特許第6412824号(P6412824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6412824
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】レンチキュラー印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03B 35/00 20060101AFI20181015BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20181015BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   G03B35/00 A
   B41M5/00
   B41J2/01 501
   B41J2/01 123
【請求項の数】7
【全頁数】66
(21)【出願番号】特願2015-94423(P2015-94423)
(22)【出願日】2015年5月1日
(65)【公開番号】特開2016-212199(P2016-212199A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年8月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】幕田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】車 彦龍
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌史
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−058967(JP,A)
【文献】 特開2009−104154(JP,A)
【文献】 特開平10−291361(JP,A)
【文献】 特開2009−127132(JP,A)
【文献】 特開2002−370347(JP,A)
【文献】 特開2010−237318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 35/00
B41J 2/01
B41M 5/00、5/50,5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層と、前記樹脂層上に積層された吸水層とを有し、レンチキュラーレンズを備えていない記録媒体を用い、前記記録媒体の前記吸水層に対し、水及び着色剤を含有する水性インクをインクジェット方式で付与して視差画像を形成する工程と、
前記記録媒体の前記視差画像が形成された吸水層側にレンチキュラーレンズを貼り合わせる工程と、
を有するレンチキュラー印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記記録媒体の前記吸水層に対し、前記水性インクを付与する前に前記水性インク中の成分を凝集させる処理液を付与する請求項1に記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記水性インクが、粒子を含む請求項1又は請求項2に記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記視差画像を形成する工程は、解像度が1200dpi以上であり、かつ、最小液滴サイズが3pl以下であるインクジェット方式で前記水性インクを付与する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記吸水層が、ボイドを有する層である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記吸水層が、粒子を含む層である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
【請求項7】
前記インクジェット方式がシングルパス方式である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンチキュラー印刷物の製造方法及びレンチキュラー印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立体画像や、見る方向によって表示内容が切り替わる印刷物として、レンチキュラーレンズと視差画像(レンチキュラー画像)とを組み合わせたレンチキュラー印刷物が知られている。
レンチキュラー印刷物は、例えば、紙に視差画像を印刷し、半円柱形のレンズが平行に配置されたレンチキュラーレンズを貼り合わせるか、あるいは、レンチキュラーレンズの凸状レンズとは反対側の平面に直接視差画像を印刷して製造される。
【0003】
視差画像の印刷には、一般的にオフセット印刷が使用されているが、版の作製が必要であり、また、色合わせのための損紙が発生する。
一方、インクジェット方式により視差画像を形成してレンチキュラー印刷物を製造する方法が提案されている。インクジェット方式によって視差画像を形成すれば、オフセット印刷で使用する版の作製が不要であり、損紙の発生を抑制することができる。
【0004】
特許文献1には、4連のインクジェットヘッドにより300dpi(dots per inch)で視差画像を形成した用紙にレンチキュラーレンズを形成するための透明フィルムを重ね合わせた後、透明フィルム上に紫外線硬化性インクをインクジェットヘッドによって吐出し、紫外線を照射してレンチキュラーレンズを形成する立体画像印刷装置が開示されている。
れている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、透明な基材の片面の一部に形成されたレンチキュラーレンズ、レンチキュラーレンズが形成されていない基材の延在部における反対側の面(裏面)にインクジェット紙等の用紙等を備えた印刷媒体が開示されている。この印刷媒体の延在部における裏面にインクを付与して視差画像を形成した後、レンチキュラーレンズの裏面側(平面側)に配置されるように折り曲げることで角度によって画像が変化する葉書を作成することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−237318号公報
【特許文献2】特開2009−58967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示されているようにインクジェット法により視差画像を形成した用紙に透明フィルムを重ねた後、透明フィルム上に紫外線硬化性インクを用いてインクジェット法によりレンチキュラーレンズを形成する方法では、レンチキュラーレンズを形成するための特殊な装置が必要であり、レンチキュラー印刷物を容易に製造することができない。
【0008】
また、特許文献2に開示されている印刷媒体では、レンチキュラーレンズと用紙が予め一体化されているため、延在部の用紙に視差画像を印刷した後、折り曲げて視差画像とレンチキュラーレンズとを貼り合わせる際に、視差画像とレンチキュラーレンズとの位置合わせに制約があり、視差画像とレンチキュラーレンズとの位置が合わない事態が生じ易い。また、延在部の用紙にインクジェット法によって印刷する際、レンチキュラーレンズもインクジェット装置の内部を通過するため、レンチキュラーレンズの凸状面側にキズがつく恐れがある。
【0009】
本発明は、高画質で画像の切り替えが良好なレンチキュラー印刷物を容易に製造することができるレンチキュラー印刷物の製造方法及びそれにより製造されたレンチキュラー印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> 樹脂層と、樹脂層上に積層された吸水層とを有し、レンチキュラーレンズを備えていない記録媒体を用い、記録媒体の吸水層に対し、水及び着色剤を含有する水性インクをインクジェット方式で付与して視差画像を形成する工程と、
記録媒体の視差画像が形成された吸水層側にレンチキュラーレンズを貼り合わせる工程と、
を有するレンチキュラー印刷物の製造方法。
<2> 記録媒体の吸水層に対し、水性インクを付与する前に水性インク中の成分を凝集させる処理液を付与する<1>に記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
<3> 水性インクが、粒子を含む<1>又は<2>に記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
<4> 視差画像を形成する工程は、解像度が1200dpi以上であり、かつ、最小液滴サイズが3pl以下であるインクジェット方式で水性インクを付与する<1>〜<3>のいずれか1つに記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
<5> 吸水層が、ボイドを有する層である<1>〜<4>のいずれか1つに記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
<6> 吸水層が、粒子を含む層である<1>〜<5>のいずれか1つに記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
<7> インクジェット方式がシングルパス方式である<1>〜<6>のいずれか1つに記載のレンチキュラー印刷物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高画質で画像の切り替えが良好なレンチキュラー印刷物を容易に製造することができるレンチキュラー印刷物の製造方法及びそれにより製造されたレンチキュラー印刷物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明において記録媒体として用いることができる合成紙の構成の一例を示す概略図である。
図2】本発明において記録媒体として用いることができるインクジェット専用紙の構成の一例を示す概略図である。
図3】本発明において用いることができるインクジェット記録装置の全体構成の一例を示す概略図である。
図4】インクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
図5】ヘッドの要部の構造の一例を示す底面図である。
図6図5に示すヘッドの一部を拡大した拡大図である。
図7】実施例で製造したレンチキュラー印刷物の一部分を拡大して示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施態様について詳細に説明する。なお、以下の説明において符号は省略する場合がある。
なお、以下の本明細書の記載において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を包括的に含むことを意味し、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両者を包括的に含むことを意味する。
【0014】
本発明のレンチキュラー印刷物の製造方法は、樹脂層と、樹脂層上に積層された吸水層とを有する記録媒体を用い、記録媒体の吸水層に対し、水及び着色剤を含有する水性インク(以下、単に「インク」と記す場合がある。)をインクジェット方式で付与して視差画像を形成する工程(以下、「視差画像形成工程」と記す場合がある。)と、記録媒体の視差画像が形成された吸水層側にレンチキュラーレンズを貼り合わせる工程(以下、「貼り合わせ工程」と記す場合がある。)と、を有する。
【0015】
インクジェット方式によりコート紙等の紙に視差画像を形成した後、レンチキュラーレンズを貼り合わせると、インクの吸収によって紙が変形し、視差画像の位置とレンチキュラーレンズの位置がずれてしまう場合がある。視差画像の位置とレンチキュラーレンズの位置がずれたレンチキュラー印刷物では、見る角度による印刷画像の切り替わり(チェンジング)が悪く、画像が単独で表示され難い。
【0016】
本発明では、樹脂層と、樹脂層上に積層された吸水層とを有する記録媒体を用い、水及び着色剤を含有する水性インクによりインクジェット方式で視差画像を形成する。記録媒体の吸水層に水性インクを付与するとインクに含まれる水分は吸水層に浸透し、着色剤は吸水層に保持される。吸水層に吸収された水分は樹脂層によって遮られるため、樹脂層に対し、吸水層とは反対側の基材の一部を構成する基紙(原紙)が配置されていても基紙には水分が浸透せず、水分の吸収による記録媒体の変形が抑制される。そのため、視差画像を形成した後の記録媒体にレンチキュラーレンズを貼り合わせるときに視差画像とレンチキュラーレンズとの位置ずれが生じ難く、画像の切り替わりが良好なレンチキュラー印刷物を得ることができると考えられる。
以下、本発明における視差画像形成工程及び貼り合わせ工程、並びに、各工程で用いる構成材料等について具体的に説明する。
【0017】
[視差画像形成工程]
視差画像形成工程では、樹脂層と、樹脂層上に積層された吸水層とを有する記録媒体を用い、記録媒体の吸水層に対し、水及び着色剤を含有する水性インクをインクジェット方式で付与して視差画像を形成する。
【0018】
<記録媒体>
本発明で用いる記録媒体について説明する。本発明では、樹脂層と、樹脂層上に積層された吸水層とを有する記録媒体を用いる。
本発明で用いる記録媒体の樹脂層は主に樹脂によって形成されており、水性インクに含まれる水と接触しても変形しない層である。樹脂層は、記録媒体の基材の少なくとも一部を構成する層であることが好ましい。
一方、吸水層は、ボイド及び粒子の少なくとも一方を有することで多孔質構造が形成された吸水層であることが好ましい。なお、ボイドによる多孔質構造は、吸水層を構成するフィルム等に微小な空孔が形成されていることを意味し、粒子による多孔質構造は、吸水層に含まれる粒子間に空隙が形成されていることを意味する。
記録媒体として、具体的には、樹脂基材に吸水層が積層された構造を有する合成紙、基紙と樹脂層から構成された基材の樹脂層上に吸水層が積層された構造を有するインクジェット専用紙を好適に使用することができる。
【0019】
(合成紙)
図1は、本発明において記録媒体として用いることができる合成紙の構成の一例を示す概略図である。図1に示す合成紙300は、樹脂基材310の両面に吸水層320A,320Bが積層された構造を有する。
【0020】
−樹脂基材−
樹脂基材310は、主に樹脂によって形成され、吸水層を支持し、かつ、合成紙としての強度を保つ層として機能する。
樹脂基材を構成する樹脂としては、吸水層を支持することができれば特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂等が挙げられる。
【0021】
樹脂基材の厚みは限定されないが、吸水層を支持する支持体としての強度を有し、また、軽量化、生産性、製造コストの抑制等の観点から、例えば、50〜500μmとすることができる。
【0022】
−吸水層−
吸水層320A,320Bは多数のボイドを有し、視差画像を形成するための水性インクが付与されたときに、水性インクに含まれる水分を吸収し、かつ、水性インクに含まれる着色剤を保持する紙状層である。吸水層は、例えば、樹脂基材に含まれる樹脂と同様の樹脂を含んで構成することができる。
【0023】
図1に示す構成を有する合成紙300を製造する方法は特に限定されないが、例えば、二軸延伸フィルム方式によって多数のボイドを有する吸水層を形成することができる。具体的には、樹脂基材を形成するための原料として、樹脂、無機粒子等を含む樹脂組成物を溶融押出しし、縦延伸を行って樹脂基材形成用一軸延伸フィルムとする。一方、吸水層を形成するための原料として、樹脂、無機粒子等を含む樹脂組成物を溶融押出しし、縦延伸した樹脂基材形成用一軸延伸フィルムの両面に積層して三層構造とした後、横延伸を行う。これにより樹脂基材は縦方向及び横方向に延伸配向されることで強度や剛性などの機械的特性の高い層となる。一方、表裏を構成する吸水層は横方向にのみ延伸配向された紙状層となる。また、各層には延伸工程において無機粒子を起点としたボイドが形成され、樹脂基材の両面にボイドを有する吸水層が積層された合成紙が得られる。
【0024】
このような構成を有する合成紙は、多数のボイドによって光が乱反射し、高い白色度と不透明度が得られる。また、ボイドの形成により、比重が下がり、軽量化に寄与する。また、樹脂基材は縦方向と横方向に延伸されるため、縦方向と横方向にほぼ均等な形状のボイドが形成されるのに対し、吸水層は横方向のみに延伸されるため、樹脂基材に形成されたボイドよりも横方向に長いボイドが形成される。樹脂基材に形成されているボイドよりも吸水層に形成されているボイドの方が大きければ吸水層に水性インクが付与されたときに水分が吸水層に速やかに吸収される。
【0025】
なお、樹脂基材及び吸水層を形成するための樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂等が挙げられる。一方、各層に含まれる無機粒子としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料等が挙げられる。
【0026】
吸水層の厚みも限定されないが、水性インクが付与されたときに水分を速やかに吸収し、また、軽量化、生産性、製造コストの抑制等の観点から、例えば、10〜100μmとすることができる。樹脂基材の厚みは30μm〜480μmとする事ができる。
【0027】
なお、吸水層は、樹脂基材の両面に形成されている必要はなく、樹脂基材の片面のみに吸水層が積層された合成紙を用いてもよい。
また、樹脂基材には必ずしもボイドが形成さている必要なく、ボイドを有さない樹脂基材の少なくとも片面に吸水層が形成されている合成紙を用いてもよい。例えば、図1に示す構成を有する合成紙を二軸延伸フィルム方式によって作製する際、樹脂基材を形成する原料として無機粒子を含まない樹脂組成物を用いて溶融押出し工程及び延伸工程を行えば、ボイドを有さない樹脂基材と多孔質吸水層が積層された合成紙を製造することができる。
【0028】
本発明では、記録媒体として、吸水層及び樹脂基材を有する市販の合成紙を用いてもよい。
本発明で使用できる市販の合成紙として、具体的には、アクアユポ(登録商標)LAR75、LAR95、ユポジェット(登録商標)VJFP120、VJFP170、VJFP190、印字用ユポコート(登録商標)VIF70、VIF90、VIF120、VIF140、VIS90、VIS120、VSF90、VSF120、VSS90、VSS120、VIFW100、VIFW115(いずれも(株)ユポ・コーポレーション製)等が挙げられる。
【0029】
また、TESLIN(登録商標、PPG社製)、PEPA(NANYA社製)、クリスパー(登録商標、東洋紡(株))など、表面層としてボイドを有する多孔質吸水層を有する合成紙も使用することができる。
【0030】
(インクジェット専用紙)
本発明では、記録媒体として、基紙と樹脂層から構成された基材の樹脂層上に吸水層が積層された構造を有するインクジェット専用紙を用いることもできる。
【0031】
図2は、本発明において記録媒体として用いることができるインクジェット専用紙の構成の一例を概略的に示している。図2に示すインクジェット専用紙400は、基紙402の両面に樹脂層404,406が形成された基材410と、基材410の片面側(樹脂層404上)に吸水層420が積層された層構成を有する。吸水層420は、多数の粒子とバインダーとしての樹脂が含まれており、粒子間の空隙によって多孔質構造が形成されている。
かかる構成を有するインクジェット専用紙であれば、吸水層側に水性インクが付与されたときにインク中の水分が吸水層に吸収されるが、樹脂層によって内部の基紙までは到達しないため、用紙の変形を効果的に抑制することができる。
【0032】
なお、樹脂層は必ずしも基紙402の両面に設けられている必要はなく、少なくとも基紙402と吸水層420との間に樹脂層404が配置されていればよい。
以下、本発明において記録媒体として用いることができるインクジェット専用紙について詳細に説明する。
【0033】
−基材−
本発明で用い得るインクジェット専用紙を構成する基材410は、基紙402の少なくとも吸水層420が形成される側(つまり基紙の片側又は両側)の表面が被覆されるようにポリオレフィン樹脂層が設けられている。
【0034】
吸水層が形成される側のポリオレフィン樹脂層の層厚は20〜60μmの範囲が好ましい。より好ましくは35〜60μmである。ポリオレフィン樹脂層の層厚が上記範囲であると、生産性の向上、コスト低減の点でも好ましい。
中でも、吸水層が形成される側のポリオレフィン樹脂層の層厚を40〜55μmの範囲とした態様が好ましい。
【0035】
基紙の片側又は両側の表面にポリオレフィン樹脂層を設ける方法としては、溶融押出し、ウェットラミネーション、ドライラミネーションがあるが、溶融押出しが最も好ましい。例えば、走行する基紙上に押出ダイから押し出されたポリオレフィン樹脂を、ニップローラと冷却ローラとの間のニップ点において基紙が被覆されるように樹脂膜を形成すると共に、ニップして圧着することで樹脂膜を基紙にラミネートする押出ラミネート法(押出コーティング方法ともいう。)を採用することができる。
【0036】
溶融押出しによりポリオレフィン樹脂層を形成する場合は、ポリオレフィン樹脂層の基紙上への溶融押出し前に、基紙とポリオレフィン樹脂層との接着を強固にするために基紙に前処理を施しておくことが好適である。
前処理としては、硫酸クロム酸混液による酸エッチング処理、ガス炎による火炎処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、グロー放電処理、アルキルチタネート等のアンカーコート処理等があり、自由に選択できる。特に簡便さの点からは、コロナ処理が好ましい。コロナ処理の場合、水との接触角が70°以下になるように処理する必要がある。
【0037】
アンカーコート剤としては、有機チタン系、イソシアネート系(ウレタン系)ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系等が知られている。具体的には、有機チタン系としては、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラステアリルチタネート等のアルキルチタネート、ブトキシチタニウムステアレート等のチタンアシレート、チタニウムアセチルアセトネート等のチタンキレート等が知られている。また、イソシアネート系(ウレタン系)としては、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が知られている。
【0038】
特に、押出ラミネート法による場合に、基紙上にポリオレフィン樹脂を溶融押出した後、ニップ圧が2MPa以上である弾性ロール及び冷却ロール間を通過させてラミネートを施すことにより好適にポリオレフィン樹脂層を形成することができる。
【0039】
基紙にラミネートされた樹脂膜の表面には微細な細孔(以下、「クレータ」と称する。)ができることがあるが、クレータの数が多いと外観を損なうだけでなく光沢感も低下する。クレータの発生は、冷却ローラが回転する際に発生する同伴空気の影響を受け、樹脂膜と冷却ローラとの間のエリアに同伴空気が溜まって樹脂膜に凹状のへこみができることが原因と考えられる。弾性ロール及び冷却ロール間のニップ圧力が小さいほど、並びに更にはラミネート時のライン速度が大きいほど、樹脂膜の厚みが薄いほど、押出ダイからの樹脂の吐出温度が低いほど、及び基紙の表面粗さが粗いほど、クレータが発生しやすい。
弾性ロール及び冷却ロール間のニップ圧を2MPa以上とすることで、クレータの発生が抑制され、平滑で光沢感の良好な平面性を確保することができる。好ましくは、ニップ圧は3MPa以上であり、また、上限値としては8MPaが望ましい。
【0040】
基紙に設けられるポリオレフィン樹脂層としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のα−オレフィンの単独重合体、及びこれら各種の重合体の混合物、あるいはエチレンとビニルアルコールのランダム共重合体などが好適である。
ポリエチレンとしては、例えば、LDPE(低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、L−LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)を各々単独、又は混合して用いることができる。ポリエチレンを用いる場合、加工前のメルトフローレートは、JIS 7201にしたがって測定された値で、1.2〜12g/10分のものが好ましい。
【0041】
ポリオレフィン(例えばポリエチレン)よりなるポリオレフィン樹脂層、例えばポリエチレン樹脂層を設けた構成とする場合、インクジェット専用紙を作製する際に基紙の吸水層が形成される側のポリエチレン樹脂層は、ルチル又はアナターゼ型の酸化チタン、蛍光増白剤、群青をポリエチレン中に添加し、不透明度、白色度及び色相を改良した樹脂層であることが好ましい。ポリエチレン樹脂層における酸化チタンの含有量としては、ポリエチレンに対して3〜20質量%が好ましく、4〜13質量%がより好ましい。
【0042】
さらに、ポリオレフィン樹脂層上には、画像の記録を担う吸水層との密着性を付与する目的で、下塗り層を設けることもできる。下塗り層としては、水性ポリエステル、ゼラチン、ポリビニルアルコール(PVA)が好ましく、下塗り層の厚みとしては0.01〜5μmが好ましい。
【0043】
本発明で用いることができるインクジェット専用紙における基紙は、吸水層が形成される一方の側の表面又は両側の各表面の少なくとも一部がポリオレフィン(例えばポリエチレン)で被覆されているときには、ポリオレフィン樹脂被覆紙(例えばポリエチレン被覆紙)なる支持体として構成され、光沢紙として用いることができる。また、ポリエチレン等のポリオレフィンを基紙上に溶融押し出してコーティングする際に、いわゆる型付け処理を行なって通常の写真印画紙で得られるようなマット面や絹目面を形成した形態の支持体として使用することもできる。
【0044】
本発明におけるインクジェット専用紙を構成する基紙の一方の面のみに吸水層が形成されている場合、吸水層が形成される側と逆側の表面にはバックコート層を設けることもできる。バックコート層は、白色顔料や水性バインダー、その他の成分を添加、含有させて構成することができる。
【0045】
バックコート層に添加可能な白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。
【0046】
バックコート層に添加可能な水性バインダーとしては、例えば、スチレン/マレイン酸塩共重合体、スチレン/アクリル酸塩共重合体、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、澱粉、カチオン化澱粉、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。
【0047】
また、バックコート層に添加可能なその他の成分として、消泡剤、抑泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、耐水化剤等を挙げることができる。
【0048】
−吸水層−
次に、インクジェット専用紙の画像形成面を構成する吸水層について詳述する。
本発明で用い得るインクジェット専用紙は、基材410を構成する樹脂層404上に吸水層420を有し、必要に応じて他の層を有する。
【0049】
吸水層は、例えば、水溶性樹脂と粒子とで構成することができ、好ましくは、水溶性樹脂と、粒子と、水溶性樹脂を架橋し得る架橋剤と、必要に応じて媒染剤と、その他成分(界面活性剤等)とを用いて構成することができる。
なお、本明細書中において、「水溶性」とは、水に一定濃度以上溶解できる性質を指す。「水溶性」としては、25℃の水100gに対して5g以上(より好ましくは10g以上)溶解する性質が好ましい。
【0050】
吸水層は、粒子を含有することにより多孔質構造を有し、これにより水吸収性能が向上する。特に、粒子の吸水層における固形分含有量が50質量%以上、より好ましくは60質量%を超えていると、更に良好な多孔質構造とすることが可能となり、水吸収性をより向上させることができる。ここで、粒子の吸水層における固形分含有量は、吸水層を構成する組成物中の水以外の成分に基づき算出される含有量である。
【0051】
吸水層は、空隙率が50〜75%、好ましくは60〜70%であることが好ましい。吸水層の空隙率が50%以上であると水性インクを付与されたときの水吸収性が充分となり、75%以下であると、吸水層からの粒子の脱落を抑制することができる。
また、水吸収性の観点から、吸水層の層厚は20〜40μmであることが好ましい。
【0052】
−粒子−
吸水層に含まれる粒子としては、有機粒子及び無機粒子のいずれをも用いることができる。
有機粒子の好ましいものとして、例えば、乳化重合、マイクロエマルジョン系重合、ソープフリー重合、シード重合、分散重合、懸濁重合などにより得られるポリマー粒子が挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリアミド、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、天然高分子等の粉末、ラテックス又はエマルジョン状のポリマー粒子等が挙げられる。
【0053】
無機粒子としては、例えば、シリカ粒子、コロイダルシリカ、二酸化チタン、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、雲母、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、擬ベーマイト、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、アルミナ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化イットリウム等が挙げられる。
【0054】
水吸収性及び画像安定性の点から無機粒子が好ましく、さらに良好な多孔質構造を形成する点から、シリカ粒子、コロイダルシリカ、アルミナ粒子、又は擬ベーマイトが好ましい。粒子は1次粒子のまま用いても、複数の1次粒子が凝集して2次粒子を形成した状態で使用してもよい。
吸水層に含まれる粒子の平均一次粒子径は2μm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
【0055】
シリカ粒子は、通常その製造法により湿式法粒子と乾式法(気相法)粒子とに大別される。湿式法では、ケイ酸塩の酸分解により活性シリカを生成し、これを適度に重合させ凝集沈降させて含水シリカを得る方法が主流である。一方、気相法は、ハロゲン化珪素の高温気相加水分解による方法(火炎加水分解法)、ケイ砂とコークスとを電気炉中でアークによって加熱還元気化し、これを空気で酸化する方法(アーク法)によって無水シリカを得る方法が主流であり、「気相法シリカ」とは、気相法によって得られた無水シリカ粒子を意味する。吸水層に含まれるシリカ粒子としては、特に気相法シリカ粒子が好ましい。
【0056】
気相法シリカは、含水シリカと表面のシラノール基の密度、空孔の有無等に相違があり、異なった性質を示すが、空隙率が高い三次元構造を形成するのに適している。この理由は明らかではないが、含水シリカの場合には、粒子表面におけるシラノール基の密度が5〜8個/nm2で多く、シリカ粒子が密に凝集(アグリゲート)し易い。一方、気相法シリカの場合には、粒子表面におけるシラノール基の密度が2〜3個/nm2であり少ないことから疎な軟凝集(フロキュレート)となり、その結果、空隙率が高い構造になるものと推定される。
【0057】
気相法シリカは、比表面積が特に大きいので、インクの吸収性、保持の効率が高く、また、屈折率が低いので、適切な粒子径まで分散を行なえば吸水層に透明性を付与でき、高い色濃度と良好な発色性が得られる。吸水層が透明であることは、高い色濃度と良好な発色性光沢を得る観点で重要である。
【0058】
気相法シリカの平均一次粒子径としては、30nm以下が好ましく、20nm以下が更に好ましく、10nm以下が特に好ましく、3〜10nmが最も好ましい。気相法シリカは、シラノール基による水素結合によって粒子同士が付着しやすいため、平均一次粒子径が30nm以下の場合に空隙率の大きい構造を好適に形成することができ、水吸収性を効果的に向上させることができる。
【0059】
シリカ粒子は、前述の他の粒子と併用してもよい。他の粒子と気相法シリカとを併用する場合、全粒子中の気相法シリカの含有量は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
【0060】
無機粒子としては、アルミナ粒子、アルミナ水和物、これらの混合物又は複合物も好ましい。このうち、アルミナ水和物は、水をよく吸収し、着色剤が定着すること等から好ましく、特に擬ベーマイト(Al23・nH2O)が好ましい。アルミナ水和物は、種々の形態のものを用いることができるが、容易に平滑な層が得られることからゾル状のベーマイトを原料として用いることが好ましい。
【0061】
擬ベーマイトの細孔構造については、平均細孔半径は1〜25nmが好ましく、2〜10nmがより好ましい。また、細孔容積は0.3〜2.0ml/gが好ましく、0.5〜1.5ml/gがより好ましい。ここで、細孔半径及び細孔容積は、窒素吸脱着法により測定されるもので、例えば、ガス吸脱着アナライザー(例えば、コールター社製の商品名「オムニソープ369」)を用いて測定できる。
【0062】
アルミナ粒子の中では、気相法アルミナ粒子が比表面積が大きく好ましい。気相法アルミナ粒子の平均一次粒子径は50nm以下が好ましく、20nm以下が更に好ましい。また更に、平均一次粒子径が50nm以下のコロイダルシリカも好ましいものとして挙げられる。
【0063】
上述の粒子は、例えば、特開平10−81064号、特開平10−119423号、特開平10−157277号、特開平10−217601号、特開平11−348409号、特開2001−138621号、特開2000−43401号、特開2000−211235号、特開2000−309157号、特開2001−96897号、特開2001−138627号、特開平11−91242号、特開平8−2087号、特開平8−2090号、特開平8−2091号、特開平8−2093号、特開平8−174992号、特開平11−192777号、特開2001−301314号等の公報に開示された態様でも、好ましく用いることができる。
【0064】
−水溶性樹脂(水溶性高分子)−
吸水層は、水溶性樹脂(水溶性高分子)を含有することが好ましく、水溶性樹脂としては、例えば、親水性構造単位としてヒドロキシ基を有する樹脂であるポリビニルアルコール系樹脂〔ポリビニルアルコール(PVA)、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール等〕、セルロース系樹脂〔メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等〕、キチン類、キトサン類、デンプン、エーテル結合を有する樹脂〔ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE)等〕、カルバモイル基を有する樹脂〔ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸ヒドラジド等〕等が挙げられる。中でもポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、エーテル結合を有する樹脂、カルバモイル基を有する樹脂、カルボキシル基を有する樹脂、及びゼラチン類が好ましい。
また、解離性基としてカルボキシル基を有するポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類等も挙げることができる。
【0065】
以上の中でも、特にポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。ポリビニルアルコールの例としては、特公平4−52786号、特公平5−67432号、特公平7−29479号、特許第2537827号、特公平7−57553号、特許第2502998号、特許第3053231号、特開昭63−176173号、特許第2604367号、特開平7−276787号、特開平9−207425号、特開平11−58941号、特開2000−135858号、特開2001−205924号、特開2001−287444号、特開昭62−278080号、特開平9−39373号、特許第2750433号、特開2000−158801号、特開2001−213045号、特開2001−328345号、特開平8−324105号、特開平11−348417号等に記載されたものなどが挙げられる。
【0066】
吸水層に含まれる水溶性樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。水溶性樹脂の含有量としては、吸水層の全固形分質量に対して、9〜40質量%が好ましく、12〜33質量%がより好ましい。
【0067】
インクジェット専用紙の吸水層を主として構成する水溶性樹脂と粒子は、それぞれ単一素材であってもよいし、複数の素材の混合系を使用してもよい。
なお、透明性を保持する観点からは、粒子、特にシリカ粒子と組合わされる水溶性樹脂の種類が重要となる。気相法シリカを用いる場合には、水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましく、その中でも、鹸化度70〜100%のポリビニルアルコール系樹脂がより好ましく、鹸化度80〜99.5%のポリビニルアルコール系樹脂が特に好ましい。
【0068】
ポリビニルアルコール系樹脂は、その構造単位に水酸基を有するが、この水酸基とシリカ粒子の表面のシラノール基とが水素結合を形成するため、シリカ粒子の二次粒子を網目鎖単位とした三次元網目構造を形成し易くなる。三次元網目構造の形成によって、空隙率が高く十分な強度のある多孔質構造の吸水層が形成されると考えられる。
インクジェット記録において、上述のようにして得られた多孔質の吸水層は、水性インクが付与されたときに毛細管現象によって急速に水分を吸収し、インク滲みの発生しない真円性の良好なドットを形成することができる。
【0069】
また、ポリビニルアルコール系樹脂は、その他の水溶性樹脂を併用してもよい。他の水溶性樹脂とポリビニルアルコール系樹脂とを併用する場合、全水溶性樹脂中、ポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上が更に好ましい。
【0070】
−粒子と水溶性樹脂との含有比−
吸水層における粒子の質量(x)と水溶性樹脂の質量(y)との質量比〔PB比;=x/y〕は、吸水層の膜構造及び膜強度にも大きな影響を与える。すなわち、質量比(PB比)が大きくなると、空隙率、細孔容積、表面積(単位質量当り)が大きくなるが、密度や強度は低下する傾向にある。
吸水層におけるPB比(x/y)としては1.5〜10が好ましい。PB比が10以下であれば、PB比が大き過ぎることに起因する、膜強度の低下や乾燥時のひび割れが防止される。また、PB比が1.5以上であれば、PB比が小さ過ぎることによって、空隙が樹脂によって塞がれ易くなり、空隙率が減少することで水吸収性が低下することを防止することができる。
【0071】
インクジェットプリンタの搬送系を通過する際、インクジェット専用紙に応力が加わることがあるので、吸水層は十分な膜強度を有していることが必要である。シート状に裁断加工する場合にも吸水層の割れや剥がれ等を防止する点からも、吸水層は充分な膜強度を有していることが必要である。これらを考慮すると、PB比は5以下がより好ましく、一方でインクジェットプリンタでの高速水吸収性を確保する観点からは2以上がより好ましい。
【0072】
例えば、平均一次粒子径が20nm以下の気相法シリカ粒子と水溶性樹脂とをPB比(x/y)2〜5で水溶液中に十分に分散した塗布液を基材上に塗布、乾燥させた場合、シリカ粒子の二次粒子を網目鎖とする三次元網目構造が形成され、その平均細孔径が25nm以下、空隙率が50〜80%、細孔比容積が0.5ml/g以上、比表面積が100m2/g以上である、透光性の多孔質膜(吸水層)を容易に形成することができる。
【0073】
−架橋剤−
吸水層は、粒子及び水溶性樹脂を含む塗布層が、更に水溶性樹脂を架橋し得る架橋剤を含み、架橋剤と水溶性樹脂との架橋反応によって硬化された多孔質層である態様が好ましい。
【0074】
水溶性樹脂、特にポリビニルアルコール系樹脂の架橋には、ホウ素化合物が好ましい。ホウ素化合物としては、例えば、硼砂、硼酸、硼酸塩(例えば、オルト硼酸塩、InBO3、ScBO3、YBO3、LaBO3、Mg3(BO32、Co3(BO32、二硼酸塩(例えば、Mg225、Co225)、メタ硼酸塩(例えば、LiBO2、Ca(BO22、NaBO2、KBO2)、四硼酸塩(例えば、Na247・10H2O)、五硼酸塩(例えば、KB58・4H2O、Ca2611・7H2O、CsB55)等を挙げることができる。中でも、速やかに架橋反応を起こすことができる点で、硼砂、硼酸、硼酸塩が好ましく、特に硼酸が好ましい。
【0075】
水溶性樹脂の架橋剤として、ホウ素化合物以外の下記化合物を使用することもできる。
例えば、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタールアルデヒド等のアルデヒド系化合物;ジアセチル、シクロペンタンジオン等のケトン系化合物;ビス(2−クロロエチル尿素)−2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジクロロ−6−S−トリアジン・ナトリウム塩等の活性ハロゲン化合物;ジビニルスルホン酸、1,3−ビニルスルホニル−2−プロパノール、N,N'−エチレンビス(ビニルスルホニルアセタミド)、1,3,5−トリアクリロイル−ヘキサヒドロ−S−トリアジン等の活性ビニル化合物;ジメチロ−ル尿素、メチロールジメチルヒダントイン等のN−メチロール化合物;メラミン樹脂(例えば、メチロールメラミン、アルキル化メチロールメラミン);エポキシ樹脂;
【0076】
1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート系化合物;米国特許明細書第3017280号、同第2983611号に記載のアジリジン系化合物;米国特許明細書第3100704号に記載のカルボキシイミド系化合物;グリセロールトリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物;1,6−ヘキサメチレン−N,N'−ビスエチレン尿素等のエチレンイミノ系化合物;ムコクロル酸、ムコフェノキシクロル酸等のハロゲン化カルボキシアルデヒド系化合物;2,3−ジヒドロキシジオキサン等のジオキサン系化合物;乳酸チタン、硫酸アルミ、クロム明ばん、カリ明ばん、酢酸ジルコニル、酢酸クロム等の金属含有化合物、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物、オキサゾリン基を2個以上含有する低分子又はポリマー等である。
架橋剤は、一種単独でも、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0077】
−媒染剤−
本発明においては、画像の耐水性、耐経時ニジミの更なる向上を図るために、吸水層に媒染剤を含有することが好ましい。媒染剤としては、カチオン性のポリマー(カチオン性媒染剤)等の有機媒染剤、及び水溶性金属化合物等の無機媒染剤のいずれも使用できる。中でも、有機媒染剤が好ましく、特にカチオン性媒染剤が好ましい。
【0078】
少なくとも吸水層の上層部に媒染剤を存在させることによって、アニオン性染料を着色剤として有する水性インクとの間で相互作用が働き、着色剤を安定化させて耐水性や耐経時ニジミを更に改善することができる。
【0079】
カチオン性媒染剤としては、カチオン性の官能基として、第1級〜第3級アミノ基、又は第4級アンモニウム塩基を有するポリマー媒染剤が好適に用いられるが、カチオン性の非ポリマー媒染剤も使用することができる。
ポリマー媒染剤としては、第1級〜第3級アミノ基及びその塩、又は第4級アンモニウム塩基を有する単量体(以下、「媒染剤モノマー」という。)の単独重合体や、媒染剤モノマーと他のモノマー(以下、「非媒染剤ポリマー」という。)との共重合体又は縮重合体として得られるものが好ましい。また、これらのポリマー媒染剤は、水溶性ポリマー、又は水分散性のラテックス粒子のいずれの形態でも使用できる。
【0080】
媒染剤モノマーとしては、例えば、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチル−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチル−m−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−n−プロピル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−n−オクチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−(4−メチル)ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−フェニル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド;
【0081】
トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムスルホネート、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムスルホネート、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムアセテート、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムアセテート、N,N,N−トリエチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリエチル−N−2−(3−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムアセテート;
【0082】
N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドのメチルクロライド、エチルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、メチルアイオダイド若しくはエチルアイオダイドによる4級化物、又はそれらのアニオンを置換したスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、酢酸塩若しくはアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。
【0083】
具体的な化合物としては、例えば、モノメチルジアリルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(アクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(アクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(メタクリロイルオキシ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(メタクリロイルオキシ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(メタクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(アクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(アクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(メタクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(メタクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド;
【0084】
N,N−ジメチル−N−エチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムブロマイド、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムブロマイド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムスルホネート、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムアセテート等を挙げることができる。
その他、共重合可能なモノマーとして、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール等も挙げられる。
【0085】
また、アリルアミンやジアリルアミン、その誘導体、塩なども利用できる。このような化合物の例としてはアリルアミン、アリルアミン塩酸塩、アリルアミン酢酸塩、アリルアミン硫酸塩、ジアリルアミン、ジアリルアミン塩酸塩、ジアリルアミン酢酸塩、ジアリルアミン硫酸塩、ジアリルメチルアミン及びその塩(塩としては、例えば、塩酸塩、酢酸塩、硫酸塩など)、ジアリルエチルアミン及びその塩(塩としては、例えば、塩酸塩、酢酸塩、硫酸塩など)、ジアリルジメチルアンモニウム塩(塩の対アニオンとしてはクロライド、酢酸イオン硫酸イオンなど)等が挙げられる。尚、これらのアリルアミン及びジアリルアミン誘導体はアミンの形態では重合性が劣るので塩の形で重合し、必要に応じて脱塩することが一般的な製法である。
また、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミドなどの重合単位を用い、重合後に加水分解によってビニルアミン単位とすること、及びこれを塩にしたものも利用できる。
【0086】
非媒染剤モノマーとは、第1級〜第3級アミノ基及びその塩、又は第4級アンモニウム塩基等の塩基性あるいはカチオン性部分を含まず、インクジェット用インク中の染料と相互作用を示さない、あるいは相互作用が実質的に小さい単量体をいう。
非媒染剤モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル等のアラルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;酢酸アリル等のアリルエステル類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン含有単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;エチレン、プロピレン等のオレフィン類、等が挙げられる。
【0087】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル部位の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、具体的には例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの中でも、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレートが好ましい。非媒染剤モノマーも、一種単独で又は二種以上を組合わせて使用できる。
【0088】
更に、カチオン性媒染剤として、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリメタクリロイルオキシエチル−β−ヒドロキシエチルジメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン及びその誘導体、ポリアミド−ポリアミン樹脂、カチオン化でんぷん、ジシアンジアミドホルマリン縮合物、ジメチル−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム塩重合物、ポリアミジン、ポリビニルアミン、ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系カオチン樹脂、ジシアンアミド−ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系カオチン樹脂、エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリンアンモニウムクロリド−SO2共重合物、ジアリルアミン塩−SO2共重合物、第4級アンモニウム塩基置換アルキル基をエステル部分に有する(メタ)アクリレート含有ポリマー、第4級アンモニウム塩基置換アルキル基を有するスチリル型ポリマー等も好ましいものとして挙げることができる。
【0089】
ポリアリルアミン又はその誘導体としては、公知の各種アリルアミン重合体及びその誘導体が使用できる。このような誘導体としては、ポリアリルアミンと酸との塩(酸としては塩酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、桂皮酸、(メタ)アクリル酸などの有機酸、あるいはこれらの組合わせや、アリルアミンの一部分のみを塩にしたもの)、ポリアリルアミンの高分子反応による誘導体、ポリアリルアミンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(モノマーの具体例としては(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類、(メタ)アクリルアミド類、アクリロニトリル、ビニルエステル類等)が挙げられる。
【0090】
カチオン性媒染剤の中でも、ジアリルジアルキルカチオンポリマーが好ましく、特にジアリルジメチルカチオンポリマーが好ましい。また、カチオン性媒染剤は、分散能、特に増粘の防止の観点から、重量平均分子量が60000以下、特に40000以下のカチオンポリマーが好ましい。
なお、カチオン性媒染剤は既述の粒子の分散剤としても有用である。
【0091】
また、吸水層形成用塗布液中の硫酸イオン濃度としては、液の増粘防止の点から1.5質量%以下が好ましい。硫酸イオンは、カチオン性のポリマー製造時の重合開始剤等に含まれているものであり、ポリマー中に残存することから、硫酸イオンを出さない重合開始剤等を用いてなるカチオン性媒染剤が望ましい。
【0092】
無機媒染剤としては、多価の水溶性金属塩や疎水性金属塩化合物が挙げられる。具体的には、例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジミウム、ネオジミウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、エルビウム、イッテルビウム、ハフニウム、タングステン、ビスマスから選択される金属の塩又は錯体が挙げられる。
【0093】
無機媒染剤の中でも、アルミニウム含有化合物、チタン含有化合物、ジルコニウム含有化合物、元素周期律表第IIIB族シリーズの金属化合物(塩又は錯体)が好ましい。
媒染剤の吸水層中における添加量は、0.01〜5g/m2が好ましく、0.1〜3g/m2がより好ましい。
【0094】
−その他の成分−
上記の成分以外に、吸水層又は吸水層形成用の塗布液(吸水層形成用塗布液)には、必要に応じて更に、各種の公知の添加剤、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、モノマー、重合開始剤、重合禁止剤、滲み防止剤、防腐剤、粘度安定剤、消泡剤、界面活性剤、帯電防止剤、マット剤、カール防止剤、耐水化剤等を含有することができる。
【0095】
その他の成分は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。その他の成分は、水溶性化、分散化、ポリマー分散、エマルション化、油滴化して添加してもよく、マイクロカプセル中に内包することもできる。その他の成分を添加する場合の添加量としては、0.01〜10g/m2が好ましい。
【0096】
また、無機粒子の分散性を改善する目的で、無機粒子の表面をシランカップリング剤で処理してもよい。シランカップリング剤としては、カップリング処理を行なう部位の他に、有機官能性基(例えば、ビニル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、クロロ基、アルキル基、フェニル基、エステル基等)を有するものが好ましい。
【0097】
吸水層形成用塗布液は界面活性剤を含有している態様が好ましい。ここでの界面活性剤には、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、フッ素系、シリコン系界面活性剤のいずれもが含まれる。
【0098】
界面活性剤の吸水層形成用塗布液における総量としては、0.001〜2.0質量%が好ましく、0.01〜1.0質量%がより好ましい。
【0099】
吸水層は、支持体表面に粒子と水溶性樹脂を含有する塗布液を塗布して塗布層を形成し、さらに塗布液及び/又は下記塩基性溶液に架橋剤を添加し、かつ(1)塗布液を塗布して塗布層を形成すると同時、又は(2)塗布液を塗布して形成される塗布層の乾燥途中であって塗布層が減率乾燥を示す前、のいずれかのときに、pHが7.1以上の塩基性溶液を塗布層に付与し、塗布層を架橋硬化させる方法(Wet−on−Wet法)により形成されるのが好ましい。ここで水溶性樹脂を架橋し得る架橋剤は、塗布液あるいは塩基性溶液の少なくとも一方又は両方に含有せしめることが好ましい。このようにして架橋硬化させた吸水層を設けることは、水吸収性や膜のヒビ割れ防止などの観点から好ましい。
【0100】
媒染剤は、吸水層表面からの媒染剤存在部分の厚みが吸水層の厚みに対し10〜60%であるように存在させることが望ましい。例えば、(1)粒子、水溶性樹脂、架橋剤を含む塗布層を形成し、媒染剤含有溶液をその上に塗布する方法、(2)粒子、水溶性樹脂を含む塗布液と媒染剤含有溶液を重層塗布する方法等任意の方法で形成できる。また媒染剤含有溶液中に無機粒子、水溶性樹脂、架橋剤等が含有されていてもよい。
【0101】
上記のような方法を採用すると、媒染剤が吸水層の表面から所定の部分に多く存在するので、インクジェット方式によって塗布された水性インクの着色剤が十分に媒染され、色濃度、経時ニジミ、印画部光沢、印字後の文字や画像の耐水性、耐オゾン性が向上するので好ましい。媒染剤の一部は最初に支持体に設ける層に含有させてもよく、その場合は、後から付与する媒染剤は同じものでも異なっていてもよい。
【0102】
本発明において、粒子(例えば気相法シリカ)と水溶性樹脂(例えばポリビニルアルコール)とを含有する吸水層形成用塗布液は、例えば、以下のようにして調製することができる。
気相法シリカ等の粒子を分散剤等と共に水中に添加して(例えば、水中のシリカ粒子は10〜20質量%)、ホモミキサー等で予分散(一次分散)し、続いて得られた分散液を更にアルティマイザー(スギノマシン社製)等の分散機を用いて例えば1パスで分散(二次分散)させた後、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液(例えば、気相法シリカの1/3程度の質量のPVAとなるように)を加えることにより調製することができる。塗布液に安定性を付与するためにアンモニア水等でpH=9.2程度に調節すること、又は分散剤を用いることが好ましい。得られた塗布液は均一性の高いゾル状態であり、これを後述の塗布方法で支持体上に塗布し乾燥させることにより、三次元網目構造を有する多孔質性の吸水層を形成することができる。
【0103】
分散に用いる分散機には、コロイドミル分散機、高速回転分散機、媒体撹拌型分散機(ボールミル、サンドミルなど)、超音波分散機、高圧分散機等、従来公知の各種の分散機を使用することができる。中でも、形成されるかたまり状粒子の分散を効果的に行なう点から、超音波分散機又は高圧分散機(特に高圧ジェット分散機)が好ましい。
【0104】
また、各工程における溶媒として水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、メトキシプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエン等が挙げられる。
【0105】
更に、分散剤としてはカオチン性のポリマーを用いることができる。カオチン性のポリマーとしては、前述の媒染剤の例などが挙げられる。また、分散剤としてシランカップリング剤を用いることも好ましい。
分散剤の粒子に対する添加量は、0.1〜30質量%が好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。
【0106】
吸水層形成用塗布液の塗布は、例えば、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。
【0107】
また、吸水層の細孔径は、メジアン径で0.005〜0.030μmが好ましく、0.01〜0.025μmがより好ましい。
空隙率及び細孔メジアン径は、水銀ポロシメーター((株)島津製作所製の商品名「ボアサイザー9320−PC2」)を用いて測定することができる。
【0108】
また、吸水層は、透明性に優れていることが好ましいが、その目安としては、吸水層を透明フイルム上に形成したときのヘイズ値が、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
ヘイズ値は、ヘイズメーター(HGM−2DP:スガ試験機(株))を用いて測定することができる。
【0109】
本発明で用い得るインクジェット専用紙の構成層(例えば、吸水層、バックコート層など)には、ポリマー粒子分散物を添加してもよい。このポリマー粒子分散物は、寸度安定化、カール防止、接着防止、膜のひび割れ防止等のような膜物性改良の目的で使用される。ポリマー粒子分散物については、特開昭62−245258号、特開昭62−1316648号、特開昭62−110066号の各公報に記載がある。尚、ガラス転移温度が低い(40℃以下の)ポリマー粒子分散物を、媒染剤を含む層に添加すると、層のひび割れやカールを防止することができる。また、ガラス転移温度が高いポリマー粒子分散物をバックコート層に添加しても、カールを防止することができる。
【0110】
本発明で用い得るインクジェット専用紙の基材が基紙を有する場合、基紙は、所望のパルプを叩解したパルプ紙料、特に叩解、調整されたパルプスラリーを抄紙することで得られる。抄紙を行なう抄紙工程では、基紙の記録層が例えば塗布により塗設される面に相当するウェッブ面側をドラムドライヤーシリンダーにドライヤーカンバスを押し当てて乾燥する工程を有し、この工程ではドライヤーカンバスの引張力を1.5〜3kg/cmの範囲で調整して乾燥させることができる。
【0111】
パルプとしては、特に制限はなく、針葉樹、広葉樹等から選ばれる天然パルプ、例えば、アスペン材、アカシア材、かえで材、ポプラ材、ユーカリ材などのLBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)、スプルース材、ダグラスファー材などのNBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、LBSP(広葉樹晒サルファイトパルプ)、NBSP(針葉樹晒サルファイトパルプ)、LDP(広葉樹溶解パルプ)、NDP(針葉樹溶解パルプ)、LUKP(広葉樹未晒クラフトパルプ)、NUKP(針葉樹未晒クラフトパルプ)などの中から適宜選択することができる。これらは、一種単独で用いる以外に、二種以上を適宜選択して併用することもできる。
【0112】
基紙を構成するパルプは、30質量%以上が、かえでからなるクラフトパルプ(かえで材LBKP)である形態が好ましく、より好ましくは50質量%以上が、かえで材LBKPである形態である。パルプ中のかえで材LBKPの配合量が30質量%以上であると、平滑性が改善され、光沢感もより向上する。
【0113】
例えばクラフトパルプ(LBKP)の製法は、特に限定されるものではなく、通常のクラフトパルプの製法を広く用いることができる。クラフトパルプは、その保水度が所定範囲となるように叩解された後、パルプに必要に応じてサイズ剤等を添加してパルプのスラリーに調整し、調整後のパルプスラリーを抄紙する。なお、複数種の混合パルプとするときには、あるクラフトパルプを叩解、調整すると共に、クラフトパルプと別個に他のパルプを叩解、調整した後、両者を混合する。
【0114】
抄紙に際し、LBKPの叩解後における濾水度は、カナダ標準濾水度(C.S.F)の規定で200〜400mlが好ましい。濾水度が上記範囲であると、膨潤率及び収縮率が小さく、良好な平面性(表面平滑性)を得ることができる。なお、濾水度は、JIS−P8121の「パルプの濾水度試験方法」におけるカナダ標準形試験方法にしたがって測定される値である。
【0115】
また、叩解後の保水度としては、100〜200%が好ましい。抄紙前のパルプ紙料を構成する叩解後のパルプの保水度が上記範囲であると、パルプの膨潤率及び収縮率が小さく、高光沢で凹凸の少ない平滑な表面性状が得られる。
【0116】
保水度とは、JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法 No.26:2000(パルプ−保水度試験方法)に記載された規格に基づいて測定されるものである。これは、遠心力によりパルプ懸濁液を脱水し、脱水後のパルプの保水度を測定する方法によるものであり、具体的には、叩解したパルプ懸濁液を遠心カップと呼ばれる濾過容器で吸引瀘過した後、容器ごとに遠心分離機の沈澱管中に入れて一定条件で一定時間遠心分離し、遠心脱水した湿潤パルプを取出して秤量する。次いで、105℃で乾燥を行ない、遠心脱水後の湿潤パルプを絶乾する。そして、遠心脱水後の湿潤パルプの質量をAとし、絶乾後のパルプの質量をBとし、保水度(%)=(A−B)/B×100から算出される値である。
【0117】
パルプには、不純物の少ないパルプを使用するのが好適であり、漂白処理を行なって白色度を向上させたパルプ(漂白パルプ)を使用することも有用である。
【0118】
上記のうち、パルプとしては夾雑物、色相の点で、漂白処理を行なって白色度を向上させた広葉樹漂白クラフトパルプ(漂白LBKP)が好ましく、中でもアスペン材、アカシア材、かえで材、及びポプラ材より選択される少なくとも一種からなる広葉樹漂白クラフトパルプ(漂白LBKP)が特に好ましい。これらの漂白LBKPは、各々単独で、あるいは漂白LBKPを二種以上混合した混合パルプとして、又は漂白LBKPの一種もしくは二種以上と漂白LBKP以外の他のパルプの一種もしくは二種以上との混合パルプとして、好適に用いることができる。
【0119】
本発明における基紙中、つまり基紙を抄紙するためのパルプ紙料中におけるパルプの含有濃度としては、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0120】
抄紙前のパルプ紙料には、アニオン性コロイダルシリカを更に含有することができる。すなわち、アニオン性コロイダルシリカの添加後に抄紙して本発明における基紙とすることが好適である。アニオン性コロイダルシリカの含有により、脱水性を高め得る(すなわち濾水助剤として機能する。)以外に、特に裁断する際の切れ味、すなわち裁断適性を向上させるのに有効である。
【0121】
アニオン性コロイダルシリカの比表面積としては、100〜1000m2/gの範囲が好ましく、平均粒子径としては1〜20nmの範囲が好ましい。
【0122】
アニオン性コロイダルシリカを含有する場合の含有量としては、上記した裁断適性の向上及び脱水性向上の点で、本発明におけるパルプの量に対して、0.005〜0.5質量%が好ましく、0.01〜0.2質量%がより好ましい。
【0123】
パルプ紙料を抄紙するための抄紙機には、特に制限はなく、従来公知の抄紙機の中から適宜選択して用いることができる。例えば、振巾10mm以上のシェーキング装置を備えた長網抄紙機等を挙げることができ、平面性向上の点で、ダンディロールを有する抄紙機(例えば、60〜100メッシュのワイヤーからなるダンディロールを備えた抄紙機)が好ましい。
【0124】
本発明における基紙は、通常の天然パルプを主成分とする天然パルプ紙であり、基紙中には添加薬品として、クレー、タルク、炭酸カルシウム、尿素樹脂粒子等の充填剤、ロジン、アルキルケテンダイマー、高級脂肪酸塩、パラフィンワックス、アルケニルコハク酸等のサイズ剤、でんぷん、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の紙力増強剤、ポリエチレングリコール類等の水分保持剤、硫酸バンド等の定着剤、等を適宜添加することができる。そのほか、必要に応じて染料、酸化チタン等の白色顔料、蛍光染料、スライムコントロール剤、消泡剤、4級アンモニウム等の柔軟化剤などを添加することができる。
【0125】
天然パルプ紙よりなる基紙の表面は、例えば、ゼラチン、スターチ、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールの変性物等の被膜形成ポリマーにより表面サイズ処理することができる。ポリビニルアルコールの変性物としては、カルボキシル基変性物、シラノール変性物、アクリルアミドとの共重合物等が挙げられる。また、被膜形成性ポリマーにより表面サイズ処理する場合の被膜形成ポリマーの塗布量は、0.1〜5.0g/m2に調整されるのが好ましく、0.5〜2.0g/m2に調整されるのがより好ましい。被膜形成ポリマーには更に、必要に応じて帯電防止剤、蛍光増白剤、顔料、消泡剤などを添加することができる。
【0126】
基紙は通常、7.0質量%程度の含有水分量を有するが、本発明においては基紙の地合いを考慮し、7.5〜10質量%が好ましく、8.0〜10質量%がより好ましい。
【0127】
基紙の厚さは、特に限定されるものではなく、150〜250μmが好ましく、基紙の坪量としては、150〜250g/m2が好ましく、特に180〜220g/m2が好ましい。
【0128】
本発明における基紙は、表面の平滑性及び平面性の優れるものが望ましく、かかる観点から抄紙段階又は抄紙後に、マシンカレンダー及びスーパーカレンダー等のカレンダー処理を施すことにより熱及び圧力を加えて表面処理し、より高度の平滑性を付与するようにすることもできる。
【0129】
基紙の密度としては、0.7〜1.2g/m2(JIS P−8118)が一般的である。
基紙の剛度としては、JIS P−8125(2000)に規定される条件で、MD(タテ方向)は1.0〜3.0mNm、CD(ヨコ方向)は0.5〜1.5mNmが好ましい。
【0130】
基紙の表面には表面サイズ剤を塗布してもよい。表面サイズ剤としては、基紙中に添加可能なサイズ剤と同様のものを使用できる。
基紙のpHは、JIS P−8113で規定される熱水抽出法による測定値で5〜9であるのが好ましい。
【0131】
既述の写像性の総和及び正反射強度は、基材(特に基紙)表面の中心面平均粗さ(SRa)を調整し、基材(特に基紙)の平滑性を向上させるようにすることで、各々を既述の範囲内に調節することが可能である。
【0132】
具体的には、本発明におけるインクジェット専用紙を構成する基材(特に基紙)の、少なくとも吸水層が形成される側(つまり基材の片側又は両側)の表面の中心面平均粗さ(SRa)を、カットオフ0.05〜0.5mmの条件下で測定したときには0.70μm以下とすると共に、カットオフ1〜3mmの条件下で測定したときには0.80μm以下とすることによって好適に調節することができる。
【0133】
中心面平均粗さ(SRa)は、基材(特に基紙)表面の平滑さ(表面平滑性)を評価する指標となるものであり、中心面平均粗さSRaが上記範囲内であると、画像記録材料を構成した場合に好適な光沢感及び表面平滑さを得ることができる。
【0134】
換言すれば、カットオフ0.05〜0.5mmの条件下で測定した場合のSRaが0.70μm以下であると、インクジェット専用紙を構成した場合、具体的には蛍光灯の映りこみ等の反射像がボケて見えることを抑制し、光沢感を大きく支配する写像性が悪化し難い。また、カットオフ1〜3mmの条件下で測定した場合のSRaが0.80μm以下であると、インクジェット専用紙を構成した場合、具体的には蛍光灯の映りこみ等の反射像が歪んで見え難く、光沢感を大きく支配する写像性が悪化し難い。
【0135】
SRaとしては、好ましくは、カットオフ0.05〜0.5mmの条件下では0.60μm以下で、かつカットオフ1〜3mmの条件下では0.60μm以下である。それぞれのSRaの下限については0μmに近いほど好ましい。
【0136】
中心面平均粗さSRaは、カットオフ0.05〜0.5mmの条件下ではZYGO New View 5000(ZYGO(株)製)を用いることにより、カットオフ1〜3mmの条件下ではナノメトロ110F(黒田精工(株)製)を用いることにより、各々好適に測定される値である。
【0137】
また、基材(支持体)を基紙で構成する場合の見た目の面状特性や風合いを高める点では、紙の地合指数も重要であり、本発明における基紙は、地合指数値が60以上の紙で構成されていることが好ましい。
【0138】
地合指数は、値が大きい程地合いは良好なことを示し、地合指数値を特に上記範囲とすることによって、地合いムラがなく、平滑さが均一でかつ高く、見た目の面状特性や風合いを高めることが可能である。
【0139】
換言すれば、地合指数値が60未満であると、地合いムラの発生が顕著になり面状均一性や風合いに劣ることがある。
地合指数値は、中でも70以上が好ましい。
【0140】
地合指標値は、M/K Systems,Inc.(MKS社)製の3Dシートアナライザー(M/K950)を用い、そのアナライザーの絞りを直径1.5mmとすると共に、マイクロフォーメーションテスター(MFT)を用いて測定されたものである。
【0141】
すなわち、3Dシートアナライザーにおける回転ドラム上にサンプルを取付け、ドラム軸上に取付けられた光源とドラム外側に光源に対応させて取付けられたフォトディテクターとによって、サンプル中の局部的な坪量差を光量差として測定する。このときの測定対象範囲は、フォトディテクターの入光部に取付けられた絞りの径で設定される。次いで、その光量差(偏差)を増幅、A/D変換し、64の光測定的な坪量階級に分級し、1回のスキャンで100,000個のデータをとり、そのデータ分のヒストグラム度数を得る。そして、そのヒストグラムの最高度数(ピーク値)を、64の微小坪量に相当する階級に分級されたもののうち、100以上の度数を持つ階級の数で割り、割った値を1/100にした値が地合指標値として算出される。
【0142】
地合指数値を高める、すなわち基紙の地合いを良くする方法としては、例えば、スクリーンや渦流式クリーナーを抄紙機のヘッドボックスの直前に設置して基紙原料の流動方向が一定とならないようにしたり、あるいは分散剤、地合い制御添加剤、リテンション及び濾水助剤等の添加薬品を用いて原質のフロック化を管理する方法等が挙げられる。但し、これら方法に限定されるものではない。
【0143】
なお、本発明では、上記構成を有する市販のインクジェット専用紙を用いることができ、例えば、画彩(登録商標、富士フイルム(株)製)、リアルプルーフG(登録商標、富士フイルム(株)製)、リアルプルーフMK(登録商標、富士フイルム(株)製)、PhotoArt(登録商標)フォト光沢GL厚手(富士フイルム(株)製)などを用いることができる。
【0144】
<水性インク>
【0145】
本発明では、水及び着色剤を含有する水性インクを用いてインクジェット方式により前述の記録媒体に視差画像を形成する。本発明で用いる水性インクは、さらに必要に応じてラテックス等の他の添加剤を含有してもよい。
【0146】
(水)
水性インクに含まれる水の含有量には特に制限はないが、水の含有量は、水性インクの全量に対し、例えば50質量%以上とすることができる。
水性インクに含まれる水の含有量は、水性インクの全量に対して、50質量%以上80質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以上75質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上70質量%以下である。
【0147】
(着色剤)
水性インクに含まれる着色剤としては、顔料の表面の少なくとも一部が樹脂(以下、「被覆樹脂」ともいう)によって被覆された構造を有する樹脂被覆顔料が好ましい。これにより、水性インクの分散安定性が向上し、形成される画像の品質が向上する。
【0148】
−顔料−
顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。また、着色顔料としてカーボンブラック顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料及びイエロー顔料を用いてもよい。顔料は、水に殆ど不溶であるか又は難溶である顔料であることが、インク着色性の点で好ましい。
【0149】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが更に好ましい。
【0150】
有機顔料を用いる場合、有機顔料の平均粒子径は、透明性・色再現性の観点から小さい方がよいが、耐光性の観点からは大きい方が好ましい。これらを両立する観点から、平均粒子径は10nm〜200nmが好ましく、10nm〜150nmがより好ましく、10nm〜120nmがさらに好ましい。また、有機顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ有機顔料を2種以上混合して使用してもよい。
【0151】
顔料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料の水性インク中における含有量としては、画像濃度の観点から、水性インク全量に対して、1質量%〜20質量%が好ましく、2質量%〜10質量%がより好ましい。
【0152】
−被覆樹脂−
樹脂被覆顔料における被覆樹脂としては、分散剤が好ましい。
分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。
また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
【0153】
低分子の界面活性剤型分散剤については、例えば、特開2011−178029号公報の段落0047〜0052に記載された公知の低分子の界面活性剤型分散剤を用いることができる。
【0154】
ポリマー分散剤のうち、水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物が挙げられる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子等が挙げられる。
【0155】
また、天然物を原料に修飾した親水性高分子化合物では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子等が挙げられる。
さらに、合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物、セラック等の天然高分子化合物等が挙げられる。
【0156】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンアクリル酸のホモポリマーや、他の親水基を有するモノマーとの共重合体などのように、カルボキシル基が導入された水溶性分散剤が親水性高分子化合物として好ましい。
【0157】
ポリマー分散剤のうち、非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができる。親水性構成単位としては、酸性基を有する構成単位であることが好ましく、カルボキシル基を有する構成単位であることがより好ましい。水不溶性樹脂としては、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
より具体的には例えば、特開2005−41994号公報、特開2006−273891号公報、特開2009−084494号公報、特開2009−191134等に記載の水不溶性樹脂を本発明においても好適に用いることができる。
【0158】
ポリマー分散剤の重量平均分子量は、3,000〜100,000が好ましく、より好ましくは5,000〜50,000であり、さらに好ましくは5,000〜40,000であり、特に好ましくは10,000〜40,000である。
【0159】
なお、ポリマー分散剤の重量平均分子量は、後述の樹脂粒子の重量平均分子量と同様の方法によって求められた値を指す。
【0160】
ポリマー分散剤は、自己分散性、及び処理液が接触した場合の凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が130mgKOH/g以下のポリマーであることが好ましく、酸価が25mgKOH/g〜120mgKOH/gのポリマーがより好ましい。特に、本発明で用いる水性インクを、水性インク中の成分を凝集させる処理液と共に用いる場合には、カルボキシル基を有し、かつ酸価が25mgKOH/g〜100mgKOH/gのポリマー分散剤が有効である。処理液については、後述する。
【0161】
顔料(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、さらに好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0162】
顔料を被覆する被覆樹脂の水性インク全質量に対する含有量は、0.5質量%〜3.0質量%が好ましく、1.0質量%〜2.8質量%がより好ましく、1.2質量%〜2.5質量%が更に好ましい。
【0163】
被覆樹脂と上記無機塩との質量比(被覆樹脂/無機塩)は、インクの減粘抑制及び画像の面アレ抑制の観点から、10〜250が好ましく、15〜200がより好ましく、30〜150が更に好ましい。
【0164】
樹脂被覆顔料(分散状態での顔料)の体積平均粒子径(二次粒子径)としては、10nm〜200nmが好ましく、10nm〜150nmがより好ましく、10nm〜100nmがさらに好ましい。体積平均粒子径が200nm以下であると、色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になる。体積平均粒子径が10nm以上であると、耐光性が良好になる。
【0165】
また、着色剤の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ着色剤を二種以上混合して使用してもよい。ここで、分散状態での顔料の体積平均粒子径は、インク化した状態での平均粒子径を示すが、インク化する前段階のいわゆる濃縮インク分散物についても同様である。
【0166】
ここで、樹脂被覆顔料の体積平均粒子径は、前述の樹脂粒子の体積平均粒子径と同様の方法によって求められた値を指す。
【0167】
また、樹脂被覆顔料において顔料を被覆している樹脂は、架橋剤により架橋されていることが好ましい。
即ち、樹脂被覆顔料は、架橋剤によって架橋された樹脂により、顔料の表面の少なくとも一部が被覆されている樹脂被覆顔料であることが好ましい。
架橋剤によって架橋された樹脂により顔料の表面の少なくとも一部が被覆されている樹脂被覆顔料については、特開2012−162655号公報の、段落0029〜0048、段落0110〜0118、及び段落0121〜0129、並びに、特開2013−47311号公報の段落0035〜0071の記載を適宜参照できる。
【0168】
架橋剤としては、樹脂と反応する部位を2つ以上有している化合物であれば、特に限定されないが、中でもカルボキシ基との反応性に優れている点から、好ましくは2つ以上のエポキシ基を有している化合物(2官能以上のエポキシ化合物)である。
架橋剤として、具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等が挙げられ、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルが好ましい。
【0169】
架橋剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、Denacol EX−321、EX−821、EX−830、EX−850、EX−851(ナガセケムテックス(株)製)等を用いることができる。
【0170】
架橋剤の架橋部位(例えばエポキシ基)と樹脂の被架橋部位(例えばカルボキシ基)のモル比は、架橋反応速度、架橋後の分散液安定性の観点から、1:1〜1:10が好ましく、1:1〜1:5がより好ましく、1:1〜1:1.5が最も好ましい。
【0171】
(水溶性溶剤)
本発明で用いる水性インクは、水溶性溶剤を含有することが好ましい。
水性インクが水溶性溶剤を含有することにより、ヘッドからの吐出性及び保存安定性が確保され、かつ、水によるインクジェット専用紙の変形がより効果的に抑制される。
【0172】
水溶性溶剤としては、公知のものを特に制限なく用いることができる。
水溶性溶剤としては、例えば、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類や、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオールなどの多価アルコール類のほか、特開2011−42150号公報の段落0116に記載の、糖類や糖アルコール類、ヒアルロン酸類、炭素原子数1〜4のアルキルアルコール類、グリコールエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これら溶剤は、1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。多価アルコール類は、乾燥防止剤や湿潤剤としても有用であり、例えば、特開2011−42150号公報の段落0117に記載の例も挙げられる。また、ポリオール化合物は、浸透剤として好ましく、脂肪族ジオールとしては、例えば、特開2011−42150号公報の段落0117に記載の例が挙げられる。
また、その他の水溶性溶剤としては、例えば、特開2011−46872号公報の段落0176〜0179に記載されている水溶性溶剤や、特開2013−18846号公報の段落0063〜0074に記載されている水溶性溶剤の中から、適宜選択することもできる。
【0173】
本発明で用いる水性インクにおける水溶性溶剤の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、水性インクの総量に対し、2質量%〜20質量%であることが好ましい。
上記総含有量が2質量%以上であることで、ヘッドからの吐出性及び保存安定性がより向上し、水によるインクジェット専用紙の変形がより抑制される。
水溶性溶剤の総含有量は、水性インクの総量に対し、3質量%〜20質量%であることがより好ましく、5質量%〜18質量%であることがさらに好ましい。
【0174】
本発明で用いる水性インクは、水溶性溶剤として、下記構造式(I)で表される溶剤Aと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、及びペンタエチレングリコールから選択される少なくとも1種である溶剤Bと、を含有することがより好ましい。このような組成とすることで、良好な耐擦性が得られ、画像形成後のインクジェット専用紙のカール及びスタッカーブロッキングが抑制される。
ここで、スタッカーブロッキングとは、画像が形成されたインクジェット専用紙同士が積み重ねられ、インクジェット専用紙のおもて面(画像が形成された側の面)と別のインクジェット専用紙の裏面(画像が形成されていない側の面)とが接触することにより、インクジェット専用紙に形成された画像が破壊される現象を指す。この画像の破壊は、例えば、インクジェット専用紙の裏面への画像の転写や、インクジェット専用紙同士の貼り付きによって生じる。
スタッカーブロッキングについては、例えば特開2011−088323号公報に記載されている。
本発明で用いる水性インクが溶剤A及び溶剤Bを含む場合、溶剤Aの水性インク全量に対する含有量が1.0質量%〜10.0質量%であり、溶剤Bの水性インク全量に対する含有量(質量基準)が溶剤Aの水性インク全量に対する含有量(質量基準)の0.05倍〜20.0倍であることが好ましい。
【0175】
本明細書中では、水性インク全量に対する溶剤Bの含有量(質量基準)が、水性インク全量に対する溶剤Aの含有量(質量基準)のa倍〜b倍(例えば0.05倍〜20.0倍)であることを、「比率〔溶剤Bの質量/溶剤Aの質量〕がa〜b(例えば0.05〜20.0)である」ということがある。
【0176】
比率〔溶剤Bの質量/溶剤Aの質量〕は、0.1〜15.0であることが好ましく、0.2〜10.0であることがより好ましい。
【0177】
また、本発明で用いる水性インクが溶剤A及び溶剤Bを含む場合、溶剤A及び溶剤Bの総含有量は、水性インク全量に対して、2.0質量%〜30.0質量%であることが好ましく、3.0質量%〜20.0質量%であることがより好ましく、5.0質量%〜15.0質量%であることが更に好ましい。
【0178】
また、本発明で用いる水性インクが溶剤A及び溶剤Bを含む場合、溶剤Bの含有量は、水性インク全量に対し、0.5質量%〜20.0質量%であることが好ましく、1.0質量%〜15.0質量%であることがより好ましく、2.0質量%〜10.0質量%であることが更に好ましい。
【0179】
−溶剤A−
溶剤Aは、下記構造式(I)で表される化合物から選択される少なくとも1種である。溶剤Aは、下記構造式(I)で表される化合物から選択される1種からなる(単一成分の)溶剤であってもよいし、下記構造式(I)で表される化合物から選択される2種以上からなる混合溶剤であってもよい。
【0180】
【化1】
【0181】
構造式(I)中、l、m、及びnは、それぞれ独立に、0以上の整数を表し、かつl+m+n=0〜15を満たす。中でも、l+m+nは3〜12の範囲が好ましく、3〜10の範囲がより好ましい。構造式(I)中、AOは、エチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基を表す。中でも、プロピレンオキシ基が好ましい。l+m+n≧2である場合、2以上のAOは、同一であっても異なっていてもよい。
構造式(I)で表される化合物としては、グリセリン、又はグリセリンのアルキレンオキシド付加物が好ましい。
【0182】
以下、構造式(I)で表される化合物の例を示す。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0183】
【化2】
【0184】
・nCO(AO)−H
(AO=EO又はPO(EO:PO=1:1))
・nCO(AO)10−H
(AO=EO又はPO(EO:PO=1:1))
・HO(A'O)40−H
(A'O=EO又はPO(EO:PO=1:3))
・HO(A''O)55−H
(A''O=EO又はPO(EO:PO=5:6))
・HO(PO)−H
・HO(PO)−H
・1,2−ヘキサンジオール
なお、EO、POは各々、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基を表す。
【0185】
グリセリンのアルキレンオキシド付加物は、市販品を用いてもよい。例えば、ポリオキシプロピル化グリセリン(ポリプロピレングリコールとグリセリンとのエーテル)として、サンニックス(登録商標)GP−250(平均分子量250)、GP−400(平均分子量400)、GP−600(平均分子量600)〔以上、三洋化成工業(株)製〕、レオコン(登録商標)GP−250(平均分子量250),GP−300(平均分子量300、GP−400(平均分子量400)、GP−700(平均分子量700)〔以上、ライオン(株)製〕、ポリプロピレントリオールグリコール・トリオール型(平均分子量300、平均分子量700)〔以上、和光純薬工業(株)製〕などが挙げられる。
【0186】
−溶剤B−
溶剤Bは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール(例えば、後述のPEG−200)、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、及びメチルプロピレントリグリコール(MFTG)からなる群から選択される少なくとも1種である。溶剤Bは、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールの少なくとも一方を含むことが好ましい。
溶剤Bは、1種からなる(単一成分の)溶剤であってもよいし、2種以上からなる混合溶剤であってもよい。
【0187】
溶剤Bとしては、市販品を用いてもよい。
例えば、PEG−200(平均分子量200)、PEG−300(平均分子量300)、PEG−400(平均分子量400)〔以上、三洋化成工業(株)製〕、PEG#200(平均分子量200)、PEG#300(平均分子量300)、PEG#400(平均分子量400)〔以上、ライオン(株)製〕、PEG#200(平均分子量200)、PEG#300(平均分子量300)、PEG#400(平均分子量400)〔以上、日油(株)製〕、PEG200(平均分子量200)、PEG300(平均分子量300)、PEG400(平均分子量400)〔以上、第一工業製薬(株)製〕、などが挙げられる。
【0188】
(樹脂粒子)
本発明で用いる水性インクは、粒子、好ましくは樹脂粒子を少なくとも1種含有することが好ましい。これにより、画像の耐擦性がより向上する。
特に、本発明で用いる水性インクが樹脂粒子を含有し、かつ、水性インクを後述する処理液とともに記録媒体上に付与して画像を形成した場合には、画像の耐擦性が向上する。
即ち、樹脂粒子は、インクジェット専用紙(特に、インクジェット専用紙における、処理液又はこれを乾燥させた領域)と接触した際に、水性インク中において分散不安定化して凝集し、増粘することにより水性インクを固定化する機能を有する。これにより、画像の耐擦性がより向上する。更に、水性インクのインクジェット専用紙への密着性等もより向上する。
【0189】
樹脂粒子としては、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂から選ばれる樹脂により形成される樹脂粒子を用いることができる。
これらの樹脂は、さらに変性された樹脂であってもよい。
樹脂粒子の形成に用いられる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニル樹脂(例:塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等)、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂(例:フタル酸樹脂等)、アミノ材料(例:メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等)などが挙げられる。
樹脂粒子を形成する樹脂は、上記に例示された樹脂を構成する構造単位を2種以上含む共重合体であってもよく、2種以上の樹脂の混合物であってもよい。樹脂粒子自体が2種以上の樹脂の混合物からなるもののみならず、2種以上の樹脂が例えば、コア/シェルのように積層されてなる複合樹脂粒子であってもよい。
水性インクに樹脂粒子を用いる場合1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0190】
樹脂粒子としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂の粒子が好ましく、安定性、及び形成された膜(画像)の膜質の観点から、アクリル樹脂の粒子又はウレタン樹脂の粒子が更に好ましい。
本発明で用いる水性インクは、例えば、樹脂粒子を含む水分散物、いわゆるラテックスの形態で樹脂粒子を含むことができる。
【0191】
なお、本明細書中において、アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む樹脂を意味する。アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位以外の構造単位を含んでいてもよい。
【0192】
樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、40℃以上であることが好ましい。
樹脂粒子のガラス転移温度の上限は、250℃であることが好ましい。
樹脂粒子のガラス転移温度は、好ましくは50℃以上230℃以下の範囲である。
例えば、水性インクを後述する処理液と共にインクジェット専用紙上に付与して画像を形成する場合には、樹脂粒子は、処理液又は処理液を乾燥させた領域と接触した際に、水性インク中において分散不安定化して凝集し、増粘することにより水性インクを固定化する機能を有する。
これにより、画像の耐擦性がより向上する。更に、画像ムラがより抑制される。更に、水性インクのインクジェット専用紙への密着性及び画像の耐傷性がより向上する。
【0193】
樹脂粒子のガラス転移温度は、通常用いられる方法によって適宜制御することができる。例えば、樹脂粒子を構成するモノマー(重合性化合物)の種類やその構成比率、樹脂粒子を構成するポリマーの分子量等を適宜選択することで、樹脂粒子のガラス転移温度を所望の範囲に制御することができる。
【0194】
本明細書中において、樹脂粒子のガラス転移温度は、実測によって得られる測定Tgを適用する。
具体的には、測定Tgとしては、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220を用いて通常の測定条件で測定された値を意味する。但し、ポリマーの分解等により測定が困難な場合には、下記の計算式で算出される計算Tgを適用する。計算Tgは下記の式(1)で計算されるものである。
1/Tg=Σ(Xi/Tgi) ・・・(1)
ここで、計算対象となるポリマーはi=1からnまでのn種のモノマー成分が共重合しているとする。Xiはi番目のモノマーの重量分率(ΣXi=1)、Tgiはi番目のモノマーの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度)である。但し、Σはi=1からnまでの和をとる。なお、各モノマーの単独重合体ガラス転移温度の値(Tgi)は、Polymer Handbook (3rd Edition) (J.Brandrup, E.H.Immergut著(Wiley−Interscience、1989))の値を採用する。
【0195】
樹脂粒子としては、転相乳化法により得られた樹脂粒子であることが好ましく、下記の自己分散性ポリマーの粒子(自己分散性ポリマー粒子)がより好ましい。
ここで、自己分散性ポリマーとは、界面活性剤の不存在下、転相乳化法により分散状態としたとき、ポリマー自身が有する官能基(特に、カルボキシル基等の酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーをいう。
ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
また、「水不溶性」とは、水100質量部(25℃)に対する溶解量が5.0質量部以下であることを指す。
【0196】
転相乳化法としては、例えば、ポリマーを溶媒(例えば、水溶性溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、ポリマーが有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、溶媒を除去した後、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
【0197】
自己分散性ポリマー粒子としては、特開2010−64480号公報の段落0090〜0121又は特開2011−068085号公報の段落0130〜0167に記載されている自己分散性ポリマー粒子の中から選択して用いることができる。特に、上記公報に記載されている自己分散性ポリマー粒子の中から、ガラス転移温度が100℃以上であるものを選択して用いることが好ましい。
【0198】
前述のとおり、自己分散性ポリマー粒子としては、カルボキシル基を有する自己分散性ポリマー粒子が好ましい。
カルボキシル基を有する自己分散性ポリマー粒子のより好ましい形態は、不飽和カルボン酸(好ましくは(メタ)アクリル酸)に由来する構造単位を含むポリマーからなる形態である。
【0199】
カルボキシル基を有する自己分散性ポリマー粒子の更に好ましい形態は、
脂環族基を有する構造単位と、
アルキル基を有する構造単位と、
不飽和カルボン酸(好ましくは(メタ)アクリル酸)に由来する構造単位と、
を含むポリマーからなる形態である。
上記ポリマー中における、脂環族基を有する構造単位の含有量(2種以上存在する場合には総含有量)は、ポリマーの全量に対し、3質量%〜95質量%が好ましく、5質量%〜75質量%がより好ましく、10質量%〜50質量%が更に好ましい。
上記ポリマー中における、アルキル基を有する構造単位の含有量(2種以上存在する場合には総含有量)は、ポリマーの全量に対し、5質量%〜90質量%が好ましく、10質量%〜85質量%がより好ましく、20質量%〜80質量%が更に好ましく、30質量%〜75質量%が更に好ましく、40質量%〜75質量%が更に好ましい。
上記ポリマー中における不飽和カルボン酸(好ましくは(メタ)アクリル酸)に由来する構造単位の含有量(2種以上存在する場合には総含有量)は、ポリマーの全量に対し、2質量%〜30質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましく、5質量%〜15質量%が更に好ましい。
【0200】
また、カルボキシル基を有する自己分散性ポリマー粒子の形態としては、上述した「カルボキシル基を有する自己分散性ポリマー粒子の更に好ましい形態」において、脂環族基を有する構造単位を、芳香族基を有する構造単位に変更した形態、又は、脂環族基を有する構造単位に加えて芳香族基を有する構造単位を含む形態も好ましい。
いずれの形態においても、脂環族基を有する構造単位及び芳香族基を有する構造単位の総含有量は、ポリマーの全量に対し、3質量%〜95質量%が好ましく、5質量%〜75質量%がより好ましく、10質量%〜50質量%が更に好ましい。
【0201】
上記脂環族基を有する構造単位は、脂環式(メタ)アクリレートに由来する構造単位であることが好ましい。
脂環式(メタ)アクリレートとしては、単環式(メタ)アクリレート、2環式(メタ)アクリレート、及び3環式(メタ)アクリレートが挙げられる。
単環式(メタ)アクリレートとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基の炭素原子数が3〜10のシクロアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
2環式(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3環式(メタ)アクリレートとしては、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
これらのうち、定着性、耐ブロッキング性、及び自己分散性ポリマー粒子の分散安定性の観点から、2環式(メタ)アクリレート又は3環式以上の多環式(メタ)アクリレートが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、又はジシクロペンタニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0202】
芳香族基を有する構造単位は、芳香族基含有モノマーに由来する構造単位であることが好ましい。
芳香族基含有モノマーとしては、例えば、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー(例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、等)、スチレン系モノマー等が挙げられる。
中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、又はフェニル(メタ)アクリレートがより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート又はベンジル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0203】
アルキル基を有する構造単位は、アルキル基含有モノマーに由来する構造単位であることが好ましい。
アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
中でも、アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、アルキル基の炭素原子数が1〜4であるアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、又はブチル(メタ)アクリレートがさらに好ましく、メチル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
【0204】
以下に、自己分散性ポリマー粒子の具体例として、例示化合物P−1〜P−5を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
・P−1:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(70/20/10)
・P−2:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(48/42/10)
・P−3:メチルメタクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(65/25/10)
・P−4:イソプロピルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(50/40/10)
・P−5:ブチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(60/30/10)
【0205】
また、前述のとおり、樹脂粒子としては、ウレタン樹脂も好ましい。
ウレタン樹脂としては、例えばジオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させて得られるウレタン樹脂が挙げられる。
ジオール化合物及びジイソシアネート化合物の詳細については、例えば特開2001−247787号公報の段落番号〔0031〕〜〔0036〕の記載を参照することができる。中でも、主鎖構造中にエステル結合を有する、ポリエステル系ウレタン樹脂またはポリエーテル系ウレタン樹脂を使用することが好ましい。
【0206】
ウレタン樹脂については、特開2013−227498号公報の段落0128〜0136の記載を適宜参照できる。
【0207】
樹脂粒子(好ましくは自己分散性ポリマー粒子。以下同じ。)を構成するポリマーの重量平均分子量は、3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることがさらに好ましい。
重量平均分子量が3000以上であると、水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
【0208】
ここで、樹脂粒子を構成するポリマーの重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)によって測定された値を意味する。
上記GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標)、Super Multipore HZ−H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いて行う。
また、GPCは、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、RI検出器を用いて行なう。
検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0209】
樹脂粒子を構成するポリマーは、自己分散性、及び処理液が接触した場合の凝集速度の観点から、酸価が100mgKOH/g以下のポリマーであることが好ましく、酸価は25mgKOH/g〜100mgKOH/gのポリマーがより好ましい。
【0210】
樹脂粒子の体積平均粒子径は、1nm〜200nmの範囲が好ましく、1nm〜150nmの範囲がより好ましく、1nm〜100nmの範囲がさらに好ましく、特に好ましくは1nm〜10nmの範囲である。体積平均粒子径が1nm以上であると製造適性が向上する。また、体積平均粒子径が200nm以下であると保存安定性が向上する。また、ポリマー粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、ポリマー粒子を2種以上混合して使用してもよい。
【0211】
ここで、樹脂粒子の体積平均粒子径は、光散乱を用いた粒度分布測定装置(例えば、日機装(株)製のマイクロトラックUPA(登録商標)EX150)によって測定された値を指す。
【0212】
樹脂粒子(好ましくは自己分散性ポリマー粒子)の水性インク中における含有量(2種以上である場合には総含有量)には特に制限はないが、水性インクの全量に対し、0.3質量%〜10.0質量%が好ましく、0.5質量%〜7.0質量%がより好ましく、1.0質量%〜5.0質量%が更に好ましい。
水性インク中における樹脂粒子の含有量が0.3質量%以上であると、画像の耐擦性をより向上させ、かつ、画像ムラをより抑制できる。
水性インク中における樹脂粒子の含有量が10.0質量%以下であると、インクの吐出性をより向上させることができ、また、低温環境下での析出物の発生を抑制する点でも有利である。
【0213】
(界面活性剤)
本発明で用いる水性インクは、必要に応じて、界面活性剤を少なくとも1種含有することができる。界面活性剤は、例えば表面張力調整剤として用いることができる。
界面活性剤としては、分子内に親水部と疎水部とを合わせ持つ構造を有する化合物を有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及びベタイン系界面活性剤のいずれも使用することができる。さらに、上述したポリマー分散剤を界面活性剤としても用いてもよい。
【0214】
界面活性剤としては、インクの打滴干渉抑制の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、中でもアセチレングリコール誘導体(アセチレングリコール系界面活性剤)がより好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキシド付加物等を挙げることができ、これから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの化合物の市販品としては例えば、日信化学工業社のオルフィンE1010などのEシリーズを挙げることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤以外の界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤が好ましい。フッ素系界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤が挙げられ、この中でアニオン系界面活性剤がより好ましい。アニオン系界面活性剤の例としては、Capstone FS−63、Capstone FS−61(Dupont社製)、フタージェント100、フタージェント110、フタージェント150(株式会社ネオス社製)、CHEMGUARD S−760P(Chemguard Inc.社製)等が挙げられる。
【0215】
界面活性剤(表面張力調整剤)を水性インクに含有する場合、界面活性剤はインクジェット方式により水性インクの吐出を良好に行う観点から、水性インクの表面張力を20mN/m〜60mN/mに調整できる範囲の量を含有することが好ましく、表面張力の点からはより好ましくは20mN/m〜45mN/mであり、さらに好ましくは25mN/m〜40mN/mである。
ここで、水性インクの表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学(株)製)を用い、液温25℃の条件下で測定された値を指す。
【0216】
本発明で用いる水性インクが界面活性剤を含む場合、界面活性剤の具体的な量には特に限定はないが、水性インクの全量に対し、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%〜10質量%であり、さらに好ましくは0.2質量%〜3質量%である。
【0217】
−コロイダルシリカ−
本発明で用いる水性インクは、必要に応じ、コロイダルシリカを含有していてもよい。
これにより、インクの連続吐出時の安定性をより向上させることができる。
コロイダルシリカは、平均粒子径が数100nm以下のケイ素を含む無機酸化物の粒子からなるコロイドである。コロイダルシリカは、主成分として二酸化ケイ素(その水和物を含む)を含み、少量成分としてアルミン酸塩(アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなど)を含んでいてもよい。
またコロイダルシリカには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等の無機塩類やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機塩類が含まれていてもよい。これらの無機塩類及び有機塩類は、例えば、コロイドの安定化剤として作用する。
コロイダルシリカについては、例えば、特開2011−202117号公報の段落0043〜0050の記載を適宜参照することができる。
また、本発明で用いる水性インクは、必要に応じ、コロイダルシリカに代えて、又は、コロイダルシリカに加えて、ケイ酸アルカリ金属塩を含有してもよい。ケイ酸アルカリ金属塩については、特開2011−202117号公報の段落0052〜0056の記載を適宜参照することができる。
【0218】
本発明で用いる水性インクがコロイダルシリカを含む場合、コロイダルシリカの含有量は、水性インクの全量に対し、0.0001質量%〜10質量%が好ましく、0.01質量%〜3質量%がより好ましく、0.02質量%〜0.5質量%がさらに好ましく、0.03質量%〜0.3質量%が特に好ましい。
【0219】
−尿素−
本発明で用いる水性インクは尿素を含有することができる。
尿素は、保湿機能が高いため、固体湿潤剤としてインクの望ましくない乾燥又は凝固を効果的に抑制することができる。
さらに本発明で用いる水性インクは、前述のコロイダルシリカと尿素とを含むことでインクジェットヘッド等のメンテナンス性(拭き取り作業性)がより効果的に向上する。
【0220】
本発明で用いる水性インクにおける尿素の含有量は、メンテナンス性(拭き取り作業性)を向上させる観点等からは、1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、3質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0221】
本発明で用いる水性インクが、尿素と、コロイダルシリカと、を含有する場合、尿素の含有量と、コロイダルシリカの含有量の比率としては特に制限はないが、コロイダルシリカに対する尿素の含有比率(尿素/コロイダルシリカ)が5〜1000であることが好ましく、10〜500であることがより好ましく、20〜200であることがさらに好ましい。
【0222】
本発明で用いる水性インクが、尿素及びコロイダルシリカを含有する場合、尿素の含有量とコロイダルシリカの含有量との組み合わせとしては特に限定されないが、拭き取り性及び画像の定着性をより効果的に両立させる観点からは、下記の組み合わせが好ましい。
即ち、尿素の含有量が1.0質量%以上であって、コロイダルシリカの含有量が0.01質量%以上である組み合わせが好ましく、尿素の含有量が1.0質量%〜20質量%であって、コロイダルシリカの含有量が0.02質量%〜0.5質量%である組み合わせがより好ましく、尿素の含有量が3.0質量%〜10質量%であって、コロイダルシリカの含有量が0.03質量%〜0.2質量%である組み合わせが特に好ましい。
【0223】
−水溶性高分子化合物−
本発明で用いる水性インクは、必要に応じて、水溶性高分子化合物を少なくとも1種含有してもよい。
水溶性高分子化合物としては特に限定はなく、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の公知の水溶性高分子化合物を用いることができる。
また、水溶性高分子化合物としては、後述する処理液に含まれることがある特定高分子化合物や、特開2013−001854号公報の段落0026〜0080に記載された水溶性高分子化合物も好適である。
【0224】
本発明で用いる水性インクが水溶性高分子化合物を含有する場合、水溶性高分子化合物の含有量は、水性インク全量に対し、0.0001質量%〜10質量%が好ましく、0.01質量%〜3質量%がより好ましく、0.02質量%〜0.5質量%がさらに好ましく、0.03質量%〜0.3質量%が特に好ましい。
【0225】
−消泡剤−
本発明で用いる水性インクは、必要に応じ、消泡剤を少なくとも1種含有していてもよい。
消泡剤としては、例えばシリコーン系化合物(シリコーン系消泡剤)、プルロニック系化合物(プルロニック系消泡剤)等が挙げられ、これらの中でも、シリコーン系消泡剤が好ましい。
シリコーン系消泡剤としては、ポリシロキサン構造を有するシリコーン系消泡剤が好ましい。
【0226】
消泡剤としては、市販品を用いることができる。
市販品としては、BYK−012、017、021、022、024、025、038、094(以上、ビックケミー・ジャパン(株)製)、KS−537、KS−604、KM−72F(以上、信越化学工業(株)製)、TSA−739(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、オルフィンAF104(日信化学工業(株)製)等が挙げられる。
中でも、シリコーン系消泡剤である、BYK−017、021、022、024、025、094、KS−537、KS−604、KM−72F、TSA−739が好ましく、中でも、インクの吐出安定性の点でBYK−024が最も好ましい。
【0227】
本発明で用いる水性インクが消泡剤を含有する場合、消泡剤の含有量は、水性インク全量に対し、0.0001質量%〜1質量%が好ましく、0.001質量%〜0.1質量%がより好ましい。
【0228】
−無機塩−
本発明で用いる水性インクは、必要に応じ、無機塩を少なくとも1種含有していてもよい。これにより、形成された画像の面アレが抑制される。
ここで、面アレとは、画像の明るい領域(ハイライト)と暗い領域(シャドウ)の中間の領域(中間調領域)において、水性インクの濃度の高い部分と低い部分が偏在して、荒れているように見える現象のことをいう。
「面アレ」は、従来の「にじみ」や「スジ」のような水性インクの局部的な凝集不足により生じる現象ではなく、記録媒体上に処理液が不均一に分布することによる凝集不均一に起因する現象である。
【0229】
無機塩としては、塩酸塩又は硝酸塩が好ましい。
中でも、インクの減粘抑制及び面アレ抑制に優れるという点から、1価の塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましく、塩化リチウム、硝酸リチウム、塩化カリウム、又は硝酸カリウムがさらに好ましい。
無機塩は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明で用いる水性インクが無機塩を含有する場合、水性インク中における無機塩の含有量(2種以上の場合には合計の含有量)には特に限定はないが、水性インクの全量に対し、0.01質量%〜0.1質量%が好ましく、0.02質量%〜0.1質量%がより好ましく、0.03質量%〜0.1質量%が特に好ましい。
【0230】
−ワックス粒子−
本発明で用いる水性インクは、ワックス粒子の少なくとも1種を含有することができる。これにより、耐擦性をより向上させることができる。
【0231】
ワックス粒子としては、例えば、カルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物系、動物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス、カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス、α−オレフィン・無水マレイン酸共重合体、等の天然ワックス又は合成ワックスの粒子あるいはこれらの混合粒子等が挙げられる。
【0232】
ワックスは、分散物の形で添加されることが好ましく、例えば、エマルジョンなどの分散物として水性インク中に含有することができる。分散物とする場合の溶媒としては水が好ましいが、これに限定されるものではなく、例えば通常用いられている有機溶媒を適宜選択して分散時に使用することができる。有機溶媒については、特開2006−91780号公報の段落番号[0027]の記載を参照することができる。
ワックス粒子は、1種単独であるいは複数種を混合して用いることができる。
【0233】
ワックス粒子は市販品を用いてもよい。市販品の例として、ノプコートPEM17(サンノプコ(株)製)、ケミパールW4005(三井化学(株)製)、AQUACER515、AQUACER593(いずれもビックケミー・ジャパン(株)製)等が挙げられる。
【0234】
上記のうち、好ましいワックスとしては、カルナバワックス、ポリオレフィンワックスが好ましく、耐擦性の点で、特に好ましくはカルナバワックスである。
【0235】
本発明で用いる水性インクがワックス粒子を含有する場合、樹脂粒子とワックス粒子との含有比率としては、樹脂粒子:ワックス粒子=1:5〜5:1の範囲(固形分比)であることが好ましい。樹脂粒子とワックス粒子との含有比率が上記の範囲内であると、耐擦性に優れる画像を形成することができる。
【0236】
−その他の成分−
本発明で用いる水性インクは、上記成分に加えて必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。
その他の成分としては、例えば、固体湿潤剤、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0237】
本発明で用いる水性インクは、重合性化合物を少なくとも1種含む、活性エネルギー線(例えば紫外線)硬化型の水性インクであってもよい。
この場合、水性インクが(後述の処理液を用いる場合には、水性インク及び処理液の少なくとも一方が)、更に重合開始剤を含むことが好ましい。
重合性化合物としては、例えば、2011−184628号公報の段落0128〜0144、特開2011−178896号公報の段落0019〜0034、又は特開2015−25076の段落0065〜0086等に記載されている重合性化合物(例えば、2官能以上の(メタ)アクリルアミド化合物)が挙げられる。
重合開始剤としては、例えば、特開2011−184628号公報の段落0186〜0190、特開2011−178896号公報の段落0126〜0130、又は特開2015−25076の段落0041〜0064に記載されている公知の重合開始剤が挙げられる。
【0238】
(水性インクの好ましい物性)
本発明で用いる水性インクの物性には特に制限はないが、以下の物性であることが好ましい。
本発明で用いる水性インクは、凝集速度及び組成物の分散安定性の観点から、25℃(±1℃)におけるpHが7.5以上であることが好ましい。
水性インクのpH(25℃±1℃)は、pH7.5〜13が好ましく、7.5〜10がより好ましい。
【0239】
本発明で用いる水性インクの粘度としては、凝集速度の観点から、0.5mPa・s〜10mPa・sの範囲が好ましく、1mPa・s〜7mPa・sの範囲がより好ましい。
粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて30℃の条件下で測定されるものである。
【0240】
本発明で用いる水性インクの25℃(±1℃)における表面張力としては、60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m〜50mN/mであることがより好ましく、25mN/m〜45mN/mであることがさらに好ましい。水性インクの表面張力が60mN/m以下であると、記録媒体におけるカールの発生が抑えられ有利である。表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用い、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0241】
本発明では、記録媒体の吸水層に対し、水及び着色剤を含有する水性インクをインクジェット方式で付与して視差画像を形成するが、記録媒体の吸水層に対し、水性インクを付与する前に水性インク中の成分を凝集させる処理液を付与することが好ましい。特に、合成紙を用いる場合は、水性インクを付与する前に処理液を付与し、インクドットの広がりを抑制することが好ましい。
【0242】
<処理液>
処理液は、水性インク中の成分を凝集させる酸(以下、「酸性化合物」ともいう)を少なくとも1種含有することが好ましい。
【0243】
(酸性化合物)
酸性化合物としては、水性インクのpHを低下させ得る酸性物質が挙げられる。
酸性化合物としては、有機酸性化合物及び無機酸性化合物のいずれを用いてもよく、有機酸性化合物及び無機酸性化合物を2種以上併用してもよい。
【0244】
−有機酸性化合物−
有機酸性化合物としては、酸性基を有する有機化合物が挙げられる。
酸性基としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、及びカルボキシ基等を挙げることができる。本発明において酸性基は、水性インクの凝集速度の観点から、リン酸基又はカルボキシ基であることが好ましく、カルボキシ基であることがより好ましい。
【0245】
カルボキシ基を有する有機化合物(有機カルボン酸)は、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸(好ましくは、DL−リンゴ酸)、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、4−メチルフタル酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩(例えば多価金属塩)等が好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0246】
有機カルボン酸としては、水性インクの凝集速度の観点から、2価以上のカルボン酸(以下、多価カルボン酸ともいう。)であることが好ましく、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、酒石酸、4−メチルフタル酸、及びクエン酸から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、及びクエン酸が更に好ましい。
【0247】
有機酸性化合物は、pKaが低いことが好ましい。
これにより、カルボキシ基等の弱酸性の官能基で分散安定化している水性インク中の顔料やポリマー粒子などの粒子の表面電荷を、よりpKaの低い有機酸性化合物と接触させることにより減じ、分散安定性を低下させることができる。
【0248】
処理液に含まれる有機酸性化合物は、pKaが低く、水に対する溶解度が高く、価数が2価以上であることが好ましく、水性インク中の粒子を分散安定化させている官能基(例えば、カルボキシ基等)のpKaよりも低いpH領域に高い緩衝能を有する2価又は3価の酸性物質であることがより好ましい。
【0249】
−無機酸性化合物−
無機酸性化合物としては、リン酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、塩酸などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。無機酸性化合物としては、画像部の光沢ムラの発生抑制とインクの凝集速度の観点から、リン酸が最も好ましい。
【0250】
リン酸は、カルシウム塩(リン酸カルシウム)とした場合の水への溶解度(25℃)が0.0018g/水100gと小さい。したがって、処理液に含まれる無機酸性化合物がリン酸であると、カルシウム塩が溶解せず固定化され、画像部表面に発生する光沢ムラの発生を抑制する効果に優れる。
特に、記録媒体として炭酸カルシウムを含有するコート層を有する記録媒体を使用した場合、処理液に含まれる無機酸性化合物としてはリン酸が有利である。
【0251】
処理液に含まれる酸性化合物の総量は、特に制限はないが、水性インクの凝集速度の観点から、処理液の全量に対し、5質量%〜40質量%であることが好ましく、10質量%〜30質量%であることがより好ましい。
酸性化合物として有機酸性化合物と無機酸性化合物とを併用する場合において、有機酸性化合物と無機酸性化合物との含有比は、凝集速度と光沢ムラ抑制の観点から、有機酸性化合物の含有量に対する無機酸性化合物の含有量が、5モル%〜50モル%であることが好ましく、10モル%〜40モル%であることがより好ましく、15モル%〜35モル%であることがさらに好ましい。
【0252】
処理液は、酸性化合物の他に、必要に応じて、多価金属塩やカチオン性ポリマーなどの他の凝集成分を併用してもよい。
多価金属塩やカチオン性ポリマーについては、例えば、特開2011−042150号公報の段落0155〜0156に記載されている多価金属塩やカチオン性ポリマーを用いることができる。
【0253】
(水溶性高分子化合物)
処理液は、水溶性高分子化合物を少なくとも一種含むことが好ましい。
水溶性高分子化合物としては特に限定はなく、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の公知の水溶性高分子化合物を用いることができる。
また、水溶性高分子化合物としては、後述する特定高分子化合物や、特開2013−001854号公報の段落0026〜0080に記載された水溶性高分子化合物も好適である。
【0254】
水溶性高分子化合物の重量平均分子量には特に限定はないが、例えば10000〜100000とすることができ、好ましくは20000〜80000であり、より好ましくは30000〜80000である。
【0255】
また、処理液中における水溶性高分子化合物の含有量には特に限定はないが、処理液の全量に対し、0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.1質量%〜4質量%がより好ましく、0.1質量%〜2質量%がさらに好ましく、0.1質量%〜1質量%が更に好ましい。
処理液中における水溶性高分子化合物の含有量が0.1質量%以上であれば、インク滴の広がりをより促進でき、含有量が10質量%以下であれば、処理液の増粘をより抑制できる。また、処理液中における水溶性高分子化合物の含有量が10質量%以下であれば、処理液中の泡に起因する処理液の塗布ムラをより抑制できる。
【0256】
水溶性高分子化合物としては、イオン性基(好ましくはアニオン性基)を有する親水性の構造単位を含む高分子化合物(以下、「特定高分子化合物」ともいう。)が好ましい。これにより、記録媒体に付与されたインク滴の広がりをより促進することができ、画像のざらつきがさらに抑制される。
特定高分子化合物におけるイオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ボロン酸基、アミノ基、アンモニウム基、又はこれらの塩等が挙げられる。中でも、好ましくは、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、又はこれらの塩であり、より好ましくは、カルボキシル基、スルホン酸基、又はこれらの塩であり、さらに好ましくは、スルホン酸基又はその塩である。
イオン性基(好ましくはアニオン性基)を有する親水性の構造単位としては、イオン性基(好ましくはアニオン性基)を有する(メタ)アクリルアミド化合物に由来する構造単位が好ましい。
水溶性高分子化合物中におけるイオン性基(好ましくはアニオン性基)を有する親水性の構造単位の含有量としては、水溶性高分子化合物の全質量中、例えば10質量%〜100質量%とすることができ、10質量%〜90質量%であることが好ましく、10質量%〜70質量%であることがより好ましく、10質量%〜50質量%であることがさらに好ましく、20質量%〜40質量%であることが特に好ましい。
【0257】
特定高分子化合物としては、上述のイオン性基(好ましくはアニオン性基、特に好ましくはスルホン酸基)を有する親水性の構造単位の少なくとも一種に加え、疎水性の構造単位の少なくとも一種を含むことがより好ましい。疎水性の構造単位を含むことにより、特定高分子化合物が処理液表面にさらに存在しやすくなるため、記録媒体に付与されたインク滴の広がりがより促進され、画像のざらつきがさらに抑制される。
疎水性の構造単位としては、(メタ)アクリル酸エステル(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素原子数1〜4のアルキルエステル)に由来する構造単位が好ましい。
【0258】
特定高分子化合物における疎水性の構造単位の含有量は、特定高分子化合物の全質量中、例えば10質量%〜90質量%とすることができ、30質量%〜90質量%であることが好ましく、50質量%〜90質量%であることがより好ましく、60質量%〜80質量%であることが更に好ましい。
【0259】
(水)
処理液は水を含有することが好ましい。
水の含有量は、処理液の全質量に対して、好ましくは50質量%〜90質量%であり、より好ましくは60質量%〜80質量%である。
【0260】
(水溶性溶剤)
処理液は、水溶性溶剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。
水溶性溶剤として、具体的には、本発明で用いる水性インクが含むことができる水溶性溶剤を、処理液においても同様に用いることができる。
中でも、カール抑制の観点から、ポリアルキレングリコール又はその誘導体であることが好ましく、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0261】
水溶性溶剤の処理液における含有量としては、塗布性などの観点から、処理液全体に対して3質量%〜20質量%であることが好ましく、5質量%〜15質量%であることがより好ましい。
【0262】
(界面活性剤)
処理液は、界面活性剤の少なくとも1種を含んでもよい。
界面活性剤は、表面張力調整剤として用いることができる。表面張力調整剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。中でも、水性インクの凝集速度の観点から、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0263】
界面活性剤としては、特開昭59−157636号公報の第37〜38頁及びリサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)に界面活性剤として挙げた化合物も挙げられる。また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載のフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤等も挙げられる。
【0264】
処理液における界面活性剤の含有量としては特に制限はないが、処理液の表面張力が50mN/m以下となる含有量であることが好ましく、20mN/m〜50mN/mとなる含有量であることがより好ましく、30mN/m〜45mN/mとなる含有量であることがさらに好ましい。
【0265】
(その他の添加剤)
処理液は、必要に応じ、上記以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
処理液に含有され得るその他の添加剤としては、前述した水性インクに含有され得るその他の添加剤と同様である。
【0266】
(処理液の物性)
処理液は、水性インクの凝集速度の観点から、25℃(±1℃)におけるpHが0.1以上0.5以下であることが好ましい。
処理液のpHが0.1以上であると、記録媒体のザラツキがより低減され、画像部の密着性がより向上する。
処理液のpHが0.5以下であると、水性インクに含まれる成分の凝集速度がより向上し、記録媒体上における水性インクによるドット(インクドット)の合一がより抑制され、画像のザラツキがより低減される。
処理液のpH(25℃±1℃)は、0.2〜0.4がより好ましい。
【0267】
処理液の粘度としては、水性インクの凝集速度の観点から、0.5mPa・s〜10mPa・sの範囲が好ましく、1mPa・s〜5mPa・sの範囲がより好ましい。粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0268】
処理液の25℃(±1℃)における表面張力としては、60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m〜50mN/mであることがより好ましく、30mN/m〜45mN/mであることがさらに好ましい。処理液の表面張力が60mN/m以下であると、記録媒体におけるカールの発生が抑えられ有利である。処理液の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用い、プレート法によって測定されるものである。
【0269】
次に、上述した記録媒体、水性インク、処理液を用いてインクジェット方式により視差画像を形成する方法について具体的に説明する。
【0270】
本発明で用いるインクジェット方式には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
【0271】
インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたシングルパス方式(ライン方式)とがある。シングルパス方式では、記録素子の配列方向と交差する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明におけるインクジェット方式による視差画像の形成方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないシングルパス方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦性の向上効果が大きく、また、高速で描画することができるため好ましい。
【0272】
<インクジェット記録装置>
ここで、本発明における視差画像の形成に用いることができるインクジェット記録装置の一例について説明する。
【0273】
(インクジェット記録装置の全体構成)
まず、インクジェット記録装置の全体構成について説明する。
【0274】
図3は、インクジェット記録装置の全体の概略構成を示す全体構成図である。
【0275】
このインクジェット記録装置10は、記録媒体にシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロ(Y)、クロ(K)の4色のインクを打滴してカラー画像を記録するインクジェット記録装置である。
【0276】
記録媒体としては、既述の記録媒体が使用される。また、インクには既述の水性インクが使用される。
なお、既述のインクジェット専用紙を用いる場合は、そのまま水性インクを用いてインクジェット方式で画像を記録しても高画質な画像を形成することができるが、既述の合成紙を用いる場合は、フェザリングやブリーディング等の発生を抑制するため、本例のインクジェット記録装置では、インク中の成分を凝集させる機能を有する処理液を事前に塗布して画像の記録を行うことが好ましい。
【0277】
図3に示すように、インクジェット記録装置10は、主として、記録媒体としての用紙Pを給紙する給紙部12と、給紙部12から給紙された用紙Pの表面(吸水層)に処理液を塗布する処理液塗布部14と、処理液が塗布された用紙Pの乾燥処理を行う処理液乾燥処理部16と、乾燥処理された用紙Pの表面にインクジェット方式でインク滴を打滴してカラー画像を描画する画像記録部18と、画像が記録された用紙Pの乾燥処理を行うインク乾燥処理部20と、用紙Pを排紙して回収する排紙部24とを備えて構成される。
【0278】
−給紙部−
給紙部12は、給紙台30に積載された用紙Pを1枚ずつ処理液塗布部14に給紙する。給紙部12は、主として、給紙台30と、サッカー装置32と、給紙ローラ対34と、フィーダボード36と、前当て38と、給紙ドラム40とを備えて構成される。
【0279】
用紙Pは、多数枚が積層された束の状態で給紙台30に載置される。給紙台30は、図示しない給紙台昇降装置によって昇降可能に設けられる。給紙台昇降装置は、給紙台30に積載された用紙Pの増減に連動して、駆動が制御され、束の最上位に位置する用紙Pが常に一定の高さに位置するように、給紙台30を昇降させる。
【0280】
サッカー装置32は、給紙台30に積載されている用紙Pを上から順に1枚ずつ取り上げて、給紙ローラ対34に給紙する。サッカー装置32は、昇降自在かつ揺動自在に設けられたサクションフット32Aを備え、このサクションフット32Aによって用紙Pの上面を吸着保持して、用紙Pを給紙台30から給紙ローラ対34に移送する。この際、サクションフット32Aは、束の最上位に位置する用紙Pの先端側の上面を吸着保持して、用紙Pを引き上げ、引き上げた用紙Pの先端を給紙ローラ対34を構成する一対のローラ34A、34Bの間に挿入する。
【0281】
給紙ローラ対34は、互いに押圧された上下一対のローラ34A、34Bで構成される。上下一対のローラ34A、34Bは、一方が駆動ローラ(ローラ34A)、他方が従動ローラ(ローラ34B)とされ、駆動ローラ(ローラ34A)は、図示しないモータに駆動されて回転する。モータは、用紙Pの給紙に連動して駆動され、サッカー装置32から用紙Pが給紙されると、そのタイミングに合わせて駆動ローラ(ローラ34A)を回転させる。上下一対のローラ34A、34Bの間に挿入された用紙Pは、このローラ34A、34Bにニップされて、ローラ34A、34Bの回転方向(フィーダボード36の設置方向)に送り出される。
【0282】
フィーダボード36は、用紙幅に対応して形成され、給紙ローラ対34から送り出された用紙Pを受けて、前当て38までガイドする。このフィーダボード36は、先端側が下方に向けて傾斜して設置され、その搬送面の上に載置された用紙Pを搬送面に沿って滑らせて前当て38までガイドする。
【0283】
フィーダボード36には、用紙Pを搬送するためのテープフィーダ36Aが幅方向に間隔をおいて複数設置される。テープフィーダ36Aは、無端状に形成され、図示しないモータに駆動されて回転する。フィーダボード36の搬送面に載置された用紙Pは、このテープフィーダ36Aによって送りが与えられて、フィーダボード36の上を搬送される。
【0284】
また、フィーダボード36の上には、リテーナ36Bとコロ36Cとが設置される。
【0285】
リテーナ36Bは、用紙Pの搬送面に沿って前後に縦列して複数配置される(本例では2つ)。このリテーナ36Bは、用紙幅に対応した幅を有する板バネで構成され、搬送面に押圧されて設置される。テープフィーダ36Aによってフィーダボード36の上を搬送される用紙Pは、このリテーナ36Bを通過することにより、凹凸が矯正される。なお、リテーナ36Bは、フィーダボード36との間に用紙Pを導入しやすくするため、後端部がカールして形成される。
【0286】
コロ36Cは、前後のリテーナ36Bの間に配設される。このコロ36Cは、用紙Pの搬送面に押圧されて設置される。前後のリテーナ36Bの間を搬送される用紙Pは、このコロ36Cによって上面が抑えられながら搬送される。
【0287】
前当て38は、用紙Pの姿勢を矯正する。この前当て38は、板状に形成され、用紙Pの搬送方向と直交して配置される。また、図示しないモータに駆動されて、揺動可能に設けられる。フィーダボード36の上を搬送された用紙Pは、その先端が前当て38に接触されて、姿勢が矯正される(いわゆる、スキュー防止)。前当て38は、給紙ドラム40への用紙の給紙に連動して揺動し、姿勢を矯正した用紙Pを給紙ドラム40に受け渡す。
【0288】
給紙ドラム40は、前当て38を介してフィーダボード36から給紙される用紙Pを受け取り、処理液塗布部14へと搬送する。給紙ドラム40は、円筒状に形成され、図示しないモータに駆動されて回転する。給紙ドラム40の外周面上には、グリッパ40Aが備えられ、このグリッパ40Aによって用紙Pの先端が把持される。給紙ドラム40は、グリッパ40Aによって用紙Pの先端を把持して回転することにより、用紙Pを周面に巻き掛けながら、処理液塗布部14へと用紙Pを搬送する。
【0289】
−処理液塗布部−
処理液塗布部14は、用紙Pの表面(吸水層)にインクに含まれる成分を凝集させる機能を有する処理液を塗布する。この処理液塗布部14は、主として、用紙Pを搬送する処理液塗布ドラム42と、処理液塗布ドラム42によって搬送される用紙Pの表面(吸水層)に処理液を塗布する処理液塗布装置44とを備えて構成される。
【0290】
処理液塗布ドラム42は、記録媒体としての用紙Pの保持手段(記録媒体保持手段)として機能するとともに、記録媒体としての用紙Pの搬送手段(記録媒体搬送手段)として機能し、給紙部12の給紙ドラム40から用紙Pを受け取り、外周面上に保持して回転することにより、用紙Pを処理液乾燥処理部16へと搬送する。
【0291】
処理液塗布ドラム42は、円筒状に形成され、図示しないモータに駆動されて回転する。処理液塗布ドラム42の外周面上には、グリッパ42Aが備えられ、このグリッパ42Aによって用紙Pの先端が把持される。処理液塗布ドラム42は、このグリッパ42Aによって用紙Pの先端を把持して回転することにより、用紙Pを周面に巻き掛けながら、処理液乾燥処理部16へと用紙Pを搬送する(1回転で1枚の用紙Pを搬送する。)。処理液塗布ドラム42と給紙ドラム40は、互いの用紙Pの受け取りと受け渡しのタイミングが合うように、回転が制御される。すなわち、同じ周速度となるように駆動されるとともに、互いのグリッパの位置が合うように駆動される。
【0292】
処理液塗布装置44は、処理液塗布ドラム42によって搬送される用紙Pの表面に処理液を塗布する処理液塗布手段として機能する。処理液塗布装置44は、たとえば、ローラ塗布装置で構成され、周面に処理液が付与された塗布ローラを用紙Pの表面に押圧させて、用紙Pの表面に処理液を塗布する。処理液塗布装置44は、この他、たとえば、処理液をインクジェット方式で吐出して塗布するヘッドや、処理液を噴霧して塗布するスプレーで構成することもできる。
【0293】
なお、この処理液塗布部14で塗布する処理液は、前述した処理液であり、水性インク中の成分を凝集させる凝集剤を含む液体で構成される。
【0294】
このような処理液を用紙Pの表面(吸水層)に塗布して画像を記録することにより、フェザリングやブリーディング等の発生を防止でき、表面に吸水層を有する合成紙を使用しても、高品質な印刷を行うことが可能になる。
【0295】
−処理液乾燥処理部−
処理液乾燥処理部16は、表面に処理液が付与された用紙Pを乾燥処理する。この処理液乾燥処理部16は、主として、用紙Pを搬送する処理液乾燥処理ドラム46と、用紙搬送ガイド48と、処理液乾燥処理ドラム46によって搬送される用紙Pの吸水層に熱風を吹き当てて乾燥させる処理液乾燥処理ユニット50とを備えて構成される。
【0296】
処理液乾燥処理ドラム46は、処理液塗布部14の処理液塗布ドラム42から用紙Pを受け取り、画像記録部18へと用紙Pを搬送する。処理液乾燥処理ドラム46は、円筒状に組んだ枠体で構成され、図示しないモータに駆動されて回転する。処理液乾燥処理ドラム46の外周面上には、グリッパ46Aが備えられ、このグリッパ46Aによって用紙Pの先端が把持される。処理液乾燥処理ドラム46は、このグリッパ46Aによって用紙Pの先端を把持して回転することにより、画像記録部18と用紙Pを搬送する。なお、本例の処理液乾燥処理ドラム46は、外周面上の2カ所にグリッパ42Aが配設され、1回の回転で2枚の用紙Pが搬送できるように構成されている。処理液乾燥処理ドラム46と処理液塗布ドラム42は、互いの用紙Pの受け取りと受け渡しのタイミングが合うように、回転が制御される。すなわち、同じ周速度となるように駆動されるとともに、互いのグリッパの位置が合うように駆動される。
【0297】
用紙搬送ガイド48は、処理液乾燥処理ドラム46による用紙Pの搬送経路に沿って配設され、用紙Pの搬送をガイドする。
【0298】
処理液乾燥処理ユニット50は、処理液乾燥処理ドラム46の内側に設置され、処理液乾燥処理ドラム46によって搬送される用紙Pの表面に向けて熱風を吹き当てて乾燥処理する。本例では、2台の処理液乾燥処理ユニット50が、処理液乾燥処理ドラム内に配設され、処理液乾燥処理ドラム46によって搬送される用紙Pの表面に向けて熱風を吹き当てる構成とされている。
【0299】
−画像記録部−
画像記録部18は、用紙Pの吸水層にC、M、Y、Kの各色の水性インクを打滴して、用紙Pの吸水層にカラーの視差画像を描画する。この画像記録部18は、主として、用紙Pを搬送する画像記録ドラム52と、画像記録ドラム52によって搬送される用紙Pを押圧して、用紙Pを画像記録ドラム52の周面に密着させる用紙押さえローラ54と、用紙PにC、M、Y、Kの各色のインク滴を吐出して画像を記録するヘッドユニット56と、用紙Pに記録された画像を読み取る画像読取手段としてのインラインセンサ58と、インクミストを捕捉するミストフィルタ60と、画像記録ドラム52を冷却するドラム冷却ユニット62とを備えて構成される。
【0300】
画像記録ドラム52は、記録媒体としての用紙Pを保持する記録媒体保持手段として機能するとともに、記録媒体としての用紙Pを搬送する記録媒体搬送手段として機能する。画像記録ドラム52は、処理液乾燥処理部16の処理液乾燥処理ドラム46から用紙Pを受け取り、インク乾燥処理部20へと用紙Pを搬送する。画像記録ドラム52は、円筒状に形成され、駆動手段としての図示しないモータに駆動されて回転する。画像記録ドラム52の外周面上には、グリッパが備えられ、このグリッパによって用紙Pの先端が把持される。画像記録ドラム52は、このグリッパによって用紙Pの先端を把持して回転することにより、用紙Pを周面に巻き掛けながら、用紙Pをインク乾燥処理部20へと搬送する。また、画像記録ドラム52は、その周面に多数の吸着穴(不図示)が所定のパターンで形成される。画像記録ドラム52の周面に巻き掛けられた用紙Pは、この吸着穴から吸引されることにより、画像記録ドラム52の周面に吸着保持されながら搬送される。これにより、高い平坦性をもって用紙Pを搬送することができる。
【0301】
用紙押さえローラ54は、画像記録ドラム52の用紙受取位置(処理液乾燥処理ドラム46から用紙Pを受け取る位置)の近傍に配設される。この用紙押さえローラ54は、ゴムローラで構成され、画像記録ドラム52の周面に押圧させて設置される。処理液乾燥処理ドラム46から画像記録ドラム52受け渡された用紙Pは、この用紙押さえローラ54を通過することによりニップされ、画像記録ドラム52の周面に密着させられる。
【0302】
ヘッドユニット56は、シアン(C)のインク滴をインクジェット方式で吐出するインクジェットヘッド200Cと、マゼンタ(M)のインク滴をインクジェット方式で吐出するインクジェットヘッド200Mと、イエロ(Y)のインク滴をインクジェット方式で吐出するインクジェットヘッド200Yと、クロ(K)のインク滴をインクジェット方式で吐出するインクジェットヘッド200Kとを備えて構成される。各インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kは、画像記録ドラム52による用紙Pの搬送経路に沿って一定の間隔をもって配置される。
【0303】
各インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kは、ラインヘッドで構成され、最大の用紙幅に対応する長さで形成される。各インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kは、ノズル面(ノズルが配列される面)が画像記録ドラム52の周面に対向するように配置される。
【0304】
各インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kは、ノズル面に形成されたノズルから、画像記録ドラム52に向けてインクの液滴を吐出することにより、画像記録ドラム52によって搬送される用紙Pに画像を記録する。
【0305】
なお、このインクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kの構成については、後に詳述する。
【0306】
インラインセンサ58は、用紙Pに記録された画像を読み取る画像読取手段として機能する。インラインセンサ58は、画像記録ドラム52による用紙Pの搬送方向に対して、最後尾のインクジェットヘッド200Kの下流側に設置され、インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kで記録された画像を読み取る。このインラインセンサ58は、たとえば、ラインスキャナで構成され、画像記録ドラム52によって搬送される用紙Pからインクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kによって記録された画像を読み取る。
【0307】
なお、インラインセンサ58の下流側には、インラインセンサ58に近接して接触防止板59が設置される。この接触防止板59は、搬送の不具合等によって用紙Pに浮きが生じた場合に、用紙Pがインラインセンサ58に接触するのを防止する。
【0308】
ミストフィルタ60は、最後尾のインクジェットヘッド200Kとインラインセンサ58との間に配設され、画像記録ドラム52の周辺の空気を吸引してインクミストを捕捉する。このように、画像記録ドラム52の周辺の空気を吸引してインクミストを捕捉することにより、インラインセンサ58へのインクミストの進入を防止でき、読み取り不良等の発生を防止できる。
【0309】
ドラム冷却ユニット62は、画像記録ドラム52に冷風を吹き当てて、画像記録ドラム52を冷却する。このドラム冷却ユニット62は、主として、エアコン(不図示)と、そのエアコンから供給される冷気を画像記録ドラム52の周面に吹き当てるダクト62Aとで構成される。ダクト62Aは、画像記録ドラム52に対して、用紙Pの搬送領域以外の領域に冷気を吹き当てて、画像記録ドラム52を冷却する。本例では、画像記録ドラム52のほぼ上側半分の円弧面に沿って用紙Pが搬送されるので、ダクト62Aは、画像記録ドラム52のほぼ下側半分の領域に冷気を吹き当てて、画像記録ドラム52を冷却する構成とされている。具体的には、ダクト62Aの吹出口が、画像記録ドラム52のほぼ下側半分を覆うように円弧状に形成され、画像記録ドラム52のほぼ下側半分の領域に冷気が吹き当てられる構成とされている。
【0310】
ここで、画像記録ドラム52を冷却する温度は、インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kの温度(特にノズル面の温度)との関係で定まり、インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kの温度よりも低い温度となるように冷却される。これにより、インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kに結露が生じるのを防止することができる。すなわち、インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kよりも画像記録ドラム52の温度を低くすることにより、画像記録ドラム側に結露を誘発することができ、インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kに生じる結露(特にノズル面に生じる結露)を防止することができる。
【0311】
インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kによって画像が記録された用紙Pは、次いで、インラインセンサ58を通過する。そして、そのインラインセンサ58の通過時に表面に記録された画像が読み取られる。この記録画像の読み取りは必要に応じて行われ、読み取られた画像から吐出不良等の検査が行われる。読み取りを行う際は、画像記録ドラム52に吸着保持された状態で読み取りが行われるので、高精度に読み取りを行うことができる。また、画像記録直後に読み取りが行われるので、たとえば、吐出不良等の異常を直ちに検出することができ、その対応を迅速に行うことができる。これにより、無駄な記録を防止できるとともに、損紙の発生を最小限に抑えることができる。
【0312】
この後、用紙Pは、吸着が解除された後、インク乾燥処理部20へと受け渡される。
【0313】
−インク乾燥処理部−
インク乾燥処理部20は、画像記録後の用紙Pを乾燥処理し、用紙Pの表面に残存する液体成分を除去する。インク乾燥処理部20は、画像が記録された用紙Pを搬送するチェーングリッパ64と、チェーングリッパ64によって搬送される用紙Pにバックテンションを付与するバックテンション付与機構66と、チェーングリッパ64によって搬送される用紙Pを乾燥処理するインク乾燥処理ユニット68とを備えて構成される。
【0314】
チェーングリッパ64は、インク乾燥処理部20、排紙部24において共通して使用される用紙搬送機構であり、画像記録部18から受け渡された用紙Pを受け取って、排紙部24まで搬送する。
【0315】
このチェーングリッパ64は、主として、画像記録ドラム52に近接して設置される第1スプロケット64Aと、排紙部24に設置される第2スプロケット64Bと、第1スプロケット64Aと第2スプロケット64Bとに巻き掛けられる無端状のチェーン64Cと、チェーン64Cの走行をガイドする複数のチェーンガイド(不図示)と、チェーン64Cに一定の間隔をもって取り付けられる複数のグリッパ64Dとで構成される。第1スプロケット64Aと、第2スプロケット64Bと、チェーン64Cと、チェーンガイドとは、それぞれ一対で構成され、用紙Pの幅方向の両側に配設される。グリッパ64Dは、一対で設けられるチェーン64Cに掛け渡されて設置される。
【0316】
第1スプロケット64Aは、画像記録ドラム52から受け渡される用紙Pをグリッパ64Dで受け取ることができるように、画像記録ドラム52に近接して設置される。この第1スプロケット64Aは、図示しない軸受に軸支されて、回転自在に設けられるとともに、図示しないモータが連結される。第1スプロケット64A及び第2スプロケット64Bに巻き掛けられるチェーン64Cは、このモータを駆動することにより走行する。
【0317】
第2スプロケット64Bは、画像記録ドラム52から受け取った用紙Pを排紙部24で回収できるように、排紙部24に設置される。すなわち、この第2スプロケット64Bの設置位置が、チェーングリッパ64による用紙Pの搬送経路の終端とされる。この第2スプロケット64Bは、図示しない軸受に軸支されて、回転自在に設けられる。
【0318】
チェーン64Cは、無端状に形成され、第1スプロケット64Aと第2スプロケット64Bとに巻き掛けられる。
【0319】
チェーンガイドは、所定位置に配置されて、チェーン64Cが所定の経路を走行するようにガイドする(すなわち、用紙Pが所定の搬送経路を走行して搬送されるようにガイドする。)。本例のインクジェット記録装置10では、第2スプロケット64Bが第1スプロケット64Aよりも高い位置に配設される。このため、チェーン64Cが、途中で傾斜するような走行経路が形成される。具体的には、第1水平搬送経路70Aと、傾斜搬送経路70Bと、第2水平搬送経路70Cとで構成される。
【0320】
第1水平搬送経路70Aは、第1スプロケット64Aと同じ高さに設定され、第1スプロケット64Aに巻き掛けられたチェーン64Cが、水平に走行するように設定される。
【0321】
第2水平搬送経路70Cは、第2スプロケット64Bと同じ高さに設定され、第2スプロケット64Bに巻き掛けられたチェーン64Cが、水平に走行するように設定される。
【0322】
傾斜搬送経路70Bは、第1水平搬送経路70Aと第2水平搬送経路70Cとの間に設定され、第1水平搬送経路70Aと第2水平搬送経路70Cとの間を結ぶように設定される。
【0323】
チェーンガイドは、この第1水平搬送経路70Aと、傾斜搬送経路70Bと、第2水平搬送経路70Cとを形成するように配設される。具体的には、少なくとも第1水平搬送経路70Aと傾斜搬送経路70Bとの接合ポイント、及び、傾斜搬送経路70Bと第2水平搬送経路70Cとの接合ポイントに配設される。
【0324】
グリッパ64Dは、チェーン64Cに一定の間隔をもって複数取り付けられる。このグリッパ64Dの取付間隔は、画像記録ドラム52からの用紙Pの受け取り間隔に合わせて設定される。すなわち、画像記録ドラム52から順次受け渡される用紙Pをタイミングを合わせて画像記録ドラム52から受け取ることができるように、画像記録ドラム52からの用紙Pの受け取り間隔に合わせて設定される。
【0325】
チェーングリッパ64は、以上のように構成される。上記のように、第1スプロケット64Aに接続されたモータ(不図示)を駆動すると、チェーン64Cが走行する。チェーン64Cは、画像記録ドラム52の周速度と同じ速度で走行する。また、画像記録ドラム52から受け渡される用紙Pが、各グリッパ64Dで受け取れるようにタイミングが合わせられる。
【0326】
バックテンション付与機構66は、チェーングリッパ64によって先端を把持されながら搬送される用紙Pにバックテンションを付与する。このバックテンション付与機構66は、主として、ガイドプレート4と、そのガイドプレート72に形成される吸着穴(不図示)から空気を吸引する吸引機構(不図示)とで構成される。
【0327】
ガイドプレート72は、用紙幅に対応した幅を有する中空状のボックスプレートで構成される。このガイドプレート72は、チェーングリッパ64による用紙Pの搬送経路(=チェーンの走行経路)に沿って配設される。具体的には、第1水平搬送経路70Aと傾斜搬送経路70Bとを走行するチェーン64Cに沿って配設され、チェーン64Cから所定距離離間して配設される。チェーングリッパ64によって搬送される用紙Pは、その裏面(画像が記録されていない側の面)が、このガイドプレート72の上面(チェーン64Cと対向する面:摺接面)の上を摺接しながら搬送される。
【0328】
ガイドプレート72の摺接面(上面)には、多数の吸着穴(不図示)が所定のパターンで多数形成される。上記のように、ガイドプレート72は、中空のボックスプレートで形成される。吸引機構(不図示)は、このガイドプレート72の中空部(内部)を吸引する。これにより、摺接面に形成された吸着穴から空気が吸引される。
【0329】
ガイドプレート72の吸着穴から空気が吸引されることにより、チェーングリッパ64によって搬送される用紙Pの裏面が吸着穴に吸引される。これにより、チェーングリッパ64によって搬送される用紙Pにバックテンションが付与される。
【0330】
上記のように、ガイドプレート72は、第1水平搬送経路70Aと傾斜搬送経路70Bとを走行するチェーン64Cに沿って配設されるので、第1水平搬送経路70Aと傾斜搬送経路70Bとを搬送されている間、バックテンションが付与される。
【0331】
インク乾燥処理ユニット68は、チェーングリッパ64の内部(特に第1水平搬送経路70Aを構成する部位)に設置され、第1水平搬送経路70Aを搬送される用紙Pに対して乾燥処理を施す。このインク乾燥処理ユニット68は、第1水平搬送経路70Aを搬送される用紙Pの表面に熱風を吹き当てて乾燥処理する。インク乾燥処理ユニット68は、第1水平搬送経路70Aに沿って複数台配置される。この設置数は、インク乾燥処理ユニット68の処理能力や用紙Pの搬送速度(=印刷速度)等に応じて設定される。すなわち、画像記録部18から受け取った用紙Pが第1水平搬送経路70Aを搬送されている間に乾燥させることができるように設定される。したがって、第1水平搬送経路70Aの長さも、このインク乾燥処理ユニット68の能力を考慮して設定される。
【0332】
なお、乾燥処理を行うことにより、インク乾燥処理部20の湿度が上がる。湿度が上がると、効率よく乾燥処理することができなくなるので、インク乾燥処理部20には、インク乾燥処理ユニット68と共に排気手段を設置し、乾燥処理によって発生する湿り空気を強制的に排気することが好ましい。排気手段は、たとえば、排気ダクトをインク乾燥処理部20に設置し、この排気ダクトによってインク乾燥処理部20の空気を排気する構成とすることができる。
【0333】
インク乾燥処理部20は、以上のように構成される。画像記録部18の画像記録ドラム52から受け渡された用紙Pは、チェーングリッパ64で受け取られる。チェーングリッパ64は、用紙Pの先端をグリッパ64Dで把持して、平面状のガイドプレート72に沿わせて用紙Pを搬送する。チェーングリッパ64に受け渡された用紙Pは、まず、第1水平搬送経路70Aを搬送される。この第1水平搬送経路70Aを搬送される過程で用紙Pは、チェーングリッパ64の内部に設置されたインク乾燥処理ユニット68によって乾燥処理が施される。すなわち、表面(吸水層)に熱風が吹き当てられて、乾燥処理が施される。この際、用紙Pは、バックテンション付与機構66によってバックテンションが付与されながら乾燥処理が施される。これにより、用紙Pの変形を抑えながら乾燥処理することができる。
【0334】
−排紙部−
排紙部24は、一連の画像記録処理が行われた用紙Pを排紙し、回収する。この排紙部24は、主として、用紙Pを搬送するチェーングリッパ64と、用紙Pを積み重ねて回収する排紙台76とを備えて構成される。
【0335】
上記のように、チェーングリッパ64は、インク乾燥処理部20と共に共通して使用される。チェーングリッパ64は、排紙台76の上で用紙Pを開放し、排紙台76の上に用紙Pをスタックさせる。
【0336】
排紙台76は、チェーングリッパ64から開放された用紙Pを積み重ねて回収する。この排紙台76には、用紙Pが整然と積み重ねられるように、用紙当て(前用紙当て、後用紙当て、横用紙当て等)が備えられる(不図示)。
【0337】
また、排紙台76は、図示しない排紙台昇降装置によって昇降可能に設けられる。排紙台昇降装置は、排紙台76にスタックされる用紙Pの増減に連動して、その駆動が制御され、最上位に位置する用紙Pが常に一定の高さに位置するように、排紙台76を昇降させる。
【0338】
(制御系)
図4は、本実施の形態のインクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【0339】
同図に示すように、インクジェット記録装置10は、システムコントローラ100、通信部102、画像メモリ104、搬送制御部110、給紙制御部112、処理液付与制御部114、処理液乾燥制御部116、画像記録制御部118、インク乾燥制御部120、排紙制御部124、操作部130、表示部132、不揮発性メモリ134等が備えられる。
【0340】
システムコントローラ100は、インクジェット記録装置10の各部を統括制御する制御手段として機能するとともに、各種演算処理を行う演算手段として機能する。このシステムコントローラ100は、CPU、ROM、RAM等を備えており、所定の制御プログラムに従って動作する。ROMには、このシステムコントローラ100が、実行する制御プログラム、及び、制御に必要な各種データが格納される。
【0341】
通信部102は、所要の通信インターフェースを備え、その通信インターフェースと接続されたホストコンピュータとの間でデータの送受信を行う。
【0342】
画像メモリ104は、画像データを含む各種データの一時記憶手段として機能し、システムコントローラ100を通じてデータの読み書きが行われる。通信部102を介してホストコンピュータから取り込まれた画像データは、この画像メモリ104に格納される。
【0343】
搬送制御部110は、インクジェット記録装置10における用紙Pの搬送系を制御する。すなわち、給紙部12におけるテープフィーダ36A、前当て38、給紙ドラム40の駆動を制御するとともに、処理液塗布部14における処理液塗布ドラム42、処理液乾燥処理部16における処理液乾燥処理ドラム46、画像記録部18における画像記録ドラム52の駆動を制御する。また、インク乾燥処理部20及び排紙部24で共通して用いられるチェーングリッパ64及びバックテンション付与機構66の駆動を制御する。
【0344】
搬送制御部110は、システムコントローラ100からの指令に応じて、搬送系を制御し、給紙部12から排紙部24まで滞りなく用紙Pが搬送されるように制御する。
【0345】
給紙制御部112は、システムコントローラ100からの指令に応じて給紙部12を制御する。具体的には、サッカー装置32及び給紙台昇降機構等の駆動を制御して、給紙台30に積載された用紙Pが、重なることなく1枚ずつ順に給紙されるように制御する。
【0346】
処理液付与制御部114は、システムコントローラ100からの指令に応じて処理液塗布部14を制御する。具体的には、処理液塗布ドラム42によって搬送される用紙Pに処理液が塗布されるように、処理液塗布装置44の駆動を制御する。
【0347】
処理液乾燥制御部116は、システムコントローラ100からの指令に応じて処理液乾燥処理部16を制御する。具体的には、処理液乾燥処理ドラム46によって搬送される用紙Pが乾燥処理されるように、処理液乾燥処理ユニット50の駆動を制御する。
【0348】
画像記録制御部118は、システムコントローラ100からの指令に応じて画像記録部18を制御する。具体的には、画像記録ドラム52によって搬送される用紙Pに所定の画像が記録されるように、インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kの駆動を制御する。また、記録された画像が読み取られるように、インラインセンサ58の動作を制御する。
【0349】
インク乾燥制御部120は、システムコントローラ100からの指令に応じてインク乾燥処理部20を制御する。具体的には、チェーングリッパ64によって搬送される用紙Pに熱風が送風されるようにインク乾燥処理ユニット68の駆動を制御する。
【0350】
排紙制御部124は、システムコントローラ100からの指令に応じて排紙部24を制御する。具体的には、排紙台昇降機構等の駆動を制御して、排紙台76に用紙Pがスタックされるように制御する。
【0351】
操作部130は、所要の操作手段(たとえば、操作ボタンやキーボード、タッチパネル等)を備え、その操作手段から入力された操作情報をシステムコントローラ100に出力する。システムコントローラ100は、この操作部130から入力された操作情報に応じて各種処理を実行する。
【0352】
表示部132は、所要の表示装置(たとえば、LCDパネル等)を備え、システムコントローラ100からの指令に応じて所要の情報を表示装置に表示させる。
【0353】
不揮発性メモリ134は、たとえば、EEPROM (electrically erasable programmable read only memory)等で構成され、制御等に必要な各種データや各種設定情報等が記録される。
【0354】
上記のように、用紙に記録する画像データは、ホストコンピュータから通信部102を介してインクジェット記録装置10に取り込まれる。取り込まれた画像データは、画像メモリ104に格納される。
【0355】
システムコントローラ100は、この画像メモリ104に格納された画像データに所要の信号処理を施してドットデータを生成する。そして、生成したドットデータに従って画像記録部18の各インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kの駆動を制御し、その画像データが表す画像を用紙に記録する。
【0356】
ドットデータは、一般に画像データに対して色変換処理、ハーフトーン処理を行って生成される。色変換処理は、sRGBなどで表現された画像データ(たとえば、RGB8ビットの画像データ)をインクジェット記録装置10で使用するインクの各色のインク量データに変換する処理である(本例では、C、M、Y、Kの各色のインク量データに変換する。)。ハーフトーン処理は、色変換処理により生成された各色のインク量データに対して誤差拡散等の処理で各色のドットデータに変換する処理である。
【0357】
システムコントローラ100は、画像データに対して色変換処理、ハーフトーン処理を行って各色のドットデータを生成する。そして、生成した各色のドットデータに従って、対応するインクジェットヘッドの駆動を制御することにより、画像データが表す画像を用紙に記録する。
【0358】
また、後述するように、システムコントローラ100は、インクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kを構成するヘッドモジュールの位置決め時に所定のテストパターンの画像を用紙Pに描画させ、描画された画像をインラインセンサ58に読み取られ、読み取られた画像を処理して、各ヘッドモジュールの取付位置の修正量を算出する処理を行う。
【0359】
なお、図示されていないが、インクジェット記録装置10には、画像記録部18に隣接してメンテナンス部が備えられる。メンテナンス部はインクジェットヘッド200のメンテナンスを行う。メンテナンス部には、インクジェットヘッド200のノズル面を覆うキャップや、ノズル面をクリーニングするクリーニング装置等が備えられる。ヘッドユニット56は、ヘッドユニット移送機構によって画像記録部18とメンテナンス部との間を移動可能に設けられ、必要に応じてメンテナンス部でメンテナンス処理が施される。たとえば、長期間運転を停止するような場合には、インクジェットヘッド200がメンテナンス部に移動して、ノズル面がキャップで覆われる。これにより、ノズル面の乾燥が防止される。また、インクジェットヘッド200は、使用によりノズル面が汚れるので、定期的にクリーニング装置によってノズル面がクリーニングされる。ノズル面のクリーニングは、たとえば、ノズル面をブレードやウェブで払拭することにより行われる。
【0360】
(ヘッドの構成)
前述したように、本実施の形態のインクジェットヘッド200M,200K,200C,200Yは、用紙幅に対応する長さを有するラインヘッドで構成される。
【0361】
なお、各インクジェットヘッド200M,200K,200C,200Yの構成は基本的に同じなので、ここではインクジェットヘッド200として、その構成について説明する。
【0362】
図5は、ヘッドの要部の構造を示す底面図(ヘッドをノズル面側から見た図)である。図6は、図5の一部を拡大した拡大図である。
【0363】
同図に示すように、インクジェットヘッド200は、複数のヘッドモジュール210を一列に繋ぎ合わせて構成される。各ヘッドモジュール210は同じ構造を有しており、ベースフレーム212に一列に並べて取り付けられることにより、一つのインクジェットヘッド200を構成する。
【0364】
以下、ヘッドモジュール210とベースフレーム212の構成について説明する。
【0365】
なお、以下においては、インクジェットヘッド200のノズルの配列方向をX方向、ノズル面と直交する方向をZ方向、ノズル面と平行かつX方向と直交する方向をY方向とする。X方向、Y方向、Z方向は、互いに直交する。
【0366】
(ヘッドモジュール)
ヘッドモジュール210は、いわゆる短尺のヘッドであり、単体で所定の印字幅の画像を記録することができるものである。このヘッドモジュール210をノズル列の方向(用紙Pの搬送方向と直交する方向)に沿って複数個を繋ぎ合わせることにより、1つの長尺のヘッドが構成される。
【0367】
ヘッドモジュール210は、インクの吐出を行うインクジェットヘッド214と、インクジェットヘッド214をベースフレーム212に取り付けるためのブラケット216とを備えて構成される。
【0368】
インクジェットヘッド214は、主として、ヘッド本体部218と電装・配管部(不図示)とで構成される。
【0369】
ヘッド本体部218は、矩形の板形状を有する。ヘッド本体部218は下面部分にノズル面222を有する。ノズル面222は、中央部に帯状のノズル形成領域222Aを有する。ノズル形成領域222Aは、一定の幅を有し、X方向に沿って形成される。ノズルNは、このノズル形成領域222Aに形成される。
【0370】
ここで、本例のインクジェットヘッド214では、図6に示すように、ノズルNが二次元マトリクス状に配置される。具体的には、X方向に沿って一定ピッチで配置されるとともに、X方向に対して所定角度傾斜した方向に沿って一定ピッチで配置される。このようにノズルNを配置することにより、X方向に投影される実質的なノズルNの間隔を狭めることができる。この場合、ノズルNの配列方向(ノズル列の方向)はX方向となる。なお、ノズルNは、X方向に沿って一列に配列する形態とすることもできる。
【0371】
(インクジェット記録装置による記録動作)
次に、以上のように構成されるインクジェット記録装置10の画像記録時の動作について説明する。
【0372】
操作部130を介してシステムコントローラ100に印刷ジョブの開始が指示されると、サイクルアップの処理が行われる。すなわち、安定した動作を行うことができるように、各部で準備動作が行われる。
【0373】
サイクルアップが完了すると、印刷処理が開始される。すなわち、給紙部12から用紙Pが順次給紙される。
【0374】
給紙部12では、給紙台30に積載された用紙Pを上から順に1枚ずつサッカー装置32で給紙する。サッカー装置32から給紙された用紙Pは、給紙ローラ対34を介して1枚ずつフィーダボード36の上に載置される。
【0375】
フィーダボード36の上に載置された用紙Pは、フィーダボード36に備えられたテープフィーダ36Aによって送りが与えられて、フィーダボード36の上を滑りながら給紙ドラム40へと搬送される。この際、順次給紙される用紙Pは、互いに重なることなく1枚ずつフィーダボード36の上を滑りながら給紙ドラム40へと搬送される。また、その搬送過程でリテーナ36Bによって上面がフィーダボード36に向けて押し付けられる。これにより、凹凸が矯正される。
【0376】
フィーダボード36の終端まで搬送された用紙Pは、先端が前当て38に接触された後、給紙ドラム40に受け渡される。これにより、傾きを発生させることなく、一定の姿勢で用紙Pを給紙ドラム40に給紙することができる。
【0377】
給紙ドラム40は、回転しながら用紙Pの先端をグリッパ40Aで把持することにより用紙Pを受け取り、用紙Pを処理液塗布部14に向けて搬送する。
【0378】
処理液塗布部14に搬送された用紙Pは、給紙ドラム40から処理液塗布ドラム42へと受け渡される。
【0379】
処理液塗布ドラム42は、回転しながら用紙Pの先端をグリッパ40Aで把持して受け取り、用紙Pを処理液乾燥処理部16に向けて搬送する。用紙Pは、この処理液塗布ドラム42によって搬送される過程で処理液塗布装置44によって表面に処理液が塗布される。
【0380】
表面に処理液が塗布された用紙Pは、処理液塗布ドラム42から処理液乾燥処理ドラム46に受け渡される。
【0381】
処理液乾燥処理ドラム46は、回転しながら用紙Pの先端を把持して受け取り、用紙Pを画像記録部18に向けて搬送する。用紙Pは、この処理液乾燥処理ドラム46によって搬送される過程で処理液乾燥処理ユニット50から送風される熱風が表面に吹き当てられて、乾燥処理される。これにより、処理液中の溶媒成分が除去され、用紙Pの表面(吸水層)にインク凝集層が形成される。
【0382】
処理液の乾燥処理が施された用紙Pは、処理液乾燥処理ドラム46から画像記録ドラム52に受け渡される。
【0383】
画像記録ドラム52は、回転しながら用紙Pの先端を把持して受け取り、用紙Pをインク乾燥処理部20に向けて搬送する。用紙Pは、この画像記録ドラム52によって搬送される過程でインクジェットヘッド200C、200M、200Y、200Kによって表面にC、M、Y、Kの各色のインクの液滴が打滴され、画像が記録される。また、その搬送過程で記録された画像が、インラインセンサ58によって読み取られる。この際、用紙Pは、画像記録ドラム52の周面に吸着保持されながら搬送される。そして、この吸着保持された状態で画像の記録、及び、記録された画像の読み取りが行われる。これにより、高精度に視差画像を記録することができるとともに、高精度に画像の読み取りを行うことができる。
【0384】
視差画像が記録された用紙Pは、画像記録ドラム52からチェーングリッパ64に受け渡される。
【0385】
チェーングリッパ64は、走行するチェーン64Cに備えられたグリッパ64Dで用紙Pの先端を把持して、用紙Pを受け取り、排紙部24に向けて搬送する。
【0386】
用紙Pは、このチェーングリッパ64による搬送過程で、まず、インクの乾燥処理が施される。すなわち、第1水平搬送経路70Aに設置されたインク乾燥処理ユニット68から表面に向けて熱風が吹き当てられる。これにより、乾燥処理が施される。この際、用紙Pは、ガイドプレート72によって裏面を吸着保持されながら搬送され、バックテンションが付与される。これにより、用紙Pの変形を抑えながら、乾燥処理することができる。
【0387】
乾燥処理が終了した用紙P(インク乾燥処理部20を通過した用紙P)は、排紙部24に向けて搬送され、排紙部24においてグリッパ64Dから開放されて、排紙台76の上にスタックされる。
【0388】
以上一連の動作により視差画像の記録処理が完了する。上記のように、給紙部12からは用紙Pが連続的に給紙されるので、各部では連続的に用紙Pの処理が行われる。
【0389】
本発明では、高精細な視差画像を形成する観点から、インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、1pl(ピコリットル)〜10plが好ましく、1.5pl〜6plがより好ましい。また、画像のムラ、連続諧調のつながりを改良する観点で、異なる液適量を組み合わせて吐出することも有効であり、このような場合でも本発明は好適に使用できる。
また、高い解像度を有する視差画像を形成する観点から、水性インクを1200dpi以上の解像度で打滴することが好ましい。
【0390】
特に、解像度が1200dpi以上であり、かつ、最小液滴サイズが3pl以下で水性インクを付与することができるインクジェット記録装置を用いることが好ましい。また、生産性の観点から、シングルパス方式で画像を形成することができるインクジェット記録装置を用いることが好ましい。
このような性能を有するインクジェット記録装置として、富士フイルム(株)製 Jet Press(登録商標)720を好適に用いることができる。
【0391】
[貼り合わせ工程]
貼り合わせ工程では、記録媒体の視差画像が形成された吸水層側にレンチキュラーレンズを貼り合わせる。例えば、レンチキュラーレンズの平面と視差画像を形成した記録媒体との間に透明な接着層を介して貼り合わせる。貼り合わせの際、視差画像が形成された記録媒体は伸縮等の変形が生じていないため、レンチキュラーレンズと視差画像とを全体的に設計した位置で貼り合わせることができる。
【0392】
(レンチキュラーレンズ)
レンチキュラーレンズは、視差画像を形成した記録媒体に貼り合わせる側が平面であり、記録媒体に貼り合わせて視差画像を観察する側は半円筒形状の表面を有する複数の凸状レンズが並列した構成を有する。
【0393】
レンチキュラーレンズは、光透過性を有する樹脂によって形成されている。
レンチキュラーレンズを構成する樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリレート-スチレン共重合樹脂(MS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、熱可塑性エラストマー、又はこれらの共重合体、シクロオレフィンポリマー等が挙げられる。溶融押出しやすさを考慮すると、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリレート-スチレン共重合樹脂(MS樹脂)、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂のような溶融粘度の低い樹脂を用いるのが好ましい。エンボスローラの表面に形成されたレンズ形状が転写されやすく、エンボス時にレンズ層にひび割れが生じにくいという理由から、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いるのがより好ましい。レンチキュラーレンズは、複数の樹脂を含んで構成されていてもよい。
【0394】
レンチキュラーレンズは例えば50μm以上200μm以下の厚さを有し、表面に円筒形状の凸レンズを多数並列配置したレンチキュラーレンズ形状を備える。レンチキュラーレンズ形状は、例えば、100μm以上200μm以下のレンズ半径、50μm以上100μm以下のレンズ高さ、100μm以上257μm以下のレンズピッチで形成される。ただし、上記の数値に限定されず、例えば127μm、254μmなどの値が挙げられる。レンチキュラーレンズ形状とは、円柱を縦割りにして得られる形状を縦に平行に並べた板状のレンズアレイ、つまり、シリンドリカルレンズが2次元的に配列をもった形状を意味する。
【実施例】
【0395】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されない。
以下の記載において、「部」及び「%」は、他の指定がない限り、「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0396】
[比較例1、実施例1、2]
<印刷条件>
富士フイルム(株)製Jet Press(登録商標)720をプリンターとして用いた。Jet Press(登録商標)720の仕様、及び印刷条件を以下に示す。
・描画方式:シングルパス描画
・印刷速度:2700枚/hr(線速:30m/min)
・印字密度:1200dpi×1200dpi
・インク液滴体積
小滴:2pl、中滴:7pl、大滴:10pl
・印刷システム
圧胴搬送系、4つの圧胴上に上流からそれぞれ1)処理液塗布ユニット、2)インクジェット描画ユニット、3)乾燥ユニット、4)定着ユニットが配置されている。各工程の順は上流から1)処理液塗布→2)インクジェット描画→3)乾燥→4)定着
・処理液の塗布条件
塗布量:1cc/m
・処理液の物性
粘度:2.9mPa・s、表面張力:41mN/m、pH:0.78
・乾燥条件
胴温度:70℃、熱風:70℃、+カーボンヒーター 基材表面温度50℃
・定着温度
胴温度:45℃、ローラー温度:50℃、熱風:70℃ 基材表面温度50℃
・使用材料
処理液:下記の処理液
水性インク:下記のイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインク
【0397】
<水溶性ポリマー分散剤Q−1の合成>
メタクリル酸(172部)と、メタクリル酸ベンジル(828部)と、イソプロパノール(375部)と、を混合することにより、モノマー供給組成物を調製した。また、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(22.05部)と、イソプロパノール(187.5部)と、混合することにより、開始剤供給組成物を調製した。
次に、イソプロパノール(187.5部)を窒素雰囲気下、80℃に加温し、そこに、上記モノマー供給組成物及び上記開始剤供給組成物の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に4時間、80℃に保った後、25℃まで冷却した。
冷却後、溶媒を減圧除去することにより、重量平均分子量約30,000、酸価112mgKOH/gの水溶性ポリマー分散剤Q−1を得た。
【0398】
<シアン顔料分散物C−1の作製>
上記で得られた水溶性ポリマー分散剤Q−1(150部)中のメタクリル酸量の0.8当量を、水酸化カリウム水溶液を用いて中和した後、水溶性ポリマー分散剤濃度が25質量%となるように、更にイオン交換水を加えて調整し、水溶性ポリマー分散剤水溶液を得た。
この水溶性ポリマー分散剤水溶液(124部)と、ピグメントブルー15:3(シアン顔料)(48部)と、水(75部)と、ジプロピレングリコール(30部)と、を混合し、ビーズミル(ビーズ径0.1mmφ、ジルコニアビーズ)で所望の体積平均粒子径を得るまで分散し、顔料濃度15質量%のポリマー被覆シアン顔料粒子の分散物(未架橋分散物C−1)を得た。
この未架橋分散物C−1(136部)に、DENACOL(登録商標) EX−321(ナガセケムテックス(株)製、架橋剤)(1.3部)と、ホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:4質量%)(14.3部)と、を添加し、50℃にて6時間半反応させた後、25℃に冷却し、架橋分散物C−1を得た。
次に、得られた架橋分散物C−1にイオン交換水を加え、攪拌型ウルトラホルダー(ADVANTEC(株)製)及び限外ろ過フィルター(ADVANTEC(株)製、分画分子量5万、Q0500076Eウルトラフィルター)を用いて限外ろ過を行ない、分散物中のジプロピレングリコール濃度が0.1質量%以下となるように精製した後、顔料濃度が15質量%となるまで濃縮することにより、シアン顔料分散物C−1を得た。
シアン顔料分散物C−1に含まれる色材は、架橋剤によって架橋された水溶性ポリマー分散剤Q−1により、ピグメントブルー15:3(シアン顔料)の表面の少なくとも一部が被覆されている樹脂被覆顔料である。
【0399】
<マゼンタ顔料分散物M−1の作製>
シアン顔料分散物C−1の作製において、ピグメントブルー15:3(シアン顔料)に代えて、ピグメントレッド122(マゼンタ顔料)を用いたこと以外は、シアン顔料分散物C−1の作製と同様にして、マゼンタ顔料分散物M−1を得た。
【0400】
<イエロー顔料分散物Y−1の作製>
シアン顔料分散物C−1の作製において、ピグメントブルー15:3(シアン顔料)に代えて、ピグメントイエロー74(イエロー顔料)を用いたこと以外は、シアン顔料分散物C−1の作製と同様にして、イエロー顔料分散物Y−1を得た。
【0401】
<ブラック顔料分散物K−1の作製>
シアン顔料分散物C−1の作製において、ピグメントブルー15:3(シアン顔料)に代えて、カーボンブラックMA−100(ブラック顔料)を用いたこと以外は、シアン顔料分散物C−1の作成と同様にして、ブラック顔料分散物K−1を得た。
【0402】
<自己分散性ポリマー粒子P−1(樹脂粒子)の合成>
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。その後、フラスコ内温度を75℃に保ちながら、イソボルニルメタクリレート72.0g、メチルメタクリレート252.0g、メタクリル酸36.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V−601」(和光純薬工業(株)製の重合開始剤、化合物名:(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート))1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、これに「V−601」0.72g及びメチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.72g及びイソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。その後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続け、イソボルニルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸(=20/70/10[質量比])共重合体のポリマー溶液を得た。
得られた共重合体の、上記同様に測定した重量平均分子量(Mw)は、60000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出)であり、酸価は64.9mgKOH/gであった。
【0403】
次に、得られたポリマー溶液668.3gを秤量し、これにイソプロパノール388.3g及び1mol/L NaOH水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に、蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った。その後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で913.7g留去し、固形分濃度(ポリマー粒子濃度)28.0質量%の自己分散性ポリマー粒子P−1(樹脂粒子)の水分散物を得た。
【0404】
上記自己分散性ポリマー粒子P−1のガラス転移温度(Tg)を以下の方法で測定したところ、145℃であった。
−ガラス転移温度(Tg)の測定−
固形分で0.5gの自己分散性ポリマー粒子の水分散物を50℃で4時間、減圧乾燥させ、ポリマー固形分を得た。得られたポリマー固形分のTgを、(株)日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220によって測定した。詳細には、ポリマー固形分5mgをアルミパンに密閉し、窒素雰囲気下、ポリマー固形分に対し、以下の温度プロファイルによる温度変化を施し、2回目の昇温時の測定データに基づいてTgを求めた。なお、以下の温度プロファイルの範囲内では、融点は観測されなかった。−樹脂粒子のTg測定における温度プロファイル−
30℃→−50℃ (50℃/分で冷却)
−50℃→220℃(20℃/分で昇温)
220℃→−50℃(50℃/分で冷却)
−50℃→220℃(20℃/分で昇温)
【0405】
<水溶性高分子化合物(水溶性ポリマー)の合成>
処理液中の成分として用いる水溶性高分子化合物(水溶性ポリマー1)を合成した。
この合成は、特開2013−001854の段落0200〜0204及び0229に従って行った。
水溶性ポリマー1の構造を下記に示す。
なお、下記に示した水溶性ポリマー1において、各構成単位の右下の数字は質量比(質量%)を表し、Mwは重量平均分子量を表す。
【0406】
【化3】

【0407】
−マゼンタインクの組成−
・マゼンタ顔料分散物M−1 … 40.0質量%
・サンニックス(登録商標)GP250(三洋化成工業(株)製、水溶性溶剤)
… 6.0質量%
・PEG−200(三洋化成工業(株)製、水溶性溶剤) … 2.5質量%
・プロピレングリコール(ADEKA製、水溶性溶剤) … 7.0質量%
・MFTG(日本乳化剤(株)製、水溶性溶剤) … 2.0質量%
・オルフィン(登録商標)E1010(日信化学工業(株)製、界面活性剤)
… 0.3質量%
・オルフィン(登録商標)E1020(日信化学工業(株)製、界面活性剤)
… 1.0質量%
・自己分散性ポリマー粒子P−1(樹脂粒子) … 5.0質量%
・PVP K−15(アイエスビー・ジャパン(株)製) … 0.2質量%
・尿素 … 5.0質量%
・セロゾール524(中京油脂(株)製) … 3.0質量%
・スノーテックス(登録商標)XS(日産化学(株)製、コロイダルシリカ)
… 0.3質量%
・CAPSTONE(登録商標) FS-63(Dupont社製、界面活性剤)… 0.01質量%
・BYK(登録商標)−024(ビックケミー・ジャパン(株)製、消泡剤)
… 0.01質量%
・イオン交換水 … 合計で100質量%となる残量
【0408】
−シアンインクの組成−
・シアン顔料分散物C−1 … 20.0質量%
・サンニックス(登録商標)GP250(三洋化成工業(株)製、水溶性溶剤)
… 6.0質量%
・PEG−200(三洋化成工業(株)製、水溶性溶剤) … 3.5質量%
・プロピレングリコール(ADEKA製、水溶性溶剤) … 6.0質量%
・MFTG(日本乳化剤(株)製、水溶性溶剤) … 2.0質量%
・オルフィン(登録商標)E1010(日信化学工業(株)製、界面活性剤)
… 0.3質量%
・オルフィン(登録商標)E1020(日信化学工業(株)製、界面活性剤)
… 1.0質量%
・自己分散性ポリマー粒子P−1(樹脂粒子) … 9.0質量%
・PVP K−15(アイエスビー・ジャパン(株)製) … 0.2質量%
・尿素 … 5.0質量%
・セロゾール524(中京油脂(株)製) … 3.0質量%
・硝酸カリウム(無機塩) … 0.05質量%
・スノーテックス(登録商標)XS(日産化学(株)製、コロイダルシリカ)
… 0.3質量%
・CAPSTONE(登録商標) FS-63(Dupont社製、界面活性剤)… 0.01質量%
・BYK(登録商標)−024(ビックケミー・ジャパン(株)製、消泡剤)
… 0.01質量%
・イオン交換水 … 合計で100質量%となる残量
【0409】
−イエローインクの組成−
・イエロー顔料分散物Y−1 … 30.0質量%
・サンニックス(登録商標)GP250(三洋化成工業(株)製、水溶性溶剤)
… 7.0質量%
・PEG−200(三洋化成工業(株)製、水溶性溶剤) … 2.5質量%
・プロピレングリコール(ADEKA製、水溶性溶剤) … 5.0質量%
・MFTG(日本乳化剤(株)製、水溶性溶剤) … 2.0質量%
・オルフィン(登録商標)E1010(日信化学工業(株)製、界面活性剤)
… 0.3質量%
・オルフィン(登録商標)E1020(日信化学工業(株)製、界面活性剤)
… 1.0質量%
・自己分散性ポリマー粒子P−1(樹脂粒子) … 8.0質量%
・PVP K−15(アイエスビー・ジャパン(株)製) … 0.2質量%
・尿素 … 5.0質量%
・セロゾール524(中京油脂(株)製) … 3.0質量%
・硝酸カリウム(無機塩) … 0.05質量%
・スノーテックス(登録商標)XS(日産化学(株)製、コロイダルシリカ)
… 0.3質量%
・CAPSTONE(登録商標) FS-63(Dupont社製、界面活性剤)… 0.01質量%
・BYK(登録商標)−024(ビックケミー・ジャパン(株)製、消泡剤)
… 0.01質量%
・イオン交換水 … 合計で100質量%となる残量
【0410】
−ブラックインクの組成−
・ブラック顔料分散物K−1 … 15.0質量%
・マゼンタ顔料分散物M−1 … 4.0質量%
・シアン顔料分散物C−1 … 4.0質量%
・サンニックス(登録商標)GP250(三洋化成工業(株)製、水溶性溶剤)
… 8.0質量%
・PEG−200(三洋化成工業(株)製、水溶性溶剤) … 2.5質量%
・プロピレングリコール(ADEKA製、水溶性溶剤) … 1.5質量%
・MFTG(日本乳化剤(株)製、水溶性溶剤) … 2.0質量%
・オルフィン(登録商標)E1010(日信化学工業(株)製、界面活性剤)
… 0.3質量%
・オルフィン(登録商標)E1020(日信化学工業(株)製、界面活性剤)
… 1.0質量%
・自己分散性ポリマー粒子P−1(樹脂粒子) … 8.0質量%
・PVP K−15(アイエスビー・ジャパン(株)製) … 0.2質量%
・尿素 … 5.0質量%
・セロゾール524(中京油脂(株)製) … 3.0質量%
・塩化リチウム(無機塩) … 0.01質量%
・スノーテックス(登録商標)XS(日産化学(株)製、コロイダルシリカ)
… 0.3質量%
・CAPSTONE(登録商標) FS-63(Dupont社製、界面活性剤)… 0.01質量%
・BYK(登録商標)−024(ビックケミー・ジャパン(株)製、消泡剤)
… 0.01質量%
・イオン交換水 … 合計で100質量%となる残量
【0411】
<処理液の調製>
下記組成の成分を混合し、処理液を得た。
作製された処理液の物性は、粘度2.9mPa・s(25℃)、表面張力41.0mN/m(25℃)、pH0.7(25℃)であった。
ここで、粘度、表面張力、及びpHは、それぞれ、VISCOMETER TV−22
(TOKI SANGYO CO.LTD製)、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学(株)製)、及びpHメーターWM−50EG(東亜DDK(株)製)を用いて測定した。
【0412】
−処理液の組成−
・TPGmME(トリプロピレングリコールモノメチルエーテル) … 4.8質量%
・DEGmBE(ジエチレングリコールモノブチルエーテル) … 4.8質量%
・マロン酸 … 9.0質量%
・リンゴ酸 … 8.0質量%
・プロパントリカルボン酸 … 2.5質量%
・リン酸85質量%水溶液 … 6.0質量%
・前述の水溶性ポリマー1 … 0.5質量%
・消泡剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製TSA−739(15%);エマルジョン型シリコーン消泡剤)
… シリコーンオイルの量として0.01質量%
・ベンゾトリアゾール … 1.0質量%
・イオン交換水 … 合計で100質量%となる残量
【0413】
上記装置を用い、Jet Press(登録商標)720のRIP(Raster Image Processor)(XMF(富士フイルム社製))を通して、後述の用紙にチェンジングに対応する画像(視差画像)を印刷した。
ここで、視差画像とは、レンチキュラーレンズシート下に2種以上の画像を含み、レンズシートを通して観察したときに、観察者の視点によって異なる画像が表示される画像である。また、レンチキュラーレンズシートとは透明樹脂基板の一方の面側にレンチキュラーレンズ層を有し、透明樹脂基板のレンチキュラーレンズ層を有する側とは反対側は平面である。平面に下記用紙で印刷された画像を貼り合わせる。
【0414】
<視差画像の形成>
視差画像として、背景が共通し、表示する文字が互いに異なる2つ表示用画像と、2つの表示用画像が重なって見えることを抑制するため、2つの表示用画像に共通する背景のみの共通画像を含む画像をレンチキュラーレンズ(レンチキュラーシート)のレンズピッチに合うように形成した。
具体的には、図7に示すように、表示用画像として、背景が共通し、文字が異なる2つ画像(画像A、B)にそれぞれ対応したA画像列502,B画像列504と、A画像列502とB画像列504との間に画像A,Bに共通する背景のみの共通画像506に対応した共通画像列506がレンチキュラーレンズ510の各レンズ下に配置されるように記録媒体500に画像を形成した。なお、各画像列の幅は、レンチキュラーレンズ510のピッチPを24等分し、A画像を構成するA画像列502は5/12等分(図7における幅a)、B画像を構成するB画像列504は5/12等分(図7における幅b)、A画像列502とB画像列504との間の共通画像列506は1/12等分(図7における幅c)とし、レンズ間で隣接するA画像列502とB画像列504との間にも1/12等分の共通画像列506が配置されるように印刷した。
【0415】
Jet Press(登録商標)720のRIPを通した場合には低濃度側は小滴を使用し、濃度が上がるにしたがって中滴比率が上がっていく構成となっている。
用紙としては、それぞれ菊判半裁(636×469mm)のサイズの下記の用紙を用いた。
1:OKトップコート+(連量62.5kg、王子製紙(株)製)
OKトップコート+は、原紙の両面にコート層が積層された構成を有し、コート層は、顔料(炭酸カルシウム、カオリンクレー、酸化チタン等)とバインダー(ブタジエン樹脂、でんぷん等)を含有する層である。原紙とコート層との間には樹脂層を有さない紙である。
2:VIFW115((株)ユポ・コーポレーション製)
3:画彩(登録商標、富士フイルム(株)製、菊判半裁に加工)
【0416】
画像を印刷した用紙の上に予め用意したレンチキュラーシートの平面を重ねて、レンチキュラーシートのレンズのピッチと印刷された画像のピッチが合うように位置を調整し、貼り合わせを実施し、レンチキュラー印刷物を製造した。
【0417】
[評価]
得られたレンチキュラー印刷物について下記の評価を行なった。
【0418】
<画像鮮鋭性>
レンチキュラー印刷物の画像鮮鋭性を目視にて評価した。画像の細部再現性であり、細部が再現されているほど鮮鋭度が高い。
1:画像鮮鋭性が良い
2:画像鮮鋭性が若干劣る
3:画像鮮鋭性が悪い
1又は2が許容範囲である。
【0419】
<画像切り替え性>
レンチキュラー印刷物の画像切替性を目視にて評価した。具体的には、チェンジング画像において見る角度によって切り替わる2つの画像が重なって見える度合いを目視にて評価し、2つの画像が重なって見える角度が少ない方が画像切替性が良いと言える。
1:全面に渡り画像の切り替えが良好である
2:全面に渡り画像の切り替えが若干劣る
3:一部分に画像の切り替えの悪い部分がある
4:全面に渡って画像の切り替えが悪い
1又は2が許容範囲である。
【0420】
結果を以下の表1に示す。
【0421】
【表1】
【0422】
OKトップコート+に印刷した場合はOKトップコート+がインクの吸収によって変形してしまう為に、ある部分で画像とレンチキュラーシートのラインを合わせても、他の部分でずれてしまったと考えられる。
一方、VIFW115又は画彩に印刷した場合には全面に渡って良好な画像切替性を示すことがわかる。
【0423】
[実施例3、4]
実施例1において中滴のみを使用して画像を形成した。結果を以下の表2に示す。
【0424】
【表2】
【0425】
[比較例2]
レンチキュラーシートの平面に、直接、実施例1と同様にJet Press(登録商標)720で印刷した。
【0426】
[比較例3]
記録媒体としてFEB110((株)ユポ・コーポレーション製)に実施例1と同様にJet Press(登録商標)720で印刷した。
【0427】
[実施例5]
記録媒体としてリアルプルーフ(登録商標)G(富士フイルム(株)製)に実施例1と同様にJet Press(登録商標)720で印刷した。結果を以下の表3に示す。
【0428】
【表3】
【0429】
レンチキュラーシートの平面又はFEB110に印刷した場合は、インクが定着せず、レンチキュラー印刷物として評価することができなかった。
FEB110は表面に吸水層が無いため、水性インクが定着しなかったと考えられる。
【符号の説明】
【0430】
300 記録媒体(合成紙)
310 樹脂層(基材)
320A,320B 吸水層
400 記録媒体(インクジェット専用紙)
402 基紙
404,406 樹脂層
410 基材
420 吸水層
502,504 表示用画像列(視差画像)
506 共通画像列
510 レンチキュラーレンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7