(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ビニルアルコール系重合体フィルムに含まれるビニルアルコール系重合体が、構造単位(1)および構造単位(2)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位を含む、請求項1に記載のビニルアルコール系重合体フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のPVAフィルムは、60℃で1時間処理した後にパルスNMR測定(観測核:
1H)することによって得られるスピン−スピン緩和時間T
2から結晶成分量(a
1)、拘束非晶成分量(a
2)および非晶成分量(a
3)を求めた際に、結晶成分量(a
1)、拘束非晶成分量(a
2)および非晶成分量(a
3)の合計に対する結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の合計の占める割合が10〜32%の範囲内にある。
【0022】
パルスNMRは、有機化合物の構造決定などにおいて汎用されるような高分解能NMRとは異なり、系内の分子運動性と関連した
1H核の各緩和時間を測定することができるとともに、その高い定量性を利用して、系内における各運動成分の存在割合を求めることができる分析法である。本発明においては、PVAフィルムにおける結晶成分量(a
1)、拘束非晶成分量(a
2)および非晶成分量(a
3)を求めるにあたり、
1Hのスピン−スピン緩和時間T
2を用いる。具体的には、
1Hのスピン−スピン緩和時間T
2の測定において得られる自由誘導減衰(FID)信号が下記式(4)に近似的にあてはまるように、いずれも正の値であるa
1、a
2、a
3、a
4、c
1、c
2およびc
3を求める。当該あてはめ(フィッティング)は線形最小二乗法を用いて行うことが好ましい。得られた各値のうち、a
1が上記結晶成分量(a
1)に該当し、a
2が上記拘束非晶成分量(a
2)に該当し、a
3が上記非晶成分量(a
3)に該当する。パルスNMR測定する際の具体的な各条件としては、実施例において後述する各条件をそれぞれ採用することができる。
【0024】
パルスNMR測定するにあたっては、測定対象となるPVAフィルムを予め60℃で1時間処理する。60℃で1時間処理した後における結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の割合を求めることにより、本発明の効果(耐久性等)により密接に関連した上記成分割合を求めることができる。当該処理は、測定対象となるPVAフィルムを水中に浸漬した状態で行うことができ、特に当該処理後のPVAフィルムをそのままパルスNMR測定に供することができることから、NMRチューブ中などにおいてPVAフィルムを重水中に浸漬した状態で行うことが好ましい。当該処理のより具体的な処理方法ないし条件としては、実施例において後述する方法を採用することができる。
【0025】
本発明のPVAフィルムは、60℃で1時間処理した後にパルスNMR測定(観測核:
1H)することによって得られるスピン−スピン緩和時間T
2から結晶成分量(a
1)、拘束非晶成分量(a
2)および非晶成分量(a
3)を求めた際に、結晶成分量(a
1)、拘束非晶成分量(a
2)および非晶成分量(a
3)の合計に対する結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の合計の占める割合が10〜32%の範囲内にあることが必要である。当該割合が10%未満であると、そのPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの耐久性が悪化する。一方、当該割合が32%を超えると、そのPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの色相が低下する。本発明を何ら限定するものではないが、この理由としては、使用される二色性色素の状態に及ぼす影響が上記各成分ごとに異なっていることなどが考えられ、上記割合を調整することが本発明の効果において極めて重要であると推測される。結晶成分量(a
1)、拘束非晶成分量(a
2)および非晶成分量(a
3)の合計に対する結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の合計の占める割合は、得られる光学フィルムの色相や耐久性などの観点から、10.5%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、また、31.5%以下であることが好ましく、31%以下であることがより好ましい。
【0026】
得られる光学フィルムの耐久性をより向上させることができることなどから、PVAフィルムは拘束非晶成分を有することが好ましく、特にPVAフィルムは、結晶成分量(a
1)、拘束非晶成分量(a
2)および非晶成分量(a
3)の合計に対する拘束非晶成分量(a
2)の占める割合が5%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましい。
【0027】
PVAフィルムに含まれるPVAの種類に特に制限はないが、結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の割合が上記範囲を満たすPVAフィルムが容易に得られることから、PVAフィルムに含まれるPVAは、下記式(1)で示される構造単位(1)、下記式(2)で示される構造単位(2)および下記式(3)で示される構造単位(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位を含み、構造単位(1)〜(3)の含有率をそれぞれn
1〜n
3モル%とし、ビニルエステル単位の含有率をn
4モル%とした際に、0.6≦n
1+n
2+2×n
3+n
4≦1.4を満たすことが好ましい。
【0029】
[式中、R
1は、水素原子、メチル基またはエチル基を示す。]
【0031】
[式中、R
2は、水素原子、メチル基またはエチル基を示し、X
2は、1個以上の水酸基を有する炭素数2以上のヒドロキシアルキル基を示す。]
【0033】
[式中、X
3およびX
4は、それぞれ独立して、1個以上の水酸基を有する炭素数1以上のヒドロキシアルキル基を示す。]
【0034】
式(1)で示される構造単位において、R
1は、水素原子、メチル基またはエチル基を示す。結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の割合が上記範囲を満たすPVAフィルムがより得られやすくなることなどから、R
1はメチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0035】
式(2)で示される構造単位において、R
2は、水素原子、メチル基またはエチル基を示す。結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の割合が上記範囲を満たすPVAフィルムがより得られやすくなることなどから、R
2は水素原子またはメチル基であることが好ましい。
【0036】
式(2)で示される構造単位において、X
2は、1個以上の水酸基を有する炭素数2以上のヒドロキシアルキル基を示す。結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の割合が上記範囲を満たすPVAフィルムがより得られやすくなることなどから、当該ヒドロキシアルキル基の炭素数は、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましく、また、当該ヒドロキシアルキル基が有する水酸基の数は1個または2個であることが好ましい。当該ヒドロキシアルキル基の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシ−1−メチルエチル基、2−ヒドロキシ−1−メチルエチル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル基、3−ヒドロキシ−2−メチルプロピル基、5−ヒドロキシペンチル基、8−ヒドロキシオクチル基、1,2−ジヒドロキシエチル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基などが挙げられる。これらの中も、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、5−ヒドロキシペンチル基、1,2−ジヒドロキシエチル基が好ましく、1,2−ジヒドロキシエチル基がより好ましい。
【0037】
式(3)で示される構造単位において、X
3およびX
4は、それぞれ独立して、1個以上の水酸基を有する炭素数1以上のヒドロキシアルキル基を示す。結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の割合が上記範囲を満たすPVAフィルムがより得られやすくなることなどから、当該ヒドロキシアルキル基の炭素数は、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましく、また、当該ヒドロキシアルキル基が有する水酸基の数は、当該ヒドロキシアルキル基の炭素数にもよるが、1個または2個であることが好ましい。当該ヒドロキシアルキル基の具体例としては、例えば、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシ−1−メチルエチル基、2−ヒドロキシ−1−メチルエチル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル基、3−ヒドロキシ−2−メチルプロピル基、8−ヒドロキシオクチル基、1,2−ジヒドロキシエチル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基などが挙げられる。これらの中も、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、1,2−ジヒドロキシエチル基が好ましく、ヒドロキシメチル基がより好ましい。X
3およびX
4は、互いに同じであっても異なっていてもどちらでもよく、同じであることが好ましい。
【0038】
上記例示のPVAとしては、例えば、構造単位(1)を含み構造単位(2)および(3)を含まないもの;構造単位(2)を含み構造単位(1)および(3)を含まないもの;構造単位(3)を含み構造単位(1)および(2)を含まないもの;構造単位(1)および(2)を含み構造単位(3)を含まないもの;構造単位(1)および(3)を含み構造単位(2)を含まないもの;構造単位(2)および(3)を含み構造単位(1)を含まないもの;構造単位(1)〜(3)のいずれをも含むものなどが挙げられ、製造の容易さなどを考慮すると、構造単位(1)を含み構造単位(2)および(3)を含まないもの;構造単位(2)を含み構造単位(1)および(3)を含まないもの;または、構造単位(3)を含み構造単位(1)および(2)を含まないものが好ましい。
【0039】
また原料の入手性などの観点からは、PVAフィルムに含まれるPVAは構造単位(3)を含まないものが好ましい。このような観点からは、上記例示のPVAとしては、構造単位(1)を含み構造単位(2)および(3)を含まないもの;構造単位(2)を含み構造単位(1)および(3)を含まないもの;または、構造単位(1)および(2)を含み構造単位(3)を含まないものが好ましい。
【0040】
また上記例示のPVAは、ビニルエステル単位を含んでいても含んでいなくてもどちらでもよいが、製造の容易さなどを考慮すると、ビニルエステル単位を含んでいることが好ましい。当該ビニルエステル単位としては、典型的には後述するような、PVAの製造に用いられるビニルエステル系単量体に由来する構造単位が挙げられる。
【0041】
上記例示のPVAは、構造単位(1)〜(3)の含有率をそれぞれn
1〜n
3モル%とし、ビニルエステル単位の含有率をn
4モル%とした際に、0.6≦n
1+n
2+2×n
3+n
4≦1.4を満たす。n
1+n
2+2×n
3+n
4の値が0.6モル%以上であることにより、そのPVAを含むPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの色相が向上する。一方、n
1+n
2+2×n
3+n
4の値が1.4モル%以下であることにより、そのPVAを含むPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの耐久性が向上する。得られる光学フィルムの色相や耐久性などの観点から、n
1+n
2+2×n
3+n
4の値は0.63モル%以上であることが好ましく、0.65モル%以上であることがより好ましく、また、1.38モル%以下であることがより好ましく、1.35モル%以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、構造単位とは重合体を構成する繰り返し単位のことをいい、構造単位(1)〜(3)の含有率は、それぞれ、PVAを構成する全構造単位のモル数に対する構造単位(1)〜(3)のモル数の占める割合を意味し、ビニルエステル単位の含有率はPVAを構成する全構造単位のモル数に対するビニルエステル単位のモル数の占める割合を意味する。
【0042】
上記例示のPVAにおいて、ビニルエステル単位の含有率は、n
1+n
2+2×n
3+n
4の値が上記範囲にある限り特に制限されないが、結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の割合が上記範囲を満たすPVAフィルムがより得られやすくなることや製造の容易さなどを考慮すると、1.35モル%以下であることが好ましく、1.3モル%以下であることがより好ましく、1モル%以下であることがさらに好ましく、0.5モル%以下、さらには0.3モル%以下であってもよく、また、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、0.1モル%以上であることがさらに好ましい。
【0043】
上記例示のPVAの製造方法は特に限定されない。例えば、ビニルエステル系単量体と、それと共重合可能でありかつ構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合し、得られたビニルエステル系共重合体のビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換し、さらに構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換可能な不飽和単量体に由来する構造単位を構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換する方法が挙げられる。構造単位(1)に変換可能な不飽和単量体としては、例えば、下記式(5)で示される不飽和単量体が挙げられる。構造単位(2)に変換可能な不飽和単量体としては、例えば、下記式(6)で示される不飽和単量体が挙げられる。構造単位(3)に変換可能な不飽和単量体としては、例えば、下記式(7)で示される不飽和単量体が挙げられる。
【0045】
[式中、R
1は、水素原子、メチル基またはエチル基を示し、Y
1は、ヒドロメチル基または当該ヒドロキシメチル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基を示す。]
【0047】
[式中、R
2は、水素原子、メチル基またはエチル基を示し、Y
2は、1個以上の水酸基を有する炭素数2以上のヒドロキシアルキル基または当該ヒドロキシアルキル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基を示す。]
【0049】
[式中、Y
3およびY
4は、それぞれ独立して、1個以上の水酸基を有する炭素数1以上のヒドロキシアルキル基または当該ヒドロキシアルキル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基を示す。]
【0050】
式(5)において、R
1に関する説明は、式(1)におけるR
1のものと同様であり、ここでは重複する記載を省略する。
【0051】
式(5)において、Y
1が、ヒドロキシメチル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基を示す場合、当該保護基としては、アセチル基、プロピオニル基等のアシル基;アセタール基;カーボネート基などが挙げられ、これらの中でも、ビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換する際に当該保護基を除去することができることから、アシル基が好ましく、アセチル基がより好ましい。上記例示のPVAの製造が容易であることなどから、Y
1は、ヒドロキシメチル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基であることが好ましい。
【0052】
式(6)において、R
2に関する説明は、式(2)におけるR
2のものと同様であり、ここでは重複する記載を省略する。
【0053】
式(6)において、Y
2が示す1個以上の水酸基を有する炭素数2以上のヒドロキシアルキル基に関する説明は、式(2)においてX
2が示す1個以上の水酸基を有する炭素数2以上のヒドロキシアルキル基に関する説明と同様であり、ここでは重複する記載を省略する。また、Y
2が、上記ヒドロキシアルキル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基を示す場合、当該保護基としては、アセチル基、プロピオニル基等のアシル基;イソプロピリデン基等のアセタール基;カーボネート基などが挙げられ、これらの中でも、ビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換する際に当該保護基を除去することができることから、アシル基が好ましく、アセチル基がより好ましい。Y
2が、上記ヒドロキシアルキル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基を示す場合、その具体例としては、例えば、2−アセトキシエチル基、3−アセトキシプロピル基、1−アセトキシ−1−メチルエチル基、2−アセトキシ−1−メチルエチル基、4−アセトキシブチル基、2−アセトキシ−2−メチルプロピル基、3−アセトキシ−2−メチルプロピル基、8−アセトキシオクチル基、1,2−ジアセトキシエチル基、2,3−ジアセトキシプロピル基などが挙げられる。上記例示のPVAの製造が容易であることなどから、Y
2は、1個以上の水酸基を有する炭素数2以上のヒドロキシアルキル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基であることが好ましい。
【0054】
式(6)で示される不飽和単量体としては、例えば、4−アセトキシ−1−ブテン、5−アセトキシ−1−ペンテン、6−アセトキシ−1−ヘキセン、7−アセトキシ−1−ヘプテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンなどが挙げられ、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましい。
【0055】
式(7)において、Y
3および/またはY
4が示す1個以上の水酸基を有する炭素数1以上のヒドロキシアルキル基に関する説明は、式(3)においてX
3および/またはX
4が示す1個以上の水酸基を有する炭素数1以上のヒドロキシアルキル基に関する説明と同様であり、ここでは重複する記載を省略する。また、Y
3および/またはY
4が、上記ヒドロキシアルキル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基を示す場合、当該保護基としては、アセチル基、プロピオニル基等のアシル基;イソプロピリデン基等のアセタール基;カーボネート基などが挙げられ、これらの中でも、ビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換する際に当該保護基を除去することができることから、アシル基が好ましく、アセチル基がより好ましい。Y
3および/またはY
4が、上記ヒドロキシアルキル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基を示す場合、その具体例としては、例えば、アセトキシメチル基、2−アセトキシエチル基、3−アセトキシプロピル基、1−アセトキシ−1−メチルエチル基、2−アセトキシ−1−メチルエチル基、4−アセトキシブチル基、2−アセトキシ−2−メチルプロピル基、3−アセトキシ−2−メチルプロピル基、8−アセトキシオクチル基、1,2−ジアセトキシエチル基、2,3−ジアセトキシプロピル基などが挙げられる。上記例示のPVAの製造が容易であることなどから、Y
3および/またはY
4は、1個以上の水酸基を有する炭素数1以上のヒドロキシアルキル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基であることが好ましく、Y
3およびY
4の両方が、1個以上の水酸基を有する炭素数1以上のヒドロキシアルキル基が有する水酸基が保護基によって保護された構造を有する基であることがより好ましい。
【0056】
式(7)で示される不飽和単量体としては、例えば、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチリルオキシ−2−メチレンプロパンなどが挙げられ、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパンが好ましい。
【0057】
上記例示のPVAの製造に用いられるビニルエステル系単量体は特に限定されないが、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられ、PVAの製造の容易性、入手容易性、コスト等の点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0058】
ビニルエステル系単量体と、それと共重合可能でありかつ構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合する際の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合などのいずれの方式でもよく、重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を適用することができる。無溶媒またはアルコールなどの溶媒中で重合を進行させる塊状重合法または溶液重合法が通常採用される。高重合度のビニルエステル系共重合体を得る場合には乳化重合法も好ましい。溶液重合法の溶媒は特に限定されないが、例えばアルコールである。溶液重合法の溶媒に使用されるアルコールは、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールである。重合系における溶媒の使用量は、目的とするPVAの重合度に応じて溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、例えば溶媒がメタノールの場合、溶媒と重合系に含まれる全単量体との質量比{=(溶媒)/(全単量体)}として、好ましくは0.01〜10の範囲内、より好ましくは0.05〜3の範囲内から選択される。
【0059】
ビニルエステル系単量体と、それと共重合可能でありかつ構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換可能な不飽和単量体との共重合に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択すればよい。アゾ系開始剤は、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)である。過酸化物系開始剤は、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート系化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネートなどのパーエステル系化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート;過酸化アセチルである。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを上記開始剤に組み合わせて重合開始剤としてもよい。レドックス系開始剤は、例えば上記の過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた重合開始剤である。重合開始剤の使用量は、重合開始剤の種類により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて選択すればよい。例えば重合開始剤に2,2’−アゾビスイソブチロニトリルあるいは過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系単量体に対して0.01〜0.2モル%が好ましく、0.02〜0.15モル%がより好ましい。
【0060】
ビニルエステル系単量体と、それと共重合可能でありかつ構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換可能な不飽和単量体との共重合は、連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。連鎖移動剤は、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2−ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;ホスフィン酸ナトリウム一水和物などのホスフィン酸塩類などである。中でもアルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とするPVAの重合度に応じて決定することができるが、一般にビニルエステル系単量体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0061】
ビニルエステル系単量体と、それと共重合可能でありかつ構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換可能な不飽和単量体との共重合により得られるビニルエステル系共重合体をけん化することにより、上記例示のPVAを得ることができる。当該ビニルエステル系共重合体をけん化することによって、ビニルエステル系共重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。また、例えば式(3)で示される不飽和単量体においてY
1がヒドロキシメチル基が有する水酸基がアシル基によって保護された構造を有する基である場合のように、ビニルエステル系単量体と共重合可能でありかつ構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換可能な不飽和単量体がアシル基によって保護された水酸基を有する場合、その不飽和単量体に由来する構造単位における当該アシル基部分のエステル結合もけん化されて水酸基が生じる。したがって、当該PVAは、けん化後にさらに加水分解等の反応を行わなくても製造することができる。
【0062】
ビニルエステル系共重合体のけん化は、例えばアルコールまたは含水アルコールに当該ビニルエステル系共重合体が溶解した状態で行うことができる。けん化に使用するアルコールは、例えばメタノール、エタノールなどの低級アルコールが挙げられ、好ましくはメタノールである。けん化に使用するアルコールは、例えばその質量の40質量%以下の割合で、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼンなどの他の溶媒を含んでもよい。けん化に使用する触媒は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、鉱酸などの酸触媒である。けん化を行う温度は限定されないが、20〜60℃の範囲内が好適である。けん化の進行にしたがってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕した後、洗浄、乾燥して、PVAを得ることができる。けん化方法は、前述した方法に限らず公知の方法を適用できる。
【0063】
上記例示のPVAは、構造単位(1)〜(3)、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の他の構造単位をさらに含むことができる。当該他の構造単位としては、例えばビニルエステル系単量体と共重合可能なエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位が挙げられる。また、上記したビニルエステル系単量体と共重合可能でありかつ構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換可能な不飽和単量体に由来する構造単位(脱保護の過程において構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位に変換されなかった構造単位)を含むこともできる。
【0064】
上記例示のPVAにおける、構造単位(1)〜(3)、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の合計の占める割合は、当該PVAを構成する全構造単位のモル数を100モル%として、90モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましく、99.5モル%以上、99.8モル%以上、99.9モル%以上、さらには100モル%であってもよい。
【0065】
上記のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩)などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩)などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩またはエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルである。
【0066】
上記例示のPVAにおける構造単位(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位、ビニルアルコール単位及びその他任意の構成単位の配列順序には特に制限はなく、ランダム、ブロック、交互などのいずれであってもよい。
【0067】
上記例示のPVAの重合度は、結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の割合が上記範囲を満たすPVAフィルムがより得られやすくなり、また当該PVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの色相が向上することなどから、3,000以下であることが好ましく、2,900以下であることがより好ましく、2,800以下であることがさらに好ましい。一方、当該重合度は、そのPVAを含むPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの耐久性が向上することから、2,000を超えることが好ましく、2,100を超えることがより好ましく、2,200を超えることがさらに好ましい。なお、本明細書におけるPVAの重合度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0068】
また上記例示のPVAの分子量分布は、結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の割合が上記範囲を満たすPVAフィルムがより得られやすくなることから、2.0〜4.0であることが好ましく、当該分子量分布は2.2以上であることがより好ましく、2.4以上であることがさらに好ましく、また、3.8以下であることがより好ましく、3.6以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書におけるPVAの分子量分布とは、質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)により算出される値である。質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、単分散ポリメチルメタクリレートを標品とし、トリフルオロ酢酸ナトリウムを20mmol/L含有するヘキサフルオロイソプロパノールを移動相に用いて、40℃、流量0.2mL/分でゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー製、装置:HLC−8220GPC、カラム:GMHHR−H(S))測定することにより求めることができる。
【0069】
本発明のPVAフィルムは、上記のPVAの他に可塑剤を含むことができる。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。本発明のPVAフィルムはこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらの中でも、延伸性の向上効果の点からグリセリンが好ましい。
【0070】
本発明のPVAフィルムにおける可塑剤の含有量は、それに含まれるPVA100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましく、また、20質量部以下であることが好ましく、17質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましい。当該含有量が1質量部以上であることによりフィルムの延伸性がより向上する。一方、当該含有量が20質量部以下であることにより、フィルムが柔軟になり過ぎて取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0071】
本発明のPVAフィルムには、さらに、充填剤、銅化合物などの加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、架橋剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤などの添加剤を、必要に応じて適宜配合できる。
【0072】
本発明のPVAフィルムにおけるPVA及び可塑剤の合計の占める割合は、PVAフィルムの質量に基づいて、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0073】
本発明のPVAフィルムの膨潤度は、160〜240%の範囲内であることが好ましく、170〜230%の範囲内であることがより好ましく、180〜220%の範囲内であることが特に好ましい。膨潤度が160%以上であることにより、60℃で1時間処理した後の結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の合計割合が高くなりすぎるのをより効果的に防止することができ、そのPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの色相が向上する。一方、膨潤度が240%以下であることにより、60℃で1時間処理した後の結晶成分量(a
1)および拘束非晶成分量(a
2)の合計割合が低くなりすぎるのをより効果的に防止することができ、そのPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの耐久性が向上する。なお本明細書において、PVAフィルムの膨潤度とは、PVAフィルムを30℃の蒸留水中に30分間浸漬した際の質量を、浸漬後105℃で16時間乾燥した後の質量で除して得られる値の百分率を意味し、具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。膨潤度は例えば熱処理の条件を変更することによって調整することができ、通常、熱処理温度を高くして熱処理時間を長くすることによって膨潤度を低下させることができる。
【0074】
本発明のPVAフィルムは光学特性、色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造することができることから、従来よりも厚みが薄い場合において特に有効に用いることができる。当該PVAフィルムの厚みは1〜60μmであることが好ましく、5〜55μmであることがより好ましく、10〜50μmであることが特に好ましい。当該厚みが1μm未満であると、偏光フィルム等の光学フィルムを製造するための一軸延伸処理時に、延伸切れが発生しやすくなる傾向がある。また、当該厚みが厚すぎると、光学フィルムを製造するための一軸延伸処理時に延伸斑が発生しやすくなる傾向がある。
【0075】
本発明のPVAフィルムの幅は特に制限されず、その用途などに応じて決めることができる。近年、液晶テレビや液晶モニターの大画面化が進行している点からPVAフィルムの幅を3m以上にしておくと、これらを最終製品とする用途に好適である。一方、PVAフィルムの幅があまりに大きすぎると実用化されている装置で光学フィルムを製造する場合に一軸延伸自体を均一に行うことが困難になりやすいなどの問題が生じる場合があることから、PVAフィルムの幅は7m以下であることが好ましい。
【0076】
本発明のPVAフィルムの製造方法は特に限定されず、製膜後のフィルムの厚み及び幅がより均一になる製造方法を好ましく採用することができ、例えば、PVAフィルムを構成する上記したPVA及び必要に応じてさらに上記した可塑剤、添加剤及び後述する界面活性剤などのうちの1種または2種以上が液体媒体中に溶解した製膜原液や、PVA及び必要に応じてさらに可塑剤、添加剤、界面活性剤及び液体媒体などのうちの1種または2種以上を含み、PVAが溶融している製膜原液を用いて製造することができる。当該製膜原液が可塑剤、添加剤及び界面活性剤の少なくとも1種を含有する場合には、それらの成分が均一に混合されていることが好ましい。
【0077】
製膜原液の調製に使用される上記液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷や回収性の点から水が好ましい。
【0078】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合)は、製膜方法、製膜条件などによっても異なるが、一般的には、50〜95質量%の範囲内であることが好ましく、55〜90質量%の範囲内であることがより好ましく、60〜85質量%の範囲内であることがさらに好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、製膜原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないフィルムの製造が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が95質量%以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なフィルムの製造が容易になる。
【0079】
製膜原液は界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤を含むことにより、製膜性が向上してフィルムの厚み斑の発生が抑制されると共に、製膜に使用する金属ロールやベルトからのフィルムの剥離が容易になる。界面活性剤を含む製膜原液からPVAフィルムを製造した場合には、当該フィルム中には界面活性剤が含有され得る。上記の界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからの剥離性の観点などから、アニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0080】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが好適である。
【0081】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好適である。
【0082】
これらの界面活性剤は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0083】
製膜原液が界面活性剤を含む場合、その含有量は、製膜原液に含まれるPVA100質量部に対して、0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることが特に好ましい。当該含有量が0.01質量部以上であることにより製膜性及び剥離性がより向上する。一方、当該含有量が0.5質量部以下であることにより、界面活性剤がPVAフィルムの表面にブリードアウトしてブロッキングが生じ、取り扱い性が低下することを抑制することができる。
【0084】
上記した製膜原液を用いてPVAフィルムを製膜する際の製膜方法としては、例えば、キャスト製膜法、押出製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法などが挙げられる。これらの製膜方法は1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。これらの製膜方法の中でもキャスト製膜法、押出製膜法が、厚み及び幅が均一で物性の良好なPVAフィルムが得られることから好ましい。製膜されたフィルムには必要に応じて乾燥や熱処理を行うことができる。
【0085】
本発明のPVAフィルムの具体的な製造方法の例としては、例えば、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイ等を用いて、上記の製膜原液を最上流側に位置する回転する加熱した第1ロール(あるいはベルト)の周面上に均一に吐出または流延し、この第1ロール(あるいはベルト)の周面上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いてその下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置により巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
【0086】
本発明のPVAフィルムの用途に特に制限はないが、本発明のPVAフィルムによれば、光学特性、色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造することができることから、光学フィルムを製造するための原反フィルムとして使用するのが好ましい。このような光学フィルムとしては、例えば、偏光フィルムや位相差フィルムなどが挙げられ、偏光フィルムであることが好ましい。このような光学フィルムは、例えば、本発明のPVAフィルムを光学フィルム製造用原反フィルムとして用いる方法であって一軸延伸する工程を有する方法により製造することができ、具体的には、本発明のPVAフィルムそのもの、あるいは、後述する膨潤処理等を施すなどして生じた本発明のPVAフィルムに由来するPVAフィルム(以下、「本発明のPVAフィルム」と「本発明のPVAフィルムに由来するPVAフィルム」をまとめて「本発明に基づくPVAフィルム」と称することがある)を一軸延伸する工程を有する方法により製造することができる。
【0087】
本発明のPVAフィルムを用いて偏光フィルムを製造する際の方法は特に制限されず、従来から採用されているいずれの方法を採用してもよい。このような方法としては、例えば、本発明に基づくPVAフィルムに対して染色及び一軸延伸を施したり、染料を含有する本発明に基づくPVAフィルムに対して一軸延伸を施したりする方法が挙げられる。偏光フィルムを製造するためのより具体的な方法としては、本発明に基づくPVAフィルムに対して、膨潤、染色、一軸延伸、及び必要に応じてさらに、架橋処理、固定処理、乾燥、熱処理などを施す方法が挙げられる。この場合、膨潤、染色、架橋処理、一軸延伸、固定処理などの各処理の順序は特に制限されず、1つまたは2つ以上の処理を同時に行うこともできる。また、各処理の1つまたは2つ以上を2回またはそれ以上行うこともできる。
【0088】
膨潤は、本発明に基づくPVAフィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水に浸漬する際の水の温度としては、20〜40℃の範囲内であることが好ましく、22〜38℃の範囲内であることがより好ましく、25〜35℃の範囲内であることがさらに好ましい。また、水に浸漬する時間としては、例えば、0.1〜5分間の範囲内であることが好ましく、0.5〜3分間の範囲内であることがより好ましい。なお、水に浸漬する際の水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水性媒体との混合物であってもよい。
【0089】
染色は、本発明に基づくPVAフィルムに対して二色性色素を接触させることにより行うことができる。二色性色素としてはヨウ素系色素を用いるのが一般的である。染色の時期としては、一軸延伸前、一軸延伸時、一軸延伸後のいずれの段階であってもよい。染色はPVAフィルムを染色浴であるヨウ素−ヨウ化カリウムを含有する溶液(特に水溶液)中に浸漬させることにより行うのが一般的であり、本発明においてもこのような染色方法が好適に採用される。染色浴におけるヨウ素の濃度は0.01〜0.5質量%の範囲内であることが好ましく、ヨウ化カリウムの濃度は0.01〜10質量%の範囲内であることが好ましい。また、染色浴の温度は20〜50℃、特に25〜40℃とすることが好ましい。
【0090】
本発明に基づくPVAフィルムに対して架橋処理を施すことで、高温で湿式延伸する際にPVAが水へ溶出するのをより効果的に防止することができる。この観点から架橋処理は二色性色素を接触させる処理の後であって一軸延伸の前に行うのが好ましい。架橋処理は、架橋剤を含む水溶液に本発明に基づくPVAフィルムを浸漬することにより行うことができる。当該架橋剤としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素化合物の1種または2種以上を使用することができる。架橋剤を含む水溶液における架橋剤の濃度は1〜15質量%の範囲内であることが好ましく、2〜7質量%の範囲内であることがより好ましく、3〜6質量%の範囲内であることがさらに好ましい。架橋剤の濃度が1〜15質量%の範囲内にあることで十分な延伸性を維持することができる。架橋剤を含む水溶液はヨウ化カリウム等を含有してもよい。架橋剤を含む水溶液の温度は、20〜50℃の範囲内、特に25〜40℃の範囲内とすることが好ましい。当該温度を20〜50℃の範囲内にすることで効率良く架橋することができる。
【0091】
本発明に基づくPVAフィルムの一軸延伸は、湿式延伸法または乾式延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法の場合は、ホウ酸を含む水溶液中で行うこともできるし、上記した染色浴中や後述する固定処理浴中で行うこともできる。また乾式延伸法の場合は、室温のまま延伸を行ってもよいし、加熱しながら延伸してもよいし、吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で行うこともできる。これらの中でも、幅方向に均一に延伸することができることから湿式延伸法が好ましく、ホウ酸を含む水溶液中で一軸延伸するのがより好ましい。ホウ酸水溶液中におけるホウ酸の濃度は0.5〜6.0質量%の範囲内であることが好ましく、1.0〜5.0質量%の範囲内であることがより好ましく、1.5〜4.0質量%の範囲内であることが特に好ましい。また、ホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有してもよく、ヨウ化カリウムの濃度は0.01〜10質量%の範囲内にすることが好ましい。
一軸延伸における延伸温度は、30〜90℃の範囲内であることが好ましく、40〜80℃の範囲内であることがより好ましく、50〜70℃の範囲内であることが特に好ましい。
また、一軸延伸における延伸倍率は、得られる偏光フィルムの偏光性能の点から6.6倍以上であることが好ましく、6.8倍以上であることがより好ましく、7.0倍以上であることが特に好ましい。延伸倍率の上限は特に制限されないが、延伸倍率は8倍以下であることが好ましい。
【0092】
長尺のPVAフィルムを一軸延伸する場合における一軸延伸の方向に特に制限はなく、長尺方向への一軸延伸や横一軸延伸を採用することができるが、偏光性能に優れる偏光フィルムが得られることから長尺方向への一軸延伸が好ましい。長尺方向への一軸延伸は、互いに平行な複数のロールを備える延伸装置を使用して、各ロール間の周速を変えることにより行うことができる。一方、横一軸延伸はテンター型延伸機を用いて行うことができる。
【0093】
偏光フィルムの製造にあたっては、フィルムへの二色性色素(ヨウ素系色素等)の吸着を強固にするために固定処理を行うことが好ましい。固定処理に使用する固定処理浴としては、ホウ酸、硼砂等のホウ素化合物の1種または2種以上を含む水溶液を使用することができる。また、必要に応じて、固定処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物を添加してもよい。固定処理浴におけるホウ素化合物の濃度は、一般に2〜15質量%、特に3〜10質量%程度であることが好ましい。当該濃度を2〜15質量%の範囲内にすることで二色性色素の吸着をより強固にすることができる。固定処理浴の温度は、15〜60℃、特に25〜40℃であることが好ましい。
【0094】
乾燥の条件は特に制限されないが、30〜150℃の範囲内、特に50〜130℃の範囲内の温度で乾燥を行うことが好ましい。30〜150℃の範囲内の温度で乾燥することで寸法安定性に優れる偏光フィルムが得られやすい。
【0095】
以上のようにして得られた偏光フィルムは、通常、その両面または片面に、光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤、ウレタン系接着剤、アクリレート系紫外線硬化型接着剤などを挙げることができる。
【0096】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系等の粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせてLCDの部品として使用することができる。同時に位相差フィルムや視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等と貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0097】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において採用された各測定または評価方法を以下に示す。
【0098】
PVAの一次構造
以下の実施例及び比較例で使用したPVAの一次構造は、400MHz
1H−NMRを用いて分析した。
1H−NMR測定時の溶媒は重水素化DMSOを用いた。
【0099】
PVAフィルムの膨潤度
以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムを1.5gとなるようにカットし、30℃の蒸留水中に30分間浸漬した。30分間浸漬後に当該フィルムを取り出し、ろ紙で表面の水を取り、質量「N」を求めた。続いてそのフィルムを105℃の乾燥機で16時間乾燥した後、質量「M」を求めた。得られた質量「N」及び「M」から、下記式(8)によりPVAフィルムの膨潤度を算出した。
膨潤度(%) = 100 × N/M (8)
【0100】
PVAフィルムにおける結晶成分量(a1)と拘束非晶成分量(a2)
以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムから得たサンプル(100mg)を5mm×5mm程度の大きさに細断した後に重水1mLと共にNMRチューブに投入した。このNMRチューブを60℃の恒温槽中に1時間浸漬した。その後、20℃で24時間保管し、測定試料とした。この測定試料を、パルスNMR(ブルカー・バイオスピン株式会社製「minispec mq20 WVT」)を用いて
1Hのスピン−スピン緩和時間T
2を測定した。測定条件は以下の通りである。
・パルス系列:Solid−Echo法(90x−τ−90y)
・RFパルス幅(Pw1):2.1μs
・パルス間隔(Pi1):1μs
・パルス繰り返し時間:1s
・測定温度:30℃
上記測定で得られた自由誘導減衰(FID)信号を線形最小二乗法によって上記式(4)にフィッティングし、いずれも正の値である結晶成分量(a
1)、拘束非晶成分量(a
2)および非晶成分量(a
3)を求め、これら3成分の量の合計に対する各成分の割合を算出した。
【0101】
PVAフィルムの延伸性
以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムの幅方向中央部から、幅5cm×長さ5cmの範囲が一軸延伸できるように幅5cm×長さ8cmのサンプルをカットした。このサンプルを30℃の純水に浸漬しつつ1.5倍に長さ方向に一軸延伸した。続いてヨウ素を0.03質量%及びヨウ化カリウムを3.0質量%の割合で含有する水溶液(染色浴)(温度30℃)に60秒間浸漬しつつ1.6倍(全体で2.4倍)に長さ方向に一軸延伸してヨウ素を吸着させた。次いで、ホウ酸を3質量%及びヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(架橋浴)(温度30℃)に浸漬しつつ1.1倍(全体で2.6倍)に長さ方向に一軸延伸した。さらにホウ酸を4質量%及びヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液(延伸浴)に浸漬しつつ、切断するまで長さ方向に一軸延伸し、延伸前のPVAフィルムの長さに対する切断時の長さの倍率を限界延伸倍率とした。ただし、延伸浴の温度については、適当な温度から1℃ずつ変更して限界延伸倍率を測定し、限界延伸倍率が最も高くなる温度を選択した。
【0102】
偏光フィルムの光学特性(二色性比)
(1)透過率Tsの測定
以下の実施例または比較例で得られた偏光フィルムの中央部から、偏光フィルムの長さ方向に2cmのサンプルを2枚採取し、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製「V7100」)を用いて、JIS Z 8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2°視野の可視光領域の視感度補正を行い、1枚のサンプルについて、長さ方向に対して+45°傾けた場合の光の透過率と−45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts1(%)を求めた。もう1枚のサンプルについても同様にして、+45°傾けた場合の光の透過率と−45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts2(%)を求めた。下記式(9)によりTs1とTs2を平均し、偏光フィルムの透過率Ts(%)とした。
Ts = (Ts1+Ts2)/2 (9)
【0103】
(2)偏光度Vの測定
上記透過率Tsの測定で採取した2枚のサンプルを、その長さ方向が平行になるように重ねた場合の光の透過率T‖(%)、長さ方向が直交するように重ねた場合の光の透過率T⊥(%)を、上記「(1)透過率Tsの測定」の場合と同様にして測定し、下記式(10)により偏光度V(%)を求めた。
V = {(T‖−T⊥)/(T‖+T⊥)}
1/2×100 (10)
【0104】
(3)透過率44%時の二色性比の算出
以下の各実施例及び比較例において、染色浴におけるヨウ素の濃度を0.02〜0.04質量%及びヨウ化カリウムの濃度を2.0〜4.0質量%の各範囲内で4回変更(ただし、ヨウ素の濃度:ヨウ化カリウムの濃度=1:100とする)して同様の操作を行い、各実施例または比較例で製造した偏光フィルムとは二色性色素の吸着量の異なる4枚の偏光フィルムを製造した。これら4枚の偏光フィルムのそれぞれについて上記した方法で透過率Ts(%)及び偏光度V(%)を求め、各実施例及び比較例毎に、透過率Ts(%)を横軸、偏光度V(%)を縦軸として、各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの透過率Ts(%)及び偏光度V(%)に基づく1点も含めた合計5点をグラフにプロットして近似曲線を求め、当該近似曲線から、透過率Ts(%)が44%であるときの偏光度V
44(%)を求めた。
得られた偏光度V
44(%)から、下記式(11)により透過率44%時の二色性比を求めて、偏光性能の指標とした。なお、二色性比が高いほど偏光フィルムの光学特性は良好であり、二色性比が66以上の場合を「○」(良好)と判定し、66未満の場合を「×」(不良)と判定した。
透過率44%時の二色性比 = log(44/100−44/100×V
44/100)/log(44/100+44/100×V
44/100) (11)
【0105】
偏光フィルムの色相(平行b値)
上記の「偏光フィルムの光学特性(二色性比)」において、二色性色素の吸着量の異なる4枚の偏光フィルムの偏光度Vを求める際に、透過率T‖(%)及び透過率T⊥(%)測定時にLab色空間を測定し、透過率T‖(%)の測定時のb値を平行b値とし、透過率T⊥(%)の測定時のb値を直交b値とした。各実施例及び比較例毎に、平行b値を横軸、直交b値を縦軸として、各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの平行b値及び直交b値に基づく1点も含めた合計5点をグラフにプロットして近似曲線を求め、当該近似曲線から、直交b値が−4であるときの平行b値を求めた。なお、平行b値が0に近いほど偏光フィルムの色相は良好であり、平行b値が2.2未満の場合を「○」(良好)と判定し、2.2以上の場合を「×」(不良)と判定した。
【0106】
偏光フィルムの耐久性(吸光度残存率)
各実施例または比較例毎に、上記の「偏光フィルムの光学特性(二色性比)」において製造した二色性色素の吸着量の異なる4枚の偏光フィルム及び各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの合計5枚の偏光フィルムの中から、透過率が44〜45%の範囲にあり、且つ、透過率T⊥(%)測定時に求めた波長610nmでの吸光度(直交吸光度)が2.95〜3.05である偏光フィルムを1枚選定した。
その偏光フィルムを60℃、90%RHの環境下で4時間暴露し、初期の波長610nmでの直交吸光度をA
0h及び4時間暴露後の波長610nmでの直交吸光度をA
4hとして、下記式(12)により求めた直交吸光度の残存率(吸光度残存率)D(%)を偏光フィルムの耐久性として評価した。なお、吸光度残存率が高いほど偏光フィルムの耐久性は良好であり、吸光度残存率が20%以上の場合を「○」(良好)と判定し、20%未満の場合を「×」(不良)と判定した。
D(%)=100 × A
4h/A
0h (12)
【0107】
[実施例1〜6および比較例1〜5]
(1)酢酸ビニルと、酢酸2−メチル−2−プロペニル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、7−アセトキシ−1−ヘプテンまたは1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパンとの共重合体(比較例1では酢酸ビニルの単独重合体)をけん化することにより得られた表1に示すPVA100質量部、可塑剤としてグリセリン10質量部、及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含み、PVAの含有率が10質量%である水溶液を製膜原液として用いて、これを80℃の金属ロール上で乾燥し、得られたフィルムを熱風乾燥機中で所定の温度で1分間熱処理をすることにより膨潤度を200%に調整して、厚みが30μmのPVAフィルムを製造した。
得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により結晶成分量(a
1)と拘束非晶成分量(a
2)の割合を求めるとともに延伸性を評価した。結果を表1に示した。
【0108】
(2)上記(1)で得られたPVAフィルムの幅方向中央部から、幅5cm×長さ5cmの範囲が一軸延伸できるように幅5cm×長さ8cmのサンプルをカットした。このサンプルを30℃の純水に浸漬しつつ1.5倍に長さ方向に一軸延伸した。続いてヨウ素を0.03質量%及びヨウ化カリウムを3.0質量%の割合で含有する水溶液(染色浴)(温度30℃)に60秒間浸漬しつつ1.6倍(全体で2.4倍)に長さ方向に一軸延伸してヨウ素を吸着させた。次いで、ホウ酸を3質量%及びヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(架橋浴)(温度30℃)に浸漬しつつ1.1倍(全体で2.6倍)に長さ方向に一軸延伸した。さらにホウ酸を4質量%及びヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液(延伸浴)(上記「PVAフィルムの延伸性」で求めた限界延伸倍率が最も高くなる温度)に浸漬しつつ、限界延伸倍率よりも0.2倍低い倍率まで長さ方向に一軸延伸した。その後、ヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(洗浄浴)(温度30℃)に5秒間浸漬し、最後に60℃で4分間乾燥して偏光フィルムを製造した。
得られた偏光フィルムを用いて、上記した方法により偏光フィルムの光学特性(二色性比)、色相(平行b値)および耐久性を評価した。結果を表1に示した。
【0109】
【表1】
【0110】
以上の結果から明らかなように、本発明の規程を満たす実施例1〜6のPVAフィルムによれば、光学特性、色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造できることが分かる。