【実施例】
【0017】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0018】
[実施例1]
陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績社製)400gを充填したカラム(直径5cm×高さ30cm)を脱イオン水で十分洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳40l(pH6.7)を流速25ml/分で通液した。通液後、このカラムを脱イオン水で十分洗浄し、0.98M塩化ナトリウムを含む0.02M炭酸緩衝液(pH7.0)で樹脂に吸着した塩基性タンパク質画分を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透膜(RO膜)により脱塩して、濃縮した後、凍結乾燥して、乳由来塩基性タンパク質画分粉末21gを得た(実施例品1)。得られた乳由来塩基性タンパク質画分について、ソジウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により測定したところ、分子量は3,000〜80,000の範囲に分布しており、成分組成は表1に示すとおりであった。また、6N塩酸で110℃、24時間加水分解した後、アミノ酸分析装置(L−8500型、日立製作所製)でそのアミノ酸組成を分析した結果、表2に示したように塩基性アミノ酸が15重量%以上含まれていた。さらに、ELISA法により、そのタンパク質組成を分析したところ、表3に示すように、40%以上のラクトフェリン及びラクトパーオキシダーゼが含まれていた。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
[試験例1]
乳由来塩基性タンパク質画分によるプロテオグリカン合成酵素のmRNA発現への影響についてリアルタイムPCR法を用いて検討を行った。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。細胞は、マウスEC由来間葉系細胞であるATDC5細胞を用いた。ATDC5細胞を24穴プレートに0.5×105cells/wellになる様に播種し、DMEM/F12培地(シグマ社製)にて37℃、5%CO2環境下にて1週間培養した。
乳由来塩基性タンパク質画分及び対照区として精製したラクトフェリンをそれぞれ0.1%、0.5%、1%(w/v)になるようDMEM/F12培地に溶解したものを培養した細胞に添加し、12時間培養した。
培養した細胞からtotal RNAの回収およびcDNA合成を行った。すなわち、培養した細胞にRNA抽出剤であるISOGEN(ニッポンジーン社製)を0.5ml添加し5分間静置した後、ピペッティングにて可溶化させた細胞液を1.5ml容チューブに回収した。細胞液に0.1mlのクロロホルムを添加し、十分に攪拌した後、二層に分離した上層(水層)を新たな1.5ml容チューブに回収した。回収液に0.25mlの2−プロピルアルコールを添加し、10分間静置後、15,000rpm、4℃にて15分間遠心し、total RNAの沈殿物を得た。得られた沈殿物は、70%エタノールにて洗浄した後、DEPC水に溶解しRNA液とした。1μg分のRNAからTakara PrimeScriptTMRT reagent Kit を用いてcDNAを合成した。
得られたcDNAをテンプレートとして、SYBR Green (Takara SYBR Prime Ex Taq II)を使用したリアルタイムPCRを行った。反応条件は、95℃、30秒の初期変性後、95℃、5秒の変性、57℃、15秒のアニーリング、72℃、20秒の伸張を40サイクル反応させた。プライマーは表4に記載のC4ST1用プライマーを使用した。結果を
図1に示す。なお、※は対照群と比較して有意差があることを示す(p<0.05)。
【0023】
【表4】
【0024】
図1より、乳由来塩基性タンパク質画分によるC4ST−1のmRNA発現は、乳由来塩基性タンパク質画分の濃度に依存して亢進することが明らかとなった。また、乳タンパク質の一つであるラクトフェリンに比較してより高いC4ST−1のmRNA発現亢進効果を有することが明らかとなった。
【0025】
[試験例2]
乳由来塩基性タンパク質画分によるプロテオグリカン合成酵素のmRNA発現への作用時間による影響についてリアルタイムPCR方法を用いて検討した。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。
方法は試験例1に記載の方法に準じた。すなわち、乳由来塩基性タンパク質画分を2時間から48時間までATDC5細胞に添加した後、totalRNAを回収しcDNAを合成し、リアルタイムPCRを行った。対照区は、乳由来塩基性タンパク質画分を投与せず、2時間から48時間まで培養したATDC5細胞からtotalRNAを回収し、cDNAを合成してリアルタイムPCRを行った。結果を
図2に示す。
【0026】
図2により、乳由来塩基性タンパク質画分によるC4ST−1のmRNA発現は、乳由来塩基性タンパク質画分にてATDC細胞に作用させてから4時間で有意に亢進し、12時間から24時間でピークに達し、48時間では減少した。
【0027】
[試験例3]
乳由来塩基性タンパク質画分による軟骨分化制御因子のmRNA発現への影響についてリアルタイムPCR方法を用いて検討を行った。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。また、試験例1と同じく、対照区として精製したラクトフェリンを用いた。方法は試験例1に記載の方法に準じた。プライマーは表5に記載のSox9用プライマーを使用した。結果を
図3に示す。
【0028】
【表5】
【0029】
図3により、乳由来塩基性タンパク質画分によるSox9のmRNA発現は、ホエー分解物の濃度に依存して亢進することが明らかとなった。また、乳タンパク質の一つであるラクトフェリンに比較してより高いSox9のmRNA発現亢進効果を有することが明らかとなった。
【0030】
[試験例4]
乳由来塩基性タンパク質画分による軟骨分化制御因子のmRNA発現への作用時間による影響についてリアルタイムPCR方法を用いて検討した。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。
方法は試験例1に記載の方法に準じた。すなわち、乳由来塩基性タンパク質画分を2時間から48時間までATDC5細胞に添加した後、totalRNAを回収しcDNAを合成し、リアルタイムPCRを行った。対照区は、乳由来塩基性タンパク質画分を投与せず、2時間から48時間まで培養したATDC5細胞からtotalRNAを回収し、cDNAを合成してリアルタイムPCRを行った。結果を
図4に示す。
【0031】
図4により、乳由来塩基性タンパク質画分によるSox9のmRNA発現は、乳由来塩基性タンパク質画分をATDC細胞に作用させてから2時間で有意に上昇し、4時間から6時間でピークに達し、12時間以降は減少した。
【0032】
[試験例5]
乳由来塩基性タンパク質画分によるプロテオグリカン合成への影響について、酸性ムコ多糖測定キット(プライマリーセル AK03)を用いて、プロテオグリカン量(コンドロイチン硫酸量)の測定を行った。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。測定は、以下の方法で行った。
ATDC5細胞を1×105cells/wellになるように12穴プレートに播種し、DMEM/F12培地にて37℃、CO2環境下で培養した。培養4日後、キット中の酵素溶液(一袋/10ml水)を200μl/wellなるよう添加し細胞可溶化させ、可溶化液を1.5ml容チューブに回収した後60℃にて1時間処理しサンプルとした。サンプルおよび標準用コンドロイチン硫酸液(1〜50μg/ml)を100μlずつチューブに分注し、反応液(発色原液0.4ml/緩衝液12.6ml)を1.3ml添加し、10〜20分後内にOD650nmにて吸光値を測定した。標準用コンドロイチン硫酸液の吸光値から求めた標準曲線及びサンプルの吸光値より濃度を決定した。結果を
図5に示す。
【0033】
図5より、乳由来塩基性タンパク質画分の濃度に依存して、プロテオグリカン量が有意に上昇した。
【0034】
[試験例6]
乳由来塩基性タンパク質画分による軟骨形成への影響について、変形性膝関節症自然発症マウスであるSTR/ORTマウスを用いた乳由来塩基性タンパク質画分投与試験を行った。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。測定は、以下の方法で行った。15週齢のSTR/ORTマウスを10匹ずつ生理食塩水群と乳由来塩基性タンパク質画分をマウス体重1kg当たり10mg投与する群に分け、投与はそれぞれマウス用金属製胃ゾンデにより1日あたり1回の強制経口投与を行った。正常対照群として正常マウス(CBA/JN)10匹も設定した。12週間の飼育終了後、各群のマウスを屠殺し、後肢の膝関節を切除し取り出した後、骨軟骨組織を4℃のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、PBSに希釈した4%パラフォルムアルデヒドで4℃、18時間の固定を行い、さらに一晩かけて70%から100%のエタノール系列にて脱脂し、10%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むリン酸緩衝液に組織を浸潤させ、4℃にて2週間かけて脱灰した。組織をパラフィン包埋し、4μmの薄切標本を作製した。組織標本は脱パラフィン、再親水化した後、Safranin‐O染色を行い、関節炎の進展度のスコアであるMankinスコア(表6)に従ってスコア化した。
結果を
図6に示す。
【0035】
【表6】
【0036】
図6により、乳由来塩基性タンパク質画分投与により、生理食塩水投与に比較してSTR/ORTマウスのMankinスコアが有意に低下した。これは、乳由来塩基性タンパク質画分投与によりマウスの軟骨形成が促進されたことにより、変形性膝関節症の症状が緩和されたことを示す。
【0037】
[実施例2]
(液状栄養組成物の調製)
実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分5gを4995gの脱イオン水に溶解し、TKホモミクサー(TKROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6000rpmで30分間撹拌混合して乳由来塩基性タンパク質画分100mg/100gの乳由来塩基性タンパク質画分溶液を得た。この乳由来塩基性タンパク質画分溶液5.0kgに、カゼイン4.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機(第1種圧力容器、TYPE:RCS−4CRTGN、日阪製作所社製)で121℃、20分間殺菌して、本発明の液状栄養組成物50kgを製造した。このようにして得られた液状栄養組成物には、すべて沈殿等は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この液状栄養組成物は、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分を10mg含有し、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【0038】
[実施例3]
(ゲル状食品の調製)
実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分2gを708gの脱イオン水に溶解し、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAXT−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。この溶液に、ソルビトール40g、酸味料2g、香料2g、ペクチン5g、乳清タンパク質濃縮物5g、乳酸カルシウム1g、脱イオン水235gを添加して、撹拌混合した後、200mlのチアパックに充填し、85℃、20分間殺菌後、密栓し、本発明のゲル状食品5袋(200g入り)を調製した。このようにして得られたゲル状食品には、すべて沈殿等は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、このゲル状食品には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が200mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【0039】
[実施例4]
(飲料の調製)
酸味料2gを706gの脱イオン水に溶解した後、実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分4gを溶解し、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAXT−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、95℃、15秒間殺菌後、密栓し、飲料10本(100ml入り)を調製した。このようにして得られた飲料には、すべて沈殿は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この飲料には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が400mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【0040】
[実施例5]
(飼料の調製)
実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分2kgを98kgの脱イオン水に溶解し、TKホモミクサー(MARKII 160型;特殊機化工業社製)にて、3600rpmで40分間撹拌混合して乳由来塩基性タンパク質画分を2g/100g含有する乳由来塩基性タンパク質画分溶液を得た。この乳由来塩基性タンパク質画分溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明のイヌ 用飼育飼料100kgを製造した。なお、このイヌ用飼育飼料には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が200mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【0041】
[実施例6]
(錠剤の調製)
表4に示す配合で原料を混合後、常法1gに成型、打錠して本発明の錠剤を製造した。なお、この錠剤1g中には、乳由来塩基性タンパク質画分が100mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【0042】
【表7】
【0043】
[実施例7]
実施例1と同様の方法によって得られた乳由来塩基性タンパク質画分粉末50gを蒸留水10リットルに溶解した後、1%パンクレアチン(シグマ社製)を添加し、37℃で2時間反応させた。反応後、80℃で10分間加熱処理して酵素を失活させた後、乳由来塩基性タンパク質画分分解物48.3gを得た(実施例品7)。
【0044】
[実施例8]
実施例1と同様の方法によって得られた乳由来塩基性タンパク質画分120gを精製水1.8リットルに溶解した後、45℃に保持してプロテアーゼA「アマノ」SD(天野エンザイム社製)を20g添加し、2時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させた後、凍結乾燥して乳由来塩基性タンパク質画分分解物を95g得た(実施例品8)。
【0045】
[試験例7]
実施例品7および実施例品8を用いて乳由来塩基性タンパク質画分分解物によるプロテオグリカン合成への影響を検証した。試験方法は試験例5の方法にしたがって実施した。結果を
図7に示す。
【0046】
図7より、乳由来塩基性タンパク質画分分解物は、プロテオグリカン量を有意に上昇した。
【0047】
[試験例8]
実施例品7および実施例品8を用いて乳由来塩基性タンパク質画分分解物による軟骨形成への影響を検証した。STR/ORTマウスへの乳由来塩基性タンパク質画分分解物の投与量はマウス体重1kg当たり10mgとしたほか、試験方法は試験例6の方法にしたがって実施した。結果を
図8に示す。
【0048】
図8の結果から、乳由来塩基性タンパク質画分と同様に、乳由来塩基性タンパク質画分分解物投与により、生理食塩水投与に比較してSTR/ORTマウスのMankinスコアが有意に低下した。つまり、乳由来塩基性タンパク質画分分解物投与によりマウスの軟骨形成が促進し、変形性膝関節症の症状が緩和された。
【0049】
(飲料の調製)
酸味料2gを706gの脱イオン水に溶解した後、実施例品7の乳由来塩基性タンパク質画分分解物4gを溶解し、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAXT−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、95℃、15秒間殺菌後、密栓し、飲料10本(100ml入り)を調製した。このようにして得られた飲料には、すべて沈殿は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この飲料には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分分解物が400mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【0050】
[実施例9]
(錠剤の調製)
表8に示す配合で原料を混合後、常法により1gに成型、打錠して本発明の錠剤を製造した。なお、この錠剤1g中には、乳由来塩基性タンパク質画分分解物が100mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【0051】
[実施例10]
【表8】