(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
スカンジウムは、高強度合金の添加剤や燃料電池の電極材料として極めて有用である。しかしながら、生産量が少なく、高価であるため、広く用いられるには至っていない。
【0003】
さて、ラテライト鉱やリモナイト鉱等のニッケル酸化鉱石には、微量のスカンジウムが含まれている。ところが、ニッケル酸化鉱石はニッケル含有品位が低いため、長らくニッケル原料として工業的に利用されてこなかった。そのことから、ニッケル酸化鉱石からスカンジウムを工業的に回収することの研究もほとんどなされていなかった。
【0004】
しかしながら、近年、ニッケル酸化鉱石を硫酸と共に加圧容器に装入し、240℃〜260℃程度の高温に加熱してニッケルを含有する浸出液と浸出残渣とに固液分離するHPALプロセスが実用化されている。このHPALプロセスでは、得られた浸出液に中和剤を添加することで不純物が分離され、次いで硫化剤を添加することでニッケルをニッケル硫化物として回収することができる。そして、得られたニッケル硫化物を既存のニッケル製錬工程で処理することで電気ニッケルやニッケル塩化合物を得ることができる。
【0005】
このようなHPALプロセスを用いる場合、ニッケル酸化鉱石に含まれるスカンジウムは、ニッケルと共に浸出液に含まれることになる(特許文献1参照)。そして、HPALプロセスで得られた浸出液に対して中和剤を添加して不純物を分離し、次いで硫化剤を添加すると、ニッケルはニッケル硫化物として回収される一方で、スカンジウムは硫化剤添加後の酸性溶液(硫化後液)に含まれるようになる。そのため、HPALプロセスにより処理することで、ニッケルとスカンジウムとを効果的に分離することができる。
【0006】
上述した酸性溶液からスカンジウムを回収する方法としては、例えば、イミノジ酢酸塩を官能基とするキレート樹脂等にスカンジウムを吸着させて不純物と分離し、濃縮することによって回収する方法が提案されている(特許文献2〜4参照)。
【0007】
一方で、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬処理により得られた酸性溶液から溶媒抽出処理によってスカンジウムを回収する方法も提案されている(特許文献5参照)。この特許文献5に記載の方法では、先ず、スカンジウムのほかに、少なくとも鉄、アルミニウム、カルシウム、イットリウム、マンガン、クロム、マグネシウムの1種以上を含有する水相の含スカンジウム溶液に、2−エチルヘキシルスルホン酸−モノ−2−エチルヘキシルをケロシンで希釈した有機溶媒を加えて、スカンジウム成分を有機溶媒中に抽出する。次いで、有機溶媒中にスカンジウムと共に抽出されたイットリウム、鉄、マンガン、クロム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを分離するために、塩酸水溶液を加えてスクラビングを行うことによってそれらを除去した後、有機溶媒中にNaOH水溶液を加えて、その有機溶媒中に残存するスカンジウムをSc(OH)
3を含むスラリーとし、これを濾過して得られたSc(OH)
3を塩酸で溶解して塩化スカンジウム水溶液を得る。そして、得られた塩化スカンジウム水溶液にシュウ酸を加えてシュウ酸スカンジウム沈殿とし、濾過により、鉄、マンガン、クロム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを濾液中に分離した後、仮焼することによって高純度な酸化スカンジウムを得るというものである。
【0008】
しかしながら、キレート樹脂を単独で使用しただけでは、鉄、アルミニウム、クロム等の溶離液中への分配は非常に小さいものの、これらの不純物は原料中に多量に含まれているため、分離のために複数回の吸着、溶離操作が必要となる。また、その他のごく微量に含まれる複数の不純物の吸着、溶離挙動は、スカンジウムよりも劣るものの、溶離液中への分配が高いため分離が非常に困難である。
【0009】
また、溶媒抽出による回収処理では、ニッケル酸化鉱石に含まれるスカンジウム品位が非常に微量であるため、工程液を直接処理することは設備容量が大きくなるためコスト的に困難であった。
【0010】
また、スカンジウム等の希土類元素には、しばしばウランやトリウム等のアクチノイド元素が微量共存する場合があることも知られている。上述したキレート樹脂におけるウランやトリウムの吸脱着挙動は、スカンジウムとほぼ同じである。つまり、上述したキレート樹脂を用いて分離する方法では、スカンジウムだけでなくアクチノイド元素の多くが吸着されてしまう。また、キレート樹脂に酸性液を通液して溶離した場合には、スカンジウムだけでなくアクチノイド元素も溶離されてスカンジウムと分離できないことになる。
【0011】
一方で、例えば、スカンジウムを燃料電池等の材料として用いようとする場合、必要な特性を確保するために高純度な品質が要求され、上述したアクチノイド元素は特に避けるべきとされている。しかしながら、スカンジウムを、アクチノイド元素をはじめとするこれらの不純物元素と有効に分離する方法がなかった。
【0012】
このように、ニッケル酸化鉱石から、不純物元素と有効に分離させて高純度なスカンジウムを工業的に回収するのに適した方法は見出されていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0027】
≪1.スカンジウムの回収方法の概要≫
図1は、本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法を説明するためのフロー図である。このスカンジウムの回収方法は、ニッケル酸化鉱石を硫酸等の酸により浸出して得られた浸出液を中和し、その中和処理により得られた、スカンジウム、ウラン、及びトリウムを含有する水酸化物から、スカンジウムと、ウラン及びトリウムとを分離して、スカンジウムのみを簡便に且つ効率よく、かつ高純度に回収するものである。
【0028】
具体的に、本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法は、スカンジウムを含有するニッケル酸化鉱石を高温高圧下で硫酸等の酸により浸出して浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程S1と、浸出液に中和剤を添加して中和澱物と中和後液とを得る中和工程S2と、中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程S3と、硫化後液をキレート樹脂に接触させることで硫化後液中のスカンジウムをキレート樹脂に吸着させ、スカンジウム溶離液を得るイオン交換工程S4と、スカンジウム溶離液にアルカリを添加して水酸化物スカンジウムの沈殿物を得た後、その水酸化スカンジウムに塩酸もしくは硝酸溶液の酸溶液を添加することでスカンジウム酸溶解液を得る溶解工程S5と、スカンジウム酸溶解液を中性抽出剤に接触させてスカンジウム以外の不純物元素を抽出分離し、スカンジウムを含有する抽残液を得る溶媒抽出工程S6と、抽残液に含まれるスカンジウムのシュウ酸塩を生成させ、そのシュウ酸スカンジウムを焙焼して酸化スカンジウムを得るスカンジウム回収工程S7とを有するものである。
【0029】
このように、本実施の形態においては、スカンジウムを回収し、精製するにあたり、イオン交換(イオン交換工程)と溶媒抽出(溶媒抽出工程)とを併用し、さらにイオン交換の後に溶媒抽出に先立って、スカンジウム溶離液からスカンジウムを含有する澱物を生成させ、その澱物を塩酸もしくは硝酸の酸溶液で溶解してスカンジウム酸溶解液を得る(溶解工程)。そして、その酸溶解液を溶媒抽出に供し、溶媒抽出で抽出されなかった抽残液にシュウ酸を添加してシュウ酸スカンジウムの結晶を得ることを特徴としている。このような方法によれば、ウランやトリウムを含む不純物をより高品位で分離することができ、ニッケル酸化鉱石のような多くの不純物を含有する原料からであっても、コンパクトな設備で簡便に且つ安定したスカンジウムの回収操業を行うことができる。
【0030】
≪2.スカンジウムの回収方法の各工程について≫
以下、
図1に示すフロー図を参照にしながら、スカンジウムの回収方法の各工程についてより詳細に説明する。
【0031】
(1)浸出工程
浸出工程S1では、スカンジウムを含有するニッケル酸化鉱石を硫酸等の酸と共に高温加圧容器(オートクレーブ)等に装入し、240℃〜260℃の高温で且つ高圧の環境下において、撹拌処理を施しながら酸によりニッケル酸化鉱石を浸出して浸出液と浸出残渣とを含む浸出スラリーを生成する。なお、浸出工程S11における処理は、従来知られているHPALプロセスに従って行えばよく、例えば特許文献1に記載されている。
【0032】
ここで、ニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8重量%〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。これらのニッケル酸化鉱石には、ニッケルやコバルト、スカンジウム等の有価金属のほかに、アルミニウム、クロム、鉄等の成分が多く含まれている。
【0033】
浸出工程S11では、得られた浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを洗浄しながら、ニッケルやコバルト、スカンジウム等を含む浸出液と、ヘマタイトである浸出残渣とに固液分離する。この固液分離処理では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、凝集剤供給設備等から供給される凝集剤を用いて、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。なお、この固液分離処理では、シックナー等の固液分離槽を多段に連結させて用い、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離することが好ましい。
【0034】
(2)中和工程
中和工程S2では、上述した浸出工程S1により得られた浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る。中和工程S2における中和処理により、スカンジウムやニッケル等の有価金属は中和後液に含まれるようになり、鉄、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分が中和澱物となる。
【0035】
中和剤としては、従来公知のもの使用することができ、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0036】
中和工程S2における中和処理では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、pHを1〜4の範囲に調整することが好ましく、1.5〜2.5の範囲に調整することがより好ましい。pHが1未満であると、中和が不十分となり、中和澱物と中和後液とに分離できない可能性がある。一方で、pHが4を超えると、アルミニウムをはじめとした不純物のみならず、スカンジウムやニッケル等の有価金属も中和澱物に含まれる可能性がある。
【0037】
(3)硫化工程
硫化工程S3では、中和工程S2により得られた中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る。硫化工程S3における硫化処理により、ニッケル、コバルト、亜鉛等は硫化物となり、スカンジウム等は硫化後液に含まれることになる。
【0038】
具体的に、硫化工程S3では、得られた中和後液に対して、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を吹きこみ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と、ニッケル濃度を低い水準で安定させ、スカンジウム等を含有させた硫化後液とを生成させる。
【0039】
硫化工程S3における硫化処理では、ニッケル・コバルト混合硫化物のスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて沈降分離処理し、ニッケル・コバルト混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する一方で、水溶液成分である硫化後液はオーバーフローさせて回収する。なお、得られる硫化後液は、硫酸酸性の溶液である。
【0040】
ここで、硫化工程S3における硫化処理により得られた硫化後液に対して、直接、後述するシュウ酸や中和剤を添加してスカンジウム塩や酸化物を得て、これを焙焼することによって酸化スカンジウムの固体を得るようにすることもできる。しかしながら、上述した浸出液や硫化後液に含まれるスカンジウムの濃度は、数十ないし100mg/l程度で希薄であることが一般的であり、スカンジウムよりも高濃度に存在する他の不純物を分離するためにも、後述するイオン交換処理や溶媒抽出処理等の手段を用いて濃縮する操作を行うことが好ましい。
【0041】
(4)イオン交換工程
イオン交換工程S4では、上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬処理により得られた硫化後液をキレート樹脂に接触させることによって、その硫化後液中に含まれるスカンジウムをキレート樹脂に吸着させ、不純物成分を除去したスカンジウム溶離液を得る。
【0042】
硫化後液には、目的とするスカンジウムの他に、その硫化工程S3における硫化処理では硫化されずに溶液(硫化後液)中に残留したアルミニウムやクロム、場合によっては微量のウランやトリウム等が含まれている。このことから、この酸性溶液である硫化後液に対して中和処理を施して水酸化物を生成させるにあたり、それら不純物を除去してスカンジウムを濃縮させ、スカンジウム溶離液を生成させることが好ましい。
【0043】
イオン交換工程S4の態様としては、特に限定されないが、例えば
図1に一例を示すように、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる吸着工程S41と、スカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸溶液を接触させ、吸着工程S41でキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程S42と、アルミニウム除去工程S42を経たキレート樹脂に0.3N以上3N以下の硫酸溶液を接触させてスカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程S43と、スカンジウム溶離工程S43を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸溶液を接触させて、吸着工程S41でキレート樹脂に吸着したクロムを除去するクロム除去工程S44とを含むものであることが好ましい。
【0044】
[吸着工程]
吸着工程S41では、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる。キレート樹脂としては、特に限定されないが、例えばイミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いることが好ましい。
【0045】
ここで、吸着工程S41におけるキレート樹脂に対するスカンジウムの吸着に際しては、溶液のpH範囲が低いほどニッケル酸化鉱石に含まれる不純物の吸着量は少なくなる。そのため、できるだけ低いpH領域の液をキレート樹脂に通液することで、不純物のキレート樹脂への吸着を抑制することができる。ところが、溶液のpHが2未満であると、不純物の吸着量だけでなく、スカンジウムの吸着量も少なくなる可能性がある。
【0046】
[アルミニウム除去工程]
アルミニウム除去工程S42では、吸着工程S41でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に、好ましくは0.1N以下の硫酸溶液を接触させることによって、そのキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去する。
【0047】
キレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去するに際しては、硫酸溶液のpHを1以上2.5以下の範囲に維持することが好ましく、1.5以上2.0以下の範囲に維持することがより好ましい。硫酸溶液のpHが1未満であると、アルミニウムだけでなく、スカンジウムもキレート樹脂から除去される可能性がある。一方で、硫酸溶液のpHが2.5を超えると、アルミニウムが適切にキレート樹脂から除去されなくなる可能性がある。
【0048】
[スカンジウム溶離工程]
スカンジウム溶離工程S43では、アルミニウム除去工程S42を経たキレート樹脂に、好ましくは0.3N以上3N未満の硫酸溶液を接触させることによって、スカンジウム溶離液を得る。
【0049】
スカンジウム溶離液を得るに際しては、溶離液として用いる硫酸溶液の規定度を0.3N以上3N未満の範囲に維持することが好ましく、0.5N以上2N未満の範囲の規定度に維持することがより好ましい。硫酸溶液の規定度が3N以上であると、スカンジウムだけでなく、クロムもスカンジウム溶離液に含まれてしまう可能性がある。一方で、硫酸溶液の規定度が0.3N未満であると、スカンジウムが適切にキレート樹脂から除去されない可能性がある。
【0050】
[クロム除去工程]
クロム除去工程S44では、スカンジウム溶離工程S43を経たキレート樹脂に、好ましくは3N以上の硫酸溶液を接触させることによって、キレート樹脂に吸着したクロムを除去する。
【0051】
キレート樹脂に吸着したクロムを除去するに際して、溶離液として用いる硫酸溶液の規定度が3Nを下回ると、クロムが適切にキレート樹脂から除去されなくなることがある。したがって、3N以上の硫酸溶液をキレート樹脂に接触させて処理することが好ましい。
【0052】
[鉄除去工程]
また、図示していないが、ニッケル酸化鉱石から得られた浸出液中には不純物として鉄が含まれている場合がある。この場合、アルミニウム除去工程S42に先立ち、スカンジウムが吸着したキレート樹脂に、アルミニウム除去工程S42で使用する硫酸溶液の規定度よりも小さい規定度の硫酸溶液を接触させることによって、そのキレート樹脂に吸着した鉄を除去することが好ましい。
【0053】
キレート樹脂に吸着した鉄を除去するに際しては、硫酸溶液のpHを1以上3以下の範囲に維持することが好ましい。硫酸溶液のpHが1未満であると、鉄だけでなく、スカンジウムもキレート樹脂から除去される可能性がある。一方で、硫酸溶液のpHが3を超えると、鉄が適切にキレート樹脂から除去されない可能性がある。
【0054】
<スカンジウム溶離液のキレート樹脂への再吸着>
また、必須の態様ではないが、得られたスカンジウム溶離液をキレート樹脂に再吸着させる処理を施すことが好ましい。
【0055】
具体的には、スカンジウム溶離工程S43で得られたスカンジウム溶離液に中和剤を添加して、pHを好ましくは2以上4以下の範囲、より好ましくはpH3を中心とした2.7以上3.3以下の範囲に調整し(工程S101)、次いで、還元剤を添加して(工程S102)、さらに、硫酸を添加することによって好ましくはpHを1以上2.5以下の範囲、より好ましくはpH2を中心とした1.7以上2.3以下の範囲に調整する(工程S103)。このことによって、スカンジウム溶離液のpH調整後液を得て、このpH調整後液を用いて上述したイオン交換工程S4における処理を再び行う。
【0056】
このように、得られたスカンジウム溶離液をキレート樹脂に再吸着させてイオン交換工程S4における処理を繰り返し行うことで、回収されるスカンジウムの品位をより一層に高めることができる。また、スカンジウム溶離液からスカンジウムを分離する際の薬剤コストや設備規模を縮減させることができる。
【0057】
スカンジウム溶離液のキレート樹脂への再吸着に際して、還元剤の添加(工程S102)においては、その酸化還元電位(ORP)が銀/塩化銀電極を参照電極とする値で200mVを越えて300mV以下となる範囲に維持するように行うことが好ましい。ORPが200mV以下であると、添加された硫化剤に由来する硫黄分が微細な固体として析出する可能性がある。すると、硫化後の濾過処理で濾布が目詰まりし、固液分離の効率を悪化させて生産性を低下させる原因となり、またキレート樹脂に再通液する際に樹脂塔内で目詰まりや液流れの偏りが生じて均一な通液が行えない等の原因となり得る。一方で、ORPが300mVを超えると、残留する鉄イオン等が樹脂に吸着してスカンジウムの吸着を阻害する等の問題が生じる可能性がある。
【0058】
スカンジウム溶離液に添加する中和剤としては、従来公知のものを使用することができ、例えば炭酸カルシウム等が挙げられる。また、pH調整後に添加する還元剤についても、従来公知のものを使用することができ、例えば、硫化水素ガス、硫化ナトリウム等の硫化剤や、二酸化硫黄ガス、ヒドラジン、金属鉄等が挙げられる。
【0059】
スカンジウム溶離液をキレート樹脂に再吸着させるにあたり、そのキレート樹脂としては、既に使用したものを再使用してもよいし、新たなキレート樹脂を使用してもよい。不純物のコンタミを防止する観点からすると、クロム除去工程S44を経たキレート樹脂を再使用するか、新たなキレート樹脂を使用することが好ましい。特に、クロム除去工程S44を経たキレート樹脂を再使用することで、不純物のコンタミを防止できるだけでなく、キレート樹脂の使用量を抑えることができる。
【0060】
<スカンジウム溶離液の精製>
また、スカンジウム溶離工程S43によって得られたスカンジウム溶離液に対して、再びスカンジウム溶離工程S43における処理、すなわち、アルミニウム除去工程S42を経たキレート樹脂に対して、得られたスカンジウム溶離液を接触させる処理を行うこともできる。このように、スカンジウム溶離液を用いてスカンジウム溶離工程S43を繰り返し行うことで、スカンジウム溶離液の濃度を高めることができる。
【0061】
スカンジウム溶離工程S43を数多く繰り返すほど、回収されるスカンジウムの濃度は高まるものの、多く繰り返し過ぎても次第に回収されるスカンジウムの濃度上昇の程度が小さくなる。そのため、工業的には、スカンジウム溶離工程S43を繰り返す回数としては、8回以下程度であることが好ましい。
【0062】
(5)溶解工程
次に、上述したイオン交換工程S4に続いて、溶解工程S5を設けて、スカンジウム溶離液に含まれるスカンジウムの沈殿物を生じさせて不純物と分離し、さらにこの沈殿物を酸溶液で溶解して、次工程の溶媒抽出に供する抽出始液を生成させる処理を行う。
【0063】
溶解工程S5におけるスカンジウムの濃縮方法、つまりスカンジウムの沈殿物を生成させて不純物と分離させる方法としては、水酸化中和の方法を用いることができる。
【0064】
[水酸化中和]
スカンジウム溶離液に対する水酸化中和処理では、上述したイオン交換工程S4で得られたスカンジウム溶離液に対して中和剤を添加することによって中和処理を施し、スカンジウムの水酸化物沈殿と不純物成分を含む中和後液とを生成させる。
【0065】
スカンジウム溶離液に添加する中和剤としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、消石灰、水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられる。その中でも、スカンジウム溶離液が硫酸酸性溶液である場合、Ca分を含む中和剤では石膏が生成されることから、中和剤として水酸化ナトリウム等を用いることが好ましい。
【0066】
中和剤を加えたときのpHとしては、特に限定されないが、8以上9以下の範囲に調整することが好ましい。pHが8未満であると、中和が不十分となり、スカンジウム溶離液中のスカンジウムを沈殿物として十分に回収できない可能性がある。一方で、pHが9を超えると、中和剤の使用量が増加するため、コスト増となる点で好ましくない。
【0067】
なお、鉄品位を低減させるために、水酸化中和処理に際して鉄のみを沈殿させるための1段目の中和を行い、得られた沈澱物を濾過した後に2段目の中和を行う2段階中和を行うことが有効である。
【0068】
[酸による溶解]
次に、本実施の形態においては、水酸化中和処理により得られた水酸化スカンジウムの沈殿物に対して、酸溶液、具体的には、硝酸又は塩酸のいずれかの酸溶液、を添加することによってその沈殿物を溶解し、スカンジウムの酸溶解液を生成させる。本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法においては、このようにして得られたスカンジウム酸溶解液が次工程の溶媒抽出工程S6における溶媒抽出処理の処理対象(抽出始液)となる。
【0069】
具体的に、水酸化スカンジウムの沈殿物を溶解させるための酸溶液として、硝酸溶液を用いる場合には、その硝酸溶液の濃度は、特に限定されないが、2.0mol/l以上5.0mol/l以下の範囲であることが好ましく、3.0mol/l以上4.0mol/l以下の範囲であることがより好ましい。
【0070】
また、酸溶液として塩酸溶液を用いて溶解する場合には、その塩酸溶液の濃度は、特に限定されるものではなく、後述する溶媒抽出工程S6での溶媒抽出処理に適した濃度とすればよい。
【0071】
また、酸溶液による沈殿物の溶解に際しては、得られた沈殿物の溶解度付近で溶解することが好ましい。これにより、一度固体を析出させて任意の濃度に再溶解できるため、スカンジウム濃度を任意に選択することができ、次工程の溶媒抽出工程S6での液量、延いては設備規模を縮減できるという点で、工業的に極めて好ましい。
【0072】
このように、本実施の形態においては、イオン交換工程S4に続いて、溶解工程S5を設けることにより、スカンジウム溶離液に含まれる不純物を大幅に除去することができ、イオン交換工程S4や次工程の溶媒抽出工程S6に係る工数を軽減することができる。また、溶媒抽出に付す抽出始液の濃度を任意に調整することができるようになるため、溶媒抽出工程S6の設備規模の縮小による設備投資の削減や始液濃度の安定化により、操業をより一層に安定化させることができる。
【0073】
(6)溶媒抽出工程
溶媒抽出工程S6では、上述した溶解工程S5にて水酸化スカンジウムを塩酸もしくは硝酸溶液で溶解して得られたスカンジウム酸溶解液(抽出始液)を、中性抽出剤に接触させることによって溶媒抽出処理を行い、不純物を抽出した有機溶媒とスカンジウムを含有する抽残液とを得る。
【0074】
このような溶媒抽出処理により、スカンジウム以外の不純物を効率的に且つ効果的にスカンジウムと分離することができ、スカンジウムの純度を高めることができる。特に、本実施の形態においては、上述のようにして得られたスカンジウム酸溶解液を溶媒抽出処理の対象としているため、より効果的に不純物を抽出剤により抽出することができる。
【0075】
溶媒抽出工程S6の態様としては、特に限定されないが、例えば
図1に一例を示すように、スカンジウム酸溶解液と中性抽出剤を含有する有機溶媒とを混合して抽出後有機溶媒と抽残液とを得る抽出工程S61と、この抽出後有機溶媒に所定濃度の塩酸もしくは硝酸溶液を混合して抽出剤に抽出されたスカンジウムを分離して回収するスクラビング工程S62と、洗浄後の有機溶媒に逆抽出剤を添加し、その洗浄後有機溶媒から不純物元素を逆抽出する逆抽出工程S63とを有するものであることが好ましい。
【0076】
[抽出工程]
抽出工程S61では、スカンジウム酸溶解液と中性抽出剤を含む有機溶媒とを混合して、スカンジウム以外の不純物元素を選択的に抽出する。この抽出処理により、不純物を含有する有機溶媒と、スカンジウムの純度を高めた抽残液とを得る。
【0077】
中性抽出剤としては、様々な種類が知られており特に限定されないが、リンを含む抽出剤、具体的にはTBP(トリ−n−ブチルホスフェート)等を用いることが好ましい。抽出剤としてTBPを用いた場合、硝酸酸性の酸溶解液に対しては、その溶液中に含まれるウランとトリウムを抽出し、スカンジウムと効率的に分離させることができる。また、塩酸酸性の酸溶解液に対しては、その溶液に含まれる主にウランを抽出し、スカンジウムと効率的に分離させることができる。
【0078】
中性抽出剤を用いた抽出処理に際しては、その抽出剤を炭化水素系の有機溶媒等で希釈して使用することが好ましい。例えば、中性抽出剤として上述したTBPを使用する場合、有機溶媒中のTBPの濃度としては、抽出、逆抽出時の相分離性等の点を考慮すると、10体積%以上50体積%以下とすることが好ましく、特に20体積%前後となる15体積%以上25体積%以下とすることがより好ましい。
【0079】
また、抽出時におけるスカンジウム酸溶解液と有機溶媒との体積割合としては、特に限定されないが、スカンジウム酸溶解液中のメタルのモル量に対して有機溶媒モル量が0.4倍以上1.0倍以下の範囲となるようにすることが好ましい。
【0080】
ここで、抽出処理においては、スカンジウム酸溶解液のpHを1.0以上2.5以下の範囲に調整して維持することが好ましい。抽出処理対象であるスカンジウム酸溶解液のpHが1.0未満であると、溶液中にウランが含まれている場合に、そのウランの抽出がほとんど進まず、抽出分離効果が著しく低下する可能性がある。また、スカンジウム酸溶解液の酸性度が強すぎて、設備が腐食されやすくなる懸念がある。
【0081】
一方で、抽出処理において、スカンジウム酸溶解液のpHが2.5を超える状態であると、スカンジウムの水酸化物が生成してクラッド発生の原因となることがあり、操業が困難になるおそれがある。
【0082】
抽出処理におけるスカンジウム酸溶解液のpHとしては、1.5以上2.0以下の範囲に調整して維持することがより好ましく、これにより、より効率的に且つ効果的に溶液中に含まれるウランを抽出することができる。
【0083】
また、抽出処理においては、スカンジウム酸溶解液として塩酸酸性溶液(スカンジウム塩酸溶解液)を用いる場合、抽出時における塩酸酸性溶液の塩化物濃度(T−Cl濃度)としては2.0mol/L以上とすることが好ましい。このように塩化物濃度を2.0mol/L以上として抽出処理を施すことで、ウランの抽出率を高めることができる。
【0084】
一方、塩化物濃度の上限値としては6.0mol/L以下とすることが好ましい。塩酸酸性溶液の塩化物濃度が6.0mol/Lを超えると、共存する鉄イオン等の塩化物が過飽和となって結晶が析出してしまい、クラッドを形成して操業を阻害するおそれがある。
【0085】
塩酸酸性溶液における塩化物濃度の調整については、例えば塩化ナトリウムや塩化カリウム等のアルカリ金属の塩を添加して行うことが好ましい。なお、例えば塩酸を用いて塩化物濃度を調整すると、塩酸酸性溶液の酸性度が強すぎて、pHが上述した好ましい範囲(pH1.0以上2.5以下)よりも下方に逸脱して、ウランの抽出分離効果が低減する可能性がある。
【0086】
なお、抽出処理における温度条件としては、特に限定されず、比較的温度が高い方が抽出効率の点では好ましいが、高過ぎると酸溶解液を構成する塩酸や硝酸が揮発したり、引火したりする等の危険もある。したがって、概ね40℃以上50℃以下の範囲に設定して行うことが好ましい。
【0087】
[スクラビング(洗浄)工程]
上述した抽出工程S61において、不純物を抽出させた有機溶媒中にスカンジウムが僅かに共存する場合には、抽出液を逆抽出する前に、その有機溶媒(有機相)に対してスクラビング(洗浄)処理を施し、スカンジウムを水相に分離させて抽出剤から回収することが好ましい(スクラビング工程S62)。
【0088】
このようにしてスクラビング工程S62を設けて有機溶媒を洗浄し、抽出剤により抽出された僅かなスカンジウムを分離させることによって、洗浄液中にスカンジウムを分離させることができ、スカンジウムの回収率をより一層に高めることができる。
【0089】
スクラビングに用いる溶液(洗浄溶液)としては、特に限定されず、例えば塩酸溶液や硫酸溶液、硝酸溶液等を使用することができるが、スクラビングにより回収した洗浄液は抽出後の抽残液と共に精製してスカンジウムの回収に用いられる。そのため、スクラビングには抽出元液であるスカンジウム酸溶解液と同じ液種の、硝酸溶液又は塩酸溶液を洗浄溶液として使用することが好ましい。つまり、塩酸酸性の溶解液には塩酸系の洗浄溶液を使用することが好ましく、硝酸酸性の溶解液に対しては硝酸系の洗浄溶液を使用することが好ましい。また、pHの上昇によるスカンジウムの加水分解を防ぐ観点からもこれらの洗浄溶液を使用することが好ましい。なお、水に可溶性の硫酸塩を添加した液を使用することもできる。
【0090】
洗浄溶液の濃度としては、特に限定されないが、1.0mol/l以上5.0mol/l以下の範囲とすることが好ましい。より具体的に、例えば、洗浄溶液として例えば硝酸溶液を用いる場合には、2.0mol/l以上5.0mol/l以下の濃度範囲が好ましく、3.0mol/l以上4.0mol/l以下の濃度範囲がより好ましい。
【0091】
スクラビングの洗浄段数(回数)としては、不純物元素の種類、濃度にも依存することから、中性抽出剤や抽出条件によって適宜変更することができる。例えば、有機相(O)と水相(A)の相比をO/A=1とした場合、3〜5段程度の段数とすることにより、有機溶媒中に抽出されたスカンジウムを分析装置の検出下限未満まで分離できる。
【0092】
[逆抽出工程]
逆抽出工程S63では、不純物元素を抽出した有機溶媒から不純物元素を逆抽出する。具体的に、逆抽出処理では、抽出剤を含む有機溶媒に逆抽出溶液(逆抽出始液)を添加して混合することによって、抽出工程S61における抽出処理とは逆の反応を生じさせて不純物元素を逆抽出し、その不純物元素を含む逆抽出後液を得る。
【0093】
上述したように、抽出工程S61でのスカンジウム酸溶解液に対する抽出処理においては、抽出剤としてTBP等の中性抽出剤を用いて不純物元素を選択的に抽出するようにしている。このことから、その不純物元素を、抽出剤を含む有機溶媒から効率的に且つ効果的に分離させて抽出剤を再生する観点から、逆抽出溶液としては、例えば純水を用いることが好ましい。
【0094】
なお、上述したスクラビング工程S62において、抽出剤を含む有機溶媒に対してスクラビング処理を施した場合には、同様に、スクラビング後の抽出剤に対して逆抽出溶液を添加して混合することによって逆抽出処理を行うことができる。
【0095】
このようにして抽出後の抽出剤又はスクラビング後の抽出剤に対して純水等の逆抽出溶液を添加して逆抽出処理を行って不純物元素を分離させた後の中性抽出剤は、再び、抽出工程S61における抽出処理に用いる抽出剤として繰り返して使用することができる。
【0096】
<スカンジウム回収工程>
次に、スカンジウム回収工程S7において、溶媒抽出工程S6により得られたスカンジウムを含有する抽残液からスカンジウムを回収する。スカンジウム回収工程S7では、抽残液に含まれるスカンジウムの塩を生成させた後、その固体のスカンジウム塩を焙焼することによって酸化スカンジウムを生成させてスカンジウムを回収する。
【0097】
具体的に、スカンジウム回収工程S7は、
図1に一例を示すように、溶媒抽出工程S6で得られた抽残液にシュウ酸を加えてシュウ酸スカンジウムの結晶を得るシュウ酸塩化工程S71と、シュウ酸スカンジウムの結晶を焼成する焙焼工程S72とを有する。
【0098】
特に、スカンジウム溶解液として塩酸酸性溶液(スカンジウム塩酸溶解液)を用いた場合は、中性抽出剤を用いた溶媒抽出処理にてウランが主に抽出され、トリウムとスカンジウムとの分離は若干不十分となる。ところが、その後の処理として、得られた抽残液にシュウ酸を添加してスカンジウムをシュウ酸塩として沈殿生成させることによって、そのシュウ酸塩の沈殿を形成しないトリウムと効果的に分離することができる。
【0099】
[シュウ酸塩化工程]
シュウ酸塩化工程S71は、上述したようにスカンジウムの沈殿を生成させる工程であって、溶媒抽出工程S6で得られた抽残液(抽出後液)にシュウ酸を加えてシュウ酸スカンジウムの白色結晶の固体として析出、沈殿させて分離する工程である。
【0100】
シュウ酸の添加量としては、特に限定されないが、抽残液中のスカンジウムをシュウ酸塩として析出させるのに必要な当量の1倍以上2.5倍以下となる量で添加することが好ましく、1.05倍以上2.0倍以下の量とすることがより好ましい。その添加量が析出に必要な当量の1倍未満であると、抽残液中のスカンジウムを全量回収できなくなる可能性がある。一方で、添加量が析出に必要な当量の2.5倍を超えると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が増加することでスカンジウムが再溶解して回収率が低下したり、過剰なシュウ酸を分解するために次亜塩素酸ソーダのような酸化剤の使用量が増加してしまう。
【0101】
なお、スカンジウムをシュウ酸塩として析出させるのに必要な当量は、シュウ酸とスカンジウムとが下記式(i)に示すように反応してシュウ酸スカンジウムを生成する際のスカンジウムに対する量(倍数)として定義することができる。
Sc
2(SO
4)
3+3C
2O
4H
2・2H
2O
⇒Sc
2(C
2O
4)
3+3H
2SO
4 ・・・(i)
【0102】
シュウ酸塩化の反応時における抽残液のpHとしては、特に限定されないが、例えば硝酸酸性溶液を用いた場合には、pHが0以上2以下程度の範囲とすることが好ましく、1前後とすることがさらに好ましい。pHが0未満のように低すぎると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が増加し、スカンジウム回収率が低下する可能性がある。一方で、pHが2を超えると、抽残液中に含まれる不純物も沈殿を形成し、スカンジウム純度が低下する原因となる。
【0103】
また、塩酸酸性溶液を用いた場合には、pHを0以上0.5以下程度の範囲とすることが好ましい。pHが0未満のように低すぎると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が増加し、スカンジウム回収率が低下する可能性がある。また、上述したように、塩化ナトリウムや塩化カリウム等のアルカリ金属の塩を用いることで塩化物濃度を調整することができるが、シュウ酸スカンジウムに付着するナトリウムやカリウムも増加してしまい、これらを水洗浄して除去する必要がある。なお、pHの過度な上昇による不純物の沈殿を防ぐ観点から、塩酸酸性溶液を用いる場合のpHとしては、硝酸酸性溶液の場合よりも低い0.5以下とすることが好ましい。
【0104】
ここで、シュウ酸塩化工程S71におけるシュウ酸塩化処理に先立ち、溶媒抽出工程S6にて得られたスカンジウムを含有する抽残液に対して中和処理を施してスカンジウムの沈殿物を生じさせ、不純物を除去するようにしてもよい。
【0105】
具体的には、溶媒抽出工程S6で得られた抽残液に対して所定の濃度の水酸化ナトリウム(中和剤)を添加して、水酸化スカンジウムの沈殿物を生じさせる(抽残液中和処理)。次いで、得られた水酸化スカンジウムの沈殿物に対して硫酸又は塩酸を添加して沈殿物を溶解し、スカンジウム溶解液を得る(塩酸溶解処理)。
【0106】
抽残液中和処理において添加する水酸化ナトリウムの濃度としては、特に限定されないが、5mol/l以上8mol/l以下の範囲であることが好ましい。水酸化スカンジウムは、溶液(抽残液)のpHが8以上であることにより沈殿物として生成するため、沈殿物の生成と、過剰な水酸化ナトリウムの抑制との両方を考慮すると、その水酸化ナトリウムを抽残液のpHが8以上であって9以下の範囲に維持できるように添加することが好ましい。このような点において、添加する水酸化ナトリウムの濃度が5mol/l以上8mol/l以下の範囲であることにより、効率的に水酸化スカンジウムの沈殿物を生成させることができる。
【0107】
このようにして中和処理を施して得られたスカンジウム溶解液に対して、上述したシュウ酸塩化処理(シュウ酸塩化工程S71)を行うようにすることができる。これにより、より一層に高純度なスカンジウムを回収することができる。
【0108】
[焙焼工程]
焙焼工程S72では、シュウ酸塩化工程S71で得られたシュウ酸スカンジウムの沈殿物を水で洗浄し、乾燥して、焙焼することにより酸化スカンジウムを生成させる。このようにして焙焼処理を施すことで、極めて高品位な酸化スカンジウムとしてスカンジウムを回収することができる。
【0109】
焙焼工程S72における焙焼処理の条件としては、特に限定されないが、例えば、乾燥後のシュウ酸スカンジウムの沈殿物を管状炉に入れて約900℃で2時間程度加熱すればよい。なお、工業的には、ロータリーキルン等の連続炉を用いることで、乾燥と焙焼とを同じ装置で行うことができるため好ましい。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0111】
≪実施例1≫
[浸出工程S1]
先ず、ニッケル酸化鉱石を濃硫酸と共にオートクレーブに装入し、245℃の温度条件下で1時間かけてスカンジウムやニッケル等の有価金属を含有する浸出スラリーを生成させ、このスラリーから各種の有価金属を含有する浸出液と、浸出残渣とに固液分離した。
【0112】
[中和工程S2]
次に、分離して得られた浸出液に炭酸カルシウム(中和剤)を添加して中和処理を施した。この中和処理により、スカンジウムやニッケル等の有価金属を含有する中和後液と、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分を含有する中和澱物とを得た。
【0113】
[硫化工程S3]
次に、得られた中和後液に硫化水素ガス(硫化剤)を吹き込み、ニッケルやコバルト、亜鉛を硫化物とし、この硫化処理後の液である硫化後液と分離した。
【0114】
[イオン交換工程S4]
(吸着工程S41)
次に、分離して得られた硫化後液に中和剤として消石灰を添加して溶液のpHを1.6に調整した。加えて、消石灰添加後の液には含まれていないか、あるいは含まれているとしてもその含有量がごく微量である元素の挙動を明らかにするため、一部の元素については試薬を添加して、下記表1に示す組成の吸着元液を得た。
【0115】
【表1】
【0116】
表1に示す組成の吸着元液を、イミノジ酢酸を官能基とするキレート樹脂(製品名:ダイヤイオンCR11,三菱化学株式会社製)を充填したカラムに通液した。なお、カラムの樹脂量は40リットルとし、通液はSV=8となるように毎分5.3リットルの流量とし、2400リットル(Bed Volume:BV=2400/40=60)まで通液した。通液時における給液での液温は60℃とした。
【0117】
(アルミニウム除去工程S42)
次に、吸着処理後のキレート樹脂に、濃度0.1Nの硫酸溶液800リットルを毎分27リットル(SV=40となる)の流量で通液した。カラムから排出され残留したアルミニウムの多い洗浄液は、アルミニウム洗浄液として貯液し一部をサンプリングしてICPで分析した。その結果、分析値としては、Ni:7mg/l、Mg:1mg/l、Mn:4mg/l、Fe:1mg/l、Al:84mg/l、Sc:3mg/lであった。なお、Cr、Caの分析値は、測定可能な下限未満であった。
【0118】
(スカンジウム溶離工程S43)
その後、キレート樹脂に、濃度1Nの硫酸溶液400リットルを毎分80リットル(SV=40となる)の流量で通液した。カラムから排出された溶離液は、スカンジウム溶離液として貯液し一部をサンプリングして分析した。下記表2にスカンジウム溶離液の分析結果を示す。なお、表中の「−」は、未分析又は測定可能な下限未満であったこと示す。
【0119】
【表2】
【0120】
(クロム除去工程S44)
続いて、キレート樹脂に、濃度3Nの硫酸溶液80リットルを毎分2.6リットル(SV=40となる)の流量で通液した。カラムから排出された洗浄液は、クロム洗浄液として貯液し一部をサンプリングして分析した。その結果、分析値としては、Fe:2mg/l、Cr:30mg/lであった。なお、Ni、Mg、Mn、Al、Ca、Scの分析値は、測定可能な下限未満であった。
【0121】
[溶解工程S5]
次に、表2に示す組成のスカンジウム溶離液に、水酸化ナトリウムを添加してpHを8〜9に維持し、スカンジウムの水酸化物沈殿を生成させた。この水酸化物沈殿に硝酸溶液を添加して溶解し、キレート溶離液水酸化物溶解液(スカンジウム硝酸溶解液)を得た。下記表3に溶解液の組成を分析した結果を示す。なお、表中の「−」は、未分析又は測定可能な下限未満であったこと示し、例えば、Mg、Cr、Mn、Caの分析値は測定可能な下限未満であった。
【0122】
【表3】
【0123】
[溶媒抽出工程S6]
(抽出工程S61)
次に、表3に示す組成のスカンジウム硝酸溶解液103リットルを抽出始液として溶媒出処理を行った。具体的には、その抽出始液と、中性抽出剤であるトリ−n−ブチルホスフェート(商品名:TBP,大八化学株式会社製)と有機溶剤であるテクリーンN20(JX日鉱日石株式会社製)とを用いて50体積%に調整した有機溶媒20.6リットルとを混合して室温で60分撹拌した。この溶媒抽出処理により、スカンジウムを除く不純物を含む抽出有機相と、抽出後液(抽残液)とを得た。なお、この抽出時には、クラッドが形成されることはなく、静置後の相分離も迅速に進行した。
【0124】
得られた抽出有機相に含まれる各種元素の組成を分析した。下記表4に、抽出有機相に含まれる各種元素の物量を、抽出前元液に含有された各元素の物量で割った値の百分率を算出し、これを抽出率(%)として結果を示す。なお、表中の「−」は、未分析又は測定可能な下限未満であったこと示す。
【0125】
【表4】
【0126】
表4に示す抽出率の結果から、抽出工程S61における溶媒抽出処理を通じて、抽出前元液に含まれていたスカンジウムの大部分が抽出後液(抽残液)に残り、抽出されないことが分かった。加えて、抽出有機相には、ウラン、トリウムの不純物元素が高い割合で抽出された。なお、抽出有機相には、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、クロム、マンガン、カルシウム、コバルト、銅、亜鉛といった元素はほとんど含まれていないことが分かる。
【0127】
(スクラビング(洗浄)工程S62)
次に、抽出工程S61で得られた20.6リットルの有機溶媒(抽出有機相)に対して、濃度3mol/lの硝酸溶液を、相比(O/A)が0.3の比率となる6.2リットルの量で混合し、10分間撹拌してスクラビング(洗浄)した。その後、静置して水相を分離し、有機相は再び濃度3mol/lの新たな硝酸溶液6.2リットルと混合して洗浄を繰り返し、同様にして水相を分離した。このような洗浄操作を合計3回繰り返した。
【0128】
この洗浄操作後の洗浄液に含まれる各種元素の組成を分析した。下記表5に、洗浄液中に含まれる各種元素の物量を、抽出工程S61にて得られた抽出有機相中の物量で割った値の百分率を算出し、それを回収率(%)として結果を示す。なお、表中の「−」は、未分析又は測定可能な下限未満であったこと示す。
【0129】
【表5】
【0130】
このようにして抽出有機相を3回洗浄することにより、有機溶媒に抽出された僅かなスカンジウムを水相に分離することができ、有機溶媒中のスカンジウム濃度を10mg/l未満のレベルまで低下させることができた。
【0131】
(逆抽出工程S63)
次に、洗浄後の抽出有機相に、純水を、相比O/A=1/0.3の比率となるように混合して20分撹拌し、静置して逆抽出後の有機相(有機溶媒)と逆水相(逆抽出後液)とに分離した。
【0132】
[スカンジウム回収工程S7]
(シュウ酸塩化工程S71)
次に、上述した溶媒抽出工程S6で得られた抽出後液(抽残液)に対して、その抽残液中に含まれるスカンジウム量に対して計算量で2倍となるシュウ酸・2水和物(三菱ガス社製)の結晶を添加して溶解し、60分撹拌混合してシュウ酸スカンジウムの白色結晶性沈殿を生成させた。
【0133】
(焙焼工程S72)
次に、得られたシュウ酸スカンジウムの沈殿物を吸引濾過し、純水を用いて洗浄した後、105℃で8時間乾燥させた。続いて、乾燥後のシュウ酸スカンジウムを管状炉に入れて850℃〜900℃に維持して焙焼(焼成)処理を施し、酸化スカンジウムを得た。
【0134】
得られた酸化スカンジウムについて発光分光分析法によって分析し、上述の溶媒抽出処理を経て回収した酸化スカンジウムにおける不純物としてのトリウム(Th)の低減率を調べた。なお、トリウムの低減率に関しては、イオン交換工程S4により得られたスカンジウム溶離液に対して溶解工程S5での処理を行ってスカンジウム硝酸溶解液としたものを、上述した溶媒抽出処理を経ずに焙焼処理により得られた酸化スカンジウム中のトリウム量を基準として算出した。下記表6に、酸化スカンジウム中のトリウムの品位と低減率の算出結果を示す。
【0135】
【表6】
【0136】
表6に示す結果から分かるように、上述したスカンジウムの回収プロセスを経ることによって、不純物であるトリウムをほぼ完全に除去することができ、スカンジウムを酸化スカンジウム(Sc
2O
3)として極めて高い純度で回収することができた。
【0137】
≪実施例2≫
実施例1と同様にして、ニッケル酸化鉱石を硫酸で浸出し、得られた硫化後液をキレート樹脂に通液し、キレート樹脂から溶離したスカンジウム溶離液に水酸化ナトリウムを添加してスカンジウムの水酸化沈殿物を得た。
【0138】
そして、実施例2では、得られたスカンジウムの水酸化沈殿物に対して、塩酸及び塩化ナトリウムを添加して溶解し、塩酸酸性溶液(スカンジウム塩酸溶解液)を得た。この塩酸酸性溶液に、一部の成分を試薬で添加して、下記表7に示す組成の抽出始液をそれぞれ調製し、これらを始液A〜Hとした。
【0139】
【表7】
【0140】
次に、表7のE〜Hに示す組成の抽出始液を、それぞれ21mlずつ分取し、これに中性抽出剤であるTBPを1体積%含んだ有機溶媒7mlを混合し、ビーカーに入れ室温状態で15分間撹拌して抽出処理を施した。撹拌終了後、静置して分液ロートを用いて抽出後有機溶媒(抽出剤)と抽残液とに分け、それぞれをICPにより分析した。
【0141】
ここで、抽出時における塩化物濃度(T−Cl)は、スカンジウム、アルミニウム、鉄、ウラン、トリウムのそれぞれの分析値と、塩酸酸性溶液中に存在すると考えられる形態から算出したCl量の合計と、調整時に添加した塩酸及び塩化ナトリウムに含まれるCl量から算出した。
【0142】
下記表8に、塩酸酸性溶液の溶媒抽出処理により得られた抽残液の組成を示す。なお、表8には、その抽出時における塩化物濃度(T−Cl)を抽残液中の濃度(mol/l)として併せて示す。
【0143】
【表8】
【0144】
表8に示すように、本実施例2であるE〜Hの塩酸酸性溶液(抽出始液)を用いた溶媒抽出ではウランが効果的に抽出されたことが確認された。
【0145】
また、下記表9及び
図2に、上述した有機溶媒中のスカンジウム、ウラン、トリウムの物量を、抽出始液中のそれぞれの物量で除した割合(有機溶媒中物量/抽出始液中物量)の百分率を算出し、それを抽出率(%)として示した。なお、
図2は、各元素における、塩化物濃度に対する抽出率の関係を示すグラフ図である。
【0146】
【表9】
【0147】
表9及び
図2に示すように、塩酸酸性溶液中のT−Cl(塩化物濃度)が2.16mol/Lではウランの抽出率が62.1%となり、T−Clが2.37mol/Lではウランの抽出率は92%以上に達した。また、これらの抽出処理では、スカンジウムの抽出率が3%以下に抑制でき、溶媒抽出処理によりウランとスカンジウムとを効果的に分離できることが確認できた。
【0148】
続いて、上記表8に組成を示す始液Hに対する溶媒抽出処理で得られた抽残液(実施例2−4)に、中和剤として水酸化ナトリウムを添加してスカンジウムを含有する沈殿(水酸化スカンジウム)を生成させた。次に、この沈殿物に塩酸溶液を添加して完全に溶解し、下記表10に示す組成の溶解液(スカンジウム溶解液)を得た。
【0149】
【表10】
【0150】
次に、表10に示す、塩酸により溶解させたスカンジウム溶解液に対して、その溶解液に含まれるスカンジウム量に対して計算量で1.5当量となる量のシュウ酸・2水和物(三菱ガス株式会社製)の結晶を添加して溶解させ、室温で60分間撹拌混合して反応させることによって、シュウ酸スカンジウムの白色の結晶性沈殿を生成させた。
【0151】
得られたシュウ酸スカンジウムの沈殿物を固液分離して取り出し、沈殿物中のトリウムとウランの含有量を分析した。下記表11に、その分析値を示す。
【0152】
【表11】
【0153】
表11に示すように、トリウムの含有量が70ppm、ウランの含有量が10ppmと非常に僅かな量にまで低減されたシュウ酸スカンジウムの沈殿物を生成させることができ、トリウム及びウランと、沈殿物となったスカンジウムとを効果的に分離できた。
【0154】
≪比較例1≫
比較例1として、上記表7のA〜Dに示す組成の抽出始液を、実施例1と同様の方法で溶媒抽出に付した。具体的には、これら抽出始液を、実施例1と同様の条件で中性抽出剤であるTBPと混合し、常温で15分間かけて撹拌機で撹拌して抽出処理を施した。次いで、撹拌終了後、静置して分液ロートを用いて抽出後有機溶媒と抽残液とに分離し、それぞれをICPにより分析した。
【0155】
下記表12に、溶媒抽出処理により得られた抽残液の組成を示す。なお、表12中にその抽出時における塩化物濃度を抽残液中の濃度(mol/l)として併せて示す。また、表13及び
図2に、実施例1と同様にして算出した抽出率を示す。なお、上述したように
図2は、各元素における、塩化物濃度に対する抽出率の関係を示すグラフ図である。
【0156】
【表12】
【0157】
【表13】
【0158】
表12及び表13、並びに
図2に示すように、T−Cl濃度が2.0mol/L未満であるとウラン抽出率が30%以下と低くなる。なお、T−Cl濃度が2.0mol/Lではウラン抽出率が60%以上となり、さらにT−Cl濃度が2.5mol/Lを超えると、ウランを92%以上の割合で抽出することができ、スカンジウムと効果的に分離できる。
【0159】
塩酸酸性溶液中におけるトリウムについては、溶媒抽出処理によりウランほど顕著に分離することはできなかったものの、抽残液に対するシュウ酸塩化処理を併せて行うことにより、スカンジウムを沈殿させてトリウムと効果的に分離できる。
【0160】
≪比較例2≫
比較例2として、実施例2にて用いた、上記表7に組成を示す始液Hと同組成の塩酸酸性溶液を用い、その塩酸酸性溶液に対して溶媒抽出処理を施さずに、直接シュウ酸を添加してシュウ酸塩化の処理を行った。シュウ酸塩化の処理条件は、実施例1と同様とした。
【0161】
下記表14に、そのシュウ酸塩化処理により得られたシュウ酸スカンジウムの分析値を示す。なお、表14には、表11に示した実施例2におけるシュウ酸塩化処理により得られたシュウ酸スカンジウムの分析値と、比較例1(比較例1−3)における溶媒抽出後の抽残液を実施例2と同様の条件でシュウ酸塩化処理を行ったときのシュウ酸スカンジウムの分析値を併せて示す。
【0162】
【表14】
【0163】
表14に示すように、比較例2において、溶媒抽出処理を施さずに、スカンジウム、ウラン、トリウムを含有する塩酸酸性溶液に対して直接シュウ酸塩化処理を施した場合、得られたシュウ酸スカンジウム中のウラン品位は60ppmとなり、実施例1と比べて多くのウランが含まれる結果となった。なお、比較例1にて得られた溶媒抽出後の抽残液に対してシュウ酸塩化処理を施した場合においても、ウラン品位は50ppmとなった。
【0164】
[比較例3]
比較例3として、実施例2にて用いた、蒸気表7に組成を示す始液Hと同組成の塩酸酸性溶液を用い、その塩酸酸性溶液に対して溶媒抽出処理を施さず、直接水酸化ナトリウムを添加してスカンジウムを含有する水酸化物(水酸化スカンジウム)の沈殿を生成させた。その後、シュウ酸塩化処理も行わずに、そのまま得られた水酸化スカンジウムを分析した。下記表15に、その水酸化スカンジウムの分析値を示す。
【0165】
【表15】
【0166】
表15に示すように、比較例3において、水酸化スカンジウム中のトリウム品位は1000ppmとなった。実施例2にて得られたシュウ酸塩化後のシュウ酸スカンジウムの分析値と比べても明らかなように、溶媒抽出処理もシュウ酸塩化処理も行わないことにより、トリウム品位及びウラン品位も高くなり、スカンジウムと効率的に分離することができず、スカンジウムを効果的に精製することができなかった。
【0167】
[比較例4]
比較例4として、実施例2にて用いた、上記表7に組成を示す始液Hと同組成の塩酸酸性溶液を用い、実施例2と同条件の溶媒抽出処理を施した後、得られた抽残液に水酸化ナトリウムを添加してスカンジウムを含有する水酸化物(水酸化スカンジウム)の沈殿を生成させた。その後、シュウ酸塩化処理は行わずに、そのまま得られた水酸化スカンジウムを分析した。下記表16に、その水酸化スカンジウムの分析値を示す。
【0168】
【表16】
【0169】
表16に示すように、比較例4において、水酸化スカンジウム中のトリウム品位は950ppmとなった。ウランに関しては、溶媒抽出処理を行ったことにより30ppmの品位まで低下させることができたものの、トリウムは溶媒抽出処理のみでは効果的に低減させることができず、シュウ酸塩化処理がトリウムの分離には必要であることが分かった。
【0170】
以上のことから、スカンジウム、ウラン、トリウムを含有する酸性溶液に対して中性抽出剤を用いた溶媒抽出を行い、さらにその後に得られた抽残液に対してシュウ酸塩化処理を施すことによって、スカンジウムと、ウラン及びトリウムとを効果的に分離して、ウラン品位及びトリウム品位の低いスカンジウムを得ることができることが分かった。