特許第6413009号(P6413009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6413009光電変換素子、太陽電池および光電変換素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413009
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】光電変換素子、太陽電池および光電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20181022BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20181022BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20181022BHJP
【FI】
   H01L31/04 112Z
   H01G9/20 103
   H01G9/20 111A
   H01G9/20 111Z
   H01G9/20 113A
   H01L31/04 160
【請求項の数】13
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2017-504953(P2017-504953)
(86)(22)【出願日】2016年2月23日
(86)【国際出願番号】JP2016055236
(87)【国際公開番号】WO2016143506
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2017年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-46440(P2015-46440)
(32)【優先日】2015年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛敬
(72)【発明者】
【氏名】小林 克
【審査官】 河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/092397(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/151522(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/016107(WO,A1)
【文献】 特開2014−075194(JP,A)
【文献】 特表2014−527067(JP,A)
【文献】 特開2001−291534(JP,A)
【文献】 特開2000−106223(JP,A)
【文献】 NOEL.N.K. et al.,Enhanced Photoluminescence and Solar Cell Performance via Lewis Base Passivation of Organic-Inorgani,ACS Nano,2014年,8(10),p. 9815-9821,DOI:10.1021/nn5036476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−10/40、30/00−50/15、99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収剤を含む感光層を導電性支持体上に有する第一電極と、前記第一電極に対向する第二電極とを有する光電変換素子であって、
前記光吸収剤が、周期表第一族元素もしくはカチオン性有機基Aのカチオン、前記周期表第一族元素以外の金属原子Mのカチオンおよびアニオン性原子もしくは原子団Xのアニオンを有するペロブスカイト型結晶構造を持つ化合物を含み、
前記第一電極と前記第二電極との間に正孔輸送層または電子輸送層を有し、
前記第一電極の表面に下記式(AC)で表される化合物を有する光電変換素子。
【化1】
式中、環AACはヘテロ環を表す。Zは硫黄原子または酸素原子を表す。nは1以上の整数を表す。Aは、>C=CRY1Y2、>C=S、>C=Oまたは>C=NRY3を表す。RY1およびRY2は各々独立に置換基を表す。RY3は水素原子または置換基を表す。nは0以上の整数を表す。RACは置換基を表す。ただし、環AACテトラヒドロチオフェン環またはチオフェン環である場合、RAC、ヘテロ環基、アルコキシ基、またはアルキルチオ基を表す。また、環AACがフラン環である場合、RACは、アルキル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子またはハロゲン原子を有する基を表す。nは0以上の整数を表す。ただし、Zが硫黄原子であり、nが1であるとき、nは1以上の整数を表す。
【請求項2】
前記RACが、ハロゲン原子、炭素数5以上のアルキル基、または、ハロゲン原子を有する基である請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記環AACが、5員環もしくは6員環の芳香族ヘテロ環である請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記Zの少なくとも1つが、酸素原子である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記環AACが、フラン環である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記環AACがフラン環である場合に、前記RACが、アルキル基、アルキニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子またはハロゲン原子を有する基である請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記ペロブスカイト型結晶構造を持つ化合物が、下記式(I)で表される化合物である請求項1〜6のいずれか1項に記載の光電変換素子。
式(I):A
式中、Aは周期表第一族元素、または、下記式(1)で表されるカチオン性有機基を表す。Mは前記周期表第一族元素以外の金属原子を表す。Xはアニオン性原子もしくは原子団を表す。aは1または2を表し、mは1を表し、a、mおよびxはa+2m=xを満たす。
式(1):R1a−NH
式中、R1aは、置換基を表す。
【請求項8】
前記R1aが、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基または下記式(2)で表すことができる基である請求項7に記載の光電変換素子。
【化2】
式中、XはNR1c、酸素原子または硫黄原子を表す。R1bおよびR1cは各々独立に水素原子または置換基を表す。***は式(1)の窒素原子との結合を表す。
【請求項9】
前記金属原子が、鉛およびスズからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子である請求項1〜8のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記第一電極と前記第二電極との間に前記正孔輸送層を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項11】
前記導電性支持体と前記感光層との間に多孔質層を有する請求項10に記載の光電変換素子。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の光電変換素子を用いた太陽電池。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の光電変換素子を製造する方法であって、
周期表第一族元素もしくはカチオン性有機基Aのカチオン、前記周期表第一族元素以外の金属原子Mのカチオンおよびアニオン性原子もしくは原子団Xのアニオンを有するペロブスカイト型結晶構造を持つ化合物が光吸収剤として含まれる感光層を導電性支持体上に有する第一電極を、下記式(AC)で表される化合物を含有する液に接触させる光電変換素子の製造方法。
【化3】
式中、環AACはヘテロ環を表す。Zは硫黄原子または酸素原子を表す。nは1以上の整数を表す。Aは、>C=CRY1Y2、>C=S、>C=Oまたは>C=NRY3を表す。RY1およびRY2は各々独立に置換基を表す。RY3は水素原子または置換基を表す。nは0以上の整数を表す。RACは置換基を表す。ただし、環AACがテトラヒドロチオフェン環またはチオフェン環である場合、RACは、ヘテロ環基、アルコキシ基、またはアルキルチオ基を表す。また、環AACがフラン環である場合、RACは、アルキル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子またはハロゲン原子を有する基を表す。nは0以上の整数を表す。ただし、Zが硫黄原子であり、nが1であるとき、nは1以上の整数を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子、太陽電池および光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は、各種の光センサー、複写機、太陽電池等に用いられている。太陽電池は、非枯渇性の太陽エネルギーを利用するものとして、その本格的な実用化が期待されている。そのなかでも、近年、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物(以下、ペロブスカイト化合物ということがある)等の金属ハロゲン化物を光吸収剤として用いた太陽電池が、注目を集めている。
【0003】
このような太陽電池において、比較的高い光電変換効率を達成できるとの研究成果が報告されている。例えば、非特許文献1には、CHNHPbI3―xClで表されるペロブスカイト化合物の結晶表面をチオフェンまたはピリジンで表面安定化処理(passivation)することにより、電力変換効率(power conversion efficency)が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ACS Nano,DOI:10.1021/nn5036476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた太陽電池には、高い初期性能(例えば、短絡電流(単に電流ともいう)、開放電圧、光電変換効率)に加え、経時後でも初期性能の低下を抑制した耐久性が求められる。しかし、ペロブスカイト化合物は安定性が十分ではない。ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた太陽電池は、初期性能が経時により低下する。ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた太陽電池は、開発されて間もないため、電池性能については、まだ十分な研究、検討がされていない。
【0006】
したがって、本発明は、ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた光電変換素子であって、耐久性に優れた光電変換素子、および、この光電変換素子を用いた太陽電池を提供することを課題とする。また、本発明は、ぺロブスカイト化合物を光吸収剤として用いても優れた耐久性を発揮する光電変換素子を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた光電変換素子ないし太陽電池において、ペロブスカイト化合物を含む感光層の表面に特定の化合物を設けることにより、初期性能、特に電流値が低下しにくい光電変換素子ないし太陽電池が得られることを見い出した。本発明はこの知見に基づき、さらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>光吸収剤を含む感光層を導電性支持体上に有する第一電極と、第一電極に対向する第二電極とを有する光電変換素子であって、
光吸収剤が、周期表第一族元素もしくはカチオン性有機基Aのカチオン、周期表第一族元素以外の金属原子Mのカチオンおよびアニオン性原子もしくは原子団Xのアニオンを有するペロブスカイト型結晶構造を持つ化合物を含み、
第一電極と第二電極との間に正孔輸送層または電子輸送層を有し、
第一電極の表面に下記式(AC)で表される化合物を有する光電変換素子。
【0009】
【化1】
【0010】
式中、環AACはヘテロ環を表す。Zは硫黄原子または酸素原子を表す。nは1以上の整数を表す。Aは、>C=CRY1Y2、>C=S、>C=Oまたは>C=NRY3を表す。RY1およびRY2は各々独立に置換基を表す。RY3は水素原子または置換基を表す。nは0以上の整数を表す。RACは置換基を表す。ただし、環AACテトラヒドロチオフェン環またはチオフェン環である場合、RAC、ヘテロ環基、アルコキシ基、またはアルキルチオ基を表す。また、環AACがフラン環である場合、RACは、アルキル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子またはハロゲン原子を有する基を表す。nは0以上の整数を表す。ただし、Zが硫黄原子であり、nが1であるとき、nは1以上の整数を表す。
【0011】
<2>RACが、ハロゲン原子、炭素数5以上のアルキル基、または、ハロゲン原子を有する基である<1>に記載の光電変換素子。
<3>環AACが、5員環もしくは6員環の芳香族ヘテロ環である<1>または<2>に記載の光電変換素子。
<4>Zの少なくとも1つが、酸素原子である<1>〜<3>のいずれか1つに記載の光電変換素子。
<5>環AACが、フラン環である<1>〜<4>のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0012】
<6>環AACがフラン環である場合に、RACが、アルキル基、アルキニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子またはハロゲン原子を有する基である<1>に記載の光電変換素子。
>ペロブスカイト型結晶構造を持つ化合物が、下記式(I)で表される化合物である<1>〜<>のいずれか1つに記載の光電変換素子。
式(I):A
式中、Aは周期表第一族元素、または、下記式(1)で表されるカチオン性有機基を表す。Mは周期表第一族元素以外の金属原子を表す。Xはアニオン性原子もしくは原子団を表す。aは1または2を表し、mは1を表し、a、mおよびxはa+2m=xを満たす。
式(1):R1a−NH
式中、R1aは、置換基を表す。
【0013】
>R1aが、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基または下記式(2)で表すことができる基である<>に記載の光電変換素子。
【0014】
【化2】
【0015】
式中、XはNR1c、酸素原子または硫黄原子を表す。R1bおよびR1cは各々独立に水素原子または置換基を表す。***は式(1)の窒素原子との結合を表す。
【0016】
>金属原子が、鉛およびスズからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子である<1>〜<>のいずれか1つに記載の光電変換素子。
10>第一電極と第二電極との間に正孔輸送層を有する<1>〜<>のいずれか1つに記載の光電変換素子。
11>導電性支持体と感光層との間に多孔質層を有する<10>に記載の光電変換素子。
12>上記<1>〜<11>のいずれか1つに記載の光電変換素子を用いた太陽電池。
13>上記<1>〜<11>のいずれか1つに記載の光電変換素子を製造する方法であって、周期表第一族元素もしくはカチオン性有機基Aのカチオン、周期表第一族元素以外の金属原子Mのカチオンおよびアニオン性原子もしくは原子団Xのアニオンを有するペロブスカイト型結晶構造を持つ化合物が光吸収剤として含まれる感光層を導電性支持体上に有する第一電極を、下記式(AC)で表される化合物を含有する液に接触させる光電変換素子の製造方法。
【0017】
【化3】
【0018】
式中、環AACはヘテロ環を表す。Zは硫黄原子または酸素原子を表す。nは1以上の整数を表す。Aは、>C=CRY1Y2、>C=S、>C=Oまたは>C=NRY3を表す。RY1およびRY2は各々独立に置換基を表す。RY3は水素原子または置換基を表す。nは0以上の整数を表す。RACは置換基を表す。ただし、環AACテトラヒドロチオフェン環またはチオフェン環である場合、RAC、ヘテロ環基、アルコキシ基、またはアルキルチオ基を表す。また、環AACがフラン環である場合、RACは、アルキル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子またはハロゲン原子を有する基を表す。nは0以上の整数を表す。ただし、Zが硫黄原子であり、nが1であるとき、nは1以上の整数を表す。
【0019】
本明細書において、各式の表記は、化合物の化学構造の理解のために、一部を示性式として表記することもある。これに伴い、各式において、部分構造を、(置換)基、イオンまたは原子等と称するが、本明細書において、これらは、(置換)基、イオンまたは原子等のほかに、上記式で表される(置換)基もしくはイオンを構成する元素団、または、元素を意味することがある。
【0020】
本明細書において、化合物(錯体、色素を含む)の表示については、化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。さらに、置換または無置換を明記していない化合物については、目的とする効果を損なわない範囲で、任意の置換基を有する化合物を含む意味である。このことは、置換基および連結基等(以下、置換基等という)についても同様である。
【0021】
本明細書において、特定の符号で表示された置換基等が複数あるとき、または複数の置換基等を同時に規定するときには、特段の断りがない限り、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよい。このことは、置換基等の数の規定についても同様である。また、複数の置換基等が近接するとき(特に、隣接するとき)には、特段の断りがない限り、それらが互いに連結して環を形成してもよい。また、環、例えば脂環、芳香族環、ヘテロ環はさらに縮環して縮合環を形成していてもよい。
【0022】
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の光電変換素子および太陽電池は、ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いていながらも、耐久性に優れる。また、本発明の光電変換素子の製造方法によれば、ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いていながらも耐久性に優れた光電変換素子を製造することができる。
本発明の上記および他の特徴および利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の光電変換素子の好ましい態様について、層中の円部分の拡大図も含めて、模式的に示した断面図である。
図2図2は、本発明の光電変換素子の厚い感光層を有する好ましい態様について模式的に示した断面図である。
図3図3は、本発明の光電変換素子の別の好ましい態様について、層中の円部分の拡大図も含めて、模式的に示した断面図である。
図4図4は、本発明の光電変換素子のまた別の好ましい態様について模式的に示した断面図である。
図5図5は、本発明の光電変換素子のさらに別の好ましい態様について模式的に示した断面図である。
図6図6は、本発明の光電変換素子のさらにまた別の好ましい態様について、層中の円部分の拡大図も含めて模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<<光電変換素子>>
本発明の光電変換素子は、光吸収剤を含む感光層を導電性支持体上に有する第一電極と、第一電極に対向する第二電極とを有する。第一電極は、その表面に、上記式(AC)で表される化合物(化合物ACということがある)を有している。
【0026】
本発明において、導電性支持体上に感光層を有するとは、導電性支持体の表面に接して感光層を設ける態様、および、導電性支持体の表面上方に他の層を介して感光層を有する態様を含む意味である。
【0027】
導電性支持体の表面上方に他の層を介して感光層を有する態様において、導電性支持体と感光層との間に設けられる他の層としては、太陽電池の電池性能を低下させないものであれば特に限定されない。例えば、多孔質層、ブロッキング層、電子輸送層および正孔輸送層等が挙げられる。
本発明において、導電性支持体の表面上方に他の層を介して感光層を有する態様としては、例えば、感光層が、多孔質層の表面に薄い膜状等に設けられる態様(図1参照)、多孔質層の表面に厚い膜状に設けられる態様(図2および図6参照)、ブロッキング層の表面に薄い膜状に設けられる態様、および、ブロッキング層の表面に厚い膜状に設けられる態様(図3参照)、電子輸送層の表面に薄い膜状または厚い膜状(図4参照)に設けられる態様、および、正孔輸送層の表面に薄い膜状または厚い膜状(図5参照)に設けられる態様が挙げられる。感光層は、線状または分散状に設けられてもよいが、好ましくは膜状に設けられる。
【0028】
また、本発明において、「第一電極の表面」とは、第一電極の表面を形成する層、例えば、第一電極に設けられた感光層の、第二電極側の表面を意味する。
本発明において「第一電極の表面に化合物ACを有する」とは、第一電極の表面またはその近傍に化合物ACが存在していることを意味する。化合物ACが存在する態様は、化学的結合または物理的相互作用により、化合物ACが第一電極の表面に、結合、密着、定着、担持または吸着等している態様を含む。例えば、第一電極の表面に、化合物ACが共有結合、イオン結合、配位結合により結合している態様、物理的に吸着している態様のすべての態様が含まれる。本発明においては、化合物ACが実際に第一電極の表面にどのように存在しているかについては問題ではなく、第一電極の表面またはその近傍に化合物ACが存在していればよい。したがって、化合物ACは、例えば多孔質層の孔内に存在してもよく、また化合物ACの一部が感光層に取り込まれていてもよい。
化合物ACは、第一電極の表面に存在していればよく、膜状、線状および分散状のいずれの状態でもよく、またこれらが混在した状態でもよい。本発明においては、化合物ACが第一電極の表面に有する状態にかかわらず、第一電極の表面に有する化合物ACの集合を、便宜上、化合物ACの層(化合物層)という。したがって、化合物層は、必ずしも、第一電極の表面を一様に覆うような層または膜を形成していなくてもよい。したがって、各図において、理解のために化合物ACの存在状態を層状に図示したが、これに限定されないことは同様である。
【0029】
本発明の光電変換素子は、本発明で規定する構成以外の構成は特に限定されず、光電変換素子および太陽電池に関する公知の構成を採用できる。本発明の光電変換素子を構成する各層は、目的に応じて設計され、例えば、単層に形成されても、複層に形成されてもよい。
【0030】
以下、本発明の光電変換素子の好ましい態様について説明する。
図1図6において、同じ符号は同じ構成要素(部材)を意味する。
なお、図1図2および図6は、多孔質層12を形成する微粒子の大きさを強調して示してある。これらの微粒子は、好ましくは、導電性支持体11に対して水平方向および垂直方向に詰まり(堆積または密着して)、多孔質構造を形成している。
【0031】
本明細書において、単に光電変換素子10という場合は、特に断らない限り、光電変換素子10A〜10Fを意味する。このことは、システム100、第一電極1についても同様である。また、単に感光層13および化合物層5という場合は、特に断らない限り、感光層13A〜13Cまたは化合物層5A〜5Cを意味する。同様に、正孔輸送層3という場合は、特に断らない限り、正孔輸送層3Aおよび3Bを意味する。
【0032】
本発明の光電変換素子の好ましい態様として、例えば、図1に示す光電変換素子10Aが挙げられる。図1に示されるシステム100Aは、光電変換素子10Aを外部回路6で動作手段M(例えば電動モーター)に仕事をさせる電池用途に応用したシステムである。
この光電変換素子10Aは、第一電極1Aと、第一電極1Aの感光層13A上に化合物層5A(図1の拡大部A参照)と第二電極2と、第一電極1Aと第二電極2の間に正孔輸送層3Aとを有している。
第一電極1Aは、支持体11aおよび透明電極11bからなる導電性支持体11と、多孔質層12と、多孔質層12上に感光層13Aとを有している。また透明電極11b上にブロッキング層14を有し、ブロッキング層14上に多孔質層12が形成される。このように多孔質層12を有する光電変換素子10Aは、感光層13Aの表面積が大きくなるため、電荷分離および電荷移動効率が向上すると推定される。
【0033】
図2に示す光電変換素子10Bは、図1に示す光電変換素子10Aの感光層13Aを厚く設けた好ましい態様を模式的に示したものである。図2において、光電変換素子10Bの化合物層は、図1に示す光電変換素子10Aの化合物層5Aと同じであるので、化合物層の拡大図を省略する。この光電変換素子10Bにおいて、正孔輸送層3Bは薄く設けられている。光電変換素子10Bは、図1で示した光電変換素子10Aに対して感光層13Bおよび正孔輸送層3Bの膜厚の点で異なるが、これらの点以外は光電変換素子10Aと同様に構成されている。
【0034】
図3に示す光電変換素子10Cは、本発明の光電変換素子の別の好ましい態様を模式的に示したものである(化合物層5Bを図3の拡大部Aに示す)。光電変換素子10Cは、図2に示す光電変換素子10Bに対して多孔質層12を設けていない点で異なるが、この点以外は光電変換素子10Bと同様に構成されている。すなわち、光電変換素子10Cにおいて、感光層13Cはブロッキング層14の表面に厚い膜状に形成され、化合物層5Bは感光層13Cの表面に形成されている。光電変換素子10Cにおいて、正孔輸送層3Bは正孔輸送層3Aと同様に厚く設けることもできる。
【0035】
図4に示す光電変換素子10Dは、本発明の光電変換素子のまた別の好ましい態様を模式的に示したものである。図4において、光電変換素子10Dの化合物層は、図3に示す光電変換素子10Cの化合物層5Bと同じであるので、化合物層の拡大図を省略する。この光電変換素子10Dは、図3に示す光電変換素子10Cに対してブロッキング層14に代えて電子輸送層15を設けた点で異なるが、この点以外は光電変換素子10Cと同様に構成されている。第一電極1Dは、導電性支持体11と、導電性支持体11上に順に形成された、電子輸送層15および感光層13Cとを有している。この光電変換素子10Dは、各層を有機材料で形成できる点で、好ましい。これにより、光電変換素子の生産性が向上し、しかも薄型化またはフレキシブル化が可能になる。
【0036】
図5に示す光電変換素子10Eは、本発明の光電変換素子のさらに別の好ましい態様を模式的に示したものである。図5において、光電変換素子10Eの化合物層は、その表面に正孔輸送層3Bに代えて電子輸送層4が形成されていること以外は図3に示す光電変換素子10Cの化合物層5Bと同じであるので、化合物層の拡大図を省略する。この光電変換素子10Eを含むシステム100Eは、システム100Aと同様に電池用途に応用したシステムである。
光電変換素子10Eは、第一電極1Eと、第二電極2と、第一電極1Eおよび第二電極2の間に電子輸送層4とを有している。第一電極1Eは、導電性支持体11と、導電性支持体11上に順に形成された、正孔輸送層16および感光層13Cとを有している。この光電変換素子10Eは、光電変換素子10Dと同様に、各層を有機材料で形成できる点で、好ましい。
【0037】
図6に示す光電変換素子10Fは、本発明の光電変換素子のさらにまた別の好ましい態様を模式的に示したものである(化合物層5Cを図6の拡大部Aに示す)。光電変換素子10Fは、図2に示す光電変換素子10Bに対して正孔輸送層3Bを設けていない点で異なるが、この点以外は光電変換素子10Bと同様に構成されている。
【0038】
本発明において、光電変換素子10を応用したシステム100は、以下のようにして、太陽電池として、機能する。
すなわち、光電変換素子10において、導電性支持体11を透過して、または第二電極2を透過して感光層13に入射した光は光吸収剤を励起する。励起された光吸収剤はエネルギーの高い電子を有しており、この電子を放出できる。エネルギーの高い電子を放出した光吸収剤は酸化体となる。
【0039】
光電変換素子10A〜10Dおよび10Fにおいては、光吸収剤から放出された電子は、光吸収剤間を移動して導電性支持体11に到達する。導電性支持体11に到達した電子が外部回路6で仕事をした後、第二電極2を経て(正孔輸送層3がある場合にはさらに正孔輸送層3を経由して)、感光層13に戻る。感光層13に戻った電子により光吸収剤が還元される。
一方、光電変換素子10Eにおいては、光吸収剤から放出された電子は、感光層13Cから電子輸送層4を経て第二電極2に到達し、外部回路6で仕事をした後に導電性支持体11を経て、感光層13に戻る。感光層13に戻った電子により光吸収剤が還元される。
光電変換素子10においては、このような、上記光吸収剤の励起および電子移動のサイクルを繰り返すことにより、システム100が太陽電池として機能する。
【0040】
光電変換素子10A〜10Dおよび10Fにおいて、感光層13から導電性支持体11への電子の流れ方は、多孔質層12の有無およびその種類等により、異なる。本発明の光電変換素子10においては、光吸収剤間を電子が移動する電子伝導が起こる。したがって、多孔質層12を設ける場合、多孔質層12は従来の半導体以外に絶縁体で形成することができる。多孔質層12が半導体で形成される場合、多孔質層12の半導体微粒子内部や半導体微粒子間を電子が移動する電子伝導も起こる。一方、多孔質層12が絶縁体で形成される場合、多孔質層12での電子伝導は起こらない。多孔質層12が絶縁体で形成される場合、絶縁体微粒子に酸化アルミニウム(Al)の微粒子を用いると、比較的高い起電力(Voc)が得られる。
上記他の層としてのブロッキング層14が導体または半導体により形成された場合もブロッキング層14での電子伝導が起こる。
また、電子輸送層15でも、電子伝導が起こる。
【0041】
本発明の光電変換素子および太陽電池は、上記の好ましい態様に限定されず、各態様の構成等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各態様間で適宜組み合わせることができる。例えば、光電変換素子10Cまたは10Dに対して、光電変換素子10Fのように、正孔輸送層3Bを設けない構成とすることもできる。
【0042】
本発明において、光電変換素子または太陽電池に用いられる材料および各部材は、光吸収剤および化合物ACを除いて、常法により調製することができる。ペロブスカイト化合物を用いた光電変換素子または太陽電池については、例えば、非特許文献1を参照することができる。
また、色素増感太陽電池に用いられる材料および各部材についても参考にすることができる。色素増感太陽電池について、例えば、特開2001−291534号公報、米国特許第4,927,721号明細書、米国特許第4,684,537号明細書、米国特許第5,084,365号明細書、米国特許第5,350,644号明細書、米国特許第5,463,057号明細書、米国特許第5,525,440号明細書、特開平7−249790号公報、特開2004−220974号公報、特開2008−135197号公報を参照することができる。
【0043】
以下、本発明の光電変換素子および太陽電池に用いるのに好適な部材および化合物について、説明する。
【0044】
<第一電極1>
第一電極1は、導電性支持体11と感光層13とを有し、光電変換素子10において作用電極として機能する。
第一電極1は、図1図6に示されるように、多孔質層12、ブロッキング層14、電子輸送層15および正孔輸送層16の少なくとも1つの層を有することが好ましい。
第一電極1は、短絡防止の点で少なくともブロッキング層14を有することが好ましく、光吸収効率の点および短絡防止の点で多孔質層12およびブロッキング層14を有していることがさらに好ましい。
また、第一電極1は、光電変換素子の生産性の向上、薄型化またはフレキシブル化の点で、有機材料で形成された、電子輸送層15または正孔輸送層16を有することが好ましい。
【0045】
− 導電性支持体11 −
導電性支持体11は、導電性を有し、感光層13等を支持できるものであれば特に限定されない。導電性支持体11は、導電性を有する材料、例えば金属で形成された構成、または、ガラスもしくはプラスチックの支持体11aとこの支持体11aの表面に形成された導電膜としての透明電極11bとを有する構成が好ましい。導電性支持体11の強度が十分に保たれる場合は、支持体11aは必ずしも必要ではない。
【0046】
なかでも、図1図6に示されるように、ガラスまたはプラスチックの支持体11aの表面に導電性の金属酸化物を塗設して透明電極11bを成膜した導電性支持体11がさらに好ましい。プラスチックで形成された支持体11aとしては、例えば、特開2001−291534号公報の段落番号0153に記載の透明ポリマーフィルムが挙げられる。支持体11aを形成する材料としては、ガラスおよびプラスチックの他にも、セラミック(特開2005−135902号公報)、導電性樹脂(特開2001−160425号公報)を用いることができる。金属酸化物としては、スズ酸化物(TO)が好ましく、インジウム−スズ酸化物(スズドープ酸化インジウム;ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)等のフッ素ドープスズ酸化物が特に好ましい。このときの金属酸化物の塗布量は、支持体11aの表面積1m当たり0.1〜100gが好ましい。導電性支持体11を用いる場合、光は支持体11a側から入射させることが好ましい。
【0047】
導電性支持体11は、実質的に透明であることが好ましい。本発明において、「実質的に透明である」とは、光(波長300〜1200nm)の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上が好ましく、80%以上が特に好ましい。
【0048】
支持体11aおよび導電性支持体11の厚みは、特に限定されず、適宜の厚みに設定される。例えば、0.01μm〜10mmであることが好ましく、0.1μm〜5mmであることがさらに好ましく、0.3μm〜4mmであることが特に好ましい。
透明電極11bを設ける場合、透明電極11bの膜厚は、特に限定されず、例えば、0.01〜30μmであることが好ましく、0.03〜25μmであることがさらに好ましく、0.05〜20μmであることが特に好ましい。
【0049】
導電性支持体11または支持体11aは、表面に光マネージメント機能を有してもよい。例えば、導電性支持体11または支持体11aの表面に、特開2003−123859号公報に記載の、高屈折膜および低屈折率の酸化物膜を交互に積層した反射防止膜を有してもよく、特開2002−260746号公報に記載のライトガイド機能を有してもよい。
【0050】
− ブロッキング層14 −
本発明においては、光電変換素子10A〜10Cおよび10Fのように、好ましくは、透明電極11bの表面に、すなわち、導電性支持体11と、多孔質層12、感光層13または正孔輸送層3等との間に、ブロッキング層14を有している。
光電変換素子および太陽電池において、例えば感光層13または正孔輸送層3と、透明電極11b等とが電気的に接続すると逆電流を生じる。ブロッキング層14は、この逆電流を防止する機能を果たす。ブロッキング層14は短絡防止層ともいう。
ブロッキング層14を、光吸収剤を担持する足場として機能させることもできる。
このブロッキング層14は、光電変換素子が電子輸送層を有する場合にも設けられてもよい。例えば、光電変換素子10Dの場合、導電性支持体11と電子輸送層15との間に設けられてもよく、光電変換素子10Eの場合、第二電極2と電子輸送層4との間に設けられてもよい。
【0051】
ブロッキング層14を形成する材料は、上記機能を果たすことのできる材料であれば特に限定されないが、可視光を透過する物質であって、導電性支持体11(透明電極11b)等に対する絶縁性物質であることが好ましい。「導電性支持体11(透明電極11b)に対する絶縁性物質」とは、具体的には、伝導帯のエネルギー準位が、導電性支持体11を形成する材料(透明電極11bを形成する金属酸化物)の伝導帯のエネルギー準位以上であり、かつ、多孔質層12を構成する材料の伝導帯や光吸収剤の基底状態のエネルギー準位以下である化合物(n型半導体化合物)をいう。
ブロッキング層14を形成する材料は、例えば、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等が挙げられる。また、一般的に光電変換材料に用いられる材料でもよく、例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タングステン等も挙げられる。なかでも、酸化チタン、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等が好ましい。
ブロッキング層14の膜厚は、0.001〜10μmが好ましく、0.005〜1μmがさらに好ましく、0.01〜0.1μmが特に好ましい。
【0052】
本発明において、各層の膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて光電変換素子10の断面を観察することにより、測定できる。
【0053】
− 多孔質層12 −
本発明において、光電変換素子10A、10Bおよび10Fのように、好ましくは、透明電極11b上に多孔質層12を有している。ブロッキング層14を有している場合、多孔質層12はブロッキング層14上に形成されることが好ましい。
多孔質層12は、表面に感光層13を担持する足場として機能する層である。太陽電池において、光吸収効率を高めるためには、少なくとも太陽光等の光を受ける部分の表面積を大きくすることが好ましく、多孔質層12の全体としての表面積を大きくすることが好ましい。
【0054】
多孔質層12は、多孔質層12を形成する材料の微粒子が堆積または密着してなる、細孔を有する微粒子層であることが好ましい。多孔質層12は、2種以上の微粒子が堆積してなる微粒子層であってもよい。多孔質層12が細孔を有する微粒子層であると、光吸収剤の担持量(吸着量)を増量できる。
多孔質層12の表面積を大きくするには、多孔質層12を構成する個々の微粒子の表面積を大きくすることが好ましい。本発明では、多孔質層12を形成する微粒子を導電性支持体11等に塗設した状態で、この微粒子の表面積が投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがより好ましい。この上限には特に制限はないが、通常5000倍程度である。多孔質層12を形成する微粒子の粒径は、投影面積を円に換算したときの直径を用いた平均粒径において、1次粒子として0.001〜1μmが好ましい。微粒子の分散物を用いて多孔質層12を形成する場合、微粒子の上記平均粒径は、分散物の平均粒径として0.01〜100μmが好ましい。
【0055】
多孔質層12を形成する材料は、導電性に関しては特に限定されず、絶縁体(絶縁性の材料)であっても、導電性の材料または半導体(半導電性の材料)であってもよい。
多孔質層12を形成する材料としては、例えば、金属のカルコゲニド(例えば酸化物、硫化物、セレン化物等)、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物(光吸収剤として用いるペロブスカイト化合物を除く。)、ケイ素の酸化物(例えば、二酸化ケイ素、ゼオライト)、またはカーボンナノチューブ(カーボンナノワイヤおよびカーボンナノロッド等を含む)を用いることができる。
【0056】
金属のカルコゲニドとしては、特に限定されないが、好ましくは、チタン、スズ、亜鉛、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、アルミニウムまたはタンタルの各酸化物、硫化カドミウム、セレン化カドミウム等が挙げられる。金属のカルコゲニドの結晶構造として、アナターゼ型、ブルッカイト型またはルチル型が挙げられ、アナターゼ型、ブルッカイト型が好ましい。
【0057】
ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物としては、特に限定されないが、遷移金属酸化物等が挙げられる。例えば、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ジルコン酸バリウム、スズ酸バリウム、ジルコン酸鉛、ジルコン酸ストロンチウム、タンタル酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウム、鉄酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸バリウムランタン、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸ビスマスが挙げられる。なかでも、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム等が好ましい。
【0058】
カーボンナノチューブは、炭素膜(グラフェンシート)を筒状に丸めた形状を有する。カーボンナノチューブは、1枚のグラフェンシートが円筒状に巻かれた単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、2枚のグラフェンシートが同心円状に巻かれた2層カーボンナノチューブ(DWCNT)、複数のグラフェンシートが同心円状に巻かれた多層カーボンナノチューブ(MWCNT)に分類される。多孔質層12としては、いずれのカーボンナノチューブも特に限定されず、用いることができる。
【0059】
多孔質層12を形成する材料は、なかでも、チタン、スズ、亜鉛、ジルコニウム、アルミニウムもしくはケイ素の酸化物、またはカーボンナノチューブが好ましく、酸化チタンまたは酸化アルミニウムがさらに好ましい。
【0060】
多孔質層12は、上述の、金属のカルコゲニド、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物、ケイ素の酸化物およびカーボンナノチューブのうち少なくとも1種で形成されていればよく、複数種で形成されていてもよい。
【0061】
多孔質層12の膜厚は、特に限定されないが、通常0.05〜100μmの範囲であり、太陽電池として用いる場合は、0.1〜50μmが好ましく、0.2〜30μmがより好ましい。
【0062】
− 電子輸送層15−
本発明においては、光電変換素子10Dのように、好ましくは、透明電極11bの表面に電子輸送層15を有している。
電子輸送層15は、感光層13で発生した電子を導電性支持体11へと輸送する機能を有する。電子輸送層15は、この機能を発揮することができる電子輸送材料で形成される。電子輸送材料としては、特に限定されないが、有機材料(有機電子輸送材料)が好ましい。有機電子輸送材料としては、[6,6]−Phenyl−C61−Butyric Acid Methyl Ester(PC61BM)等のフラーレン化合物、ペリレンテトラカルボキシジイミド(PTCDI)等のペリレン化合物、その他、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)等の低分子化合物、または、高分子化合物等が挙げられる。
電子輸送層15の膜厚は、特に限定されないが、0.001〜10μmが好ましく、0.01〜1μmがより好ましい。
【0063】
− 正孔輸送層16−
本発明においては、光電変換素子10Eのように、好ましくは、透明電極11bの表面に正孔輸送層16を有している。
正孔輸送層16は、形成される位置が異なること以外は、後述する正孔輸送層3と同じである。
【0064】
− 感光層(光吸収層)13 −
感光層13は、好ましくは、多孔質層12(光電変換素子10A、10Bおよび10F)、ブロッキング層14(光電変換素子10C)、電子輸送層15(光電変換素子10D)、または、正孔輸送層16(光電変換素子10E)の各層の表面(感光層13が設けられる表面が凹凸の場合の凹部内表面を含む。)に設けられる。
本発明において、光吸収剤は、後述する特定のペロブスカイト化合物を少なくとも1種含有していればよく、2種以上のペロブスカイト化合物を含有してもよい。また、光吸収剤は、ペロブスカイト化合物と併せて、ペロブスカイト化合物以外の光吸収剤を含んでいてもよい。ペロブスカイト化合物以外の光吸収剤としては、例えば金属錯体色素および有機色素が挙げられる。このとき、ペロブスカイト化合物と、それ以外の光吸収剤との割合は特に限定されない。
【0065】
感光層13は、単層であっても2層以上の積層であってもよい。感光層13が2層以上の積層構造である場合、互いに異なった光吸収剤からなる層を積層してなる積層構造でもよく、また、感光層と感光層の間に、正孔輸送材料を含む中間層を有する積層構造でもよい。
【0066】
感光層13を導電性支持体11上に有する態様は、上述した通りである。感光層13は、好ましくは、励起した電子が導電性支持体11または第二電極2に流れるように、上記各層の表面に設けられる。このとき、感光層13は、上記各層の表面全体に設けられていてもよく、その表面の一部に設けられていてもよい。
【0067】
感光層13は、その表面に下記式(AC)で表される化合物を有している。この化合物ACが表面に存在する態様は上述した通りである。
【0068】
感光層13の膜厚は、導電性支持体11上に感光層13を有する態様に応じて適宜に設定され、特に限定されない。例えば、0.001〜100μmが好ましく、0.01〜10μmがさらに好ましく、0.01〜5μmが特に好ましい。
多孔質層12を有する場合、多孔質層12の膜厚との合計膜厚は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましく、0.3μm以上が特に好ましい。また、合計膜厚は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。合計膜厚は、上記値を適宜に組み合わせた範囲とすることができる。例えば、0.01〜100μmが好ましく、0.05〜50μmがさらに好ましく、0.1〜30μmが特に好ましい。
光電変換素子10において、多孔質層12および正孔輸送層3を有する場合、多孔質層12と感光層13と化合物層5と正孔輸送層3との合計膜厚は、特に限定されないが、例えば、0.01〜200μmが好ましく、0.05〜50μmがより好ましく、0.1〜30μmがさらに好ましい。
本発明において、感光層を厚い膜状に設ける場合(感光層13Bおよび13C)、この感光層に含まれる光吸収剤は正孔輸送材料として機能することもある。
【0069】
ペロブスカイト化合物の使用量は、第一電極1の表面の少なくとも一部を覆う量が好ましく、表面全体を覆う量がより好ましい。
【0070】
〔感光層の光吸収剤〕
感光層13は、光吸収剤として、「周期表第一族元素またはカチオン性有機基A」と、「周期表第一族元素以外の金属原子M」と、「アニオン性原子または原子団X」と、を有するペロブスカイト化合物を含有する。
ペロブスカイト化合物の周期表第一族元素またはカチオン性有機基A、金属原子Mおよびアニオン性原子または原子団Xは、それぞれ、ペロブスカイト型結晶構造において、カチオン(便宜上、カチオンAということがある)、金属カチオン(便宜上、カチオンMということがある)およびアニオン(便宜上、アニオンXということがある)の各構成イオンとして存在する。
本発明において、カチオン性有機基とは、ペロブスカイト型結晶構造においてカチオンになる性質を有する有機基をいい、アニオン性原子または原子団とはペロブスカイト型結晶構造においてアニオンになる性質を有する原子または原子団をいう。
【0071】
本発明に用いるペロブスカイト化合物において、カチオンAは、周期表第一族元素のカチオンまたはカチオン性有機基Aからなる有機カチオンである。カチオンAは有機カチオンが好ましい。
周期表第一族元素のカチオンは、特に限定されず、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)またはセシウム(Cs)の各元素のカチオン(Li、Na、K、Cs)が挙げられ、特にセシウムのカチオン(Cs)が好ましい。
有機カチオンは、上記性質を有する有機基のカチオンであれば特に限定されないが、下記式(1)で表されるカチオン性有機基の有機カチオンであることがさらに好ましい。
式(1):R1a−NH
【0072】
式中、R1aは置換基を表す。R1aは、有機基であれば特に限定されるものではないが、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基または下記式(2)で表すことができる基が好ましい。なかでも、アルキル基、下記式(2)で表すことができる基がより好ましい。
【0073】
【化4】
【0074】
式中、XはNR1c、酸素原子または硫黄原子を表す。R1bおよびR1cは各々独立に水素原子または置換基を表す。***は式(1)の窒素原子との結合を表す。
【0075】
本発明において、カチオン性有機基Aの有機カチオンは、上記式(1)中のR1aとNHとが結合してなるアンモニウムカチオン性有機基Aからなる有機アンモニウムカチオン(R1a−NH)が好ましい。この有機アンモニウムカチオンが共鳴構造を採り得る場合、有機カチオンは有機アンモニウムカチオンに加えて共鳴構造のカチオンを含む。例えば、上記式(2)で表すことができる基においてXがNH(R1cが水素原子)である場合、有機カチオンは、上記式(2)で表すことができる基とNHとが結合してなるアンモニウムカチオン性有機基の有機アンモニウムカチオンに加えて、この有機アンモニウムカチオンの共鳴構造の1つである有機アミジニウムカチオンをも包含する。アミジニウムカチオン性有機基からなる有機アミジニウムカチオンとしては、下記式(Aam)で表されるカチオンが挙げられる。本明細書において、下記式(Aam)で表されるカチオンを便宜上、「R1bC(=NH)−NH」と表記することがある。
【0076】
【化5】
【0077】
アルキル基は、炭素数が1〜18のアルキル基が好ましく、1〜6のアルキル基がより好ましく、1〜3のアルキル基がさらに好ましい。例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert−ブチル、ペンチルまたはヘキシル等が挙げられる。
シクロアルキル基は、炭素数が3〜8のシクロアルキル基が好ましく、例えば、シクロプロピル、シクロペンチルまたはシクロヘキシル等が挙げられる。
【0078】
アルケニル基は、炭素数が2〜18のアルケニル基が好ましく、2〜6のアルケニル基がより好ましい。例えば、ビニル、アリル、ブテニルまたはヘキセニル等が挙げられる。
アルキニル基は、炭素数が2〜18のアルキニル基が好ましく、2〜4のアルキニル基がより好ましい。例えば、エチニル、ブチニルまたはヘキシニル等が挙げられる。
【0079】
アリール基は、炭素数6〜14のアリール基が好ましく、例えば、炭素数6〜12のアリール基がより好ましく、フェニルが挙げられる。
ヘテロアリール基は、芳香族ヘテロ環のみからなる基と、芳香族ヘテロ環に他の環、例えば、芳香環、脂肪族環やヘテロ環が縮合した縮合ヘテロ環からなる基とを包含する。
芳香族ヘテロ環を構成する環構成ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が好ましい。また、芳香族ヘテロ環の環員数としては、3〜8員環が好ましく、5員環または6員環がより好ましい。
5員環の芳香族ヘテロ環および5員環の芳香族ヘテロ環を含む縮合ヘテロ環としては、例えば、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、トリアゾール環、フラン環、チオフェン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、インドリン環、インダゾール環の各環基が挙げられる。また、6員環の芳香族ヘテロ環および6員環の芳香族ヘテロ環を含む縮合ヘテロ環としては、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キナゾリン環の各環基が挙げられる。
【0080】
式(2)で表すことができる基において、XはNR1c、酸素原子または硫黄原子を表し、NR1cが好ましい。ここで、R1cは、水素原子または置換基を表し、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはヘテロアリール基が好ましく、水素原子がさらに好ましい。
1bは、水素原子または置換基を表し、水素原子が好ましい。R1bとして採り得る置換基は、アミノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはヘテロアリール基が挙げられる。
1bおよびR1cがそれぞれ採り得る、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基およびヘテロアリール基は、上記R1aの各基と同義であり、好ましいものも同じである。
式(2)で表すことができる基としては、例えば、(チオ)アシル基、(チオ)カルバモイル基、イミドイル基またはアミジノ基が挙げられる。
(チオ)アシル基は、アシル基およびチオアシル基を包含する。アシル基は、総炭素数が1〜7のアシル基が好ましく、例えば、ホルミル、アセチル(CHC(=O)−)、プロピオニル、ヘキサノイル等が挙げられる。チオアシル基は、総炭素数が1〜7のチオアシル基が好ましく、例えば、チオホルミル、チオアセチル(CHC(=S)−)、チオプロピオニル等が挙げられる。
(チオ)カルバモイル基は、カルバモイル基(HNC(=O)−)およびチオカルバモイル基(HNC(=S)−)を包含する。
イミドイル基は、R1b−C(=NR1c)−で表される基であり、R1bおよびR1cはそれぞれ水素原子またはアルキル基が好ましく、アルキル基は上記R1aのアルキル基と同義であるのがより好ましい。例えば、ホルムイミドイル(HC(=NH)−)、アセトイミドイル(CHC(=NH)−)、プロピオンイミドイル(CHCHC(=NH)−)等が挙げられる。なかでも、ホルムイミドイルが好ましい。
式(2)で表すことができる基としてのアミジノ基は、上記イミドイル基のR1bがアミノ基でR1cが水素原子である構造(−C(=NH)NH)を有する。
【0081】
1aとして採り得る、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基および上記式(2)で表すことができる基は、いずれも、置換基を有していてもよい。R1aが有していてもよい置換基としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基またはカルボキシ基が挙げられる。R1aが有していてもよい各置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。
【0082】
本発明に用いるペロブスカイト化合物において、金属カチオンMは、周期表第一族元素以外の金属原子Mのカチオンであって、ペロブスカイト型結晶構造を採り得る金属原子のカチオンであれば、特に限定されない。このような金属原子としては、例えば、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、カドミウム(Cd)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、イッテルビウム(Yb)、ユウロピウム(Eu)、インジウム(In)、チタン(Ti)、ビスマス(Bi)等の金属原子が挙げられる。なかでも、金属原子Mは、2価のカチオンであることが好ましく、2価の鉛カチオン(Pb2+)、2価の銅カチオン(Cu2+)、2価のゲルマニウムカチオン(Ge2+)および2価のスズカチオン(Sn2+)からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、Pb2+またはSn2+であることがさらに好ましく、Pb2+であることが特に好ましい。Mは1種の金属原子であってもよく、2種以上の金属原子であってもよい。2種以上の金属原子である場合には、Pb原子およびSn原子の2種が好ましい。このときの金属原子の割合は特に限定されない。
【0083】
本発明に用いるペロブスカイト化合物において、アニオンXは、アニオン性原子または原子団Xのアニオンを表す。このアニオンは、好ましくはハロゲン原子のアニオン、または、NCS、NCO、HO-、NO、CHCOOもしくはHCOOの、各原子団のアニオンが挙げられる。なかでも、ハロゲン原子のアニオンであることがさらに好ましい。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。
アニオンXは、1種のアニオン性原子または原子団のアニオンであってもよく、2種以上のアニオン性原子または原子団のアニオンであってもよい。1種のアニオン性原子または原子団のアニオンである場合には、ヨウ素原子のアニオンが好ましい。一方、2種以上のアニオン性原子または原子団のアニオンである場合には、2種のハロゲン原子のアニオン、特に塩素原子のアニオンおよびヨウ素原子のアニオンが好ましい。2種以上のアニオンの割合は特に限定されない。
【0084】
本発明に用いるペロブスカイト化合物は、上記の各構成イオンを有するペロブスカイト型結晶構造を有し、下記式(I)で表されるペロブスカイト化合物が好ましい。
【0085】
式(I):A
式中、Aは周期表第一族元素またはカチオン性有機基を表す。Mは周期表第一族元素以外の金属原子を表す。Xはアニオン性原子または原子団を表す。
aは1または2を表し、mは1を表し、a、mおよびxはa+2m=xを満たす。
【0086】
式(I)において、周期表第一族元素またはカチオン性有機基Aは、ペロブスカイト型結晶構造の上記カチオンAを形成する。したがって、周期表第一族元素およびカチオン性有機基Aは、上記カチオンAとなってペロブスカイト型結晶構造を構成できる元素または基であれば、特に限定されない。周期表第一族元素またはカチオン性有機基Aは、上記カチオンAで説明した上記周期表第一族元素またはカチオン性有機基と同義であり、好ましいものも同じである。
【0087】
金属原子Mは、ペロブスカイト型結晶構造の上記金属カチオンMを形成する金属原子である。したがって、金属原子Mは、周期表第一族元素以外の原子であって、上記金属カチオンMとなってペロブスカイト型結晶構造を構成できる原子であれば、特に限定されない。金属原子Mは、上記金属カチオンMで説明した上記金属原子と同義であり、好ましいものも同じである。
【0088】
アニオン性原子または原子団Xは、ペロブスカイト型結晶構造の上記アニオンXを形成する。したがって、アニオン性原子または原子団Xは、上記アニオンXとなってペロブスカイト型結晶構造を構成できる原子または原子団であれば、特に限定されない。アニオン性原子または原子団Xは、上記アニオンXで説明したアニオン性原子または原子団と同義であり、好ましいものも同じである。
【0089】
式(I)で表されるペロブスカイト化合物は、aが1である場合、下記式(I−1)で表されるペロブスカイト化合物であり、aが2である場合、下記式(I−2)で表されるペロブスカイト化合物である。
式(I−1):AMX
式(I−2):AMX
式(I−1)および式(I−2)において、Aは周期表第一族元素またはカチオン性有機基を表し、上記式(I)のAと同義であり、好ましいものも同じである。
Mは、周期表第一族元素以外の金属原子を表し、上記式(I)のMと同義であり、好ましいものも同じである。
Xは、アニオン性原子または原子団を表し、上記式(I)のXと同義であり、好ましいものも同じである。
【0090】
本発明に用いるペロブスカイト化合物は、式(I−1)で表される化合物および式(I−2)で表される化合物のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。したがって、本発明において、ペロブスカイト化合物は、光吸収剤として少なくとも1種が存在していればよく、組成式、分子式および結晶構造等により、厳密にいかなる化合物であるかを明確に区別する必要はない。
【0091】
以下に、本発明に用いうるペロブスカイト化合物の具体例を例示するが、これによって本発明が制限されるものではない。下記においては、式(I−1)で表される化合物と、式(I−2)で表される化合物とを分けて記載する。ただし、式(I−1)で表される化合物として例示した化合物であっても、合成条件等によっては、式(I−2)で表される化合物となる場合もあり、また、式(I−1)で表される化合物と式(I−2)で表される化合物との混合物となる場合もある。同様に、式(I−2)で表される化合物として例示した化合物であっても、式(I−1)で表される化合物となる場合もあり、また、式(I−1)で表される化合物と式(I−2)で表される化合物との混合物となる場合もある。
【0092】
式(I−1)で表される化合物の具体例として、例えば、CHNHPbCl、CHNHPbBr、CHNHPbI、CHNHPbBrI、CHNHPbBrI、CHNHSnBr、CHNHSnI、CHNHGeCl、CH(=NH)NHPbI、CsSnICsGeIが挙げられる。
【0093】
式(I−2)で表される化合物の具体例として、例えば、(CNHPbI、(C1021NHPbI、(CH=CHNHPbI、(CH≡CNHPbI、(n−CNHPbI、(n−CNHPbI、(CNHPbI、(CCHCHNHPbI、(CNHPbI、(CNHPbI、(CSNHPbI、(CHNHCuCl、(CNHGeI、(CNHFeBrが挙げられる。ここで、(CSNHPbIにおけるCSNHはアミノチオフェンである。
【0094】
ペロブスカイト化合物は、下記式(II)で表される化合物と下記式(III)で表される化合物とから合成することができる。
式(II):AX
式(III):MX
式(II)中、Aは周期表第一族元素またはカチオン性有機基を表し、式(I)のAと同義であり、好ましいものも同じである。式(II)中、Xはアニオン性原子または原子団を表し、式(I)のXと同義であり、好ましいものも同じである。
式(III)中、Mは周期表第一族元素以外の金属原子を表し、式(I)のMと同義であり、好ましいものも同じである。式(III)中、Xはアニオン性原子または原子団を表し、式(I)のXと同義であり、好ましいものも同じである。
【0095】
ペロブスカイト化合物の合成方法については、例えば、非特許文献1に記載の方法が挙げられる。また、Akihiro Kojima, Kenjiro Teshima, Yasuo Shirai, and Tsutomu Miyasaka, “Organometal Halide Perovskites as Visible−Light Sensitizers for Photovoltaic Cells”, J.Am.Chem.Soc.,2009,131(17),p6050−6051に記載の方法も挙げられる。
【0096】
光吸収剤の使用量は、第一電極1の表面の少なくとも一部を覆う量であればよく、表面全体を覆う量が好ましい。
【0097】
感光層13中、ペロブスカイト化合物の含有量は、通常1〜100質量%である。
【0098】
− 化合物層5 −
本発明において、式(AC)で表される化合物は、第一電極の表面に存在する。「第一電極の表面に化合物ACを有する」態様および状態は上記した通りである。本発明の光電変換素子においては、第一電極1上に、好ましくは、正孔輸送層3または電子輸送層4が設けられる。この場合、化合物層5は、第一電極1の表面と、第一電極1上に設けられる層との間に介在している。
【0099】
化合物ACは、第一電極の表面に存在していればよい。化合物ACが第一電極の表面に存在しているか否かは次のようにして確認できる。すなわち、十分な面積の第一電極の表面を、化合物ACを溶解可能な有機溶剤または水で洗う。得られた洗浄液をろ過したろ液を、必要に応じて濃縮および精製して、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)または各磁気共鳴分光法(NMR)で、分析する。これにより、第一電極の表面上における、化合物ACの有無を確認し、またその存在量を定量できる。
表面に存在する化合物ACの存在量は、本発明の効果を奏する限りにおいて、特に限定されない。例えば、化合物ACを含む液を、第一電極の表面に接触させ、好ましくは全面に接触させることにより、第一電極上に設けることができる存在量であればよい。このとき、存在量は、化合物ACを含む液の濃度、接触させる表面積等によって、変動させることができる。化合物ACの存在量としては、一義的ではないが、その一例を挙げると、例えば、0.1mg/m〜100g/mである。さらには1mg/m〜1g/mを挙げることができる。
本発明においては、化合物ACが、第一電極の表面を一様に覆うことが、逆電荷移動防止の観点等から好ましい。
【0100】
第一電極の表面に化合物ACを有すると、光電変換素子ないし太陽電池は耐久性が優れる。その詳細はまだ定かではないが、次のように推定される。すなわち、第一電極の表面に化合物ACを有すると第一電極と第一電極上に形成される層(正孔輸送層、電子輸送層または第二電極等)との相溶性または相互作用等を高めることができる。特に、硫黄原子および酸素原子の少なくとも1つを環構成原子として有するヘテロ環は、例えばピリジンに対して、ペロブスカイトの結晶構造の崩れや変形に対する影響が少ないという点や、疎水的であるという点で優れた特性を発揮し、第一電極から第一電極上に設けられる層への逆電子移動(光電変換素子10A〜10D、10F)、または第一電極上へ設けられる層から第一電極への逆正孔移動(光電変換素子10E)を効果的に抑制できる。また、ヘテロ環は、第一電極の表面(界面)に本来必要とされる電荷輸送をそもそも妨げるものではない。これらにより、第一電極と第一電極上に形成される層との密着性が高まり、所定の方向に電荷移動(電子移動)が速やかに起こり、また、層界面の異常や、吸湿による劣化(ペロブスカイト化合物の分解)を防止できる。これにより、経時後でも電流の低下を抑え、ひいては光電変換効率の低下をも抑えることができると考えられる
化合物ACが、置換基RACとして、ハロゲン原子、炭素数5以上のアルキル基またはハロゲン原子を有する基等の疎水的な基を有する場合には、上記の効果は一層高まるものと考えられる。
【0101】
第一電極の表面には、化合物ACを少なくとも1種有していればよく、複数種を有していてもよい。
【0102】
化合物ACは、下記式(AC)で表される化合物である。
【0103】
【化6】
【0104】
式中、環AACはヘテロ環を表す。Zは硫黄原子または酸素原子を表す。nは1以上の整数を表す。Aは、>C=CRY1Y2、>C=S、>C=Oまたは>C=NRY3を表す。RY1およびRY2は各々独立に置換基を表す。RY3は水素原子または置換基を表す。nは0以上の整数を表す。RACは置換基を表す。nは0以上の整数を表す。ただし、Zが硫黄原子であり、nが1であるとき、nは1以上の整数を表す。
【0105】
Zは、環AACを構成する環構成原子であり、酸素原子であることが好ましい。
は1以上の整数を表し、1〜6であることが好ましく、1または2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
が2以上の整数である場合、複数のZは同一でも異なっていてもよく、そのうちの少なくとも1つは酸素原子であることが好ましい。
【0106】
Aは、A中の「>C=」を環AACの環構成原子とする基であり、この炭素原子の2つの単結合がそれぞれ環AACの環構成原子と結合して、上記炭素原子が環AAC中に組み込まれる。
Aは、具体的には、>C=CRY1Y2、>C=S、>C=Oまたは>C=NRY3を表す。ここで、RY1およびRY2は各々独立に置換基を表す。また、RY3は水素原子または置換基を表す。RY1〜RY3が採り得る置換基は、特に限定されず、例えば、上記式(I)のR1aが有していてもよい置換基を挙げることができる。
Y1およびRY2は互いに結合して環を形成してもよい。RY1およびRY2が形成する環は、特に限定されず、上記環AACと同じ環であってもよい。
は、0以上の整数を表し、環AACの形態(例えば、芳香族性の有無)によって、1以上の整数をとる場合がある。nは、好ましくは0〜3の整数を表し、より好ましくは0または1であり、さらに好ましくは0である。
【0107】
環AACは、環構成原子として、炭素原子とZとを含み、上述のnが1以上の整数である場合、さらに、A中の炭素原子(>C=)を含む。
環AACの員数は、特に限定されないが、環AACは3〜8員環であることが好ましく、5員環または6員環が好ましい。
このような環AACとしては、例えば、芳香族ヘテロ環および脂肪族ヘテロ環が挙げられ、芳香族ヘテロ環であることが好ましい。
芳香族ヘテロ環は、芳香族性を示すヘテロ環をいう。脂肪族ヘテロ環は、芳香族ヘテロ環以外のヘテロ環をいい、飽和脂肪族ヘテロ環、および、芳香族性を示さない不飽和脂肪族ヘテロ環が挙げられる。
【0108】
芳香族ヘテロ環としては、例えば、チオフェン環またはフラン環が挙げられる。
飽和脂肪族ヘテロ環としては、例えば、オキセタン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、ジオキソラン環、ジオキサン環、トリメチレンスルフィド環、テトラヒドロチオフェン環、ペンタメチレンスルフィド環(テトラヒドロチオピラン環)、ジチオラン環等が挙げられる。
不飽和脂肪族ヘテロ環としては、例えば、ジヒドロフラン環、ジヒドロピラン環、ジヒドロチオフェン環、ジヒドロチオピラン環、チオピラン環、ジチオール(ジチアシクロペンテン)等が挙げられる。
【0109】
本発明において、後述するRAC同士が互いに結合して環を形成する場合、RAC同士が形成する環と環AACとは縮環となる。このような縮環としては、RACの種類、RAC同士が形成する環数によって種々の構造をとる。例えば、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾジチオフェン環、チエノチオフェン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、ジヒドロベンゾフラン環等が挙げられる。
【0110】
環AACは、5員環もしくは6員環の芳香族ヘテロ環であることが好ましく、5員環の芳香族ヘテロ環であることがより好ましく、チオフェン環またはフラン環であることがさらに好ましく、フラン環であることが特に好ましい。
【0111】
ACは置換基を表す。RACが採り得る置換基は、特に限定されず、例えば、上記式(I)のR1aが有していてもよい置換基を挙げることができる。
ACが採り得る置換基、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルキルチオ基は、さらに、R1aが有していてもよい置換基で置換された基を含む。このような基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基またはアルキルチオ基の各基の水素原子をハロゲン原子で置換した基(ハロゲン原子を有する基という)、アリール基またはヘテロ環基の水素原子をアルキル基で置換した基等が挙げられる。
ACが採り得る置換基は、なかでも、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子、または、ハロゲン原子を有する基が好ましく、アルキル基、ハロゲン原子、または、ハロゲン原子を有する基がより好ましく、炭素数5以上のアルキル基、ハロゲン原子、または、ハロゲン原子を有する基がさらに好ましい。
【0112】
アルキル基は、炭素数が1〜30のアルキル基が好ましく、炭素数が5〜18のアルキル基がより好ましく、炭素数が5〜12のアルキル基がさらに好ましい。このアルキル基は、直鎖でも分岐鎖でもよい。アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐鎖のプロピル、直鎖もしくは分岐鎖のブチル、直鎖もしくは分岐鎖のペンチル、直鎖もしくは分岐鎖のヘキシル、直鎖もしくは分岐鎖のデシル、直鎖もしくは分岐鎖のドデシル、または、直鎖もしくは分岐鎖のオクタデシルが挙げられる。
アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基(ヘテロアリール基)、アルコキシ基およびアルキルチオ基は、それぞれ、R1aのアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基およびアルキルチオ基と同義である。ヘテロ環基が脂肪族ヘテロ環である場合、上記環AACの脂肪族ヘテロ環と同義である。
ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0113】
ハロゲン原子を有する基において、水素原子を置換するハロゲン原子の数は、少なくとも1つであれば特に限定されない。水素原子のすべてがハロゲン原子で置換された基が好ましい。水素原子を置換するハロゲン原子も、特に限定されず、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
ハロゲン原子を有する基は、アルキル基の水素原子をハロゲン原子で置換した基(ハロゲン化アルキル基)が好ましく、フッ素原子で置換した基(フッ化アルキル基)がさらに好ましい。フッ化アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ヘプタフルオロイソプロピル、ペンタデカフルオロヘプチル、トリデカフルオロヘプチル等が好ましい。ハロゲン化アルキル基の炭素数は、特に限定されず、1〜30であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。ハロゲン化アルキル基は、水素原子のすべてがフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基が好ましい。
【0114】
が2以上の整数である場合、複数のRACは同一でも異なっていてもよい。また、隣接する2つのRACが互いに結合して環を形成してもよい。
【0115】
ACの、環AACの置換位置は、特に限定されないが、Zに隣接する環構成原子であることが好ましい。
【0116】
は、0以上の整数を表し、0〜7の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、1または2がさらに好ましい。ただし、Zが硫黄原子であり、nが1であるとき、nは、1以上の整数を表し、1〜7の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1または2がさらに好ましい。
【0117】
化合物ACは、通常の方法に準じて合成することもでき、市販品を使用することもできる。
【0118】
化合物ACの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0119】
【化7】
【0120】
<正孔輸送層3>
本発明の光電変換素子は、光電変換素子10A〜10Dのように、第一電極1と第二電極2との間に正孔輸送層3を有することが好ましい態様の1つである。化合物層5と正孔輸送層3とが接触(積層)していると、化合物ACの上記作用が効果的に得られる。
正孔輸送層3は、光吸収剤の酸化体に電子を補充する機能を有し、好ましくは固体状の層である。正孔輸送層3は、好ましくは第一電極1の感光層13と第二電極2の間に設けられる。
【0121】
正孔輸送層3を形成する正孔輸送材料は、特に限定されないが、CuI、CuNCS等の無機材料、および、特開2001−291534号公報の段落番号0209〜0212に記載の有機正孔輸送材料等が挙げられる。有機正孔輸送材料としては、好ましくは、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールおよびポリシラン等の導電性高分子、2個の環がC、Siなど四面体構造をとる中心原子を共有するスピロ化合物、トリアリールアミン等の芳香族アミン化合物、トリフェニレン化合物、含窒素複素環化合物または液晶性シアノ化合物が挙げられる。
正孔輸送材料は、溶液塗布可能で固体状になる有機正孔輸送材料が好ましく、具体的には、2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9−スピロビフルオレン(Spiro−OMeTADともいう)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)、4−(ジエチルアミノ)ベンゾアルデヒド ジフェニルヒドラゾン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等が挙げられる。
【0122】
正孔輸送層3の膜厚は、特に限定されないが、50μm以下が好ましく、1nm〜10μmがより好ましく、5nm〜5μmがさらに好ましく、10nm〜1μmが特に好ましい。
【0123】
<電子輸送層4>
本発明の光電変換素子は、光電変換素子10Eのように、第一電極1と第二電極2との間に電子輸送層4を有することも好ましい態様の1つである。この態様においても、化合物層5と電子輸送層4とが接触(積層)していると、化合物ACの上記作用が効果的に得られる。
電子輸送層4は、電子の輸送先が第二電極である点、および、形成される位置が異なること以外は、上記電子輸送層15と同じである。
【0124】
<第二電極2>
第二電極2は、太陽電池において正極または負極として機能する。第二電極2は、導電性を有していれば特に限定されず、通常、導電性支持体11と同じ構成とすることができる。強度が十分に保たれる場合は、支持体11aは必ずしも必要ではない。
第二電極2の構造としては、集電効果が高い構造が好ましい。感光層13に光が到達するためには、導電性支持体11と第二電極2との少なくとも一方は実質的に透明でなければならない。本発明の太陽電池においては、導電性支持体11が透明であって太陽光を支持体11a側から入射させるのが好ましい。この場合、第二電極2は光を反射する性質を有することがさらに好ましい。
【0125】
第二電極2を形成する材料としては、例えば、白金(Pt)、金(Au)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、インジウム(In)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスニウム(Os)、アルミニウム(Al)等の金属、上述の導電性の金属酸化物、炭素材料および伝導性高分子等が挙げられる。炭素材料としては、炭素原子同士が結合してなる、導電性を有する材料であればよく、例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等が挙げられる。
第二電極2としては、金属もしくは導電性の金属酸化物の薄膜(蒸着してなる薄膜を含む)、または、この薄膜を有するガラス基板もしくはプラスチック基板が好ましい。ガラス基板もしくはプラスチック基板としては、金もしくは白金の薄膜を有するガラス、または、白金を蒸着したガラスが好ましい。
【0126】
第二電極2の膜厚は、特に限定されず、0.01〜100μmが好ましく、0.01〜10μmがさらに好ましく、0.01〜1μmが特に好ましい。
【0127】
<その他の構成>
本発明では、第一電極1と第二電極2との接触を防ぐために、ブロッキング層14等に代えて、または、ブロッキング層14等とともに、スペーサーやセパレータを用いることもできる。
また、第二電極2と正孔輸送層3の間に正孔ブロッキング層を設けてもよい。
【0128】
<<太陽電池>>
本発明の太陽電池は、本発明の光電変換素子を用いて構成される。例えば図1図6に示されるように、外部回路6を設けて構成した光電変換素子10を太陽電池として用いることができる。第一電極1(導電性支持体11)および第二電極2に接続される外部回路は、公知のものを特に制限されることなく、用いることができる。
本発明の太陽電池は、構成物の劣化および蒸散等を防止するために、側面をポリマーや接着剤等で密封することが好ましい。
【0129】
上述したように、本発明の光電変換素子および太陽電池は、上記式(AC)で表される化合物を表面に有する第一電極を備えており、優れた耐久性を示す。
【0130】
<<光電変換素子および太陽電池の製造方法>>
本発明の光電変換素子および太陽電池は、公知の製造方法、例えば非特許文献1等に記載の方法によって製造できる。
以下に、本発明の光電変換素子および太陽電池の製造方法を簡単に説明する。
【0131】
本発明の光電変換素子および太陽電池の製造方法(以下、本発明の製造方法という)は、上記式(1)で表されるペロブスカイト化合物を光吸収剤として含む感光層を有する第一電極を、上記式(AC)で表される化合物を含有する液に接触させる工程を有していれば、その他の工程等は特に限定されない。
【0132】
本発明の製造方法においては、まず、導電性支持体11の表面に、所望により、ブロッキング層14、多孔質層12、電子輸送層15および正孔輸送層16の少なくとも一つを形成する。
【0133】
ブロッキング層14は、例えば、上記絶縁性物質またはその前駆体化合物等を含有する分散物を導電性支持体11の表面に塗布し、焼成する方法またはスプレー熱分解法等によって、形成できる。
【0134】
多孔質層12を形成する材料は、好ましくは微粒子として用いられ、さらに好ましくは微粒子を含有する分散物として用いられる。
多孔質層12を形成する方法としては、特に限定されず、例えば、湿式法、乾式法、その他の方法(例えば、Chemical Review,第110巻,6595頁(2010年刊)に記載の方法)が挙げられる。これらの方法において、導電性支持体11の表面またはブロッキング層14の表面に分散物(ペースト)を塗布した後に、100〜800℃の温度で10分〜10時間、例えば空気中で焼成することが好ましい。これにより、微粒子同士を密着させることができる。
焼成を複数回行う場合、最後の焼成以外の焼成の温度(最後以外の焼成温度)を、最後の焼成の温度(最後の焼成温度)よりも低い温度で行うのがよい。例えば、酸化チタンペーストを用いる場合、最後以外の焼成温度を50〜300℃の範囲内に設定することができる。また、最後の焼成温度を、100〜600℃の範囲内において、最後以外の焼成温度よりも高くなるように、設定することができる。支持体11aとしてガラス支持体を用いる場合、焼成温度は60〜500℃が好ましい。
多孔質層12を形成するときの、多孔質材料の塗布量は、多孔質層12の膜厚および塗布回数等に応じて適宜に設定され、特に限定されない。導電性支持体11の表面積1m当たりの、多孔質材料の塗布量は、例えば、0.5〜500gが好ましく、さらには5〜100gが好ましい。
【0135】
電子輸送層15または正孔輸送層16を設ける場合、それぞれ、後述する正孔輸送層3または電子輸送層4と同様にして、形成することができる。
【0136】
次いで、感光層13を設ける。
感光層13を設ける方法は、湿式法および乾式法が挙げられ、特に限定されない。本発明においては、湿式法が好ましく、例えば、吸収剤を含有する光吸収剤溶液に接触させる方法が好ましい。この方法においては、まず、感光層13を形成するための光吸収剤溶液を調製する。光吸収剤溶液は、上記ペロブスカイト化合物の原料であるMXとAXとを含有する。ここで、A、MおよびXは上記式(I)のA、MおよびXと同義である。この光吸収剤溶液において、MXとAXとのモル比は目的に応じて適宜に調整される。光吸収剤としてペロブスカイト化合物を形成する場合、AXとMXとのモル比は、1:1〜10:1であることが好ましい。この光吸収剤溶液は、AXとMXとを所定のモル比で混合した後に好ましくは加熱することにより、調製できる。この形成液は通常溶液であるが、懸濁液でもよい。加熱する条件は、特に限定されないが、加熱温度は30〜200℃が好ましく、60〜150℃がさらに好ましい。加熱時間は0.5〜100時間が好ましく、1〜3時間がさらに好ましい。溶媒または分散媒は後述するものを用いることができる。
次いで、調製した光吸収剤溶液を、その表面に感光層13を形成する層(光電変換素子10においては、多孔質層12、ブロッキング層14、電子輸送層15または正孔輸送層16のいずれかの層)の表面に接触させる。具体的には、光吸収剤溶液を塗布または浸漬することが好ましい。これにより、ペロブスカイト化合物が多孔質層12、ブロッキング層14、電子輸送層15または正孔輸送層16の表面に形成(堆積または吸着等)される。接触させる温度は5〜100℃であることが好ましく、浸漬時間は5秒〜24時間であるのが好ましく、20秒〜1時間がより好ましい。塗布した光吸収剤溶液を乾燥させる場合、乾燥は熱による乾燥が好ましく、通常は、20〜300℃、好ましくは50〜170℃に加熱することで乾燥させる。
また、上記ペロブスカイト化合物の合成方法に準じて感光層を形成することもできる。
さらに、上記AXを含有するAX溶液と、上記MXを含有するMX溶液とを、別々に塗布(浸漬法を含む)し、必要により乾燥する方法も挙げられる。この方法では、いずれの溶液を先に塗布してもよいが、好ましくはMX溶液を先に塗布する。この方法におけAXとMXとのモル比、塗布条件および乾燥条件は、上記方法と同じである。この方法では、上記AX溶液および上記MX溶液の塗布に代えて、AXまたはMXを、蒸着させることもできる。
さらに他の方法として、上記光吸収剤溶液の溶剤を除去した化合物または混合物を用いた、真空蒸着等の乾式法が挙げられる。例えば、上記AXおよび上記MXを、同時または順次、蒸着させる方法も挙げられる。
これにより、光吸収剤が形成され、感光層13となる。
【0137】
本発明の製造方法においては、次いで、化合物ACを第一電極の表面に設ける。
化合物ACを第一電極の表面に設けるには、化合物ACを含有する液を用いる。この液は、液状の化合物ACそのものでもよく、また溶液でも懸濁液(分散液)でもよい。溶媒または分散媒は、特に限定されず、例えば、後述する溶媒または分散媒が挙げられ、イソプロパノールが好ましい。化合物ACの液中の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.01〜100質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
調製した液を第一電極の表面に接触させる方法は、特に限定されず、例えば、第一電極の表面に液を塗布する方法または第一電極を液中に浸漬する方法が挙げられる。塗布方法は、後述する各種方法が挙げられる。
塗布または浸漬の温度は、5〜100℃であることが好ましい。この範囲内であれば、ペロブスカイト層の構造を維持することができると考えられる。
浸漬時間は、0.1秒〜24時間が好ましく、5秒〜1時間がより好ましい。
塗布または浸漬後は、液を乾燥することが好ましい。乾燥条件は、特に限定されない。乾燥温度は、例えば、20〜200℃が好ましく、25〜120℃がより好ましい。乾燥時間は、例えば、1分〜10時間が好ましく、5分〜1時間がより好ましい。
【0138】
この工程における、化合物ACの塗布量としては、化合物ACの種類等に応じて適宜に定められ、特に限定されない。本発明においては、第一電極の表面の少なくとも一部が上記存在量の化合物AC(化合物層5)で覆われるように、定められる。
【0139】
このようにして化合物層を形成した第一電極上に、好ましくは、正孔輸送層3または電子輸送層4を形成する。
正孔輸送層3は、正孔輸送材料を含有する正孔輸送材料溶液を塗布し、乾燥して、形成することができる。正孔輸送材料溶液は、塗布性に優れる点、および多孔質層12を有する場合は多孔質層12の孔内部まで侵入しやすい点で、正孔輸送材料の濃度が0.1〜1.0M(モル/L)であるのが好ましい。
電子輸送層4は、電子輸送材料を含有する電子輸送材料溶液を塗布し、乾燥して、形成することができる。
【0140】
正孔輸送層3または電子輸送層4を形成した後に、第二電極2を形成して、光電変換素子が製造される。
【0141】
各層の膜厚は、各分散液または溶液の濃度、塗布回数を適宜に変更して、調整できる。例えば、膜厚が厚い感光層13Bおよび13Cを設ける場合には、光吸収剤溶液を複数回塗布、乾燥すればよい。
【0142】
上述の各分散液および溶液は、それぞれ、必要に応じて、分散助剤、界面活性剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0143】
光電変換素子および太陽電池の製造方法に使用する溶媒または分散媒としては、特開2001−291534号公報に記載の溶媒が挙げられるが、特にこれに限定されない。本発明においては、有機溶媒が好ましく、さらに、アルコール溶媒、アミド溶媒、ニトリル溶媒、炭化水素溶媒、ラクトン溶媒、ハロゲン溶媒、スルフィド溶媒、および、これらの2種以上の混合溶媒が好ましい。混合溶媒としては、アルコール溶媒と、アミド溶媒、ニトリル溶媒または炭化水素溶媒から選ばれる溶媒との混合溶媒が好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、γ−ブチロラクトン、n−プロピルスルフィド、クロロベンゼン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)もしくはジメチルアセトアミド、または、これらの混合溶媒が好ましい。
【0144】
各層を形成する溶液または分散剤の塗布方法は、特に限定されず、スピンコート、エクストルージョンダイコート、ブレードコート、バーコート、スクリーン印刷、ステンシル印刷、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、ディップコート、インクジェット印刷法、浸漬法等、公知の塗布方法を用いることができる。なかでも、スピンコート法、スクリーン印刷法、浸漬法等が好ましい。
【0145】
本発明の光電変換素子は、必要に応じて、アニール、ライトソーキング、酸素雰囲気下での放置等の効率安定化処理を行ってもよい。
【0146】
上記のようにして作製した光電変換素子は、第一電極1(透明電極11b)および第二電極2に外部回路6を接続して、太陽電池として用いることができる。
【実施例】
【0147】
以下に実施例に基づき本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0148】
合成例
下記実施例に用いる各化合物AC、チオフェンおよびピリジンを準備した。
入手できない化合物ACについては、下記文献に記載された方法に準拠して、合成した。
例えば、下記化合物の合成に参考にした文献を以下に示す。
化合物AC−3およびAC−11:tetrahedron,2013,vol69,No.38,p.8191−8198
化合物AC−5:Organic Letters,2011,vol.13,No.20,p.5464−5467
化合物AC−14:Journal of Agricultural and Food Chemistry,2009,vol.57,No.20,p.9607−9612
化合物AC−15:Organic and Biomolecular Chemistry,2014,vol.12,No.34,p.6661−6671
化合物AC−17:Organic Letters,2001,vol.3,No.19,2997−2999、および、Journal of Fluorine Chemistry,1990,vol.46,No.3,p.423−431
化合物AC−19:Tetrahedron Letters,2011,vol.52,No.38,p.4965−4966
化合物AC−22:European Journal of Organic Chemistry,2008,No.21,p.3668−3672
化合物AC−23:Heterocycles,1997,vol.46,No.1,209−214、および、Chemical Communications,2005,No.26,p.3295−3297
【0149】
実施例1
(光電変換素子(試料番号101)の製造)
以下に示す手順により、図1に示される光電変換素子10Aを製造した。なお、感光層13の膜厚が大きい場合は、図2に示される光電変換素子10Bに対応することになる。
【0150】
<導電性支持体11の作製>
ガラス基板(支持体11a、厚さ2mm)上にフッ素ドープされたSnO導電膜(透明電極11b、膜厚300nm)を形成し、導電性支持体11を作製した。
【0151】
<ブロッキング層用溶液の調製>
チタニウム ジイソプロポキシド ビス(アセチルアセトナート)の15質量%イソプロパノール溶液(アルドリッチ社製)を1−ブタノールで希釈して、0.02Mのブロッキング層用溶液を調製した。
【0152】
<ブロッキング層14の形成>
調製した0.02Mのブロッキング層用溶液を用いてスプレー熱分解法により、450℃にて、導電性支持体11のSnO導電膜上に酸化チタンからなるブロッキング層14(膜厚50nm)を形成した。
【0153】
<酸化チタンペーストの調製>
酸化チタン(アナターゼ、平均粒径20nm)のエタノール分散液に、エチルセルロース、ラウリン酸およびテルピネオールを加えて、酸化チタンペーストを調製した。
【0154】
<多孔質層12の形成>
調製した酸化チタンペーストをブロッキング層14の上にスクリーン印刷法で塗布し、空気中、500℃で3時間焼成した。その後、得られた酸化チタンの焼成体を、40mMのTiCl水溶液に浸した後、60℃で1時間加熱し、続けて500℃で30分間加熱して、TiOからなる多孔質層12(膜厚250nm)を形成した。
【0155】
<感光層13Aの形成>
メチルアミンの40%メタノール溶液(27.86mL)と57質量%のヨウ化水素の水溶液(ヨウ化水素酸、30mL)をフラスコ中、0℃で2時間攪拌した後、濃縮して、CHNHIの粗体を得た。得られたCHNHIの粗体をエタノールに溶解し、ジエチルエーテルで再結晶し、得られた結晶をろ取し、60℃で5時間減圧乾燥して、精製CHNHIを得た。
次いで、精製CHNHIとPbIとをモル比3:1でDMF中、60℃で12時間攪拌混合した後、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シリンジフィルターでろ過して、40質量%の光吸収剤溶液Aを調製した。
調製した光吸収剤溶液Aを導電性支持体11上に成膜した多孔質層12上に、スピンコート法(2000rpmで60秒)により塗布した後、塗布した光吸収剤溶液Aをホットプレートにより100℃で60分間乾燥し、CHNHPbIのペロブスカイト化合物からなる感光層13A(膜厚300nm(多孔質層12の膜厚250nmを含む))を設けた。
こうして第一電極1Aを作製した。
【0156】
<化合物層5Aの形成>
次いで、25mm角の第一電極1Aの表面に、化合物AC−1の0.1質量%イソプロパノール溶液80μLを、スピンコート法(3000rpmで30秒)により塗布した後、塗布した溶液をホットプレートにより100℃で30分間乾燥した。こうして化合物層5Aを形成した。
ここで、化合物AC−1を含有するイソプロパノール溶液を塗布した第一電極1Aの表面を上記のようにしてHPLCを用いて確認したところ、感光層13Aの表面に化合物AC−1が1.8mg/m存在していた。
【0157】
<正孔輸送材料溶液の調製>
正孔輸送材料としてのspiro−OMeTAD(180mg)をクロロベンゼン(1mL)に溶解させた。このクロロベンゼン溶液に、リチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(170mg)をアセトニトリル(1mL)に溶解させたアセトニトリル溶液37.5μLと、t−ブチルピリジン(TBP、17.5μL)とを加えて混合し、正孔輸送層用溶液を調製した。
【0158】
<正孔輸送層3Aの形成>
次いで、第一電極1Aの表面上に形成した化合物層5A上に、調製した正孔輸送層用溶液をスピンコート法により塗布、乾燥して、固体状の正孔輸送層3A(膜厚100nm)を成膜した。
【0159】
<第二電極2の作製>
正孔輸送層3A上に蒸着法により金を蒸着して、第二電極2(膜厚100nm)を作製した。
こうして、光電変換素子10A(試料番号101)を製造した。
各膜厚は、上記方法に従って、SEMにより観察して、測定した。
【0160】
(光電変換素子(試料番号102〜119、c01およびc02)の製造)
光電変換素子(試料番号101)の製造において、化合物AC−1に代えて下記表1の「式(AC)で表される化合物」欄に記載の化合物それぞれを含有するイソプロパノール溶液を用いたこと、または、化合物AC−1を含有するイソプロパノール溶液を塗布しなかった(試料番号c02)こと以外は、光電変換素子(試料番号101)の製造と同様にして、本発明の光電変換素子(試料番号102〜104、107、109、111〜117、119)、参考例の光電変換素子(試料番号105、106、108、110および118)、ならびに、比較のための光電変換素子(試料番号c01およびc02)をそれぞれ製造した。
試料番号102〜119について、化合物層5Aを形成した後に、第一電極1Aの表面に各化合物ACが存在していることを、確認した。
【0161】
(光電変換素子(試料番号120)の製造)
光電変換素子(試料番号101)の製造において、化合物AC−1に代えて化合物AC−2を用い、かつ光吸収剤溶液Aに代えて下記光吸収剤溶液Bを用いて下記方法により感光層13Aを形成したこと以外は光電変換素子(試料番号101)の製造と同様にして本発明の光電変換素子(試料番号120)を製造した。
化合物層5Aを形成した後に、第一電極1Aの表面に化合物AC−2が存在していることを、確認した。
<光吸収剤溶液Bの調製>
エチルアミンの40%エタノール溶液(36g)と57質量%のヨウ化水素の水溶液(ヨウ化水素酸、72g)とを、フラスコ中、0℃で2時間攪拌した後、濃縮して、CHCHNHIの粗体を得た。得られたCHCHNHIの粗体をエタノールに溶解し、ジエチルエーテルで再結晶した。析出した結晶をろ取し、60℃で12時間減圧乾燥して、精製CHCHNHIを得た。次いで、精製CHCHNHIとPbIを、モル比で2:1とし、DMF中、60℃で5時間攪拌して混合した後、PTFEシリンジフィルターでろ過して、40質量%の光吸収剤溶液Bを調製した。
多孔質層12上に、調製した光吸収剤溶液Bをスピンコート法(2000rpmで60秒)により塗布した後、塗布した光吸収剤溶液Bをホットプレートにより140℃で40分間乾燥し、(CHCHNHPbIのペロブスカイト化合物からなる感光層13A(膜厚300nm(多孔質層12の膜厚250nmを含む))を設けた。
【0162】
(光電変換素子(試料番号121)の製造)
光電変換素子(試料番号112)の製造において、光吸収剤溶液Aに代えて下記光吸収剤溶液Cを用いたこと以外は光電変換素子(試料番号112)の製造と同様にして本発明の光電変換素子(試料番号121)を製造した。
得られた感光層は、CHNHPBI(3−n)Cl(nは0.001〜2の数を表す。)で表されるペロブスカイト化合物を含有していた。
化合物層5Aを形成した後に、第一電極1Aの表面に化合物AC−15が存在していることを、確認した。
<光吸収剤溶液Cの調製>
メチルアミンの40%メタノール溶液(27.86mL)と57質量%のヨウ化水素の水溶液(ヨウ化水素酸、30mL)をフラスコ中、0℃で2時間攪拌した後、濃縮して、CHNHIの粗体を得た。得られたCHNHIの粗体をエタノールに溶解し、ジエチルエーテルで再結晶し、得られた結晶をろ取し、60℃で5時間減圧乾燥して、精製CHNHIを得た。次いで、精製CHNHIとPbClとをモル比で、3:1でDMF中、60℃で12時間攪拌混合した後、PTFEシリンジフィルターでろ過して、40質量%の光吸収剤溶液Cを調製した。
【0163】
(光電変換素子(試料番号c03)の製造)
光電変換素子(試料番号121)の製造において、化合物AC−15を含有するイソプロパノール溶液を塗布しなかったこと以外は光電変換素子(試料番号121)の製造と同様にして比較のための光電変換素子(試料番号c03)を製造した。
【0164】
(光電変換素子(試料番号c04)の製造)
光電変換素子(試料番号121)の製造において、化合物AC−15に代えてピリジンを含有するイソプロパノール溶液を用いたこと以外は光電変換素子(試料番号121)の製造と同様にして比較のための光電変換素子(試料番号c04)を製造した。
【0165】
<耐久性の評価>
各試料番号の光電変換素子を上記製造方法と同様にして10検体製造した。10検体それぞれについて、電池特性試験を行って、電流を測定した。そして、その10検体の平均値を各試料番号の光電変換素子の初期の電流とした。電池特性試験は、ソーラーシミュレーター「WXS−85H」(WACOM社製)を用いて、AM1.5フィルタを通したキセノンランプから1000W/mの擬似太陽光を照射することにより行った。I−Vテスターを用いて電流−電圧特性を測定した。
次いで、各試料番号の10検体それぞれを、湿度50RH%、温度30℃の恒温恒湿槽に30時間静置してから、上記と同様にして電池特性試験を行って、電流を測定した。10検体の平均値を各試料番号の光電変換素子の、静置後の電流とした。
光電変換素子の耐久性は、下記式によって算出される電流の低下率から、下記評価基準に沿って評価した。耐久性の評価基準において、「C」以上が本試験の合格レベルである。結果を下記表1に示す。

低下率(%)=[(初期の電流−静置後の電流)/(初期の電流)]×100

− 耐久性評価基準 −
A : 低下率が20%未満
B+: 低下率が20%以上24%未満
B : 低下率が24%以上28%未満
C+: 低下率が28%以上32%未満
C : 低下率が32%以上36%未満
D+: 低下率が36%以上40%未満
D : 低下率が40%以上
【0166】
【表1】
【0167】
表1の結果から以下のことがわかる。
すなわち、ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた光電変換素子であっても、第一電極の表面に化合物AC(化合物層)を有する本発明の光電変換素子は、いずれも、電流の低下率が小さく、優れた耐久性を示した。
このような優れた耐久性は、アニオン性原子として塩素原子およびヨウ素原子の2種を含有するペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた光電変換素子においても、得られた。
特に、式(AC)のnが0であり、かつRACがハロゲン原子、炭素数5以上のアルキル基、または、ハロゲン原子を有する基(ハロゲン化アルキル基)であると、耐久性の改善効果が大きかった。また、式(AC)のnが0であり、かつZが酸素原子であると、なかでも式(AC)の環AACがフラン環であると、耐久性の改善効果がさらに大きくなった。
これに対して、ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた光電変換素子であって、第一電極の表面をチオフェンまたはピリジンで処理した光電変換素子(試料番号c01およびc04)と、第一電極の表面に特定の化合物ACを有しない光電変換素子(試料番号c02およびc03)とは、いずれも、電流の低下率が大きく、耐久性が十分ではなかった。
【0168】
実施例2
(光電変換素子(試料番号201)の製造)
以下に示す手順により、実施例1と同様に図1に示される光電変換素子10Aを製造した。
光電変換素子(試料番号112)の製造において、光吸収剤溶液Aに代えて下記光吸収剤溶液Dを用いて下記方法により感光層13Aを形成したこと以外は光電変換素子(試料番号112)の製造と同様にして本発明の光電変換素子(試料番号201)を製造した。
化合物層5Aを形成した後に、第一電極1Aの表面に化合物AC−15が存在していることを、確認した。
<光吸収剤溶液Dの調製>
メチルアミンの40%メタノール溶液(27.86mL)と57質量%のヨウ化水素の水溶液(ヨウ化水素酸、30mL)をフラスコ中、0℃で2時間攪拌した後、濃縮して、CHNHIの粗体を得た。得られたCHNHIの粗体をエタノールに溶解し、ジエチルエーテルで再結晶し、得られた結晶をろ取し、60℃で5時間減圧乾燥して、精製CHNHIを得た。次いで、精製CHNHIとPbIとSnIとをモル比2:0.9:0.1でγ−ブチロラクトン中、60℃で12時間攪拌混合した後、PTFEシリンジフィルターでろ過して、40質量%の光吸収剤溶液Dを調製した。
多孔質層12の上に、調製した光吸収剤溶液Dをスピンコート法(2000rpmで60秒、続けて3000rpmで60秒)により塗布した後、塗布した光吸収剤溶液Dをホットプレートにより100℃で80分間乾燥して、CHNHPb0.9Sn0.1のペロブスカイト化合物からなる感光層13Aを形成した。
【0169】
(光電変換素子(試料番号c21)の製造)
光電変換素子(試料番号201)の製造において、化合物AC−15を含有するイソプロパノール溶液を第一電極1Aの表面に塗布しなかったこと以外は光電変換素子(試料番号201)の製造と同様にして比較のための光電変換素子(試料番号c21)を製造した。
【0170】
<耐久性の評価>
このようにして製造した各試料番号の光電変換素子(10検体)それぞれについて、湿度10RH%、温度20℃の恒温恒湿容器に10時間静置したこと以外は実施例1の<耐久性の評価>と同様にして、耐久性を評価した。耐久性の評価基準において、「C」以上が本試験の合格レベルである。結果を表2に示す。
【0171】
【表2】
【0172】
表2の結果から明らかなように、金属原子としてスズと鉛の2種を含有するペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた光電変換素子においても、十分な耐久性が得られた。
一方、第一電極の表面に特定の化合物ACを有しない光電変換素子は耐久性が十分ではなかった。
【0173】
実施例3
(光電変換素子(試料番号301)の製造)
以下に示す手順により、図3に示される光電変換素子10Cを製造した。
光電変換素子(試料番号112)の製造において、多孔質層12を設けることなく、ブロッキング層14上に感光層13Cを設け、感光層13Cおよび正孔輸送層3Bの膜厚を下記膜厚にそれぞれ変更したこと以外は光電変換素子(試料番号112)の製造と同様にして本発明の光電変換素子10C(試料番号301)を製造した。
この光電変換素子10C(試料番号301)において、感光層13Cの膜厚は250nmであり、正孔輸送層3Bの膜厚さ100nmであった。
化合物層5Bを形成した後に、第一電極1Cの表面に化合物AC−15が存在していることを、確認した。
【0174】
(光電変換素子(試料番号c31)の製造)
光電変換素子(試料番号301)の製造において、化合物AC−15を含有するイソプロパノール溶液を第一電極1Cの表面に塗布しなかったこと以外は光電変換素子(試料番号301)の製造と同様にして比較のための光電変換素子(試料番号c31)を製造した。
【0175】
<耐久性の評価>
このようにして製造した各試料番号の光電変換素子(10検体)それぞれについて、実施例1の<耐久性の評価>と同様にして、耐久性を評価した。結果を表3に示す。
【0176】
【表3】
【0177】
表3の結果から明らかなように、ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた光電変換素子において、多孔質層を設けなくても、優れた耐久性を示すことが分かった。
一方、第一電極の表面に特定の化合物ACを有しない光電変換素子は耐久性が十分ではなかった。
【0178】
実施例4
(光電変換素子(試料番号401)の製造)
以下に示す手順により、図5に示される光電変換素子10Eを製造した。
<導電性支持体11の作製>
ガラス基板(支持体11a、厚さ2mm)上にスズドープ酸化インジウム膜(ITO、透明電極11b、膜厚300nm)を形成し、導電性支持体11を作製した。
<正孔輸送層16の形成>
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT−PSS)を水−イソプロピルアルコール(IPA)混合溶媒に溶解させ、正孔輸送層用溶液(PEDOT−PSSの濃度1質量%)を調製した。
導電性支持体11のITO膜11b上に、この正孔輸送層用溶液を、スピンコート法により塗布した後、ホットプレートにより120℃で30分間乾燥して、正孔輸送層16(膜厚50nm)を成膜した。
【0179】
<感光層13Cの形成>
形成した正孔輸送層16上に、溶媒をγ−ブチロラクトンに変更した以外は、光電変換素子(試料番号101)の製造における<感光層13Aの形成>と同様にして、CHNHPbIのペロブスカイト化合物からなる感光層13Cの形成(膜厚200nm)を設けた。こうして第一電極1Eを作製した。
【0180】
<化合物層5Bの形成>
次いで、第一電極1Eの表面に、化合物AC−15の0.1質量%イソプロパノール溶液を、スピンコート法(3000rpmで30秒)により塗布した後、塗布した溶液をホットプレートにより100℃で30分間乾燥した。こうして化合物層5Bを形成した。
ここで、イソプロパノール溶液の塗布量は実施例1の化合物AC−1の0.1質量%イソプロパノール溶液の塗布量と同じであった。また、化合物AC−15を含有するイソプロパノール溶液を塗布した第一電極1Eの表面を上記のようにして確認したところ、感光層13Cの表面に化合物AC−15が存在していた。
【0181】
<電子輸送層4の形成>
次いで、第一電極1Eの表面に、PC61BMのクロロベンゼン溶液(PC61BMの濃度1質量%)をスピンコート法(1500rpmで60秒)により塗布し電子輸送層4(膜厚50nm)を形成した。
【0182】
<第二電極2の作製>
電子輸送層4上に蒸着法によりアルミニウムを蒸着して、第二電極2(膜厚100nm)を作製した。
こうして、光電変換素子10E(試料番号401)を製造した。
【0183】
(光電変換素子(試料番号c41)の製造)
光電変換素子(試料番号401)の製造において、化合物AC−15を含有するイソプロパノール溶液を第一電極1Eの表面に塗布しなかったこと以外は光電変換素子(試料番号401)の製造と同様にして比較のための光電変換素子(試料番号c41)を製造した。
【0184】
<耐久性の評価>
このようにして製造した各試料番号の光電変換素子(10検体)それぞれについて、実施例1の<耐久性の評価>と同様にして、耐久性を評価した。結果を表4に示す。
【0185】
【表4】
【0186】
表4の結果から明らかなように、ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた光電変換素子において、導電性支持体11上に正孔輸送層16、感光層13C、化合物層5B、電子輸送層4および第二電極2をこの順で形成した構造としても、十分な耐久性を示すことが分かった。
一方、第一電極の表面に特定の化合物ACを有しない光電変換素子は耐久性が十分ではなかった。
【0187】
実施例5
(光電変換素子(試料番号501)の製造)
以下に示す手順により、正孔輸送層を備えていない光電変換素子(図6に示す光電変換素子10F参照)を製造した。
光電変換素子(試料番号112)の製造において、正孔輸送層3Aを設けることなく、第一電極(化合物層5)上に第二電極2を設けたこと以外は光電変換素子(試料番号112)の製造と同様にして本発明の光電変換素子(試料番号501)を製造した。
化合物層を形成した後に、第一電極の表面に化合物AC−15が存在していることを、確認した。
【0188】
(光電変換素子(試料番号c51)の製造)
光電変換素子(試料番号501)の製造において、化合物AC−15を含有するイソプロパノール溶液を第一電極1Fの表面に塗布しなかったこと以外は光電変換素子(試料番号501)の製造と同様にして比較のための光電変換素子(試料番号c51)を製造した。
【0189】
<耐久性の評価>
このようにして製造した各試料番号の光電変換素子(10検体)それぞれについて、湿度30RH%、温度20℃の恒温恒湿容器に20時間静置したこと以外は実施例1の<耐久性の評価>と同様にして、耐久性を評価した。結果を表5に示す。
【0190】
【表5】
【0191】
表5の結果から明らかなように、ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた光電変換素子において、正孔輸送層を設けなくても、十分な耐久性を示すことが分かった。
一方、第一電極の表面に特定の化合物ACを有しない光電変換素子は耐久性が十分ではなかった。
【0192】
以上のように、ペロブスカイト化合物を光吸収剤として用いた光電変換素子であっても、第一電極の表面に化合物AC(化合物層)を設けると、優れた耐久性を示すことが分かった。
【0193】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0194】
本願は、2015年3月9日に日本国で特許出願された特願2015−046440に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0195】
1A〜1F 第一電極
11 導電性支持体
11a 支持体
11b 透明電極
12 多孔質層
13A〜13C 感光層
14 ブロッキング層
2 第二電極
3A、3B、16 正孔輸送層
4、15 電子輸送層
5A〜5C 化合物層
6 外部回路(リード)
10A〜10F 光電変換素子
100A〜100F 太陽電池を利用したシステム
M 電動モーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6