特許第6414745号(P6414745)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6414745
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】光学素子及び集光型太陽光発電装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20181022BHJP
   G02B 3/08 20060101ALI20181022BHJP
   G02B 7/182 20060101ALI20181022BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20181022BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20181022BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20181022BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20181022BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20181022BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20181022BHJP
   H01L 31/054 20140101ALN20181022BHJP
【FI】
   G02B3/00 A
   G02B3/08
   G02B7/182 100
   C08J5/18CEY
   C08L53/00
   C08L33/08
   B32B7/02 103
   B32B17/06
   C08J7/00 302
   !H01L31/04 620
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-524807(P2014-524807)
(86)(22)【出願日】2013年7月9日
(86)【国際出願番号】JP2013068695
(87)【国際公開番号】WO2014010571
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2016年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-153534(P2012-153534)
(32)【優先日】2012年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100180068
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 怜史
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩司
(72)【発明者】
【氏名】平松 慎二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勝洋
【審査官】 山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/055798(WO,A1)
【文献】 特開2006−332535(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/056396(WO,A2)
【文献】 国際公開第2010/137695(WO,A1)
【文献】 特開2011−056701(JP,A)
【文献】 特開2000−233945(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/021694(WO,A1)
【文献】 特開2006−091847(JP,A)
【文献】 特開2010−224377(JP,A)
【文献】 特開2010−248339(JP,A)
【文献】 特開平10−158349(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/125722(WO,A1)
【文献】 特開2000−75108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00、3/08
G02B 5/00−5/136
G02B 1/11
H01L 31/04−31/06
H02S 10/00−10/40、30/00−99/00
B32B 1/00−43/00
C08J 5/18
C08J 7/00
C08L 33/08
C08L 53/00
G02B 7/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板と、一方の面に光学機能パターンを有し他方の面が前記透光性基板上に接着された有機性樹脂からなるシート状成形体を備えた光学素子であって、
前記シート状成形体は、引張弾性率が1500MPa以下で、線膨張係数が7.0×10-5/℃以下であり、厚み400μmのときの少なくとも可視光波長帯域の平均透過率が85%以上で、ヘイズ値が1.0%以下であり、
メタルハライドランプを用いて、紫外線を含む光線を1kW/m2の照度で600時間照射した場合に、少なくとも350nm〜600nmの波長帯域での平均光透過率の低下が2%以下であり、
前記シート状成形体は、アクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル樹脂(B)とを含む熱可塑性重合体組成物を用いて形成され、
前記熱可塑性重合体組成物は、前記アクリル系ブロック共重合体(A)が、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体であり、重量平均分子量が10,000〜100,000であって;
前記アクリル系ブロック共重合体(A)が、重合体ブロック(a2)の含有量が40質量%以上80質量%以下であるアクリル系ブロック共重合体(A1)と重合体ブロック(a2)の含有量が10質量%以上40質量%未満であるアクリル系ブロック共重合体(A2)を含み;
前記アクリル樹脂(B)が、主としてメタクリル酸エステル単位から構成され;
アクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル樹脂(B)との質量比〔(A)/(B)〕が97/3〜10/90であり、
前記透光性基板が、その面積に対する厚みが、面積1m2に対して厚さが5mm以下であって、前記シート状成形体が前記透光性基板の厚みの1/15以上の厚みで形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記透光性基板が、ガラス基材よりなることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記シート状成形体の中に紫外線吸収剤を含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記透光性基板の中に紫外線吸収剤を含んでいることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記透光性基板の前記シート状成形体が接着されている面と反対側の面に、紫外線吸収層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記透光性基板の前記シート状成形体が接着されている面と反対側の面に、防汚処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記透光性基板の前記シート状成形体が接着されている面と反対側の面に、反射防止処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項8】
前記透光性基板に接着された前記シート状成形体に対する剥離接着強さは25N/25mm以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記シート状成形体の前記透光性基板との接着面を、プラズマ処理、エキシマ処理、コロナ処理のいずれかの処理を施した上で、該接着面に前記透光性基板が接着されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項10】
前記シート状成形体に形成された前記光学機能パターンは、フレネルレンズパターンであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項11】
太陽光を集光する光学素子と、前記光学素子により集光された太陽光を受光して光電変換する太陽電池素子を備えた集光型太陽光発電装置において、
前記光学素子は、請求項10に記載の光学素子であることを特徴とする集光型太陽光発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に光学機能パターンが形成された光学素子及び集光型太陽光発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然エネルギーの利用が注目されており、そのひとつに太陽光のエネルギーを太陽電池によって電力に変換する太陽光発電がある。このような太陽光発電として、発電効率(光電変換効率)を高めて大電力を得るために、同一平面上に複数配置された太陽電池素子の前方側に、太陽光を各太陽電池素子に集光させるための集光レンズ(光学素子)を配設した構成の集光型太陽光発電装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
集光型太陽光発電装置は、集光レンズで太陽光を集光して太陽電池素子に受光させる構成により、高価な太陽電池素子のサイズを小さくできるので、発電装置全体の低コスト化を図ることができる。このため、集光型太陽光発電装置は、日照時間が長く、集光面を大面積化しても設置可能な広大な地域などで、電力供給用途として普及しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−343435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1の集光型太陽光発電装置では、PMMA樹脂からなるシート状の集光レンズの太陽光入射面側の表面には耐環境性などを考慮して透明なガラス基板が接着されている。
【0006】
ところで、集光型太陽光発電装置による発電に適した地域(日照時間が長く、集光面を大面積化しても設置可能な広大な地域)として、例えば、米国の南西部(ネバダ州など)、ヨーロッパの地中海沿岸、中東などが挙げられるが、これらの地域では、昼と夜の温度差、及び夏季と冬季の気温差が非常に大きい。
【0007】
このため、集光型太陽光発電装置の集光レンズを形成する樹脂材として上記のようなPMMA樹脂を用いている場合、上記のような温度差(気温差)が大きい地域では、この温度差によって集光レンズに熱膨張収縮が生じる。例えば、温度差が40度程度ある環境下では、1m2サイズのPMMA樹脂からなる集光レンズに対して、数mm程度の熱膨張収縮が生じる。集光レンズに数mm程度の熱膨張収縮が生じると、接着されているガラス基板の剛直性によって集光レンズの縁部側に反りが発生し、これにより集光された光の一部が太陽電池素子の受光領域からずれるため、発電効率が低下する。
【0008】
また、集光型太陽光発電装置の集光レンズをシリコーン樹脂で形成して、この集光レンズにガラス基板を接着している構成では、線膨張係数がガラス(0.09×10-5/℃)とシリコーン樹脂(25〜30×10-5/℃)とでは大きく異なる。また、シリコーン樹脂は、硬度が低い。
【0009】
このため、集光型太陽光発電装置の集光レンズを形成する樹脂材としてシリコーン樹脂を用いている場合、接着されているガラスとシリコーン樹脂の線膨張係数が大きく異なり、かつシリコーン樹脂の硬度が低いので、上記のような温度差(気温差)が大きい地域では、シリコーン樹脂からなる集光レンズの微細な凹凸形状のフレネルレンズ部分に応力がかかって変形が生じるおそれがある。このように、集光レンズのフレネルレンズ部分に変形が生じると、集光された光の一部が太陽電池素子の受光領域からずれるため、発電効率が低下する。
【0010】
そこで、本発明は、温度差が大きい環境下においても、反りの発生や表面に形成された光学機能パターン(フレネルレンズなど)に応力による変形を防止することができる光学素子及び集光型太陽光発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、透光性基板と、一方の面に光学機能パターンを有し他方の面が前記透光性基板上に接着された有機性樹脂からなるシート状成形体を備えた光学素子であって、前記シート状成形体は、引張弾性率が1500MPa以下で、線膨張係数が7.0×10-5/℃以下であり、厚み400μmのときの少なくとも可視光波長帯域の平均透過率が85%以上で、ヘイズ値が1.0%以下であり、メタルハライドランプを用いて、紫外線を含む光線を1kW/mの照度で600時間照射した場合に、少なくとも350nm〜600nmの波長帯域での平均光透過率の低下が2%以下であり、前記シート状成形体は、アクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル樹脂(B)とを含む熱可塑性重合体組成物を用いて形成され、前記熱可塑性重合体組成物は、前記アクリル系ブロック共重合体(A)が、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体であり、重量平均分子量が10,000〜100,000であって;前記アクリル系ブロック共重合体(A)が、重合体ブロック(a2)の含有量が40質量%以上80質量%以下であるアクリル系ブロック共重合体(A1)と重合体ブロック(a2)の含有量が10質量%以上40質量%未満であるアクリル系ブロック共重合体(A2)を含み;前記アクリル樹脂(B)が、主としてメタクリル酸エステル単位から構成され;アクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル樹脂(B)との質量比〔(A)/(B)〕が97/3〜10/90であり、前記透光性基板が、その面積に対する厚みが、面積1m2に対して厚さが5mm以下であって、前記シート状成形体が前記透光性基板の厚みの1/15以上の厚みで形成されていることを特徴としている。なお、本発明において、線膨張係数はJIS K7197に従い30℃において測定した値であり、引張弾性率はJIS K7127にしたがって測定した値である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記透光性基板がガラス基材よりなることを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記シート状成形体の中に紫外線吸収剤を含んでいることを特徴としている。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記透光性基板の中に紫外線吸収剤を含んでいることを特徴としている。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記透光性基板の前記シート状成形体が接着されている面と反対側の面に、紫外線吸収層が形成されていることを特徴としている。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記透光性基板の前記シート状成形体が接着されている面と反対側の面に、防汚処理が施されていることを特徴としている。
【0018】
請求項7に記載の発明は、前記透光性基板の前記シート状成形体が接着されている面と反対側の面に、反射防止処理が施されていることを特徴としている。
【0019】
請求項8に記載の発明は、前記透光性基板に接着された前記シート状成形体に対する剥離接着強さは25N/25mm以上であることを特徴としている。なお、本発明に記載している剥離接着強さは、JISK685-2で規定されている180度剥離接着強さを測定する手法で測定した値である。
【0020】
請求項9に記載の発明は、前記シート状成形体の前記透光性基板との接着面をプラズマ処理、エキシマ処理、コロナ処理のいずれかの処理を施した上で、該接着面に前記透光性基板が接着されていることを特徴としている。
【0021】
請求項10に記載の発明は、前記シート状成形体に形成された前記光学機能パターンはフレネルレンズパターンであることを特徴としている。
【0022】
請求項11に記載の発明は、太陽光を集光する光学素子と、前記光学素子により集光された太陽光を受光して光電変換する太陽電池素子を備えた集光型太陽光発電装置において、前記光学素子は請求項10に記載の光学素子であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る光学素子によれば、透光性基板に接着された有機性樹脂からなるシート状成形体は、引張弾性率が1500MPa以下、線膨張係数が7.0×10-5/℃以下であり、厚み400μmのときの少なくとも可視光波長帯域の平均透過率が85%以上、ヘイズ値が1.0%以下である。
【0024】
よって、このシート状成形体は、光透過率が良好であり、また、引張弾性率が1500MPa以下と小さいので温度変化が大きな環境下でも反り量が小さく、更に、線膨張係数が7.0×10-5/℃以下とシリコーン樹脂よりも小さいので温度変化が大きな環境下でも、表面に形成された光学機能パターンの変形を小さく抑えることができる。
【0025】
更に、本発明に係る光学素子によれば、透光性基板の面積に対する厚みが、面積1m2に対して厚さが5mm以下であって、シート状成形体が透光性基板の厚みの1/15以上の厚みで形成されているのが好ましく、岩崎電気株式会社製のSUV-W151E装置を用い、定格電力4kWの水冷メタルハライドランプ(M04-L21WBX/SUV)1灯を用いて紫外線を含む光線を、290〜450nmの波長範囲において1kW/m2の紫外線放射照度の条件下で600時間照射した場合に、少なくとも350〜600nmの波長帯域での平均光透過率の低下が2%以下である。
【0026】
よって、このシート状成形体は、長期にわたって良好な光透過率を維持することができる。
【0027】
また、本発明に係る集光型太陽光発電装置によれば、本発明に係る光学素子を集光レンズとして配置しているので、温度変化が大きな環境下でも太陽光を太陽電池素子の受光領域に長期にわたって良好に集光して、高い発電効率を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る光学素子を備えた集光型太陽光発電装置の概略構成を示す断面図。
図2】本発明の実施形態に係る集光型太陽光発電装置の太陽光入射側から見た概要を示す平面図。
図3A】光学素子表面に紫外線吸収層を設けた集光型太陽光発電装置の概略構成を示す断面図。
図3B】光学素子表面に防汚コート層を設けた集光型太陽光発電装置の概略構成を示す断面図。
図3C】光学素子表面に反射防止コート層を設けた集光型太陽光発電装置の概略構成を示す断面図。
図4A】実施例1の光学素子における光の透過率の測定結果を示す図。
図4B】比較例1の光学素子における光の透過率の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る光学素子を備えた集光型太陽光発電装置の概略構成を模式的に示す概略断面図である。
【0030】
〈集光型太陽光発電装置の全体構成〉
図1に示すように、本実施形態に係る集光型太陽光発電装置1は、受光した太陽光を光電変換する太陽電池素子(太陽電池セル)2と、該太陽電池素子2が実装された太陽電池基板3と、太陽電池素子2の前方側(太陽光入射側)に対向するようにして配置され、太陽光を集光する光学素子4とを主要構成部材として備えている。なお、図1において、L1は光学素子4に入射する太陽光、L2は光学素子4で集光された太陽光を示している。
【0031】
光学素子4は、太陽光入射側に設けた透光性基板、特にガラス基板5と、該ガラス基板5の出射側(太陽電池素子2と対向する側)の面に接着された透光性を有する有機性樹脂からなるシート状成形体6とで構成されている(本発明の特徴であるシート状成形体6の詳細については後述する)。シート状成形体6のガラス基板5と反対側(太陽電池素子2と対向する側)の面には、入射された太陽光を太陽電池素子2の受光領域に集光させるフレネルレンズパターン6aが同心円状に形成されている。このように、このフレネルレンズパターン6aが形成されたシート状成形体6は、集光レンズとして機能する。
【0032】
この集光型太陽光発電装置1は、図2に示すように、太陽電池基板上に一定間隔で複数の太陽電池素子2が実装され、また各太陽電池素子2の受光領域とそれぞれ対向するようにして複数の光学素子4が同一平面上に一体的に設けられている。
【0033】
ガラス基板5とシート状成形体6とは、熱圧着や接着剤等の周知の方法で接着可能であるが、熱圧着が厚み精度などの点で好ましい。本実施形態では、ガラス基板5とシート状成形体6を熱圧着させることによって、両者を接着している。
【0034】
なお、ガラス基板5に接着されたシート状成形体6に対する剥離接着強さが、25N/25mm以上となるように強固に接着することが好ましく、50N/25mm以上となるようにすることがより好ましい。剥離接着強さが25N/25mm以上であれば、ガラス基板5からシート状成形体6が剥がれることを長期にわたって確実に防止することができる。
【0035】
なお、ガラス基板5とシート状成形体6とを接着する前に、シート状成形体6のガラス基板5との接着面をプラズマ処理して、その後にガラス基板5に接着することが好ましい。シート状成形体6のガラス基板5との接着面をプラズマ処理して表面改質することで、ガラス基板5に接着する際の密着性をより高めることができる。なお、プラズマ処理以外にも、エキシマ処理やコロナ処理を施しても表面改質することができる。
【0036】
また、ガラス基板5にシート状成形体6が接着された構成の光学素子4を作製する方法として、例えば、周知の熱プレス成形法や真空ラミネート成形法が挙げられる。
【0037】
本発明の実施形態に記載している真空ラミネート法は、成形されるシートと型を室温に近い温度状態において圧力を低下させることによってシートと型の間の気泡を除去した後、加熱しながら圧力を上下方向から均等に付与して型の形をシートに転写することで成形体を作製する手法である。
【0038】
熱プレス成形法、真空ラミネート成形法どちらにおいても、ガラスに成形される前のシート状のフィルムを熱圧着して密着させた後、フィルムの上にニッケルスタンパ等の賦形型を配置して圧力を付与しながらシート状成形体6を形成する方法、又はガラス/フィルム/スタンパで同時に加熱しながら圧力を付与してシート状成形体6を作製する方法が挙げられる。
【0039】
なお、ガラス基板5とシート状成形体6の接着には、上記した熱圧着以外にも、接着剤を用いることもできる。接着剤としては、透光性や耐候性などに優れているメタクリル酸メチルとアクリルモノーマ等を含むアクリル樹脂系の接着剤や、シリコーン樹脂接着剤などが好ましい。特にシート状成形体6と同種の樹脂からなる接着剤を用いるのが好ましい。また、塗布厚みは極力薄いことが好ましい。
【0040】
各太陽電池素子2と各光学素子4は、精度よく位置決めされて配置されており、また太陽電池基板3と光学素子4との間の側面周囲等は、太陽電池基板3と光学素子4との間の空間内部に湿気(水分)や塵等が侵入しないように封止されている。なお、対向配置される太陽電池素子2と光学素子4の数や大きさは、集光型太陽光発電装置1のサイズや設置場所等によって任意に設定される。
【0041】
〈シート状成形体6の詳細〉
本発明のシート状成形体6は、透明性、耐候性、柔軟性等に優れている、以下のようなアクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル樹脂(B)とを含む熱可塑性重合体組成物を用いて形成されている。
【0042】
上記の熱可塑性重合体組成物は、前記アクリル系ブロック共重合体(A)が、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体であり、重量平均分子量が10,000〜100,000であって;
前記アクリル系ブロック共重合体(A)が、重合体ブロック(a2)の含有量が40質量%以上80質量%以下であるアクリル系ブロック共重合体(A1)と重合体ブロック(a2)の含有量が10質量%以上40質量%未満であるアクリル系ブロック共重合体(A2)を含み;
前記アクリル樹脂(B)が、主としてメタクリル酸エステル単位から構成され;
アクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル樹脂(B)との質量比〔(A)/(B)〕が97/3〜10/90である。
【0043】
なお、前記アクリル系ブロック共重合体(A)は、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両端末にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造、即ち、(a2)−(a1)−(a2)の構造(この構造中「−」は、化学結合を示す)を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体である。
【0044】
また、前記アクリル樹脂(B)は、主として、メタクリル酸エステル単位から構成されるアクリル樹脂である。上記の熱可塑性重合体組成物からなるシート状成形体の透明性、成形加工性等を向上させる観点から、メタクリル酸エステルの単独重合体又はメタクリル酸エステル単位を主体とする共重合体であることが好ましい。
【0045】
本実施形態における上記の熱可塑性重合体組成物の詳細については、国際公開公報 WO2010/055798に記載されている。そして、この熱可塑性重合体組成物からなるシート状成形体(表面にフレネルレンズパターンが形成される前の成形体)は、例えば、周知のTダイ法やインフレーション法などによって製造することができる。
【0046】
また、この熱可塑性重合体組成物からなるシート状成形体6の表面にフレネルレンズパターン6aを形成する方法として、例えば、周知のプレス成形法、射出成形法、紫外線硬化性樹脂を用いた2P(Photo Polymerization)成形法などが挙げられる。
【0047】
上記した熱可塑性重合体組成物で形成されたシート状成形体6の物性は、以下のとおりである。
【0048】
即ち、シート状成形体6は、引張弾性率が1500MPa以下で、線膨張係数が7.0×10-5/℃以下であり、厚み400μmにおける波長帯域350〜1850nmの平均透過率が85%以上で、ヘイズ値が1.0%以下である。また、ガラス基板5の面積に対する厚みが、面積1m2に対して厚さが5mm以下であって、前記シート状成形体6がガラス基板5の厚みの1/15以上の厚みで形成されているときにより効果が顕著である。更に、メタルハライドランプを用いて、紫外線波長帯域の光線を1kW/m2の照度で600時間照射した場合に、350〜600nmの波長帯域での平均光透過率の低下が2%以下である。
【0049】
本実施形態のシート状成形体6は、上記したアクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル樹脂(B)とを含む熱可塑性重合体組成物を用いて形成されているので、引張弾性率はPMMA樹脂よりも低く、線膨張係数はシリコーン樹脂よりも小さい。
【0050】
よって、このシート状成形体6がガラス基板5に接着されている光学素子4は、温度差が大きい環境下においても、シート状成形体6の反り量が小さく、かつシート状成形体6のフレネルレンズパターン6aの変形量も小さい。これにより、温度差が大きい環境下においても、この光学素子4で集光された光は太陽電池素子2の受光領域に良好に受光され、かつ光透過率の低下も抑えられるので、長期にわたって安定して良好な発電効率を維持することができる。
【0051】
また、上記したシート状成形体6又は/及びガラス基板5の中に紫外線吸収剤を含むように構成してもよい。更に、図3Aに示すように、ガラス基板5の太陽光入射側の表面に紫外線吸収剤を塗布して、紫外線吸収層7を形成してもよい。これらの構成によって、光学素子4に入射する太陽光の紫外線が吸収されるので、紫外線によるシート状成形体6の着色や物性の変化を抑制し、長期にわたって良好な発電効率を維持することができる。
【0052】
また、図3Bに示すように、ガラス基板5の太陽光入射側の表面に防汚コート剤を塗布して、防汚コート層8を形成してもよい。このように防汚処理を施して、ガラス基板5の太陽光入射側の表面への砂や埃などの付着を抑えることで、光透過率の低下が抑えられ、これにより長期にわたって良好な発電効率を維持することができる。
【0053】
更に、図3Cに示すように、ガラス基板5の太陽光入射側の表面に反射防止コート剤を塗布して、反射防止コート層9を形成してもよい。このように反射防止処理を施すことで、太陽光の透過率がより向上し、発電効率をより高めることができる。
【実施例】
【0054】
次に、前記した本発明の光学素子4による効果を評価するために、以下に示す本発明の実施例1〜4と比較用の比較例1〜4の構成を有する各光学素子で評価を行った。
【0055】
〈実施例1〉
実施例1では、線膨張係数が6.6×10-5/℃で、MD方向(長さ方向)の引張弾性率が300MPa、TD方向(幅方向)の引張弾性率が200MPaである、メタアクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ブチル(BA)のブロック共重合体とメタアクリル樹脂の混合物(上記した熱可塑性重合体組成物に相当)からなる厚み400μmの樹脂シート(前記したフレネルレンズパターンが形成される前のシート状成形体に相当)に、密着性を高めるために下記のプラズマ処理を行った後、175℃の温度をかけながら厚み2mmの透明なガラス基板に圧着して貼り合わせた構成の光学素子を作製した。
【0056】
前記ブロック共重合体としては、MMA/BA=50/50のB-1と、MMA/BA=30/70のB-2を用いた。メタアクリル樹脂としてパラペットH1000B(株式会社クラレ製)を用いた。そして、B-1を50質量%、B-2を20質量%、メタアクリル樹脂を30質量%の割合の混合物として、前記熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0057】
プラズマ処理は、次のように行った。春日電機株式会社製の大気圧プラズマ装置APG-500型を用いて、供給エアー流量190NL/min、定格出力電力を450〜500W、照射距離を10mmの条件で照射した。大気プラズマが照射される面積は約3cm2であり、同一場所に約1秒間プラズマが照射される条件でヘッドを動かし、樹脂シート全体にプラズマを照射した。
【0058】
そして、この光学素子のガラス基板側から、メタルハライドランプ(波長帯域290〜450nm(紫外線波長帯域)で1kW/mm2の照度)で600時間照射する前後での光の透過率の変化を測定した。図4Aは、実施例1における光の透過率の測定結果であり、aが600時間照射後の透過率特性、bが照射開始前(照射時間0)の透過率特性である。
【0059】
図4Aの測定結果から明らかなように、上記した実施例1の光学素子は、メタルハライドランプで600時間照射する前後でも略変化することなく良好な透過率を有している。なお、600時間照射した光学素子の方が、波長帯域350〜400nmでの透過率が若干向上した。
【0060】
〈実施例2〉
実施例2では、実施例1と同様の条件で作製された光学素子を50cm角サイズにカットし、この光学素子を平坦な測定台に載置して、温度を変化させたときの前記樹脂シート(前記したフレネルレンズパターンが形成される前段階のシート状成形体に相当)の反り量を測定した。
【0061】
この反り量測定では、室温時におけるこの樹脂シートの周辺部と中央部での反り量は0mmであった。そして、室温から65℃まで所定時間をかけて温度を上昇させた場合に、この樹脂シートの周辺部での反り量は0.5mmと小さいものであった。なお、中央部での反り量は略0mmであった。
【0062】
〈実施例3〉
実施例3では、実施例1と同様の樹脂シートを用い、周知の真空ラミネート成形法によって、20cm角サイズのフレネルレンズパターンが形成された集光レンズを透明なガラス基板に貼り合わせた構成の光学素子を作製した。
【0063】
そして、固定したこの光学素子に対して、フレネルレンズパターンの焦点位置に10mm角の受光センサを配置し、ガラス基板側からフレネルレンズパターン面の全面を走査するようにしてレーザ光(波長532nm、スポット径5mmφ)を入射して、受光センサでの受光量を測定した。そして、この光学素子を取外した状態で同様にレーザ光(波長532nm、スポット径5mmφ)を入射して、フレネルレンズパターンが無い場合の受光センサでの受光量を測定した。
【0064】
そして、前記光学素子のフレネルレンズパターン面を通して受光センサで受光した受光量と、フレネルレンズパターンが無い場合の受光センサでの受光量に対する光学素子のフレネルレンズパターンを通して受光センサで受光した受光量の比率(レンズ集光効率)を評価した。その結果、本実施例における光学素子のフレネルレンズパターンによるレンズ集光効率は90.07%であった。
【0065】
〈実施例4〉
実施例4では、実施例3と同様の構成の光学素子を室温から50℃まで所定時間をかけて温度を上昇させた状況で、実施例3と同様にレンズ集光効率を評価した。その結果、本実施例における光学素子のフレネルレンズパターンによるレンズ集光効率は89.96%であった。この結果から室温の25℃と50℃でほぼレンズ集光効率が変化しないことがわかった。
【0066】
また、本実施例における光学素子のガラス基板側から、フレネルレンズパターン面の中心から75mm離れた位置にレーザ光を入射させたときの焦点位置におけるスポット形状の広がり状態を、温度が15℃と50℃の場合において観察した。その結果、温度が15℃と50℃の場合においても、レーザ光のスポット形状の広がりは小さかった。
【0067】
〈比較例1〉
比較例1では、実施例1の光学素子の替わりとして市販されている厚み3mmのアクリル樹脂シート(クラレ社製:商品名[パラペットGH−SN])を用いて、実施例1と同様にメタルハライドランプ(波長帯域290〜450nm(紫外線波長帯域)で1kW/mm2の照度)で600時間照射する前後での光透過率の変化を測定した。図4Bは、比較例1における光透過率の測定結果であり、aが600時間照射後の透過率特性、bが照射開始前(照射時間0)の透過率特性である。
【0068】
図4Bの測定結果から明らかなように、上記した厚み3mmのアクリル樹脂シートは、メタルハライドランプで600時間照射した後では、波長帯域350〜600nmでの光透過率が大幅に低下した。特に短波長領域側での低下が顕著であった。即ち、アクリル樹脂シート単独の成形体では、耐光性に劣ることが分かる。
【0069】
〈比較例2〉
比較例2では、実施例1において光学素子に用いた樹脂シートの替わりに引張弾性率が3300MPaである、厚み400μmのPMMAシートを用いた他は実施例1と同様にして光学素子を作製し、実施例2と同様の条件で、温度を変化させたときの光学素子の反り量を測定した。
【0070】
この反り量測定では、室温時におけるこの光学素子の周辺部と中央部での反り量は0.0mmであった。そして、室温から65℃まで所定時間をかけて温度を上昇させた場合に、この光学素子の周辺部での反り量は2.1mmであった。このように、実施例2と比較して反り量が大きい結果となった。
【0071】
〈比較例3〉
比較例3では、実施例1において用いた樹脂シートの替わりにシリコーン樹脂シートを用い、実施例3と同様にして周知の真空ラミネート成形法によって、20cm角サイズのフレネルレンズパターンが形成された集光レンズを透明なガラス基板に貼り合わせた構成の光学素子を作製した。
【0072】
そして、実施例3と同様に、固定したこの光学素子に対して、フレネルレンズパターンの焦点位置に10mm角の受光センサを配置し、ガラス基板側からフレネルレンズパターン面の全面を走査するようにしてレーザ光(波長532nm、スポット径5mmφ)を入射して、受光センサでの受光量を測定し、更に、この光学素子を取外した状態で同様にレーザ光(波長532nm、スポット径5mmφ)を入射して、フレネルレンズパターンが無い場合の受光センサでの受光量を測定した。
【0073】
そして、前記光学素子のフレネルレンズパターン面を通して受光センサで受光した受光量と、フレネルレンズパターンが無い場合の受光センサでの受光量に対する光学素子のフレネルレンズパターン面を通して受光センサで受光した受光量の比率(レンズ集光効率)を評価した。その結果、比較例3における光学素子のフレネルレンズパターン面によるレンズ集光効率は87.9%であり、実施例3の場合よりも低下した。
【0074】
〈比較例4〉
比較例4では、比較例3と同様の構成の光学素子(フレネルレンズパターンを形成したシリコーン樹脂シートをガラス基板に貼り合わせた構成の光学素子)を室温から50℃まで所定時間をかけて温度を上昇させた状況で、実施例3(比較例3)と同様にレンズ集光効率を評価した。その結果、比較例4における光学素子のフレネルレンズパターン面によるレンズ集光効率は80.8%であり、実施例4の場合よりも低下した。また、比較例3と比較して熱を付与していないときと比較すると、大幅に集光効率が低下した。
【0075】
また、比較例4における光学素子のガラス基板側から、フレネルレンズパターン面の中心から75mm離れた位置にレーザ光を入射させたときの焦点位置におけるスポット形状の広がり状態を、温度が15℃と50℃の場合において観察した。その結果、温度が15℃の場合ではレーザ光のスポット形状の広がりは小さかったが、50℃の場合ではレーザ光のスポット形状の広がりが大きなものとなった。
【関連出願の相互参照】
【0076】
本願は、2012年7月9日に日本国特許庁に出願された特願2012−153534号に基づく優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 集光型太陽光発電装置
2 太陽電池素子
4 光学素子
5 ガラス基板(透光性基板)
6 シート状成形体
6a フレネルレンズパターン(光学機能パターン)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B