(1)において、2個のフェニル基と結合する炭素原子と結合して、置換若しくは無置換の二価の炭素数6〜12の脂環式炭化水素を形成する。二価の脂環式炭素環としては、例えば、シクロペンチリデン基、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基又はアダマンチリデン基等のシクロアルキリデン基(好ましくは炭素数4〜炭素数12)が挙げられ、置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シクロヘキシリデン基のメチル置換体、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0021】
一般式(1)で表される化合物として、例えば、下記式(1a)や(1b)等のビスフェノール化合物が好ましく挙げられる。
【化9】
【化10】
【0022】
これらの中でも、式(1a)に示すビスフェノールC(以下、「BPC」と記載する場合がある。)が特に好ましい。
【0023】
<ポリカーボネート樹脂(A)の物性>
ポリカーボネート樹脂(A)は、その末端ヒドロキシ基量が、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼすため、ポリカーボネート樹脂(A)の末端ヒドロキシ基量は、100質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは、200質量ppm以上、さらに好ましくは400質量ppm以上、最も好ましくは500質量ppm以上である。但し、通常1,500質量ppm以下、好ましくは1,300質量ppm以下、さらに好ましくは1,200質量ppm以下、最も好ましくは1,000質量ppm以下である。ポリカーボネート樹脂(A)の末端ヒドロキシ基量が過度に小さいと、成形時の初期色相が悪化する傾向がある。末端ヒドロキシ基量が過度に大きいと、滞留熱安定性や耐湿熱性が低下する傾向がある。
ポリカーボネート樹脂(A)の末端ヒドロキシ基量の具体的な求め方は、実施例で後述する。
【0024】
ポリカーボネート樹脂(A)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が、3.0以上5.0以下の範囲であることが好ましい。さらに、Mw/Mnは、3.0以上4.0以下の範囲がより好ましい。Mw/Mnが過度に小さいと、溶融状態での流動性が増大し成形性が低下する傾向にある。一方、Mw/Mnが過度に大きいと、溶融粘度が増大し成形困難となる傾向がある。
【0025】
ポリカーボネート樹脂(A)は、JIS K5600−5−4(1999年)に準拠した鉛筆硬度が、HB以上であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、より好ましくは、F以上であり、さらに好ましくはH以上であり、最も好ましくは2H以上である。但し、通常、3H以下である。鉛筆硬度がHB未満のポリカーボネート樹脂では表面が傷つきやすく、従来のビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂では鉛筆硬度は2Bであり不十分である。
【0026】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、通常12,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは18,000以上、特に好ましくは20,000以上、最も好ましくは22,000以上である。また、通常100,000以下、好ましくは50,000以下、より好ましくは35,000以下、特に好ましくは30,000以下である。粘度平均分子量が低すぎると、難燃性および機械的物性が低下する虞がある。また、粘度平均分子量が高すぎると、流動性が低下し、異物量が多くなる虞がある。
なお、粘度平均分子量の測定方法は、後述の実施例の通りである。
【0027】
ポリカーボネート樹脂(A)は、そのガラス転移温度が140℃以下であることが好ましく、135℃以下であることがより好ましく、また110℃以上であることが好ましく、115℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度をこのような範囲とすることで、流動性が向上する傾向にあり好ましい。
なお、ガラス移転温度とは、示差走査熱量測定:Differential scanning calorimetry(DSC)により、窒素気流下、室温から10℃/分の速度で昇温した際の変曲点の温度をいう。
【0028】
ポリカーボネート樹脂(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記式(1)で示される化合物に由来する構造単位以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、「その他の構造単位」と称す。)を含むこともでき、例えば、下記一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(例えば、ビスフェノール−A由来の構造単位)、あるいは後述するような他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有していてもよい。
【化11】
(一般式(3)中、Xは一般式(1)におけるXと同義である。)
【0029】
上記一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の好ましい具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、即ち、ビスフェノール−A由来のカーボネート構造単位である。
【0030】
ポリカーボネート樹脂(A)は、一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位以外のその他の構造単位を有していてもよい。一般式(3)で表される構造単位以外のその他の構造単位の含有割合は、ポリカーボネート樹脂(A)中の通常50質量%未満、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましく20質量%以下であり、10質量%以下、なかでも5質量%以下が最も好ましい。
【0031】
一般式(3)で表される構造単位以外のその他の構造単位としては、例えば、以下のようなジヒドロキシ化合物由来の構造単位を挙げることができる。
例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジメチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−6−メチル−3−tert−ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0032】
ポリカーボネート樹脂(A)が、前記一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物由来の構造単位以外の構造単位を含む場合、一般式(1)で表される化合物由来の構造単位とその他の構造単位を有する共重合ポリカーボネート樹脂であってもよいし、一般式(1)で表される化合物由来の構造単位を有するポリカーボネート樹脂とその他の構造単位を有するポリカーボネート樹脂との混合物であってもよい。
ポリカーボネート樹脂(A)中の一般式(1)で表される化合物に由来する構造単位の含有割合は、10質量%以上であるのが好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、なかでも40質量%以上、とりわけ50質量%以上が特に好ましい。また、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。式(1)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が多すぎると耐衝撃性が低下する可能性があり、少なすぎると鉛筆硬度が下がる可能性があり好ましくない。
【0033】
本発明においては、ポリカーボネート樹脂(A)が、前記一般式(1)で表される化合物由来の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A−1)と、前記一般式(3)で表される化合物由来の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A−2)の混合物であることが、色調が良化し、鉛筆硬度が向上する傾向となり好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)として、ポリカーボネート樹脂(A−1)及びポリカーボネート樹脂(A−2)の混合物を用いる場合の含有割合は、両者の質量比で、ポリカーボネート樹脂(A−1)/ポリカーボネート樹脂(A−2)=95/5〜30/70であることが好ましく、90/10〜40/60であることがより好ましく、85/15〜50/50がさらに好ましく、85/15〜60/40が特に好ましい。このような含有割合とすることにより、高い硬度を有して耐傷付き性に優れ、また、優れた耐熱性をも達成することが可能となる。ポリカーボネート樹脂(A−1)は、その質量比が30を下回ると表面硬度が低下し、成形体としたときに表面が傷つき易くなる。一方、質量比が95を超えると成形体の耐衝撃性が低下し割れを起こしたり、耐熱性が低下しやすくなったりする。
【0034】
ポリカーボネート樹脂(A−1)の粘度平均分子量は、15,000〜30,000であることが好ましく、18,000〜29,000がより好ましく、20,000〜27,000がさらに好ましい。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形体が得られ、15,000を下回ると、耐衝撃性が悪化しやすく、実使用上問題となりやすく、30,000を超えると溶融粘度が増大し、射出成形することが困難となりやすい。 また、ポリカーボネート樹脂(A−2)の粘度平均分子量は、12,000〜30,000であることが好ましく、14,000〜28,000がより好ましく、16,000〜26,000がさらに好ましい。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形体が得られ、12,000を下回ると、耐衝撃性が低下し使用が困難となりやすく、30,000を超えると溶融粘度が増大し、射出成形または押出成形が困難となりやすい。
なお、粘度平均分子量の定義は、後述の実施例の通りである。
【0035】
ポリカーボネート樹脂(A−1)、(A−2)の、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)は、3.0以上5.0以下の範囲であることが好ましい。さらに、Mw/Mnは、3.0以上4.0以下の範囲がより好ましい。Mw/Mnが過度に小さいと、溶融状態での流動性が増大し成形性が低下する傾向にある。一方、Mw/Mnが過度に大きいと、溶融粘度が増大し成形困難となる傾向がある。
【0036】
本発明においては、ポリカーボネート樹脂(A−1)は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの溶融重合法により得られたものであることが好ましい。また、ポリカーボネート樹脂(A−1)の末端ヒドロキシ基量は、熱安定性、加水分解安定性、色調等の点から、100質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは200質量ppm以上、さらに好ましくは400質量ppm以上、最も好ましくは500質量ppm以上である。但し、通常1,500質量ppm以下、好ましくは1,300質量ppm以下、さらに好ましくは1,200質量ppm以下、最も好ましくは1,000質量ppm以下である。ポリカーボネート樹脂(A−1)の末端ヒドロキシ基量が過度に小さいと、成形時の初期色相が悪化する傾向がある。末端ヒドロキシ基量が過度に大きいと、滞留熱安定性や耐湿熱性が低下する傾向がある。
【0037】
<ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法>
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)を製造する方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融重合法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
以下、これらの方法のうち特に好適なものについて、具体的に説明する。
【0038】
・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂(A)を界面重合法で製造する場合について説明する。
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、前記式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させてもよい。
【0039】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0040】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、なかでも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、なかでも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、なかでも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0041】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族第三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0042】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、なかでも芳香族フェノールが好ましい。
このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−オキシン安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0043】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0044】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0045】
・溶融重合法
次に、ポリカーボネート樹脂(A)を溶融重合法(溶融エステル交換法)で製造する場合について説明する。溶融重合交換法では、例えば、式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応を行う。
【0046】
芳香族ジヒドロキシ化合物は、それぞれ前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネートが挙げられる。なかでも、ジアリールカーボネートが好ましく、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0047】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、なかでも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端ヒドロキシ基量を好適な範囲に調整できる。
【0048】
ポリカーボネート樹脂では、その末端ヒドロキシ基量が、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端ヒドロキシ基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率、エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端ヒドロキシ基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0049】
炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端ヒドロキシ基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0050】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0051】
溶融重合法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下(267Pa以下)の減圧条件である。具体的操作としては、この範囲の条件で、ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0052】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0053】
溶融重合法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いても良い。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1質量ppm以上であり、また、通常100質量ppm以下、好ましくは20質量ppm以下である。
【0054】
[リン系安定剤(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、融点が200℃以上のリン系安定剤(B)を含有する。リン系安定剤(B)の融点が200℃以上であると、リン系安定剤(B)自身の熱安定性が高くなるため、変質して安定化の効果を失ったり、リン系安定剤(B)自身が着色したりすることが抑制されるため、このような融点が200℃以上のリン系安定剤(B)を含有することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の色調、及び(湿)熱安定性を、後記する実施例にて示すように大きく向上させることが可能となる。リン系安定剤(B)の融点は、好ましくは210℃以上であり、より好ましくは220℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは270℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは245℃以下、特には240℃以下であり、235℃以下が最も好ましい。
リン系安定剤(B)は融点が200℃以上であればよく、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等のいずれであってもよいが、特には、ホスファイト、ホスホナイト等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0055】
好ましいリン系安定剤(B)としては、以下の一般式(2)で表されるホスファイト系安定剤が挙げられる。
【化12】
(一般式(2)中、R
5及びR
6はそれぞれ独立にアリール基を示す。)
【0056】
R
5及びR
6のアリール基は、以下の一般式(2a)及び(2b)で表されるアリール基であることが好ましい。
【0057】
【化13】
(式(2a)中、R
7及びR
8は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基を表す。)
【0059】
上記式(2a)中、R
7及びR
8は、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であるが、好ましくは炭素数2〜8のアルキルであり、更に好ましくは3〜6のアルキル基であり、ブチル基が好ましい。R
5及びR
6が一般式(2a)で表される亜リン酸エステルとしては、R
7及びR
8がtert−ブチル基である、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく挙げられる。
【0060】
上記式(2b)中、R
9、R
10、R
11及びR
12は、各々独立して水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜4のアルキル基を示し、中でも、置換若しくは無置換の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。R
13、R
14は、各々独立して水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜4のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基又はアラルキル基を示し、中でも、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。R
5及びR
6が一般式(2b)で表されるアリール基である亜リン酸エステルとしては、例えば、R
5及びR
6が下記式(2c)で表される、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく挙げられる。
【0062】
本発明においては、前記式(2c)のホスファイト系安定剤を用いることが、熱安定性、湿熱安定性、色相の点から最も好ましい。
【0063】
リン系安定剤(B)は、1種が含有されていてもよく、2種類以上を混合して含有することができるが、リン系安定剤(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.001〜1質量部であって、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上であり、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.4質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下、特には0.2質量部以下である。0.001質量部未満では熱安定剤としての効果が不十分であり、成形時の分子量の低下や色相悪化、特に高温度下、高湿熱下での黄変が起こりやすく、また1質量部を超えると、分子量の低下、色相悪化が更に起こりやすくなる。
【0064】
[その他の添加剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、上記したリン系安定剤(B)以外の安定剤、ヒンダードフェノール系安定剤、難燃剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。中でも、ヒンダードフェノール系安定剤をリン系安定剤(B)と併用することにより、熱安定性、湿熱安定性、色相が良好となる傾向にあり好ましい。
【0065】
[ヒンダードフェノール系安定剤(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記したように、ヒンダードフェノール系安定剤を含むことが好ましい。その理由は、以下の通りである。
一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)は、ベンジルラジカルとなりやすく、このことが酸化劣化、熱安定性低下につながっていると推定される。本発明のリン系安定剤(B)は、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)に発生したベンジルラジカルから変色物質への変質を抑制する効果があり、ヒンダードフェノール系安定剤(C)は、ベンジルラジカルを捕捉し、安定化する効果があると推定される。従って、本発明の特定の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)の場合に、リン系安定剤(B)とヒンダードフェノール系安定剤(C)とを併用することにより、ベンジルラジカルから変色物質への変質とベンジルラジカルの捕捉安定化との両方を効率的に抑制することが可能となり、熱安定性、湿熱安定性及び色相により優れるポリカーボネート樹脂組成物とすることがより容易となる。
そして、本発明のリン系安定剤(B)とヒンダードフェノール系安定剤(C)を併用することによる上記の相乗効果は、リン系安定剤(B)が前記一般式(2)で表されるホスファイト系安定剤である場合に顕著となり、中でも、前記一般式(2)におけるR
5及びR
6が前記一般式(2b)で表される化合物である場合、特に、R
5及びR
6が前記一般式(2c)で表される化合物である場合により顕著となることが、本発明者の検討で初めて明らかとなった。
【0066】
ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0067】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製(商品名、以下同じ)「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
なお、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0068】
ヒンダードフェノール系安定剤(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。含有量が0.01質量部未満の場合は、熱安定性、湿熱安定性、色相が悪化する場合があり、含有量が1質量部を超える場合は、成形時にガスが発生して成形品の外観不良が発生する場合があり好ましくない。
【0069】
・難燃剤
難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、金属塩系難燃剤、無機フィラー系難燃剤が挙げられるが、これらの中では、金属塩系難燃剤が好ましく、有機金属塩化合物がより好ましく、有機スルホン酸金属塩化合物が特に好ましい。有機スルホン酸金属塩化合物を選択することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の透明性や機械物性、熱物性が良好なものになる。
このような、有機スルホン酸金属塩化合物の中では、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム等の含フッ素脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩や、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム等の芳香族スルホン酸アルカリ金属塩を好適に用いることができる。
【0070】
難燃剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。難燃剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、難燃性の改良効果が不十分となる可能性があり、難燃剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、透明性や機械物性、熱物性の低下を招く可能性がある。
さらに、難燃剤に金属塩化合物を選択する場合には、通常0.05質量部以上、1質量部以下とすることが特に好ましい。
【0071】
・離型剤
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0072】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0073】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族又は脂環式飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。
【0074】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0075】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0076】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
【0077】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0078】
・紫外線吸収剤
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0079】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等がこのましく挙げられる。
【0080】
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−n−ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が好ましく挙げられる。
【0081】
サリシレート化合物の具体例としては、例えば、フェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレート等が好ましく挙げられる。
シアノアクリレート化合物の具体例としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が好ましく挙げられる。
トリアジン化合物としては、例えば1,3,5−トリアジン骨格を有する化合物等が挙げられる。
【0082】
オギザニリド化合物の具体例としては、例えば、2−エトキシ−2’−エチルオキザリニックアシッドビスアリニド等が好ましく挙げられる。
【0083】
マロン酸エステル化合物としては、2−(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく挙げられ、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。
【0084】
紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0085】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、ポリカーボネート樹脂(A)及びリン系安定剤(B)、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240〜320℃の範囲である。
【0086】
[成形体]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記したポリカーボネート樹脂組成物をペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して各種の成形体を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して成形体にすることもできる。
【0087】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記したように表面硬度が高く、熱安定性、湿熱安定性、色相、及び機械的強度に優れた樹脂成形体が得られるので、例えば、電気電子機器の筐体またはそのカバー、表示装置用部材または表示装置用カバー、保護具、車載用部品、単層または多層シートとして、特に好適である。
【0088】
電気・電子機器の筐体またはそのカバーとしては、例えば、テレビ、ラジオカセット、ビデオカメラ、オーディオプレーヤー、DVDプレーヤー、多機能携帯、スマートホン、PDA、タブレット型端末、パソコン、電卓、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電気・電子機器の筐体またはカバーが挙げられる。
表示装置用部材としては、例えば、各種表示(ディスプレイ)装置(液晶パネル、タッチパネル)の構成部材等、また表示装置用カバーとしては、これら各種表示装置或いは、多機能携帯、スマートホン、PDA、タブレット型端末、パソコン等々の保護カバーや前面パネル等が、また例えば次世代電力計の表示部のカバー等も挙げられる。
透明保護具としては、例えば、ヘルメット等のフェイスカバー(フェイスガード)や透明シールド等が挙げられる。
また、車載用透明部品としては、例えば、グレージング、樹脂窓、ヘッドランプレンズ、カーナビ(カーオーディオ、カーAV等)の前面(外側)部材、筐体等、またコンソールボックス、センタークラスター、メータークラスターの前面部材等の自動車内装部品が挙げられる。
さらに、単層または多層の押出成形により単層または多層シートとして、硬度・耐衝撃性・透明性が求められる用途(液晶表示装置部材、透明シート、建材等)に好適である。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0090】
なお、ポリカーボネート樹脂及び得られたポリカーボネート樹脂組成物の物性は、下記の方法により評価した。
(1)粘度平均分子量(Mv)
ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、溶液とした。該溶液を用い、ウベローデ粘度管により20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10
−4Mv
0.83
【0091】
(2)末端ヒドロキシ基量
ポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシ基量は、四塩化チタン/酢酸法(Makromol.Chem.88,215(1965)参照)に準拠し、比色定量を行うことにより測定した。
【0092】
(3)ポリカーボネート樹脂及び樹脂組成物の鉛筆硬度
下記の方法で得られたポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート樹脂組成物を、100℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製J55AD−60H)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度70℃の条件下にて、厚み3mm、縦60mm、横60mmのポリカーボネート樹脂のプレート(成形品)又はポリカーボネート樹脂組成物のプレート(成形品)を射出成形した。この成形品について、JIS K5600−5−4(1999年)に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、1,000g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
【0093】
(4)ポリカーボネート樹脂組成物のイエローインデックス(YI)
ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを、100℃で5時間以上乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J55AD−60H」)を用意し、シリンダー温度270℃、金型温度70℃、成形サイクル35秒の条件で、厚さ1.0mmの部分と、厚さ2.0mmの部分と、厚さ3.0mmの部分とを有する3段プレートを射出成形した。得られた3段プレートのうち厚さ3.0mmの部分について、JIS K7105(1981年)に準拠し、分光色差計(日本電色工業社製SE2000)を使用し、C光源透過法にてイエローインデックス(YI)値を測定した。
【0094】
(5)滞留熱安定性
滞留熱安定性は、ポリカーボネート樹脂組成物プレートの色相変化(ΔYI)にて評価した。
上記(4)の3段プレートの射出成形の際、射出成形機のシリンダー温度を300℃とし、シリンダー内に10分間保持し滞留させた後の3段プレートも作成した。上記(4)で得た270℃通常成形の3段プレートと、300℃で滞留成形して得た3段プレートのYI値の差を、下記式に基づき、ΔYIとして求めた。
ΔYI=(滞留成形時のYI値−通常成形時のYI値)
【0095】
(6)耐熱性
耐熱性は、上記(4)で得た3段プレートを、温度100℃に設定した熱風オーブンで100時間保持する熱処理を実施し、熱処理前後の3段プレートのYI値の差を、下記式に基づき、ΔYIとして求め、耐熱性の指標とした。
ΔYI=(熱処理後のYI値−熱処理前のYI値)
(7)耐湿熱性
耐湿熱性は、上記(4)で得た3段プレートを、温度85℃、相対湿度95%の環境下で100時間保持する湿熱処理を実施し、湿熱処理前後の3段プレートのYI値の差を、下記式に基づき、ΔYIとして求め、耐湿熱性の指標とした。
ΔYI=(湿熱処理後のYI値−湿熱処理前のYI値)
【0096】
以下の実施例及び比較例で使用した原料は、下記表1の通りである。
なお、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂としては、以下の製造例1で製造したポリカーボネート樹脂(A−1)を使用した。
【0097】
<製造例1:ポリカーボネート樹脂(A−1)の製造>
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BPC」と記す。)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.79モル(5.74kg)を、撹拌機及び溜出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(Cs
2CO
3)を、BPC1モルに対し1.5×10
−6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを溜出させた。
【0098】
次に、反応器内を60分かけて温度を284℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の攪拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は289℃、攪拌動力は1.00kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を2軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp−トルエンスルホン酸ブチルを2軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を2軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してカーボネート樹脂のペレットを得た。
【0099】
得られたポリカーボネート樹脂(A−1)の物性は以下の通りであった。
粘度平均分子量(Mv):26,000
末端ヒドロキシ基量:850質量ppm
鉛筆硬度:2H
【0100】
【表1】
【0101】
(実施例1〜
2、4−5
、参考例3、比較例1〜4)
[樹脂組成物ペレットの製造]
上記した各成分を、表2に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、スクリュー径40mmのベント付単軸押出機(日本製鋼所社製「TEX35SS」)により、シリンダー温度260℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0102】
得られたペレットを使用して、前記した各種の測定評価を行った。
結果を以下の表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
表2から明らかなように、実施例1〜5のように本発明で規定の特定のポリカーボネート樹脂(A)と特定のリン系安定剤(B)を含有することにより、比較例1〜4に比べて、色相(YI値)、滞留熱安定性、耐熱性及び耐湿熱性が良好であることがわかる。
実施例1と3との対比から、リン系安定剤(B2)よりもリン系安定剤(B1)を用いる方が、耐湿熱性により優れることがわかる。
また、合計安定剤量が同じであっても、実施例5のように、本発明のリン系安定剤(B)のみを含有するよりも、実施例1のように、本発明のリン系安定剤(B)とヒンダードフェノール系安定剤(C)とを組み合わせて用いる方が、初期色相及び滞留熱安定性により優れることがわかる。