特許第6409503号(P6409503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409503
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】観測装置
(51)【国際特許分類】
   B64C 27/28 20060101AFI20181015BHJP
   B64D 47/08 20060101ALI20181015BHJP
   B64D 27/24 20060101ALI20181015BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   B64C27/28
   B64D47/08
   B64D27/24
   B64C39/02
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-220637(P2014-220637)
(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公開番号】特開2016-88121(P2016-88121A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】松江 武典
(72)【発明者】
【氏名】川崎 宏治
(72)【発明者】
【氏名】松浦 道弘
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 正己
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 雅幸
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0001001(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0083945(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0044499(US,A1)
【文献】 特開平01−101297(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0283629(US,A1)
【文献】 米国特許第05080304(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0226892(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0125367(US,A1)
【文献】 特開2011−162173(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102991672(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0129827(US,A1)
【文献】 特開2010−195293(JP,A)
【文献】 中国実用新案第203486139(CN,U)
【文献】 特開2005−206015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/28
B64C 39/02
B64D 27/24
B64D 47/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行体(100)と、
該飛行体に取り付けられ、所定の画角内に存在する対象を観測する観測部(200)と、を備えた観測装置であって、
前記飛行体は、
前記観測部が取り付けられる基体(110,170)と、
揚力を発生させる2つ以上のスラスタ(140)と、
前記スラスタによって生じる推進力の向きを前記基体に対して可変とするアクチュエータ(120)と、
地表面に対する前記基体の姿勢を検出する慣性計測部(150)と、
前記慣性計測部によって検出される前記基体の姿勢に基づいて前記スラスタおよびアクチュエータを制御する制御部(160)と、を有し、
前記スラスタは、第1スラスタ(141)、第2スラスタ(142)、第3スラスタ(143)、および第4スラスタ(144)を含み、
前記第1スラスタと前記第2スラスタは、第1軸部(131、133)にそれぞれ固定され、前記第3スラスタと前記第4スラスタとは、第2軸部(132、134)にそれぞれ固定され、
前記アクチュエータは、前記基体に対して前記第1軸部を回転させる第1アクチュエータ(121)と、前記基体に対して前記第2軸部を回転させる第2アクチュエータ(122)とを含み、前記第1アクチュエータによる前記第1軸部の回転により、前記第1スラスタおよび前記第2スラスタによる推進力の向きを前記基体に対して可変とし、前記第2アクチュエータによる前記第2軸部の回転により、前記第3スラスタおよび前記第4スラスタによる推進力の向きを前記基体に対して可変とするものであり、
前記観測部は、前記基体に対して相対的に動かないように固定して取り付けられ、
前記飛行体は、前記スラスタの各々の推進力と、前記推進力の方向と、の組み合わせによって、地表面に対して任意の姿勢で飛行することを特徴とする観測装置。
【請求項2】
前記観測部は、前記基体、前記スラスタ、前記アクチュエータ、前記慣性計測部および前記制御部が前記観測部の画角内に入らないように取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の観測装置。
【請求項3】
前記第1軸部(131,133)および前記第2軸部(132,134)は、回転軸が互いに平行になるように形成され、それぞれ、前記第1アクチュエータおよび前記第2アクチュエータを介して前記基体に取り付けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の観測装置。
【請求項4】
前記観測部は、前記第1軸部と前記第2軸部との間に配置されることを特徴とする請求項3に記載の観測装置。
【請求項5】
前記スラスタは、プロペラ部(140a)と、該プロペラ部を回転させて推進力を発生させるモータ部(140b)と、を有し、
前記第1軸部および前記第2軸部は、前記回転軸に沿った直線状を成し、
前記モータ部は、前記回転軸上に固定されることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の観測装置。
【請求項6】
前記スラスタは、プロペラ部(140a)と、該プロペラ部を回転させて推進力を発生させるモータ部(140b)と、を有し、
前記第1軸部および前記第2軸部は、それぞれ、前記回転軸に沿った軸上部材(133a,134a)と、前記回転軸からずれた位置に形成された軸外部材(133b,134b)とが一体的に形成されて成り、
前記モータ部は、前記プロペラ部の回転中心が前記第1軸部あるいは第2軸部の前記回転軸上に位置するように、前記軸外部材に固定されることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の観測装置。
【請求項7】
前記第1スタスタと前記第3スラスタのプロペラ部の回転方向と、前記第2スラスタと前記第4スラスタの回転方向とは、互いに逆向きである同軸反転型であることを特徴とする請求項5又は6に記載の観測装置。
【請求項8】
異なる前記スラスタが、鉛直方向において異なる高度にある状態でホバリングしている場合において、鉛直方向の下部に位置する前記スラスタの推進力は、上部に位置する前記スラスタの推進力よりも小さくされることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の観測装置。
【請求項9】
異なる前記スラスタが、鉛直方向において異なる高度にある状態でホバリングしている場合において、前記スラスタの推進力は、全ての前記スラスタが地表面に平行な水平面内に位置している場合に較べて、大きくされることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の観測装置。
【請求項10】
前記スラスタを駆動するためのバッテリ(300)を備え、
前記バッテリは、前記アクチュエータによって前記スラスタと一体的に変位することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の観測装置。
【請求項11】
前記スラスタは、プロペラ部(140a)と、該プロペラ部を回転させて推進力を発生させるモータ部(140b)と、を有し、
前記バッテリは、前記モータ部を挟んで前記プロペラ部の反対側に固定されることを特徴とする請求項10に記載の観測装置。
【請求項12】
前記飛行体は、着陸時において前記スラスタおよび前記観測部が地表面に接触しないためのガード部(400,420,430)を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の観測装置。
【請求項13】
前記飛行体に固定され、着地に際して前記飛行体を地表面で支持する降着装置(500)を備えることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の観測装置。
【請求項14】
前記降着装置は、車輪(510)と、地表面との摩擦を生じさせるストッパ(520)と、を有し、
前記飛行体が地表面に沿って移動する際には前記車輪のみを接地させ、前記飛行体が移動の状態から静止する際には前記ストッパによる地表面との摩擦により静止することを特徴とする請求項13に記載の観測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観測機器を具備して飛行しながら対象の観測を行う観測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無人飛行体(Unmanned Air Vehicle :UAV)に観測機器を搭載して、例えば災害現場や人間が立ち入ることが困難な危険箇所の状態を観測することが行われている。UAVに搭載される観測機器の代表的なものには空撮用のカメラがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、飛行体に撮像部とGPS装置とが搭載された航空写真装置が提案されている。この航空写真装置では、撮像部による画像の取得とともにGPS装置による測定位置の取得が可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−62789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に提案されたような航空写真装置では、飛行体よりも高い位置に存在する対象を撮影することはできない。
【0006】
また、この航空写真装置では、飛行体が地面に対して姿勢を保持した状態で、飛行体に吊架された撮像部(カメラ)の向きを変えることによって、撮影対象を捉えるように構成されている。しかしながら、このような構成では、カメラの向きによっては、飛行体がカメラの画角内に入ってしまい、撮影範囲が制限されてしまう虞がある。
【0007】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、任意の方向にある観測対象をホバリングしながら観測可能な観測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される発明は、上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。なお、特許請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、飛行体(100)と、該飛行体に取り付けられ、所定の画角内に存在する対象を観測する観測部(200)と、を備えた観測装置であって、飛行体は、観測部が取り付けられる基体(110,170)と、揚力を発生させる2つ以上のスラスタ(140)と、スラスタによって生じる推進力の向きを基体に対して可変とするアクチュエータ(120)と、地表面に対する基体の姿勢を検出する慣性計測部(150)と、慣性計測部によって検出される基体の姿勢に基づいてスラスタおよびアクチュエータを制御する制御部(160)と、を有し、スラスタは、第1スラスタ(141)、第2スラスタ(142)、第3スラスタ(143)、および第4スラスタ(144)を含み、第1スラスタと第2スラスタは、第1軸部(131)にそれぞれ固定され、第3スラスタと第4スラスタとは、第2軸部(132)にそれぞれ固定され、アクチュエータは、基体に対して第1軸部を回転させる第1アクチュエータ(121)と、基体に対して第2軸部を回転させる第2アクチュエータ(122)とを含み、第1アクチュエータによる第1軸部の回転により、第1スラスタおよび第2スラスタによる推進力の向きを基体に対して可変とし、第2アクチュエータによる第2軸部の回転により、第3スラスタおよび第4スラスタによる推進力の向きを基体に対して可変とするものであり、観測部は、基体に対して相対的に動かないように固定して取り付けられ、飛行体は、スラスタの各々の推進力と、推進力の方向と、の組み合わせによって、地表面に対して任意の姿勢で飛行することを特徴としている。
【0010】
これによれば、この観測装置は、推進力の向きが基体に対して可変であるスラスタを有しているから、全てのスラスタが地表面に平行な面内に位置していなくても、ホバリングに必要な揚力を生じるような向きにスラスタの推進力を向けることができる。よって、この観測装置は、基体が地表面に対して傾いた状態でホバリングを維持し、且つ、移動することができる。
【0011】
換言すれば、この観測装置では、観測部が任意の方向を向いた状態で静止することができる。したがって、観測部が基体に対して固定されていても、任意の方向を観測することができる。
【0012】
また、この観測装置では、観測部は基体に固定されているから、従来のように、観測対象の方向を向くための可動部を要しない。したがって、基体と観測部との接続を簡素化することができる。また、これに伴って観測装置自体の重量を軽減することができる。
【0013】
特に、アクチュエータを介して基体に取り付けられ、回転軸が互いに平行になるように形成された第1軸部(131,133)および第2軸部(132,134)を有し、第1軸部および第2軸部には、それぞれ1つ以上のスラスタが固定され、スラスタは、第1軸部および第2軸部がアクチュエータにより回転軸まわりに回転することによって、推進力の向きを基体に対して可変とするように構成されていると良い。
【0014】
これによれば、スラスタは回転軸まわりに回転するように構成されているから、飛行体全体が、ホバリングの状態を維持しつつ回転軸に直交する面内で360度回転することができる。この機動に加えて、従来構成において可能なロール(あるいはピッチ)およびヨーを組み合わせることによって、観測部を、立体角4πステラジアンいずれの方向にも向けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態における観測装置の概略構成を示す斜視図である。
図2】慣性計測部および制御部の構成を示すブロック図である。
図3】飛行体とカメラの画角との位置関係を示す図である。
図4】水平飛行モードにおけるホバリングを示す図である。
図5】水平飛行モードにおけるロールを示す図である。
図6】水平飛行モードにおけるピッチを示す図である。
図7】水平飛行モードにおけるヨーを示す図である。
図8】垂直飛行モードへ移行する前の、水平飛行モードにおけるホバリングを示す図である。
図9】水平飛行モードから垂直飛行モードへ移行する初期動作を示す図である。
図10】水平飛行モードから垂直飛行モードへ移行する途中の動作を示す図である。
図11】垂直飛行モードへ移行後におけるホバリングを示す図である。
図12】垂直飛行モードにおけるホバリングを示す図である。
図13】垂直飛行モードにおけるロールを示す図である。
図14】垂直飛行モードにおけるピッチを示す図である。
図15】垂直飛行モードにおけるヨーを示す図である。
図16】水平飛行モードにおけるヨーを示す図である。
図17】垂直飛行モードにおけるヨーを示す図である。
図18】水平飛行モードにおける並進移動を示す図である。
図19】垂直飛行モードにおける並進移動を示す図である。
図20】変形例1におけるバッテリの設置位置を示す斜視図である。
図21】変形例2における観測装置の概略構成を示す斜視図である。
図22】変形例2における観測装置の概略構成を示す斜視図である。
図23】変形例3における観測装置の概略構成を示す斜視図である。
図24】第2実施形態における観測装置の概略構成を示す斜視図である。
図25】軸部の概略構成を示す図である。
図26】ガード部を有する観測装置の一例を示す斜視図である。
図27】ガード部を有する観測装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各図相互において、互いに同一もしくは均等である部分に、同一符号を付与する。また、飛行体に固定された座標系として、x軸と、x軸に直交するy軸と、x軸およびy軸に対して一次独立なz軸を定義する。この座標系は、地表面に対して固定ではなく、飛行体の姿勢に依存して変動する。
【0017】
(第1実施形態)
最初に、図1および図2を参照して、本実施形態に係る観測装置の概略構成について説明する。
【0018】
本実施形態における観測装置は、多回転翼式の無人飛行体(Unmanned Air Vehicle :UAV)にカメラが搭載され、おもに空撮を目的として利用される装置である。カメラが捉える光の波長は、可視光領域に限定されるものではなく、より長波長の赤外線や、より短波長のX線などを対象としてもよい。
【0019】
図1に示すように、観測装置10は、飛行を主な機能とする飛行体100と、撮影を主な機能とする観測部としてのカメラ200とを備えている。
【0020】
飛行体100は、基体110と、2つのアクチュエータ120と、2つの軸部130と、4つのスラスタ140と、慣性計測部150と、制御部160とを有するクアッドコプターである。なお、図1には図示していないが、飛行体100には、後述のアクチュエータ120、スラスタ140、慣性計測部150、制御部160およびカメラ200の電源用にバッテリも搭載されている。
【0021】
基体110はy軸方向に延設された棒材である。基体110はプラスチック材や金属材を採用することができる。基体110は飛行体100全体を支持する骨格であり、後述のアクチュエータ120、慣性計測部150および制御部160が固定されている。また、カメラ200は基体110に固定されている。棒状の基体110の両端にアクチュエータ120が固定され、慣性計測部150および制御部160は、基体110の重心に集約配置されている。また、本実施形態では、バッテリも基体110の重心に集約配置されている。
【0022】
アクチュエータ120は、第1アクチュエータ121および第2アクチュエータ122から構成されている。これらは、それぞれ棒状の基体110の両端に固定されている。本実施形態におけるアクチュエータ120は、後述の軸部130をx軸まわりに回転させるために駆動する装置である。以降、第1アクチュエータ121および第2アクチュエータ122を総称してアクチュエータ120と表記する。
【0023】
軸部130は、第1アクチュエータ121に接続された第1軸部131と、第2アクチュエータ122に接続された第2軸部132と、により構成されている。本実施形態における軸部130は、回転軸、すなわちx軸に沿った直線状を成している。第1軸部131および第2軸部132は、互いに平行に、x軸に沿って延設されており、それぞれがアクチュエータ120によってx軸まわりに360度回転できるようになっている。以降、軸部130の回転角をチルト角という。以降、第1軸部131および第2軸部132、第2実施形態に記載する第1軸部133および第2軸部134を総称して軸部130と表記する。
【0024】
スラスタ140は、プロペラ部140aとモータ部140bとを有し、モータ部140bが駆動することによってプロペラ部140aが回転して推進力を生じる。スラスタ140はx軸に直交する方向に推進力が向くように軸部130に固定されている。スラスタ140はアクチュエータ120の動作によって軸部130がx軸まわりに回転することで、基体110に対して推進力の向きが変更可能とされている。軸部130はx軸まわりに回転するので、推進力の主な向きを示すベクトルは、yz平面内で回転する。また、スラスタ140は、プロペラ部140aの回転数を変更可能に構成されており、回転数に対応した推進力を発揮できるようになっている。すなわち、プロペラ部140aの回転数が大きくなるにしたがって推進力が向上する。
【0025】
なお、軸部130の駆動部分にはスリップリングが用いられており、慣性計測部150および制御部160とスラスタ140とを繋ぐ信号ケーブルや、バッテリとスラスタ140とを繋ぐ電源ケーブルが、スラスタ140のx軸まわりでの回転を妨げることはない。
【0026】
本実施形態におけるスラスタ140は、4つのスラスタ、すなわち、第1スラスタ141、第2スラスタ142、第3スラスタ143、第4スラスタ144とから構成されている。第1スラスタ141および第2スラスタ142は、第1アクチュエータ121に対して対称に、第1軸部131の端部に固定されており、第3スラスタ143および第4スラスタ144は、第2アクチュエータ122に対して対称に、第2軸部132の端部に固定されている。4つのスラスタ140はxy平面内に配置されている。そして、図1に示すz軸の正の方向から飛行体100を正面視すると、第1スラスタ141、第2スラスタ142、第3スラスタ143、第4スラスタ144は反時計回りに配置されている。以降、第1スラスタ141〜第4スラスタ144を総称してスラスタ140と表記する。
【0027】
慣性計測部150は、一般の航空機等に用いられるような、3軸のジャイロと3軸の加速度センサを含んで構成されており、飛行体100の姿勢、角速度および加速度を検出する部分である。ジャイロとしては、回転円盤を有する機械式ジャイロスコープを用いても良いが、サニャック効果を利用するレーザーリングジャイロスコープを用いることによって高精度化と軽量化が可能である。また、加速度センサとしては、機械的変位測定方式のほか、光学的な方式やピエゾ抵抗を利用した半導体方式を採用しても良い。
【0028】
慣性計測部150は、図2に示すように、制御部160に通信可能に接続されており、飛行体100の姿勢に関する情報を制御部160に出力する。慣性計測部150として、ジャイロおよび加速度センサの他、全地球測位システム(GPS)や圧力センサ、流量センサ、磁気センサ、スタートラッカ等のデバイスを有していると飛行体100の姿勢さらには高度を高精度で計測することができる。なお、図2では、慣性計測部150をIMUと表記し、信号の流れを矢印で表している。
【0029】
制御部160は、慣性計測部150から出力される情報に基づいて飛行体100の姿勢を推定し、推定された姿勢と外部からの命令に基づいてアクチュエータ120の駆動、ひいてはチルト角、およびスラスタ140におけるモータ部140bの出力を制御する部分である。制御部160は、図2に示すように、姿勢算出部161と、チルト角速度取得部162と、姿勢推定部163と、を有している。
【0030】
姿勢算出部161は、慣性計測部150により得られる飛行体100の回転の角速度および並進の加速度に基づいて、飛行体100の地表面に対する姿勢を算出する部分である。
【0031】
チルト角速度取得部162は、アクチュエータ120を介して軸部130の回転角速度を取得する部分である。また、チルト角速度取得部162は、外部から指定された目標とするチルト角の角速度も取得する。
【0032】
姿勢推定部163は、姿勢算出部161により算出された飛行体100の現在の姿勢と、チルト角速度取得部162により取得された目標とするチルト角の角速度と、に基づいて飛行体100の目標とする姿勢を推定する部分である。ここで、目標とするチルト角の角速度とは、外部から指定された姿勢に遷移するために要する角速度であり、慣性計測部150により得られる飛行体100の回転の角速度と、チルト角速度取得部162により得られる目標とするチルト角の角速度との差分として計算される。なお、目標とする姿勢とは、観測装置10に対して外部から命令される所望の姿勢、あるいは、現在の姿勢から所望の姿勢に至るまでの途中の姿勢である。
【0033】
本実施形態における姿勢推定部163は、目標とする姿勢に対応した座標軸を姿勢推定部163の内部に設定し、設定された座標軸が地表面に対して所定の相対位置になるように、アクチュエータ120およびモータ部140bをPID制御する。なお、アクチュエータ120およびモータ部140bの制御の方式は必ずしもPID制御に限定されるわけではなく、一般的に知られたフィードバック制御方式を採用することができる。
【0034】
カメラ200は所定の画角を有する撮像装置であり、例えば可視光の波長帯において動画もしくは静止画の撮像を行う。カメラ200は基体110に固定されており、基体110に対する相対位置は変化しないようになっている。換言すれば、従来のように、観測対象の方向を向くための可動部を有していない。したがって、基体110とカメラ200との接続を簡素化することができる。また、これに伴って観測装置10自体の重量を軽減することができる。
【0035】
カメラ200には、画角、すなわち撮影可能な視野が存在する。画角はフィルムや撮像素子の撮像面の形状や、レンズ等の光学系によって決定する。本実施形態におけるカメラ200は、飛行体100を構成する要素が画角内に入らないように構成されている。つまり、撮影の際に飛行体100が写り込まないようになっている。具体的には、図3に示すように、カメラ200は、レンズの光軸がz軸に沿うように配置され、プロペラ部120aの移動範囲に画角が被らないようになっている。なお、プロペラ部140aの移動範囲は図3に示す破線部分である。本実施形態におけるプロペラ部140aは、軸部130の回転に伴ってスラスタ140が回転するため、プロペラ部140aの移動範囲は略球状になる。カメラ200の画角はこの移動範囲を避けているため、各スラスタ140のチルト角がいずれの角度をとっても、カメラ200にプロペラ部140aが写り込むことなく、対象を観測することができる。
【0036】
また、本実施形態におけるカメラ200は、y軸方向において、第1軸部131と第2軸部132の間に配置されている。以降記載するように、飛行体100がx軸のまわりに回転する場合には、その回転軸が第1軸部131と第2軸部132の間に位置する。このため、カメラ200を、第1軸部131と第2軸部132の間に配置することによって、カメラ200の撮像面をできるだけ飛行体100の回転軸に近づけることができる。したがって、撮像時のパンニングの量を抑制することができる。
【0037】
次に、図4図19を参照して、観測装置10の具体的な機動について説明する。なお、図4図19では、図1に示す構造を簡略化して図示しており、慣性計測部150、制御部160およびカメラ200の図示は省略している。また、各スラスタ140の推進力を矢印の向きと大きさで示している。
【0038】
本実施形態における観測装置10は、少なくとも水平飛行モードおよび垂直飛行モードの2つの飛行モードを有している。そして、水平飛行モードから垂直飛行モードへの移行の途中でも、その姿勢を維持したまま空中で静止することができる。よって、観測部としてのカメラ200を全立体角に対して向けることができる。なお、水平飛行モードとは、xy平面、すなわち基体110および軸部130が存在する面、が地表面に対して略平行になっている状態で飛行するモードである。垂直飛行モードとは、xy平面が地表面に対して略垂直になっている状態で飛行するモードである。以下、それぞれの機動について説明する。
【0039】
<水平飛行モードにおける機動>
まず、水平飛行モードにおけるホバリングについて説明する。図4に示すように、4つのスラスタ140の推進力がz方向を向くように、アクチュエータ120によって軸部130の回転角が制御されている。また、全てのスラスタ140の推進力を同一とするため、スラスタ140のプロペラ部140aの回転数は互いに略同一となっている。一方で、プロペラ部140aの回転方向について、第1スラスタ141と第3スラスタ143における回転方向と、第2スラスタ142と第4スラスタ144における回転方向は、互いに逆向きとされている。これは、プロペラ部140aの回転に起因するカウンタートルクを相殺するためである。各スラスタ140を上記した状態にすることによって、xy平面が地表面と略平行になるように、飛行体100の姿勢を維持することができる。なお、プロペラ部140aの回転数、すなわち推進力は、互いに完全同一とは限らない。各スラスタ140の推進力は、観測装置10自体の重心まわりの力のモーメントが釣り合うように調整される。
【0040】
次いで、水平飛行モードにおけるロールについて説明する。本実施形態において、水平飛行時のロールは、基体110の延設方向まわり、すなわちy軸まわりに回転する機動である。換言すれば、飛行体100を、y軸を回転軸として傾ける機動である。例えば、図5に示すように、xy平面が地表面と略平行になった状態から、第1スラスタ141および第4スラスタ144の推進力を、第2スラスタ142および第3スラスタ143よりも大きくすると、飛行体100にはy軸まわりの力のモーメントが生じる。上記のように各スラスタ140の推進力を制御することによって、飛行体100のロールを実現することができる。なお、推進力の大小関係を逆にすれば、ロールによる回転方向が逆になる。
【0041】
次いで、水平飛行モードにおけるピッチについて説明する。本実施形態において、水平飛行時のピッチは、軸部130の延設方向まわり、すなわちx軸まわりに回転する機動である。換言すれば、飛行体100を、x軸を回転軸として傾ける機動である。例えば、図6に示すように、xy平面が地表面と略平行になった状態から、第1スラスタ141および第2スラスタ142の推進力を、第3スラスタ143および第4スラスタ144よりも大きくすると、飛行体100にはx軸まわりの力のモーメントが生じる。上記のように各スラスタ140の推進力を制御することによって、飛行体100のピッチを実現することができる。なお、推進力の大小関係を逆にすれば、ピッチによる回転方向が逆になる。
【0042】
次いで、水平飛行モードにおけるヨーについて説明する。本実施形態において、水平飛行時のヨーは、z軸まわりに回転する機動である。この機動における飛行体100は、自身が傾くことなく、z軸を回転軸として方位を変える。ヨーを実現するには、例えば、図7に示すように、xy平面が地表面と略平行になった状態において、第2スラスタ142および第4スラスタ144の推進力を、第1スラスタ141および第3スラスタ143よりも大きくする。この状態では、第2スラスタ142および第4スラスタ144のプロペラ部140aの回転に起因するカウンタートルクが、第1スラスタ141および第3スラスタ143よりも大きくなる。これにより、飛行体100にはz軸まわりの力のモーメントが生じる。上記のように各スラスタ140の推進力を制御することによって、飛行体100のヨーを実現することができる。なお、推進力の大小関係を逆にすれば、ヨーによる回転方向が逆になる。
【0043】
<水平飛行モードから垂直飛行モードへの移行>
水平飛行モードから垂直飛行モードへの移行は、アクチュエータ120による軸部130の回転によって実現する。本実施形態における観測装置10は、従来のクアッドコプターの構成に加えて、チルト角を変更することによってスラスタ140の推進力の向きを基体110に対して変位させることができるため、水平飛行モードから垂直飛行モードへの移行が可能となっている。なお、チルト角について、説明に用いる図8図11において、紙面反時計回りを正とし、時計回りを負とする。また、水平飛行モードにおけるホバリング状態でのチルト角をゼロとする。すなわち、スラスタ140の推進力がz方向を向いている状態がチルト角ゼロに相当する。
【0044】
図8は、水平飛行モードでホバリング中における観測装置10をx方向から正面視した図である。なお、紙面下方向きが鉛直下方向に相当する。水平飛行モードでのホバリング中は、上記したように、スラスタ140はz方向に推進力が生じる向きに設定されている。
【0045】
例えば、飛行体100の姿勢を、紙面における反時計回り(正の回転方向)に回転して垂直飛行モードに移行させる旨の命令を受けたと仮定する。このとき、制御部160はチルト角およびスラスタ140におけるモータ部140bの出力を制御して飛行体100の姿勢を変位させる。
【0046】
具体的には、機動開始時点において、先ず水平飛行モードにおけるピッチ機動を行ってx軸を回転軸とする回転運動を行う。すなわち、図6に示すように、xy平面が地表面と略平行になった状態から、第1スラスタ141および第2スラスタ142の推進力を、第3スラスタ143および第4スラスタ144よりも大きくする。これにより、飛行体100にはx軸まわりの力のモーメントが生じてピッチ機動を開始する。
【0047】
飛行体100が傾斜した後は、第1軸部131を回転させて第1スラスタ141および第2スラスタ142のチルト角を鉛直方向に対して正とする。また、第2軸部132を回転させて第3スラスタ143および第4スラスタ144のチルト角を鉛直方向に対して負とする。これにより、飛行体100には正の回転方向に力のモーメントが作用してピッチを継続する。
【0048】
なお、機動開始時点の動作について、図9に示すように、第1スラスタ141および第2スラスタ142の推進力のベクトルを紙面反時計回りに傾けることによってピッチ機動を開始してもよい。つまり、第1軸部131を回転させて第1スラスタ141および第2スラスタ142のチルト角を正とする。一方、第3スラスタ143および第4スラスタ144の推進力のベクトルを紙面時計回りに傾ける。つまり、第2軸部132を回転させて第3スラスタ143および第4スラスタ144のチルト角を負とする。ここで、第1スラスタ141および第2スラスタ142のチルト角の絶対値は、第3スラスタ143および第4スラスタ144のチルト角の絶対値よりも小さく設定されている。
【0049】
チルト角の変更によって各スラスタ140の推進力はz軸に対して傾きを持つ。すなわち、推進力はz軸に沿う揚力と、y軸の沿う力とに分解できる。第1スラスタ141および第2スラスタ142のチルト角は、第3スラスタ143および第4スラスタ144のチルト角よりも小さいから、第1スラスタ141および第2スラスタ142が生じさせる揚力は、第3スラスタ143および第4スラスタ144が生じさせる揚力よりも大きい。したがって、飛行体100には正の回転方向に力のモーメントが作用する。
【0050】
以上記載のように、水平飛行モードの状態から傾斜を開始するが、制御部160は、飛行体100が回転を開始した後も、アクチュエータ120に対して軸部130を回転させる旨の指示を継続する。図10は、水平飛行モードから垂直飛行モードへ移行する途中の状態を示したものであり、飛行体100が地表面に対して45度傾いた状態を図示している。図10に示すように、第1スラスタ141および第2スラスタ142は、鉛直方向、すなわち重力の方向に対して僅かに正にチルトし、第3スラスタ143および第4スラスタ144は、鉛直方向に対して僅かに負にチルトしている。これにより、飛行体100には正の向きに力のモーメントが作用して、飛行体100全体が正の回転方向に回転する機動を継続する。
【0051】
図11に示すように、飛行体100の基体110が鉛直方向の沿うまで回転すると、制御部160は、アクチュエータ120に対して、チルト角を固定するように指示する。すなわち、全てのスラスタ140のチルト角を−90度で固定する。つまり、各スラスタ140の推進力はy軸方向に沿う。これにより回転に寄与する力のモーメントが生じることなく、揚力のみによって飛行体100がホバリングした状態となる。このようにして水平飛行モードから垂直飛行モードへの移行を完了する。
【0052】
水平飛行モードから垂直飛行モードに移行する場合の各スラスタ140の推進力の大きさについて、チルト角に依存して変化するように構成することが好ましい。水平飛行モードに対して、各スラスタ140がチルトすると、スラスタ140の相互位置の変化による気流の干渉や、スラスタ140と基体110、慣性計測部150、制御部160およびバッテリとの相対的な位置関係の変化による気流の乱れが発生する。このため、飛行体100が地表面に対して傾斜した状態では、水平飛行モードに比べて推進力を大きくしておくことが好ましい。具体的には、予め、実効的な推進力のチルト角依存性を計測しておき、ホバリングに必要な各スラスタ140の推進力を、チルト角に対して補正するように構成する。そして、水平飛行モードから垂直飛行モードへの移行時において、各スラスタ140のチルト角に応じてスラスタ140の推進力を補正値でフィードフォワードする。これにより、水平飛行モードから垂直飛行モードへの移行時において、飛行体100の高度を低下させることなく姿勢の変更が可能である。
【0053】
<垂直飛行モードにおける機動>
まず、垂直飛行モードにおけるホバリングについて説明する。図12に示すように、4つのスラスタ140の推進力がy方向を向くように、アクチュエータ120によって軸部130の回転角、すなわちチルト角が制御されている。また、全てのスラスタ140の推進力を同一とするため、スラスタ140のプロペラ部140aの回転数は互いに同一となっている。一方で、カウンタートルクを相殺するため、プロペラ部140aの回転方向について、第1スラスタ141と第3スラスタ143における回転方向と、第2スラスタ142と第4スラスタ144における回転方向は、互いに逆向きとされている。各スラスタ140を上記した状態にすることによって、xy平面が地表面と略垂直になるように、飛行体100の姿勢を維持することができる。
【0054】
垂直飛行モードにおけるホバリングでは、鉛直上方に位置するスラスタ(本実施形態では、第1スラスタ141と第2スラスタ142)の推進力を、鉛直下方に位置するスラスタ(本実施形態では第3スラスタ143と第4スラスタ144)の推進力よりも大きくしておくと飛行体100の姿勢がより安定する。これは、鉛直下方側のスラスタ143,144が、飛行体100に吊架された状態となるためである。
【0055】
次いで、垂直飛行モードにおけるロールについて説明する。本実施形態において、垂直飛行時のロールは、飛行体100がz軸まわりに回転する機動である。例えば、図13に示すように、xy平面が地表面と略垂直になった状態から、第2スラスタ142および第3スラスタ143の推進力を、第1スラスタ141および第4スラスタ144よりも大きくすると、飛行体100にはz軸まわりの力のモーメントが生じる。上記のように各スラスタ140の推進力を制御することによって、飛行体100のロールを実現することができる。なお、推進力の大小関係を逆にすれば、ロールによる回転方向が逆になる。
【0056】
次いで、垂直飛行モードにおけるピッチについて説明する。本実施形態において、垂直飛行時のロールは、飛行体100がx軸まわりに回転する機動である。例えば、図14に示すように、xy平面が地表面と略垂直になった状態から、第1スラスタ141および第2スラスタ142を鉛直方向に対して僅かに正にチルトさせ、第3スラスタ143および第4スラスタ144を鉛直方向に対して僅かに負にチルトさせた状態を維持する。これにより、飛行体100には正の向きに力のモーメントが作用して、飛行体100全体が正の回転方向に回転するピッチを実現することができる。なお、チルト角の正負を逆にすれば、ピッチによる回転方向が逆になる。
【0057】
次いで、垂直飛行モードにおけるヨーについて説明する。本実施形態において、垂直飛行時のヨーは、y軸まわりに回転する機動である。この機動における飛行体100は、xy平面が地表面に対して略垂直の状態で、y軸を回転軸として方位を変える。ヨーを実現するには、例えば、図15に示すように、xy平面が地表面と略垂直になった状態において、第2スラスタ142および第4スラスタ144の推進力を、第1スラスタ141および第3スラスタ143よりも大きくする。この状態では、第2スラスタ142および第4スラスタ144のプロペラ部140aの回転に起因するカウンタートルクが、第1スラスタ141および第3スラスタ143よりも大きくなる。これにより、飛行体100にはy軸まわりの力のモーメントが生じる。上記のように各スラスタ140の推進力を制御することによって、飛行体100のヨーを実現することができる。なお、推進力の大小関係を逆にすれば、ヨーによる回転方向が逆になる。
【0058】
<任意の姿勢における機動>
水平飛行モードから垂直飛行モードへ移行して、飛行体100の基体110が鉛直方向の沿う状態となった後も、チルト角を鉛直方向に固定せず、第1スラスタ141および第2スラスタ142を鉛直方向に対して僅かに正にチルトさせ、第3スラスタ143および第4スラスタ144を鉛直方向に対して僅かに負にチルトさせた状態を維持するようにアクチュエータ120を駆動すれば、飛行体100はそのまま正の向きに回転、すなわち垂直飛行モードにおけるピッチ機動を継続して、x軸に対して360度回転するピッチが可能である。
【0059】
また、図10に示すような状態、すなわち、飛行体100が地表面に対して45度傾斜した状態で、全てのスラスタ140のチルト角を−45度で固定して互いに同一の推進力になるようにすると、その傾斜姿勢を維持してホバリングすることが可能である。なお、飛行体100の地表面に対する傾斜角は45度に限定されない。本実施形態における飛行体100はx軸に対して360度のピッチが可能であるから、地表面に対して任意の角度で姿勢を維持してホバリングが可能である。
【0060】
このような状態においても、水平飛行モードにおけるヨー機動と同様に、各スラスタ140の回転数に差をつけることによって、カウンタートルクに起因して飛行体100はヨーを行うことができる。すなわち、飛行体100はz軸が鉛直方向の対して傾いた状態で回転する歳差運動を行うことができる。したがって、図1に示すような、基体110に固定されたカメラ200によって、全立体角(4πステラジアン)を対象にして観測が可能である。
【0061】
<その他の機動>
水平飛行モードおよび垂直飛行モードにおけるヨーについて、スラスタ140のチルト角を調整することによって、より大きなトルクでヨーを実現することができる。
【0062】
図7を用いて説明した水平飛行モードにおけるヨー機動に加えて、図16に示すように、第1軸部131を負にチルトし、第2軸部132を正にチルトする。これによれば、各スラスタ140のカウンタートルクに加えて、推進力のy軸に沿った分力がz軸まわりの力のモーメントとして作用するため、図7を用いて説明したヨーに較べて、より大きなヨートルクを得ることができる。
【0063】
また、図15を用いて説明した垂直飛行モードにおけるヨー機動に加えて、図17に示すように、第1軸部131を負にチルトし、第2軸部132を正にチルトする。これによれば、各スラスタ140のカウンタートルクに加えて、推進力のz軸に沿った分力がy軸まわりの力のモーメントとして作用するため、図15を用いて説明したヨーに較べて、より大きなヨートルクを得ることができる。
【0064】
さらに、水平飛行モードおよび垂直飛行モードにおける並進移動について、スラスタ140のチルト角を調整することによって、簡単に並進を実現することができる。
【0065】
図4を用いて説明した水平飛行モードにおけるホバリング機動に加えて、図18に示すように、第1軸部131を負にチルトし、第2軸部132を負にチルトする。これにより、スラスタ140による推進力の分力がy軸方向の成分を持つため、飛行体100はy軸方向に並進する。なお、チルト角の正負を逆にすれば、並進方向を逆にすることができる。
【0066】
また、図12を用いて説明した垂直飛行モードにおけるホバリング機動に加えて、図19に示すように、第1軸部131を負にチルトし、第2軸部132を負にチルトする。これにより、スラスタ140による推進力の分力がz軸方向の成分を持つため、飛行体100はz軸方向に並進する。なお、チルト角の正負を逆にすれば、並進方向を逆にすることができる。
【0067】
(変形例1)
上記した実施形態では、バッテリが、慣性計測部150、制御部160およびカメラ200と同様、飛行体100の重心位置に集約配置される例について記載した。バッテリは観測装置10の質量のうち多くを占めるため、飛行体100は、バッテリが重心位置に配置されていることによって安定した飛行することができる。しかしながら、バッテリが配置される位置は重心位置に限定されるものではない。
【0068】
例えば、図20に示すように、バッテリ300が軸部130に固定され、アクチュエータ120による軸部130のチルトに伴って、スラスタ140と相対位置を変えずに回転するような構成しても良い。換言すれば、バッテリ300がスラスタ140と一体的に変位するように構成しても良い。
【0069】
これによれば、電源ケーブル310がアクチュエータ120を経由しないから、電源ケーブル310が軸部130のチルトによる負荷を受けにくくすることができる。また、バッテリ300が飛行体100の重心位置に配置される形態に較べて、電源ケーブル310の長さを短くすることができるので、電源ケーブル310の電気抵抗値を抑制でき、消費電力を低減することができる。
【0070】
バッテリ300は、軸部130に固定されてスラスタ140とともに変位するように構成すれば上記効果を奏することができるが、図20に示すように、モータ部140bを挟んでプロペラ部140aの反対側に固定されることが好ましい。
【0071】
スラスタ140は、推進力を生み出すために、プロペラ部140aを回転させて空気を推進力と反対側に押し出す。推進力はこの空気を押し出す力に対する反作用である。本実施形態におけるスラスタ140は、プロペラ部140aが回転することによって空気をモータ部140b側に押し出す。バッテリ300がモータ部140bを挟んでプロペラ部140aの反対側に固定されることにより、押し出される側の空気の気流の乱れを抑制することができる。
【0072】
(変形例2)
飛行体100は、図21に示すように、着陸時にスラスタ140が地表面と接触しないようにするためのガード部400を有していることが好ましい。ガード部400は、支持部410を介して飛行体100に固定されている。該ガード部400は、着陸時において、スラスタ140が地表面に接触する前に地表面に接触してスラスタ140を保護するようになっている。
【0073】
本変形例におけるガード部400は、y方向に延設された板状を成している。ガード部400および支持部410は、スラスタ140におけるプロペラ部140aの移動範囲に干渉しない位置に取り付けられている。また、ガード部400および支持部410は、カメラ200の画角から外れる位置に取り付けられている。
【0074】
なお、ガード部400は、例えば、図22に示すように、ガード部400が支持部410を介して軸部130に取り付けられていても良い。このような構成では、軸部130のチルトに伴ってスラスタ140と一体的に変位する。図22では、軸部130のチルト角はゼロ度である。つまり、図22は水平飛行モードにおけるガード部400の位置を示している。この場合、ガード部400はy軸に沿って延設されている。そして、図12に示すような垂直飛行モードに移行した場合、軸部130のチルト角は−90度となり、これに伴ってガード部400はz軸に沿って延設された状態となる。よって、ガード部400は、垂直飛行モードであっても、着陸時においてスラスタ140が地表面に接触する前に地表面に接触してスラスタ140を保護することができる。
【0075】
(変形例3)
飛行体100は、図23に示すように、変形例2にて示したガード部400に替えて、あるいはガード部400に加えて、降着装置500を有していても良い。降着装置500は、飛行体100を地表面で支持する装置である。本変形例における降着装置500は、車輪510とストッパ520とを有している。
【0076】
車輪510は、支持部410を介して飛行体100に取り付けられており、例えばx軸まわりに回転するようになっている。このため、飛行体100が接地している場合には、スラスタ140の推進力をy軸方向に向けることによって、地表面に沿って移動することができる。
【0077】
ストッパ520は、支持部410を介して、車輪510とはxy平面に面対称の位置に取り付けられている。本変形例におけるストッパ520は、z軸方向に突出した突起状の部材である。車輪510で接地する場合に対して、飛行体を180度反転させた状態として着陸すれば、ストッパ520の先端を接地した状態で着陸できる。ストッパ520を接地させて着陸した場合は、着陸後に観測装置10が意図しない移動をしないようにできる。
【0078】
また、垂直飛行モードにて着陸する場合には、支持部410および車輪510の全体が地表面に接地するように着陸できる。なお、垂直飛行モードにおいて、車輪510のみが接地するように、x軸を回転軸として傾けることによって、車輪510による走行も可能である。
【0079】
本変形例における降着装置500は、車輪510とストッパ520とを有するものであるが、降着装置500は、水上を想定したフロートや、雪上を想定したスキーであっても良い。
【0080】
(第2実施形態)
第1実施形態における観測装置10は、飛行体100の構成要素として、棒状の基体110と直線状を成す軸部130(第1軸部131および第2軸部132)とを備える例について示した。これに対して、本実施形態における観測装置20は、図24に示すように、H字状の基体170と、非直線状の軸部130(第1軸部133および第2軸部134)とを備える。なお、スラスタ140、慣性計測部150、制御部160、カメラ200およびバッテリ300については、第1実施形態および変形例1〜3に記載したものと同一であるため、詳しい記載を省略する。
【0081】
また、x軸、y軸、z軸の方向について、第1実施形態と同様に、水平飛行モードにおいてはxy平面が地表面と略平行となるように記載しており、第1実施形態にて記載した機動に合わせている。具体的には、例えば、水平飛行モードにおけるロールはy軸まわりに回転する機動であり、ピッチはx軸まわりに回転する機動であり、ヨーはz軸まわりに回転する機動である。そして、水平飛行モードから垂直飛行モードへ移行は、x軸まわりに回転することによって実現する。
【0082】
基体170は、図24に示すように、互いに平行な2枚の平板171と、2枚の平板171の間に介在して2枚の平板171の相対位置を固定する支柱172とを有している。本実施形態における平板171はx軸方向に互いに対向しており、y軸方向に延びて配置されている。2本の支柱172はx軸方向に延びて2枚の平板171を結んでいる。そして、慣性計測部150、制御部160、カメラ200は支柱172の略中央に集約配置されている。
【0083】
軸部130は、図24に示すように、x軸に沿って互いに平行に形成された第1軸部133と第2軸部134を有している。軸部130は、基体170における平板171に、スリップリングを介して接続されている。軸部130はx軸に沿う回転軸まわりに回転可能になっており、平板171に取り付けられたアクチュエータ121,122によってチルトする。第1軸部133には第1スラスタ141および第2スラスタ142が固定され、第2軸部134には第3スラスタ143および第4スラスタ144が固定されている。
【0084】
本実施形態における第1軸部133および第2軸部134は、それぞれ、軸上部材133a,134aと軸外部材133b,134bとを有している。例えば、図25に示すように、第1軸部133は、アクチュエータ121の駆動の作用を受けて回転する第1軸部133の回転軸上に形成された軸上部材133aと、回転軸から外れた位置に形成された軸外部材133bとを有している。軸上部材133aと軸外部材133bは一体的に形成された矩形状を成しており、アクチュエータ121の駆動に伴って、x軸に沿う回転軸まわりに回転運動する。なお、図25は第1軸部133の概略構成を示した図であるが、第2軸部134についても同様に、軸上部材134aと軸外部材134bとを有している。
【0085】
スラスタ140におけるモータ部140bは軸外部材133b,134bに固定されており、プロペラ部140aの回転中心、換言すれば回転円の中心が軸部130の回転軸上に位置するようになっている。これによれば、軸部130が単純な棒状である場合に較べて、軸部130がチルトした場合のプロペラ部140aの移動範囲を最小にすることができる。プロペラ部140aの移動範囲が最小になると、カメラ200の画角内にプロペラ部140aが写り込みにくくすることができる。
【0086】
なお、軸部130の形状は、図24および図25に示したような略矩形状であることに限定されない。少なくとも軸部130の回転軸から外れた位置に軸外部材を有しており、プロペラ部140aの回転中心が軸部130の回転軸上に位置するように、スラスタ140が軸外部材に固定されていれば、上記効果を奏することができる。
【0087】
各機動については第1実施形態と同様であるから、詳しい記載を省略する。また、第1実施形態における変形例1〜3に記載した、バッテリ300を配置する位置、ガード部および降着装置については、第2実施形態にも適用可能である。
【0088】
例えば、図26に示すように、この観測装置20を構成する飛行体100が、2枚の平板171のy軸方向の両端にY字状に成型されたガード部420を、計4つ有している。ひとつのガード部420は、y軸方向に延びた先が二又に分かれており、yz平面に沿う別の方向に延びている。すなわち、4つのガード部420は、合計で8方向に延び、8つの先端を有している。
【0089】
なお、このガード部420は降着装置も兼ねる。具体的には、水平飛行モードにて着陸する際には、xy平面に沿う同一面に存在する4つの先端が接地する。一方、垂直飛行モードにて着陸する際には、yx平面に沿う同一面に存在する4つの先端が接地する。
【0090】
この観測装置20においても、スラスタ140はアクチュエータ120によりチルトする。すなわち、プロペラ140aは略球状の移動範囲を持っている。ガード部420は、プロペラ140aの移動範囲が、8つの先端を頂点とする直方体の内部に収まるように形成されており、どのような姿勢で着陸しても、プロペラ140aが地表面に激突することがないようになっている。
【0091】
もう一つの例は、図27に示すように、飛行体100が、直方体状の枠を形成するようなガード部430を有している。このガード部430は平板171と一体的に形成されている。直方体の8つの頂点は、プロペラ140aの移動範囲が、8つの先端を頂点とする直方体の内部に収まるようにされており、どのような姿勢で着陸しても、プロペラ140aが地表面に激突することがないようになっている。図27に示す例でも、ガード部430は降着装置を兼ねている。
【0092】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0093】
上記した各実施形態では、主に4つのスラスタ140を有するクアッドコプターについて記載したが、スラスタ140の数は限定されるものではない。少なくとも2つのスラスタ140を有し、推進力の向きが基体110,170に対して可変であるように構成されていればよい。そのような構成では、飛行体100を地表面に対して傾いた状態でホバリングさせることができる。具体的には、双発のツインコプターや、6発のヘキサコプターにも本発明を適用することができる。
【0094】
また、上記した各実施形態では、プロペラ部140aを回転させて推進するスラスタ140を例に示したが、推進の手段はプロペラ方式に限定されるものではなく、ダクテッドファンやロケットエンジンを採用することもできる。
【0095】
また、スラスタ140としてプロペラ方式を採用する場合において、上記した各実施形態では、モータ部140bの1つの回転軸に対して1つのプロペラ部140aが回転する方式を例に示したが、これに限定されない。2つのプロペラ部140aがモータ部140bの1つの回転軸上に存在して、互いに逆回転する同軸反転型のスラスタ140を採用してもよい。これによれば、1つのスラスタ140あたりのカウンタートルクの影響を抑制することができるので、ホバリング時における姿勢の安定性を向上することができる。また、ヨー機動の制御を容易にすることができる。
【0096】
また、上記した各実施形態では、棒状やH字状の基体110,170を例に示したが、基体の形状も上記例に限定されるものではない。例えば、円形の基体を採用することもできる。また、z軸方向に揚力を生じさせる翼状の基体を採用すれば、軸部130のチルト角を略90度あるいは略−90度で固定した状態で航空機のように飛行することができる。
【符号の説明】
【0097】
10…観測装置,100…飛行体,110…基体,120…アクチュエータ,131…第1軸部,132…第2軸部,140…スラスタ,150…慣性計測部,160…制御部,200…カメラ(観測部)
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