特許第6413364号(P6413364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6413364
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】照明光学系及び顕微鏡装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20181022BHJP
【FI】
   G02B21/06
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-117517(P2014-117517)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-230439(P2015-230439A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(72)【発明者】
【氏名】嶽 文宏
【審査官】 森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−268004(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/108626(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/084007(WO,A1)
【文献】 特開平7−43656(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/021615(WO,A1)
【文献】 特開2013−088808(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0100525(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00 − 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を複数の光束に分岐する分岐部と、
前記複数の光束のうちの第1光束が入射する第1領域、及び前記複数の光束のうちの第2光束が入射する第2領域を有し、前記第1領域の屈折率分布および前記第2領域の屈折率分布のそれぞれを変化可能な位相変調装置と、
前記第1光束および前記第2光束を互いに干渉させて干渉縞を生成し前記干渉縞で試料を照明する第1光学系と、
前記位相変調装置からの前記第1光束を、前記第1光学系の後側焦点面に集光し、前記位相変調装置からの前記第2光束を前記後側焦点面において前記第1光束が集光される位置と異なる位置に集光する第2光学系と、
前記位相変調装置に入射する前記第1光束および前記第2光束のそれぞれを平行化する第3光学系と、を備え、
前記位相変調装置は、
前記後側焦点面の前記第1光束の位置を前記第1領域の屈折率分布の変化により調整し、前記後側焦点面の前記第2光束の位置を前記第2領域の屈折率分布の変化により調整し、
前記第1領域の屈折率分布により前記第1光束に付与される位相を、前記第1光束の中心光線に交差する方向において可変であり、前記第2領域の屈折率分布により前記第2光束に付与される位相を、前記第2光束の中心光線に交差する方向において可変である
照明光学系。
【請求項2】
前記第3光学系は、前記分岐部からの前記第1光束および前記第2光束のそれぞれを集光する第1集光レンズと、
前記第1集光レンズからの前記第1光束を平行化するレンズ要素、及び前記第1集光レンズからの前記第2光束を平行化するレンズ要素を有する第2レンズアレイと、を備え、
前記位相変調装置は、前記第2レンズアレイの後側焦点に配置される
請求項に記載の照明光学系。
【請求項3】
前記位相変調装置は、前記第1領域上の前記第1光束の中心光線と前記第2領域上の前記第2光束の中心光線とを結ぶ方向の位置に比例する位相を、前記第1光束および前記第2光束のそれぞれに付与する
請求項又はに記載の照明光学系。
【請求項4】
前記位相変調装置は、前記第1光束に付与する位相と前記第2光束に付与する位相とを変化させることにより、前記干渉縞の位相を変化させる
請求項1〜のいずれか1項に記載の照明光学系。
【請求項5】
前記位相変調装置は、前記分岐部により分岐された光束が入射する液晶層と、前記液晶層に電界を印加可能な電極とを含む
請求項1〜のいずれか一項に記載の照明光学系。
【請求項6】
前記液晶層に入射する光束を直線偏光にする偏光素子を備える
請求項記載の照明光学系。
【請求項7】
前記第2光学系は、前記第1領域からの前記第1光束を集光するレンズ要素、及び前記第2領域からの前記第2光束を集光するレンズ要素を有する第1レンズアレイを含む
請求項1〜のいずれか一項に記載の照明光学系。
【請求項8】
前記分岐部は、回折光学素子を含む
請求項1〜のいずれか1項に記載の照明光学系。
【請求項9】
前記位相変調装置は、前記後側焦点面上の前記第1光束の位置および前記第2光束の位置を、前記干渉縞によってエバネッセント場が形成されるように、調整可能である
請求項1〜のいずれか1項に記載の照明光学系。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載の照明光学系と、
前記照明光学系が形成する前記干渉縞で変調された前記試料の変調像を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置が撮像した前記変調像を復調する復調装置と、を備える顕微鏡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光学系及び顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡装置において、光学系の分解能を越えた観察を可能とする超解像顕微鏡がある。この超解像顕微鏡の一形態として、空間変調された照明光により標本を照明して変調画像を取得し、その変調画像を復調することにより、標本の超解像画像を生成する構造化照明顕微鏡(SIM:Structured Illumination Microscopy)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この手法においては、光源から射出された光束を回折格子等により複数の光束に分岐し、それらの光束を標本の近傍で互いに干渉させることで形成された干渉縞で標本を照明することにより、標本の変調画像を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国再発行特許発明第38307号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような構造化照明顕微鏡は、照明のパターンが変化すると、分解能が変化することがあり得る。例えば、光源からの光の波長を変更すると、回折格子での回折角が変化するため、標本へ入射する光の角度分布が変化する。その結果、干渉縞のピッチが変化し、所望の分解能が得られないことがあり得る。本発明は、上述の事情を鑑みなされたものであり、標本上に形成される干渉縞を調整可能な照明光学系、顕微鏡装置、及び照明方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様に従えば、光源からの光を複数の光束に分岐する分岐部と、前記複数の光束のうちの第1光束が入射する第1領域、及び前記複数の光束のうちの第2光束が入射する第2領域を有し、前記第1領域の屈折率分布および前記第2領域の屈折率分布のそれぞれを変化可能な位相変調装置と、前記第1光束および前記第2光束を互いに干渉させ、その干渉縞で照明領域を照明する第1光学系と、前記位相変調装置からの前記第1光束を、前記第1光学系の後側焦点面に集光し、前記位相変調装置からの前記第2光束を前記後側焦点面において前記第1光束が集光される位置と異なる位置に集光する第2光学系と、を備え、前記後側焦点面の前記第1光束の位置を前記第1領域の屈折率分布の変化により調整し、前記後側焦点面の前記第2光束の位置を前記第2領域の屈折率分布の変化により調整する照明光学系が提供される。
【0006】
本発明の第2の態様に従えば、第1の態様の照明光学系と、照明光学系が形成する干渉縞で変調された試料の変調像を撮像する撮像装置と、前記撮像装置が撮像した前記変調像を復調する復調装置と、を備える顕微鏡装置が提供される。
【0007】
本発明の第3の態様に従えば、光源からの光を複数の光束に分岐することと、前記複数の光束のうちの第1光束が入射する第1領域、及び前記複数の光束のうちの第2光束が入射する第2領域を有し、前記第1領域の屈折率分布および前記第2領域の屈折率分布のそれぞれを変化可能な位相変調装置を配置することと、前記位相変調装置からの前記第1光束を、該第1光束および前記第2光束を互いに干渉させ、その干渉縞で照明領域を照明させる光学系の後側焦点面に集光し、前記位相変調装置からの前記第2光束を前記後側焦点面において前記第1光束が集光される位置と異なる位置に集光することと、前記後側焦点面の前記第1光束の位置を前記第1領域の屈折率分布の変化により調整し、前記後側焦点面の前記第2光束の位置を前記第2領域の屈折率分布の変化により調整することと、前記光学系により前記第1光束および前記第2光束を互いに干渉させ、その干渉縞で照明領域を照明することと、を含む照明方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の態様によれば、照明のパターンを調整可能な照明光学系、顕微鏡装置、及び照明方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る顕微鏡装置を示す図である。
図2】本実施形態に係る照明光学系を示す図である。
図3】(a)、(b)は分岐部を説明する図である。
図4】集光点の配列方向と干渉縞の方向との関係を示す図である。
図5】(a)は、レンズアレイの構成を示す図、(b)は位相変調装置の構成を示す図、(c)は、レンズアレイの構成を示す図である。
図6】本実施形態に係る位相変調器を示す図である。
図7】マスクの構成を説明する図である。
図8】顕微鏡装置の動作を示すフローチャートである。
図9】位相変調器による第1光束の進行方向の変化を示す図である。
図10】位相変調器が第1光束に付与する位相の空間分布を示す図である。
図11】照明光Laの波長の切替に伴う干渉縞のピッチの変化を示す図である。
図12】位相変調器が光束に付与する位相の空間分布と、干渉縞との対応関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の説明に先立ち、2次元構造化照明顕微鏡装置(2D−SIM:2D-Structured Illumination Microscopy)と、3次元構造化照明顕微鏡装置(3D−SIM:3D-Structured Illumination Microscopy)とについて説明する。
一般的に、蛍光顕微鏡では、蛍光物質を含む標本の蛍光分布が観察されるが、2D−SIMでは、2光束干渉による干渉縞(構造化照明)を用いて標本を照明することにより、標本の蛍光分布と構造化照明の分布によるモアレが形成される。そして、このモアレ像(変調像)を取得し、復調することにより、標本面と水平な方向(光軸と垂直な方向)の標本の構造に対して、解像度の高い標本画像を得ることができる。
一方、3D−SIMでは、3光束干渉による干渉縞(構造化照明)を用いて標本を照明することにより、光軸方向にも干渉縞を形成することができるため、光軸方向の標本の構造に対してもモアレを発生させることができる。これにより、光軸方向の標本の構造に対しても解像度の高い標本画像を得ることができる。
以下の実施形態の説明では、2D−SIMを例に挙げて説明するが、3D−SIMに対しても適用可能である。
【0011】
図1は、本実施形態に係る顕微鏡装置1を示す図である。図2は、本実施形態に係る照明光学系を示す図である。顕微鏡装置1は、光源装置2、照明光学系3、結像光学系4、撮像装置5、及び制御装置6を備える。光源装置2および照明光学系3により照明装置が構成される。照明光学系3は、顕微鏡装置1のステージ(図示せず)等に配置された蛍光物質を含む標本Sを干渉縞で照明する。結像光学系4は、干渉縞で変調された標本Sの蛍光像(変調像)を撮像装置5の撮像面において結像させる。撮像装置5は、結像光学系4により結像された標本Sの蛍光像を撮像する。制御装置6は、顕微鏡装置1の各部を制御する。本実施形態において、制御装置6は、撮像装置5により撮像された変調像を復調する復調装置7を含む。以下、図面内においてXYZ座標系を用いて説明する。Y軸は照明光学系3におけるダイクロイックミラー23による反射前の光軸方向を規定し、Z軸は照明光学系3におけるダイクロイックミラー23による反射後の光軸方向、光学系24の光軸方向および結像光学系4における測定光Lbの光軸方向を規定し、Y軸はX軸およびZ軸にそれぞれ直交する方向を規定する。
【0012】
光源装置2は、レーザユニット10および光ファイバ11を含む。レーザユニット10は、第1レーザ光源12、第2レーザ光源13、シャッタ14、シャッタ15、ミラー16、ダイクロイックミラー17、及びレンズ18を含む。
【0013】
第1レーザ光源12及び第2レーザ光源13は、それぞれ可干渉光源である。第1レーザ光源12は、第1波長のレーザ光を射出する。シャッタ14は、第1レーザ光源12からのレーザー光の通過と遮断を切替可能である。シャッタ14を通過したレーザ光は、ミラー16で反射した後に、ダイクロイックミラー17で反射する。第2レーザ光源13は、第1波長よりも短波長の第2波長のレーザ光を射出する。シャッタ15は、第2レーザ光源13からのレーザ光の通過と遮断を切替可能である。シャッタ15を通過したレーザー光は、ダイクロイックミラー17を通って、第1レーザ光源12から射出されダイクロイックミラーで反射したレーザ光と同じ光路を進行する。ダイクロイックミラー17を経由した第1波長のレーザ光と第2波長のレーザ光は、レンズ18により集光されて、光ファイバ11の入射端面に入射し、光ファイバ11の内部を伝播する。光ファイバ11の内部を伝播した第1波長のレーザ光と第2波長のレーザ光は、照明光学系3へ導かれる。光ファイバ11の出射端面には、光源像が形成される。
【0014】
照明光学系3は、光学系20、位相変調装置21、光学系22、励起光フィルタ57、ダイクロイックミラー23及び光学系24を含む。なお、本実施例では、照明光学系3が励起光フィルタ57およびダイクロイックミラー23を含む場合を例示するが、励起光フィルタ57およびダイクロイックミラー23を含まなくてもよい。以下の説明において、光源装置2から標本Sに至る光を、適宜、照明光Laという。
【0015】
以下、図1、2を参照しつつ、照明光学系3の構成について詳しく説明する。光学系20は、コリメートレンズ30、偏光板31、分岐部32、集光レンズ33、及びレンズアレイ34を含む。なお、図2においては、励起光フィルタ57の図示を省略している。
【0016】
コリメートレンズ30は、光源装置2からの照明光Laを平行光とする。偏光板31は、コリメートレンズ30からの照明光Laが入射する位置に配置されている。偏光板31により光ファイバ11から出射するレーザ光の偏光を直線方向に変換する。本実施形態において、偏光板31の透過軸は、光ファイバ11からのレーザ光の偏光方向とほぼ同じ方向に設定される。また、偏光板31の透過軸に平行な面は、後述する位相変調装置21の位相変調器36(図6参照)において、電界が印加された際に液晶分子42aが回転する回転面(以下、所定面と称す)に平行となっている。これにより、所定面内で回転した液晶分子42aは、第1光束L1の屈折率を変化させて該第1光束L1の進行方向を変化させることが可能とされている。
【0017】
分岐部32は、偏光板31からの照明光Laが入射する位置に配置される。分岐部32は、光源装置2からの照明光Laを第1光束L1、第2光束L2および第3光束L3を含む複数の光束に分岐する。分岐部32は、例えば、回折光学素子であり、光源装置2からの照明光Laが回折により分岐される。分岐部32において、照明光Laが回折され、複数の次数の回折光が生じる。以下、説明のため、分岐部32から出射した+1次回折光を第1光束L1とし、−1次回折光を第2光束L2とし、0次回折光を第3光束L3とするが、分岐部32からは、これらの回折光以外の高次の回折光も出射されていてもよい。各回折光は、次数に応じた方向に伝播する。
【0018】
本実施形態において、分岐部32は、図1に示す並進機構35によって並進移動が可能である。並進機構35は、ピエゾモータ等のアクチュエータを含む。並進機構35が分岐部32を併進移動させると、干渉縞の位相がシフトする。顕微鏡装置1は、分岐部32を併進移動させて干渉縞の位相をシフトさせながら、復調装置7の復調演算に必要とされる枚数の変調画像を取得する。
【0019】
また、分岐部32は、図1に示す回転機構38によって回転可能に構成されている。回転機構38は、例えば、回転ステージである。回転機構38が、分岐部32を回転させると、干渉縞の方向(波数ベクトル)の向きがそれに応じて変わる。顕微鏡装置1は、回転機構38により分岐部32を回転させて、干渉縞の向きを変えて、さらに、分岐部32を併進移動させて干渉縞の位相をシフトさせながら、復調装置7の復調演算に必要とされる枚数の変調画像を取得する。
【0020】
つまり、変調画像を復調するには、位相の異なる複数の変調画像のデータが必要であり、そのために、分岐部32を格子ピッチの方向へシフトさせながら変調像の検出を繰り返す必要がある。さらに、超解像効果を被観察物上の各方向に亘り得るためには、分岐部32の配置方向を回転させ、各々の回転位置においてこのようなシフトを行う必要がある。したがって、分岐部32には、シフト用の並進機構35と回転用の回転機構38とを組み合わせた機構が必要となる。
【0021】
ここで、分岐部32を構成する回折光学素子について詳しく説明する。
図3(a)は、分岐部32を光ファイバ11側から見た図であり、図3(b)は、光学系24の後側焦点面(瞳面24A)を撮像装置5側から見た図である。なお、図3(a)は模式図であるため、図3(a)に示した分岐部32の構造周期は実際の構造周期と同じとは限らない。なお、本実施形態は2D−SIMに関するものであって、0次回折光を遮光している。そのため、図3(b)においては、便宜上、0次回折光はマスク51に遮光されていないものとし、該0次回折光の集光点19aを図示した。しかしながら、0次回折光は、実際には後述のようにマスク51で遮光されることから、瞳面24Aにて集光点を形成することはない(図1参照)。本実施形態において、±1次回折光束は、ダイクロイックミラー23で反射されて、光学系24の後側焦点面(瞳面24A)に集光する。そのため、図3(b)において、光学系24の後側焦点面(瞳面24A)は、XY平面に平行な面で規定される。
【0022】
図3(a)に示すように分岐部32は、照明光学系3の光軸AZと垂直な面内(XZ平面内:図2参照)において所定方向に周期構造を有した1方向回折格子である。以下、周期構造の形成方向はZ軸方向であると仮定する。
【0023】
この分岐部32の材質は、例えばガラスである。分岐部32の周期構造は、濃度(透過率)を利用して形成された濃度型の周期構造、段差(位相差)を利用して形成された位相型の周期構造の何れであってもよいが、位相差型の周期構造の方が+1次回折光の回折効率が高いという点で好ましい。
【0024】
このような分岐部32に入射した平行光束は、周期構造の方向(Z軸方向)にかけて分岐した回折光束群に変換される。
【0025】
この回折光束群には、0次回折光束及び±1次回折光束が含まれ、このうち互いの次数が共通である±1次回折光束は、光軸AZに関して対称な方向に進行し、0次回折光束は、光軸AZに沿って進行する。
【0026】
これらの±1次回折光束は、位相変調装置21及び光学系22を通過した後、光学系24の後側焦点面(瞳面24A)の互いに異なる位置に集光する。一方、0次回折光束は、本実施形態ではマスク51で遮光されるが、遮光されない場合、光学系24の後側焦点面(瞳面24A)において、±1次回折光束が集光する位置とは異なる位置に集光する。
【0027】
図3(b)に示すように、上述のように便宜上、マスク51に遮光されないとした場合の0次回折光束の集光点19aは光軸AZ上に位置し、±1次回折光束の集光点19b、19cは、光軸AZに関して対称である。因みに、図1に示す回転機構38の後述する回動角θ’がゼロであるときには、集光点19a、19b、19cは、周期構造の方向(図3(a)のZ軸方向)、すなわち、図3(b)のY軸方向に沿って配列される。
【0028】
なお、ここでいう集光点とは、最大強度の8割以上の強度を有する領域の重心位置のことである。
また、以上の分岐部32は、上述の並進機構35によって並進移動が可能である。並進機構35による分岐部32の並進移動の方向は、照明光学系3の光軸AZと垂直な方向であって、周期構造の方向(Z軸方向)に対して非垂直な方向である。この方向に分岐部32が並進移動すると、干渉縞の位相がシフトする。なお、詳細については後述する。以下、本実施例では、分岐部32が一次元回折格子である場合を例に挙げて説明する。
【0029】
図4は、集光点19a、19b、19cの配列方向と干渉縞の方向との関係を示す図である。
【0030】
先ず、回転機構38の回動角θが0°であるときにおける集光点19b、19a、19cの配列方向を、第1方向V1(Y軸方向)とおく(図4(a1)参照)。このとき、標本Sに形成される干渉縞の方向は、第1方向V1に対応した方向となる(図4(a2)参照)。
【0031】
次に、回転機構の回動角θが+120°だけ変化すると、集光点19b、19a、19cの配列方向は、第1方向V1から+120°だけ回転した第2方向V2となる(図4(b1)参照)。このとき、標本Sに形成される干渉縞の方向は、第2方向V2に対応した方向となる(図4(b2)参照)。
【0032】
次に、回転機構38の回動角θが更に+120°だけ(すなわち240°)変化すると、集光点19b、19a、19cの配列方向は、第2方向V2から+120°だけ回転した第3方向V3となる(図4(c1)参照)。このとき、標本Sに形成される干渉縞の方向は、第3方向V3に対応した方向となる(図4(c2)参照)。
【0033】
回折光の回折角αは、照明光Laの波長λ、及び分岐部32の回折パターンのピッチpを用いて、α=sin−1(λ/p)で表される。すなわち、照明光Laの波長λが長いほど、回折角αが大きい。本実施形態においては、上述したように、2D−SIMを例に挙げて説明しているため、照明光学系3は、±1次回折光の2光束干渉により干渉縞を形成する。そのため、本実施形態においては、0次回折光、±1次回折光以外の回折光についての説明を省略する。
【0034】
集光レンズ33は、分岐部32からの照明光Laが入射する位置に配置されている。集光レンズ33は、第1光束L1、第2光束L2、及び第3光束L3のそれぞれを集光する。集光レンズ33の前側焦点位置近傍に、分岐部32が配置されていることが望ましい。これは瞳共役面20aにおいて、光ファイバ11の像を像側テレセンで形成するためである。これにより、レンズ位置ずれ等による倍率変更に伴う瞳位置ずれを抑制でき、さらに各回折光の分離を確実に行うことができる。集光レンズ33の後側焦点の位置には、光学系24(対物レンズ)の後側焦点面(瞳面24A)と共役な瞳共役面20aが形成される。第1光束L1、第2光束L2、及び第3光束L3は、瞳共役面20a上の互いに異なる位置に収束する。瞳共役面20aを通った各光束は、レンズアレイ34に入射する。レンズアレイ34はレンズアレイ50との組み合わせにより、両側テレセン系を構成することが望ましく、そのために、レンズアレイ34の前側焦点位置はレンズ33の後側焦点位置に一致させることが望ましい。
【0035】
本実施形態において、レンズアレイ34は、分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)に応じて構成されている。上述したように、回転機構38を動作させて分岐部32を回転させるので、回転機構38の回転角度に応じて、分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)が変わることになる。したがって、レンズアレイ34は、回折方向(分岐方向)に応じて設けられたレンズ要素を有する。
【0036】
図5(a)はレンズアレイ34の構成を示す図である。図5(a)に示されるレンズアレイ34は、図4を参照して説明したように、回転機構38の回動角θが0°、+120°、240°である場合のレンズアレイ34の構成の一例を示す図である。
図5(a)に示すように、レンズアレイ34は、0次回折光をコリーメートするレンズ要素34aと、±1次回折光をコリーメートするレンズ要素34aの周囲に配置された6つのレンズ要素34b〜34gを含む。6つのレンズ要素34b〜34gのうち、レンズ要素34aを挟むように配置される2個1組のレンズ要素34b、34eは、回転機構38の回動角θが0°であるときに分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)である第1方向V1に対応しており、レンズ要素34d、34gは、回転機構38の回動角θが120°であるときに分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)である第2方向V2に対応しており、レンズ要素34c、34fは、回転機構38の回動角θが240°であるときに分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)である第3方向V3に対応している。
このような2個1組のレンズ要素34b、34e、レンズ要素34d、34g、及びレンズ要素34c、34fが3組設けられる。そのため、本実施形態においては、レンズアレイ34を分岐部32の回転に同期して回転させる必要が無い。
【0037】
図2に示したように、位相変調装置21は、第1光束L1と第2光束L2とが空間的に分離した位置、すなわち第1光束L1の光路と第2光束L2の光路とが重複しない位置に配置されている。位相変調装置21は、第1光束L1および第2光束L2のそれぞれの進行方向を変化可能である。
【0038】
図5(b)は位相変調装置21の構成を示す図である。図5(b)に示される位相変調装置21は、図4を参照して説明したように、回転機構38の回動角θが0°、+120°、240°である場合の位相変調装置21の構成の一例を示す図である。
図5(b)に示すように、位相変調装置21は、回転機構38の回動角θが0°のときに、レンズ要素34bからの第1光束L1が入射する第1領域A1と、レンズ要素34eからの第2光束L2が入射する第2領域A2とを含む。第2領域A2の位置は、照明光学系3の光軸AZに関して、第1領域A1の位置と対称的である。
さらに、位相変調装置21は、回転機構38の回動角θが120°のときに、レンズ要素34dからの第1光束L1が入射する第1領域A3と、レンズ要素34gからの第2光束L2が入射する第2領域A4とを有する。第1領域A3の位置は、照明光学系3の光軸AZに関して、第2領域A4の位置と対称的である。
さらに、位相変調装置21は、回転機構38の回動角θが240°のとき、レンズ要素34fからの第1光束L1が入射する第1領域A5と、レンズ要素34cからの第2光束L2が入射する第2領域A6とを含む。第1領域A5の位置は、照明光学系3の光軸AZに関して、第2領域A6の位置と対称的である。
【0039】
すなわち、本実施形態において、第1領域A1および第2領域A2は、回転機構38の回動角θが0°であるときに分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)である第1方向V1に対応しており、第1領域A3および第2領域A4は、回転機構38の回動角θが120°であるときに分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)である第2方向V2に対応しており、第1領域A5および第2領域A6は、回転機構38の回動角θが240°であるときに分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)である第3方向V3に対応している。
このような2個1組の第1領域A1と第2領域A2、第1領域A3と第2領域A4、及び第1領域A5と第2領域A6が3組設けられる。そのため、本実施形態においては、位相変調装置21を分岐部32の回転に同期して回転させる必要が無い。
【0040】
位相変調装置21は、第1領域A1、A3、A5の屈折率分布を、電界を加えることにより変化させることが可能であり、第1領域A1、A3、A5の屈折率分布により第1光束L1の進行方向を変化可能である。同様に、位相変調装置21は、第2領域A2、A4、A6の屈折率分布を、電界を加えることにより変化させることが可能であり、第2領域A2、A4、A6の屈折率分布により第2光束L2の進行方向を変化可能である。図2には、位相変調装置21により進行方向が変化した後の第1光束L1´および第2光束L2´を点線で示した。
【0041】
本実施形態において、位相変調装置21は、図5(b)に示すように、第1領域A1、A3、A5にそれぞれ配置された位相変調器36、及び第2領域A2、A4、A6にそれぞれ配置された位相変調器37を含む。すなわち、本実施形態において、位相変調装置21は、位相変調器36、37をそれぞれ3個ずつ含む。
位相変調器36および位相変調器37は、それぞれ、いわゆる空間光変調器(SLM;Spatial Light Modulator)である。位相変調器36は、レンズアレイ34のレンズ要素34b、34d、34fの後側焦点の位置にそれぞれ配置される。位相変調器37は、レンズアレイ34のレンズ要素34e、34g、34cの後側焦点の位置にそれぞれ配置される。
【0042】
本実施形態において、位相変調器37は、位相変調器36と同様の構成である。以下、位相変調器36の構成を代表的に説明し、位相変調器37の説明については簡略化する。
図6は、本実施形態に係る位相変調器36を示す図である。本実施形態において、位相変調器36は、いわゆる透過型の液晶パネルを含む。位相変調器36は、第1基板40と、第1基板40に対向する第2基板41と、第1基板40と第2基板41との間に配置された液晶層42と、液晶層42に電界を印加する第1電極43および第2電極44と、を含む。
【0043】
第1基板40及び第2基板41のそれぞれは、例えばガラス基板であり、第1光束L1が透過する特性を有する。第1電極43は、第1基板40において分割された領域(画素47)毎に設けられている。第1基板40には第1電極43ごとに電圧を印加可能なアクティブマトリクス回路45が設けられている。第2電極44は、複数の第1電極43に対して共通に、第2基板41に設けられている。液晶層42は、屈折率異方性を有する液晶分子42aを含む。第1電極43と液晶層42との間、及び第2電極44と液晶層42との間には、それぞれ、配向膜46が形成されている。配向膜46は、液晶層42に含まれる液晶分子42aの方位を規制する。
【0044】
このように、位相変調器36は、各第1電極43と第2電極44との間に電界を印加可能である。電界が印加された画素47は、屈折率異方性を有する液晶分子42aの方位角が変化することにより屈折率が変化し、結果として、この画素47を通る光に屈折率に応じた位相を付与する。位相変調器36は、複数の画素47における屈折率分布を調整することにより、第1光束L1の位相分布を変化させることができる。
【0045】
図2の説明に戻り、光学系22は、位相変調装置21からの第1光束L1を、瞳共役面20bに集光する。また、光学系22は、位相変調装置21からの第2光束L2を、瞳共役面20b上の第1光束L1と異なる位置に集光する。ここで、瞳共役面20bとは、レンズアレイ50の焦点位置(後側焦点位置)であって、光学系24の後側焦点面(瞳面24A)の共役面である。
瞳共役面20bに向かった回折光束群は、瞳共役面20bの近傍に配置された後述のマスク51へ入射する。このマスク51を通過した回折光束群は、後述の高次光カット部材へ入射する。
本実施形態において、光学系22と光学系24との間の光路には、ダイクロイックミラー23(図1参照)が配置されており、光学系22からの第1光束L1および第2光束L2は、ダイクロイックミラー23で反射して光学系24に入射する。
【0046】
照明光学系3の光学系22は、レンズアレイ50と、マスク51と、高次光カット部材55と、レンズ25と、視野絞り26と、フィールドレンズ27とを含む。
【0047】
図5(c)はレンズアレイ50の構成を示す図である。図5(c)に示されるレンズアレイ50は、図4を参照して説明したように、回転機構38の回動角θが0°、+120°、240°である場合のレンズアレイ50の構成の一例を示す図である。
図5(c)に示すように、レンズアレイ50は、位相変調装置21を介した第3光束(0次回折光)L3を集光するレンズ要素50aと、第1光束L1および第2光束L2(±1次回折光)を集光するレンズ要素50aの周囲に配置された6つのレンズ要素50b〜50gを含む。6つのレンズ要素50b〜50gのうち、レンズ要素50aを挟むように配置される2個1組のレンズ要素50b、50eは、回転機構38の回動角θが0°であるときに分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)である第1方向V1に対応しており、レンズ要素50d、50gは、回転機構38の回動角θが120°であるときに分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)である第2方向V2に対応しており、レンズ要素50c、50fは、回転機構38の回動角θが240°であるときに分岐部32により回折される光の回折方向(分岐方向)である第3方向V3に対応している。
このような2個1組のレンズ要素50b、50e、レンズ要素50d、50g、及びレンズ要素50c、50fが3組設けられる。そのため、本実施形態においては、レンズアレイ50を分岐部32の回転に同期して回転させる必要が無い。
【0048】
光学系22は、例えば、両側テレセントリックに構成される。レンズアレイ50の各レンズ要素50b〜50gの前側焦点の位置は、レンズアレイ34の各レンズ要素34b〜34gの後側焦点と実質的に同じ位置である。すなわち、位相変調器36は、レンズ要素50b、50d、50fの前側焦点の位置に配置される。位相変調器37は、レンズ要素50c、50e、50gの前側焦点の位置に配置される。
【0049】
光学系24(対物レンズ)の後側焦点面(瞳面24A)において、第1光束L1が入射する位置(図3(b)の集光点19b)、及び後側焦点面(瞳面24A)に第2光束L2が入射する位置(図3(b)の集光点19c)は、それぞれ、位相変調装置21から出射する際の各光束の進行方向に依存する。すなわち、位相変調装置21は、第1光束L1の進行方向を変化させて第1光束L1´とすることにより、瞳共役面20b上で第1光束L1(第1光束L1´)の集光位置(集光点119b)を調整可能である(図2参照)。
また、位相変調装置21は、第2光束L2の進行方向を変化させて第2光束L2´とすることにより、瞳共役面20b上で第2光束L2(第2光束L2´)の集光位置(集光点119c)を調整可能である(図2参照)。本実施形態において、照明光学系3の光軸AZと瞳共役面20bとの交点である第3光束L3が集光する集光位置(集光点119a)から第1光束L1の集光点119bまでの距離は、集光点119aから第2光束L2の集光点119cまでの距離とほぼ同じに調整される。すなわち、±1次回折光束である第1光束L1および第2光束L2の集光点119b、119cは、それぞれ光軸AZに関して対称の位置に調整される(図2参照)。
【0050】
マスク51は、瞳共役面20bに配置される。マスク51を通った第1光束L1および第2光束L2は、光学系24を通って標本Sに入射し、標本S上で互いに干渉して干渉縞を生じる。
【0051】
ここで、マスク51について詳しく説明する。
【0052】
図7(a)は、マスク51を説明する図である。図7(a)に示すとおりマスク51は、円形の透明基板の一部に円形の遮光部51cを形成してなる空間フィルタである。
【0053】
マスク51の遮光部51cは、0次回折光束の光路(集光点119a)をカバーし、マスク51の非遮光部(透過部51b)は、±1次回折光束(第1光束L1および第2光束L2)の光路となりうる領域(集光点119b、119cの掃引軌道)をカバーする。
【0054】
このマスク51は回動機構56により、照明光学系3の光軸AZと平行、かつその光軸AZから離れた直線(軸AR)の周りに回動可能である。
【0055】
なお、回動機構56には、例えば、マスク51を保持し、かつ軸ARの周りに回転可能な不図示の回動軸と、その回動軸へ回転力を与える不図示のモータ(回転モータ)とが備えられる。このモータが駆動されると、回転軸が回転し、マスク51が軸ARの周りに回転する。
【0056】
マスク51の回動角が図7(a)に示した基準角度(0°)に設定されると、遮光部51cが第3光束L3(0次回折光)の光路(集光点119a)に挿入され、マスク51の回動位置が基準角度から外れた所定角度(例えば30°)に設定されると、遮光部51cが第3光束L3(0次回折光)の光路から外れる。
【0057】
したがって、マスク51の回動角を0°と30°との間で切り換えれば、第1光束L1および第2光束L2(±1次回折光束)をオンしたまま第3光束L3(0次回折光)のみをオン/オフすることができる。
【0058】
但し、マスク51の回動角が基準角度(0°)、所定角度(30°)の何れである場合にも、マスク51の遮光部51cは、第1光束L1および第2光束L2(±1次回折光束)の光路となりうる領域(集光点119b、119cの掃引軌道)を遮ることは無いものとする。
【0059】
なお、ここではマスク51を回動可能な空間フィルタとしたが、スライド可能な空間フィルタや、固定配置された液晶素子などでマスク51を構成してもよい。液晶素子の配向を、電界を加えることにより制御すれば、液晶素子の屈折率異方性を制御することができるので、液晶素子をマスク51として機能させることができる。ただし、この場合は偏光子と組み合わせることが望ましい。
【0060】
次に、高次光カット部材55を詳しく説明する。
【0061】
図7(b)は、高次光カット部材55を説明する図である。図7(b)に示すとおり高次光カット部材55は、円形の不透明基板(マスク用基板)に、円形の開口部55aと輪帯状の開口部55bとを形成してなる空間フィルタである。
【0062】
高次光カット部材55において円形の開口部55aは、第3光束L3(0次回折光)の集光点119aをカバーしており、輪帯状の開口部55bは、第1光束L1および第2光束L2(±1次回折光束)の光路となりうる領域(集光点119b、119cの掃引軌道)をカバーしている。また、高次光カット部材55において2次以降の高次回折光束の光路となりうる領域は、遮光部(非開口部)となっている。
【0063】
なお、輪帯状の開口部55bの径方向の長さは、位相変調装置21よる第1光束L1および第2光束L2の進行方向の変化に対処できるよう、十分な大きさを有している。
【0064】
因みに、位相変調装置21よる第1光束L1および第2光束L2の進行方向の変化がなかった場合、光源波長をλとおき、分岐部32の構造周期をPとおき、レンズアレイ50の焦点距離をfcとおくと、光軸AZから瞳共役面20bにおける集光点119b、119cまでの高さDは、D=fc×λ/Pで表される。
【0065】
本実施形態において、照明光学系3は、標本Sに入射する照明光Laの偏光状態を該標本Sの表面に対してS偏光に調整する偏光調整部52を備える。偏光調整部52は、位相変調装置21と標本Sとの間の光路(図2ではマスク51と光学系24との間の光路)に配置された1/2波長板を含む。この波長板は、回転可能に設けられており、分岐部32の方向に応じて回転駆動される。より具体的には、分岐部32の縞方向と同じ方向の偏光状態を作るために、1/2波長板は回転駆動される。
【0066】
偏光調整部52を通過した第1光束L1および第2光束L2(±1次回折光束)は、レンズ25によって視野絞り26付近で分岐部32と共役な面を形成する。その後、第1光束L1および第2光束L2の各々は、フィールドレンズ27により収束光に変換され、励起光フィルタ57(図1参照)を通り抜けた後にダイクロイックミラー23で反射し、光学系24の後側焦点面(瞳面24A)上の互いに異なる位置に集光される。励起光フィルタ57は、照明光Laから標本Sの蛍光物質を励起するための励起光のみを透過させるフィルタである。
【0067】
光学系24は、後側焦点面(瞳面24A)上に集光した第1光束L1および第2光束L2(±1次回折光束)の各々を分岐部32と光学的に共役な標本S上で互いに干渉させ、その干渉縞で、標本Sを照明する。本実施形態において、光学系24は、いわゆる対物レンズである。光学系24は、例えば、両側テレセントリックに構成される。
【0068】
このようにして照明光学系3は、標本S上に干渉縞を形成し、標本Sを干渉縞で照明する。以下の説明において、照明光Laで照らされている標本Sから撮像装置5に至る光を、適宜、測定光Lbという。
【0069】
図1の結像光学系4は、標本Sを物体面としたときの像面を形成する。結像光学系4は、光学系24、ダイクロイックミラー23、励起光カットフィルタ58および光学系53を含む。すなわち、光学系24は、照明光学系3の一部と結像光学系4の一部とを兼ねている。標本Sからの測定光Lbは、光学系24を通ってダイクロイックミラー23に入射する。ダイクロイックミラー23は、照明光Laの少なくとも一部が反射し、かつ測定光Lbの少なくとも一部が透過する特性を有する。励起光カットフィルタ58は、照明光Laをカットし、標本Sからの蛍光を透過させるフィルタである。光学系53は、光学系24からの測定光Lbがダイクロイックミラー23および励起光カットフィルタ58を通って入射する位置に、配置されている。
【0070】
撮像装置5は、例えばCMOSセンサー、CCDセンサーなどのイメージセンサーを含む。このイメージセンサーは、複数の画素を有し、複数の画素のそれぞれに配置された光電変換層を含む。撮像装置5において、光電変換層が配置される面を、適宜、受光面という。撮像装置5は、結像光学系4が形成する像面に撮像装置5の受光面がほぼ一致するように、配置されている。換言すると、結像光学系4は、標本の像を撮像装置5の受光面に形成する。撮像装置5は、照明光学系3により形成された干渉縞で標本Sが照明されている状態において、干渉縞で変調された標本Sの蛍光像(変調像)を撮像可能である。以下の説明において、干渉縞で変調された標本Sを撮像装置5で撮像した像を、適宜、モアレ像(変調画像)という。
【0071】
復調装置7は、撮像装置5で撮像された変調画像を示す変調画像データを、撮像装置5から取得する。復調装置7は、照明光学系3が標本Sに形成する干渉縞のパラメーター(空間周波数、位相)、及び撮像装置5からの変調画像を使って変調標本パターンを復調することにより、標本Sのパターンに相当する復調像を生成する。
【0072】
[干渉縞に基づく画像復調]
以下、復調装置7がモアレ像を復調する方法について説明する。復調方法は、例えば、米国特許番号8115806に記載の方法が使用できるが、この方法に限られない。以下、復調方法の一例を説明する。まず、簡単のため、2D−SIMの復調方法を例に挙げて説明する。
【0073】
点像強度分布Pr(x)を持つ光学系において、蛍光密度分布Or(x)を有する標本に対し、単一の空間周波数成分Kを持つ正弦波状の照明を与えた場合に取得される標本の像は、下記の式(1)で表すことができる。式(1)におけるφは、構造化照明の位相である。
【0074】
【数1】
【0075】
ここで、l=−1,0,1であり、mlは照明光の変調振幅である。l=0の成分は、構造化照明によって変調を受けない0次成分であり、l=−1,1の成分はそれぞれ、変調を受けた±1次成分(モアレ)である。この式(1)において、記号*は畳み込み積分を表す。以下、実空間における量には添え字rを、波数空間における量には添え字kをつけて表す。この式(1)をフーリエ変換し、波数空間で表記すると、下記の式(2)が得られる。この式(2)において、Pr(x)のフーリエ変換Pk(k)は光学系の伝達関数 (OTF; Optical Transfer Function)を表す。
【0076】
【数2】
【0077】
この式(2)におけるl=−1,1に対応するOk(k−K),Ok(k+K)は、標本の持つ空間周波数成分を、構造化照明の空間周波数成分Kだけずらすことを意味している。すなわち、これはkという空間周波数成分までしか取得することのできない光学系であっても、標本が持つそれより高い空間周波数成分を取得できることを表している。このために、干渉縞の周期はこの光学系で結像できる範囲でできるだけ短いことが望ましい。
【0078】
ここで、干渉縞の縞パターンをずらしながら撮像を行うと、同一の空間周波数成分、変調振幅を持ち、位相φのみ異なる画像がN枚得られる。このときのj番目の画像信号強度
Ikj(k)は、j番目の画像の構造化照明位相をφjと表すと、下記の式(3)で表される。
【0079】
【数3】
【0080】
すなわち、この式(3)によりN個の方程式が得られる。ここで、これらの方程式においてOk(k+lK),(l=−1,0,1)が未知数であるため、N≧3であれば、これらの方程式を解くことができる。
【0081】
ここで、強度分布を持たない照明を与えた場合の光学系が持つPk(k)が検出可能な範囲は、光波長λ、対物レンズのNAに対して、k=−2NA/λ〜2NA/λであるから、上記で得られたOk(k+lK)はl=−1,0,1に対して、k=−2NA/λ−K〜2NA/λ−K、k=2NA/λ〜2NA/λ、k=−2NA/λ+K〜2NA/λ+Kの情報を含む。したがって、Ok(k+lK)全体としてはk=−2NA/λ−K〜2NA/λ+Kまでの情報を含むので、これをOk(k)と定義しなおして逆フーリエ変換を行い実空間の情報(標本Or(x)の画像)に戻すことにより、高い解像度を持った顕微鏡画像を得ることができる。すなわち、復調装置7は、上述した演算によって画像復調を行うことにより、超解像効果を得ることができる。
【0082】
この結果得られた像は、空間変調がなされた1次元方向のみに高い解像度を持つ。さらに、空間変調を施す方向を少なくとも2方向に変化させ、それぞれの方向について1次元と同様の処理を施すことにより、復調装置7は、2次元方向においておよそ等方的に高い解像度を持った顕微鏡画像を得ることができる。なお、空間変調画像に対して最小自乗法による連立方程式を構成しておき、これを解くことによっても、復調装置7は、高い解像度を持った顕微鏡画像を得ることができる。
【0083】
このように、2D−SIMでは、1次元方向において、干渉縞の位相を変化させて少なくとも3枚の画像を取得することにより、1次元方向において、高い解像度を持った標本画像を取得することができる。ここでは2D−SIMにおける復調方法を説明したが、3D−SIMでは、3光束干渉による干渉縞を用いるため、取得画像に混在する成分は、変調を受けていない0次成分、標本面内の1次元方向における超解像成分となる±2次成分、光軸方向の超解像成分となる±1次成分の5成分となる。したがって、3D−SIMでは、未知数が5つとなるので、少なくとも5枚の画像を取得することにより、上述した2D−SIMと同様に、画像を復元することができる。3D−SIMでは面内方向に加えて、光軸方向においても超解像観察を実現できる。
【0084】
次に、顕微鏡装置1の動作について説明する。図8は、顕微鏡装置1の動作を示すフローチャートである。
図1に示した制御装置6は、並進機構35を制御し、並進機構35により分岐部32を所定の位置にセットする(ステップS1)。次に、制御装置6は、光源装置2を制御し、光源装置2からの照明光Laにより標本S上に干渉縞を形成する(ステップS2)。次に、制御装置6は、並進機構35により分岐部32を並進移動させる(ステップS3)。次に、制御装置6は、並進機構35により分岐部32を格子ピッチの方向へシフトさせつつ、撮像装置5を制御して、撮像装置5に変調画像を撮像させる(ステップS4)。次に、制御装置6は、変調画像の復調演算に必要とされる枚数の変調画像が撮像されているか否かを判定する(ステップS5)。制御装置6は、変調演算に必要な枚数の変調画像が撮像されていない場合(ステップS5;No)に、ステップS5の処理を適宜繰り返すことによって、変調演算に必要な枚数の変調画像を取得する。一方、制御装置6は、変調演算に必要な枚数の変調画像が撮像されている場合(ステップS5;Yes)に、超解像効果を被観察物上の各方向に亘り得るべく干渉縞の向きを変更するか否かを判定する(ステップS6)。制御装置6は、干渉縞の向きを変更する場合(ステップS6;Yes)に、回転機構38を制御し、回転機構38により分岐部32を回転させる(ステップS7)。そして、ステップS2〜ステップS5の処理を適宜繰り返すことによって、変更後の干渉縞の向きにおいて変調演算に必要な枚数の変調画像を取得する。制御装置6は、干渉縞の向きを変更しない場合(ステップS6;No)に、被観察物上の各方向に亘って超解像効果が得られる変調画像を取得したと判定し、復調装置7による復調演算を実行する(ステップS8)。このようにして、顕微鏡装置1は、高い解像度を持った顕微鏡画像を得ることができる。なお、制御装置6は、変調演算に必要な枚数の変調画像が撮像される毎に、復調装置7による復調演算(ステップS8)を実行するようにしても構わない。すなわち、ステップS5とステップS6との間において、ステップS8を実行するようにしても良い。
【0085】
次に、復調像の分解能について説明する。ここで、結像光学系4のカットオフ周波数Fcutoffとし、照明光学系3(光学系24)が形成する干渉縞の空間周波数をFiとする。また、光強度が空間的に均一な照明光で照明されている状態(以下、非変調時という)の標本の像を、結像光学系4を介して取得した場合の分解能をD1とする。また、干渉縞により変調された標本Sのパターン(変調標本パターン)の像を、結像光学系4を介して取得した場合(以下、変調時という)の分解能をD2とする。分解能D1および分解能D2は、解像可能な最小寸法に相当し、その値が小さいほど解像度が高いことを示す。
【0086】
ここで、結像光学系4のカットオフ周波数をFcutoff、干渉縞の空間周波数をFiとすると、D1=1/Fcutoffであり、D2=1/(Fcutoff+Fi)である。非変調時の分解能D1に対する変調時の分解能D2の比(D2/D1)は、超解像効果を示す指標であり、その値が大きくなるほど、結像光学系4のカットオフ周波数Fcutoffで定まる分解能D1よりも解像度が高い像が得られることを示す。D2/D1は、下記の式(4)で表される。
D2/D1=Fcutoff/(Fcutoff+Fi) ・・・(4)
【0087】
カットオフ周波数Fcutoffは、結像光学系の開口数NA、および測定光の波長λを用いて、下記の式(5)で表される。また、干渉縞の空間周波数Fiは、干渉縞の間隔の逆数であり、瞳面24A上の第1光束L1の集光点19bから第2光束L2の集光点19cまでの距離を2dとし、光学系24の焦点距離をfobjとすると、ヤングの干渉縞の式から下記の式(6)で近似できる。
Fcutoff=2×NA/λ ・・・(5)
Fi=2d/(fobj×λ) ・・・(6)
【0088】
式(5)及び式(6)を式(4)に代入すると、D2/D1は下記の式(7)で表される。
D2/D1=2×fobj×NA/(2×fobj×NA+2d) ・・・(7)
【0089】
式(7)によれば、超解像効果を示す指標(D2/D1)は、瞳面24A上の第1光束L1の集光点19bから第2光束L2の集光点19cまでの距離2dの関数であることがわかる。本実施形態において、位相変調装置21は、第1光束L1および第2光束L2の進行方向を変化させることにより、瞳面24A上の第1光束L1の集光点19bおよび第2光束L2の集光点19cの位置をそれぞれ調整可能である。すなわち、位相変調装置21は、集光点19bから集光点19cまでの距離2dを調整可能であり、結果として、超解像効果の程度を調整可能である。
【0090】
ところで、顕微鏡装置の分野において、照明光の波長選択の自由度が求められる場合がある。照明光の波長を変更すると、例えば回折格子での回折角が変化すること等で、瞳面上の第1光束の位置から第2光束の位置までの距離が変化することがある。その結果、波長の変更前後で顕微鏡の超解像効果が変化することがあり得る。
【0091】
本実施形態に係る顕微鏡装置1は、瞳共役面20b上における第1光束L1の集光点119bから第2光束L2の集光点119cまでの距離、すなわち、瞳面24A上の第1光束L1の集光点19bから第2光束L2の集光点19cまでの距離を照明光学系3によって調整可能であるので、例えば、照明光Laの波長の変更前後で超解像効果を揃えることもできる。
【0092】
次に、位相変調装置21の動作および光束の進行方向について説明する。本実施形態において、位相変調器36は、第1光束L1の進行方向を、照明光学系3の光軸AZに近づく向き、及び光軸AZから離れる向きに変化可能である。また、位相変調器37は、第2光束L2の進行方向を、照明光学系3の光軸AZに関して第1光束L1の進行方向と対称的に変化可能である。ここでは、位相変調器36の動作および第1光束L1の進行方向の変化について、代表的に説明する。
【0093】
図9は、位相変調器36による第1光束L1の進行方向の変化を示す図である。図9において、符号L1´は、位相変調器36が進行方向を変化させた場合の第1光束L1を示す。図10は、位相変調器36が第1光束L1に付与する位相の空間分布を示す図である。
【0094】
図9および図10において、第1光束L1のビーム断面方向の座標をρとする。ここで、レンズアレイ50のレンズ要素50bとレンズアレイ34のレンズ要素34bとは両側テレセントリック光学系を構成する。これは、製造交差等によりレンズ間隔が変化しても倍率(結像位置)を一定にするためである。
【0095】
図10に示すように、位相変調器36は、位置ρに関して線形の空間分布で表される位相Δφを、第1光束L1に付与する。これにより、位相変調器36を通った第1光束L1´の波面を、位相変調器36を通る前の第1光束L1の波面に対して傾けることができる(図2参照)。第1光束L1の進行方向はその波面の法線方向であり、位相変調器36が第1光束L1の波面を傾けることによって、第1光束L1の進行方向が変化する。なお、ここでは、例として、干渉縞のピッチをより細かくするような位相を付与している。
【0096】
ここで、位相変調器36を通った第1光束L1の進行方向が、位相変調器36を通る前の第1光束L1の進行方向になす角度をβとする。位相変調器36が第1光束L1に付与する位相Δφは、下記の式(8)で表される。このように、位相変調器36は、第1領域A1の屈折率分布により第1光束L1に付与される位相を、第1光束L1の中心光線Lcに交差する方向、すなわち、ビーム半径方向において可変である。
Δφ=2π/λ×ρsinβ+φ ・・・(8)
【0097】
なお、式(8)中のφは、ρ=0の位置で位相変調器36が第1光束L1に付与する位相であり、位相変調器36が第1光束L1に付与する位相の、第1光束L1のビーム径の範囲内での平均値に相当する。本実施形態において、位相変調器36は、液晶層42にネマティック液晶が用いられており、位相Δφを高分解能で可変に制御できる。
【0098】
このように、位相変調器36が第1光束L1内で位相差を付与することにより、図2に示した瞳共役面20b上で第1光束L1が集光する集光点119bがシフトする。瞳共役面20b上で第1光束L1が集光する集光点119bが、位相変調器36が第1光束L1の進行方向を変えない場合と比較してシフトする量Δyは、レンズ要素50bの焦点距離fと、位相変調器36によって第1光束L1の進行方向が曲がる角度βとの間に、下記の式(9)で表される関係が成り立つ。
sinβ=Δy/f ・・・(9)
【0099】
すなわち、瞳共役面20b上の第1光束L1の集光点119b(図1、2参照)のシフト量Δyを設定すると、第1光束L1の進行方向が変化する角度βが式(9)から求まり、第1光束L1の進行方向を角度βだけ変化させる上で、位相変調器36が第1光束L1に付与すべき位相の空間分布を式(8)から求めることができる。
【0100】
また、位相変調器37は、照明光学系3の光軸AZに関して、位相変調器36と対称的な空間分布の位相を第2光束L2に付与する。例えば、図9のように、位相変調器36が第1光束L1に付与する位相φが、照明光学系3の光軸AZから離れるにつれて(位置ρが正方向に向かうにつれて)線形的に増加する場合に、位相変調器37が第2光束L2に付与する位相は、照明光学系3の光軸AZから離れるにつれて(位置ρの負方向に向かうにつれて)線形的に増加するように設定される。このようにして、位相変調装置21は、第1光束L1および第2光束L2が互いに近づくように、あるいは互いに離れるように、第1光束L1および第2光束L2のそれぞれの進行方向を変化可能である。
【0101】
次に、上述の照明光学系3に基づいて、本実施形態に係る照明方法について説明する。照明光学系3において、分岐部32は、光源装置2からの照明光Laを、第1光束L1および第2光束L2を含む複数の光束に分岐する。位相変調装置21の位相変調器36は、瞳共役面20b上の第1光束L1の集光点119bを、第1領域A1の屈折率分布の変化により調整する。位相変調装置21の位相変調器37は、瞳共役面20b上の第2光束L2の集光点119cを、第2領域A2の屈折率分布の変化により調整する。また、光学系22は、位相変調装置21からの第1光束L1および第2光束L2を光学系24の後側焦点面(瞳面24A)上においてそれぞれ異なる位置に集光させる。光学系24は、第1光束L1および第2光束L2を互いに干渉させ、その干渉縞で標本Sを照明する。
【0102】
以上のような照明光学系3は、第1光束L1と第2光束L2との2光束干渉により干渉縞を形成する。標本Sに形成される干渉縞における明暗のピッチΔp(周期)は、レイリーの限界より、下記の式(10)で表される。
Δp=λ/2NA ・・・(10)
【0103】
式(10)においてNAは、光学系24の実効的な照明系の開口数に相当し、瞳面24A上での第1光束L1の集光点19bおよび第2光束L2の集光点19cの位置に比例する。
照明光学系3は、位相変調装置21によって第1光束L1および第2光束L2のそれぞれの進行方向を変化可能であるので、瞳共役面20b上での第1光束L1の集光点119bおよび第2光束L2の集光点119c、すなわち、光学系24の後側焦点面(瞳面24A)上での第1光束L1の集光点19bおよび第2光束L2の集光点19cを調整可能である。その結果、式(10)のNAが可変となり、標本Sに形成される干渉縞のピッチΔpが可変になる。また、顕微鏡装置1は、光学系24の後側焦点面(瞳面24A)上での第1光束L1の集光点19bおよび第2光束L2の集光点19cを照明光学系3によって調整することで、式(7)に示した超解像効果を示すD2/D1を調整可能となる。
【0104】
ところで、光学系24の後側焦点面(瞳面24A)上での第1光束L1の集光点19bおよび第2光束L2の集光点19cを調整する構成としては、位相変調装置21を用いる構成の他に、例えば、液体レンズにより光束の進行方向を変化させる構成、光束の光路でプリズムなどの部材を移動するによって光束の進行方向を変化させる構成などが考えられる。本実施形態に係る照明光学系3は、位相変調装置21によって光束の進行方向を変化させるので、可動部材を減らすことができる。その結果、例えば、部材の移動による振動を減らすこと、部材の移動と比較して高速の応答を実現することなどができる。
【0105】
ところで、光源装置2は、レーザ光の波長を切替えることにより、照明光Laの波長を変更可能である。照明光Laの波長を変化すると、瞳面24A上の第1光束L1の集光点19bの位置および第2光束L2の集光点19cの位置が変化しうる。
【0106】
図11は、照明光Laの波長を切替に伴う干渉縞のピッチの変化を示す図である。図11(a)には、照明光Laに赤色の波長帯のレーザ光を用いた干渉縞を示した。図11(b)には、照明光Laに青色の波長帯のレーザ光を用いた干渉縞を示した。照明光Laの波長を切替える際に、第1光束L1および第2光束L2のそれぞれの進行方向を位相変調装置21によって変化させない場合には、図11(a)及び図11(b)に示すように、相対的に長波長の照明光Laによる干渉縞のピッチdredは、相対的に短波長の照明光Laによる干渉縞のピッチdblueよりも広くなる。そのため、照明光Laに波長の違いにより、式(7)に示した超解像効果を示す指標(D2/D1)が変化する。しかしながら、本実施形態にかかる照明光学系3は、瞳共役面20b上の第1光束L1の集光点119bおよび第2光束L2の集光点119c(光学系24の後側焦点面(瞳面24A)上での第1光束L1の集光点19bおよび第2光束L2の集光点19c)を、位相変調装置21によって調整可能であるので、照明光Laの波長を変更しつつ、超解像効果の程度を保持することなどができる。
【0107】
なお、位相変調装置21は、第1光束L1に付与する位相量および第2光束L2に付与する位相量を調整することによって干渉縞の位相を調整することもできる。図12は、位相変調器36、位相変調器37が第1光束L1、第2光束L2に付与する位相の空間分布と、干渉縞との対応関係を示す表である。
【0108】
図12に示す第1状態、第2状態、及び第3状態は、例えば、図1に示した並進機構35による分岐部32の併進移動で干渉縞を変化させる際の3状態に対応する。位相変調器36が第1光束L1に付与する位相Δφの位置ρに対する傾きは、第1状態、第2状態、及び第3状態のいずれも同じである。また、位相変調器37が第2光束L2に付与する位相Δφの位置ρに対する傾きは、位相変調器36が第1光束L1に付与する位相Δφの傾きの正負を反転させた値であり、第1状態、第2状態、及び第3状態のいずれにおいても同じである。そのため、干渉縞の方向は、第1状態、第2状態、及び第3状態のいずれにおいても同じである。なお、ここでは、例として、干渉縞のピッチをより粗くするような位相を付与している。
【0109】
また、第1状態、第2状態、及び第3状態において、位相変調器36が第1光束L1に付与する位相Δφは、オフセットが互いに異なる。第1状態はρ=0においてΔφ=φ+1であり、第2状態はρ=0においてΔφ=φ+2、第3状態はρ=0においてΔφ=φ+3である。φ+2はφ+1よりも大きく、φ+3はφ+2よりもさらに大きい。位相変調器37が第2光束L2に付与する位相Δφは、Δφ=2πn(nは自然数)に関して、位相変調器36が第1光束L1に付与する位相Δφと対称的である。このように第1状態、第2状態、及び第3状態を切り替えることにより干渉縞の位相がシフトする。そのため、例えば、図1に示した並進機構35を省くこともでき、可動部材を減らすことができるので、装置の小型化や低コスト化、高速化などの面で有利である。なお、並進機構35による干渉縞のシフトと、位相変調装置21による干渉縞のシフトとを併用することもできる。
【0110】
なお、位相変調装置21は、標本Sにエバネッセント場が形成されるように、瞳共役面20b上の第1光束L1の集光点119bおよび第2光束L2の集光点119c(光学系24の後側焦点面(瞳面24A)上での第1光束L1の集光点19bおよび第2光束L2の集光点19c)を調整してもよい。エバネッセント場が形成される条件は、全反射条件(TIRF条件)などと呼ばれることがある。例えば、位相変調装置21は、標本Sの表面で第1光束L1と第2光束L2のそれぞれが全反射するように、瞳共役面20b上の第1光束L1の集光点119bおよび第2光束L2の集光点119c(光学系24の後側焦点面(瞳面24A)上での第1光束L1の集光点19bおよび第2光束L2の集光点19c)を光軸AZから離れる方向にシフトしてもよい。
【0111】
また、上述の実施形態において、照明光学系3は、2光束干渉により干渉縞を形成しているが、3光束干渉により干渉縞を形成してもよい。例えば、照明光学系3は、分岐部32で生じる0次回折光、±1次回折光の3光束干渉により干渉縞を形成してもよく、顕微鏡装置1は、このような干渉縞を利用した3D−SIMモードを実行可能でもよい。なお、3D−SIMモードにおいては、マスク51において0次回折光を遮光する必要は無い。
【0112】
なお、上述の実施形態においては、照明光学系3を顕微鏡装置1に適用した例を説明したが、照明光学系3は、干渉縞で対象物を照明する各種光学装置に適用できる。
【0113】
また、上述の実施形態においては、位相変調装置21として、位相変調器36、37を複数ずつ備えた構成を例に挙げたが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1光束L1および第2光束L2が入射する領域に対応する画素47を有し、屈折率分布を調整することにより、第1光束L1および第2光束L2の位相分布を変化させることが可能であれば、1つの位相変調器のみで位相変調装置21を構成してもよい。
【0114】
また、上述の実施形態においては、分岐部32の回転に同期させてレンズアレイ34、50、および位相変調装置21を回転させない構成とする場合を例に挙げたが、本発明はこれに限定されない。例えば、レンズアレイ34、50において、第1光束L1および第2光束L2に対応する1組のレンズ要素を設け、これら1組のレンズ要素を分岐部32の回転に同期させて回転させるようにしてもよい。また、位相変調装置21において、第1光束L1および第2光束L2に対応する1組の位相変調器を設け、これら1組の位相変調器を分岐部32の回転に同期させて回転させるようにしてもよい。
【0115】
なお、本実施形態では、照明光学系3は、顕微鏡装置1のステージ(図示せず)等に配置された蛍光物質を含む標本Sを干渉縞で照明する場合を例示したが、顕微鏡装置1のステージ上に標本Sが配置されていない状態で、照明光学系3は、所定の照明領域を干渉縞で照明してもよい。
【0116】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態で説明した要素の1つ以上は、省略されることがある。上述の実施形態で説明した要素は、適宜組み合わせることができる。法令で許容される限りにおいて、上述の各実施形態及び変形例で引用した装置などに関する全ての公開公報及び米国特許の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0117】
1 顕微鏡装置、2 光源装置、3 照明光学系、4 結像光学系、5 撮像装置、6 制御装置、7 復調装置、21 位相変調装置、32 分岐部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12