(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調整機構は、前記ビーム搬送系における放射ビーム調整ユニットを備え、前記放射ビーム調整ユニットは、前記放射ビームの1つ又は複数の特性を変更するよう動作可能である、請求項1から5のいずれかに記載の電子入射器。
前記ビーム搬送系は、前記放射ビームを前記フォトカソードのある領域へと反射するよう配設されたミラーを備え、前記調整機構は、前記ミラーの位置及び/または向きを変更するよう動作可能なアクチュエータを備える、請求項1から7のいずれかに記載の電子入射器。
前記調整機構は、前記放射ビームによって照明される前記フォトカソードの領域の形状を、照明される領域から放出される電子ビームが前記ステアリングユニットによる前記電子ビームへの力の適用後に1つ又は複数の所望の特性を得るように、制御するよう動作可能である、請求項9に記載の電子入射器。
コントローラをさらに備え、前記コントローラは、前記放射ビームによって照明される前記フォトカソードの領域の変更を制御するために前記調整機構を制御するよう動作可能である、請求項1から12のいずれかに記載の電子入射器。
前記アクチュエータは、前記放射ビームによって照明される前記フォトカソードの領域の変更に応じて前記電子銃の位置及び/または向きを調整するよう動作可能である、請求項23に記載の電子入射器。
前記線形加速器は、エネルギー回収型線形加速器であり、前記自由電子レーザは、前記電子入射器から出力される電子ビームを再循環電子ビームと合成するよう構成された合流ユニットをさらに備える、請求項27に記載の自由電子レーザ。
放射ビームによって照明される前記フォトカソードの領域の形状は、照明される領域から放出される電子ビームが前記力を電子ビームに与えることの後に1つ又は複数の所望の特性を得るように、制御される、請求項39に記載の方法。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様は、電子ビームを提供する入射器構成であって、第1電子ビームを提供する第1入射器と、第2電子ビームを提供する第2入射器と、を備え、入射器構成は、入射器構成からの電子ビーム出力が第1入射器のみによって提供される第1モードと、入射器構成からの電子ビーム出力が第2入射器のみによって提供される第2モードとで動作可能であり、入射器構成は、再循環電子ビームを、第1入射器によって提供される電子ビームまたは第2入射器によって提供される電子ビームと合流させるよう構成された合流ユニットをさらに備える入射器構成である。
【0008】
このようにして入射器は、第1入射器と第2入射器のうち一方が使用不能であっても電子ビームを提供することができる。これは入射器の故障が自由電子レーザのような電子ビームを受け取る装置のダウンタイムの原因とならないことを確実にする。また、第1の態様の入射器構成は、入射器構成全体の動作を続けながら第1入射器と第2入射器のいずれかにメンテナンスを行うことを可能にする。
【0009】
第2入射器は、第1モードにおいて電子ビームを生成するよう動作可能であってもよい。第1入射器は、第2モードにおいて電子ビームを生成するよう動作可能であってもよい。
【0010】
第2入射器は、第1モードにおいてより低い繰り返し率で電子バンチをもつ電子ビームを生成するよう動作可能であってもよい。第1入射器は、第2モードにおいてより低い繰り返し率で電子バンチをもつ電子ビームを生成するよう動作可能であってもよい。例えば、電子ビームを自由電子レーザに提供しない入射器は、電子ビームを供給している入射器と同じ電荷をもつが非常に低い繰り返し率(またはデューティサイクル)で電子バンチを生成してもよい。
【0011】
入射器構成は、少なくとも1つのステアリングユニットを備えてもよい。少なくとも1つのステアリングユニットは、第1入射器からの電子ビームが第1経路に沿って伝搬する第1ステアリングモードと第1入射器からの電子ビームが第2経路に沿って伝搬する第2ステアリングモードを有してもよい。
【0012】
少なくとも1つのステアリングユニットは、第2入射器からの電子ビームが第3経路に沿って伝搬する第3ステアリングモードと第2入射器からの電子ビームが第4経路に沿って伝搬する第4ステアリングモードを備えてもよい。
【0013】
第2経路及び第4経路は、例えば、電子ビームがたどる経路につながってもよい一方で、第1経路及び第3経路は、電子ビームがたどる経路につながっていなくてもよい。こうして、少なくとも1つのステアリングユニットが第2ステアリングモード及び第3ステアリングモードで動作するとき入射器構成は第1モードで動作する。逆に、少なくとも1つのステアリングユニットが第1モード及び第4モードで動作するとき入射器構成は第2モードで動作する。
【0014】
第1入射器は、第1経路に沿って電子ビームを放出するよう配設されてもよく、少なくとも1つのステアリングユニットは、第2ステアリングモードで動作するとき第2経路に沿って伝搬するよう第1入射器によって出力される電子ビームを方向転換するよう配設されていてもよい。こうして、第1入射器によって放出される電子ビームの能動的なステアリングは、第1モードで動作するとき必要とされなくてもよい。
【0015】
第2入射器は、第3経路に沿って電子ビームを放出するよう配設されてもよく、少なくとも1つのステアリングユニットは、第4ステアリングモードで動作するとき第4経路に沿って伝搬するよう第2入射器によって出力される電子ビームを方向転換するよう配設されていてもよい。こうして、第2入射器によって放出される電子ビームの能動的なステアリングは、第3モードで動作するとき必要とされなくてもよい。
【0016】
少なくとも1つのステアリングユニットは、第1入射器からの電子ビームをステアリングするよう配設された第1ステアリングユニットと、第2入射器からの電子ビームをステアリングするよう配設された第2ステアリングユニットと、を備えてもよい。第1ステアリングユニットは、第1ステアリングモードと第2ステアリングモードとを独立に切替可能であってもよく、第2ステアリングユニットは、第3ステアリングモードと第4ステアリングモードとを独立に切替可能であってもよい。
【0017】
入射器構成は、少なくとも1つのビームダンプをさらに備え、第1経路は、少なくとも1つのビームダンプへと通じてもよい。第3経路もまた、少なくとも1つのビームダンプへと通じてもよい。こうして、第1入射器の一方または両方は、各入射器によって放出される電子ビームがビームダンプへと能動的にステアリングされることを要せずにビームダンプの方向に電子ビームを放出するよう配設されてもよい。この構成がとくに効果的であるのは、あるビームダンプが複数の方向から(例えば第1経路と第3経路の両方から)電子を受けることが可能でありうるからである。逆に、電子ビームの目標物は、単一の方向から電子ビームを受けることが可能であってもよい。
【0018】
入射器構成は、電子ビームを自由電子レーザの線形加速器へと向けるよう配設されていてもよい。第3ステアリングユニットが入射器構成と線形加速器との間に配置され、第3ステアリングユニットは電子ビームを線形加速器へとステアリングするよう配設されていてもよい。
【0019】
第3ステアリングユニットは、入射器構成によって提供される電子ビームを自由電子レーザにおいて伝搬している電子ビームと合流させるよう配設された合流ユニットであってもよい。例えば、入射器構成がERL・FELとともに使用される場合には、合流ユニットは、入射器構成によって提供される電子ビームを既に線形加速器を通過した電子ビームと合流させてもよい。
【0020】
入射器構成は、第1入射器によって出力される電子ビームが進む経路及び/または第2入射器によって出力される電子ビームが進む経路に沿って配置された少なくとも1つの集束ユニットを備えてもよい。こうして、第1入射器及び第2入射器によって提供される電子ビームの電子バンチ内での電荷分布の変動が緩和されてもよい。
【0021】
第1入射器は、第1入射器と電子ビームの目標物との間の電子ビーム経路長が第2入射器と前記目標物との間の電子ビーム経路長より大きくなるように位置決めされ、少なくとも1つの集束ユニットは、第1入射器によって出力される電子ビームの電子バンチのサイズを小さくするよう配設されていてもよい。
【0022】
第1入射器は、第2ステアリングモードで動作するとき少なくとも1つのステアリングユニットが第1入射器によって出力される電子ビームを90度未満の角度曲げるよう配設されていてもよい。
【0023】
第2入射器は、第4ステアリングモードで動作するとき少なくとも1つのステアリングユニットが第2入射器によって出力される電子ビームを90度未満の角度曲げるよう配設されていてもよい。
【0024】
入射器構成は、さらに、第2入射器からの電子ビームの電子バンチと交互配置された第1入射器からの電子ビームの電子バンチを備える電子ビームを入射器構成が出力する第3モードで動作可能であってもよい。こうして、各入射器は、ある繰り返し率で、例えば、1つの入射器が単独で電子ビームを提供するのに必要とされる場合の半分の繰り返し率で、動作してもよい。こうして、各入射器の消耗が少なくなる。
【0025】
第1入射器は、第1室に設けられてもよく、第2入射器は、第1室から遮蔽された第2室に設けられていてもよい。
【0026】
入射器構成は、第1入射器と第2入射器との間に放射遮蔽を備えてもよい。こうして、一方の入射器が電子ビームを提供しているとき他方の(非稼動の)入射器にメンテナンスまたはその他の作業が安全に実行される。
【0027】
第1入射器は、第1フォトカソードを備えてもよく、第2入射器は、第2フォトカソードを備えてもよい。入射器構成は、第1フォトカソードと第2フォトカソードの両方にレーザ放射を提供するよう配設された単一のフォトカソード駆動レーザを備えてもよい。
【0028】
第2の態様によると、第1の態様の入射器構成を備え少なくとも1つの放射ビームを生成するよう配設された自由電子レーザが提供される。
【0029】
自由電子レーザは、合流ユニットを備え、入射器構成は、電子ビームを合流ユニットに提供するよう配設されていてもよい。
【0030】
第3の態様によると、少なくとも1つの放射ビームを生成するよう配設された第2の態様の自由電子レーザと、各々が少なくとも1つの放射ビームのうち少なくとも1つを受け取るよう配設された少なくとも1つのリソグラフィ装置と、を備えるリソグラフィシステムが提供される。少なくとも1つの放射ビームは、EUV放射を備えてもよい。
【0031】
少なくとも1つのリソグラフィ装置は、1つ又は複数のマスク検査装置を備えてもよい。
【0032】
本発明の第4の態様によると、自由電子レーザであって、各々が入射電子ビームを発生させるよう構成された第1電子ビーム入射器及び第2電子ビーム入射器と、前記入射電子ビームを加速するよう構成された入射器線形加速器であって、エネルギー回収型線形加速器である入射器線形加速器と、を備える入射器構成を備え、第2線形加速器及びアンジュレータをさらに備える自由電子レーザが提供される。
【0033】
入射器線形加速器をエネルギー回収型線形加速器とすることは、電子を加速し空間電荷効果の影響を小さくするエネルギーを入射電子ビームに与えることを、(エネルギー回収を用いない線形加速器を使用する場合と比べて)限られた量のエネルギーの使用を要するのみで可能にするので、有利である。空間電荷効果を低減することは、第2線形加速器に搬送される電子バンチの品質向上を可能にする。
【0034】
入射器構成は、合流ユニットをさらに備えてもよい。合流ユニットは、入射器線形加速器の上流にあってもよく、第1入射器からの入射電子ビームを再循環電子ビームと合流させる第1モードでの動作と、第2入射器からの入射電子ビームを再循環電子ビームと合流させる第2モードでの動作とを切り替えるよう構成されていてもよい。
【0035】
合流ユニットは、再循環電子ビームを第1角度曲げるよう構成されかつ入射電子ビームをより大きい第2角度曲げるよう構成された合成双極磁石を備えてもよい。合流ユニットは、第1動作モードと第2動作モードとを変更するとき合成双極磁石の極性を切り替えるよう構成されていてもよい。
【0036】
第1入射器は、入射器構成の軸線に対し第1側に設けられていてもよく、第2入射器は、入射器構成の軸線に対し反対の第2側に設けられていてもよい。
【0037】
合流ユニットは、再循環電子ビームを曲げるシケインとして配設された複数の双極磁石を備え、複数の双極磁石は、再循環電子ビームに適用される曲げ方向を反転するよう切替可能であってもよい。
【0038】
シケインは、合流ユニットが第1モードで動作するとき再循環ビームを入射器構成の軸線に対し第1入射器と同じ側から合成双極磁石へと向けるよう構成され、かつ合流ユニットが第2モードで動作するとき再循環ビームを入射器構成の軸線に対し第2入射器と同じ側から合成双極磁石へと向けるよう構成されていてもよい。
【0039】
シケインは、再循環電子ビームが合成双極磁石を出るとき入射器構成の軸線に沿って伝搬するよう選択された角度及び空間位置で再循環ビームを合成双極磁石まで搬送するよう構成されていてもよい。
【0040】
シケイン双極磁石は電磁石であってもよい。
【0041】
第1入射器は、第1入射電子ビームが合成双極磁石を出るとき入射器構成の軸線に沿って伝搬するよう選択された角度及び空間位置で第1入射電子ビームを合成双極磁石まで合流ユニットの第1モードでの動作中に搬送するよう構成された複数の双極磁石及び複数の四重極磁石を備えてもよい。
【0042】
第2入射器は、第2入射電子ビームが合成双極磁石を出るとき入射器構成の軸線に沿って伝搬するよう選択された角度及び空間位置で第2入射電子ビームを合成双極磁石まで合流ユニットの第2モードでの動作中に搬送するよう構成された複数の双極磁石及び複数の四重極磁石を備えてもよい。
【0043】
双極磁石及び四重極磁石は、所望の品質をもつ電子バンチを入射器線形加速器の後方に提供するようチューニングされていてもよい。
【0044】
第1入射器及び第2入射器はともに、電子がビームダンプに放射能を誘導するであろうエネルギー閾値を下回るエネルギーをもつ入射電子ビームを提供するよう構成されていてもよい。
【0045】
入射器線形加速器は、入射電子ビームのエネルギーを少なくとも20MeV増加させるよう構成されていてもよい。
【0046】
第1入射器は、第1室に設けられてもよく、第2入射器は、第2室に設けられ、電磁放射の遮蔽を提供する壁を各室が有してもよい。
【0047】
第2線形加速器は、エネルギー回収型線形加速器であってもよい。
【0048】
第2線形加速器は、入射器線形加速器による加速後に100MeV以上電子ビームのエネルギーを増加させるよう構成されていてもよい。
【0049】
自由電子レーザは、第2線形加速器及び入射器線形加速器を含む第1ループと、第2線形加速器及びアンジュレータを含む第2ループと、を備えてもよい。第1ループの経路長が第2ループの経路長と等しくてもよい。
【0050】
第1入射器及び第2入射器の各々が、電子が第1ループを周回する所要時間に相当する速度で電子ビームクリアランスギャップを提供するよう構成されていてもよい。
【0051】
第1入射器及び第2入射器は、第2線形加速器及びアンジュレータの上方の室に設けられていてもよい。
【0052】
本発明の第5の態様によると、自由電子レーザを使用して放射ビームを生成する方法であって、入射電子ビームを発生させるよう第1電子ビーム入射器を使用し入射電子ビームを再循環電子ビームと合成し、または、入射電子ビームを発生させるよう第2電子ビーム入射器を使用し入射電子ビームを再循環電子ビームと合成することと、再循環電子ビームから入射電子ビームにエネルギーを伝達することによって入射電子ビームのエネルギーを増加させるよう入射器線形加速器を使用することと、入射電子ビームのエネルギーをさらに増加させるよう第2線形加速器を使用することと、前記電子ビームを使用して前記放射ビームを発生させるようアンジュレータを使用することと、を備える方法が提供される。
【0053】
本発明の第6の態様によると、電子入射器であって、フォトカソードを支持するよう配設された支持構造と、フォトカソードから電子ビームを放出させるようフォトカソードのある領域に放射源からの放射ビームを向けるよう配設されたビーム搬送系と、放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域を変更するよう動作可能な調整機構と、電子入射器の軸線に電子が実質的に一致するように電子ビームの軌道を変化させる力を電子ビームに与えるよう動作可能なステアリングユニットと、を備える電子入射器が提供される。
【0054】
放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域は、使用中に損傷されうる。その場合時間とともに当該領域から放出される電子ビームのピーク電流が減少し及び/または電子ビームのエミッタンスが増加しうる。放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域を変更することは、電子ビームが放出されるフォトカソードの領域をフォトカソードの各所に移動することを可能にする。これにより、フォトカソードがより広範囲に利用されフォトカソード寿命にわたり電子が放出されるので、フォトカソードの有効な寿命が延長される。
【0055】
放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域の変更は、フォトカソードから放出される電子ビームを電子入射器の軸線から変位させうる。軸線は、電子源を出る電子ビームの所望の軌道を代表しうる。ステアリングユニットは、軸線からの変位を補正し、電子入射器を出るときの電子を軸線に一致させる。これはまた、電子入射器における電子の経路を電子入射器の下流に作り出されるイオンの経路から離す効果を有しうる。イオンは、フォトカソードに衝突しフォトカソードを損傷させうる。電子入射器における電子の経路からイオンの経路を離すことによって、イオン衝突で損傷を受けるフォトカソードの領域が電子ビームが放出されるフォトカソードの領域から離れうる。これはさらに、フォトカソードの有効な寿命を延ばす。
【0056】
ステアリングユニットは、1つ又は複数の電磁石を備えてもよい。
【0057】
ステアリングユニットは、電子入射器の電子ブースタの下流にあってもよい。
【0058】
放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域は、電子入射器の軸線から離れていてもよい。
【0059】
ビーム搬送系は、放射ビームがフォトカソードに入射するときフォトカソードと垂直でないよう構成されていてもよい。
【0060】
調整機構は、ビーム搬送系における放射ビーム調整ユニットを備え、放射ビーム調整ユニットは、放射ビームの1つ又は複数の特性を変更するよう動作可能であってもよい。
【0061】
放射ビーム調整ユニットは、放射ビームの伝搬方向を変更するよう動作可能であってもよい。
【0062】
ビーム搬送系は、放射ビームをフォトカソードのある領域へと反射するよう配設されたミラーを備えてもよく、調整機構は、ミラーの位置及び/または向きを変更するよう動作可能なアクチュエータを備えてもよい。
【0063】
調整機構は、放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域の形状を制御するよう動作可能であってもよい。
【0064】
調整機構は、放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域の形状を、当該照明される領域から放出される電子ビームがステアリングユニットによる電子ビームへの力の適用後に1つ又は複数の所望の特性を得るように、制御するよう動作可能であってもよい。
【0065】
調整機構は、フォトカソードの位置及び/または向きを変更するよう動作可能なアクチュエータを備えてもよい。
【0066】
アクチュエータは、フォトカソードを回転させるよう動作可能であってもよい。
【0067】
電子入射器は、コントローラをさらに備え、コントローラは、放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域の変更を制御するために調整機構を制御するよう動作可能であってもよい。
【0068】
ステアリングユニットは、電子ビームに与える力を、放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域に応じて調整するよう動作可能であってもよい。
【0069】
コントローラは、電子ビームに与える力の調整を、放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域の変更に応じて制御してもよい。
【0070】
電子入射器は、電子ビームの1つ又は複数の特性を測定するよう動作可能な電子ビーム測定装置をさらに備えてもよい。
【0071】
ステアリングユニットは、電子ビームに与える力を、電子ビームの1つ又は複数の特性の測定結果に応じて調整するよう動作可能であってもよい。
【0072】
放射源は、レーザであってもよく、放射ビームは、レーザビームであってもよい。
【0073】
レーザは、ピコ秒レーザであってもよい。
【0074】
電子ビームは、複数の電子バンチを備えてもよい。
【0075】
電子入射器は、電子ビームを加速するよう動作可能な電子ブースタをさらに備えてもよい。
【0076】
軸線は、電子入射器から出力される電子ビームの所望の軌道を代表してもよい。
【0077】
支持構造は、電子銃に収納されてもよく、電子入射器は、電子銃の位置及び/または向きを調整するよう動作可能なアクチュエータをさらに備えてもよい。
【0078】
アクチュエータは、放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域の変更に応じて電子銃の位置及び/または向きを調整するよう動作可能であってもよい。
【0079】
本発明の第7の態様によると、第6の態様の電子入射器と、電子ビームを相対論的速度に加速するよう動作可能な粒子加速器と、相対論的電子を振動的経路に追従させてコヒーレント放射の放出を誘発するよう動作可能なアンジュレータと、を備える自由電子レーザが提供される。
【0080】
アンジュレータは、相対論的電子にEUV放射を放出させるよう構成されていてもよい。
【0081】
粒子加速器は、線形加速器であってもよい。
【0082】
本発明の第8の態様によると、本発明の第6の態様の自由電子レーザと、1つ又は複数のリソグラフィ装置と、を備えるリソグラフィシステムが提供される。
【0083】
本発明の第9の態様によると、電子入射器を使用して電子ビームを生成する方法であって、フォトカソードに電子ビームを放出させるようフォトカソードのある領域に放射ビームを向けることと、放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域を変更することと、電子入射器の軸線に電子が実質的に一致するように電子ビームの軌道を変化させる力を電子ビームに与えることと、を備える方法が提供される。
【0084】
力を電子ビームに与えることは、電子ビームの軌道を変化させるよう磁場を発生させる1つ又は複数の電磁石を使用することを備えてもよい。
【0085】
放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域は、電子入射器の軸線から離れていてもよい。
【0086】
放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域を変更することは、放射ビームの1つ又は複数の特性を変更することを備えてもよい。
【0087】
放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域を変更することは、フォトカソードの位置及び/または向きを変更することを備えてもよい。
【0088】
フォトカソードの位置及び/または向きを変更することは、フォトカソードを回転させることを備えてもよい。
【0089】
本方法は、電子ビームに与えられる力を、放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域の変更に応じて調整することをさらに備えてもよい。
【0090】
本方法は、電子ビームの1つ又は複数の特性を測定することをさらに備えてもよい。
【0091】
本方法は、電子ビームに与えられる力を、電子ビームの1つ又は複数の特性の測定結果に応じて調整することをさらに備えてもよい。
【0092】
本方法は、放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域の形状を制御することをさらに備えてもよい。
【0093】
放射ビームによって照明されるフォトカソードの領域の形状は、当該照明される領域から放出される電子ビームが前記力を電子ビームに与えることの後に1つ又は複数の所望の特性を得るように、制御されてもよい。
【0094】
電子ビームは、複数の電子バンチを備えてもよい。
【0095】
軸線は、電子入射器から出力される電子ビームの所望の軌道を代表してもよい。
【0096】
第10の態様によると、放射を生成する方法であって、第9の態様の方法により電子ビームを生成することと、電子ビームを相対論的速度に加速することと、コヒーレント放射の放出を誘発するよう相対論的電子を振動的経路に追従させることと、を備える方法が提供される。
【0097】
相対論的電子は、EUV放射の放出を誘発させられてもよい。
【0098】
本発明の第11の態様によると、空洞が形成された基板と、基板上に配置された材料膜であって、放射ビームによって照明されるとき電子を放出するよう構成された電子放出面を備える材料膜と、を備え、電子放出面が空洞とは材料膜の反対側にあるフォトカソードが提供される。
【0099】
フォトカソードは、イオンとの衝突にさらされうる。基板内の空洞は、フォトカソードにおいてイオンが停止する基板内での深さを増加する役割を果たす。これは、イオン衝突によってフォトカソードからスパッタされる材料の量を低減する。スパッタされた材料はフォトカソードに堆積し、フォトカソードの量子効率を減少させうる。フォトカソードからスパッタされる材料の量を減らすことによって、量子効率の減少が低減されうる。これは、フォトカソードの有効な寿命を増加する。
【0100】
また、フォトカソードからスパッタされる材料の量を減らすことは、量子効率の勾配のフォトカソード上での成長を防止しうる。これは、フォトカソードから放出される電子ビームに関連付けられる電流の安定性を高め、フォトカソードから放出される電子バンチの電荷分布の一様性を高める。これらの効果の両方が特に有利であるのは、自由電子レーザのための電子源においてフォトカソードを使用する場合である。
【0101】
また、フォトカソードにおいてイオンが停止する基板内での深さを増加することは、フォトカソードの表面近くでのフォトカソードの加熱を低減するよう作用する。これは、フォトカソードからの熱電子放出を低減する。これは、フォトカソードによって放出される暗電流を低減する。これは、自由電子レーザにおいてその構成要素を損傷させうる迷走電子を低減するから、自由電子レーザのための電子源においてフォトカソードを使用する場合に有利である。
【0102】
フォトカソードは、フォトカソードの動作中にイオンを受ける衝突領域を含んでもよい。
【0103】
基板内の空洞は、衝突領域と実質的に整列されていてもよい。
【0104】
電子放出面と空洞との間に配置されたフォトカソードの一部分の厚さは、フォトカソードの当該一部分に入射する正電荷イオンがフォトカソードの当該一部分を通じて空洞へと通過するよう十分に薄くてもよい。
【0105】
電子放出面と空洞との間に配置されたフォトカソードの一部分の厚さは、10ミクロン未満であってもよい。
【0106】
フォトカソードは、フォトカソードがある電圧に保持されるときフォトカソードに与えられる静電圧力によってもたらされるフォトカソードの変形後に所望の形状をとるよう構成されていてもよい。
【0107】
フォトカソードは、フォトカソードに印加される電圧に付随する電気力線がフォトカソードの変形後に実質的に一様であるよう構成されていてもよい。
【0109】
基板内の空洞は、面取りを備えてもよい。
【0110】
基板は、1つ又は複数のリブを備えてもよい。
【0111】
1つ又は複数のリブは、フォトカソードがある電圧に保持されるときフォトカソードに与えられる静電圧力に抗するようフォトカソードを強化するよう配設されていてもよい。
【0112】
リブは、ハニカム構造に配設されていてもよい。
【0113】
リブは、約1ミクロン未満の厚さを有してもよい。
【0115】
材料膜は、1つ又は複数のアルカリ金属を備えてもよい。
【0116】
材料膜は、アンチモン化ナトリウムカリウムを備えてもよい。
【0117】
本発明の第12の態様によると、放射源からの放射ビームを受けるよう配設された本発明の第11の態様のフォトカソードと、フォトカソードから放出される電子ビームを加速するよう動作可能な電子ブースタと、を備える電子入射器が提供される。
【0118】
本発明の第13の態様によると、本発明の第12の態様の電子源と、電子ビームを相対論的速度に加速するよう動作可能な線形加速器と、相対論的電子を振動的経路に追従させてコヒーレント放射の放出を誘発するよう動作可能なアンジュレータと、を備える自由電子レーザが提供される。
【0119】
アンジュレータは、EUV放射を電子に放出させるよう構成されていてもよい。
【0120】
本発明の第14の態様によると、第13の態様の自由電子レーザと、1つ又は複数のリソグラフィ装置と、を備えるリソグラフィシステムが提供される。
【0121】
本発明の第15の態様によると、電子ビームを生成する方法であって、フォトカソードに電子ビームを放出させるようフォトカソードのある領域に入射するよう放射ビームを向けることを備え、フォトカソードは、空洞が形成された基板と、基板上に配置された材料膜と、を備え、材料膜は、放射ビームによって照明されるとき電子放出面から電子を放出するよう構成され、電子放出面が空洞とは材料膜の反対側にある方法が提供される。
【0122】
本発明のいずれかの態様についての特徴は、本発明の他のいずれかの態様についての特徴と組み合わされてもよい。
本発明のいくつかの実施の形態が付属の概略的な図面を参照して以下に説明されるがこれらは例示に過ぎない。
【発明を実施するための形態】
【0124】
図1は、本発明のある実施の形態に係るリソグラフィシステムLSの一例を示す。リソグラフィシステムLSは、自由電子レーザFELの形式である放射源と、ビーム分割装置19と、8台のリソグラフィ装置LA1〜LA8と、を備える。放射源は、極紫外(EUV)放射ビームB(メインビームとも称されうる)を発生させるよう構成されている。メイン放射ビームBは、複数の放射ビームBa〜Bh(分岐ビームとも称されうる)へと分割され、各々が異なる1台のリソグラフィ装置LA1〜LA8へとビーム分割装置19によって向けられている。分岐放射ビームBa〜Bhは、各分岐放射ビームが先行の分岐放射ビームの下流でメイン放射ビームから分割されるようにして、直列にメイン放射ビームから分割されてもよい。この場合、分岐放射ビームは例えば、互いに実質的に平行に伝搬してもよい。
【0125】
リソグラフィシステムLSは、ビーム拡大光学系20をさらに備える。ビーム拡大光学系20は、放射ビームBの断面積を広げるよう配設されている。有利には、これは、ビーム拡大光学系20の下流のミラーへの熱負荷を減らす。これにより、ビーム拡大光学系の下流のミラーを少ない冷却で安価な低性能のものとすることが可能となりうる。それとともに又はそれに代えて、下流のミラーを垂直入射により近づけることが可能となりうる。ビーム分割装置19は、ビームBの経路に配設されメインビームBから複数の分岐放射ビームBa〜Bhに沿って放射を向ける複数の静止引き出しミラー(図示せず)を備えてもよい。メインビームBのサイズが大きければ、ビームBの経路におけるミラーの配置精度は緩和される。したがって、これは、ビーム分割装置19による出力ビームBのより正確な分割を可能にする。例えば、ビーム拡大光学系20は、ビーム分割装置19によるメインビームBの分割前にメインビームBを約100μmから10cmを超えるよう拡大するように動作可能であってもよい。
【0126】
放射源FEL、ビーム分割装置19、ビーム拡大光学系20、及びリソグラフィ装置LA1〜LA8はすべて、外部環境から隔離可能であるよう構築され配設されていてもよい。EUV放射の吸収を最小化するよう放射源FEL、ビーム拡大光学系20、ビーム分割装置19、及びリソグラフィ装置LA1〜LA8の少なくとも一部に真空が提供されてもよい。リソグラフィシステムLSの異なるいくつかの部分それぞれに異なる圧力の真空が提供され(すなわち、大気圧を下回る異なる圧力に保持され)てもよい。
【0127】
図2を参照すると、リソグラフィ装置LA1は、照明系ILと、パターニングデバイスMA(例えばマスク)を支持するよう構成された支持構造MTと、投影系PSと、基板Wを支持するよう構成された基板テーブルWTと、を備える。照明系ILは、リソグラフィ装置LA1により受け取られる分岐放射ビームBaをパターニングデバイスMAに入射する前に調節するよう構成されている。投影系PSは、放射ビームBa’(マスクMAによってパターンが付与されている)を基板Wに投影するよう構成されている。基板Wは、以前に形成されたパターンを含んでもよい。その場合、リソグラフィ装置は、基板Wに以前に形成されたパターンにパターン付き放射ビームBa’を位置合わせする。
【0128】
リソグラフィ装置LA1により受け取られる分岐放射ビームBaは、ビーム分割装置19から照明系ILへと、照明系ILの包囲構造における開口部8を通過する。任意的に、分岐放射ビームBaは、中間焦点を開口部8またはその近傍に形成するよう集束されてもよい。
【0129】
照明系ILは、ファセット型フィールドミラーデバイス10及びファセット型瞳ミラーデバイス11を含んでもよい。ファセット型フィールドミラーデバイス10及びファセット型瞳ミラーデバイス11はともに放射ビームBaに所望の断面形状と所望の角度分布を与える。放射ビームBaは、照明系ILを通過して、支持構造MTにより保持されたパターニングデバイスMAに入射する。パターニングデバイスMAは、放射ビームを反射しパターンを付与して、パターン付きビームBa’を形成する。照明系ILは、ファセット型フィールドミラーデバイス10及びファセット型瞳ミラーデバイス11に加えて又はこれに代えて、他のミラーまたはデバイスを含んでもよい。照明系ILは例えば、独立に移動可能なミラーのアレイを含んでもよい。独立に移動可能なミラーは例えば、1mm未満の大きさを有してもよい。独立に移動可能なミラーは例えば、微小電気機械システム(MEMS)デバイスであってもよい。
【0130】
パターニングデバイスMAでの反射に続いてパターン付き放射ビームBa’は投影系PSに進入する。投影系PSは、放射ビームBa’を基板テーブルWTにより保持された基板Wに投影するよう構成された複数のミラー13、14を備える。投影系PSは、放射ビームに縮小率を適用し、パターニングデバイスMA上の対応するフィーチャより小さいフィーチャをもつ像を形成してもよい。縮小率は例えば4が適用されてもよい。
図2において投影系PSは2つのミラー13、14を有するが、投影系は任意の数(例えば6つ)のミラーを含んでもよい。
【0131】
上述のように、EUV放射ビームBを発生させるよう構成された放射源は、自由電子レーザFELを備える。自由電子レーザは、集群された相対論的電子ビームを生成するよう動作可能なソースと、相対論的電子のバンチが通過する周期的磁場と、を備える。周期的磁場は、アンジュレータによって生成され、電子を中心軸線を基準とする振動的経路に追従させる。磁気的構造に起因する加速の結果として電子は自発的に電磁放射を概ね中心軸線の方向に放射する。相対論的電子は、アンジュレータ内で放射と相互作用する。ある条件の下でこの相互作用によって電子は、アンジュレータ内での放射波長で変調されたマイクロバンチへと集群され、中心軸線に沿うコヒーレント放射の放出が誘発される。
【0132】
電子がたどる経路は、電子が中心軸線を周期的に通過するよう正弦的かつ平面的であってもよく、または、電子が中心軸線まわりに回転するよう螺旋状であってもよい。振動的経路の種類は、自由電子レーザによって放出される放射の偏光に影響しうる。例えば、電子を螺旋状経路に沿って伝搬させる自由電子レーザは、楕円偏光された放射を放出しうる。これは、一部のリソグラフィ装置による基板Wの露光に望まれうる。
【0133】
図3は、入射器構成21、線形加速器22、アンジュレータ24、及びビームダンプ100を備える自由電子レーザFELの概略図である。自由電子レーザFELは、
図10にも概略的に示される(詳細は後述する)。
【0134】
自由電子レーザFELの入射器構成21は、集群された電子ビームEを生成するよう配設されており、例えば熱電子カソードまたはフォトカソードのような電子源と、加速電場と、を備える。電子ビームEは、線形加速器22によって相対論的速度に加速される。一例においては、線形加速器22は、ある共通の軸線に沿って軸方向に空間をあけて配置された複数の高周波空洞と、電子バンチが通るとき各電子バンチを加速するよう共通の軸線に沿う電磁場を制御するよう動作可能な1つ又は複数の高周波電源と、を備えてもよい。空洞は、超伝導高周波空洞であってもよい。有利にはこれにより、比較的高い電磁場を高いデューティサイクルで印加することや、ビーム開口を大きくしてウェイク場による損失を小さくすること、ビームに伝達される高周波エネルギーの割合を(空洞壁に消失するのではなく)大きくすることが可能となる。あるいは、空洞は、従来のように、導電性(すなわち、超伝導ではない)であってもよく、例えば銅で形成されていてもよい。他の形式の線形加速器が使用されてもよい。例えば、線形加速器22は、電子ビームEが集束レーザビームを通過しレーザビームの電場が電子を加速させるレーザ加速器を備えてもよい。
【0135】
入射器構成21は線形加速器22とともに相対論的電子を提供する。
【0136】
任意的に、電子ビームEはバンチ圧縮器23を通過してもよい。バンチ圧縮器23は、線形加速器22の下流または上流に配置されてもよい。バンチ圧縮器23は、電子ビームEにおいて電子を集群し、電子ビームEにおける既存の電子バンチを空間的に圧縮するよう構成されている。1つの形式のバンチ圧縮器23は、電子ビームEを横断するよう向けられた放射場を備える。電子ビームEにおけるある電子が放射と相互作用し、近傍の他の電子を集群する。別の形式のバンチ圧縮器23は、シケインを通過するとき電子がたどる経路の長さがそのエネルギーに依存する磁気シケインを備える。この形式のバンチ圧縮器は、線形加速器22において複数の高周波空洞を使用して加速された電子バンチを圧縮するために使用されてもよい。
【0137】
電子ビームEはそれからアンジュレータ24を通る。一般に、アンジュレータ24は、周期的磁場を生成するよう動作可能であり、かつ入射器構成21及び線形加速器22によって生成される相対論的電子をある周期的経路に沿って案内するよう配設された複数の磁石を備える。その結果として、電子は、概ねアンジュレータ24の中心軸線の方向に電磁放射を放射する。アンジュレータ24は、各セクションが周期的磁気構造を備える複数のモジュールを備える。電磁放射は、各アンジュレータモジュールの最初でバンチ(本書では光子バンチと称する)を形成してもよい。アンジュレータ24は、隣接するモジュールが1つ以上の組をなしそれら組どうしの間に例えば四重極磁石のような電子ビームEを再集束する機構をさらに備える。電子ビームEを再集束する機構は、電子バンチのサイズを小さくしうるので、アンジュレータ24内での電子と放射の結合を改善し、放射の放出の誘発を高めうる。
【0138】
自由電子レーザFELは、自己増幅自然放射(SASE)モードで動作してもよい。あるいは、自由電子レーザFELは、アンジュレータ24内で誘導放出により増幅されうるシード放射源を備えてもよい。放射ビームBはアンジュレータ24から伝搬する。放射ビームBは、EUV放射を備える。
【0139】
電子がアンジュレータ24を通過するとき放射の電場と相互作用して放射とエネルギーを交換する。一般に、電子と放射とで交換されるエネルギー量は、共鳴条件に近い条件でない限り急速に振動し、次式で与えられる。
【数1】
ここで、λ
emは、放射の波長であり、λ
uは、アンジュレータ周期であり、γは、電子のローレンツ因子であり、Kは、アンジュレータパラメータである。Aは、アンジュレータ24の幾何形状に依存し、螺旋アンジュレータの場合A=1であり、平面アンジュレータの場合A=2である。実際には、各電子バンチはエネルギー幅を有するが、この広がりは(低エミッタンスの電子ビームEB
1を生成することによって)可能な限り最小化される。アンジュレータパラメータKは、典型的にはおよそ1であり、次式で与えられる。
【数2】
ここで、q及びmはそれぞれ電子の電荷及び質量であり、B
0は周期的磁場の大きさであり、cは光速である。
【0140】
共鳴波長λ
emは、アンジュレータ24を通過する電子によって自発的に放射される一次高調波の波長に等しい。自由電子レーザFELは、自己増幅自然放射(SASE)モードで動作してもよい。SASEモードでの動作には、アンジュレータ24への入射前の電子ビームEB
1における低エネルギー幅の電子バンチが必要となりうる。あるいは、自由電子レーザFELは、アンジュレータ24内で誘導放出により増幅されうるシード放射源を備えてもよい。
【0141】
アンジュレータ24を通過する電子は、放射の振幅を増加させうる。すなわち、自由電子レーザFELは、非ゼロのゲインを有してもよい。最大ゲインが実現されうるのは、共鳴条件が満たされるとき、または、条件が共鳴に近いがわずかに外れているときである。
【0142】
アンジュレータ24に入射するとき共鳴条件を満たす電子は放射を放出(または吸収)するとともにエネルギーを失い(または得て)、それにより共鳴条件はもはや満たされなくなる。したがって、いくつかの実施の形態においては、アンジュレータ24は、テーパ付きであってもよい。つまり、周期的磁場の振幅及び/またはアンジュレータ周期λ
uは、電子バンチがアンジュレータ24を通じて案内されるとき共鳴またはその近傍に維持されるように、アンジュレータ24の長さに沿って変化してもよい。アンジュレータ24内での電子と放射との相互作用が電子バンチ内にエネルギー幅を生成することに留意せよ。アンジュレータ24のテーパリングは、共鳴またはその近傍にある電子数を最大化するよう構成されてもよい。例えば、電子バンチは、あるピークエネルギーにピークをもつエネルギー分布を有してもよく、テーパリングは、電子がこのピークエネルギーまたはその近傍を維持してアンジュレータ24を通じて案内されるとき共鳴するよう構成されていてもよい。有利には、アンジュレータのテーパリングは、変換効率を顕著に増加する能力を有する。テーパ付アンジュレータを使用することにより、変換効率(電子ビームEのエネルギーのうち放射ビームBにおける放射に変換される割合)が2倍を超えて増加されうる。アンジュレータのテーパリングは、その長さに沿ってアンジュレータパラメータKを小さくすることによって実現されてもよい。これは、アンジュレータ周期λ
u及び/または磁場強度B
0をアンジュレータの軸線に沿って電子バンチエネルギーに整合させて共鳴またはその近傍にあることを確実にすることによって実現されてもよい。こうして共鳴条件を満たすことにより、放出される放射のバンド幅が大きくなる。
【0143】
アンジュレータ24を出た後は、電磁放射(光子バンチ)は、放射ビームBとして放出される。放射ビームBは、リソグラフィ装置LA1からLA8にEUV放射を供給する。放射ビームBは任意的に、放射ビームBを自由電子レーザFELからリソグラフィ装置LA1〜LA8に向けるよう設けられうる専用の光学構成要素に向けられてもよい。EUV放射は一般にあらゆる物質によく吸収されるので、損失を最小化するよう(透過性構成要素ではなく)反射光学構成要素が使用される。専用の光学構成要素は、リソグラフィ装置LA1〜LA8の照明系ILによる受入に適するように、自由電子レーザFELによって生成された放射ビームの特性を適応させてもよい。専用の光学構成要素は、
図1に示すビーム拡大光学系20及びビーム分割装置19を含みうる。
【0144】
アンジュレータ24を出た後は、電子ビームEは、ダンプ100(例えば、水、または、高エネルギー電子衝突による放射性同位体発生に高しきい値をもつ材料(例えばAlは約15MeVのしきい値をもつ)を大量に含みうる)によって吸収される。ダンプ100の通過前に、放射能を低減し及び/またはエネルギーの少なくとも一部を回収するよう電子ビームEからエネルギーを抽出することが望まれうる。
【0145】
ビームダンプ100によって吸収される前に電子のエネルギーを減少させるために、電子減速器26がアンジュレータ24とビームダンプ100の間に配置されてもよい。電子減速器26は、ビームダンプ100によって吸収されるとき電子が持つエネルギー量を減らし、従ってビームダンプ100に生成される誘導放射及び二次粒子の水準を低減する。これにより、ビームダンプ100から放射性廃棄物を除去し処分する必要性が除去されまたは少なくとも低減される。これが有利であるのは、放射性廃棄物の除去には自由電子レーザFELを定期的に運転停止する必要があるとともに放射性廃棄物の処分には費用がかかり深刻な環境への影響がありうるからである。
【0146】
電子減速器26は、電子のエネルギーをしきい値エネルギー未満に減少させるよう動作可能であってもよい。このしきい値エネルギー未満の電子は、ビームダンプ100に放射能をいかなる顕著な水準にも引き起こし得ない。ビームダンプ100の動作中はガンマ放射が存在するが、有利にはビームダンプ100がオフに切り替わるとともにビームダンプ100は安全に取り扱うことができる。
【0147】
(カソードのような)入射器の構成要素は、比較的短い動作寿命を有し、頻繁な交換またはメンテナンスを必要としうる。こうした交換およびメンテナンスは、当該要素が一部を形成する自由電子レーザに悪影響をもたらす。本発明のいくつかの実施の形態は、2台の入射器を提供し、それら入射器は、一の入射器がメンテナンスを許容すべくオフに切り替わるとき他の入射器は動作しているように構成されていてもよい。本発明のいくつかの実施の形態は、カソードのような入射器構成要素の動作寿命を増加しうる。
【0148】
図4を参照すると、入射器構成21は、第1入射器30と第2入射器31とを備える。各入射器30、31は、例えば熱電子カソードまたはフォトカソードのような自身の電子源と加速電場とを備える。第1入射器30は、第1の集群された電子ビームE
1を生成するよう配設され、第2入射器31は、第2の集群された電子ビームE
2を生成するよう配設されている。各入射器30、31は、それぞれの集群され入射される電子ビームE
1、E
2をステアリングユニット32に向けるよう配設されている。ステアリングユニット32は、それら入射される電子ビームのうち一方を電子ビーム合流ユニット33に選択的に向けるよう配設されている(図示のようにここでは第1の入射される電子ビームE
1である)。入射される電子ビームのうち他方は電子ビームダンプ34に向けられる(図示のようにここでは第2の入射される電子ビームE
2である)。電子ビームダンプ34は例えば、水の塊、または、高エネルギー電子衝突による放射性同位体発生に高いしきい値をもつ材料(例えばアルミニウム(Al)は約15MeVのしきい値をもつ)を含んでもよい。
【0149】
ステアリングユニット32は、当業者に直ちに明らかないかなる適切な方式で具体化されてもよい。一例として、ステアリングユニット32は、進入する入射電子ビームE
1、E
2をビームダンプ34または合流ユニット33のいずれかの方向にステアリングするよう制御可能ないくつかのステアリング磁石を備えてもよい。
【0150】
ステアリングユニット32は、いくつかのステアリングモードで動作するものとみなされうる。第1ステアリングモードにおいてステアリングユニット32は、電子ビームを第1入射器30から第1経路に沿ってビームダンプ34へと向ける。第2ステアリングモードにおいてステアリングユニット32は、電子ビームを第1入射器から合流ユニット33へと向ける。
【0151】
合流ユニット33へと向けられる入射電子ビームE
1は、出力電子ビームを提供する。合流ユニット33は、ステアリングユニット32によって提供される入射電子ビームを、自由電子レーザFEL内を伝搬する既存の再循環電子ビームに合流させ、合流した電子ビームEを線形加速器22に向けるよう配設されている。合流ユニット33は、当業者に直ちに明らかないかなる適切な方式で具体化されてもよい。一例として、合流ユニット33は、磁場を生成して入射電子ビームE
1を再循環電子ビームとの合流のためにステアリングユニット32から向けるよう配設された複数の磁石を備えてもよい。自由電子レーザFELの初期化の際にはステアリングユニット32によって提供される電子ビームと合流すべき再循環電子ビームが存在しないことに留意されたい。この場合、合流ユニット33は単純に、ステアリングユニット32によって提供される電子ビームを線形加速器22に提供する。
【0152】
図4の入射器構成21は、入射器30、31の一方に点検を許容するとともに入射器30、31の他方を使用可能である。例えば、
図4は第1入射器30が使用可能である場合を示す。つまり、第1入射器30によって発生する電子ビームE
1がステアリングユニット32によって合流ユニット33へと線形加速器22への提供のために向けられている(電子ビームE
1の実線表示により表されている)。
図4に示されるように、第2入射器31は使用不能である(電子ビームE
2が電子ビームEに寄与しないことを示すよう電子ビームE2と合流ユニット33との間を破線で表している)。
【0153】
使用不能な入射器を使用可能状態に高速に切り替えるために、使用不能な入射器31は、他方の入射器30(動作している入射器)が集群された電子ビームを線形加速器22に提供している間、スタンバイモードで動作してもよい(スタンバイ入射器)。スタンバイ入射器31は、動作している入射器30と同じ電荷を低いデューティサイクルで発生させてもよい。スタンバイ入射器31によって生成される電荷は、(図示のように)ダンプ34へと提供されてもよい。これは、動作している入射器がメンテナンスを要する場合に使用不能な入射器31が動作している入射器の役割を素早く担うことを可能にする。
【0154】
メンテナンス中、使用不能な入射器は、動作モードでもスタンバイモードでもなく、電荷を発生しないオフ状態にあってもよい。使用不能な入射器の点検のための安全な環境を作り出すために、各入射器30、31は互いに遮蔽されていてもよい。各入射器は例えば、他方の入射器によって発生する放射からの遮蔽を提供する壁を有する室にそれぞれ設けられていてもよい。また、それらの室は、自由電子レーザFELの他の部分から遮蔽されていてもよい。
【0155】
図5は、ある代替的な実施の形態に係る入射器構成21を概略的に示し、同様の構成要素には同様の参照符号が与えられている。
図5においては、第1および第2の入射器30、31はそれぞれ、ビームダンプ34の方向にそれぞれの電子ビームE
1、E
2を向けるよう配設されている。それぞれのステアリングユニット35、36は、各入射器30、31とビームダンプ34との間に配置されている。各ステアリングユニット35、36は、受け取った電子ビームをビームダンプ34または合流ユニット33のいずれかに選択的に向けてもよい。こうして、一方の入射器30、31がスタンバイ(または完全に使用不能な)モードで動作している間、他方の入射器30、31が電子ビームを線形加速器22に提供してもよい。
【0156】
ステアリングユニット35、36は、いくつかのステアリングモードで動作するものとみなされうる。第1ステアリングモードにおいて第1ステアリングユニット35は、電子ビームを第1入射器30から第1経路に沿ってビームダンプ34へと向ける。第2ステアリングモードにおいて第1ステアリングユニット35は、電子ビームを第1入射器30から合流ユニット33へと向ける。第3ステアリングモードにおいて第2ステアリングユニット36は、電子ビームを第2入射器31から第3経路に沿ってビームダンプ34へと向ける。第4ステアリングモードにおいて第2ステアリングユニット36は、電子ビームを第2入射器31から合流ユニット33へと向ける。
【0157】
図5の構成は有利には、
図4の構成よりもステアリング機構の複雑さが小さくなりうる。つまり、ビームダンプ34は各ステアリングユニット35、36に対し位置決めされればよく、電子ビームE
1、E
2をビームダンプ34に向けるための電子ビームE
1、E
2の経路の調整が不要である。このようにして、ステアリングユニット35、36は、電子ビームE
1、E
2を合流ユニット33に向けることだけに必要となる。
【0158】
合流ユニット33に提供される電子ビームE内の電荷分布が一方の入射器から別の入射器に切り替わる(つまり一方の入射器が使用可能状態からスタンバイまたは使用不能状態に移行するとともに他の入射器がスタンバイまたは使用不能状態から使用可能状態に移行する)とき変わらないことを保証することが望まれうる。各入射器30、31から合流ユニット33への経路長の差は、例えば各入射器からの電子ビームの拡大量を異ならせる結果、合流ユニットに提供される電子ビーム内の電荷分布におけるこうした変化の原因となりうる。したがって、すべての入射器と合流ユニット33との間の経路長が等しいことを保証することが望まれうる。
【0159】
入射器と合流ユニット33との間の経路長が等しくない場合、いくつかの集束要素が設けられてもよい。
図6は、ある代替的な入射器構成21を概略的に示し、同様の構成要素には同様の参照符号が与えられている。
図6の構成においては、第1入射器30は、第1電子ビームE
1を第1ビームダンプ34へと向けるよう配設される一方、第2入射器31は、第2電子ビームE
2を第2ビームダンプ37へと向けるよう配設されている。それぞれのステアリングユニット38、39は、各入射器30、31とそれぞれのビームダンプ34、37との間に配置されている。それぞれのステアリングユニット38、39は、受け取った電子ビームをビームダンプ34、37への経路から、ステアリングユニット39に隣接して配置されている合流ユニット33への経路へと選択的に方向転換するよう動作可能である。
【0160】
ステアリングユニット38、39は、いくつかのステアリングモードで動作するものとみなされうる。第1ステアリングモードにおいて第1ステアリングユニット38は、電子ビームを第1入射器30から第1経路に沿ってビームダンプ34へと向ける。第2ステアリングモードにおいて第1ステアリングユニット38は、電子ビームを第1入射器30から合流ユニット33へと向ける。第3ステアリングモードにおいて第2ステアリングユニット39は、電子ビームを第2入射器31から第3経路に沿ってビームダンプ34へと向ける。第4ステアリングモードにおいて第2ステアリングユニット39は、電子ビームを第2入射器31から合流ユニット33へと向ける。
【0161】
第1入射器30と合流部33との間を移動する電子バンチの経路長は、第2入射器31と合流部33との間を移動する電子バンチの経路長より大きい。よって、合流ユニット33での第1電子ビームE
1内の電荷分布は、合流ユニット33での第2電子ビームE
2内の電荷分布と異なりうる。集束要素40が第1ステアリングユニット38と合流ユニット33との間に設けられている。集束要素40は例えば、必要に応じて第1電子ビームE
1を狭めまたは広げるよう動作可能な四重極磁石を備えてもよい。集束要素40はしたがって、第1および第2電子ビームE
1、E
2内の電荷分布が合流ユニット33で同じとなるよう第1電子ビームE
1の集束を調整してもよい。
【0162】
図6の実施の形態においては集束要素40が第1ステアリングユニット38と合流ユニット33との間に設けられているが、それに代えてまたはそれとともに、集束要素が第2ステアリングユニット39と合流ユニット33との間に設けられてもよいものと理解されよう。第2ステアリングユニット39と合流ユニット33との間に設けられた集束要素は、電子ビームE
1、E
2の一方または両方を操作するよう動作可能であってもよい。より一般化すると、1つ又は複数の集束要素が電子ビームE
1、E
2の経路に沿って任意の位置に設けられてもよい。例えば、
図4の実施の形態においては、仮に第1入射器31が第2入射器31よりもステアリングユニット32から遠ければ、集束ユニットが第1入射器31とステアリングユニット32との間に設けられてもよい。
【0163】
また、
図6の概略図示においては第1電子ビームE
1が第2ステアリングユニット39を通るよう示されているが、第1電子ビームE
1は第2ステアリングユニット39を通る必要はないものと理解されよう。さらに、第1電子ビームE
1が第2ステアリングユニット39を通る場合、第2ステアリングユニット39が電子ビームE
1を積極的にステアリングすることは必須でない。
【0164】
経路長に加えて、入射器と合流ユニットとの間で電子ビームが曲がる角度の差も、それら電子ビーム間の合流ユニットでの電荷分布の違いをもたらしうる。
図7は、ある代替的な入射器構成21を概略的に示し、同様の構成要素には同様の参照符号が与えられている。
図7の構成においては、第1入射器30は、第1電子ビームE
1をビームダンプ34の方向に向けるよう配設される一方、第2入射器31は、第2電子ビームE
2を第2ビームダンプ37の方向に向けるよう配設されている。それぞれのステアリングユニット38、39は、各入射器30、31とそれぞれのビームダンプ34、37との間に配置されている。それぞれのステアリングユニット38、39は、受け取った電子ビームをビームダンプ34、37への経路から、ステアリングユニット38、39間に配置されている合流ユニット33への経路へと選択的に方向転換するよう動作可能である。
図7の構成は、各電子ビームE
1、E
2がそれぞれの入射器30、31と合流ユニット33との間で偏向される角度が等しい入射器構成21の一例を与えており、それにより、偏向角度が異なることによって生じうる電子ビームE
1、E
2内の電荷分布の不一致が低減される。合流ユニット33は、第1入射電子ビームE
1の再循環電子ビームとの合流と第2入射電子ビームE
2の再循環電子ビームとの合流とを切り替える。これは、例えば
図11に関連して詳細を後述するような、切替可能な極性をもつ双極磁石を使用して実現されてもよい。
【0165】
ステアリングユニット38、39は、いくつかのステアリングモードで動作するものとみなされうる。第1ステアリングモードにおいて第1ステアリングユニット38は、電子ビームを第1入射器30から第1経路に沿ってビームダンプ34へと向ける。第2ステアリングモードにおいて第1ステアリングユニット38は、電子ビームを第1入射器30から合流ユニット33へと向ける。第3ステアリングモードにおいて第2ステアリングユニット39は、電子ビームを第2入射器31から第3経路に沿ってビームダンプ34へと向ける。第4ステアリングモードにおいて第2ステアリングユニット39は、電子ビームを第2入射器31から合流ユニット33へと向ける。
【0166】
図8は、ある代替的な入射器構成21を概略的に示し、同様の構成要素には同様の参照符号が与えられている。
図8の構成は概ね
図6の構成に一致し、同じ構成要素が概ね同じレイアウトを有する。ところが
図6の入射器構成においては、電子ビームE
1、E
2がそれぞれの入射器30、31によって放出される方向が合流ユニット33に進入するときの電子ビームEの方向と実質的に平行であるよう図示されている。つまり、
図6の構成においては、ステアリングユニット38、39が電子ビームE
1、E
2を90度の角度曲げるよう図示されている。これに対して、
図8の構成においては、入射器30、31およびそれぞれのビームダンプ34、37は、ステアリングユニット38、39が電子ビームを合流ユニット33へと向けるよう各電子ビームE
1、E
2を曲げなければならない角度が90度未満であるように、合流ユニット33に進入するときの入射電子ビームE
1、E
2の伝搬方向に対し角度をなしてそれぞれ配設されている。同様に、
図8の構成においては、合流ユニット33は、入射電子ビームE
1、E
2を90度未満の角度曲げるよう配設されている。
【0167】
したがって、
図8の構成においては、各電子ビームE
1、E
2が曲げられる合計角度が
図6の構成に比べて小さくなり、それにより、電子ビーム内の電荷分布の不一致による悪影響が低減される。
【0168】
上記では一つの入射器がいつでも使用可能であると述べているが、より一般には、複数の入射器が同時に使用可能であってもよい。例えば、
図5の構成においては、各入射器30、31が同時に使用可能であってもよい。つまり、ステアリングユニット35、36は、両方の電子ビームE
1、E
2を合流ユニット33に同時に向け、電子ビームE
1、E
2が線形加速器22に提供される電子ビームEを提供するよう配設されていてもよい。両方の電子ビームE
1、E
2が合流ユニット33に提供される場合、各入射器30、31は、ある低減された繰り返し率で動作してもよい(すなわち、ある所与の期間により少ない電子バンチを放出してもよい)。例えば、単独で動作している一方の入射器の繰り返し率の半分の繰り返し率で各入射器30、31が動作してもよい。この場合、電子ビームEは、第2入射器31からの電子バンチと交互配置された第1入射器30からの電子バンチを備えてもよい。
【0169】
既述の実施の形態においては各入射器構成が2台の入射器30、31を備えるが、追加の入射器が(必要な場合には対応する追加のステアリング構成を設けるとともに)設けられてもよいことは理解されよう。加えて、既述の実施の形態においては各入射器構成が電子ビームを合流ユニット(すなわち、エネルギー回収型ライナック(ERL)FELと称されうるFEL構成において)に提供するが、エネルギー回収が使用されない場合には、入射器構成によって発生した電子ビームは合流部に提供されるのではなく、ライナック22へと直接に既存の電子ビームと合流せずに提供されるものと理解される。この場合、電子ビームEをライナックに向けるための追加のステアリングユニットが必要とされうる。あるいは、入射器構成は、電子ビームEが入射器構成から追加のステアリングユニットを使用せずに提供されるよう配設されていてもよい。
【0170】
上述のように、各入射器は、電子を発生させるよう構成されたフォトカソードを備えてもよい。各入射器のフォトカソードは、レーザのような放射源(本書ではフォトカソード駆動レーザと称される)から放射ビームを受けるよう配設されていてもよい。
【0171】
各入射器のフォトカソードは、電圧源を使用することによって高電圧に保持されてもよい。例えば、ある入射器のフォトカソードは、およそ数百キロボルトの電圧に保持されてもよい。レーザビームの光子がフォトカソードによって吸収され、フォトカソード内の電子をより高いエネルギー状態に励起しうる。フォトカソード内の一部の電子は、フォトカソードから放出されるよう十分に高いエネルギー状態へと励起されうる。フォトカソードの高電圧は負であるから、フォトカソードから放出される電子をフォトカソードから遠ざけるよう加速する役割を果たす。これにより電子ビームが形成される。
【0172】
フォトカソード駆動レーザによって提供されるレーザビームは、電子がフォトカソードからバンチで放出されるようパルス化され、バンチはレーザビームのパルスに対応していてもよい。フォトカソード駆動レーザは例えば、ピコ秒レーザであってもよく、よってレーザビームにおけるパルスはおよそ数ピコ秒の持続時間を有してもよい。フォトカソードの電圧はDC電圧またはAC電圧であってもよい。フォトカソードの電圧がAC電圧である実施の形態においては、フォトカソード電圧の周波数および位相は、レーザビームのパルスがフォトカソードの電圧のピークに一致するように、レーザビームのパルスと整合されていてもよい。
【0173】
いくつかの実施の形態においては、単一のフォトカソード駆動レーザが多数の入射器のフォトカソードにレーザビームを供給してもよい。ある例示的な実施の形態が
図9に概略的に示されており、2台の入射器30、31は、単一のフォトカソード駆動レーザ50によって駆動される。フォトカソード駆動レーザ50は、パルスレーザビーム51をビームスプリッタ52に放出するよう配設されている。ビームスプリッタ52は、レーザビーム51を入射器30、31それぞれに向けられる2本のパルスレーザビーム53、54へと分割するよう配設されている。パルスレーザビーム53、54は、入射器30、31のハウジングに設けられたそれぞれの窓55、56を通じて入射器30、31に進入し、それぞれのミラー57、58に入射する。
【0174】
それぞれ電子バンチE
1、E
2をフォトカソード59、60に放出させるように、第1入射器30のミラー57は、パルスレーザビーム53を第1フォトカソード59に向けるよう配設され、第2入射器31のミラー58は、パルスレーザビーム54を第2フォトカソード60に向けるよう配設されている。
【0175】
入射器30、31の一方をスタンバイモードで動作させ、または、入射器30、31の一方を(例えばメンテナンスのために)使用不能とすることを可能にするために、ビームスプリッタ52は、入射器30、31のいずれかに向けられているレーザ放射を選択的に妨げるよう動作可能であってもよい。ビームスプリッタ52は、入射器30、31それぞれに提供されるパルスレーザビームの周波数を独立に変化させるよう動作可能であってもよい。例えば、第1入射器30が使用可能であり第2入射器31がスタンバイモードにある場合、第2入射器31に提供されるパルス放射ビームの周波数が第1入射器30に提供されるパルス放射ビームの周波数より小さくてもよい。
【0176】
あるいは、ビームスプリッタ52は、パルスレーザ放射ビーム53、54を入射器双方に常時等しく提供してもよい。この場合、ある入射器のフォトカソードに印加される電圧を調整することによってその入射器がスタンバイモードに置かれてもよい。例えば、スタンバイの入射器のフォトカソードに印加される電圧は、使用可能な入射器のフォトカソードに印加される電圧よりも低い頻度で高くされ(それによりスタンバイ入射器のデューティサイクルが低減され)てもよい。
【0177】
図9は単に概略的であり、各入射器は図示されるよりも多くの構成要素を備えてもよいことは理解されよう。例えば、各入射器のフォトカソードは、真空チャンバ内に収納されていてもよく、各入射器は、加速電場を備えてもよい。
【0178】
図10は、自由電子レーザFELを概略的に示し、これは、入射器構成121、線形加速器122、およびアンジュレータ124を備える。入射器構成121は、第1室180に設けられ、線形加速器122およびアンジュレータ124は、第2室181に設けられている。EUV放射ビームBは、アンジュレータ124から出力され、(例えば
図1に関連して説明したように)いくつかのリソグラフィ装置に提供されてもよい。
【0179】
入射器構成121は、第1入射器130および第2入射器131を備える。第1入射器130は、第1室178に配置され、第2入射器131は、第2室179に配置されている。各入射器130、131は、例えばフォトカソードのような自身の電子源と、加速電場と、を備える(例えば
図12に示される)。加速電場は、電子源によって発生した電子をそれらが入射器130、131から例えば10MeV程度のエネルギーを有して出るように加速する。入射器130、131は、合流ユニット133に向けられる電子ビームE
1、E
2を発生させる。合流ユニット133は、電子ビームE
1、E
2を再循環電子ビームE
IRと合流させる(再循環電子ビームの起源の詳細は後述される)。各入射電子ビームE
1、E
2は、合流ユニット133で再循環ビームと合流するとき再循環電子ビームE
IRに対し角度αをなす。角度αは、例えば30度程度またはそれ未満であってもよいし、例えば15度程度またはそれ未満であってもよい。
【0180】
実際には、通常動作中に入射器130、131の一方が、日常的なメンテナンスを可能にするために例えばスタンバイモードで動作しまたはオフに切り替えられる等、オフラインとなりうる。よって、再循環電子ビームE
IRは、第1入射器130によって発生した電子ビームE
1または第2入射器131によって発生した電子ビームE
2のいずれかと合流する。用語の簡単のために、合流ユニット133以後の入射電子ビームは、(入射電子ビームE
1またはE
2に代えて)入射電子ビームEと表記される。
【0181】
線形加速器150は、入射器構成121の一部を形成する。線形加速器150は、入射電子ビームEの電子を加速し、それらのエネルギーを少なくとも20MeV増加する。電子は10MeV程度のエネルギーで線形加速器150に進入するから、30MeVまたはそれより高いエネルギーで線形加速器を出ることになる。よって入射器構成は、30MeVまたはそれより高いエネルギーをもつ電子ビームEを提供する。この電子ビームEは、開口部(図示せず)を通じて第1室180から第2室181へと通過する。
【0182】
第2室181において線形加速器122は電子ビームEの電子を加速する。線形加速器122によって電子に与えられるエネルギーは、入射器構成121の線形加速器150によって与えられるエネルギーよりも顕著に大きい。線形加速器122によって与えられるエネルギーは例えば、100MeV程度またはそれより高くてもよい。加速された電子ビームEは、線形加速器122からアンジュレータ124へと通過する。アンジュレータにおいて放射ビームBが上述のように電子ビームEによって発生する。
【0183】
第2室181における線形加速器122は、主線形加速器122(または第2線形加速器)と称されてもよく、第1室180における線形加速器150は、入射器線形加速器150と称されてもよい。入射器線形加速器150および主線形加速器122は、ある代替的な構成においては、同室に設けられていてもよい。
【0184】
入射器130、131による発生後かつ電子ビームが主線形加速器122に進む前に電子ビームEを加速することは、主線形加速器によって受け取られる電子バンチの品質が顕著に向上される点で有利である。電子ビームEは、入射器構成121から線形加速器122へと進むときある相当な距離(例えば10mを超える)を進みうる。仮に電子ビームEの電子が(入射器130、131によって与えられると予想されうる)10MeV程度のエネルギーを有したとすると、電子が主加速器122に進むとき電子ビームの電子バンチの品質に顕著な劣化が起こるであろう。この文脈での用語「品質」は、電子バンチの稠密さおよびある電子バンチ内での電子エネルギー幅を指すものと解釈されうる。劣化は空間電荷効果により起こる。この空間電荷効果は、マイクロバンチ不安定効果の例であるが、不可避である。入射器線形加速器150を使用して電子ビームEを加速することにより、電子のローレンツ因子が顕著に増加され、その結果、電子は増加された質量を入射器構成121から主線形加速器122へと進むとき有する。電子の増加された質量が空間電荷効果に起因するバンチ劣化を低減するのは、電子に空間電荷力により印加される加速度が減少するからである。このようにして電子バンチの品質が高められる。
【0185】
ある実施の形態においては、電子のエネルギーが10MeVから30MeV以上に増加する場合、電子の質量はおよそ3倍以上となる。対応して電子ビームバンチの劣化は2/3以上低減する。一部のマイクロバンチ不安定効果の規模はローレンツ因子γに関して非線形に低減され、例えばγ
2の因子またはγ
3の因子で低減しうる。よってマイクロバンチ不安定効果は電子のエネルギーが増すときわめて実質的に低減される。
【0186】
入射器線形加速器150は、20Mevを顕著に超えるエネルギーを電子に与えてもよい。例えば30MeV以上が与えられてもよい。例えば50MeV以上または60MeV以上が与えられてもよい。入射器線形加速器150は例えば、50MeV以上または60MeV以上を与えるよう構成されたモジュールとして提供されてもよい。あるいは、入射器線形加速器150は、そうしたモジュールの半分として提供されてもよく、20MeV以上または30MeV以上を与えるよう構成されていてもよい。電子ビームにより多くのエネルギーを与えることによりマイクロバンチ不安定効果が一層低減されるので、主加速器122によって受け取られる電子バンチの品質はさらに高まる。
【0187】
電子ビームEにおける電子のエネルギーを増すことに代えて、入射器から主線形加速器への経路の長さが単に低減されうることが考慮されるかもしれない。しかしながら、これを行うには実際には問題がありうるし、短距離で例えば45°を超える大きな偏向角度が必要となりうる。そうなりうるのは例えば、入射器130、131が主線形加速器と異なる室178、179に配置される場合である(これは自由電子レーザFELの動作中に入射器のメンテナンスを可能とするために望まれうる)。電子ビームEに作用する大きな偏向角度は、電子にコヒーレントシンクロトロン放射を放出させる。電子によってある電子バンチの正面に放出されるコヒーレントシンクロトロン放射は、ある電子バンチの背側の電子と相互作用をする。よってコヒーレントシンクロトロン放射は電子バンチを乱しその品質を劣化させる。コヒーレントシンクロトロン放射の放出および当該放射の電子バンチとの相互作用は、マイクロバンチ不安定効果の他の例である。
【0188】
本発明のある実施の形態が使用される場合、電子ビームEの電子に作用する空間電荷不安定効果がきわめて実質的に低減される。これは、入射器構成121から主線形加速器122への経路長を長くすることを可能にするとともに、その長さ増加の結果としての電子ビームにおける電子バンチの品質低下を少ししかもたらさない。経路長の増加は、電子ビームEをより緩やかに曲げることを可能としうる(すなわち、所与の電子ビーム方向変化を実現するのに、より長い経路長を利用可能である)。電子ビーム方向の変化は例えば、双極磁石と四重極磁石の組合せを使用して実現されてもよい。双極磁石および四重極磁石を収容するようより長い経路長を提供することは、(磁石を収容するのにより短い経路長が利用可能である場合に電子ビーム方向の変化中に放出されるシンクロトロン放射の量に比べて)電子ビーム方向の変化中に放出されるシンクロトロン放射をより少なくするように、それら磁石を配設することを可能としうる。
【0189】
よって、電子ビームにおける電子のエネルギーを増加し、それにより電子のローレンツ因子(および質量)を増加することによって、マイクロバンチ不安定効果が低減される。これにより、主線形加速器122によって受け取られる電子ビームにおける電子バンチの品質が向上される。
【0190】
入射器線形加速器150は、エネルギー回収型線形加速器である。つまり、入射器線形加速器150は、再循環電子ビームE
IRから入射電子ビームEへとエネルギーを伝達する。再循環電子ビームE
IRは、入射器線形加速器における加速場(例えば高周波場)に対し180度程度の位相差を有して入射器線形加速器150に進入する。入射器線形加速器150における電子バンチと加速場との位相差は、場による減速を再循環電子ビームE
IRの電子に生じさせる。減速している電子はそれらのエネルギーの一部を入射器線形加速器150における場に受け渡し、それにより入射電子ビームEを加速する場の強度が高まる。こうしてエネルギーが再循環電子ビームE
IRから入射電子ビームEへと伝達される。
【0191】
ある実施の形態においては、再循環電子ビームE
IRは30MeVのエネルギーを有し、入射器線形加速器150は再循環電子ビームから入射電子ビームEへと20MeVのエネルギーを伝達する。よって、30MeVのエネルギーをもつ出力電子ビームEと10MeVのエネルギーをもつ再循環電子ビームE
IRが入射器線形加速器150から提供される。再循環電子ビームE
IRは分離ユニット134によって電子ビームEから分離され、ビームダンプ151に向けられる。
【0192】
入射器線形加速器150はエネルギー回収型線形加速器であり再循環電子ビームE
IRから入射電子ビームEへとエネルギーを伝達するから、線形加速器がエネルギー回収型線形加速器ではなかった場合に比べてかなり少ないエネルギーが使用される。入射器線形加速器150は、ゼロに近い平衡化された空洞負荷を有してもよい。つまり、入射電子ビームEにおける電流は、再循環電子ビームE
IRにおける電流と実質的に整合してもよく、再循環電子ビームE
IRから抽出されるエネルギーは、入射電子ビームEに与えられるエネルギーとほとんど同じであってもよい。実際には、入射電子ビームEに与えられるエネルギー量は再循環電子ビームE
IRから抽出されるエネルギーよりわずかに高いかもしれず、この場合いくらかのエネルギーがこの差を埋めるように入射器線形加速器150に与えられる。一般には、入射器線形加速器150を出るときの再循環電子ビームE
IRのエネルギーは、第1入射器130によって提供される電子ビームE
1(または同等に第2入射器131によって提供される電子ビームE
2)のエネルギーに実質的に一致する。
【0193】
上述のように、入射器130、131は電子が合流ユニット133に達する前にそれらを加速する加速電場を各々が含む。加速電場は、入射器線形加速器150および主線形加速器122と同じ動作原理(すなわち、電子を加速する高周波(RF)場がいくつかの空洞に与えられる)を使用する線形加速器によって提供される。しかしながら、入射器130、131内に提供される加速と後段の加速との重要な違いは、その入射がエネルギー回収型線形加速器によって提供されないことである。よって、電子が合流ユニット133に達する前にそれらを加速するのに必要なすべてのエネルギーが、入射器130、131に与えられなければならない(一切のエネルギーが回収されたエネルギではない)。例えば、電子を10MeVに加速するには300kW程度の電力が必要である。仮に電子が入射器130によって例えば30MeVに加速されるべきであったとすると、900kW程度の電力を要するであろう。こうした高電力を与えることの不利益は、入射器130、131の極低温冷却が問題となりうることである。加えて、電力供給部に接続される負荷の大きさのために入射器130、131のオンオフ切替時に複雑さが生じうる。
【0194】
電子を30MeV(または他のエネルギー)に加速するためにエネルギー回収型入射器線形加速器150を使用することにより、電子を加速するのに使用されるエネルギーが再循環電子ビームE
IRから回収されるので、上述の問題が回避される。電子ビームを比較的低いエネルギー(例えば10MeVまたはそれ未満)で入射して電子ビームを加速するようエネルギー回収型入射器線形加速器150を使用することの追加の利点は、再循環電子ビームE
IRが入射器線形加速器の通過後に10MeV以下のエネルギーを有することである。これはビームダンプ151において誘導放射能を回避するのに十分に低いエネルギーである。仮に入射電子ビームが顕著に高いエネルギー(例えば20MeV)を有したとすると、ビームダンプにおける誘導放射能を回避するためにビームダンプ151の手前に電子減速ユニットを追加することが必要となるであろう。
【0195】
主線形加速器122もまたエネルギー回収型線形加速器である。主線形加速器122におけるエネルギー回収は、入射器線形加速器150におけるエネルギー回収と同様に働く。アンジュレータ124を出ると電子ビームEは180度程度の位相差で主線形加速器122を再循環する。次いで電子ビームは入射電子ビームE
1、E
2と合流する再循環電子ビームE
IRとして入射器構成121に進入する。
【0196】
電子ビームEの電子バンチは、連続するバンチ列として提供され、列どうしの間に隙間が設けられてもよい。隙間はクリアリングギャップと称されてもよく、ある電子バンチ列の隣接電子バンチ間の間隔より長い。電子ビーム経路において衝突電離により残留ガスからイオンが生成される。イオンは正の電荷をもち、イオンの発生速度は仮にイオンが除去されなかったとしたら時間とともに電子ビームEが中性化されるであろう程度である(例えば、電子ビームの1メートルあたりイオン電荷が電子電荷と釣り合う)。電子ビームEにおけるクリアリングギャップは、電子ビーム経路から遠ざかるようイオンをドリフトさせることを可能とし、それにより、捕捉されたイオンの蓄積が防止または軽減される。電子ビームから離れるイオンのこのドリフトは、ビーム経路に沿ってどの位置でも起こりうる。電子ビーム経路から遠ざかるようイオンがドリフトする速度を増すよう機能する引出電極が設けられてもよい。
【0197】
図10を考慮して理解されうるように、自由電子レーザにおけるいくつかの場所で電子ビームEと再循環電子ビームE
IRは互いに共伝搬する。これは合流ユニット133と分離ユニット134の間で生じ、ビームは入射器線形加速器150を共伝搬する(この共伝搬こそが線形加速器においてエネルギー回収を起こすことを可能にする)。同様に、電子ビームEと再循環電子ビームE
IRは主線形加速器122においても共伝搬する。
【0198】
電子ビームEと再循環電子ビームE
IRが共伝搬する場所でクリアリングギャップを有効にするために、電子ビームEにおけるクリアリングギャップは、再循環電子ビームE
IRにおけるクリアリングギャップと同期されるべきである。イオンを電子ビーム経路外にドリフトさせることを可能にすることに加えて、入射器線形加速器150および主線形加速器122を通過するときクリアリングギャップを同期させることによって、加速器のエネルギー回収動作が妨げられないという利点も提供される(仮に、減速しているビームにはクリアリングギャップが存在し加速しているビームには対応するクリアリングギャップがなかったとすると、加速器は加速された電子ビームのエネルギーに不所望の変動をもたらすであろう)。
【0199】
ある実施の形態においては、クリアリングギャップの同期を可能とするために、
図10に示される2つのループの電子ビーム経路長が互いに等しくてもよい。第1ループは合流ユニット133から入射器線形加速器150および主線形加速器122を通り合流ユニットに戻るよう測定される(アンジュレータ124は通らない)。第2ループは主線形加速器122の入口から主線形加速器およびアンジュレータ124を通り主線形加速器122の入口に戻るよう測定される。クリアリングギャップを発生させる速度は、ループの一方を電子が周回する時間(第1ループを周回する時間は第2ループを周回する時間と同じである)に対応する。これにより電子ビームEと再循環電子ビームE
IRにおけるクリアリングギャップの同期が提供され、その結果イオンクリアランスが(入射器線形加速器150および主線形加速器122内を含む)電子ビーム経路全体に生じることができる。一般には、入射電子ビームにおけるクリアリングギャップが再循環電子ビームのクリアリングギャップと同期されてもよい。
【0200】
図10には主線形加速器122およびアンジュレータ124と同一平面にある入射器構成121が概略的に示されているが、これは必須ではない。入射器構成121は、別の平面に設けられてもよい。例えば、入射器構成が設けられた室180は、主線形加速器122およびアンジュレータ124が設けられた室181の上方または下方にあってもよい。
【0201】
一般には、自由電子レーザFELの各室180〜183は、室外からの放射が室内の操作者に入射しない(逆も同様)ように放射を遮蔽する壁、床、および天井を有してもよい。これにより、例えば操作者が一方の入射器130を修理しているとき他方の入射器131および自由電子レーザFELの他の部分が動作中であることが可能となる。
【0202】
図11は、合流ユニット133の詳細を入射器構成121の第1および第2の入射器130、131とともに概略的に示す。
図11において第2入射器131が使用可能であり第1入射器130は(例えばメンテナンスを可能とするよう)オフに切り替えられまたはスタンバイモードにある。合流ユニット133は、入射電子ビームE
2を再循環電子ビームE
IRと、これら2つの電子ビームが合流ユニットを出るときそれらが共線的に伝搬するよう合成する。
【0203】
合流ユニット133は、いくつかの双極磁石およびいくつかの四重極磁石を備える。この実施の形態においては、双極磁石および四重極磁石は電磁石である(ただし双極磁石及び/または四重極磁石は永久磁石であってもよい)。それら双極磁石は、円盤を含む正方形161、162、170〜173、181、182によって概略的に表示されている。双極磁石は、電子ビームの伝搬方向を変える(方向が変化する位置が円盤によって概略的に表示されている)。四重極磁石は、円盤を含まない長方形163、183、175によって概略的に示されている。四重極磁石は、電子ビームの集束を維持する(すなわち電子ビームの不所望の発散を防ぐ)よう機能する。
【0204】
入射電子ビームE
2および再循環電子ビームE
IRは、合成双極磁石173によって合成される。概略的に図示されるように、入射電子ビームE
2と再循環電子ビームE
IRとは入射器構成の軸線A(点線で示す)に対し異なる方向を有する。この実施の形態においては、入射電子ビームE
2は、合成双極磁石173に進入するとき軸線Aに対し例えば15°程度の角度をなす。再循環電子ビームE
IRは、合成双極磁石173に進入するとき軸線Aに対し例えば2°程度の角度をなす。入射電子ビームは10MeV程度のエネルギーを有し、再循環電子ビームE
IRはこの例では80MeV程度のエネルギーを有する。
【0205】
合成双極磁石173は、電子ビームE
2、E
IRの双方をそれらが合成双極磁石を通過するとき右方に曲げる。合成双極磁石173によって電子ビームE
2、E
IRに適用される偏向角度は、電子ビームのエネルギーに反比例する。入射電子ビームE
2は、10MeVのエネルギーを有しており、合成双極磁石173を出射するとき軸線Aの方向に伝搬するよう15°程度の角度曲げられる。再循環電子ビームE
IRは、80MeVというかなり高いエネルギーを有しており、2°程度の角度曲げられる。2°の偏向角度は、再循環電子ビームE
IRが合成双極磁石173を出射するとき同様に軸線Aの方向に伝搬するためのものである。入射電子ビームE
2が合成双極磁石173に進入する空間位置と再循環電子ビームE
IRがその双極磁石に進入する空間位置は、合成双極磁石173を出るとき両者が同じ空間位置を有するよう選択される。こうして合成双極磁石173は、2つの電子ビームをそれらが合成双極磁石を出射するとき軸線Aに沿って伝搬する(互いに共線的である)よう合成する。
【0206】
図11に示される他の双極磁石161、162、170〜172は、電子ビームE
2、E
IRを合成双極磁石173へと、それら電子ビームが合成双極磁石173を出るとき中心軸に沿って伝搬する(すなわち共線的である)ような軸線Aに対する角度および空間位置で搬送するよう構成されている。電子ビームE
2、E
IRのエネルギーは自由電子レーザの設計段階で決定されるから、それに従って双極磁石の概略構成も自由電子レーザを設計するときに選択されてもよい。双極磁石161、162、170〜173により提供されるビーム偏向角度は、ビームアライメントを提供するために入射器構成121の据付時にチューニングされてもよい。
【0207】
電子ビームE
2、E
IRを合成双極磁石173へと軸線Aに対し所望の角度および空間位置で搬送することに加えて、双極磁石161、162、170〜172は、電子ビームにおける電子バンチ品質を維持する(または実質的に維持する)よう構成されていてもよい。
【0208】
一組の双極磁石161、162が入射電子ビームE
2の経路に設けられている。第1双極磁石161は、入射電子ビームE
2を右方に曲げるよう配設され、第2双極磁石は162は、入射電子ビームE
2を左方に曲げるよう配設されている。一組の双極磁石161、162の通過後に、入射電子ビームE
2は、入射電子ビームを右方に曲げる合成双極磁石173を通過する。こうして入射電子ビームE
2は3つの双極磁石161、162、173を通過する。また、入射電子ビームE
2は、第1双極磁石161の手前に設けられた四重極磁石、第1双極磁石と第2双極磁石の間に設けられた四重極磁石、および第2双極磁石162の後方に設けられた四重極磁石を通過する。
【0209】
双極磁石161、162は、入射電子ビームE
2を合成双極磁石173へと軸線Aに対し所望の角度で搬送するよう構成されている(所望の角度は例えば15°であってもよい)。四重極磁石163は、第1双極磁石161の手前、第1双極磁石と第2双極磁石の間、および第2双極磁石162の後方に設けられている。四重極磁石163は、入射電子ビームE
2の集束を維持する(すなわち入射電子ビームの不所望の発散を防止する)。3つの双極磁石161、162、173および3つの四重極磁石163が組み合わされて、入射電子ビームE
2の実質的にアクロマティックな偏向を提供する(すなわち、合成双極磁石173後方での電子ビームの位置および方向が入射電子ビームE
2のエネルギーから独立である)。また、双極磁石161、162、173および四重極磁石163は、入射電子ビームE
2の実質的にアイソクロナスな偏向を提供する(すなわち、あらゆるエネルギーの電子が同じ経路長に沿って進む)。双極磁石161、162、173および四重極磁石163のいくらかのチューニングが電子ビームに所望のバンチ品質がもたらされるよう据付時に行われてもよい。チューニングは例えば、入射器線形加速器150後方での電子バンチの品質に配慮する。ある場合には、入射器線形加速器150後方での最良の電子バンチ品質は、双極磁石161、162、173および四重極磁石163を使用して入射電子ビームE
2に例えば少量のクロマティシティを意図的に導入することによって実現されてもよい。一般には、双極磁石161、162、173および四重極磁石163は、線形加速器150後方で電子バンチに所望の品質を提供するようチューニングされてもよい。
【0210】
入射電子ビームE
2は、最初の四重極磁石163に達する手前でソレノイド(図示せず)に沿って進んでもよい。ソレノイドは、第2入射器131が配置された室179の壁(
図10参照)を貫通していてもよい。
【0211】
再循環電子ビームE
IRは、4つの双極磁石170〜173を通過する。これら双極磁石170〜173は、反転可能な極性を有する。つまり、各双極磁石170〜173によって再循環電子ビームE
IRに適用される偏向角度は反転されうる。これは、双極磁石170〜173を流れる電流方向を切り替え、それにより双極磁石の磁場方向を交換することによって実現される。
【0212】
第2入射器131が動作中であり第1入射器130がオフに切り替えられ(またはスタンバイモードにある)とき、双極磁石170〜173は、再循環電子ビームE
IRが
図11に実線により概略的に示される経路をたどるよう構成されている。つまり、第1双極磁石170は再循環電子ビームE
IRを右方に曲げ、第2双極磁石171は再循環電子ビームE
IRを左方に曲げ、第3双極磁石172は再循環ビームを右方に曲げる。この例においては、双極磁石170〜172は、再循環電子ビームE
IRを合成双極磁石173へと軸線Aに対し2°程度の角度で搬送する。双極磁石170〜173は、シケインとして配設されている。シケインは、再循環電子ビームE
IRを合成双極磁石173へと、再循環電子ビームが合成双極磁石を出るとき軸線Aに沿って向けられるよう所望の角度で搬送する。
【0213】
上述のように、入射電子ビームE
2および再循環電子ビームE
IRの入射角度並びにそれぞれのエネルギーは、合成双極磁石173を出るとき軸線Aに沿って両者が伝搬するようになっている。入射電子ビームE
2および再循環電子ビームE
IRは、四重極磁石175を通過して入射器線形加速器150へと進む(
図10参照)。
【0214】
第2入射器131をオフに切り替え第1入射器130を使用して電子ビームE
1を自由電子レーザに提供すること(すなわち第2動作モードと第1動作モードの切替)が望まれうる。その場合、再循環電子ビームE
IRに作用する双極磁石170〜173の極性がすべて切り替えられる。これは、双極磁石170〜173を流れる電流の方向を切り替えることによって実現されてもよい。再循環電子ビームE
IRは、破線により示されるビーム経路をたどる。これは実効的に、第2入射器131が使用されていたときの再循環電子ビームE
IRがたどる経路の(軸線Aで反射された)鏡像である。よって、再循環電子ビームE
IRは第1双極磁石170により左方に曲げられ、第2双極磁石171により右方に曲げられ、第3双極磁石172により左方に曲げられる。こうして再循環電子ビームは、合成双極磁石173へと2°程度の角度で軸線Aの反対側から搬送される。
【0215】
同様に、入射電子ビームE
1も破線で示される経路をたどる。入射電子ビームE
1は、2つの双極磁石181、182および四重極磁石183を通過する。これらの磁石は、他方の入射電子ビームE
2に関連して上述したものと同様にして動作し、入射電子ビームE
1を合成双極磁石173へと15°程度の角度で軸線Aの反対側から搬送する。
【0216】
入射電子ビームE
1および再循環電子ビームE
IRのエネルギーおよび入射角度は、合成双極磁石173がそれら電子ビームに異なる偏向角度を適用し、合成双極磁石を出るとき両者が軸線Aによって共線的に伝搬するようになっている。
【0217】
上記の説明では入射電子ビームE
1、E
2については15°程度の入射角度、再循環電子ビームE
IRについては2°程度の入射角度に言及している。しかしながら、いかなる適切な角度(例えば、入射電子ビームE
1、E
2については最大30°程度の入射角度、再循環電子ビームE
IRについては最大4°程度の入射角度)でも使用されうることは理解されよう。上述のように、合成双極磁石173によって適用される偏向の程度は電子ビームのエネルギーに反比例する。よって入射器構成121を構成するとき、双極磁石161、162、170〜173、181、182の構成は、入射器構成121が動作可能であるとき存在する電子ビームエネルギーを使用して選択されてもよい(電子ビームのエネルギーは既知である)。
【0218】
図10を再び参照すると、入射電子ビームE
2が合流ユニット133の上流で再循環電子ビームE
IRと交わるようにみえるかもしれない。実際には、電子ビームは交差するのではなく、入射電子ビームE
2が再循環電子ビームE
IRの上方を通る。入射電子ビームE
2の下方を通過した後の再循環電子ビームE
IRを上方へと移動させ両ビームを合流ユニット133に進入する前に同一平面で伝搬させるために双極磁石が使用される。入射電子ビームE
2および再循環電子ビームE
IRの平面は、合流ユニット133後方での合流した電子ビームE、E
IRの平面に一致してもよい。平面は例えば実質的に水平であってもよい。ある代替的な構成においては、合流ユニット133の手前で入射電子ビームE
2が再循環電子ビームE
IRの下方を通ってもよい。
【0219】
第1入射器130から提供された入射電子ビームE
1が再循環電子ビームE
IRと合成される第1動作モードと、第2入射器131から提供された入射電子ビームE
2が再循環電子ビームと合成される第2動作モードとの切替は、コントローラ(図示せず)によって制御されてもよい。コントローラは、プロセッサを備えてもよい。コントローラは、シケインの双極磁石170〜173の極性を、それら双極磁石に提供される電流の方向を切り替えることによって切り替えてもよい。
【0220】
図12は、ある実施の形態の入射器230の概略図である。入射器230は、電子銃231(電子源とみなされうる)、電子ブースタ233、およびステアリングユニット240を備える。電子銃231は、真空チャンバ232内にフォトカソード243を支持するよう配設された支持構造242を備える。業界において入射器230は、入射器230における使用のための交換可能部分とみなされうるフォトカソード243無しで販売されうると理解されるべきである。
【0221】
電子銃231は、放射源235から放射ビーム241を受けるよう構成されている。放射源235は例えば、レーザビーム241を放出するレーザ235を備えてもよい。レーザ235はフォトカソード駆動レーザと称されてもよい。レーザビーム241は、レーザビーム調整ユニット238を通り、窓237を通じて真空チャンバ232へと向けられる。レーザビーム241は、フォトカソード243に入射するようミラー239で反射される。ミラー239は例えば、ミラー239の帯電防止のために金属化されグランドに接続されていてもよい。
【0222】
レーザビーム調整ユニット238、窓237、およびミラー239はすべて、レーザビーム241をフォトカソード243のある領域に向けるビーム搬送系の構成要素とみなされてもよい。他のいくつかの実施の形態においては、ビーム搬送系は、レーザビーム調整ユニット238、窓237、およびミラー239よりも多くの、またはそれより少ない構成要素を備えてもよく、その他の光学構成要素を備えてもよい。ビーム搬送系は、レーザビーム241をフォトカソード243のある領域に向けるのに適切な任意の構成要素を備えてもよい。例えば、いくつかの実施の形態においては、ビーム搬送系は、レーザ235によって放出されるレーザビーム241がフォトカソード243のある領域に向けられるようにレーザ235を支持するよう構成された支持部のみから成ってもよい。
【0223】
フォトカソード243は、電子銃232の一部を形成しまたは電子銃232から離れていてもよい電圧源(図示せず)を使用することによって高電圧に保持されていてもよい。例えば、フォトカソード243は、およそ数百キロボルトの電圧に保持されてもよい。レーザビーム241の光子は、フォトカソード243によって吸収され、フォトカソード243における電子をより高いエネルギー状態に励起してもよい。フォトカソード243における一部の電子は、フォトカソード243から放出されるよう十分に高いエネルギー状態に励起されてもよい。フォトカソード243の高電圧は負であるので、フォトカソード243から放出された電子をフォトカソード243から遠ざけるよう加速する役割を果たす。それにより、電子ビームEが形成される。
【0224】
上述のように、レーザビーム241はパルス化され、それによりレーザビーム241のパルスに対応するバンチで電子がフォトカソード243から放出されてもよい。したがって、電子ビームEは、集群された電子ビームである。レーザ235は例えば、ピコ秒レーザであってもよく、よってレーザビーム241におけるパルスはおよそ数ピコ秒の持続時間を有してもよい。フォトカソード243の電圧はDC電圧またはAC電圧であってもよい。フォトカソード243の電圧がAC電圧である実施の形態においては、レーザビーム241のパルスがフォトカソード243の電圧におけるピークに一致するように、フォトカソード電圧の周波数および位相がレーザビーム241のパルスに整合されていてもよい。
【0225】
自由電子レーザFELから放出される放射の量は少なくとも一部が、アンジュレータ24における電子ビームEのピーク電流に依存する。アンジュレータ24における電子ビームEのピーク電流を増やして自由電子レーザFELから放出される放射の量を増やすために、フォトカソード243から放出される電子バンチのピーク電流を増やすことが望まれうる。例えば、フォトカソード243が1ミリアンペアを超えるピーク電流を有する電子バンチを放出することが望まれうる。
【0226】
フォトカソード243によって放出されるレーザビーム241からの光子あたりの電子の数は、フォトカソードの量子効率として知られている。大きなピーク電流(例えば1ミリアンペアをより大きいピーク電流)を有する電子ビームEがフォトカソード243からレーザビーム241の所与の光子数につき放出されるよう高い量子効率を有する材料をフォトカソード243が備えることが望まれうる。フォトカソード243は例えば、1種以上のアルカリ金属を備えてもよく、1種以上のアルカリ金属とアンチモンを含む化合物を備えてもよい。例えば、材料膜63は、アンチモン化ナトリウムカリウムであってもよい。こうしたフォトカソード243は例えば、数パーセントの量子効率を有してもよい。例えばフォトカソード243は、およそ5%の量子効率を有してもよい(これは高い量子効率であるとみなされうる)。
【0227】
真空チャンバ232は、電子銃231から電子ブースタ233を通って延在して、電子ビームEが進むビーム通路234を形成する。ビーム通路234は軸線245まわりに延在する。電子ビームEが線形加速器に直接搬送されエネルギー回収が使用されないある実施の形態においては、軸線245は、線形加速器22を通る電子ビームEの所望の経路に一致してもよく、(上述のように)その軸線まわりにアンジュレータ24において電子が振動的経路に追従する軸線であってもよい。電子ビームEが合流ユニットを経由して搬送され再循環電子ビームに加わるある実施の形態においては、軸線245は、入射器230を出る電子ビームEの所望の経路に一致してもよい(所望の経路は、電子ビームが双極磁石によって合流ユニットに所望の入射角度で搬送されるようになっている)。
【0228】
軸線245は、ビーム通路234の幾何学的中心及び/またはフォトカソード243の幾何学的中心に一致してもよい。代替的な実施の形態においては、軸線245は、ビーム通路234の幾何学的中心及び/またはフォトカソード243の幾何学的中心から離れていてもよい。一般には、軸線245は、電子ビームEがステアリングユニット240を通過した後に実質的に一致することが望まれる軸線である。
【0229】
フォトカソード243から放出された電子バンチにおける電子それぞれは、電子間に働く静電斥力によって反発して互いに離れる。これが空間電荷効果であり、電子バンチを広げる原因でありうる。位置および運動量の位相空間における電子バンチの広がりは、電子ビームEのエミッタンスにより特徴付けられる。空間電荷効果による電子バンチの広がりは、電子ビームEのエミッタンスを増加させる。電子ビームEが線形加速器22、122、150およびアンジュレータ24、124(
図3および
図10参照)において低いエミッタンスを有することが望まれうるのは、このことが電子からのエネルギーをアンジュレータ24において放射に変換する効率を高めうるからである。
【0230】
電子ビームEのエミッタンスの増加を制限するために、電子ビームが電子ブースタ233において加速される。電子ブースタ233における電子バンチの加速は、空間電荷効果に起因する電子バンチの広がりを低減する。電子ビームEのエミッタンスが空間電荷効果により実質的に増加する前にフォトカソード243の近くで(電子ブースタ233を使用して)電子ビームEを加速することが有利である。
【0231】
電子ブースタ233は例えば、電子バンチをおよそ0.5MeVを超えるエネルギーに加速してもよい。いくつかの実施の形態においては、電子ブースタ233は、およそ5MeVを超えるエネルギーに電子バンチを加速してもよい。いくつかの実施の形態においては、電子ブースタ233は、最大でおよそ10MeVのエネルギーに電子バンチを加速してもよい。電子ブースタ233は例えば、10MeV程度のエネルギーに電子バンチを加速してもよい。
【0232】
いくつかの実施の形態においては、
図12に示されるステアリングユニット240の上流とは逆に、電子ブースタ233は、ステアリングユニット240の下流に位置してもよい。
【0233】
電子ブースタ233は、上述の線形加速器22と同様に動作し、例えば、複数の高周波空洞247(
図12に示す)と1以上の高周波電源(図示せず)とを備えてもよい。高周波電源は、ビーム通路234の軸線245に沿って電磁場を制御するよう動作可能であってもよい。電子バンチが空洞247間を通ると、高周波電源によって制御された電磁場が各電子バンチに加速を生じさせる。空洞247は、超伝導高周波空洞であってもよい。あるいは、空洞247は、従来の伝導(すなわち超伝導でない)であってもよく、例えば銅で形成されていてもよい。電子ブースタ233は、線形加速器を備えてもよい。
【0234】
ある代替的な実施の形態においては、電子ブースタ233は例えば、電子ビームEが集束レーザビームを通過してレーザビームの電場が電子を加速させるレーザ加速器を備えてもよい。また、その他の形式の電子ブースタが使用されてもよい。
【0235】
電子ビームEはビーム通路234に沿って進み、(ライナックが使用される場合)合流ユニット33、133へ、または(非エネルギー回収型線形加速器が使用される場合)直接に線形加速器へのどちらかを通る。ビーム通路234は真空圧条件へと排気されるがいくらかの残留ガス分子を含みうる。電子ビームEは残留ガス分子と衝突しガス分子をイオン化して、正の電荷を持つイオンを発生させうる。電子のエネルギーは電子が加速されると増加し、この増加したエネルギーはより多くのイオンを発生させることになる。
【0236】
正の電荷を持つイオンは自由電子レーザFELの全体にわたって、電子ビームEの経路に影響する。電子ビームEの負電荷は正電荷イオンに対しポテンシャル井戸として働く。イオンは電子よりも実質的に大きな質量を有し、その結果例えば電子ブースタ233の空洞247によって加速されない。イオンはビーム通路234に沿って拡散し、例えば入射器230へと戻りうる。入射器230に達するイオンはフォトカソード243の電圧によりフォトカソード243に引きつけられ、フォトカソード243に衝突しうる。
【0237】
入射器230に戻っていく正イオンは、電子ビームEの経路に沿って進む。入射器に向かってイオンが進む経路の最終部分は直線的である(例えば、
図11に示す入射器130と四重極磁石183との間の経路に一致する)。この直線経路は例えば、入射器130を含む室の壁を貫通してもよい。直線経路はソレノイド内に位置してもよい。正イオンが進む直線経路は、
図12に示される軸線245に一致してもよい。
【0238】
フォトカソード243とのイオン衝突は、フォトカソード243を損傷させうる。とりわけ、イオンのフォトカソード243との衝突は、フォトカソード243からの材料のスパッタリングの原因となりうる。フォトカソード243への損傷は、フォトカソード243の量子効率を低下させうるフォトカソード243の組成変化の原因となり、従ってフォトカソード243から放出される電子ビームEのピーク電流を減少させうる。それに加えてまたはそれに代えて、イオン衝突によるフォトカソード243の損傷は、フォトカソード243の表面粗さを増加させうる。フォトカソード243の表面粗さの増加は、フォトカソード243から放出される電子ビームEのエミッタンスの増加をもたらし、及び/または、フォトカソード243の量子効率の低下をもたらしうる。したがって、フォトカソード243とのイオン衝突は時間とともに電子ビームEのピーク電流を減少させ及び/または電子ビームEのエミッタンスを増加させうる。
【0239】
フォトカソード243とのイオン衝突の効果に加えて、レーザビーム241は、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域に損傷を与える原因となりうる。イオン衝突の効果と同様に、レーザビーム241は、表面粗さの増加及び/またはフォトカソード243の組成変化の原因となり、これは、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の量子効率を減少させ当該領域から放出される電子ビームEのエミッタンスを増加させうる。
【0240】
イオン衝突及び/またはレーザビーム241によるフォトカソード243への損傷は、フォトカソードの有効な寿命を短縮しうる。したがって、フォトカソード243への損傷を軽減し、及び/または、フォトカソード243から放出される電子ビームEのピーク電流およびエミッタンスへのフォトカソード243の損傷の影響を低減することが望まれうる。これによりフォトカソード243の有効な寿命が延長されうる。
【0241】
図13は、軸線245に沿って見たときのフォトカソード243の概略図である。上述のように、電子ビームEに起因するポテンシャル井戸のためにイオンは電子ビームEと整列される。電子ビームEの経路は一般に入射器230からの通過時に軸線245と実質的に一致する。したがって、これらのイオンが入射器230に進入しフォトカソード243と衝突する場合、イオンはフォトカソード243が軸線245と交わる位置の近くでフォトカソード243と衝突する。よって、フォトカソード243と衝突するイオンの大半が軸線245(フォトカソードの幾何学的中心に一致しうる)を囲む衝突領域249(
図13に示す)においてフォトカソード243に衝突する。
【0242】
衝突領域249におけるイオン衝突は、この領域249におけるフォトカソード243の組成を変更し及び/またはフォトカソード243の表面粗さを増加させうる。したがって、衝突領域249から放出される電子ビームEは、衝突領域249以外のフォトカソード243の領域から放出される電子ビームEよりも(衝突領域249における低下された量子効率のために)ピーク電流が低く及び/またはエミッタンスが高くなりうる。電子ビームEのピーク電流を増加し及び/またはエミッタンスを低下させるために、レーザビーム241は、軸線245および衝突領域249から離れているフォトカソード243のある被照明領域251に入射するよう向けられてもよい。例えば、被照明領域251は、軸線245からおよそ数ミリメートルの距離離れていてもよい。軸線245から離れているので被照明領域251に衝突するイオンは比較的少ない。したがって、被照明領域251の組成および表面粗さは、フォトカソード243とのイオン衝突によって実質的に低下されず、故に、高ピーク電流および低エミッタンスをもつ電子ビームEが被照明領域251から放出されうる。
【0243】
軸線245から離れたフォトカソード243の被照明領域251に入射するようレーザビーム241を向けることによって、被照明領域251から放出される電子ビームEの位置が軸線245から位置オフセット253だけシフトする。電子ビームEが軸線245から離れた位置でフォトカソード243から放出されるとき、フォトカソード243に付随する電場は、
図12に示すようにフォトカソードの表面と垂直でない角度252で電子ビームEを放出させうる。例えばフォトカソード243の幾何学的中心が軸線245に一致する実施の形態においては、実質的に軸線245にて放出される電子のみがフォトカソード243の表面に垂直な方向に放出される。よって電子ビームEは、軸線245から位置変位253および角度変位252を有して放出されうる。
【0244】
入射器構成に後続する構成要素(例えば合流ユニットまたは線形加速器)は、軸線245に実質的に一致する位置および軌道をもつ電子ビームEを加速するよう構成されている。したがって、電子ビームEが入射器230を出るとき軸線245と実質的に一致するように軸線245からの位置変位253および角度変位252を補正するために電子ビームEの軌道を変更することが望まれうる。
【0245】
電子ビームEを軸線245に整列させるために、電子ビームEは、(
図12に示す)ステアリングユニット240によって調整される。ステアリングユニット240は、電子ビームEの軌道がステアリングユニット240を出るとき軸線245と実質的に一致するように電子ビームEの軌道を変更するよう構成されている。ステアリングユニット240は例えば、ビーム通路234における磁場を発生させるよう構成された1つ又は複数の電磁石を備えてもよい。磁場は、電子ビームEの軌道を変更するよう働く力を電子ビームEに及ぼしうる。
図12に示される実施の形態においては、電子ビーム軌道は、電子が軸線245に実質的に一致するまでステアリングユニット240によって変更されている。
【0246】
ステアリングユニットが1つ又は複数の電磁石を備える実施の形態においては、電磁石は、電子ビームEに力を与えるよう構成された双極磁場、四重極磁場、六重極磁場、及び/または任意の多重極磁場構成の1つ又は複数を形成するよう配設されていてもよい。ステアリングユニット240は、それとともにまたはそれに代えて、電子ビームEに力が与えられるようビーム通路234において電場を作り出すよう構成された1つ又は複数の帯電プレートを備えてもよい。一般には、ステアリングユニット240は、電子が軸線245に一致するように軌道を変更する力を電子ビームEに与えるよう動作可能である任意の装置を備えてもよい。
【0247】
ステアリングユニット240を通過するいかなるイオンの質量対電荷比は、電子ビームEにおける電子の質量対電荷比よりもかなり大きい。したがって、ステアリングユニット240は、ステアリングユニット240を通ってフォトカソード243へと向かうイオン進路の位置または方向を実質的に調整しない。入射器230へと(例えば線形加速器22から)通るイオンは、入射器230において電子ビームEによって作り出されるポテンシャル井戸が入射器230におけるイオンの経路を実質的に変更しない程度に十分な運動量を有しうる。このことがイオンの経路(軸線245に実質的に一致しうる)を入射器230において電子ビームEから分離する効果を持ち、フォトカソード243上の衝突領域249の位置を、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域251から隔てることを可能にする。これにより、電子ビームEが放出されるフォトカソード243の被照明領域251がイオン衝突により損傷を受けやすい衝突領域249から分離されることが保証される。これは、フォトカソード243とのイオン衝突が実質的に電子ビームEのピーク電流を減少させまたはエミッタンスを増加させないことを保証しうる。
【0248】
しかしながら上述のように、フォトカソード243に入射するレーザビーム241は、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域を時間とともに損傷し、フォトカソード243から放出される電子ビームEのピーク電流を減少させ及び/またはエミッタンスを増加させうる。レーザビーム241によって照明されるレーザビーム241の領域251でのレーザビーム241に起因する損傷に加えて、被照明領域251は、ガス分子とステアリングユニット240をまだ通過していない電子との衝突によって入射器230において作り出されるイオンによっても損傷されうる。ステアリングユニット240の手前で作り出されるイオンは、ステアリングユニット240の手前で電子ビームEの経路に引き寄せられ、従って電子ビームEの経路に沿って拡散して、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域251に衝突しうる。しかしながら、一般には入射器230において作り出されるイオンは入射器の下流位置に比べて少ないので、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域251へのイオン損傷は、衝突領域249へのイオン損傷ほど顕著ではない。
【0249】
フォトカソード243の有効な寿命を延ばすために、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域251が変更されてもよい。例えば、レーザビームが被照明領域251に入射中のある時間経過後に、被照明領域251が損傷を受けたかもしれないときに、フォトカソード上のレーザビーム241の位置が(
図13に示すように)新たな被照明領域251’に変更されてもよい。レーザビーム241は、新たな被照明領域251’が損傷されるまでのある時間さらに、その新たな被照明領域251’に入射してもよい。レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域は、更に新たな被照明領域(図示せず)へとその後再び変更されてもよい。レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の位置は、以前に照明されず損傷されていないフォトカソード243の新たな領域を照明するようフォトカソード243上をレーザビーム241で走査することによって、反復的に変更されてもよい。
【0250】
これは、フォトカソード243の大きな領域がフォトカソード243の寿命にわたり電子ビームEを放出するよう使用されることを可能としうるので、フォトカソード243の総有効寿命を延長しうる。レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域を変更することは例えば、フォトカソード243の有効な寿命を10倍以上に延ばすことを可能にしうる。
【0251】
レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域は、連続的に変更されてもよいし、または段階的に変更されてもよい。レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域が段階的に変更されるある実施の形態においては、段階が定期的に生じてもよい。ある代替的な実施の形態においては、段階が非定期的に生じてもよい。
【0252】
レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域は例えば、(
図12に示される)レーザビーム調整ユニット238によって変更されてもよい。レーザビーム調整ユニット238は、レーザビーム241の1つ又は複数の特性を変更するのに適切な1つ又は複数のミラー、レンズ、またはその他の光学部材を備えてもよい。例えば、レーザビーム調整ユニット238は、レーザビーム241がミラー239に入射する位置およびレーザビーム241がフォトカソード243に入射する位置を変更するようにレーザビーム241の伝搬方向を変更してもよい。
【0253】
ある代替的な実施の形態においては、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域は、ミラー239の位置及び/または向きを変えることによって変更されてもよい。例えば、ミラー239は、レーザビーム241がミラー239から反射される方向を変えるために傾斜及び/または移動され、それによりレーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域が変更されてもよい。ミラー239の位置及び/または向きは、ミラー239の位置及び/または向きを変更するよう動作可能なアクチュエータ(図示せず)を使用して変更されてもよい。
【0254】
更なる代替的な実施の形態においては、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域は、レーザ235の位置及び/または向きを変えることによって変更されてもよい。例えば、レーザ235は、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域を変更するために傾斜及び/または移動されてもよい。レーザ235の位置及び/または向きは、レーザの位置及び/または向きを変更するよう動作可能なアクチュエータ(図示せず)によって変更されてもよい。
【0255】
更なる代替的な実施の形態においては、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域は、フォトカソード243の位置及び/または向きを変えることによって変更されてもよい。例えば、フォトカソード243は、レーザビーム241の位置を一定とするとともにレーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域がフォトカソード243上で回転するように回転されてもよい。あるいは、フォトカソード243およびレーザビーム241の双方の位置及び/または向きがレーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域を変更するために変えられてもよい。
【0256】
フォトカソード243の位置及び/または向きは、アクチュエータ(図示せず)によって変更されてもよい。例えば、支持構造242は、フォトカソード243の位置及び/または向きを変更するよう動作可能なアクチュエータを備えてもよい。
【0257】
レーザビーム調整ユニット238、ミラー239の位置及び/または向きを変更するよう動作可能なアクチュエータ、レーザ235の位置及び/または向きを変更するよう動作可能なアクチュエータ、およびフォトカソード243の位置及び/または向きを変更するよう動作可能なアクチュエータはすべて、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域を変更するよう動作可能な調整機構の例である。その他の調整機構を本発明の範囲から逸脱することなくレーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域を変更するために使用しうることは理解されよう。各調整機構は、別々に使用されてもよいし、または、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域を変更するための他の1つ又は複数の調整機構と組み合わせて使用されてもよい。
【0258】
レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域は、軸線245からの電子ビームEの角度変位252および位置変位253を決定しうる。よって、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の変更は、軸線245からの角度変位及び/または位置変位に対応する変化をもたらしうる。レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の変更に応じて、ステアリングユニット240は、電子ビームEの軌道がその調整された角度変位および位置変位から偏向されるように電子ビームEに与える力を調整し、電子ビームEが調整後に引き続き軸線245と一致するようにしてもよい。したがってステアリングユニット240は、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域に応じて電子ビームEに与える力を調整するよう動作可能であってもよい。
【0259】
ステアリングユニット240が1つ又は複数の電磁石を備えるある実施の形態においては、ステアリングユニット240は、それら1つ又は複数の電磁石のコイルを流れる1つ又は複数の電流を調整してもよい。1つ又は複数の電流の調整は、ステアリングユニット240によって発生する磁場を変化させるので、ステアリングユニット240によって電子ビームEに与えられる力が変わりうる。
【0260】
ある代替的な実施の形態においては、ステアリングユニット240は、機械的に移動可能であってもよい。例えば、ステアリングユニット240は、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の変更に応じて電子ビームEに与える力を調整するために傾斜され、回転され、及び/または変位されてもよい。
【0261】
ステアリングユニット240は、(
図12に示される)コントローラ236によって制御されてもよい。コントローラ236は、それとともにまたはそれに代えて、レーザビーム調整ユニット238を制御してもよい。コントローラ236は例えば、プログラマブルロジックコントローラであってもよい。コントローラ236は、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域をレーザビーム調整ユニット238に変更させてもよい。また、コントローラ236は、電子ビームEが調整後に軸線245と一致し続けるように、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の変更に応じて電子ビームEに与える力をステアリングユニット240に調整させてもよい。ステアリングユニット240は例えば、ステアリングユニット240の1つ又は複数の電磁石を流れる1つ又は複数の電流を調整することによって電子ビームEに与える力を調整してもよい。
【0262】
ある代替的な実施の形態においては、コントローラ236は、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域を変更させるために、レーザ235、ミラー239、およびフォトカソード243の1つ又は複数を制御してもよい。一般には、コントローラ236は、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域を変更するよう動作可能な任意の調整機構を制御してもよい。
【0263】
いくつかの実施の形態においては、ステアリングユニット240は、電子ビームEの測定結果に応じて電子ビームに力を与えてもよい。例えば、電子ビーム測定装置(図示せず)が電子ビームEの近傍に配置され、電子ビームEの位置を測定してもよい。ステアリングユニット240は、電子が軸線245に一致するように電子ビームEへの力を演算し与えるよう電子ビームEの測定結果を使用してもよい。レーザビーム241が入射するフォトカソードの領域に変更がなされると、電子ビーム測定装置によって測定されうる電子ビームEの位置に変化が生じうる。電子ビーム測定装置は、電子ビームの位置変化をステアリングユニット240に通信してもよい。ステアリングユニット240は、ステアリングユニットにより与えられる力が軸線245に電子が一致するように電子ビームEの軌道を変えるように、電子ビームEの位置変化に応じて電子ビームEに与える力を調整してもよい。
【0264】
ある実施の形態においては、レーザビーム測定装置およびコントローラ236は、組み合わせて使用されてもよい。こうした実施の形態においては、レーザビーム測定装置は、コントローラ236と通信してもよい。
【0265】
いくつかの実施の形態においては、ステアリングユニット240は、電子ビームEに与える力を、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の変更に応じて調整しなくてもよい。例えば、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域がレーザビーム241の位置を一定としつつフォトカソード243を回転させることによって変更されるある実施の形態においては、軸線245からの電子ビームEの位置変位253および角度変位252が変化しない。こうした実施の形態においては、電子ビームEの軌道は、ステアリングユニット240によって電子ビームEに与えられる力の調整無しで軸線245に一致するように、ステアリングユニット240によって変えられ続けてもよい。
【0266】
いくつかの実施の形態においては、電子銃231の位置及び/または向きは、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の変更に応じて調整されてもよい。例えば、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の変更に応じて、電子銃231の位置及び/または向きは、電子銃231を出る電子の軌道がレーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の変更前の電子の軌道と実質的に同じであるように調整されてもよい。こうした実施の形態においては、ステアリングユニット240によって電子ビームEに与えられる力は、実質的に一定に保たれていてもよい。あるいは、電子銃231の位置及び/または向きとステアリングユニット240によって電子ビームEに与えられる力の両方が、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の変更に応じて調整されてもよい。
【0267】
電子銃231の位置及び/または向きは、電子銃231の位置及び/または向きを変化させるよう動作可能なアクチュエータ(図示せず)を使用して調整されてもよい。いくつかの実施の形態においては、電子ブースタ233の位置及び/または向きは、電子銃231の位置及び/または向きの調整とともに(アクチュエータを使用して)調整されてもよい。
【0268】
いくつかの実施の形態においては、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域は、レーザビーム241がフォトカソード243を横断走査するようにして変更されてもよい。レーザビーム241は、フォトカソード243の実質的に全体にわたって走査してもよい。あるいは、レーザビーム241は、衝突領域249を除くフォトカソード243の実質的に全体にわたって走査してもよい。
【0269】
他の実施の形態においては、レーザビーム241は、フォトカソード243の一部分を走査するのみであってもよい。例えば、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域は、フォトカソード243の内側部分255(
図13に示す)の内部にとどまっていてもよい。内側部分255は、軸線245から距離R内にあるフォトカソード243の一部分に相当してもよい。距離Rは、電子が軸線245に一致するよう電子ビームEの軌道を調整する力を与えるようステアリングユニット240が動作可能でありうる軸線245からの電子ビームEの最大位置変位253を表してもよい。例えば、内側部分255の外側の領域から放出される電子ビームEは、ステアリングユニット240への到達前に電子ビームEがビーム通路234の外縁に衝突しうる程度に軸線245から遠く変位されうる。あるいは、電子ビームEは、電子が軸線245に一致するようステアリングユニット240が電子ビームEの軌道を変えるには軸線245から離れすぎている変位量でステアリングユニット240に到達してもよい。
【0270】
入射器230を出る電子バンチがある特定の形状および電荷分布を有することが望まれうる。例えば、電子バンチが円形断面を有し長さ方向に均一な電荷密度を有することが望まれうる。しかしながら、ステアリングユニット240によって電子ビームEに与えられる力は、電子ビームEの軌道を変えるだけでなく、電子ビームEのバンチの形状及び/または電荷分布も変化させうる。例えば、ステアリングユニット240は、ある特定の方向に電子バンチEを圧縮または伸長しうる。
【0271】
ステアリングユニット240に起因する電子バンチの形状及び/または電荷分布における何らかの変化の影響を軽減するために、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の形状は、所望の形状及び/または電荷分布をステアリングユニット240の通過後に有する電子バンチを生み出すよう制御されてもよい。例えば、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域は、楕円断面を有する電子バンチがフォトカソード243から放出されるように楕円形状を有してもよい。次いで電子バンチはステアリングユニット240によって電子バンチの楕円断面の長半径に沿って圧縮され、電子バンチは入射器230を出るとき円形断面を有するよう圧縮されてもよい。
【0272】
一般には、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の形状は、被照明領域から放出される電子ビームがステアリングユニット240の電子ビームへの力の適用後に1つ又は複数の所望の特性を得るように制御されてもよい。1つ又は複数の所望の特性は例えば、電子ビームの電子バンチのある特定の形状及び/または電荷分布であってもよい。
【0273】
ステアリングユニット240によって電子ビームEに与えられる力は、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の異なる領域それぞれに異なっていてもよい。よって、ステアリングユニット240による電子バンチの形状及び/または電荷分布における何らかの変化は、フォトカソード243の異なる領域それぞれから放出される電子バンチにつき異なっていてもよい。例えば、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域が軸線245から離れるよう移動する場合、ステアリングユニット240は、電子Eに与える力を増加してもよい。これにより、ステアリングユニット240に起因する電子ビームEにおける電子バンチの形状及び/または電荷分布の変化が増加されうる。
【0274】
フォトカソード243の異なる領域それぞれから放出される電子バンチの形状及び/または電荷分布の異なる変化に適応するために、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の形状は、フォトカソード243上のレーザビーム241の異なる位置について調整されてもよい。例えば、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域が軸線245から離れるよう移動する場合、フォトカソード243の楕円形状の被照明領域の離心率が増加されてもよい。これにより、ステアリングユニット240において電子バンチの形状がより大きく圧縮されることを見込んでフォトカソード243から放出される電子バンチの断面形状の離心率が増加されうる。これは、ステアリングユニット240を出る電子バンチが所望の形状及び/または電荷分布を有することを保証しうる。
【0275】
レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の形状は、レーザビーム調整ユニット238によって制御されてもよい。例えば、レーザビーム調整ユニット238は、レーザビーム241が入射するフォトカソードの領域の形状が所望の特性(例えば所望の形状及び/または電荷分布)をもつ電子バンチを放出させるよう制御されるように、レーザビーム241の形状を制御してもよい。フォトカソード243から放出される電子バンチの所望の特性は、ステアリングユニット240において生じると予想される電子バンチの特性における変化を考慮に入れてもよい。フォトカソード243から放出される電子バンチの所望の特性は、電子バンチが放出されるフォトカソード243の異なる領域それぞれについて異なっていてもよい。
【0276】
それとともにまたはそれに代えて、レーザビーム241によって照明されるフォトカソード243の領域の形状は、ミラー239の位置及び/または向きを変更するよう動作可能なアクチュエータを制御することによって制御されてもよい。
【0277】
上述のように、被照明領域251を衝突領域249から隔てることによって、電子ビームEは、イオン衝突をより少なく受けるフォトカソードの領域から放出され、従ってイオン衝突に起因する損傷をより受けにくくなる。これにより、高ピーク電流および低エミッタンスを有する電子ビームがフォトカソード243から放出されうる時間が延長され、従ってフォトカソード243の有効な寿命が延長されうる。
【0278】
しかしながら、衝突領域249の外側のフォトカソード243の領域はそれでも、衝突領域249におけるイオン衝突に影響されうる。イオン衝突が衝突領域249におけるフォトカソード243からの材料スパッタリングの原因となりうるからである。衝突領域249からスパッタされる材料の一部はフォトカソード243に戻り、衝突領域249の外側のフォトカソード243の領域に堆積しうる。スパッタされた材料は例えば、堆積領域254の内側に堆積しうる。堆積領域254は例えば、
図13に示されるように、被照明領域251、251’と重なりうる。
【0279】
フォトカソード243の堆積領域254に堆積するスパッタされた材料は、フォトカソード243の堆積領域254の全体または一部の化学組成を変化させうる。これは、堆積領域254の全体または一部の量子効率を低下させる原因となりうる。例えば、被照明領域251の全体または一部の量子効率は、堆積するスパッタされた材料によって低下しうる。レーザビーム241の出力が被照明領域251の全体または一部の量子効率低下に応じて増加されなければ、被照明領域251から放出される電子ビームEのピーク電流は減少する。
【0280】
スパッタされた材料は、フォトカソード243上に不均一に堆積しうる。例えば、衝突領域249に近いフォトカソード243の領域ほど、衝突領域249から遠い領域に比べて、多くのスパッタされた材料が堆積しうる。これは例えば、フォトカソード243に量子効率の半径方向勾配を生じさせうる。
【0281】
フォトカソード243の量子効率の半径方向勾配は、フォトカソード243から放出される電子バンチの不均一な電荷分布の原因となりうる。例えば、被照明領域251の量子効率は、衝突領域249から遠い被照明領域251の一部分において、衝突領域249に近い被照明領域251の一部分に比べて、より大きくなりうる。レーザビーム241のパルスが被照明領域251に入射するとき、より高い量子効率を有する被照明領域251の一部分からは、より低い量子効率を有する一部分に比べて、より多くの電子が放出される。したがって、電子バンチは不均一な電荷分布を有して放出される。これが不利であるのは、電子バンチからのエネルギーがアンジュレータ24において放射に変換される効率が不均一な電荷分布をもつ電子バンチについては低下しうるからである。
【0282】
また、フォトカソード243上に堆積するスパッタされた材料に起因するフォトカソード243の量子効率の不均一分布は、フォトカソード243から放出される電子ビームEの電流に不安定性を生じさせうる。電流不安定性は、本来的に不規則であり、高い周波数を有しうる。こうした電流不安定性は、予測することが難しく、例えばレーザビーム241の出力を変調することによって補正することも難しい。
【0283】
フォトカソード243からの材料スパッタリングを生じさせることに加えて、フォトカソード243と衝突するイオンは、それらのエネルギーの一部をフォトカソード243に熱エネルギーの形で伝達しうる。これはフォトカソード243の領域を加熱する原因となりうる。フォトカソード243の加熱は、フォトカソード243からの熱電子放出の原因となりうる。フォトカソード243からの熱電子放出は、レーザビーム241のパルス中にもレーザビーム241のパルス間の時間にも生じうる。こうしてフォトカソード243がレーザビーム241によって照明されていない期間に電子が放出されうる。フォトカソード243がレーザビーム241によって照明されていない期間に放出される電子は、暗電流と称されるフォトカソード243からの電子流れの原因となる。
【0284】
暗電流の電子は、電子ブースタ233または線形加速器22、122、150において高周波数で反転する電磁場と同期されていない。よって暗電流電子は、電子ブースタ233及び/または線形加速器22、122、150に到達する時点で広範囲のエネルギーをとりうる。暗電流電子の広範囲のエネルギーが意味するのは、自由電子レーザFELにおいて電子を方向付けまたは集束するよう設計されうる自由電子レーザFELの要素が暗電流電子の様々な影響を受けうるということである。よって、暗電流電子は、制御困難な迷走電子となりうる。
【0285】
迷走暗電流電子は、自由電子レーザFELの要素と衝突し、自由電子レーザFELの要素に損傷を生じさせうる。例えば、暗電流電子は、アンジュレータ24、124の磁気的構成要素と衝突しうる。これはアンジュレータの減磁を生じさせ、アンジュレータの有効な寿命を短縮しうる。また、電子は、ビーム通路234の外縁などの自由電子レーザのその他の構成要素と衝突し、ビーム通路234に放射能を生じさせうる。
【0286】
上述のように、フォトカソード243とのイオン衝突は、フォトカソード243からの材料スパッタリング、及び/または、フォトカソード243からの暗電流放出の増加をもたらすフォトカソード243の加熱を生じさせうる。これら双方の効果は上述のように自由電子レーザに不利な結果を有しうる。したがって、フォトカソード243とのイオン衝突に際してのフォトカソード243からの材料スパッタリングを低減または緩和し及び/またはフォトカソード243の加熱を低減するフォトカソード243を提供することが望まれる。
【0287】
図14は、本発明のある実施の形態に係るフォトカソードの概略図である。
図14は、フォトカソード243の断面である(上方から見るとき
図13に示す形を有しうる)。フォトカソード243は、材料膜263が成膜された基板261を備える。基板は例えば、シリコン、モリブデン、ステンレス鋼、またはその他の適切な材料を備える。基板261は、基板261への材料膜263の成膜をより良好に促進するために研磨されていてもよい。
【0288】
材料膜263は、高い量子効率を有する材料を備えてもよい。材料膜263は例えば、数パーセントの量子効率を有してもよい。例えば、材料膜263は、およそ5%の量子効率を有してもよい(これは高い量子効率であるとみなされうる)。材料膜263は、レーザビーム241が入射し電子ビームEが放出される表面264を有する。表面264は、電子放出面と称されてもよい。
【0289】
材料膜263は、1種以上のアルカリ金属を備える材料であってもよい。材料膜263は、1種以上のアルカリ金属とアンチモンとを備える化合物であってもよい。例えば、材料膜263は、アンチモン化ナトリウムカリウムを備えてもよい。材料膜263の複数の成分は基板261上に個別的に成膜されてもよい。例えば、材料膜263がアンチモン化ナトリウムカリウムを備えるある実施の形態においては、最初にアンチモン化物、続いてカリウム、それからナトリウムが基板上に成膜されてもよい。材料膜263は、原子蒸着(atomic vapour deposition)によって基板261上に成膜されてもよい。基板261は、成膜プロセス中に加熱されてもよい。
【0290】
材料膜263の厚さ267は、1ミクロンより顕著に小さくてもよい。例えば、材料膜263の厚さ267は、およそ数十ナノメートルであってもよい。基板261の厚さ269は、およそ数ミリメートルであってもよい。例えば、基板261の厚さ269は、1から10ミリメートルの間であってもよい。
【0291】
あるいは、フォトカソード243は、レーザビーム241によって照明されるとき電子を放出するよう構成された材料を備える基板261から形成されてもよい。こうしたフォトカソード243は、基板261に成膜される材料膜263を有しなくてもよい。代わりに電子放出面264は基板261の表面であってもよい。例えば、フォトカソード243は、電子放出面を含む銅基板261を備えてもよい。しかしながら、例えば1種以上のアルカリ金属を備える材料膜と比べて、銅は比較的低い量子効率を有しうる。よって、こうしたフォトカソードは、高い量子効率をもつ材料を備えるフォトカソードが自由電子レーザにおいて有利であるところ、自由電子レーザにおける使用に適切でないかもしれない。
【0292】
フォトカソード243とのイオン衝突の効果を低減するために、空洞265が基板261内に形成されている。空洞265は、衝突領域249と実質的に整列されていてもよい。例えば、空洞265は、
図14に示されるように、衝突領域249の実質的に直下に位置してもよい。空洞265は、
図14に示されるように、衝突領域249の大きさを超えて半径方向に拡張されていてもよい。しかしながら、衝突領域249は、良好に定義された領域ではなく、単にイオンが衝突しうるフォトカソード243の領域を表している。一般には、空洞265は、イオンが空洞265へと通過しうるように、イオンが衝突するフォトカソード243の領域と実質的に整列されていてもよい。空洞は、入射器230(
図12参照)の軸線245と実質的に整列されていてもよい。入射器の軸線は、入射器230を出る電子ビームEの所望の経路に一致していてもよい。
【0293】
空洞265は、厚さ266を有する基板261の薄層によって材料膜263から分離されている。これは、材料膜263が成膜されうる平滑面を有する基板261の層を残しつつ材料膜263にごく近接して空洞265を配置することを可能にしうる。材料膜263と空洞265を分離する基板261の薄層は例えば、およそ0.1ミクロンからおよそ10ミクロンの間の厚さ266を有してもよい。
【0294】
フォトカソードと衝突するイオンは、フォトカソード内のある特定の深さで停止される前にフォトカソードの上層を通過する。イオンは、フォトカソードによって停止される前に通過するフォトカソードの部分とは顕著に相互作用をしない。したがって、衝突するイオンに起因する損傷の大半は、イオンがフォトカソードによって停止される深さまたはその近傍となるフォトカソード内の深さで生じる。
【0295】
よって、フォトカソード243と衝突するイオンは、材料膜263を通り、基板261の薄層を通って空洞265へと停止されることなく進みうる。材料膜263およびイオンが通る基板261の部分は、イオンを部分的に減速するよう働きうるが、この減速はイオンを停止させるには十分ではない。一度イオンが空洞265内に行けば減速させる基板材料が存在しないから、さらに実質的に減速されることなく空洞265を通過しうる。したがって、イオンは、空洞265の反対側(すなわちイオンが進入した側と反対側)から空洞265下方の基板材料へと通る。基板材料はイオンを更に減速させイオンを停止させる役割を果たしうる。こうして、イオンが停止される位置は、イオンが空洞265下方の基板材料によって減速され停止される前に空洞265を通過するから、空洞265の下方となりうる。よって、空洞265は、フォトカソード261においてイオンが停止される位置を、フォトカソード243の電子放出面264から離れたフォトカソード243内のより深いところへとシフトする効果を有する。
【0296】
ある代替的な実施の形態においては、空洞265は、周囲または他の材料に空洞265が開放されるよう基板261の背面まで延びていてもよい。こうした実施の形態においては、イオンは、イオンに起因する損傷がフォトカソード243の外部で生じるように空洞265を通り抜けてフォトカソード243から出てもよい。
【0297】
フォトカソード243においてイオンが停止される深さを増すことによって、フォトカソード243の電子放出面264での材料スパッタリングは、より少なくなりうる。フォトカソード243におけるイオンの停止深さの増加は、エネルギーがイオンからフォトカソード243へと熱エネルギーの形で伝達される深さを増加しうる。これは、フォトカソード243の電子放出面264の近くでのフォトカソード243の加熱を小さくするので、フォトカソード243の電子放出面264からの熱電子放出が低減され、それにより自由電子レーザFELにおける暗電流が低減される。加えて、空洞265は、表面264の近傍で基板261に保持されうるイオンの量を減らし、そうでない場合に生じうる表面264のブリスタリングを軽減しうる。
【0298】
本発明の背後にある原理は、
図15を参照してさらに理解されうる。
図15は、500keVのエネルギーをもつ正の水素イオンがシリコン基板と衝突するシミュレーション結果を表示する。500keVのエネルギーは、自由電子レーザにおけるイオンのエネルギーにおおよそ相当しうる。各点は、水素イオンがシリコン基板によって基板内で停止した位置を表す。
図15において理解されるように、イオンの大半はシリコンターゲット内でおよそ4ミクロンより大きい深さで停止される。上述のように材料膜263は1ミクロンよりかなり小さい厚さ267を有しうる。よってイオンの大半は材料膜263で停止されずに通過する。
【0299】
図15に示される結果が表すのは、基板261がシリコンを備え、空洞265を材料層263から分離する基板261の薄層がおよそ4ミクロンより小さい厚さ266を有するある実施の形態においては、イオンの大半が基板の薄層を通じて空洞265内へと通り抜けるということである。空洞265内へと通るイオンは、実質的に減速されずに空洞265のもう一方の側から出る。よってイオンは、空洞を越えたところの基板材料内へと入るまで停止されない。
【0300】
基板261の材料が異なりイオンが異なるエネルギーを有する場合、
図15に示されるのとは異なる基板内の位置で停止されうることが理解されよう。したがって、フォトカソード243の寸法および空洞265の構成は、フォトカソード243の材料およびフォトカソード243の意図される使用法に依存して選択されてもよい。
【0301】
一般には、基板261内の空洞265は、表面264と空洞265との間に配置されたフォトカソード243の一部分の厚さが、フォトカソード243の当該一部分に入射するイオンの大半がフォトカソード243の当該一部分を通じて空洞265内へと通り抜けるよう十分に薄くなるように、配置されていてもよい。表面264と空洞265との間に配置されたフォトカソードの当該一部分の厚さは例えば、およそ10ミクロンより小さくてもよく、およそ5ミクロンより小さくてもよい。
【0302】
動作時に、フォトカソード243は、フォトカソード243の電圧に付随する電場から生じる静電圧力にさらされうる。フォトカソード243の電圧に付随する電場は例えば、およそ10MVm
−1の電界強度を有しうる。これは、およそ1000パスカルの静電圧力にフォトカソード243がさらされる原因となりうる。
【0303】
図16は、
図14に示されるのと同じフォトカソード243の断面についてフォトカソードに静電圧力が与えられるときの概略図である。フォトカソード243への静電圧力の方向が矢印272により示されている。空洞265は、フォトカソード243を空洞265の領域において構造的に弱めうる。例えば、空洞265の直上にあるフォトカソード243の薄層は、課される静電圧力を抑えるほど十分に強くないかもしれない。これにより、フォトカソード243の領域273には静電圧力下で変形が生じうる。
【0304】
フォトカソード243の変形は、変形領域273における電場の変更の原因となりうる。フォトカソード243のまわりの電場の方向は、
図16において矢印271により示されている。変形領域273における電場の方向は、フォトカソード243の変形によって変えられている。とくに、電場271は、変形領域273において収束されている。これが不利でありうるのは、フォトカソード243から放出される電子バンチのエミッタンスおよび軌道を変化させうるからである。したがって、静電圧力に起因するフォトカソード243の変形を低減し、及び/または、フォトカソード243の周囲の電場へのフォトカソード243の変形の影響を低減または緩和することが有利でありうる。
【0305】
図17aは、電圧がフォトカソード243に印加される前のフォトカソード243の概略図である。フォトカソード243に電圧が印加されていないから、フォトカソードはまったく静電圧力にさらされていない。
図17aに示されるように、フォトカソード243は、電圧がフォトカソード243に印加されるとき静電圧力下で変形されることを見込んで成形されている。つまりフォトカソード243は、静電圧力下での変形後に所望の形状をとるよう構成されている。とくに、基板261は、空洞265の上方の領域に窪み275を備えるよう成形されている。
【0306】
任意選択として、空洞265は、さらされる静電圧力を見込んだ形状を有してもよい。例えば、空洞265は、
図17aに示されるように、面取り276を含むよう成形されていてもよい。面取り276は、空洞265の角部を囲む基板261の領域における応力を軽減するよう働く。これにより、フォトカソード243に与えられる静電圧力の結果としてこれらの領域において基板内に成長するクラックの可能性が低減されうる。
【0307】
図17bは、電圧がフォトカソード243に印加されているときの
図17aに示したのと同じフォトカソード243の概略図である。フォトカソード243に課される静電圧力272は、予め窪みが付けられた基板261の領域275の変形を生じさせる。予め窪み付けられた領域275の変形後にはもはや窪みは存在せず、基板261の上面は実質的に平坦である。予め窪み付けられた領域275の変形後は電場方向271は実質的に一様であり、よってフォトカソード243から放出される電子バンチは空洞265の存在による影響を実質的に受けなくなりうる。
【0308】
図17aおよび
図17bに示されるフォトカソード243は純粋にフォトカソード243のある実施の形態の例である。フォトカソード243に及ぼされうる静電圧力を見込んで異なる形状および構成をもつ他のフォトカソード243もありうることが理解されよう。フォトカソード243の具体的な形状および構成は、フォトカソード243を形成する材料およびフォトカソード243の意図される動作条件など諸事情に依存しうる。
【0309】
あるいは、フォトカソード243は、静電圧力がフォトカソード243を実質的に変形させないよう静電圧力に抗するよう構成されていてもよい。例えば、空洞265の領域における基板261および材料膜263は、動作時にフォトカソード243に印加されると予想される静電圧力に耐えるよう実質的に剛であってもよい。
【0310】
フォトカソード243を強化するために、補強リブが基板261に追加されてもよい。補強リブは、静電圧力のもとで変形に抵抗するよう役立ちうる。
図18は、補強リブ277を備える基板261の一部分の平面図である。補強リブ277は、ハニカム構造に配設されており、基板261を強化するよう機能してもよい。補強リブ277は加えて、基板261の冷却にも役立ちうる。リブ277は例えば、基板261から周囲に熱を放射し、それにより基板261が冷却されてもよい。代替的な実施の形態においては、補強リブ277は、ハニカム構造以外の構造を形成するよう配設されていてもよい。
【0311】
イオンが基板261を通過するのを補強リブ277が実質的に妨げないことが望まれうる。例えば、イオンが空洞265へと通るのを補強リブが実質的に妨げないことが望まれうる。これは、補強リブ277どうしの間に(リブの厚さに対して)実質的な間隔を与えることによって実現されうる。これにより、補強リブ277によって占有される基板261の割合を比較的小さくすることが保証されうる(例えば10%未満)。こうして基板261に入射するイオンのうちリブ277に衝突する比率が比較的小さくなり、補強リブ277によって基板261を通過するのを妨げられるイオンの比率はごくわずかとなる。
【0312】
それとともにまたはそれに代えて、リブ277の厚さは、イオンがリブ277を通過しうるよう十分に薄く、それによりイオンに基板261を通過させるのをリブ277が実質的に妨げないようになっていてもよい。補強リブ277の厚さは例えば、およそ1ミクロン未満であってもよい。
【0313】
補強リブ277は、基板261の全体に配置されていなくてもよいが、とくに、フォトカソード243に電圧が印加されるとき大きな応力にさらされる基板261の部分に配置されていてもよい。例えば、補強リブ277は、材料膜263と空洞265を分離する基板261の層を補強するよう位置してもよい。この基板261の層は使用時に大きな応力にさらされうるからである。
【0314】
フォトカソード243のいくつかの実施の形態が、基板261内に形成され基板261の材料に包囲された空洞265を備えるものとして上述されている。しかしながら、いくつかの実施の形態においては、空洞265は、周囲または他の材料に開放されていてもよい。
図19は、基板261の基部まで延びる空洞265を備えるフォトカソード243の概略図である。空洞265へと通るイオンは、空洞を通り抜け、空洞265によって形成された開口部278から出る。開口部を通過するイオンを吸収し停止させるために、ある材料が開口部278を越えたところに位置してもよい。これにより、イオンに起因する損傷をフォトカソード243の外側に起こすことが保証されうる。
【0315】
電子源のいくつかの実施の形態がフォトカソード243に入射するレーザビーム241を放出するレーザ235に関連して説明されているが、他の実施の形態においてはレーザ以外の放射源が使用されてもよいものと理解すべきである。放射源は、レーザビームではない放射ビームを放出してもよい。よって、レーザ及び/またはレーザビームとの言及は、いくつかの実施の形態においては、放射源及び/または放射ビームに置き換えられてもよい。
【0316】
自由電子レーザのいくつかの実施の形態が線形加速器22、150、122を備えるものとして説明されているが、線形加速器は自由電子レーザにおいて電子を加速するのに使用されうる一種の粒子加速器の単なる例である。線形加速器がとくに有利でありうるのは、異なるエネルギーを有する電子を同じ軌道に沿って加速することを可能にするからである。しかしながら、自由電子レーザの代替的な実施の形態においては、他の種類の粒子加速器が電子を相対論的速度に加速するために使用されてもよい。
【0317】
用語「相対論的電子」は、相対論的速度で進む電子を意味するものと解釈すべきである。とくに、相対論的電子は、粒子加速器によって相対論的速度に加速された電子を指し示すために用いられてもよい。
【0318】
図面に示された入射器および入射器構成は単なる実施の形態であり、本発明による他の入射器構成も可能であることは理解されよう。
【0319】
8台のリソグラフィ装置LA1〜LA8を備えるリソグラフィシステムが上述されているが、それより多くのまたはそれより少ないリソグラフィ装置がリソグラフィシステムに設けられてもよいことを理解すべきである。また、リソグラフィ装置LA1〜LA8の1つ又は複数がマスク検査装置MIAを備えてもよい。いくつかの実施の形態においては、リソグラフィシステムは、ある程度の冗長性を可能とするために2台のマスク検査装置を備えてもよい。これは、一方のマスク検査装置を使用しつつ他方のマスク検査装置を修理またはメンテナンスすることを可能としうる。こうして1台のマスク検査装置が常に利用可能である。マスク検査装置は、リソグラフィ装置よりも低出力の放射ビームを使用してもよい。
【0320】
本書ではリソグラフィ装置の文脈において本発明のいくつかの実施の形態に具体的な言及がなされているが、本発明の実施の形態は他の装置にも用いられうる。本発明の実施の形態は、マスク検査装置、メトロロジ装置、または、ウェーハ(または他の基板)またはマスク(または他のパターニングデバイス)のような物体を計測しまたは処理する何らかの装置の一部を形成してもよい。これらの装置は一般にリソグラフィックツールとも称されうる。こうしたリソグラフィックツールは真空条件または周囲環境(非真空)条件で使用されうる。
【0321】
本発明の実施の形態は、基板をパターニングするよう1つの電子ビームまたは多数の電子ビームを使用するあるリソグラフィ装置の一部を形成してもよい。
【0322】
用語「EUV放射」は、5〜20nmの範囲内(例えば13〜14nmの範囲内)のある波長を有する電磁放射を包含するものと考慮されうる。EUV放射は、10nmより短い(例えば、6.7nmまたは6.8nmのような5〜10nmの範囲内の)ある波長を有してもよい。
【0323】
リソグラフィ装置LA1からLA8はICの製造に使用されうる。あるいは、本書に説明されるリソグラフィ装置LA1からLA8は、他の用途を有してもよい。可能な他の用途には、集積光学システム、磁区メモリ用案内パターンおよび検出パターン、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッド等の製造が含まれる。
【0324】
本発明のいくつかの具体的な実施の形態が上記に説明されたが、説明されたもの以外にも本発明は実施されうると理解されたい。上述の説明は例示であり、限定を意図しない。よって、後述の特許請求の範囲から逸脱することなく既述の本発明に変更を加えることができるということは、関連技術の当業者には明らかなことである。