特許第6420130号(P6420130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420130
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】ポリエステル系繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/84 20060101AFI20181029BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   D01F6/84 301Z
   D03D15/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-243617(P2014-243617)
(22)【出願日】2014年12月2日
(65)【公開番号】特開2016-108670(P2016-108670A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】河角 慎也
(72)【発明者】
【氏名】中塚 均
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴志
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−234429(JP,A)
【文献】 特開2002−115121(JP,A)
【文献】 特開平05−086507(JP,A)
【文献】 特開2002−153304(JP,A)
【文献】 特開平09−268435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−8/18
D03D 1/00−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル重合体成分(a)と、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAを少なくとも2個とオレフィン系エラストマーからなる重合体ブロックBを少なくとも1個有するブロック共重合体成分(b)と、を含有するポリエステル系共重合体であって、下記の(1)〜(3)のすべての条件を満足するポリエステル系共重合体(I)、からなり、繊維の断面形状が異形断面であるポリエステル系繊維。
(1)ブロック共重合体成分(b)における重合体ブロックAの含有率が5〜50重量%である。
(2)重合体ブロックBのガラス転移温度が−20℃以下で、かつ結晶融解熱が8cal/g以下である。
(3)成分(a)と成分(b)との重量比が(a)/(b)=99/1〜80/20である。
【請求項2】
ポリエステル重合体成分(a)の290℃における溶融粘度が700〜3000poiseであることを特徴とする、請求項1に記載のポリエステル系繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリエステル系繊維を含有する繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル重合体成分および芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体成分を含有するポリエステル系繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリエステル繊維は衣料用途で広く使用されているが、婦人用衣料の分野では、風合い改善の要望が強く、繊維に無機微粒子を配合させることで微細な凹凸を形成させドライタッチな風合いを付与したり、発色性を高めたりする技術が提案されている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらの技術では、繊維表面の微粒子が脱落するため、長時間の効果が得られないという問題があった。
また、変性ポリエステルと未変性ポリエステルを混合紡糸し、減量加工することによって発色性を向上する方法が特許文献4や特許文献5に提案されている。しかしながら、これら繊維は耐フィブリル性が不良で、フィブリル化により発色性も低下するという課題を有していた。
また、ポリエチレンとの接着性のあるポリエステル繊維としては接着ポリマーを使用する方法が特許文献6において提案されている。しかしながら、これらの技術では、接着性は良好でも、発色性やドライタッチな風合いが不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭54−120728号公報
【特許文献2】特開昭55−51819号公報
【特許文献3】特開昭55−107512号公報
【特許文献4】特公平2−50230号公報
【特許文献5】特開平7−189027号公報
【特許文献6】特開昭57−128216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来技術では達成できなかった、発色の劣化が少なく優れた光沢感を有し、ドライ感のある独特な風合いを有し、且つポリエチレン製品との優れた接着性を有するポリエステル系繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、ポリエステル重合体成分と特定の組成を有するブロック共重合体成分とを含有するポリエステル系共重合体を繊維形成樹脂として得られるポリエステル系繊維が、目的とする性能を有することを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、ポリエステル重合体成分(a)と、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAを少なくとも2個とオレフィン系エラストマーからなる重合体ブロックBを少なくとも1個有するブロック共重合体成分(b)と、を含有するポリエステル系共重合体であって、下記の(1)〜(3)のすべての条件を満足するポリエステル系共重合体(I)、からなり、繊維の断面形状が異形断面であるポリエステル系繊維である。
(1)ブロック共重合体成分(b)における重合体ブロックAの含有率が5〜50重量%である。
(2)重合体ブロックBのガラス転移温度が−20℃以下で、かつ結晶融解熱が8cal/g以下である。
(3)成分(a)と成分(b)との重量比が(a)/(b)=99/1〜80/20である。
【0007】
また、本発明のポリエステル系繊維は、ポリエステル重合体成分(a)の290℃における溶融粘度が700〜3000poiseであることを特徴とすることが好ましい。
【0008】
さらに、本発明は、前記ポリエステル系繊維を含有する繊維構造物を包含する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた光沢感および、ドライ感のある独特な風合いを有し、かつポリエチレン製品との接着性に優れたポリエステル系繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル系繊維は、ポリエステル系共重合体(I)を繊維形成樹脂とすることにより得られ、ポリエステル系共重合体(I)は、ポリエステル重合体成分(a)と、特定の組成を有するブロック共重合体成分(b)とを含有する。
【0011】
(ポリエステル重合体成分(a))
本発明におけるポリエステル系共重合体(I)の一成分を構成するポリエステル重合体成分(a)としては、熱可塑性のポリエステル系樹脂であれば特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリブチレンナフタレート系樹脂、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート系樹脂、ポリカプロラクトン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸系ポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂などを挙げることができる。
【0012】
本発明で用いられるポリエステル重合体成分(a)は、全構造単位に基づいて20モル%以下であれば、必要に応じて基本構造を構成するジカルボン酸単位以外の他のジカルボン酸単位、および/または基本構造を構成するジオール単位以外の他のジオール単位を有していてもよい。ポリエステル重合体成分(a)が含み得る他のジカルボン酸単位の例としては、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウムなどの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;およびそれらのエステル形成性誘導体(メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル等)などから誘導されるジカルボン酸単位を挙げることができる。ポリエステル重合体成分(a)は、上記したジカルボン酸単位の1種のみを有していても、または2種以上を有していてもよい。
【0013】
また、ポリエステル重合体成分(a)が含み得る他のジオール単位の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオール、1,5−ペンタンジオールなどの炭素数2〜10の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量6000以下のポリアルキレングリコールなどから誘導されるジオール単位を挙げることができる。ポリエステル重合体成分(a)は、上記のジオール単位の1種のみを有していても、または2種以上を有していてもよい。
【0014】
更に、ポリエステル重合体成分(a)は全構造単位に基づいて1モル%以下であれば、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上のモノマーから誘導される構造単位を有していてもよい。
【0015】
また、本発明で用いるポリエステル重合体成分(a)は、290℃における溶融粘度が700〜3000poiseの範囲にあるのが好ましい。溶融粘度が700poise未満であると繊維強度が劣るため好ましくない、また溶融粘度が3000poiseを超えると紡糸時の曳糸性が極端に悪化するため好ましくない。なお、前記溶融粘度は、後述する実施例に記載の測定方法により算出されるものである。
【0016】
(ブロック共重合体成分(b))
本発明におけるポリエステル系共重合体(I)に含有されるブロック共重合体成分(b)は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAを少なくとも2個と、オレフィン系エラストマーからなるブロックを少なくとも1個有するブロック共重合体(以下、単に「芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体」と称することがある)からなることが重要である。また、ブロック共重合体成分(b)において、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの含有率が5〜50重量%の範囲にあり、該オレフィン系エラストマーからなる重合体ブロックBのガラス転移温度が−20℃以下でかつ結晶融解熱が8cal/g以下であるブロック共重合体であることが重要である。以下、詳細を説明する。
【0017】
重合体ブロックAを構成する芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−及びp−メチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、あるいは二種類以上を併用してもよい。前記ブロック共重合体成分(b)における芳香族ビニル化合物の含有率は5〜50重量%であることが必要である。芳香族ビニル化合物の含有率がこの範囲を逸脱すると十分なゴム弾性を有するブロック共重合体成分(b)が得られない。
【0018】
一方、オレフィン系エラストマーからなる重合体ブロックBは、ブロック共重合体成分のソフトセグメントであり、そのガラス転移温度は−20℃以下であり、かつ結晶融解熱は8cal/g以下である必要がある。ガラス転移温度が−20℃を超える場合、得られるブロック共重合体成分(b)のゴム弾性が不十分となり適さない。また、結晶融解熱が8cal/gを超える場合、得られるブロック共重合体成分(b)の低温での柔軟性が不十分となり適さない。
【0019】
上記の条件を満足するオレフィン系エラストマーからなる重合体ブロックBとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンもしくはこれらの混合物の重合体の水素添加物のほか、イソブチレンもしくはα−オレフィンの重合体が挙げられる。
【0020】
前記オレフィン系エラストマーからなる重合体ブロックBの好ましい例は、1,3−ブタジエン、イソプレンもしくはこれらの混合物の重合体の水素添加物である。該重合体ブロックが1,3−ブタジエンの重合体の水素添加物である場合、その構造はエチレン−ブチレンランダム共重合体となり、該重合体ブロックがイソプレンの重合体の水素添加物である場合、その構造はエチレン・プロピレン交互共重合体となり、該重合体ブロックが1,3−ブタジエンとイソプレンとの混合物の重合体の水素添加物である場合、その構造はエチレン−エチレン・プロピレンランダム共重合体となる。
【0021】
また、上記の重合体ブロックBが共役ジエンの重合体の水素添加物の場合、共役ジエンに基づく脂肪族二重結合の少なくとも70%が飽和されているのがよい。脂肪族二重結合の飽和度が70%に満たない場合、得られるブロック共重合体成分(b)の熱老化性が十分でないことがあり好ましくない。また、重合体ブロックBが共役ジエンの重合体の水素添加物の場合、ビニル結合量が50%以下であるのがよい。ビニル結合量が50%を超えると、得られるブロック共重合体成分(b)の低温特性が劣ることがあり好ましくない。
【0022】
ブロック共重合体成分(b)の分子量については特に制限はないが、一般的には10,000〜1,000,000の範囲内であり、特に好ましいのは20,000〜300,000の範囲内である。
【0023】
ブロック共重合体成分(b)の分子構造は、直鎖状、分岐状あるいはこれらの任意の組合せのいずれであってもよい。また、このブロック共重合体成分(b)は、その特性が失われない限り、変性のため、分子末端又は分子鎖中に水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、ハロゲン等の極性基が導入されていてもよい。
【0024】
ブロック共重合体成分(b)を得る方法には特に制限はなく、アニオン重合により得られた重合体を水素添加する方法、カチオン重合などのイオン重合法、チーグラー重合法、シングルサイト重合法、ラジカル重合法などのいずれの方法を用いてもよい。
【0025】
(ポリエステル系共重合体(I))
本発明におけるポリエステル系共重合体(I)は、前述したように、ポリエステル重合体成分(a)と芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体成分(b)とを用いることにより得られる。その製造方法は特に制限されず、両者を均一に混合させ得る方法であればいずれでもよく、前記2種類の重合体を、必要に応じて他の成分と共に溶融混練することによって製造することができる。例えば、ポリエステル重合体(a)および芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体(b)を溶融条件下で混練することによって、ポリエステル系共重合体(I)を得ることができる。溶融混練は、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどの混練機を使用して行うことができ、その際に使用する装置の種類や溶融混練条件などは特に限定されないが、概ね240〜300℃の範囲の温度で1〜30分間混練することにより、本発明の繊維を構成するポリエステル組成物を得ることができる。
【0026】
本発明のポリエステル系共重合体(I)において、ポリエステル重合体成分(a)および芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーからなるブロック共重合体成分(b)の重量比が(a)/(b)=99/1〜80/20であることが必要である。ブロック共重合体成分(b)の重量比が1未満であると発色性、光沢感、ドライ感な風合い、ポリエチレン製品との接着性が劣ることとなる。また、ブロック共重合体成分(b)の重量比が15を超えると、紡糸時の曳糸性が極端に悪化するため適さない。
【0027】
本発明のポリエステル系共重合体(I)は、その性質を損なわない範囲で、ブロック共重合体成分(b)の変性物、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂などを配合することができるほか、プロセスオイル、低分子量ポリエチレン、ポリエチレングリコールなどの可塑剤を配合することもできる。さらに、コストの低減を目的として、無機充填材を添加することもできる。無機充填材の具体例としては、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、酸化チタンなどが例示される。
【0028】
さらに、本発明のポリエステル系共重合体(I)はその改質を目的として、必要に応じて、ガラス繊維、カーボン繊維、熱老化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、発泡剤、相溶化剤などを添加することができる。
【0029】
(ポリエステル系繊維)
本発明のポリエステル系繊維は、前述したように、ポリエステル系共重合体(I)を繊維形成樹脂として用いることにより得られる。その製造は、公知の溶融紡糸装置を用いることができる。例えば、溶融押出機でポリエステル重合体成分(a)および芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体成分(b)を含有するポリエステル系共重合体(I)のペレットを溶融混練し、溶融ポリマー流を紡糸頭に導きギヤポンプで計量し、紡糸ノズルから吐出させた糸条を巻き取ることで得られる。
【0030】
前記製造方法において、紡糸ノズルから吐出された糸条は延伸せずにそのまま高速で巻き取るか必要に応じて延伸される。延伸は破断伸度(HDmax)×0.55〜0.9倍の延伸倍率でガラス転移点(Tg)以上の温度で延伸される。延伸倍率がHDmax×0.55未満では十分な強度を有する繊維が安定して得られず、HDmax×0.9を越えると断糸しやすくなる。延伸は紡糸ノズルから吐出された後に一旦巻き取ってから延伸する場合と、延伸に引き続いて施される場合があるが、本発明においてはいずれでもよい。延伸は通常熱延伸され、熱風、熱板、熱ローラー、水浴等のいずれを用いて行ってもよい。また、引取り速度は、一旦巻き取ってから延伸処理を行う場合、紡糸直結延伸の一工程で紡糸延伸して巻き取る場合、延伸を行わずに高速でそのまま巻き取る場合で異なるが、大凡500m/分〜6000m/分の範囲で引き取る。500m/分未満では生産性の点から好ましくない。一方、6000m/分を超えるような超高速では、繊維の断糸が起こりやすい。
【0031】
また、繊維の断面形状にも注意を払うことが好ましい。すなわち、通常の繊維は丸断面であるが、より比表面積の大きい繊維となすには異形断面にすることが好ましい。異形断面とすることにより、比表面積が増大するので、接着性能がさらに向上する。異形断面の具体例としてはT字形、U字形、V字形、H字形、Y字形、W字形、3〜14葉形、多角形等を挙げることができるが、本発明においてはこれらの形状に限定されるものではない。また、中実繊維であっても中空繊維であってもよい。なお、該異形断面を有する繊維は直接紡糸によって製造することもできる
【0032】
本発明のポリエステル系繊維は、必要に応じて、相溶化剤、酸化防止剤、熱分解防止剤、紫外線吸収剤、結晶化核剤、結晶化促進剤、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、上記以外のポリマー(例えばポリスチレン、ABS、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン等の有機ポリシロキサンなど)などの1種または2種以上を含有していてもよい。
【0033】
本発明のポリエステル系繊維を含む繊維構造物の構造は特に限定されない。例えば、綿状体(繊維マット)であってもよいし、また例えば、織編物、不織布などの布帛あるいは紙などの、シート状の繊維構造物であってもよい。あるいは、本発明の繊維を細断した繊維粉状体の集合体であってもよい。繊維構造物は、本発明のポリエステル系繊維に加え、他の繊維を含むものであってもよい。例えば、本発明のポリエステル系繊維と、他の繊維の混合物として、布帛や綿状体を形成してもよい。あるいは、本発明のポリエステル系繊維を含む一以上の層と、必要に応じ、他の繊維からなる一以上の層を積層した積層体としてもよい。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されない。なお、以下の実施例および比較例において、繊維の強度、伸度、紡糸工程性、溶融粘度、風合い、光沢感、接着性の評価は次のようにして行った。
【0035】
[繊維強度および伸度]
JIS L1013に準拠して測定した。
【0036】
[紡糸工程性]
6時間紡糸した際の毛羽・断糸の発生状況に基づき、下記の3段階で紡糸工程性を評価した。
○:毛羽・断糸の発生なく良好
△:断糸はなく、毛羽の発生が僅かに認められる
×:断糸が発生
【0037】
[溶融粘度]
東洋精機製作所社製キャピログラフ1C PMD−Cを用いて、290℃、剪断速度1000sec−1の条件で測定した。
【0038】
[風合い]
官能試験により、最もドライ感の良好な「◎」から最もドライ感の劣る「×」まで(◎、○、△、×)の4段階で評価した。
◎:非常に優れている
○:優れている
△:やや不良
×:不良
【0039】
[光沢感]
目視により、最も良好な光沢を有する「◎」から光沢の不良な「×」まで(◎、○、△、×)の4段階で評価した。
◎:非常に優れている
○:優れている
△:やや不良
×:不良
【0040】
[接着性]
繊維からなる編み物とポリエチレンフィルム(Z)とを、卓上用テストプレス機(神藤金属社製)を用いて220℃でプレスし接着した。得られた編物とポリエチレンフィルムの積層体を幅40mmにカットし、テンシロン(エー・アンド・デイ社製)において、2箇所のチャックに試料の引裂く箇所の端部を挟み、試験速度100mm/minで剥離強力を測定し、接着性を評価した。
なお、ポリエチレンフィルム(Z)は、卓上用テストプレス機(神藤金属社製)を用いて、日本ポリエチレン社製「ノバテックHD HJ490」を180℃で溶融プレスすることで得られる、縦25mm、横25mm、厚さ0.1mmのフィルムを用いた。
【0041】
以下の実施例、比較例および/または参考例では、ポリエステル重合体成分(a)、および芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体成分(b)として下記のものを使用した。
【0042】
[ポリエステル重合体(a)]
テレフタル酸とエチレングリコールを重縮合し、溶融粘度の異なる3種のポリエチレンテレフタレートを作成し使用した。溶融粘度1000poise、1500poise、2000poiseのポリエチレンテレフタレートを、それぞれPET1、PET2、PET3と表記する。
【0043】
[芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体(b)]
撹拌装置付き耐圧容器中にシクロヘキサン3,000g、充分に脱水したスチレン50g及びsec−ブチルリチウム0.01molを加え、60℃で60分間重合し、ついでイソプレンを200g加えて60分間、ついでスチレン50gを加えて60分間重合し、スチレン−イソプレン−スチレン型ブロック共重合体を合成した。得られたブロック共重合体はスチレン含有量33%、数平均分子量3.5万であった。このポリマー溶液に1重量%/ポリマーのパラジウム触媒を加え、50kg/cmの水素雰囲気下で水添反応を行い、水添率90%のブロック共重合体を得た。これをSEPS−1と表記する。
【0044】
これと同様にして、sec−ブチルリチウム0.01molを加え、60℃で60分間重合し、ついでイソプレン/ブタジエン=50/50重量比の混合モノマーを200g加えて60分間、ついでスチレン50gを加えて60分間重合し、スチレン−イソプレン/1,3−ブタジエン−スチレン型ブロック共重合体を合成した。同様に水添反応を行い、水添率98%のブロック共重合体を得た。これをSEEPS−1と表記する。
【0045】
さらに、同様にして、sec−ブチルリチウム0.01molを加え、60℃で60分間重合し、テトラヒドロフランを6g添加し、1,3−ブタジエンを200g加えて60分間、ついでスチレン50gを加えて60分間重合し、スチレン−ブタジエン−スチレン型ブロック共重合体を合成した。同様に水添反応を行い、水添率98%のブロック共重合体を得た。これをSEBS−1とする。
以上の芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体(b)における、オレフィン系エラストマーからなる重合体ブロックBのガラス転移温度及び結晶融解熱を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
比較例1)
ポリエステル重合体成分(a)としてPET1を、芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体成分(b)としてSEPS−1を用い、各成分の重量比(a)/(b)=98/2として溶融押し出し機を用いて290℃で溶融混練し、溶融したポリマー流を紡糸頭に導き、ギヤポンプで計量し、孔径0.25mm、ホール数24のノズルから吐出させ800m/分の速度で6時間巻き取った(せん断速度8,200sec−1)。得られた紡糸原糸をホットローラー温度100℃、ホットプレート温度140℃で2倍(HDmax×0.7に相当)にローラープレート延伸し、84dtex/24fのポリエステル系繊維のフィラメントを得た。得られた繊維の各評価を表2に示した
【0048】
比較例2〜3)
ポリエステル重合体成分(a)および芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体成分(b)の重量比を表2に記載するように変更した以外は比較例1と同様の手法で紡糸して、84dtex/24fのポリエステル系繊維フィラメントを得た。得られた繊維の各評価は表2に示す通りであった。
【0049】
比較例4〜7)
ポリエステル重合体成分(a)および/または芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体成分(b)の種類を表2に記載するように変更した以外は比較例1と同様の手法で紡糸して、84dtex/24fのポリエステル系繊維のフィラメントを得た。得られた繊維の各評価は表2に示す通りであった。
【0050】
(実施例
繊維断面形状を表2に示すように変更した以外は比較例1と同様の手法で紡糸して、84dtex/24fのポリエステル系繊維のフィラメントを得た。得られた繊維の各評価は表2に示す通りで、いずれも良好な結果であった。
【0051】
(比較例
芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体成分(b)を使用せずにポリエステル重合体(a)のみを使用したこと以外は比較例1と同様の手法で紡糸して、84dtex/24fのポリエステル系繊維のフィラメントを得た。得られた繊維の各評価は表2に示す通りで、風合い、光沢感、接着性が劣る結果となった。
【0052】
(比較例11
ポリエステル重合体成分(a)および芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体成分(b)の重量比を表2に記載するように変更した以外は比較例1と同様の手法で紡糸して、84dtex/24fのポリエステル系繊維のフィラメントを得た。
比較例では、芳香族ビニル化合物−オレフィン系エラストマーブロック共重合体(b)の量が少ないためドライ感、光沢感、接着性が劣る結果となった。一方、比較例10では、ブロック共重合体(b)の量が多いために紡糸時の曳糸性が極端に悪化し、繊維を得られなかった。また、比較例10よりブロック共重合体成分(b)の量を減らした比較例11でも、ブロック共重合体(b)の量が20重量%を超えるために繊維強度、紡糸工程性が劣る結果となった。
【0053】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリエステル系繊維は、優れた光沢感および、ドライ感のある独特な風合いを有し、かつポリエチレン製品との接着性に優れるため、衣料用素材のみならず生活資材素材として有用である。