【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、本発明は、熱膨張係数が1〜10ppm/Kの支持体と、支持体の熱膨張係数以下の熱膨張係数を有する第1のポリイミド層と、支持体の熱膨張係数以上の熱膨張係数を有する第2のポリイミド層とを備えて、支持体上に第1のポリイミド層と第2のポリイミド層とが順次積層されており、第1のポリイミド層と第2のポリイミド層との界面で分離可能にしたことを特徴とするポリイミド積層構造体である。
【0017】
また、本発明は、熱膨張係数が1〜10ppm/Kの支持体上に、ポリイミド又はポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布・乾燥し、加熱処理して熱膨張係数が−15〜4ppm/Kの第1のポリイミド層を形成した後、ポリイミド又はポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布・乾燥し、加熱処理して熱膨張係数が10〜80ppm/Kの第2のポリイミド層を形成することを特徴とするポリイミド積層構造体の製造方法である。
【0018】
先ず、本発明におけるポリイミド積層構造体は、熱膨張係数が1〜10ppm/K、好ましくは1〜6ppm/Kの支持体を備える。このような支持体は無機系材料からなるものであり、例えば、一般的に熱膨張係数が1〜10ppm/Kのガラス基板、同じく熱膨張係数が1〜6ppm/Kのシリコンウエハ、同じく熱膨張係数が1〜10ppm/Kのステンレス、同じく熱膨張係数が1〜10ppm/Kの炭化ケイ素等を挙げることができ、なかでも好適には、ガラス基板又はシリコンウエハである。
【0019】
また、支持体上には、支持体の熱膨張係数以下の熱膨張係数を有する第1のポリイミド層が積層される。このような第1のポリイミド層を支持体と第2のポリイミド層との間に介在させることで、反りの発生を確実に抑制させることができる。特に、いわゆるガラス基板の第四世代(680×880mm〜730×920mm)以降に相当する比較的大きな積層構造体にした場合でも、反りの抑制効果を十分に得ることができる。加えて、この第1のポリイミド層の存在により、後述するような第2のポリイミド層の設計自由度を高めることができる。
【0020】
具体的には、第1のポリイミド層の熱膨張係数は−15〜4ppm/Kであるのがよく、好ましくは−12〜0ppm/Kであるのがよい。熱膨張係数が−15ppm/Kより小さいと第1樹脂層自体が脆くなる恐れがある。反対に4ppm/Kより大きくなると反り抑制効果が弱くなる。また、第1のポリイミド層の弾性率は3〜11GPaであるのがよく、好ましくは5〜10GPaであり、このような第1のポリイミド層と第2のポリイミド層との組み合わせにより、積層構造体とした際の反りを効果的に抑制することができる。
【0021】
この第1のポリイミド層を得る手段については特に制限されないが、そのひとつとして、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリイミドにより形成することが挙げられる。好ましくは、下記一般式(1)で表される構造単位を50モル%以上含有するポリイミドであるのがよい。
【化1】
【0022】
ここで、上記一般式(1)におけるXは芳香族を1個以上有する4価の有機基であり、Rは炭素数1〜6の置換基である。このうち、基Xを形成するための原料となる好適な具体例としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)等が挙げられる。また、Rの好適な具体例としては、例えば、-CH
3、-CF
3、-CH
2CH
3、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-CH
2CH
2CH
3、-OCH
2CH
2CH
3等が挙げられる。
【0023】
なかでも、Rが-CF
3又は-CH
2CH
3を用いることで、第1のポリイミド層と第2のポリイミド層との界面での剥離性を高めることができて、これらの分離を容易にすることができる。
【0024】
なお、上記一般式(1)で表される構造単位以外に含めることができるもの、好適には最大で50モル%未満含むことができるものについては、一般的な酸無水物とジアミンとを用いた構造単位が挙げられる。なかでも好適に用いられる酸無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、シクロテトラカルボン酸二無水物、フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、4,4'-オキシジフタル酸ニ無水物、ベンゾフェノン‐3,4,3',4'‐テトラカルボン酸ニ無水物、ジフェニルスルホン‐3,4,3',4'-テトラカルボン酸ニ無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルドン酸二無水物、4,4'-(2,2'-ヘキサフルオロイソプロポリデン)ジフタル酸ニ無水物等である。一方、ジアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノベンジルオキシフェニル)プロパン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4'-ジアミノベンズアニリド、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等である。
【0025】
また、本発明において、第1のポリイミド層の上には、支持体の熱膨張係数以上の熱膨張係数を有する第2のポリイミド層が積層される。具体的には、第2のポリイミド層の熱膨張係数は10〜80ppm/Kであるのがよく、好ましくは10〜60ppm/Kであるのがよい。熱膨張係数が10ppm/K未満であると、第2のポリイミド層単独で固すぎて、切れやすくなり、作業性が悪くなる恐れがあり、反対に80ppm/Kより大きくなると反り抑える効果が小さくなり、反りが発生しまう恐れがある。また、積層構造体とした際の反りをより効果的に抑制する観点から、第2のポリイミド層の弾性率は3〜5GPaであるのがよい。
【0026】
一般に、ポリイミドの熱膨張係数が小さくなると透明性が低下すると共に、厚み方向のリタデーション(複屈折の差による位相差)が高くなってしまう。そのため、第1のポリイミド層から分離した第2のポリイミド層を、例えば、表示装置の樹脂基材として利用したり、ガスバリアフィルム、タッチパネル基板に用いることなどを考えた場合には不向きになる。それに対して本発明では、上記のとおり、比較的大きな熱膨張係数を有した第2のポリイミド層の使用が許容される。それは、先に説明した第1のポリイミド層の存在により、積層構造体としての反りが抑制されるためである。
【0027】
そのため、第2のポリイミド層を形成するポリイミドは、ポリイミド積層構造体の用途に応じて適宜選択することができる。なかでも、液晶表示装置、有機EL表示装置、電子ペーパー、カラーフィルター、タッチパネル等の表示装置における可撓性を有した樹脂基材として利用する場合には、下記一般式(2)で表される構造単位を有するポリイミドが挙げられ、好ましくは、この一般式(2)で表される構造単位を50モル%以上含有するポリイミドである。なお、この一般式(2)で表される構造単位以外に含めることができるもの(好適には最大で50モル%未満含有するもの)については、透明性を有するものであるのがよく、一般式(1)で説明したものと同様のものが挙げられる。好適に用いられる酸無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、シクロテトラカルボン酸二無水物、フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、4,4'-オキシジフタル酸ニ無水物、ベンゾフェノン‐3,4,3',4'‐テトラカルボン酸ニ無水物、ジフェニルスルホン‐3,4,3',4'-テトラカルボン酸ニ無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルドン酸二無水物、4,4'-(2,2'-ヘキサフルオロイソプロポリデン)ジフタル酸ニ無水物等である。一方、ジアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノベンジルオキシフェニル)プロパン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4'-ジアミノベンズアニリド、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等である。
【化2】
(式中、Xは芳香族を1個以上有する4価の有機基である。)
【0028】
ここで、上記一般式(2)におけるXは、下記式(3)で示したいずれかであるのが好ましい。
【化3】
【0029】
なかでも、波長500nmにおける透過率が80%以上であり、かつ、厚さ方向のリタデーションが200nm以下の第2のポリイミド層を得る観点から、好ましくは、
【化4】
のいずれかであるのがよい。最も好適には、下記式(4)で表されるポリイミドにより第2のポリイミド層が形成されるのがよい。
【化5】
【0030】
上記で説明したような各種ポリイミドは、ポリイミド前駆体(以下「ポリアミド酸」ともいう)をイミド化して得られるが、ポリアミド酸の樹脂溶液は、原料であるジアミンと酸二無水物とを実質的に等モル使用し、有機溶媒中で反応させることによって得ることができる。詳しくは、例えば、窒素気流下にN,N−ジメチルアセトアミド等の有機極性溶媒にジアミンを溶解させた後、テトラカルボン酸二無水物を加えて、室温で5時間程度反応させることにより得ることができる。ここで、塗工時の膜厚均一化や、得られるポリイミドの機械強度の観点から、ポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は1万から30万程度が好ましい。第1及び第2のポリイミド層の好適な分子量範囲もポリアミド酸と同じ分子量範囲である。
【0031】
そして、本発明における第1及び第2のポリイミド層は、好ましくは、それぞれポリイミド又はポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布・乾燥し、加熱処理する、いわゆるキャスト法により得られたものであるのがよい。すなわち、本発明のポリイミド積層構造体を得るにあたって、好適には、熱膨張係数が1〜10ppm/Kの支持体上に、ポリイミド又はポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布・乾燥し、加熱処理して熱膨張係数が−15〜4ppm/Kの第1のポリイミド層を形成した後、ポリイミド又はポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布・乾燥し、加熱処理して熱膨張係数が10〜80ppm/Kの第2のポリイミド層を形成する。その際、支持体上に第1のポリイミド層となる樹脂溶液を塗布し、加熱処理するに際して、十分な加熱処理でイミド化しておくことが、第2のポリイミド層の分離を容易にする上で望ましい。
【0032】
このようにして得られたポリイミド積層構造体は、第1のポリイミド層と第2のポリイミド層との界面で分離可能になるが、これらの界面での分離を容易にするには、好ましくは、第1又は第2のポリイミド層の少なくともいずれか一方が、ポリイミド構造中にフッ素原子を有した含フッ素ポリイミドから形成されるようにするのがよい。このような含フッ素ポリイミドを用いることで、第1のポリイミド層と第2のポリイミド層との剥離強度を好適には1〜200N/m、よい好適には1〜100N/mにすることができるため、例えば人の手で容易に剥離できる程度の分離性を備える。また、第1のポリイミド層と第2のポリイミド層との界面における第2のポリイミド層の分離面は、キャスト法によって得られる表面粗さ(一般に表面粗さRa=1〜80nm程度)がそのまま維持されるため、表示装置の視認性等に悪影響を及ぼすようなこともない。
【0033】
また、本発明のポリイミド積層構造体において、支持体の厚みは0.05〜1.0mm、好ましくは0.05〜0.7mmであるのがよく、第1のポリイミド層の厚みは1〜50μm、好ましくは5〜30μmであるのがよく、第2のポリイミド層の厚みは1〜30μm、好ましくは3〜20μmであるのがよい。これら各層の厚みは、積層構造体で発生する反りにも影響を及ぼすことから、上記範囲内になるようにするのがよい。ここで、本発明においては、異なる材料が積層された積層板について、以下のような考えのもと、反り変形(反り量)を計算により求めて、ポリイミド積層構造体の最適化を図ることができる。
【0034】
[中立面位置の計算]
先ず、
図1には積層板における中立面位置の計算方法を説明するための断面図が示されている。この
図1には、便宜上、積層板が2層からなるモデルを示しているが、以下の説明は、積層板が2層以上である場合の全般に当てはまる。ここで、積層板の層の数をn(nは2以上の整数)とする。また、この積層板を構成する各層のうち、紙面下方から数えてi番目(i=1,2,・・・,n)の層を第i番目と呼ぶ。
図1において、符号Bは、積層板の幅を表す。なお、ここでいう幅とは、第1層の下面に平行で、積層板の長手方向の寸法である。
【0035】
ここで、第1層の下面を基準面SPとする。以下、基準面SPが
図1おける下側に凸形状になるように積層板がカールする場合について考える。
図1において、符号NPは積層板の中立面を表している。ここで、中立面NPと基準面SPとの距離を中立面位置[NP]とする。中立面位置[NP]は、次の式(i)によって算出される。
【数1】
【0036】
ここで、E
iは、第i層を構成する材料の弾性率である。この弾性率E
iは、本実施の形態における「各層における応力とひずみの関係」を表す線図中の初期線形部分の傾きに対応する。B
iは、第i層の幅であり、
図1に示した幅Bに相当する。h
iは、第i層の中央面と基準面SPとの距離である。なお、第i層の中央面とは、第i層の厚み方向の中央に位置する仮想の面である。t
iは、第i層の厚みである。また、記号“Σ
i=1n”は、iが1からnまでの総和を表す。
【0037】
[等価曲げ剛性の計算]
積層板全体の曲げ剛性である等価曲げ剛性[BR]は、次の式(ii)によって算出される。
【数2】
【0038】
ここで、
図1に示したように、a
iは第i層の上面と中立面NPとの距離、b
iは第i層の下面と中立面NPとの距離である。また、式(ii)においてΣ
i=1nB
iE
i(a
i3−b
i3)/3は、B
iE
i(a
i3−b
i3)/3の値の、iが1からnまでの総和である。なお、式(ii)に関連するが、第i層に関して、B
i(a
i3−b
i3)/3は、一般に断面二次モーメントと呼ばれる断面の幾何学的な特性を表すパラメータである。この第i層の断面二次モーメントに第i層の弾性率E
iを掛けた値が第i層の曲げ剛性である。
【0039】
[曲げモーメントの計算]
次に、積層板の曲げ誘起モーメントMを計算する。反り変形モーメントの誘起因子としては、残留ひずみ変形、熱変形、湿度変形が考えられ、これらの変形により誘起される誘起モーメントMは、次の式(iii)によって算出される。
【数3】
【0040】
ここで、式(iii)において、Σ
i=1nE
i(ε
ri+α
iΔT
i+β
iΔH
i)(a
i2−b
i2)/2はE
i(ε
ri+α
iΔT
i+β
iΔH
i)(a
i2−b
i2)/2の値の、iが1からnまでの総和である。また、ε
riは第i層の残留ひずみであり、α
iは第i層の熱による線膨張係数、ΔT
iは第i層の温度変化量、β
iは第i層の湿膨張係数、ΔH
iは第i層の湿度変化量である。
【0041】
[曲率半径の計算]
次に、積層板の反り変形の際の曲率半径Rを計算する。曲げの基礎式より、曲率半径Rは次の式(iv)によって算出される。
【数4】
【0042】
ここで、誘起モーメントが負値の場合には逆側から曲率半径をとることとし、この状態を−Rと表す。誘起モーメントおよび曲率半径の正負の符号と反り変形の向きの関係は
図2に示す通りである。
【0043】
[反り量の計算]
次に、積層板の反り変形の際の反り量dを計算する。曲げ変形状態の幾何学的考察より、反り量dは次の式(v)によって算出される。ここで、式(v)におけるLは、反りを計測する有効長さである。
【数5】
【0044】
また、本発明のポリイミド積層構造体は、上述したように、第2のポリイミド層からなる樹脂基材上に表示部を備えた表示装置を得るのに好適に用いることができる。すなわち、ポリイミド積層構造体における第2のポリイミド層上に所定の表示部を形成した後、第1のポリイミド層と第2のポリイミド層との界面で分離すればよい。ここで、支持体は、第2のポリイミド層側に表示部を形成する際の台座の役割をするものであり、表示部の製造過程で樹脂基材(第2のポリイミド層)の取り扱い性や寸法安定性等を担保することはあっても、最終的には除去されて表示装置を構成するものではない。また、第1のポリイミド層についても同様に最終的に表示装置を構成するものではなく、仮に透明性に劣るものであっても何ら構わない。このようなポリイミド積層構造体を利用することにより、所定の表示部を第2のポリイミド層上に精度良くかつ確実に形成することができると共に、薄型・軽量・フレキシブル化を実現した表示装置を得ることができる。
【0045】
表示装置を構成する表示部については特に制限されない。例えば、有機EL表示装置の場合には、代表的には、TFT、電極、発光層を含む有機EL素子等が表示部に相当する。また、液晶表示装置の場合には、TFT、駆動回路、必要に応じてカラーフィルター等である。これらのほか、電子ペーパーやMEMSディスプレイ等のような各種表示装置を含めて、従来、ガラス基板上に形成している種々の機能層であって、所定の映像(動画又は画像)を映し出すのに必要な部品が表示部に相当する。このうち、例えば、TFTの形成には、一般に400℃程度のアニール工程が必要になるが、本発明におけるポリイミド積層構造体は、このようなアニール工程にも耐え得る耐熱性を有する。