特許第6409595号(P6409595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6409595熱サイクルシステム用組成物および熱サイクルシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409595
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】熱サイクルシステム用組成物および熱サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20181015BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   C09K5/04 F
   C09K5/04 E
   F25B1/00 396B
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-15949(P2015-15949)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-172182(P2015-172182A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2017年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-30856(P2014-30856)
(32)【優先日】2014年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 正人
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/157764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00−5/20、
F25B1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,2−トリフルオロエチレン、ジフルオロメタンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなり、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告による地球温暖化係数(100年)が675未満である熱サイクル用作動媒体を含む熱サイクルシステム用組成物。
【請求項2】
前記熱サイクル用作動媒体の下記式(1)で算出される相対成績係数(RCOPR410A)が0.85〜1.20である請求項1記載の熱サイクルシステム用組成物。
【数1】
(式(1)中、R410Aは、ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの質量比1:1の混合物を示し、検体は相対評価されるべき作動媒体を示す。検体およびR410Aの成績係数は、これらを、蒸発温度を−15℃(ただし、非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)、凝縮温度を30℃(ただし、非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)、過冷却度(SC)を5℃、過熱度(SH)を0℃とする基準冷凍サイクルに、それぞれ適用した際に得られる出力(kW)を、要した消費動力(kW)で除した値である。)
【請求項3】
前記熱サイクル用作動媒体の下記式(2)で算出される相対冷凍能力(RQR410A)が0.70〜1.50である請求項1または2記載の熱サイクル用作動媒体を含む熱サイクルシステム用組成物。
【数2】
(式(2)中、R410Aは、ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの質量比1:1の混合物を示し、検体は相対評価されるべき作動媒体を示す。検体およびR410Aの冷凍能力は、これらを、蒸発温度を−15℃(ただし、非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)、凝縮温度を30℃(ただし、非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)、過冷却度(SC)を5℃、過熱度(SH)を0℃とする基準冷凍サイクルに、それぞれ適用した際に得られる出力(kW)である。)
【請求項4】
前記熱サイクル用作動媒体の、蒸発温度を−15℃(ただし、非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)、凝縮温度を30℃(ただし、非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)、過冷却度(SC)を5℃、過熱度(SH)を0℃とする基準冷凍サイクルに適用した際の蒸発器における蒸発の開始温度と完了温度の差で示される温度勾配が、8℃以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項5】
前記熱サイクル用作動媒体の、蒸発温度を−15℃(ただし、非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)、凝縮温度を30℃(ただし、非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)、過冷却度(SC)を5℃、過熱度(SH)を0℃とする基準冷凍サイクル適用した際の圧縮機吐出ガス温度(Tx)から、ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの質量比1:1の混合物を前記基準冷凍サイクル適用した際の圧縮機吐出ガス温度(TR410A)を引いた値(TΔ)が30℃以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱サイクル用作動媒体を含む熱サイクルシステム用組成物。
【請求項6】
前記熱サイクル用作動媒体の、燃焼熱が19MJ/kg未満である請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項7】
前記熱サイクル用作動媒体に占める1,1,2−トリフルオロエチレンの割合が20〜80質量%であり、ジフルオロメタンの割合が10〜75質量%であり、かつ2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの割合が5〜50質量%である請求項1〜のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物を用いた、熱サイクルシステム。
【請求項9】
前記熱サイクルシステムが冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置または二次冷却機である請求項に記載の熱サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱サイクルシステム用組成物および該組成物を用いた熱サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。
従来、冷凍機用冷媒、空調機器用冷媒、発電システム(廃熱回収発電等)用作動媒体、潜熱輸送装置(ヒートパイプ等)用作動媒体、二次冷却媒体等の熱サイクルシステム用の作動媒体としては、クロロトリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン等のクロロフルオロカーボン(CFC)、クロロジフルオロメタン等のヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が用いられてきた。しかし、CFCおよびHCFCは、成層圏のオゾン層への影響が指摘され、現在、規制の対象となっている。
【0003】
このような経緯から、熱サイクルシステム用作動媒体としては、CFCやHCFCに代えて、オゾン層への影響が少ない、ジフルオロメタン(HFC−32)、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC−125)等のヒドロフルオロカーボン(HFC)が用いられるようになった。例えば、R410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の擬似共沸混合冷媒)等は従来から広く使用されてきた冷媒である。しかし、HFCは、地球温暖化の原因となる可能性が指摘されている。
【0004】
R410Aは、冷凍能力の高さからいわゆるパッケージエアコンやルームエアコンと言われる通常の空調機器等に広く用いられてきた。しかし、地球温暖化係数(GWP)が2088と高く、そのため低GWP作動媒体の開発が求められている。この際、R410Aを単に置き換えて、これまで用いられてきた機器をそのまま使用し続けることを前提にした作動媒体の開発が求められている。
【0005】
最近、炭素−炭素二重結合を有しその結合が大気中のOHラジカルによって分解されやすいことから、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が少ない作動媒体である、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)、すなわち炭素−炭素二重結合を有するHFCに期待が集まっている。本明細書においては、特に断りのない限り飽和のHFCをHFCといい、HFOとは区別して用いる。また、HFCを飽和のヒドロフルオロカーボンのように明記する場合もある。
【0006】
HFOを用いた作動媒体として、例えば、特許文献1には上記特性を有するとともに、優れたサイクル性能が得られる1,1,2−トリフルオロエチレン(HFO−1123)を用いた作動媒体に係る技術が開示されている。特許文献1においては、さらに、該作動媒体の不燃性、サイクル性能等を高める目的で、HFO−1123に、各種HFCやHFOを組み合わせて作動媒体とする試みもされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1には、R410Aの代替候補として、能力、効率および温度勾配とのバランスを総合的に勘案して実用に供せられる作動媒体を得る観点から、HFO−1123とHFCや他のHFOを組み合わせて作動媒体とする知見や示唆は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2012/157764号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、HFO−1123を含む熱サイクルシステム用組成物において、地球温暖化への影響を抑えながら、R410Aと代替が可能なサイクル性能を有する作動媒体を含む熱サイクルシステム用組成物、および該組成物を用いた熱サイクルシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の[1]〜[17]に記載の構成を有する熱サイクルシステム用組成物および熱サイクルシステムを提供する。
[1]HFO−1123を含み、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告による地球温暖化係数(100年)が675未満である熱サイクル用作動媒体を含む熱サイクルシステム用組成物。
[2]前記熱サイクル用作動媒体の下記式(1)で算出される相対成績係数(RCOPR410A)が0.85〜1.20である[1]記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0011】
【数1】
(式(1)中、R410Aは、HFC−32とHFC−125の質量比1:1の混合物を示し、検体は相対評価されるべき作動媒体を示す。検体およびR410Aの成績係数は、これらを、蒸発温度を−15℃(ただし非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)、凝縮温度を30℃(ただし非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)、過冷却度(SC)を5℃、過熱度(SH)を0℃とする基準冷凍サイクルに、それぞれ適用した際に得られる出力(kW)を、要した消費動力(kW)で除した値である。)
【0012】
[3]前記熱サイクル用作動媒体の下記式(2)で算出される相対冷凍能力(RQR410A)が0.70〜1.50である[1]または[2]記載の熱サイクル用作動媒体を含む熱サイクルシステム用組成物。
【0013】
【数2】
(式(2)中、R410Aは、HFC−32とHFC−125の質量比1:1の混合物を示し、検体は相対評価されるべき作動媒体を示す。検体およびR410Aの冷凍能力は、これらを、蒸発温度を−15℃(ただし、非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)、凝縮温度を30℃(ただし、非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)、過冷却度(SC)を5℃、過熱度(SH)を0℃とする基準冷凍サイクルに、それぞれ適用した際に得られる出力(kW)である。)
【0014】
[4]前記熱サイクル用作動媒体の、蒸発温度を−15℃(ただし、非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)、凝縮温度を30℃(ただし、非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)、過冷却度(SC)を5℃、過熱度(SH)を0℃とする基準冷凍サイクルに適用した際の蒸発器における蒸発の開始温度と完了温度の差で示される温度勾配が、8℃以下である[1]〜[3]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[5]前記熱サイクル用作動媒体の、蒸発温度を−15℃(ただし非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)、凝縮温度を30℃(ただし非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)、過冷却度(SC)を5℃、過熱度(SH)を0℃とする基準冷凍サイクル適用した際の圧縮機吐出ガス温度(Tx)から、HFC−32とHFC−125の質量比1:1の混合物を前記基準冷凍サイクル適用した際の圧縮機吐出ガス温度(TR410A)を引いた値(TΔ)が30℃以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の熱サイクル用作動媒体を含む熱サイクルシステム用組成物。
[6]前記熱サイクル用作動媒体の、燃焼熱が19MJ/kg未満である[1]〜[5]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0015】
[7]前記熱サイクル用作動媒体がさらに飽和のヒドロフルオロカーボンから選ばれる少なくとも1種を含む[1]〜[6]のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[8]前記飽和のヒドロフルオロカーボンがHFC−32、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)およびHFC−125から選ばれる少なくとも1種である[7]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[9]前記飽和のヒドロフルオロカーボンがHFC−32である[8]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0016】
[10]前記熱サイクル用作動媒体がさらにHFO−1123以外の炭素−炭素二重結合を有するヒドロフルオロカーボンから選ばれる少なくとも1種を含む[1]〜[9]のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[11]前記炭素−炭素二重結合を有するヒドロフルオロカーボンが、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)および2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)から選ばれる少なくとも1種である[10]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[12]前記炭素−炭素二重結合を有するヒドロフルオロカーボンが、HFO−1234yfである請求項11に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0017】
[13]前記熱サイクル用作動媒体に占めるHFO−1123の割合が20質量%以上である[1]〜[12]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[14]前記熱サイクル用作動媒体に占めるHFO−1123の割合が20〜80質量%である[1]〜[12]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[15]前記熱サイクル用作動媒体に占めるHFO−1123の割合が40〜60質量%である[1]〜[12]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[16]前記[1]〜[15]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物を用いた、熱サイクルシステム。
[17]前記熱サイクルシステムが冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置または二次冷却機である[16]に記載の熱サイクルシステム。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、HFO−1123を含む熱サイクルシステム用組成物において、地球温暖化への影響を抑えながら、R410Aと代替が可能なサイクル性能を有する作動媒体を含む熱サイクルシステム用組成物が提供できる。
本発明の熱サイクルシステムは、R410Aと代替可能であり、かつ地球温暖化への影響が少ない熱サイクルシステム用組成物が適用された熱サイクルシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の熱サイクルシステムを評価する基準冷凍サイクルシステムの一例を示す概略構成図である。
図2図1の冷凍サイクルシステムにおける作動媒体の状態変化を圧力−エンタルピ線図上に記載したサイクル図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[熱サイクルシステム用組成物]
本発明の熱サイクルシステム用組成物は、HFO−1123を含み、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告による地球温暖化係数(100年)が675未満である熱サイクル用作動媒体(以下、単に「作動媒体」ともいう。)を含有する。
【0021】
本発明の熱サイクルシステム用組成物においては、地球温暖化への影響を抑えながら、R410Aに代替して使用可能な作動媒体として、HFO−1123を含有する作動媒体を用いる。
【0022】
(A)地球温暖化係数(GWP)
本発明においては、作動媒体の地球温暖化への影響をはかる指標として、GWPを用いた。本明細書において、GWPは、特に断りのない限り気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)の100年の値とする。また、混合物におけるGWPは、組成質量による加重平均とする。
【0023】
本発明に係る作動媒体が含有するHFO−1123の地球温暖化係数(100年)は、IPCC第4次評価報告書に準じて測定された値として、0.3である。この値は、他のHFOのGWP、例えば、HFO−1234zeの6、HFO−1234yfの4等に比べても格段に小さい値である。
【0024】
また、本発明に係る作動媒体が代替しようとするサイクル性能に優れるR410A(HFC−125とHFC−32との1:1(質量)組成物)は、GWPが2088と極めて高く、R410Aが含有する2種類のHFCおよび、その他の代表的なHFC、例えばHFC−134aについても、以下の表1に示すとおりGWPは高い。
【0025】
【表1】
【0026】
ここで、ある作動媒体を熱サイクルに適用する際に必要とされる性質として、サイクル性能は、成績係数(本明細書において、「COP」ともいう。)および能力(本明細書において、「Q」ともいう。)で評価できる。熱サイクルシステムが冷凍サイクルシステムの場合、能力は冷凍能力である。作動媒体を冷凍サイクルシステムに適用した場合の評価項目として、上記サイクル性能の他に温度勾配および圧縮機吐出ガス温度がさらに挙げられる。本発明においては、作動媒体の性能の評価は、上記4項目を指標として行う。具体的には、以下に示す温度条件の基準冷凍サイクルを用いて、例えば、後述の方法で各項目について測定し、温度勾配を除いて代替の対象としてのR410Aの値を基準とする相対値に換算して評価する。以下評価項目について具体的に説明する。
【0027】
(基準冷凍サイクルの温度条件)
蒸発温度;−15℃(ただし、非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)
凝縮完了温度;30℃(ただし、非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)
過冷却度(SC);5℃
過熱度(SH);0℃
【0028】
(B)相対冷凍能力;以下、「RQR410A」ともいう。
冷凍能力は、冷凍サイクルシステムおける出力である。R410Aに対する相対冷凍能力は以下の式(2)で求めることができる。なお、式(2)において、検体は相対評価されるべき作動媒体を示す。
【0029】
【数3】
【0030】
(C)相対成績係数;以下、「RCOPR410A」ともいう。
成績係数は、出力(kW)を得るのに消費された動力(kW)で、該出力(kW)を除した値であり、エネルギー消費効率に相当する。成績係数の値が高いほど、少ない入力により大きな出力を得ることができる。R410Aに対する相対成績係数は以下の式(1)で求めることができる。なお、式(1)において、検体は相対評価されるべき作動媒体を示す。
【0031】
【数4】
【0032】
(D)温度勾配
温度勾配は、混合物の作動媒体における液相、気相での組成の差異をはかる指標である。温度勾配は、熱交換器、例えば、蒸発器における蒸発の、または凝縮器における凝縮の、開始温度と完了温度が異なる性質、と定義される。共沸混合媒体においては、温度勾配は0であり、R410Aのような擬似共沸混合物では温度勾配は極めて0に近い。
【0033】
温度勾配が大きいと、例えば、蒸発器における入口温度が低下することで着霜の可能性が大きくなり問題である。さらに、熱サイクルシステムにおいては、熱交換効率の向上をはかるために熱交換器を流れる作動媒体と水や空気等の熱源流体を対向流にすることが一般的であり、安定運転状態においては該熱源流体の温度差が小さいことから、温度勾配の大きい非共沸混合媒体の場合、エネルギー効率のよい熱サイクルシステムを得ることが困難である。このため、混合物を作動媒体として使用する場合は適切な温度勾配を有する作動媒体が望まれる。
【0034】
さらに、非共沸混合媒体は、圧力容器から冷凍空調機器へ充てんされる際に組成変化を生じる問題点を有している。さらに、冷凍空調機器からの冷媒漏えいが生じた場合、冷凍空調機器内の冷媒組成が変化する可能が極めて大きく、初期状態への冷媒組成の復元が困難である。一方、共沸または擬似共沸の混合媒体であれば上記問題が回避できる。
【0035】
(E)圧縮機吐出ガス温度差TΔ
検体すなわち相対評価されるべき作動媒体の圧縮機吐出ガス温度(Tx)から、R410Aの圧縮機吐出ガス温度(TR410A)を引いた値(TΔ)を評価する。冷凍サイクルにおける圧縮機吐出ガス温度(以下、「吐出温度」ともいう。)は、冷凍サイクルにおける最高温度である。圧縮機を構成する材料、熱サイクルシステム用組成物が作動媒体以外に通常含有する冷凍機油、高分子材料の耐熱性に影響することから、吐出温度は低い方が好ましい。R410Aに代替するためには、吐出温度はR410Aの吐出温度より低いか高くても、R410Aにより稼働していた熱サイクルシステム構成機器が許容できる温度である必要がある。
【0036】
HFO−1123における上記(B)〜(E)の4項目の評価結果を上記(A)のGWPとともにR410Aの結果と併せて表2に示す。また、上記HFCの中でも、単独で安全に使用できるHFCのうちで最もGWPが低いHFC−32の結果を表2に示す。
【0037】
HFO−1123は上記のとおり非常に低いGWPを有する。一方、熱サイクルシステムにR410Aに代替する形で用いるには、以下の表2に示すようにHFO−1123の単独使用ではRCOPR410Aの点でさらなる向上が求められる場合もある。
【0038】
作動媒体においては、サイクル性能の向上や、地球温暖化への影響を勘案して、例えば、R410Aのように2種類以上の化合物の混合媒体とすることがよく行われる。HFO−1123についても、サイクル性能、温度勾配、地球温暖化への影響等をバランスよく取りながら用途に応じて様々な組成に調整される。
【0039】
HFO−1123は上記のとおりGWPが非常に小さいことから、例えば、サイクル性能等の向上のために、サイクル能力が高くGWPが高いHFCとの組合せにおいて混合組成を得る際に、他のHFOに比べて、GWPを低く抑えながらサイクル性能を向上することができる点で有利である。さらに、本発明の熱サイクルシステム用組成物に用いるHFO−1123を含む作動媒体は、GWPが675未満であって、HFCでは達成できない低いGWPの作動媒体である。
【0040】
【表2】
【0041】
本発明に用いるHFO−1123を含む作動媒体は、GWP<675である。GWPは500以下が好ましく、300以下がより好ましく、150以下が特に好ましい。
さらに、本発明に用いるHFO−1123を含む作動媒体は、(B)相対冷凍能力RQR410Aは、0.70〜1.50であることが好ましく、0.90〜1.50がより好ましく、1.00〜1.50が特に好ましい。
【0042】
(C)相対成績係数RCOPR410Aについては、0.85〜1.20であることが好ましく、0.90〜1.20がより好ましく、0.95〜1.20が特に好ましい。(D)温度勾配は、8℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましく、3℃以下がさらに好ましく、1℃以下が特に好ましい。
(E)吐出温度差TΔについては30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下が特に好ましい。
【0043】
これらの、(A)〜(E)の項目について、好ましい範囲の関係を表3に示す。表3において、各項目については、(1)→(2)→(3)→(4)の順に好ましい条件範囲が限定されている。(4)は最も好ましい範囲を示す。なお、表3にはさらに、(F)燃焼熱が19MJ/kg未満の条件が記載されている。燃焼熱は燃焼反応に伴い発生する熱量を表しており、燃焼熱が19MJ/kg以上の場合、米国規格ASHRAE34規格において、燃焼性の強い強燃性区分に分類されるため、19MJ/kg未満が好ましい。
【0044】
【表3】
【0045】
本発明に用いるHFO−1123を含む作動媒体は、表3における(A)−(1)の条件を満足することが必須である。それ以外は、各項目における各レベルでの組合せに特に制限はない。なお、最も好ましいのは(A)−(4)、(B)−(3)、(C)−(3)、(D)−(4)、(E)−(3)、(F)−(1)の全ての条件を満足する作動媒体である。
【0046】
上記評価に用いる冷凍サイクルシステムとしては、例えば、図1に概略構成図が示される冷凍サイクルシステムが使用できる。以下、図1に示す冷凍サイクルシステムを用いて、サイクル性能、温度勾配および圧縮機吐出ガス温度(Tx)を評価する方法について説明する。
【0047】
図1に示す冷凍サイクルシステム10は、作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14と、蒸発器14に負荷流体Eを供給するポンプ15と、凝縮器12に流体Fを供給するポンプ16とを具備して概略構成されるシステムである。
【0048】
冷凍サイクルシステム10においては、以下の(i)〜(iv)のサイクルが繰り返される。
(i)蒸発器14から排出された作動媒体蒸気Aを圧縮機11にて圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする(以下、「AB過程」という。)。
(ii)圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを凝縮器12にて流体Fによって冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする。この際、流体Fは加熱されて流体F’となり、凝縮器12から排出される(以下、「BC過程」という。)。
【0049】
(iii)凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張弁13にて膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする(以下、「CD過程」という。)。
(iv)膨張弁13から排出された作動媒体Dを蒸発器14にて負荷流体Eによって加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする。この際、負荷流体Eは冷却されて負荷流体E’となり、蒸発器14から排出される(以下、「DA過程」という。)。
【0050】
冷凍サイクルシステム10は、断熱・等エントロピ変化、等エンタルピ変化および等圧変化からなるサイクルシステムである。作動媒体の状態変化を、図2に示される圧力−エンタルピ線(曲線)図上に記載すると、A、B、C、Dを頂点とする台形として表すことができる。
【0051】
AB過程は、圧縮機11で断熱圧縮を行い、高温低圧の作動媒体蒸気Aを高温高圧の作動媒体蒸気Bとする過程であり、図2においてAB線で示される。後述のとおり、作動媒体蒸気Aは過熱状態で圧縮機11に導入され、得られる作動媒体蒸気Bも過熱状態の蒸気である。圧縮機吐出ガス温度(吐出温度)は、図2においてBの状態の温度(Tx)であり、冷凍サイクルにおける最高温度である。
【0052】
BC過程は、凝縮器12で等圧冷却を行い、高温高圧の作動媒体蒸気Bを低温高圧の作動媒体Cとする過程であり、図2においてBC線で示される。この際の圧力が凝縮圧である。圧力−エンタルピ線とBC線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tが凝縮温度であり、低エンタルピ側の交点Tが凝縮沸点温度である。ここで、作動媒体が非共沸混合媒体である場合の温度勾配は、TとTの差として示される。
【0053】
CD過程は、膨張弁13で等エンタルピ膨張を行い、低温高圧の作動媒体Cを低温低圧の作動媒体Dとする過程であり、図2においてCD線で示される。なお、低温高圧の作動媒体Cにおける温度をTで示せば、T−Tが(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過冷却度(SC)となる。
【0054】
DA過程は、蒸発器14で等圧加熱を行い、低温低圧の作動媒体Dを高温低圧の作動媒体蒸気Aに戻す過程であり、図2においてDA線で示される。この際の圧力が蒸発圧である。圧力−エンタルピ線とDA線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tは蒸発温度である。作動媒体蒸気Aの温度をTで示せば、T−Tが(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過熱度(SH)となる。なお、Tは作動媒体Dの温度を示す。
【0055】
作動媒体のQとCOPは、作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態における各エンタルピ、h、h、h、hを用いると、下式(11)、(12)からそれぞれ求められる。機器効率による損失、および配管、熱交換器における圧力損失はないものとする。
【0056】
作動媒体のサイクル性能の算出に必要となる熱力学性質は、対応状態原理に基づく一般化状態方程式(Soave−Redlich−Kwong式)、および熱力学諸関係式に基づき算出できる。特性値が入手できない場合は、原子団寄与法に基づく推算手法を用い算出を行う。
【0057】
Q=h−h …(11)
COP=Q/圧縮仕事=(h−h)/(h−h) …(12)
【0058】
上記(h−h)で示されるQが冷凍サイクルの出力(kW)に相当し、(h−h)で示される圧縮仕事、例えば、圧縮機を運転するために必要とされる電力量が、消費された動力(kW)に相当する。また、Qは負荷流体を冷凍する能力を意味しており、Qが高いほど同一のシステムにおいて、多くの仕事ができることを意味している。言い換えると、大きなQを有する場合は、少量の作動媒体で目的とする性能が得られることを表しており、システムの小型化が可能となる。
【0059】
本発明の熱サイクルシステム用組成物が適用される熱サイクルシステムとしては、凝縮器や蒸発器等の熱交換器による熱サイクルシステムが特に制限なく用いられる。熱サイクルシステム、例えば、冷凍サイクルにおいては、気体の作動媒体を圧縮機で圧縮し、凝縮器で冷却して圧力が高い液体をつくり、膨張弁で圧力を下げ、蒸発器で低温気化させて気化熱で熱を奪う機構を有する。
【0060】
<作動媒体の組成>
上記の本発明の熱サイクルシステム用組成物はHFO−1123を含有する作動媒体を含有し、該作動媒体のGWPは675未満である。
本発明に係る作動媒体は、HFO−1123に加えて、必要に応じて、以下の任意成分を含んでいてもよい。作動媒体の100質量%に対するHFO−1123の含有量は、20質量%以上が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。
【0061】
任意の化合物(任意成分)としては、例えば、HFC、HFO−1123以外のHFO(炭素−炭素二重結合を有するHFC)、これら以外のHFO−1123とともに気化、液化する他の成分等が挙げられる。任意成分としては、HFC、HFO−1123以外のHFO(炭素−炭素二重結合を有するHFC)が好ましい。
【0062】
任意成分としては、HFO−1123と組み合わせて熱サイクルに用いた際に、上記相対成績係数、相対冷凍能力をより高める作用を有しながら、GWPや温度勾配、吐出温度差TΔを許容の範囲にとどめられる化合物が好ましい。作動媒体がHFO−1123との組合せにおいてこのような化合物を含むと、GWPを低く維持しながら、より良好なサイクル性能が得られるとともに、温度勾配や吐出温度差による影響も少ない。
【0063】
(HFC)
任意成分のHFCとしては、上記観点から選択されることが好ましい。HFO−1123と組合せるHFCとしては、上記作動媒体としてのサイクル性能を向上させ、かつ温度勾配を適切な範囲にとどめることに加えて、特にGWPを許容の範囲にとどめる観点から、適宜選択されることが好ましい。
【0064】
オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さいHFCとして具体的には炭素数1〜5のHFCが好ましい。HFCは、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0065】
HFCとしては、ジフルオロメタン(HFC−32)、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が挙げられる。
【0066】
なかでも、HFCとしては、オゾン層への影響が少なく、かつ冷凍サイクル特性が優れる点から、HFC−32、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、およびHFC−125が好ましく、HFC−32、HFC−152a、HFC−134a、およびHFC−125がより好ましい。
HFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
作動媒体(100質量%)中のHFCの含有量は、作動媒体の要求特性に応じ任意に選択可能である。例えば、HFO−1123とHFC−32からなる作動媒体の場合、HFC−32の含有量が1〜99質量%の範囲で相対成績係数が向上する。HFO−1123とHFC−134aからなる作動媒体の場合、HFC−134aの含有量が1〜47質量%でGWPを上記範囲に抑えながら相対成績係数が向上する。
【0068】
また、得られる作動媒体のGWPを低く抑える観点から、任意成分のHFCとしては、HFC−32が最も好ましい。
また、HFO−1123とHFC−32とは、質量比で99:1〜1:99の組成範囲で共沸に近い擬似共沸混合物を形成可能であり、両者の混合物はほぼ組成範囲を選ばずに温度勾配が0に近い。この点においてもHFO−1123と組合せるHFCとしてはHFC−32が有利である。
【0069】
本発明に用いる作動媒体において、HFO−1123ととともにHFC−32を用いる場合、作動媒体の100質量%に対するHFC−32の含有量は、具体的には、20質量%以上が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。
【0070】
(HFO−1123以外のHFO)
HFO−1123以外の任意成分としてのHFOについても、上記HFCと同様の観点から選択されることが好ましい。なお、HFO−1123以外であってもHFOであれば、GWPはHFCに比べて桁違いに低い。したがって、HFO−1123と組合せるHFO−1123以外のHFOとしては、GWPを考慮するよりも、上記作動媒体としてのサイクル性能を向上させ、かつ温度勾配、吐出温度差TΔを適切な範囲にとどめることに特に留意して、適宜選択されることが好ましい。
【0071】
HFO−1123以外のHFOとしては、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)、2−フルオロプロペン(HFO−1261yf)、1,1,2−トリフルオロプロペン(HFO−1243yc)、トランス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、シス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)等が挙げられる。
【0072】
なかでも、HFO−1123以外のHFOとしては、高い臨界温度を有し、安全性、成績係数が優れる点から、HFO−1234yf、HFO−1234ze(E)、HFO−1234ze(Z)が好ましく、HFO−1234yfがより好ましい。HFO−1123以外のHFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
作動媒体(100質量%)中のHFO−1123以外のHFOの含有量は、作動媒体の要求特性に応じ任意に選択可能である。例えば、HFO−1123とHFO−1234yfまたはHFO−1234zeとからなる作動媒体の場合、HFO−1234yfまたはHFO−1234zeの含有量が1〜99質量%の範囲で成績係数が向上する。
【0074】
HFO−1123とHFO−1234yfを含む作動媒体の場合、例えば、作動媒体全量に対するHFO−1123とHFO−1234yfの合計量の割合が70〜100質量%であり、HFO−1123とHFO−1234yfの合計量に対するHFO−1234yfの割合が5〜65質量%である作動媒体が、サイクル能力、温度勾配、吐出温度差、GWPのバランスの点から好ましい。
【0075】
本発明に用いる作動媒体は、HFO−1123とHFCとHFO−1123以外のHFOとの組合せであってもよい。この場合、作動媒体は、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234yfからなることが好ましく、作動媒体全量における各化合物の割合は以下の範囲が好ましい。
20質量%≦HFO−1123≦80質量%
10質量%≦HFC−32≦75質量%
5質量%≦HFO−1234yf≦50質量%
【0076】
(その他の任意成分)
本発明の熱サイクルシステム用組成物に用いる作動媒体は、上記任意成分以外に、二酸化炭素、炭化水素、クロロフルオロオレフィン(CFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)等を含有してもよい。その他の任意成分としてはオゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい成分が好ましい。
【0077】
炭化水素としては、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン等が挙げられる。
炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
上記作動媒体が炭化水素を含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満が好ましく、1〜5質量%がより好ましく、3〜5質量%がさらに好ましい。炭化水素の含有量が下限値以上であれば、作動媒体への鉱物系冷凍機油の溶解性がより良好になる。
【0079】
CFOとしては、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロエチレン等が挙げられる。作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、CFOとしては、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214ya)、1,3−ジクロロ−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214yb)、1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエチレン(CFO−1112)が好ましい。
CFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
作動媒体がCFOを含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満が好ましく、1〜8質量%がより好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。CFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。CFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0081】
HCFOとしては、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロエチレン等が挙げられる。作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、HCFOとしては、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)、1−クロロ−1,2−ジフルオロエチレン(HCFO−1122)が好ましい。
HCFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
上記作動媒体がHCFOを含む場合、作動媒体100質量%中のHCFOの含有量は、10質量%未満が好ましく、1〜8質量%がより好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。HCFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。HCFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0083】
本発明の熱サイクルシステム用組成物に用いる作動媒体が上記のようなその他の任意成分を含有する場合、作動媒体におけるその他の任意成分の合計含有量は、作動媒体100質量%に対して10質量%未満が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0084】
本発明の熱サイクルシステム用組成物は、上記作動媒体以外に、通常の熱サイクルシステム用組成物が含むのと同様に冷凍機油を含有する。作動媒体と冷凍機油を含む熱サイクルシステム用組成物は、これら以外にさらに、安定剤、漏れ検出物質等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0085】
<冷凍機油>
冷凍機油としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステム用組成物に用いられる公知の冷凍機油が特に制限なく採用できる。冷凍機油として具体的には、含酸素系合成油(エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油等)、フッ素系冷凍機油、鉱物系冷凍機油、炭化水素系合成油等が挙げられる。
【0086】
エステル系冷凍機油としては、二塩基酸エステル油、ポリオールエステル油、コンプレックスエステル油、ポリオール炭酸エステル油等が挙げられる。
【0087】
二塩基酸エステル油としては、炭素数5〜10の二塩基酸(グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)と、直鎖または分枝アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール等)とのエステルが好ましい。具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3−エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0088】
ポリオールエステル油としては、ジオール(エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ネオペンチルグリコール、1,7−ヘプタンジオール、1,12−ドデカンジオール等)または水酸基を3〜20個有するポリオール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物等)と、炭素数6〜20の脂肪酸(ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸等の直鎖または分枝の脂肪酸、もしくはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸等)とのエステルが好ましい。
なお、これらのポリオールエステル油は、遊離の水酸基を有していてもよい。
【0089】
ポリオールエステル油としては、ヒンダードアルコール(ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスルトール等)のエステル(トリメチロールプロパントリペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート等)が好ましい。
【0090】
コンプレックスエステル油とは、脂肪酸および二塩基酸と、一価アルコールおよびポリオールとのエステルである。脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、上述と同様のものを用いることができる。
【0091】
ポリオール炭酸エステル油とは、炭酸とポリオールとのエステルである。
ポリオールとしては、上述と同様のジオールや上述と同様のポリオールが挙げられる。また、ポリオール炭酸エステル油としては、環状アルキレンカーボネートの開環重合体であってもよい。
【0092】
エーテル系冷凍機油としては、ポリビニルエーテル油やポリオキシアルキレン油が挙げられる。
【0093】
ポリビニルエーテル油としては、アルキルビニルエーテルなどのビニルエーテルモノマーを重合して得られたもの、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合して得られた共重合体がある。
ビニルエーテルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとしては、エチレン、プロピレン、各種ブテン、各種ペンテン、各種ヘキセン、各種ヘプテン、各種オクテン、ジイソブチレン、トリイソブチレン、スチレン、α−メチルスチレン、各種アルキル置換スチレン等が挙げられる。オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
ポリビニルエーテル共重合体は、ブロックまたはランダム共重合体のいずれであってもよい。ポリビニルエーテル油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオール、ポリオキシアルキレンポリオール、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのアルキルエーテル化物、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのエステル化物等が挙げられる。
【0097】
ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールは、水酸化アルカリなどの触媒の存在下、水や水酸基含有化合物などの開始剤に炭素数2〜4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を開環付加重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレン鎖中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。
【0098】
反応に用いる開始剤としては、水、メタノールやブタノール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、グリセロール等の多価アルコールが挙げられる。
【0099】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールの、アルキルエーテル化物やエステル化物が好ましい。また、ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリオキシアルキレングリコールが好ましい。特に、ポリグリコール油と呼ばれる、ポリオキシアルキレングリコールの末端水酸基がメチル基等のアルキル基でキャップされた、ポリオキシアルキレングリコールのアルキルエーテル化物が好ましい。
【0100】
フッ素系冷凍機油としては、合成油(後述する鉱物油、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等)の水素原子をフッ素原子に置換した化合物、ペルフルオロポリエーテル油、フッ素化シリコーン油等が挙げられる。
【0101】
鉱物系冷凍機油としては、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた冷凍機油留分を、精製処理(溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、白土処理等)を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油等が挙げられる。
【0102】
炭化水素系合成油としては、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。
【0103】
冷凍機油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
冷凍機油としては、作動媒体との相溶性の点から、ポリオールエステル油、ポリビニルエーテル油およびポリグリコール油から選ばれる1種以上が好ましい。
【0104】
熱サイクルシステム用組成物における、冷凍機油の含有量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、10〜100質量部が好ましく、20〜50質量部がより好ましい。
【0105】
<その他任意成分>
熱サイクルシステム用組成物が任意に含有する安定剤は、熱および酸化に対する作動媒体の安定性を向上させる成分である。安定剤としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の安定剤、例えば、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等が特に制限なく採用できる。
【0106】
耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤としては、N,N’−ジフェニルフェニレンジアミン、p−オクチルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、N−(p−ドデシル)フェニル−2−ナフチルアミン、ジ−1−ナフチルアミン、ジ−2−ナフチルアミン、N−アルキルフェノチアジン、6−(t−ブチル)フェノール、2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4−メチル−2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0107】
金属不活性剤としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズチアゾール、2,5−ジメチルカプトチアジアゾール、サリシリジン−プロピレンジアミン、ピラゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾール、2−メチルベンズアミダゾール、3,5−ジメチルピラゾール、メチレンビス−ベンゾトリアゾール、有機酸またはそれらのエステル、第1級、第2級または第3級の脂肪族アミン、有機酸または無機酸のアミン塩、複素環式窒素含有化合物、アルキル酸ホスフェートのアミン塩またはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0108】
熱サイクルシステム用組成物における、安定剤の含有量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
【0109】
熱サイクルシステム用組成物が任意に含有する漏れ検出物質としては、紫外線蛍光染料、臭気ガスや臭いマスキング剤等が挙げられる。
紫外線蛍光染料としては、米国特許第4249412号明細書、特表平10−502737号公報、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来、ハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の紫外線蛍光染料が挙げられる。
【0110】
臭いマスキング剤としては、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の香料が挙げられる。
【0111】
漏れ検出物質を用いる場合には、作動媒体への漏れ検出物質の溶解性を向上させる可溶化剤を用いてもよい。
【0112】
可溶化剤としては、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等が挙げられる。
【0113】
熱サイクルシステム用組成物における、漏れ検出物質の含有量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0114】
[熱サイクルシステム]
本発明の熱サイクルシステムは、本発明の熱サイクルシステム用組成物を用いたシステムである。本発明の熱サイクルシステムは、凝縮器で得られる温熱を利用するヒートポンプシステムであってもよく、蒸発器で得られる冷熱を利用する冷凍サイクルシステムであってもよい。
【0115】
本発明の熱サイクルシステムとして、具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機等が挙げられる。なかでも、本発明の熱サイクルシステムは、より高温の作動環境でも安定してかつ安全に熱サイクル性能を発揮できるため、屋外等に設置されることが多い空調機器として用いられることが好ましい。また、本発明の熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器として用いられることも好ましい。
【0116】
空調機器として、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン(店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン等)、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等が挙げられる。
【0117】
冷凍・冷蔵機器として、具体的には、ショーケース(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース等)、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等が挙げられる。
【0118】
発電システムとしては、ランキンサイクルシステムによる発電システムが好ましい。
発電システムとして、具体的には、蒸発器において地熱エネルギー、太陽熱、50〜200℃程度の中〜高温度域廃熱等により作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、該断熱膨張によって発生する仕事によって発電機を駆動させ、発電を行うシステムが例示される。
【0119】
また、本発明の熱サイクルシステムは、熱輸送装置であってもよい。熱輸送装置としては、潜熱輸送装置が好ましい。
【0120】
潜熱輸送装置としては、装置内に封入された作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮等の現象を利用して潜熱輸送を行うヒートパイプおよび二相密閉型熱サイフォン装置が挙げられる。ヒートパイプは、半導体素子や電子機器の発熱部の冷却装置等、比較的小型の冷却装置に適用される。二相密閉型熱サイフォンは、ウィッグを必要とせず構造が簡単であることから、ガス−ガス型熱交換器、道路の融雪促進および凍結防止等に広く利用される。
【0121】
なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
【0122】
熱サイクルシステム内に水分が混入すると、特に低温で使用される際に問題が生じる場合がある。例えば、キャピラリーチューブ内での氷結、作動媒体や冷凍機油の加水分解、サイクル内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生等の問題が発生する。特に、冷凍機油がポリグリコール油、ポリオールエステル油等である場合は、吸湿性が極めて高く、また、加水分解反応を生じやすく、冷凍機油としての特性が低下し、圧縮機の長期信頼性を損なう大きな原因となる。したがって、冷凍機油の加水分解を抑えるためには、熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する必要がある。
【0123】
熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する方法としては、乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト等)等の水分除去手段を用いる方法が挙げられる。乾燥剤は、液状の熱サイクルシステム用組成物と接触させることが、脱水効率の点で好ましい。例えば、凝縮器12の出口、または蒸発器14の入口に乾燥剤を配置して、熱サイクルシステム用組成物と接触させることが好ましい。
【0124】
乾燥剤としては、乾燥剤と熱サイクルシステム用組成物との化学反応性、乾燥剤の吸湿能力の点から、ゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0125】
ゼオライト系乾燥剤としては、従来の鉱物系冷凍機油に比べて吸湿量の高い冷凍機油を用いる場合には、吸湿能力に優れる点から、下式(3)で表される化合物を主成分とするゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0126】
2/nO・Al・xSiO・yHO …(3)
ただし、Mは、Na、K等の1族の元素またはCa等の2族の元素であり、nは、Mの原子価であり、x、yは、結晶構造にて定まる値である。Mを変化させることにより細孔径を調整できる。
【0127】
乾燥剤の選定においては、細孔径および破壊強度が重要である。
熱サイクルシステム用組成物が含有する作動媒体の分子径よりも大きい細孔径を有する乾燥剤を用いた場合、作動媒体が乾燥剤中に吸着され、その結果、作動媒体と乾燥剤との化学反応が生じ、不凝縮性気体の生成、乾燥剤の強度の低下、吸着能力の低下等の好ましくない現象を生じることとなる。
【0128】
したがって、乾燥剤としては、細孔径の小さいゼオライト系乾燥剤を用いることが好ましい。特に、細孔径が3.5オングストローム以下である、ナトリウム・カリウムA型の合成ゼオライトが好ましい。作動媒体の分子径よりも小さい細孔径を有するナトリウム・カリウムA型合成ゼオライトを適用することによって、作動媒体を吸着することなく、熱サイクルシステム内の水分のみを選択的に吸着除去できる。言い換えると、作動媒体の乾燥剤への吸着が起こりにくいことから、熱分解が起こりにくくなり、その結果、熱サイクルプシステムを構成する材料の劣化やコンタミナンツの発生を抑制できる。
【0129】
ゼオライト系乾燥剤の大きさは、小さすぎると熱サイクルシステムの弁や配管細部への詰まりの原因となり、大きすぎると乾燥能力が低下するため、約0.5〜5mmが好ましい。形状としては、粒状または円筒状が好ましい。
【0130】
ゼオライト系乾燥剤は、粉末状のゼオライトを結合剤(ベントナイト等)で固めることにより任意の形状とすることができる。ゼオライト系乾燥剤を主体とするかぎり、他の乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ等)を併用してもよい。
熱サイクルシステム用組成物に対するゼオライト系乾燥剤の使用割合は、特に限定されない。
【0131】
さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や冷凍機油と反応し、分解を促進する。
【0132】
不凝縮性気体濃度は、作動媒体の気相部において、作動媒体に対する容積割合で1.5体積%以下が好ましく、0.5体積%以下が特に好ましい。
【0133】
以上説明した本発明の熱サイクルシステムにあっては、本発明の作動媒体を用いることで、安全性が高く、地球温暖化への影響を抑えつつ、実用上充分なサイクル性能が得られるとともに、温度勾配に係る問題も殆どない。
【実施例】
【0134】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0135】
[例1〜58]
例1〜58において、HFO−1123と、HFO−1234yf、HFC−32、HFC−134aの少なくとも1種を表4〜7に示す割合で混合した作動媒体を作製し、上記の方法で、温度勾配、吐出温度差および冷凍サイクル性能(相対冷凍能力および相対成績係数)を測定、算出した。別に測定、算出した燃焼熱とともに結果を表4〜7に示す。
【0136】
【表4】
【0137】
【表5】
【0138】
【表6】
【0139】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の熱サイクルシステム用組成物および該組成物を用いた熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等)、空調機器(ルームエアコン、店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等)、発電システム(廃熱回収発電等)、熱輸送装置(ヒートパイプ等)に利用できる。
【符号の説明】
【0141】
10…冷凍サイクルシステム、11…圧縮機、12…凝縮器、13…膨張弁、14…蒸発器、15,16…ポンプ。
図1
図2