特許第6419635号(P6419635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6419635
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】保持装置、真空処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/677 20060101AFI20181029BHJP
   B65G 49/06 20060101ALI20181029BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20181029BHJP
   B25J 15/00 20060101ALI20181029BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   H01L21/68 A
   B65G49/06 Z
   H01L21/68 N
   B25J15/00 Z
   G02F1/13 101
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-83674(P2015-83674)
(22)【出願日】2015年4月15日
(65)【公開番号】特開2015-216364(P2015-216364A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2018年1月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-89564(P2014-89564)
(32)【優先日】2014年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100102875
【弁理士】
【氏名又は名称】石島 茂男
(74)【代理人】
【識別番号】100106666
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 英樹
(72)【発明者】
【氏名】嶽 良太
(72)【発明者】
【氏名】前平 謙
【審査官】 石丸 昌平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−273508(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/109489(WO,A1)
【文献】 特開2007−281053(JP,A)
【文献】 特開2008−78388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
B25J 15/00
B65G 49/06
G02F 1/13
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持ユニットに設けられた粘着パッドを保持対象物に接触させ、前記粘着パッドによって前記保持対象物を粘着保持して搬送するために用いられる保持装置であって、
前記保持ユニットは、
真空容器と、
前記真空容器の縁に配置され、前記保持対象物と接触して、前記真空容器の内部空間を、前記真空容器の外部空間から遮断させる接触部と、
前記真空容器に設けられ、前記保持対象物と前記接触部とで前記外部空間から遮断された前記内部空間の気体が吸着用排気装置によって真空排気される通路となる排気孔と、
前記粘着パッドを移動させる移動装置と、
を有し、
前記粘着パッドは前記内部空間に配置され、
前記移動装置が前記粘着パッドを移動させる方向である移動方向は、前記接触部の表面のうち、前記保持対象物と接触する部分が位置する接触平面に対して垂直な方向の移動成分を有するようにされた保持装置。
【請求項2】
複数の前記真空容器と、
各前記真空容器に配置された前記粘着パッドと、を有し、
複数の前記粘着パッドと、複数の前記真空容器の縁に配置された前記接触部とは、同一の前記保持対象物と接触するようにされた請求項1記載の保持装置。
【請求項3】
同じ前記真空容器の前記内部空間に配置された複数の前記粘着パッドを有し、
複数の前記粘着パッドと、前記真空容器の縁に配置された前記接触部とは、同一の前記保持対象物と接触するようにされた請求項1記載の保持装置。
【請求項4】
前記接触部は、柔軟性を有する環状の部材が用いられた請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の保持装置。
【請求項5】
前記接触部は、前記保持装置の平坦な表面上に配置された請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の保持装置。
【請求項6】
前記保持装置の表面には溝が設けられ、前記接触部は、前記溝内に設けられた請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の保持装置。
【請求項7】
前記接触部は、前記真空容器上に配置され、貫通孔であるシート孔が前記真空容器の開口上に形成された密着シートで構成された請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の保持装置。
【請求項8】
前記粘着パッドを、前記真空容器に対して前記接触部から遠ざかる方向に、回転しながら移動させる回転機構を有する請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の保持装置。
【請求項9】
前記保持装置を前記吸着用排気装置に接続させる着脱装置を有する保持装置であって、
前記着脱装置は、前記保持装置を前記吸着用排気装置から分離させて、前記保持装置を前記吸着用排気装置とは別個に移動できるようにされた請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の保持装置。
【請求項10】
前記真空容器は、前記吸着用排気装置から分離されると、前記排気孔を通って前記真空容器内に気体が流入しないようにされた請求項9記載の保持装置。
【請求項11】
前記保持対象物に接着された前記粘着パッドは弾性力を有する緩衝部材によって、前記保持対象物から離間する方向に力が加えられる請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の保持装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の保持装置と、
前記保持装置が配置された真空槽と、
前記真空槽内に配置され、前記粘着パッドに粘着保持され、処理表面が下向きにされた前記保持対象物の前記処理表面を真空雰囲気中で処理する処理部とを有する真空処理装置。
【請求項13】
前記処理部は、薄膜を形成する微粒子を放出し、前記保持対象物表面に薄膜を形成する成膜装置である請求項12記載の真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持対象物を粘着シートで保持して真空雰囲気中を移動できる保持装置と、その保持装置に保持された保持対象物に真空処理を行う真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)などのフラットパネルディスプレイの製造工程には、基板組立工程や、基板搬送工程が含まれており、基板を保持するために、粘着チャック装置を用いる技術がある。
【0003】
たとえば特許第3882004号公報に記載された装置では、基板搬送用ロボットで移送された基板を、保持板に配置された粘着部材に所定圧力で押圧させて、粘着部材の粘着力で基板を保持している。さらに粘着部材と基板に囲まれた凹部を真空吸引することで更に強く吸引保持することが記載されている。
【0004】
この装置によれば、変形膜で仕切られた凹部と閉空間の圧力差を利用して可動膜を変形させ、基板と粘着部材の引き剥がしや粘着保持を行うことができ、また、通気路・吸気源を備えることで真空吸引をつかった吸引保持や剥離時に気体を噴出させることも可能となっている。
【0005】
しかし、同公報に記載された吸着保持では、十分な真空度に達していない状態で粘着パッドと基板の貼り合わせが行われると、粘着部材と基板とを貼り合わせる際に空気を噛み込んでしまう問題があり、粘着力は基板と粘着部材の接触面積に依存していることから、空気を噛み込むと接触面積が小さくなり、粘着力が低下し、基板が落下してしまうおそれがある。
【0006】
また、粘着パッドと基板が密着した部分には圧力差が発生せず押し付け力が生じない為、強い押し付け力を確保するためには粘着パッド間の空間を大きくとる必要があり、圧力により基板が歪むおそれや、装置の大型化が必要になるおそれがあった。
【0007】
また、変形膜で仕切られた凹部と閉空間に圧力差が生じることで変形膜に配置された粘着パッドが基板方向へ押し付けられるが、変形膜と粘着パッドの接合部での圧力分布により粘着パッドの粘着表面が歪み基板との強い密着が得られないおそれがあった。
【0008】
また、基板と粘着部材が貼りついた側と反対の基板表面(成膜面)は基板搬送用ロボットの部材が接触しパーティクルが発生する問題がある。特に有機ELディスプレイのガラス基板の成膜面のパーティクルはデバイス特性に悪影響を及ぼしてしまう。
【0009】
特開2011−35301号公報に開示された装置では、支持板に粘着パッドが配置されており、粘着パッドを配置した側の支持板と板状ワークで囲まれた吸着溝を負圧にすることで、支持板が圧力で押されて粘着パッドと板状ワークを密着させることと、粘着パッドが配置された吸着溝を大気圧に戻し、支持板に粘着パッドが配置されない側の調圧室を負圧にすることで、支持板に圧力が働き板状ワークから粘着パッドを引き剥がすこととが記載されている。
【0010】
特許第4746579号公報に記載された装置では、負圧を利用して粘着剤シートと基板を吸着させることが記載されており、また、弾性多孔質シートを使うことで負圧により基板を吸着させるだけでなく基板のストレスを低減させることが記載されている。しかしながら、弾性多孔質シートの吸着面に対する多孔質の面積が小さいために基板に作用する負圧が低下することで重い基板を持ち上げられない問題があった。また、弾性多孔質シートを使う方法では、真空中において使用することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−35301号公報
【特許文献1】特許第3882004号公報
【特許文献2】特許第3917651号公報
【特許文献4】特許第4746579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために創作された発明であり、保持対象物の真空処理される表面には接触せず、確実に保持対象物を保持して真空雰囲気中で移動できる保持装置を提供することにある。
また、その保持装置によって保持対象物を保持して真空処理を行う真空処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一般に、真空中でも粘着部材と基板を貼り合わせることは可能であるが、基板と粘着部材とが貼りついた部分とは、反対の基板表面(成膜面)には、基板搬送用ロボットの部材が接触し、パーティクルが発生する懸念がある。
成膜面に非接触で基板を保持する場合は、真空吸着や基板の自重で粘着部材と基板を粘着保持する方法が考えられるが、前者は真空中において使用することが出来ない。
【0014】
接着パッドを基板の自重で押圧する場合は、基板と接着パッドとが接触する部分の面積を小さくすれば、単位面積当たりの押圧力が増加し、粘着保持力が強くなるが、基板を吊下保持した場合は、基板と粘着部分の間の引き剥がし力も増加することになるので、基板が落下する懸念がある。
【0015】
逆に、基板に対して粘着部分の面積を大きくすると、単位面積当たりの押圧力が減少し、基板と粘着パッドとの接触面積が減ることで粘着保持力は低下する。この場合も、基板を吊下保持した場合に、基板が落下してしまう恐れがある。
一方で、粘着パッドの粘着力を強くした場合は、基板を押し剥がす時に基板に局所的ストレスがかかり破損する恐れや基板に歪みが発生する懸念がある。
【0016】
本発明が採用する技術では、上記各懸念に対する解決が成されており、本発明は、保持ユニットに設けられた粘着パッドを保持対象物に接触させ、前記粘着パッドによって前記保持対象物を粘着保持して搬送するために用いられる保持装置であって、前記保持ユニットは、真空容器と、前記真空容器の縁に配置され、前記保持対象物と接触して、前記真空容器の内部空間を、前記真空容器の外部空間から遮断させる接触部と、前記真空容器に設けられ、前記保持対象物と前記接触部とで前記外部空間から遮断された前記内部空間の気体が吸着用排気装置によって真空排気される通路となる排気孔と、前記粘着パッドを移動させる移動装置と、を有し、前記粘着パッドは前記内部空間に配置され、前記移動装置が前記粘着パッドを移動させる方向である移動方向は、前記接触部の表面のうち、前記保持対象物と接触する部分が位置する接触平面に対して垂直な方向の移動成分を有するようにされた保持装置である。
本発明は、複数の前記真空容器と、各前記真空容器に配置された前記粘着パッドと、を有し、複数の前記粘着パッドと、複数の前記真空容器の縁に配置された前記接触部とは、同一の前記保持対象物と接触するようにされた保持装置である。
本発明は、同じ前記真空容器の前記内部空間に配置された複数の前記粘着パッドを有し、複数の前記粘着パッドと、前記真空容器の縁に配置された前記接触部とは、同一の前記保持対象物と接触するようにされた保持装置である。
本発明において、前記接触部は、柔軟性を有する環状の部材が用いられた保持装置である。
本発明において、前記接触部は、前記保持装置の平坦な表面上に配置された保持装置である。
本発明は、前記保持装置の表面には溝が設けられ、前記接触部は、前記溝内に設けられた保持装置である。
本発明において、前記接触部は、前記真空容器上に配置され、貫通孔であるシート孔が前記真空容器の開口上に形成された密着シートで構成された保持装置である。
本発明は、前記粘着パッドを、前記真空容器に対して前記接触部から遠ざかる方向に、回転しながら移動させる回転機構を有する保持装置である。
本発明は、前記保持装置を前記吸着用排気装置に接続させる着脱装置を有する保持装置であって、前記着脱装置は、前記保持装置を前記吸着用排気装置から分離させて、前記保持装置を前記吸着用排気装置とは別個に移動できるようにされた保持装置である。
本発明において、前記真空容器は、前記吸着用排気装置から分離されると、前記排気孔を通って前記真空容器内に気体が流入しないようにされた保持装置である。
本発明において、前記保持対象物に接着された前記粘着パッドは弾性力を有する緩衝部材によって、前記保持対象物から離間する方向に力が加えられる保持装置である。
本発明は、上記いずれかの保持装置と、前記保持装置が配置された真空槽と、前記真空槽内に配置され、前記粘着パッドに粘着保持され、処理表面が下向きにされた前記保持対象物の前記処理表面を真空雰囲気中で処理する処理部とを有する真空処理装置である。
本発明において、前記処理部は、薄膜を形成する微粒子を放出し、前記保持対象物表面に薄膜を形成する成膜装置である真空処理装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、粘着パッドを保持対象物に押圧するときに、保持対象物が真空吸着されているので、粘着パッドは確実に保持対象物に密着され、粘着パッドが保持対象物を粘着保持する力が向上する。
また、真空中で粘着パッドと保持対象物とを粘着させるので、互いに粘着された粘着パッドの表面と保持対象物との間には、気体が存することはない。
また、保持対象物の片側表面を非接触で粘着保持して搬送することができるので、不良品の発生を防止することができる。
【0018】
また、粘着パッドの粘着物質は有機物質であり、粘着パッドから放出ガスが放出されるが、復元力による保持対象物の接触部への押圧と真空容器の排気孔からガスが流入しない構成とによって、真空処理中は、真空容器の内部空間は外部空間から分離されているので真空処理中の処理対象物が配置された処理室内に、放出ガスが放出されないようになっている。
また、複数の保持ユニットで一枚の保持対象物を保持するので、保持対象物に印加される力が分散し、保持対象物の割れや歪みを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の真空処理装置を示す図
図2】(a):保持対象物を保持していない状態の本発明の第一例の保持装置を示す図 (b):複数の保持ユニットが保持対象物を保持した状態の第一例の保持装置を示す図
図3】(a):複数の粘着パッドが同じ保持対象物に押圧されている状態の第一例の保持装置を示す図 (b):保持対象物が複数の粘着パッドで粘着保持された状態を示す図
図4】(a):保持対象物を保持していない保持ユニットを示す図 (b):保持対象物を保持した保持ユニットを示す図
図5】(a):同じ保持対象物に押圧されている状態の粘着パッドを示す図 (b):保持対象物を粘着パッドで粘着保持する状態を示す図
図6】(a):保持対象物を吊下する状態を示す図 (b):粘着パッドが移動板の回転と降下によって保持対象物から離間された状態を示す図
図7】(a):回転前の移動板を示す図 (b):回転した移動板を示す図
図8】第二例の保持装置を説明するための図(1)
図9】第二例の保持装置を説明するための図(2)
図10】第二例の保持装置を説明するための図(3)
図11】第三例の保持装置を説明するための図
図12】第四例の保持装置を説明するための図
図13】(a)〜(c):第二例〜第四例の保持装置の平面図
図14】第五例の保持装置を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1の符号10は、本発明の真空処理装置を示している。
この真空処理装置10は真空槽21を有しており、この真空槽21と前工程の真空槽281との間と、また、この真空槽21と後工程の真空槽282との間とは、主ゲートバルブ291、292によってそれぞれ接続されている。
【0021】
ここでは、真空槽21は、配置室22aと、処理室22bと、分離室22cとに分かれており、配置室22aと処理室22bの間と、処理室22bと分離室22cの間とは、それぞれ副ゲートバルブ27a、27bによって接続されている。
先ず、主ゲートバルブ291、292と副ゲートバルブ27a、27bとは閉じ、各室22a〜22c間と、各真空槽21、281、282間とを分離させておく。
【0022】
前工程の真空槽281と配置室22aには空気や窒素を導入して予め大気圧にしておく。真空処理装置10での処理を開始する際には、先ず、真空処理装置10の真空槽21と前工程の真空槽281との間の主ゲートバルブ291を開け、搬送ロボットのハンド311上に載せられた基板状の保持対象物5を前工程の真空槽281内から配置室22a内に搬入する。
【0023】
配置室22aの内部では、ハンド311よりも下方位置に、本発明の第一例の保持装置11aが配置されている。図1の符号11b、11cは、配置室22aから処理室22bと分離室22cに移動した保持装置をそれぞれ示している。図1に示された保持装置11a〜11cは同じ構造であり、図2(a)、(b)、図3(a)、(b)は、それら同じ構造の保持装置11a〜11cを代表する保持装置11が示されている。
【0024】
その第一例の保持装置11を説明すると、先ず、図2(a)を参照し、保持装置11は、連結板41と、連結板41に固定された一乃至複数個の保持ユニット13とを有している。
図4(a)に、一台の保持ユニット13の拡大図を示す。保持ユニット13は、真空容器15と、接触部18とを有している。接触部18は、この例では柔軟性を有する材料が環状に整形されて構成されており、真空容器15の開口19を形成する縁上に、真空容器15の開口19を取り囲んで配置されている。
【0025】
各保持ユニット13の真空容器15は、同じ向きを向いて、連結板41にそれぞれ固定されている。
真空容器15の内部空間には、真空容器15の開口19よりも底面側の位置に、粘着パッド17が配置されている。
【0026】
各真空容器15の底面には貫通孔54が形成されている。貫通孔54には支持棒52が挿通され、支持棒52の一端は真空容器15の底面と縁との間の内部空間25に位置し、その一端に支持板53が固定され、粘着パッド17は、支持板53上に固定されている。
支持棒52の他端は真空容器15の外部空間26に位置しており、その他端には、移動板51が固定されている。
【0027】
貫通孔54の内部には、軸シール材57と軸受58とが配置されている。
支持棒52は軸シール材57と密着し、軸シール材57によって、真空容器15の内部空間25と外部空間26とが気密に分離されるように構成されており、また、支持棒52は貫通孔54の内部で軸受58によって保持されている。
【0028】
支持棒52は、軸シール材57と軸受58と接触しながら、内側空間25と外側空間26とが分離された状態で、貫通孔54の長手方向に沿って移動できるように構成されており、支持棒52が貫通孔54の長手方向に沿って往復移動することによって、粘着パッド17が、真空容器15の内部空間25に於いて、開口19側と底面側とに移動できるようにされている。
【0029】
外部空間26には、連結板41とは離間した位置に、連結板41に対して相対移動可能に設けられた押圧板44が、移動板51と対面する位置に配置されている。
移動板51と押圧板44との間には、押圧部材45が配置されている。
押圧部材45は、当接板48と緩衝部材49とを有しており、当接板48は、緩衝部材49を介して押圧板44に取り付けられている。
【0030】
この真空処理装置10には、粘着パッド17を移動させる移動装置が設けられている。図2(a)、図4(a)の符号47は、移動装置が有するモータであり、押圧板44と真空容器15とは、このモータ47が動作することで、移動装置によって相対的に移動して距離を変更するように構成されている。
【0031】
保持対象物5を保持する手順を開始する際には、移動板51と当接板48とは離間した状態にされており、移動装置によって押圧板44が真空容器15が位置する方向に移動され、押圧板44と各真空容器15との間の距離が縮められると押圧部材45が真空容器15側に移動し、先ず、移動板51と当接板48とが接触する。
【0032】
移動板51と真空容器15の底面との間には圧縮変形可能な復元部材55が配置されている。復元部材55は、真空容器15の底面と移動板51との間に位置しており、緩衝部材49と復元部材55は弾性力を有しており、緩衝部材49と復元部材55は、押圧されると圧縮方向に変形し、押圧が解除されると、元の形状に復帰する弾性材料で構成されている。
【0033】
移動板51と当接板48とが接触した後、押圧板44が更に真空容器15が位置する方向に移動するときには、移動板51は当接板48によって押圧され、その際、緩衝部材49と復元部材55は押圧され、圧縮方向に変形しながら、押圧板44と各真空容器15との間の距離が縮められ、その結果、粘着パッド17が、開口19が位置する方向に移動する。
【0034】
このように、移動板51が真空容器15に近づくことで、粘着パッド17は、真空容器15の開口19側に移動し、反対に、移動板51が真空容器15から遠ざかると、粘着パッド17は、真空容器15の開口19とは反対側、即ち、底面側に移動する。
なお、上記例とは逆に、押圧板44が固定されていて、連結板41が押圧板44に対して移動するように構成されていても同じである。
【0035】
複数の保持ユニット13が連結板41に設けられている保持装置11では、各保持ユニット13の接触部18の表面は同じ平面上に位置しており、その表面を保持対象物5と接触する接触平面とすると、複数の粘着パッド17の表面は、接触平面と平行な同一平面であり、また、複数の移動板51が位置する平面も、接触平面と平行な同一平面であり、複数の当接板48が位置する平面も、接触平面と平行な同一平面である。
【0036】
従って、押圧板44によって、各保持ユニット13の移動板51がそれぞれ押圧されると、各保持ユニット13に設けられた緩衝部材49と復元部材55とは圧縮変形し、各粘着パッド17は、表面が同一平面上に位置しながら、開口19の方向にそれぞれ移動する。
【0037】
保持ユニット13は、上述のように構成されており、そのような保持ユニット13を一個乃至複数個有する保持装置11によって、保持対象物5を保持する手順を説明する。
先ず、保持装置11aによって保持対象物5を配置する。このとき、接触平面は水平にされており、図1に示されたハンド311上の一枚の保持対象物5は、ピン等の装置によって、ハンド311上から、一台乃至複数台の保持ユニット13の接触部18上に移動され、保持対象物5は、接触部18と接触して真空容器15上に配置されている。
【0038】
保持対象物5が保持ユニット13上に移動した後、ハンド311が前工程の真空槽281の内部に戻り、前工程の真空槽281と配置室22aとの間の主ゲートバルブ291は閉じられる。
【0039】
図2(b)は、複数の保持ユニット13を有する保持装置11の上に一枚の保持対象物5が配置された状態を示しており、図4(b)は、その保持装置11の一台の保持ユニット13を示している。
保持対象物5と接触部18とが接触する部分は環形状になっており、内部空間25は、保持対象物5が接触部18と接触することによって閉塞される。
【0040】
各真空容器15の壁面又は底面には、排気孔14が設けられている。各真空容器15の排気孔14は、真空槽21の外部に配置された吸着用排気装置42に、排気配管43によってそれぞれ接続されている。
【0041】
保持対象物5が各保持ユニット13上に載せられる前は、配置室22a内は大気圧にされており、保持対象物5が各保持ユニット13上に載せられ、保持対象物5と各保持ユニット13の接触部18とが接触した後、吸着用排気装置42によって各真空容器15の内部空間25の真空排気が開始される。
【0042】
このとき、真空容器15の外部空間26である配置室22aの内部雰囲気は大気圧であり、接触部18と真空容器15の縁との間は気密に構成され、また、接触部18は柔軟性を有するため、保持対象物5と接触部18との間は、接触によって気密になっており、真空容器15の内部空間25が真空排気されるときには、外部空間26から内部空間25へは、外部空間26に位置する気体は流入せず、真空容器15の内部空間25が真空雰囲気になると、保持対象物5は、外部空間26の圧力によって接触部18に押圧されるため、真空容器15に真空吸着され、保持対象物5は接触部18に押しつけられる。
接触部18は押圧力によって変形する材料で構成されており、保持対象物5が接触部18に押しつけられると、保持対象物5と接触部18との間は密着され、気密になる。
【0043】
真空容器15の内部空間25の真空排気を開始する際には、粘着パッド17と保持対象物5とは離間して隙間が形成されており、保持対象物5が真空吸着によって接触部18に押しつけられた後、吸着用排気装置42によって真空容器15の内部空間25の真空排気を継続しながら、押圧板44と真空容器15とを相対的に近接させると、当接板48は移動板51と接触し、更に近接させると、緩衝部材49と復元部材55とが圧縮変形しながら粘着パッド17が保持対象物5が位置する方向に移動し、粘着パッド17の表面が保持対象物5の裏面と接触する。
【0044】
接触した後、更に押圧板44を真空容器15側に移動させようとすると、粘着パッド17により、緩衝部材49と復元部材55とが圧縮変形されながら保持対象物5は接触部18から離間される方向に押圧される。
【0045】
このとき、保持対象物5に印加される押圧力は、緩衝部材49の圧縮変形する距離を調整し、保持対象物5が真空吸着によって接触部18に押圧される真空吸着力よりも弱くすることで、保持対象物5は粘着パッド17と密着した状態が維持されるので、粘着パッド17は保持対象物5との接触面積が飽和するまで、押圧板44からの押圧力によって押圧することで、粘着パッド17と保持対象物5とは強く粘着される。
【0046】
図3(a)は、複数の保持ユニット13の粘着パッド17が、一枚の保持対象物5に押圧され、保持装置11が保持対象物5を粘着保持した状態を示している。図5(a)は、そのときの保持対象物5と一台の保持ユニット13とを示しており、緩衝部材49と復元部材55とは圧縮変形されている。
【0047】
粘着パッド17の表面が保持対象物5の裏面に密着されている状態では、移動板51と保持対象物5との間の距離は、粘着パッド17の厚みと、支持棒52の長さ等の粘着パッド17を支持する部材の長さとによって決まっており、復元部材55は、押圧板44と保持対象物5とで、圧縮変形されている。
【0048】
その状態から、押圧板44が真空容器15から離間する方向に移動して、当接板48と移動板51とが離間すると、復元部材55の復元力は移動板51に印加され、移動板51を真空容器15から離間させる方向の力となる。
【0049】
圧縮変形された緩衝部材49と復元部材55とには、元の長さに戻ろうとする復元力が発生しているが、粘着パッド17が保持対象物5に押圧されて発生した粘着パッド17と保持対象物5との間の粘着力は、復元部材55の復元力よりも強くされており、粘着パッド17は保持対象物5から剥離せず、復元部材55は伸びることができないため、圧縮変形されたままである。他方、緩衝部材49は、その復元力によって伸び、元の長さに戻っている。
【0050】
図3(b)、図5(b)は、復元部材55は圧縮変形され、緩衝部材49は元の長さに戻った状態である。
このとき、粘着パッド17は保持対象物5に粘着しており、復元部材55の復元力によって粘着パッド17は真空容器15の底面側に牽引されているから、保持対象物5は粘着パッド17によって真空容器15の底面側に牽引され、保持対象物5の裏面の接触部18と接触する部分は、接触部18に押しつけられて密着し、一枚の保持対象物5は、各保持ユニット13の真空吸着力と復元部材55の復元力とによって、接触部18に押圧されている状態になる。
【0051】
当接板48が移動板51と離間する前後に拘わらず、各保持ユニット13の粘着パッド17の表面が保持対象物5に押圧されて粘着された後に、配置室22aに接続された真空排気装置24aによって、配置室22a内の真空排気が開始され、配置室22aの内部雰囲気である真空槽21の外部空間26の圧力は次第に低下する。
外部空間26の圧力が内部空間25の圧力以下まで低下すると、真空容器15の保持対象物5に対する真空吸着力は消滅する。
【0052】
粘着パッド17と保持対象物5との間の粘着力は、復元部材55の復元力による剥離力よりも大きいので、保持対象物5は粘着パッド17に粘着し、接触部18に密着した状態が維持される。
一枚の保持対象物5は、複数の粘着パッド17によって粘着保持されており、一枚の保持対象物5を粘着保持する複数の粘着パッド17の粘着力の合計値は、各復元部材55の復元力の合計値と、粘着保持された保持対象物5の重量による重力とを加算した力の値よりも大きくなっている。
従って、複数の粘着パッド17によって、保持対象物5を懸吊しても、保持対象物5が粘着パッド17から剥離して落下するようなことはない。
【0053】
一台乃至複数台の保持ユニット13は、連結板41によって、一緒に移動するようにされており、移動装置は保持装置11の上下を反転させる反転機構(不図示)を有している。
一台の保持装置11の各保持ユニット13が、保持対象物5が上方に配置されて保持対象物5を粘着保持している状態で、保持装置11が反転されると、保持対象物5は、各保持ユニット13の下方に位置し、保持装置11によって、懸吊された状態になる。図6(a)は、その状態を示している。
【0054】
上述したように、各保持ユニット13の真空容器15と吸着用排気装置42とは、排気配管43によって接続されている。その排気配管43の途中には、着脱装置40が設けられており、真空雰囲気にされた配置室22a内で、各保持ユニット13は着脱装置40によって、吸着用排気装置42に接続された排気配管43から分離され、吸着用排気装置42とは別個に移動できるようにされている。
【0055】
保持対象物5が粘着パッド17によって、粘着保持された後、着脱装置40によって、保持装置11が吸着用排気装置42から分離される前後で吸着用排気装置42による真空容器15の真空排気動作は停止するようにされており、保持装置11は、着脱装置40で吸着用排気装置42側の排気配管43から分離される。このとき、着脱装置40の少なくとも一部は、真空容器15に接続された排気配管43に取り付けられたままである。配置室22aの真空排気は継続して行われている。
【0056】
ここで、吸着用排気装置42から保持装置11が分離される前、又は、分離された後は、真空容器15に接続された排気配管43は、その排気配管43に残った着脱装置40の少なくとも一部によって閉塞されており、真空容器15の内部空間25は、外部空間26から分離されている。粘着パッド17から放出され、真空容器15の内部空間25に充満したガスは、排気孔14を通過して、真空容器15の外部に流出しないようにされている。
なお、着脱装置40とは別の部材によって、真空容器15が吸着用排気装置42から分離されたときには、真空容器15内の気体が排気孔14を通過して流出しないように構成してもよい。
【0057】
各真空容器15の開口19には、保持対象物5が配置され、接触部18に密着されており、従って、各真空容器15の内部空間25は、外部空間26から分離されている。真空容器15の内部空間25は、外部空間26と分離された状態で、保持対象物5は保持装置11によって懸吊された状態で、真空雰囲気中を移動できるようになる。
【0058】
処理室22bの内部は真空排気装置24bによって真空排気され、真空雰囲気にされており、配置室22aと処理室22bとの間の副ゲートバルブ27aを開け、吸着用排気装置42から分離され、保持対象物5を懸吊している保持装置11aは、配置室22aから処理室22bに移動される。開けられた副ゲートバルブ27aは閉じられる。
【0059】
処理室22bの内部には、懸吊された保持対象物5の表面を真空雰囲気中で処理する処理部23が設けられている。
この真空処理装置10では、処理部23は成膜源であり、薄膜を構成させる材料の微粒子(蒸気を含む)を放出し、懸吊され、下方を向く保持対象物5の表面に放出した微粒子を到達させて、保持対象物5の表面に薄膜を成長させる。
【0060】
符号11bは、処理室22b内を移動し、懸吊している保持対象物5を処理部23上に位置させた保持装置を示している。
処理部23は、微粒子は上方に向けて放出するようにされており、保持対象物5の真空処理される表面は下方に位置する処理部23に向けられている。
処理部23からの微粒子の放出により、保持対象物5の表面に微粒子が到達して薄膜を形成する真空処理が行われる。
【0061】
なお、保持装置11bは、保持対象物5を処理部23上で静止させずに、処理部23から微粒子を放出させた状態で、保持対象物5に処理部23上を通過させることで、保持対象物5の表面を真空処理してもよい。
【0062】
次に、分離室22cの内部は、真空排気装置24cによって真空排気され、真空雰囲気にされており、所定膜厚の薄膜が形成され、真空処理が終了すると、処理室22bと分離室22cとの間の副ゲートバルブ27bが開けられ、保持対象物5を保持した保持装置11bは、処理室22bから分離室22cに移動される。副ゲートバルブ27bは、移動後、閉じられる。
分離室22cの内部には、移動装置が有する反転機構(不図示)が配置されている。
【0063】
処理室22b内の保持装置11bは、分離室22c内に移動した後、保持対象物5を粘着保持した状態で回転され、保持対象物5は、保持装置11c上に配置された状態になる。この状態では、保持対象物5は保持装置11cに粘着保持されている。
【0064】
次に、保持対象物5を保持装置11cから分離させる手順について説明する。
図7(a)、(b)を参照し、粘着パッド17を移動させる移動装置は、回転機構59を有している。
【0065】
図7(a)に示すように、回転機構59は、二本のロッド59a、59bを有しており、二本のロッド59a、59bの一端は、移動板51の中央位置56を中心とした回転対称の位置で、ビス52a、52bによって、移動板51の表面に回転可能に取り付けられている。
【0066】
ロッド59a、59bは平行に配置され、その他端側は、回転機構59が有する回転装置59cに取り付けられており、回転装置59cが動作すると、ロッド59a、59bには、互いに逆方向に移動させようとする力が印加される。
【0067】
この力は、移動板51のロッド59a、59bが取り付けられた位置を逆向きに移動させようとする力であり、移動板51を、中央位置56を中心にして、同じ回転方向に回転させようとする回転力となる。
【0068】
支持棒52は移動板51と粘着パッド17の表面に対して垂直であり、支持棒52の中心軸線は、中央位置56を通っており、移動板51を回転させようとする回転力は、粘着パッド17を回転させようとする回転力になる。
【0069】
保持対象物5にも、粘着パッド17から回転力が印加されるが、接触部18は、真空容器15の縁上で移動しないようにされており、保持対象物5は粘着パッド17によって粘着保持された状態では、復元部材55の復元力によって接触部18によって押圧されており、接触部18と保持対象物5との間の静止摩擦力によって、保持対象物5は接触部18に対して静止した状態が維持される。
【0070】
粘着パッド17に回転力が印加されるときには、粘着パッド17には、復元部材55の復元力による底面方向へ移動させようとする剥離力が印加されており、その剥離力が印加された状態で回転力が印加されると、粘着パッド17と保持対象物5との間の粘着力は、回転力によって弱められ、粘着パッド17が真空容器15や接触部18に対して回転しながら、真空容器15の開口19や接触部18から離間する方向に移動することで、粘着パッド17は、保持対象物5に対して回転しながら剥離される(図6(b))。
移動板51と粘着パッド17の回転量は同じであり、図7(a)、(b)の符号50は、移動板51の回転量と方向を示すための指標である。
【0071】
支持棒52は、接触部18と保持対象物5とが接触する接触平面に対して垂直であり、このように、移動装置によって粘着パッド17に印加される力は、保持対象物5の表面、即ち、接触平面に対して垂直な方向の成分と、その接触平面と平行な平面内で回転する成分とに分けることができる。
【0072】
粘着パッド17と保持対象物5とが離間すると、保持対象物5を保持装置11cから分離することが可能になる。
図1の分離室22cの内部は真空排気されており、保持対象物5が接触部18から離間されると、真空容器15の内部空間25と、分離室22cの内部雰囲気とが接続され、真空容器15内に充満していた粘着パッド17からの放出ガスは、分離室22c内に放出され、真空排気されて分離室22cから除去される。
【0073】
後工程の真空槽282との間の主ゲートバルブ292が開けられ、後工程の真空槽282から分離室22c内にハンド312が挿入され、接触部18から離間された保持対象物5はハンド312上に移動され、保持対象物5は、ハンド312上に載せられて分離室22cから後工程の真空槽282に移動される。
【0074】
保持対象物5が分離された保持装置11cは、不図示の移動室を通って、配置室22aに戻る。配置室22a内の保持装置11aは、真空容器15に接続された排気配管43が、着脱装置40の部分で、吸着用排気装置42の排気配管43に接続され、真空排気が可能な状態になり、上記と同様に、保持対象物5が配置された後、懸吊して保持対象物5の真空処理が行われる。
【0075】
なお、保持対象物5に対して粘着パッド17を回転させながら離間させて、保持対象物5と粘着パッド17とを剥離させることにより、剥離の際の保持対象物5の撓みが生じにくく、また、回転させずに垂直に剥離させた場合に比べて、粘着パッド17の粘着力の低下が少ない、という効果がある。
【0076】
次に、本発明の他の保持装置を説明する。
図8は、本発明の第二例の保持装置112を示している。
第一例の保持装置11とは異なり、第二例の保持装置112では、複数の真空容器15の上部に連結板41aが設けられており、その連結板41aによって、複数の真空容器15が一緒に移動するように構成されている。連結板41aには、複数の貫通孔35が形成されており、複数の真空容器15と連結板41aとは、その貫通孔35と、真空容器15の開口19とが連通するように配置されている。
【0077】
この第二例では、貫通孔35と開口19は、同径にされ、貫通孔35の全周と開口19の全周とが重なり合うように配置されているが、少なくとも貫通孔35の一部の位置と、開口19の一部の位置とは、高さの相違を除いて重なり合っていて、粘着パッド17は、その重なり合った部分の内部又は下方に位置していればよい。
【0078】
真空容器15の上端部は、連結板41aの表面よりも下方に位置する場合と、連結板41aの表面と同じ高さに位置する場合とがあり、保持装置112の表面は平坦であり、連結板41aの表面又は、連結板41aの表面と真空容器15の上部表面とで構成されている。
【0079】
保持装置112の表面には、少なくとも、開口19と貫通孔35の高さ方向を除いて重なり合った部分を取り囲むようにして、リング状の溝36が形成されており、溝36の内部には、開口19と貫通孔35の重なり合った部分を取り囲んで、柔軟性を有する円形の接触部18aが配置されている。
【0080】
連結板41aのうち、溝36の外部側にはピン挿通孔33が配置されており、ピン挿通孔33よりも下方の位置から、細棒状のピン32が上昇し、ピン32の上端が、接触部18aの上端よりも上方に突き出されると、ピン32の上端に、保持対象物5を配置できる状態になる。
図8の保持装置112はその状態である。
【0081】
接触部18aの上端は、保持装置112の表面よりも高い位置に配置されており、粘着パッド17を降下させておき、ピン32を降下させると、図9に示すように、保持対象物5は接触部18a上に乗せられる。
【0082】
接触部18a上の保持対象物5は、接触部18aと接触しており、裏面の一部は、粘着パッド17とは非接触の状態で、真空容器15の内部空間25内に露出する。内部空間25に露出する部分は、粘着パッド17の表面が接触できるようになっている。
【0083】
このとき、外部空間26は大気圧の雰囲気にされており、第一例で説明したように、吸着用排気装置42によって各真空容器15の内部空間25の真空排気が開始されると、真空容器15の内部空間25は減圧され、外部空間26と内部空間25との圧力差により、保持対象物5が、真空容器15側に吸引されると、接触部18aが押圧され、厚みが小さくなる方向に変形する。
【0084】
接触部18aの柔軟性や厚さは、吸着用排気装置42の真空排気によって保持対象物5が押圧されると、接触部18aは、厚さが溝の深さ以下に変形可能な値に設定されており、図10に示すように、押圧されている保持対象物5は、保持装置112の表面にも接触する。
【0085】
このとき、保持対象物5は、接触部18aと接触する部分の面積よりも、保持装置112の表面に接触する部分の方が大きくなり、保持対象物5が接触部18aとだけ接触する場合よりも、保持対象物5が変形しないようになっている。
【0086】
粘着パッド17の表面は、保持装置112の表面の高さ以上の高さに上昇できるようにされており、粘着パッド17の表面が、吸着保持された保持対象物5の裏面に接触して押圧されると、保持対象物5は、粘着パッド17に粘着保持される。
【0087】
図11の符号113は、本発明の第三例の保持装置を示しており、この保持装置113の表面には溝が形成されておらず、保持装置113の表面上に柔軟性を有する接触部18bが配置されている。
保持対象物5を、接触部18bと接触させて接触部18b上に配置し、内部空間25を真空排気すると、保持対象物5は、真空吸着されて接触部18b上に保持される。
【0088】
この第三例の保持装置113では連結板41bの構造が簡単で、低コストである。図13(a)、(b)は、それぞれ、保持対象物5が配置されていないときの、第二例の保持装置112の平面図と、第三例の保持装置113の平面図である。
【0089】
次に、図12の符号114は、本発明の第四例の保持装置を示しており、図13(c)は、その平面図である。
この保持装置114は、第三例の保持装置113のリング状の接触部18bに替え、保持ユニット13の表面には密着シート39が接触部として配置されている。
【0090】
密着シート39には、開口19と貫通孔35の重なり合った部分の上方位置に、シート孔38が形成され、シート孔38と開口19と貫通孔35とはそれぞれ一部が重なり合い、粘着パッド17は、密着シート39の表面よりも低い位置と、密着シート39の表面以上の位置との間で移動できるようにされている。
【0091】
粘着パッド17の表面が、密着シート39の表面よりも低くなるように、粘着パッド17を降下させておき、密着シート39の表面に保持対象物5を配置すると、保持対象物5は密着シート39と接触し、保持対象物5の裏面の一部は、開口19と貫通孔35とシート孔38とを介して、内部空間25に露出されている。
保持対象物5の、内部空間25に露出する部分は、シート孔38を形成する、シート孔38周囲の密着シート39の環状の部分によって、取り囲まれ、内部空間25が閉塞するようにされている。
【0092】
上記各例と同じく、内部空間25の真空排気によって、保持対象物5は密着シート39に真空吸着され、粘着パッド17が上昇すると、粘着パッド17の表面が保持対象物5の裏面に接触し、保持対象物5は粘着パッド17に粘着保持される。
【0093】
なお、密着シート39には、ピン挿通孔33と連通する位置に、シート側ピン挿通孔34が形成されており、ピン32は、上端部が連結板41cの下方に位置する状態から、上方に移動されると、ピン挿通孔33とシート側ピン挿通孔34とを通って、上端部が、シート側ピン挿通孔34よりも上方位置に突き出せるように構成されている。
【0094】
以上第一〜第四例の保持装置111〜114では、一個の真空容器15には、一個の粘着パッド17が配置されて一個の保持ユニット13が形成されていたが、図14に示す第五例の保持装置115では、一個の真空容器65に、複数個の粘着パッド17が配置されて一個の保持ユニット13aが構成されている。
【0095】
この第五例の保持装置115では、真空容器65の縁上には、真空容器65の開口を取り囲むリング状の接触部18cが配置されている。
真空容器65の縁よりも内側の部分の粘着パッド17と粘着パッド17の間には、真空容器65の底面上に立設された複数の補助棒61が配置されている。
【0096】
補助棒61の側面は互いに離間しており、従って、各粘着パッド17が位置する雰囲気は互いに連通され、真空容器65の内部には、一個の内部空間25が形成されている。粘着パッド17はその内部空間25に配置されている。
【0097】
真空容器65の内周よりも大きな一枚の保持対象物5を、真空容器65の縁と保持対象物5とで接触部18cを挟むようにして接触部18c上に載置すると、保持対象物5は、真空容器65に乗せられる。
真空容器65の壁面又は底面には、排気孔14が設けられており、内部空間25は、排気孔14と排気配管43とによって、真空槽21の外部に配置された吸着用排気装置42に接続されている。
【0098】
保持対象物5が、真空容器65の縁上で接触部18cと接触している状態で、真空容器65内が真空排気されると、保持対象物5は真空容器65に真空吸着され、接触部18cは保持対象物5によって押圧されて潰され、保持対象物5は下方に微少量移動する。
【0099】
このとき、真空容器65の縁よりも内側の位置では、保持対象物5の裏面は、補助棒61の先端と接触し、補助棒61によって支持されて撓まないようになっている。
粘着パッド17が保持対象物5の裏面に密着している状態では、真空吸着が停止されても、支持棒52と粘着パッド17とを介して、保持対象物5は粘着保持されるようになっている。
【0100】
剥離の際には、同じ保持対象物5に接触された粘着パッド17が回転しながら、又は直線的に降下する。
真空容器65の外周には、リング状の補助板41dが設けられており、保持対象物5の縁部分は、補助板41d上に位置している。補助板41dにはピン挿通孔33が設けられており、ピン挿通孔33の真下位置にはピン32が配置されており、ピン32の上下移動によって、ピン32の先端がピン挿通孔33内を上下移動できるようにされている。
【0101】
粘着パッド17が保持対象物5から離間された後、ピン32が上昇すると、保持対象物5をピン32上に乗せることができる。また、保持対象物5が乗せられたピン32を降下させると、保持対象物5を、真空容器65の縁上に配置することができる。
【0102】
なお、粘着パッド17の材質と構成と動作とは第四例の保持装置114と同じであり、移動装置が粘着パッド17を移動させる方向である移動方向は、保持装置115の表面のうち、保持対象物5と接触する部分が位置する接触平面に対して垂直な方向の移動成分を有するようにされている。
【0103】
また、第五例の保持装置115のリング状の接触部18cを密着シート39に替えることもできる。
【符号の説明】
【0104】
5……保持対象物
10……真空処理装置
11、11a、11b、11c……保持装置
13、13a……保持ユニット
14……排気孔
15、65……真空容器
17……粘着パッド
18、18a、18b、18c……接触部
19……開口
21……真空槽
25……内部空間
26……外部空間
38……シート孔
39……密着シート(接触部)
40……着脱装置
59……回転機構

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14