特許第6409708号(P6409708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6409708ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409708
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/28 20060101AFI20181015BHJP
   C30B 19/00 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   C30B29/28
   C30B19/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-148964(P2015-148964)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-30982(P2017-30982A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2017年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大住 修司
(72)【発明者】
【氏名】畑中 浩
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−253394(JP,A)
【文献】 特開2002−068895(JP,A)
【文献】 特開平07−315983(JP,A)
【文献】 特開平02−167886(JP,A)
【文献】 特開2007−302517(JP,A)
【文献】 特開2012−116673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性ガーネット基板を融液に接触させ、前記非磁性ガーネット基板上に、液相エピタキシャル成長法によりビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜を育成するビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法であって、
前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜を育成する育成工程終了後、育成温度から室温まで冷却する冷却工程を有しており、
前記冷却工程においては、
降温速度が200.0℃/hr以下であり、
かつ、前記育成工程終了後、前記融液が入った坩堝を下方に移動させ、次いで育成した前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜と、前記融液と、の間に遮蔽板を挿入することで、前記融液の表面と、育成した前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜とが直接対向するように配置した場合よりも、前記融液からの輻射熱が、育成した前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜に到達することを抑制するように構成するビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法。
【請求項2】
前記降温速度が、50℃/hr以上80℃/hr以下である請求項1に記載のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法。
【請求項3】
前記育成工程終了後、前記冷却工程を終えるまでの間、
育成した前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜と、前記融液と、の間に前記遮蔽を配置する請求項1または2に記載のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法。
【請求項4】
前記遮蔽は、
300℃における熱伝導率が150W/m・k以下で、かつ、融点が1000℃以上である請求項3に記載のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法。
【請求項5】
育成する前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の組成が一般式Gd3−x−yBiFe12(但し、RはLa、Ce、Pr、Ndから選択された1種以上の希土類元素からなり、0<x、0<y)で示される請求項1〜4のいずれか一項に記載のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法。
【請求項6】
前記非磁性ガーネット基板は、Gd(ScGa)12基板である請求項1〜5のいずれか一項に記載のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信に利用されている半導体レーザーや、レーザー加工等に利用されている固体レーザー等は、レーザー共振器外部の光学面や加工面で反射された光がレーザー素子に戻ってくるとレーザー発振が不安定になる。発振が不安定になると、光通信の場合には信号ノイズとなり、加工用レーザーの場合はレーザー素子が破壊されてしまうことがある。このため、このような反射戻り光がレーザー素子に戻らないように遮断するため光アイソレータが使用される。
【0003】
従来のYAGレーザーの代替として近年注目されているファイバレーザー用の光アイソレータに用いられるファラデー回転子として、従来、テルビウム・ガリウム・ガーネット結晶(以下、TGGとも記載する)やテルビウム・アルミニウム・ガーネット結晶(以下、TAGとも記載する)が用いられてきた。
【0004】
しかし、TGGやTAGは単位長さ当たりのファラデー回転係数が小さく、光アイソレータとして機能させるために45度の偏光回転角を得るには光路長を長くする必要があり、大きな結晶を用いなければならなかった。また、高い光アイソレーションを得るには、結晶に一様で大きな磁場をかける必要があるため、強力で大きな磁石を用いていた。
【0005】
このため、光アイソレータの寸法は大きなものとなっていた。また、光路長が長いためにレーザーのビーム形状が結晶内で歪むことがあり、歪みを補正するための光学系が必要となる場合もあった。更に、TGGは高価でもあるため、小型で安価なファラデー回転子が望まれていた。
【0006】
一方、光通信分野で専ら用いられているビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜(以下、RIGとも記載する)をこのタイプの光アイソレータに使用することで、大きさを大幅に小型化することが可能である。
【0007】
一般的にRIGは、液相エピタキシャル成長法(LPE法)により育成されている。
【0008】
液相エピタキシャル成長法によりRIGを育成する場合、例えば縦型管状炉(以下LPE炉)中に原料を入れた貴金属製の坩堝を設置、加熱することで、ガーネット単結晶成分である希土類や鉄、さらにはフラックス成分であるビスマスや鉛を溶かした融液を形成する。そして、融液をRIGが析出する過飽和温度状態にして、種結晶基板である非磁性ガーネット基板の一方の面を融液に接触、浸漬することで結晶育成が行われる(例えば特許文献1〜5を参照)。
【0009】
RIGを育成する温度(以下、育成温度と記載する)は800℃を超える高温であることから、RIGを育成後、LPE炉外に取り出す前に室温付近まで徐冷がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−116673号公報
【特許文献2】特開2012−116672号公報
【特許文献3】特開2012−131690号公報
【特許文献4】特開2012−188302号公報
【特許文献5】特開2012−188303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、徐冷を行っている際、種結晶基板である非磁性ガーネットと、RIGとの熱膨張係数差による応力変化によって、RIGに割れが生じたり、クラックが入ったりすることがあり、歩留まり低下の原因となっていた。
【0012】
そこで、本発明の一側面では上記従来技術が有する問題に鑑み、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜を育成後、室温まで冷却する際に、割れやクラックの発生を抑制できるビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、非磁性ガーネット基板を融液に接触させ、前記非磁性ガーネット基板上に、液相エピタキシャル成長法によりビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜を育成するビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法であって、
前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜を育成する育成工程終了後、育成温度から室温まで冷却する冷却工程を有しており、
前記冷却工程においては、
降温速度が200.0℃/hr以下であり、
かつ、前記育成工程終了後、前記融液が入った坩堝を下方に移動させ、次いで育成した前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜と、前記融液と、の間に遮蔽板を挿入することで、前記融液の表面と、育成した前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜とが直接対向するように配置した場合よりも、前記融液からの輻射熱が、育成した前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜に到達することを抑制するように構成するビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法を提供することができる。

【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜を育成後、室温まで冷却する際に、割れやクラックの発生を抑制できるビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態における成膜装置の構成例の説明図。
図2】本発明の実施形態における成膜装置の他の構成例の説明図。
図3】本発明の実施形態における成膜装置の他の構成例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0017】
本実施形態のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法の一構成例について以下に説明する。
【0018】
本実施形態のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法では、非磁性ガーネット基板を融液に接触させ、非磁性ガーネット基板上に、液相エピタキシャル成長法によりビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜を育成することができる。
そして、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜を育成する育成工程終了後、育成温度から室温まで冷却する冷却工程を有することができる。
係る冷却工程においては、降温速度を200.0℃/hr以下とすることができる。さらに、冷却工程において、融液の表面と、育成したビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜とが直接対向するように配置した場合よりも、融液からの輻射熱が、育成したビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜に到達することを抑制するように構成できる。
【0019】
ここでまず、図1(a)を用いて本実施形態のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜(RIG)の製造方法において好適に用いることができる、成膜装置の構成例、及び手順の概略について説明する。
【0020】
図1(a)の成膜装置10は、成膜装置10内に設置した坩堝14の中心軸を通る面での断面図を模式的に示している。
【0021】
成膜装置10は、ヒーター11を有することができ、ヒーター11で囲まれた領域の中には、坩堝台12が配置されている。そして、坩堝台12の上部には、融液13が入った坩堝14が載置されている。なお、坩堝14内には予め原料、すなわちRIGの原料となる成分や、フラックス成分を含む原料粉末を入れておき、ヒーター11により加熱し、必要に応じて混合撹拌することにより融液13とすることができる。坩堝14の材質としては特に限定されるものではなく、融液13と反応せず、融液13の温度に対して耐熱性を有する材料であることが好ましい。例えば、白金等の貴金属を好適に用いることができる。
【0022】
そして、融液13が入った坩堝14の上部には、基板支持軸15を配置することができ、基板支持軸15の一方の端部には、予め種結晶基板16を取り付けておくことができる。
【0023】
なお、成膜装置10においては、さらに必要に応じて任意の部材を有することができる。例えば断熱材や、温度測定手段、また、ヒーター11で囲まれた領域内の雰囲気を制御する雰囲気制御手段等を有することもできる。
【0024】
そして、図1(a)に示した成膜装置10を用いたRIGの成膜は、基板支持軸15を例えば図中矢印Aで示す方向に回転させることによって種結晶基板16を回転させながら、基板支持軸15を下げ、融液13に種結晶基板16を接触させることにより実施できる。この際、種結晶基板16の融液13と対向する一方の面を融液13に浸漬することとなる。なお、図1(a)における回転方向は例示であり、矢印Aの方向に限定されるものではない。
【0025】
従来のRIGの製造方法では、種結晶基板16上にRIGを成膜した後はまず、基板支持軸15を上方に上げて融液13から種結晶基板16、及び育成したRIGを切り離し、融液13と、RIGが形成された種結晶基板16とが、図1(a)とほぼ同様の位置関係となるようにしていた。すなわち、融液13の表面と育成したRIGとが直接対向するように配置していた。そして、上述の融液13と、RIGが形成された種結晶基板16との位置関係を維持したまま、ヒーター11で囲まれた領域内にRIGが形成された種結晶基板を保持し、室温、または室温近傍まで冷却する冷却工程が行われていた。
【0026】
しかしながら、既述のように、係る冷却工程において、育成したRIGに割れやクラックが生じる場合があり、歩留まり低下の原因となっていた。
【0027】
なお、ここでは従来のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法における冷却工程について、説明の便宜上、図1(a)の成膜装置を用いて説明した。しかしながら、従来のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法では、後述する坩堝14等の搬送機構や、遮蔽板17等を備えていない成膜装置が用いられていた。
【0028】
本発明の発明者らは、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜を育成後、室温まで冷却する際に、割れやクラックの発生を抑制する方法について鋭意検討を行った。
【0029】
そして、まず、冷却速度を遅くして、冷却時間を長くする方法を検討した。しかしながら、冷却速度を遅くすることで一定の効果は得られるものの、冷却速度を遅くするのみでは歩留まりの向上の程度は十分ではなかった。また、冷却速度を必要以上に遅くすると、冷却時間が長くなり、生産性の低下の原因になっていた。
【0030】
そこで、さらに検討を行ったところ、融液13からの輻射熱が、冷却工程において育成したRIGに割れやクラックが発生する原因となっていることを見出し、本発明を完成させた。
【0031】
以下、本実施形態のRIGの製造方法の各工程について具体的に説明する。
【0032】
ここでまずビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜を育成する育成工程に関して説明する。
【0033】
育成工程では、既述のように例えば図1(a)に示した成膜装置10を用いて実施することができ、種結晶基板16を回転させながら、種結晶基板の一方の面を、融液13に接触させることで実施することができる。
【0034】
種結晶基板としては上述の様に非磁性ガーネット基板を好適に用いることができる。非磁性ガーネット基板の組成は特に限定されるものではなく、成膜したRIGに要求される性能や、成膜するRIGの格子定数等に応じて任意に選択することができる。非磁性ガーネット基板としては、具体的には例えば、(CaGd)(ZrMgGa)12基板や、Gd(ScGa)12基板、Sm(ScGa)12基板、La(ScGa)12基板等を用いることができる。特に、格子定数が大きい、Gd(ScGa)12基板、Sm(ScGa)12基板、La(ScGa)12基板を用いた場合、成膜したRIGは1μm帯域付近の波長における光吸収を低減できることから、好ましく用いることができる。中でも、Gd(ScGa)12基板は格子定数が1.256nm程度と大きく、RIG内のFeイオンによる光の吸収波長を短波長側へシフトできるため、非磁性ガーネット基板はGd(ScGa)12基板であることがより好ましい。
【0035】
非磁性ガーネット基板のサイズは特に限定されるものではなく、用いる坩堝14のサイズや、育成するRIGのサイズ等に応じて任意に選択することができる。
【0036】
また、融液の組成についても特に限定されるものではなく、成膜するRIGの組成にあわせて任意に選択することができる。なお、融液は、成膜するRIGの組成にあわせて予め用意した、例えば固体状の原料を融解することにより形成することができる。固体状の原料から融液を形成する場合、固体状の原料を例えば貴金属製の坩堝に入れ、原料が十分に融解する温度まで昇温し、必要に応じて融液が均一な組成となるように混合、撹拌することで形成することができる。
【0037】
例えば本実施形態のRIGの製造方法では、一般式Gd3−x−yBiFe12(但し、RはLa、Ce、Pr、Ndから選択された1種以上の希土類元素からなり、0<x、0<y)で示されるRIGを好適に製造することができる。
【0038】
このため、上述の固体状の原料は、育成するRIGの組成にあわせて、例えばGd、Bi、Fe、さらには上記一般式中のRに対応する成分の酸化物、例えばLa、CeO、Pr11、Ndから選択される1種以上を含むことができる。また、その他にフラックス成分として、PbO、Bや、フラックス成分として添加したPbがRIG中に取り込まれることを抑制するため、CaOを含むこともできる。
【0039】
育成工程において、融液の温度は特に限定されるものではないが、種結晶基板16を融液13に接触、浸漬する際には、融液は過飽和状態となるように温度を選択することが好ましい。
【0040】
また、育成工程における種結晶基板16の回転速度や、育成時間等の条件は特に限定されるものではなく、育成するRIGの組成や、育成するRIGに要求される特性等に応じて任意に選択することができる。
【0041】
次に、冷却工程について説明する。
【0042】
冷却工程では、既述のように降温速度(冷却速度)を200℃/hr以下とすることが好ましい。これは、降温速度が200℃/hrより速いと育成したRIGにクラックや割れを生じる恐れがあるためである。降温速度は120℃/hr以下であることがより好ましく、80℃/hr以下であることがさらに好ましい。
【0043】
冷却工程における降温速度の下限値は特に限定されるものではないが、例えば20℃/hr以上であることが好ましく、50℃/hr以上であることがより好ましい。これは降温速度が20℃/hr未満の場合、冷却工程に時間を要し、生産性が低下する恐れがあるためである。
【0044】
そして、冷却工程の間、融液の表面と、育成したビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜とが直接対向するように配置した場合よりも、融液からの輻射熱が、育成したビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜に到達することを抑制するように構成することが好ましい。
【0045】
これは、本発明の発明者らの検討によると、融液からの輻射熱が育成したビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜に到達することを抑制するように構成することで、RIGに割れやクラックが生じることを抑制できるからである。
【0046】
特に、冷却工程の間、融液から、育成したRIGへの輻射熱を遮断するように、すなわち育成したRIGが融液からの輻射熱を受けないように構成することが好ましい。
【0047】
融液の表面と、育成したRIGとが直接対向するように配置した場合よりも、融液からの輻射熱が、育成したRIGに到達することを抑制するように構成する方法は特に限定されるものではなく、任意の方法を選択できる。例えば図1(a)に示したように、ヒーター11の下部に遮蔽板17を挿入でき、かつ坩堝14等を移動できるように構成しておく方法が挙げられる。
【0048】
図1(a)に示した例の場合、育成工程終了後、図示しない搬送機構により、融液13が入った坩堝14、及び坩堝台12を、ブロック矢印101に沿って下方に移動させることができる。そして、坩堝14等をヒーター11の下端部よりも下方に移動させた後、遮蔽物である遮蔽板17をブロック矢印102に沿って移動させ、図1(b)に示したように融液13と、RIGが形成された種結晶基板16との間に遮蔽板17を配置できる。
【0049】
図1(b)に示した状態とすることで、融液13からの輻射熱が、遮蔽板17により遮られ、RIGを形成した種結晶基板16まで到達しないように構成できる。このため、融液13の表面と、育成したRIGとが直接対向するように配置した場合よりも、融液13からの輻射熱が、育成したRIGに到達することを抑制できる。
【0050】
そして、図1(b)に示した状態でヒーター11の出力を制御することで所望の降温速度で室温近傍まで冷却することができる。
【0051】
なお、坩堝14等をヒーター11の下端部よりも下方に移動させた後、必要に応じて坩堝14等を例えばさらに水平方向等に移動するように構成しても良い。
【0052】
融液の表面と、育成したRIGとが直接対向するように配置した場合よりも、融液からの輻射熱が、育成したRIGに到達することを抑制する方法は図1(a)、図1(b)に示した形態に限定されない。他の構成例について、図2(a)、図2(b)、図3(a)、図3(b)を用いて説明する。なお、図2(a)、図2(b)、図3(a)、図3(b)において、図1(a)、図1(b)と同じ部材については同じ番号を付している。
【0053】
図2(a)に示した成膜装置20では、坩堝14等に替えて、基板支持軸15、及び種結晶基板16をヒーター11の上端部よりも上方に移動できるように構成している点と、遮蔽物である遮蔽板27をヒーター11の上部に設けた点以外は図1(a)の成膜装置10と同様に構成できる。
【0054】
図2(a)に示した成膜装置20では、育成工程終了後、図示しない搬送機構により、基板支持軸15をブロック矢印201に沿って上方に移動させることができる。これにより、基板支持軸15と、基板支持軸15に取付けたRIGが形成された種結晶基板16とを、ヒーター11の上端部よりも上方に移動させることができる。そして、遮蔽板27をブロック矢印202に沿って移動させ、図2(b)に示したように、融液13と、RIGが形成された種結晶基板16との間に遮蔽板27を配置できる。
【0055】
なお、基板支持軸15をヒーター11の上端部よりも上方に移動させた後、必要に応じて基板支持軸15を例えばさらに水平方向等に移動するように構成しても良い。
【0056】
図2(b)に示した状態とすることで、融液13からの輻射熱が、遮蔽板27により遮られ、RIGを形成した種結晶基板16まで到達しないように構成できる。このため、融液13の表面と、育成したRIGとが直接対向するように配置した場合よりも、融液13からの輻射熱が、育成したRIGに到達することを抑制できる。
【0057】
なお、図2(b)においては、必要に応じて種結晶基板16の周囲にヒーターを設け、降温速度を制御するように構成することもできる。
【0058】
図1(a)、図1(b)、図2(a)、図2(b)においては、遮蔽物を用いて、融液からの輻射熱を遮蔽する方法を示したが、係る遮蔽物としては特に限定されるものではなく、例えば、断熱材や、反射板等を好適に用いることができる。
【0059】
遮蔽物に要求される性能は特に限定されるものではないが、例えば300℃における熱伝導率が150W/m・k以下で、かつ、融点が1000℃以上であることが好ましい。これは、遮蔽物の300℃における熱伝導率が、150W/m・kを超えると、遮蔽物の裏面(RIG側)が高温となり、遮蔽物からRIGへの輻射熱が発生し、RIGを加熱する恐れがあるからである。また、融点が1000℃未満であると、融液とRIGとの間に配置した際に、融液等からの熱により融解や、変形する恐れがあるためである。
【0060】
上述の条件を満たす素材としては、Fe、Ni、Crや、これらを用いて作られているステンレス鋼、また、高融点結晶の育成炉や坩堝材に用いられているMo、W、Pt等が挙げられる。このため、遮蔽物の材料としては、Fe、Ni、Cr、ステンレス鋼、Mo、W、Ptから選択された1種類以上を含むことが好ましい。
【0061】
遮蔽物を用いて、融液からRIGへの輻射熱を抑制する場合、育成工程終了後、冷却工程を終えるまでの間、育成したビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜と、融液と、の間に遮蔽物を配置しておくことが好ましい。これは育成工程終了後、冷却工程を終えるまでの間、融液からの輻射熱がRIGに到達することを抑制することで、育成したRIGに割れやクラックが生じることをより確実に抑制することができるからである。
【0062】
また、その他の形態について図3(a)、図3(b)を用いて説明する。
【0063】
図3(a)に示した成膜装置30おいては、遮蔽物である遮蔽板を設けず、坩堝14等の移動形態を変更した点以外は、図1(a)、図1(b)に示した成膜装置10と同様に構成することができる。
【0064】
図3(a)に示した成膜装置30では、育成工程終了後、融液13が入った坩堝14、及び坩堝台12を、図示しない搬送機構により例えばブロック矢印301に沿って移動させることができる。これにより、図3(b)に示したように、融液13の入った坩堝14を、RIGが形成された種結晶基板16の下方からずれた位置に移動させることができる。図3(b)に示した位置に融液13の入った坩堝14を移動することで、融液13の表面と、育成したRIGとが直接対向するように配置した場合よりも、融液13からの輻射熱が、育成したRIGに到達することを抑制できる。
【0065】
なお、図3(b)に示したように、融液13の入った坩堝14は移動後、ヒーター11の下端部よりも下方であって、ヒーター11に囲まれた領域31の外の領域に位置することが好ましい。
【0066】
図3(a)、(b)では、融液13の入った坩堝14、及び坩堝台12を移動させる例を示したが、係る形態に限定されるものではない。例えば基板支持軸15、及び基板支持軸15に取付けた、RIGが育成された種結晶基板16を移動するように構成することもできる。この場合、基板支持軸15、及びRIGが育成された種結晶基板16をヒーター11の上端部よりも上方で、かつ融液13の直上部からはずれた位置に移動させることができる。特にヒーター11の上端部よりも上方で、かつヒーター11で囲まれた領域31の外に位置することが好ましい。
【0067】
冷却工程終了後、RIG、及び種結晶基板である非磁性ガーネット基板を成膜装置から取り出すことができる。
【0068】
以上に説明した本実施形態のRIGの製造方法によれば、育成工程で種結晶基板にRIGを形成した後、冷却工程においてRIGに割れやクラックが発生することを抑制できる。このため、RIGの製造の歩留まりを高めることができる。
【実施例】
【0069】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
図1(a)、図1(b)に示した成膜装置10を用いて、以下の手順によりRIGを成膜した。
【0070】
まず、原料として、Ndを39.27g、Gdを46.53g、Feを313.08g、Biを4304.44g、PbOを721.65g、Bを75.03g、CaOを4.40gそれぞれ秤量した。そして、秤量した原料を白金製の坩堝14内に入れ、坩堝台12上に載置した。
【0071】
次いで、ヒーター11により加熱を行い、坩堝14内に充填した上記原料を1000℃で溶解して融液を形成した。なお、融液が均一な組成になるように、坩堝14内に配置した図示しない撹拌手段であるプロペラ状の撹拌子を100rpm/minで一方向に回転させることにより十分に撹拌混合した。
【0072】
次に、RIGを液相エピタキシャル法により成長させるため、融液の温度を825℃の育成温度まで降下させた。
【0073】
その後、種結晶基板16である非磁性ガーネット基板を、基板支持軸15により60rpmで回転させながら降下させ、種結晶基板16の、融液13と対向する片面のみを融液13に接触させて、RIGの形成を開始した。なお、非磁性ガーネット基板としては、直径が2インチ、厚さが400μmであって、格子定数が1.256nmのGd(ScGa)12基板を用いている。
【0074】
そして、種結晶基板16を回転させつつ、種結晶基板16の片面のみを融液13に接触させた状態を保ち、RIGの厚さが250μmになるまで、RIGのエピタキシャル成長を行った(育成工程)。
【0075】
育成工程終了後、基板支持軸15を上方に上げ、種結晶基板16を融液13から切り離した。そして、融液13の入った坩堝14、及び坩堝台12を図示しない搬送手段によりブロック矢印101に沿って下方に移動させた後、遮蔽物である遮蔽板17をブロック矢印102に沿って移動させて、図1(b)に示すように種結晶基板16と融液13との間に遮蔽板17を配置した。これにより融液13からRIGへの輻射熱を遮断した。
【0076】
なお、遮蔽板17としては、SUS304製の遮蔽板を用い、融点は1400℃、300℃における熱伝導率は16.7W/m・kのものを用いている。
【0077】
そして、遮蔽板17を上述の様に設置した後、ヒーター11の出力を制御して、22.7℃/hrの降温速度で冷却した。冷却後、炉内からRIGが形成された種結晶基板を取り出し、評価を行った。
【0078】
評価は、種結晶基板上のRIGを、目視および実体顕微鏡を用いて観察し、クラックの本数を確認した。なお、割れとはクラックが進行してRIGの厚さ方向に渡って切込み線が入った状態を意味していることから、ここで評価を行ったクラックの本数には割れの本数も含まれる。
【0079】
また、RIGを種結晶基板ごとダイシングソーで11mm角が9枚になるよう切断し、RIG中に発生していたクラック起因により角欠け変形のあるものは不良として、角欠けの無いものは良品としてその枚数を良品枚数とした。また、良品枚数の割合を良品収率として算出した。
【0080】
なお、良品収率が高い場合にはクラックの本数、および/またはクラックの長さが短いことを意味しており、良品収率の低い場合と比較してクラックの発生を抑制できているものといえる。
【0081】
結果を表1に示す。
[実施例2〜実施例8]
冷却工程における冷却速度を表1に示した速度に変更した点以外は、実施例1と同様にしてRIGを形成、冷却した。
【0082】
評価結果を表1に示す。
[比較例1〜比較例5]
以下の2点以外は、実施例1と同様にして、RIGを形成、冷却した。
【0083】
冷却工程における冷却速度を表1に示した値とした点。
【0084】
育成工程終了後、融液13と、RIGが形成された種結晶基板16との切り離しまでは行ったが、融液13の入った坩堝14、及び坩堝台12を移動させず、また融液13と、RIGが形成された種結晶基板との間に遮蔽板17を配置せずに冷却工程を実施した点。なお、この場合、融液13の表面と、育成したRIGとが直接対向するように配置されることになる。
【0085】
評価結果を表1に示す。
[比較例6〜比較例8]
冷却工程における冷却速度を表1に示した値とした点以外は実施例1と同様にしてRIGを形成、冷却した。
【0086】
評価結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
表1の結果から、融液の表面と、育成したビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜とが直接対向するように配置した場合よりも、融液からの輻射熱が、育成したビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜に到達することを抑制し、かつ冷却速度を200℃/hr以下にした実施例1〜実施例8では、上記条件のうち少なくとも一方を満たさない比較例1〜比較例8と比較して、クラックの発生が比較的少ないことが確認できた。
【0088】
また、実施例1〜実施例8では良品収率が50%以上になることが確認できた。これに対して、比較例1〜比較例8では良品収率が44.4%以下となっていた。
【0089】
上記結果から、実施例1〜実施例8においては、比較例1〜比較例8と比較してクラックの本数、および/またはクラックの長さを抑制できていることが確認でき、クラックの発生を抑制できていることが確認できた。
【0090】
実施例1〜実施例8の中でも特に、冷却速度を50℃/hr〜80℃/hrの範囲内にした実施例5および6は88.9%と高い良品収率が得られた。
【0091】
なお、比較例3および4に関しては、遮蔽物を使用しなかったこと以外は、高い良品収率が得られた実施例5および6と同じ条件にしたが、融液からの輻射熱の影響でクラックが増加し、良品収率は33.3%と低い結果だった。このことから、輻射熱が割れやクラックの発生に影響していることが確認できた。
【符号の説明】
【0092】
13 融液
16 種結晶基板(非磁性ガーネット基板)
図1
図2
図3