(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
チョクラルスキー法により単結晶の引上げを開始する前に所定の引上げ長毎に前記単結晶の引上げ速度の目標値を予め設定し、前記単結晶の引上げ中であって前記所定の引上げ長の引上げ途中で前記所定の引上げ長の引上げ開始時点から現時点までの引上げ速度の実績値から引上げ速度移動平均値を算出し、この引上げ速度移動平均値と前記引上げ速度の目標値とに差分があるとき、前記引上げ速度移動平均値が前記引上げ速度の目標値に合致するように、前記引上げ速度の目標値及び前記引上げ速度移動平均値に基づいて、現時点における引上げ速度の目標値の修正値を算出し、この算出された引上げ速度の目標値の修正値に基づいて前記単結晶を引上げる単結晶の製造方法であって、
前記引上げ速度移動平均値の実績値を算出するための引上げ長である過去の引上げ長をαとし、将来の引上げ長をβとするとき、前記単結晶の直径の実績値によって、前記引上げ速度の目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を変化させることを特徴とする単結晶の製造方法。
前記単結晶の引上げ長(α+β)の引上げ開始時点から現時点までの引上げ長α及び前記残りの引上げ長βを、それぞれ前記引上げ長(α+β)の20〜99%及び前記引上げ長(α+β)の80〜1%とする請求項1ないし4いずれか1項に記載の単結晶の製造方法。
【背景技術】
【0002】
一般的に、シリコン単結晶を製造する場合、単結晶の引上げ速度及びヒータ温度を操作量として単結晶の直径を制御する。例えば、チョクラルスキー法を用い、平均引上げ速度とヒータ温度を独立に制御してシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このシリコン単結晶の製造方法では、シリコン単結晶育成中における30〜50分間隔での単位時間当りのシリコン単結晶育成長さを平均引上げ速度とし、この平均引上げ速度を、定常時は一定速度に固定し、非定常時は育成中の結晶直径の予想結晶直径と目的結晶直径の偏差に応じて所定時間だけ引上げ速度を変動させ、かつヒータ温度を定常時は一定に保持し、非定常時は育成中の結晶直径の予想結晶直径と目的結晶直径の偏差に応じて変動させることにより、単結晶の直径制御を行う。ここで、引上げ速度を変動させる所定時間とは、定常時は速度を一定としている平均引上げ速度に大きな影響を及ぼさない程度(変動幅が±0.02mm/分以内)の短時間であり、その時間は30秒以下であることが好ましい。このように構成されたシリコン単結晶の製造方法では、低欠陥のシリコン単結晶を効率良く引上げることができる。
【0003】
一方、単結晶の品質と因果関係のある引上げ速度の移動平均値を制御する単結晶の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この単結晶の製造方法では、チョクラルスキー法により単結晶を引上げる過程にて、単結晶の引上げ速度の設定値を算出する工程と、単結晶の引上げ速度の操作量の上下限値の算出する工程と、上記設定値及び上記操作量の上下限値に基づいて引上げ速度の移動平均値を制御する工程とを繰返し行うことにより、単結晶の直径を制御する。また引上げ速度の操作量の上下限値を、引上げ速度移動平均値が予め設定した許容範囲に入るように算出し、その制約条件内で直径を制御することにより、引上げ速度移動平均値も予め設定した許容範囲内に制御する。更に単結晶の引上げ開始前に引上げ長毎に引上げ速度の目標値を予め設定しておき、単結晶の引上げ速度を、引上げ速度移動平均値の実測値が目標値に一致するように修正する。
【0004】
このように構成された単結晶の製造方法では、単結晶を引上げる過程にて、単結晶の引上げ速度の設定値及び引上げ速度の操作量の上下限値を算出する工程と、上記設定値及び上記操作量の上下限値に基づいて単結晶の引上げ速度の移動平均値を制御する工程とを繰返し行い、単結晶の直径を制御する、即ち単結晶の引上げ速度移動平均値を時々刻々制御するので、単結晶の軸方向の品質のばらつきを低減できる。この結果、高品質の単結晶を安定して製造できる。また引上げ速度の移動平均値が許容範囲に入るように算出するので、単結晶の軸方向の品質のばらつきをより低減でき、高品質の単結晶をより安定して製造できる。更に単結晶の引上げ速度の引上開始前に引上げ速度の目標値を予め設定しておき、単結晶の引上げ速度を、引上げ速度の移動平均値の実測値が目標値に一致するように、修正するので、単結晶の引上げ速度を最適化でき、単結晶の軸方向の品質のばらつきを更に低減でき、高品質の単結晶を更に安定して製造できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の特許文献1に示されたシリコン単結晶の製造方法では、引上げ速度の変動幅が小さく、操作する時間も短い場合、引上げ速度の移動平均値にあまり影響を与えないことが期待されるけれども、単結晶の直径には熱的環境等に由来する予測不可能な様々な外乱が生じる場合には、引上げ速度の変動幅が±0.02mm/分以下と非常に小さく、かつ所定時間が30秒以下と非常に短くなることがあり、この場合には、単結晶の直径への様々な外乱を抑制することは難しい。また、単結晶の直径への外乱を抑制するためにヒータ温度を操作する場合でも、ヒータ温度の操作が単結晶の直径に影響を及ぼすまでの時定数が大きいことから、単結晶の直径を制御することは困難である。たとえ、上記方法で単結晶の直径を制御できた場合であっても、引上げ速度の操作量が小さいから引上げ速度移動平均値も大きく変動しないとは言えず、引上げ速度の移動平均値は成り行き次第になってしまう。このため、従来の特許文献1に示されたシリコン単結晶の製造方法では、単結晶の直径を制御することも、例えば±1%以内のように高精度に引上げ速度の移動平均値を制御することも困難である。一方、上記従来の特許文献2に示された単結晶の製造方法では、引上げ速度移動平均値を制御することにより、高品質の単結晶を安定して製造しているけれども、単結晶の直径を変化させる大きな外乱が生じたときに、引上げ速度移動平均値の制御性能が低くなる場合があり、単結晶の品質を向上しかつ単結晶を安定して製造するために、更なる改良が望まれていた。
【0007】
本発明の目的は、単結晶の品質と因果関係のある引上げ速度移動平均値の制御性能を向上させることにより、結晶欠陥の少ない高品質の単結晶を製造できる、単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、チョクラルスキー法により単結晶の引上げを開始する前に所定の引上げ長毎に単結晶の引上げ速度の目標値を予め設定し、単結晶の引上げ中であって所定の引上げ長の引上げ途中で所定の引上げ長の引上げ開始時点から現時点までの引上げ速度の実績値から引上げ速度移動平均値を算出し、この引上げ速度移動平均値と引上げ速度の目標値とに差分があるとき、引上げ速度移動平均値が引上げ速度の目標値に合致するように、引上げ速度の目標値及び引上げ速度移動平均値に基づいて、現時点における引上げ速度の目標値の修正値を算出し、この算出された引上げ速度の目標値の修正値に基づいて単結晶を引上げる単結晶の製造方法であって、引上げ速度移動平均値の実績値を算出するための引上げ長である過去の引上げ長をαとし、将来の引上げ長をβとするとき、単結晶の直径の実績値によって、引上げ速度の目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を変化させることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に単結晶の引上げ状態を監視し、単結晶の直径の目標値及び実績値をそれぞれD
0及びD
1とするとき、|D
1−D
0|が閾値t
1以下である場合、引上げ速度の目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を、引上げ速度移動平均値を評価するための引上げ長γより短く設定し、|D
1−D
0|が閾値t
1を超え閾値t
2以下である場合、引上げ速度の目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を、引上げ速度移動平均値を評価するための引上げ長γに維持し、|D
1−D
0|が閾値t
2を超える場合、引上げ速度の目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を、引上げ速度移動平均値を評価するための引上げ長γより長く設定することを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の観点は、第2の観点に基づく発明であって、更に閾値t
1及び閾値t
2が、過去の単結晶の引上げ実績を評価して定められたことを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、更に閾値t
1及び閾値t
2が、過去の単結晶の引上げ実績を評価し、単結晶の直径のバラツキσを算出したときに、t
1=0.5×σ及びt
2=2×σとなるように定められたことを特徴とする。
【0012】
本発明の第5の観点は、第1ないし第4の観点に基づく発明であって、更に引上げ速度の目標値を、0.3〜1.2mm/分とすることを特徴とする。
【0013】
本発明の第6の観点は、第1ないし第4の観点に基づく発明であって、更に単結晶の引上げ長(α+β)を、30〜70mmとすることを特徴とする。
【0014】
本発明の第7の観点は、第1ないし第4の観点に基づく発明であって、更に単結晶の引上げ長(α+β)の引上げ開始時点から現時点までの引上げ長α及び残りの引上げ長βを、それぞれ引上げ長(α+β)の20〜99%及び引上げ長(α+β)の80〜1%とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の観点の単結晶の製造方法では、単結晶の直径の実績値によって、引上げ速度の目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を変化させることにより、単結晶の品質と強く相関し因果関係のある引上げ速度移動平均値を適正に制御して単結晶を引上げる。即ち、引上げ速度の制御と単結晶の直径制御は互いに独立したものではなく、互いに影響を及ぼすものであり、単結晶育成中において単結晶の直径を監視しながら、単結晶の直径の実績値に基づいて引上げ速度の目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を短く、或いは長くすることにより、引上げ速度移動平均値の実績値に応じて、時々刻々と引上げ速度の目標値の修正値を算出し、これに基づいて単結晶を引上げる。この結果、引上げ速度の制御と単結晶の直径制御を高い精度で行うことができる。このように、単結晶の直径の実績値を考慮して、単結晶の品質に多大な影響を及ぼす引上げ速度移動平均値を評価し、引上げ速度の目標値を修正することで、単結晶の品質のばらつきを低減するとともに、単結晶の直径のばらつきをも低減させて、高品質の単結晶を安定して製造できる。
【0016】
本発明の第2の観点の単結晶の製造方法では、|D
1−D
0|が閾値t
1以下である場合、即ち単結晶の直径の制御性能が極めて良好である場合、引上げ速度の目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を、引上げ速度移動平均値を評価するための引上げ長γより短く設定することにより、引上げ速度移動平均値の制御性能をより向上させる。また、|D
1−D
0|が閾値t
1を超え閾値t
2以下である場合、即ち単結晶の直径の制御性能が比較的良好である場合、引上げ速度の目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を、引上げ速度移動平均値を評価するための引上げ長γに維持することにより、引上げ速度移動平均値の制御性能を設定通りに維持する。更に、|D
1−D
0|が閾値t
2を超える場合、即ち単結晶の直径の制御性能がやや低下した場合、単結晶の直径の制御性能を向上させる目的で、引上げ速度の目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を、引上げ速度移動平均値を評価するための引上げ長γより長く設定することにより、引上げ速度移動平均値の制御性能を弱くする。この結果、単結晶の直径の制御と引上げ速度移動平均値の制御を安定的に両立することができるとともに、早期に単結晶の直径の制御性能を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。この実施の形態では、るつぼに貯留されたシリコン融液からチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引上げる。このシリコン単結晶の引上げを開始する前に、所定の引上げ長毎にシリコン単結晶の引上げ速度目標値を予め設定しておく。そして、シリコン単結晶の引上げ中であって所定の引上げ長の引上げ途中で所定の引上げ長の引上げ開始時点から現時点までの引上げ速度の実績値から引上げ速度移動平均値を算出する。次にこの引上げ速度移動平均値と引上げ速度目標値とに差分があるとき、引上げ速度移動平均値が引上げ速度目標値に合致するように、引上げ速度目標値及び引上げ速度移動平均値に基づいて、現時点における引上げ速度目標値の修正値を算出する。更にこの算出された引上げ速度目標値の修正値に基づいて単結晶を引上げる。
【0019】
上記引上げ速度の目標値は、好ましくは0.3〜1.2mm/分の範囲内に設定される。またシリコン単結晶の所定の引上げ長は、好ましくは30〜70mm、更に好ましくは45〜55mmの範囲内に設定される。更にシリコン単結晶の所定の引上げ長の引上げ開始時点から現時点まで引上げ長は、好ましくは所定の引上げ長の20〜99%、更に好ましくは所定の引上げ長の80〜99%の範囲内に設定され、残りの引上げ長は、好ましくは所定の引上げ長の80〜1%、更に好ましくは所定の引上げ長の20〜1%の範囲内に設定される。上記シリコン単結晶の所定の引上げ長を、30〜70mmの範囲内に限定したのは、厳密には使用する引上げ装置に依存するけれども、実験結果からシリコン単結晶の品質と相関性が高いのは50mm程度の引上げ速度移動平均値であり、この50mm程度から大きく異ならない程度に設定することが好ましいからである。更に、上記シリコン単結晶の所定の引上げ長の引上げ開始時点から現時点までの引上げ長及び残りの引上げ長を、それぞれ所定の引上げ長の20〜99%の範囲内及び所定の引上げ長の80〜1%の範囲内に限定したのは、上記引上げ長及び残りの引上げ長が、それぞれ所定の引上げ長の20%未満であり所定の引上げ長の80%を超えた場合、引上げ速度の制約が強くなり過ぎるからである。
【0020】
図1は、引上げ速度移動平均値を算出する方法を示す模式図である。具体的には、
図1(a)は、横及び縦の長さがそれぞれ(α+β)及びAである長方形を示す図であり、横軸を引上げ長とし、縦軸を引上げ速度とすると、
図1(a)は引上げ長(α+β)の区間中、引上げ速度の平均値はAであることを示す。次に、
図1(b)のように、横及び縦の長さがそれぞれα及びBである長方形と、横及び縦の長さがそれぞれβ及びCである長方形を考える。ここで、
図1(b)の2つの長方形の合計面積と
図1(a)の単一の長方形の面積とが同じである場合、
図1(b)において、縦の長さBが決まれば、縦の長さCは次の式(1)及び式(2)を用いて求めることができる。
図1(b)において、横軸を引上げ長とし、縦軸を引上げ速度とすると、Bは過去の引上げ速度移動平均値であり、Cは将来の目標とすべき引上げ速度移動平均値であり、α,β,A,Bの情報を用いれば、将来の目標とすべき引上げ速度移動平均値Cを算出できることを示す。
【0021】
A×(α+β)=B×α+C×β ……(1)
C={A×(α+β)−B×α}/β ……(2)
ここで、式(1)の左辺は
図1(a)の斜線ハッチングを施した部分の面積を表し、式(1)の右辺は
図1(b)の縦線ハッチングを施した部分と横線ハッチングを施した部分の総面積を表す。そして、式(1)は、引上げ速度目標値の修正値を算出するための区間(α+β)(mm)における積算値が、引上げ速度移動平均値の実績値を算出するための区間α(mm)における積算値と、引上げ速度目標値を適正に修正するための将来の区間β(mm)における積算値との合計値に等しいことを表す。
このため、式(1)は次の式(3)のように表すことができ、式(2)は次の式(4)のように表すことができる。
(引上げ速度目標値)×(α+β)=(引上げ速度移動平均値の実績値)×α
+(引上げ速度目標値の修正値)×β……(3)
(引上げ速度目標値の修正値)={(引上げ速度目標値)×(α+β)
−(引上げ速度移動平均値の実績値)×α}/β……(4)
図1(b)から、引上げ速度移動平均値の実績値が高い場合には、引上げ速度目標値は低目に修正されることが分かる。
【0022】
次に引上げ速度移動平均値の制御方法を
図2のフローチャートに基づいて説明する。先ず結晶欠陥と因果関係のある引上げ速度移動平均値を評価するための引上げ長(γ)を決定する。この引上げ長(γ)は、引上げ装置の構造から一意に決定することができる。その理由は、単結晶の育成時に取込まれた点欠陥が拡散する範囲に基づき、点欠陥濃度が決まり、製品(引上げられたシリコン単結晶)の品質が決まることに由来する。点欠陥が拡散する範囲は引上げ速度移動平均値と強い相関があり、従って製品の品質と引上げ速度移動平均値との間にも強い相関がある。但し、引上げ長にして何mmの引上げ速度移動平均値と相関があるかは、使用する引上げ装置に依存する。一般的には、急冷タイプの引上げ装置よりも、徐冷タイプの引上げ装置の方が、結晶欠陥と相関のある引上げ速度移動平均値を評価する引上げ長は長くなる。次いで結晶欠陥に関して所望の品質のシリコン単結晶を製造するための引上げ速度の目標値を決定する。ここで、所望の品質のシリコン単結晶を得るための引上げ速度の目標値は、シリコン単結晶の引上げ長により異なるため、引上げ速度目標値はシリコン単結晶の引上げ長毎に決定する。次に引上げ速度目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)と制御周期を決定する。ここで、制御周期とは、非常に長く設定することさえ回避すれば、直径制御の制御周期と同じに設定することが望ましい。更に制御周期毎に、引上げ速度移動平均値を評価し、この評価結果に基づき引上げ速度目標値の修正値を算出した後に、引上げ速度目標値を修正し、この引上げ速度目標値の修正値に基づいてシリコン単結晶を引上げる。このように、制御周期毎に引上げ速度移動平均値を評価し、この評価に基づいて引上げ速度の目標値を修正することで、シリコン単結晶の品質のばらつきは低減し、高品質のシリコン単結晶を安定して製造できる。
【0023】
引上げ速度目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)(mm)を設定する際に、(α+β)(mm)がγ(mm)と同じになるように(α)(mm)及びβ(mm)を設定すると、γ(mm)引上げたときの引上げ速度移動平均値の実績値を、所望の引上げ速度目標値に合致するように、引上げ速度目標値の修正値を設定することができる。例えば、γを50mmとすると、50mm引上げたときの引上げ速度移動平均値の実績値を所望の引上げ速度目標値に合致させたい場合は、α+β=γ=50(mm)の制約を満たすように、α(mm)及びβ(mm)を設定する。
【0024】
また、シリコン単結晶の引上げでは、シリコン単結晶の直径を制御できなれければ、シリコン単結晶の引上げそのものが成立しない。このため、シリコン単結晶の直径の制御性は重要であり、シリコン単結晶の直径の制御と引上げ速度移動平均値の制御とを両立させることが望まれる。そこで、このような要望を満たすためには、シリコン単結晶の引上げ状態を監視しながら、引上げ速度移動平均値の制御性能の強弱を高精度に調整する。即ち、シリコン単結晶の直径の実績値によって、引上げ速度目標値の修正値を算出するための引上げ長を変化させる。具体的には、シリコン単結晶の引上げ状態を監視している状態で、シリコン単結晶の直径の目標値及び実績値をそれぞれD
0及びD
1とするとき、|D
1−D
0|が閾値t
1以下である場合、引上げ速度移動平均値で制御した引上げ長を、所定の引上げ長より短く設定し、|D
1−D
0|が閾値t
1を超え閾値t
2以下である場合、引上げ速度移動平均値で制御した引上げ長を、所定の引上げ長に維持し、更に|D
1−D
0|が閾値t
2を超える場合、引上げ速度移動平均値で制御した引上げ長を、所定の引上げ長より長く設定する。ここで、閾値t
1及び閾値t
2は、任意に設定できるものであるが、好ましくは、過去の単結晶の引上げ実績を評価して定められ、更に好ましくは、単結晶の直径のバラツキσを算出したときに、t
1=0.5×σ及びt
2=2×σとなるように定められることができる。即ち、バラツキσは、過去の引上げ実績における単結晶の直径のバラツキ(標準偏差)であり、例えば、σ=0.8mmのとき、t
1=0.4mmとなり、t
2=1.6mmとなる。
【0025】
|D
1−D
0|がt
1以下である場合は、シリコン単結晶の直径の制御性が極めて良好であると判断でき、この場合、上述のように引上げ速度移動平均値で制御した引上げ長を、所定の引上げ長より短く設定すると、即ち引上げ速度目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)が(α+β)<γの関係を満たすようにα及びβを設定すると、引上げ速度移動平均値の制御性能を向上させることができる。また、|D
1−D
0|がt
1を超えt
2以下である場合、シリコン単結晶の直径の制御性が比較的良好であると判断でき、この場合、上述のように引上げ速度移動平均値で制御した引上げ長を、所定の引上げ長に維持すると、即ち引上げ速度目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)が(α+β)=γの関係を満たすようにα及びβを設定すると、引上げ速度移動平均値を設定通りに制御できる。更に、|D
1−D
0|がt
2を超える場合は、シリコン単結晶の直径の制御性がやや低下したと判断でき、この場合、上述のように引上げ速度移動平均値で制御した引上げ長を、所定の引上げ長より長く設定すると、即ち引上げ速度目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)が(α+β)>γの関係を満たすようにα及びβを設定すると、引上げ速度移動平均値の制御性能をあえて抑えることができる。これはシリコン単結晶の直径の制御性能を改善するための手立てである。例えば、50mm引上げたときの引上げ速度移動平均値の制御性能は、
図3に基づいて強弱を調整できる。ここで、引上げ速度移動平均値の制御性能を弱くすることがあるのは、直径制御の制御性能を改善するためである。即ち、引上げ速度移動平均値の制御性能を維持する場合には、(α+β)=50(mm)の関係式を満たすα及びβを設定した制御を行い、引上げ速度移動平均値の制御性能を強くする場合には、(α+β)を50mmより小さく設定した制御を行うけれども、直径制御の制御性能を改善する場合には、(α+β)を50mmよりも大きく設定した制御を行うことにより、引上げ速度移動平均値の制御性能を弱くする必要があるからである。これらの関係は
図3に示す通りであり、
図3の『□』は引上げ速度移動平均値の制御性能を強くする場合の一例を示し、
図3の『△』は引上げ速度移動平均値の制御性能を弱くする場合の一例を示す。この結果、シリコン単結晶の直径の制御と引上げ速度移動平均値の制御をより安定的に両立することができる。
【0026】
一方、引上げ速度目標値の修正値の算出は、制御周期毎に行ってもよいし、制御周期の整数倍の時間毎に実施してもよい。引上げ速度目標値の修正値を算出する周期毎に、引上げ速度目標値を更新し、これに基づいて単結晶の直径制御を行うことにより、引上げ速度の移動平均値を評価することができる。具体的には、制御周期を10秒とした場合、10秒毎に、第1工程、即ち設定された過去の引上げ長αと将来の引上げ長βにより、式(4)に基づいて引上げ速度目標値の修正値V
1を算出する工程と、第2工程、即ち修正された引上げ速度V
1を目標値として単結晶を引上げる工程とを繰返す。また単結晶は10秒間に0.05〜0.2mmほど引上げられるため、0.05〜0.2mmほど引上げられる毎に引上げ速度V
1が更新される。より具体的には、0.05〜0.2mmほど引上げられた時点を原点にして、その時点から過去の引上げ長α及び将来の引上げ長βにより、引上げ速度目標値の修正(更新)がなされる。更に10秒後に、(0.05〜0.2)×2mmほど引上げられた時点を原点にして、その時点から過去の引上げ長α及び将来の引上げ長βにより、引上げ速度目標値の修正(更新)がなされる。このような操作が繰り返される。また、引上げ速度移動平均値を引上げ前に設定した引上げ速度の目標値に合致させるとした場合、引上げ速度は直径制御の操作量として操作されることから、完全に合致させることは難しく、許容できる範囲内に入ることを含めて合致するとしている。許容できる範囲は、例えば管理下限値及び管理上限値で管理すればよい。
【0027】
また、引上げ速度移動平均値の制御へのフィードバックを早めるためには、引上げ速度目標値の修正にあたって、引上げ速度移動平均値の実績値を算出するための引上げ長αは、小さいほど有利であるけれども、小さくし過ぎると将来の引上げ速度の操作範囲に限定的となり、直径の制御性能を弱くしかねない。ここで、引上げ速度移動平均値は、例えば50mm引上げたときの引上げ速度の平均値である。また、引上げ速度移動平均値のばらつきが大きい場合にも、上記引上げ長αを長く設定する方がよい。ここで、上記引上げ長αは、例えば40mmに設定される。更に、引上げ速度のばらつきが小さく、引上げ速度移動平均値の実績値と、シリコン単結晶の品質と相関の高い引上げ速度移動平均値との相関が高い場合には、上記引上げ長αを短く設定した方が、引上げ速度移動平均値の制御性能は向上する。ここで、上記引上げ長αは、例えば30mmに設定される。即ち、引上げ速度移動平均値を高い精度で予測できるように、上記引上げ長αを設定すればよい。
【0028】
一方、引上げ長βは、α及び(α+β)により自動的に決まる値である。また、引上げ長βは、長い時間をかけて調整したり、或いは短い時間で調整することができる因子であり、引上げ速度移動平均値の制御性が低い場合は、急激に修正すると外乱になる可能性があることから、長い時間をかけて調整する方がよく、この場合、上記引上げ長βは長く設定される。ここで、上記引上げ長βは、例えば40mmに設定される。また、引上げ速度移動平均値の制御性が高い場合は、短い時間で調整すればよく、この場合、上記引上げ長βは短く設定される。ここで、上記引上げ長βは、例えば10mmに設定される。更に、制御周期は、例えば10秒毎、或いは10秒の整数倍の時間毎に設定してもよい。なお、(α+β)の設定は、手動又は自動で実施できる。また、α及びβの設定は、引上げ長毎に予め設定してもよいし、或いは引上げ中に手動又は自動で時々刻々と変更してもよい。
【0029】
なお、上記実施の形態では、単結晶としてシリコン単結晶を挙げたが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0031】
<実施例1>
るつぼに貯留されたシリコン融液からチョクラルスキー法により半導体用300mmウェーハに用いられるシリコン単結晶を引上げた。そして引上げ長が800〜1400mmの範囲内で次のように制御した。先ずシリコン単結晶の品質が所望の品質となるように引上げ長毎に引上げ速度目標値を設定した。次に、シリコン単結晶の品質と相関が高い引上げ速度目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を50mmとした。そして引上げ速度移動平均値を積極的に制御する目的で、基本的には、α=10mm、β=40mmとし、制御周期を10秒とした。制御周期毎に、10mm引上げたときの引上げ速度移動平均値の実績値を算出し、次の式(4)に基づき、引上げ速度目標値の修正値を算出し、その引上げ速度目標値の修正値に基づく引上げを継続して実施した。
(引上げ速度目標値の修正値)={(引上げ速度目標値)×(α+β)
−(引上げ速度移動平均値の実績値)×α}/β……(4)
但し、900〜1100mmの引上げ長の範囲においては、シリコン単結晶の直径の制御は良好であることから、引上げ速度移動平均値の制御を強める目的で、引上げ速度目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を45mmとし、αを10mmとし、βを35mmとした。また、1100〜1200mmの引上げ長の範囲においては、シリコン単結晶の直径の制御が、900〜1100mmの引上げ長の範囲の場合と比較して、少し低下したことから、シリコン単結晶の直径の制御を重視し、引上げ速度移動平均値の実績値の制御を弱める目的で、引上げ速度目標値の修正値を算出するための引上げ長(α+β)を55mmとし、αを10mmとし、βを45mmとした。
【0032】
<試験1及び評価>
実施例1の引上げ長800〜1400mmにおける引上げ速度目標値の修正値の変化を
図4に示す。
図4において、引上げ速度目標値を修正しないときを「0%」とした。また、実施例1の引上げ長800〜1400mmにおける引上げ速度移動平均値の変化を
図5に示す。
図5において、引上げ速度の目標値を任意単位で「1」とした。更に、実施例1の引上げ速度移動平均値の制御を実施した際におけるシリコン単結晶の直径の制御性を
図6に示す。
図6において、シリコン単結晶の直径の目標値を「100%」とした。
【0033】
図4から明らかなように、引上げ速度目標値の修正値は、引上げ速度目標値に対して+0.6%から−0.8%の範囲内に制御することができた。また、
図5から明らかなように、引上げ速度移動平均値の実績値は、引上げ速度目標値の±1.0%以内に制御することができた。また、
図5から明らかなように、引上げ長900〜1100mmにおいて、引上げ速度移動平均値の実績値は、引上げ速度目標値の±0.5%以内に概ね制御することができた。更に、
図6から明らかなように、シリコン単結晶の直径は、目標値100%に対して99.90%〜100.10%の範囲内、即ち±0.10%の範囲内に制御することができた。これらの結果から、引上げ速度移動平均値及びシリコン単結晶の直径を良好に制御できていることが分かった。
【0034】
<実施例2>
引上げ速度目標値の修正値を算出するための引上げ長は、引上げ速度移動平均値とシリコン単結晶の品質との相関性から決定される値であり、この値を50mmとして、シリコン単結晶を引上げた場合の引上げ速度目標値の修正値を求めた。具体的には、引上げ速度目標値と、引上げ速度移動平均値の実績値と、過去の引上げ長α(引上げ速度移動平均値の実績値を算出するための引上げ長)と、将来の引上げ長βとを、次の式(4)に代入して、引上げ速度目標値の修正値を算出した。
(引上げ速度目標値の修正値)={(引上げ速度目標値)×(α+β)
−(引上げ速度移動平均値の実績値)×α}/β……(4)
【0035】
<試験2及び評価>
その結果を表1に示す。なお、表1には、引上げ速度目標値の修正値とともに、引上げ速度目標値、引上げ速度移動平均値の実績値、過去の引上げ長α、及び将来の引上げ長βを記載した。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から、将来の引上げ長βが短いほど、短い引上げ長で引上げ速度目標値の所定の範囲内に入れる必要があるため、引上げ前に設定している引上げ速度目標値に対して大きな修正を加える必要が生じる。このずれが大き過ぎると、シリコン単結晶の直径の制御性の低下を引き起こす可能性があることから、シリコン単結晶の直径を制御しつつ引上げ速度移動平均値を制御するには、将来の引上げ長βを短くし過ぎないことが重要であることが分かった。