(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射線分解性ポリマーが、(メタ)アクリル酸及びそのエステル;並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーの重合体である、請求項1に記載の製法。
親水性の官能性誘導体の親水性官能性基が、リン酸、ホスホン酸及びそれらのエステル構造;ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の製法。
親水性の官能性誘導体の親水性官能性基が、リン酸、ホスホン酸及びそれらのエステル構造;並びにベタイン構造からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2又は3に記載の製法。
ベタイン構造が、第4級アンモニウム型の陽イオン構造と、酸性の陰イオン構造との両性中心を持つ化合物の一価又は二価の基を意味する、請求項3又は4に記載の製法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪滅菌済コーティング膜≫
本発明は、(1)放射線分解性ポリマーと、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を基体に塗布する工程;
(2)基体を乾燥させ、コーティング膜を形成する工程;及び、
(3)基体を放射線による滅菌に付す工程、
を含み、かつ工程(1)〜(3)が順次実施される製法により形成される、滅菌済コーティング膜に関する。
【0022】
<工程(1):塗布工程>
本発明の滅菌済コーティング膜を形成するため、放射線分解性ポリマーと、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を基体に塗布する。
【0023】
(放射線分解性ポリマー)
本発明において、放射線分解性ポリマーとは、放射線照射により発生したラジカル(e・)やパーオキサイド(ROO・)等により、その主鎖や側鎖が切断され得るポリマーを指す。なお本発明において、放射線は、滅菌に使用されうる放射線を指し、例えば、γ線、X線、電子線を意味し、具体的にはγ線又はX線を意味し、特にはγ線を意味する。
【0024】
本発明に係る放射線分解性ポリマーは、好ましくは、生体物質の付着抑制能を有する。放射線分解性ポリマーは、放射線照射により発生したラジカル(e・)やパーオキサイド(ROO・)等により、その主鎖や側鎖が切断された結果、その生体物質付着抑制能が損なわれる。したがって、本発明において、放射線分解性ポリマーは、放射線照射によりその生体物質付着抑制能が損なわれるポリマーを指すということもできる。例えば、あるポリマーより、後述する<コーティング膜調製例1>と同様にしてコーティング膜を調製し、得られた膜をそれぞれ<比較例1>(放射線照射処理を含む)及び<参考例1>(放射線照射処理を含まない)に準じて処理した後に[血小板付着実験]に付した場合、放射線照射処理された膜の血小板付着数が、放射線照射未処理の膜の血小板付着数よりも増加するものを、放射線分解性ポリマーということができる。
そのような放射線分解性ポリマーを構成成分として有するコーティング膜でも、本発明に係る工程を経ることにより、例えば生体物質の付着抑制能を有する、滅菌済コーティング膜が得られる。
【0025】
本発明において、放射線分解性ポリマーの例としては、エチレン性不飽和モノマーの重合体、又は多糖類若しくはその誘導体を挙げることができる。エチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸及びそのエステル;酢酸ビニル;ビニルピロリドン;エチレン;ビニルアルコール;並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーを挙げることができる。多糖類又はその誘導体の例としては、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース)等のセルロース系高分子、デンプン、デキストラン、カードランを挙げることができる。
なお、本発明において、他に特に断りのない限り、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の両方を意味する。例えば(メタ)アクリレート化合物は、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方を意味する。
【0026】
親水性の官能性誘導体とは、親水性の官能基又は構造を有するエチレン性不飽和モノマーを指す。親水性の官能性基又は構造の例としては、リン酸、ホスホン酸及びそれらのエステル構造;ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基等が挙げられる。
【0027】
ここで、リン酸及びそのエステル構造は、下記式:
【化2】
[ここで、R
11、R
12及びR
13は、互いに独立して、水素原子又は有機基(例えば、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基等)である]
で表される基を意味し、ホスホン酸及びそのエステル構造は、下記式:
【化3】
[ここで、R
14及びR
15は、互いに独立して、水素原子又は有機基(例えば、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルホスホン酸等を挙げることができる。
【0028】
ベタイン構造は、第4級アンモニウム型の陽イオン構造と、酸性の陰イオン構造との両性中心を持つ化合物の一価又は二価の基を意味し、例えば、ホスホリルコリン基:
【化4】
を挙げることができる。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)等を挙げることができる。
【0029】
アミド構造は、下記式:
【化5】
[ここで、R
16、R
17及びR
18は、互いに独立して、水素原子又は有機基(例えば、メチル基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマー又はポリマーは、例えば、特開2010−169604号公報等に開示されている。
【0030】
アルキレングリコール残基は、アルキレングリコール(HO−Alk−OH;ここでAlkは、炭素原子数1乃至10のアルキレン基である)の片側端末又は両端末の水酸基が他の化合物と縮合反応した後に残るアルキレンオキシ基(−Alk−O−)を意味し、アルキレンオキシ単位が繰り返されるポリ(アルキレンオキシ)基も包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマー又はポリマーは、例えば、特開2008−533489号公報等に開示されている。
【0031】
アミノ基は、式:−NH
2、−NHR
19又は−NR
20R
21[ここで、R
19、R
20及びR
21は、互いに独立して、有機基(例えば、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基等)である]で表される基を意味する。本発明におけるアミノ基には、4級化又は塩化されたアミノ基を包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−(t−ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルコリンクロリド等を挙げることができる。
【0032】
スルフィニル基は、下記式:
【化6】
[ここで、R
22は、有機基(例えば、炭素原子数1乃至10の有機基、好ましくは、1個以上のヒドロキシ基を有する炭素原子数1乃至10のアルキル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するポリマーとして、特開2014−48278号公報等に開示された共重合体を挙げることができる。
【0033】
放射線分解性ポリマーは、上記のような親水性官能性基を有する親水性のエチレン性不飽和モノマーと、任意のエチレン性不飽和モノマーの共重合体であってもよい。
【0034】
本発明の放射線分解性ポリマーの好ましい例は、下記式(a1)及び式(b1):
【化7】
(式中、
T
a、T
b、U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又はアミノ基で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Q
a及びQ
bは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、R
a及びR
bは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキレン基を表し、An
−は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し、mは、0乃至6の整数を表す)
で表される繰り返し単位を含むポリマー(以下、放射線分解性ポリマー(I)と称す)である。
【0035】
放射線分解性ポリマー(I)は、好ましくは、式(a1)及び式(b1)で表される繰り返し単位に加え、さらに任意の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0036】
本発明において、他に特に断りのない限り、「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0037】
本発明において、他に特に断りのない限り、「アルキル基」は、直鎖若しくは分岐の、飽和脂肪族炭化水素の1価の基を意味する。「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基又は1−エチルプロピル基が挙げられる。「炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、「炭素原子数4乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例に加え、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基又はオクタデシル基、あるいはそれらの異性体が挙げられる。
【0038】
本発明において、他に特に断りのない限り、「アミノ基で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」は、上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を意味するか、あるいは1以上の上記アミノ基で置換された上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を意味する。「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例は、上記のとおりである。一方「1以上のアミノ基で置換された炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」は、上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基の1以上の任意の水素原子が、アミノ基で置き換えられているものを意味し、例としては、アミノメチル基、メチルアミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、(トリメチルアンモニウム)メチル基、2−アミノエチル基、2−メチルアミノエチル基、2−ジメチルアミノエチル基又は2−トリメチルアンモニウムエチル基等が挙げられる。
【0039】
本発明において、他に特に断りのない限り、「エステル結合」は、−C(=O)−O−若しくは−O−C(=O)−を意味し、「アミド結合」は、−NHC(=O)−若しくは−C(=O)NH−を意味する。
【0040】
本発明において、他に特に断りのない限り、「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」は、炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基、あるいは1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を意味する。ここで、「アルキレン基」は、上記アルキル基に対応する2価の有機基を意味する。「炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1−メチルプロピレン基、2−メチルプロピレン基、ジメチルエチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、1−メチル−テトラメチレン基、2−メチル−テトラメチレン基、1,1−ジメチル−トリメチレン基、1,2−ジメチル−トリメチレン基、2,2−ジメチル−トリメチレン基、1−エチル−トリメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基及びデカメチレン基等が挙げられ、これらの中で、エチレン基、プロピレン基、オクタメチレン基及びデカメチレン基が好ましく、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基がより好ましく、特にエチレン基又はプロピレン基が好ましい。「1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」は、上記アルキレン基の1以上の任意の水素原子が、ハロゲン原子で置き換えられているものを意味し、特に、エチレン基又はプロピレン基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置き換えられているものが好ましい。
【0041】
本発明において、「ハロゲン化物イオン」とは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンを意味する。
本発明において、「無機酸イオン」とは、炭酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン又はホウ酸イオンを意味する。
【0042】
放射線分解性ポリマー(I)は、下記式(A)及び(B):
【0044】
(式中、T
a、T
b、U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3、Q
a及びQ
b、R
a及びR
b、An
−、並びにmは、上記のとおりである)
で表される化合物を含むモノマー混合物を、溶媒中にて反応(重合)させることにより得られる。
【0045】
T
a及びT
bとしては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3としては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、式(a1)又は(A)のU
a1及びU
a2には水素原子、式(b1)又は(B)のU
b1、U
b2及びU
b3にはメチル基又はエチル基がより好ましい。
【0046】
An
−としては、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンが好ましく、ハロゲン化物イオンがより好ましい。mは0乃至6の整数を表すが、好ましくは0乃至3の整数を表し、より好ましくは1又は2の整数を表し、特に好ましくは1である。
【0047】
上記式(A)の具体例としては、ビニルホスホン酸、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシメチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、この中でもビニルホスホン酸、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(=リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル)及びアシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタアクリレートが好ましく用いられる。
【0048】
ビニルホスホン酸、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(=リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル)及びアシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレートの構造式は、それぞれ下記式(A−1)〜式(A−3)で表される。
【0050】
これらの化合物は、合成時において、後述する一般式(C)又は(D)で表されるような、2つの官能基を有する(メタ)アクリレート化合物を含む場合がある。
【0051】
上記式(B)の具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2−(t−ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、メタクロイルコリンクロリド等が挙げられるが、この中でもジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メタクロイルコリンクロリド又は2−(t−ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0052】
ジメチルアミノエチルアクリレート(=アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(=メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル)、メタクロイルコリンクロリド及び2−(t−ブチルアミノ)エチルメタクリレート(=メタクリル酸2−(t−ブチルアミノ)エチルの構造式は、それぞれ下記式(B−1)〜式(B−4)で表される。
【0054】
放射線分解性ポリマー(I)は、さらに任意の第3成分が共重合していてもよい。例えば、第3成分として2以上の官能基を有する(メタ)アクリレート化合物が共重合しており、ポリマーの一部が部分的に3次元架橋していてもよい。そのような第3成分として、例えば、下記式(C)又は(D):
【0056】
(式中、T
c、T
d及びU
dは、それぞれ独立して、水素原子又はアミノ基で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R
c及びR
dは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表す)で表される2官能性モノマーが挙げられる。すなわち放射線分解性ポリマー(I)は、好ましくは、このような2官能性モノマーから誘導される架橋構造を含むものである。
【0057】
式(C)及び(D)において、T
c及びT
dは、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基であり、より好ましくは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。
【0058】
式(C)及び(D)において、U
dは、好ましくは、水素原子、メチル基又はエチル基であり、より好ましくは、水素原子である。
【0059】
式(C)及び(D)において、R
c及びR
dは、好ましくは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至3の直鎖若しくは分岐アルキレン基であり、より好ましくは、それぞれ独立して、エチレン基若しくはプロピレン基であるか、あるいは1つの塩素原子で置換されたエチレン基若しくはプロピレン基であり、特に好ましくは、エチレン基若しくはプロピレン基である。
【0060】
式(C)で表される2官能性モノマーは、好ましくは、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。式(D)で表される2官能性モノマーは、好ましくは、リン酸ビス[(2−メタクリロイルオキシ)メチル]、リン酸ビス[(2−メタクリロイルオキシ)エチル]、リン酸ビス[(2−メタクリロイルオキシ)プロピル]等が挙げられる。
【0061】
また、3官能(メタ)アクリレート化合物としては、トリアクリル酸ホスフィニリジントリス(オキシ−2,1−エタンジイル)が挙げられる。
【0062】
これら第3成分の中でも、特に、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びリン酸ビス[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]が好ましく、その構造式は、それぞれ、下記式(C−1)及び式(D−1)で表される。
【0064】
放射線分解性ポリマー(I)には、これらの第3成分の1種又は2種以上が含まれていてもよい。上記の中でも、式(D)で表される2官能性モノマーが好ましく、特に、式(D−1)で表される2官能性モノマーが好ましい。
上記放射線分解性ポリマー(I)中における第3成分、例えば、上記式(C)又は(D)で表される2官能性モノマーから誘導される架橋構造の割合は、0モル%乃至50モル%である。
【0065】
式(A)で表される化合物の、上記放射線分解性ポリマー(I)を形成するモノマー全体に対する割合は、20モル%乃至80モル%であり、好ましくは30モル%乃至70モル%であり、さらに好ましくは40モル%乃至60モル%である。また、式(A)で表される化合物は、2種以上であってもよい。
式(B)で表される化合物の、上記放射線分解性ポリマー(I)を形成するモノマー全体に対する割合は、上記式(A)の割合を差し引いた残部全てでも良いし、上記式(A)と上記第3成分との合計割合を差し引いた残部であってもよい。また、式(B)で表される化合物は、2種以上であってもよい。
【0066】
(コーティング膜形成用組成物の調製)
本発明に係るコーティング膜形成用組成物は、所望の放射線分解性ポリマーを、所望の溶媒にて所定の濃度に希釈することにより調製してもよい。
【0067】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物に含まれる溶媒としては、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコールが挙げられる。アルコールとしては、炭素数2乃至6のアルコール、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール(=ネオペンチルアルコール)、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール(=t−アミルアルコール)、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−3−ペンタノール、シクロペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−3−ペンタノール及びシクロヘキサノールが挙げられ、単独で又はそれらの組み合わせの混合溶媒を用いてもよいが、放射線分解性ポリマーの溶解の観点から、水、PBS及びエタノールから選ばれるのが好ましい。
【0068】
さらに本発明に係るコーティング膜形成用組成物は、放射線分解性ポリマー含有ワニスから調製してもよい。一の実施態様では、放射線分解性ポリマー(I)含有ワニスは、上記式(A)及び(B)で表される化合物を、溶媒中で、化合物の合計濃度0.01質量%乃至4質量%にて反応(重合)させる工程を含む製造方法により調製することができる。以下、放射線分解性ポリマー(I)の合成方法の詳細を例として記述する。なお、放射線分解性ポリマー(I)以外の放射線分解性ポリマーも、上記のようなエチレン性不飽和モノマーを用いて、同様の手順又は公知の手順に従い合成できることは、当業者であれば理解できよう。
【0069】
放射線分解性ポリマー(I)の合成方法としては、一般的なアクリルポリマー又はメタクリルポリマー等の合成方法であるラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの方法により合成することができる。その形態は溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合など種々の方法が可能である。
【0070】
重合反応における溶媒としては、水、リン酸緩衝液又はエタノール等のアルコール又はこれらを組み合わせた混合溶媒でもよいが、水又はエタノールを含むことが望ましい。さらには水又はエタノールを10質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを50質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを80質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを90質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。好ましくは水とエタノールの合計が100質量%である。
【0071】
反応濃度としては、例えば放射線分解性ポリマー(I)の場合、上記式(A)及び(B)で表される化合物の反応溶媒中の濃度を、0.01質量%乃至4質量%とすることが好ましい。濃度が4質量%以上であると、例えば式(A)で表されるリン酸基の有する強い会合性により放射線分解性ポリマー(I)が反応溶媒中でゲル化してしまう場合がある。濃度0.01質量%以下では、得られたワニスの濃度が低すぎるため、十分な膜厚のコーティング膜を得るためのコーティング膜形成用組成物の作成が困難である。濃度が、0.01質量%乃至3質量%、例えば3質量%又は2質量%であることがより好ましい。
【0072】
また放射線分解性ポリマー(I)の合成においては、例えば式(1)に記載の酸性リン酸エステル単量体(ハーフ塩)を作成後、重合して放射線分解性ポリマー(I)を作製してもよい。
【0074】
リン酸基含有モノマーは会合し易いモノマーのため、反応系中に滴下されたとき、速やかに分散できるように反応溶媒中に少量ずつ滴下してもよい。
【0075】
さらに、反応溶媒はモノマー及びポリマーの溶解性を上げるために加温(例えば40℃乃至100℃)してもよい。
【0076】
重合反応を効率的に進めるためには、重合開始剤を使用することが望ましい。重合開始剤の例としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾ(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド(和光純薬社製品名;VA−086、10時間半減期温度;86℃)、過酸化ベンゾイル(BPO)、2,2’−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)n−水和物(和光純薬社製品名;VA−057、10時間半減期温度;57℃)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシド)(和光純薬社製品名;VA−501)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド(和光純薬社製品名;VA−044、10時間半減期温度;44℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリジン−2−イル)プロパン]ジスルファートジヒドレート(和光純薬社製品名;VA−046B、10時間半減期温度;46℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリジン−2−イル)プロパン](和光純薬社製品名;VA−061、10時間半減期温度;61℃)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(和光純薬社製品名;V−50、10時間半減期温度;56℃)、ペルオキソ二硫酸又はt−ブチルヒドロペルオキシド等が用いられるが、この中でもイオンバランス、水への溶解性を考慮して2,2’−アゾ(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、2,2’−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)n−水和物、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリジン−2−イル)プロパン]ジスルファートジヒドレート、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリジン−2−イル)プロパン]又は2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド又はペルオキソ二硫酸の何れかを用いることが望ましい。
【0077】
重合開始剤の添加量としては、重合に用いられるモノマーの合計重量に対し、0.05質量%〜10質量%である。
【0078】
反応条件は反応容器をオイルバス等で50℃乃至200℃に加熱し、1時間乃至48時間、より好ましくは80℃乃至150℃、5時間乃至30時間攪拌を行うことで、重合反応が進み放射線分解性ポリマー(I)が得られる。反応雰囲気は窒素雰囲気が好ましい。
【0079】
反応手順としては、全反応物質を室温の反応溶媒に全て入れてから、上記温度に加熱して重合させてもよいし、あらかじめ加温した溶媒中に、反応物質の混合物全部又は一部を少々ずつ滴下してもよい。
【0080】
後者の反応手順によれば、放射線分解性ポリマー(I)含有ワニスは、上記式(A)及び(B)で表される化合物、溶媒及び重合開始剤を含む混合物を、重合開始剤の10時間半減期温度より高い温度に保持した溶媒に滴下し、反応(重合)させる工程を含む製造方法により調製することができる。
【0081】
この実施態様では、上記の反応手順と温度条件を採用することにより、上記式(A)及び(B)で表される化合物の反応溶媒中の濃度を、例えば、0.01質量%乃至10質量%とすることができる。この実施態様では、濃度が4質量%を超えても、反応前に滴下相及び反応相が透明均一な溶液となり、反応後の放射線分解性ポリマー(I)の反応溶媒中でのゲル化を抑制することができる。この実施態様におけるその他の条件は、上記と同様である。
【0082】
放射線分解性ポリマー(I)の分子量は数千から数百万程度であれば良く、好ましくは5,000乃至5,000,000である。さらに好ましくは、10,000乃至2,000,000である。また、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでも良く、該放射線分解性ポリマー(I)を製造するための共重合反応それ自体には特別の制限はなく、ラジカル重合やイオン重合や光重合、マクロマー、乳化重合を利用した重合等の公知の溶液中で合成される方法を使用できる。これらは目的の用途によって、放射線分解性ポリマー(I)のうちいずれかを単独使用することもできるし、複数の放射線分解性ポリマー(I)を混合し、且つその比率は変えて使用することもできる。
【0083】
また、このようにして製造される種々の放射線分解性ポリマー(I)は、2次元ポリマーでも3次元ポリマーであってもよく、水を含有する溶液に分散した状態である。つまり、これらのポリマーを含むワニスでは、不均一なゲル化や白濁沈殿ができることは好ましくはなく、透明なワニス、分散コロイド状のワニス、若しくはゾルであるのが好ましい。
【0084】
放射線分解性ポリマー(I)は、その分子内にカチオン、アニオンの両方を有するため、イオン結合によるポリマー同士が結合し、ゾルとなる場合がある。また前記のように、例えば、第3成分として2以上の官能基を有する(メタ)アクリレート化合物が共重合している放射線分解性ポリマー(I)の場合、その一部が部分的に3次元架橋してゾルとなる場合があるが、本発明に係るコーティング膜形成用組成物として用いることができる。
【0085】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物中の固形分の濃度としては、均一にコーティング膜を形成させるために、0.01乃至50質量%が望ましい。また、コーティング膜形成用組成物中の放射線分解性ポリマーの濃度としては、好ましくは0.01乃至4質量%、より好ましくは0.01乃至3質量%、特に好ましくは0.01乃至2質量%、さらに好ましくは0.01乃至1質量%である。放射線分解性ポリマーの濃度が0.01質量%以下であると、得られるコーティング膜形成用組成物の放射線分解性ポリマーの濃度が低すぎて十分な膜厚のコーティング膜が形成できず、4質量%以上であると、コーティング膜形成用組成物の保存安定性が悪くなり、溶解物の析出やゲル化が起こる可能性がある。
【0086】
さらに本発明のコーティング膜形成用組成物は、上記放射線分解性ポリマーと溶媒の他に、必要に応じて得られるコーティング膜の性能を損ねない範囲で他の物質を添加することもできる。他の物質としては、防腐剤、界面活性剤、基材との密着性を高めるプライマー、防カビ剤及び糖類等が挙げられる。
【0087】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物中の放射線分解性ポリマー(特に、放射線分解性ポリマー(I))のイオンバランスを調節するために、本発明のコーティング膜を得る際には、さらにコーティング膜形成用組成物中のpHを予め調整する工程を含んでいてもよい。pH調整は、例えば上記放射線分解性ポリマーと溶媒を含む組成物にpH調整剤を添加し、該組成物のpHを3.5〜8.5、さらに好ましくは4.0〜8.0とすることにより実施してもよい。使用しうるpH調整剤の種類及びその量は、上記放射線分解性ポリマーの濃度や、そのアニオンとカチオンの存在比等に応じて適宜選択される。pH調整剤の例としては、アンモニア、ジエタノールアミン、ピリジン、N−メチル−D−グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の有機アミン;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;塩化カリウム、塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物;硫酸、リン酸、塩酸、炭酸等の無機酸又はそのアルカリ金属塩;コリン等の4級アンモニウムカチオン、あるいはこれらの混合物(例えば、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液)を挙げることができる。これらの中でも、アンモニア、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、コリン、N−メチル−D−グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが好ましく、特にアンモニア、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム及びコリンが好ましい。
【0088】
(基体)
そのようにして得られるコーティング膜形成用組成物を基体に塗布する。基体としては、ガラス、金属含有化合物若しくは半金属含有化合物、活性炭又は樹脂を挙げることができる。金属含有化合物若しくは半金属含有化合物は、例えば基本成分が金属酸化物で、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体であるセラミックス、シリコンのような半導体、金属酸化物若しくは半金属酸化物(シリコン酸化物、アルミナ等)、金属炭化物若しくは半金属炭化物、金属窒化物若しくは半金属窒化物(シリコン窒化物等)、金属ホウ化物若しくは半金属ホウ化物などの無機化合物の成形体など無機固体材料、アルミニウム、ニッケルチタン、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)が挙げられる。
【0089】
樹脂としては、天然樹脂又は合成樹脂いずれでもよく、天然樹脂としてはセルロース、三酢酸セルロース(CTA)、デキストラン硫酸を固定化したセルロース等、合成樹脂としてはポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスチレン(PS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、各種イオン交換樹脂又はポリエーテルスルホン(PES)等が好ましく用いられる。本発明のコーティング膜は、低温乾燥にて形成できるため、耐熱性が低い樹脂等にも適用可能である。
【0090】
基体の形態は特に制限されず、基板、繊維、粒子、ゲル形態、多孔質形態等が挙げられ、形状は平板でも曲面でもよい。
【0091】
(塗布)
上記のコーティング膜形成用組成物を基体の表面の少なくとも一部に塗布する。塗布方法としては特に制限は無く、通常のスピンコート、ディップコート、溶媒キャスト法等の塗布法が用いられる。
【0092】
<工程(2):乾燥工程>
次いで、コーティング膜形成用組成物が塗布された基体を乾燥させ、コーティング膜を形成する。乾燥工程は、大気下又は真空下にて、温度−200℃乃至200℃の範囲内で行なう。乾燥工程により、上記コーティング膜形成用組成物中の溶媒が除去され、放射線分解性ポリマーが基体へ固着する。例えば、放射線分解性ポリマー(I)を用いた場合、ポリマーの式(a1)及び式(b1)同士がイオン結合を形成して基体へ完全に固着する。
【0093】
コーティング膜は、例えば室温(10℃乃至35℃、例えば25℃)での乾燥でも形成することができるが、より迅速にコーティング膜を形成させるために、例えば40℃乃至50℃にて乾燥させてもよい。またフリーズドライ法による極低温〜低温(−200℃乃至−30℃前後)での乾燥工程を用いてもよい。フリーズドライは真空凍結乾燥と呼ばれ、通常乾燥させたいものを冷媒で冷却し、真空状態にて溶媒を昇華により除く方法である。フリーズドライで用いられる一般的な冷媒は、ドライアイスとメタノールを混合媒体(−78℃)、液体窒素(−196℃)等が挙げられる。
【0094】
乾燥温度が−200℃以下であると、一般的ではない冷媒を使用しなければならず汎用性に欠けることと、溶媒昇華のために乾燥に長時間を要し効率が悪い。乾燥温度が200℃以上であると、コーティング膜表面のイオン結合反応が進みすぎて該表面が親水性を失い、生体物質付着抑制能が発揮されない。より好ましい乾燥温度は10℃乃至180℃、より好ましい乾燥温度は25℃乃至150℃である。
【0095】
乾燥後、該コーティング膜上に残存する不純物、未反応モノマー等を無くすため、さらには膜中の放射線分解性ポリマーのイオンバランスを調節するために、水及び電解質を含む水溶液から選ばれる1以上の溶媒で流水洗浄又は超音波洗浄等で洗浄してもよい。上記水及び電解質を含む水溶液は例えば40℃乃至95℃の範囲で加温されたものでもよい。電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。
【0096】
しかしながら、好ましくは、工程(2)(乾燥工程)の後で、かつ工程(3)(滅菌工程)の前には、上記のような基体を洗浄する工程を含まない。あるいは、滅菌工程に付される前のコーティング膜の膜厚を、好ましくは500〜50Å、より好ましくは400〜100Åの範囲とする。洗浄工程を行わないことにより、あるいは所定の膜厚を維持することにより、基体上に形成したコーティング膜に残る不純物や未反応モノマー等が、滅菌工程で照射される放射線(γ線)によって発生するラジカル(e・)やパーオキサイド(ROO・)をトラップし、コーティング膜自体の分解・劣化が抑制される。
【0097】
<工程(3):滅菌工程>
次いで、コーティング膜が形成された基体を放射線による滅菌に付す。本発明において放射線による滅菌とは、γ線、X線、又は電子線の照射による滅菌方法を意味し、好ましくはγ線又はX線、より好ましくはγ線の照射による滅菌方法を意味する。放射線による滅菌は、被滅菌物(コーティング膜が形成された基体)を容器に密封した最終梱包形態で滅菌処理ができ、また常温で滅菌処理することができるため、加熱法(例えば、高圧蒸気法、乾熱法)による滅菌のように高温処理によって引き起こされる材質変化や破損の心配がなく、また、ガス法(例えば、酸化エチレンガス法)による滅菌のように有毒ガス等の有害残留物の心配もなく安全な滅菌方法である。さらに、放射線による滅菌は、滅菌工程の管理が容易で、多量の製品を連続に同一の条件で滅菌処理が出来る等の優れた点が多い。
【0098】
γ線の照射線量は、通常採用されている線量でよく、例えば、5〜40kGy程度の照射で十分であり、好ましくは、10〜20kGyがよい。
【0099】
最終梱包形態の典型的な例としては、被滅菌物(コーティング膜が形成された基体)をガス不透過性材料製容器で密封する形態が挙げられる、ガス不透過性材料としては、酸素透過度が1cm
3/(m
2・24h・atm)以下、水蒸気透過度が5g/(m
2・24h・atm)であるものが好ましく、例えばポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル等の未延伸または延伸フィルムまたはシート、あるいはこれらの樹脂をコーティングしたフィルムまたはシート、またはこれらのフィルムをラミネートしたフィルムまたはシート、あるいはポリエステル/アルミニウム/ポリエチレンのラミネートフィルムまたはシート、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン/アルミニウム/ポリエチレン若しくはナイロン/ポリエチレン/アルミニウム/ポリエチレンの4層構造のラミネートフィルム、アルミニウム箔、アルミニウム蒸着膜等の金属箔、金属蒸着膜、あるいはそのラミネート製品等が挙げられる。特に、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン/アルミニウム/ポリエチレン若しくはナイロン/ポリエチレン/アルミニウム/ポリエチレンの4層構造のラミネートフィルムが好ましい。
【0100】
工程(1)〜(3)を順次実施することにより、本発明の滅菌済コーティング膜が形成される。得られたコーティング膜は、放射線滅菌工程を経ているにも関わらず、その放射線分解性ポリマーによりもたらされる機能(例えば、生体物質付着抑制機能)を充分に発揮することができる。
【0101】
工程(3)(滅菌工程)の後、滅菌済コーティング膜上に残存する不純物、未反応モノマー、又は放射線照射による分解物等を無くすため、さらには膜中の放射線分解性ポリマーのイオンバランスを調節するために、水及び電解質を含む水溶液から選ばれる1以上の溶媒で流水洗浄又は超音波洗浄等で洗浄してもよい。上記水及び電解質を含む水溶液は例えば40℃乃至95℃の範囲で加温されたものでもよい。電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。また滅菌工程後の洗浄は、製造者が実施してもよいが、ユーザーが実施してもよい。滅菌及び洗浄後の滅菌済コーティング膜の膜厚は、好ましくは150〜5Å、より好ましくは75〜20Åの範囲となる。
【0102】
本発明の滅菌済コーティング膜は、好ましくは、生体物質の付着抑制能を有する。生体物質の付着抑制能は、上述の放射線分解性ポリマーによりもたらされる。
【0103】
生体物質としては、蛋白質、糖、核酸及び細胞又はそれらの組み合わせが挙げられる。例えば蛋白質としてはフィブリノゲン、牛血清アルブミン(BSA)、ヒトアルブミン、各種グロブリン、β−リポ蛋白質、各種抗体(IgG、IgA、IgM)、ペルオキシダーゼ、各種補体、各種レクチン、フィブロネクチン、リゾチーム、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、血清γ−グロブリン、ペプシン、卵白アルブミン、インシュリン、ヒストン、リボヌクレアーゼ、コラーゲン、シトクロームc、例えば糖としてはグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ヘパリン、ヒアルロン酸、例えば核酸としてはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、例えば細胞としては線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞又は骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、単核細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞、及び各種細胞株(例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C−33A、HT−29、AE−1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero)等が挙げられ、本発明のコーティング膜は、特に血小板に対して高い付着抑制能を有する。又本発明のコーティング膜は、蛋白質、糖が混在する血清に対して特に高い付着抑制能を有する。
【0104】
本発明のコーティング膜は、生体物質の付着抑制能を有するので、医療用基材用コーティング膜として好適に用いることができる。例えば、白血球除去フィルター、輸血フィルター、ウイルス除去フィルター、微小凝血塊除去フィルター、血液浄化用モジュール、人工心臓、人工肺、血液回路、人工血管、血管バイパスチューブ、医療用チューブ、人工弁、カニューレ、ステント、カテーテル、血管内カルーテル、バルーンカテーテル、ガイドワイヤー、縫合糸、留置針、シャント、人工関節、人工股関節、血液バッグ、血液保存容器、手術用補助器具、癒着防止膜、創傷被覆材などにおいて好適に用いることができる。ここで、血液浄化用モジュールとは、血液を体外に循環させて、血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有したモジュールのことをいい、人工腎臓、毒素吸着フィルターやカラムなどが挙げられる。
【0105】
また、本発明のコーティング膜は、フラスコ、ディッシュ、プレート等の細胞培養容器や、蛋白質の付着を抑えた各種研究用器具のコーティング膜として有用である。
【0106】
また、本発明のコーティング膜は、化粧品用材料、コンタクトレンズケア用品用材料、スキンケア用繊維加工剤、生化学研究用診断薬用材料、臨床診断法で広く用いられている酵素免疫測定(ELISA)法やラテックス凝集法における非特異的吸着を抑制するためのブロッキング剤、酵素や抗体などの蛋白質を安定化するための安定化剤としても有用である。
【0107】
さらに本発明のコーティング膜は、トイレタリー、パーソナルケア用品、洗剤、医薬品、医薬部外品、繊維、防汚材向けのコーティング膜としても有用である。
【0108】
≪滅菌済コーティング膜の製法≫
さらに本発明は、(1)放射線分解性ポリマーと、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を基体に塗布する工程;
(2)基体を乾燥させ、コーティング膜を形成する工程;及び、
(3)基体を放射線による滅菌に付す工程、
を含み、かつ工程(1)〜(3)が順次実施される、滅菌済コーティング膜の製法に関する。また、本発明の製法は、好ましくは、工程(2)の後で、かつ工程(3)の前に、基体を洗浄する工程を含まず、さらに好ましくは、そして工程(3)の後で、基体を洗浄する工程を含む。放射線分解性ポリマー、溶媒及び基体等の具体例や、各工程の具体的な態様は、上記のとおりである。
【実施例】
【0109】
以下、合成例、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらに
限定されない。
【0110】
<重量平均分子量の測定方法>
下記合成例に示す重量平均分子量はGel Filtration Chromatography(以下、GFCと略称する)による測定結果である。測定条件等は次のとおりである。
(測定条件)
・装置:Prominence(島津製作所製)
・GFCカラム:TSKgel GMPWXL (7.8mmI.D.×30cm)×2本
・流速:1.0 ml/min
・溶離液:イオン性水溶液
・カラム温度:40℃
・検出器:RI
・注入濃度:ポリマー固形分0.1質量%
・注入量:100 uL
・検量線:三次近似曲線
・標準試料:ポリエチレンオキサイド(Agilent社製)×10種
【0111】
<合成例1>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2−(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)6.00gに純水12.40gを加え十分に溶解した。次いで、エタノール12.40g、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル4.12g(東京化成工業(株)製)、2,2’−アゾ(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)(製品名;VA−086、和光純薬工業(株)製)0.10gを20℃以下に保ちながら、ホスマーMの水溶液に順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を、滴下ロートに導入した。一方で、別途純水471.13g、エタノール37.20gを冷却管付きの3つ口フラスコに入れ、これを窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで固形分約2質量%の放射線分解性ポリマー含有ワニス506.05gを得た。得られた透明液体のGFCにおける重量平均分子量は約810,000であった。
【0112】
(シリコンウェハの準備)
半導体評価用の市販のシリコンウエハをそのまま用いた。
【0113】
(PESフィルム)
バーコート法により作成された、市販のポリエーテルスルホン(PES)のフィルム(約0.1mm)を約1cm角にカットしたものをPESフィルムとした。
【0114】
(QCMセンサー(PES)の作成)
Au蒸着された水晶振動子(Q−Sense,QSX304)を、UV/オゾン洗浄装置(UV253E、フィルジェン株式会社製)を用いて10分間洗浄し、直後に1−デカンチオール(東京化成工業(株)製)0.1012gをエタノール100mlに溶解した溶液中に24時間浸漬した。エタノールでセンサー表面を洗浄後自然乾燥し、ポリ(オキシ−1,4−フェニレンスルホニル−1,4−フェニレン)(Aldrich社製)1.00gを1,1,2,2−テトラクロロエタン99.00gに溶解したワニスをスピンコーターにて3500rpm/30secで膜センサー側にスピンコートし、205℃/1min乾燥することでQCMセンサー(PES)とした。
【0115】
<コーティング膜調製例1>
上記合成例1で得られた放射線分解性ポリマー体含有ワニス1.00gに、純水5.10g、エタノール0.57gを加えて十分に攪拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。得られたコーティング膜形成組成物中に、上記PESフィルム又はシリコンウェハをディップし、オーブンにて45℃、12時間乾燥させた。その後、コーティング膜上に付着している未硬化の膜形成組成物をPBSと純水で十分に洗浄を行って、コーティング膜が形成されたPESフィルム又はシリコンウェハを得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ65Åであった。
また、上記コーティング膜形成組成物を3500rpm/30secでQCMセンサー(PES)にスピンコートし、乾燥工程として45℃のオーブンで12時間ベークした。その後、洗浄工程として過剰についた未硬化のコーティング膜形成組成物をPBSと超純水にて各2回ずつ洗浄し、表面処理済みQCMセンサー(PES)とした。
【0116】
<コーティング膜調製例2>
上記合成例1で得られた放射線分解性ポリマー含有ワニス1.00gに、純水5.10g、エタノール0.57gを加えて十分に攪拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。得られたコーティング膜形成組成物中に、上記PESフィルム又はシリコンウェハをディップし、オーブンにて45℃、12時間乾燥させた。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ313Åであった。
【0117】
<実施例1>
コーティング膜調製例2によってコーティング済みのPESフィルム、シリコンウェハを遮光・防湿・酸素バリヤー性を持つアルミ/PETラミネートフィルムからなるチャック付ガス不透過性包装容器(製品名;ラミジップAL−22、生産日本社製)に入れ、大気雰囲気下で密封し、約24時間以上放置してからガンマ線を15kGy照射し滅菌を行った。
その後、コーティング膜上に付着している未硬化の膜形成組成物をPBSと純水で十分に洗浄を行って、コーティング膜が形成されたコーティング済みのPESフィルム、シリコンウェハを得た。
【0118】
<比較例1>
コーティング膜調製例1によってコーティング済みのPESフィルム、QCMセンサー(PES)、シリコンウェハを遮光・防湿・酸素バリヤー性を持つアルミ/PETラミネートフィルムからなるチャック付ガス不透過性包装容器(製品名;ラミジップAL−22、生産日本社製)に入れ、大気雰囲気下で密封し、約24時間以上放置してからガンマ線を15kGy照射し滅菌を行った。
その後、コーティング膜上に付着している未硬化の膜形成組成物をPBSと純水で十分に洗浄を行って、コーティング膜が形成されたコーティング済みのPESフィルム、QCMセンサー(PES)、シリコンウェハを得た。
【0119】
<比較例2>
コーティングをしなかったPESフィルム、QCMセンサー(PES)、シリコンウェハを遮光・防湿・酸素バリヤー性を持つアルミ/PETラミネートフィルムからなるチャック付ガス不透過性包装容器(製品名;ラミジップAL−22、生産日本社製)に入れ、大気雰囲気下で密封した。
その後、表面に付着している不純物をPBSと純水で十分に洗浄を行って、PESフィルム、QCMセンサー(PES)、シリコンウェハを得た。
【0120】
<参考例1>
コーティング膜調製例1によってコーティング済みのPESフィルム、QCMセンサー(PES)、シリコンウェハを遮光・防湿・酸素バリヤー性を持つアルミ/PETラミネートフィルムからなるチャック付ガス不透過性包装容器(製品名;ラミジップAL−22、生産日本社製)に入れ、大気雰囲気下で密封した。
その後、コーティング膜上に付着している未硬化の膜形成組成物をPBSと純水で十分に洗浄を行って、コーティング膜が形成されたコーティング済みのPESフィルム、QCMセンサー(PES)、シリコンウェハを得た。
【0121】
[血小板付着実験]
(血小板溶液の調製)
3.8質量%クエン酸ナトリウム溶液0.5mLに対して、健康なボランティアより採血した血液4.5mLを混和した後、遠心分離にて[冷却遠心機5900((株)久保田製作所製)、1000rpm/10分、室温]上層の多血小板血漿(PRP)を回収した。引き続き、下層について遠心分離を行い(上記遠心機、3500rpm/10分、室温)、上層の乏血小板血漿(PPP)を回収した。多項目自動赤血球分析装置(XT−2000i、シスメックス(株)製)にてPRPの血小板数を計測後、PPPを用いてPRPの血小板濃度が30×10
4cells/μLになるように調製した。
【0122】
(血小板付着実験)
各実施例、比較例及び参考例のPESフィルム又はシリコンウェハを24穴平底マイクロプレート(コーニング社製)に配置した。これらの基板を配置したプレートのウェル内に、上記血小板濃度に調製したPRP溶液300μLを添加した。5%二酸化炭素濃度を保った状態で、37℃で24時間、CO
2インキュベーター内にて静置した。所定の静置時間が経過した後、プレート内のPRPを除き、PBS3mLにて5回洗浄した。その後、2.5体積%グルタルアルデヒドのPBS溶液2mLを添加し、4℃で一昼夜静置後、グルタルアルデヒドのPBS溶液を除き、超純水(Milli−Q水)3mLで5回洗浄した。さらに、70%エタノール水(v/v)1mLで3回洗浄し、風乾した。
【0123】
[血小板付着数の計測]
上記血小板付着実験を行った各実施例、比較例及び参考例のPESフィルム又はシリコンウェハに、イオンスパッター(E−1030、(株)日立ハイテクノロジーズ製)にてPt−Pdを1分間蒸着した。その後、電子顕微鏡(S−4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)にて血小板の付着を1,000倍で観察した。電子顕微鏡にてガラス基板の中心部から半径2mm以内5箇所の血小板付着数を計測した。各箇所の計測値を平均することで血小板付着数とした。その結果を下記表1に示す。
【0124】
[タンパク質付着試験;QCM−D測定]
各実施例、比較例及び参考例によって表面処理されたPESセンサーを散逸型水晶振動子マイクロバランスQCM−D(E4、Q−Sense社製)に取り付け、周波数の変化が1時間で1Hz以下となる安定したベースラインを確立するまでPBSを流した。次に、安定したベースラインの周波数を0Hzとして約10分間PBSを流した。引き続き、フィブリノゲン、ヒト血漿由来(和光純薬工業(株)社製)又はフィブロネクチン、ヒト血漿由来(シグマ・アルドリッチ社製)をPBSで100μg/mlに希釈した溶液を約30分流し、その後再びPBSを約20分流した後の11次オーバートーンの吸着誘起周波数のシフト(Δf)を読み取った。分析のためにQ−Tools(Q−Sense社製)を使用して、吸着誘起周波数のシフト(Δf)を、Sauerbrey式で説明される吸着誘起周波数のシフト(Δf)を単位面積当たりの質量(ng/cm
2)と換算したものを生体物質の付着量として表1に示す。
【0125】
【表1】