(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの微細化により、大規模集積回路(Large-Scale Integration、LSI)の高速化、高性能化が図られてきた。一方で、このような電子デバイスの微細化に伴って、トランジスタ数、配線本数、コンタクト数は増大している。このため、故障品などの不良解析は、より複雑化している。
【0003】
従来、電子デバイスの不良解析は、各種の非破壊分析により、不良箇所を絞り込んだ後、絞り込まれた推定不良箇所の構造欠陥を観察することにより行われてきた。
【0004】
構造欠陥の観察の際は、断面観察などの推定不良箇所の破壊分析を行う。このため、不良要因として推定した箇所に、異常が見られなかった場合、不良サンプルの再評価ができなくなってしまう。このため、電子デバイスの不良解析においては、非破壊分析による解析技術または、半破壊分析の段階で、高い確率で、不良箇所を突き止めることが可能な解析技術が望まれている。
【0005】
このような要望に対して、不良箇所が存在する近傍まで電子デバイスを研磨して、極めて微小な探針を、直接、電子デバイスの回路上に接触させて、電子デバイスの電気特性を評価するプローバ装置が提案されている。
【0006】
特開2013−187510号公報(特許文献1)では、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて、探針と試料表面の拡大映像を観察しながら、試料表面上に存在する微細なトランジスタなどに、微小な探針を接触して電気特性を測定している。これにより、これまで困難であった、試料内に存在する億単位のトランジスタのうちの1個のみの電気特性の評価を可能としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者が、プローバ装置における微小電子デバイスの動的な応答解析について鋭意検討した結果、次の知見を得るに至った。
【0009】
これまでの微小電子デバイス特性評価用プローバ装置では、直流電圧を印加した際、どのような電流が流れるのかといった現象である、静的電気特性を評価していた。不良であると思われるトランジスタの静的電気特性と、正常なトランジスタの静的電気特性とを比較し、これらの特性が同等でない場合、不良箇所として断定していた。
【0010】
一方、これらのトランジスタを実際に使用する場合には、メガヘルツオーダやギガヘルツオーダの高速な駆動信号で動作させている。より精密に、トランジスタの電気特性を評価するためには、実際の動作環境に近い状態である、動的信号の応答解析(動的解析もしくは動的評価)ができると望ましい。
【0011】
さらに、トランジスタの不良解析において、静的電気特性の評価だけでは見分けられない不良のあることが懸念されている。このため、近年、プローバ装置による動的な応答解析の必要性が高まっている。
【0012】
高速な動的信号の応答解析では、入力する高速な信号が、劣化なく試料に伝わること、そして、試料の応答信号が、劣化なくオシロスコープに出力されることが必要となる。
【0013】
このような高速な信号を伝送する必要がある測定系は、測定する周波数に対して十分な周波数帯域を持っている必要がある。より高速な信号(高周波信号)を伝送するためには、大きな周波数帯域が必要となる。このような系では、伝送に伴う損失を抑制するための伝送経路の最適化や、伝送経路に存在する構造物や部品などによる信号の反射や損失を防ぐためのインピーダンス変動の抑制などが重要となる。
【0014】
図1は、プローバ装置の測定経路の模式図である。プローバ装置では、ファンクションジェネレータ1が発生した入力信号を、入力ケーブル2を通して探針3に送り、試料4に印加する。試料4の応答信号は、出力ケーブル5を介してオシロスコープ6で観察される。ここで、真空チャンバ7の中で、探針3を操作する必要があるために、入力ケーブル2は、真空チャンバ7内に配置されている。これにより、入力ケーブル2の長さが固定されてしまい、全ケーブル長は、集積回路基板などのミリメートル以下の微小スケールとは大幅に異なった、メートルオーダのスケールとなる。このようなスケールの違いは、伝送損失の増大や、測定系を構成する各部の反射を招きやすく、高速伝送の弊害となってくる。
【0015】
また、入力ケーブル2や出力ケーブル5は、GND被覆されている一方で、探針3は、GND被覆されていない。このような構造により、インピーダンス変動は大きくなりうる。
【0016】
さらに、プローバ装置による測定では、探針3を接触させたい層まで試料4を研磨した後に、プローバ装置に配置し、試料4の研磨面に探針3を接触させて測定する。
【0017】
図2A及び
図2Bは、プローバ装置による測定時の模式図であり、
図2Aは上面図、
図2Bは側面図であり、試料4の研磨面に、探針3を接触させている様子を示す。試料4の電気特性を測定するために、試料4のコンタクト8に探針3を接触させているが、この数十ナノメートルオーダの接触面における、汚れなどの接触抵抗も、インピーダンス変動の要因となる。
【0018】
これらの周波数帯域を劣化させる要因によって、プローバ装置における動的信号の応答解析は、LSIが実際に動作するようなメガヘルツレベル、とりわけギガヘルツオーダの周波数だと困難になってくる。
【0019】
本発明の目的は、プローバ装置において、メガヘルツレベル以上の動的信号を用いて、LSIを構成する微小トランジスタなどの微小電子デバイスの不良解析を実施することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明では、プローバ装置において、微小電子デバイスに対し、動的信号の応答解析を実施する際、探針の一つに入力される動的な電気信号の入力波形を整形し、試料を介して出力される動的な電気信号の出力波形を観察することに関し、好ましくは、試料を介して出力される動的な電気信号の出力波形が略パルス形状となるように、入力波形を調整することに関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、LSIを構成する微小トランジスタなどの微小電子デバイスに対して、メガヘルツレベル以上の高速な動的信号の応答解析を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施例では、試料を保持する試料ステージと、試料の所定箇所と接触する複数の探針と、その内部に試料ステージと複数の探針が配置された試料室と、試料および探針を観察する荷電粒子線顕微鏡と、を備え、探針の一つに入力される動的な電気信号の入力波形を整形する入力波形形成機構と、試料を介して出力される動的な電気信号の出力波形を観察する出力波形観察機構と、を備えるプローバ装置を開示する。
【0024】
また、実施例では、入力波形は、試料を介して出力される動的な電気信号の出力波形が、略パルス形状となるように調整されていることを開示する。また、実施例では、入力波形は、波形の前方部で凸形状であるか、または、波形の後方部分で凹形状であることを開示する。
【0025】
また、実施例では、動的な電気信号の入力波形が記録されたデータベースを備え、入力する動的な電気信号の条件に応じ、入力波形形成機構が、データベースに記録された入力波形を形成するプローバ装置を開示する。
【0026】
また、実施例では、測定系の等価回路シミュレーションに基づき、入力波形形成機構が入力波形を自動形成するプローバ装置を開示する。
【0027】
また、実施例では、入力波形形成機構が、出力波形に基づき、当該出力波形が略矩形となるように出力波形を自動的に修正するプローバ装置を開示する。
【0028】
以下、上記およびその他の新規な特徴と効果について、図面を参酌して説明する。
【実施例1】
【0029】
図3は、本実施例の微小電子デバイス特性評価用プローバ装置の概略図である。
【0030】
本実施例におけるプローバ装置は、内部を真空に保つことが可能な真空チャンバ7内に、試料4上のコンタクトなどに接触させて、試料4の電気特性を測定するための探針3と、探針3や試料4に電子線を照射するためのSEMカラム9と、電子線の照射により探針3や試料4から発生する二次電子を検出するための二次電子検出器10とを備えている。
【0031】
また、このプローバ装置は、探針3を駆動させるための探針駆動機構(図示せず)と、試料4の位置を移動するための試料ステージ11が設けられている。
【0032】
トランジスタの電気特性を取得する場合、ソース、ドレイン、ゲートの各コンタクトへ探針を接触させる必要があるため、探針3は最低でも3本必要となる。基板に接触させる探針3や、探針3に破損が起こった場合のための予備探針などを考慮すると、探針の数は3本より多くてもよく、たとえば6本以上の探針を設けてもよい。
【0033】
探針3や試料ステージ11の移動は、測定者が、制御端末(図示せず)で操作する。
【0034】
試料4の電気特性は、探針3を所望のコンタクトに移動し、探針3とコンタクトを接触させて、探針3を通して、ファンクションジェネレータ1から、オシロスコープ6に測定信号を送り、半導体パラメータアナライザ12によりトランジスタの駆動に必要な電圧を印加し、動的な応答特性を取得することにより、解析され、評価される。
【0035】
ここで、前述の通り、プローバ装置の特有の構成により、伝送する周波数帯域の確保は、難しい。
図4A〜
図4Cは、周波数帯域がパルス形状に及ぼす影響を説明するためのグラフである。十分な伝送周波数の帯域が確保されていると、パルス波をこの系に伝送した場合、きれいな矩形波を維持して出力される(
図4A)。一方、伝送信号の周波数帯域が小さい場合、入力したパルス波形は、矩形の立ち上がり部が劣化する(
図4B)。これは、パルス波形は、多数の周波数成分から構成されており、パルス波形における矩形の立ち上がり、立下りの部分は、高い周波数成分に相当するためである。つまり、伝送帯域の小さな測定系では、この高い周波数成分は劣化してしまい、結果として、得られたパルス波形は、(
図4B)のように、立ち上がり形状において、矩形を維持しない。一方で、見方をかえると、この矩形の立ち上がりの形を観察することにより、より高周波での測定体の特性が把握できるということになる。
【0036】
本実施例では、プローバ装置で動的な応答特性を測定する際、出力される信号波形が、矩形になるよう、入力波形を整形し、プローバ装置の伝送系での信号劣化を補う。この伝送波形を利用して、矩形を維持した標準試料の立ち上がりと、比較試料の出力信号の立ち上がりを比較することにより、より高周波での試料特性の違いを測定することができる。
【0037】
図4Cは、波形整形した入力波形の代表的な形状である。劣化が予想される立ち上がり、または、立下りに相当する部分を、急激な電圧の上昇、または、下降させた形状とし、伝送劣化を補填している。実際の測定において、本形状の電圧の上昇量や上昇時間は、測定系の等価回路シミュレーションにより決定する。
【実施例2】
【0038】
本実施例では、微小電子デバイス特性評価用プローバ装置による不良解析について説明する。以下、実施例1との相違を中心に説明する。
【0039】
図5は、本実施例の微小電子デバイス特性評価用プローバ装置の構成図である。微小電子デバイス特性評価用プローバ装置は、真空チャンバ7の内部に、電気特性を測定するための探針3と、電子デバイスなどの試料4を設置できる試料ステージ11を備えている。
【0040】
また、このプローバ装置は、さらに、探針3や試料4に電子線を照射するためのSEMカラム9と、電子線の照射により探針3や試料4から発生する二次電子を検出するための二次電子検出器10を備えている。
【0041】
真空チャンバ7には、その内部を排気するためのターボ分子ポンプ13とドライポンプ14が設けられている。なお、真空チャンバ7の内部を真空に保つことができるポンプであれば、ポンプの種類は問わないが、より高真空を保つことが可能であり、真空チャンバ7を汚染しないようなポンプが望ましい。
【0042】
真空チャンバ7の内部は、SEMによる試料観察領域15、光学顕微鏡による試料観察領域16、および探針の交換領域17に大別される。これらの領域へ試料ステージ11が移動することにより、SEMによる試料観察、光学顕微鏡による試料観察、および探針の交換が可能となる。
【0043】
試料ステージ11は、基本的には、SEMカラム9の真下に配置されている。さらに、試料ステージ11とSEMカラム9の間には、探針3が配置されている。なお、探針3の本数は、本実施例では4本である。そして、この探針3は、探針駆動装置(図示せず)に固定されている。
【0044】
探針3を、探針の交換領域17まで移動させ、探針引き上げ棒19を用いて、探針3を探針交換室18へ引き上げることにより、探針3を交換することができる。
【0045】
試料4の電気特性の測定のために、探針3を試料4に接触させる際、はじめに、試料ステージ11を、光学顕微鏡による試料観察領域16へ移動する。この領域には、試料4を上面方向から観察する第一のCCDカメラ20と、試料4を側面方向から観察する第二のCCDカメラ21が設置されている。これらのCCDカメラ20、21の映像を観察しながら探針3を駆動させることにより、約0.1mm程度の精度で、探針3を所望のコンタクトが存在する箇所へ移動させることができる。
【0046】
試料4のうち、実際に測定したいパターンの大きさは、直径100nm以下であることが多い。そこで、上記の位置あわせの後、試料ステージ11をSEMによる試料観察領域15へ移動させる。そして、SEM像を観察しながら探針3を操作して、より精密に探針3を測定位置へ移動させる。
【0047】
それぞれの探針3は、電子デバイスの電気特性を測定するための半導体パラメータアナライザ12と、動的な信号を発生するファンクションジェネレータ1と、動的な応答信号の波形を観察するオシロスコープ6に接続されている。ファンクションジェネレータ1は、発生する信号波形を任意に作成できる機能を有している。
【0048】
以上までの装置の操作、例えば、探針3や試料ステージ11の移動は、表示ディスプレイ22に表示されているグラフィカルユーザインターフェース(GUI)により制御する。なお、GUIによらずとも、操作パネルなどによる制御でも構わない。
【0049】
次に、試料4の測定方法を説明する。
【0050】
はじめに、故障診断などから不良と推定されるトランジスタを絞り込み、正常なトランジスタの所望のコンタクトが表面に露出されるまで、試料4を研磨する。
【0051】
次に、コンタクトが表面に露出した試料4を試料ステージ11に設置した後、探針3をコンタクトに接触させる。探針3は、トランジスタのソース、ドレイン、ゲート、基板、それぞれのコンタクトに接触させる。
【0052】
ドレインと基板に接触させた探針は、半導体パラメータアナライザ12に接続し、ゲートに接触した探針は、ファンクションジェネレータ1に接続し、ソースに接触させた探針は、オシロスコープ6に接続する。
【0053】
それぞれの探針3を、各コンタクトに接触させた後、ドレインには1Vの電圧を印加し、基板には0Vの電圧を印加する(接地する)。ゲートには、ファンクションジェネレータ1により、1Vの電圧を、100MHzの周波数で(パルス幅5ns)印加する。この時のソースからの信号を、オシロスコープ6で観察する。
【0054】
出力された応答波形が、矩形でなければ、入力波形を整形する。波形整形から、100MHzのパルス形状から、0.7nsの立ち上がり時間を実現させる。次に、同様の測定条件と入力波形を用いて、不良と推測されるトランジスタの、動的な応答波形を観察する。この結果、正常なトランジスタに比べて、立ち上がり時間に劣化が見られていた場合は、トランジスタが故障しており、不良であると判断できる。
【実施例3】
【0055】
本実施例では、入力波形をデータベースから選択する場合を説明する。以下、実施例1乃至2との相違点を中心に説明する。
【0056】
図6は、本実施例の微小電子デバイス特性評価用プローバ装置の概略図である。本実施例では、探針3を、各コンタクト8に接触させた後、ドレインには、1Vの電圧を印加し、基板には、0Vの電圧を印加する。ファンクションジェネレータ1によりゲートに信号を入力する際、その波形は、測定する周波数、または、試料の種類に基づいて、使用された波形が蓄積されたデータベース23から選択する。これにより、最適な入力波形を試料に印加し、オシロスコープ6により、動的な応答信号の測定を行う。
【実施例4】
【0057】
本実施例では、探索アルゴリズムを用いて入力波形を決定する場合を説明する。以下、実施例1乃至3との相違点を中心に説明する。
【0058】
図7は、本実施例の微小電子デバイス特性評価用プローバ装置の概略図である。本実施例では、探針3を、各コンタクト8に接触させた後、ドレインには、1Vの電圧を印加し、基板には、0Vの電圧を印加する。ファンクションジェネレータ1によりゲートに信号を入力する前に、入力波形に、測定系の等価回路シミュレータを用い、出力されるシミュレーション波形を導出する。この波形が矩形となるよう、入力するシミュレーション波形を繰り返し修正する探索アルゴリズムを用いて、最適入力波形を決定する。シミュレーション計算、および探索アルゴリズムの実行は、ファンクションジェネレータ1に入力波形の指示を行う演算処理部24により行われる。これにより最適化された入力波形を、試料に印加し、オシロスコープ6により、動的な応答信号の測定を行う。
【実施例5】
【0059】
本実施例では、入力波形を修正しながら動的な応答信号の測定を行う場合を説明する。以下、実施例1乃至4との相違点を中心に説明する。
【0060】
図8は、本実施例の微小電子デバイス特性評価用プローバ装置の概略図である。本実施例では、探針3を、各コンタクト8に接触させた後、ドレインには、1Vの電圧を印加し、基板には、0Vの電圧を印加する。ゲートには、ファンクションジェネレータ1により、自動的に繰り返し、信号を入力する。この時、試料4からの出力波形を、繰り返し取得し、この波形が矩形となるように、入力波形を修正しながら、動的な応答信号の測定を行う。入力波形の修正は、オシロスコープ6からの信号情報を受けた演算処理部24で行う。演算処理部24からファンクションジェネレータ1に修正結果を送ることにより、発生する入力波形を整形する。