【文献】
高田光子、他,多管式分離膜モジュール内の流動シミュレーション,化学工学会秋季大会研究発表講演要旨集,2005年 9月 5日,Vol.37th,page.L323
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の管状分離膜は、管状分離膜同士の最短距離が2mm〜10mmとなるように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の多管式分離膜モジュール。
前記管状分離膜の両末端から20cm以内の箇所にそれぞれ該バッフルが配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の多管式分離膜モジュール。
【背景技術】
【0002】
溶液又は混合気体中の成分を分離するための機器として多管式分離膜モジュールが知られている。この多管式分離膜モジュールに用いる分離膜エレメントは、分離すべき物質の分子程度の大きさの微細孔を有するゼオライト等からなる多孔質の分離膜を管状に形成したものである。溶液や混合気体等の流体から特定の成分を分離するためには、溶液の流体を分離膜エレメントの一方(外面)に接触させて、もう一方(内面)を減圧することにより、特定の成分を気化させ分離する方法や、溶液を気化させて気体状態で分離膜に接触させて、非接触面側を減圧して特定成分を分離する方法、加圧状態の混合気体を分離膜に接触させて特定の成分を分離する方法などが知られている。
【0003】
このような、多管式分離膜モジュールにおいて、分離効率を高めるためには、分離対象となる溶液や混合気体等の流体を分離膜エレメントの全長にわたって効率よく接触させることが必要とされる。
【0004】
特許文献1,2には、流体(液体または気体)を膜に効率よく接触させるために、多管式分離膜モジュール内にチューブ(管状分離膜)と直交状にバッフルを設けることが記載されている。
【0005】
特許文献1の多管式分離膜モジュールにおいては、バッフルに設けた複数の孔にそれぞれチューブを挿通しており、該孔の内周面がチューブに接している。このため、該孔の内周面によってチューブの膜表面が覆われた構造となり、(バッフルの数)×(各バッフルの孔の数)×(該孔の内周面の面積)分だけ、チューブ膜の膜面積が減少し、膜分離効率が低下する。
【0006】
特許文献2の多管式分離膜モジュールにおいては、バッフルのチューブ(管状ゼオライト分離膜)挿通孔の口径をチューブ外径よりも大きくし、孔の内周面とチューブ外周面との間に間隙を形成し、チューブの孔への挿通部分も膜分離に寄与させるようにしている。
【0007】
しかしながら、特許文献2にあっては、バッフルの外周縁の一部を弦方向に切り欠き、被処理流体の大部分はこの切り欠き部分を通るようにしている。このため、特許文献2にあっては、1つのバッフルの一方の側(上流側)と他方の側(下流側)との流体圧の差が小さく、チューブ挿通孔内周面とチューブ外周面との間隙を被処理流体が高流速で通過することはない。
【0008】
特許文献3には、多管式分離膜モジュールの各管状分離膜を僅かな間隙で包囲する管状部材を設け、この間隙に液体を高速で通過させるようにした多管式分離膜モジュールが記載されている。特許文献3によると、かかる構造としたことにより、管状分離膜近傍における流体の乱流が促進されると共に分離膜全体に流体が行き渡り、多管式分離膜モジュールの処理能力が向上する。
【0009】
しかしながら、かかる特許文献3の多管式分離膜モジュールでは、管状分離膜の各々を包囲する管状部材を設けるため、モジュール重量が増加し、またコストも増大する。さらに、管状部材が占める部分には膜を設置できなくなるため、モジュール当りの管状分離膜の本数が少なくなり、膜面積が小さくなる。
【0010】
また、特許文献3では、高圧側のガス線速を大きくするために高圧側のガス流路断面積を小さくし、さらに流路を段階的に小さくすることでステージカットが大きい場合にモジュール内の高圧側のガスのガス線速を大きく保つ構造となっているが、このガス線速は平均で計算されるガス線速であり、膜の各部分における線速の差異は考慮されていない。特にガスの流れの方向の変わる箇所では部分的に透過効率が低下する恐れがあった。
【0011】
特許文献4には、モジュールのハウジング内を管状分離膜と平行な隔壁によって2個以上の空間に仕切り、その隔壁に仕切られた空間の間をガスが移動できるための流通孔を存在させることにより、各空間に納められた管状分離膜の高圧側ガス流れと、低圧側の透過ガス流れの両方共に、管状分離膜の有効長の2倍以上の距離を直列的に移動して管状分離膜に接触できる構造とした多管式分離膜モジュールが記載されている。
【0012】
しかしながら、かかる特許文献4の多管式分離膜モジュールでは管状ガス分離膜に沿うガス流速は従来と同様である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜4を参照して、本発明の一実施の形態に係る多管式分離膜モジュール1について説明する。
【0023】
この多管式分離膜モジュール1は、円筒状のハウジング2と、管状分離膜3を支持するためにハウジング2の一端に固定された支持板4と、ハウジング2の他端に設けられた支持板5と、ハウジング2の軸心線と平行方向に配置された複数の管状分離膜3と、支持板4を覆うようにハウジング2の一端側に取り付けられたエンドカバー6と、ハウジング2の他端側に取り付けられたブラインドプレート7と、支持板4,5と平行にハウジング2内に配置されたバッフル8とを有する。
【0024】
ハウジング2の一端側の外周面に被処理流体の流入口9が設けられ、他端側の外周面に被処理流体の流出口10が設けられている。流入口9は、支持板4と、該支持板4に直近のバッフル8との間の室11に臨むように設けられている。流出口10は、支持板5と、該支持板5に直近のバッフル8との間の室15に臨むように設けられている。この実施の形態では、複数枚(
図1では4枚)のバッフル8が設けられ、バッフル8同士の間に、室11から室15に向って順次に室12,13,14が区画形成されている。なお、バッフル8の枚数は図示のものに限定されない。
【0025】
各バッフル8には、管状分離膜3を挿通させるための円形の挿通孔(以下、孔ということがある。)8aが設けられており、管状分離膜が各挿通孔8aに挿通されている。挿通孔8aの口径は、管状分離膜3の直径(外径)よりも大きく、挿通孔8aの内周面と管状分離膜3の外周面との間に全周にわたって間隙Sがあいている。
【0026】
支持板4,5には、管状分離膜3を支持するための開口4a,5aが設けられている。管状分離膜3は、各開口4a,5aに差し込まれており、管状分離膜3の外周面と各開口4a,5aの内周面との間は気密にシールされている。
【0027】
各管状分離膜3の一端側は、エンドカバー6と支持板4との間の流出室16に向って開放している。エンドカバー6には、分離された透過流体の取出口6aが設けられている。支持板5に支持された管状分離膜3の他端側は、支持板5とブラインドプレート7との間の室17に向って開放していてもよく、封じられていてもよい。
【0028】
この実施の形態では、ハウジング2の一端側とエンドカバー6の外周縁にそれぞれ外向きのフランジ2a,6bが設けられ、支持板4の外周縁が該フランジ2a,6bにシール材(図示略)を介して挟持され、ボルト(図示略)によってこれらが固定されている。ブラインドプレート7は、ハウジング2の他端側に設けられたフランジ2bに対しシール材(図示略)を介してボルトによって取り付けられている。各バッフル8の直径はハウジング2の内径とほぼ等しく、バッフル8の外周面はハウジング2の内周面に当接しているか、又は若干の間隙を介して対峙している。
【0029】
上記実施の形態では、バッフル8の厚さが一様であるため、挿通孔8aの孔長(孔8aの軸心線方向長さ)はバッフル8の厚さと等しくなっているが、バッフル8の厚さは一様でなくてもよい。
【0030】
本発明では、
図4の通り、孔8aの孔長(この実施の形態ではバッフル8の厚さ)をAとし、挿通孔8aの口径をBとし、管状分離膜3の直径(外径)をCとした場合、A/(B−C)が0.67〜50、中でも10以下が好ましく、特に8以下が好ましく、1以上がより好ましく、2以上がさらに好ましい。
【0031】
このように構成された多管式分離膜モジュール1において、被処理流体は流入口9からハウジング2の室11内に導入され、バッフル8の挿通孔8aの内周面と管状分離膜3の外周面との間の間隙Sを通って隣室12に流入し、以下同様に各バッフルの間隙Sを通って順次に室13,14,15を流れ、この間に被処理流体の一部の成分が管状分離膜3を透過して管状分離膜3から流出室16及び取出口6aを介して取り出される。透過しなかった流体は、流出口10から多管式分離膜モジュール1外に流出する。
【0032】
図1〜3の実施の形態ではハウジング2の一端側にエンドカバー6が設けられ、他端側にはブラインドプレート7が設けられているが、
図8の多管式分離膜モジュール1’のように、他端側にもエンドカバー6’及び支持板4’を設け、この他端側エンドカバー6’と支持板4’との間に流出室16’を設けてもよい。この場合、管状分離膜3の他端側は流出室16’内に向って開放したものとされる。
図8では支持板5は省略されている。エンドカバー6’及び支持板4’の構造はエンドカバー6及び支持板4と同一である。
図8のその他の構成は
図1と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0033】
上記実施の形態では、挿通孔8aはバッフル8の一方の面から他方の面にかけて等径であるが、
図7のバッフル8’のように挿通孔8aの入口側及び出口側に角度θ=10〜70°程度のテーパを設け、間隙Sの流体通過圧損を小さくしてもよい。
【0034】
本発明では、
図10,11のように、挿通孔8aの周縁部から延出する挿通筒部8fをバッフル8に設けてもよい。
図10では挿通筒部8fはバッフル8の一方の板面にのみ立設され、
図11では双方の板面にそれぞれ挿通筒部8fが設けられている。
図10,11の場合、挿通孔8aの孔長は、バッフル8の厚みと挿通筒部8fの長さとの和となる。
図10,11においても、挿通筒部8fの端部内周縁に
図7のようなテーパ部を設けてもよい。
【0035】
この多管式分離膜モジュール1,1’にあっては、被処理流体は、バッフル8の一方の側(上流側)の室から他方の側(下流側)の室へ、実質的に該間隙Sのみを介して流れるので、被処理流体は間隙Sを高流速にて通過し、各管状分離膜3に沿って高流速にて流れる。このため、各管状分離膜3の表面(外周面)に沿う被処理流体の流れの乱流化が促進され、膜分離効率が向上する。
【0036】
この効果は、前記A/(B−C)を0.67〜50とすることにより顕著となる。即ち、Aが過大であったり、(B−C)が過小であったりすることによりA/(B−C)が50より大きいと、間隙Sを通過する際の圧損が大きくなり、間隙Sからの被処理流体の流量が少なくなる。また、Aが過小であったり、(B−C)が過大であったりすることによりA/(B−C)が0.67より小さいと、被処理流体は間隙Sを通過した後に管状分離膜3から離れて流れ易くなる。
図5,6はこの作用効果を説明するものである。
図5のようにA/(B−C)が0.67〜50の範囲であると、挿通孔8aを通過した被処理流体は管状分離膜3に沿って高流速にて流れる。A/(B−C)が0.67よりも小さい場合には、挿通孔8aを通過した被処理流体が管状分離膜3から離れて流れ易くなる。
【0037】
挿通孔8aの孔長Aは、モジュールの大きさにもよるが、好ましくは0.8mm以上、より好ましくは1mm以上、さらに好ましくは3mm以上、好ましくは100mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは50mm以下である。孔長Aの値が小さすぎるとバッフルの材質にもよるが、平面性が保てなくなり、大きすぎるとモジュールの重量が多くなりすぎることがある。
【0038】
また、円板状のバッフル8の大きさ(直径)は、ハウジングの内径と一致していることが好ましいが、取り扱いの観点から一致させることが難しい場合には隙間が存在してもよい。この隙間はできるだけ小さい方が好ましい。本発明では、バッフル8の一方の側(上流側)の室から他方の側(下流側)の室へ流れる被処理流体の50%以上特に65%以上が挿通孔8aの間隙Sを通過するよう構成されていることが好ましい。この条件が満たされるならば、バッフルは外周縁の一部が切り欠かれたものであってもよく、挿通孔8a以外の孔が設けられたものであってもよい。
【0039】
挿通孔8aの内径Bは、管状分離膜3の外径によるが、好ましくは3mm以上、より好ましくは6mm以上、さらに好ましくは10mm以上、好ましくは20mm以下、より好ましくは18mm以下、さらに好ましくは16mm以下である。
【0040】
1つのバッフル8において、挿通孔8aは、相互間に2mm以上の間隔を有して配置されていることが好ましい。
【0041】
管状分離膜3の外径Cは、好ましくは3mm以上、より好ましくは6mm以上、さらに好ましくは10mm以上、好ましくは20mm以下、より好ましくは18mm以下、さらに好ましくは16mm以下である。外径Cが小さすぎると管状分離膜の強度が十分でなく壊れやすくなることがあり、大きすぎるとモジュール当りの膜面積が低下する。
【0042】
管状分離膜3の全長は好ましくは20cm以上、好ましくは150cm以下である。これよりも短い場合には接続として被覆される箇所の割合が高くなるため、膜の分離に使用できる露出部の割合が低下し、これ以上長い場合には取扱いが難しくなることがある。
【0043】
複数のバッフルはそれぞれ同じ大きさ、同じ形であることが好ましいが、異なる大きさ、異なる形のものを使用してもよい。特に透過量/供給量が多い場合には、供給流体量が出口に近づくにつれて減少し線速が低下するため、出口に近づくにつれて挿通孔8aの直径を小さくすることが有効な場合がある。
【0044】
尚、1つのバッフルは複数の挿通孔を有するが、少なくとも1つの挿通孔が前記A/(B−C)を満たせばよく、好ましくは50(個数)%以上、より好ましくは80(個数)%以上、さらに好ましくは90(個数)%以上がこれを満たすことが好適である。特に、全ての挿通孔がこの範囲を満たすことが好ましい。
【0045】
複数の挿通孔がA/(B−C)を満たす場合、これを満たす範囲で、複数の挿通孔は異なるA/(B−C)の値であってもよいが、ほぼ同じ値であることが好ましい。ほぼ同じ値とは、A/(B−C)が±10%の範囲内であることをいう。
【0046】
さらに、バッフルが複数ある場合、各バッフルのうち少なくとも1つのバッフルの、少なくとも1つの挿通孔が前記A/(B−C)を満たせばよいが、好ましくは、全てのバッフルが上記条件を満たすことが好ましい。
【0047】
また、各バッフル間で、異なるA/(B−C)の値を設定して製造されてもよい。
【0048】
全てのバッフルの挿通孔のうち、好ましくは50(個数)%以上、より好ましくは80(個数)%以上、さらに好ましくは90(個数)%以上がA/(B−C)を満たすことが好適である。特に、全てのバッフルの全ての挿通孔がA/(B−C)を満たすことが好ましい。
【0049】
各バッフルの複数の挿通孔がA/(B−C)を満たす場合、これを満たす範囲で、複数の挿通孔は異なるA/(B−C)の値であってもよいが、ほぼ同じ値であることが好ましい。ほぼ同じ値とは、A/(B−C)が±10%の範囲内であることをいう。
【0050】
バッフルの材質は、通常、ステンレスであるが、分離条件における耐熱性と供給、透過成分に対する耐性があれば特に限定されず、用途によっては他の材質に変更可能である。
【0051】
複数のバッフルは、ハウジング内において等間隔に設置されることが好ましい。バッフル相互間の間隙は、多管式分離膜モジュールの長手方向の長さにもよるが、通常は10cm以上、好ましくは20cm以上、通常120cm以下、100cm以下程度が好ましい。
【0052】
本発明においては、管状分離膜の両末端から20cm以内特に18cm以内とりわけ15cm以内の箇所にそれぞれバッフルが配置されることが好ましい。この値は流体の入口または出口の配管の位置、配管径によって適した値が異なり、配管とハウジング本体との接続部のモジュール中心に最も近い部分よりも、モジュール中心に近い方に配置されることが好ましい。
【0053】
また、管状分離膜の下端及び上端に同軸状に連設される金属部材を有する場合がある。バッフルは、この金属部材の位置に配置されることによって、以下詳述するゼオライト膜に接して傷つけることを防止することもできる。
【0054】
本発明の多管式分離膜モジュールにおいて、筒状のハウジングの軸心方向の長さは通常40cm〜2m程度である。また、管状分離膜は通常19〜550本配置され、管状分離膜同士の最短距離は、2mm〜10mmとなるように配置されることが好ましい。ハウジングの大きさ、管状分離膜の本数は処理する流体量によって適宜変更されるものである。
【0055】
管状分離膜を支持する支持板の少なくとも一方は、ハウジングに固定され、ハウジングの一端に配置される。他方は、前記支持板に対向するハウジングの他端に配置され、管状分離膜を支持する支持板を有する多管式分離膜モジュールであることが好ましい。
【0056】
管状分離膜の支持板に支持された末端の反対側末端から10cm以内にバッフルの挿通孔と同じ円中心をもつ挿通孔を有し、挿通部において管状膜エレメントを支持する膜を支持するためのもう一つの支持板を有することが好ましい。このような支持板を設置することで、バッフルの挿通孔において、挿通孔の壁と管状分離膜の膜表面の最短距離が全ての点で一定と保たれる。このような支持板が無い場合には、挿通孔の壁と管状分離膜の膜表面の最短距離が一定に保たれず、片面は広く、反対に位置する面は狭くなり、広く開いた部分を選択的に流体が通過する可能性がある。
【0057】
支持板の管状分離膜の支持板に支持された末端の反対側末端から距離は通常10cm以下、好ましくは8cm以下、より好ましくは5cm以下、特に好ましくは3cm以下であり、通常1mm以上、好ましくは3mm以上である。
【0058】
支持板には貫通孔を設け、この貫通孔に管状分離膜を挿通させて支持する。貫通孔の形状は特に限定されず、円形として貫通孔の内周面全体で支持する構造、円形に突起を設け、突起で管状分離膜を支持する構造などがある。また貫通孔以外にも流体が通過できるような孔を有した、例えばメッシュのような構造でもよい。メッシュの孔の面積、形状は支持体としての強度を保てるものであれば特に限定されない。
【0059】
管状分離膜の支持板と接触する箇所には、表面に被覆を行うことが好ましい。被覆材としては、フッ素樹脂テープ、ガラステープなどのテープ、パラフィルム、フッ素樹脂フィルムなどのフィルム、シリコーン熱収縮チューブ、フッ素樹脂熱収縮チューブ、ポリオレフィン熱収縮チューブなどが挙げられる。その中でも取扱いの面で熱収縮チューブが好ましく、その中でもシリコーン熱収縮チューブ、フッ素樹脂熱収縮チューブが好ましい。
【0060】
管状分離膜の支持板と接触する箇所は膜材料であってもよいが、膜の末端を封止するための例えばピンなどを使用する場合には、封止材の箇所で支持板と接触させることが好ましい。封止材と接触させることで、膜自体が触れることがないため、膜の表面が削れることや破損する可能性が小さくなる。封止材の材質は特に限定されず、SUS、アルミニウム、フッ素樹脂などが挙げられ、膜自体の強度、流体の成分などに応じて適宜選択する。
【0061】
管状分離膜は、分離膜を有する管状のものであればよいが、管状の多孔質支持体の表面にゼオライト膜を形成させたものであることが好ましい。
【0062】
上記管状の多孔質支持体の材質としては、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体の無機多孔質支持体が挙げられる。その中でもアルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体が好ましい。多孔質支持体表面が有する平均細孔径は特に制限されるものではないが、細孔径が制御されているものが好ましく、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下の範囲が好ましい。
【0063】
多孔質支持体の表面においてゼオライトを結晶化させゼオライト膜を形成させる。ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、通常、酸素6−10員環構造を有するゼオライトを含み、好ましくは酸素6−8員環構造を有するゼオライトを含む。
【0064】
ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0065】
酸素6−10員環構造を有するゼオライトの一例を挙げれば、AEI、AEL、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、DAC、DDR、DOH、EAB、EPI、ESV、EUO、FAR、FRA、FER、GIS、GIU、GOO、HEU、IMF、ITE、ITH、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MFS、MON、MSO、MTF、MTN、MTT、MWW、NAT、NES、NON、PAU、PHI、RHO、RRO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STF、STI、STT、TER、TOL、TON、TSC、TUN、UFI、VNI、VSV、WEI、YUG等がある。
【0066】
ゼオライト膜は、ゼオライトが単独で膜となったものでも、前記ゼオライトの粉末をポリマーなどのバインダー中に分散させて膜の形状にしたものでも、各種支持体上にゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体でもよい。ゼオライト膜は、一部アモルファス成分などが含有されていてもよい。
【0067】
ゼオライト膜の厚さとしては、特に制限されるものではないが、通常、0.1μm以上であり、好ましくは0.6μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上である。また通常100μm以下であり、好ましくは60μm以下、さらに好ましくは20μm以下の範囲である。
【0068】
本発明の多管式分離膜モジュールにおいて、分離または濃縮の対象となる被処理流体としては、本発明における分離膜エレメントによって、分離または濃縮が可能な複数の成分からなる気体または液体の混合物であれば特に制限はなく、如何なる混合物であってもよいが、気体の混合物に使用することが好ましい。
【0069】
分離または濃縮の対象となる混合物が、例えば、有機化合物と水との混合物(以下これを、「含水有機化合物」と略称することがある。)の場合、ゼオライト膜を使用する場合、水がゼオライト膜に対する透過性が高いので、混合物から水が分離され、有機化合物は元の混合物中で濃縮される。パーベーパレーション法(浸透気化法)、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)と呼ばれる分離または濃縮方法を用いることができる。パーベーパレーション法は、液体の混合物をそのまま分離膜に導入する分離または濃縮方法であるため、分離または濃縮を含むプロセスを簡便なものにすることができる。
【0070】
本発明において、分離または濃縮の対象となる混合物が、複数の成分からなる気体の混合物である場合、気体の混合物としては、例えば、二酸化炭素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1−ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、水などから選ばれる少なくとも1種の成分を含むものが挙げられる。これらの気体成分からなる混合物のうち、パーミエンスの高い気体成分は、分離膜を透過し分離され、パーミエンスの低い気体成分は供給ガス側に濃縮される。
【0071】
本発明の多管式分離膜モジュールは、流体量、あるいは目的の分離度、濃縮度によって連結するなどして分離装置に使用することができる。流体量が多い場合または目的の分離度・濃縮度が高く1つのモジュールでは処理が十分できない場合には出口から出た流体をさらにもう一つのモジュールの入口に入るように配管を接続して使用することが好ましい。また分離度、濃縮度に応じてさらに連結して目的の分離度・濃縮度とすることができる。
【0072】
本発明の多管式分離膜モジュールを並列に設置した分離装置とし、流体を分岐してガスを供給してもよい。この時さらに並列したそれぞれのモジュールに直列でモジュールを設置することもできる。並列としたモジュールを直列とする場合、供給ガス量が直列方向に低下し線速が低下するので、適宜線速を保つように並列の設置数を減少させることが好ましい。
【0073】
モジュールを直列に配置する場合の透過した成分はモジュール毎に排出しても良いし、モジュール間を連結して集合して排出しても良い。モジュール間を連結させる場合には下流側のモジュールの透過成分を上流側のモジュールの透過成分に流す方が好ましい。このような流れを作ることによって供給ガスと透過ガスは交流接触となり性能が優れた分離・濃縮ができる。
【0074】
(実施例)
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0075】
[実施例1]
本発明の分離モジュールについてガス分離シミュレーションを行った。
【0076】
シミュレーションに用いた多管式分離膜モジュールは、
図1〜4においてバッフル8の枚数を2枚としたものである。取出口6aが頂部となるようにハウジング2の軸心線方向を上下方向となるように多管式分離膜モジュール1を設置した。
【0077】
ハウジング内径は49.5mmであり、全長は240mmである。管状分離膜は直径(=管状分離膜の外径C)が6mmであり、ピッチが9mmとなるように19本が配置され、中心に1本とその周囲に正6角形の頂点に位置する箇所に6本とさらにその周囲に正6角形の頂点とその頂点同士を結んだ直線上に各頂点から等距離の位置に6本が配置されている。膜の露出長さは188mmであり、19本の膜では面積が0.067m
2となる。
【0078】
ハウジングにはガスを供給する流入口9と膜を透過しなかったガスが流出する流出口10とがハウジングの中心から93mmの位置に設置され、それぞれ内径5mmの流入管、流出管が接続されている。さらに膜を透過したガスが集合し通過する取出口6aが配置され、内径6mmの取出配管が接続されている。膜の外側のガスの流れと膜を透過したガスの流れは交流となるようにガスを供給する。
【0079】
モジュールには中心から75mmの位置に1枚ずつ、計2枚のバッフル8が設置されており、各バッフルには各分離膜の中心と一致する中心をもつ19個の挿通孔8aを設けてある。挿通孔の直径(=挿通孔の内径B)は7.5mmであり管状分離膜の外周面と挿通孔の内周面との間には0.75mmの間隙が存在し、この間隙をガスが通過する。バッフルの厚み(=孔長A)は3mmであり、孔長Aと、バッフルの挿通孔の内径Bと管状分離膜の外径Cの差との比A/(B−C)は2.0である。
【0080】
供給ガスは2種類の透過性が異なる成分を混合したガスとし、透過性の高いガスのパーミエンスを4.0×10
−7mol/m
2sPa、透過性の低いガスのパーミエンスを3.5×10
−9mol/m
2sPaとした。供給量は400NL/minとし、ガス組成は透過性が高い成分が40%、透過性が低いガスが60%とした。ガスの圧力は3.5Mpaに設定した。
【0081】
シミュレーションはANSYS社の汎用流体解析ソフトウェアANSYS Fluent(R14)を使用し、膜分離現象については標準機能では評価できないため、各ガス成分の分圧と透過率から透過量を計算するサブルーチンを組み込んで計算を行った。膜上の各位置での物理量を用いて透過計算を行うことでバッフル効果による局所濃度の変化を評価することができる。透過性の高いガス成分について供給したガス量と透過したガス量の比率を求めることで、透過性の高いガスの透過率を得た。シミュレーションで得られた透過性の高いガスの透過率は34.2%であった。
【0082】
[実施例2]
バッフルの厚みを6mmとし、孔長Aと、バッフルの挿通孔の内径Bと管状分離膜の外径Cの差との比A/(B−C)を4.0としたこと以外は実施例1と同様のモジュールで、実施例1と同様のシミュレーションを実施した。シミュレーションで得られた透過性の高いガスの透過率は34.2%であった。
【0083】
[実施例3]
バッフルの厚みを10mmとし、孔長Aと、バッフルの挿通孔の内径Bと管状分離膜の外径Cの差との比A/(B−C)を6.7としたこと以外は実施例1と同様のモジュールで、実施例1と同様のシミュレーションを実施した。シミュレーションで得られた透過性の高いガスの透過率は34.6%であった。
【0084】
[比較例1]
バッフルの厚みを0.75mmとし、孔長Aと、バッフルの挿通孔の内径Bと管状分離膜の外径Cの差との比A/(B−C)を0.5としたこと以外は実施例1と同様のモジュールで、実施例1と同様のシミュレーションを実施した。シミュレーションで得られた透過性の高いガスの透過率は32.4%であった。実施例1〜3と比較して低いガス透過率となった。
【0085】
実施例1〜3と比較例1のA/(B−C)と透過性の高いガスの透過率の関係を
図9に示す。比較例1と実施例1〜3の間で透過しやすいガスの透過率の差が大きいことがわかる。
【0086】
孔長と、バッフルの挿通孔の内径と管状分離膜の外径の差との比が0.5の比較例1と、孔長と、バッフルの挿通孔の内径と管状分離膜の外径の差との比が2の実施例1、同数値が4の実施例2、同数値が6.7の実施例3で透過しやすいガスの透過率の差が大きいことがわかる。
【0087】
[実施例4]
次に、上述の実施例、比較例とは異なる構造のモジュールに対してガス流れシミュレーションを行った。
【0088】
シミュレーションに用いた多管式分離膜モジュールは、
図1〜4においてバッフル8の枚数を2枚としたものである。取出口6aが頂部となるようにハウジング2の軸心線方向を上下方向となるように多管式分離膜モジュール1を設置した。
【0089】
ハウジング内径は83.1mmであり、全長は412mmである。管状分離膜は直径が12mmであり、ピッチが16mmとなるように19本が配置され、中心に1本とその周囲に正6角形の頂点に位置する箇所に6本とさらにその周囲に正6角形の頂点とその頂点同士を結んだ直線上に各頂点から等距離の位置に6本が配置されている。膜の露出長さは200mmであり、19本の膜では面積が0.143m
2となる。
【0090】
ハウジングにはガスを供給する流入口9と膜を透過しなかったガスが流出する流出口10とがハウジングの中心から143mmの位置に設置され、それぞれ内径15.8mmの流入管、流出管が接続されている。さらに膜を透過したガスが集合し通過する取出口6aが配置され、内径15.8mmの取出配管が接続されている。膜の外側のガスの流れと膜を透過したガスの流れは交流となるようにガスを供給する。
【0091】
モジュールには中心から75mmの位置に管状分離膜の下端及び上端に同軸上にそれぞれ連結される金属部材部分に1枚ずつ、計2枚のバッフル8が設置されており、各バッフルには各分離膜の中心と一致する中心をもつ19個の挿通孔8aを設けてある。挿通孔の直径は12.2mmであり管状分離膜の外周面と挿通孔の内周面との間には
0.1mmの間隙が存在し、この間隙をガスが通過する。バッフルの厚みは2mmであり、孔長Aと、バッフルの挿通孔の内径Bと管状分離膜の外径Cの差との比A/(B−C)は10である。
【0092】
供給量は3200NL/minとし、ガスの圧力は5.0Mpaに設定した。
【0093】
シミュレーションはANSYS社の汎用流体解析ソフトウェアANSYS Fluent(R14)を使用した。バッフル通過後のガスの流れを確認するため、上流部のバッフルからガスの下流側に20mmの位置の膜に垂直な面で、ガスの流速ベクトルを膜に平行な流れ成分と膜に垂直な流れ成分に分解し、それぞれ平均値を算出した。さらに膜に平行な流れと垂直な流れの速度比からガスの角度平均値を求めた。この値が小さい方が膜に平行な流れであることを意味する。得られたガスの角度平均値は5.9°であった。
【0094】
[実施例5]
管状分離膜の外径Cを12.5mmとし、孔長Aと、バッフルの挿通孔の内径Bと管状分離膜の外径Cの差との比A/(B−C)を4としたこと以外は実施例4と同様のモジュールで、実施例4と同様のシミュレーションを実施した。得られたガスの角度平均値は6.7°であった。
【0095】
[比較例2]
管状分離膜の外径Cを15.5mmとし、孔長Aと、バッフルの挿通孔の内径Bと管状分離膜の外径Cの差との比A/(B−C)を0.57としたこと以外は実施例4と同様のモジュールで、実施例4と同様のシミュレーションを実施した。得られたガスの角度平均値は16.9°であった。
【0096】
実施例4,5と比較例2のA/(B−C)と角度平均値の関係を
図12に示す。
【0097】
実施例4、5では膜に対する角度が小さく膜に沿ってほぼ平行の流れが得られている。これに対して比較例2では角度が大きく、膜に対して斜めの流れとなっていることがわかる。
【0098】
本出願は、2013年8月30日出願の日本特許出願、特願2013−179869に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。