(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
カオス信号を生成する技術は、デバイスモデリング、金融デリバティブ計算、気象シミュレーション等の計算を行う計算器に用いられる乱数や、秘密鍵共有の暗号システムに用いられる乱数、あるいは量子暗号通信に用いられる乱数などを生成するために必須のものである。特に10Gb/sを越える高速なカオス信号を生成する、簡便かつ小型な高速カオス光信号生成光回路が求められている。
【0003】
図7は特許文献1に開示された従来の高速カオス光信号生成光回路の構成を説明するブロック図である。
図7の高速カオス光信号生成光回路は、マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1と、マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の後述する光出力ポートP−MZ−1−crossから出力されたRZ(Return to Zero)型クロック信号光を2系統に分波する光分波部SP−1と、光分波部SP−1で分波された2系統のRZ型クロック信号光がマッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1内の後述する光位相変調部R1,L1に到達するまでの光伝搬遅延差に相当する遅延を、光位相変調部R1,L1に入力される2系統のRZ型クロック信号光の内、光位相変調部R1,L1に到達するまでの光伝搬遅延が長い方のRZ型クロック信号光に付与する光伝搬遅延差付与部D−D−1とから構成される。
【0004】
マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1は、図示しないクロック信号光源から出力される、ピーク光パワーが一定のRZ型のクロック信号光を受ける光入力ポートP−MZ−1−1と、光入力ポートP−MZ−1−1に入力されたRZ型クロック信号光を伝送する2つの光干渉アームと、この2つの光干渉アームの端部に設けられた2つの光出力ポートP−MZ−1−cross,P−MZ−1−barと、光分波部SP−1で分波された2つの光信号をマッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の2つの光干渉アーム内の後述する光位相変調部R1,L1へ入力するための位相変調制御用の光入力ポートP−R1,P−L1と、2つの光干渉アームに1つずつ設けられ、光干渉アームにより伝送されるRZ型クロック信号光を、光入力ポートP−R1,P−L1から入力されるRZ型クロック信号光の光強度に応じて位相変調する光位相変調部R1,L1とから構成される。
【0005】
図7における100は一端が光入力ポートP−MZ−1−1に接続され他端が光位相変調部L1の入力に接続された光導波路、101は一端が光導波路100に近接して配置され他端が光位相変調部R1の入力に接続された光導波路、102は一端が光位相変調部L1の出力に接続され他端が光出力ポートP−MZ−1−barに接続された光導波路、103は一端が光位相変調部R1の出力に接続され他端が光出力ポートP−MZ−1−crossに接続され、一部が光導波路102と近接して配置された光導波路である。
【0006】
光導波路100,102がマッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の一方の光干渉アームを構成し、光導波路101,103がマッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の他方の光干渉アームを構成している。光導波路100と光導波路101との間では、光信号の漏洩が発生し、光導波路100に入力された光信号は光導波路101にも入力される。光導波路102と光導波路103との間では、相互に光信号の漏洩が発生する。
【0007】
また、104は一端が光出力ポートP−MZ−1−crossに接続され他端が光分波部SP−1の入力に接続された光導波路、105は一端が光分波部SP−1の第1の出力に接続され他端が光伝搬遅延差付与部D−D−1の入力に接続された光導波路、106は一端が光分波部SP−1の第2の出力に接続され他端が光入力ポートP−R1に接続された光導波路、109は一端が光伝搬遅延差付与部D−D−1の出力に接続され他端が光入力ポートP−L1に接続された光導波路である。
【0008】
光入力ポートP−MZ−1−1に入力されるクロック信号光の光パワー変化を
図8に示す。このように、図示しないクロック信号光源から光入力ポートP−MZ−1−1に入力されるクロック信号光は、ピーク光パワーが一定のRZ型の信号光である。
【0009】
標準的なマッハツェンダー干渉型光強度変調部においては、干渉器を構成する2つの光干渉アームを光が伝搬する際に位相差が生じない状態が変調駆動が行われていない状態であり、このとき入力側の光干渉アームに対して異なる側の光干渉アームの光出力ポートから光信号が100%出力される。また、2つの光干渉アームを光が伝搬する際に位相差がπとなる状態においては、光入力ポートと同じ側の光干渉アームの光出力ポートから光信号が100%出力される。
【0010】
したがって、
図7に示した高速カオス光信号生成光回路にクロック信号光が光入力ポートP−MZ−1−1から入力される場合、最初のクロック光パルスp0は、光入力ポートP−MZ−1−1と異なる側の光干渉アームの光出力ポートP−MZ−1−crossから100%出力され、光分波部SP−1によりクロック光パルスp0−1,p0−2の2つに分波され、引き続き光伝搬遅延差付与部D−D−1により遅延を付与された後、それぞれ光入力ポートP−R1,P−L1から光位相変調部R1,L1へと入力される。
【0011】
図9(A)は光入力ポートP−MZ−1−1への入力クロック信号光の入力タイミングを示す図、
図9(B)は光位相変調部R1への入力信号光の入力タイミングを示す図、
図9(C)は光位相変調部L1への入力信号光の入力タイミングを示す図である。
図9(B)に示すように、光入力ポートP−MZ−1−1に入力されたクロック光パルスp0と次の時間ステップのクロック光パルスp1との間のタイミングで、光伝搬遅延差付与部D−D−1による光伝搬遅延が付与されていない方のクロック光パルスp0−1が光位相変調部R1に入力される。一方、
図9(C)に示すように、クロック光パルスp1と次の時間ステップのクロック光パルスp2との間のタイミングで、光伝搬遅延差付与部D−D−1による光伝搬遅延が付与された方のクロック光パルスp0−2が光位相変調部L1に入力される。
【0012】
光位相変調部R1においては、光入力ポートP−MZ−1−1から光導波路100,101を介してクロック光パルスp1が入力される直前に、光入力ポートP−R1からクロック光パルスp0−1が入力されると、このクロック光パルスp0−1の光強度に応じて屈折率が変化する。こうして、光位相変調部R1は、クロック光パルスp0−1の光強度に応じて、クロック光パルスp1の位相を変調する(相互位相変調)。
【0013】
一方、光位相変調部L1においては、光入力ポートP−MZ−1−1から光導波路100を介してクロック光パルスp1が入力された直後に、光入力ポートP−L1からクロック光パルスp0−2が入力されると、このクロック光パルスp0−2の光強度に応じて屈折率が変化する。こうして、光位相変調部L1は、クロック光パルスp0−2の光強度に応じて、クロック光パルスp2の位相を変調する(相互位相変調)。
【0014】
結果として、クロック光パルスp0−1が光位相変調部R1に入力されてから、クロック光パルスp0−2が光位相変調部L1に入力されるまでの間、マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の2つの光干渉アームで位相差が生じることとなり、光出力ポートP−MZ−1−crossから出力されるクロック光パルスp1の光出力強度が変調されることとなる。
【0015】
同様に、光入力ポートP−MZ−1−1に入力されたクロック光パルスp1と次の時間ステップのクロック光パルスp2との間のタイミングで、光分波部SP−1によって分波されたクロック光パルスp1−1,p1−2のうち光伝搬遅延差付与部D−D−1による光伝搬遅延が付与されていない方のクロック光パルスp1−1が光位相変調部R1に入力される。一方、クロック光パルスp2と次の時間ステップのクロック光パルスp3との間のタイミングで、光伝搬遅延差付与部D−D−1による光伝搬遅延が付与された方のクロック光パルスp1−2が光位相変調部L1に入力される。
【0016】
光位相変調部R1は、光入力ポートP−MZ−1−1から光導波路100,101を介してクロック光パルスp2が入力される直前に、クロック光パルスp1の分波光であるクロック光パルスp1−1が光入力ポートP−R1から入力されると、このクロック光パルスp1−1の光強度に応じて、クロック光パルスp2の位相を変調する。
【0017】
光位相変調部L1は、光入力ポートP−MZ−1−1から光導波路100を介してクロック光パルスp2が入力された直後に、クロック光パルスp1の分波光であるクロック光パルスp1−2が光入力ポートP−L1から入力されると、このクロック光パルスp1−2の光強度に応じて、クロック光パルスp3の位相を変調する。結果として、光出力ポートP−MZ−1−crossから出力されるクロック光パルスp2の光出力強度が変調されることとなる。
【0018】
以上のようにして、クロック光パルスp(t)(t=0,1,2,3,・・・・)と次の時間ステップのクロック光パルスp(t+1)との間のタイミングで、光出力ポートP−MZ−1−crossから出力され光分波部SP−1によって分波された一方のクロック光パルスp(t)が光位相変調部R1に入力され、クロック光パルスp(t+1)と次の時間ステップのクロック光パルスp(t+2)との間のタイミングで、光出力ポートP−MZ−1−crossから出力され光分波部SP−1によって分波された他方のクロック光パルスp(t)が光位相変調部L1に入力される。その結果、光出力ポートP−MZ−1−crossから出力されるクロック光パルスp(t+1)の光出力強度が変調される。こうして、クロック光パルスp1,p2,p3,・・・・の変調が連続して行われる。
【0019】
図10はマッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の光出力ポートP−MZ−1−crossから出力されるクロック光パルスの光強度を規格化した規格化光出力強度を示す図であり、光出力ポートP−MZ−1−crossから出力されたクロック光パルスが次の時間ステップのクロック光パルスに生じさせる位相変調の量が1.8261πである場合を示している。
【0020】
マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の光出力ポートP−MZ−1−crossから100%出力される状態にある条件下で、光出力ポートP−MZ−1−crossから出力されたクロック光パルスが次の時間ステップのクロック光パルスに生じさせる位相変調の量が十分且つ適当な大きさとなるように光位相変調部R1,L1を設定することにより、例えば
図10に示した場合のように光出力ポートP−MZ−1−crossから出力されるクロック光パルスの強度が時系列でカオス状態となり、同時に、光出力ポートP−MZ−1−barから出力されるクロック光パルスの強度も時系列でカオス状態となる。
【0021】
このように、従来の高速カオス光信号生成光回路は、高速なカオス信号の生成が可能であった。さらに従来の高速カオス光信号生成回路は、工学上必須となる再現性と制御性の実現のため、
図11の構成をとる。
【0022】
ここで、
図11は光位相変調部R1の構成例を示すブロック図である。光位相変調部R1は、マッハツェンダー干渉回路であり、マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の光干渉アーム(
図7の101)により伝送され光入力ポート1007に入力されたRZ型クロック信号光(以下、被位相変調信号光とする)と光分波部SP−1で分波され光入力ポート1008(
図7のP−R1)に入力されたRZ型クロック信号光(以下、位相変調制御信号光とする)とを合波して、合波した信号光を2系統に分波する光干渉型合分岐手段であるマルチモード干渉カプラ(MMI)b1と、マルチモード干渉カプラb1から出力される2つの信号光を伝送する2つの光導波路アームと、2つの光導波路アームにより伝送される2つの信号光を合波して、合波した信号光を2系統に分波する光干渉型合分岐手段であるマルチモード干渉カプラb2と、2つの光導波路アームに1つずつ設けられ、被位相変調信号光を位相変調制御信号光の光強度に応じて位相変調する光位相変調制御部c1,c2と、2つの光導波路アームの一方に設けられ、外部から供給される注入電流量に応じて、信号光の位相を調整することが可能な位相調整部d1と、マルチモード干渉カプラb2の一方の光出力ポートに接続された受光部f1とから構成される。
図11における1009は
図7に示した光導波路103と接続される光位相変調部R1の光出力ポートである。光位相変調部L1の構成も光位相変調部R1と同じである。
【0023】
位相調整部d1は、外部から供給される注入電流量に応じて、信号光の位相を調整することが可能である。光位相変調制御部c1から出力された信号光の位相を位相調整部d1で調整することにより、被位相変調信号光がマルチモード干渉カプラb2の第2の光出力ポート(光導波路1019と接続された光出力ポート)から選択的に出力され、位相変調制御信号光がマルチモード干渉カプラb2の第1の光出力ポート(光導波路1018と接続された光出力ポート)から選択的に出力されるように、2つの光導波路アーム間の位相差を製造後に調整することができる。その結果、光位相変調部R1,L1における十分な光位相変調を実現することができる。
【0024】
調整のためには光出力ポートP−MZ−1−crossからの光出力パワーを測定評価すると共に、光位相変調部R1の受光部f1で検出された光出力パワーを評価することで、被位相変調信号光が光位相変調部R1のマルチモード干渉カプラb2の第2の光出力ポートから選択的に出力され、位相変調制御信号光が光位相変調部R1のマルチモード干渉カプラb2の第1の光出力ポートから選択的に出力されるように、光位相変調部R1の位相調整部d1を調整することができる。
このように調整することで、従来の高速カオス光信号生成回路は、工学上必須となる再現性と制御性の実現が可能であった。
【0025】
また、光信号に遅延を付与して出力する、高速な光信号バッファメモリ回路も、光プロセッシング並びに光コンピュータで重要な技術である。
図12は特許文献2に開示された従来の光信号バッファメモリ回路の構成を説明するブロック図、
図13は光信号バッファメモリ回路における各種光信号列のタイミングチャートである。
【0026】
図12に示す光信号バッファメモリ回路において、P−OCLK−Inは、
図13の「OC source」に示されるようなクロック信号光CLK−1の外部光入力ポートである。クロック信号光CLK−1は、クロック信号光源から出力されるクロック光パルスであって、ピーク光パワーが一定のRZ型のクロック信号光である。
【0027】
P−Data−Inは、
図13の「OD source」に示されるような光信号列Data−1の外部光入力ポートである。光信号列Data−1は、光信号バッファメモリ回路へ格納する目的で入力されるデータ用光信号列である。
【0028】
P−FF−Inは、
図13の「F.F.cntl.」に示されるような光信号列FF−1の外部光入力ポートである。光信号列FF−1は、光信号バッファメモリ回路へ格納されたデータ用光信号列の情報のマーク(1)とスペース(0)をすべて反転させる、いわゆる、フリップフロップ操作を行う際に入力されるフリップフロップ制御用光信号列である。
【0029】
P−ERS−Inは、
図13の「ERS cntl.」に示されるような光信号列ERS−1の外部光入力ポートである。光信号列ERS−1は、光信号バッファメモリ回路へ格納された情報をリセットさせる際に入力される消去制御用光信号列である。
【0030】
C−2は、光入力ポートP−C2−1,P−C2−2と光出力ポートP−C2−3,P−C2−4とを有し、外部光入力ポートP−Data−Inから光導波路16を介して光入力ポートP−C2−1へ入力された入力光信号列Data−1と外部光入力ポートP−ERS−Inから光導波路17を介して光入力ポートP−C2−2へ入力された入力光信号列ERS−1とを同一の光出力ポートP−C2−4から出力し、後段の2×2光分岐部C−1の一方の光入力ポートP−C1−1へと導く光導波路18へ結合させるための2×1光合波部である。
【0031】
また、R1−1,R1−2,L1−1,L1−2は、外部光入力ポートP−OCLK−Inからマッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1に入力され、マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の左右2つの光干渉アーム(光導波路11R,12R,13Rによって構成される光干渉アームと光導波路11L,12L,13Lによって構成される光干渉アーム)を伝搬するクロック光信号列の位相を変調する光位相変調部である。
【0032】
光位相変調部R1−1,R1−2,L1−1,L1−2は2つの方向性結合器の間に配置されており、具体的には、光位相変調部R1−1は光導波路11Rと光導波路12Rとの間に、光位相変調部R1−2は光導波路12Rと光導波路13Rとの間に、光位相変調部L1−1は光導波路11Lと光導波路12Lとの間に、光位相変調部L1−2は光導波路12Lと光導波路13Lとの間に配置されている。つまり、光位相変調部R1−2は光位相変調部R1−1の後段側に、光位相変調部L1−2は光位相変調部L1−1の後段側に位置している。
【0033】
また、C−1は、光入力ポートP−C1−1,P−C1−2と光出力ポートP−C1−3,P−C1−4とを有し、光合波部C−2の光出力ポートP−C2−4からの光信号列を、光導波路18を介して、光入力ポートP−C1−1から入力させるとともに分岐させて、光出力ポートP−C1−3とP−C1−4とから出力させ、又、マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の光出力ポートP−MZ−1−barからの光信号列を、光導波路14を介して、光入力ポートP−C1−2から入力させるとともに分岐させて、光出力ポートP−C1−3とP−C1−4とから出力させるための光分岐部である。
【0034】
P−R1−1,P−L1−1は、光分岐部C−1の光出力ポートP−C1−4,P−C1−3から出力される光信号列を、光導波路15R,15Lを介してマッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の2つの光干渉アーム内の光位相変調部R1−1,L1−1へ入力するための光入力ポートである。
【0035】
C−3は、光入力ポートP−C3−1,P−C3−2と光出力ポートP−C3−3,P−C3−4とを有し、外部光入力ポートP−FF−Inから光導波路21を介して入力された光信号列を分岐させ、光出力ポートP−C3−3ならびにP−C3−4から出力させるための光分岐部である。
【0036】
P−R1−2,P−L1−2は、光分岐部C−3の光出力ポートP−C3−4,P−C3−4から出力される光信号列を、光導波路22R,22Lを介してマッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の2つの光干渉アーム内の光位相変調部R1−2,L1−2へ入力するための光入力ポートである。
【0037】
D−D−1は、光分岐部C−1で分岐され、光出力ポートP−C1−3ならびにP−C1−4から出力される2つの光信号列にそれぞれ光位相変調部R1−1,L1−1に到達するまでの光伝搬遅延差を「クロック光信号CLK−1のパルス幅以上かつパルス繰り返し周期未満」となるように付与するための光伝搬遅延差付与部であり、ここでは、光伝搬遅延差を生じる光路長の光導波路部を光導波路15Lに配置している。
【0038】
D−D−2は、光分岐部C−3で分岐され光出力ポートP−C3−3ならびにP−C3−4から出力される2つの光信号列にそれぞれ光位相変調部R1−2,L1−2に到達するまでの光伝搬遅延差を『クロック光信号CLK−1のパルス幅以上かつパルス繰り返し周期未満』となるように付与するための光伝搬遅延差付与部であり、ここでは、光伝搬遅延差を生じる光路長の光導波路部を光導波路22Lに配置している。
【0039】
次に、光信号バッファメモリ回路における動作、具体的には、データ保持(バファリング)の動作について
図12を参照して説明する。
光信号バッファメモリ回路にクロック信号光CLK−1が外部光入力ポートP−OCLK−Inから入力される場合、クロック光信号CLK−1は100%光出力ポートP−MZ−1−crossから出力され、光出力ポートP−MZ−1−barからは何らの光出力も得られない状態(光信号バッファメモリ回路が何ら情報を保持していない空の状態:初期状態)となる。
【0040】
このとき、
図13の「OD source」に示されるように、クロック信号光CLK−1と同期している光信号列Data−1が外部光入力ポートP−Data−Inから入力されると、光位相変調部R1−1ならびにL1−1が駆動される。光位相変調部R1−1,L1−1は、マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の2つの光干渉アーム中を伝搬している第1のクロック光信号列(クロック信号光CLK−1)の位相を、光信号列Data−1に応じてπ変調して、第1のクロック光信号列の各パルスのオン又はオフを行う。
【0041】
このような動作により、光信号列Data−1のMark(1)となっている位置のパルスに対応した第1のクロック光信号列のクロックパルスのみにπ位相変調が付与され、光信号列Data−1のSpace(0)となっている位置のパルスに対応した第1のクロック光信号列のクロックパルスは位相変調が付与されないため、光信号列Data−1と同じデータパターンが、マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の光出力ポートP−MZ−1−barから出力される。なお、
図13では、光信号列Data−1の一例として、「10101010」の8ビットの光信号列を入力している。
【0042】
そして、この光信号列Data−1と同じデータパターンである光信号列CLK−1−out−DMZ1がマッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の光出力ポートP−MZ−1−barから光分岐部C−1を介して光位相変調部R1−1,L1−1へと入力され光位相変調を誘起させる。
【0043】
このため、次の周回においても、マッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の2つの光干渉アーム中を伝搬している第1のクロック光信号列は、光信号列Data−1と同じデータパターンの光信号列CLK−1−out−DMZ1により、上記と同様の光位相変調を受け、光信号列Data−1と同じデータパターンがマッハツェンダー干渉型光強度変調部MZ−1の光出力ポートP−MZ−1−barから出力されることが繰り返される。結果として、
図13の「Buffering State」に示されるように、光信号列Data−1と同じデータパターンが光信号バッファメモリ回路に、一連の駆動状態として保持されることとなる。
【0044】
ここで光位相変調部R1−1,R1−2,L1−1,L1−2は化合物半導体基板上に形成される。
図14(A)、
図14(B)、
図14(C)は光位相変調部R1−1の構成例を示すブロック図である。
図14(A)、
図14(B)、
図14(C)において、a1,a2は光位相変調部R1−1の一方側の2つの光入出力ポート、a3,a4は光位相変調部R1−1の他方側の2つの光入出力ポート、b1,b2はマルチモード干渉カプラ(第1、第2の光干渉型合分岐手段)、a9,a10はマルチモード干渉カプラb1の一方の光入出力ポート、a5,a6はマルチモード干渉カプラb1の他方の光入出力ポート、a7,a8はマルチモード干渉カプラb2の一方の光入出力ポート、a11,a12はマルチモード干渉カプラb2の他方の光入出力ポート、e1,e2は光位相変調部R1−1の一方側の2つの光入出力導波路、e3,e4は光位相変調部R1−1の他方側の2つの光入出力導波路、c1,c2は2つの光位相変調制御部、d1,d2は位相調整部である。光導波路e5,e7は光位相変調部R1−1内の一方の光導波路アームを構成し、光導波路e6,e8は光位相変調部R1−1内の他方の光導波路アームを構成している。
【0045】
光位相変調部R1−1の光入出力ポートa1,a2は、光入出力導波路e1,e2を介してマルチモード干渉カプラb1の光入出力ポートa9,a10にそれぞれ接続されている。マルチモード干渉カプラb1の光入出力ポートa5,a6は、光導波路e5,e6を介して光位相変調制御部c1,c2の一方のポートにそれぞれ接続されている。光位相変調制御部c1,c2の他方のポートは、光導波路e7,e8を介してマルチモード干渉カプラb2の光入出力ポートa7,a8にそれぞれ接続されている。すなわち、光位相変調制御部c1,c2は、光位相変調部R1−1の2つの光導波路アームのそれぞれに設けられている。マルチモード干渉カプラb2の光入出力ポートa11,a12は、2つの光入出力導波路e3,e4を介して光位相変調部R1−1の光入出力ポートa3,a4にそれぞれ接続されている。
【0046】
位相調整部d1,d2は、注入電流量に応じて信号光の位相を調整できるものであり、光位相変調部R1−1の2つの光導波路アームの何れか一方又は両方に設けられている。すなわち、
図14(A)に示す光位相変調部R1−1の構成例では、位相調整部d1が光導波路e7に設けられ、
図14(B)に示す光位相変調部R1−1の別の構成例では、位相調整部d2が光導波路e8に設けられ、
図14(C)に示す光位相変調部R1−1の別の構成例では、位相調整部d1,d2が光導波路e7,e8にそれぞれ設けられている。
【0047】
マルチモード干渉カプラb1は、光位相変調制御信号光である光信号列Data−1または光信号列CLK−1−out−DMZ1が光位相変調部R1−1の光入出力ポートa1(
図12のP−R1−1)を介して光入出力ポートa9に入力され、被光位相変調信号光であるクロック信号光CLK−1が光位相変調部R1−1の光入出力ポートa2を介して光入出力ポートa10に入力されると、被光位相変調信号光ならびに光位相変調制御信号光をそれぞれ分岐し、分岐した被光位相変調信号光の一方と光位相変調制御信号光の一方とを合波して光入出力ポートa5から出力し、分岐した被光位相変調信号光の他方と光位相変調制御信号光の他方とを合波して光入出力ポートa6から出力する。
【0048】
マルチモード干渉カプラb2は、例えば光位相変調制御部c1,c2から出力される2つの信号光Sig−1,Sig−2がそれぞれ光入出力ポートa7,a8に入力されると、信号光Sig−1ならびに信号光Sig−2をそれぞれ分岐し、分岐した信号光Sig−1の一方と信号光Sig−2の一方とを合波して光入出力ポートa11から出力し、分岐した信号光Sig−1の他方と信号光Sig−2の他方とを合波して光入出力ポートa12から出力する。光入出力ポートa12から出力された信号光は、光位相変調部R1−1の光入出力ポートa4を介して光導波路12Rに出力される。
【0049】
光位相変調制御部c1,c2は、光位相変調制御信号光の光強度に応じて屈折率が変化する性質を持つ光導波路構造のものであり、光導波路構造の光半導体増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)であるか、或いは、量子ドット層を含む光導波路構造であるか、或いは、定電圧駆動状態の半導体EA(Electro-Absorption)変調器であるかの何れかである。光位相変調制御部c1は光導波路e5と光導波路e7との間に配置され、光位相変調制御部c2は光導波路e6と光導波路e8との間に配置されている。
【0050】
このように光位相変調部R1−1は、2つのマルチモード干渉カプラ(MMI)b1,b2が、光位相変調制御部c1,c2を含む2つの光導波路アームで結ばれたマッハツェンダー干渉回路を構成している。このマッハツェンダー干渉回路の2つの光導波路アームの光路長は、位相調整部d1,d2を用いて使用時に厳密に調整される。
光位相変調部R1−2,L1−1,L1−2の構成も光位相変調部R1−1と同様である。
【0051】
光位相変調部R1−1では、光位相変調制御信号光となる光信号列Data−1または光信号列CLK−1−out−DMZ1は、光入出力ポートa1(
図12のP−R1−1)に入力される。被光位相変調信号光となる第1のクロック光信号列(CLK−1)は、光位相変調部R1−1の光入出力ポートa2(光導波路11Rと接続された光入出力ポート)に入力される。位相調整部d1,d2を調整することにより、光位相変調部R1−1の光入出力ポートa4(光導波路12Rと接続された光入出力ポート)からは光位相変調を受けた第1のクロック光信号列のみが選択的に出力される。また、光位相変調部R1−1の光入出力ポートa3からは光位相変調制御信号光である光信号列Data−1または光信号列CLK−1−out−DMZ1のみが選択的に出力される。
【0052】
同様に、光位相変調部L1−1では、光位相変調制御信号光となる光信号列Data−1または光信号列CLK−1−out−DMZ1は、光入出力ポートa1(
図12のP−L1−1)に入力される。被光位相変調信号光となる第1のクロック光信号列(CLK−1)は、光位相変調部L1−1の光入出力ポートa2(光導波路11Lと接続された光入出力ポート)に入力される。位相調整部d1,d2を調整することにより、光位相変調部L1−1の光入出力ポートa4(光導波路12Lと接続された光入出力ポート)からは光位相変調を受けた第1のクロック光信号列のみが選択的に出力される。また、光位相変調部L1−1の光入出力ポートa3からは光位相変調制御信号光である光信号列Data−1または光信号列CLK−1−out−DMZ1のみが選択的に出力される。
【0053】
光位相変調部R1−2では、光位相変調制御信号光となるフリップフロップ制御用の光信号列FF−1は、光入出力ポートa1(
図12のP−R1−2)に入力される。被光位相変調信号光は、光位相変調部R1−1で光位相変調を受けた後の第1のクロック光信号列(第2のクロック光信号列)である。被光位相変調信号光は、光位相変調部R1−2の光入出力ポートa4(光導波路12Rと接続された光入出力ポート)に入力される。位相調整部d1,d2を調整することにより、光位相変調部R1−2の光入出力ポートa2(光導波路13Rと接続された光入出力)からは光位相変調を受けた第2のクロック光信号列のみが選択的に出力される。また、光位相変調部R1−2の光入出力ポートa3からは光位相変調制御信号光である光信号列FF−1のみが選択的に出力される。
【0054】
光位相変調部L1−2では、光位相変調制御信号光となるフリップフロップ制御用の光信号列FF−1は、光入出力ポートa1(
図12のP−L1−2)に入力される。被光位相変調信号光は、光位相変調部L1−1で光位相変調を受けた後の第1のクロック光信号列(第2のクロック光信号列)である。被光位相変調信号光は、光位相変調部L1−2の光入出力ポートa4(光導波路12Lと接続された光入出力ポート)に入力される。位相調整部d1,d2を調整することにより、光位相変調部L1−2の光入出力ポートa2(光導波路13Lと接続された光入出力)からは光位相変調を受けた第2のクロック光信号列のみが選択的に出力される。また、光位相変調部L1−2の光入出力ポートa3からは光位相変調制御信号光である光信号列FF−1のみが選択的に出力される。
【0055】
次に、光位相変調部R1−1,R1−2,L1−1,L1−2に設ける受光部f1について説明する。光位相変調部R1−1,R1−2,L1−1,L1−2において所望の「信号光−制御光分離動作」、例えば光入出力ポートa2から入力されたクロック光信号列などの被光位相変調信号光を光入出力ポートa4から選択的に出力させ、かつ光入力ポートa1から入力された光信号列CLK−1−out−DMZ1などの光位相変調制御信号光を光入出力ポートa3から選択的に出力させるためには、干渉系を構成する2つの光導波路アームの信号光に対する実効長のバランスが精密に調整されている必要がある。
【0056】
そこで、
図14(A)〜
図14(C)に示した構成では、光強度変調を被った光信号列CLK−1−out−DMZ1などの光位相変調制御信号光の出力ポートとなる光入出力ポートa3に受光部f1を設けている。この受光部f1で検出された光パワーを基に、光位相変調部R1−1,R1−2,L1−1,L1−2の光導波路アームの実効長の初期調整を行うことが可能である。
【0057】
以上のように、
図7に示した高速カオス光信号生成光回路、
図12に示した光信号バッファメモリ回路共に、マッハツェンダー干渉回路である光位相変調部R1,L1,R1−1,R1−2,L1−1,L1−2内の位相調整部d1,d2の調整のために受光部f1を設けている。
【0058】
受光部f1としては、例えば、光回路の動作波長領域が光通信波長帯である1.5μm帯であった場合には
図15(B)、
図15(C)に示すように、当該通信波長光の波長帯において光吸収特性を示すInGaAs結晶を受光層とする受光部が用いられる(非特許文献1参照)。
図15(A)は光位相変調部R1−1の受光部f1が設けられている部分の平面図、
図15(B)は
図15(A)のI−I線断面図、
図15(C)は
図15(A)のII−II線断面図である。
【0059】
光導波路e3は、
図15(B)に示すように、n−InPからなる下部クラッド層Lyr−01と、InGaAsPからなるコア層Lyr−02と、n−InP層Lyr−03と、p−InPからなる上部クラッド層Lyr−05と、InGaAsからなるコンタクト層Lyr−06とから構成される。
【0060】
受光部f1は、
図15(C)に示すように、n−InP層Lyr−03と上部クラッド層Lyr−05との間に受光層Lyr−04を追加し、コンタクト層Lyr−06の上にAuからなるパッド電極Lyr−07を形成した構成となっている。
【発明を実施するための形態】
【0079】
[第1の実施の形態]
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)は本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調部の構成例を示すブロック図であり、
図14(A)、
図14(B)、
図14(C)と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0080】
なお、以下の説明では、
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)に示した構成を、
図12に示した光信号バッファメモリ回路で用いる光位相変調部R1−1の構成として説明するが、光位相変調部R1−2,L1−1,L1−2の構成も光位相変調部R1−1と同じである。また、光導波路および光入出力ポートの符号が
図11と異なるが、
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)に示した構成を、
図7に示した高速カオス光信号生成光回路の光位相変調部R1,L1として適用することも可能である。
【0081】
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)において、a1,a2,a3,a4は光位相変調部R1−1の光入出力ポート、b1,b2は3dB分岐型のルチモード干渉カプラ(第1、第2の光干渉型合分岐手段)、a5,a6,a9,a10はマルチモード干渉カプラb1の光入出力ポート、a7,a8,a11,a12はマルチモード干渉カプラb2の光入出力ポート、e1,e2,e3,e4,e5,e6,e7,e8は光導波路、c1,c2は光位相変調制御部、d1,d2は位相調整部、F1は半導体受光検出回路である。光導波路e5,e7は光位相変調部R1−1内の一方の光干渉アームを構成し、光導波路e6,e8は光位相変調部R1−1内の他方の光干渉アームを構成している。
【0082】
光位相変調部R1−1の光入出力ポートa1,a2は、光導波路e1,e2を介してマルチモード干渉カプラb1の光入出力ポートa9,a10にそれぞれ接続されている。マルチモード干渉カプラb1の光入出力ポートa5,a6は、光導波路e5,e6を介して光位相変調制御部c1,c2の一方のポートにそれぞれ接続されている。光位相変調制御部c1,c2の他方のポートは、光導波路e7,e8を介してマルチモード干渉カプラb2の光入出力ポートa7,a8にそれぞれ接続されている。マルチモード干渉カプラb2の光入出力ポートa11,a12は、光導波路e3,e4を介して光位相変調部R1−1の光入出力ポートa3,a4にそれぞれ接続されている。そして、光入出力ポートa3には半導体受光検出回路F1が設けられている。
【0083】
なお、
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)のいずれかの構成を光位相変調部R1−1として用いる場合、光入出力ポートa1(
図12のP−R1−1)は
図12の光導波路15Rに接続され、光入出力ポートa2は光導波路11Rに接続され、光入出力ポートa4は光導波路12Rに接続される。また、
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)のいずれかの構成を光位相変調部L1−1として用いる場合、光入出力ポートa1(
図12のP−L1−1)は光導波路15Lに接続され、光入出力ポートa2は光導波路11Lに接続され、光入出力ポートa4は光導波路12Lに接続される。
【0084】
また、
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)のいずれかの構成を光位相変調部R1−2として用いる場合、光入出力ポートa1(
図12のP−R1−2)は光導波路22Rに接続され、光入出力ポートa2は光導波路13Rに接続され、光入出力ポートa4は光導波路12Rに接続される。また、
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)のいずれかの構成を光位相変調部L1−2として用いる場合、光入出力ポートa1(
図12のP−L1−2)は光導波路22Lに接続され、光入出力ポートa2は光導波路13Lに接続され、光入出力ポートa4は光導波路12Lに接続される。
【0085】
また、
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)のいずれかの構成を光位相変調部R1として用いる場合、光入出力ポートa1は
図7の光導波路101に接続され、光入出力ポートa2(
図7のP−R1)は光導波路106に接続され、光入出力ポートa4は光導波路103に接続される。また、
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)のいずれかの構成を光位相変調部L1として用いる場合、光入出力ポートa1は光導波路100に接続され、光入出力ポートa2(
図7のP−L1)は光導波路109に接続され、光入出力ポートa4は光導波路102に接続される。
【0086】
位相調整部d1,d2は、光位相変調部R1−1の2つの光干渉アームの何れか一方又は両方に設けられている。
図1(A)に示す光位相変調部R1−1の構成例では、位相調整部d1が光導波路e7に設けられ、
図1(B)に示す光位相変調部R1−1の別の構成例では、位相調整部d2が光導波路e8に設けられ、
図1(C)に示す光位相変調部R1−1の別の構成例では、位相調整部d1,d2が光導波路e7,e8にそれぞれ設けられている。
【0087】
光位相変調制御部c1,c2は、光位相変調制御信号光の光強度に応じて屈折率が変化する性質を持つ光導波路構造のものである。この光位相変調制御部c1,c2は、光導波路構造の光半導体増幅器(SOA)であるか、或いは、量子ドット層を含む光導波路構造であるか、或いは、定電圧駆動状態の半導体EA変調器であるかの何れかである。
【0088】
半導体受光検出回路F1を除く他の構成は
図7〜
図14で説明したとおりであるので、説明は省略する。
次に、本実施の形態の特徴である半導体受光検出回路F1について説明する。
図2(A)は本実施の形態の光位相変調部R1−1の半導体受光検出回路F1が設けられている部分の平面図、
図2(B)は
図2(A)のI−I線断面図、
図2(C)は
図2(A)のII−II線断面図、
図2(D)は
図2(A)のIII−III線断面図である。
【0089】
半導体受光検出回路F1は、信号光を導波する光導波路e3の先端部である光入出力ポートa3−inと結合するように形成された受光検出部g1と、光入出力ポートa3−inと反対側の受光検出部g1の端部と結合するように形成された光導波路a3−outと、光導波路a3−outの先端部と対向するように形成されたミラーr1とから構成される。
【0090】
光入出力ポートa3−in(光導波路e3)は、
図2(B)に示すように、n−InPからなる下部クラッド層Lyr−01(化合物半導体基板)と、下部クラッド層Lyr−01の上に形成された、PL(Photo Luminescence)波長特性が信号光波長λよりも100nmから200nm程短波長側にピークをもつInGaAsP(本実施の形態ではPL波長は1.4μm)からなるコア層Lyr−02と、コア層Lyr−02の上に形成されたp−InPからなる上部クラッド層Lyr−05と、上部クラッド層Lyr−05の上に形成されたInGaAsからなるコンタクト層Lyr−06とから構成される。本実施の形態では、コア層Lyr−02のPL波長を信号光波長λ=1.5μmよりも100nmから200nm程短波長、すなわちコア層Lyr−02のPL波長を1.3〜1.4μmとすることで、光導波路として十分に損失の小さなものが実現できると同時に、受光検出部g1において逆バイアス時には波長λ=1.5μmの信号光の光吸収・受光が実現できる。
【0091】
受光検出部g1は、光導波路構造を有し、半導体受光検出回路F1が使用される平面基板型光回路(光位相変調部R1,L1,R1−1,R1−2,L1−1,L1−2を含む高速カオス光信号生成光回路または光信号バッファメモリ回路)の初期調整時において逆バイアスが印加された場合のみ光入出力ポートa3−inから入力された信号光を受光して受光強度に応じた電流を出力することができ、初期調整時以外の逆バイアスを印加されない場合には透明な光導波路として機能する。
【0092】
この受光検出部g1は、
図2(C)に示すように、下部クラッド層Lyr−01(化合物半導体基板)と、下部クラッド層Lyr−01の上に形成されたコア層Lyr−02と、コア層Lyr−02の上に形成された上部クラッド層Lyr−05と、上部クラッド層Lyr−05の上に形成されたコンタクト層Lyr−06と、コンタクト層Lyr−06の上に形成されたAuからなるパッド電極Lyr−07とから構成される。光回路の初期調整時には、パッド電極Lyr−07と下部クラッド層Lyr−01との間に逆バイアスを印加して、受光強度に応じた電流をパッド電極Lyr−07から取り出すことができる。
【0093】
光導波路a3−outは、受光検出部g1に逆バイアスが印加された場合に吸収されずに受光検出部g1を通過した信号光または受光検出部g1に逆バイアスが印加されない場合に受光検出部g1を透過した信号光を導波する。光導波路a3−outの断面構造は、
図2(D)に示すように光入出力ポートa3−in(光導波路e3)と同じである。ただし、光導波路a3−outは、
図2(A)から明らかなように、信号光の伝搬方向に向かって導波路幅が先細りのテーパー状となる平面形状を有する。このような形状により、光導波路a3−outは、導波信号光を無反射で外部に出射する。
【0094】
ミラーr1は、光導波路a3−outの先端部から出射される信号光の出射方向の延長上に設けられる。このミラーr1の反射面は、後述のように化合物半導体基板上の光導波路の端面を一定の角度に加工することで形成される。このような反射面を設けることにより、光導波路a3−outの先端部から出射される信号光を上方に反射させて、平面基板型光回路の外に出射(廃棄)させることが可能となる。
【0095】
こうして、平面基板型光回路の初期調整時に受光検出部g1に逆バイアスを印加した場合のみ受光検出部g1の受光特性が発現し、受光検出部g1に逆バイアスを印加しない、平面基板型光回路の通常の駆動動作時においては信号光に対して透明な光導波路として受光検出部g1を機能させることが可能となる。
【0096】
図3(B)は、半導体受光検出回路F1が使用される光位相変調部として
図1(C)に示した構成を用いた場合に半導体受光検出回路F1のミラーr1によって光位相変調部から出射される光のスペクトルを示す図である。
図3(B)では、受光検出部g1に印加する逆バイアスを0Vから−10Vの範囲で変化させた場合の光のスペクトルを示している。
【0097】
ここでは、SOAからなる光位相変調制御部c1,c2に電流を流すことにより発生し、光導波路e3を伝搬して半導体受光検出回路F1のミラーr1によって光位相変調部の外部に出射された光のスペクトルを、光スペクトルアナライザで測定した。
図3(A)は光位相変調制御部c1,c2(SOA)のASE(Amplified Sponteneous Emission)スペクトルを示している。なお、SOAについては、例えば文献「小川育夫他,“PLCハイブリッド集積型半導体光増幅器モジュール”,IEICE technical report. EMD 102(283),7-11,2002-08-22,The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers」に記載されている。
【0098】
図3(B)に示される実測評価結果によれば、受光検出部g1に逆バイアスが印加されていない状態(逆バイアス0V)においては光位相変調制御部c1,c2(SOA)のASEスペクトルと同様の出射光スペクトルが観測されることから、受光検出部g1は信号光に対して透明な光導波路として機能していることが確認できる。
【0099】
また、受光検出部g1に逆バイアスを大きく印加するに従い、受光検出部g1における光吸収が短波長成分から長波長成分へと拡大し、平面基板型光回路の信号光波長領域と合致するSOAの利得波長領域(すなわちASEスペクトル波長領域)において十分な光吸収効果が得られることが実験的に確認された。
【0100】
受光検出部が例えば非特許文献1に示されているような終端構造となっている場合、受光検出部に逆バイアスを印加しない通常の駆動動作時において受光検出部は信号光に対して透明な導波路として機能するため、信号光の入射方向の延長上に位置する受光検出部とそれ以外の領域との境界面において信号光が反射し、この信号光が反射戻り光として光回路本体に混入する。このようにして発生してしまった反射戻り光は光回路本体にとって擾乱光として働き、光回路の特性を大きく損なってしまうこととなる。
【0101】
これに対して、本実施の形態では、光入出力ポートa3−in(光導波路e3)から受光検出部g1へ入力される信号光の伝搬方向に向かって導波路幅が先細りのテーパー状となる構造を有する光導波路a3−outを、光入出力ポートa3−inと反対側の受光検出部g1の端部と結合するように形成し、受光検出部g1で受光されなかった信号光を光導波路a3−outから信号光の伝搬方向の延長方向へ反射を抑えつつ出射させる。
【0102】
さらに、本実施の形態では、光導波路a3−outから出射される信号光の出射方向の延長上に、信号光の出射方向に対して一定の角度で傾いた反射面を有するミラーr1を設けることにより、光導波路a3−outから出射される信号光をミラーr1で反射させて、平面基板型光回路の面外上方へと出射(廃棄)させることにより、受光検出部g1で受光されなかった信号光が反射して平面基板型光回路への戻り光となって平面基板型光回路の特性が損なわれることを抑制できる。
【0103】
図4(A)は本実施の形態の光位相変調部R1−1の半導体受光検出回路F1が設けられている部分の具体的な構造を示す平面図、
図4(B)は
図4(A)のIV−IV線断面図である。
図4(A)、
図4(B)に示すような信号光の出射方向に対して一定の角度で傾いたミラーr1を作製するには、
図5(A)に示すようにコンタクト層Lyr−06の上にマスクLyr−08を形成した後に、
図5(B)に示すように基板を傾けた状態でドライエッチングすればよい。
【0104】
こうして、
図5(C)に示すように所望の方向に上り勾配となる反射面を有するミラーr1を作製することができる。一般に、半導体材料は大気に比べ屈折率が高いため、斜めに加工された光導波路の端面は大気中で使用されることで十分にミラーr1として機能する。ドライエッチングを用いたミラーr1の作製方法については、特開2011−222796号公報に記載されている。光導波路に受光検出部g1を作製するには、マスクLyr−08を除去した後に、受光検出部g1に相当する箇所にパッド電極Lyr−07を形成すればよい。
【0105】
また、InPに対するHCl系エッチャント(塩酸、或は塩酸リン酸)のウェットエッチング速度の結晶面方位依存性を利用してミラーr1を作製することも可能である。このようなエッチングの方法については、文献「末松安晴編,“半導体レーザと光集積回路”,オーム社,pp.429−436,1984年」に記載されている。
【0106】
半導体受光検出回路F1の構造は
図2(A)〜
図2(D)で説明したとおりであるが、本実施の形態では、光入出力ポートa3−inと受光検出部g1と光導波路a3−outの、パッド電極Lyr−07を除く組成を同一にすることにより、製造プロセスを簡単化することができる。
【0107】
また、本実施の形態では、上部クラッド層Lyr−05の材料をp−InPとしているが、上部クラッド層Lyr−05の光損失を減らしたい場合には、上部クラッド層Lyr−05としてn−InPもしくはi−InPを用いても構わない。
【0108】
また、本実施の形態では、光入出力ポートa3−inと受光検出部g1と光導波路a3−outの導波路幅(
図2(A)、
図4(A)の上下方向の寸法)が全て同じになるようにしている。これにより、製造プロセスが容易になると共に、光の反射を防ぐことができる。ただし、導波路幅が同じであることは必須ではなく、受光検出部g1や光導波路a3−outの導波路幅を広くしても、あるいは狭くしても構わない。また、受光検出部g1や光導波路a3−outはシングルモード導波路でも、マルチモード導波路でも構わない。
【0109】
また、受光検出部g1だけでなく、光入出力ポートa3−inや光導波路a3−outにもコンタクト層Lyr−06を設けているが、光損失を減らしたい場合には、光入出力ポートa3−inや光導波路a3−outのコンタクト層Lyr−06をなくしても構わない。
【0110】
また、本実施の形態では、コア層Lyr−02の材料をInGaAsPとしているが、これに限るものではなく、InGaAs、InAlAs、InGaAlAs、InAlAsP、GaAlP、AlGaAs、AlGaAsSb、InAlGaN、InGaNAs、InGaNP、AlGaNAs、AlGaNP、AlInNAs、AlInNP等であっても構わない。
【0111】
また、
図2(B)〜
図2(D)に示した例では、光入出力ポートa3−in(光導波路e3)と受光検出部g1と光導波路a3−outの導波路構造を、コア層Lyr−02よりも深くメサを作製するハイメサ(ディープリッジ)型の導波路構造として説明しているが、コア層Lyr−02よりもメサが浅いリッジ型の導波路構造、もしくはリッジの周囲を埋め込んだ埋め込み型の導波路構造でも構わない。
【0112】
また、
図4(A)、
図4(B)に示すように、ミラーr1の表面に例えばAu等からなる反射膜h1を形成してもよい。反射膜h1は、パッド電極Lyr−07と同じ組成のものでも構わない。
【0113】
また、通常は半導体受光検出回路F1を含む光位相変調部R1,L1,R1−1,R1−2,L1−1,L1−2のみを化合物半導体基板上に作製し、光位相変調部R1,L1,R1−1,R1−2,L1−1,L1−2を除く光回路(高速カオス光信号生成光回路または光信号バッファメモリ回路)の部分は、石英系プレーナ光波回路(PLC:Planar Lightwave Circuit)もしくはシリコン平面基板上に作製するが、光回路の全てを化合物半導体基板上に作製しても構わない。シリコン平面基板に関しては、文献「板橋 聖一,“シリコンフォトニクスの研究開発動向”,NTT技術ジャーナル,pp.12− 15,2009.12」に記載されている。
【0114】
また、本実施の形態では、半導体受光検出回路F1を適用する光回路の例として、
図7に示した高速カオス光信号生成光回路や、
図12に示した光信号バッファメモリ回路を例に挙げているが、これに限るものではなく、光回路の調整時に信号光のパワーを半導体受光検出回路F1で測定することが必要で、かつ光回路の通常の動作時には測定の必要がなく、半導体受光検出回路F1に入射した信号光を廃棄してしまうことが望ましい光回路であれば、本実施の形態を適用可能である。
【0115】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、発熱や擾乱光の発生を抑えるために半導体受光検出回路F1を設けているが、信号光が伝搬する光導波路の端部において反射が起こると、反射戻り光が光回路に混入して、光回路の特性を大きく損なってしまうこととなる。本実施の形態では、このような反射を抑制する無反射開放端部について説明する。
【0116】
図6(A)は本実施の形態に係る無反射開放端部の平面図、
図6(B)は
図6(A)のIV−IV線断面図であり、
図2(A)〜
図2(D)、
図4(A)、
図4(B)と同様の構成には同一の符号を付してある。無反射開放端部は、信号光を導波する光導波路a3−wgと、光導波路a3−wgと一体で形成された光導波路a3−outと、光導波路a3−outの先端部と対向するように形成されたミラーr1とから構成される。
【0117】
光導波路a3−wgの構成は、第1の実施の形態の光入出力ポートa3−in(光導波路e3)と同様である。
光導波路a3−outは、第1の実施の形態と同様に信号光の伝搬方向に向かって導波路幅が先細りのテーパー状となる平面形状を有する。このような形状により、光導波路a3−outは、導波信号光を無反射で外部に出射する。
【0118】
光導波路a3−wg,a3−outの構成材料は第1の実施の形態で説明したとおりである。ただし、本実施の形態では、上部クラッド層Lyr−05の上にコンタクト層Lyr−06を形成する必要はない。本実施の形態では、光導波路a3−wg,a3−outの導波路幅が同じになるようにしているが、光導波路a3−wgに対して光導波路a3−outの導波路幅を広くしても、あるいは狭くしても構わない。光導波路a3−outはシングルモード導波路でも、マルチモード導波路でも構わない。光導波路a3−wg,a3−outの導波路構造は、ハイメサ(ディープリッジ)型、リッジ型、埋め込み型のいずれでも構わない。
【0119】
ミラーr1は、光導波路a3−outの先端部から出射される信号光の出射方向の延長上に設けられる。ミラーr1の作製方法は第1の実施の形態で説明したとおりである。また、第1の実施の形態で説明したとおり、ミラーr1の表面に例えばAu等からなる反射膜h1を形成してもよい。
【0120】
以上のように、本実施の形態では、光導波路a3−wgによって導波される信号光の伝搬方向に向かって導波路幅が先細りのテーパー状となる構造を有する光導波路a3−outを、光導波路a3−wgと結合するように形成し、信号光を光導波路a3−outから外部へ出射させる。そして、光導波路a3−outから出射される信号光の出射方向の延長上に、信号光の出射方向に対して一定の角度で傾いた反射面を有するミラーr1を設けることにより、光導波路a3−outから出射される信号光をミラーr1で反射させて、光回路の面外上方へと出射(廃棄)させることができる。したがって、光回路に設けられた光導波路の端部に本実施の形態の無反射開放端部を形成すれば、光導波路の端部で発生する信号光の反射を抑制することができ、信号光が反射して光回路への戻り光となって光回路の特性が損なわれることを抑制できる。
【0121】
なお、第1、第2の実施の形態では、基板の上方向に光を出射させているが、これに限るものではなく、基板の下方向に光を出射させてもよい。この場合には、
図4(A)、
図4(B)、
図6(A)、
図6(B)に示した構造とは逆に半導体基板(下部クラッド層Lyr−01)の裏面側をエッチングするようにして、半導体基板の裏面側に開口部を形成し、信号光の出射方向に対して下り勾配となる反射面を有するミラーを形成すればよい。これにより、光導波路a3−outから出射される信号光をミラーで反射させて、光回路の面外下方へと出射(廃棄)させることができる。