(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く。
【0012】
[真空処理装置の全体構成]
まず、本発明の一実施形態にかかる真空処理装置10の全体構成の一例について、
図1を参照しながら説明する。ここでは、真空処理装置10は、真空処理室11内でプラズマを生成し、プラズマの作用により半導体ウェハ(以下と「ウェハW」ともいう。)をエッチング処理等のプラズマ処理を行う装置である。
【0013】
真空処理装置10は、アルミニウム等からなり、内部を密閉可能な筒状の真空処理室11を有している。真空処理室11は、接地電位に接続されている。真空処理室11の内部には、導電性材料、例えばアルミニウム等から構成された載置台12が設けられている。載置台12は、ウェハWを載置する円柱状の台であり、下部電極を兼ねている。
【0014】
真空処理室11の側壁と載置台12の側面との間には、載置台12の上方のガスを真空処理室11外へ排出する経路となる排気路13が形成されている。排気路13の途中には排気プレート14が配置される。排気プレート14は多数の孔を有する板状部材であり、真空処理室11を上部と下部とに仕切る仕切り板として機能する。排気プレート14によって仕切られた真空処理室11の上部は、プラズマ処理が実行される反応室17である。また、真空処理室11下部の排気室(マニホールド)18には、真空処理室11内のガスを排出する排気管15が接続されている。排気管15には、APC(Adaptive Pressure Control:自動圧力制御)バルブ16が接続されている。排気プレート14は、反応室17にて生成されるプラズマを捕捉又は反射して排気室18への漏洩を防止する。排気管15には、APCバルブ16を介してTMP40(Turbo Molecular Pump)及びドライポンプ41(Dry Pump)が接続され、これらの排気装置は真空処理室11内を真空引きして減圧する。具体的には、ドライポンプ41は真空処理室11内を大気圧から中真空状態(例えば、1.3×10Pa(0.1Torr)以下)まで減圧する。その際、ドライポンプ41と真空処理室11とを繋ぐ配管(バイパスルート)に設けられたバルブ43が開かれ、TMP40とドライポンプ41とを繋ぐ配管に設けられたバルブ42が閉じられる。
【0015】
TMP40は、ドライポンプ41と協働して真空処理室11内を中真空状態より低い圧力である高真空状態(例えば、1.3×10
−3Pa(1.0×10
−5Torr)以下)まで減圧する。その際、バルブ43が閉じられ、バルブ42が開かれる。
【0016】
第1の高周波電源19は、整合器20を介して載置台12に接続され、例えば400kHz〜13.56MHzのバイアス用の高周波電力(以下、「LF」(Low Frequency)とも表記する。)を載置台12に供給する。整合器20は、載置台12からの高周波電力の反射を抑え、バイアス用の高周波電力LFの載置台12への供給効率を最大にする。
【0017】
載置台12の上部には、静電電極板21を内部に有する静電チャック22が配置されている。静電チャック22は下部円板状部材の上に、下部円板状部材より直径の小さい上部円板状部材を重ねた形状を有する。なお、静電チャック22はアルミニウムからなり、上面にはセラミック等が溶射されている。載置台12にウェハWを載置するとき、ウェハWは静電チャック22の上部円板状部材の上に置かれる。
【0018】
静電電極板21には、直流電源23が接続されている。静電電極板21に正の直流電圧(以下、「HV」(High Voltage)とも表記する。)が印加されると、ウェハWの裏面(静電チャック22側の面)に負電位が発生して静電電極板21及びウェハWの裏面の間に電位差が生じる。ウェハWは、この電位差に起因するクーロン力又はジョンソン・ラーベック力により、静電チャック22における上部円板状部材上に静電吸着され、保持される。
【0019】
また、静電チャック22には、ウェハWの周縁部を囲うように、円環状のフォーカスリング24が載置される。フォーカスリング24は、導電性部材、例えば、シリコンからなり、反応室17においてプラズマをウェハWの表面に向けて収束し、エッチング処理の効率を向上させる。
【0020】
また、載置台12の内部には、例えば、円周方向に延在する環状の冷媒室25が設けられる。この冷媒室25には、冷媒用配管26を介してチラーユニットから低温の冷媒、例えば、冷却水やガルデン(登録商標)が循環供給される。該低温の冷媒によって冷却された載置台12は静電チャック22を介してウェハW及びフォーカスリング24を冷却する。
【0021】
静電チャック22における上部円板状部材上のウェハWが吸着する面(吸着面)には、複数の伝熱ガス供給孔27が開口している。これら複数の伝熱ガス供給孔27には、伝熱ガス供給ライン28を介してヘリウム(He)ガス等の伝熱ガスが供給される。伝熱ガスは、伝熱ガス供給孔27を介して静電チャック22の吸着面とウェハWの裏面との間隙に供給される。その間隙に供給された伝熱ガスは、ウェハWの熱を静電チャック22に伝達する。
【0022】
真空処理室11の天井部には、載置台12と対向するようにシャワーヘッド29が配置されている。第2の高周波電源31は、整合器30を介してシャワーヘッド29に接続され、例えば40MHz程度のプラズマ励起用の高周波電力(以下、「HF」(High Frequency)とも表記する。)をシャワーヘッド29に供給する。このようにしてシャワーヘッド29は上部電極としても機能する。なお、整合器30は、シャワーヘッド29からの高周波電力の反射を抑え、プラズマ励起用の高周波電力HFの載置台12への供給効率を最大にする。なお、第2の高周波電源31及び整合器30は設けられなくてもよい。
【0023】
シャワーヘッド29は、多数のガス穴32を有する天井電極板33と、天井電極板33を着脱可能に釣支するクーリングプレート34と、クーリングプレート34を覆う蓋体35とを有する。また、クーリングプレート34の内部にはバッファ室36が設けられ、バッファ室36にはガス導入管37が接続されている。シャワーヘッド29は、ガス導入管37からバッファ室36へ供給されたガスを、多数のガス穴32を介して反応室17内へ供給する。
【0024】
シャワーヘッド29は真空処理室11に対して着脱自在であり、真空処理室11の蓋としても機能する。真空処理室11からシャワーヘッド29を離脱させれば、作業者は真空処理室11の壁面や構成部品に直接触れることができる。これにより、作業者は真空処理室11の壁面や構成部品の表面をクリーニングすることができ、真空処理室11の壁面等に付着した付着物を除去することができる。
【0025】
真空処理装置10では、バイアス用の高周波電力LFが載置台12に印加される。プラズマ励起用の高周波電力HFは印加されてもよいし、印加されなくてもよい。反応室17内に少なくともバイアス用の高周波電力を印加することにより、シャワーヘッド29から供給されたガスからプラズマが生成され、そのプラズマによってウェハWにエッチング等のプラズマ処理が施される。
【0026】
真空処理装置10の各構成部品の動作は、真空処理装置10の全体を制御する制御部50によって制御される。制御部50は、CPU、ROM、RAM等を有し、RAM等に記憶されたプラズマ処理の手順を設定するレシピに従いエッチング処理等のプラズマ処理を制御する。
【0027】
[水分の蒸気圧曲線]
次に、水分の凝固について
図2を参照して説明する。
図2は、水分の蒸気圧曲線を示す図であり、横軸は温度を示し、縦軸は圧力を示す。曲線A及び横軸で囲まれる領域Gにおいて水分は気化し、曲線A及び直線Bで囲まれる領域Lにおいて水分は液化し、曲線A、直線B及び縦軸で囲まれる領域Sにおいて水分は凝固する。
【0028】
真空処理室11内にガスが残留している状態(領域Lにおける(a))からTMP40やドライポンプ41による真空引きが開始され、真空処理室11内のガスが排出されてしまうと、真空処理室11の壁面等に付着した水分は沸騰して気化する(曲線Aにおける(b))。特に、真空処理室11内の圧力低下が急激である場合には、水分は突発的に沸騰する。
【0029】
TMP40やドライポンプ41による真空引きが継続されると、真空処理室11内はさらに低圧になる。このため、水分は沸騰したまま温度が低下する(曲線Aにおける(b)から(c))。そして、温度がほぼ0℃になると(曲線Aにおける(c):水の三重点)、まだ気化していない水分は凝固する。水分が凝固すると水分子間の結合が強固となり、圧力を上げても気化が困難な状態となる。すなわち、凝固した水分は容易に気化することがない。さらに圧力が低下すると、温度は−15℃〜−30℃程度まで低下する(曲線Aにおける(d))。このとき、未だ気化していない水分は凝固することがある。
【0030】
凝固した水分は、長時間に亘って蒸発し続け、また、真空処理室11の壁面等の微小な凹部に凝固していない水分を閉じ込める。このため、凝固した水分の存在は、真空引き時間の短縮を困難にさせる。また、凝固した水分はパーティクルの発生、異常放電、構成部品の腐食等の水分を原因とする不具合を引き起こすことがある。
【0031】
そこで、以下に示すように、本実施形態にかかる真空引き方法では真空処理室11内をドライポンプ41によって真空引きする際、温度が0℃よりも高くなるように真空処理室11内の圧力を制御する。これにより、真空処理室11の壁面等に付着した水分が凝固するのを防止しながら、真空処理室11内の圧力が、メンテナンス直後の大気圧から6.7Pa〜13.3×10
2Pa(5Torr〜10Torr)の減圧状態になるまで降圧する。
【0032】
[真空引き方法]
次に、本実施形態にかかる真空引き方法について
図3及び
図4を参照して説明する。
図3は、本実施形態にかかる真空引き処理の一例を示すフローチャートである。
図4は、本実施形態にかかる真空引きによる真空処理室11内の圧力遷移の一例を示す。
図4において横軸は真空引きを開始(時刻T
0)してからの時間を示し、縦軸は真空処理室11内の圧力を示す。本実施形態にかかる真空引き方法は、真空処理装置10においてエッチング処理が行われた際に真空処理室11内に付着した反応生成物を取り除くために真空処理室11の壁面等をクリーニングした後に実行される。なお、本実施形態にかかる真空引き処理が開始される際、TMP40とドライポンプ41との間に設けられたバルブ42は閉じられている。
【0033】
本実施形態にかかる真空引き方法では、まず、制御部50は、バイパスルートのバルブ43を開くように制御する。これにより、ドライポンプ41と真空処理室11とが連通する。ドライポンプ41は、第1の所定時間、真空処理室11内を真空引きする(ステップS10:第1の工程)。これにより、
図4に示すように、真空処理室11内は真空引きが開始された時刻t
0の大気圧の状態からE1にて示す第1の工程中に所定量減圧される。第1の所定時間としては、例えば、数十秒〜数分であってもよい。
【0034】
ここで、このまま真空引きを継続して急激に減圧すると水分が沸騰したまま温度が低下し、温度がほぼ0℃になるとまだ気化していない水分は凝固してしまう。そこで、
図3の真空引き方法では、制御部50は、第1の所定時間経過後(第1の工程後)、一旦バルブ43を閉じるように制御し、第2の所定時間放置して真空処理室11内の自然の昇圧を促す(ステップS12:第2の工程)。これにより、
図4のM1にて示す第2の工程中にバルブ43等から自然にガスが漏れ、真空処理室11内は徐々に昇圧される。第2の所定時間としては、例えば、数分〜10分程度であってもよい。
【0035】
次に、制御部50は、真空処理室11内の圧力が10Torr(13.3×10
2Pa)以下であるかを判定する(ステップS14)。真空処理室11内の圧力が10Torrよりも高い場合、再び第1の工程(ステップS10)及び第2の工程(ステップS12)を行い、ステップS14にて真空処理室11内の圧力が10Torr以下になるまでステップS10〜S14を繰り返す。
【0036】
次に、ステップS14にて真空処理室11内の圧力が10Torr以下であると判定された場合、制御部50は、バイパスルートのバルブ43を開くように制御する。これにより、ドライポンプ41と真空処理室11とが連通する。ドライポンプ41は、真空処理室11内を真空引きする(ステップS16)。次に、制御部50は、真空処理室11内の圧力が5Torr(6.7Pa)以下であるかを判定する(ステップS18)。真空処理室11内の圧力が5Torrよりも高いと判定された場合、制御部50は、ステップS16に戻り、ドライポンプ41による排気を続ける。これにより、真空処理室11内が減圧される(
図4のE2)。
【0037】
他方、真空処理室11内の圧力が5Torr以下であると判定された場合、制御部50は、バイパスルートのバルブ43を閉じ、バルブ42を開ける。これにより、ドライポンプ41による真空引きにおいてAPCバルブ16の開度の調整によって真空処理室11内の圧力を5Torr〜10Torr(6.7Pa〜13.3×10
2Pa)に維持する(ステップS20:
図4のM2)。これにより、真空処理室11内の圧力は5Torr〜10Torrに維持される。
【0038】
次に、制御部50は、加熱ガスを真空処理室11内に導入する(ステップS22)。加熱ガスとしては、Heガス、Arガス等の不活性ガスが挙げられる。これにより、真空処理室11内の圧力は急激に昇圧される(
図4のP2)。
【0039】
次いで、真空処理室11内が100Torr〜200Torr(1.3×10
4Pa〜2.7×10
4Pa)まで急速に昇圧されると、断熱圧縮によって真空処理室11内の雰囲気温度が上昇する。このため、真空処理室11の壁面等に付着した水分が加熱され、該水分の温度が上昇する。したがって、例えば、真空処理室11内の圧力が5Torr〜10Torrに維持されている間に、その水分の温度が断熱膨張によって三重点の温度近傍まで低下していても、水分の温度が三重点の温度を下回るのを防止することができる。
【0040】
次に、
図3のステップS24にて、制御部50は、ステップS16〜S22をN回繰り返し実行したかを判定する。繰り返し回数Nは、予め定められている。
図4では、繰り返し回数Nは、3である。
【0041】
図3に戻り、ステップS16〜S22をN回繰り返すと、制御部50は、ステップS26に進み、バイパスルートのバルブ43を開き、ドライポンプ41によって真空処理室11内の真空引きを継続する(
図4の時刻t
2〜時刻t
3)。
【0042】
次に、制御部50は、真空処理室11内の圧力が0.1Torr(1.3×10Pa)以下かを判定する(ステップS28)。真空処理室11内の圧力が0.1Torr以下であると判定されると、TMP40を稼働させ、その後(時刻t
3以後)、ドライポンプ41及びTMP40によって真空引きを継続しつつ、クライオポンプを稼働させる(ステップS30)。該クライオポンプは真空処理室11内の水分の分圧を低下させる。次いで、制御部50は、真空処理室11内の圧力が目標圧力1×10
−5Torr(1.3×10
−3Pa)に到達したかを判定する(ステップS32)。制御部50は、真空処理室11内の圧力が目標圧力1×10
−5Torr(1.3×10
−3Pa)に到達したと判定した場合、本処理を終了する(
図4の時刻t
4)。
【0043】
沸騰しながら断熱膨張によって温度が低下する水分が凝固する臨界点である、水分の蒸気圧曲線における三重点(
図2の曲線Aにおける(c))の圧力は4.6Torr(6.1×10
2Pa)である。よって、空処理室11内の圧力を5Torr以上に制御していれば、真空処理室11内の水分は凝固しない。
【0044】
そこで、本実施形態にかかる真空引き方法では、第1の工程と第2の工程とが設けられる。第1の工程では、バイパスルートのバルブ43を開いて真空処理室11内を真空引きする。このとき真空処理室11内の圧力が下がることで真空処理室11内の温度が下がる。真空処理室11内の温度が0℃よりも低くなると真空処理室11内の水分が凝固する。そこで、真空処理室11内の圧力が、水分の蒸気圧曲線における三重点の圧力よりも大きい5Torrになる前に第2の工程が実行される。第2の工程では、バルブ43を閉じて放置する。このとき、バルブ43及びその周辺の機械的加工精度からバルブ43を閉じても真空処理室11は完全には閉塞されない。このため、真空処理室11内の圧力が徐々に上昇し、これに応じて真空処理室11内の温度も徐々に上昇する。
【0045】
このようにして、本実施形態にかかる真空引き方法では、第1の工程と第2の工程とを設け、なだらかに真空引きする。これにより、
図4に示すように段階的にゆっくりと真空処理室11内の圧力を下げることができる。例えば、
図4の時刻t
0〜時刻t
1は、第1の工程と第2の工程とを繰り返し行った結果、真空処理室11内の圧力が三重点の圧力を下回らないようにゆっくりと真空引きが行われたことを示す本実施形態にかかる真空引き方法の提案部分である。このようにして、本実施形態にかかる真空引き方法によれば、真空処理室11内の圧力を徐々に低下させて真空処理室11内の圧力を大気圧から5Torr〜10Torrまで降圧させることができる。その際、真空処理室11内の温度は0℃よりも低下しないようにゆっくりと真空引きが行われる。このため、真空処理室11の壁面等に付着し且つ未だ気化していない水分は凝固しない。よって、真空処理室11の壁面等に付着した水分の気化を継続することができ、これにより、真空処理室11内からの水分の排出を促進することができる。
【0046】
なお、
図4に示すように、第1の工程と第2の工程とを繰り返す時刻t
0〜時刻t
1では、時刻t
1〜時刻t
2で行うP2で示した加熱ガスを導入するパージ処理は行わない。パージ処理により温度が上がりすぎてしまうためである。また、第1の工程と第2の工程とは繰り返し実行してもよく、繰り返さなくてもよい。
(水分の状態)
本実施形態にかかる真空引き方法を実行している間の真空処理室11内の水分の状態について
図5を参照して説明する。
図5の曲線C,Dは、本実施形態にかかる真空引き方法の場合の真空処理室11内の水分量(OH基の発行強度)を示す。
図5の曲線A,Bは、連続的に真空引きする比較例の場合の真空処理室11内の水分量(OH基の発行強度)を示す。
【0047】
曲線Aは、本実施形態にかかる真空引きより速い時間(例えば、30秒)で真空処理室11内の圧力を大気圧から5Torr〜10Torrの間のいずれかの圧力まで降圧させたときの真空処理室11内の水分量をOH基の発行強度で示す。
【0048】
例えば、本実施形態にかかる真空引き方法を実行しているときの真空処理室11内の圧力及び温度の状態について
図6を参照して説明する。
【0049】
図6の(a)の比較例では、ドライポンプ41により連続的に排気し、真空処理室11内の圧力を急激に降圧させている。これに伴い、真空処理室11内の温度が急激に下がる。この結果、排気中に真空処理室11内の最低温度Tminが−15℃程度まで下がってしまうため、真空処理室11内の水分が凝固してしまう。
【0050】
曲線Bは、本実施形態にかかる真空引きより速い75秒で真空処理室11内の圧力を5Torr〜10Torrまで降圧させたときのOH基の発行強度である。曲線A及び曲線Bは、連続的に真空引きをした場合(すなわち、本実施形態の第2の工程がない場合)である。
【0051】
曲線Cは、本実施形態にかかる真空引き方法により30分で真空処理室11内の圧力を5Torr〜10Torrまで降圧させたときのOH基の発行強度で示す。曲線Dは、本実施形態にかかる真空引き方法により60分で真空処理室11内の圧力を5Torr〜10Torrまで降圧させたときのOH基の発行強度で示す。
【0052】
図6の(b)では、曲線Cを得るために、本実施形態にかかる真空引き方法が実行される。
図6の(b)では、第1の工程及び第2の工程を3回繰り返すことで、30分で真空処理室11内の圧力を5Torr〜10Torrまで降圧できる。
【0053】
その際、本実施形態にかかる真空引き方法では、第1の工程と第2の工程との実行により真空処理室11内を一分間に3333Pa〜3359Pa(25.0Torr〜25.2Torr)降圧する。これにより、真空処理室11内の温度は急激に下がらない。この結果、真空引き中に真空処理室11内の最低温度が0℃を下回らず、真空処理室11内の水分が凝固することを防止できる。
【0054】
図5に示すOH基の発行強度によれば、本実施形態にかかる真空引き方法では、比較例の真空引き方法よりも真空処理室11内のOH基は少なくなり、真空処理室11内の水分が少なくなっていることがわかる。曲線C及び曲線Dでは約30分真空引きすれば、ほとんどのOH基はなくなり、真空処理室11内の水の凝固の恐れはなくなる。
【0055】
以上に説明したように、本実施形態の真空引き方法によれば、水分を凝固させないように真空処理室内を所定の圧力まで降圧させることができる。これにより、真空引き中に真空処理室11の壁面等に付着し且つ未だ気化していない水分は凝固しない。よって、真空処理室11の壁面等に付着した水分の気化を継続することができ、これにより、真空処理室11内からの水分の排出を促進し、排気時間の短縮を図ることができる。
【0056】
以上、真空引き方法及び真空処理装置を上記実施形態により説明したが、本発明にかかる真空引き方法及び真空処理装置は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0057】
例えば、本発明にかかる真空引き方法を実行する真空処理装置は、容量結合型プラズマ(CCP:Capacitively Coupled Plasma)装置、誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)、ラジアルラインスロットアンテナを用いたCVD(Chemical Vapor Deposition)装置、ヘリコン波励起型プラズマ(HWP:Helicon Wave Plasma)装置、電子サイクロトロン共鳴プラズマ(ECR:Electron Cyclotron Resonance Plasma)装置等であってもよい。
【0058】
また、本発明にかかる真空処理装置により処理される基板は、ウェハに限られず、例えば、フラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display)用の大型基板、EL素子又は太陽電池用の基板であってもよい。
【0059】
なお、本発明に係る真空処理装置の真空処理室はアルミニウムから形成され、アルミニウムの表面はアルマイト処理されている。真空処理室のアルマイトの膜には多数の空孔が設けられ、その空孔に水分が溜め込まれる。よって、真空処理室の内壁に隣接して所望のパーツが設けられていると、空孔内の水がガスとして排気され難い。つまり、本発明にかかる真空引き方法は、複雑な内部構造の真空処理室の場合により有効になる。