(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法は、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成した後に、該ゼオライト膜を表面処理して得られる、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法であって、ゼオライト膜が形成された多孔質支持体の温度を50℃以上として、表面処理を施すことを特徴とする。
【0012】
以下に、先ず、本発明の特徴となる、多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜について説明する。
なお、本明細書において、多孔質支持体と、その上に形成されたゼオライト膜を「ゼオライト膜複合体」と言う場合があり、これを「膜複合体」と略称することがある。また、「多孔質支持体」を「多孔質支持体」または「支持体」と略称することがある。
【0013】
<多孔質支持体>
本発明において、多孔質支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、無機の多孔質よりなる支持体(無機多孔質支持体)であれば如何なるものであってもよい。例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体(セラッミクス支持体)、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
【0014】
これら多孔質支持体の中で、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものを含む無機多孔質支持体(セラミックス支持体)が好ましい。この支持体を用いれば、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果がある。
具体的には、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)が挙げられる。それらの中で、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体が好ましい。これらの支持体を用いれば、部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなる。
【0015】
多孔質支持体の形状は、気体混合物または液体混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状(例えば、円筒管状、角柱管状)、ハニカム状(例えば円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状)、モノリスなどが挙げられる。中でも、特に管状支持体が好ましく、特に円筒管状支持体が好ましい。
【0016】
本発明において、かかる多孔質支持体上、すなわち支持体の表面などにゼオライトを膜状に形成させる。支持体の表面は、支持体の形状に応じて、どの表面であってもよく、複数の面であってもよい。例えば、円筒管状の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
多孔質支持体表面の平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましい。支持体表面の平均細孔径は、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。平均細孔径が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になり、支持体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなる傾向がある。
【0017】
多孔質支持体の平均厚さ(肉厚)は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。支持体はゼオライト膜に機械的強度を与える目的で使用しているが、支持体の平均厚さが薄すぎるとゼオライト膜複合体が十分な強度を持たずゼオライト膜複合体が衝撃や振動等に弱くなる傾向がある。支持体の平均厚さが厚すぎると透過した物質の拡散が悪くなり透過度が低くなる傾向がある。
【0018】
多孔質支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持体の気孔率は、気体を分離する際の透過流量を左右し、下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、上限を超えると支持体の強度が低下する傾向がある。
多孔質支持体は、必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。なお、多孔質支持体の表面とはゼオライトを結晶化させる無機多孔質支持体の表面部分を意味し、表面であればそれぞれの形状のどこの表面であってもよく、複数の面であってもよい。例えば円筒管状の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってもよい。
【0019】
<ゼオライト膜複合体>
本発明では上記多孔質支持体上にゼオライト膜を形成させて、ゼオライト膜複合体を得る。
ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機化合物、あるいは下記詳述するようなゼオライト表面を
修飾するSi原子を含む材料またはその反応物などを必要に応じ含んでいてもよい。また、本発明におけるゼオライト膜は、一部アモルファス成分などを含んでいてもよい。
【0020】
ゼオライト膜の厚さは特に制限されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下したり、膜強度が低下したりする傾向がある。
ゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それゆえ、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合が特に好ましい。ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなる。後に述べる水熱合成で得られたゼオライト膜は、ゼオライトの粒子径と膜の厚さが同じになる場合があるので特に好ましい。
【0021】
ゼオライト膜複合体の形状は特に限定されず、管状、中空糸状、モノリス型、ハニカム型などあらゆる形状を採用できる。また大きさも特に限定されず、例えば、管状の場合は、通常長さ2cm以上200cm以下、内径0.05cm以上2cm以下、厚さ0.5mm以上4mm以下が実用的で好ましい。
ゼオライト膜の分離機能の一つは、分子ふるいとしての分離であり、用いるゼオライトの有効細孔径以上の大きさを有する気体分子とそれ以下の気体とを好適に分離することができる。なお分離に供される分子に上限はないが、分子の大きさは、通常100Å程度以下である。
【0022】
尚、ゼオライトとしては、アルミノ珪酸塩であるものが好ましい。
ゼオライト膜自体のSiO
2/Al
2O
3モル比は、通常0.5以上、好ましくは5以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上、特に好ましくは12以上であり、好ましくは2000以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下、さらに好ましくは100以下、特に好ましくは50以下である。
【0023】
ゼオライト膜自体のSiO
2/Al
2O
3モル比は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)により得られた数値である。SEM−EDXにおいて、X線の加速電圧を10kV程度として測定することにより、数ミクロンの膜のみの情報を得ることができる。ゼオライト膜は均一に形成されているので、この測定により、膜自体のSARを求めることができる。
【0024】
ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むものが好ましく、酸素6〜8員環の細孔構造を有するゼオライトを含むものがより好ましい。
ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0025】
酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、GIU、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MON、MSO、MTF、MTN、NON、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、TOL、TSC、UFI、VNI、YUGなどが挙げられる。
【0026】
酸素6〜8員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、TOL、UFIなどが挙げられる。
なお、本明細書において、ゼオライトの構造は、上記のとおり、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードで示す。
【0027】
酸素n員環構造はゼオライトの細孔のサイズを決定するものであり、酸素6員環よりも小さいゼオライトではH
2O分子のKinetic直径よりも細孔径が小さく、透過する気体成分や液体成分の透過度が小さくなり実用的でない場合がある。また、酸素8員環構造よりも大きい場合は細孔径が大きくなり、サイズの小さな気体成分や液体成分では分離性能が低下することがあり、用途が限定的になる場合がある。
【0028】
ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å
3)は特に制限されないが、通常17以下、好ましくは16以下、より好ましくは15.5以下、特に好ましくは15以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Å
3あたりの、骨格を構成する酸素以外の元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Sixth Revised Edition 2007 ELSEVIERに示されている。
【0029】
本発明において、好ましいゼオライトの構造は、AEI、AFG、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、TOL、UFIであり、より好ましい構造は、AEI、CHA、ERI、KFI、LEV、PAU、RHO、RTH、UFIであり、さらに好ましい構造は、CHA、LEV、RHOであり、最も好ましい構造はCHAである。
【0030】
ここで、本発明において、CHA型のゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。これは、天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
【0031】
CHA型ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å
3)は14.5である。また、SiO
2/Al
2O
3モル比は上記と同様である。
本発明において、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折のパターンにおいて、2θ=17.9°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の0.5倍以上の大きさであることが好ましい。
【0032】
ここで、ピークの強度とは、測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比A」ということがある。)でいえば、通常0.5以上、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
【0033】
また、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折のパターンにおいて、2θ=9.6°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の2倍以上の大きさであることが好ましい。
(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比B」ということがある。)でいえば、通常2以上、好ましくは2.5以上、より好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上、特に好ましくは8以上、もっとも好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
【0034】
<ゼオライト膜複合体の製造方法>
本発明では、例えば、水熱合成により、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成させた後、ゼオライト膜が形成された多孔質支持体の温度を50℃以上として、Si化合物などにより表面処理を施す。
具体的には、例えば、ゼオライト膜複合体は、多孔質支持体を組成を調整して均一化した水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)が入ったオートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉し、一定時間加熱することにより調製できる。
【0035】
水性反応混合物としては、Si元素源、Al元素源、アルカリ源、および水を含み、さらに必要に応じて有機テンプレートを含むものが好ましい。
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等を用いることができる。
【0036】
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を用いることができるが、有機テンプレートを用いて合成したものが好ましい。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性、耐水蒸気性が向上する。
【0037】
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成し得るものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
ゼオライトがCHA型の場合、有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
【0038】
水性反応混合物に用いるアルカリ源としては、有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)
2などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。アルカリの種類は特に限定されず、通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Li、Na、Kが好ましく、Kがより好ましい。また、アルカリは2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとK、LiとK を併用するのが好ましい。
【0039】
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO
2/Al
2O
3モル比として表わす。SiO
2/Al
2O
3モル比は特に限定されないが、好ましくは5以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは15以上である。また、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは100以下である。
【0040】
SiO
2/Al
2O
3モル比がこの範囲内にあるときゼオライト膜が緻密に生成し、分離性能が高い膜となる。更に生成したゼオライトに適度にAl原子が存在するため、Alに対して吸着性を示す気体成分や液体成分では分離能が向上する。またAlがこの範囲にある場合には耐酸性、耐水蒸気が高いゼオライト膜が得られる。
水性反応混合物中のシリカ源と有機テンプレートの比は、SiO
2に対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO
2モル比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。
【0041】
有機テンプレート/SiO
2モル比が上記範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得ることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性、耐水蒸気性に強くなる。
Si元素源とアルカリ源の比は、M
(2/n)O/SiO
2(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
【0042】
CHA型ゼオライト膜を形成する場合、アルカリ金属の中でKを含む場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましい。その場合のKと、Kを含むすべてのアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とのモル比は、通常0.01以上1以下、好ましくは0.1以上1以下、さらに好ましくは0.3以上1以下である。
Si元素源と水の比は、SiO
2に対する水のモル比(H
2O/SiO
2モル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。
【0043】
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得る。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが緻密な膜ができやすい傾向にある。
さらに、水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在させる必要は無いが、種結晶を加えることで、支持体上にゼオライトの結晶化を促進できる。種結晶を加える方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができる。
【0044】
ゼオライト膜複合体を製造する場合は、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。
【0045】
種結晶の粒子径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものや種結晶そのものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性よく膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
【0046】
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。
分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、とくに好ましくは3質量%以下である。
【0047】
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0048】
支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させ、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。
支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、基材1m
2あたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下である。
【0049】
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
ゼオライト膜を形成させる際の温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0050】
加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなることがある。反応時間が長すぎると、求めるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0051】
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性気体を加えても差し支えない。
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥又はテンプレートを使用した場合にテンプレートを焼成することを意味する。
【0052】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。また、テンプレートの焼成を目的とする場合、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、さらに好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下、さらに好ましくは750℃以下である。
【0053】
テンプレートの焼成を目的とする場合には、加熱処理の温度が低すぎると有機テンプレ
ートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離・濃縮の際の透過度が減少する可能性がある。加熱処理温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。
【0054】
加熱時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥、またはテンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。テンプレートの焼成を目的とする場合の加熱処理は空気雰囲気で行えばよいが、N
2などの不活性気体や酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0055】
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
テンプレートの焼成を目的とする加熱処理の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0056】
また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換してもよい。イオン交換は、テンプレートを用いて合成した場合は、通常、テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na
+、K
+、Li
+などのアルカリ金属イオン、Ca
2+、Mg
2+、Sr
2+、Ba
2+などの第2族元素イオン、Fe、Cuなどの遷移金属のイオン、Al、Ga、Znなどのその他の金属のイオンなどが挙げられる。これらの中で、プロトン、Na
+、K
+、Li
+などのアルカリ金属イオン、Fe、Al、Gaのイオンが好ましい。
【0057】
イオン交換は、焼成後(テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、NH
4NO
3、NaNO
3などアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。さらに、必要に応じて200℃〜500℃で焼成してもよい。
【0058】
<表面処理>
続いて、形成されたゼオライト膜に対して表面処理を施すが、表面処理をする前に本発明ではゼオライト膜が形成された多孔質支持体の温度を50℃以上とすることを特徴とする。
例えばSi化合物により表面処理を施すことにより、ゼオライト膜表面にSi層を形成し、ゼオライト膜に存在するゼオライト結晶間の微細な欠陥径が小さくなり、分離性能を向上させることができると考えられる。
【0059】
しかしながら、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を、実際に分離膜として使用する際、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は高い温度条件下に晒される。例えば、フェノール/水の分離では、液体の温度が130℃程度となり、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体もまた130℃程度となると推測される。この高い温度条件下においては、多孔質支持体とゼオライト膜との熱膨張率の差が大きくなる。この熱膨張率の差によって、上記表面処
理により塞がれた膜に存在する微細な欠陥が再び広がるのではないかと、本発明者らは推測した。そして、この再び広がった欠陥が分離性能を低下させる原因であると予想し、本発明では欠陥が再び形成されない方法を検討した。
【0060】
そこで、ゼオライト膜が形成された多孔質支持体を加熱などの操作により温め、すなわち50℃以上の温度とすることで、熱膨張率の差で生じると予想される欠陥を予め広げておき、広げた状態で表面処理を施すことにより、実際に高温下で分離膜として使用する際に欠陥が生じることを防止するようにできると考えた。
本発明では、表面処理をする前にゼオライト膜が形成された多孔質支持体の温度を50℃以上とすることを特徴とするが、上述の理由により、この温度以上であることを維持したまま表面処理を施すことが好ましい。
【0061】
多孔質支持体の温度を50℃以上に制御する方法としては、オーブン、電気炉、オイルバス、ウォーターバスなどによる加熱が挙げられ、中でも操作性の観点から、オーブンにより加熱する方法が好ましい。これらの方法は2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。
特に、50℃以上に制御することで、ゼオライト膜表面を乾燥させて、ゼオライト膜表面に吸着した吸着水を除去することが好ましい。例えば、密閉状態で以下詳述する表面処理を施す場合、表面処理に用いる材料と、ゼオライト膜表面に吸着した吸着水とが反応等することにより、ゼオライト膜の性能を低下させる恐れがある。
上記反応等を回避するために、表面処理の前に、多孔質支持体の温度を50℃以上に制御することにより、ゼオライト膜表面に吸着した吸着水を除去することが好ましいが、他の手段により吸着水を除去してもよい。
他の手段としては、例えば、減圧による脱水、乾燥剤による脱水、湿度の低い空気等のガスを吹き込む方法などが挙げられる。
多孔質支持体の温度は、50℃以上であればよく、好ましくは75℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは125℃以上であり、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは175℃以下であり、さらに好ましくは150℃以下である。この範囲であることにより、高い分離性能を得ることができる。
尚、支持体の温度は、接触式温度計、放射温度計、熱電対などの各種温度計を用いた方法により測定することができる。
【0062】
表面処理には、ゼオライト膜表面に存在する欠陥等を塞ぐことが出来る材料を使用する。この材料は、通常、Si原子を含む材料(以下、Si化合物という場合がある)が好ましく、具体的には、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、1,1,3,3−テトラメトキシ−1,3−ジメチルプロパンジシロキサンなどのアルコキシシラン、ヘキサメチルジシロキサンなどのシロキサンを有する有機ケイ素化合物、ヘキサメチルジシラザンのようなシラザンを有する有機ケイ素化合物、メチルシリケートオリゴマー、エチルシリケートオリゴマーなどのシリケートオリゴマー、無定形シリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、シリカゾルなどを用いることができる。反応性の面、Siのネットワークを形成するという観点からアルコキシシラン、シリケートオリゴマーが好ましい。特に、テトラエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルシリケートオリゴマー、エチルシリケートオリゴマーが好ましい。
【0063】
Si化合物内のSi原子の数は1以上であれば特に限定されず、求められる開口径やふさぐ欠陥のサイズによって適当なものを選択すればよいが、好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、より好ましくは4以上である。また通常120以下、好ましくは90以下、さらに好ましくは70以下、特に好ましくは50以下である。分子内のSiがこの範囲にあるときに効果的に開口径を狭小化し、欠陥をふさぐことができる。分子内のSi原
子が少なすぎると開口径が十分に小さくならない可能性、欠陥が十分にふさがらない可能性がある。
【0064】
Si化合物の粘度は、通常0.5mPas以上、好ましくは2mPas以上、さらに好ましくは3mPasである。また、通常150mPas以下、好ましくは120mPas以下、さらに好ましくは100mPas以下、特に好ましくは80mPas以下である。粘度が低すぎると、後述のSi化合物を含む液体に浸漬、あるいはSi化合物を含む液体を滴下または噴霧後に加熱を行って処理する方法において、ゼオライト膜表面にSi化合物が表面に十分とどまらないことがある。粘度が高すぎる場合には引き上げ時、またはその後にゼオライト膜の上部と下部でSi化合物の付着量に差が生じ、均一な処理とならない場合がある。粘度は溶媒を加えることで、Si化合物を含む溶液として調整することが可能である。
【0065】
表面処理方法としては特に限定されるものではないが、Si化合物を含む溶液または分散液にゼオライト膜複合体を浸漬する浸漬処理、ゼオライト膜複合体にSi原子を含む溶液を滴下する滴下処理、あるいは噴霧する噴霧処理がある。
浸漬処理等の液体を用いた表面処理を行う場合、この表面処理に用いる表面処理液は、表面処理の条件下でゼオライト膜複合体が処理可能な状態のものであれば特に制限されず、Si化合物に溶媒を加えた溶液であってもよく、溶媒を加えない液体であってもよく、ゾルまたはゲルであってもよい。
【0066】
特に、Si化合物としてシリケートオリゴマーを用いる場合には、溶媒をさらに加えなくてもよい。溶媒をさらに加えない場合においてもその他の元素源(化合物)として、例えばAl化合物を含んでいてもよい。
ここで、溶媒は、水であっても有機溶媒であってもよい。また、沸点以上の温度では、加圧下で液状となっているものも溶媒に含まれる。この場合の圧力は、自生圧でも加圧でもよい。さらに、表面処理液には、上記の通り、少なくともSi化合物を含んでいればよく、その他の元素源(化合物)として、例えばAl化合物を含んでいてもよい。
【0067】
用い得る有機溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン等の非極性溶媒、アニソール、イソプロピルアルコール等のアルコール溶媒、および、アセトンなどの極性溶媒が挙げられる。これらの中で、トルエン、イソプロピルアルコールが特に好ましい。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
表面処理液の温度は特段限定されるものではないが、通常20℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上、特に好ましくは80℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である。温度が低すぎると、Si化合物と膜表面およびSi化合物間で行われる脱水縮合反応、加水分解反応の進行が不十分でSi化合物による修飾が十分に行われず膜表面の親水性が十分に向上しないことがある。温度が高すぎると、ゼオライトが一部水中に溶出してゼオライト膜が壊れる可能性がある。
【0068】
表面処理液中のSi化合物の含有量は、Si化合物の濃度として、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。また、Si元素の場合の濃度としては、通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0069】
さらに、有機溶媒を用いる場合には、水を系内に添加してもよい。添加する水の濃度は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.2質
量%以上であり、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
表面処理液中には、ゼオライト表面OH基とSi化合物、Si化合物間の脱水縮合反応、アルコキシ基の加水分解反応の触媒として、酸または塩基を存在させることが好ましい。従って、溶液のpHは、通常0〜12、好ましくは0.5〜10、より好ましくは1〜8程度であればよい。
【0070】
表面処理液中に例えば、NaOH、KOH、アミン等の塩基性物質を添加することで微量のOH
−1イオンを積極的に存在させてもよく、その場合、水溶液中のOH
−1イオン濃度は、通常0.01mol/l以下、より好ましくは0.005mol/l以下であり、通常0.0001mol/l以上、好ましくは0.0005mol/l以上、より好ましくは0.001mol/l以上である。表面処理液中にOH
−1イオンが存在することによって、存在しない場合よりも短時間で同等の効果を得ることが可能になる。表面処理液中のOH
−1イオン濃度が高すぎると、ゼオライト膜が溶解して破壊されやすくなり処理時間の厳密なコントロールが必要となる。
【0071】
表面処理液中に存在させる酸としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸などの有機酸や、硫酸、燐酸などの無機酸等が挙げられる。これらの中で、特にカルボン酸、無機酸が好ましい。
カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フタル酸、乳酸、クエン酸、アクリル酸などが好ましく、ギ酸、酢酸、乳酸がより好ましく、酢酸が特に好ましい。無機酸としては、例えば、硫酸、硝酸、燐酸、塩酸などが好ましく、硫酸、硝酸、燐酸がより好ましい。
【0072】
表面処理液中の酸性物質の濃度は、好ましくは0.01mol/l以上、より好ましくは0.05mol/l以上であり、さらに好ましくは10mol/l以下、特に好ましくは1mol/l以下である。
また、H
+濃度は、通常1×10
−10mol/l以上、好ましくは1×10
−8mol/l以上、より好ましくは1×10
−7mol/l以上、特に好ましくは1×10
−5mol/l以上であり、通常10mol/l以下、好ましくは5mol/l以下、より好ましくは1mol/l以下である。
【0073】
H
+濃度が上記の範囲となるように塩基性物質を共存させてもよい。塩基性物質としては、例えば、NaOH、KOH、アミン等が挙げられる。
表面処理時の圧力は特に限定されず、大気圧、あるいは密閉容器中に入れた処理溶液を、上記温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性気体を加えても差し支えない。
【0074】
特に、多孔質支持体として管状支持体を使用する場合、管状支持体の内部を減圧して表面処理を施すことが好ましい。これにより、表面処理液が欠陥内部へ入り込みやすくなり、欠陥を効率良くふさぐ効果が得られる。
減圧方法としては、ロータリーポンプやダイアフラムポンプなどの真空ポンプや、アスピレーターなどを使用する方法が挙げられる。
【0075】
浸漬処理を行う場合、処理の方法としては表面処理液に浸漬し、浸漬した液の中でSi化合物との化学的な結合を形成させてもよいし、浸漬した後にゼオライト膜を液から出して表面にSi化合物が付着した状態で化学的な結合を形成してもよいし、浸漬中、浸漬後の両方で化学的な結合の形成をしてもよい。
浸漬時間は、通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは4時間以上、さらに好ましくは8時間以上であり、通常100時間以下、好ましくは50時間以下、より
好ましくは24時間以下である。
【0076】
表面処理をした後、支持体を恒温槽等で静置してもよく、この際の温度は通常20℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上、特に好ましくは80℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である。また、静置する時間は通常5分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上、通常180分以下である。
表面処理においては、Si化合物を少なくとも含む液体に浸漬、あるいはSi化合物を少なくとも含む液体を滴下または噴霧し、その後、加熱を行って処理することもできる。この場合には溶媒を加えずに処理することも出来る。
【0077】
Si化合物を含む液体に浸漬後あるいはSi化合物を含む液体を滴下または噴霧に加熱処理をする場合には、ゼオライト膜複合体を、Si化合物を含む液体に浸漬する際に、管状のゼオライト膜複合体の場合、下のみあるいは上下をシリコンゴム栓やテフロン(登録商標)テープなどでふさぐことにより、支持体に多量のSi化合物が浸透するのを妨げることが望ましい。ゼオライト膜の表面のみにSi化合物を接触させ、支持体部分への浸透を防ぐことで、高い透過量を維持したまま、効率的にゼオライト膜の表面を表面処理できる。
【0078】
浸漬後あるいはSi化合物を含む液体を滴下または噴霧後の加熱温度としては、通常30℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、特に好ましくは150℃以下である。温度がこの範囲より低い場合にはゼオライト膜表面のSi化合物による修飾が十分に固定化されない場合がある。温度がこの範囲より高い場合にはSi化合物の沸点にもよるがSi化合物が表面から揮発し修飾が十分行われなくなる場合がある。
【0079】
浸漬後あるいはSi化合物を含む液体を滴下または噴霧後に加熱する際には、加熱時間は通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは1.5時間以上、さらに好ましくは2時間以上であり、通常30時間以下、好ましくは25時間以下、より好ましくは20時間以下、さらに好ましくは15時間以下である。時間がこの範囲より短い場合にはゼオライト膜表面のSi化合物による修飾が十分に固定化されない場合がある。時間がこの範囲より長い場合には、Si化合物による修飾が十分に固定化される以上に加熱することになりエネルギー的に不利である。
【0080】
浸漬後あるいはSi化合物を含む液体を滴下または噴霧後に加熱する際には、加熱する系内に水を共存させることが好ましい。水を共存させることでシリケートオリゴマーなどに含まれるアルコキシシランの加水分解が進行しやすくなり、ゼオライト膜表面の修飾が十分に行われやすくなる。
浸漬後あるいはSi化合物を含む液体を滴下または噴霧後の加熱は通常の乾燥機などで行うことも出来るし、密閉容器中に浸漬後の膜を入れて加熱してもよい。密閉容器中に浸漬後あるいはSi化合物を含む液体を滴下または噴霧後の膜を入れる際には少量の水を膜に接触しないように共存させてもよい。
【0081】
かくして製造されるゼオライト膜複合体は、上記のとおり優れた特性をもつものであり、本発明の分離または濃縮方法における膜分離手段として好適に用いることができる。
かくして得られる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体(加熱処理後のゼオライト膜複合体)の空気透過量[L/(m
2・h)]は、通常1400L/(m
2・h)以下、好ましくは1000L/(m
2・h)以下、より好ましくは700L/(m
2・h)以下、より好ましくは600L/(m
2・h)以下、さらに好ましくは500L/(m
2・h)以下、特に好ましくは300L/(m
2・h)以下、もっとも好ましくは200L/(m
2・
h)以下である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0.01L/(m
2・h)以上、好ましくは0.1L/(m
2・h)以上、より好ましくは1L/(m
2・h)以上である。
ここで、空気透過量とは、後述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m
2・h)]である。
【0082】
<分離または濃縮方法>
本発明の分離または濃縮方法は、上記製造方法により得られた多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に、複数の成分からなる気体または液体の混合物を接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離する、または、該混合物から透過性の高い物質を透過させることにより、透過性の低い物質を濃縮することに特徴をもつものである。
【0083】
本発明の分離または濃縮方法において、ゼオライト膜を備えた無機多孔質支持体を介し、支持体側又はゼオライト膜側の一方の側に複数の成分からなる気体または液体の混合物を接触させ、その逆側を混合物が接触している側よりも低い圧力とすることによって混合物から、ゼオライト膜に透過性が高い物質(透過性が相対的に高い混合物中の物質)を選択的に、すなわち透過物質の主成分として透過させる。これにより、混合物から透過性の高い物質を分離することができる。その結果、混合物中の特定の成分(透過性が相対的に低い混合物中の物質)の濃度を高めることで、特定の成分を分離回収、あるいは濃縮することができる。
【0084】
分離または濃縮の対象となる混合物としては、本発明における多孔質支持体−ゼオライト膜複合体によって、分離または濃縮が可能な複数の成分からなる気体または液体の混合物であれば特に制限はなく、如何なる混合物であってもよい。
分離または濃縮の対象となる混合物が、例えば、有機化合物と水との混合物(以下これを、「含水有機化合物」と略称することがある。)の場合、通常水がゼオライト膜に対する透過性が高いので、混合物から水が分離され、有機化合物は元の混合物中で濃縮される。パーベーパレーション法(浸透気化法)、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)と呼ばれる分離または濃縮方法は、本発明の方法におけるひとつの実施形態である。パーベーパレーション法は、液体の混合物をそのまま分離膜に導入する分離または濃縮方法であるため、分離または濃縮を含むプロセスを簡便なものにすることができる。
【0085】
ベーパーパーミエーション法は、液体の混合物を気化させてから分離膜に導入する分離・濃縮方法であるため、蒸留装置と組み合わせて使用することや、より高温、高圧での分離に用いることができる。またベーパーパーミエーション法は、液体の混合物を気化させてから分離膜に導入することから、供給液中に含まれる不純物や、液体状態では会合体やオリゴマーを形成する物質が膜に与える影響を低減することができる。本発明により得られる無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体はいずれの方法に対しても好適に用いることができる。
【0086】
また、ベーパーパーミエーション法で高温での分離を行う場合、一般的に温度が高いほど、また混合物中の透過性の低い成分の濃度が高いほど、例えば有機化合物と水との混合物の場合、有機化合物の濃度が高いほど分離性能が低下するが、本発明により得られる無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、高温でも、混合物中の透過性の低い成分の濃度が高い場合でも高い分離性能を発現することができる。そして通常、ベーパーパーミエーション法は、液体混合物を気化させてから分離するため、通常はパーベーパレーション法よりも過酷な条件での分離となるため、膜複合体の耐久性も要求される。本発明により得られる無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、高温条件下でも分離が可能な耐久性を有しているのでベーパーパーミエーション法に好適である。
【0087】
前記多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、特定の物理化学的性質を有することで、混合物中の透過性の低い成分の濃度が高い場合のみならず、透過性の低い成分の濃度が低い場合でも高い透過性能、選択性を発揮し、耐久性に優れた分離膜としての性能を持つ。例えば有機化合物と水との混合物の場合、水の濃度にかかわらず高い選択性を発揮する。すなわち、本発明の特定の物理化学的性質を有するゼオライト膜複合体は、幅広い濃度範囲の混合物の分離および濃縮に好適である。
【0088】
ここでいう高い透過性能とは、十分な処理量を示し、例えば、膜を透過する物質の透過流束が、例えば含水率10質量%の酢酸と水の混合物を、90℃において、1気圧(1.01×10
5Pa)の圧力差で透過させた場合、0.5kg/(m
2・h)以上、好ましくは1kg/(m
2・h)以上、より好ましくは1.5kg/(m
2・h)以上であることをいう。透過流束の上限は特に限定されず、通常20kg/(m
2・h)以下、好ましくは15kg/(m
2・h)以下である。
【0089】
また、含水率10質量%のフェノールと水の混合物を、75℃において、1気圧(1.01×10
5Pa)の圧力差で透過させた場合、膜を透過する物質の透過流束が、0.5kg/(m
2・h)以上、好ましくは1kg/(m
2・h)以上、より好ましくは3kg/(m
2・h)以上であることをいう。透過流束の上限は特に限定されず、通常30kg/(m
2・h)以下、好ましくは20kg/(m
2・h)以下である。
【0090】
また、含水率30質量%の2−プロパノールまたはN−メチル−2−ピロリドンと水の混合物を、70℃において、1気圧(1.01×10
5Pa)の圧力差で透過させた場合、1kg/(m
2・h)以上、好ましくは3kg/(m
2・h)以上、より好ましくは5kg/(m
2・h)以上であることをいう。透過流束の上限は特に限定されず、通常20kg/(m
2・h)以下、好ましくは15kg/(m
2・h)以下である。
【0091】
また、高い透過性能をパーミエンス(Permeance、「透過度」ともいう)で表す事もで
きる。パーミエンスとは、圧力差あたりの透過流束(Pressure normalized flux)を表し、透過する物質量を膜面積と時間と水の分圧差の積で割ったものである。パーミエンスの単位で表した場合、水のパーミエンスとして、例えば含水率10質量%の酢酸と水の混合物を、90℃において、1気圧(1.01×10
5Pa)の圧力差で透過させた場合、通常3×10
−7mol/(m
2・s・Pa)以上、好ましくは5×10
−7mol/(m
2・s・Pa)以上、より好ましくは1×10
−6mol/(m
2・s・Pa)以上である。パーミエンスの上限は特に限定されず、通常1×10
−4mol/(m
2・s・Pa)以下、好ましくは5×10
−5mol/(m
2・s・Pa)以下である。
【0092】
また、含水率10質量%のフェノールと水の混合物を、75℃において、1気圧(1.01×10
5Pa)の圧力差で透過させた場合、および含水率30質量%の2−プロパノールまたはN−メチル−2−ピロリドンと水の混合物を、70℃において、1気圧(1.01×10
5Pa)の圧力差で透過させた場合、水のパーミエンスとして、通常3×10
−7mol/(m
2・s・Pa)以上、好ましくは5×10
−7mol/(m
2・s・Pa)以上、より好ましくは1×10
−6mol/(m
2・s・Pa)以上、特に好ましくは2×10
−6mol/(m
2・s・Pa)以上である。パーミエンスの上限は特に限定されず、通常1×10
−4mol/(m
2・s・Pa)以下、好ましくは5×10
−5mol/(m
2・s・Pa)以下である。
【0093】
選択性は分離係数により表される。分離係数は膜分離で一般的に用いられる選択性を表す以下の指標である。
分離係数=(P
α/P
β)/(F
α/F
β)
[ここで、P
αは透過液中の主成分の質量パーセント濃度、P
βは透過液中の副成分の質
量パーセント濃度、F
αは透過液において主成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度、F
βは透過液において副成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度である。]
【0094】
分離係数は、例えば含水率10質量%の酢酸と水の混合物を、90℃において、1気圧(1.01×10
5Pa)の圧力差で透過させた場合、および例えば含水率10質量%のフェノールと水の混合物を、75℃において、1気圧(1.01×10
5Pa)の圧力差で透過させた場合、および例えば含水率30質量%の2−プロパノールまたはN−メチル−2−ピロリドンと水の混合物を、70℃において、1気圧(1.01×10
5Pa)の圧力差で透過させた場合、通常2000以上、好ましくは4000以上、より好ましくは10000以上、特に好ましくは20000以上である。分離係数の上限は完全に水しか透過しない場合であり、その場合は無限大となるが、好ましくは10000000以下、より好ましくは1000000以下である。
【0095】
含水有機化合物としては、適当な水分調節方法により、予め含水率を調節したものであってもよい。また、水分調節方法としては、それ自体既知の方法、例えば、蒸留、圧力スイング吸着(PSA)、温度スイング吸着(TSA)、デシカントシステムなどが挙げられる。
さらに、ゼオライト膜複合体によって水が分離された含水有機化合物から、さらに水を分離してもよい。これにより、より高度に水を分離し、含水有機化合物をさらに高度に濃縮することができる。
【0096】
有機化合物としては、例えば、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸類や、スルフォン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級および第2級ニトロ化合物などの有機酸類;メタノール、エタノール、イソプロパノール(2−プロパノール)などのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(N含有有機化合物)、酢酸エステル、アクリル酸エステル等のエステル類などが挙げられる。
【0097】
これらの中から、分子ふるいと親水性の両方の特徴を生かすことのできる有機酸と水との混合物から有機酸を分離するときに、無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の効果が際立って発現する。好ましくはカルボン酸類と水との混合物、特に好ましくは酢酸と水の分離などがより好適な例である。
また、有機酸以外の有機物と水との混合物から有機物と水を分離する場合の有機物は炭素数が2以上であることが好ましく、炭素数が3以上であることがより好ましい。
【0098】
これら有機酸以外の有機物の中では、特にアルコール、エーテル、ケトン、アルデヒド、アミドから選ばれる少なくとも一種を含有する有機化合物が望ましい。これら有機化合物の中で、炭素数が2から10のものが好ましく、炭素数が3から8のものがより好ましい。
また有機化合物としては、水と混合物(混合溶液)を形成し得る高分子化合物でもよい。かかる高分子化合物としては、分子内に極性基を有するもの、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリオール類;ポリアミン類;ポリスルホン酸類;ポリアクリル酸などのポリカルボン酸類;ポリアクリル酸エステルなどのポリカルボン酸エステル類;グラフト重合等によってポリマー類を変性させた変性高分子化合物類;オレフィンなどの非極性モノマーとカルボキシル基等の極性基を有する極性モノマーとの共重合によって得られる共重合高分子化合物類などが挙げられる。
【0099】
前記含水有機化合物としては、水とフェノールの混合物のように、共沸混合物を形成する混合物でもよく、共沸混合物を形成する混合物の分離においては、水を選択的にかつ、蒸留による分離よりも効率よく分離可能な面で好ましい。具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類と水の混合物;酢酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等;のエステル類と水の混合物、ギ酸、イソ酪酸、吉草酸等のカルボン酸類と水の混合物;フェノール、アニリン等の芳香族有機物と水の混合物;アセトニトリル、アクリロニトリル等の窒素含有化合物と水の混合物等が挙げられる。
【0100】
さらに、含水有機化合物としては、水とポリマーエマルジョンとの混合物でもよい。ここで、ポリマーエマルジョンとは、接着剤や塗料等で通常使用される、界面活性剤とポリマーとの混合物である。ポリマーエマルジョンに用いられるポリマーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのオレフィン−極性モノマー共重合体、ポリスチレン、ポリビニルエーテル、ポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体等の熱可塑性樹脂;尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;天然ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体などのブタジエン共重合体等のゴム等が挙げられる。また界面活性剤としては、それ自体既知のものを用いればよい。
【0101】
本発明の方法において、分離または濃縮の対象となる混合物としては、混合気体であってもよく、例えば、二酸化炭素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1−ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ
化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、水などから選ばれる少なくとも1種の成分を含むものが挙げられる。これらの気体成分のうち、パーミエンスの高い気体成分は、ゼオライト膜複合体を透過し分離され、パーミエンスの低い気体成分は供給気体側に濃縮される。
【0102】
特に混合気体としては、kinetic直径が4Å以下の気体分子を少なくとも1種類含有することが好ましい。本発明によれば、特に成分の少なくとも一つにkinetic直径が4Å以下の成分を含む気体においても、透過性の高い成分の分離、または透過性の高い成分を透過させることによる透過性の低い成分の濃縮を高い分離性能で行うことが可能となる。
【0103】
混合気体としては、上記成分の少なくとも2種の成分を含む。この場合、2種の成分としては、パーミエンスの高い成分とパーミエンスの低い成分の組合せが好ましい。ここで、パーミエンス(Permeance、「透過度」ともいう)とは透過する物質量を、膜面積と時
間と透過する物質の供給側と透過側の分圧差の積で割ったものであり、単位は[mol・(m
2・s・Pa)
−1]である。
【0104】
混合気体として具体的には、酸素を含有する混合気体、メタン及びヘリウムを含有する混合気体、二酸化炭素及び窒素を含有する混合気体などが挙げられ、空気、天然ガス、燃焼気体やコークスオーブンガス、ごみ埋め立て場から発生するランドファィルガスなどのバイオガス、石油化学工業で生成、排出されるメタンの水蒸気改質ガスなどの分離または濃縮に使用することができる。
【0105】
酸素を含有する混合気体を用いる場合は、該混合気体から酸素を分離する、または、該混合気体から酸素を透過させるために使用されることが好ましい。酸素を含有する混合気体としては空気などが挙げられる。
メタン及びヘリウムを含有する混合気体を用いる場合は、該混合気体から、ヘリウムを分離する、または、該混合気体からヘリウムを透過させるために使用されることが好ましい。メタン及びヘリウムを含有する混合気体としては、天然ガスなどが挙げられる。
【0106】
二酸化炭素及び窒素を含有する混合気体を用いる場合は、該混合気体から、二酸化炭素を分離する、または、該混合気体から二酸化炭素を透過させるために使用されることが好ましい。二酸化炭素及び窒素を含有する混合気体としては、燃焼気体などが挙げられる。
本発明で用いるゼオライト膜に対して、酸素は高い透過性を有する。そのため、このゼオライト膜に酸素を含有する混合気体を接触させ分離させることにより、酸素を含有する混合気体、例えば空気中の酸素濃度を高めることができ、高酸素濃度の混合気体を製造することができる。
【0107】
例えば、混合気体として空気を用いた場合、酸素濃度を30%以上、さらには35%以上とすることが可能である。
また、本発明で用いるゼオライト膜に対して、ヘリウムは高い透過性を有する。そのため、このゼオライト膜に、例えばヘリウムやメタンを含有する天然ガスを接触させることにより、ヘリウムを分離することができる。
【0108】
また、本発明で用いるゼオライト膜に対して、二酸化炭素は高い透過性を有する。そのため、このゼオライト膜に、例えば二酸化炭素や窒素を含有する燃焼気体を接触させることにより、二酸化炭素を分離することができる。
これら混合気体の分離や濃縮の条件は、対象とする気体種や組成等に応じて、それ自体既知の条件を採用すればよい。
【0109】
混合気体の分離に用いるゼオライト膜複合体を有する分離膜モジュールの形態としては、平膜型、スパイラル型、ホロウファーバー型、円筒型、ハニカム型等が考えられ、適用対象に合わせて最適な形態が選ばれる。
その一つである円筒型分離膜モジュールを説明する。
図1において、円筒型のゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料気体の温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
【0110】
円筒型のゼオライト膜複合体1の一端は、円柱状のエンドピン3で密封されている。他端は接続部4で接続され、接続部4の他端は、耐圧容器2と接続されている。円筒型のゼオライト膜複合体の内側と、透過気体8を排出する配管11が、接続部4を介して接続されており、配管11は、耐圧容器2の外側に伸びている。耐圧容器2には、試料気体の供給側の圧力を測る圧力計5が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
【0111】
図1において、円筒型のゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で、恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料気体の温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
円筒型のゼオライト膜複合体1の一端は、円形のエンドピン3で密封されている。他端は、接続部4で接続され、接続部4の他端は耐圧容器2と接続されている。円筒型のゼオライト膜複合体1の内側と透過気体8を排出する配管11が、接続部4を介して接続されており、配管11は、耐圧容器2の外側に伸びている。また、ゼオライト膜複合体1には、配管11を経由して、スイープ気体9を供給する配管12が挿入されている。さらに、耐圧容器2に通ずるいずれかの箇所には、試料気体(混合気体)の供給側の圧力を測る圧力計5、供給側の圧力を調整する背圧弁6が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
【0112】
試料気体(供給気体7)を、一定の流量で耐圧容器2とゼオライト膜複合体1の間に供給し、背圧弁6により供給側の圧力を一定とする。気体は膜1の内外の分圧差に応じて膜1を透過し、配管11を通じて排出される。
混合気体からの気体分離温度としては、0から500℃の範囲内で行なわれる。膜の分離特性から考えると室温から100℃の範囲内が望ましい。
【実施例】
【0113】
以下、実験例(実施例、比較例)に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実験例により限定されるものではない。
なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は、前記上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
【0114】
(実施例1)
CHA型ゼオライトを多孔質支持体上に直接水熱合成することでゼオライト膜複合体を作製した。
水熱合成のための反応混合物として、以下のものを調製した。
10mol/L−NaOH水溶液38.57gと25%−KOH水溶液129.77gと水6183gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al
2O
3を53.5質量%含有、アルドリッチ社製)46.84gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシ(TMADOH)水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)143.52gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)700.53gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物を調製した。
【0115】
多孔質支持体としては円筒管状アルミナ(外径16mm、内径12mm)を100cmの長さにして用いた。支持体上には水熱合成に先立ち、ディップ法により、上記の方法と同様の方法によりSiO
2/Al
2O
3/NaOH/KOH/H
2O/TMADOH=1/0.033/0.1/0.06/40/0.07のゲル組成で160℃、2日間水熱合成
して結晶化させたCHA型ゼオライトの種結晶を付着させた。
【0116】
この種結晶を付着させた支持体を上記反応混合物の入った内径5cm、高さ115cmのSUS製反応缶にジグを用いて4本の支持体を垂直方向に屹立させ、反応液に浸漬してオートクレーブを密閉し160℃で48時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に、この支持体を反応混合物から取り出し洗浄後120℃で2時間以上乾燥させた。
【0117】
乾燥後、そのままの状態で円筒管状の支持体の一端を封止し、他の一端を真空ラインに接続することで管内を減圧とし、真空ライン設置した流量計で空気の透過量を測定したところ透過量は0ml/(m
2・min)であった。テンプレート焼成前のゼオライトが形成された支持体を電気炉で500℃、5時間焼成した。
このようにして作製したゼオライト膜が形成された支持体を100℃の恒温槽に入れ、1時間静置し乾燥させることにより、ゼオライト膜が形成された支持体を100℃とした。その後、支持体の内部を封じるよう、上下をシリコンゴム栓で栓をした。この時、上側のシリコンゴム栓にテフロン(登録商標)チューブを貫通させておき、テフロン(登録商標)チューブと真空ポンプを接続した。
【0118】
続いて、表面処理液として、100℃に熱したメチルシリケートオリゴマー(三菱化学社製MKC(登録商標)シリケート MS51、SiO
2含有量として52.0±1.0
%)にゼオライト膜が形成された支持体全体が浸漬するように浸漬した後、支持体内部を真空ポンプにより1分間減圧した。
その後、支持体を引上げ、100℃の恒温槽内で60分間静置した後に、水を共存させた容器内で105℃、5時間加熱し、さらに乾燥機内で150℃、1時間加熱し、ゼオライト膜複合体を得た。
【0119】
このゼオライト膜複合体について、ベーパーパーミエーション法により、水/イソプロパノール(IPA)混合溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。4時間後の透過成績は、透過流束:9.1kg/(m
2・h)、透過液中のIPA濃度:120ppmであった。
【0120】
(実施例2)
表面処理液への浸漬後、100℃の恒温槽内での静置時間を5分としたこと以外は実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を得た。
実施例1と同様にして、IPA混合溶液から水を選択的に透過させる分離を行った結果、透過流束:7.0kg/(m
2・h)、透過液中のIPA濃度:210ppmであった。
【0121】
(実施例3)
表面処理液への浸漬後、100℃の恒温槽で80分間静置した後に、ゼオライト膜が形成された支持体の温度を25℃に冷却し、20分間静置したこと以外は実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を得た。
実施例1と同様にして、IPA混合溶液から水を選択的に透過させる分離を行った結果、透過流束:7.1kg/(m
2・h)、透過液中のIPA濃度:180ppmであった。
【0122】
(実施例4)
ゼオライト膜が形成された支持体を電気炉で焼成するまでの工程は実施例1と同様にして行い、その後の工程は以下の通りに実施した。
ゼオライト膜が形成された支持体の内部を封じるよう、上下をシリコンゴム栓で栓をした。この時、上側のシリコンゴム栓にテフロン(登録商標)チューブを貫通させておき、さらに密閉容器の壁面に貫通継手を使用してテフロン(登録商標)チューブを通し、真空ポンプと接続した。
続いて、密閉容器を130℃に加熱し、ゼオライト膜が形成された支持体の内部を減圧しながら1時間乾燥させた。その後、密閉容器内へ130℃に熱したメチルシリケートオリゴマーを注入し、ゼオライト膜が形成された支持体全体を浸漬させた後、支持体内部を真空ポンプにより1分間減圧した。
その後、メチルシリケートオリゴマーを抜液し、130℃に保持したまま60分間静置した後に水を注入し、すぐに密閉状態として、5時間加熱した。さらに、容器内へ加熱した空気を流通させながら、150℃で1時間加熱し、ゼオライト膜複合体を得た。
実施例1と同様にして、IPA混合溶液から水を選択的に透過させる分離を行った結果、透過流束:7.2kg/(m
2・h)、透過液中のIPA濃度:30ppmであった。
(比較例1)
表面処理液へ浸漬させる際の、ゼオライト膜が形成された支持体の温度を25℃とし、さらに表面処理液の温度も25℃として管内を減圧としたこと、及び、支持体を表面処理液から引き上げた後、100℃の恒温槽内で1時間静置せずに支持体を25℃として300分間静置したこと以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を得た。
【0123】
実施例1と同様にして、IPA混合溶液から水を選択的に透過させる分離を行った結果、透過流束:7.2kg/(m
2・h)、透過液中のIPA濃度:8860ppmであっ
た。
以上のとおり、本発明によれば、高い処理量及び高い分離性能のゼオライト膜複合体が得られることが分かった。
【0124】
【表1】