(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複屈折性材料層の厚さをdとし、前記複屈折性材料の少なくとも一つの対象波長の光に対する屈折率異方性をΔnとし、kを1以上の自然数としたとき、リタデーション値Δn・dが、(2k−1)(λ/2−0.2λ)〜(2k−1)(λ/2+0.2λ)の範囲である
請求項1〜3のいずれか1項に記載の画像光投影用スクリーン。
コヒーレント光を発する光源と、前記光源から射出された光束を画像情報に応じて変調して画像光を形成する画像光形成手段と、前記画像光を所定のスクリーン面に向けて拡大投影する投影光学系とを有する画像投影装置と、
透過型スクリーンとを備え、
前記透過型スクリーンが、請求項1〜7のいずれか1項に記載の画像光投影用スクリーンである
ことを特徴とする表示システム。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施形態1.
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の画像光投影用スクリーンの例を示す模式図である。
図1に示す画像光投影用スクリーン10は、基板11と、基板11上に積層された複屈折性材料層12とを備える。
【0026】
基板11は、入射光に対して透明性を有していればよく、例えば樹脂板、樹脂フィルムなど種々の材料を使用できる。なお、ガラスや石英ガラスなどの無機材料を用いると、耐久性の面で好ましい。また、光学的等方性材料(以下、等方性材料という)を用いると、透過光に複屈折性の影響を与えないため好ましい。また、樹脂フィルムであれば価格や薄型化、曲面化などのフレキシブル性の面で好ましい。
【0027】
複屈折性材料層12は、一定厚の複屈折性材料からなる層であって、複屈折性材料の遅相軸方向が、平面視において基板面と平行で厚さ方向に揃った複数の領域を有している。以下、複屈折性材料層12が有する該領域を領域121という場合がある。
【0028】
なお、
図1において、破線は領域121を模式的に表している。また、破線で囲まれた領域内の矢印はその領域内の遅相軸方向を表している。
【0029】
本実施形態において、複屈折性材料層12は、各領域121の最大幅が50μm以下となるように形成されている。なお、領域121の種類数、(平面視における外縁の)形状、遅相軸方向および配置は特に限定されないが、各領域121は、少なくとも、入射光に対して隣り合う複数の領域どうしの遅相軸方向が異なるように配置される。なお、各領域121は領域の境界が明確でなくてもよい。そのような場合には、複屈折性材料層12は、いずれの方向においても50μm以内の間隔で入射光に対する遅相軸方向が45°以上変化するように形成されていればよい。そのように形成されていれば、人間の目の空間解像度である約100μmのビーム径内に2種類以上の出射偏光が含まれるため、スペックルパターンの発生が抑制される。
【0030】
複屈折性材料層12は、例えば、
図2に示すように、液晶(高分子液晶を含む)がランダムに配向される、すなわち平面視において不規則に配置されるものであってもよい。
図2は、偏光顕微鏡観察によるクロスニコル観察で得られた複屈折性材料層12の液晶分子の配向状態の一例を示す図である。
図2の最も暗い部分は、複屈折性材料層12の遅相軸が偏光子透過軸または検光子透過軸に平行な状態を示しており、最も明るい部分は遅相軸が偏光子透過軸または検光子透過軸に対して45°の角度をなす状態を示している。ランダム配向では、液晶分子の配向が平面視において連続して変化するが、そのような場合には、クロスニコル観察等で得られた面内の液晶分子の配向状態を比較したときに光学軸が45°変化する間隔が50μm以内であればよい。そのような場合には、当該領域すなわち光学軸が45°変化するまでに要した領域において、最大幅が50μm以下で異なる遅相軸方向の領域121が隣り合っている(境界がある)とみなす。
【0031】
なお、各領域121のサイズを小さくすると、または遅相軸が45°変化するまでの間隔を短くすると、入射光に対する複屈折性材料層12の散乱能を向上できるので好ましい。人間がスクリーン上に投影される画像光を認識できるためには、スクリーンが、入射する光に対して一定レベルの散乱能を有している必要がある。領域121のサイズが小さければ、散乱角(回折角)を大きくできるため好ましい。散乱能という観点から、例えば、領域121の最大幅は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0032】
また、光学軸の分布としては、面内で遅相軸方向が0°〜180°の範囲でほぼ全方向に分布しているとより好ましい。そのようにすると、入射光の偏光方向が限定されずにスペックルパターンの発生を抑制できるため好ましい。すなわち、本実施形態の画像光投影用スクリーンに、どの方向の直線偏光の(画像)光が入射しても、入射光の直線偏光方向のいずれかは複屈折性材料層12のいずれかの領域の遅相軸方向と一致し、入射光の直線偏光方向のいずれかは複屈折性材料層12のいずれかの領域の遅相軸方向に対して45°ずれることになり、入射光の偏光方向の制御が不要になる。
【0033】
このようなランダム配向の複屈折性材料層12は、例えば、基板11の複屈折性材料層12と接する側の面に配向膜を設けないことによって形成できる。なお、配向膜を設けない代わりに、複屈折性材料層12と接する側の基板11の表面に対して、シランカップリング剤などによる表面処理を施してもよい。ここでシランカップリング剤が、その分子内に(メタ)アクリロイル基のような重合性官能基を含む場合、複屈折性材料層12を形成する分子の重合基と界面とで共有結合を形成するため密着性を促進できる。または、シランカップリング剤は、その分子内に重合基を含まない場合でも例えば、アミンもしくはカルボン酸等のような極性基を含む構造を選択することで界面において静電的な相互作用を発現し密着性を促進できる。このような表面処理を施すことによって、基板11と複屈折性材料層12の密着性を高めることができ、耐久性を向上できる。
【0034】
また、
図1では1枚の基板11しか示されていないが、画像光投影用スクリーン10は、例えば
図3に示すように2つの基板11,13間に複屈折性材料層12を挟持する構成であってもよい。そのような場合には、基板11および基板13の複屈折性材料層12と接する側の表面の各々に対して、表面処理を行えばよい。
図3は、本実施形態の画像光投影用スクリーン10の他の例を示す模式図である。なお、
図1に示す画像光投影用スクリーン10の場合、複屈折性材料層12としては高分子液晶が好適であり、
図3に示す画像光投影用スクリーン10の場合も高分子液晶が好適であるが、低分子液晶も使用できる。
【0035】
配向膜を設けない場合、液晶材料の長軸方向は、基板11の面方向と平行な状態で、平面視においてランダムに配向する。また、液晶層が一定の厚さとなったときでも、基板11と接する液晶の長軸方向を維持したまま、液晶の厚さ方向に揃う形で配向される。このような液晶の配向の原理から、基板11に平行でかつ厚さ方向が揃った状態で、平面的には
図1に示されるように、ランダムに液晶の光学軸が配向した複屈折性材料層12が得られる。
【0036】
複屈折性材料層12の厚さは一定であればよいが、対象波長λに対してリタデーション(Δn・d)が以下の式(1)を満たす厚さであればより好ましい。なお、dは複屈折性材料層12の厚さであり、Δnは、複屈折性材料層12の材料である複屈折性材料の、対象波長λの光に対する屈折率異方性である。また、kは1以上の自然数である。なお、kが大きくなるとそれだけ複屈折性材料層12の厚さdも大きくなり、かつ、リタデーションも大きくなるので、k≦3が好ましく、k=1がより好ましい。
【0037】
Δn・d=(2k−1)・λ/2 ・・・(1)
【0038】
このように、複屈折性材料層12の厚さを一定にすることにより、複屈折性材料層12の基板11側の表面だけでなく、基板11と接しない側の表面も平坦化されるため、画像光投影用スクリーン10全体を高平坦化できる。また、これにより、平坦化した面に反射防止膜等を容易に形成でき、光利用効率を高くできる。
【0039】
また、複屈折性材料層12の厚さが上記式(1)を満たしていると、光学軸が45°変化する領域間で、任意の直線偏光方向の入射(画像)光に対して0°と90°といったように出射光を直交関係にある偏光光に変換できるので、スペックルパターンの抑制効果が高められる。
【0040】
次に、スペックルノイズの指標となるスペックルコントラストC
sについて説明する。このスペックルコントラストは、以下の式(4)で表されるように、画素の明るさの平均値となる(3)式に対する、画素の明るさ標準偏差σとなる(2)式で示される。ここでNは全画素数を表し、I
nは各画素に対する明るさ、I
avrは全画素の明るさの平均を示す。このスペックルコントラストC
sが低い値になるにつれて投射される画像で観察されるスペックルノイズが低減される。以下、本願発明の画像光投影用スクリーンまたは該画像光投影用スクリーンを配置した投射型表示装置等の表示システムは、このスペックルコントラストによって評価する。
【0044】
なお、対象波長が1つでない場合は、入射する光の波長のうち予め定めた波長に対して上記式(1)を満たすように厚さを制御してもよい。例えば、可視光であれば緑波長として、532nmまたは530nm帯(より具体的には510nm〜550nm)を設計波長にするといったように、中心波長または中心波長近傍の所定幅(例えば、10nm)の波長帯を対象にして上記式(1)を満たすよう厚さを制御してもよい。このとき、誤差が−0.2λ〜+0.2λの範囲であれば、上記式(1)を満たすとしてもよい。
【0045】
また、液晶材料によっては、3次元的にランダム配向となる、すなわち厚さ方向で光学軸の方向が揃わず、変化するものがある。そのような場合には、複屈折性材料層12の厚さは一定のまま、隣り合う領域121どうしの位相差が異なるように、厚さ方向における光学軸を分布させるのが好ましい。特に、面内でのリタデーションの差が0〜λ/2の範囲となるように、すなわち、面内でのリタデーションの差がλ/2の分布を持つように、隣り合う領域121どうしの位相差を異ならせると好ましい。なお、リタデーションの範囲について、式(1)の場合と同様、−0.2λ〜+0.2λの範囲の誤差であればその範囲内とみなしてよい。
【0046】
また、図示省略しているが、画像光投影用スクリーン10の光入射側となる最表面、例えば複屈折性材料層12の上、または基板11もしくは基板13の複屈折性材料層12が積層されていない側の面上に、反射防止層が積層されていてもよい。
【0047】
次に、本実施形態の画像光投影用スクリーン10の製造方法の一例を示す。
【0048】
画像光投影用スクリーン10は、例えば、次のような方法で作製できる。まず、基板11の一方の面に、例えば無機材料からなる多層膜で構成される反射防止膜を形成する。次に、反射防止膜とは反対の表面に対して、シランカップリング剤などによる表面処理を行う。表面処理を施すことによって、配向膜を有しない構成であっても剥がれ等を防止でき、耐久性を向上できる。また、導光用基板でもある基板11がガラス基板の場合などには、表面処理の前に基板11上にSiO
2などの成膜可能なバッファー層を成膜し、成膜したバッファー層に対してシランカップリング剤などによる表面処理を行ってもよい。基板11上にバッファー層を設けることで、シランカップリング剤と結合するOH基の状態を一定にでき、密着性を安定化できる。
【0049】
次に、基板11の表面処理を行った側の面上に、高分子液晶などの複屈折性材料を所定の厚さで成膜して、複屈折性材料層12を得る。例えば、入射光の中心波長λに対して、上記式(1)を満たす厚さに成膜する。成膜方法は、例えば、光重合性液晶モノマーなどの複屈折性材料をスピンコート法、ダイコート法などで成膜し紫外線などを照射し硬化させることにより複屈折性材料層12を形成する方法が挙げられる。この時、光重合性液晶モノマーは成膜時の粘度調整のために溶媒で希釈してもよい。また、溶媒で希釈溶解した高分子液晶をスピンコートやディップコート法、ダイコート法などで成膜し、溶媒を乾燥させることで複屈折性材料層12を形成する方法も使用できる。
【0050】
その後、複屈折性材料層12の上に、さらに反射防止膜を形成してもよい。
【0051】
また、画像光投影用スクリーン10は、次のような方法でも作製できる。まず、2枚の基板11、13を用意し、基板11、13の各々の一方の面上に、反射防止膜を形成する。次に、反射防止膜を形成した側の面を外側にして基板11と基板13とを所定の間隔を空けて貼り合わせて空セルを作製する。次に、その空セルのセルギャップに光重合性高分子モノマーや光重合性液晶などの複屈折性材料(モノマー)を注入する。そのようにして空セルの間を複屈折性材料で充填した後、紫外線などを照射して硬化させることにより、基板11、13の間に挟持された複屈折性材料層12を得る。
【0052】
なお、複屈折性材料層12を形成後、基板13を取り除いてもよい。基板13を取り除く場合には、基板13の面上には反射防止膜を形成せずに、基板13を取り除いた後、複屈折性材料層12の上に反射防止膜を形成してもよい。
【0053】
このように、本実施形態の画像光投影用スクリーン10は、複屈折性材料層12の表面等に凹凸加工をする必要がないため、高い組み立て精度を要せずにスペックルパターンの抑止効果が得られる。また、平面視において、0°〜180°の範囲でほぼ全方向に遅相軸方向が分布されれば、入射光の偏光方向を制御しなくてもよく、画像光投影用スクリーン10に画像光を投影する画像光投影装置を簡易な構成にできる。
【0054】
実施形態2.
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図4は、本実施形態の画像光投影用スクリーンの例を示す模式図である。
図4に示す画像光投影用スクリーン20は、基板21と、基板21上に積層された複屈折性材料層22とを備える。また、基板21と複屈折性材料層22との間には配向膜24が設けられている。
【0055】
基板21は、第1の実施形態の基板11と同様である。
【0056】
複屈折性材料層22は、第1の実施形態の複屈折性材料層12と同様、一定厚の複屈折性材料からなり、かつ複数の領域を有している。なお、これら複数の領域は、平面視における外縁が略同一の形状であり、以下、該領域を単位領域と称する。また、以下、複屈折性材料層22が有する単位領域を単位領域221という場合がある。
【0057】
図4において、破線で囲まれた領域は単位領域221を模式的に表している。また、破線で囲まれた領域内の矢印はその単位領域内の遅相軸方向を表している。
【0058】
本実施形態において、複屈折性材料層22は、特定の形状を有し、かつ入射光に対して遅相軸方向が異なる複数の単位領域221が所定の方向に並んで配置される。なお、単位領域221の種類数、(平面視における外縁の)形状、遅相軸方向および配置は特に限定されないが、各単位領域221は、少なくとも、入射光に対して隣り合う複数の単位領域どうしの遅相軸方向が異なるように、かつ少なくとも一の方向において、50μm以内の間隔で入射光に対する遅相軸方向が45°以上変化するように、配置される。
【0059】
図5および
図6は、本実施形態の複屈折性材料層22における複屈折性材料の遅相軸の配向例を示す平面模式図である。複屈折性材料層22は、例えば
図5に示されるように、遅相軸方向が異なる単位領域221がストライプ状に配置されたものであってもよい。すなわち、複屈折性材料層22は、長手方向と短手方向とを有する一方向に長い形状の単位領域221a,221b,221c,221dが、隣り合う単位領域221どうしで遅相軸方向が異なるように、所定の順序で短手方向へ並んで配置されていてもよい。そのような場合において、各単位領域221の短手方向の長さ(図中のy
a,y
b,y
cおよびy
d)は50μm以下が好ましい。また、隣り合う単位領域221どうしで遅相軸方向が45°異なっているのが好ましい。
図5に示す例では、複屈折性材料層22は、互いに遅相軸方向が異なる単位領域221a,221b,221c,221dからなる単位領域群222の繰り返し構造となっており、各単位領域群222内において隣り合う単位領域221どうし、および各単位領域群222間で隣り合う単位領域221どうしで、各々遅相軸方向が45°異なるように配置されている。
【0060】
また、複屈折性材料層22は、例えば
図6に示されるように、遅相軸方向が異なる単位領域221が市松状に配置されてもよい。すなわち、複屈折性材料層22は、四角形の形状の単位領域221e,221fが、隣り合う単位領域221どうしで遅相軸方向が異なるように、2次元方向に複数並んで配置されてもよい。そのような場合において、各単位領域221の一辺の長さ(図中のxおよびy)は50μm以下が好ましい。また、隣り合う単位領域221どうしで遅相軸方向が45°異なっているのが好ましい。
図6に示す例では、複屈折性材料層22は、隣り合う2×2の単位領域221からなる単位領域群222の繰り返し構造となっており、各単位領域群222内において隣り合う単位領域221どうし、および各単位領域群222間で隣り合う単位領域221どうしで、各々遅相軸方向が45°異なるように配置されている。本例の場合、各単位領域群222内で、互いに斜め方向に位置する2つの単位領域221間(例えば、単位領域221eどうしまたは単位領域221fどうし)における遅相軸方向が同じであり、かつ隣接する2つの単位領域221間(例えば、単位領域221eと221f間)における遅相軸方向が異なるように配置されればよい。
【0061】
なお、隣り合う単位領域221間において、遅相軸方向の変化は連続であっても非連続であってもよい。なお、遅相軸方向が連続して変化する場合には、上述したように、面内の液晶分子の配向状態を比較したときに、少なくとも一方向において光学軸が45°変化する間隔が50μm以内であればよい。そのような場合には、当該領域すなわち光学軸が45°変化するまでに要した領域において、最大幅が50μm以下で異なる遅相軸方向の単位領域221が隣り合っている(境界がある)とみなす。
【0062】
また、本実施形態の複屈折性材料層22では、各単位領域221内で複屈折性材料の光学軸が厚さ方向に揃っているものとするが、厚さ方向で光学軸が変化していてもよい。
【0063】
本実施形態の複屈折性材料層22は、例えば、基板21上に、各単位領域221の光学軸の方向に対応してラビング方向を異ならせた配向膜を設けることによって形成できる。
【0064】
より具体的には、基板21上に配向膜を形成する過程で、基板21上に形成したポリイミド膜等にラビング処理を施す際に、遅相軸方向が異なる単位領域221の各々に対応するマスクを順次あてながらラビング処理を行うことにより、各単位領域221の光学軸の方向に応じた所望のラビング角を有する配向膜24を得てもよい。また、光配向膜を用いる場合には、遅相軸方向が異なる単位領域221の各々に対応するマスクを順次あてながら偏光UVを照射して所望の配向方向を有する配向膜24を得てもよい。そして、そのようにして得た配向膜24の上に高分子液晶などの複屈折性材料を所望の厚さになるように成膜し、これにより配向膜24の配向方向に光学軸が揃った均一な厚さの複屈折性材料層22を得てもよい。
【0065】
また、本実施形態においても、画像光投影用スクリーン20は、例えば
図7に示すように2つの基板21,23間に複屈折性材料層22を挟持する構成であってもよい。そのような場合には、2枚の基板21,23の対向する側の面上に、各単位領域221の光学軸の方向に対応して、配向方向を異ならせた配向膜24,25を設ければよい。各配向膜24,25の配向方向は、両基板を貼り合わせたときに、平面視における各領域の配向方向が同じになるようにすればよい。
【0066】
なお、他の点に関しては第1の実施形態と同様である。例えば、複屈折性材料層22においても、対象波長λに対してリタデーション(Δn・d)が上記式(1)を満たす厚さであればより好ましい。また、画像光投影用スクリーン20の光入射側となる最表面、例えば複屈折性材料層22の上、または基板21もしくは基板23の複屈折性材料層22が積層されていない側の面上に、反射防止層が積層されていてもよい。
【0067】
本実施形態においても、複屈折性材料層22の厚さを一定にできるので、複屈折性材料層22の基板21側の表面だけでなく、基板21と接しない側の表面も平坦化できる。このため、画像光投影用スクリーン20全体を高平坦化できる。また、これにより、平坦化した面に反射防止膜等を容易に形成でき、光利用効率を高くできる。
【0068】
実施形態3.
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図8は、本実施形態の画像光投影用スクリーンの例を示す模式図である。
図8に示す画像光投影用スクリーン30は、一対の基板31,33と、基板31,33間に挟持される、複屈折性材料層32および等方性材料層36とを備える。
【0069】
基板31,32は、第1の実施形態の基板11,13および第2の実施形態の基板21,23と同様である。
【0070】
複屈折性材料層32は、第1および第2の実施形態の複屈折性材料層12,22と同様、複屈折性材料からなり、かつ複数の単位領域を有している。以下、複屈折性材料層32が有する単位領域を単位領域321という場合がある。
【0071】
本実施形態において、複屈折性材料層32は、特定の形状を有する複数の単位領域321が所定の方向に並んで配置される。このとき、各単位領域321は、隣り合う領域どうしで入射光に対する位相差が異なるように、かつ少なくとも一の方向において、50μm以内の間隔で入射光に対する位相差がλ/2変化するように、配置される。特に、面内でのリタデーションの差が0〜λ/2の範囲となるように、すなわち、面内でのリタデーションの差がλ/2の分布を持つように、隣り合う単位領域321どうしの位相差を異ならせると好ましい。なお、λは、第1の実施形態と同様の対象波長として考えればよい。また、リタデーションの範囲についても、第1の実施形態と同様、−0.2λ〜+0.2λの範囲の誤差であればその範囲内とみなしてよい。
【0072】
なお、本実施形態の複屈折性材料層32では、複屈折性材料の光学軸の方向は面内で一定である。すなわち揃っているものとするが、隣り合うまたは近接する単位領域321どうしで光学軸の方向を異ならせることも可能である。
【0073】
図8には、複屈折性材料層32の厚さを面内で異ならせることによって領域ごとに入射する光に対する位相差が異なるよう構成された複屈折性材料層32の例が示されている。なお、
図8には、高さが異なることによって入射光に対する位相差が異なる2種類の単位領域321a,321bが一方向において100μm以内のピッチで交互に配置されてなる複屈折性材料層32の例が示されている。なお、本例では、各単位領域321a、321bの短手方向の長さが50μm以下となるように形成されている。なお、複屈折性材料層32は、面内で厚さを異ならせることによって、少なくとも一の方向において、50μm以内の間隔で当該複屈折性材料層32を通過する光の直交する偏光成分に位相差πを与えることができるように構成されていればよい。
【0074】
本実施形態において、隣り合う領域どうしは、リタデーションがλ/2の奇数倍異なっているのが好ましい。例えば、
図8に示す例では、対象波長λの光に対して、単位領域321aがλ/2−0.2λ〜λ/2+0.2λの範囲のリタデーションを有し、単位領域321bが0λ−0.2λ〜0λ+0.2λの範囲のリタデーションを有するように形成される。
【0075】
また、複屈折性材料層32は、入射する直線偏光の方向に対し光学軸が±45°の角度をなすように設定されてもよい。
【0076】
また、等方性材料層36は、複屈折性材料層32の表面の凹凸を平坦化するために設けられる層であり、少なくとも複屈折性材料層32の凹部を埋めるように形成されている。なお、基板31と基板33の間の隙間領域に等方性材料を充填することにより等方性材料層36が形成されてもよい。すなわち、
図8に示すように、等方性材料層36は、単位領域321a上に一定の厚さをもって有していてもよいが、単位領域321a上には存在せずに、単位領域321bを埋めるように有していてもよい。
【0077】
また、複屈折性材料層32は、
図9(a)および
図9(b)に示すように、領域分割されたλ/2板であってもよい。例えば、一方の基板31の面上に、対象波長λに対してλ/2板として作用する複屈折性材料層32(より具体的には単位領域321a)が所定の隙間を空けて形成された構成であってもよい。このようにすれば、隣り合う領域どうし(Y
aに備えられる単位領域321aとY
bに備えられる等方性材料層36間)で、リタデーションがλ/2の奇数倍異なる構成となる。また、このとき、少なくとも一方向における各複屈折性材料層32の幅Y
aを50μm以下、かつ複屈折性材料層32間の隙間Y
bを50μm以下とすれば、幅100μm程の領域に入射する光に対して互いに直交する2以上の偏光成分に分割して出射できる。なお、このような場合には、各単位領域321aは位相差πを与える厚さに設定された複屈折性材料によって形成されればよく、また各単位領域321aの間は等方性材料が充填されればよい。このとき、幅Y
bに備えられる等方性材料層36は、複屈折性材料層32の厚さと同じであってもよいし(
図9(a)参照)、複屈折性材料層32よりも厚くてもよい(
図9(b)参照)。すなわち、等方性材料層36は、複屈折性材料層32の表面の凹凸を平坦化できる厚さであればよい。また、
図9に示されるように基板33を備えていなくてもよい。
【0078】
なお、
図8および
図9では、長手方向と短手方向とを有する一方向に長い形状の単位領域321aが、同形状の単位領域321bと交互にまたは所定の隙間を空けて短手方向へ並んで配置される例が示されているが、単位領域321の種類数、(平面視における外縁の)形状および配置はこの限りでない。例えば、各単位領域321は、位相差が異なる領域が市松状に並ぶ配置であってもよい。すなわち、複屈折性材料層32は、四角形の形状の単位領域321が、隣り合う領域どうしで位相差が異なるように、2次元方向に複数並んで配置されていてもよい。そのような場合において、各単位領域321の一辺の長さは50μm以下が好ましい。なお、位相差が異なる領域の一部には等方性材料層36によるものも含む。
【0079】
複屈折性材料層32の材料となる複屈折性材料は、所望の波長板の機能を発現できる複屈折性を有する透明材料であればよい。例えば、複屈折性を有する樹脂材料であってもよい。また、複屈折性が得られる高分子液晶を含む液晶材料であってもよい。
【0080】
また、等方性材料層36の材料となる等方性材料は、等方性を有する透明材料であればよい。例えば、樹脂やガラスなどの無機材料であってもよい。ここで、等方性材料層36の材料となる等方性材料の屈折率をn
s’、複屈折性材料層32の材料となる複屈折性材料の異常光屈折率をn
e’、常光屈折率をn
o’とすると、n
s’=(n
e’+n
o’)/2であると複屈折性材料層32と等方性材料層36との界面によるフレネル反射が制御されるため、好ましい。
【0081】
本実施形態の画像光投影用スクリーン30は、例えば次のような方法で作製できる。まず、一方の基板31の面上に高分子液晶などの複屈折性材料を所定の厚さで成膜する。ここでは、対象波長λに対してλ/2板機能を発現できる厚さに成膜する。また、このとき複屈折性材料の光学軸が所定の軸と45°をなすようにする。光学軸の制御は、例えば、複屈折性材料を塗布する前に、基板31の面上に配向膜を塗布し、ラビング処理することにより行ってもよい。
【0082】
次に、成膜した複屈折膜を、単位領域321の位置に応じて、当該位置において所望の位相差を発現させる高さになるまでドライエッチングプロセスなどを用いて削る。そのようにして、特定形状の複数の単位領域321を有する複屈折性材料層32が得られる。この後、複屈折性材料層32が形成されている面を内側にして基板31と基板33とを所定の間隔を空けて貼り合わせる。なお、等方性材料層36が空気層以外の場合には、基板31と基板33とを貼り合わせてできた空セルの空隙を等方性材料により充填して、等方性材料層36を形成すればよい。この場合、等方性材料層36形成後に、基板33を除去してもよい。
【0083】
本実施形態では、複屈折性材料層32の厚さが一定でなくても等方性材料層36を設けることにより、複屈折性材料層32の表面の凹凸を平坦化できるため、画像光投影用スクリーン30全体を高平坦化できる。また、これにより、平坦化した面に反射防止膜等を容易に形成でき、光利用効率を高くできる。
【0084】
実施形態4.
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図10は、本実施形態の画像光投影用スクリーンの例を示す模式図である。
図10に示す画像光投影用スクリーン40は、第1の実施形態の画像光投影用スクリーン10の構成に、さらに拡散板41を備えた構成となっている。
【0085】
なお、
図11(a)または
図11(b)に示すように、本実施形態の画像光投影用スクリーン40は、第2の実施形態の画像光投影用スクリーン20または第3の実施形態の画像光投影用スクリーン30の構成に、さらに拡散板41を備えた構成であってもよい。なお、以下では説明を簡単にするために、画像光投影用スクリーン40の構成として、第1の実施形態の画像光投影用スクリーン10の構成に拡散板41を加えた構成を例に説明するが、画像光投影用スクリーン40の構成は、これに限定されない。
【0086】
既に説明したように、人間がスクリーン上に投影される画像光を認識できるためには、スクリーンの光学特性として、入射する光に対して一定レベルの散乱能を有している必要がある。また、スクリーンは、リアプロジェクタに用いられる場合などは、スクリーン上に映像を結像させるためおよび視野角を広げるために、特に垂直方向および左右方向に映像光をある程度(所定角度以上)拡散させることが要求される。なお、必要とされる散乱能はアプリケーションごとに異なる。
【0087】
拡散板41は、平行光が入射された場合に一定の角度の散乱能を有するものであればよく、特にその形状や構成は限定されない。所望とされる拡散角の範囲は、例えば、ヘッドアップディスプレイ用途であれば10°〜40°が好ましい。また、例えば、リアプロジェクタ用途であれば、100°以上が好ましい。また、拡散角中の光量が角度によらず均一になる方が、スクリーンを見る角度によらず画像の明るさが変わらないため好ましい。また、スクリーンの視野角に応じて水平方向の拡散角と垂直方向の拡散角を変えてもよい。
【0088】
なお、散乱角は、拡散板41を透過した光の強度分布について半値全幅(FWHM)を満たす角度で定義される。散乱角については具体的に、
図12(a)および
図12(b)を用いて説明する。
図12(a)は、拡散板41に入射する光と、散乱して透過する光の様子を示した模式図であり、拡散板41から十分に離れた距離Lにおいて、入射する光の直進方向と直交する断面A−A’を示す。なお、距離L[mm]は、拡散板41の厚さを無視できる程度の距離である。
図12(b)は、光軸と、拡散板41と光軸とが交わる点を基点としてA−A’の断面へ向かう光線が光軸となす角度を横軸にしたときの光強度分布を示す図である。ここで、光強度の半値全幅となる角度を拡散角θ[°]とし、拡散角θとなるA−A’の断面の拡散領域をW[mm]とすると、散乱角θと距離Lは、tan(θ/2)=W/2Lで与えられる。
【0089】
また、拡散板41と複屈折性材料層12との間の距離が離れていると、映し出される画像にボケが生じてしまうため、複屈折性材料層12と拡散板41の拡散効果を発現させる光学面(拡散面)とはできるだけ接近させることが好ましい。例えば、複屈折性材料層12と拡散板41の拡散面との距離は、1mm以下であればよく、0.3mm以下が好ましく、0.1mm以下がより好ましい。このため、拡散板41は、複屈折性材料層12と隣り合うように配置されることが好ましい。例えば、
図10に示すように、基板11上に複屈折性材料層12が積層されている場合、その複屈折性材料層12の上に拡散板41が積層される構造が好ましい。
【0090】
なお、拡散板41は複屈折性材料層12に接着されていてもよいし、されていなくてもよい。すなわち、複屈折性材料層12と拡散板41とは離れて配置されていてもよいが、その間の距離は上述した距離が好ましい。また、複屈折性材料層12と拡散板41とが接近している態様であれば、拡散板41はレーザ光の入射側に配置されてもよいし、出射側に配置されてもよい。例えば、レーザ光の入射側から、基板11、複屈折性材料層12、拡散板41の順で積層されていてもよいし、拡散板41、複屈折性材料層12、基板11の順で積層されていてもよい。また、拡散板41が複屈折性を有している場合であって、複屈折性材料層12に入射する画像光の偏光方向が所定の直線偏光方向になるよう制御されている場合には、その直線偏光性を解消しないよう、拡散板41は複屈折性材料層12の出射側に配置されるのがより好ましい。
【0091】
また、
図10では、基板13は除かれているが、拡散板41が基板13に相当する基板を有していてもよい。その場合、画像光投影用スクリーン40は、基板13を備えており、基板13の一方の面に、凹凸形状といった拡散効果を発現する構造を有する層が形成されている、と言い換えてもよい。なお、このような構造であっても、複屈折性材料層12と拡散板41のうち拡散効果を発現する構造までの距離は上述した距離が好ましい。
【0092】
図13は、拡散板41の例を示す模式断面図である。拡散板41は、例えば
図13(a)に示すように、非周期凹凸構造を有していてもよい。また、拡散板41は、例えば
図13(b)に示すように、周期的な凸形状を有するマイクロレンズアレイであってもよい。また、拡散板41は、例えば
図13(c)に示すように、非周期な凸形状を有するマイクロレンズアレイであってもよい。また、拡散板41は、例えば
図13(d)に示すように、周期的な凹形状を有するマイクロレンズアレイであってもよい。さらに、拡散板41は、例えば
図13(e)に示すように、非周期な凹形状を有するマイクロレンズアレイであってもよい。
【0093】
この他にも、例えば、拡散板41はレンチキュラーレンズシートであってもよい。より具体的には、長手軸に直交する断面の形状がかまぼこ型(半円または半楕円と方形との組み合わせ形状)の凸レンズであるシリンドリカルレンズを、同一の径および同一の曲率で、伸長方向が互いに平行となるように複数配列したものであってもよい。
【0094】
このように、本実施形態によれば、複屈折性材料層だけでは散乱能が不十分な場合に散乱能を補ったり、また出射光である散乱光の経路または光量等を制御するなど細かな配光制御が可能になる。
【0095】
実施形態5.
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
図14は、本実施形態の表示システムの例を示す模式図である。
図14に示す表示システム1000は、画像投影装置100と、画像光投影用スクリーン10とを備える。なお、本実施形態においても、説明を簡単にするために、表示システム1000の構成として、第1の実施形態の画像光投影用スクリーン10を備えた構成を例に説明するが、表示システム1000が備える画像光投影用スクリーンは、他の実施形態の画像光投影用スクリーン(20、30または40)であってもよい。
【0096】
画像投影装置100は、一般的な画像投影装置でよい。例えば、画像投影装置100は、光源と、光源から射出された光束を画像情報に応じて変調して画像光を形成する画像光形成手段(例えば、ライトバルブ)と、形成された画像光を所定のスクリーン面に向けて拡大投影する投影光学系とを備えた、いわゆるプロジェクタであってもよい。また、プロジェクタは走査型であっても投影型であってもよい。
【0097】
表示システム1000において、画像光投影用スクリーン10は、画像投影装置100の前面側(視聴者がいる側)に配され、背面側から投影された画像光を前面側に投影する。より具体的には、画像光投影用スクリーン10は、背面側から入射される画像光を、前面側に屈折拡散させながら射出する。
【0098】
図15は、表示システム1000のより詳細な構成例を示す構成図である。
図15に示す表示システム1000aは、走査型画像投影装置100aと画像光投影用スクリーン10とを備える。以下、画像光投影用スクリーン10を、単にスクリーン10という場合がある。
【0099】
走査型画像投影装置100aは、スクリーン10の表示面に光を走査するための2Dスキャンミラー4と、2Dスキャンミラー4にコヒーレント光を導く光源光学系6と、2Dスキャンミラー4から出射される光の偏光を変化させてビーム径中に一様でない所定の偏光分布を有する光にして出射する偏光解消素子5とを備える。なお、偏光解消素子5を備える点以外は、一般的な走査型画像表示装置の構成と同様でよい。例えば、2Dスキャンミラー4の代わり、横方向に光を走査させる第1スキャンミラーと、縦方向に光を走査させる第2スキャンミラーとを備える構成であってもよい。
【0100】
ここで、2Dスキャンミラー4は、MEMS技術により形成されるマイクロメカニカルミラーなどが小型化の点で有利である。また、上述の第1スキャンミラーと第2スキャンミラーにはガルバノミラーを用いてもよく、1つのミラーをガルバノミラー、他の1つのミラーをマイクロメカニカルミラーとしてもよい。
【0101】
また、光源光学系6は、例えば、コヒーレント光を発する少なくとも1つの光源部1と、光源部1から出射された光を平行光に変換するコリメータレンズ2と、コリメータレンズ2から出射される平行光を2Dスキャンミラー4に導くダイクロイックミラー3とを有していてもよい。
【0102】
図15に示される走査型画像投影装置100aでは、コヒーレント光を発する光源部1として、例えば半導体レーザや固体レーザなどによる、赤、緑、青の3色に対応するレーザ光源1−R,1−G,1−Bを備える。レーザ光源1−R,1−G,1−Bから出射された光は、それぞれコリメータレンズ2−R,2−G,2−Bによって略平行光となるように集光されて、ダイクロイックミラー3−R,3−G,3−Bに入射する。そして、ダイクロイックミラー3−R,3−G,3−Bによって合成され、3原色レーザ光となって2Dスキャンミラー4のミラー面に斜めに入射する。ここで、略平行光とはレーザ光の拡がり角が約2mrad以下であることをいう。
【0103】
2Dスキャンミラー4で反射された光は、偏光解消素子5を通過してスクリーン10に到達する。このとき、2Dスキャンミラー4は、図示省略されているミラー制御手段によって駆動され、所定の走査周波数に応じて水平方向および垂直方向に回動される。この回動により、2Dスキャンミラー4における光の入射面の法線方向が入射するレーザ光の光軸に対して変化する。すると、この面で反射したレーザ光の光軸も回動されるごとに変化する。このようにして、2Dスキャンミラー4で反射したレーザ光がスクリーン面上を走査すなわち移動しながら所定の部分領域を照射して、スクリーン10のスクリーン面全体に所望の画像を表示させる。
【0104】
本実施形態において、偏光解消素子5は、2Dスキャンミラー4とスクリーン10との間に配置されている。このため、2Dスキャンミラー4で反射された光は、偏光解消素子5を通過してスクリーン10に到達する。偏光解消素子5は、特開2013−1955565号の偏光解消素子5のように、入射した光の偏光を変化させて、該入射光のビーム径中に一様でない所定の偏光分布を有する光にして出射する。したがって、2Dスキャンミラー4で反射された光は、偏光解消素子5によりビーム径中に一様でない所定の偏光分布を有する光となってスクリーン10に到達する。なお、偏光解消素子5は、2Dスキャンミラー4よりも光源側に配置されていてもよい。
【0105】
偏光解消素子5は、例えば、素子面内で出射光の偏光状態が連続的に変化する出射偏光分布を有する素子であればよい。そのような素子を用いれば、入射直線偏光を、ビーム径中に偏光状態が連続的に変化する偏光分布を有する光に変化させて出射できる。
【0106】
ここで、偏光状態が連続的に変化するとは、偏光状態を示すポアンカレ球上で連続的に変化することをいう。なお、偏光解消性を向上させる点で、ポアンカレ球のほぼ直径軌道で偏光状態が変化するのが好ましい。例えば、ポアンカレ球の赤道軌道上での変化であれば、直線偏光の偏光角が連続的に変化することになる。また、ポアンカレ球の北極と南極を結ぶ軌道上での変化であれば、楕円率が連続的に変化することになる。1つの具体例として、素子の縦方向や横方向などの一定方向に沿って並ぶ連続領域における出射光の偏光状態が、例えば横方向の直線偏光から偏光の長軸方向が横方向の右回りの楕円偏光、また右回り楕円偏光から右回り円偏光、右回り円偏光から偏光の長軸方向が横方向の直線偏光方向と直交する縦方向の右回りの楕円偏光、右回りの楕円偏光から縦方向の直線偏光、縦方向の直線偏光から偏光の長軸方向が縦方向の左回りの楕円偏光、左回り楕円偏光から左回り円偏光、左回り円偏光から偏光の長軸方向が横方向の左回りの楕円偏光、左回りの楕円偏光から横方向の直線偏光になるといった位相差の大きさに準じた変化を繰り返すような偏光分布であってもよい。
【0107】
なお、出射偏光分布における変化の方向は問わないが、素子面に対して縦方向や横方向に沿っているなど方向性を有していると、配置する際の向きなどが決めやすいため好ましい。
【0108】
このような出射偏光分布を有する偏光解消素子5は、例えば、素子面内でリタデーションが連続的に変化するリタデーション分布を持たせることにより実現できる。より具体的には、基板上に形成する複屈折性材料層の厚さを素子面内で連続的に変化させたり、基板上に形成する複屈折性材料層において印加電圧制御等により液晶分子のチルト角を素子面内で連続的に変化させたり、基板上に形成する複屈折性材料層において配向制御により複屈折性材料の光学軸の方向を素子面内で連続的に変化させることにより実現できる。なお、このような偏光解消素子5の構成は、特開2013−195565号公報にも開示されている。
【0109】
また、ここでいう「連続的に」とは、必ずしも、対象とする値の変化が常に一定方向に向かって一定量の増加または減少である場合に限らない。例えば、一定方向に沿って連続する領域において対象とする値が所定の規則(単純増加や単純減少に限らず、それらの組み合わせによる周期構造等を含む)に従って予め定めた範囲内で変化していればよい。例えば、「リタデーションが連続的に変化する」といった場合には、素子面内のある一方向線上の位置座標に対するリタデーションの値を示すグラフ形状が、単純増加または単純減少を表す直線形状となるものやSINカーブ形状などの曲線形状となるもの、もしくはこれらを階段状に近似した形状のもの、または、これらの組み合わせとして、増加の後で減少をする組み合わせや減少の後で増加をする組み合わせも含まれる。
【0110】
なお、リタデーション分布としては、0.5λ〜3λ/ビーム径の変化を有していることがより好ましい。これは、ビーム径に対して偏光状態の変化がポアンカレ球で半周(0.5λ)から3周(3λ)することに相当する。ここでビーム径は光源部より発光されたコヒーレント光のビーム直径をいい、例えば、ガウシアン分布のビームの場合は放射強度がピーク値の1/e
2(13.5%)になるビーム径をビーム直径という。
【0111】
また、偏光解消素子5は、該素子面内で複屈折材料層の光学軸の方位が連続的に変化する光学軸分布を持たせることにより実現してもよい。なお、このような偏光解消素子5の構成は、特開2013−195565号公報にも開示されている。
【0112】
また、光学軸分布を持つ偏光解消素子5は、リタデーションが約λ/2が好ましく、光学軸分は、45°〜270°/ビーム径の変化を有していることが好ましい。これは、ビーム径に対して偏光状態の変化がポアンカレ球で半周(45°)から3周(270°)することに相当する。
【0113】
このように、画像投影装置100がこのような偏光解消素子5を備えていると、さらなるスペックル改善効果が得られる。例えば、
図15に示す例では、走査型画像投影装置100aにおいて、偏光解消素子5の偏光制御性能とスキャンミラー4の回動性とを組み合わせることで、走査型画像投影装置100aから出射する画像光を偏光解消できる。より具体的には、走査型画像投影装置100aから出射する画像光において、人間の眼の空間分解能の中で異なる偏光のスペックルパターンを形成できる。このため、人間の眼の時間分解能の中でそれらが重畳されることにより、さらなるスペックル低減効果が得られる。
【0114】
また、上述した偏光解消素子5の構成によれば、光の光軸と素子の光軸とを合わせるといった位置合わせが必要でないため、高い組み立て精度を要せず、簡易な構成で高いスペックル低減効果が得られる。
【0115】
なお、コンバイナを用いるヘッドアップディスプレイでは、コンバイナに入射する画像光がコンバイナの法線方向に対して60°程度のブリュースター角で用いられるときに、S偏光の光のみ反射されて利用されるため、偏光解消機能を持つスクリーンだけの構成ではスペックル低減効果が十分ではない場合がある。この場合、画像投影装置100が偏光解消素子5を配置する構成であると、コンバイナがブリュースター角近傍で利用される構成に対してもスペックル低減効果を発現できるため好ましい。
【0116】
また、
図15では、2Dスキャンミラー4とスクリーン10との間に偏光解消素子5を配置する例を示したが、偏光解消素子5の配置位置は、光源光学系6と2Dスキャンミラー4との間の光路中であってもよい。
【0117】
また、画像投影装置100は、
図15に示す構成に限られない。例えば、
図16に示すような構成であってもよい。
図16は、本実施形態の表示システム1000の他の例を示す構成図である。
図16に示す表示システム1000bは、走査型画像投影装置100aに代えて、走査型画像投影装置100bを備える点が
図15に示した構成と異なる。
【0118】
走査型画像投影装置100bは、スクリーン10の表示面に光を走査するための2Dスキャンミラー4と、コヒーレント光を発する少なくとも1つの光源部1を含む光源光学系6と、偏光ビームスプリッタ8と、入射する光の偏光方向を変化させる1/4波長板7と、偏光解消素子5とを備える。
【0119】
走査型画像投影装置100bでは、光源光学系6から出射された直線偏光の光が、偏光ビームスプリッタ8で反射されて1/4波長板7を通過し、円偏光の光となって2Dスキャンミラー4のミラー面に入射する。
【0120】
その後、2Dスキャンミラー4で反射された光が、再度1/4波長板7を通過することにより、直線偏波に変換され、偏光ビームスプリッタ8に入射したときの光と直交する偏光方向の光となって偏光ビームスプリッタ8を直進し、スクリーン10に到達する。
【0121】
走査型画像投影装置100bの場合、偏光解消素子5を、偏光ビームスプリッタ8とスクリーン10との間に配置すればよい。すなわち、2Dスキャンミラー4で反射された後、偏光ビームスプリッタ8を通過した直線偏光の光を偏光解消素子5に入射させればよい。このように配置することによって、偏光解消素子5により、2Dスキャンミラー4で反射された光がビーム径中に一様でない所定の偏光分布を有する光となってスクリーン10に到達する。
【0122】
また、表示システム1000は、
図17に示すようなヘッドアップディスプレイ1000cであってもよい。
【0123】
図17に示すヘッドアップディスプレイ1000cは、画像光を所定のスクリーン面に拡大投影する画像投影装置100と、画像投影装置100を収納する箱形状を有する外装筐体300と、画像投影装置100から出射される画像光を投影する透過型スクリーンとして画像光投影用スクリーン10と、コンバイナ200とを備える。
【0124】
本例において、外装筐体300は、前面側(視認者側)に開口部301が形成されている。そのような構成において、画像光投影用スクリーン10は、外装筐体300の開口部301を介して露出し、背面側から投影された画像光を前面側に投影してもよい。なお、画像光投影用スクリーン10は必ずしも露出してなくてもよい(後述の
図20参照)。すなわち、画像光投影用スクリーン10は、開口部301を含む光路中に備えられて投影してもよい。
【0125】
コンバイナ200は、画像光投影用スクリーン10からの光の一部を反射して外光の一部を透過することにより画像と背景とを重ねて表示する。コンバイナ200の反射面は、凹面形状であってもよい。コンバイナ200の反射面を凹面形状とすると、当該反射面が凹面ミラーとなって凸レンズと同様の働きをする。このような場合には、視認者201からは、コンバイナ200を通して画像(より具体的には、虚像202)が遠方に拡大して表示されているように見える(
図18参照)。
【0126】
また、
図17では、画像投影装置100と画像光投影用スクリーン10との間に、偏光解消素子5を備える例を示している。このように、偏光解消素子5は、例えば、画像投影装置100の外側に配置することも可能である。
【0127】
図17に示す表示システム1000cでは、ヘッドアップディスプレイの光源として画像投影装置100を有している。以下、外装筐体300および外装筐体300内の各要素を併せて本体装置と呼ぶ場合がある。
【0128】
また、
図19および
図20は、表示システム1000cにおける本体装置の他の例を示す模式断面図である。
図19に示すように、表示システム1000cは、本体装置の一要素として、例えば、画像投影装置100から出射される画像光を画像光投影用スクリーン10に導くミラー400を備えていてもよい。また、
図20に示すように、表示システム1000cは、本体装置の一要素として、例えば、画像光投影用スクリーン10の前面側に、画像光投影用スクリーン10から出射される光線の方向を変えたり歪みを補正するためのフィールドレンズ500を備えていてもよい。また、図示省略しているが、この他にも、画像光投影用スクリーン10の背面側に、光を効率よく伝搬するためのレンズ等を備えていてもよい。
【0129】
なお、
図17および
図18に示すような表示システム1000cすなわちヘッドアップディスプレイ1000cも、リアプロジェクタの一種である。
【実施例】
【0130】
実施例1.
次に、本発明の第1の実施例を説明する。本例は、
図10に示される第4の実施形態の画像光投影用スクリーン40の例である。
【0131】
まず、複屈折性材料層12の作製方法について説明する。0.3mm厚のガラス基板11の一方の面に、バッファー層として、KBM603(信越化学工業株式会社製の信越シリコーン(登録商標))を、スピンコート法を用いて塗布、焼成し、成膜した。次に、バッファー層に対して、シランカップリング剤による表面処理を施した。次に、光重合性液晶モノマーを溶媒に希釈した溶液を、表面処理が施されたバッファー層上に塗布し、50℃の温度で乾燥を行った後、照度80mW/cm
2に調整した高圧水銀ランプを用いて6分間、紫外線照射し光重合性モノマーを硬化した。これにより、波長589nmでのΔnが0.132の高分子液晶からなる複屈折性材料層12を得る。なお、溶液中の光重合性液晶モノマーの濃度は約34%である。
【0132】
得られた複屈折性材料層12を偏光顕微鏡で観察すると、遅相軸が45°変化するまでを一つの範囲とする領域(ドメイン)のサイズであるドメインサイズの最大幅が50μmであり、また遅相軸がガラス基板11の面内でランダムな方向に配向しており、さらに各ドメインのリタデーションが波長532nmでλ/2−0.2λ〜λ/2+0.2λの範囲であることを確認した。
【0133】
次に、別途用意したガラス基板(基板13)の一方の表面を、サンドブラストで処理することにより、拡散角が約15°の拡散板41を得る。
【0134】
得られた拡散板41の拡散面(ガラス基板のサンドブラストで表面処理されている側の面)と、複屈折性材料層12とが向かい合うように積層させて接着することにより、画像光投影用スクリーン40を作製した。なお、接着層の厚さは0.3mm以下である。
【0135】
このように作製した画像光投影用スクリーン40を、例えば、レーザ光を用いる走査型画像投影装置100aのスクリーンに用いることにより、レーザの干渉により発生するスペックルノイズを低減できる。
【0136】
例えば、本例の画像光投影用スクリーン40を配置した表示システムにおけるスペックルコントラストについて下記のように調べた。すなわち、本例の画像光投影用スクリーン40を配置した表示システムにおいて、波長532nmのレーザ光に対して、所定のスクリーン面(本例では、画像光投影用スクリーン40の出射側に設けた仮想のスクリーン面)に映し出された画像をデジタルカメラによって撮影した。デジタルカメラの撮影は仮想のスクリーン面に対して略垂直となる角度から該スクリーンの中央付近の約1.7cm四方の正方形領域を撮影した。このとき、デジタルカメラの撮影条件は、縦方向200ピクセル×横方向200ピクセル=40000ピクセルの画素数において、各画素の明るさを0〜255の256段階で分析し、スペックルコントラストを計算した。このときの画素明るさ平均I
avrは110であり、画素明るさの標準偏差σは18となり、これによるスペックルコントラストC
sは約16%であった。
【0137】
一方、偏光解消しない拡散板をスクリーンに用いた場合、同様の方法で測定したスペックコントラストは20%であった。したがって、本例の画像光投影用スクリーン40によって約20%のスペックルコントラストの低減効果を得た。