(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スカンジウムを含有する有機相を逆抽出に付し、スカンジウム逆抽出液を得るスカンジウム逆抽出工程をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載のスカンジウム回収方法。
前記吸着工程において前記イオン交換樹脂に通液される溶液は、ニッケル酸化鉱を高温高圧下で硫酸を用いて浸出した酸溶液である、請求項1から7のいずれかに記載のスカンジウム回収方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るスカンジウムの回収方法の具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0025】
<<第1の実施形態>>
≪1.スカンジウムの回収方法≫
図1は、第1の実施形態に係るスカンジウムの回収方法の一例を示すフロー図である。このスカンジウムの回収方法は、ニッケル酸化鉱を硫酸等の酸により浸出して得られた、スカンジウム及び不純物を含有する酸性溶液から、スカンジウムと不純物とを分離して、高純度のスカンジウムを簡便に且つ効率よく回収するものである。
【0026】
このスカンジウムの回収方法では、スカンジウム及び不純物を含有する酸性溶液(被処理溶液)を、アミン系の不純物抽出剤を用いた第1の溶媒抽出処理に付すことにより、その酸性溶液中の不純物を不純物抽出剤(第1有機相)に抽出し、抽出後に酸性溶液(第1水相)に残留することになるスカンジウムと分離する。そして、酸性溶液(第1水相)を、アミド誘導体を含むスカンジウム抽出剤を用いた第2の溶媒抽出に付すことにより、スカンジウムをスカンジウム抽出剤(第2有機相)に抽出し、酸性溶液(第2水相)に残る不純物と分離する。スカンジウム抽出剤(第2有機相)に抽出されるスカンジウムは、逆抽出に付し、スカンジウムを含有する酸性溶液(第3水相)と第3有機相とに分離した後、第3水相にシュウ酸を加え、シュウ酸スカンジウムとして析出させることによって回収される。
【0027】
このように、第1の実施形態に係るスカンジウム回収方法では、溶媒抽出によりスカンジウムを分離して回収するにあたって、アミン系の不純物抽出剤を用いた第1の溶媒抽出処理に付し、その後、アミド誘導体を含むスカンジウム抽出剤を用いた第2の溶媒抽出に付することを特徴としている。このような方法によれば、不純物をより効果的に分離することができ、ニッケル酸化鉱のような多くの不純物を含有する原料からであっても、安定した操業を行うことができ、高純度のスカンジウムを効率よく回収することができる。
【0028】
例えば、第1の実施形態に係るスカンジウムの回収方法は、
図1のフロー図に示すように、ニッケル酸化鉱を硫酸等の酸により浸出することにより、スカンジウム及び不純物を含有する酸性溶液を得るニッケル酸化鉱の湿式製錬処理工程S1と、その酸性溶液から不純物を除去してスカンジウムを濃縮させたスカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程S2と、スカンジウム溶離液を、アミン系不純物抽出剤を用いた第1の溶媒抽出に付すことにより、不純物を不純物抽出剤(第1有機相)中に抽出して抽出後に酸性溶液(第1水相)に残留するスカンジウムと分離する不純物抽出工程S3と、酸性溶液(第1水相)を、アミド誘導体を含むスカンジウム抽出剤を用いた第2の溶媒抽出に付し、スカンジウムをスカンジウム抽出剤(第2有機相)に抽出し、酸性溶液(第2水相)に残る他の不純物と分離するスカンジウム抽出工程S4と、スカンジウム抽出剤(第2有機相)を逆抽出に付し、スカンジウムを含有する逆抽出液(第3水相)からスカンジウムを回収するスカンジウム回収工程S5とを含む。
【0029】
≪2.スカンジウムの回収方法の各工程について≫
<2−1.ニッケル酸化鉱の湿式製錬処理工程>
スカンジウム回収の処理対象となるスカンジウムを含有する酸性溶液としては、ニッケル酸化鉱を硫酸により処理して得られる酸性溶液を用いることができる。
【0030】
具体的に、溶媒抽出に付される酸性溶液としては、ニッケル酸化鉱を高温高圧下で硫酸等の酸により浸出して浸出液を得る浸出工程S11と、浸出液に中和剤を添加して不純物を含む中和澱物と中和後液とを得る中和工程S12と、中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程S13とを有するニッケル酸化鉱の湿式製錬処理工程S1により得られる硫化後液を用いることができる。以下では、ニッケル酸化鉱の湿式製錬処理工程S1の流れを説明する。
【0031】
[浸出工程S11]
浸出工程S11は、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)等を用いて、ニッケル酸化鉱のスラリーに硫酸を添加して240℃〜260℃の温度下で撹拌処理を施し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する工程である。なお、浸出工程S11における処理は、従来知られているHPALプロセスに従って行えばよく、例えば特許文献1に記載されている。
【0032】
ここで、ニッケル酸化鉱としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、これらのニッケル酸化鉱には、スカンジウムが含まれている。
【0033】
この浸出工程S11では、得られた浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを洗浄しながら、ニッケルやコバルト、スカンジウム等を含む浸出液と、ヘマタイトである浸出残渣とに固液分離する。この固液分離処理では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、凝集剤供給設備等から供給される凝集剤を用いて、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。なお、この固液分離処理では、シックナー等の固液分離槽を多段に連結させて用い、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離することが好ましい。
【0034】
[中和工程S12]
中和工程S12は、上述した浸出工程S11により得られた浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る工程である。この中和工程S12における中和処理により、ニッケルやコバルト、スカンジウム等の有価金属は中和後液に含まれるようになり、鉄、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分が中和澱物となる。
【0035】
中和剤としては、従来公知のもの使用することができ、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0036】
中和工程S12における中和処理では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、pHを1以上4以下の範囲に調整することが好ましく、pHを1.5以上2.5以下の範囲に調整することがより好ましい。pHが1未満であると、中和が不十分となり、中和澱物と中和後液とに分離できない可能性がある。一方で、pHが4を超えると、アルミニウムをはじめとした不純物のみならず、スカンジウムやニッケル等の有価金属も中和澱物に含まれる可能性がある。
【0037】
[硫化工程S13]
硫化工程S13は、上述した中和工程S12により得られた中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る工程である。この硫化工程S13における硫化処理により、ニッケル、コバルト、亜鉛等は硫化物となり、スカンジウム等は硫化後液に含まれることになる。
【0038】
具体的に、この硫化工程S13では、得られた中和後液に対して、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を吹きこみ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と、ニッケル濃度を低い水準で安定させ、スカンジウム等を含有させた硫化後液とを生成させる。
【0039】
硫化工程S13における硫化処理では、ニッケル・コバルト混合硫化物のスラリーに対してシックナー等の沈降分離装置を用いた沈降分離処理を施し、ニッケル・コバルト混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分である硫化後液についてはオーバーフローさせて回収する。
【0040】
第1の実施形態に係るスカンジウムの回収方法は、以上のようなニッケル酸化鉱の湿式製錬処理工程S1における各工程を経て得られる硫化後液を、スカンジウム回収処理の対象となる、スカンジウムを含有する酸性溶液として用いることができる。
【0041】
<2−2.スカンジウム(Sc)溶離工程>
上述したように、ニッケル酸化鉱を硫酸により浸出して得られた、スカンジウムを含有する酸性溶液である硫化後液を、スカンジウム回収処理の対象溶液として適用することができる。ところが、スカンジウムを含有する酸性溶液である硫化後液には、スカンジウムの他に、例えば上述した硫化工程S13における硫化処理で硫化されずに溶液中に残留したアルミニウムやクロム、その他の不純物が含まれている。このことから、この酸性溶液を溶媒抽出に付すにあたり、スカンジウム溶離工程S2として、予め、酸性溶液中に含まれる不純物を除去してスカンジウム(Sc)を濃縮し、スカンジウム溶離液(スカンジウム含有溶液)を生成させることが好ましい。
【0042】
スカンジウム溶離工程S2では、例えば、イオン交換処理による方法で、酸性溶液中に含まれるアルミニウム等の不純物を分離して除去し、スカンジウムを濃縮させたスカンジウム含有溶液を得るようにすることができる。
【0043】
なお、以下に、
図1のフロー図を参照しながら、酸性溶液中に含まれる不純物を除去してスカンジウムを濃縮し溶離させる方法として、キレート樹脂を使用したイオン交換反応により行う方法を例に挙げて概略を説明するが、この方法に限られるものではない。
【0044】
イオン交換反応の態様は、特に限定されるものではないが、例えば、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる吸着工程S21と、スカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させてキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程S22と、キレート樹脂に0.3N以上3N以下の硫酸を接触させてスカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程S23とを有するものを例示できる。また、必須ではないが、キレート樹脂を再利用できるようにするため、スカンジウム溶離工程S23を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸を接触させ、吸着工程S21でキレート樹脂に吸着したクロムを除去するクロム除去工程S24をさらに有することが好ましい。以下、各工程について簡単に概略を説明する。
【0045】
[吸着工程S21]
吸着工程S21では、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる。キレート樹脂の種類は特に限定されず、例えばイミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いることができる。
【0046】
[アルミニウム除去工程S22]
必須ではないが、吸着工程S21でスカンジウムを吸着したキレート樹脂からスカンジウムを溶離するのに先立ち、吸着工程S21でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させ、キレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程S22を行うことが好ましい。アルミニウム除去工程S22を行うことで、スカンジウムをキレート樹脂に吸着させつつ、アルミニウムをキレート樹脂から除去できる。
【0047】
アルミニウムを除去する際、pHを1以上2.5以下の範囲に維持することが好ましく、1.5以上2.0以下の範囲に維持することがより好ましい。
【0048】
[スカンジウム溶離工程S23]
スカンジウム溶離工程S23では、スカンジウムが吸着されたキレート樹脂に0.3N以上3N以下の硫酸を接触させ、スカンジウム溶離液を得る。スカンジウム溶離液を得るに際して、溶離液に用いる硫酸の規定度を0.3N以上3N以下の範囲に維持することが好ましく、0.5N以上2N以下の範囲に維持することがより好ましい。
【0049】
[クロム除去工程S24]
必須ではないが、キレート樹脂を再利用できるようにするため、スカンジウム溶離工程S23を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸を接触させ、吸着工程S21でキレート樹脂に吸着したクロムを除去するクロム除去工程S24を行うことが好ましい。クロム除去工程S24では、スカンジウム溶離工程S23を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸を接触させ、吸着工程S21でキレート樹脂に吸着したクロムを除去する。クロムを除去する際に、溶離液に用いる硫酸の規定度が3Nを下回ると、クロムが適切にキレート樹脂から除去されず、キレート樹脂を再利用する際に支障を生じる可能性がある。
【0050】
<2−3.不純物抽出工程>
次に、不純物抽出工程S3では、スカンジウム溶離工程S2により得られたスカンジウム含有溶液、すなわち、スカンジウム及び不純物を含有する酸性溶液を、アミン系不純物抽出剤を用いた第1の溶媒抽出に付し、不純物を含有する抽出液(第1有機相)と、スカンジウムを含有する抽残液(第1水相)とに分離する。
【0051】
不純物抽出工程S3における態様は、特に限定されない。例えば、スカンジウム含有溶液とアミン系不純物抽出剤を含む有機溶媒とを混合して、不純物と僅かなスカンジウムを含有する抽出後有機相(第1有機相)と、スカンジウムを残した抽残液(第1水相)とに分離する不純物抽出工程S32と、抽出後有機相に硫酸溶液を混合することで抽出後有機相に抽出された僅かなスカンジウムを水相に分離させて洗浄後液(有機相)を得るスクラビング工程S33と、洗浄後液に逆抽出剤を添加して洗浄後液から不純物を逆抽出する不純物逆抽出工程S34とを有することが好ましい。
【0052】
[濃縮工程S31]
必須ではないが、溶離液中スカンジウム濃度が著しく低い場合は、水酸化ナトリウムによる中和、硫酸による溶解を行い、スカンジウムの濃縮を行っても良い。濃縮工程S31を経ることで、スカンジウム含有溶液を減容化することができ、結果として、アミン系不純物抽出剤を含む有機溶媒の使用量を抑えることができる。
【0053】
[不純物抽出工程S32]
不純物抽出工程S32では、スカンジウム含有溶液と、アミン系不純物抽出剤を含む有機溶媒とを混合して、有機溶媒中に不純物を選択的に抽出し、不純物を含有する有機溶媒(第1有機相)と抽残液(第1水相)とを得る。第1の実施形態に係るスカンジウムの回収方法では、この不純物抽出工程S31において、アミン系不純物抽出剤を用いた溶媒抽出処理を行うことを特徴としている。アミン系不純物抽出剤を用いて溶媒抽出処理を行うことにより、より効率的に且つ効果的に不純物を抽出してスカンジウムと分離することができる。
【0054】
ここで、アミン系不純物抽出剤は、スカンジウムとの選択性が低く、また抽出時に中和剤が不要である等の特徴を有するものであり、例えば、1級アミンであるPrimeneJM−T、2級アミンであるLA−1、3級アミンであるTNOA(Tri−n−octylamine)、TIOA(Tri−i−octylamine)等の商品名で知られるアミン系不純物抽出剤を用いることができる。
【0055】
抽出時においては、そのアミン系不純物抽出剤を、例えば炭化水素系の有機溶媒等で希釈して使用することが好ましい。有機溶媒中のアミン系不純物抽出剤の濃度としては、特に限定されないが、抽出時、後述する逆抽出時における相分離性等を考慮すると、有機溶媒1体積に対し、1体積%以上10体積%以下程度であることが好ましく、特に5体積%程度であることがより好ましい。
【0056】
また、抽出時における、有機溶媒とスカンジウム含有溶液との体積割合としては、特に限定されないが、スカンジウム含有溶液中のメタルモル量に対して有機溶媒モル量を0.01倍以上0.1倍以下程度にすることが好ましい。
【0057】
不純物抽出工程S32を経ることで、ニッケル酸化鉱に含有されているほとんどの不純物元素、具体的には、ニッケル、マグネシウム、クロム、マンガン、カルシウム、コバルト等のほか、アクチノイド元素であるトリウムを不純物として分離できる。特に、不純物抽出工程S3を経ることで、スカンジウム抽出工程S4だけでは分離できないトリウムを不純物として分離できる。
【0058】
[スクラビング(洗浄)工程S33]
必須ではないが、スカンジウムの回収率を高めるため、上述した不純物抽出工程S32においてスカンジウム含有溶液から不純物を抽出させた溶媒(第1有機相)中にスカンジウムが僅かに共存する場合、第1有機相に対してスクラビング(洗浄)処理を施し、スカンジウムを水相に分離して抽出剤中から回収することが好ましい(スクラビング工程S33)。
【0059】
このようにしてスクラビング工程S33を設けて有機溶媒を洗浄し、アミン系不純物抽出剤により抽出された僅かなスカンジウムを水相に分離させることによって、スカンジウムの回収率をより一層に高めることができる。
【0060】
スクラビングに用いる溶液(洗浄溶液)としては、硫酸溶液や塩酸溶液等を使用することができる。また、水に可溶性の塩化物や硫酸塩を添加したものを使用することもできる。具体的に、洗浄溶液として硫酸溶液を用いる場合には、1.0mol/L以上3.0mol/L以下の濃度範囲のものを使用することが好ましい。
【0061】
洗浄段数(回数)としては、不純物元素の種類、濃度にも依存することからそれぞれのアミン系抽出剤や抽出条件によって適宜変更することができる。例えば、有機相(O)と水相(A)の相比O/A=1とした場合、3〜5段程度の段数とすることにより、有機溶媒中に抽出されたスカンジウムを分析装置の検出下限未満まで分離することができる。
【0062】
[不純物逆抽出工程S34]
必須ではないが、スカンジウム含有溶液から不純物を抽出した有機溶媒(第1有機相)を不純物抽出工程S32における抽出剤として再利用できるようにするため、この有機溶媒から不純物を逆抽出することが好ましい。具体的に、不純物逆抽出工程S34では、アミン系不純物抽出剤を含む有機溶媒に逆抽出溶液(逆抽出始液)を添加して混合することによって、不純物抽出工程S32における抽出処理とは逆の反応を生じさせて不純物を逆抽出し、不純物を含む逆抽出後液(水相)を得る。
【0063】
上述したように、不純物抽出工程S32での抽出処理においてはアミン系不純物抽出剤を用いて不純物を選択的に抽出するようにしている。このことから、その不純物を、アミン系不純物抽出剤を含む有機溶媒から効果的に分離させ、アミン系不純物抽出剤を再生する観点から、逆抽出溶液としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩を含有する溶液を用いることが好ましい。
【0064】
逆抽出溶液である炭酸塩を含有する溶液の濃度としては、過剰な使用を抑制する観点から、例えば0.5mol/L以上2mol/L以下程度とすることが好ましい。
【0065】
なお、上述したスクラビング工程S33において、アミン系不純物抽出剤を含む有機溶媒に対してスクラビング処理を施した場合には、同様に、スクラビング後のアミン系不純物抽出剤に対して逆抽出溶液を添加して混合することによって逆抽出処理を行うことができる。
【0066】
このようにして抽出後の抽出剤又はスクラビング後の抽出剤に炭酸ナトリウム等の炭酸塩溶液を添加して逆抽出処理を行い、不純物を分離させた後の抽出剤は、再び、不純物抽出工程S32における抽出剤として繰り返して使用することができる。
【0067】
<2−4.スカンジウム抽出工程>
次に、スカンジウム抽出工程S4では、不純物抽出工程S3により得られたスカンジウム含有抽残液(第1水相)を、アミド誘導体を含むスカンジウム抽出剤による第2の溶媒抽出に付すことにより、その抽残液中の不純物を抽出後液(第2水相)中に残し、スカンジウムを抽出剤(第2有機相)に分配することで、スカンジウムと不純物とを分離し、さらにスカンジウムを含む抽出液(第2有機相)と硫酸とを接触させて、スカンジウムを含有する逆抽出液(水相)を得る。
【0068】
溶媒抽出工程S4における態様としては、特に限定されないが、不純物抽出工程S3により得られたスカンジウム含有抽残液(第1水相)に不純物として含まれる三価鉄を二価鉄に還元する還元工程S41と、スカンジウム含有溶液と有機溶媒である抽出剤とを混合して、僅かな不純物とスカンジウムを抽出した抽出有機溶媒(第2有機相)と、不純物を残した抽残液(第2水相)とに分離するスカンジウム抽出工程S42と、抽出後有機溶媒に硫酸溶液を混合して抽出後有機溶媒に抽出されたスカンジウムを水相に分離させて逆抽出液を得る逆抽出工程S43とを有することが好ましい。
【0069】
[還元工程S41]
必須ではないが、スカンジウム含有溶液と、抽出剤を含む有機溶媒とを混合する前に、不純物抽出工程S3により得られたスカンジウム含有抽残液(第1水相)に不純物として含まれる三価鉄を二価鉄に還元する還元処理S41を行うことが好ましい。この還元処理S41を行うことで、後のスカンジウム抽出工程S42において、不純物である鉄の抽残液(第2水相)への選択率が高まり、結果として、回収されるスカンジウムの品位(純度)を高めることができる。
【0070】
還元工程S41の態様は、特に限定されない。例えば、不純物抽出工程S3により得られたスカンジウム含有抽残液(第1水相)に硫化水素ガスを吹き込むことが挙げられる。
【0071】
[スカンジウム抽出工程S42]
スカンジウム抽出工程S42では、スカンジウム含有溶液と、抽出剤を含む有機溶媒とを混合して、有機溶媒中にスカンジウムを選択的に抽出し、スカンジウムを含む有機溶媒(第2有機相)と、不純物を含有する抽残液(第2水相)とを得る。第1の実施形態に係るスカンジウムの回収方法では、このスカンジウム抽出工程S42において、アミド誘導体を含むスカンジウム抽出剤を用いた溶媒抽出を行うことを特徴としている。アミド誘導体を含むスカンジウム抽出剤を用いて溶媒抽出処理を行うことにより、不純物抽出工程S3を経てもスカンジウム含有溶液に依然として残存するアルミニウムと鉄を、不純物として分離することができる。
【0072】
(アミド誘導体)
スカンジウム抽出剤を構成するアミド誘導体は、スカンジウムとの選択性が高いという特徴を有する。このようなアミド誘導体として、下記一般式(I)で表される物が挙げられる。アミドの骨格にアルキル基を導入することによって、親油性を高め、抽出剤として用いることができる。
【化2】
【0073】
式中、置換基R
1及びR
2は、それぞれ同一又は別異のアルキル基を示す。アルキル基は直鎖でも分鎖でも良いが、有機溶媒への溶解性を高められるため、アルキル基は、分鎖であることが好ましい。アミドの骨格にアルキル基を導入することによって、親油性を高め、抽出剤として用いることができる。
【0074】
また、R
1及びR
2において、アルキル基の炭素数は特に限定されるものでないが、5以上11以下であることが好ましい。炭素数が4以下であると、アミド誘導体の水溶性が高まり、アミド誘導体が水相に含まれる可能性がある。炭素数が12以上であると、界面活性能が高まり、エマルションを形成し易くなる。また、炭素数が12以上であると、酸性溶液を含む水相、有機溶媒を含む有機相とは別に、第3のアミド誘導体層を形成し得る。
【0075】
R
3は水素原子又はアルキル基を示す。R
4は水素原子、又はアミノ酸としてα炭素に結合される、アミノ基以外の任意の基を示す。
【0076】
アミド誘導体は、スカンジウムを選択的に抽出できるものであれば特に限定されるものでないが、簡便に製造できる点で、グリシンアミド誘導体であることが好ましい。アミド誘導体がグリシンアミド誘導体である場合、上記のグリシンアミド誘導体は、次の方法によって合成できる。
【0077】
まず、NHR
1R
2(R
1,R
2は、上記の置換基R
1,R
2と同じ)で表される構造のアルキルアミンに2−ハロゲン化アセチルハライドを加え、求核置換反応によりアミンの水素原子を2−ハロゲン化アセチルに置換することによって、2−ハロゲン化(N,N−ジ)アルキルアセトアミドを得る。
【0078】
次に、グリシン又はN−アルキルグリシン誘導体に上記2−ハロゲン化(N,N−ジ)アルキルアセトアミドを加え、求核置換反応によりグリシン又はN−アルキルグリシン誘導体の水素原子の一つを(N,N−ジ)アルキルアセトアミド基に置換する。これら2段階の反応によってグリシンアルキルアミド誘導体を合成できる。
【0079】
また、グリシンをヒスチジン、リジン、アスパラギン酸に置き換えれば、ヒスチジンアミド誘導体、リジンアミド誘導体、アスパラギン酸アミド誘導体を合成できる。グリシンアルキルアミド誘導体、ヒスチジンアミド誘導体、リジンアミド誘導体、アスパラギン酸アミド誘導体による抽出挙動は、対象とするマンガンやコバルト等の錯安定定数から、グリシン誘導体を用いた結果の範囲内に収まると考えられる。
【0080】
上記一般式(I)で表される化合物がヒスチジンアミド誘導体である場合、ヒスチジンアミド誘導体は下記一般式(II)で表される。
【化3】
【0081】
上記一般式(I)で表される化合物がリジンアミド誘導体である場合、リジンアミド誘導体は下記一般式(III)で表される。
【化4】
【0082】
上記一般式(I)で表される化合物がアスパラギン酸アミド誘導体である場合、アスパラギン酸アミド誘導体は下記一般式(IV)で表される。
【化5】
【0083】
式(II)〜(IV)において、置換基R
1及びR
2は、式(I)で説明したものと同じである。
【0084】
なお、アミド誘導体は、ノルマル−メチルグリシン誘導体であってもよい。
【0085】
(スカンジウムの抽出)
上記アミド誘導体を用いてスカンジウムイオンを抽出するには、目的のスカンジウムイオンを含む酸性水溶液を調整しながら、この酸性水溶液を、上記アミド誘導体を含む有機溶液に加えて混合する。これによって、第2有機相に目的のスカンジウムイオンを選択的に抽出することができる。
【0086】
抽出時においては、アミド誘導体を含むスカンジウム抽出剤を、例えば炭化水素系の有機溶媒等で希釈して使用することが好ましい。有機溶媒は、上記アミド誘導体及び金属抽出種が溶解する溶媒であればどのようなものであってもよく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独でも複数混合しても良く、1−オクタノールのようなアルコール類を混合しても良い。
【0087】
アミド誘導体の濃度は、スカンジウムの濃度によって適宜設定できるが、抽出時及び後述する逆抽出時における相分離性等を考慮すると、有機溶媒100体積%に対し、10体積%以上30体積%以下程度であることが好ましく、特に20体積%程度であることがより好ましい。
【0088】
スカンジウム及び不純物(主に二価鉄、アルミニウム)を含有する酸性水溶液から、スカンジウムを効率的に回収するためには、スカンジウムを含む酸性水溶液のpHを2.5以下に調整しながら抽出剤の有機溶液を加えることが好ましく、pHを1.5以下に調整しながら抽出剤の有機溶液を加えることがより好ましい。pHが大きすぎると、スカンジウムだけでなく、不純物も第2有機相に抽出される可能性がある。
【0089】
pHの下限は特に限定されないが、pHを1以上に調整しながら抽出剤の有機溶液を加えることがより好ましい。pHが小さすぎると、スカンジウムを十分に抽出できず、スカンジウムが第2水相に残る可能性がある。
【0090】
撹拌時間及び抽出温度は、スカンジウムイオンの酸性水溶液、及び抽出剤の有機溶液の条件によって適宜設定すればよい。
【0091】
[スカンジウム逆抽出工程S43]
スカンジウム逆抽出工程S43では、スカンジウム抽出工程S42にてスカンジウムを抽出した有機溶媒から、スカンジウムを逆抽出する。具体的に、スカンジウム逆抽出工程S43では、アミド誘導体を含む有機溶媒に逆抽出溶液(逆抽出始液)を添加して混合することによって、スカンジウム抽出工程S42における抽出処理とは逆の反応を生じさせてスカンジウムを逆抽出し、スカンジウムを含む逆抽出後液(第3水相)を得る。
【0092】
逆抽出に用いる溶液としては、硫酸溶液や水等を使用することができる。また、水に可溶性の硫酸塩を添加したものを使用することもできる。具体的に、逆抽出溶液として硫酸溶液を用いる場合には、1.0mol/L以上2.0mol/L以下の濃度範囲のものを使用することが好ましい。
【0093】
逆抽段数(回数)としては、不純物元素の種類、濃度にも依存することから使用したアミド誘導体からなるスカンジウム抽出剤や抽出条件等によって適宜変更することができる。例えば、有機相(O)と水相(A)の相比O/A=1とした場合、3〜5段程度の逆抽段数とすることで、有機溶媒中に抽出されたスカンジウムを分析装置の検出下限未満まで回収することができる。
【0094】
このようにして抽出後の抽出剤に、硫酸溶液を添加して逆抽出処理を行い、スカンジウムを回収した後の抽出剤(有機相)は、再び、スカンジウム抽出工程S42において抽出剤として繰り返して使用することができる。
【0095】
<2−5.スカンジウム回収工程>
次に、スカンジウム回収工程S5では、スカンジウム抽出工程S4で得られた逆抽出液からスカンジウムを回収する。
【0096】
スカンジウム回収工程S4におけるスカンジウム回収方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。公知の方法として、逆抽出後液(第3水相)にアルカリを加えて中和し、水酸化スカンジウムの澱物として回収する方法や、逆抽出後液(第3水相)にシュウ酸を加えてシュウ酸スカンジウムの澱物として回収する方法等が挙げられる。中でも、より一層効果的に不純物を分離できる点で、逆抽出後液(水相)にシュウ酸を加えることが好ましい。
【0097】
逆抽出後液(第3水相)にシュウ酸を加える方法では、まず、必要に応じて、逆抽出後液(第3水相)に含まれるスカンジウムを濃縮する。続いて、第3水相にシュウ酸を加えることでシュウ酸スカンジウムの沈殿物を生成させ、その後、シュウ酸スカンジウムを乾燥し、焙焼することによって酸化スカンジウムとして回収する。以下に、
図2のフロー図を参照しながら、スカンジウム回収工程S5を詳しく説明する。
【0098】
[濃縮工程S51]
スカンジウム抽出工程S4で得られた逆抽出液中のスカンジウム濃度が低い場合、逆抽出後液(第3水相)に対し、水酸化ナトリウムによる中和、硫酸による溶解を行い、スカンジウムの濃縮を行うことが好ましい。
【0099】
水酸化ナトリウムのほか、中和剤として、炭酸カルシウム、消石灰等も知られている。しかしながら、逆抽出後液(第3水相)は、硫酸溶液であり、中和剤がCaを含んでいると、中和剤の添加によって石膏が生成されるため、好ましくない。
【0100】
中和剤を加えたときのpHは、6.0以上であることが好ましい。pHが低すぎると、中和が不十分であり、Scを十分に回収できない可能性がある。
【0101】
中和剤を加えたときのpHの上限は、特に限定されないが、中和剤の使用量を抑えるという観点から、中和剤を加えたときのpHは、7.0以下であることが好ましい。
【0102】
[シュウ酸スカンジウム析出工程S52]
シュウ酸スカンジウム析出工程S52は、逆抽出後液(第3水相)あるいは濃縮工程S51後の濃縮液に対して所定量のシュウ酸を加え、シュウ酸スカンジウムの固体として析出、沈殿させて液相から分離する工程である。
【0103】
シュウ酸を加えたときのpHは、0以上1.0以下であることが好ましく、0.5以上1.0以下であることがより好ましく、0.7以上1.0以下であることがさらに好ましい。pHが低すぎると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が高くなり、スカンジウム回収率が低下し得る。pHが高すぎると、シュウ酸スカンジウムだけでなく、逆抽出後液(第3水相)あるいは濃縮工程S51後の濃縮液に含まれる不純物のシュウ酸塩も沈殿し、沈殿物のスカンジウム純度が下がり得る。
【0104】
湿式製錬処理工程S1及びスカンジウム溶離工程S2を経て得られたスカンジウム溶離液に対し、不純物抽出工程S3及びスカンジウム抽出工程S4を行うことなく直接スカンジウム回収工程S5を行う場合、シュウ酸を加えたときのpHを0の近傍にしないと、スカンジウム溶離液に含まれる不純物のシュウ酸塩も沈殿し、沈殿物のスカンジウム純度が下がり得る。そのため、高品位のスカンジウムを得るには、収率を犠牲にしてでも、pHを0の近傍にせざるを得ない。
【0105】
本実施形態に記載の発明は、シュウ酸スカンジウム析出工程S52に供する元液が精製されているため、シュウ酸を加えたときのpHを1の近傍にしても、高品位のスカンジウムを回収できる。よって、本実施形態に記載の発明は、品位と収率を両立できるという顕著な効果を奏する。
【0106】
シュウ酸の添加量としては、特に限定されないが、抽残液等に含まれるスカンジウムをシュウ酸塩として析出させるのに必要な当量の1.05倍以上3.0倍以下の量にすることが好ましく、1.5倍以上2.5倍以下の量にすることがより好ましく、1.7倍以上2.3倍以下の量にすることがさらに好ましい。添加量が少なすぎると、スカンジウムを全量回収できなくなる可能性がある。一方で、添加量が多すぎると、得られるシュウ酸スカンジウムの溶解度が増加することでスカンジウムが再溶解して回収率が低下したり、過剰なシュウ酸を分解するために次亜塩素酸ソーダのような酸化剤の使用量が増加してしまう。
【0107】
[焙焼工程S53]
焙焼工程S53は、シュウ酸スカンジウム析出工程S53で得られたシュウ酸スカンジウムの沈殿物を水で洗浄し、乾燥させた後に、焙焼する工程である。この焙焼工程S53における焙焼処理を経ることで、スカンジウムを極めて高純度な酸化スカンジウムとして回収することができる。
【0108】
焙焼処理の条件としては、特に限定されないが、例えば管状炉に入れて約900℃で2時間程度加熱すればよい。なお、工業的には、ロータリーキルン等の連続炉を用いることによって、乾燥と焙焼とを同じ装置で行うことができるため好ましい。
【0109】
<<第2の実施形態>>
図2は、第2の実施形態に係るスカンジウムの回収方法の一例を示すフロー図である。
【0110】
第1の実施形態では、湿式製錬処理工程S1及びスカンジウム溶離工程S2の後、まずは、アミン系不純物抽出剤を用いた溶媒抽出(不純物抽出工程S3)を行い、続いて、アミド誘導体を含むスカンジウム抽出剤を用いた溶媒抽出(スカンジウム抽出工程S4)を行って、スカンジウム回収工程S5を行うものであった。
【0111】
しかしながら、溶媒抽出の先後は、第1の実施形態の態様に限るものでない。第2の実施形態は、溶媒抽出の先後を第1の実施形態の逆にしたものである。すなわち、第2の実施形態では、湿式製錬処理工程S1及びスカンジウム溶離工程S2の後、まずは、アミド誘導体を含むスカンジウム抽出剤を用いた溶媒抽出(スカンジウム抽出工程S4)を行い、続いて、アミン系不純物抽出剤を用いた溶媒抽出(不純物抽出工程S3)を行って、スカンジウム回収工程S5を行うものである。
【0112】
なお、第2の実施形態における第1の実施形態との相違点は、溶媒抽出の先後だけであり、各工程の内容は、第1の実施形態と同じである。
【実施例】
【0113】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0114】
<試験例1> スカンジウム回収プロセスの構築
[実施例1]
〔湿式製錬処理工程S1〕
(浸出工程S11)
まず、ニッケル酸化鉱を特許文献1に記載の方法等の公知の方法に基づき、硫酸を用いて加圧酸浸出した。
【0115】
(中和工程S12)
続いて、得られた浸出液のpHを調整して不純物を除去した。
【0116】
(硫化工程S13)
その後、不純物除去後の浸出液に硫化剤を添加し、固体であるニッケル硫化物を除去して硫化後液を用意した。この硫化後液をスカンジウム含有溶液(抽出前元液)とする。なお、表1に硫化後液の組成を示す。
【表1】
【0117】
なお、湿式製錬処理工程S1を経て得られた硫化後液に、水酸化ナトリウム水溶液をpHが6.8になるまで加え、水酸化澱物を生成させ、水酸化澱物に含まれるスカンジウムの品位(純度)を測定したところ、スカンジウムの品位(純度)は、0.1重量%程度にすぎなかった。
【0118】
〔スカンジウム溶離工程S2〕
(吸着工程S21)
次に、得られた硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させた。本実施例では、キレート樹脂として、イミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いた。
【0119】
(アルミニウム除去工程S22)
次に、スカンジウムが吸着されたキレート樹脂に0.05Nの硫酸を接触させ、キレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去した。
【0120】
(スカンジウム溶離工程S23)
次に、スカンジウムが吸着されたキレート樹脂に0.5Nの硫酸を接触させ、スカンジウム溶離液を得た。
【0121】
なお、湿式製錬処理工程S1及びスカンジウム溶離工程S2を経て得られたスカンジウム溶離液に、水酸化ナトリウム水溶液をpHが6.8になるまで加え、水酸化澱物を生成させ、水酸化澱物に含まれるスカンジウムの品位(純度)を測定したところ、スカンジウムの品位(純度)は、50重量%程度であった。この品位では、高純度なスカンジウムの提供が求められる場合には不適切である。
【0122】
〔不純物抽出工程S3〕
(濃縮工程S31)
続いて、スカンジウム溶離液に対し、加熱する等の公知の方法により濃縮処理を施して、抽出前元液を得た。なお、表2に抽出前元液の組成を示す。
【表2】
【0123】
表2及びそれ以降の表における成分欄の「Others」とは、ニッケルやマグネシウム、クロム、マンガン、カルシウム、コバルト等のニッケル酸化鉱に含有されている元素、またニッケル酸化鉱を処理するに際して添加される中和剤等に由来する元素等の様々な元素の総称であり、これら検出できた成分の分析値の合計で記している。なお、本実施例では、アルミニウムと鉄(二価、三価)は、「Others」には含めていない。
【0124】
(不純物抽出工程S32)
次に、表2に示す組成の溶解液100リットルを抽出始液とし、これに、アミン系不純物抽出剤(ダウケミカル社製,PrimeneJM−T)を、溶剤(シェルケミカルズジャパン社製,シェルゾールA150)を用いて5体積%に調整した有機溶媒50リットルを混合させて室温で60分間撹拌して第1溶媒抽出処理を施し、スカンジウムを含む抽残液(第1水相)を得た。
【0125】
この抽出により得られた抽出有機相に含まれる各元素の組成を分析した。表3は、抽出有機相(第1有機相)に含まれる各種元素の物量を、抽出前元液に含有されていた各元素の物量で割った値の百分率を算出し、それを抽出率(%)として示したものである。
【表3】
【0126】
表3に示す抽出率の結果から、不純物抽出工程を通じて、抽出前元液に含まれていたスカンジウム(Sc)の多くが抽残液(第1水相)に分配され、AlやFe(二価、三価)等は、抽出有機相(第1有機相)に抽出されなかったものの、その他の多くの不純物を抽出有機相(第1有機相)に分離できたことが分かる。
【0127】
(スクラビング(洗浄)工程S33)
続いて、不純物抽出工程S32で得られた、スカンジウムを含む50リットルの有機溶媒(抽出有機相)に、濃度1mol/Lの硫酸溶液を、相比(O/A)が1の比率となるように50リットル混合し、60分間撹拌して洗浄した。その後、静置して水相を分離し、有機相は再び濃度1mol/Lの新たな硫酸溶液50リットルと混合して洗浄し、同様に水相を分離した。このような洗浄操作を合計5回繰り返した。
【0128】
スクラビング(洗浄)工程S33における洗浄の程度を評価するため、洗浄後の抽出有機相に、濃度1mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液を、相比O/A=1/1の比率となるように混合して60分間撹拌して逆抽出処理を施し、洗浄後の抽出有機相に含まれる成分(不純物、及び抽出有機相に残存する微量のスカンジウム)を水相に逆抽出した。
【0129】
この逆抽出処理によって得られた逆抽出後液に含まれる各種元素の組成を分析した。表4の上段は、逆抽出後液に含まれる各種元素の物量を、不純物抽出工程S32において有機相に抽出された各種元素の物量で割った値の百分率を算出し、それを回収率(%)とした値である。表4の下段は、逆抽出後液に含まれる各種元素の物量を、不純物抽出工程S32を行う前の抽出前元液に含有されていた各元素の物量で割った値の百分率を算出し、それを回収率(%)とした値である。
【表4】
【0130】
表4に示す回収率の結果から分かるように、スクラビング(洗浄)工程S33を行うことによって、不純物抽出工程S32では抽出有機相に含まれていたスカンジウムの約75%を水相に分離し、回収することができた。また、抽出有機相に含まれる不純物の溶出については測定下限未満に抑えることができた。結果として、スクラビング(洗浄)工程S33によって、不純物抽出工程S32で有機溶媒に抽出されたスカンジウムを効果的に水相に分離させることができるとともに、この水相に不純物が混ざることを防止できる。
【0131】
なお、湿式製錬処理工程S1、スカンジウム溶離工程S2及び不純物抽出工程S3を経て得られた抽残液(第1水相)に、水酸化ナトリウム水溶液をpHが6.8になるまで加え、水酸化澱物を生成させ、水酸化澱物に含まれるスカンジウムの品位(純度)を測定したところ、スカンジウムの品位(純度)は、50重量%程度であった。この品位では、高純度なスカンジウムの提供が求められる場合には不適切である。
【0132】
理由として、抽残液(第1水相)には、スカンジウムだけでなく、アルミニウム、鉄(二価、三価)が依然として含まれているためであると考えられる。
【0133】
なお、湿式製錬処理工程S1、スカンジウム溶離工程S2及びスカンジウム抽出工程S4を行い、不純物抽出工程S3を行わなかった場合、スカンジウム抽出工程S4では分離することのできないトリウムが不純物として含まれ得る。
【0134】
〔スカンジウム抽出工程S4〕
(還元工程S41)
不純物抽出工程S32で得られた抽残液と、スクラビング工程S33で得られた洗浄後液との混合液に硫化水素ガスを吹き込み、不純物として含有する鉄イオンの価数を3から2に還元した。
【0135】
(スカンジウム抽出工程S42)
(1)アミド誘導体D2EHAGの合成
アミド誘導体の一例として、上記一般式(I)で表されるグリシンアミド誘導体、すなわち、2つの2−エチルヘキシル基を導入したN−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノカルボニルメチル]グリシン(N−[N,N−Bis(2−ethylhexyl)aminocarbonylmethyl]glycine)(あるいはN,N−ジ(2−エチルヘキシル)アセトアミド−2−グリシン(N,N−di(2−ethylhexyl)acetamide−2−glycine)ともいい、以下「D2EHAG」という。)を合成した。
【0136】
D2EHAGの合成は、次のようにして行った。まず、下記反応式(V)に示すように、市販のジ(2−エチルヘキシル)アミン23.1g(0.1mol)と、トリエチルアミン10.1g(0.1mol)とを分取し、これにクロロホルムを加えて溶解し、次いで2−クロロアセチルクロリド13.5g(0.12mol)を滴下した後、1mol/lの塩酸で1回洗浄し、その後、イオン交換水で洗浄し、クロロホルム相を分取した。
次に、無水硫酸ナトリウムを適量(約10〜20g)加え、脱水した後、ろ過し、黄色液体29.1gを得た。この黄色液体(反応生成物)の構造を、核磁気共鳴分析装置(NMR)を用いて同定したところ、上記黄色液体は、2−クロロ−N,N−ジ(2−エチルヘキシル)アセトアミド(以下「CDEHAA」という。)の構造であることが確認された。なお、CDEHAAの収率は、原料であるジ(2−エチルヘキシル)アミンに対して90%であった。
【化6】
【0137】
次に、下記反応式(VI)に示すように、水酸化ナトリウム8.0g(0.2mol)にメタノールを加えて溶解し、さらにグリシン15.01g(0.2mol)を加えた溶液を撹拌しながら、上記CDEHAA12.72g(0.04mol)をゆっくりと滴下し、撹拌した。撹拌を終えた後、反応液中の溶媒を留去し、残留物にクロロホルムを加えて溶解した。この溶液に1mol/lの硫酸を添加して酸性にした後、イオン交換水で洗浄し、クロロホルム相を分取した。
【0138】
このクロロホルム相に無水硫酸マグネシウム適量を加え脱水し、ろ過した。再び溶媒を減圧除去し、12.5gの黄色糊状体を得た。上記のCDEHAA量を基準とした収率は87%であった。黄色糊状体の構造をNMR及び元素分析により同定したところ、
図1及び
図2に示すように、D2EHAGの構造を持つことが確認された。上記の工程を経て、スカンジウム抽出剤としてのアミド誘導体D2EHAGを得た。
【化7】
【0139】
(2)還元液に含まれるスカンジウムの溶媒抽出
還元工程S41を行った後の還元液50リットルを抽出始液とし、これに、D2EHAGに溶剤(丸善石油株式会社製,スワゾール1800)を加えてD2EHAGの濃度を20体積%に調整した有機溶媒100リットルを混合させて室温で60分間撹拌して溶媒抽出処理を施し、スカンジウムを含む有機溶媒(第2有機相)を得た。
【0140】
この抽出により得られた抽出有機相(第2有機相)に含まれる各元素の組成を分析した。表5に、抽出有機相に含まれる各種元素の物量を、抽出前元液に含有されていた各元素の物量で割った値の百分率を算出し、それを抽出率(%)として結果を示す。
【表5】
【0141】
表5に示す抽出率の結果から分かるように、スカンジウム抽出工程S42を通じて、抽出前元液(水相)に含まれていたスカンジウム(Sc)の多くが有機溶媒(第2有機相)に分配され、AlやFeといった、不純物抽出工程S3では分離することのできなかった不純物を分離することができた。
【0142】
〔逆抽出工程S43〕
続いて、抽出有機相に、濃度1mol/Lの硫酸溶液を、相比O/A=1/1の比率となるように混合して60分間撹拌して逆抽出処理S43を施し、スカンジウムを水相(第3水相)に逆抽出した。
【0143】
この逆抽出操作を3回繰り返すことによって得られた逆抽出後液に含まれる各種元素の組成を分析した。表6に、逆抽出後液に含まれる各種元素の物量を、スカンジウム抽出工程S42において有機相に抽出された各種元素の物量で割った値の百分率を算出し、それを逆抽出率(%)として結果を示す。
【0144】
【表6】
【0145】
表6に示す回収率の結果から分かるように、上述した溶媒抽出処理を行うことによって、抽出前元液に含まれていた不純物のほぼ100%を分離して、スカンジウム抽出工程S42の後の第2有機相から回収できる大部分のスカンジウムを回収することができた。
【0146】
[スカンジウム回収工程S5]
〔濃縮工程S51〕
次に、得られた逆抽出液に、水酸化ナトリウム水溶液をpHが6.8になるまで加え、水酸化澱物を作製し、よく洗浄した後、硫酸で溶解することで、次工程の始液を得た。
【0147】
〔シュウ酸スカンジウム析出工程S52〕
次に、得られた始液に対して、その始液に含まれるスカンジウム量に対して計算量で2倍となる量のシュウ酸二水和物(三菱ガス化学株式会社製)の結晶を溶解し、60分撹拌混合してシュウ酸スカンジウムの白色結晶性沈殿を生成させた。このときの溶液のpHは、1.0であった。
【0148】
〔焙焼工程S53〕
次に、得られたシュウ酸スカンジウムの沈殿を吸引濾過し、純水を用いて洗浄し、105℃で8時間乾燥させた。続いて、乾燥させたシュウ酸スカンジウムを管状炉に入れて1100℃に維持して焙焼(焼成)させ、酸化スカンジウムを得た。
【0149】
濃縮工程S51で得られた始液に含まれる各種元素の組成と、焙焼により得られた酸化スカンジウムに含まれる各種元素の組成とを発光分光分析法によって分析した。表7に、焙焼後の各種成分の物量を、シュウ酸スカンジウム析出工程S52を行う前の(すなわち、濃縮工程S51で得られた始液に含まれる)各種成分の物量で割った除去率(%)を示す。
【表7】
【0150】
表7に示す除去率の結果から分かるように、スカンジウム以外のアルミニウムや鉄、及びその他の不純物をほぼ完全に除去でき、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)としての純度が99.9重量%を上回る極めて高純度な酸化スカンジウムを得ることができた。
【0151】
[比較例1]
湿式製錬処理工程S1及びスカンジウム溶離工程S2を経て得られたスカンジウム溶離液に、シュウ酸二水和物の添加量が始液に含まれるスカンジウム量に対して計算量で1.2倍となる量であり、シュウ酸添加後の溶液のpHが0であったこと以外は実施例1と同様の手法でスカンジウム回収工程S5を行った。そして、焙焼(焼成)した後の酸化スカンジウムに含まれるスカンジウムの品位(純度)を測定した。
【0152】
その結果、アルミニウムや鉄を含む不純物成分をほぼ完全に分離でき、焙焼後の酸化スカンジウム(Sc
2O
3)としての純度は99.9重量%以上を担保出来たものの、溶媒抽出処理とシュウ酸塩化処理とを組み合わせた実施例1の方法よりも実収率が低いものとなった。
【0153】
なお、比較例1の場合、スカンジウム溶離液には、スカンジウムのほか、鉄やアルミニウムが含まれている。そのため、実収率を優先して、スカンジウム回収工程S5において、シュウ酸二水和物の添加量、及びシュウ酸添加後の溶液のpHを実施例1と同じ条件にすると、シュウ酸スカンジウムの沈殿物に鉄やアルミニウムも含まれてしまう。したがって、実施例1ほど高い品位(純度)を得ることができない。
【0154】
<試験例2> スカンジウム抽出工程S4の最適化
[試験例2−1]還元工程S41の効果
還元工程S41の効果を検証するため、D2EHAGを用いたときのスカンジウム、二価鉄及び三価鉄の抽出挙動を調べた。
【0155】
スカンジウム、二価鉄、三価鉄をそれぞれ1×10
−4mol/l含み、pHを1.1〜7.9に調整した数種類の硫酸酸性溶液を用意し、元液とした。なお、二価鉄は硫酸第一鉄、三価鉄は硫酸第二鉄を用いて調製した。
【0156】
0.01mol/lのD2EHAGを含む、上記の元液と同体積のノルマルドデカン溶液を、元液入りの試験管に加えて25℃恒温庫内に入れ、24時間振とうした。このとき、硫酸溶液のpHは、濃度0.1mol/lの硫酸、硫酸アンモニウム及びアンモニアを用いて一定となるように調整した。
【0157】
振とう後、有機相について、1mol/lの硫酸を用いて逆抽出した。そして、逆抽出相中の上記元液に含有させた各成分の濃度を、誘導プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いて測定した。この測定結果から、それぞれの含有成分の抽出率を、有機相中の物量/(有機相中の物量+水相中の物量)で定義し、求めた。結果を
図3に示す。
図3の横軸は、硫酸酸性溶液のpHであり、縦軸は、元液に含まれる各種成分の抽出率(単位:%)である。
【0158】
図3から、二価鉄と三価鉄とでは抽出挙動が異なることが分かる。スカンジウム及び二価鉄を含有する酸性溶液については、pHを1.2以上4.5以下に調整しながらD2EHAGによる溶媒抽出処理を行うことで、スカンジウムを含有する有機相と、二価鉄を含有する水相とに分離できる。
【0159】
一方、スカンジウム及び三価鉄を含有する酸性溶液については、スカンジウムを有機相に抽出可能な領域では三価鉄も有機相に抽出されるため、スカンジウム及び三価鉄を含有する酸性溶液については、D2EHAGによる溶媒抽出処理を行うことができない。
【0160】
したがって、元液に含まれる鉄イオンを効率よく除去するため、D2EHAGを用いてスカンジウム抽出処理S42を行うのに先立ち、元液に含まれる三価鉄を二価鉄に還元する還元工程S41を行うことが好ましい。
【0161】
[試験例2−2]スカンジウム抽出工程S42におけるスカンジウム抽出前元液(抽出始液)の至適pH
実施例1と同様の手法にて湿式製錬処理工程S1、スカンジウム溶離工程S2、不純物抽出工程S3及び還元工程S41を行った。これらの工程を経て、表8に示す組成のスカンジウム抽出前元液を得た。
【表8】
【0162】
表8に示す組成のスカンジウム抽出前元液(抽出始液)に対し、D2EHAGを含む有機溶媒を用いたスカンジウム抽出工程S42を行った。実施例1と同様、有機溶剤は、丸善石油株式会社製のスワゾール1800であり、D2EHAGの濃度は20体積%である。有機量(O)と抽出始液(A)の量をO/A=2に設定し、抽出平衡pHを、表9に示す抽出条件のように選定した。
【表9】
【0163】
図4は、溶媒抽出後の有機溶媒(第2有機相)に含まれるSc、Al及びFe(II)の抽出率(%)の結果を示すグラフ図である。なお、抽出率は、抽出有機相に含まれる各種元素の物量を、抽出前元液に含有されていた各元素の物量で割った値の百分率とした。
【0164】
図4のグラフ図から分かるように、pHが1.0の場合、スカンジウムとその他の不純物とを効率的に分離することができ、その結果、抽出後有機溶媒中にスカンジウムを選択的に抽出することができることが分かった。具体的には、pHが1.0である場合、スカンジウムの抽出率が56%であるのに対し、不純物の抽出率はいずれも3%未満であった。
【0165】
また、スカンジウム及び不純物(主に二価鉄、アルミニウム)を含有する酸性水溶液から、スカンジウムを効率的に回収するためには、スカンジウムを含む酸性水溶液のpHを2.5以下、より好ましくは1.5以下に調整しながら抽出剤の有機溶液を加えることが好ましいことが確認された。
【0166】
[試験例2−3]スカンジウム逆抽出工程S43で使用する硫酸の至適濃度
試験例2−2−1で得られた第2有機相に、硫酸を混合して逆抽出工程S43を施した。表10に、逆抽出に使用した硫酸の濃度条件を示す。
【表10】
【0167】
図5は、逆抽出に用いた硫酸の濃度に対するスカンジウムの逆抽出率との関係を示すグラフ図である。ここで、逆抽出率とは、有機溶媒から分離して硫酸に含まれるようになった金属の割合をいう。
【0168】
図5のグラフ図から、高い収率を得るため、硫酸濃度を1mol/L以上にするのが好ましいことが確認された。