特許第6419212号(P6419212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6419212水性一次分散体、その製造方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6419212
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】水性一次分散体、その製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/28 20060101AFI20181029BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20181029BHJP
   C09D 133/06 20060101ALI20181029BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   C08F2/28
   C08F220/18
   C09D133/06
   C09D5/44 A
【請求項の数】24
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-559505(P2016-559505)
(86)(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公表番号】特表2017-509760(P2017-509760A)
(43)【公表日】2017年4月6日
(86)【国際出願番号】EP2013077680
(87)【国際公開番号】WO2015090441
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2016年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】516182100
【氏名又は名称】ビーエイエスエフ・コーティングス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンティノス・マルコウ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ニーゲマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ザビーネ・ホルトシュルテ
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−292137(JP,A)
【文献】 特開昭64−011630(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102531931(CN,A)
【文献】 中国特許第102382504(CN,B)
【文献】 特開平04−215830(JP,A)
【文献】 特開平05−117573(JP,A)
【文献】 特開2012−188388(JP,A)
【文献】 株式会社KRI,環境に配慮した、粒子サイズが10〜30ナノメートルのナノポリマー粒子の作成方法の開発に成功しました,2003年 8月25日,http://kri-inc.jp/aboutkri/newsold/2003/0825.htm
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2
B01F17
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)i.50〜500nmのZ平均粒径を有し、
ii.少なくとも1つのオレフィン性不飽和モノマー(A)の乳化重合によって得られる
分散ポリマー粒子
を含んでなる、カチオン的に安定化された水性一次分散体であって、
乳化重合は、下記式:
【化1】
[式中、
R1は、少なくとも1個の芳香族基および少なくとも1個の脂肪族基を有し、15個〜40個の炭素原子を有する基であって、ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される少なくとも1個の官能基を有し、および/または少なくとも1個の炭素−炭素多重結合を有する基であり、
R2、R3およびR4は、相互に独立して、1個〜14個の炭素原子を有する同一または異なる脂肪族基であり、
基R1、R2、R3およびR4の少なくとも2つは、ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される官能基を有し、
X-は、有機または無機酸HXの酸アニオンを表す]
で示される1つ以上の乳化剤(EQ)の存在下で行われる、カチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項2】
基R1は構造Gr脂肪族1−Gr芳香族−Gr脂肪族2−を有し、Gr芳香族は芳香族基を表し、Gr脂肪香族1は第一の脂肪族基を表し、Gr脂肪族2は第二の脂肪族基を表す、請求項1に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項3】
脂肪族基Gr脂肪族1において、基R1は少なくとも1個の炭素−炭素多重結合を有する、請求項2に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項4】
脂肪族基Gr脂肪族2において、基R1は、ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される少なくとも1個の官能基を有する、請求項2または3に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項5】
脂肪族基Gr脂肪族2において、基R1は、請求項1に記載の乳化剤の一般式中の窒素原子に対してベータ位に、ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される官能基を有する、請求項4に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項6】
Gr脂肪族1は直鎖状であり、非置換であり、ヘテロ原子を含まず、1個〜3個の二重結合を有し、
Gr芳香族はフェニレンまたはナフチレン基であり、
Gr脂肪族2は直鎖状であり、乳化剤(EQ)の一般式中の窒素原子に対してベータ位にヒドロキシル基を有し、さらにヘテロ原子としてエーテル基形態のOを有する、請求項2〜5のいずれか一項に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項7】
ヒドロキシル、チオール並びに第一級および第二級アミノ基に加えて、基R2、R3および/またはR4はエーテル基、エステル基およびアミド基から選択される少なくとも1個のさらなる官能基を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項8】
50モル%を超える基R1が炭素−炭素多重結合を有する乳化剤(EQ)の混合物が用いられている、請求項1〜7のいずれか一項に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項9】
オレフィン性不飽和モノマー(A)は、
a1)酸基を含まない(メタ)アクリル酸エステル;
a2)酸基を含まず、乳化剤(EQ)とは異なる、1分子当たり少なくとも1個のヒドロキシル基、1個の第一級、第二級、第三級または第四級アミノ基、或いは1個のアルコキシメチルアミノ基またはイミノ基を有するモノマー;
a3)対応する酸アニオン基に転化され得る、1分子当たり少なくとも1個の酸基を有するモノマー;
a4)分子中に5個〜18個の炭素原子を有する、アルファ位において分岐したモノカルボン酸のビニルエステル;
a5)アクリル酸および/またはメタクリル酸と、アルファ位において分岐し、1分子当たり5個〜18個の炭素原子を有するモノカルボン酸のグリシジルエステルとの反応生成物;
a6)環状または非環状オレフィン;
a7)(メタ)アクリル酸アミド;
a8)エポキシ基を有するモノマー;
a9)ビニル芳香族炭化水素;
a10)アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル;
a11)モノマーa4)とは異なる、ビニルハライド、ビニリデンジハライド、N−ビニルアミド、ビニルエーテルおよびビニルエステルからなる群から選択されるビニル化合物;
a12)アリル化合物;
a13)1000〜40,000の数平均分子量Mnおよび1分子当たり平均0.5個〜2.5個のエチレン性不飽和二重結合を有するポリシロキサンマクロモノマー;および
a14)アクリルオキシシラン含有ビニルモノマー
を含んでなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項10】
オレフィン性不飽和モノマー(A)は、モノマーa1)、a2)およびa9)並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項9に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項11】
アルキルまたはシクロアルキル基中に20個までの炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルまたは(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルからなる群から選択されるモノマーa1)、
少なくとも1個のヒドロキシル基または第一級、第二級、第三級または第四級アミノ基を有するモノマーを含んでなる群から選択されるモノマーa2)、および
モノマーa9)としてのスチレン
を含んでなるオレフィン性不飽和モノマー(A)の混合物が用いられている、請求項9または10に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体。
【請求項12】
請求項1〜11の一項以上に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体の製造方法であって、
(1)オレフィン性不飽和モノマー(A)および乳化剤(EQ)、並びに任意に架橋剤および/またはさらなるバインダーを水性媒体に導入し、
(2)次いで、剪断力の作用によってミニエマルジョンに転化し、
(3)乳化重合を行う、方法。
【請求項13】
ブロックトポリイソシアネート、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジンおよび完全エーテル化アミノプラスト樹脂を含んでなる群から選択される1つ以上の架橋剤を架橋剤として用いる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
エポキシアミン付加物をさらなるバインダーとして用いる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
重合を、25〜95℃の温度および/または1.5〜3000バールの圧力で行う、請求項1214のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
乳化重合は、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムまたはtert−ブチルヒドロペルオキシドを含んでなる群から選択される水溶性開始剤によって開始される、請求項1215のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体を含んでなるか、または該水性一次分散体からなる、コーティング組成物。
【請求項18】
電着コーティング組成物である、請求項17に記載のコーティング組成物。
【請求項19】
電着コーティング組成物を製造するための、請求項1〜11のいずれか一項に記載のカチオン的に安定化された水性一次分散体の使用。
【請求項20】
電着コーティング組成物が陰極析出性である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
請求項17または18に記載のコーティング組成物でコーティングされた導電性基材。
【請求項22】
金属基材である、請求項21に記載の導電性基材。
【請求項23】
自動車車体またはその部分である、請求項21または22に記載の導電性基材。
【請求項24】
下記式:
【化2】
[式中、
R1は、少なくとも1個の芳香族基および少なくとも1個の脂肪族基を有し、15個〜40個の炭素原子を有する基であって、ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される少なくとも1個の官能基を有し、および/または少なくとも1個の炭素−炭素多重結合を有する基であり、
R2、R3およびR4は、相互に独立して、1個〜14個の炭素原子を有する同一または異なる脂肪族基であり、
基R1、R2、R3およびR4の少なくとも2つは、ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される官能基を有し、
X-は、有機または無機酸の酸アニオンを表す]
で示される乳化剤(EQ)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5〜500nmの平均粒径を有するポリマー粒子を含有するカチオン的に安定化された水性一次分散体(いわゆる重合された「ミニエマルジョン」)に関する。本発明は、さらに、ミニエマルジョン重合による水性一次分散体の製造方法に関する。本発明は、さらに、コーティング材料、特に、自動車初期コーティング用のコーティング材料を製造するための水性一次分散体の使用、およびコーティング組成物自体に関する。本発明はまた、本発明の一次分散体の製造に使用される乳化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ミニエマルジョンは、水、油相、および1つ以上の表面活性物質から構成される分散体であり、分散された形態で存在する粒子は、5〜500nmの平均粒径を有する。ミニエマルジョンは、準安定であると考えられている(Emulsion Polymerization and Emulsion Polymers, P. A. Lovell and Mohamed S. El-Aasser,編集者,John Wiley and Sons, Chichester, New York, Weinheim, 1997,700頁以降;Mohamed S. El-Aasser, Advances in Emulsion Polymerization and Latex Technology, 30th Annual Short Course,第3巻,6月7日〜11日,1999, Emulsion Polymers Institute,リーハイ大学,Bethlehem,ペンシルベニア州,米国を参照)。いわゆるミニエマルジョンは、技術において、例えば、クレンザー、化粧品またはボディケア製品において、および電着コーティングなどのコーティング組成物において広く用いられている。
【0003】
ミニエマルジョン重合による水性一次分散体の製造方法は、例えば、WO 82/00148およびWO 98/02466またはDE 196 28 143 A1およびDE 196 28 142 A2から公知である。これらの公知の方法では、モノマーを、種々の低分子オリゴマーまたはポリマー疎水性物質または共安定剤の存在下で共重合させてよい(DE 196 28 142 A2参照)。加えて、水にほとんど溶解しない疎水性有機助剤、例えば、可塑剤、融合助剤などのフィルム形成助剤、または他の有機添加剤を、ミニエマルジョンのモノマー液滴に組み込んでよい(DE 196 28 143 A1参照)。WO 82/00148には、例えば、同文献に開示されているエマルジョンを安定化するための乳化剤の使用が記載されている。
【0004】
WO 82/00148には、特に、粒子の表面に蓄積し、正の電荷を粒子に付与し、10未満のpH値においてエマルジョンを安定化させるカチオン的に調整可能な乳化剤を用いる、ミニエマルジョンを包含する陰極析出性樹脂エマルジョンの製造方法が開示されている。乳化剤は反応性基を有してよく、それを介して、乳化剤は架橋反応中にポリマー樹脂系に組み込まれ得る。明示的に記載されている乳化剤の例は、第一級獣脂およびオレイルアミンなどの脂肪モノアミンおよびジアミンの酢酸塩、または獣脂およびオレイルジアミンの酢酸塩である。獣脂およびオレイルアミンは、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有する炭化水素鎖を有する。ジエタノールアミンと反応させ、酢酸でカチオン的に調整されたエポキシフェノール付加物などのポリマー乳化剤を用いてよい。WO 82/00148中のいくつかの例示的な実施態様では、不飽和アルキル基を有する第三級アミンであるEthoduomeen(商標)T13が共乳化剤として用いられる。製造メーカーであるAkzoNobelによれば、この材料は、N’,N’,N−トリス−(2−ヒドロキシエチル)−N−タロウイル−1,3−ジアミノプロパンである。WO 82/00148の教示によれば、カチオン的に調整された乳化剤は、樹脂系の唯一のカチオン性成分である。
【0005】
GrabsおよびSchmidt-Naake(Macromol. Symp. 2009, 275-276, pp.133-141)による研究では、ミニエマルジョンは、メタクリル酸2−アミノエチル塩酸塩およびスチレン、アクリル酸ブチルおよび/またはメタクリル酸ブチルから製造され、イン・サイチュ重合され、その結果、メタクリル酸アミノエチルモノマーの正電荷によって正の表面電荷を有し、従って、分散体中で安定化された樹脂粒子が得られる。第四級窒素原子を有し、従って、永続的な正電荷を有する飽和臭化セチルトリメチルアンモニウムは、分散体の製造においてカチオン性共乳化剤として用いられ得る。いずれの場合も、正電荷は、ハライドアニオンによって補償されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 82/00148
【特許文献2】WO 98/02466
【特許文献3】DE 196 28 143 A1
【特許文献4】DE 196 28 142 A2
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Emulsion Polymerization and Emulsion Polymers, P. A. Lovell and Mohamed S. El-Aasser,編集者,John Wiley and Sons, Chichester, New York, Weinheim, 1997,700頁以降
【非特許文献2】Mohamed S. El-Aasser, Advances in Emulsion Polymerization and Latex Technology, 30th Annual Short Course,第3巻,6月7日〜11日,1999, Emulsion Polymers Institute,リーハイ大学,Bethlehem,ペンシルベニア州,米国
【非特許文献3】GrabsおよびSchmidt-Naake, Macromol. Symp. 2009, 275-276, pp.133-141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
公知の水性一次分散体およびこのタイプの一次分散体に基づくコーティング材料は、既に、多数の有利な特性を有するが、改良された剪断安定性、特に、より良好なポンプ輸送性を有するコーティング剤に対する要望が依然として存在する。コーティング組成物が電着コーティング組成物、特に、陰極電着コーティング組成物である場合については、そのような電着コーティング組成物はより良好な限外濾過能および長期安定性を有する。例えば、WO 82/00148に記載されているように、先行技術の一次分散体を用いて製造可能な電着コーティングは、この点に関して欠点を有する。先に述べた機能に加えて、一次分散体から得られるコーティング組成物が改良されたフィルム形成能を有し、従って、電着コーティングとして用いる場合に改良された腐食保護を可能とすることが目的とされる。一次分散体が、電着コーティング浴に含まれた金属イオンの析出を容易にするのに適しているならば、それは特に有利である。
【0009】
本発明の目的は、水性コーティング組成物において使用することができ、改善された剪断安定性、特に、改善されたポンプ輸送性および限外濾過能、並びに長期安定性を付与する水性一次分散体、および従前に可能であったよりも広く用いることができるように、これまで知られていたものよりも良好なフィルム形成特性を有する、水性一次分散体から製造される水性コーティング剤を提供することである。特に、一次分散体が、慣用的なミニエマルジョン技術を用いて得られることが目的とされる。本発明のさらなる目的は、本発明の一次分散体を含有し、例えば、電着コーティングのフィルム形成を改善し、金属基材の増大した腐食保護を達成するために、コーティング剤成分として電着コーティングの分野で用いられ得るコーティング組成物を提供することである。これまで知られていた、水性一次分散体、および水性一次分散体から製造されるコーティング材料の利点を維持することも目的とされる。
【0010】
さらに、本発明の目的は、本発明の一次分散体の製造方法であって、改善された特性プロフィルを有する水性一次分散体を単純な方法で提供し、水性一次分散体に先に述べた改善された特性を付与し、特にコーティング組成物、とりわけ陰極析出性電着コーティング剤において優れた適合性を有する、製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的の1つは、
(1)i.5〜500nmのZ平均粒径を有し、
ii.少なくとも1つのオレフィン性不飽和モノマー(A)の乳化重合によって得られる分散ポリマー粒子
を含んでなる、カチオン的に安定化された水性一次分散体であって、
乳化重合は、下記式:
【化1】
[式中、
R1は、少なくとも1個の芳香族基および少なくとも1個の脂肪族基を有し、15個〜40個の炭素原子を有する基であって、ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される少なくとも1個の官能基を有し、および/または少なくとも1個の炭素−炭素多重結合を有する基であり、
R2、R3およびR4は、相互に独立して、1個〜14個の炭素原子を有する同一または異なる脂肪族基であり、
X-は、有機または無機酸HXの酸アニオンを表す]
で示される1つ以上の乳化剤(EQ)の存在下で行われる、カチオン的に安定化された水性一次分散体を提供することによって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用語「一次分散体」は、コーティング技術においては、乳化重合によって製造され、個々に分散した相、並びに該分散した相(ポリマー)および分散媒(水)の間の明白な相境界を有するポリマー分散体を意味すると理解される。一次分散体は、一般的には、凝固に関して熱力学的に不安定である。このため、一次分散体は静電的にまたは立体的に安定化されなければならず、すなわち、熱力学的に準安定な状態にされなければならない(例えば:B. Mueller, U. Poth, Coating Formulation and Preparation, Vincentz Network, Hannover,第2版,2005参照)。
【0013】
しかしながら、本発明の一次分散体およびコーティング組成物、特に以下により詳細に説明する電着コーティング組成物と関連して、本明細書中における「水性」は、揮発性部分、すなわち180℃の温度で30分間乾燥した際の一次分散体の揮発性部分またはコーティング剤の揮発性部分が、好ましくは、50重量%を超える水、特に好ましくは70重量%を超える水、非常に特に好ましくは90重量%を超える水で構成されることを意味する。
【0014】
本明細書中における用語「ミニエマルジョン」は、一次分散体であって、その一次分散体粒子が、5〜500nm、好ましくは25〜500nm、特に好ましくは50〜500nmの強度に基づいたZ平均粒径を有する一次分散体を意味すると理解される。従って、本発明の一次分散体は、いわゆるミニエマルジョンである。「Z平均粒径」は、ISO 13321およびISO 22412に準じた動的光散乱の原理に従って決定することができる。例えば、MalvernからのZetasizer Nano Sを用いることができる。粒径は、脱イオン水で希釈された本発明の一次分散体(100mLの脱イオン水に対して0.1〜0.5mLの一次分散体)について25℃で測定する。測定は、使い捨てキュベット中の1〜2mL体積の試料を用いて自動で行う。測定は、上記測定デバイスの標準ソフトウェアを用いて評価する。
【0015】
先行技術に関して、本発明の目的が、本発明の一次分散体、後述するその製造方法、および一次分散体から製造されたコーティング組成物によって達成できることは、意外なことであって、当業者が予測できることではなかった。特に、本発明において使用される乳化剤(EQ)が(共)重合の過程で干渉せず、本発明の一次分散体の凝固を招かず、むしろ、一次分散体および一次分散体から製造されたコーティング組成物の改善された特性に主に関与していることは意外なことであった。本発明の方法が、先行技術から知られている上記問題を起こすことなく、特に単純な方法で本発明の一次分散体を提供することは特に意外なことであった。以下により詳細に説明するように、本発明の方法は、本発明の一次分散体をバッチ操作で製造することができ、熱架橋性コーティング材料として直接用いること、またはそのようなコーティング材料を製造するために用いることができるように、意外なほどかなり変化させることができる。
【0016】
本発明によれば、一次分散体は分散されたポリマー粒子を含有する。ポリマー粒子のサイズは、以下に記載される本発明の方法から直接得られる。この点に関し、Z平均粒径は5〜500nm、好ましくは25〜500nm、特に好ましくは50〜500nmである。非常に特に好ましくは50〜400nm、50〜350nmである。
【0017】
本発明の一次分散体は、好ましくは、例えば20重量%を超える、好ましくは30重量%を超える高い固形分を有する。40重量%を超え45重量%までの固形分でも達成することができる。固形分は、2.0±0.2gの一次分散体を180℃において30分間乾燥することによって測定される。残った残留物を秤量し、計量についての割合に設定し、それから固形分を得る。本発明の一次分散体は、通常、高い固形分を有しても低い粘度を有し、これは、本発明の一次分散体および一次分散体から製造された本発明のコーティング材料のさらなる特別な利点を表す。
【0018】
オレフィン性不飽和モノマー(A)
本発明の一次分散体を製造するための、および本発明の方法のための必須の出発化合物は、少なくとも1つのオレフィン性不飽和モノマー(A)である。本明細書、特に、以下の説明において、用語「(メタ)アクリル」は、「メタクリル」および「アクリル」を表す。
【0019】
以下に示すのは適当なオレフィン性不飽和モノマー(A)の例である。
a1)アルキルまたはシクロアルキル基に20個までの炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルまたは(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、特に、アクリル酸またはメタクリル酸メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ヘキシル、エチルヘキシル、ステアリルおよびラウリルなどの、酸基を本質的に含まない(メタ)アクリル酸エステル;脂環式(メタ)アクリル酸エステル、特に、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル、ジシクロペンタジエニル、オクタヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンメタノールまたはtert−ブチルシクロヘキシル;(ポリスチレン標準を用い、ゲル浸透クロマトグラフィによって測定される)好ましくは約300〜800g/モルの数平均分子量Mnを有する、(メタ)アクリル酸エチルトリグリコールおよび(メタ)アクリル酸メトキシオリゴグリコールなどの(メタ)アクリル酸オキサアルキルエステルまたはオキサシクロアルキルエステル、またはヒドロキシル基を含まない他のエトキシル化および/またはプロポキシル化(メタ)アクリル酸誘導体。エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、オクタヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンジメタノール、または1,2−、1,3−、もしくは1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのより高官能性の(メタ)アクリル酸アルキルまたはシクロアルキルエステル;トリメチロールプロパンジ−またはトリ(メタ)アクリレート;またはペンタエリスライトジ−、トリ−、またはテトラ(メタ)アクリレートを少量含ませてもよい。本発明の範囲において、より高官能性のモノマーの少量とは、コポリマー(A)の架橋またはゲル化を招かないような量を意味すると理解される;
【0020】
a2)1分子当たり少なくとも1個のヒドロキシル基、1個の第一級、第二級、第三級または第四級アミノ基、或いは1個のアルコキシメチルアミノ基またはイミノ基を有し、アクリル酸、メタクリル酸、またはいくつかの他のα,β−オレフィン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルなどの酸基を本質的に含まず、該酸でエステル化されたアルキレングリコールから誘導されたか、またはα,β−オレフィン性不飽和カルボン酸とアルキレンオキシドとの反応によって得られるモノマー、特に、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸またはイタコン酸2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシブチルおよび4−ヒドロキシブチルなどの、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸またはイタコン酸のヒドロキシアルキルエステル(ここで、該ヒドロキシアルキル基は20個までの炭素原子を有する);またはモノアクリル酸、モノメタクリル酸、モノエタクリル酸、モノクロトン酸、モノマレイン酸、モノフマル酸またはモノイタコン酸1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、オクタヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンジメタノールまたはメチルプロパンジオールなどのヒドロキシシクロアルキルエステル;またはε−カプロラクトンなどの環状エステルの反応生成物;またはアリルアルコールなどのオレフィン性不飽和アルコール、またはトリメチロールプロパンモノ−もしくはジアリルエーテルまたはペンタエリスライトモノ−、ジ−、もしくはトリアリルエーテルなどのポリオール(これらのより高官能性のモノマーa2)に関し、より高官能性のモノマーa1)についての記載は同様に適用される);アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、アリルアミン、またはアクリル酸N−メチルイミノエチルもしくはアクリル酸およびメタクリル酸N,N−ジ(メトキシメチル)アミノエチル、またはアクリル酸およびメタクリル酸N,N−ジ(ブトキシメチル)アミノプロピル;本発明において、いくつかの乳化剤(EQ)はモノマーa2)の公式の定義を満足するが、本発明に従って使用される乳化剤(EQ)はモノマーa2)に含まれない;
【0021】
a3)アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸またはイタコン酸などの、対応する酸アニオン基に転化され得る、1分子当たり少なくとも1個の酸基を有するモノマー;オレフィン性不飽和スルホン酸またはホスホン酸またはその部分エステル;またはマレイン酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、またはフタル酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル。本発明において、モノマーa3)は、唯一のモノマー(A)としては用いられず、常に、他のモノマー(A)と組み合わせて用いられ、モノマーa3)がミニエマルジョンの液滴の外部で重合しないような少量でのみ用いられる;
【0022】
a4)分子中に5〜18個の炭素原子を有する、アルファ位において分岐したモノカルボン酸のビニルエステル。分岐したモノカルボン酸は、液状の強酸性触媒の存在下でギ酸または一酸化炭素および水とオレフィンとを反応させることによって得ることができ;オレフィンは、鉱油画分などのパラフィン炭化水素のクラッキング生成物であってよく、分岐鎖および直鎖の非環状および/または脂環式オレフィンを含有してよい。そのようなオレフィンとギ酸との、または一酸化炭素および水との反応の結果、カルボキシル基が主に第四級炭素原子に位置するカルボン酸の混合物がもたらされる。他のオレフィン出発材料の例は、プロピレントリマー、プロピレンテトラマーおよびジイソブチレンである。しかしながら、ビニルエステルa4)は、酸から自体公知の方法で、例えば、酸とアセチレンとを反応させることによって製造することもできる。容易に入手可能であるため、9個〜11個の炭素原子を有し、アルファ炭素原子において分岐した、飽和脂肪族モノカルボン酸のビニルエステルが特に好ましく、とりわけ、Versatic(登録商標)酸(Roempp Lexikon, Paints and Printing Inks, Georg Thieme Verlag, Stuttgart, New York, 1998, Versatic(登録商標)酸、605頁および606頁参照)が特に好ましい;
【0023】
a5)アクリル酸および/またはメタクリル酸と、アルファ位において分岐し、1分子当たり5個〜18個の炭素原子を有するモノカルボン酸、特にVersatic(登録商標)酸のグリシジルエステルとの反応生成物、または該反応生成物に代えて当量のアクリル酸および/またはメタクリル酸(これは、後に、重合反応中または重合反応後に、アルファ位で分岐し、1分子当たり5個〜18個の炭素原子を有するモノカルボン酸、特に、Versatic(登録商標)酸のグリシジルエステルと反応する);
【0024】
a6)エチレン、プロピレン、ブタ−1−エン、ペンタ−1−エン、ヘキサ−1−エン、シクロヘキセン、シクロペンテン、ノルボルネン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエンおよび/またはジシクロペンタジエンなどの環状および/または非環状オレフィン;
a7)(メタ)アクリル酸アミド、N−メチル、N,N−ジメチル、N−エチル、N,N−ジエチル、N−プロピル、N,N−ジプロピル、N−ブチル、N,N−ジブチル、N−シクロヘキシル、N,N−シクロヘキシルメチル、および/またはN−メチロール、N,N−ジメチロール、N−メトキシメチル、N,N−ジ(メトキシメチル)、N−エトキシメチル、および/またはN,N−ジ(エトキシエチル)(メタ)アクリル酸アミドなどの(メタ)アクリル酸アミド;
a8)アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸および/またはイタコン酸のグリシジルエステルなどの、エポキシ基を有するモノマー;
【0025】
a9)スチレン、1,1−ジフェニルエチレン、α−アルキルスチレン、特にα−メチルスチレン、および/またはビニルトルエンなどのビニル芳香族炭化水素;ビニル安息香酸(全ての異性体)、N,N−ジエチルアミノスチレン(全ての異性体)、α−メチルビニル安息香酸(全ての異性体)、N,N−ジエチルアミノ−α−メチルスチレン(全ての異性体)、および/またはp−ビニルベンゼンスルホン酸;
a10)アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルなどのニトリル;
a11)ビニル化合物、特に、塩化ビニル、フッ化ビニル、二塩化ビニリデンまたは二フッ化ビニリデンなどのビニルおよび/またはビニリデンジハライド;ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、1−ビニルイミダゾールまたはN−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド;エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルおよび/またはビニルシクロヘキシルエーテルなどのビニルエーテル;および/または酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、および/または2−メチル−2−エチルヘプタン酸のビニルエステルなどのビニルエステル;
【0026】
a12)アリル化合物、特に、アリルメチル、エチル、プロピル、もしくはブチルエーテル、または酢酸、プロピオン酸もしくは酪酸アリルなどのアリルエーテルおよびエステル;
a13)DE 38 07 571 A1の5〜7頁、DE 3706095 A1の3〜7欄、EP 0358153 B1の3〜6頁、US 4,754,014 A1の5〜9欄、DE 4421823 A1、またはWO 92/22615の12頁18行〜18頁10行に記載されているような、1000〜40,000の数平均分子量Mnおよび1分子当たり平均0.5個〜2.5個のエチレン性不飽和二重結合を有するポリシロキサンマクロモノマー、特に、2000〜20,000、特に好ましくは2500〜10,000、特に3000〜7000の数平均分子量Mn、1分子当たり平均0.5個〜2.5個、好ましくは0.5個〜1.5個のエチレン性不飽和二重結合を有するポリシロキサンマクロモノマー;および/または
a14)ヒドロキシ官能性シランとエピクロロヒドリンとを反応させ、続いて、その反応生成物と(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルおよび/またはヒドロキシクロアルキルエステルとを反応させることによって生成される、アクリルオキシシラン含有ビニルモノマー。
【0027】
適当なモノマー(A)のさらなる例は、DE 196 28 142 A1の2頁50行〜3頁7行に記載されている。
【0028】
基本的には、モノマーa3)を除いて上記したモノマーa1)からa14)のいずれもそれ自体で重合することができる。
【0029】
しかしながら、本発明によれば、得られるコポリマーの特性プロフィルを、特に有利なように非常に広く変化させることができ、十分に目的に応じて、本発明の一次分散体の特に意図した使用に適合させることができるので、少なくとも2つのモノマー(A)を用いることが有利である。
【0030】
モノマー(A)は、好ましくは、その特性プロフィルが上記した(メタ)アクリレートによって主として決定される(メタ)アクリレートコポリマーが得られるように選択される。そして、ビニル芳香族炭化水素a9)、特にスチレンが、好ましくは、コモノマー(A)として用いられる。
【0031】
本発明に従って用いられる式:
【化2】
[式中、
R1は、少なくとも1個の芳香族基および少なくとも1個の脂肪族基を有し、15個〜40個の炭素原子を有する酸素含有基であり、
R2、R3およびR4は、相互に独立して、1個〜14個の炭素原子を有する同一または異なる脂肪族基であり、
X-は、有機または無機酸の酸アニオンである]
で示される乳化剤(EQ)を、一次分散体の製造中に、モノマー(A)との共重合において、重合性モノマーとしてポリマーに組み込んでもよい。ただし、基R1中の脂肪族基が少なくとも1個のアルケン性またはアルキン性不飽和炭素−炭素多重結合を有するものとする。
【0032】
例えば、実施例において記載され用いられた乳化剤EQ1:
【化3】
を用いるならば、RがC15H31-2nを表し、n≠0、すなわち、n=1、2または3である場合、乳化剤EQ1は一次エマルジョンに組み込まれ得る。そのような場合、一般式:R1−N+(R2)(R3)(R4) X-で示される乳化剤(EQ)は、基R1中に1個、2個または3個の炭素−炭素二重結合を有し、これは、モノマー(A)との共重合に利用可能である。
【0033】
上記群a1)、a2)およびa9)からのモノマーが、好ましくは、モノマー(A)として選択される。(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、例えば(メタ)アクリル酸のC1−C4アルキルエステル、および(メタ)アクリル酸イソボルニルが、群a1)から非常に特に好ましく用いられる。(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、例えば、特に、(メタ)アクリル酸のN,N−ジアルキルアミノアルキルエステル、非常に特に好ましくは、(メタ)アクリル酸のN,N−ジ−C1−C4アルキルアミノ−C2−C4アルキルエステルを含む、(メタ)アクリル酸のヒドロキシ−C2−C4アルキルエステル、および/または(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステルが、群a2)から非常に特に好ましく用いられる。乳化剤(EQ)が重合性炭素−炭素二重結合を有しない、すなわち、モノマー(A)と共重合できない場合、および/または一次エマルジョンがエポキシアミン樹脂などのさらなる陰極析出性樹脂を含有しない場合、特に(メタ)アクリル酸のN,N−ジアルキルアミノアルキルエステル、非常に特に好ましくは(メタ)アクリル酸のN,N−ジ−C1−C4アルキルアミノ−C2−C4アルキルエステルを含む、(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステルが特に好ましく用いられる。しかしながら、先に述べた(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステルも、重合性乳化剤(EQ)および/または他の陰極析出性樹脂の存在下で有利に用いることもできる。特に、スチレンおよび/または1,1−ジフェニルエチレンなどのビニル芳香族炭化水素は、コモノマーa9)として好ましく用いることができる。
【0034】
同一タイプの基(a)、または相補的反応性官能基(b)と熱開始架橋反応することができる反応性官能基(a)を有する少なくとも1つのモノマー(A)が好ましく用いられる。これらの基(a)または(a)および(b)は、モノマー(A)から得られ、その結果、自己架橋性を有する(コ)ポリマーに存在することができる。従って、対象の本発明の一次分散体、およびそれから製造された本発明のコーティング材料も自己架橋性である。
【0035】
しかしながら、相補的反応性官能基(b)を後に記載する架橋剤(V)に存在させることもでき、これは、本発明の一次分散体の調製前、調製中および/または調製後に、本発明の一次分散体に添加することができる。対象の本発明の一次分散体、およびそれから製造された本発明のコーティング材料は、この場合、外部架橋性である。
【0036】
用語「自己架橋性」および「外部架橋性」に関しては、Roempp Lexikon, Lacke und Druckfarben, Georg Thieme Verlag, Stuttgart, New York, 1998,キーワード:「硬化」、274〜276頁をさらに参照されたい。
【0037】
特定の相補基(a)または(a)および(b)の選択は、一方では、本発明の一次分散体の貯蔵中にそれらが望ましくない反応をせず、および/または、場合による化学線でのさらなる硬化を妨げないまたは阻害しないかどうか、他方では、どの温度範囲で架橋を行うかに依存する。
【0038】
室温〜180℃の架橋温度が、本発明のコーティング材料において好ましく用いられる。そのため、好ましく用いられるものは、一方では、モノマーa2)において存在するチオ、ヒドロキシル、メチロール、メチロールエーテル、N−メチロール−N−アルコキシメチルアミノ、イミノ、カルバメート、アロファネートおよび/またはカルボキシ基、特にアミノ、アルコキシメチルアミノまたはヒドロキシル基、特にヒドロキシル基を有するモノマー(A)であり、他方では、無水物、カルボキシ、エポキシ、ブロックトイソシアネート、ウレタン、メチロール、メチロールエーテル、N−メチロール−N−アルコキシメチルアミノ、シロキサン、アミノ、ヒドロキシルおよび/またはβ−ヒドロキシアルキルアミド基、特にブロックトイソシアネート、ウレタンまたはメチロールエーテル基を有する架橋剤である。メチロール、メチロールエーテルおよびN−メチロール−N−アルコキシメチルアミノ基が、本発明の自己架橋性一次分散体を製造するのに好ましく用いられる。
【0039】
イソシアネート基などの特に反応性の相補基(a)または(b)を用いる場合、それらを有する成分、好ましくは、架橋剤は、対象の本発明のコーティング材料を製造するために本発明の一次分散体を用いる直前まで添加しない。本発明のこれらのコーティング材料は、当該分野において専門家には二成分系または多成分系とも称される。
【0040】
より反応性でない相補基(a)または(b)を用いる場合、それらを有する成分は、好ましくは、原初から上記基がそれから製造された一次分散体に、従って、本発明のコーティング材料にも含まれるように、本発明の一次分散体の調製前または調製中に本発明の一次分散体に添加される。本発明のこれらのコーティング材料は、当該分野において専門家には一成分系とも称される。例えば、電着コーティング剤は、一般的には、このタイプの一成分系である。
【0041】
モノマー(A)および任意に乳化剤(EQ)から生成された(コ)ポリマーは、分子量分布に関していかなる制限も受けない。しかしながら、(共)重合は、有利には12未満、特に好ましくは10未満、特に7未満の(ポリスチレンを標準として用いるゲル浸透クロマトグラフィによって測定される)分子量分布Mw/Mnが得られるように行われる。
【0042】
乳化剤(EQ)
本発明の一次分散体を製造するのに用いる乳化剤(EQ)は下記一般式:
【化4】
[式中、
R1は、少なくとも1個の芳香族基および少なくとも1個の脂肪族基を有し、15個〜40個の炭素原子を有する基であって、ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される少なくとも1個の官能基を有し、および/または少なくとも1個の炭素−炭素多重結合を有する基であり、
R2、R3およびR4は、相互に独立して、1個〜14個の炭素原子を有する同一または異なる脂肪族基であり、
X-は、有機または無機酸の酸アニオンである]
で示される。
【0043】
炭素−炭素多重結合は、本明細書中においては、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を意味すると理解される。炭素−炭素多重結合は好ましくは炭素−炭素二重結合である。
【0044】
乳化剤(EQ)は、本発明のさらなる対象である。
【0045】
基R1は、好ましくは、芳香族基Gr芳香族、およびGr芳香族に結合した2個の脂肪族基Gr脂肪族1およびGr脂肪族2を有する。基R1は、好ましくは、構造Gr脂肪族1−Gr芳香族−Gr脂肪族2−を有する。
【0046】
基R1は、好ましくは、少なくとも1個の炭素−炭素多重結合、特に好ましくは少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を、少なくとも1個の脂肪族基Gr脂肪族1中に有する。炭素−炭素多重結合、特に炭素−炭素二重結合の存在は、乳化剤を用いて製造された分散体およびコーティング剤の剪断安定性に対して有利な効果を有する。特に、分散体およびコーティング組成物中の乳化剤の望ましくない移動を防止または低下させることができる。基R1は、特に好ましくは、少なくとも1個の脂肪族基Gr脂肪族1中に1個〜3個の炭素−炭素二重結合を有する。
【0047】
基R1は、非常に特に好ましくは、少なくとも1個の脂肪族基Gr脂肪族1中に、および前記脂肪族基Gr脂肪族1とは異なり、ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される少なくとも1個の官能基をさらに有する第二の脂肪族基Gr脂肪族2中に、少なくとも1個の炭素−炭素多重結合、特に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合、好ましくは1個〜3個の炭素−炭素二重結合を有する。ヒドロキシ基、チオール基および第一級または第二級アミノ基は、乳化剤と、コーティングにおいて典型的な架橋剤、例えば、ブロックトまたは非ブロックトポリイソシアネート、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂などのアミノプラスト樹脂、前記架橋剤とは異なるトリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン、およびエポキシ基含有樹脂との反応性を決定する。ヒドロキシル基、チオール基および/または第一級または第二級アミノ基を有するそのような乳化剤を含有する一次分散体は、このようにして、一次分散体を用いて製造されるコーティング剤の硬化プロセス中にコーティング剤に化学的に組み込むことができ、その結果、乳化剤の望ましくない移動を防止または低下させることができる。
【0048】
少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有する、基R1中の少なくとも1個の脂肪族基Gr脂肪族1は直鎖状または分岐鎖状であってよく、好ましくは直鎖状である。Gr脂肪族1は置換されていてもまたは非置換であってもよく、好ましくは非置換である。さらに、この脂肪族基はO、SおよびNを含んでなる群から選択されるヘテロ原子を有し得るが、好ましくはヘテロ原子を含まない。従って、基R1中のこの脂肪族基は、特に好ましくは直鎖状であり、非置換であり、ヘテロ原子を含まず、かつ1個〜3個の二重結合を有する。基Gr脂肪族1は、好ましくは、8個〜30個、特に好ましくは10個〜22個、非常に特に好ましくは12個〜18個の炭素原子、例えば15個の炭素原子を有する。
【0049】
ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級基から選択される少なくとも1個の官能基(OH基が特に好ましい)を有し、Gr脂肪族1とは異なる、基R1中の少なくとも1個の脂肪族基Gr脂肪族2は直鎖状または分岐鎖状であってよく、好ましくは直鎖状である。Gr脂肪族2は置換されていてもまたは非置換であってもよく、好ましくは非置換である。さらに、この脂肪族基は、O、SおよびNを含んでなる群から選択され、Oが好ましいヘテロ原子を有してよい。脂肪族基Gr脂肪族2は、好ましくは、乳化剤(EQ)の上記一般式中に見られる窒素原子に直接結合している。ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される少なくとも1個の官能基は、好ましくは、乳化剤(EQ)の上記一般式中の窒素原子に対してベータ位に位置する。ヒドロキシル基、チオール基或いは第一級または第二級アミノ基が一般式(EQ)で示される乳化剤の窒素原子に対してベータ位に位置する乳化剤の別の利点は、金属イオンとキレートを形成できることであり、これは、金属イオンを析出させるコーティング組成物において目的に応じて本発明の一次分散体を用いる場合に有利である。このようにキレート化されて存在する金属イオンは、改善された析出をもたらし、これらのタイプのコーティングの腐食保護効果を増大させ得る。ヒドロキシル基がこの窒素原子に対してベータ位に存在することが、非常に特に好ましい。基Gr脂肪族2は、好ましくは2個〜10個、特に好ましくは2個〜8個、非常に特に好ましくは2個〜6個の炭素原子、例えば2個または3個の炭素原子を有する。
【0050】
基R1中の芳香族基Gr芳香族は、好ましくは、フェニレンまたはナフチレン基、好ましくはフェニレン基である。芳香族基Gr芳香族は置換されていても、または非置換であってもよく、好ましくは非置換である。芳香族Gr芳香族は、O、SおよびNを含んでなる群から選択されるヘテロ原子を有し得るが、好ましくはヘテロ原子を含まない。基Gr芳香族は、好ましくは6個〜15個、特に好ましくは6個〜12個、非常に特に好ましくは6個〜10個の炭素原子、例えば6個の炭素原子を有する。
【0051】
下記式で示される基(R1−):
【化5】
[式中、
Gr脂肪族1は直鎖状であり、非置換であり、ヘテロ原子を含まず、かつ1個〜3個、好ましくは1個または2個の二重結合を有し、
Gr芳香族はフェニレンまたはナフチレン基であり、
Gr脂肪族2は直鎖状であり、ヒドロキシル基を、好ましくは乳化剤(EQ)の一般式中の窒素原子に対してベータ位に有し、ヘテロ原子として、さらにエーテル基の形態のOを有し、ここで、Gr芳香族がフェニレン基である場合、基Gr脂肪族1および基Gr脂肪族2は、相互にメタ位にフェニレン基に結合している]
が非常に特に好ましい。
【0052】
本発明における乳化剤(EQ)の特定の利点は、本発明における乳化剤の一般式中の窒素原子の永続的な正電荷にある。ここで、「本発明における乳化剤の一般式中の窒素原子」について言及すると、基R1、R2、R3およびR4に結合している正電荷を持つ窒素を意味する。その結果、永続的な正電荷の故に、本発明の一次分散体または一次分散体から製造されるコーティング組成物の分散安定性および貯蔵安定性を高めることができ、そうでなければ、これらは典型的にはアミン触媒反応を受け得る。
【0053】
基R2、R3およびR4は、相互に独立して、1個〜14個、好ましくは2個〜10個、特に好ましくは2個〜8個の炭素原子を有する同一または異なる脂肪族基を表す。R1がヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される官能基を有しなければ、基R2、R3およびR4の少なくとも1個がそのような官能基を有する場合に特に有利である。基R1、R2、R3およびR4のうちの少なくとも2個は、非常に特に好ましくは、ヒドロキシル基、チオール基および第一級または第二級アミノ基から選択される官能基を有する。これらのうち、ヒドロキシル基が非常に特に好ましい。上記官能基は、基R2、R3またはR4において特に好ましくは末端に存在する一方で、基R1においては末端には存在しない。
【0054】
基R2、R3およびR4は直鎖状または分岐鎖状であってよく、好ましくは直鎖状である。R2、R3およびR4は炭素−炭素多重結合を有してよいが、好ましくは飽和である。
【0055】
上記したヒドロキシル、チオール並びに第一級および第二級アミノ基に加えて、脂肪族基R2、R3および/またはR4は、好ましくは、エーテル基、エステル基およびアミド基から選択される少なくとも1個、好ましくはちょうど1個のさらなる官能基を有する。エーテル酸素、−O−C(=O)基の−O−、およびアミド基のアミド窒素は、好ましくは、乳化剤(EQ)の一般式中の窒素原子に対してベータ位に位置している。
【0056】
アニオンX-は、好ましくはハライドの他に、有機または無機酸XHの酸アニオンである。陰極電着コーティング樹脂の中和において使用されるモノカルボン酸などのモノカルボン酸のアニオンが特に好ましい。モノカルボン酸の適当なアニオンは、好ましくは1〜10この炭素原子を有するもの、例えばアセテートまたはラクテートである。X-は、特に好ましくは、ヒドロキシカルボン酸のアニオン、特にラクテートを表す。
【0057】
本発明の1つの特に好ましい実施態様において、乳化剤(EQ)は、下記式:
【化6】
[式中、RはC15H31-2nを表し、X-はラクテートまたは他の有機酸のアニオンであり、nは0〜3であってよく、すなわち、基Rは0個〜3個の炭素−炭素二重結合を有してよい]
で示される乳化剤である。この化合物は、例えば、N,N−ジメチルエタノールアミンラクテートを式:
【化7】
[式中、RはC15H31-2nを表し、n=0〜3である]
で示されるカルダノールグリシジルエーテルに添加し、それにより、オキシラン環を開環することによって得られる。このタイプのカルダノールグリジジルエーテルは、例えば、Cardolite Europe N.V.(Ghent、ベルギー国)からCardolite(登録商標)NC 513として入手可能である。
【0058】
カルダノールグリシジルエーテルから出発し、例えば、一般式:HN+(R2)(R3)(R4)(X-)で示されるアンモニウム塩をオキシラン環に付加することによって、本発明の好ましい乳化剤を多数製造することができる。ここで、基R2、R3およびR4は先に述べた意味を有する。
【0059】
カルダノールグリシジルエーテルを製造するための出発材料は、式:
【化8】
[式中、RはC15H31-2nを表し、n=0〜3である]
で示される天然に存在する物質カルダノールである。天然物の化学、特に、天然に存在する油脂およびその二次産物の化学から公知のように、これらの物質は、一般には、異なる数の炭素−炭素二重結合を有する個々の化合物の混合物として存在する。天然物のカルダノールは、個々の成分が鎖R中の二重結合の数によって異なる混合物である。最も一般的な個々の成分は0個〜3個の二重結合を有する。カルダノールグリシジルエーテルは、例えば、カルダノールとエピクロロヒドリンとを反応させることによって製造される。
【0060】
本発明の一次分散体の全ての実施態様について、乳化剤(EQ)だけでなく、多数の乳化剤(EQ)の混合物を用いてよい。これらは、好ましくは、基R1における乳化剤の一部が炭素−炭素多重結合を有し、基R1における乳化剤の別の部分が炭素−炭素多重結合を有しない混合物を含む。多数の乳化剤(EQ)の乳化剤混合物を用いる場合、好ましくは50モル%を超える、特に好ましくは70モル%を超える基R1が炭素−炭素多重結合を、とりわけ好ましくは炭素−炭素二重結合を有する。先に述べたカルダノール誘導体については、これは、基R=C15H31-2nにおいて、好ましくは、50モル%を超える、特に好ましくは70モル%を超える基Rにおいて、n=1〜3であり、残りの基Rにおいてn=0であることを意味する。しかしながら、n=1〜3である乳化剤(EQ)、またはn=0である乳化剤(EQ)のみから構成される乳化剤混合物を用いることもできる。
【0061】
乳化剤(EQ)は、それぞれの場合、1リットルの分散体の重量に基づいて、1〜10重量%の量、特に好ましくは2〜8重量%の量、非常に特に好ましくは3〜6重量%の量で本発明の一次分散体に用いられる。
【0062】
架橋剤(V)
モノマー(A)および少なくとも1つの乳化剤(EQ)を、少なくとも1つの疎水性、すなわち、本質的に水不溶性の架橋剤(本明細書中においては、架橋剤とも称される)の存在下で(共)重合する場合、本発明の非常に特に有利な一次分散体およびコーティング材料が得られる。本質的に水不溶性の架橋剤は、好ましくは、得られる(コ)ポリマーおよび/または乳化剤(EQ)に存在する相補的反応性官能基(a)または(b)と架橋反応する、上記反応性官能基(a)または(b)を有する。本発明の得られる一次分散体は、特に良好な分布で架橋剤を含有し、そのため、架橋反応が特に良好に進行するので、先行技術の方法に従って製造された対応する分散体の場合よりも少ない架橋剤を用いてよい。さらに、本発明の得られる一次分散体は、本発明のコーティング材料として直接用いてよい。
【0063】
特に良好に適した疎水性、すなわち、本質的に水不溶性の架橋剤の例は、ブロックトポリイソシアネート、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン、または完全にエーテル化されたアミノプラスト樹脂であり、ブロックトポリイソシアネートが非常に特によく良好に適している。
【0064】
ブロックトポリイソシアネート
ブロック化される適当な有機ポリイソシアネートの例は、特に、脂肪族性、脂環式性、芳香脂肪族性および/または芳香族性結合イソシアネート基を有するいわゆるコーティングポリイソシアネートである。1分子当たり平均2個〜5個、特に好ましくは2.5個〜5個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートが好ましく用いられる。
【0065】
ブロック化される特に適当なポリイソシアネートの例は、イソシアヌレート、ビウレット、アロファネート、イミノオキサジアジンジオン、ウレタン、ウレアおよび/またはウレトジオン基を有するポリイソシアネートである。
【0066】
ウレタン基を有するポリイソシアネートは、例えば、イソシアネート基の一部と、トリメチロールプロパンおよびグリセリンなどのポリオールとを反応させることによって得られる。例えば、トリメチロールプロパンを3当量のジイソシアネートと反応させる場合、トリイソシアネートが本質的に得られる。
【0067】
ブロック化されるポリイソシアネートを調製するのに好ましく用いられるものは、脂肪族または脂環式ジイソシアネート、特に、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、トルエン−2,4−ジイソシアネートおよびトルエン−2,6−ジイソシアネート、商品名DDI 1410でHenkelによって市販され、WO 97/49745およびWO 97/49747に記載されているダイマー脂肪酸由来ジイソシアネート、特に、2−ヘプチル−3,4−ビス(9−イソシアナトノニル)−1−ペンチルシクロヘキサン;または1,2−、1,4−もしくは1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,2−、1,4−もしくは1,3−ビス(2−イソシアナトエチ−1−イル)シクロヘキサン、1,3−ビス(3−シアナトプロピ−1−イル)シクロヘキサン、または1,2−,1,4−もしくは1,3−ビス(4−イソシアナトブチ−1−イル)シクロヘキサン、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、1,7−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルヘプタン、または1−イソシアナト−2−(3−イソシアナトプロピル)シクロヘキサン、またはそれらの混合物である。
【0068】
ジイソシアネートは、それ自体、同様にブロックトジイソシアネートを調製するのに用いることができる。しかしながら、ジイソシアネートは、好ましくは単独でなく、平均2個を超えるイソシアネート基を有するポリイソシアネートとの混合物として用いられる。
【0069】
非常に特に好ましいものは、ウレトジオンおよび/またはイソシアヌレート基および/またはアロファネート基を有し、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、トルエン−2,4−ジイソシアネートおよび/またはトルエン−2,6−ジシアネートに基づくポリシアネートの混合物、並びに本ジイソシアネートと、ポリオール、特にトリメチロールプロパンおよびグリセリンなどのトリオールとの付加生成物である。
【0070】
ブロックトジ−またはポリイソシアネートを調製するのに適したブロッキング剤の例は、US-A-4,444,954から知られているブロッキング剤であり、例えば下記化合物である:
b1)フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、エチルフェノール、t−ブチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸、該酸のエステル、または2,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエンなどのフェノール;
b2)ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムまたはβ−プロピオラクタムなどのラクタム;
b3)マロン酸ジメチル、マロン酸ジメチル、酢酸のエチルもしくはメチルエステル、またはアセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物;
b4)メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、n−アミルアルコール、t−アミルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルジグリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノール、グリコール酸、グリコール酸エステル、乳酸、乳酸エステル、メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、エチレンクロロヒドリン、エチレンブロモヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、またはアセトシアノヒドリンなどのアルコール;
【0071】
b5)ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾチアゾール、チオフェノール、メチルチオフェノールまたはエチルチオフェノールなどのメルカプタン;
b6)アセトアニリド、アセトアニシジンアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸アミド、ステアリン酸アミドまたはベンズアミドなどの酸アミド;
b7)スクシンイミド、フタルイミドまたはマレイミドなどのイミド;
b8)ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N−フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミンまたはブチルフェニルアミンなどのアミン;
b9)イミダゾールまたは2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール;
b10)尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、または1,3−ジフェニル尿素などの尿素;
b11)N−フェニルカルバミン酸フェニルエステルまたは2−オキサゾリドンなどのカルバメート;
b12)エチレンイミンなどのイミン;
b13)アセトンオキシム、ホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジイソブチルケトキシム、ジアセチルモノキシム、ベンゾフェノンオキシムまたはクロロヘキサノンオキシムなどのオキシム;
b14)重亜硫酸ナトリウムまたは重亜硫酸カリウムなどの亜硫酸の塩;
b15)メタクリロヒドロキサム酸ベンジル(BMH)またはメタクリロヒドロキサム酸アリルなどのヒドロキサム酸エステル;または
b16)置換ピラゾール、特にジメチルピラゾールまたはトリアゾール;および
b17)上記ブロッキング剤の混合物。
【0072】
エーテル化アミノプラスト樹脂
適当な完全エーテル化アミノプラスト樹脂の例は、メラミン樹脂、グアナミン樹脂または尿素樹脂である。また適当なものは、慣用的な公知のアミノプラスト樹脂であって、そのメチロールおよび/またはメトキシメチル基がカルバメートまたはアロファネート基によって部分的に脱官能性化されたアミノプラスト樹脂である。このタイプの架橋剤はUS 4,710,542 A1およびEP 0 245 700 B1、およびB.Singhらによる論文「Carbamylmethylated Melamines, Novel Crosslinkers for the Coatings Industry」, Advanced Organic Coatings Science and Technology Series, 1991, 13巻,193〜207頁に記載されている。
【0073】
トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン
適当なトリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジンは、例えば、US 4,939,213 A1、US 5,084,541 A1またはEP 0624577 A1に記載されている。特に、トリス(メトキシ)−、トリス(ブトキシ)−および/またはトリス(2−エチルヘキソキシカルボニルアミノ)トリアジンを用いることができる。
【0074】
上記した架橋剤のうち、ブロックトポリイソシアネートは特別な利点をもたらし、よって、本発明に従って非常に特に好ましく用いられる。
【0075】
相補的反応性官能基(a)または(b)を有するモノマー(A)と架橋剤との比率は、非常に広い範囲にわたって変化させることができる。本発明によれば、(A)中の相補的反応性官能基(a)または(b)と架橋剤中の相補的反応性官能基(a)または(b)とのモル比率が5:1〜1:5、好ましくは4:1〜1:4、特に好ましくは3:1〜1:3、とりわけ2:1〜1:2である場合に有利である。特別な利点は、モル比率がおよそまたはちょうど1:1である場合に得られる。
【0076】
一次分散体のさらなる成分
本発明の一次分散体のさらなる成分は、一方においては、本発明の一次分散体を製造するための本発明の方法を制御し、行うために用いられるもの、例えば、ラジカル乳化重合のための開始剤、またはメルカプタン、特にドデシルメルカプタンなどの、ポリマーの分子量を調節することができる化合物;他方においては、後の適用領域に関して一次分散体の特性プロフィルを最適化するものに分類することができる。
【0077】
ラジカル乳化重合の開始剤
本発明に従って用いられるモノマー(A)および任意に重合性乳化剤(EQ)を、通常、少なくとも1つの水溶性および/または油溶性ラジカル形成性開始剤の存在下で相互に反応させて、コポリマーを生成する。以下に示すのは使用可能な開始剤の例である:ジ−tert−ブチルペルオキシドまたはジクミルペルオキシドなどのジアルキルペルオキシド;クモールヒドロペルオキシドまたはtert−ブチルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド;過安息香酸tert−ブチル、過ピバリン酸tert−ブチル、ヘキサン酸tert−ブチルペル−3,5,5−トリメチルまたはヘキサン酸tert−ブチルペル−2−エチルなどのペルエステル;ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネートなどのペルオキシジカーボネート;ペルオキソ二硫酸カリウム、ナトリウムまたはアンモニウム;アゾ開始剤、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾジニトリル;ベンゾピナコールシリルエーテルなどの開始剤;または非酸化性開始剤と過酸化水素との組合せ。
【0078】
適当な開始剤のさらなる例は、DE 196 28 142 A1の3頁49行〜4頁6行に記載されている。これらの開始剤の組合せを用いることもできる。
【0079】
反応混合物中の開始剤の割合は、それぞれの場合、モノマー(A)および開始剤の総量に基づいて、好ましくは0.1〜1.5重量%、特に好ましくは0.2〜1.0重量%、非常に特に好ましくは0.3〜0.7重量%である。
【0080】
分子量調節剤
水不溶性分子量調節剤は、好ましくは、分子量調節剤として用いることができる。tert−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタンが特に適当である。
【0081】
一次分散体の特性プロフィルを決定するさらなる成分
例えば、水不溶性の低分子オリゴマーまたはポリマー物質を、一次分散体のさらなる成分として用いることができる。適当な疎水性化合物の例は、オリゴマーおよび/またはポリマーの重合、縮重合および/または重付加生成物である。特に、あるタイプのコーティング剤における一次分散体の後の使用と調和するポリマーを用いることができる。従って、例えば、コーティング剤、特に電着コーティング剤において通常用いられるエポキシアミン付加物を、重合前または重合中に配合することができる。
【0082】
本発明の一次分散体を製造するための本発明の方法
本発明のさらなる対象は、本発明の一次分散体の製造方法である。
【0083】
本発明の方法の範囲内でのミニエマルジョンの製造は、特別な方法的特徴を有さず、分散または乳化の慣用的な公知の方法を用いて高剪断場で行われる。適当な方法の例は、DE 196 28 142 A1の5頁1〜30行、DE 196 28 143 A1の7頁30〜58行、またはEP 0 401 565 A1の27〜51行に記載されている。
【0084】
例えば、1つ以上のモノマー(A)と、少なくとも1つの乳化剤(EQ)、任意に分子量調節剤、任意に少なくとも1つの架橋剤(V)、および任意に上記したさらなる成分、例えば、エポキシアミン樹脂、共溶媒などとの混合物を、好ましくは最初に調製する。この混合物は、場合により、酸、好ましくはギ酸または乳酸などの有機カルボン酸で少なくとも部分的に中和されてよく、粗エマルジョンが形成されるまで激しく撹拌されてよい。
【0085】
次いで、ホモジナイザー、好ましくは高圧ホモジナイザーを用いて、場合により加圧下で、高剪断力を導入することで、好ましくは均質であるが、未だ重合されていないミニエマルジョンを調製する。
【0086】
続いて、重合を適当な反応器内で行う。例えば、DE 1071241 B1またはEP 0498583 A1、またはChemical Engineering Science,50巻,9版,1995,1409〜1416頁のK.Kataokaによる論文に記載されているような、慣用的な公知の撹拌槽型反応器、撹拌槽型反応器カスケード、管型反応器、ループ型反応器、またはテイラー(Taylor)反応器が、(共)重合プロセスのための反応器として適当である。ラジカル共重合は、好ましくは、撹拌槽型反応器またはテイラー反応器中で行われ、テイラー反応器は、反応媒体の動粘度が、共重合の故に大きく変化(具体的には上昇)する場合でも、テイラー流の条件が反応器の全長にわたって満たされるように構成されている。
【0087】
本発明によれば、共重合は水性媒体中で行われる。先に詳細に説明した、乳化剤、任意の架橋剤、任意の疎水性化合物および任意の保護コロイドに加えて、水性媒体は、慣用的な公知のコーティング添加剤および/または他の溶解した固体、液体または気体の有機および/または無機の低分子物質または高分子物質を、それらが(共)重合に悪影響を与えないか、または(共)重合を阻害しないかぎり含有することができる。本発明の範囲内では、用語「少量」は、水性媒体の水性特性を排除しない量を意味すると理解される。
【0088】
しかしながら、水性媒体は純水であってもよい。
【0089】
(共)重合は、有利には、室温(25℃)を超える温度で行われ、好ましくは25〜95℃、非常に特に好ましくは30〜90℃の温度範囲で選択される。(共)重合は、好ましくは、保護ガス雰囲気、特に、窒素雰囲気下で行われる。
【0090】
特に高い揮発性のモノマー(A)を用いる場合、(共)重合は、加圧下、好ましくは1.5〜3000バール、特に好ましくは5〜1500バール、特に10〜1000バールの圧力下で行うこともできる。個々の場合において、95℃よりも高い温度を用いてもよい。
【0091】
重合は、一般には、水溶性開始剤によって活性化され、開始される。適当な開始剤の例は、過硫酸ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム、またはtert−ブチルヒドロペルオキシドである。例えば、触媒量の鉄(II)イオンによって活性化され得るtert−ブチルヒドロペルオキシドが特に好ましく用いられる。これにより、水酸化物イオンおよびtert−ブトキシドラジカルが形成される。形成される鉄(III)イオンは、還元剤によって鉄(II)イオンに還元され得る。例えば、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートが、適当な還元剤である。高残留モノマー含有量の場合には、さらなる量の開始剤を再度添加して、後重合を行う必要がある場合もある。
【0092】
この点に関し、本発明の方法の特定の利点が、方法をバッチ操作で行ってもよいことであることが見出された。別の態様では、DE 19628142 A1の4頁6〜36行に記載された手法を使用してもよい。
【0093】
本発明のコーティング材料
本発明の一次分散体は、本発明のコーティング材料を製造するのに用いられるか、またはそれ自体直接用いられ、これは、本発明の一次分散体の主な利点である。従って、本発明のさらなる対象は、本発明の一次エマルジョンから構成されるか、または該一次エマルジョンを含有するコーティング組成物である。
【0094】
本発明のコーティング材料は、好ましくは、着色されたコーティング組成物、非常に特に好ましくは陰極析出性電着コーティング剤である。これらの用途では、少なくとも1つの慣用的な公知のコーティング添加剤を、本発明の一次分散体に、その調製前、調製中および/または調製後に、有効量で添加することもできる。この点に関し、本発明の一次分散体の調製前または調製中に、ミニエマルジョン重合に干渉しないか、またはミニエマルジョン重合を全く阻害しないコーティング添加剤のみが添加される。当業者であれば、当業者の一般的な専門知識に基づいて、そのようなコーティング添加剤を特定することができる。前記コーティング添加剤は、好ましくは、本発明の一次分散体の調製後に添加される。
【0095】
適当なコーティング添加剤の例は、Roempp Lexikon, Lacke und Druckfarben, Georg Thieme Verlag, 1998, under Effect pigments, 176頁;キーワード「金属酸化物−雲母顔料」ないし「金属顔料」、380および381頁;「紺青顔料」ないし「黒色酸化鉄」、180および181頁;「顔料」ないし「顔料体積濃度」、451〜453頁;「チオインジゴ顔料」、563頁;「二酸化チタン顔料」、567頁に記載されている。これらの添加剤は、本発明のコーティング材料が、好ましくは多層コーティング膜を製造するためのいわゆるウエット・オン・ウエットプロセス(例えばEP 0 089 497 B1参照)の範囲内で、電着コーティング剤、充填剤、非金属トップコート剤または水系塗料として、特に電着コーティング剤として使用される場合に用いられる。その性質によっては、本発明のコーティング材料が、例えばウエット・オン・ウエットプロセスの範囲内で、クリヤコートとして用いられる場合には、上記添加剤は除外される。
【0096】
適当な添加剤のさらなる例は、有機および無機充填剤、熱硬化性反応性希釈剤、低沸点および/または高沸点有機溶媒、UV吸収剤、光安定剤、フリーラジカルスカベンジャー、熱不安定性ラジカル開始剤、架橋触媒、脱気剤、滑剤、重合禁止剤、脱泡剤、乳化剤、湿潤剤、接着促進剤、レベリング剤、フィルム形成助剤、レオロジー制御添加剤または難燃剤である。適当なコーティング添加剤のさらなる例は、Johan BielemanによるTextbook of Coating Additives, Wiley-VCH, Weinheim, New York, 1998に記載されている。
【0097】
本発明のコーティング材料が、化学線でも硬化可能であれば(二重硬化)、コーティング材料は、好ましくは、化学線で硬化可能な添加剤を含有する。化学線は、近赤外線(NIR)、可視光線、UV光またはX線などの電磁放射線であってよく、または電子放射線などの粒子放射線であってよい。化学線で硬化可能な適当な添加剤の例は、DE 197 09 467 C1から公知である。
【0098】
本発明のコーティング材料の塗布は、特別な方法的特徴を有さず、噴霧、ナイフ塗布、引き塗り、注入、浸漬、滴下またはロール塗りなどの慣用的な適用方法を用いるか、または電着コーティング、特に、陰極電着コーティングによって行うことができる。
【0099】
熱および場合により化学線を用いた、表面に存在する塗膜の硬化によって損傷を受けない、コーティングされる全ての表面が、基材として適当である。それらは、特に、金属、プラスチック、木材、セラミック、石材、布地、繊維複合体、皮革、ガラス、ガラス繊維、ガラスウールおよびロックウール、石膏ボードおよびセメントスラブまたは屋根タイルなどの鉱物結合建築材料および樹脂結合建築材料、並びにこれらの材料の組合せを包含する。従って、本発明のコーティング材料は、自動車塗料以外の用途にも適している。特に、ストリップコーティング、容器コーティング、および電気技術部品の含浸またはコーティングを含む、家具コーティングおよび工業的コーティングに適している。工業的コーティングの範囲内では、住居または工業的用途のための全ての部品、例えば、ラジエータ、家庭用電気器具、スクリューおよびナット、ハブキャップ、ホイールリムなどの小さな金属部品、包装容器、またはモータ巻線もしくは変圧器巻線などの電気技術部品を実際にコーティングするのに適している。
【0100】
導電性基材の場合には、本発明の一次分散体、または一次分散体から得られる本発明のコーティング組成物は、好ましくは電着コーティング、特に好ましくは陰極電着コーティングによって適用することができる。
【0101】
従って、本発明のさらなる対象は、本発明の一次分散体を含む(略して電着コーティングともいう)電着コーティング組成物である。そのような電着コーティング組成物は、特に、陰極浸漬コーティング(CDC)に適している。従って、本発明のさらなる対象は、電着コーティング組成物、特に陰極析出性電着コーティング組成物を製造するための本発明の一次分散体の使用である。
【0102】
本発明の電着コーティング剤は、好ましくは、5〜50質量%、好ましくは5〜35質量%の固形分を有する。この点に関し、固形分は、180℃で30分間乾燥した後に残留する電着コーティング剤の一部を意味すると理解される。
【0103】
バインダーとして、本発明の電着コーティング剤は、少なくとも、本発明の一次分散体に含有される分散ポリマー粒子、並びに遊離形態および/またはポリマー粒子中に重合された、一次分散体を製造するために本発明に従って用いられる乳化剤(EQ)を含有する。本明細書において、用語「バインダー」は、EN ISO 4618:2006(独国版)に準じて、一次分散体またはコーティング剤、例えば電着コーティング剤の不揮発性部分から、場合により含まれる充填剤および顔料を差し引いたものを意味すると理解される。
【0104】
本発明の一次分散体に含有される分散ポリマー粒子は、好ましくは、既に反応性であり、上記架橋剤中に存在する相補的反応性官能基と熱架橋反応することができる官能基を有する。適当な反応性官能基の上記した例は、ヒドロキシル基、チオール基並びに第一級および第二級アミノ基、特にヒドロキシル基である。
【0105】
本発明の一次分散体に含有されるポリマー粒子は、特に好ましくは、例えばモノマーa2)、または炭素−炭素多重結合を有する乳化剤(EQ)を用いることによって、共重合され得る、少なくとも1つのタイプのカチオン性基および/または潜在カチオン性基を有する。潜在カチオン性基は、例えば、無機酸または好ましくは有機酸でのプロトン化によってアンモニウム基に転化され得る、原初は非荷電の第一級、第二級または第三級アミノ基である。陰極電着コーティング剤は、通常は、典型的には酸を添加することによって調整される4.5〜6.5のpHを有するので、電着コーティング剤のpHは、一般的には、潜在カチオン性基をカチオン性基に転化するのに、すなわち、それを中和するのに十分である。潜在カチオン性基に適した酸の例は、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、α−メチロールプロピオン酸、ジメチロールプロピオン酸、γ−ヒドロキシプロピオン酸、グリコール酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、糖酸、サリチル酸、2,4−ジヒドロ安息香酸、アミドスルホン酸およびアルカンスルホン酸などのスルホン酸、例えば、メタンスルホン酸などの無機および有機酸、特に、ギ酸、酢酸または乳酸である。先に述べたように、前記酸は、本発明の乳化剤のアニオンX-を供給するのにも適している。塩酸の使用は好ましくなく、1つの好ましい実施態様においては排除される。
【0106】
中和剤および/または四級化剤を用いてカチオンに転化することができる潜在カチオン性基のさらなる例は、第二級スルフィド基または第三級ホスフィン基である。第四級化アミノ基、特に乳化剤(EQ)に存在する第四級化アミノ基が、とりわけ好ましい。
【0107】
適当なカチオン性基の例は、第四級アンモニウム基、第三級スルホニウム基または第四級ホスホニウム基、好ましくは第四級アンモニウム基または第三級スルホニウム基、特に第四級アンモニウム基である。
【0108】
使用が必須である本発明の一次分散体の分散ポリマー粒子に加えて、電着コーティング剤に典型的なさらなるバインダーを本発明の電着コーティング剤に含有させることができる。電着コーティング剤のためのさらなるバインダーは、EP 0 082 291 A1、EP 0 234 395 A1、EP 0 227 975 A1、EP 0 178 531 A1、EP 0 333 327、EP 0 310 971 A1、EP 0 456 270 A1、US 3,922,253 A、EP 0 261 385 A1、EP 0 245 786 A1、EP 0 414 199 A1、EP 0 476 514 A1、EP 0 817 684 A1、EP 0 639 660 A1、EP 0 595 186 A1、DE 41 26 476 A1、WO 98/33835、DE 33 00 570 A1、DE 37 38 220 A1、DE 35 18 732 A1またはDE 196 18 379 A1から公知である。そのようなバインダーは、好ましくは、第一級、第二級、第三級または第四級のアミノまたはアンモニウム基および/または第三級スルホニウム基を有し、好ましくは20〜250mg KOH/gのアミン価および300〜10,000ダルトンの重量平均分子量を有する樹脂である。アミノ(メタ)アクリレート樹脂、アミノエポキシ樹脂、アミノポリウレタン樹脂、アミノ基を有するポリブタジエン樹脂、または変性エポキシ樹脂−二酸化炭素−アミン反応生成物が特に用いられる。WO-A-2004/007443から公知であって、本発明の実験の段落でも用いられている樹脂は、非常に特に好ましいエポキシアミン樹脂である。
【0109】
適当な相補的反応性官能基を有する全ての慣用的な公知の架橋剤が、許容できる架橋剤である。該架橋剤は、好ましくは、上記架橋剤の群から選択される。
【0110】
本発明の電着コーティング剤は、好ましくは、金属がカチオンの形態で存在する金属化合物、非常に特に好ましくはビスマス化合物を含有する。そのような金属化合物、特にビスマス化合物は、本発明に従って含まれる乳化剤(EQ)がヒドロキシル基、チオール基、または第一級もしくは第二級アミノ基を、乳化剤(EQ)の一般式中の窒素原子に対してベータ位に有する場合に、非常に特に好ましく含有される。ベータ位に存在する上記基は、コーティングの架橋密度を促進する。
【0111】
さらに、本発明の電着コーティング剤は、上記で一般的に記載された添加剤の群から選択される少なくとも1つの慣用的な公知の添加剤を有効量で含有することもできる。
【0112】
顔料が好ましく用いられる。顔料は、好ましくは、慣用的で公知の着色性、効果付与性、電導性、磁気シールド性、蛍光性、充填性および腐食阻害性の有機および無機顔料を含んでなる群から選択される。
【0113】
本発明の電着コーティング剤は、上記した成分を混合することによって製造される。成分は均質化され得る。本発明の電着コーティング剤は、任意に、撹拌槽型反応器、撹拌ミル、押出機、混練機、Ultra-Turrax装置、インライン溶解機、静的ミキサー、マイクロミキサー、歯付きリング分散機、圧力除去ノズルおよび/またはマイクロフルイダイザーなどの慣用的な公知の混合プロセスおよびデバイスを用いて製造することができる。
【0114】
本発明の電着コーティング剤は、特に、陰極浸漬コーティング剤のために用いられる。本発明の電着コーティング剤は、典型的にはプラスチック基材上に、または特に、導電性である、例えば導電性であるか、もしくは例えば金属化によって導電性とされた金属基材上に、陰極析出させることができる。従って、本発明は、さらにこのタイプの基材上に本発明の電着コーティング剤を陰極析出させる方法に関する。さらに、本発明の電着コーティング剤は、導電性表面を有する基材の陰極浸漬コーティングによってプライマーコートを製造するために用いることができる。
【0115】
いずれかの通常の金属で作成された部品、例えば、自動車産業において慣用的な金属部品、特に、自動車車体およびその部品を金属基材として用いることができる。従って、本発明の電着コーティング剤は、自動車車両またはその部品の塗装において用いることもできる。
【0116】
本発明の塗布されたコーティング材料または電着コーティング剤の硬化は、特別な方法的特徴を有さず、対流式オーブン中での加熱またはIRランプでの照射などの慣用的な公知の熱的プロセスに従って行われ、これは、二重硬化の場合においては、化学線での照射によって補うこともできる。照射窓を405nmまで開けるために場合により鉛でドープされていてよい高圧または低圧水銀ランプなどの放射線源、または電子線源を用いることができる。
【0117】
同様に本発明の対象である、陰極電着コーティング層によりコーティングされた導電性基材は、1以上の追加のコーティング層、例えば、1以上の充填剤コーティング層、1以上のベースコーティング層および/または1以上のクリヤコート層でコーティングされてよい。このタイプのコーティングされた構造物は、特に、自動車塗装の分野から公知である。しかしながら、他の分野では、本発明の電着コーティング層のみの適用が十分であり得る。
【0118】
本発明を、実施例を使用して以下により詳細に説明する。
【実施例】
【0119】
代表的な実施態様
【0120】
本発明に従った乳化剤EQ1の調製
【0121】
まず、ジメチルエタノールアミンラクテートを調製した。このために、511.90部のジメチルエタノールアミン、711.9部の80%乳酸、644.2部のブチルグリコールおよび74.8部の脱イオン水を、撹拌機および還流冷却器を備えた反応容器内で24時間撹拌した。
【0122】
3057.2部のCardolite NC 513(EEW 532g/eq)を、撹拌機、還流冷却器、温度プローブ、窒素注入口および滴下漏斗を備えた反応容器内で、撹拌しながら60℃に加熱した。1942.8部の上記ジメチルエタノールアミンラクテートを、30分間にわたってゆっくりと滴加した。次いで、0.116ミリモル/gのミリ当量(MEQ)酸価に達するまで、反応混合物を撹拌した。
【0123】
ミニエマルジョンM1の調製およびそのイン・サイチュ重合:
【0124】
モノマー混合物の調製:
33.7部のメタクリル酸イソボルニル、180.8部のメタクリル酸メチル、155.9部のアクリル酸ブチル、21.6部のメタクリル酸ヒドロキシエチル、186.2部のスチレン、471.4部のAraldite GY 2600(EEW 186g/eq)、299.0部の、プロピレングリコールおよびブチルジグリコールでキャップされ、ブトキシプロパノールおよびフェノキシプロパノールから構成される90%の1/1(w/w)混合物中に存在するジフェニルメタンジイソシアネートオリゴマーに基づく架橋剤(CathoGuard(登録商標)500架橋剤、BASF Coatings GmbHの商品)、3.5部のtert−ドデシルメルカプタンおよび290.0部の乳化剤EQを、溶液になるまで撹拌した。次いで、激しく撹拌しながら、2104.4部の脱イオン水をゆっくりと添加した。その後、形成された粗エマルジョンを少なくともさらに5分間撹拌した。
【0125】
ミニエマルジョンの調製:
粗エマルジョンを、高剪断力を導入するための装置に移し、次いで、高圧ホモジナイザー(1つのH230Zおよび1つのH210Z均質化槽を備えた、Microfluidicsのモデル110Y)を用いて600バールにて、2パスで均質化した。
【0126】
本発明の一次分散体を製造するためのミニエマルジョンのイン・サイチュ重合:
続いて、ミニエマルジョンを、撹拌機、還流冷却器、温度プローブ、窒素注入口および投入ユニットを備えた反応容器内で撹拌しながら75℃に加熱した。75℃の温度にて、0.8部の1%硫酸鉄(II)溶液を添加し、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート二水和物4.4部の脱イオン水129.3部溶液を、1時間半にわたって、70%tert-ブチルヒドロペルオキシド溶液6.1部の脱イオン水113.1部溶液と共に一定に滴加した。撹拌を75℃にてさらに1時間継続した後、イン・サイチュ重合したミニエマルジョンを室温に冷却し、濾過した(80μmカットオフのナイロンフィルターバッグ)。
粒径(Z平均):98nm
粒径分布指標(PDI):0.10
固形分(180℃で30分間の乾燥後):32.8重量%
【0127】
全ての実施例において粒径分布は、MalvernからのZetasizer Nano Sを用いて、動的光散乱によって測定した。PDI値もこの測定から導いた。
【0128】
ミニエマルジョンの特性試験:
【0129】
ミニエマルジョンM1からのコーティング剤浴の調製:
分散安定性を試験するための水性組成物の調製:1829.3部のミニエマルジョンM1を1978.7部の脱イオン水と混合した。次いで、撹拌しながら、192.0部の水性顔料組成物(CathoGuard(登録商標)520顔料ペースト、BASF Coatings GmbHの商品)を添加した。仕上げた浴を少なくともさらに24時間撹拌した後、試験した。
【0130】
ポンプ輸送性試験:
Little Giant MD 4磁気ドライブ遠心ポンプを用いて、回路中で24時間ポンプ輸送することによって、上記で調製した浴のポンプ輸送性を32℃で試験した。続いて、180℃で30分間の燃焼後に、ふるい残渣(25μmメッシュサイズ)を測定した。ポンプ輸送性は、ふるい残渣200mg/L未満で適当であるとした。
試験完了後、16mg/Lのふるい残渣が測定された。
【0131】
限外濾過試験:
上記で調製した浴の限外濾過を、880cm2の総表面積を有するPVDF膜を備えたプレートモジュール(150kDaカットオフ、Microdyn-Nadir GmbHからの商品)を介して行った。限外濾過能を評価するために、還流性能並びに入口圧力および出口圧力を少なくとも1週間にわたって測定した。限外濾過能は、フラックス性能が、10L/hm2の最小性能で、連続的には減少せず、全試験時間にわたって20%未満しか減少しなかった場合に、適当であるとした。上記浴についての以下の特徴を、試験中に測定した。
【0132】
【表1】
【0133】
試験終了時、フラックス性能は、試験開始時と比較して、15%増加していた。