特許第6408639号(P6408639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6408639リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408639
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20181004BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20181004BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/36 C
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 B
   H01M4/36 E
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-85325(P2017-85325)
(22)【出願日】2017年4月24日
(62)【分割の表示】特願2014-82713(P2014-82713)の分割
【原出願日】2014年4月14日
(65)【公開番号】特開2017-126583(P2017-126583A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2017年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩一朗
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−188872(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/123601(WO,A1)
【文献】 特開2013−171629(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/086273(WO,A1)
【文献】 Dong Jin Lee et al.,Nitrogen-doped carbon coating for a high-performance SiO anode in lithium-ion batteries,Electrochem Commun,2013年 9月,Vol.34,p.98-101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/60
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素を含むリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な珪素系活物質粒子を含むリチウムイオン二次電池用負極材であって、
前記珪素系活物質粒子が、窒素を100ppm以上1,700ppm以下の範囲で含有するものであり、その表面が炭素被膜で被覆された炭素被覆粒子であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項2】
前記珪素系活物質粒子が、珪素粒子、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素粒子のいずれか、又はこれらのうちの2種以上の混合物であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
請求項に記載のリチウムイオン二次電池用負極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池が強く要望されている。
【0003】
従来、この種の二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にV、Si、B、Zr、Sn等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(例えば、特許文献1,2参照)、溶融急冷した金属酸化物を負極材として適用する方法(例えば、特許文献3参照)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(例えば、特許文献4参照)、負極材料にSiO及びGeOを用いる方法(例えば、特許文献5参照)等が知られている。
【0004】
また、負極材に導電性を付与することを目的として、SiOを黒鉛とメカニカルアロイング後に炭化処理する方法(例えば、特許文献6参照)、珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(例えば、特許文献7参照)、酸化珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(例えば、特許文献8参照)がある。
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、充放電容量が上がり、エネルギー密度が高くなるものの、サイクル性が不十分であったり、市場の要求特性には未だ不十分であったりし、必ずしも満足でき得るものではなく、更なるエネルギー密度の向上が望まれていた。
【0006】
特に、特許文献4では、酸化珪素をリチウムイオン二次電池用負極材として用い、高容量の電極を得ているが、本発明者が知る限りにおいては、未だ初回充放電時における不可逆容量が大きかったり、サイクル性が実用レベルに達していなかったり等の問題があり、改良する余地がある。
【0007】
また、負極材に導電性を付与した技術についても、特許文献6では固体と固体の融着であるため均一な炭素被膜が形成されず、導電性が不十分であるといった問題がある。
そして、特許文献7の方法においては、均一な炭素被膜の形成が可能となるものの、Siを負極材として用いているため、リチウムイオンの吸脱着時の膨張・収縮が余りにも大きすぎて、結果として実用に耐えられず、サイクル性が低下するためにこれを防止するべく充電量の制限を設けなくてはならない。特許文献8の方法においては、サイクル性の向上は確認されるものの、微細な珪素結晶の析出、炭素被覆の構造及び基材との融合が不十分であることより、充放電のサイクル数を重ねると徐々に容量が低下し、一定回数後に急激に容量が低下するという現象があり、二次電池用としてはまだ不十分であるといった問題があった。以上のことから、酸化珪素系の高い電池容量と低い体積膨張率の利点を維持しつつ、初回充放電効率が高く、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用として有効な負極材とその製造方法の開発が待たれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−174818号公報
【特許文献2】特開平6−60867号公報
【特許文献3】特開平10−294112号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特開平11−102705号公報
【特許文献6】特開2000−243396号公報
【特許文献7】特開2000−215887号公報
【特許文献8】特開2002−42806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、珪素を含む材料、例えば酸化珪素系の材料の低い体積膨張率の利点を維持しつつ、高容量でサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池負極用として好適な負極材、これを用いた負極及びリチウムイオン二次電池、更には負極材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によれば、珪素を含むリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な珪素系活物質粒子を含むリチウムイオン二次電池用負極材であって、前記珪素系活物質粒子が、窒素を100ppm以上50,000ppm以下の範囲で含有するものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材を提供する。
【0011】
上記範囲内で窒素を含有する珪素系活物質粒子を含んだリチウムイオン二次電池用負極材であれば、高容量かつ充放電効率を損なうことなくサイクル特性に優れたものとなる。また、珪素系活物質粒子が含有する窒素が100ppmより少ないとサイクル特性の向上効果が期待できず、50,000ppmより大きくなると電池容量が低下する恐れがある。
【0012】
このとき、前記珪素系活物質粒子が、珪素粒子、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素粒子のいずれか、又はこれらのうちの2種以上の混合物であることが好ましい。
これらを珪素系活物質粒子として使用すれば、より初回充放電効率が高く、高容量でサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材を製造することができる。
【0013】
またこのとき、前記珪素系活物質粒子は、その表面が炭素被膜で被覆された炭素被覆粒子であることが好ましい。
表面が炭素被膜により被覆された珪素系活物質粒子であれば、導電性に優れ、より良好な電池特性を得ることができるリチウムイオン二次電池用負極材となる。
【0014】
このとき、前記炭素被覆粒子が、前記珪素系活物質粒子に対して、熱分解して炭素を生成し得る有機物ガス雰囲気中及び/又は蒸気雰囲気中で、600〜1,200℃の温度範囲で炭素を化学蒸着することで、前記珪素系活物質粒子の表面に前記炭素被膜を形成したものであることが好ましい。
このような雰囲気下及び温度範囲で炭素被膜を形成すれば、珪素系活物質粒子の珪素結晶の肥大化を抑制できるため、充電時の珪素系活物質の粒子の膨張を抑制できる。その結果、負極材としての特性、特にはサイクル特性をより確実に向上させることができる。
【0015】
またこのとき、前記熱分解して炭素を生成し得る有機物ガス及び蒸気の原料が、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油及びナフサ分解タール油から選択される1種以上であることが好ましい。
これらのような原料を熱分解することにより形成した炭素被膜を有する珪素系活物質粒子であれば、良好な特性を持つ炭素被膜となり、電池容量、初回充放電効率、サイクル特性をより向上させることができるものとなる。
【0016】
また、上記目的を達成するために、本発明によれば、上記のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極を提供する。
このようなものであれば、電池容量、初回充放電効率、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極となる。
【0017】
また、上記目的を達成するために、本発明によれば、上記のリチウムイオン二次電池用負極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する
このようなものであれば、電池容量、初回充放電効率、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池となる。
【0018】
また、上記目的を達成するために、本発明によれば、珪素を含むリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な珪素系活物質粒子を含むリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法であって、前記珪素系活物質粒子に、加熱装置内において窒素源を供給しながら加熱することで、珪素系活物質粒子に窒素を含有させる窒素導入工程を有し、該窒素導入工程において、前記加熱装置内の温度及び窒素源の通気量を調整することで前記珪素系活物質粒子における窒素含有量を100ppm以上50,000ppm以下の範囲に制御することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供する。
【0019】
このように、リチウムイオン二次電池用負極材中の珪素系活物質における窒素含有量を上記の範囲に制御すれば、高容量で充放電効率を損なうことなくサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材を得ることが可能となる。また、本発明の製造方法は、特別複雑なものではなく簡便であり、工業的規模の生産にも十分耐え得るものである。
【0020】
このとき、前記窒素導入工程において、窒素ガス雰囲気下、前記加熱装置内の温度を600〜1,200℃の範囲で調整することが好ましい。
このようにすれば、窒素含有量を100ppm以上50,000ppm以下の範囲に容易に制御することができる。
【0021】
またこのとき、前記窒素源として、窒素ガス、アンモニア、トリメチルアミン、又はトリエチルアミンを供給することが好ましい。
本発明において、これらのようなものを窒素源とすることが好適である。
【0022】
このとき、前記窒素導入工程において、窒素源と共に炭素源を前記加熱装置内に通気することで、前記珪素系活物質粒子に窒素を含有させると共に、前記珪素系活物質粒子の表面に炭素被膜を形成することができる。
このようにすれば、珪素系活物質粒子における窒素含有量の制御と同時に、珪素系活物質粒子表面に導電性を有する炭素被膜を形成でき、簡便に高容量でサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材を得ることが可能となる。
【0023】
またこのとき、前記炭素源として、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油及びナフサ分解タール油から1種以上選択して用いることが好ましい。
【0024】
このような炭素源を熱分解することにより炭素被膜を形成すれば、良好な特性を持つ炭素被膜を形成でき、より優れた電池容量、初回充放電効率、サイクル特性を持つリチウムイオン二次電池用負極材を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、窒素含有量が100ppm以上50,000ppm以下である珪素系活物質をリチウムイオン二次電池用負極材に適用することで、高容量でかつサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。また、その製造方法についても特別複雑なものではなく簡便であり、工業的規模の生産にも十分耐え得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[リチウムイオン二次電池用負極材及びその製造方法]
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、珪素を含み、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な珪素系活物質粒子であって、窒素含有量が100ppm以上50,000ppm以下であることを特徴とする珪素系活物質粒子を含むものである。尚、珪素系活物質粒子の窒素含有量は、例えば熱伝導度法等により測定することができる。
【0027】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、珪素系活物質粒子に、加熱装置内において窒素源を供給しながら加熱することで、珪素系活物質粒子に窒素を含有させる窒素導入工程を有する。そして、この窒素導入工程において、加熱装置内の温度及び窒素源の通気量を調整することで珪素系活物質粒子における窒素含有量を100ppm以上50,000ppm以下の範囲に制御することを特徴とする製造方法である。
【0028】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法において、まず、珪素を含むリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な珪素系活物質粒子を用意する。
【0029】
珪素を含むリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な珪素系活物質粒子(以下、珪素を含む粒子と表記する場合がある。)としては、珪素粒子、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素粒子のいずれか、又はこれらのうちの2種以上の混合物を用意することが好ましい。
これらを使用することで、より初回充放電効率が高く、高容量でかつサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材が得られる。
【0030】
また、本発明における酸化珪素とは、非晶質の珪素酸化物の総称であり、不均化前の酸化珪素は、一般式SiO(0.5≦x≦1.6)で表される。xは0.8≦x<1.6が好ましく、0.8≦x<1.3がより好ましい。この酸化珪素は、例えば、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得ることができる。
【0031】
珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子は、例えば、珪素の微粒子を珪素系化合物と混合したものを焼成する方法や、一般式SiOで表される不均化前の酸化珪素粒子を、アルゴン等の不活性な非酸化性雰囲気中、400℃以上、好適には800〜1,100℃の温度で熱処理し、不均化反応を行う方法で得ることができる。特に後者の方法で得た材料は、珪素の微結晶が均一に分散されるため好適である。上記のような不均化反応により、珪素ナノ粒子のサイズを1〜100nmとすることができる。なお、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子中の酸化珪素については、二酸化珪素であることが望ましい。なお、透過電子顕微鏡によって珪素のナノ粒子(結晶)が無定形の酸化珪素に分散していることを確認することができる。
【0032】
珪素を含む粒子の物性は、目的とする複合粒子により適宜選定することができる。例えば、平均粒径は0.1〜50μmが好ましく、下限は0.2μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。上限は30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。なお、本発明における平均粒径とは、レーザー回折法による粒度分布測定における体積平均粒径で表すものである。
【0033】
珪素を含む粒子のBET比表面積は、0.5〜100m/gが好ましく、1〜20m/gがより好ましい。BET比表面積が0.5m/g以上であれば、電極に塗布した際の接着性が低下して電池特性が低下するおそれがない。また、100m/g以下であれば、粒子表面の二酸化珪素の割合が大きくなり、リチウムイオン二次電池用負極材として用いた際に電池容量が低下するおそれの無いものとすることができる。
【0034】
本発明の製造方法では、用意した珪素系活物質粒子に導電性を付与し、電池特性の向上を図る以下のような工程を有していても良い。
【0035】
珪素系活物質粒子に導電性を付与し、電池特性の向上を図る方法として、黒鉛等の導電性のある粒子と混合する方法、上記複合粒子の表面を炭素被膜で被覆する方法、及びその両方を組み合わせる方法が挙げられる。
中でも、珪素系活物質粒子は、その表面が炭素被膜で被覆された炭素被覆粒子であることが特に好ましい。炭素被膜で被覆する方法としては、化学蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)する方法が好適である。
このように、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材における珪素系活物質は表面が炭素被膜で被覆された炭素被覆粒子であって良い。
【0036】
化学蒸着(CVD)の方法としては、熱分解して炭素を生成し得る有機物ガス雰囲気中及び/又は蒸気雰囲気中で、600〜1,200℃の温度範囲で炭素を化学蒸着することで、珪素系活物質粒子の表面に前記炭素被膜を形成させる方法が好ましい。さらに、より好ましくは、900〜1,100℃の温度範囲で炭素を化学蒸着することが望ましい。
【0037】
このような雰囲気下及び温度範囲で炭素被膜を形成すれば、珪素系活物質粒子の珪素結晶の肥大化を抑制できるため、充電時の珪素系活物質の粒子の膨張を抑制できる。その結果、負極材としての特性、特にはサイクル特性をより確実に向上させることができる。
【0038】
化学蒸着(CVD)は、常圧、減圧下共に適用可能であり、減圧下としては、50〜30,000Paの減圧下が挙げられる。また、炭素被膜の形成工程に使用する加熱装置は、バッチ式炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルンといった連続炉、流動層等の一般的に知られた加熱装置が使用可能である。
【0039】
化学蒸着による炭素被膜の形成には、下記のような様々な有機物がその炭素源として挙げられるが、熱分解温度や蒸着速度、また蒸着後に形成される炭素被膜の特性等は、用いる物質によって大きく異なる場合がある。蒸着速度が大きい物質は表面の炭素被膜の均一性が十分でない場合が多く、反面分解に高温を要する場合、高温での蒸着時に、被覆される粒子中の珪素結晶が大きく成長し過ぎて、放電効率やサイクル特性の低下を招くおそれがある。
【0040】
熱分解して炭素を生成し得る有機物ガス及び蒸気の原料としては、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環〜3環の芳香族炭化水素、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油及びナフサ分解タール油等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0041】
炭素被膜の被覆量は、炭素被覆した被覆粒子全体に対して0.3〜40質量%が好ましく、1.0〜30質量%がより好ましい。被覆される粒子にもよるが、炭素被覆量を0.3質量%以上とすることで、概ね十分な導電性を維持することができ、非水電解質二次電池の負極とした際のサイクル性の向上を確実に達成することができる。また、炭素被覆量が40質量%以下であれば、それ以上の効果の向上が見られず、負極材料に占める炭素の割合が多くなって、リチウムイオン二次電池用負極材として用いた場合に充放電容量が低下するような事態が発生する可能性を、極力低くすることができる。
【0042】
また、本発明の製造方法は、珪素系活物質粒子に窒素を100ppm以上50,000ppm以下の範囲で含有させる窒素導入工程を有する。
【0043】
本発明のリチウムイオン二次電池に含まれる珪素系活物質粒子の窒素含有量は、100ppm以上50,000ppm以下である。好ましくは100ppm以上10,000ppm以下、更に好ましくは100ppm以上5,000以下が望ましい。
窒素含有量が100ppmより少ないとサイクル特性向上効果が期待できず、50,000ppmを超えると電池容量が低下する恐れがある。尚、珪素系活物質粒子中の窒素含有量は、熱伝導度法などで測定可能である。
【0044】
また、珪素系活物質粒子に窒素を含有させるには、珪素系活物質粒子を加熱装置内(反応炉内)入れ、窒素源を加熱装置内に通気しながら加熱することで簡便に窒素を含有させることができる。この際に、加熱装置内の温度(反応温度)や窒素源の通気量によって、珪素系活物質粒子の窒素含有量を好適に制御可能である。
【0045】
このように、本発明の製造方法では加熱装置内の温度及び窒素源の通気量を調整することで珪素系活物質粒子における窒素含有量を100ppm以上50,000ppm以下の範囲に制御する。
【0046】
そしてこのように制御するためには、窒素雰囲気下、加熱装置内の温度を600〜1,200℃の範囲で調整することが好ましい。
このようにすれば、容易に窒素含有量を100ppm以上50,000ppm以下の範囲に制御することができる。
【0047】
また、窒素源としては、窒素ガス、アンモニア、トリメチルアミン、又はトリエチルアミンといったアルキルアミンを使用可能であり、この中でも特に窒素ガスを使用することがより好ましい。
本発明において、これらのようなものを窒素源とすることが好適である。
【0048】
また本発明において、この窒素導入工程で、窒素源と共に炭素源を加熱装置内に通気することで、珪素系活物質粒子に窒素を含有させると共に、珪素系活物質粒子の表面に炭素被膜を形成することが好ましい。
このようにすることで、上記で説明した珪素系活物質粒子に導電性を付与し、電池特性の向上を図るために炭素被膜を形成する工程を窒素導入工程と同時に行うことができるため、製造方法が簡便となり生産性が飛躍的に向上する。
以上のようにして、本発明の製造方法により、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を製造することができる。
【0049】
また本発明は、上記の珪素系活物質粒子をリチウムイオン二次電池用負極材(負極活物質)に用いるものであり、本発明で得られたリチウムイオン二次電池用負極材を用いて、負極を作製し、更にリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0050】
[負極]
上記の本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を用いて負極を作製する場合、さらにカーボンや黒鉛等の導電剤を負極材に添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよい。具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粒子や金属繊維又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粒子、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。
【0051】
負極(成型体)の調製方法としては、一例として下記のような方法が挙げられる。
上記の負極材と、必要に応じて導電剤と、ポリイミド樹脂等の結着剤等の他の添加剤とに、N−メチルピロリドン又は水等の溶剤を混練してペースト状の合剤とし、この合剤を集電体のシートに塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。
なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0052】
[リチウムイオン二次電池]
リチウムイオン二次電池は、少なくとも、正極と、負極と、リチウムイオン導電性の非水電解質とを有するリチウムイオン二次電池であって、上記負極に、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材が用いられたものである。本発明のリチウムイオン二次電池は、上記窒素を100ppm以上50,000ppm以下の範囲で含有する珪素系活物質粒子を含む負極材を用いた負極からなる点に特徴を有し、その他の正極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は公知のものを使用することができ、特に限定されない。上述のように、本発明の負極材は、リチウムイオン二次電池用の負極材として用いた場合の電池特性(充放電容量及びサイクル特性)が良好で、特にサイクル耐久性に優れたものである。
【0053】
正極活物質としてはLiCoO、LiNiO、LiMn、V、MnO、TiS、MoS等の遷移金属の酸化物、リチウム、及びカルコゲン化合物等が用いられる。
【0054】
電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられる。非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
ジョークラッシャ―(前川工業所製)で粗砕したSiO(x=1.0)をボールミル((株)マキノ製)で4時間粉砕し、メジアン径D50が4.5μmのSiO粒子を得た。
このSiO粒子を粉体層厚みが10mmとなるようトレイに敷き、バッチ式加熱炉内に仕込んだ。200℃/hrの昇温速度で炉内を1,000℃に昇温し、炉内の温度が1,000℃に達した後、炉内にメタン0.2L/minと窒素0.5L/minの予混合ガスを5時間通気した。ガス停止した後、炉内を降温・冷却し、106gの黒色の珪素系活物質粒子を得た。
得られた珪素系活物質粒子は、粒子全体に対する炭素被覆量が4.8質量%である導電性粒子であった。
また、酸素窒素分析装置(堀場製作所製 EMGA−930)を用いて熱伝導度法により、この珪素系活物質粒子の窒素含有量を測定したところ、窒素含有量は1700ppmであった。
【0057】
<電池評価>
次に、以下の方法で、得られた粒子を負極活物質として用いた電池評価を行った。
まず、得られた負極材45質量%と人造黒鉛(平均粒径10μm)45質量%、ポリイミド10質量%を混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとした。
このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を350℃で1時間真空乾燥させた。その後、2cmに打ち抜き、負極とした。
【0058】
そして、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0059】
作製したリチウムイオン二次電池を、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用いて、テストセルの電圧が0Vに達するまで0.5mA/cmの定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が40μA/cmを下回った時点で充電を終了させた。そして放電は0.5mA/cmの定電流で行い、セル電圧が1.4Vに達した時点で放電を終了して、放電容量を求めた。
以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の50サイクル後の充放電試験を行った。
結果を表1に示す。その結果、初回放電容量1,732mAh/g、50サイクル後の容量維持率(サイクル保持率)94%の、高容量でサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0060】
(実施例2)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粉末を、実施例1と同様に炭素被覆処理及び窒素導入処理を行ったが、処理温度を900℃とし、上記メタンと窒素の混合ガスの通気時間は14時間とした。得られた珪素系活物質粒子は、粒子全体に対する炭素被覆量4.8質量%、窒素含有量300ppmの導電性粒子であった。この珪素系活物質粒子を用いて実施例1と同様の方法で負極を作製し、電池評価を行った。
その結果、初回放電容量1,730mAh/g、50サイクル後の容量維持率92%の、高容量でサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0061】
(実施例3)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粉末をロータリーキルン(ノリタケTCF製)に1kg/hrで供給し、キルン内温度1000℃で炭素被覆処理及び窒素導入処理を行った。キルン回転速度は0.5rpm、ガスはメタン5L/min、窒素25L/minの混合ガスを通気した。得られた珪素系活物質粒子は炭素被覆量5.0質量%の導電性粒子で、窒素含有量は1500ppmであった。この珪素系活物質粒子を用いて、実施例1と同様の方法で負極を作製し、電池評価を行った。
その結果、初回放電容量1,758mAh/g、50サイクル後の容量維持率93%の、高容量でサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0062】
(実施例4)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粉末を、実施例1と同様に炭素被覆処理及び窒素導入処理を行った。処理温度、ガス通気時間は実施例1と同様だが、ガス組成をメタン0.2L/minと窒素0.3L/minとした。得られた珪素系活物質粒子は、粒子全体に対する炭素被覆量4.8質量%、窒素含有量100ppmの導電性粒子であった。この珪素系活物質粒子を用いて実施例1と同様の方法で負極を作製し、電池評価を行った。
その結果、初回放電容量1,760mAh/g、50サイクル後の容量維持率90%の、高容量でサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0063】
(実施例5)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粉末を、実施例1と同様に炭素被覆処理及び窒素導入処理を行ったが、処理温度を1050℃とし、ガス通気時間は4時間、また通気ガスをメタン0.1L/minと窒素0.5L/minの予混合ガスとした。得られた珪素系活物質粒子は、粒子全体に対する炭素被覆量5.1質量%、窒素含有量10,000ppmの導電性粒子であった。この珪素系活物質粒子を用いて実施例1と同様の方法で負極を作製し、電池評価を行った。
その結果、初回放電容量1,725mAh/g、50サイクル後の容量維持率90%の、高容量でサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0064】
(実施例6)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粉末を、実施例1と同様に炭素被覆処理及び窒素導入処理を行ったが、処理温度を1100℃とし、ガス通気時間は3時間、また通気ガスをメタン0.1L/minと窒素0.5L/minの予混合ガスとした。得られた珪素系活物質粒子は、粒子全体に対する炭素被覆量5.0質量%、窒素含有量50,000ppmの導電性粒子であった。この珪素系活物質粒子を用いて実施例1と同様の方法で負極を作製し、電池評価を行った。
その結果、初回放電容量1,706mAh/g、50サイクル後の容量維持率91%の、高容量でサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0065】
(比較例1)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粉末を実施例1と同様に炭素被覆処理を行った。但し、このとき通気したガスはメタン0.2L/minとアルゴン0.5L/minの予混合ガスとした。即ち、実施例のように窒素導入処理を行わなかった。
その結果、得られた黒色の珪素系活物質粒子は、珪素系活物質粒子全体に対する炭素被覆量が4.9質量%で、含有する窒素量が100ppm未満(検出下限値以下)の導電性粒子となった。この珪素系活物質粒子を用いて実施例1と同様の方法で負極を作製し、電池評価を行った。
その結果、初回放電容量1740mAh/g、50サイクル後の容量維持率84%となり、実施例と同様に高容量ではあるが、実施例に比べサイクル性に劣るリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0066】
(比較例2)
実施例1と同じSiOx(x=1.0)粉末を実施例3と同様にロータリーキルンを使用して炭素被覆処理を行った。但し通気したガスはメタン5L/min、アルゴン25L/minとした。即ち、実施例のように窒素導入処理を行わなかった。
得られた黒色粒子は、黒色粒子に対する炭素被覆量5.1質量%で窒素含有量100ppm未満(検出下限値以下)の導電性粒子であった。この珪素系活物質粒子を用いて実施例1と同様の方法で負極を作製し、電池評価を行った。
その結果、初回放電容量1751mAh/g、50サイクル後の容量維持率85%となり、実施例と同様に高容量ではあるが、実施例に比べサイクル性に劣るリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0067】
(比較例3)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粉末を、実施例1と同様に炭素被覆処理及び窒素導入処理を行ったが、処理温度を1150℃とし、ガス通気時間は3時間、また通気ガスをメタン0.1L/minと窒素0.5L/minの予混合ガスとした。得られた珪素系活物質粒子は、粒子全体に対する炭素被覆量5.2質量%、窒素含有量55,000ppmの導電性粒子であった。この珪素系活物質粒子を用いて実施例1と同様の方法で負極を作製し、電池評価を行った。
その結果、初回放電容量1670mAh/g、50サイクル後の容量維持率88%となり、実施例に比べ電池容量が低下してしまうことが確認された。
【0068】
表1に、実施例、比較例における実施結果をまとめたもの示す。
【0069】
【表1】
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。