特許第6409843号(P6409843)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6409843反応容器、及びその反応容器を用いた金属原料の浸出処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409843
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】反応容器、及びその反応容器を用いた金属原料の浸出処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/08 20060101AFI20181015BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   C22B3/08
   C22B23/00 102
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-191952(P2016-191952)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-53321(P2018-53321A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2018年6月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】立原 和季
(72)【発明者】
【氏名】加藤 篤史
【審査官】 坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−292901(JP,A)
【文献】 特開昭52−153801(JP,A)
【文献】 特開平11−049502(JP,A)
【文献】 特開2011−033268(JP,A)
【文献】 特開2016−011442(JP,A)
【文献】 米国特許第6368381(US,B1)
【文献】 特開2005−185886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
B01J 3/00− 3/08
B01J 4/00− 7/02
B01J 10/00−12/02
B01J 14/00−19/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石のスラリーが装入され、高圧及び240℃〜260℃の温度条件下において硫酸の添加により該ニッケル酸化鉱石に含まれる金属を浸出する浸出処理が施される反応容器であって、
少なくとも内部の壁面がチタンにより構成されており、
前記スラリーに対して酸素を吹き込む酸素吹込配管を備え、
前記酸素吹込配管における酸素吐出口当該反応容器の内部の壁面から離して、前記スラリーが装入され当該反応容器内の気相部に位置するように配設されている
反応容器。
【請求項2】
当該反応容器は、所定の高さの隔壁によって複数の室に区画され、上流の区画室から下流の区画室へと前記スラリーが該隔壁を介してオーバーフローして移送されるように構成されており、
前記酸素吐出口は、
当該反応容器の高さ方向の位置として、該反応容器の内部の壁面と前記隔壁上部の高さ位置との略中間点に配置される
請求項に記載の反応容器。
【請求項3】
反応容器内にニッケル酸化鉱石のスラリーを装入し、高温高圧下において硫酸を添加して該ニッケル酸化鉱石に含まれる金属を浸出する浸出処理方法において、
前記反応容器は、
少なくともその内部の壁面がチタンにより構成され、
前記スラリーに対して酸素を吹き込む酸素吹込配管を備え、
前記酸素吹込配管における酸素吐出口は、前記反応容器の内部の壁面から離して、前記スラリーが装入される該反応容器内の気相部に位置するように配設されており、
240℃〜260℃の温度条件で、前記スラリーが装入される前記反応容器内の気相部から該スラリーの液面に向かって酸素を供給する
ニッケル酸化鉱石の浸出処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートクレーブ装置等の反応容器に関するものであり、金属原料に含まれる金属を高温高圧下で硫酸により浸出するための反応容器及びその反応容器を用いた金属原料の浸出処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモナイト鉱等に代表される低品位ニッケル酸化鉱石からニッケルやコバルト等の有価金属を回収する湿式製錬法として、硫酸等の酸を用いて高温高圧下で浸出する高温加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)法が知られている。
【0003】
具体的に、HPAL法を用いて原料のニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトの混合硫化物を得る湿式製錬プロセスにおいては、例えば、原料鉱石の粒度を調整してスラリー化する前処理工程と、鉱石スラリーに硫酸を添加し高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程と、浸出スラリーから浸出液と浸出残渣とを分離する固液分離工程と、浸出液に中和処理を施して不純物を除去する中和工程と、浸出液中の亜鉛を除去する脱亜鉛工程と、脱亜鉛処理後の浸出液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物を生成する硫化工程と、硫化後液を無害化する無害化工程と、が含まれる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上述した湿式製錬プロセスにおいて、HPAL法に基づく浸出処理(浸出工程)では、原料の鉱石に含まれる元素のうち、ニッケルやコバルトのほかにも、マグネシウム、アルミニウム、鉄、クロムといった他の成分も、下記(1)式に従って浸出されることが知られている。
MO+HSO⇒MSO+HO ・・・(1)
(M:Ni,Co,Mg,Al,Fe,Cr)
【0005】
このうち、鉱石中にゲーサイト[FeO(OH)]として存在する鉄は、下記(2)式に従って、200℃以上の高温下では加水分解反応が進行してヘマタイト[Fe]として析出するため、ほとんど浸出されない。このように、高温高圧下での酸浸出処理では、鉱石中の鉄をヘマタイトとして固定化することで浸出液中への浸出を抑制することができ、この点で常圧浸出法による浸出処理にと比べて優れているといえる。
Fe3++3/2HO→1/2Fe+3H ・・・(2)
【0006】
このように、HPAL法は、鉄を多く含む鉱石中からニッケル及びコバルトを選択的に浸出できる優れた技術であるが、鉄の浸出を完全に抑制することは困難であり、浸出液中には数g/Lオーダーで鉄が含まれるようになる。
【0007】
浸出液中の鉄は、2価鉄及び3価鉄として存在しており、その絶対量及び存在比は浸出液中の酸化還元電位(ORP)によって支配される。例えば、ORPを540mV程度まで上昇させると鉄の存在形態は3価鉄のみとなり、プロトンを生成しながらヘマタイトとして固定され、鉄はほとんど存在しなくなる。このため、ORPを高めて浸出処理を行うことで、鉄のヘマタイトとしての固定化反応でプロトンの生成が起こることによって硫酸使用量を削減することができ、また、鉄が存在しないことによって後工程での中和剤の使用量を抑えることができる。ところが、それ以上にORPを上昇させると、3価クロムが有害な6価クロムに酸化されるようになるため、好ましくない。一方で、ORPが低すぎると、設備の金属ライニングの酸化被膜が減少して設備へのダメージが発生することがある。このように、浸出処理においては、溶液のORPを適切に調整することが望ましい。
【0008】
しかしながら、ORPは浸出処理の対象となる鉱石の組成に大きく依存する。そのため、ORPを制御しながら、鉄の浸出をより効率的に抑制できる技術が求められている。
【0009】
このような技術課題に対して、HPAL法による浸出処理において、純酸素を吹き込み添加することによって溶液のORPを制御することで、有効に鉄の浸出を抑制することができる方法が提案されている。
【0010】
例えば、特許文献2には、スラリーを撹拌機により撹拌しながら、ガス吹き込み管を介して圧縮空気等のガスを吹き込むことにより金属を浸出するオートクレーブ装置において、そのガス吹き込み管のガス吐出口が、撹拌機の最下段の撹拌翼の近傍で、その撹拌翼の上下各1か所に設けられるようにする技術が提案されている。このような方法によれば、撹拌翼等への固形物の付着を防止できるとともに、ガスの流量を調整することが可能となり、反応速度や浸出率を向上させることができる。
【0011】
しかしながら、この特許文献2に記載の技術では、最下段の撹拌翼の近傍にガス吐出口を位置させている。つまり、圧縮空気等のガスを吹き込む配管をオートクレーブの区画室に装入されたスラリーの液相に挿入して、そのガスを液相に直接的に吹き込むようにしている。このような方法では、圧縮空気等のガスによりORPを制御できるようになるものの、その吹き込み配管の側に、硫酸を含むスラリーが逆流してしまう可能性がある。このように配管への硫酸の逆流が生じると、ORPを制御するためのガスを有効に供給できなくなるとともに、浸出反応に供される硫酸量が減少するため、浸出率の低下をもたらす。
【0012】
また、その他の方法として、浸出処理に使用する硫酸の供給配管(硫酸供給配管)に酸素等のガスを供給する配管(ガス供給配管)を接続して、硫酸と共に酸素をスラリー中に供給する方法も考えられる。しかしながら、この方法の場合でも、ガス供給配管側へ硫酸が逆流する可能性があり、また、ガス(気体)と液体との気液混相の状態となるためにガスの供給が不安定になる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−350766号公報
【特許文献2】特開2016−11442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、高温高圧下で酸素を吹き込みながら硫酸等の酸により浸出処理を施すにあたり、反応容器内に装入されたスラリーに対して有効に酸素を供給して、効果的に浸出反応を生じさせることができるようにする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、反応容器において酸素を吹き込む酸素吹込配管を設け、その酸素吹込配管における酸素吐出口を、反応容器の内部の気相部に位置するようにすることで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
(1)本発明の第1の発明は、金属原料のスラリーが装入され、高温高圧下において硫酸の添加により該金属原料に含まれる金属を浸出する浸出処理が施される反応容器であって、前記スラリーに対して酸素を吹き込む酸素吹込配管を備え、前記酸素吹込配管における酸素吐出口が、前記スラリーが装入された当該反応容器内の気相部に位置するように配設されている、反応容器である。
【0017】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、当該反応容器は、少なくともその内部の壁面がチタンにより構成されている、反応容器である。
【0018】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記酸素吐出口は、当該反応容器の内部の壁面から離して配置され、当該反応容器の高さ方向の位置として、該反応容器の内部の壁面とスラリーの液面との略中間点に配置される、反応容器である。
【0019】
(4)本発明の第4の発明は、反応容器内に金属原料のスラリーを装入し、高温高圧下において硫酸を添加して該金属原料に含まれる金属を浸出する浸出処理方法において、前記スラリーが装入された反応容器内の気相部に、該スラリーの液面に向かって酸素を供給する、金属原料の浸出処理方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高温高圧下で酸素を吹き込みながら硫酸等の酸により浸出処理を施すにあたり、反応容器内に装入されたスラリーに対して有効に酸素を供給して、効果的に浸出反応を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】HPAL法によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れを示すフロー図である。
図2】酸素吹込配管を備えたオートクレーブ装置の構成の一例を示す図である。
図3】酸素吹込配管の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0023】
≪1.概要≫
本発明に係る反応容器は、金属原料のスラリーが装入され、高温高圧下において硫酸の添加によりその金属原料に含まれる金属を浸出する浸出処理が施されるものである。例えば、金属原料のスラリーとしては、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルト等の有価金属を回収する湿式製錬プロセスにおいて用いられる鉱石スラリーを挙げることができる。そして、そのニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出処理に用いるオートクレーブ装置として、本発明に係る反応容器を適用することができる。
【0024】
具体的に、この反応容器は、スラリーに対して酸素を吹き込む酸素吹込配管を備え、高濃度の酸素を供給しながら浸出処理を施すことが可能となっており、そして、その酸素吹込配管における酸素吐出口が、スラリーが装入された当該反応容器内の気相部に位置するように配設されていることを特徴としている。
【0025】
このような反応容器によれば、酸素吹込配管を介してスラリーに酸素を供給することで、スラリーの酸化還元電位(ORP)を所望の範囲に適切に制御することができる。しかも、酸素吹込配管における酸素吐出口が、気相部に位置するように配設されていることから、硫酸を含むスラリーがその酸素吹込配管側に逆流することを防ぐことができ、酸素の供給不足による浸出効率の低下等を防ぐことができる。
【0026】
また、酸素吹込配管における酸素吐出口を反応容器の内部の壁面から離して配置することで、内壁等における破損を防ぐことができ、安定的な操業を行うことができる。
【0027】
以下では、本発明に係る反応容器を、HPAL法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出処理に用いるオートクレーブ装置に適用した場合を一例として挙げて、より具体的に説明する。
【0028】
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス≫
図1は、HPAL法によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れを示すフロー図である。ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、原料のニッケル酸化鉱石をスラリー化する鉱石スラリー化工程S11と、スラリーを高温高圧下で硫酸により浸出して浸出スラリーを得る浸出工程S12と、浸出スラリーを浸出液と浸出残渣とに固液分離する固液分離工程S13と、浸出液に中和剤を添加して不純物を含む中和澱物と中和後液とを得る中和工程S14と、中和後液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物と硫化後液とを得る硫化工程S15とを有する。
【0029】
(1)鉱石スラリー化工程
鉱石スラリー化工程S11では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に対して、所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石粒子に水を添加して粗鉱石スラリーとする。
【0030】
原料のニッケル酸化鉱石は、ニッケルやコバルトを含有する鉱石であり、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が用いられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、一般的には0.8重量%〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10重量%〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられる。
【0031】
ニッケル酸化鉱石の分級方法としては、所望とする粒径に基づいて鉱石を分級できれば特に限定されず、例えば、グリズリーや振動篩等を用いた篩分けによって行うことができる。また、その分級点についても、特に限定されず、所望とする粒径値以下の鉱石粒子からなる鉱石スラリーを得るための分級点を適宜設定することができる。
【0032】
(2)浸出工程
浸出工程S12では、高温加圧反応容器(オートクレーブ装置等)を用いて、例えば240℃〜260℃の高温条件で、高圧蒸気を供給して加圧しながら、鉱石スラリーに硫酸を添加して鉱石に含まれるニッケル及びコバルトを浸出する浸出処理を施す。この浸出処理により、ニッケル及びコバルトを含有する浸出液と、ヘマタイトを含む浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる。
【0033】
ここで、詳しくは後述するが、浸出工程S12における浸出処理では、スラリーに対して酸素を供給しながら硫酸により金属を浸出させる。具体的には、オートクレーブ装置に、高濃度の酸素を供給する酸素吹込配管を備えるようにし、鉱石スラリーが装入されたオートクレーブ装置内の気相部に酸素を供給する。このように高濃度の酸素を供給しながら浸出処理を行うことで、スラリーの酸化還元電位(ORP)を制御することができ、鉱石に含まれる鉄の浸出を抑制し、ニッケルやコバルトの浸出率を向上させることができる。
【0034】
(3)固液分離工程
固液分離工程S13では、浸出工程S12で生成した浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と、ヘマタイトである浸出残渣とを固液分離する。
【0035】
固液分離工程S13では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。実操業では、このような機能を持つシックナーを多段に連結して用いる。
【0036】
(4)中和工程
中和工程S14では、浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る。このような中和処理により、ニッケルやコバルト、スカンジウム等の有価金属は中和後液に含まれるようになり、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分が中和澱物となる。
【0037】
中和処理に用いる中和剤としては、公知のもの使用することができる。例えば、石灰石、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、中和処理においては、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、pHを1〜4の範囲に調整することが好ましく、pHを1.5〜2.5の範囲に調整することがより好ましい。pHが1未満であると、中和が不十分となり、中和澱物と中和後液とに分離できない可能性がある。一方で、pHが4を超えると、アルミニウムをはじめとした不純物のみならず、ニッケル等の有価金属も中和澱物に含まれる可能性がある。
【0038】
(5)硫化工程
硫化工程S15では、中和工程S14における中和処理で得られた中和後液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物と、硫化後液とを得る。このような硫化処理により、ニッケル、コバルト、亜鉛等は硫化物となって回収され、スカンジウム等のその他の元素は硫化後液に残留することになる。
【0039】
具体的に、硫化工程S15では、得られた中和後液に対して、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を添加し、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と、ニッケル等の濃度を低い水準で安定させた硫化後液(貧液)とを生成させる。
【0040】
硫化工程S15における硫化処理では、ニッケル・コバルト混合硫化物を含むスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて分離処理し、その混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する一方で、水溶液成分である硫化後液はオーバーフローさせて回収する。
【0041】
なお、硫化処理に供する中和後液に亜鉛が含まれる場合には、硫化物としてニッケル及びコバルトを分離するに先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離することができる。
【0042】
≪3.浸出処理に用いる反応容器(オートクレーブ装置)≫
図2は、上述した湿式製錬プロセスにおける浸出工程S12での浸出処理に用いるオートクレーブ装置の構成を示す図であり、オートクレーブ装置を垂直に切断して内部構造を模式的に示した縦断側面図である。
【0043】
(オートクレーブ装置の構成)
オートクレーブ装置1は、金属原料である鉱石スラリーが装入され、高温高圧下において硫酸の供給によりその鉱石中に含まれる金属を浸出する浸出処理が施される反応容器である。このオートクレーブ装置1は、鉱石スラリーMが装入されて浸出反応の場となる本体部11と、鉱石スラリーを撹拌する撹拌機12とを備える。また、オートクレーブ装置1には、鉱石スラリーに対して酸素を吹き込む酸素吹込配管13が設けられている。
【0044】
(本体部)
本体部11は、上述したように、その内部に鉱石スラリーMが装入されて、硫酸による浸出反応が生じる反応場となる。本体部11は、図示しないが、例えば隔壁によって複数の区画室に区画されており、各区画室で浸出反応が生じるようになっており、上流の区画室から下流の区画室へとスラリーがオーバーフローして移送される。
【0045】
本体部11の内部(各区画室の内部)には、例えばその上部から垂下されるようにして、浸出処理に用いる硫酸溶液を供給する硫酸供給配管や、処理対象となる鉱石スラリーを最上流の区画室に装入するためのスラリー装入配管、さらには高圧蒸気等を供給するための蒸気供給配管等の種々の供給配管が付設されている。
【0046】
ここで、オートクレーブ装置1の本体部11においては、特に限定されないが、少なくともその内部の壁面(内壁)がTi(チタン)を含む材質で構成されていること好ましい。本体部11内では、上述したように高温高圧下で硫酸による浸出反応を生じさせることから、耐腐食性を有する材質により構成されていることが好ましく、特にTiにより構成することで、その耐腐食性を高めることができる。
【0047】
(撹拌機)
撹拌機12は、本体部11の内部に設置され、例えば本体部11の内部が隔壁により複数の区画室に区画されている場合にはそれぞれの区画室に設置されている。撹拌機12は、本体部11の内部に装入されたスラリーを撹拌する。
【0048】
撹拌機12としては、例えば図2に模式的に示すように、モータ21に連結された撹拌軸22と、その撹拌軸の端部に設けられた撹拌羽根23とを備えたプロペラ形状のものを用いることができる。撹拌機12は、本体部11の上部天井から垂下されて、オートクレーブ装置1を上部から視たとき、反応空間の中央部分に撹拌軸22が位置するように設けることができる。
【0049】
撹拌機12は、モータ21の駆動により例えば時計回りに所定速度で撹拌軸22を回転させ、撹拌羽根23によってスラリーを撹拌する。図2に示すように、撹拌羽根23(23a,23b)は、撹拌軸22の端部における上下方向に複数設けることができる。
【0050】
(酸素吹込配管)
酸素吹込配管13は、鉱石スラリーに対して高濃度の酸素を吹き込み供給するための配管である。酸素吹込配管13は、例えば、本体部11の上部天井から垂下されるようにして設けられている。具体的には、酸素吹込配管13は、本体部11の上部に設けられたフランジ14に固定されて設けられている。この酸素吹込配管13は、酸素発生設備2に接続されており、酸素発生設備2にて発生した酸素が酸素吹込配管13を介して本体部11内に供給される。
【0051】
図3は、酸素吹込配管13の構成の一例を示す断面図である。図3に示すように、酸素吹込配管13は、例えばノズル形状の配管であり、配管部31と、酸素吹込配管13を本体部11上部のフランジ14に取り付けて固定する取付用フランジ32と、酸素発生設備2に接続するための接続用フランジ33とを備える。なお、取付用フランジ32や接続用フランジ33は、相手フランジ(本体部11上部のフランジ14、酸素発生設備2に設けられたフランジ(図示しない))とボルト締めや溶接等により接続される。
【0052】
ここで、酸素吹込配管13においては、配管部31の先端(酸素発生設備2との接続端部とは反対の端部)に酸素吐出口31Aが存在しており、その酸素吐出口31Aから酸素が吐出される。このとき、オートクレーブ装置1では、酸素吐出口31Aが、スラリーが装入された本体部11内における気相部(図2中の符号「11G」で示す空間)に位置するように、酸素吹込配管13を配設するようにしている。つまり、酸素吐出口31Aがスラリーの液面に触れない状態で配設されており、気相部11Gに位置させた酸素吐出口31Aから、本体部11内のスラリーの液面に向かって酸素が吹き込まれる。
【0053】
このような構成を有するオートクレーブ装置1においては、酸素吹込配管13の酸素吐出口31Aが本体部11内の気相部11Gに位置されていることから、その気相部11Gに酸素が吹き出された後に、気相部11Gに吹き出された酸素が次第にスラリーに取り込まれて溶解するようになる。そのため、例えば酸素吹込配管13を介した酸素の供給量を制御することで、スラリーのORPを所望の範囲に適切に制御することができる。
【0054】
また、酸素吹込配管13の酸素吐出口31Aが気相部11Gに位置されるように設けられているため、酸素吹込配管における酸素吐出口を液相に挿入してその液相に直接酸素を吹き込んでいた従来技術(例えば特許文献2に記載の技術)のように、硫酸等を含むスラリーが配管内を逆流するといった問題が起こらず、ニッケルやコバルトの浸出率の低下を抑制することができる。
【0055】
さて、オートクレーブ装置1においては、例えば245℃以上の高温下で硫酸を用い、さらに酸素吹込配管13を介して酸素を吹き込みながら浸出処理を行うため、オートクレーブ装置1の内部において腐食が発生する可能性が考えられる。そのため、このような浸出処理を行うオートクレーブ装置1としては、上述したように、耐腐食性を高める観点からTiを含む材質により構成することが好ましい。
【0056】
しかしながら、Tiにより構成された反応容器の場合、酸素濃度を上昇させたガスが通気されると、Tiの発火点に到達して燃焼が起こることが知られている。そのことから、オートクレーブ装置1においてTiにより装置内壁等を構成する場合には、酸素吹込配管13から本体部11の内部に吹き込まれる酸素が、そのTiにより構成された内壁に触れることのないように供給することが求められる。
【0057】
このことから、オートクレーブ装置1においては、酸素吹込配管13の酸素吐出口31Aが、オートクレーブ装置1の本体部11の内部の壁面から離して配置されるようにすることが好ましい。具体的には、図2に示すように、オートクレーブ装置1の高さ方向(図2中の矢印H方向)の位置として、本体部11内の壁面11sとスラリーの液面Msとの略中間点に酸素吐出口31Aが配置されるようにすることが好ましい。
【0058】
オートクレーブ装置1の本体部11における気相部11Gは、蒸気とオーバープレッシャー分の不活性ガス(N、O、生成CO等)との混合ガスで構成されているが、その大部分は蒸気であり、平均分子量はおよそ20程度であると推測される。一方で、酸素吹込配管13を介して供給する酸素は比重が大きく冷たいため、本体部11の内部の気相部11Gにスラリーの液面に向かって酸素を供給すると、そのまま液面の方向に酸素が流れていく。そのため、供給される酸素は、オートクレーブ装置1の内部の壁面、すなわちTiにより構成される壁面には直接触れることはない。
【0059】
酸素吹込配管13の材質としては、高温高圧下での耐腐食性を確保し、また配管内を通過する酸素による燃焼を防ぐ観点から、例えば、ニッケルクロムモリブデン(Ni−Cr−Mo)合金を使用することが好ましい。Ni−Cr−Mo合金としては、マンガン、シリコン、コバルト、タングステン、タンタル、鉄等を随意に含み、例えば、58Ni−22Cr−13Mo−3W―3Fe(市販品:ハステロイC−22)、60Ni−19Cr−19Mo−2Ta(市販品:MAT21)、53Ni−45Cr−1Mo(市販品:MCアロイ)等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
HPAL法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出工程にて、図2に示すようなオートクレーブ装置1を用いて硫酸による浸出処理を行った。
【0062】
すなわち、図2に示すように、オートクレーブ装置(缶内寸法:直径5m×長さ25m)1として、本体部11と、撹拌機12と、酸素吹込配管13とを備えるものを用いた。オートクレーブ装置1の本体部11の内壁をTiで構成し、また、その外部上方にフランジ14を設けてそのフランジ14に酸素吹込配管13を固定して取り付けた。このようなオートクレーブ装置1の本体部11内に鉱石スラリーを装入し、スラリーの液面高さが4200mmとなるようにした。
【0063】
酸素吹込配管13としては、その先端部に位置する酸素吐出口31Aが、本体部11の上部壁面から290mmの高さ位置に配置されるように設けた。このとき、スラリーの液面から酸素吐出口31Aまでの距離は170mmとなり、したがって、酸素吐出口31Aが本体部11内の気相部11Gに酸素が吹き出されるようにした。なお、酸素吹込配管13としては、図3に示したような形状、構成のものを用い、ニッケル基合金により構成した。また、酸素吹込配管13の配管部31の長さは1170mmとした。
【0064】
このようなオートクレーブ装置1を用いて、酸素をスラリーの液面に向かって供給しながら、硫酸による浸出処理を行った。なお、浸出処理に際して条件を以下に示す。
(酸素供給条件)
ガス流量:90Nm/h/train
酸素濃度:90%
(硫酸浸出の操業条件)
A/C温度:259degC(蒸気圧:4,620kPaA)
A/C圧力:5,200kPaA(超過圧力:400〜500kPa)
【0065】
5か月間の操業を行った結果、酸素吹込配管13において硫酸を含むスラリーの逆流は見られず、また、オートクレーブ装置1の本体部11の内壁等における破損も確認されなかった。すなわち、操業開始時と何ら変わらない状態を維持することができた。
【符号の説明】
【0066】
1 オートクレーブ装置
11 本体部
12 撹拌機
13 酸素吹込配管
14 フランジ
31 (酸素吹込配管における)配管部
31A 酸素吐出口
図1
図2
図3