特許第6413047号(P6413047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6413047ポリシリコン破砕物の付着樹脂の分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6413047
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】ポリシリコン破砕物の付着樹脂の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20181015BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   G01N33/00 A
   C01B33/02 E
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-530933(P2018-530933)
(86)(22)【出願日】2017年12月14日
(86)【国際出願番号】JP2017044936
【審査請求日】2018年6月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-244778(P2016-244778)
(32)【優先日】2016年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】滑川 真人
(72)【発明者】
【氏名】武本 美貴枝
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−266650(JP,A)
【文献】 特開2016−056066(JP,A)
【文献】 特開2013−170122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00
C01B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシリコン破砕物より有機揮発成分を除去した後、不活性ガスの流通下、該ポリシリコン破砕物の温度を上昇せしめ、上記加熱温度において発生する樹脂分解物を捕集して、該樹脂分解物に含まれる前記樹脂固有の分解物を分析することにより、前記ポリシリコン破砕物の付着樹脂の種類を特定することを特徴とするポリシリコン破砕物の表面不純物の分析方法。
【請求項2】
前記有機揮発成分の除去を、180℃以上、該ポリシリコン破砕物の製造工程においてポリシリコンとの接触が想定される樹脂の分解開始温度未満の温度に維持して行う請求項1記載の分析方法。
【請求項3】
前記ポリシリコン破砕物の温度の上昇を樹脂分解開始温度に応じて段階的に行う、請求項1又は請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記樹脂固有の分解物についてそれぞれ検量線を作成し、該検量線に基づいて前記付着樹脂毎の付着量を定量する請求項1〜3のいずれか一項に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシリコン破砕物の表面に付着する樹脂の分析方法に関する。詳しくは、ポリシリコン破砕物の付着樹脂を高い感度で定性、更には、高い精度で定量することが可能な分析方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコンは、半導体デバイス等の製造に必要なシリコン単結晶育成用の原料として用いられており、その純度に関する要求は高まっている。
【0003】
多結晶シリコンは、多くの場合シーメンス法によって製造される。シーメンス法とはトリクロロシラン等のシラン原料ガスを加熱されたシリコン芯棒に接触させることにより芯棒表面に多結晶シリコンを気相成長させる方法である。シーメンス法で製造される多結晶シリコンは、ロッド状で得られる。このロッド状の多結晶シリコンは直径が80〜150mm、長さが1000mm以上の大きさである。そのため、このロッド状の多結晶シリコンを他工程、例えばCZ法によるシリコン単結晶育成設備にて使用とする場合には、所定の長さのロッドに切断したり、適当な塊状に破砕したりされる。これらポリシリコン破砕物は必要に応じて篩等により分類される。その後表面に付着する金属汚染物を取り除く為に、洗浄工程、例えば通常、フッ化水素酸、又はフッ化水素酸と硝酸とを含む酸性溶液と多結晶シリコンとを接触させる等の方法を経て、梱包工程にて高純度の梱包袋に詰めて出荷されている。
【0004】
ところで、上記ポリシリコン破砕物の製造工程において、その表面は種々の金属汚染物のみならず、有機系の不純物が付着することがある。例えば、上記破砕工程においてハンドリングする際には樹脂製の手袋、例えばポリ塩化ビニル、ニトリルゴム、ポリエチレン、ポリウレタン等が用いられる。またポリシリコンを所定の大きさに分類する篩にはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が使用される。
【0005】
また、上記洗浄工程においてはポリシリコン破砕物をフッ化水素酸と硝酸とを含む酸性溶液に浸漬させる為の容器として、耐薬品性の高い樹脂製の部材、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、PTFE、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が用いられる。
【0006】
更に、上記梱包工程においては樹脂製の手袋、例えばポリ塩化ビニル、ニトリルゴム、ポリエチレン、ポリウレタンが用いられる。梱包袋としては例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンが用いられる。これらがポリシリコン破砕物と接触し樹脂が付着する可能性がある。
【0007】
従って、得られるポリシリコン破砕物について、付着樹脂の特定を行うことができれば、汚染源が特定でき、かかる汚染源に対して付着防止のための改善を行うことが可能となる。
【0008】
上記要求に対して課題は異なるが、多結晶シリコンロッドを破砕して得られたポリシリコン破砕物を、不活性ガス雰囲気中で、350〜600℃の温度で熱処理し、発生する二酸化炭素を赤外フロー測定セルに導入し、付着する全ての炭素量を測定する方法がある(特許文献1参照)。かかる方法は、炭素量の定量方法であるため、樹脂の種類及び付着樹脂量を特定することはできない。
【0009】
一方、ポリシリコン破砕物を、不活性ガス雰囲気中で熱処理してその表面を清浄化する方法において、180〜350℃の熱処理温度にて、発生するガスを吸着剤にて吸着させた後、吸着剤を加熱し離脱した成分をGC−MS(四重極質量分析型のガスクロマトグラフィー)に導入し、成分の定性分析を行った結果が報告されている(特許文献2参照)。
【0010】
しかしながら、上記定性分析結果は、多量に付着する樹脂成分に関しての検出は容易であるが、微量の樹脂成分に関しては、検出感度の点において改良の余地がある。また、製品であるポリシリコン破砕物の清浄化処理であるため、加熱温度に350℃という上限があり、ポリシリコンの製造工程で使用される可能性が高い、フッ素樹脂、PEEKなど、上記温度を超える分解開始温度を有する樹脂についての分析は全く意識されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013−170122号公報
【特許文献2】特開2016−56066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、従来技術では把握することができなかったポリシリコン破砕物の表面に付着する樹脂の種類を高感度で特定し、更に、必要に応じて、それぞれの樹脂について、付着量を高い精度で定量することができる分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記目的を達成する為に鋭意研究した。その結果、以下の知見を得た。即ち、ポリシリコン破砕物を製造する工程はPTFE膜を有するクリーンルーム用フィルターを有するクリーンルーム内環境下で行われるが、一般に、クリーンルームの隔壁、カーテン、間仕切り、床材にはポリ塩化ビニル、エポキシ等の樹脂が使用される。そして、上記樹脂には可塑剤・滑剤・溶剤・着色剤など複数の添加剤が含まれており、そのうち揮発性を有するもの(以下、有機揮発成分ともいう)は、比較的低温にて大気中に徐々に放出されると考えられる。大気中に浮遊する有機揮発成分はこれらフィルターでは除去できない為、ポリシリコン破砕物の表面に付着する。そのため、前記ポリシリコン破砕物を加熱して付着樹脂を分解せしめ、その分解物を分析して付着樹脂を特定しようとした場合、上記有機揮発成分が同時に揮発し、これがノイズとして働き、特に、微量で付着している樹脂の特定に悪影響を及ぼすという知見を得た。そこで、ポリシリコン破砕物表面に付着する前記有機揮発成分を予め除去することで、製造工程にて付着した樹脂由来の分解物を精度良く検出することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、ポリシリコン破砕物より有機揮発成分を除去した後、不活性ガスの流通下、該ポリシリコン破砕物の温度を上昇せしめ、上記加熱温度において発生する樹脂分解物を捕集して、該樹脂分解物に含まれる前記樹脂固有の分解物を分析することにより、前記ポリシリコン破砕物の付着樹脂の種類を特定することを特徴とするポリシリコン破砕物の表面有機不純物の分析方法を提供するものである。
【0015】
上記本発明において、有機揮発成分の除去は、180℃以上、該ポリシリコン破砕物の製造工程においてポリシリコンとの接触が想定される樹脂の分解開始温度未満の温度に維持して行うことが、有機揮発成分の除去を確実に行うために好ましい。
【0016】
また、有機揮発成分の除去後のポリシリコン破砕物の温度の上昇は、段階的に行い、各加熱温度が、該ポリシリコン破砕物の製造工程においてポリシリコンとの接触が想定される樹脂の分解開始温度以上、800℃以下の温度範囲で、樹脂の分解開始温度に応じて段階的に上昇させることが、付着樹脂固有の分解物を確実に検出することができるため、好ましい。
【0017】
更に、前記樹脂固有の分解物についてそれぞれ検量線を作成し、該検量線に基づいて前記付着樹脂毎の付着量を算出することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、ポリシリコン破砕物の表面に付着する樹脂の種類をより精度よく特定することができ、また、上記樹脂の種類毎に付着樹脂量を正確に求めることが可能となる。
【0019】
従って、ポリシリコン破砕物の製造工程において、どの工程において樹脂による汚染があり、更には、その汚染の程度がどのくらいかを、得られるポリシリコン破砕物の分析によって正確に推定することが可能となり、製造工程の管理、改善において、極めて重要な情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ポリシリコン破砕物を250℃に昇温した際に発生する有機揮発成分についてのGC/MS装置によるクロマトグラムチャート
図2】ポリエチレンを250℃から450℃に昇温した際に発生する樹脂分解物についてのGC/MS装置によるクロマトグラムチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
(ポリシリコン破砕物)
本発明において、分析の対象となるポリシリコン破砕物は、シーメンス法にて製造されたロッド状の多結晶シリコンを破砕して得られるものであり、かかる破砕工程を含む、以下に示す代表的な処理工程、即ち、(a)破砕工程、(b)洗浄工程、(c)梱包工程のうち、任意の工程を経た状態のものを全て含む。
【0022】
そのうち、最終工程である梱包工程を経たポリシリコン破砕物に対して、本発明の分析方法を実施することが、製品管理を行う上で好ましい。
【0023】
(a)破砕工程:
多結晶シリコンは、シーメンス法や流動床法等で製造されるが、その中でもシーメンス法で得られる多結晶シリコンは、通常棒状で得られるため、例えば、単結晶シリコン製造用の坩堝に投入し易いよう、この棒状の多結晶シリコンは、必要に応じて切断された後、適当な大きさに破砕される。上記破砕は、例えば、ジョークラッシャー、ロールクラッシャーなどの破砕機で破砕したり、ハンマー又はタガネを用いて手作業で破砕したりすることにより、ポリシリコン破砕物に加工される。
【0024】
上記破砕により得られるポリシリコン破砕物の形状としては特に制限はないが、粉砕等を行った不定形(不均一な方面状態)の塊状物が一般的である。また、ポリシリコン破砕物の大きさは、破砕片における最大長で示される粒径が0.1〜20cm、好ましくは、1〜10cmのものが一般的である。また、上記破砕片は、粒径を調整する為に必要に応じて篩等により大きさを揃えたものでもよい。
【0025】
上記粉砕工程において、シリコン破砕物は、破砕機の樹脂カバー、破砕用台の樹脂カバー等の樹脂と接触し、汚染されるおそれがある。
【0026】
(b)洗浄工程:
破砕工程より得られたポリシリコン破砕物は、破砕時や取り扱い時に表面に付着する金属、油類等を除去してポリシリコン破砕物を清浄化する工程であり、公知の方法が特に制限無く採用される。例えば、酸液による酸洗工程と、その後の純水による水洗工程とを備えたものが挙げられる。酸洗工程では、予めポリシリコン破砕物を保持した洗浄カゴを、酸液を含む薬液槽に浸漬させることで、ポリシリコン破砕物の表面を溶解して汚染物質を除去する。酸洗工程で用いられる酸液としては、フッ化水素酸と硝酸との混合液が挙げられる。酸洗工程の後の水洗工程においては、超純水を使用することが好ましい。超純水で洗浄した後の多結晶シリコンは、送風乾燥(通気乾燥)により、乾燥させることが好ましく、この乾燥は80〜150℃の温度で、0.5〜24時間行うことが好ましい。
【0027】
上記洗浄工程において、シリコン破砕物は、洗浄カゴ、搬送コンベアの樹脂と接触し、汚染されるおそれがある。
【0028】
(c)梱包工程:
梱包工程は、ポリエチレンを代表とする樹脂製梱包材でポリシリコン破砕物を包装する工程であり、かかる包装方法も、公知の方法が特に制限無く採用される。例えば、梱包材として、ポリエチレン製の包装袋を使用し、これに、ポリシリコン破砕物を、手作業により、または、充填装置を使用して充填する方法が挙げられる。上記包装袋としては、平袋、ガゼット袋などの形状が一般に採用され、また、袋を二重とした二重袋構造などが好適に使用される。また、ポリシリコン破砕物と梱包材との擦れや破損を抑制する為に、上記包装体内を減圧もしくは真空とすることも好ましい態様である。梱包袋が二重による包装をしても良い。
【0029】
上記梱包工程において、シリコン破砕物は、包装袋などの梱包材、検査用手袋等の樹脂と接触し汚染されるおそれがある。
【0030】
また、前記破砕工程、洗浄工程、梱包工程は、通常、クリーンルーム内で行われるが、クリーンルーム内に僅かに存在する揮発性有機物、例えば、クリーンルーム内のポリ塩化ビニル製のカーテンや床材などから放出される添加剤によりポリシリコン破砕物が汚染される。
【0031】
(ポリシリコン破砕物に付着した樹脂の分析)
本発明の分析方法は、上記いずれかの工程において得られたポリシリコン破砕物より有機揮発成分を除去した後、不活性ガスの流通下、該ポリシリコン破砕物の温度を上昇せしめ、上記加熱温度において発生する樹脂分解物を捕集して、該樹脂分解物に含まれる前記樹脂固有の分解物を分析することにより、前記ポリシリコン破砕物の付着樹脂の種類を特定することにより実施される。
【0032】
本発明において、ポリシリコン破砕物に付着する樹脂の分解するに際し、上記有機揮発成分を事前に除去することが極めて重要である。
【0033】
即ち、有機揮発成分を事前に除去することにより、後の付着樹脂の熱分解により生成する分解物の分析において、有機揮発成分によるノイズをキャンセルすることができ、微量で付着している樹脂についても、確実にその分解物を検出することが可能となる。
【0034】
前記有機揮発成分の除去は、付着樹脂が分解しない温度条件下での加熱により行うことが好ましい。具体的には、180℃以上、前記ポリシリコン破砕物の製造工程において想定される樹脂の分解開始温度以下の温度に維持して、有機揮発成分を揮発せしめて除去する方法が好適である。
【0035】
上記有機揮発成分としては、シロキサン類、フタル酸エステル類が考えられ、これらの有機揮発成分の除去における加熱温度は、180℃以上とすることが、有機揮発成分効果的に除去するために好ましい。したがって、本発明における有機揮発成分とは、たとえば常圧250℃以下で気化する低分子量化合物を意味する。また、加熱温度の上限は、前記工程において、ポリシリコン破砕物への付着が予想される樹脂のうち、最も分解温度が低い樹脂の分解開始温度未満に設定される。したがって、加熱温度は、たとえば300℃以下であってもよく、280℃以下であってもよく、250℃以下でもよく、200℃以下でもよい。低温においては、有機揮発成分を除去するために、十分な時間保持する。本発明における有機揮発成分には、樹脂成分は含まれない。
【0036】
また、上記有機揮発成分を除去する際の加熱は、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが付着樹脂の燃焼を防止するために好ましい。そのうち、不活性ガスとしてはヘリウムが最も好ましい。
【0037】
前記有機揮発成分を除去する際の加熱に使用する装置としては、ポリシリコン破砕物を所定の温度に加熱する機構を有すると共に、気化した有機揮発成分を抽気することができる機構を有する炉が使用される。
【0038】
上記抽気は、前記不活性ガスをキャリアガスとして使用して行うことが好ましい。具体的には、外付けのヒーター、高周波加熱等の加熱手段を備え、不活性ガスの供給口、ガスの排出口を有する密閉炉が好適に使用される。
【0039】
また、ポリシリコン破砕物は、セッターに収容して前記炉にセットすればよい。セッターは、前記有機揮発成分の除去を行うための加熱温度、好ましくは、後段の樹脂の分解のための加熱温度においても安定な材質、例えば、石英、アルミナ等の耐熱性セラミックスよりなる。勿論、炉自体の材質に、上記素材を使用し、ポリシリコン破砕物を炉内に直接載置することも可能である。また、いずれの態様においても、セッターや炉は、分析における最高加熱温度以上の温度で事前に空焼きをしておくことが好ましい。
【0040】
尚、上記構造の装置は、後段の樹脂の分解のための加熱にも使用することができ、一般には、有機揮発成分の除去を行った後、継続して樹脂の分解温度への昇温が行われる。
【0041】
本発明において、有機揮発成分の除去のための加熱時間は、前記抽気されたガス中に有機揮発成分が実質的に存在しなくなるまでとすることが好ましく、一般には、30〜100分間が適当であり、250℃では60分以内が十分であり好ましい。このような加熱処理により、ポリシリコン破砕物に付着している有機揮発成分の90%以上が除去される。本発明では、有機揮発成分の除去率が高いほど感度は向上するため、有機揮発成分は好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上除去される。有機揮発成分の除去率は、以下の方法により求める。即ち、まず、ポリシリコン破砕物から採取した測定サンプルについて、180℃以上から樹脂の分解温度未満の温度範囲で、有機揮発成分が発生しなくなるまで加熱し、この間に発生した有機揮発成分を吸着剤に吸着させる。その後、吸着剤を加熱して離脱した成分をGC/MS装置にて測定し、得られたクロマトグラムから有機揮発成分のピーク面積の合計し、測定サンプルに付着している全有機揮発成分のピーク面積値(Aall)を求める。次いで、ポリシリコン破砕物から他の測定サンプルを同量採取し、これを有機揮発成分の除去のための加熱処理を施し(n時間)、その時に発生する有機揮発成分について、上記と同様にして、加熱により除去された有機揮発成分のピーク面積値(An)を求め、An/Aallから、有機揮発成分の除去率を求める。

この際に、時間と有機揮発成分のピーク面積値とを記録し、加熱温度毎に任意の時間における有機揮発成分のピーク面積値を求める検量線を作成しておき、加熱温度と加熱時間から、有機揮発成分の除去率を見積もることが好ましい。また、実際の操業においては、有機揮発成分のピークが検出されなくなるまでの条件を予め求めておき、その条件に準じて、有機揮発成分の除去を行っても良い。
【0042】
図1に、ポリシリコン破砕物を250℃に昇温させ、発生する有機揮発成分を吸着剤に吸着させ、その後吸着剤を加熱して脱離した成分をGC/MS(四重極質量分析型のガスクロマトグラフィー)装置に導入し、定性分析を行った際の、クロマトグラムチャートの一例を示す。上記チャートに示すように、多くの種類の有機揮発成分がポリシリコン破砕物表面に存在することが判る。
【0043】
本発明において、有機揮発成分を除去されたポリシリコン破砕物は、次いで、不活性ガスの流通下、該ポリシリコン破砕物の温度を上昇せしめ、かかる加熱温度において発生する樹脂分解物を捕集する。
【0044】
上記加熱温度は、ポリシリコン破砕物の製造工程において想定される樹脂の分解開始温度以上かつ、発生する樹脂分解物が更に変性しない温度未満に設定すればよい。一般には分解開始温度より25〜100℃高い温度に、段階的に設定することが好ましい。
【0045】
例えば、ポリシリコン破砕物の製造工程においてポリシリコン破砕物が接触する可能性があると想定される樹脂として、製造工程を調査した結果、以下の表1に示す樹脂が挙げられた場合、各樹脂の分解開始温度は、表1に示すようになる。
【0046】
【表1】
【0047】
このように、加熱温度については、測定する対象の其々の樹脂の種類、樹脂分解温度により適宜設定され、其々の樹脂に応じた加熱温度を設定することで、精度の高い測定が可能となる。
【0048】
前記加熱温度における加熱時間は、該温度において、樹脂の分解物の発生が実質的に無くなるまで行うことが、定量を正確に行うために好ましい。かかる時間は、予め実験を行い適宜決定することが好ましい。本発明者らの確認によれば、上記加熱時間は、30分以上行えばよく、特に60分であれば十分である。
【0049】
本発明において、上記加熱温度で得られる樹脂分解物は、ガスとして回収して捕集し、含まれる前記樹脂固有の分解物を分析する。
【0050】
上記樹脂分解物の抽気は、前記不活性ガスをキャリアとして使用し、樹脂分解物をガスとして取り出し、これを吸着剤により捕集して分析に供する。
【0051】
上記分解物の捕集に使用する吸着剤としては、対象の樹脂により適宜使用できる。非制限的な具体例として、ポリマー系吸着剤、例えばTenax TAの他に、カーボン系の吸着剤、例えばCarboxen 1000(商品名:Sigma−aldrich社製)や、Carbosieve SIII(商品名:Sigma−aldrich社製)、活性炭を使用しても良い。また、有機揮発成分を吸着する吸着剤と、樹脂分解物を吸着する吸着剤は同じでも良いし、上記記載の吸着剤から適宜選択しても良い。
【0052】
また、該カラムについては、測定する樹脂により適宜選択して使用でき、例えば、ポリシロキサン系の固定相を有するキャピラリーカラム、例えばZB−1MS(商品名:Agilent製)や、シリカ粒子系のプロットカラム、例えばGC−GasPro(商品名:Phenomenex製)を使用することができる。また、カラムの長さは上記樹脂分解物が分離できればよく、20〜60mがより好ましく、30m以上であればより好ましい。
【0053】
本発明において、前記樹脂の分解物を前記吸着剤から脱着し、分析する方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、吸着剤を加熱して脱着した樹脂分解物を、GC装置内の冷却した二次吸着剤に濃縮捕集して、二次吸着剤の加熱脱着後にカラムに導入する方法が一般的である。
【0054】
本発明において、前記加熱温度毎に得られる樹脂分解物の分析結果より、前記ポリシリコン破砕物の付着樹脂の種類を特定する。
【0055】
以下の表2は、代表的な樹脂固有の分解物を示すものであり、前記分析により特定された化合物と下記の樹脂固有の分解物を照合することにより、ポリシリコン破砕物に付着している樹脂を特定することができる。他の樹脂についても、予め分解試験を行うことで、同様に分解物から、付着樹脂を特定できる。
【0056】
そして、上記結果に基づき、ポリシリコン破砕物の製造工程において調査した樹脂の種類とその樹脂が存在する箇所を特定することにより、汚染源を知ることができ、かかる汚染源に対して、ポリシリコン破砕物への樹脂付着に対して、適切な改善を採ることができる。
【0057】
【表2】
【0058】
本発明によれば、それぞれの樹脂の定量に好ましい分解物は、ポリエチレンが1−ペンタデセン、ポリウレタンが2−イソシアネート−1,3−ビス(1−メチルエチル)ベンゼン、ポリプロピレンが2,4−ジメチル−1−ヘプテン、PTFEがヘキサフルオロプロペン、PVDFが1,3,5−トリフルオロベンゼン、PEEKがジフェニルエーテルである。したがって、これらの分解物に基づいて検量線を作成することが好ましい。実施例においては、これら分解物に基づいて検量線を作成している。
【0059】
本発明の分析方法において、上記ポリシリコン破砕物への付着樹脂の種類を特定することに加えて、その付着量をも測定することが可能である。
【0060】
例えば、以下の方法により、各樹脂について、固有の特徴的な分解物についての検量線を作成し、該検量線に基づき、付着樹脂量を求めることができる。
【0061】
1)定量対象の樹脂について、分取が可能な量(一般には、1〜300μg)で、2以上の任意の分量、例えば、10μg、100μg、200μgで定量して試料を準備する。
【0062】
2)前記樹脂試料をヘリウム雰囲気下、前記樹脂の分解温度に加熱し、樹脂の全量を分解せしめ、分解物の全量を捕集剤に捕集する。
【0063】
3)捕集剤をGC/MS分析にかけ(例:GC条件 カラム:ZB−1MS、キャリアガス:He、流量:1mL/min、オーブン:40℃(5 分間保持)→10℃/分→280℃。MS条件 イオン源温度230℃、イオン化モード:EI、イオン化電圧70eV)、クロマトグラフのチャートを得る。
【0064】
図2は、樹脂としてポリエチレンを200μg秤量し、250℃から450℃に昇温した際の発生する樹脂分解物を吸着剤に吸着させ、その後吸着剤を加熱して離脱した成分をGC/MS装置にて測定したクロマトグラムの一例である。
5)クロマトグラフのチャートより、樹脂に特徴的な分解物のピーク面積値を求める。
6)前記重量の異なる樹脂試料について、上記測定をそれぞれ行い、上記樹脂に特徴的な分解物のピーク面積値を求める。
7)「樹脂重量」と「特徴的な分解物のピーク面積値」のグラフを作り、切片を持たない線形近似式から傾きとRを求める。なお、Rは決定係数であり、標本値から求めた線形近似式のあてはまりの良さの尺度として利用される。
8)Rが0.9未満であれば、Rが0.9以上になるまで樹脂試料の重量を変えて前記操作を行うことによりプロットを増やし、検量線を得る。
【0065】
(定量の正確性の確認)
前記の通り、本発明の方法によれば、ポリシリコン破砕物の表面に付着する樹脂の種類をより感度よく特定することができ、また、上記樹脂の種類毎に付着樹脂量を正確に求めることが可能となる。そこで、定量の正確性を確認する為に以下の検討を行った。
【0066】
シーメンス法にて製造された直径150mm、長さ1000mmのロッド状の多結晶シリコンを、クリーンルーム内にて、シリコンにてライニングされた破砕台の上に乗せ、タングステンカーバイド製のハンマーにて破砕し、最大片長10mm〜100mmの破砕物を95重量%含むポリシリコン破砕物を得た。ハンドリングする際の手袋の材質をポリウレタンで使用した。得られたポリシリコン破砕物を20個、約500gを取出し更に上記破砕物に樹脂としてポリエチレン片をポリシリコン破砕物重量当たり100ppbwになるよう秤量し、ポリシリコン破砕物と共に加熱装置内の石英チャンバー内に保持した。
【0067】
上記ポリエチレン片を含むポリシリコン破砕物を250℃にて加熱し有機揮発成分を脱離させた後、250℃から450℃に昇温した際の発生する樹脂分解物を吸着剤に吸着させ、その後吸着剤を加熱して離脱した成分をGC/MS装置にて測定した。また、比較として上記ポリエチレン片を含むポリシリコン破砕物を、有機揮発成分を脱離させず直接450℃に昇温した際の発生する樹脂分解物を吸着剤に吸着させ、その後吸着剤を加熱して離脱した成分をGC/MS装置にて測定した。なお本操作は再現性を確認する為に其々の条件で5回行った。
【0068】
得られるピーク面積から、予め求めた検量線より、付着するポリエチレンの定量を行ったところ、有機揮発成分を脱離させた試料についてはいずれも90〜110ppbwと高精度で定量できることを確認した。しかしながら、有機揮発成分の脱離を行わなかった試料については、何れもポリエチレン固有のピークは確認できたものの、有機揮発成分のピークが重複して分離ができない試料が存在した。また定量した値についても90〜300ppbwと大きくバラつきが生じた。
【0069】
以上、本発明の方法により、ポリシリコン破砕物の表面に付着する樹脂の種類をより感度よく特定することができ、また、上記樹脂の種類毎に付着樹脂量を正確に求めることが可能となった。
【0070】
本発明を概略すれば以下のとおりである。
(1)ポリシリコン破砕物より有機揮発成分を除去した後、不活性ガスの流通下、該ポリシリコン破砕物の温度を上昇せしめ、上記加熱温度において発生する樹脂分解物を捕集して、該樹脂分解物に含まれる前記樹脂固有の分解物を分析することにより、前記ポリシリコン破砕物の付着樹脂の種類を特定することを特徴とするポリシリコン破砕物の表面不純物の分析方法。
【0071】
(2)前記有機揮発成分の除去を、180℃以上、該ポリシリコン破砕物の製造工程においてポリシリコンとの接触が想定される樹脂の分解開始温度未満の温度に維持して行う(1)記載の分析方法。
【0072】
(3)前記ポリシリコン破砕物の温度の上昇を樹脂分解開始温度に応じて段階的に行う、(1)又は(2)に記載の分析方法。
【0073】
(4)前記樹脂固有の分解物についてそれぞれ検量線を作成し、該検量線に基づいて前記付着樹脂毎の付着量を定量する(1)〜(3)のいずれか一項に記載の分析方法。
さらに、本発明は以下のように記述することもできる。
【0074】
(5)有機揮発成分および付着樹脂を表面に含むポリシリコン破砕物を得て、
ポリシリコン破砕物から有機揮発成分を除去し、
不活性ガスの流通下、該ポリシリコン破砕物を加熱して、付着樹脂を分解し、該樹脂分解物を捕集し、
該樹脂分解物に含まれる前記樹脂固有の分解物を分析し、
前記ポリシリコン破砕物の付着樹脂の種類を特定することを含む、ポリシリコン破砕物の表面不純物の分析方法。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0076】
尚、実施例において、加熱装置、分析装置は以下のものを使用した。
【0077】
1)加熱装置
加熱装置にガス流路を接続したマッフル炉を用いた。ポリシリコン破砕物を収容するセッターには石英製容器を用いた。吸着剤は、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、PEEKの分解物の捕集にポリマー系吸着剤であるTenax TAを用いた。また、PTFE、PVDFの分解物の捕集にCarboxene 1000を用いた。加熱温度は、有機揮発成分の除去を目的とする加熱を250℃で行い、49分保持した。また、付着樹脂の分解を目的とする加熱を400〜650℃で行い、後述する実施例に記載の温度で49分保持した。ヘリウムをキャリアガスとして、流量100mL/minで通気する。加熱条件を以下表3にまとめた。
【0078】
【表3】
【0079】
2)分析装置
分析装置に四重極質量分析型のGC/MSを用いた。ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、PEEKの分解物の分析カラムには、シロキサンポリマー系の一般的なキャピラリーカラムのZB−1MSを採用した。PTFE、PVDFの分解物の分析カラムには、分解物が低沸点化合物であることから、低沸点成分の分離に優れたシリカ粒子系のプロットカラムのGC−GasProを採用した。分析条件を以下表4にまとめた。
【0080】
【表4】
【0081】
実施例1
シーメンス法にて製造された直径150mm、長さ1000mmのロッド状の多結晶シリコンを、破砕工程として、シリコンにてライニングされた破砕台の上に乗せ、タングステンカーバイド製のハンマーにて破砕し、最大片長10mm〜110mmの破砕物を95重量%含むポリシリコン破砕物を得た。ハンドリングにはポリエチレンの手袋を使用した。
【0082】
上記ポリシリコン破砕物を洗浄工程として、PVDFの洗浄カゴに5kg投入し、フッ化水素酸と硝酸(体積比1:20)の混合溶液に5分間浸漬させた後、超純水にて30分浸漬させ、80℃で24時間乾燥させた。その後、クリーンブース内にて、シリコンにてライニングされた作業台の上に乗せ、ポリエチレンの手袋を用いて、ポリエチレンの梱包袋に梱包した。
【0083】
梱包袋の中から、ポリエチレンの手袋を用いて、最大片長10mm〜30mmの任意のポリシリコン破砕物を20個、約500gを取出し、加熱装置内の石英チャンバー内に保持した。それらをヘリウムガス、流量100mL/minの雰囲気下にて250℃にて加熱し、49分保持した後、発生する有機揮発成分を脱離させた。その後、加熱温度が400℃で49分保持した。発生する其々の樹脂分解物の面積から、事前に作成した検量線から、樹脂付着量を算出した。結果を表5に示す。
【0084】
実施例2
上記、洗浄工程にて、洗浄カゴの材質をポリプロピレンに変更し、実施例1と同様の条件で実施した。結果を表5に示す。
【0085】
実施例3
上記、洗浄工程にて、洗浄カゴの材質をPTFEに変更し、加熱温度を400℃で49分保持した後、更に650℃で49分保持した以外は、実施例1と同様の条件で実施した。結果を表5に示す。
【0086】
実施例4
上記、破砕工程にて、ハンドリングする際の手袋の材質をポリウレタンに変更した以外は、実施例1と同様の条件で実施した。結果を表5に示す。
【0087】
実施例5
上記、破砕工程にて、ハンマーによる破砕後に、PEEKの篩にて、最大片長10mm〜110mmの破砕物を最大片長10mm〜30mmに分類し、加熱温度が400℃で49分保持した後、更に650℃にて49分保持した以外は、以外は実施例1と同様の条件で実施した。結果を表5に示す。
【0088】
実施例6
上記、実施例1において、ハンマーにて破砕し、最大片長10mm〜110mmの破砕物を95重量%含むポリシリコン破砕物を得た後、洗浄工程を行わず、直接ポリエチレンの梱包袋へ手作業にて投入した以外は、実施例1と同様の条件で実施した。結果を表5に示す。
【0089】
比較例1
比較例として、実施例1に示す破砕工程、洗浄工程、梱包工程を経たポリシリコン破砕物を、加熱装置内の石英チャンバー内に保持し、それらを有機揮発成分の除去操作を行わず、ヘリウムガス、流量100mL/minの雰囲気下にて400℃で49分保持し、実施例1と同様にして、発生する樹脂分解物を捕集、分析チャートを得た。しかし、表5に示すとおり、ポリエチレンは有機揮発成分とピークが重複して分離ができず、正確な定量ができなかった。また、PVDFはノイズに埋もれてピークが検出できなかった。
【0090】
【表5】
【要約】
【課題】 ポリシリコン破砕物の付着樹脂を高い感度で定性、更には、高い精度で定量することが可能な分析方法を提供する。
【解決手段】 ポリシリコン破砕物より有機揮発成分を加熱により除去した後、不活性ガスの流通下、該ポリシリコン破砕物の温度を上昇せしめ、上記加熱温度において発生する樹脂分解物を捕集して、該樹脂分解物に含まれる前記樹脂固有の分解物を分析することにより、前記ポリシリコン破砕物の付着樹脂の種類を特定する。更には、前記樹脂固有の分解物についてそれぞれ検量線を作成し、該検量線に基づいて前記付着樹脂毎の付着量を定量することもできる。
【選択図】 なし
図1
図2