【文献】
J. Cell. Biochem.,2010年 2月 1日,Vol.109, No.2,p.292-301
【文献】
J. Neurochem.,2007年11月,Vol.103, No.3,p.962-971
【文献】
Biochem. Biophys. Res. Commun.,2010年 4月 9日,Vol.394, No.3,p.639-645
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1は分化誘導因子を様々な組み合わせで添加したNeuro/B27を用いて底板細胞を誘導し、培養13日目に底板細胞マーカーの発現変動を定量RT−PCRで調べた結果を示す。〔−〕は各分化誘導因子を添加しない場合、〔All〕はLDN193189(LDN)、SB431542(SB)、Sonic Hedgehog(SHH)、プルモルファミン(Pur)およびCHIR99021(CHIR)の5種類すべてを使用した条件を示す。〔−因子名〕はそれぞれの因子を除いた条件を示す。細胞株は253G1株と201B7株を用いた。Y軸の値は各遺伝子のコピー数をGAPDHのコピー数で補正した値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図2は底板細胞を誘導し、培養13日目に抗FOXA2抗体および抗LMX1A抗体を用いた免疫蛍光染色を実施した結果を示す。細胞株は253G1株を用いた。赤色はFOXA2陽性細胞の核、緑色はLMX1A陽性細胞の核、青色(DAPI染色)は細胞核を示す。
図3は底板細胞を誘導後13日目から、アスコルビン酸(AA)、ジブチリルcAMP(dbcAMP)およびPD0325901(PD)を様々な組み合わせで添加して培養を行い、45日目にNURR1の発現変動を定量RT−PCRで調べた結果を示す。細胞株は253G1株と201B7株を用いた。Y軸の値は各遺伝子のコピー数をGAPDHのコピー数で補正した値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図4は
図3と同様に分化誘導を行い、培養45日目に抗TH抗体および抗NURR1抗体を用いた免疫蛍光染色を実施した結果を示す。細胞株は253G1株と201B7株を用いた。緑色はTH陽性細胞の細胞体を、赤色はNURR1陽性細胞の核を示す。
図5は底板細胞を誘導後13日目から、アスコルビン酸(AA)、ジブチリルcAMP(dbcAMP)およびPD0325901(PD)を添加して培養を行い、45日目(253G1株)または52日目(201B7株)に抗TH抗体、抗NURR1抗体および抗FOXA2抗体を用いた免疫蛍光染色を実施した結果を示す。細胞株は253G1株と201B7株を用いた。緑色はTH陽性細胞の細胞体を、赤色はNURR1陽性細胞の核を、マゼンタ色はFOXA2陽性細胞の核を、青色(DAPI染色)は細胞核を示す。
図6は
図5の253G1株を用いて得られた結果について高倍率で観察した図を示す。緑色はTH陽性細胞の細胞体を、赤色はNURR1陽性細胞の核を、青色(DAPI染色)は細胞核を示す。
図7は
図5と同様に分化誘導を行い、培養50日目に高KCl刺激によるドパミンの放出能を評価した結果を示す。細胞株は253G1株と201B7株を用い、独立した2つの実験結果を示す。CtrlはHBSSで、KCLは55mM KClを含むHBSSで刺激した条件を示す。また、Y軸の値はコントロール群のドパミン放出量を1としたときの相対値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図8は底板細胞を誘導後13日目から、アスコルビン酸(AA)およびジブチリルcAMP(dbcAMP)に加え、各種MEK阻害剤(FGFR阻害剤を含む)を添加して培養を行い、45日目にNURR1の発現変動を定量RT−PCRで調べた結果を示す。細胞株は253G1株と201B7株を用いた。Y軸の値は各遺伝子のコピー数をGAPDHのコピー数で補正した値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図9はヒトiPS細胞からの底板細胞およびドパミン神経細胞への分化誘導法の模式図を示す。
図10は
図9の方法に従って分化誘導を行った際の、各種分化マーカーの経時的な発現変動を定量RT−PCRで調べた結果を示す。〔All〕は
図9に従って行い、〔−〕はCHIR99021、LDN193189、SB431542、SHHおよびプルモルファミンを除いて、〔−SHH〕はSHHのみを除いて、〔−Pur〕はプルモルファミンのみを除いて分化誘導を行ったことを示す。細胞株は253G1株と201B7株を用いた。Y軸の値は各遺伝子のコピー数をGAPDHのコピー数で補正した値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図11は
図9で示した工程3において、アスコルビン酸(AA)、ジブチリルcAMP(dbcAMP)、PD0325901(PD)およびアクチビンA(Act)を様々な組み合わせで添加して分化誘導を行い、培養26日目にドパミン神経細胞マーカーの発現変動を定量RT−PCRで調べた結果を示す。〔−〕は各分化誘導因子を添加しない場合を示す。細胞株は253G1株と201B7株を用いた。Y軸の値は各遺伝子のコピー数をGAPDHのコピー数で補正した値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図12は
図11と同様に分化誘導を行い、培養26日目に抗TH抗体および抗NURR1抗体を用いた免疫蛍光染色を実施した結果を示す。細胞株は253G1株と201B7株を用いた。緑色はTH陽性細胞の細胞体を、赤色はNURR1陽性細胞の核を示す。
図13は
図9で示した工程3において、アスコルビン酸(AA)、ジブチリルcAMP(dbcAMP)、PD0325901(PD)およびアクチビンA(ACT)を添加して分化誘導を行い、培養26日目に細胞を凍結保存した。この細胞を解凍し、AA、dbcAMP、PDおよびACTを様々な組み合わせで添加して2週間培養した後、ドパミン神経マーカーの発現変動を定量RT−PCRで調べた結果を示す。〔−〕は各分化誘導因子を添加しない場合を示す。細胞株は253G1株と201B7株を用いた。Y軸の値は各遺伝子のコピー数をGAPDHのコピー数で補正した値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図14は
図13と同様に凍結保存した細胞を解凍し、AA、dbcAMP、PDおよびACTを添加して2週間培養した後、抗TH抗体および抗NURR1抗体を用いた免疫蛍光染色を実施した結果を示す。緑色はTH陽性細胞の細胞体を、赤色はNURR1陽性細胞の核を示す。青色(DAPI染色)は細胞核を示す。
図15は
図9で示した工程3において、アスコルビン酸、dbcAMP、PD0325901(Control群;左側4枚のパネル)またはアスコルビン酸、dbcAMP、PD0325901およびアクチビンA(ActivinA群;右側4枚のパネル)を添加して分化誘導を行い、培養26日目に細胞を回収してマウス線条体に移植した。移植4週後、組織染色を実施した結果を示す。緑色はTH陽性細胞の細胞体を、赤色はhNuc陽性細胞の核を示す。青色(DAPI染色)は細胞核を示す。
図16は
図15と同様に移植を行い、移植8週後に組織染色を実施した結果を示す。緑色はTH陽性細胞の細胞体を、赤色はhNuc陽性細胞の核を示す。青色(DAPI染色)は細胞核を示す。
図17は
図15と同様に移植を行い、移植12週後に組織染色を実施した結果を示す。緑色はTH陽性細胞の細胞体を、赤色はhNuc陽性細胞の核を示す。青色(DAPI染色)は細胞核を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味を有する。
【0014】
本明細書において、「ドパミン神経細胞」とは、ドパミン(dopamine;3,4−ジヒドロキシフェニルエチルアミン)を産生する能力を有する神経細胞を意味する。ドパミン神経細胞は常にドパミンを産生している必要はなく、ドパミン産生能力を有していればよい。また、産生されるドパミン量は特に限定されない。
生体内に存在するドパミン神経細胞のなかでも特に黒質緻密部や腹側被蓋野などの中脳に存在するドパミン神経細胞は、インビトロでは、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、FOXA2(forkhead box A2)、NURR1(Nuclear Receptor−related 1)遺伝子/タンパク質などの特定の細胞マーカーの発現により特徴付けることができる。また、上記中脳に存在するドパミン神経細胞は、インビトロでは、TH、FOXA2、LMX1A(LIM homeobox transcription factor 1 alpha)、NURR1遺伝子/タンパク質などの特定の細胞マーカーの発現でも特徴付けることができる。
底板細胞を本発明の製造方法に供して得られる「ドパミン神経細胞」は、中脳に存在するドパミン神経細胞(すなわち、中脳ドパミン神経細胞)である。
【0015】
本明細書において、「神経前駆細胞」とは、分化後にドパミン神経細胞を生成することのできる細胞をいい、具体的には、例えば、底板細胞、中間体フィラメントタンパク質Nestinなどの発現マーカーにより特徴付けられる神経外胚葉の細胞などが挙げられるが、最も好ましくは底板細胞である。
【0016】
本明細書において、「底板細胞」(floor plate cell)とは、脊髄から間脳にかけて、神経管の腹側正中に位置する形態的に特殊化したオーガナイザー細胞を意味する。底板細胞のなかでも特に腹側中脳に位置する底板細胞は、インビトロでは、FOXA2やLMX1A遺伝子/タンパク質などの特定の細胞マーカーの発現により特徴付けることができる。
【0017】
本明細書において、「幹細胞」とは、インビトロにおいて培養することが可能で、かつ生体を構成する複数系列の細胞に分化しうる細胞をいう。具体的にはES細胞、胎児の始原生殖細胞由来の多能性幹細胞(EG細胞:Proc Natl Acad Sci U S A.1998,95:13726−31)、精巣由来の多能性幹細胞(GS細胞:Nature.2008,456:344−9)、体細胞由来人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)、ヒト多能性体性幹細胞(神経幹細胞)が挙げられ、好ましくは、iPS細胞およびES細胞、さらに好ましくはiPS細胞である。
【0018】
ES細胞としては、任意の温血動物、好ましくは哺乳動物に由来するES細胞を使用できる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒトが挙げられる。ES細胞の好ましい例としては、ヒトに由来するES細胞が挙げられる。
ES細胞の具体例として、着床以前の初期胚を培養することによって樹立した哺乳動物などのES細胞、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立したES細胞、およびこれらのES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変したES細胞が挙げられる。
各ES細胞は当該分野で通常実施されている方法や、公知文献に従って調製することができる。
マウスのES細胞は、1981年にエバンスら(Evans et al.,1981,Nature 292:154−6)や、マーチンら(Martin GR.et al.,1981,Proc Natl Acad Sci 78:7634−8)によって樹立されており、例えば大日本住友製薬株式会社(大阪、日本)などから購入可能である。
ヒトのES細胞は、1998年にトムソンら(Thomson et al.,Science,1998,282:1145−7)によって樹立されており、WiCell研究施設(WiCell Research Institute、ウェブサイト:http://www.wicell.org/、マジソン、ウイスコンシン州、米国)、米国国立衛生研究所(National Institute of Health)、京都大学などから入手可能であり、例えばCellartis社(ウェブサイト:http://www.cellartis.com/、スウェーデン)などから購入可能である。
【0019】
iPS細胞としては、任意の温血動物、好ましくは哺乳動物に由来するiPS細胞を使用できる。該哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒトが挙げられる。iPS細胞の好ましい例としては、ヒトに由来するiPS細胞が挙げられる。
iPS細胞の具体例として、皮膚細胞などの体細胞に複数の遺伝子を導入して得られる、ES細胞同様の多分化能を獲得した細胞が挙げられ、例えばOct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子およびSox2遺伝子を導入することによって得られるiPS細胞、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子およびSox2遺伝子を導入することによって得られるiPS細胞(Nat Biotechnol 2008;26:101−106)が挙げられる。他にも、導入遺伝子をさらに減らした方法(Nature.2008 Jul 31;454(7204):646−50)、低分子化合物を利用した方法(Cell Stem Cell.2009 Jan 9;4(1):16−9、Cell Stem Cell.2009 Nov 6;5(5):491−503)、遺伝子の代わりに転写因子タンパク質を利用した方法(Cell Stem Cell.2009 May 8;4(5):381−4)などが挙げられる。
作製されたiPS細胞は、その作出方法によらずいずれも本発明に用いられうる。
ヒトiPS細胞株としては、具体的には、253G1株(36歳女性の皮膚線維芽細胞にOCT4/SOX2/KLF4を発現させて作製されたiPS細胞株)、201B7株(36歳女性の皮膚線維芽細胞にOCT4/SOX2/KLF4/c−MYCを発現させて作製されたiPS細胞株)、1503−iPS(297A1)(73歳女性の皮膚線維芽細胞にOCT4/SOX2/KLF4/c−MYCを発現させて作製されたiPS細胞株)、1392−iPS(297F1)(56歳男性の皮膚線維芽細胞にOCT4/SOX2/KLF4/c−MYCを発現させて作製されたiPS細胞株)、NHDF−iPS(297L1)(新生児男性の皮膚線維芽細胞にOCT4/SOX2/KLF4/c−MYCを発現させて作製されたiPS細胞株)などが挙げられる。
【0020】
1.ドパミン神経細胞の製造方法
本発明は、神経前駆細胞を、以下の工程(1)に付すことを特徴とする、ドパミン神経細胞の製造方法(以下、本発明の製造方法と称することもある):(1)(i)cAMP(cyclic adenosine monophosphate)アナログおよび(ii)MEK阻害剤を含む培地で培養する工程、を提供する。
【0021】
本発明の製造方法で使用される神経前駆細胞を得る方法としては、特に限定されず、対象となる動物胚から直接採取することもできるが、大量に神経前駆細胞を得るという観点からは、幹細胞を出発材料として製造することが好ましい。
【0022】
幹細胞から神経前駆細胞を製造する方法としては、特に限定されず、低分子BMP阻害剤の存在下で多能性幹細胞を培養する方法や、ストローマ細胞との共培養による分化誘導法(SDIA法)など自体公知の方法を利用することができる。
【0023】
本発明の製造方法で使用される神経前駆細胞は、分化後にドパミン神経細胞を生成することができる限りいずれの細胞であってもよいが、底板細胞を出発細胞として使用することが最も好ましい。従って、以下に、幹細胞を底板細胞に分化させる方法を具体的に記載する。
【0024】
1−1.幹細胞を底板細胞に分化させる方法
本分化方法は、底板細胞分化誘導因子を含む培地で幹細胞を培養する工程を含む。
【0025】
本分化方法(分化誘導方法)において幹細胞は、通常培養器上で培養される。ここで用いられる培養器としては、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、デッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用デッシュ、マルチデッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。好ましくは、デッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用デッシュ、マルチデッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレートなどである。培養器は、幹細胞を維持・培養するのに適するようなコーティングが施されていることが好ましい。具体的にはフィーダー細胞や、細胞外基質成分でコーティングされた培養器を用いることが好ましい。フィーダー細胞としては、特に限定されないが、例えば、線維芽細胞(マウス胎仔線維芽細胞(MEF)、マウス線維芽細胞(STO)など)が挙げられる。フィーダー細胞は自体公知の方法、例えば放射線(ガンマ線など)照射や抗癌剤(マイトマイシンCなど)処理などで不活化されていることが好ましい。細胞外基質成分としては、ゼラチン、コラーゲン、エラスチンなどの繊維性タンパク質、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などのグルコサミノグリカンやプロテオグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなどの細胞接着性タンパク質、あるいはマトリゲルなどの基底膜成分などが挙げられる。
【0026】
本分化方法で使用される底板細胞分化誘導因子は、底板細胞への分化を誘導する物質であれば特に限定されず、底板細胞分化誘導因子として公知のいかなる物質をも使用することができる。ここで、物質には、低分子化合物、ペプチド、タンパク質などが含まれる。底板細胞分化誘導因子の例としては、BMP阻害剤、例えば、Noggin、LDN−193189(4‐(6‐(4‐(ピペラジン‐1‐イル)フェニル)ピラゾロ[1,5‐a]ピリミジン‐3‐イル)キノリン塩酸塩)、dorsomorphin(6−[4−(2−ピペリジン−1−イルエトキシ)フェニル]−3−ピリジン−4−イルピラゾロ[1,5−a]ピリミジン)など;TGFβファミリー阻害剤、例えば、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−5−(2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]−ベンズアミド)、A−83−01(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−1−フェニルチオカルバモイル−4−キノリン−4−イルピラゾール)など;GSK3β阻害剤、例えば、CHIR99021(6−[[2−[[4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(5−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−2−ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]−3−ピリジンカルボニトリル)、BIO(6−ブロモインジルビン−3’−オキシム)など;Smoothened agonist、例えば、プルモルファミン(N−(4−モルフォリノフェニル)−2−(1−ナフチルオキシ)−9−シクロヘキシル−9H−プリン−6−アミン)、SAG(N−メチル−N’−(3−ピリジニルベンジル)−N’−(3−クロロベンゾ[b]チオフェン−2−カルボニル)−1,4−ジアミノシクロヘキサン)など;成長因子、例えば、Sonic hedgehog(SHH)、線維芽細胞増殖因子−8(FGF8)などが挙げられる。これらはAxon Medchem BV社、和光純薬工業社、Enzo Life Sciences,Inc.社、Merck Bioscience社、Tocris bioscience社、Stemgent社、Sigma社、R&D社、Peprotech社などから購入可能であり、同一名称あるいは同一の商品名であれば、同一の物質を指し、構造ならびに物性は製造元によらず同等である。また、市販品として入手できない場合であっても、当業者であれば既知文献に従って調製することもできる。
【0027】
本発明者らは、本分化方法において、LDN193189、SB431542、プルモルファミンおよびCHIR99021(任意選択でSHHを含んでもよい)を含む培地で3〜5日間一次培養した後、LDN193189およびCHIR99021を含む培地で5〜8日間二次培養することにより、より効率的に幹細胞を底板細胞へと分化誘導することができることを見出した。
従って、上記底板細胞分化誘導因子としてLDN193189、SB431542、プルモルファミンおよびCHIR99021を組み合わせて用いることにより、SHHなどのタンパク成分を培地に添加しなくとも、効率的に幹細胞を底板細胞へと分化誘導することができ、従来よりも安価に底板細胞、ひいてはドパミン神経細胞を製造することが可能となる。
【0028】
本分化方法における培地中の底板細胞分化誘導因子の濃度は、用いる因子の種類によって適宜設定されるが、例えば、底板細胞分化誘導因子としてLDN193189、プルモルファミン、CHIR99021を使用する場合の濃度は、それぞれ、通常0.05〜10μM、好ましくは0.1〜5μMである。底板細胞分化誘導因子としてSB431542を使用する場合の濃度は、通常1〜20μM、好ましくは5〜15μMである。底板細胞分化誘導因子としてSHHを使用する場合の濃度は、通常10〜500ng/ml、好ましくは100〜300ng/mlである。
【0029】
本分化方法で用いる培地は、上記底板細胞分化誘導因子を含有している限り特に限定されず、通常、幹細胞を培養するのに用いられる培地(以下では、基礎培地と称することもある)に底板細胞分化誘導因子を添加してなるものである。
上記基礎培地は、Neurobasal培地、Neurobasal−A培地、Neural Progenitor Basal培地、NS−A培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM ZincOption培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。これらの基礎培地は、Invitrogen社、SIGMA社、和光純薬工業社、大日本住友製薬社などから購入可能であり、同一名称あるいは同一商品名の培地であれば培地の組成は製造元によらず同等である。底板細胞への分化誘導がより効率的に行えるという点で、DMEM/F12培地、Neurobasal培地、およびこれらの混合培地が基礎培地として好適に用いられる。
本分化方法で用いられる培地は、血清含有培地であっても無血清培地であってもよい。ここで、無血清培地とは、無調整または未精製の血清を含まない基礎培地を意味し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、成長因子)が混入している培地は無血清培地に該当するものとする。本分化方法で用いられる培地が血清含有培地である場合、該血清としてはウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum)などの哺乳動物の血清が使用できる。該血清の培地中の濃度は通常0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。
【0030】
本分化方法で用いられる培地はまた、血清代替物を含んでいてもよい。血清代替物としては、例えば、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン)、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素(例えば亜鉛、セレン)、B−27サプリメント、N2サプリメント、ノックアウトシーラムリプレースメント、2−メルカプトエタノール、3’チオールグリセロール、またはこれらの均等物が挙げられる。これらの培地中の濃度は、前記した血清の培地中の濃度と同様である。
本分化方法では、血清代替物としてN2サプリメントやB−27サプリメント(Brewer G.J.et al.,J.Neurosci.Res.(1993)35,567)が好適に培地中に添加され得る。
その場合、培地中のN2サプリメントの濃度は、0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜2重量%であり、B−27サプリメントの濃度は、0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。
ノックアウトシーラムリプレースメントはInvitrogen社から購入可能である。その他の血清代替物については、Invitrogen社、SIGMA社、和光純薬工業社、大日本住友製薬社などから購入可能であり、同一名称あるいは同一商品名の試薬あるいは添加物であれば組成は製造元によらず同等である。
【0031】
本分化方法で用いられる培地はまた、脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、抗生物質(例えばペニシリンやストレプトマイシン)または抗菌剤(例えばアンホテリシンB)などを含有してもよい。これらの培地中の濃度は、前記した血清の培地中の濃度と同様である。
培養温度、CO
2濃度などの他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO
2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。
【0032】
本分化方法において、幹細胞が底板細胞に分化したことの確認は、底板細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子(本明細書において、上記タンパク質や遺伝子を底板細胞マーカーと称することがある)の発現変動を評価することによって行うことができる。上記底板細胞マーカーの発現変動の評価は、例えば、抗原抗体反応を利用したタンパク質の発現評価方法、定量RT−PCRを利用した遺伝子発現評価方法などによって行なうことができる。中脳に分化する上記底板細胞マーカーの例としては、FOXA2やLMX1A遺伝子/タンパク質が挙げられる。
【0033】
1−2.神経前駆細胞からドパミン神経細胞を製造する方法(本発明の製造方法)
上記分化方法により得られた底板細胞などの神経前駆細胞は、(i)cAMPアナログおよび(ii)MEK阻害剤を含む培地で培養する工程により、ドパミン神経細胞へとさらに分化させることができる。神経前駆細胞として底板細胞を使用する場合、本発明の製造方法によれば、底板細胞からドパミン神経細胞への分化誘導時に通常使用される脳由来神経栄養因子(BDNF)やグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)などの神経栄養因子の培地への添加は必須ではない。
【0034】
本発明の製造方法で使用されるcAMPアナログは、細胞との接触時に細胞内cAMP濃度を上昇させることが可能な、cAMPに類似した構造を有する化合物であれば特に限定されない。
上記cAMPアナログの例としては、8−ブロモcAMP、ジブチリルcAMP、N6−ベンゾイルcAMP、8−チオメチルcAMPなどが挙げられる。これらは、Sigma社、Merck Bioscience社、和光純薬工業社などから購入可能であり、同一名称あるいは同一の商品名であれば、同一の物質を指し、構造ならびに物性は製造元によらず同等である。また、市販品として入手できない場合であっても、当業者であれば既知文献に従って調製することもできる。
本発明の製造方法において使用されるcAMPアナログとしては、ジブチリルcAMPが好ましい。
cAMPアナログの培地中の濃度は、用いるcAMPアナログの種類によって適宜設定されるが、cAMPアナログとしてジブチリルcAMPを用いる場合の濃度は、通常0.01〜5mM、好ましくは0.1〜1mMである。
【0035】
本発明の製造方法で使用されるMEK阻害剤は、MAPキナーゼキナーゼ(Mitogen activated protein kinase/ERK Kinase;MEK)阻害活性を有する物質を指し、MEKの働きを阻害する限り、MEKシグナル伝達経路の上流因子に対する阻害剤(例えば、FGFレセプター阻害剤)も本発明のMEK阻害剤に含まれる。
上記MEK阻害剤の例としては、PD0325901(N−[(2R)−2,3−ジヒドロキシプロポキシ]−3,4−ジフルオロ−2−[(2−フルオロ−4−イオドフェニル)アミノ]−ベンズアミド)、PD184352(2−(2−クロロ−4−イオドフェニルアミノ)−N−シクロプロピルメトキシ−3,4−ジフルオロベンズアミド)、SU5402(3−[4−メチル−2−(2−オキソ−1,2−ジヒドロ−インドール−3−イリデンメチル)−1H−ピロール−3−イル]−プロパン酸)、PD173074(N−[2−[[4−(ジエチルアミノ)ブチル]アミノ−6−(3,5−ジメトキシフェニル)ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−イル]−N′−(1,1−ジメチル)尿素)などが挙げられる。これらは、Axon Medchem BV社、和光純薬工業社、Enzo Life Sciences,Inc.社、Merck Bioscience社、Tocris bioscience社、Stemgent社、Sigma社などから購入可能であり、同一名称あるいは同一の商品名であれば、同一の物質を指し、構造ならびに物性は製造元によらず同等である。また、市販品として入手できない場合であっても、当業者であれば既知文献に従って調製することもできる。
また、MEKのmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNAなどもMEK阻害剤として使用することができる。これらはいずれも商業的に入手可能であるか既報に従って合成することができる。
本発明の製造方法において使用されるMEK阻害剤としては、PD0325901、PD184352またはSU5402が好ましい。
MEK阻害剤の培地中の濃度は、用いるMEK阻害剤の種類によって適宜設定されるが、MEK阻害剤としてPD0325901またはPD184352を使用する場合の濃度は、通常0.1〜10μM、好ましくは1〜5μMである。MEK阻害剤としてSU5402を使用する場合の濃度は、通常0.1〜20μM、好ましくは5〜15μMである。
【0036】
本発明の製造方法において、cAMPアナログとMEK阻害剤とは、培地中に同時に添加されてもよく、また、神経前駆細胞からドパミン神経細胞への分化を誘導し得る限り、別個に時間差を設けて培地中に添加されてもよい。cAMPアナログとMEK阻害剤とは、培地中に同時に添加されることが簡便であり、また好ましい。
【0037】
本発明の製造方法で用いる培地は、上記1−1.の分化方法で例示した基礎培地(所望により前記で例示した各種添加物、血清または血清代替物を含有していてもよい)にcAMPアナログおよびMEK阻害剤を添加することにより作製される。
本発明の製造方法で用いられる培地は、前記の底板細胞の製造方法にて用いた基礎培地と同種の基礎培地を用いて作製されたものであっても、異種の基礎培地を用いて作製されたものであってもよいが、同種の基礎培地を用いて作製されたものであることが好ましい。
【0038】
本発明の製造方法で用いる培地に、上記のcAMPアナログおよびMEK阻害剤に加えて、アスコルビン酸またはその塩を加えることにより、さらに効率的に高品質のドパミン神経細胞を製造することができる。
本発明の製造方法で使用され得るアスコルビン酸塩の例としては、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
アスコルビン酸またはその塩が培地に添加される場合の濃度は、通常0.01〜10mM、好ましくは0.05〜1mMである。
アスコルビン酸またはその塩は、cAMPアナログおよびMEK阻害剤と同時に培地に添加されてもよく、また、神経前駆細胞からドパミン神経細胞への分化を誘導し得る限り、別個に時間差を設けて培地中に添加されてもよい。アスコルビン酸またはその塩は、cAMPアナログおよびMEK阻害剤と同時に培地中に添加されることが簡便であり、また好ましい。
【0039】
本発明の製造方法においては、上記のcAMPアナログおよびMEK阻害剤に加えて、アクチビン受容体様キナーゼ−4,7の活性化剤を培地に添加して神経前駆細胞を培養することにより、さらに効率的に高品質のドパミン神経細胞を製造することができるばかりでなく、ドパミン神経細胞への分化誘導期間も短縮することができる。アクチビン受容体様キナーゼ−4,7の活性化剤としては、アクチビン受容体様キナーゼ−4及び/又はアクチビン受容体様キナーゼ−7を活性化する限り特に限定されないが、例えば、nodal、GDF−1、Vg1、アクチビンなどが挙げられる。好ましくはアクチビン(特に、アクチビンA)である。
【0040】
アクチビンはTGFβ(トランスフォーミング増殖因子β)ファミリーに属する大きさ24kDのペプチド性細胞増殖、分化因子であり、2個のβサブユニットがSS結合を介して2量体を構成している(Ling,N.,et al.,(1986)Nature 321,779−782;Vale,W.,et al.,(1986)Nature 321,776−779)。アクチビンには、アクチビンA、B、C、DおよびABが知られているが、本発明の製造方法においてはアクチビンA、B、C、D、ABのいずれのアクチビンも使用することができる。本発明の製造方法でアクチビンを使用する場合には、アクチビンとしては特にアクチビンAが好適に用いられる。また、該アクチビンとしてはヒト、マウスなどいずれの哺乳動物由来のアクチビンをも使用することができる。本発明の製造方法にてアクチビンを使用する場合には、用いる神経前駆細胞と同一の動物種由来のアクチビンを用いることが好ましく、例えばヒト由来の神経前駆細胞を出発原料とする場合、ヒト由来のアクチビンを用いることが好ましい。これらのアクチビンは商業的に入手可能である。
本発明の製造方法における培地中のアクチビンの濃度は、用いるアクチビンの種類によって適宜設定されるが、アクチビンとしてアクチビンAを使用する場合の濃度は、通常0.1〜200ng/ml、好ましくは5〜150ng/ml、特に好ましくは10〜100ng/mlである。
アクチビンは、cAMPアナログおよびMEK阻害剤と同時に培地に添加されてもよく、また、神経前駆細胞からドパミン神経細胞への分化を誘導し得る限り、別個に時間差を設けて培地中に添加されてもよい。アクチビンは、cAMPアナログおよびMEK阻害剤と同時に培地中に添加されることが簡便であり、また好ましい。
【0041】
本発明の製造方法は、神経前駆細胞の培養に適した培養温度(通常30〜40℃、好ましくは37℃程度)で、1〜10%(好ましくは5%)の二酸化炭素を通気したCO
2インキュベーター内にて培養することによって実施される。
【0042】
本発明の製造方法において、神経前駆細胞がドパミン神経細胞に分化したことの確認は、ドパミン神経細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子(本明細書において、上記タンパク質や遺伝子をドパミン神経細胞マーカーと称することがある)の発現変動を評価することによって行うことができる。上記ドパミン神経細胞マーカーの発現変動の評価は、例えば、抗原抗体反応を利用したタンパク質の発現評価方法、定量RT−PCRを利用した遺伝子発現評価方法などによって行なうことができる。中脳に存在する上記ドパミン神経細胞マーカーの例としては、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、FOXA2、LMX1A、NURR1遺伝子/タンパク質が挙げられる。
また、本発明の製造方法により得られたドパミン神経細胞が、インビボにおけるドパミン神経細胞と同質の機能を有することの確認は、ドパミンの放出、酸化ストレスや薬剤刺激への応答性を評価することによって行うことができる。
【0043】
本発明の製造方法を用いれば、上記1−1.の分化方法により得られた底板細胞以外の底板細胞または神経前駆細胞を出発材料として、高品質のドパミン神経細胞を効率良く製造することもできる。
【0044】
本発明の製造方法では、神経前駆細胞をドパミン神経細胞へと効率的に分化誘導することにより、高品質のドパミン神経細胞を大量に製造することができる。このドパミン神経細胞は、生体内のドパミン神経細胞と同様の表現形質及び機能を有することから、ドパミンの産生(放出)の低下に起因する疾患、例えばパーキンソン病などの神経変性疾患を治療するための細胞移植療法において医薬として利用すれば、高い生着率を達成できる。また、当該疾患の治療薬を開発するためのツールとしても有用である。
【0045】
本発明の製造方法の過程で得られる細胞及び本発明のドパミン神経細胞は、凍結保存及び解凍することができる。細胞の凍結及び解凍方法は、当該分野において公知であり、細胞の分化能、生存能、ドパミン産生能等に影響しない限り、特に限定されない。例えば、本発明のドパミン神経細胞は、PBSで洗浄後、細胞分散液(例、Accutase(登録商標)Innovative Cell Technologies)により細胞を培養皿から剥離させた後、細胞分散液を除き、凍結保存液(例、セルバンカー2(株式会社LSIメディエンス))に懸濁して、−80℃で保存することができる。また、解凍方法としては、例えば、37℃の恒温槽中で解凍し、凍結保存液を遠心洗浄後、培地に懸濁させて用いる方法等が挙げられる。本発明の製造方法の過程で得られる細胞を凍結及び融解した場合、融解後の細胞からも、Nurr1陽性ドパミン神経を誘導することが可能である。
【0046】
2.ドパミン神経細胞を含む医薬
本発明は、上記した本発明の製造方法により製造されたドパミン神経細胞を含む医薬(本明細書中、本発明の医薬と略記する場合がある)を提供する。
ここでドパミン神経細胞は、上記した本発明の製造方法により得られた細胞であれば特に限定されない。
該医薬において、ドパミン神経細胞はそのまま、もしくはフィルター濾過などにより濃縮したペレットなどの細胞塊などとして用いられる。さらに、該医薬は、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの保護剤を加え、凍結保存することもできる。該医薬は、医薬として、より安全に利用するために、加熱処理、放射線処理など、ドパミン神経細胞としての機能を残しつつ、病原体のタンパク質が変性する程度の条件下での処理に付してもよい。また、ドパミン神経細胞が必要量以上に増殖することを防止するために、上記処理と組み合わせて、マイトマイシンC前処理などによる増殖の抑制や、哺乳類が自然には持っていない代謝酵素の遺伝子を当該細胞に導入して、その後、必要に応じて未活性型の薬を投与し、哺乳類が自然には持っていない代謝酵素の遺伝子を導入した細胞の中だけでその薬を毒物に変化させて細胞を死滅させる方法(自殺遺伝子療法)などの処理に付してもよい。
【0047】
本発明の医薬は、安全で低毒性であり、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ブタ、サル)に投与することができる。
本発明の医薬のヒトへの投与形態(移植方法)としては、例えば、Nature Neuroscience,2,1137(1999)もしくはN Engl J Med.;344:710−9(2001)に記載されるような手法が挙げられる。好ましくは、本発明の医薬は、脳のドパミン欠乏領域へと投与(移植)される。
本発明の医薬において、患者本人の細胞あるいは組織適合型が許容範囲のドナーの細胞を用いて作製されたドパミン神経細胞を用いることが好ましいが、年齢や体質などの理由から充分な細胞が得られない場合には、ポリエチレングリコールやシリコンのようなカプセル、多孔性の容器などに包埋して拒絶反応を回避した状態で移植することも可能である。また、本発明の医薬の投与量(移植量)および投与回数(移植回数)は、投与される患者の年齢、体重、症状などによって適宜決定することができる。
【0048】
本発明のドパミン神経細胞を含む医薬は、それ自体の投与(移植)により、患者体内に効率的に生着でき、その結果、患者体内での効率的なドパミンの産生(放出)が可能となる。従って、本発明の医薬は、ドパミンの産生(放出)低下に起因する疾患、例えば、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、てんかんおよび統合失調症などの神経変性疾患の治療に有用である。
【0049】
3.その他の用途
本発明のドパミン神経細胞は、生体内のドパミン神経細胞と同様の表現形質及び機能を有するため、医薬化合物、好ましくは神経変性疾患治療用化合物のスクリーニングに有用である。例えば、試験化合物を単独でまたは他の薬剤と組み合わせて、本発明のドパミン神経細胞に加え、当該細胞の形態または機能的な変化を測定することにより、当該試験化合物が医薬として有用であるか否かを評価することができる。機能的な変化の例としては、当該細胞から産生または放出されるドパミン量を計測することにより行うことができる。ここで、ドパミン神経細胞は、治療対象となる疾患と同様の表現型を呈する細胞が好ましく、特に好ましくは、疾患由来の体細胞から作製された幹細胞を分化誘導することにより製造されたドパミン神経細胞である。
試験化合物としては、例えば、ペプチド、タンパク質、抗体、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などが挙げられる。ここで試験化合物は塩を形成していてもよい。該塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルミニウム塩)などとの塩が用いられ、この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、または有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩が用いられ得る。
【0050】
上記スクリーニングを用いて得られる医薬は、生理学的に許容し得る添加剤を用いて、公知の方法に従って製剤化することができる。
このようにして得られる製剤の剤形としては、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などの経口剤;注射剤などの非経口剤が挙げられる。これら製剤における有効成分(上記スクリーニング方法により選択された化合物)の含量は例えば、0.1〜90重量%である。
前記添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムなどの結合剤;結晶性セルロースなどの賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などの膨化剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリンなどの甘味剤;ペパーミント、アカモノ油、チェリーなどの香味剤;油脂、注射用水、植物油(例えば、ゴマ油、ヤシ油、大豆油)、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)などの液状担体;溶解補助剤(例えば、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール);非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80
TM、HCO−50);溶解補助剤(例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール);無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン);安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール);保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール);酸化防止剤が挙げられる。
前記注射用水としては、例えば、生理食塩水;ブドウ糖、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなどを含む等張液があげられる。
上記スクリーニングによって得られる医薬(好ましくは、神経変性疾患治療薬)は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー)に対して経口的または非経口的に投与することができる。
該医薬の投与量および投与回数は、その作用、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより適宜設定される。
【0051】
本発明のドパミン神経細胞は、化合物の毒性評価に用いることもできる。例えば、試験化合物を単独でまたは他の薬剤と組み合わせて、本発明のドパミン神経細胞に加え、当該細胞の形態または機能的な変化を測定することにより、当該試験化合物が毒性を有するか否かを評価することができる。機能的な変化の例としては、当該細胞から産生または放出されるドパミンの量を計測することにより行うことができる。
試験化合物としては、例えばペプチド、タンパク質、抗体、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿が挙げられる。ここで試験化合物は、上記スクリーニングに記載したような塩を形成していてもよい。
【0052】
本発明の製造方法により得られたドパミン神経細胞は、さらに、創薬ターゲットの検証や疾患メカニズムの解析などにも使用することができる。
【0053】
別の実施態様において、本発明は、(i)cAMPアナログおよび(ii)MEK阻害剤を含む、神経前駆細胞からドパミン神経細胞を製造するための試薬およびキットも提供する。
上記試薬およびキットは、さらに(1)アスコルビン酸またはその塩および/または(2)アクチビン受容体様キナーゼ−4,7の活性化剤を含んでいてもよい。
上記cAMPアナログ、MEK阻害剤およびアクチビン受容体様キナーゼ−4,7の活性化剤としては、本発明の製造方法に使用可能であるものが挙げられる。
【0054】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0055】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
[参考例1]
未分化ヒトiPS細胞の維持培養
ヒトiPS細胞としては253G1株(Nature Biotechnology 2008;26:101−106)または201B7株(Cell.2007;131:861−872)を使用した。
未分化状態のiPS細胞(253G1株または201B7株)の維持培養は、(i)フィーダー細胞を使用する方法、または(ii)使用しない方法の2通りで行った。
【0057】
(i)フィーダー細胞を使用する方法
フィーダー細胞としてマイトマイシンC(和光純薬)処理により増殖不活性化したマウス線維芽細胞(MEFs、北山ラベス社)をゼラチンコートしたプレート上に播種したものを使用した。本方法では、培地として4ng/ml bFGF(basic fibroblast growth factor)(PeproTech社)と0.5×Penicillin−streptomycin(和光純薬)を添加した霊長類ES細胞用培地(リプロセル社)を用い、37℃、5%CO
2下で培養を行った。培地交換は毎日行い、6〜7日ごとに継代を行った。上記継代は、霊長類ES細胞用細胞剥離液(リプロセル社製)を用いて細胞塊の状態でiPS細胞をプレートから剥離させた後、剥離させたiPS細胞を新しいフィーダー細胞上に播種することにより行った。
【0058】
(ii)フィーダー細胞を使用しない方法
フィーダー細胞を使用しない方法では、ビトロネクチン(Life Technologies)をコートしたプレートを用いた。本方法では、培地として0.5×Penicillin−streptomycin(和光純薬)を添加したEssential 8(Life Technologies)用い、37℃、5%CO
2下で培養を行った。培地交換は毎日行い、6〜7日ごとに継代を行った。上記継代は、0.5mM EDTAを添加したPBSを用いて細胞塊の状態でiPS細胞をプレートから剥離させた後、剥離させたiPS細胞を、ビトロネクチンをコートした新しいプレート上に播種することにより行った。
【0059】
[参考例2]
ヒトiPS細胞の前培養
底板細胞への分化誘導の前培養として、上記参考例1に記載の(i)または(ii)の方法で維持培養した未分化ヒトiPS細胞を96穴プレートに播種した。
【0060】
(i)フィーダー細胞上で維持したiPS細胞を使用する場合
まず細胞塊の状態で維持していたiPS細胞を霊長類ES細胞用細胞剥離液で10秒間処理し、軽くピペッティングしてMEFsをある程度除去した。続いて、PBSで洗浄し、Accutase(Innovative Cell Technologies)を用いて37℃で5分間処理し、単一細胞になるまで解離させた。続いて、培地に分散させたiPS細胞を96穴プレートに1穴あたり1.5〜2×10
4個の密度で播種し、37℃、5%CO
2下で1日間培養(前培養)した。播種時の培養液としては、10μMのY27632((R)−(+)−trans−4−(1−アミノエチル)−N−(4−ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド)(和光純薬)を添加した霊長類ES細胞用培地を用いた。
【0061】
(ii)フィーダー細胞を使用しない方法で維持したiPS細胞を使用する場合
まず細胞塊の状態で維持していたiPS細胞を0.5mM EDTAを添加したPBSを用いて37℃で10分間処理し、単一細胞になるまで解離させた。続いて、培地に分散させたiPS細胞を96穴プレートに1穴あたり1.5〜2×10
4個の密度で播種し、37℃、5%CO
2下で1日間培養(前培養)した。播種時の培養液としては、10μMのY27632(和光純薬)を添加したEssential 8を使用した。上記96穴プレートとしては、Matrigel(BD社)をDMEM/F12(Life Technologies社)で1/30〜1/40希釈したものを添加して、37℃で一晩コーティングしたものを用いた。
【0062】
[参考例3]
ヒトiPS細胞から底板細胞への分化誘導
ヒトiPS細胞から底板細胞への分化誘導は次の方法で行った。
上記参考例2に記載した前培養後の培地を、底板細胞への分化誘導因子(LDN193189(0.5μM、Axon MedChem社)、SB431542(10μM、和光純薬)、プルモルファミン(0.5μM、Merck社)、SHH(200ng/ml、R&D systems社)およびCHIR99021(1μM、Axon MedChem社))を含む分化誘導培地に交換し(培養0日目)、37℃、5%CO
2下で5日間培養した。その後、培地を、0.5μM LDN193189および1μM CHIR99021を含む分化誘導培地に交換し、37℃、5%CO
2下で5〜8日間培養した(計10〜13日間)。ここで、上記分化誘導培地としては、(a)2%B27(Life Technologies社)と2mM GlutaMaxI(Life Technologies社)を含むNeurobasal(Life Technologies、以下、Neuro/B27と記載)、または(b)1%N2(和光純薬)と2%B27(Life Technologies社)を含むDMEM/F12(以下、N2B27と記載)を用いた。なお、これらの培養期間中、培地交換は3〜4日毎に行った。
【0063】
各底板細胞への分化誘導因子(LDN193189、SB431542、プルモルファミン、SHHおよびCHIR99021)の有無による底板細胞マーカーの発現変動を調べるため、培養13日目の細胞を回収し、RNeasy(Qiagen社)を用いて全RNA画分を精製した。PrimeScript RT reagent kit(タカラバイオ社)を用いてcDNAを合成した後、定量RT−PCRを実施して、底板細胞マーカーであるFOXA2およびLMX1Aの遺伝子発現量を測定した。結果を
図1に示す。LDN193189、SB431542、SHH、プルモルファミンおよびCHIR99021の5種類すべてを添加した場合(
図1中、All)でFOXA2とLMX1Aが共に高い発現を示したことから、上記5種類すべてを添加した場合に効率的に底板細胞を誘導できることが判った。また、上記5種類からSHHを除いた場合(図中、−SHH)でも、FOXA2とLMX1Aの発現はある程度上昇したことから、SHHを使用しない、すなわち分化誘導因子として化合物のみを添加する場合でも底板細胞を誘導できると考えられた。また、上記5種類に加え、ヒトES/iPS細胞から分化させた神経外胚葉を中脳領域の方向へ誘導する因子として広く用いられているFGF8を添加しても、FOXA2とLMX1Aの発現はほとんど変化しなかったことから(
図1中、All+FGF8)、本系ではFGF8は必須ではないと考えられた。
【0064】
次に、培養13日目のFOXA2およびLMX1Aタンパク質の発現を調べるため、抗FOXA2抗体および抗LMX1A抗体を用いた免疫蛍光染色を実施した。LDN193189、SB431542、SHH、プルモルファミンおよびCHIR99021の5種類すべてを使用して13日目まで培養した後、4%パラホルムアルデヒド(和光純薬)を添加して室温で30分間インキュベートし、細胞の固定を行った。1次抗体として抗FOXA2抗体(sc−6544、Santa Cruz社)および抗LMX1A抗体(AB10533、Millipore社)と反応させ、さらに2次抗体として1次抗体の免疫動物に合わせたAlexa488標識2次抗体(Invitrogen社)およびAlexa568標識2次抗体と順次反応させた後、蛍光顕微鏡で観察した。結果を
図2に示す。分化誘導培地として前記(a)または(b)のいずれを使用した場合にも、大部分の細胞がFOXA2およびLMX1Aタンパク質を共に発現している様子が観察された。
【0065】
以上の結果から、LDN193189、SB431542、SHH、プルモルファミンおよびCHIR99021を添加した分化誘導培地で5日間、その後LDN193189およびCHIR99021を添加した分化誘導培地で5〜8日間培養することにより、効率的に底板細胞を誘導できることが明らかとなった。
【0066】
[実施例1]
底板細胞からドパミン神経への分化誘導
参考例1ないし3に記載した方法と同様の方法で底板細胞を誘導し、培養13日目に培地を(A)0.1mM アスコルビン酸(SIGMA社)、0.5mM ジブチリルcAMP(SIGMA社、以下、dbcAMPと記載)および3μM PD0325901の3因子を添加したNeuro/B27、または(B)0.1mM アスコルビン酸および0.5mM dbcAMPの2因子を添加したNeuro/B27に交換し、37℃、5%CO
2下で30日以上培養した。なお、上記培養期間中、3〜4日毎に培地交換を行った。
【0067】
[試験例1]
ドパミン神経細胞分化誘導後の中脳ドパミン神経細胞マーカー遺伝子およびマーカータンパク質の発現解析
培養45日目に細胞を回収し、中脳ドパミン神経細胞の分化、成熟化および機能維持に極めて重要な転写因子として知られるNURR1の発現変動を調べた。その結果を
図3に示す。アスコルビン酸およびdbcAMPの2因子を添加して分化誘導することでNURR1の発現は上昇したが、この2因子に加えPD0325901を添加することによって発現がさらに大きく上昇した。
次に、中脳ドパミン神経細胞マーカーであるTH、NURR1およびFOXA2タンパク質の発現を、抗TH抗体、抗NURR1抗体および抗FOXA2抗体を用いた免疫蛍光染色で調べた。参考例1ないし3に記載した方法と同様の方法で底板細胞を誘導し、培養13日目から(A)アスコルビン酸、dbcAMPおよびPD0325901の3因子を添加したNeuro/B27、または(B)アスコルビン酸およびdbcAMPの2因子を添加したNeuro/B27に交換して分化誘導を進め、培養45〜52日目に4%PFAを添加して室温で30分間の固定を行った。1次抗体として抗TH抗体(AB152、Millipore社)、抗NURR1抗体(PP−N1404−00、Perseus Proteomics社)および抗FOXA2抗体(sc−6544、Santa Cruz社)と反応させ、さらに2次抗体として1次抗体の免疫動物に合わせたAlexa488標識2次抗体、Alexa568標識2次抗体およびAlexa647標識2次抗体と順次反応させた後、蛍光顕微鏡で観察した。結果を
図4、
図5および
図6に示す。いずれの条件においてもTHタンパク質を発現する細胞が同じように観察されたが、PD0325901を添加(実施例1、(A))することによってNURR1タンパク質の染色が明らかに強陽性となり(
図4)、また、TH、NURR1およびFOXA2タンパク質を同時に発現する細胞が多数観察された(
図5)。
図6は、高倍率で観察したときの染色像を示す。以上の結果は、253G1および201B7株でほぼ同様に得られた。
これらのことから、底板細胞を前記(A)のNeuro/B27を用いて分化誘導することにより、cAMPアナログおよびMEK阻害剤を加えない場合に比して、数十倍も効率的に中脳ドパミン神経細胞を誘導できることが判明した。
【0068】
[試験例2]
dbcAMPおよびPD0325901を添加した培地で誘導したドパミン神経細胞の機能評価
参考例1ないし3に記載した方法と同様の方法で底板細胞を誘導し、培養13日目から(A)アスコルビン酸、dbcAMPおよびPD0325901の3因子を添加したNeuro/B27、または(B)アスコルビン酸およびdbcAMPの2因子を添加したNeuro/B27に交換して分化誘導を進め、培養50日目に高KCl刺激によるドパミンの放出能を評価した。
上記評価は次のように行った。分化誘導した細胞の培地をNeuro/B27に交換し、一晩培養した。翌日HBSS(Life Technologies、カルシウムおよびマグネシウム含有)中で37℃、5%CO
2下で1時間インキュベートを行い、HBSS(コントロール)または55mM KClを添加したHBSSに交換して、37℃、5%CO
2下で15〜30分インキュベートした。インキュベート後、上清を回収してフィルターろ過(UFC30HVNB、Millipore社)した後、0.01N HClおよび100μM EDTAを添加し、得られた試料は分析まで−80℃で保存した。分析には微量生体試料分析システムおよびHTEC500(エイコム社)、電気化学検出器EPC−500(エイコム社)を使用し、エイコム社のマニュアル(エイコム情報 No.25)に従って、試料中に含まれるドパミン量の測定を行った。結果を
図7に示す。前記(A)のNeuro/B27を用いて分化誘導することにより、高KCl刺激によるドパミン放出量の増加を明確に検出することができるようになった。前記(B)のNeuro/B27を用いて分化誘導した場合には、ロットによってドパミン放出が認められない場合があったが、前記(A)のNeuro/B27を用いて分化誘導した場合には、高KCl刺激によるドパミン放出量の増加は、異なるロットでも再現よく検出できた。このことから、PD0325901によって分化系が安定化したことが示唆された。また、253G1および201B7株で若干の応答の違いが認められたが、PD0325901を添加した場合では、高KCl刺激によるドパミン放出量の増加が安定して検出され、異なる細胞株間において高KCl刺激によるドパミン放出量の増加が確認された。
【0069】
[実施例2]
各種MEK阻害剤(FGFR阻害剤を含む)の検討
前記(A)のNeuro/B27におけるPD0325901に代えて、PD184352(Axon MedChem社)、SU5402(FGFレセプター(FGFR)阻害剤、和光純薬)またはPD173074(FGFR阻害剤、Axon MedChem社)のいずれかを含む培地により中脳ドパミン神経細胞を誘導できるか否かについて検討を行った。
【0070】
参考例1ないし3に記載した方法と同様の方法で底板細胞を誘導し、培養13日目から(1)アスコルビン酸、dbcAMPおよびPD0325901の3因子、(2)アスコルビン酸およびdbcAMPの2因子、(3)アスコルビン酸、dbcAMPおよび3μM PD184352、(4)アスコルビン酸、dbcAMPおよび10μM SU5402、または(5)アスコルビン酸、dbcAMPおよび0.1μM PD173074を添加したNeuro/B27に交換し、37℃、5%CO
2下で30日以上培養した。なお、上記培養期間中、3〜4日毎に培地交換を行った。培養45日目に細胞を回収し、NURR1の発現変動を調べた結果を
図8に示す。253G1株では、PD0325901、PD184352またはSU5402の添加でNURR1の発現が上昇し、201B7株では4種類すべてでNURR1の発現が上昇した。一方、MEKパスウェイを活性化することが知られているPLX4032は効果が認められなかった。
以上の結果から、NURR1の発現上昇はMEK(または上流のFGFR)阻害作用に起因していることが示唆された。
【0071】
[試験例3]
分化誘導過程における各分化マーカーの発現変動
上記参考例、実施例および試験例の結果を元に、
図9に示した3つの工程からなるドパミン神経分化系を設定し、未分化iPS細胞からの分化誘導過程における各種分化マーカーの発現を調べた。
【0072】
工程1では、0.5μM LDN193189、10μM SB431542、0.5μM プルモルファミン、200ng/ml SHHおよび1μM CHIR99021を添加したNeuro/B27で5日間培養した。工程2では0.5μM LDN193189および1μM CHIR99021を添加したNeuro/B27で8日間培養した(計13日間)。工程3では、0.1mM アスコルビン酸、0.5mM dbcAMおよび3μM PD0325901を添加したNeuro/B27で32日間培養した(計45日間)。培養後、各種分化マーカーの経時的な発現変動を、参考例3と同様の方法を用いて測定した。発現解析の結果を
図10に示す。
【0073】
対照として、分化誘導因子を添加しない条件(図中、−)、SHHのみを除いた条件(図中、−SHH)またはプルモルファミンのみを除いた条件(図中、−Pur)で培養し、工程2以降はすべて
図9に示した条件で分化誘導した群の検討も行った。
【0074】
すべて添加した条件(図中、All)では、底板細胞マーカーであるFOXA2の発現は分化誘導7日目まで上昇し、分化誘導の終了までその発現量が維持されていた。中脳に分化する底板細胞マーカーであるLMX1Aの発現は、分化誘導に伴い経時的に上昇し続けた。ドパミン神経細胞マーカーであるTHおよびNURR1の発現は培養20日目から急激に増加した。一方、SHHのみを除いた条件(図中、−SHH)においても、すべて添加した条件(図中、All)と同様の発現パターンを示したことから、SHHは必須ではないことが示唆された。しかしながら、プルモルファミンのみを除いた条件(図中、−Pur)ではFOXA2の発現が低い状態であったことから、底板細胞の誘導にはプルモルファミンの添加が必須であると考えられた。
【0075】
[実施例3]
底板細胞からドパミン神経細胞への分化誘導の効率化
PD0325901に加え、工程3においてドパミン神経細胞への分化を促進させる因子を探索した。その結果、アクチビンAを工程3において添加した場合に、ドパミン神経細胞への分化効率が上昇することが見出された。
【0076】
参考例1ないし3に記載した方法と同様の方法で底板細胞を誘導し、培養12日目に0.1mM アスコルビン酸、0.5mM dbcAMP、3μMPD0325901、20ng/ml アクチビンA(R&D社)のうちの一種類以上を添加したNeuro/B27、もしくはコントロールとしてアスコルビン酸、dbcAMP、PD0325901、およびアクチビンAを添加していないNeuro/B27に交換してさらに14日間培養した(計26日間)。培養後の細胞を回収し、THおよびNURR1の発現変動を参考例3と同様の方法で調べた結果を
図11に示す。アクチビンAのみを添加した場合、THおよびNURR1の発現はほとんど上昇しなかった。しかしながら、アスコルビン酸およびdbcAMPとともにアクチビンAを添加した場合はTHおよびNURR1の発現が顕著に増加し、アスコルビン酸、dbcAMPおよびアクチビンAとともにPD0325901を添加した場合はさらに大きく上昇した。一方で、アスコルビン酸、dbcAMPおよびPD0325901を添加した場合は、培養26日目の時点ではアスコルビン酸、dbcAMPおよびアクチビンAを添加した場合よりも低いレベルであった。
【0077】
次に、ドパミン神経細胞マーカーであるTHおよびNURR1タンパク質の発現を、抗TH抗体および抗NURR1抗体を用いた免疫蛍光染色で調べた。底板細胞を誘導し、培養12日目に0.1mM アスコルビン酸、0.5mM dbcAMP、3μM PD0325901、20ng/ml アクチビンAのうちの一種類以上を添加したNeuro/B27、もしくはコントロールとして分化誘導因子を添加していないNeuro/B27に交換してさらに14日間培養した(計26日間)。培養後4%PFAを添加して室温で30分間の固定を行った。1次抗体として抗TH抗体および抗NURR1抗体と反応させ、さらに2次抗体として1次抗体の免疫動物に合わせたAlexa488標識2次抗体およびAlexa568標識2次抗体と順次反応させた後、蛍光顕微鏡で観察した。結果を
図12に示す。アスコルビン酸、dbcAMP、アクチビンAおよびPD0325901を同時に添加することで、THおよびNURR1タンパク質の発現する細胞が顕著に増加している様子が観察された。これらの結果は、THおよびNURR1遺伝子の発現変動の結果とよく一致するものであった。
【0078】
以上の結果から、底板細胞の誘導後アスコルビン酸、dbcAMP、PD0325901およびアクチビンAを添加することで、従来よりも短い分化誘導期間(計26日間)で、効率よく中脳ドパミン神経細胞を誘導できることが明らかとなった。
【0079】
[試験例4]
分化誘導26日目における凍結保存
参考例1ないし3に記載した方法と同様の方法で中脳底板細胞を誘導し、培養12日目に0.1 mM アスコルビン酸、0.5 mM dbcAMP、3 μM PD0325901、20 ng/ml アクチビンA(R&D社)を添加したNeuro/B27に交換し、さらに14日間培養した(計26日間)。培養後、細胞をPBSで洗浄し、Accutase(Innovative Cell Technologies)を用いて37℃、20−30分間処理して分散させた。遠心洗浄後、約2x 10
6 cells/ml/tubeの濃度で細胞をセルバンカー2(十慈フィールド)に懸濁し、−80℃で凍結保存した。
凍結保存した細胞を37℃の恒温槽に浸して解凍し、遠心洗浄を行った後、96穴プレートに1穴あたり2x10
4個の密度で播種し、37℃、5%CO
2下で2週間培養した。上記96穴プレートとしては、MatrigelをDMEM/F12(Life Technologies社)で1/30−1/40希釈したもの、またはLaminin(Trevigen社)をDMEM/F12で10 μg/mlの濃度に希釈したものを添加して、37℃で一晩コーティングしたものを用いた。培養液としては、0.1 mM Ascorbic acid、0.5 mM dbcAMP、3 μM PD0325901、20 ng/ml アクチビンA(R&D社)のうちの一種類以上を添加したNeuro/B27、もしくはコントロールとしてアスコルビン酸、dbcAMP、 PD0325901、およびアクチビンAを添加していないNeuro/B27を用いた。
解凍後2週間培養した細胞を回収し、ドパミン神経マーカーであるTH、NURR1、FOXA2およびLMX1Aの発現変動を参考例3と同様の方法で調べた結果を
図13に示す。アスコルビン酸、dbcAMP、アクチビンAおよびPD0325901を同時に添加することで、各分化マーカーは最も高い発現を示した。これらの因子を添加しない場合(図中、−)では、分化マーカーの発現レベルは低かったことから、解凍後は分化因子が必須であることがわかった。またこのときY27632(10 μM)の有無について検討を行ったが、マーカーの発現レベルにほとんど差は認められなかった。
次に、THおよびNURR1タンパク質の発現を、抗TH抗体および抗NURR1抗体を用いた免疫蛍光染色で調べた。解凍後2週間培養した細胞に4%PFAを添加して室温で30分間固定した後、1次抗体として抗TH抗体および抗NURR1抗体と反応させ、さらに1次抗体の免疫動物に合わせたAlexa488標識2次抗体およびAlexa568標識2次抗体と順次反応させた後、蛍光顕微鏡で観察した。結果を
図14に示す。
【0080】
以上の結果から、分化誘導26日目の細胞が凍結保存可能であること、さらに解凍後、アスコルビン酸、dbcAMP、アクチビンAおよびPD0325901を添加して培養することにより、THおよびNURR1タンパク質を発現する中脳ドパミン神経を効率よく誘導できることが明らかとなった。
【0081】
[試験例5]
移植実験
参考例1ないし3に記載した方法と同様の方法で中脳底板細胞を誘導し、培養12日目に0.1 mM アスコルビン酸、0.5 mM dbcAMP、3 μM PD0325901または0.1 mMアスコルビン酸、0.5mM dbcAMP、3 μM PD0325901、20 ng/ml アクチビンAを添加したNeuro/B27に交換して、さらに14日間培養した(計26日間)。培養後、細胞をPBSで洗浄しTrypLE Express (Life Technologies)で37℃、10分間処理して分散させ、Neuro/B27培地で細胞濃度を1x10
5 cells/μlに調整し、移植まで氷上で保持した。
マウス線条体への移植実験は以下のように行った。12匹8週齢の雄性NOD SCIDマウス(日本チャールズリバー)をControl群とアクチビンA群(各群6匹)に分けた。Control群への移植はアスコルビン酸、dbcAMP、PD0325901を添加して培養した細胞を用い、アクチビンA群への移植はアスコルビン酸、dbcAMP、PD0325901、アクチビンAを添加して培養した細胞を用いた。マウスはペントバルビタール(50mg/kg、ip)麻酔下で頭部術野の毛を剃り、イソジンを塗布した。数分後に0.1%オスバン水溶液を浸したメンバンにてイソジンを拭取って皮膚を消毒し、脳定位固定装置(デビット・コフ、米国David Kopf社)に固定した。頭皮を正中から切開して、骨膜を剥離し、マウスのBregmaおよびLambdaを暴露した。線条体の座標(AP: +0.5 mm;ML: +1.8mm)は「The mouse brain in stereotaxic coordinates」を参照し、電動ドリル(φ0.5mm)を用いて頭蓋骨に穴を開け、ハミルトンシリンジを頭蓋骨表面から深さDV:−3.5 mmに挿入し、細胞(1x10
5 cells/μl、2μl)を10分間かけて移植した。移植後、頭部の切り口を縫合し回復させた。移植して4週、8週および12週後に各群から2匹ずつサンプリングを行った。マウスをイソフルラン吸引麻酔後断頭放血し、頭部を4%パラホルムアルデヒドで24時間固定し、頭蓋骨を剥いた後30%のサッカロース液にて24時間脱水を行った。その後、脳を凍結包埋し、クリオスタット(Leica CM3050S)を用いて凍結切片(40 μm)を作製した。ドパミン神経の組織染色は抗TH抗体と抗ヒト特異的Nuclei抗体(MAB1281、Millipore社)(hNuc)を用いて行った。
移植4週後、Control群のマウス線条体からTH/hNuc両陽性細胞がわずかに(5%以下)観察された程度であったが(
図15左)、アクチビンA群ではTH/hNuc両陽性細胞が多数観察された(40%以上、
図15右)。移植8週後、Control群の脳切片ではTH/hNuc両陽性細胞は4週後に比べ増えたが、アクチビンA群ではTH/hNuc両陽性細胞は4週に比べさらに増加し、50%以上であった(
図16)。移植12週後、Control群の脳切片ではTH/hNuc両陽性細胞は8週後よりさらに増加したが、10%未満であった。アクチビンA群ではTH/hNuc両陽性細胞は8週に比べ、顕著な増加は認められなかった(
図17)。
【0082】
以上の結果から、中脳底板細胞に誘導した後、アスコルビン酸、dbcAMP、PD0325901およびアクチビンAを添加した培地で培養した細胞は、マウス線条体でドパミン神経に効率よく分化し、3ヶ月以上定着し続けることが明らかとなった。
【0083】
本出願は、日本で出願された特願2013−163062(出願日:2013年8月6日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。