特許第6411668号(P6411668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6411668インクジェット記録方法、及び、インクジェット記録装置
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  • 特許6411668-インクジェット記録方法、及び、インクジェット記録装置 図000017
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411668
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法、及び、インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20181015BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20181015BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   B41M5/00 100
   B41M5/00 120
   C09D11/38
   B41J2/01 129
   B41J2/01 501
   B41J2/01 305
   B41J2/01 125
【請求項の数】10
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-542943(P2017-542943)
(86)(22)【出願日】2016年6月30日
(86)【国際出願番号】JP2016069550
(87)【国際公開番号】WO2017056612
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2017年8月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-194070(P2015-194070)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幕田 俊之
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−218018(JP,A)
【文献】 特開平08−218016(JP,A)
【文献】 特開2004−098309(JP,A)
【文献】 特開2004−042466(JP,A)
【文献】 特開2015−048387(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/158209(WO,A1)
【文献】 特開2016−180072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 − 5/52
B41J 2/01 − 2/215
C09D 11/00 − 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインクを、インクジェットヘッドを用いて基材上に吐出する吐出工程、
吐出された前記インクにおける前記有機溶剤の少なくとも一部を除去して前記インクを乾燥させる乾燥工程、並びに、
乾燥された前記インクをエレクトロンビームによって硬化させる硬化工程をこの順に含み、
前記吐出工程における前記インクが、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物を含まないか、又は、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物の含有量が、前記インクの全質量に対し、0質量%を超え0.1質量%以下である
インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記エレクトロンビームの加速電圧が150kV以下であり、かつ、前記硬化工程における乾燥された前記インクのエレクトロンビームの吸収線量が30kGy以下である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が、カーボネート化合物を含む、請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記有機溶剤が、グリコールエーテル化合物、及び、カーボネート化合物を含む、請求項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記乾燥工程が、熱乾燥させる工程である、請求項1〜のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
インクジェットヘッド、乾燥手段及びエレクトロンビーム源を順に配置した基材搬送装置と、
有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインクとを備え、
前記インクが、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物を含まないか、又は、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物の含有量が、前記インクの全質量に対し、0質量%を超え0.1質量%以下である
インクジェット記録装置。
【請求項7】
前記エレクトロンビーム源におけるエレクトロンビームの加速電圧が150kV以下であり、かつ、乾燥された前記インクがエレクトロンビームの吸収線量30kGy以下で硬化可能である、請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記有機溶剤が、カーボネート化合物を含む、請求項6又は7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記有機溶剤が、グリコールエーテル化合物、及び、カーボネート化合物を含む、請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記乾燥手段が、熱乾燥器を有する、請求項のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、及び、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙などの基材に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型及び溶融型熱転写方式、インクジェット方式などがある。
インクジェット方式は、印刷装置が安価であり、かつ、印刷時に版を必要とせず、必要とされる画像部のみにインクを吐出し基材上に直接画像形成を行うため、インクを効率よく使用でき、特に小ロット生産の場合にランニングコストが安い。更に、騒音が少なく、画像記録方式として優れており、近年注目を浴びている。
中でも、紫外線などの放射線の照射により硬化可能なインクジェットインク(放射線硬化型インクジェット記録用インク組成物)は、紫外線などの放射線の照射によりインクの成分の大部分が硬化するため、溶剤系インクと比べて乾燥性に優れ、また、画像が滲みにくいことから、種々の基材に印字できる点で優れた方式である。
従来のインクとしては、特開平8−218018号公報、特開2001−311021号公報、又は、特表2013−502480号公報に記載のものが挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、インク組成物の浸み出しが少なく、アルコール耐性及び高温耐性に優れた印刷物を得ることができるインクジェット記録方法、及び、インクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は下記の<1>、又は、<8>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<7>及び<9>〜<14>と共に以下に記載する。
<1>有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインクを、インクジェットヘッドを用いて基材上に吐出する吐出工程、吐出された上記インクにおける上記有機溶剤の少なくとも一部を除去して上記インクを乾燥させる乾燥工程、並びに、乾燥された上記インクをエレクトロンビームによって硬化させる硬化工程をこの順に含むインクジェット記録方法、
<2>上記エレクトロンビームの加速電圧が150kV以下であり、かつ、上記硬化工程における乾燥された上記インクのエレクトロンビームの吸収線量が30kGy以下である、<1>に記載のインクジェット記録方法、
<3>上記エチレン性不飽和基を有するオリゴマーの含有量が、上記吐出工程における上記インク中のエチレン性不飽和化合物の全質量に対し、99質量%以上である、<1>又は<2>に記載のインクジェット記録方法、
<4>上記吐出工程における上記インクが、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物を含まないか、又は、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物の含有量が、上記インクの全質量に対し、0質量%を超え0.1質量%以下である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載のインクジェット記録方法、
<5>上記有機溶剤が、カーボネート化合物を含む、<1>〜<4>のいずれか1つに記載のインクジェット記録方法、
<6>上記有機溶剤が、グリコールエーテル化合物、及び、カーボネート化合物を含む、<5>に記載のインクジェット記録方法、
<7>上記乾燥工程が、熱乾燥させる工程である、<1>〜<6>のいずれか1つに記載のインクジェット記録方法、
<8>インクジェットヘッド、乾燥手段及びエレクトロンビーム源を順に配置した基材搬送装置と、有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインクとを備えるインクジェット記録装置、
<9>上記エレクトロンビーム源におけるエレクトロンビームの加速電圧が150kV以下であり、かつ、乾燥された上記インクがエレクトロンビームの吸収線量30kGy以下で硬化可能である、<8>に記載のインクジェット記録装置、
<10>上記エチレン性不飽和基を有するオリゴマーの含有量が、上記インク中のエチレン性不飽和化合物の全質量に対し、99質量%以上である、<8>又は<9>に記載のインクジェット記録装置、
<11>上記インクが、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物を含まないか、又は、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物の含有量が、上記インクの全質量に対し、0質量%を超え0.1質量%以下である、<8>〜<10>のいずれか1つに記載のインクジェット記録装置、
<12>上記有機溶剤が、カーボネート化合物を含む、<8>〜<11>のいずれか1つに記載のインクジェット記録装置、
<13>上記有機溶剤が、グリコールエーテル化合物、及び、カーボネート化合物を含む、<12>に記載のインクジェット記録装置、
<14>上記乾燥手段が、熱乾燥器を有する、<8>〜<13>のいずれか1つに記載のインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0005】
本発明の一実施形態によれば、インク組成物の浸み出しが少なく、アルコール耐性及び高温耐性に優れた印刷物を得ることができるインクジェット記録方法、及び、インクジェット記録装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の一実施形態に好適に用いられるインクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本開示において、数値範囲を表す「下限〜上限」の記載は、「下限以上、上限以下」を表し、「上限〜下限」の記載は、「上限以下、下限以上」を表す。すなわち、上限及び下限を含む数値範囲を表す。
更に、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
「(メタ)アクリレート」等は、「アクリレート及びメタクリレートのいずれか又はその両方」等と同義であり、以下同様とする。
また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0008】
(インクジェット記録方法)
本開示のインクジェット記録方法は、有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインクを、インクジェットヘッドを用いて基材上に吐出する吐出工程、吐出された上記インクにおける上記有機溶剤の少なくとも一部を除去して上記インクを乾燥させる乾燥工程、並びに、乾燥された上記インクをエレクトロンビームによって硬化させる硬化工程をこの順に含む。
【0009】
従来の放射線硬化型のインクジェット記録方法により得た印刷物は、硬化膜からインク組成物である未反応のモノマー、重合開始剤、重合開始剤残渣等が移動するという問題があり、特に、食品包装用等のパッケージ印刷に使用する場合には、パッケージ内包物に移行する量、いわゆるマイグレーション(浸み出し)量が多いという問題があった。また、硬化膜の臭気が強く、内包物や周囲の食品に臭いが移るという問題もあった。
これに対して、特開2008−68516号公報等に記載のように、硬化光源として発光ダイオード(LED)光源を用い低酸素濃度化で硬化させる方法が知られている。この場合、硬化後に残存する未反応のモノマーをほぼ無くすことができるが、重合開始剤、及び、重合開始剤の分解物はインク膜中に残存し、パッケージ内容物中に移行してしまうことを本開示者は見いだした。
一方、硬化型ではないインクでは、上記のような問題が起こる可能性は低いが、基材への定着性を確保することが難しい。定着性を確保するためにラテックスを含有させた水性インクが知られている。しかし、このようなラテックスのガラス転移温度(Tg)は低くする必要があり、レトルト食品用の基材に印刷した時には、レトルト食品製造過程におけるレトルト殺菌等の高温での煮沸によりインクが軟化し、画質の劣化が発生してしまうこと、また、殺菌を目的とするアルコールでの払拭でも画像が落ちてしまうことを本発明者は見いだした。
本発明者が詳細な検討を行った結果、有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインクを使用し、乾燥及びエレクトロンビームによる硬化を行うことにより、臭気及びインク組成物のマイグレーションが少なく、アルコール耐性及び高温耐性に優れた印刷物を得ることができることを本発明者は見いだした。
【0010】
<吐出工程>
本開示のインクジェット記録方法は、有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインクを、インクジェットヘッドを用いて基材上に吐出する吐出工程を含む。
本開示に用いるインクの詳細については、後述する。
【0011】
本開示のインクジェット記録方法に用いられる基材(記録媒体、支持体等)としては、特に制限なく、公知の基材を使用することができる。
これらの中でも、透明な基材であることが好ましい。
なお、本開示において「透明」とは、可視光線透過率が80%以上を意味するものとし、可視光線透過率が90%以上であることが好ましい。また、透明な基材は、透明であれば、着色していてもよいが、無色透明の基材であることが好ましい。
基材として具体的には、例えば、ガラス、石英、並びに、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、アクリル樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、及び、ポリビニルアセタール等)等が挙げられる。
また、透明な基材としては、これら樹脂が2種以上混合したものであってもよいし、また、これら樹脂が2層以上積層したものであってもよい。
【0012】
中でも、基材としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂よりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなる画像形成面を有する基材であることが好ましく、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなる画像形成面を有する基材であることがより好ましく、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなる基材であることが更に好ましい。
ポリエチレンとしては、LDPE(低密度ポリエチレン)、MDPE(中密度ポリエチレン)、又は、HDPE(高密度ポリエチレン)、ポリプロピレンとしては、CPP(無延伸ポリプロピレン)、OPP(二軸延伸ポリプロピレン)、KOP(ポリ塩化ビニリデンコートOPP)、又は、AOP(PVAコートOPP)、ポリエチレンテレフタラートとしては、二軸延伸ポリエステル、ナイロンとしては、ON(延伸ナイロン)、KON(延伸ナイロン)、又は、CN(無延伸ナイロン)が好ましく用いられる。
その他、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合フィルム)、PVA(ビニロン)、EVOH(ポリビニルアルコール)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン、サラン)、セロハン(PT、MST、Kセロ)、ZX(ゼクロン(ポリアクリロニトリル、PAN))、PS(ポリスチレン、スチロール)とポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂よりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂とを組み合わせた基材を用いることも好ましい。
用途により、基材は最適な素材が選択される。また、多層構造のフィルムとすることで、各素材の特徴が組み合わされたフィルムを基材として用いることもできる。
また、基材の強度向上、酸素遮断等の目的で、AL(アルミニウム箔)、及び、VMフィルム(アルミ蒸着フィルム、透明蒸着フィルム)等を多層構造に組み込むことも可能である。
また、近年、樹脂を、平行した2つ以上のスリットから共に押出し、成膜すると同時にラミネートまで行う、共押出しフィルムも好ましく使用される。フィルム状にできないような数μmという薄いものでも最大5〜7層まで積層可能なので、いろいろな性能及び用途のフィルムがつくられている。
【0013】
上記基材の厚さとしては、特に制限はないが、1〜500μmであることが好ましく、2〜200μmであることがより好ましく、5〜100μmであることが更に好ましく、10〜90μmであることが特に好ましい。
【0014】
吐出工程においては、インクジェットヘッドを用いて、インクを基材上に吐出する。
インクをインクジェット法により吐出する手段としては、インクジェットヘッドを用いることが好ましい。
インクジェットヘッドとしては、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、及び、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式のものが好適である。
【0015】
本開示のインクジェット記録方法に用いることができるインクジェット記録装置としては、特に制限はなく、エレクトロンビーム照射手段を有し、かつ目的とする解像度を達成し得る公知のインクジェット記録装置を任意に選択して使用することができる。
本開示のインクジェット記録方法に用いることができるインクジェット記録装置としては、後述する本開示のインクジェット記録装置を好適に用いることができる。
また、本開示のインクジェット記録方法は、シングルパス方式でインクの吐出を行うことが好ましい。
【0016】
本開示で用いることができるインクジェット記録装置としては、例えば、インク供給系、温度センサー、エレクトロンビーム源を含む装置が挙げられる。
インク供給系は、例えば、インクを含む元タンク、供給配管、インクジェットヘッド直前のインク供給タンク、フィルター、ピエゾ型のインクジェットヘッドからなる。ピエゾ型のインクジェットヘッドは、好ましくは1〜100pl、より好ましくは8〜30plのマルチサイズドットを、好ましくは320×320〜4,000×4,000dpi、より好ましくは400×400〜1,600×1,600dpi、更に好ましくは600×600〜1,200×1,200dpiの解像度で吐出できるよう駆動することができる。なお、本開示でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
【0017】
本開示のインクジェット記録方法に用いるインクとして、1種のみを使用する場合には、インクの単位面積当たりの総打滴量は、0.001〜10g/m2であることが好ましく、0.01〜9g/m2であることがより好ましく、0.5〜8g/m2であることが特に好ましい。
本開示のインクジェット記録方法に用いるインクとして、2種以上を使用する場合には、インクの単位面積当たりの総打滴量は、0.001〜10g/m2であることが好ましく、0.01〜9g/m2であることがより好ましく、0.5〜8g/m2であることが特に好ましい。
【0018】
吐出されるインクを一定温度にすることが好ましいことから、インクジェット記録装置は、インク温度の安定化手段を備えることが好ましい。一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。すなわち、インク供給タンクからインクジェットヘッド部分までは、断熱及び加温を行うことができる。
温度コントロールの方法としては、特に制約はないが、例えば、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。温度センサーは、インク供給タンク及びインクジェットヘッドのノズル付近に設けることができる。また、加熱するヘッドユニットは、装置本体が外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断若しくは断熱されていることが好ましい。加熱に要するプリンター立上げ時間を短縮するため、あるいは、熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うと共に、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0019】
吐出時におけるインクの温度はできるだけ一定に保つことが好ましい。よって、本開示において、インクの温度の制御幅は、好ましくは設定温度の±5℃、より好ましくは設定温度の±2℃、更に好ましくは設定温度±1℃とすることが適当である。
【0020】
また、本開示のインクジェット記録方法においては、インクを1種単独で使用しても、2種以上を使用してもよい。
本開示のインクジェット記録方法において使用するインクの少なくとも1種が、有機溶剤、活性光線硬化性オリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインクであればよいが、本開示のインクジェット記録方法において使用するインクの全てがいずれも、有機溶剤、活性光線硬化性オリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインクであることが好ましい。
例えば、カラー画像を形成する場合は、イエロー、シアン、マゼンタ及びブラックの各色インクを少なくとも使用することが好ましく、ホワイト、イエロー、シアン、マゼンタ及びブラックの各色インクを使用することがより好ましい。
また、ライトマゼンタやライトシアン等の淡色インク、オレンジ、グリーン及びバイオレット等の特色インク、メタリックインク等を使用してもよい。
また、本開示のインクジェット記録方法は、上記特定インク以外のインクとして、クリアインクを用いてもよい。
【0021】
本開示のインクジェット記録方法において、2種以上のインクを使用する場合、吐出する各インクの順番は、特に限定されるわけではないが、ブラックインクから基材に吐出することが好ましく、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックを使用する場合には、ブラック→シアン→マゼンタ→イエローの順で基材上に吐出することが好ましい。また、これにホワイトを加えて使用する場合にはブラック→シアン→マゼンタ→イエロー→ホワイトの順で基材上に吐出することが好ましい。更に、本開示はこれに限定されず、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、シアン、マゼンタ、ブラック、ホワイトのインクとの計7色が少なくとも含まれるインクセットを好ましく使用することもでき、その場合には、ブラック→シアン→マゼンタ→イエロー→ライトマゼンタ→ライトシアン→ホワイトの順で基材上に吐出することが好ましい。
【0022】
<乾燥工程>
本開示のインクジェット記録方法は、上記吐出工程において吐出されたインクにおける有機溶剤の少なくとも一部を除去して上記インクを乾燥させる乾燥工程を含む。
上記乾燥工程に用いる乾燥方法としては、インクにおける有機溶剤の少なくとも一部を除去可能であれば、特に制限はないが、熱乾燥、減圧乾燥、及び、気流による乾燥(風乾)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の方法が好ましく挙げられる。
中でも、上記乾燥工程においては、少なくとも熱乾燥を行うことが好ましい。
上記熱乾燥時の加熱温度は、使用する有機溶剤の沸点等にも依存するが、基材の表面温度が30℃〜90℃となることが好ましく、40℃〜80℃となることがより好ましく、50℃〜80℃となることが更に好ましい。
また、上記熱乾燥時の加熱時間は、インクの吐出量や使用する有機溶剤の沸点等にも依存するが、0.05〜10秒間であることが好ましく、0.1〜5秒間であることがより好ましく、0.1〜3秒間であることが更に好ましい。
上記熱乾燥に用いる加熱手段としては、特に制限はなく、ヒーター等の公知の熱乾燥器を用いることができる。
上記減圧乾燥時の気圧は、インクにおける有機溶剤の少なくとも一部を除去可能であれば、特に制限はない。
上記減圧乾燥に用いる減圧手段としては、特に制限はなく、真空ポンプ等の公知の減圧手段を用いることができる。
上記風乾に用いる送風手段としては、特に制限はなく、ファンや送風機等の公知の送風手段を用いることができる。
また、上記風乾においては、乾燥空気や乾燥窒素等の乾燥気体を送風してもよい。
本開示のインクジェット記録方法において、2種以上のインクを使用する場合、上記乾燥工程は、1種のインクの吐出毎に行っても、使用する全てのインクの吐出が終了した後に行ってもよいが、使用する全てのインクの吐出が終了した後に行うことが好ましい。
【0023】
<硬化工程>
本開示のインクジェット記録方法は、上記乾燥工程において乾燥されたインクをエレクトロンビームによって硬化させる硬化工程を含む。
本開示のインクジェット記録方法において、2種以上のインクを使用する場合、上記硬化工程は、1種のインクの吐出及び乾燥毎に行っても、使用する全てのインクの吐出及び乾燥が終了した後に行ってもよいが、使用する全てのインクの吐出及び乾燥が終了した後に行うことが好ましい。
なお、エレクトロンビームは、上記2種以上のインクを付与し積層している場合でも、最下層(基材に接するインク)まで届くものと考えられる。
【0024】
エレクトロンビーム(電子線)とは、電子の粒子線である。
上記硬化工程に用いるエレクトロンビーム露光手段としては、特に制限はなく、公知のエレクトロンビーム照射装置やエレクトロンビーム加速器を用いることができる。
エレクトロンビーム照射装置及びエレクトロンビーム加速器としては、スキャニング方式、ダブルスキャニング方式、又は、カーテンビーム方式が採用でき、好ましくは比較的安価で大出力が得られるカーテンビーム方式を採用できる。
【0025】
上記硬化工程におけるエレクトロンビームの加速電圧は、150kV以下であることが好ましく、30〜150kVであることがより好ましく、50〜130kVであることが更に好ましく、70〜110kVであることが特に好ましく、80〜110kVであることが最も好ましい。上記範囲であると、基材由来の低分子化合物の発生を抑制でき、また、得られる印刷物における臭気及びヘプタン抽出物がより少ない。
上記硬化工程におけるエレクトロンビームは、上記乾燥されたインクにおける吸収線量が30kGy以下となるように照射することが好ましく、5〜30kGyとなるように照射することがより好ましく、10〜30kGyとなるように照射することが特に好ましい。上記範囲であると、基材由来の低分子化合物の発生を抑制でき、得られる印刷物における臭気及びヘプタン抽出物がより少なく、また、エネルギーの効率に優れ経済的にも優れる。
硬化工程において、エレクトロンビームの照射は、1回のみ行っても、2回以上行ってもよいが、1回のみ行うことが好ましい。また、エレクトロンビームの照射を2回以上行う場合、照射するエレクトロンビームは、総吸収線量が、30kGy以下となるように照射することが好ましい。
エレクトロンビームの照射時間は、上記吸収線量を満たす範囲であれば、特に制限はない。
エレクトロンビームを照射する雰囲気は、特に制限はないが、酸素濃度を2体積%以下とすることが好ましく、酸素濃度を1体積%以下とすることがより好ましく、酸素濃度300ppm以下にすることが更に好ましい。上記範囲であると、硬化性、特に表面硬化性に優れる。また、上記酸素濃度の調整は、窒素パージにより行われることが好ましい。
【0026】
エレクトロンビーム照射装置、及び、その運転条件などについては、「UV・EB硬化技術」(1982年、(株)総合技術センター発行)や「低エネルギー電子線照射の応用技術」(2000年、(株)シーエムシー発行)などに記載されている公知のものを用いることができる。
【0027】
また、本開示のインクジェット記録方法における基材の搬送速度、すなわち、印刷速度は、5〜300m/minであることが好ましく、20〜200m/minであることがより好ましく、25〜100m/minであることが更に好ましく、25〜75m/minであることが特に好ましい。本開示のインクジェット記録方法によれば、上記のような高速印刷時においても、臭気及びヘプタン抽出物が少なく、アルコール耐性及び高温耐性に優れた印刷物を得ることができる。
【0028】
<ラミネート加工工程>
本開示のインクジェット記録方法は、上記硬化工程の後に、基材の硬化したインクを有する面上に接着層及びラミネートフィルムを少なくとも形成するラミネート加工工程を更に含むこともできる。
また、上記ラミネート加工工程は、基材の硬化したインクを有する面の全面に接着層及びラミネートフィルムを形成するラミネート加工工程であることがより好ましい。
ラミネート加工により、印刷物からのインク成分の溶出、ブロッキング、並びに、残留モノマーの揮発及び溶出をより抑制でき、特に食品パッケージ用として、好ましく使用できる。
接着層としては、特に制限はなく、公知の接着剤を、公知の方法により塗布して形成することが可能である。
ラミネートフィルムとしては、樹脂フィルムが好適に用いられ、ポリエチレンテレフタラートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、及び、トリアセチルセルロースフィルムが例示できる。また、それらのフィルムは2軸延伸されていてもよい。
ラミネート加工工程においては、接着層を画像上に形成した後にラミネートフィルムを貼り合わせても、先にラミネートフィルムに接着層を付与した後に画像上に貼り合わせてもよい。
ラミネート加工の方法としては、特に制限なく公知の方法が使用できるが、ドライラミネ−ションが例示できる。
基材に樹脂フィルムを用いた場合、選択するラミネート加工の方法にもよるが、基材のラミネート加工が行われる面に使用されている樹脂フィルムと接着性が高い樹脂フィルムを使用することが好ましい。
【0029】
<表面処理工程>
本開示のインクジェット記録方法は、上記吐出工程の前に、基材の少なくとも1方の面を表面処理する表面処理工程を更に含むことが好ましい。
上記表面処理工程における表面処理としては、特に制限はなく、所望に応じて、公知の表面処理を行うことができるが、親水化処理が好ましく、コロナ処理がより好ましく挙げられる。
基材の表面を親水化処理、特にコロナ処理することにより、基材とインクとの密着性、及び、画質が向上する。
本開示のインクジェット記録方法における基材の表面処理は、事前に表面処理された基材を使用してもよいが、表面処理手段を備えたインクジェット記録装置を使用してもよいが、表面処理手段を備えたインクジェット記録装置を使用することが好ましい。
【0030】
本開示のインクジェット記録方法は、上述した以外の他の工程を含んでいてもよい。
他の工程としては、特に制限はなく、公知の工程を含むことができる。
【0031】
<インク>
本開示のインクジェット記録方法は、有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインク(以下、「特定インク」ともいう。)を少なくとも用いる。本開示において、特定インクは、実質的に重合開始剤を含まないことが好ましい。
本開示のインクジェット記録方法は、特定インクを少なくとも1種用いればよいが、用いる全てのインクが特定インクであることが好ましい。
本開示に用いられる特定インクは、エレクトロンビームにより硬化可能な溶剤インクである。
上記特定インクは、重合開始剤を含まないか、又は、重合開始剤の含有量が、特定インクの全質量に対して、0質量%を超え0.1質量%以下であり、重合開始剤を含まないか、又は、重合開始剤の含有量が、特定インクの全質量に対して、0質量%を超え0.05質量%以下であることが好ましく、重合開始剤を含まないことが特に好ましい。上記態様であると、臭気及びインク組成物のマイグレーションが少ない印刷物を得ることができる。
上記特定インクは、水をできるだけ含有しないことが好ましい。
【0032】
また、上記特定インクは、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物を含まないか、又は、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物の含有量が、特定インクの全質量に対し、0質量%を超え0.1質量%以下であることが好ましい。すなわち、特定インクは、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物を実質的に含まないことが好ましく、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物を含まないか、又は、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物の含有量が、特定インクの全質量に対して、0質量%を超え0.05質量%以下であることがより好ましく、分子量1,000未満のエチレン性不飽和化合物を含まないことが特に好ましい。上記態様であると、臭気及びインク組成物のマイグレーションが少ない印刷物を得ることができる。
【0033】
また、上記特定インクは、水を含まないか、又は、水の含有量が、特定インクの全質量に対して、0質量%を超え5質量%以下であることが好ましく、水を含まないか、又は、水の含有量が、特定インクの全質量に対して、0質量%を超え1質量%以下であることがより好ましく、水を含まないか、又は、水の含有量が、特定インクの全質量に対して、0質量%を超え0.1質量%以下であることが更に好ましい。
【0034】
<有機溶剤>
上記特定インクは、有機溶剤を含む。
上記有機溶剤としては、特に制限はないが、低毒性であることが好ましく、また、匂いの少ない溶剤であることが好ましい。また、米国環境保護庁又は欧州理事会によってVOC(Volatile Organic Compounds、揮発性有機化合物)規制免除対象になっている溶剤も好ましい。
また、上記有機溶剤の分子量は、1,000未満であることが好ましく、500以下であることがより好ましく、50〜500であることが更に好ましく、100〜300であることが特に好ましい。
【0035】
上記有機溶剤としては、グリコールエーテル化合物、カーボネート化合物、及び、ラクトン化合物、並びに、これらの混合物が好ましく挙げられ、グリコールエーテル化合物、及び、カーボネート化合物、並びに、これらの混合物がより好ましく挙げられ、グリコールエーテル化合物及びカーボネート化合物の混合物が特に好ましく挙げられる。上記態様であると、臭気及びインク組成物のマイグレーションが少なくアルコール耐性及び高温耐性により優れた印刷物を得ることができる。
また、ポリ塩化ビニル基材との密着性の観点から、上記有機溶剤は、ラクトン化合物を少なくとも含むことが好ましい。
【0036】
グリコールエーテル化合物として、具体的には例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、及び、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ジアルキレングリコールジアルキルエーテル化合物が好ましく、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、及び、ジエチレングリコールジエチルエーテルがより好ましく、ジエチレングリコールジエチルエーテルが特に好ましい。
カーボネート化合物として、具体的には例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジメチル、及び、炭酸ジフェニル等が挙げられる。これらの中でも、プロピレンカーボネート、及び、エチレンカーボネートよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましく、プロピレンカーボネートが特に好ましい。
ラクトン化合物として、具体的には例えば、γ−ブチロラクトン、及び、δ−バレロラクトン等が挙げられる。中でも、γ−ブチロラクトンが好ましい。
【0037】
また、上記有機溶剤としては、二塩基性エステル化合物を好ましく挙げられる。
二塩基性エステル化合物としては、下記式S1で表される化合物が好ましく挙げられる。
【0038】
【化1】
【0039】
式S1中、Aは−(CH1〜6−を表し、RS1及びRS2はそれぞれ独立に、1〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル基を表す。
S1及びRS2はそれぞれ独立に、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0040】
上記有機溶剤は、1種単独で含有していても、2種以上を含有していてもよい。
上記特定インクにおける上記有機溶剤の含有量は、特定インクの全質量に対し、10〜95質量%であることが好ましく、50〜92質量%であることがより好ましく、65〜90質量%であることが更に好ましく、70〜85質量%であることが特に好ましい。
【0041】
<エチレン性不飽和基を有するオリゴマー>
上記特定インクは、エチレン性不飽和基を有するオリゴマーを含む。
なお、本開示におけるオリゴマーは、重量平均分子量(Mw)が1,000以上10,000未満の化合物である。
また、上記エチレン性不飽和基を有するオリゴマーは、分子量1,000以上であることが好ましい。
上記エチレン性不飽和基を有するオリゴマーにおけるエチレン性不飽和基としては、特に制限はないが、(メタ)アクリロキシ基が好ましい。
上記エチレン性不飽和基を有するオリゴマーにおけるエチレン性不飽和基の数は、特に制限はないが、2〜100であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、3〜6であることが更に好ましい。
【0042】
エチレン性不飽和基を有するオリゴマーとしては、エチレン性不飽和基を有していればいかなるオリゴマーでもよいが、ウレタンアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、及び、エポキシアクリレートオリゴマーよりなる群から選ばれた化合物が好ましく、ウレタンアクリレートオリゴマー、及び、エポキシアクリレートオリゴマーよりなる群から選ばれた化合物がより好ましく、ウレタンアクリレートオリゴマーが特に好ましい。
なお、本開示における「アクリレートオリゴマー」は、アクリロキシ基だけでなく、メタクリロキシ基を有するものも含まれる。
ウレタンアクリレートオリゴマーとしては、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー、及び、芳香族ウレタンアクリレートオリゴマーが好ましく挙げられ、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーがより好ましく挙げられる。
ウレタンアクリレートを含有することにより、基材への密着性に優れるインクが得られ、また、アルコール耐性及び高温耐性により優れた印刷物を得ることができる。
また、ウレタンアクリレートオリゴマーは、2〜6官能のウレタンアクリレートオリゴマーであることが好ましく、3〜6官能のウレタンアクリレートオリゴマーであることがより好ましい。
エポキシアクリレートオリゴマーとしては、ビスフェノールAエポキシアクリレートオリゴマー、及び、エポキシノボラックアクリレートオリゴマーが好ましく挙げられる。
オリゴマーについて、オリゴマーハンドブック(古川淳二監修、(株)化学工業日報社)も参照することができる。
【0043】
また、エチレン性不飽和基を有するオリゴマーの市販品としては、以下に示すものが例示できる。
ウレタンアクリレートとしては、例えば、日本合成化学(株)製紫光シリーズ、第一工業製薬(株)製のR1204、R1211、R1213、R1217、R1218、R1301、R1302、R1303、R1304、R1306、R1308、R1901、R1150等や、ダイセル・サイテック(株)製のEBECRYLシリーズ(例えば、EBECRYL210、230、270、4858、8402、8804、8807、8803、9260、1290、1290K、5129、4842、8210、210、4827、6700、4450、220)、新中村化学工業(株)製のNKオリゴU−15HA、U−33H、U−53H、U−200PA等、東亞合成(株)製のアロニックスM−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−1960、Sartomer社製のCN964 A85等が挙げられる。
ポリエステルアクリレートとしては、例えば、ダイセル・サイテック(株)製のEBECRYLシリーズ(例えば、EBECRYL770、IRR467、81、84、83、80、675、800、810、812、1657、1810、IRR302、450、670、830、870、1830、1870、2870、IRR267、813、IRR483、811等)、東亞合成(株)製のアロニックスM−6100、M−6200、M−6250、M−6500、M−7100、M−8030、M−8060、M−8100、M−8530、M−8560、M−9050等が挙げられる。
また、エポキシアクリレートとしては、例えば、Polymer Technologies社のUVE2500−TP20、ダイセル・サイテック(株)製のEBECRYLシリーズ(例えば、EBECRYL860、2958、3411、3600、3605、3708、RDX63182、6040等)等が挙げられる。
【0044】
エチレン性不飽和基を有するオリゴマーは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
上記特定インクにおけるエチレン性不飽和基を有するオリゴマーの含有量は、特定インクの全質量に対して、1〜50質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましく、5〜25質量%であることが更に好ましい。
また、上記特定インクにおけるエチレン性不飽和基を有するオリゴマーの含有量は、特定インクの全固形分に対して、10〜98質量%であることが好ましく、30〜95質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることが特に好ましい。
なお、特定インクにおける全固形分とは、上記有機溶剤及び水を除いた量である。
また、上記特定インクにおけるエチレン性不飽和基を有するオリゴマーの含有量は、特定インク中のエチレン性不飽和化合物(エチレン性不飽和基を有する化合物)の全質量に対し、99質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以上であることがより好ましく、99.9質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0045】
<顔料>
上記特定インクは、顔料を含む。
顔料としては、特に制限はなく、公知の顔料が挙げられる。
顔料は、エレクトロンビームによる硬化反応の感度を低下させないという観点から、重合禁止剤として機能しない化合物を選択することが好ましい。
本開示に使用できる顔料としては、特に限定されるわけではないが、例えば、カラーインデックスに記載される下記の番号の有機又は無機顔料が使用できる。
赤又はマゼンタ顔料としては、Pigment Red 3,5,19,22,31,38,42,43,48:1,48:2,48:3,48:4,48:5,49:1,53:1,57:1,57:2,57:3,58:4,63:1,81,81:1,81:2,81:3,81:4,88,104,108,112,122,123,144,146,149,166,168,169,170,177,178,179,184,185,202,208,216,226,257、Pigment Violet 3,19,23,29,30,37,50,88、Pigment Orange 13,16,20,36、青又はシアン顔料としては、Pigment Blue 1,15,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,16,17−1,22,27,28,29,36,60、緑顔料としては、Pigment Green 7,26,36,50、黄顔料としては、Pigment Yellow 1,3,12,13,14,17,34,35,37,55,74,81,83,93,94,95,97,108,109,110,120,137,138,139,153,154,155,157,166,167,168,180,185,193、黒顔料としては、Pigment Black 7,28,26、白色顔料としては、Pigment White 6,18,21などが目的に応じて使用できる。
【0046】
顔料は、特定インクに添加された後、適度に上記インク内で分散することが好ましい。顔料の分散には、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等の各分散装置を用いることができる。
【0047】
顔料は、特定インクの調製に際して、各成分と共に直接添加してもよい。また、分散性向上のため、予め溶剤又は本開示に使用する重合性化合物のような分散媒体に添加し、均一分散あるいは溶解させた後、配合することもできる。
本開示において、溶剤が硬化画像に残留する場合の耐溶剤性の劣化、及び、残留する溶剤のVOCの問題を避けるためにも、顔料は、上記有機溶剤や上記エチレン性不飽和基を有するオリゴマーのような分散媒体に予め添加して、配合することが好ましい。顔料は、特定インクの使用目的に応じて、1種又は2種以上を適宜選択して用いればよい。
【0048】
なお、特定インク中において固体のまま存在する顔料などの顔料を使用する際には、顔料粒子の平均粒径は、好ましくは0.005〜0.5μm、より好ましくは0.01〜0.45μm、更に好ましくは0.015〜0.4μmとなるよう、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を設定することが好ましい。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、透明性及び硬化感度を維持することができるので好ましい。
特定インク中における着色剤の含有量は、色、及び、使用目的により適宜選択されるが、特定インクの全質量に対し、0.01〜30質量%であることが好ましい。
【0049】
<分散剤>
本開示において、特定インクは、分散剤を含むことが好ましい。
分散剤としては、高分子分散剤が好ましい。なお、本開示における「高分子分散剤」とは、重量平均分子量が1,000以上の分散剤を意味する。
なお、上記分散剤は、エチレン性不飽和基を有しない化合物であることが好ましい。
【0050】
高分子分散剤としては、Disperbyk−101、Disperbyk−102、Disperbyk−103、Disperbyk−106、Disperbyk−111、Disperbyk−161、Disperbyk−162、Disperbyk−163、Disperbyk−164、Disperbyk−166、Disperbyk−167、Disperbyk−168、Disperbyk−170、Disperbyk−171、Disperbyk−174、Disperbyk−182(BYKケミー社製);EFKA4010、EFKA4046、EFKA4080、EFKA5010、EFKA5207、EFKA5244、EFKA6745、EFKA6750、EFKA7414、EFKA745、EFKA7462、EFKA7500、EFKA7570、EFKA7575、EFKA7580、EFKA7701、EFKA7731(エフカアディティブ社製);ディスパースエイド6、ディスパースエイド8、ディスパースエイド15、ディスパースエイド9100(サンノプコ(株)製);ソルスパース(Solsperse)3000、5000、9000、12000、13240、13940、17000、22000、24000、26000、28000、32000、36000、39000、41000、71000などの各種ソルスパース分散剤(Noveon社製);アデカプルロニックL31、F38、L42、L44、L61、L64、F68、L72、P95、F77、P84、F87、P94、L101、P103、F108、L121、P−123((株)ADEKA製)、イオネットS−20(三洋化成工業(株)製);ディスパロン KS−860、873SN、874(高分子分散剤)、#2150(脂肪族多価カルボン酸)、#7004(ポリエーテルエステル型)(楠本化成(株)製)が挙げられる。
【0051】
分散剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
分散剤の含有量は、使用目的により適宜選択されるが、特定インクの全質量に対し、0.05〜15質量%であることが好ましい。
【0052】
<界面活性剤>
上記特定インクは、長時間安定した吐出性を付与するため、界面活性剤を含んでいてもよい。
界面活性剤としては、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載されたものが挙げられる。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。また、上記界面活性剤としてフッ素系界面活性剤(例えば、有機フルオロ化合物等)やシリコーン系界面活性剤(例えば、ポリシロキサン化合物等)を用いてもよい。上記有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。上記有機フルオロ化合物としては、例えば、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例、四フッ化エチレン樹脂)が含まれ、特公昭57−9053号(第8〜17欄)、特開昭62−135826号の各公報に記載されたものが挙げられる。
【0053】
上記ポリシロキサン化合物としては、ジメチルポリシロキサンのメチル基の一部に有機基を導入した変性ポリシロキサン化合物であることが好ましい。変性の例として、ポリエーテル変性、メチルスチレン変性、アルコール変性、アルキル変性、アラルキル変性、脂肪酸エステル変性、エポキシ変性、アミン変性、アミノ変性、及び、メルカプト変性などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらの変性の方法は組み合わせて用いられてもかまわない。また、中でもポリエーテル変性ポリシロキサン化合物がインクジェットにおける吐出安定性改良の観点で好ましい。
ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物の例としては、例えば、SILWET L−7604、SILWET L−7607N、SILWET FZ−2104、SILWET FZ−2161(日本ユニカー(株)製)、BYK306、BYK307、BYK331、BYK333、BYK347、BYK348等(BYK Chemie社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−6191、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(信越化学工業(株)製)、及び、Tegoglide 410(Evonik社製)が挙げられる。
これらの中でも、界面活性剤としてはシリコーン系界面活性剤が好ましく挙げられる。
【0054】
界面活性剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤の含有量は、使用目的により適宜選択されるが、特定インクの全質量に対し、0.0001〜5質量%であることが好ましく、0.001〜2質量%であることがより好ましい。
【0055】
<重合禁止剤>
上記特定インクは、保存性、及び、ヘッド詰まりの抑制という観点から、重合禁止剤を含んでいてもよい。
重合禁止剤としては、ニトロソ系重合禁止剤や、ヒンダードアミン系重合禁止剤、ヒンダードフェノール系重合禁止剤、ハイドロキノン、ベンゾキノン、p−メトキシフェノール、TEMPO、TEMPOL、及び、クペロンAl等が挙げられる。
重合禁止剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
重合禁止剤の含有量は、特定インクの全質量に対し、0.001〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1質量%であることがより好ましく、0.02〜0.8質量%であることが特に好ましい。
【0056】
<その他の成分>
上記特定インクは、必要に応じて、上記各成分以外に、紫外線吸収剤、酸化防止剤、褪色防止剤、導電性塩類、塩基性化合物等を含んでもよい。これらその他の成分としては、公知のものを用いることができ、例えば、特開2009−221416号公報に記載されているものが挙げられる。
また、上記特定インクは、有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料、並びに、任意に、分散剤、界面活性剤、及び、重合禁止剤の総合計量が99質量%以上であるインクであることが好ましく、有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料、並びに、任意に、分散剤、界面活性剤、及び、重合禁止剤からなるインクであることがより好ましい。
【0057】
<特定インクの物性>
本開示においては、吐出性を考慮し、25℃における粘度が40mPa・s以下である特定インクを使用することが好ましい。より好ましくは3〜30mPa・s、更に好ましくは5〜25mPa・sであり、特に好ましくは8〜15mPa・sである。また、吐出温度(好ましくは25〜80℃、より好ましくは25〜50℃)における粘度が、1〜15mPa・sであることが好ましく、5〜13mPa・sであることがより好ましい。特定インクは、粘度が上記範囲になるように適宜組成比を調整することが好ましい。室温(25℃)での粘度を高く設定することにより、多孔質な基材(記録媒体、支持体)を用いた場合でも、基材中への特定インクの浸透を回避し、臭気及びインク組成物のマイグレーションの低減が可能となる。更に特定インクの液滴着弾時のインク滲みを抑えることができ、その結果として画質が改善されるので好ましい。
なお、本開示における粘度は、E型粘度計(東機産業(株)製)を用いて測定される。
【0058】
(インクジェット記録装置)
本開示のインクジェット記録装置は、インクジェットヘッド、乾燥手段及びエレクトロンビーム源を順に配置した基材搬送装置と、有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインクとを備える。
本開示のインクジェット記録方法における上記インクは、上記特定インクと同義であり、好ましい態様も同様である。
また、本開示のインクジェット記録装置における好ましい態様は、上述した本開示のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の好ましい態様と同様である。
また、本開示のインクジェット記録装置は、シングルパス方式のインクジェット記録装置であることが好ましい。
【0059】
本開示のインクジェット記録装置における基材搬送装置には、基材の搬送方向上流から下流に向かって、インクジェットヘッド、乾燥手段、エレクトロンビーム源の順で配置されている。
インクジェットヘッド、乾燥手段、エレクトロンビーム源、及び、基材搬送装置としてはそれぞれ、公知のものを用いることができる。
上記エレクトロンビーム源におけるエレクトロンビームの加速電圧は、150kV以下であることが好ましく、30〜150kVであることがより好ましく、50〜130kVであることが更に好ましく、70〜110kVであることが特に好ましく、80〜110kVであることが最も好ましい。上記範囲であると、基材由来の低分子化合物の発生を抑制でき、また、得られる印刷物における臭気及びヘプタン抽出物がより少ない。
また、乾燥された上記インクがエレクトロンビームの吸収線量30kGy以下で硬化可能であることが好ましく、吸収線量5〜30kGyで硬化可能であることがより好ましく、吸収線量10〜30kGyで硬化可能であることが特に好ましい。上記範囲であると、基材由来の低分子化合物の発生を抑制でき、得られる印刷物における臭気及びヘプタン抽出物がより少なく、また、エネルギーの効率に優れ経済的にも優れる。
【0060】
本開示のインクジェット記録装置は、備える全てのインクがいずれも、有機溶剤、エチレン性不飽和基を有するオリゴマー、及び、顔料を含み、かつ、重合開始剤を含まないか又は重合開始剤の含有量が0質量%を超え0.1質量%以下であるインク(特定インク)であることが好ましい。
本開示のインクジェット記録装置は、基材表面を親水化する親水化処理機を有することが好ましく、コロナ処理機を有することがより好ましい。上記態様であると、親水化処理を行っていない基材を用いた場合であっても、得られる印刷物における基材とインクとの密着性、及び、画質が向上する。
また、本開示のインクジェット記録装置は、親水化処理機、インクジェットヘッド、乾燥手段及びエレクトロンビーム源を順に配置した基材搬送装置を備えることが好ましく、コロナ処理機、インクジェットヘッド、乾燥手段及びエレクトロンビーム源を順に配置した基材搬送装置を備えることがより好ましい。
また、本開示のインクジェット記録装置における乾燥手段は、熱乾燥器を少なくとも有することが好ましく、熱乾燥器であることがより好ましい。上記態様であると、乾燥性に優れるだけでなく、コストや省スペース性にも優れる。
本開示のインクジェット記録装置における基材搬送装置としては、ロールツーロール(Roll to Roll)方式の搬送装置であることが好ましい。
【0061】
図1は、本開示で好ましく使用されるインクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
図1に示すインクジェット記録装置10において、基材14の搬送手段である、送り出しローラー12及び巻き取りローラー24により張架された基材14は、送り出しローラー12から巻き取りローラー24へと搬送される。まず、コロナ処理機16により基材14の表面がコロナ処理される。続いて、各色のインクを吐出するインクジェットヘッド18K、18C、18M、18Yにて、各色のインク(K:ブラック、Y:イエロー、M:マゼンタ、C:シアン)が吐出され、インクジェットヘッド18Yのすぐ後に設置された乾燥手段である熱乾燥器20により、吐出されたブラック、イエロー、マゼンタ及びシアンインクから少なくとも一部の有機溶剤が除去され、乾燥される。最後に、エレクトロンビーム(EB)硬化装置22により、基材へエレクトロンビームが照射され、乾燥された上記インクが硬化される。
EB硬化装置22は、例えば、エレクトロンビーム源が不活性ガスブランケットに囲まれており、不活性ガス配管を介して不活性ガス発生装置に接続しており、不活性ガス発生装置を稼働させると、ブランケット内の空気は不活性ガスに置換される態様が好ましく挙げられる。不活性ガスは、窒素などを利用することができる。
【0062】
(印刷物)
本開示の印刷物は、本開示のインクジェット記録方法により形成された印刷物、又は、本開示のインクジェット記録装置を用いて形成された印刷物である。
また、本開示の印刷物は、本開示のインクジェット記録方法により形成された印刷物、又は、本開示のインクジェット記録装置を用いて形成された印刷物の上に、更に接着層、及び、ラミネートフィルムをこの順で有することが好ましい。
上記接着層及びラミネートフィルムは、上記ラミネート工程において説明した接着層、及び、ラミネートフィルムと同義であり、好ましい態様も同様である。
【実施例】
【0063】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の実施形態をより具体的に説明する。ただし、本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、以下の記載における「部」とは「質量部」を示し、「%」とは「質量%」を示すものとする。
また、本実施例におけるモル吸光係数は、特に断りのない限り、波長300nmの紫外線におけるモル吸光係数であり、上記方法にて測定した値である。
【0064】
本実施例で使用した素材は下記に示す通りである。
<顔料>
・IRGALITE BLUE GLVO(シアン顔料、BASFジャパン社製)
・CINQUASIA MAGENTA RT−355−D(マゼンタ顔料、BASFジャパン社製)
・NOVOPERM YELLOW H2G(イエロー顔料、クラリアント社製)
・SPECIAL BLACK 250(ブラック顔料、BASFジャパン社製)
・IRGALITE RED D3773(マゼンタ顔料、BASFジャパン社製)
・HELIOGEN BLUE D 7110 F(シアン顔料、BASFジャパン社製)
・SP BLACK 250 FLUFFY(ブラック顔料、オリオン社製)
【0065】
<分散剤>
・Disperbyk 168(ビックケミ社製)
・EFKA 7701(BASFジャパン(株)製)
・Solsperse 5000(ルブリゾール社製)
・Solsperse 32000(ルブリゾール社製)
【0066】
<有機溶剤>
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(東京化成工業(株)製)
・プロピレンカーボネート(東京化成工業(株)製)
・γ−ブチロラクトン(東京化成工業(株)製)
・エチレングリコールジブチルエーテル(東京化成工業(株)製)
・プロピレングリコールジエチルエーテル(東京化成工業(株)製)
【0067】
<活性光線硬化性オリゴマー>
・UVE2500−TP20:エポキシノボラックアクリレートオリゴマー(Polymer Technologies社製)
・Nippon Gohsei 7630B:6官能ウレタンアクリレート(日本合成化学(株)製紫光UV−7630B、Mw:2,200)
・EBECRYL230:脂肪族ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、Mw5,000)
・EBECRYL3708:変性エポキシアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、Mw:1,500)
・EBECRYL1870:ポリエステルアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、Mw:1,500)
・EBECRYL210:芳香族ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、Mw:1,500)
【0068】
<重合開始剤>
・Isopropyl thioxanthone:イソプロピルチオキサントン、Lambson社製SpeedCure ITX
・Irgacure 369:2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン(BASF社製)
・Irgacure 819:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド(BASF社製)
・Irgacure 2959:1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(BASF社製)
【0069】
<モノマー>
・NPGPODA:プロピレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、Sartomer社製SR9003
・SR341:3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート(Sartomer社製)
・SR344:ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート(Sartomer社製)
【0070】
<その他の添加剤>
・Tegoglide 410:ポリエーテルシロキサン共重合体(Evonik社製)
・BYK307:シリコーン系界面活性剤(BYK Chemie社製)
・UV12:重合禁止剤(Kromachem社製FLORSTAB UV−12)
・UV22:4−ベンジリデン−2,6−ジ−tert−ブチル−シクロヘキサ−2,5−ジエノン、重合禁止剤、Irgastab UV 22、BASF社製)
・VINYL CHLORIDE/VINYL ACETATE COPOLYMER(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、Sigma-Aldrich社製)
【0071】
<シアンミルベースAの調製>
IRGALITE BLUE GLVOを300質量部と、ジエチレングリコールジエチルエーテルを500質量部とDisperbyk 168を200質量部とを撹拌混合し、シアンミルベースAを得た。なお、シアンミルベースAの調製は、分散機モーターミルM50(アイガー社製)に入れて、直径0.65mmのジルコニアビーズを用い、周速9m/sで4時間分散を行った。
【0072】
<マゼンタミルベースB、イエローミルベースC、及び、ブラックミルベースDの調製>
表1に示す組成とした以外は、シアンミルベースAと同様にして、マゼンタミルベースB、イエローミルベースC、及び、ブラックミルベースDを調製した。
【0073】
【表1】
【0074】
(実施例1)
<インクの調製>
表2に示す割合で、各素材をミキサー(シルバーソン社製L4R)を用いて、室温(25℃)で4,000回転/分にて20分撹拌混合し、インクEx1〜8をそれぞれ調製した。表2に示す各成分の含有量の単位は、質量部である。
【0075】
【表2】
【0076】
上記インクを図1に示す装置でポリエチレンテレフタレート(PET)基材に描画し、乾燥後、エレクトロンビーム(EB)硬化装置 EZCure I(岩崎電気(株)製)を用い硬化させ、印刷物を得た。このとき印刷物まわりの酸素濃度が300ppm以下になるよう窒素パージをして行った。エレクトロンビームは、加速電圧は110kVとし、また、基材上のインクのエレクトロンビームの吸収線量が30kGyとなるように照射した。
インクジェットヘッドは、Sambaヘッド(富士フイルムダイマテックス社製、1200npi、最小液滴サイズ2plであり4階調の吐出量を有する(吐出量の階調 なし、小滴:2pl、中滴:7pl、大滴9pl)。)を用いた。
基材は、太閤ポリエステルフイルムFE2001(厚さ12μm、フタムラ化学(株)製)を用いた。基材の搬送速度は50m/minとした。
【0077】
<評価>
1.臭気
上記装置により、1,200dpi×1,200dpiで網点面積率100%の画像を描画し、乾燥後、硬化して描画サンプル(印刷物)を作成した。網点面積率100%部分では100%中滴を使用した。
得られた描画サンプルについて、20人で官能評価を行い、以下の基準で評価した。
1:全く臭気を感じない
2:ほとんど臭気を感じない
3:わずかに臭気を感じる
4:臭気を感じる
5:非常に臭気を感じる
【0078】
2.インク組成物のマイグレーション(抽出量)
臭気評価と同様の描画サンプルを作成した。
ヘプタン50ccで100cmの描画サンプルを抽出し、抽出物の合計量を測定した。抽出物の合計量による評価基準を以下に示す。
1:5ppb未満
2:5ppb以上10ppb未満
3:10ppb以上100ppb未満
4:100ppb以上1ppm未満
5:1ppm以上
【0079】
3.アルコール耐性
臭気評価と同様の描画サンプルを作成した。
100%エタノール液を綿棒につけ、得られた描画サンプルの表面を擦った。評価基準を以下に示す。
1:サンプルの色落ちが確認できない。綿棒にも色移りがない。
2:サンプルの色落ちが確認できない。綿棒に色移りがある。
3:サンプルの色落ちが確認できる。綿棒に色移りがある。
4:サンプルの色落ちが確認でき、基材面の露出が見られる。綿棒に色移りがある。
【0080】
4.高温耐性
臭気評価と同様の描画サンプルを作成した。
高圧(2気圧)下120℃の熱湯中で4分間煮沸を行った。評価基準を以下に示す。
1:全く変化が無い。煮沸直後に紙(C2紙、富士ゼロックス(株)製)を当てても色が全く移らない。
2:僅かに画像に滲みが発生するが気にならない。煮沸直後に紙(C2紙、富士ゼロックス(株)製)を当てても色が全く移らない。
3:滲みが発生する。煮沸直後に紙(C2紙、富士ゼロックス(株)製)を当てると色が移る。
【0081】
5.線品質
各色で0.05ptのラインを描画し、以下の観点で評価を行った。
1:30μm未満の太さで描画できる。線の太さが均一である。
2:線の太さが30μm以上である。線の太さが均一である。
3:線の太さが30μm以上であり、線の太さが不均一である。
【0082】
インクEx1〜4、又は、インクEx5〜8を使用し、上記評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
<吐出性>
また、上記インクEx1〜Ex8を用い、網点面積率100%で、2分間連続で印字したところ、初期から最後まで良好に印字できることが確認できた。
【0085】
(比較例1)
インクとして以下の表4に示すインクCE1〜4又はインクCE5〜8を用い、実施例1と同様に描画サンプルを作成し、評価した。評価結果を表5に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
<吐出性>
また、上記インクCE1〜CE8を用い、網点面積率100%で、2分間連続で印字したところ、初期から最後まで良好に印字できることが確認できた。
【0089】
(比較例2)
実施例1の光源であるEB硬化装置を、(株)ミヤコシ製MJP20Wで用いられている窒素パージLED光源(HOYA CANDEO OPTRONICS社製LED光源(385nm、4W)に窒素ガス発生装置2NT−8.2(コフロック(株)製)を接続し、基材と光源との間を5mmの間隔をもたせ、その間に窒素ガスを充填する光源ユニットとしているもの)に変更し、それ以外は実施例1と同様にサンプルを作成し、評価した。
このような方法では重合が進行せずサンプルに接触するとすぐに落ちてしまう状況であった。
【0090】
(実施例2)
以下の表6〜表9に示す組成で、インクEx9〜Ex36を、上記Ex1〜Ex8と同様の方法で作製した。
【0091】
【表6】
【0092】
【表7】
【0093】
【表8】
【0094】
【表9】
【0095】
作製したインクを以下の表10に示す組み合わせで実施例1と同様に評価したところ、実施例1と同様の結果を得た。
また、吐出性についても、網点面積率100%で、2分間連続で印字したところ、いずれのインクも初期から最後まで良好に印字できることが確認できた。
【0096】
【表10】
【0097】
(比較例3及び4)
下記表11に示す組成とした以外は、シアンミルベースA、マゼンタミルベースB、イエローミルベースC及びブラックミルベースDの作製と同様にして、以下の表11に示すシアンミルベースE、マゼンタミルベースF、イエローミルベースG及びブラックミルベースHを作製した。
【0098】
【表11】
【0099】
このミルベースを使用し、以下の表12の組成になるように比較例3の比較用モノマーインクCE9、CE10、CE11及びCE12を作製した。
【0100】
【表12】
【0101】
シアンミルベースA、マゼンタミルベースB、イエローミルベースC、ブラックミルベースDを用い、以下の比較例4の溶剤インクCE13、CE14、CE15及びCE16を作製した。
【0102】
【表13】
【0103】
作製したインクを以下の表14の組み合わせで使用し、実施例1と同様に評価した。ただし、溶剤インクCE13、CE14、CE15及びCE16を用いた比較例4では、露光はしなかった。
【0104】
【表14】
【0105】
*:比較例4の溶剤インクCE13、CE14、CE15及びCE16を用いた場合は、アルコール耐性及び高温耐性を発揮するまでに長時間を要し、実用上問題があった。
また、上記表14に示したように、モノマーを使用した場合には臭気、及び、抽出量が多く、極めて悪いことが分かる。また、溶剤インクは、基材上で着弾干渉が発生し、画質の劣化が見られる。
【0106】
2015年9月30日に出願された日本国特許出願2015−194070号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び、技術規格は、個々の文献、特許出願、及び、技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1