特許第6415448号(P6415448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6415448
(24)【登録日】2018年10月12日
(45)【発行日】2018年10月31日
(54)【発明の名称】改質金属硫化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/22 20060101AFI20181022BHJP
   C01B 17/42 20060101ALI20181022BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20181022BHJP
   C03B 32/02 20060101ALI20181022BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20181022BHJP
【FI】
   C01B17/22
   C01B17/42
   C03C10/02
   C03B32/02
   H01M10/0562
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-548990(P2015-548990)
(86)(22)【出願日】2014年11月19日
(86)【国際出願番号】JP2014005817
(87)【国際公開番号】WO2015075925
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2017年9月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-242350(P2013-242350)
(32)【優先日】2013年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-204589(P2014-204589)
(32)【優先日】2014年10月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】油谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】山川 文雄
(72)【発明者】
【氏名】村山 宏幸
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−136899(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/027431(WO,A1)
【文献】 特開2002−293515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 17/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物からなる群から選ばれる1以上の金属硫化物を、スルフィド結合含有化合物と、有機溶媒中で接触させることにより、金属水硫化物を生成する第1の工程、及び
前記金属水硫化物を、脱硫化水素化反応により、金属硫化物とする第2の工程を含む、
比表面積が増大した改質金属硫化物の製造方法。
【請求項2】
アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物からなる群から選ばれる1以上の金属硫化物を、スルフィド結合含有化合物と、有機溶媒中、第1の温度で接触させて、反応物を得る第1の工程、及び
前記反応物を、前記第1の温度より高い第2の温度で加熱する第2の工程を含む、
比表面積が増大した改質金属硫化物を製造する方法。
【請求項3】
前記第1の温度が−20℃〜150℃であり、前記第2の温度が20℃〜250℃である請求項2記載の改質金属硫化物の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程を、異なる第1の温度で2回以上実施し、回を重ねる毎に温度を上げる、請求項2又は3記載の改質金属硫化物の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程を、異なる第1の温度で2回実施する、請求項4記載の改質金属硫化物の製造方法。
【請求項6】
前記異なる第1の温度が、20℃〜60℃、及び、60℃より高く100℃以下である、請求項5記載の改質金属硫化物の製造方法。
【請求項7】
前記異なる第1の温度が、40℃〜60℃、及び、60℃より高く80℃以下である、請求項5記載の改質金属硫化物の製造方法。
【請求項8】
前記第1の工程の圧力が常圧以上0.85MPa以下である請求項2〜7のいずれかに記載の改質金属硫化物の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記金属硫化物の製造工程を有し、
前記製造工程に続けて前記第1の工程及び第2の工程を実施する、請求項2〜8のいずれかに記載の改質金属硫化物の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物からなる群から選ばれる1以上の金属硫化物が、アルカリ金属硫化物である請求項1〜9のいずれか記載の改質金属硫化物の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属硫化物が、硫化リチウムである請求項10記載の改質金属硫化物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか記載の方法で改質金属硫化物を製造し、
前記改質金属硫化物と、硫化リン、単体硫黄及び単体リンからなる群から選ばれる1以上の原料であって硫黄とリンを含む原料と、を接触させて硫化物系固体電解質ガラスを得る硫化物系固体電解質ガラスの製造方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法で硫化物系固体電解質ガラスを製造し、
前記硫化物系固体電解質ガラスを加熱して結晶化して、硫化物系固体電解質ガラスセラミックスを得る硫化物系固体電解質ガラスセラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質金属硫化物の製造方法、及びそれを用いた硫化物系固体電解質ガラス及び硫化物系固体電解質ガラスセラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の電解質として、硫化物系固体電解質が挙げられる。硫化リチウムは、硫化物系固体電解質の原料として用いられる。硫化物系固体電解質の製造を容易にする目的で、より反応しやすい硫化リチウムが要望されていた。
特許文献1には、主としてアルコール溶媒で改質し、硫化リチウムの反応性を向上させるという発明が開示されている。しかしながら、一般に、気体に比べて溶媒を用いるプロセスは多くの設備を要する。そのため、アルコール溶媒を用いた場合にも、多くの設備を要するという課題が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−136899号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、金属硫化物の比表面積を増大させることができる、新規な改質金属硫化物の製造方法、及びそれを用いた硫化物系固体電解質ガラス及び硫化物系固体電解質ガラスセラミックスの製造方法を提供することである。
【0005】
本発明によれば、以下の改質金属硫化物の製造方法等が提供される。
1.アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物からなる群から選ばれる1以上の金属硫化物を、スルフィド結合含有化合物と、有機溶媒中で接触させることにより、金属水硫化物を生成する第1の工程、及び
前記金属水硫化物を、脱硫化水素化反応により、金属硫化物とする第2の工程を含む、
比表面積が増大した改質金属硫化物の製造方法。
2.アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物からなる群から選ばれる1以上の金属硫化物を、スルフィド結合含有化合物と、有機溶媒中、第1の温度で接触させて、反応物を得る第1の工程、及び
前記反応物を、前記第1の温度より高い第2の温度で加熱する第2の工程を含む、
比表面積が増大した改質金属硫化物を製造する方法。
3.前記第1の温度が−20℃〜150℃であり、前記第2の温度が20℃〜250℃である2記載の改質金属硫化物の製造方法。
4.前記第1の工程を、異なる第1の温度で2回以上実施し、回を重ねる毎に温度を上げる、2又は3記載の改質金属硫化物の製造方法。
5.前記第1の工程を、異なる第1の温度で2回実施する、4記載の改質金属硫化物の製造方法。
6.前記異なる第1の温度が、20℃〜60℃、及び、60℃より高く100℃以下である、5記載の改質金属硫化物の製造方法。
7.前記異なる第1の温度が、40℃〜60℃、及び、60℃より高く80℃以下である、5記載の改質金属硫化物の製造方法。
8.前記第1の工程の圧力が常圧以上0.85MPa以下である2〜7のいずれかに記載の改質金属硫化物の製造方法。
9.さらに、前記金属硫化物の製造工程を有し、
前記製造工程に続けて前記第1の工程及び第2の工程を実施する、2〜8のいずれかに記載の改質金属硫化物の製造方法。
10.前記アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物からなる群から選ばれる1以上の金属硫化物が、アルカリ金属硫化物である1〜9のいずれか記載の改質金属硫化物の製造方法。
11.前記アルカリ金属硫化物が、硫化リチウムである10記載の改質金属硫化物の製造方法。
12.上記1〜11のいずれか記載の方法で改質金属硫化物を製造し、
前記改質金属硫化物と、硫化リン、単体硫黄及び単体リンからなる群から選ばれる1以上の原料であって硫黄とリンを含む原料と、を接触させて硫化物系固体電解質ガラスを得る硫化物系固体電解質ガラスの製造方法。
13.上記12記載の方法で硫化物系固体電解質ガラスを製造し、
前記硫化物系固体電解質ガラスを加熱して結晶化して、硫化物系固体電解質ガラスセラミックスを得る硫化物系固体電解質ガラスセラミックスの製造方法。
14.アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物からなる群から選ばれる1以上の金属硫化物を、スルフィド結合含有化合物と、有機溶媒中で接触させることにより、金属水硫化物を生成する工程を含む金属水硫化物の製造方法。
15.得られる金属水硫化物の比表面積が20m/g以上である14記載の金属水硫化物の製造方法。
16.比表面積が20m/g以上であり、水酸化リチウムの含有量が0.5重量%以下である、硫化リチウム。
【0006】
本発明によれば、金属硫化物の比表面積を増大させることができる、新規な改質金属硫化物の製造方法、及びそれを用いた硫化物系固体電解質ガラス及び硫化物系固体電解質ガラスセラミックスの製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[改質金属硫化物の製造方法]
本発明の改質金属硫化物の製造方法では、アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物からなる群から選ばれる1以上の金属硫化物を、スルフィド結合含有化合物と、有機溶媒中で接触させることにより、金属水硫化物を生成する工程(第1の工程)、及び前記金属水硫化物を、脱硫化水素化反応により、金属硫化物とする工程(第2の工程)を含むことにより、改質金属硫化物が得られる。上記の方法により、比表面積が増大した金属硫化物を得ることを改質という。
【0008】
本発明の方法では、金属硫化物を金属水硫化物とし、さらに金属水硫化物を金属硫化物に戻すことにより、元の金属硫化物より比表面積が増大した改質金属硫化物を製造することができる。
【0009】
第1の工程は、アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物からなる群から選ばれる1以上の金属硫化物を、スルフィド結合含有化合物と、有機溶媒中、第1の温度で接触させて、反応物を得る工程であり、第2の工程は、前記反応物を、前記第1の温度より高い第2の温度で加熱する工程である。
【0010】
第1の工程における第1の温度は、−20℃〜150℃が好ましく、0℃〜120℃がより好ましく、20℃〜100℃がさらに好ましい。例えば、20℃〜90℃、20℃〜80℃、20℃〜75℃、20℃〜60℃である。第1の温度が150℃を超える場合、望ましい結果が得られないおそれがある。また、第1の温度が−20℃未満の場合、低沸点のスルフィド結合含有化合物を用いる場合に、後述の第2の工程に移行する際の圧力が高くなる為、安全上好ましくないおそれがある。
【0011】
第1の工程は、異なる温度で2回以上実施することが好ましい。この際、1回目の温度よりも2回目の温度を高く設定し、2回目の温度よりも3回目の温度を高く設定し、というように、回を重ねる毎に温度を段階的に高くする。これにより、改質金属硫化物が包含する金属水酸化物の量を、より低減することができる。これは、金属硫化物を1回目の処理で比表面積を増大させ、その温度より高い2回目の処理で比表面積が高い状態で反応させることにより、金属水酸化物との反応が促進することによるものである。
異なる温度による処理回数は、2回が好ましい。
【0012】
例えば、第1の工程において、始めに第1の温度として20℃〜60℃で金属硫化物を、スルフィド結合含有化合物と、有機溶媒中で接触させる。次いで、60℃よりも高く100℃以下の温度で処理することが好ましい。
具体的に、水酸化リチウム(LiOH)量の低減の観点では、始めの第1の温度を40℃〜60℃とし、次いで60℃よりも高く80℃以下とすることが好ましい。例えば、始めの第1の温度を45℃〜55℃とし、次いで65℃〜75℃とすることが挙げられる。
【0013】
第1の工程における第1の圧力は、常圧(0.1MPa)以上0.85MPa以下が好ましく、常圧(0.1MPa)以上0.80MPaがより好ましく、常圧(0.1MPa)以上0.50MPa以下がさらに好ましい。
上記の圧力範囲から外れる場合、別途安全装置が必要となることが有り、プロセス上好ましくないおそれがある。
【0014】
第2の工程における第2の温度は、第1の温度より高い温度であり、20〜250℃が好ましく、50〜210℃がより好ましく、70〜180℃がさらに好ましい。例えば、70℃〜150℃、90℃〜120℃である。
【0015】
第2の工程における第2の圧力は、常圧(0.1MPa)以上0.85MPa以下が好ましく、常圧(0.1MPa)以上0.80MPaがより好ましく、常圧(0.1MPa)以上0.50MPa以下がさらに好ましい。
上記の圧力範囲から外れる場合、別途安全装置が必要となることが有り、プロセス上好ましくないおそれがある。
【0016】
金属硫化物(例えば、LiS)とスルフィド結合含有化合物(例えば、HS)を、第1の温度で接触させると、金属水硫化物(例えば、LiSH)が生じる。金属水硫化物の生成量は、例えば、金属硫化物と金属水硫化物の合計に対して、5重量%以上80重量%以下である。金属水硫化物が生成した段階で、比表面積を増大することができる。
そして、再度金属水硫化物を、第1の温度より高い温度である第2の温度で一定時間保持すると、脱HS反応が進み、元の金属硫化物に戻る。そして、金属硫化物に戻ってもなお、出発原料の金属硫化物に比べて、比表面積が増大している。
この第1の工程及び第2の工程により、比表面積が増大すると推察される。
また、この第1の工程及び第2の工程により、包含する金属水酸化物の量を低減できる。例えば、金属硫化物がLiSの場合には、この第1の工程及び第2の工程により、包含する水酸化リチウム(LiOH)の量を低減できる。
【0017】
改質の際、上記有機溶媒100重量部に対し、金属硫化物を0.5重量部〜1000重量部とすることが望ましい。尚、改質剤(スルフィド結合含有化合物)が、常温又は処理温度において、気体である場合、流通させて処理を行ってもよい。
【0018】
改質時間(第1の工程及び第2の工程のそれぞれ)は、好ましくは5分から1週間、より好ましくは10分から5日である。例えば、10分以上72時間以下、20分以上48時間以下である。
【0019】
改質処理(第1の工程及び第2の工程のそれぞれ)は、連続相、バッチ相いずれにおいても可能である。バッチ反応の場合、撹拌は一般的な翼が使用可能であり、好ましくはアンカー翼、ファドラー翼、ヘリカル翼、マックスブレンド翼である。ラボスケールでは、一般的にスターラーによる撹拌子が用いられる。また、バッチ反応では、ボールミルを用いた反応槽も使用可能である。
【0020】
改質処理を行った後に金属硫化物の純度が低下する場合がある。この純度を向上させるために、追加で硫化水素ガスでの処理を行ってもよい。その際、必要に応じて、事前にスルフィド結合含有化合物を除去する。スルフィド結合含有化合物を除去する場合、例えば窒素下での加熱により、又は炭化水素(たとえば脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素)等の非極性溶媒置換により行うことができる。改質後の工程でスラリー状態の金属硫化物を用いる場合、この溶媒置換を行った後、スラリー状態のままで保管することもできる。
【0021】
改質物は、残存溶媒を除去するため、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は好ましくは窒素気流下又は真空下で行う。乾燥温度は好ましくは室温〜300℃である。乾燥後の金属硫化物は、0.01重量%から30重量%の有機溶媒を含有していてもよい。
有機溶媒の含有量は、トルエン、アルコール等の適当な溶媒に溶解した後、ガスクロマトグラフィーにより溶媒量を定量することができる。
【0022】
本発明の方法によれば、金属硫化物を製造する際に用いる原料等に含まれない異種元素(例えばアルコール溶媒に起因する酸素原子)を用いずに硫化リチウムの比表面積を増大させることができる。
また、異種元素を使用していないため、異種元素由来の不純物量の測定を省略することができる。
アルコール溶媒を用いて改質する場合、別途、アルコール溶媒を用いるための装置が必要になるが、本発明の方法では、金属硫化物の製造で用いるスルフィド結合含有化合物と同じスルフィド結合含有化合物を用いれば、金属硫化物の製造で用いる装置を援用することができる。
【0023】
[金属硫化物]
金属硫化物としては、アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物が挙げられる。
【0024】
アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム等が挙げられる。また、含有水分を考慮して、アルカリ金属硫化物としては、例えば無水硫化リチウム、無水硫化ナトリウム、無水硫化カリウム、硫化リチウム含水物、硫化ナトリウム含水物、硫化カリウム含水物等を挙げることができる。
アルカリ土類金属硫化物としては、硫化カルシウム、硫化マグネシウム等が挙げられる。
中でも、硫化リチウム、硫化ナトリウムが好ましい。
【0025】
金属硫化物は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
金属硫化物を製造する方法について、金属硫化物が硫化リチウムである場合、具体的に以下の(a)NMP法又は(b)トルエン法を用いることができる。
【0027】
(a)NMP法
硫化リチウムの製造方法としては、例えば、以下の方法a〜cで製造された硫化リチウムを精製することにより得ることができる。以下の製造方法の中では、特にa又はbの方法が好ましい。
a.非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを0〜150℃で反応させて、水硫化リチウムを生成し、次いでこの反応液を150〜200℃で脱硫化水素化する方法(特開平7−330312号公報参照)。
b.非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを150〜200℃で反応させ、直接硫化リチウムを生成する方法(特開平7−330312号公報参照)。
c.水酸化リチウムとガス状硫黄源を130〜445℃の温度で反応させる方法(特開平9−283156号公報参照)。
上記a〜cの方法は、原料に水酸化リチウムを用いるので、得られる硫化リチウムにも不純物として水酸化リチウムを含む場合がある。
【0028】
上記のようにして得られた硫化リチウムの精製方法としては、特に制限はない。好ましい精製方法としては、例えば、国際公開WO2005/40039号に記載された精製方法等が挙げられる。具体的には、上記のようにして得られた硫化リチウムを、有機溶媒を用い、100℃以上の温度で洗浄する。
【0029】
洗浄に用いる有機溶媒は、非プロトン性極性溶媒であることが好ましく、さらに、硫化リチウム製造に使用する非プロトン性有機溶媒と洗浄に用いる非プロトン性極性有機溶媒とが同一であることがより好ましい。
洗浄に好ましく用いられる非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、アミド化合物、ラクタム化合物、尿素化合物、有機硫黄化合物、環式有機リン化合物等の非プロトン性の極性有機化合物が挙げられ、単独溶媒、又は混合溶媒として好適に使用することができる。特に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)は、良好な溶媒に選択される。
【0030】
洗浄に使用する有機溶媒の量は特に限定されず、また、洗浄の回数も特に限定されないが、2回以上であることが好ましい。洗浄は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
洗浄に使用する有機溶媒は、いずれも脱水しておくことが好ましい。
【0031】
(b)トルエン法
水酸化リチウムと炭化水素系有機溶媒(例えばトルエン)からなるスラリー中に、硫化水素ガスを吹き込み、前記水酸化リチウムと硫化水素を反応させ、前記反応により生じる水を、前記スラリーから除去しながら反応を継続し、系内の水分が実質的に無くなった後、硫化水素の吹き込みを止め、不活性ガスを吹き込むことにより硫化リチウムを製造することができる(特開2010−163356号公報参照)。
【0032】
本発明では、金属硫化物の製造と、本発明の改質金属硫化物の製造を連続して実施してもよい。例えば、上記(b)トルエン法で硫化リチウムを製造し、続けて、硫化リチウムを、スルフィド結合含有化合物と、有機溶媒中、第1の温度で接触させてもよい(本発明の第1の工程)。
【0033】
[金属水硫化物]
金属水硫化物は、上記金属硫化物の水硫化物であり、アルカリ金属水硫化物及びアルカリ土類金属水硫化物が挙げられる。
アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属水硫化物としては、水硫化カルシウム、水硫化マグネシウム等が挙げられる。
【0034】
[改質金属硫化物]
改質金属硫化物とは、改質された金属硫化物であり、上述の第1の工程を経ることによって比表面積が増大された金属硫化物である。
改質金属硫化物としては、改質アルカリ金属硫化物及び改質アルカリ土類金属硫化物が挙げられる。
【0035】
改質金属硫化物において、比表面積等は特に限定されないが、通常(i)BET法(気体吸着法)で測定した比表面積が1.0m/g以上、又は(ii)細孔容積が0.002ml/g以上である。
また、改質金属硫化物は、元の金属硫化物の比表面積の、例えば150%以上、180%以上、200%以上の比表面積を有している。上限値は、特に限定されないが、例えば400%以下である。
【0036】
比表面積は、例えばAUTOSORB6(シスメックス株式会社製)で測定できる。また、BET法は窒素ガスを用いてもよく(窒素法)、クリプトンガスを用いてもよい(クリプトン法)。尚、比表面積が小さい場合は、通常クリプトン法により測定する。改質金属硫化物の比表面積は、好ましくは1.2m/g以上であり、さらに好ましくは1.5m/g以上である。
【0037】
細孔容積は比表面積と同じ装置で測定でき、相対圧P/Pが0.99以上の測定点から、0.99に内挿して求めたものを使用できる。装置の測定下限は0.001ml/gである。改質金属硫化物の細孔容積は、好ましくは0.003ml/g以上である。
【0038】
[有機溶媒]
有機溶媒としては、炭化水素化合物、ニトリル系化合物、エーテル系化合物、カルボニル系化合物、エステル系化合物、カーボネート系化合物、アミン系化合物、アルコール系化合物、アミド系化合物、シラン系化合物、ハロゲン系化合物、ニトロ系化合物、二硫化炭素等の溶媒が挙げられる。
上記炭化水素化合物の溶媒(炭化水素系溶媒)は、炭素原子と水素原子からなる溶媒であり、当該炭化水素系溶媒として、例えば飽和炭化水素、不飽和炭化水素、芳香族炭化水素を含む。
【0039】
有機溶媒の沸点は、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。
【0040】
飽和炭化水素溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、2−エチルヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、IPソルベント1016(出光興産株式会社製)、IPソルベント1620(出光興産株式会社製)等が挙げられる。
不飽和炭化水素しては、ヘキセン、ヘプテン、シクロヘキセン等が挙げられる。
芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、また、イプゾール100(出光興産株式会社製)、イプゾール150(出光興産株式会社製)等が挙げられる。
【0041】
また、芳香族炭化水素としては、例えば、下記式(2)で表わされる化合物である。
Ph−(R) (2)
(式中、Phは、芳香族炭化水素基であり、Rは、それぞれ独立にアルキル基である。
nは1〜5から選択される整数である(好ましくは1又は2の整数))
【0042】
式(2)において、Phの芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。炭素数6以上24以下の芳香族炭化水素基が好ましく、6以上12以下の芳香族炭化水素基がより好ましい。
式(2)において、Rはアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。アルキル基の炭素数は、1以上24以下が好ましく、1以上12以下がより好ましい。
式(2)で表わされる芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼンが挙げられる。
【0043】
ニトリル系化合物としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル、マロノニトリル、スクシノニトリル、フマロニトリル等が挙げられる。
【0044】
エーテル系化合物としては、ジエチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシメタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、アニソール等が挙げられる。
【0045】
カルボニル系化合物としては、アセトン、メチルエチルケトン、アセトアルデヒド等が挙げられる。
【0046】
エステル系化合物としては、酢酸エチル等が挙げられる。
【0047】
カーボネート系化合物としては、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
【0048】
アミン系化合物としては、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0049】
アルコール系化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール等が挙げられる。
【0050】
アミド系化合物としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0051】
シラン系化合物としては、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、シクロへキシルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0052】
ハロゲン系化合物としては、メチレンクロライド、クロロホルム、ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、ジクロロベンゼン、ヘキサフロオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン等が挙げられる。
【0053】
ニトロ系化合物としては、ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロプロパン等が挙げられる。
【0054】
有機溶媒は、好ましくは炭化水素系溶媒であり、より好ましくは飽和炭化水素、芳香族炭化水素である。
【0055】
上記有機溶媒は、単独で用いてもよく、また、2種以上を混合して用いることも可能である。
【0056】
[スルフィド結合含有化合物]
本発明の改質金属硫化物の製造方法に用いられるスルフィド結合含有化合物(−S−結合含有化合物)は、硫化水素(HS)、R−SH、R−S−R等が挙げられる。
【0057】
R−SH化合物としては、具体的には、メタンチオール、エタンチオール、イソプロピルチオール、n−プロピルチオール、n−ブチルチオール、イソブチルチオール、t−ブチルチオール、シクロペンチルチオール、n−ヘキシルチオール、n−オクチルチオール、ドデシルチオール等が挙げられる。
【0058】
−S−R化合物としては、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジイソプロピルスルフィド、t−ブチルメチルスルフィド等が挙げられる。
【0059】
スルフィド結合含有化合物としては、この中でも、硫化水素が好ましい。
【0060】
上記の−S−結合含有化合物は脱水してもよく、脱水しなくてもよい。水分量により副生する、改質金属硫化物中の金属水酸化物の量に影響を与えるおそれがあるため、好ましくは水分量が50ppm以下、より好ましくは30ppm以下である。水分量の下限値は、特に限定されないが、通常0.1ppm以上である。水分量は0ppmでもよい。
【0061】
[金属水硫化物の製造方法]
本発明の金属水硫化物の製造方法では、アルカリ金属硫化物及びアルカリ土類金属硫化物からなる群から選ばれる1以上の金属硫化物を、スルフィド結合含有化合物と、有機溶媒中で接触させることにより、金属水硫化物が得られる。
本発明の方法により、比表面積が20m/g以上である金属水硫化物が得ることができる。
【0062】
上記工程の温度、圧力は、上述の第1の工程の温度、圧力と同様である。また、金属硫化物、スルフィド結合含有化合物、及び有機溶媒は、上記と同様である。
【0063】
[改質金属硫化物の製造方法により製造される硫化リチウム]
上記の本発明の改質金属硫化物の製造方法により、例えば、比表面積を増大させた硫化リチウムを得ることができる。本発明の改質金属硫化物の製造方法により得られる硫化リチウムは、比表面積が20m/g以上であり、水酸化リチウムの含有量が0.5重量%以下である。
比表面積は、好ましくは25m/g以上である。
水酸化リチウムの含有量は、好ましくは0.4重量%以下であり、例えば、0.3重量%以下、0.2重量%以下である。
【0064】
[硫化物系固体電解質ガラス製造工程]
本発明の硫化物系ガラス固体電解質の製造方法では、上記の改質金属硫化物及び硫黄とリンを含む原料を反応させて、硫化物系固体電解質ガラスを得ることができる。硫黄とリンを含む原料としては、硫化リン、単体硫黄、単体リン等の単独又は組み合わせが挙げられる。具体的には、硫化リン、硫化リン及び単体硫黄、硫化リン及び単体リン、単体硫黄及び単体リン、並びに硫化リン、単体硫黄及び単体リン等が挙げられる。
反応は、例えばボールミル装置等を用いた物理的な破砕を経由する手法で行われる。
【0065】
硫化リンとしては、例えば五硫化二リン(P)が挙げられる。
五硫化二リンは、工業的に製造され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。純度は、95%以上が好ましく、さらに好ましくは99%以上である。尚、Pに代えて、相当するモル比の単体リン(P)及び単体硫黄(S)を用いることもできる。単体リン(P)及び単体硫黄(S)は、工業的に生産され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。
【0066】
硫化物系固体電解質ガラスの製造にバッチミル反応を用いる場合、反応温度は、通常室温〜210℃であり、好ましくは60〜180℃である。
温度が高い場合、反応と結晶化が同時に進行するため、反応率が上がらず、残存金属硫化物が多くなり好ましくない。また、温度が低い場合、反応が進行しないため、好ましくない。
【0067】
反応時間は、通常1〜200時間であり、好ましくは4〜180時間である。
時間が短い場合は、反応が進行しない。時間が長い場合は、結晶化が部分的に進行して、イオン伝導度等の性能が低下するため好ましくない。
【0068】
バッチミル反応において、添加剤として、本発明の改質金属硫化物の製造方法で用いた溶媒と同じ有機溶媒、又は、異なった有機溶媒を用いてもよい。添加剤の添加量は、金属硫化物100重量部に対して、0.1重量部〜10000重量部、好ましくは100重量部〜5000重量部である。
【0069】
反応生成物は、反応後、そのまま回収してもよいが、有機溶媒を加えて、スラリー状態で回収することも可能である。回収用の有機溶媒としては、上述の本発明の改質金属硫化物の製造方法で用いられる有機溶媒における炭化水素系溶媒等と同様のものが挙げられる。この有機溶媒は、脱水しておくことが好ましい。
【0070】
また、次ステップにおいて、上記スラリー状態の反応生成物を乾燥粉末として使用する場合は、有機溶媒を除去する必要がある。これは、真空下又は窒素流通下において、室温又は加温処理にて行うことができる。加温条件で行う場合は、温度は通常40〜200℃であり、好ましくは50〜160℃である。上記範囲よりも温度が高い場合、結晶化が進行して、伝導度性能が低下するため、好ましくない。また、温度が低い場合、残存溶媒が除去しきれないため、好ましくない。
【0071】
上記の乾燥処理により硫化物系固体電解質ガラスが得られる。その残存溶媒量は、通常5重量%以下である。好ましくは3重量%以下である。0重量%でもよい。残存溶媒が多い場合、電解質中の非導電体が存在することになり、抵抗成分となり、電池性能の低下をきたすおそれがある。
【0072】
[硫化物系固体電解質ガラスセラミックスの製造方法]
上記の硫化物系固体電解質ガラスの結晶化は、加熱処理により行うことができ、硫化物系固体電解質ガラスセラミックスを得ることができる。これにより、硫化物系固体電解質のイオン伝導性を向上できる。
結晶化における加熱温度は、好ましくは150℃以上400℃以下であり、より好ましくは180℃以上320℃以下である。加熱時間は、1〜5時間が好ましく、特に1.5〜3時間が好ましい。
また、上記スラリー状態の反応生成物を撹拌しながら加熱し、結晶化させてもよい。
【実施例】
【0073】
<改質金属硫化物の製造>
製造例1(NMP法硫化リチウムの製造)
(1)硫化リチウムの製造
撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び無水水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpmで130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3L/分の供給速度で2時間吹き込んだ。
【0074】
続いて、この反応液を窒素気流下(200cc/分)で昇温し、生成した水硫化リチウムを脱硫化水素化し硫化リチウムを得た。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発しはじめ、この水をコンデンサにより凝縮し、系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度が上昇し、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。水硫化リチウムの脱硫化水素反応(約80分)が終了後、反応を終了し硫化リチウムを得た。
【0075】
(2)硫化リチウムの精製
(1)で得られた500mLのスラリ反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリ)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、脱水ヘプタン100mLを加え、室温で撹拌して、上澄み除去を行った。この操作を5回繰り返した。このヘプタンスラリーを採取し、窒素気流下でろ過することで溶媒を除去した。200℃で真空乾燥を行い、精製硫化リチウムを得た。
【0076】
得られた精製硫化リチウム純度を電位差滴定により算出したところ、98.9重量%であった(水酸化リチウム0.1重量%)。
【0077】
BET比表面積(クリプトン法)を評価したところ、比表面積0.04m/g,細孔容積0.001ml/g以下であった。
【0078】
製造例2(トルエン法硫化リチウムの製造)
窒素気流下でトルエン(広島和光株式会社製)270gを600mlセパラブルフラスコに加え、続いて無水水酸化リチウム(本荘ケミカル株式会社製)30gを投入し、フルゾーン撹拌翼300rpmで撹拌しながら、95℃に保持した。
【0079】
スラリー中に硫化水素(株式会社巴商会製)を300ml/分の供給速度で吹き込みながら104℃まで昇温した。セパラブルフラスコからは、水とトルエンの共沸ガスが連続的に排出された。この共沸ガスを、系外のコンデンサで凝縮させることにより脱水した。この間、留出するトルエンと同量のトルエンを連続的に供給し、反応液レベルを一定に保持した。
【0080】
凝縮液中の水分量は徐々に減少し、硫化水素導入後6時間で水の留出は認められなくなった(水分量は総量で22mlであった)。尚、反応の間は、トルエン中に固体が分散して撹拌された状態であり、トルエンから分層した水分は無かった。
【0081】
この後、硫化水素を窒素に切り替え300ml/分で1時間流通した。
上記のスラリー溶液をろ過処理した。ろ過後、200℃で真空乾燥を行い、硫化リチウムを得た。
製造例1と同様に、硫化リチウムの純度、水酸化リチウム残留量及びBET比表面積を評価したところ、純度97.5重量%、水酸化リチウム0.7重量%、比表面積13.2m/g,細孔容積0.137ml/gであった。
【0082】
実施例1(改質硫化リチウムの製造)
製造例2で得た硫化リチウム6.0gをグローブボックス内でシュレンクビンに秤量した。これに窒素雰囲気下、脱水トルエン(和光純薬株式会社製、水分量15質量ppm)120mlを加えた。硫化水素ガスを100ml/分で流通させながら、50℃(第1の温度)、常圧で4時間、テフロン製アンカー翼で撹拌した(第1の工程)。硫化水素ガスを止め、一部サンプリングをした。
【0083】
ここで、硫化水素ガスを止めた後のサンプリングにより得られたスラリーを乾燥後分析したところ、水硫化リチウムが44重量%存在しており、水硫化リチウムの表面積は65m/gであった。
【0084】
サンプリングの後、窒素を流通させて、バス温を120℃(第2の温度)まで昇温して、さらに常圧で2時間加熱処理を行った(第2の工程)。降温後、窒素を流通させて、改質した硫化リチウムを回収した。200℃で真空乾燥を行い、改質硫化リチウムを得た。
真空乾燥後に得られた改質硫化リチウムについて、製造例1と同様に、硫化リチウム純度、水酸化リチウム残留量及びBET比表面積を評価したところ、純度97.8重量%、水酸化リチウム0.4重量%、比表面積27.2m/g,細孔容積0.25ml/gであった。
【0085】
実施例2(加圧法)
シュレンクビンに代えて、500mlの撹拌機付耐圧容器を用い、第1の工程の温度を25℃に、圧力を0.2MPaに変更した以外、実施例1と同様にして改質硫化リチウムを製造し、評価した。
得られた改質硫化リチウムは、純度98.2重量%、水酸化リチウム0.5重量%、比表面積25.0m/g,細孔容積0.22ml/gであった。
【0086】
実施例3
製造例2で得た硫化リチウムに代えて、製造例1で得た硫化リチウムを用いた以外、実施例1と同様にして改質硫化リチウムを製造し、評価した。
得られた改質硫化リチウムは、純度99.1重量%、水酸化リチウム0.1重量%、比表面積8.8m/g,細孔容積0.08ml/gであった。
【0087】
比較例1
製造例2で得た硫化リチウムを、比較例1の硫化リチウムとした。
【0088】
比較例2
製造例1で得た硫化リチウムを、比較例2の硫化リチウムとした。
【0089】
実施例1〜3及び比較例1〜2の硫化リチウムの比表面積を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例4
実施例1の反応温度(第一の温度)を50℃から40℃にした以外、実施例1と同様にして改質硫化リチウムを製造し、評価した。
得られた改質硫化リチウムは、純度97.9重量%、水酸化リチウム0.4重量%、比表面積26m/g,細孔容積0.22ml/gであった。
【0092】
実施例5
製造例2で得た硫化リチウム15.0gをグローブボックス内でシュレンクビンに秤量した。これに窒素雰囲気下、脱水トルエン(和光純薬株式会社製)300mlを加えた。硫化水素ガスを100ml/分で流通させながら、50℃(第1の温度A)、常圧で4時間、テフロン製アンカー翼で撹拌した(第1の工程A)。
【0093】
次いで、硫化水素ガスを100ml/分で流通させながら、70℃(第1の温度B)、常圧で2時間、テフロン製アンカー翼で撹拌した(第1の工程B)。
【0094】
バス温を120℃(第2の温度)まで昇温して、さらに常圧で窒素を流通させて、2時間加熱処理を行った(第2の工程)。降温後、窒素を流通させて、改質した硫化リチウムを回収した。200℃で真空乾燥を行い、改質硫化リチウムを得た。
真空乾燥後に得られた改質硫化リチウムについて、製造例1と同様に、硫化リチウム純度、水酸化リチウム残留量及びBET比表面積を評価したところ、純度97.6重量%、水酸化リチウム0.2重量%、比表面積29m/g,細孔容積0.25ml/gであった。
【0095】
実施例6
製造例2から実施例1まで連続して、即ち、途中でろ過処理すること無く実施した。具体的には、まず窒素気流下でトルエン(広島和光株式会社製)350gを600mlセパラブルフラスコに加え、続いて無水水酸化リチウム(本荘ケミカル株式会社製)35gを投入し、フルゾーン撹拌翼350rpmで撹拌しながら、95℃に保持した。
【0096】
スラリー中に硫化水素(株式会社巴商会製)を400ml/分の供給速度で吹き込みながら104℃まで昇温した。セパラブルフラスコからは、水とトルエンの共沸ガスが連続的に排出された。この共沸ガスを、系外のコンデンサで凝縮させることにより脱水した。この間、留出するトルエンと同量のトルエンを連続的に供給し、反応液レベルを一定に保持した。
【0097】
凝縮液中の水分量は徐々に減少し、硫化水素導入後7時間で水の留出は認められなくなった(水分量は総量で25mlであった)。尚、反応の間は、トルエン中に固体が分散して撹拌された状態であり、トルエンから分層した水分は無かった。
【0098】
硫化水素ガスを100ml/分で流通させながら、50℃(第1の温度)、常圧で4時間、テフロン製アンカー翼で撹拌した(第1の工程)。
【0099】
バス温を120℃(第2の温度)まで昇温して、さらに常圧で2時間加熱処理を行った(第2の工程)。降温後、窒素を流通させて、改質した硫化リチウムを回収した。200℃で真空乾燥を行い、改質硫化リチウムを得た。
真空乾燥後に得られた改質硫化リチウムについて、製造例1と同様に、硫化リチウム純度、水酸化リチウム残留量及びBET比表面積を評価したところ、純度97.5重量%、水酸化リチウム0.5重量%、比表面積26m/g,細孔容積0.23ml/gであった。
【0100】
実施例7
製造例2から実施例5まで連続して、即ち、途中でろ過処理すること無く実施した。具体的には、まず窒素気流下で無水水酸化リチウム(本荘ケミカル株式会社製)33.8kgを投入し、続いてトルエン(住友商事株式会社製)303.8kgを500Lステンレス製反応釜に加え、ツインスター撹拌翼131rpmで撹拌しながら、95℃に保持した。
スラリー中に硫化水素(住友精化株式会社製)を100L/分の供給速度で吹き込みながら107℃まで昇温した。反応釜からは、水とトルエンの共沸ガスが連続的に排出された。この共沸ガスを、系外のコンデンサで凝縮させることにより脱水した。この間、留出するトルエンと同量のトルエンを連続的に供給し、反応液レベルを一定に保持した。
凝縮液中の水分量は徐々に減少し、硫化水素導入後24時間で水の留出は認められなくなった。尚、反応の間は、トルエン中に固体が分散して撹拌された状態であり、トルエンから分層した水分は無かった。
硫化水素ガスを40L/分で流通させながら、50℃(第1の温度A)、常圧で20時間、ツインスター撹拌翼で撹拌した(第1の工程A)。
次いで、硫化水素ガスを40L/分で流通させながら、70℃(第1の温度B)、常圧で10時間、ツインスター撹拌翼で撹拌した(第1の工程B)。
反応釜ジャケット温度を120℃(第2の温度)まで昇温して、さらに常圧で窒素を流通させて、16時間加熱処理を行った(第2の工程)。降温後、窒素を流通させて、改質した硫化リチウムを回収した。100℃で真空乾燥を行い、改質硫化リチウムを得た。
真空乾燥後に得られた改質硫化リチウムについて、製造例1と同様に、硫化リチウム純度、水酸化リチウム残留量及びBET比表面積を評価したところ、純度98.5重量%、水酸化リチウム0.1重量%、比表面積27m/g,細孔容積0.31ml/gであった。
【0101】
<固体電解質ガラスの製造>
実施例8
実施例1の改質硫化リチウム1.0g(70mol%)、五硫化二リン2.0g(30mol%)をグローブボックス内で0.1Lオートクレーブに仕込んだ。オートクレーブを密封した後、窒素下で脱水トルエン30mlを加えて、窒素下ホールドを行った。オイルバスにて加熱、撹拌を行って、内温150℃で、72時間反応させた。降温後、窒素を流通させて、反応物を回収した。150℃で真空乾燥を行い、固体電解質ガラスを得た。
【0102】
得られた固体電解質ガラスについて硫化リチウム残存率を測定した。
仕込み量と同じ比率で物理混合した後、乳鉢混合を行い、XRD測定を行った。この時の27°,44°,53°におけるピーク高さを硫化リチウム残存100%として計算した。
XRDスペクトルを測定した結果、ガラスのハローが観測されているが、一部原料硫化リチウムが観測された。ピーク高さから、原料硫化リチウムの残存率は12.2%であった。
【0103】
実施例9,10
原料硫化リチウムとして、実施例1の改質硫化リチウムに代えて、表2に示す改質硫化リチウムを用いた以外、実施例8と同様にして固体電解質ガラスを製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0104】
実施例11
実施例1の改質硫化リチウムを1.15g(75mol%)と、五硫化二リンを1.81g(25mol%)と変更した以外、実施例8と同様にして固体電解質ガラスを製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0105】
比較例3
実施例1の改質硫化リチウムに代えて、硫化リチウムの改質処理を行っていない、比較例1の硫化リチウムを用いた以外、実施例8と同様にして固体電解質ガラスを製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0106】
比較例4
実施例1の改質硫化リチウムに代えて、硫化リチウムの改質処理を行っていない、比較例2の硫化リチウムを用いた以外、実施例8と同様にして固体電解質ガラスを製造し、評価した。結果を表2に示す。
得られた固体電解質ガラスを目視により観察したところ、実施例8〜11では観測できなかった粗大粒子が一部生成していた。
【0107】
【表2】
【0108】
<固体電解質ガラスセラミックスの製造>
実施例12
実施例8の固体電解質ガラスを、真空下300℃、2時間加熱結晶化処理を行った。結晶化した固体電解質ガラスセラミックスのリチウムイオン伝導度は、1.2×10−3S/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明により製造された改質金属硫化物は、医療、電池材料の原料、特に硫化物系固体電解質の原料として使用できる。本発明により製造された硫化物系固体電解質は、リチウム二次電池等に使用できる。
【0110】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。