特許第6420251号(P6420251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6420251ステンレス鋼表面の光沢化および不動態化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6420251
(24)【登録日】2018年10月19日
(45)【発行日】2018年11月7日
(54)【発明の名称】ステンレス鋼表面の光沢化および不動態化
(51)【国際特許分類】
   C23F 3/06 20060101AFI20181029BHJP
   C23F 1/28 20060101ALI20181029BHJP
   C23G 1/08 20060101ALI20181029BHJP
   C23C 22/34 20060101ALI20181029BHJP
【FI】
   C23F3/06
   C23F1/28
   C23G1/08
   C23C22/34
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-547000(P2015-547000)
(86)(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公表番号】特表2015-537124(P2015-537124A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】EP2013076257
(87)【国際公開番号】WO2014090890
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2016年12月9日
(31)【優先権主張番号】1222282.4
(32)【優先日】2012年12月11日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレンティノ・ガスパレット
(72)【発明者】
【氏名】マウロ・リガモンティ
(72)【発明者】
【氏名】パオロ・ジョルダーニ
(72)【発明者】
【氏名】ステファーノ・スフォルチーニ
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−519290(JP,A)
【文献】 特開平09−217184(JP,A)
【文献】 特表2006−503182(JP,A)
【文献】 特開平08−253880(JP,A)
【文献】 特表2010−509499(JP,A)
【文献】 特開2005−036288(JP,A)
【文献】 特表平07−500378(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0121568(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00−4/04
C23C 22/00−22/86
C23G 1/00−5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水および次の溶解成分:
(A)硫酸、リン酸およびクエン酸からなる群から選択される少なくとも1つの酸;
(B)周期表の第4族、第13族および/または第14族の元素に基づく複合フッ化物から選択される少なくとも1つのフッ素含有無機化合物;
(C)ペルオキシ部を含む少なくとも1つの物質;および
(D)ソルビトールおよび/またはキシリトール
を含む、光沢化および不動態化水性組成物。
【請求項2】
成分(D)は2〜15g/lの範囲で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
成分(A)による少なくとも1つの酸は硫酸および/またはリン酸から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
成分(A)による少なくとも1つの酸は0.5〜100g/lの範囲で存在する、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
成分(B)による少なくとも1つのフッ素含有無機化合物はB、Si、Tiおよび/またはZrの元素の複合フッ化物から選択される、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
成分(B)による少なくとも1つのフッ素含有無機化合物は、フッ素含有量として計算して、4〜25g/lの範囲で存在する、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
成分(C)によるペルオキシ部を含む少なくとも1つの物質は、過酸化水素、ペルオキシ硫酸、ペルオキシ酢酸、ペルオキシホウ酸、ペルオキシリン酸、ペルオキシ二リン酸およびその塩から選択される、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
成分(C)によるペルオキシ部を含む少なくとも1つの物質は、過酸化水素含有量として計算して、3〜25g/lの範囲で存在する、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
化合物(D)と異なり、
(E1)各分子中に少なくとも1つのエーテル部および少なくとも1つのヒドロキシル部の両方を含む分子から構成される物質;
(E2)各分子中に少なくとも2つのエーテル部を含む分子から構成される物質;および/または
(E3)各分子中に少なくとも1つのエーテル部および少なくとも3つの炭素原子に共有結合する1つの窒素原子の両方を含む分子から構成される物質
から選択される、少なくとも1つの有機化合物を成分(E)としてさらに含む、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
−各分子は、与えられた順に好ましさが高くなるが、少なくとも3、4、5または6個の、かつ独立して、与えられた順に好ましさが高くなるが、100、50、40、30、25、20、16、14、12、10または8個以下の炭素原子数を有する;
−各分子は、与えられた順に好ましさが高くなるが、3、2または1個以下のヒドロキシル基数を有する;および
−各分子は、与えられた順に好ましさが高くなるが、50、40、30、25、20、15、10、8、6、4、3または2以下のエーテル部数を有する;および
−各分子中のエーテル部における少なくとも1つの酸素原子は、少なくとも2個の炭素原子を含む末端1価アルキル基に結合する
化合物から選択される成分(E1)による少なくとも1つの有機化合物を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
1g/l未満の硝酸塩を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
ーステナイト系、フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼種の光沢化および不動態化を行う方法であって、ステンレス鋼種を、中間すすぎ工程を用いて又は用いずに酸洗い後、次に、請求項1〜11の1以上に記載の光沢化および不動態化組成物と接触させる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸洗い後のステンレス鋼の光沢化(brightening)および/または不動態化(passivating)のための組成物に関する。本発明は、光沢化および不動態化溶液の更なる成分として少なくとも3個であって、8個以下の炭素原子を有する複数のヒドロキシル基を含む有機化合物の存在が酸洗いされたステンレス鋼表面のスマット除去性能を顕著に高めるという発見に基づく。本発明の組成物は、硫黄を用いて合金化されたステンレス鋼種の不動態化および光沢化に特に有用である。したがって、本発明はさらに、酸洗いされたステンレス鋼表面のための不動態化および光沢化方法であって、ステンレス鋼は少なくとも0.10at.%の硫黄で合金化されている、方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
一般に、通常の環境条件下、例えば大気酸素および湿度の存在下および水性溶液中において錆の発生が防がれれば、工業鋼(technical steel)は「ステンレス」と称される。多くの高合金、いわゆる耐食または酸耐性鋼は、比較的厳しい腐食条件、例えば酸および塩溶液に耐える。この鋼は、一般にステンレス鋼と言われる。ステンレス鋼は、少なくとも10at.%のクロムを含む鉄系合金である。材料表面におけるクロム酸化物の生成は、ステンレス鋼に対してその腐食耐性特性をもたらす。
【0003】
特定の鋼は、次の群に細分することができる:オーステナイト鋼、フェライト鋼、マルテンサイト鋼、析出硬化鋼および二相鋼。これらの群は、種々の合金成分の結果として、その物理的および機械的特性ならびに腐食耐性において異なる。
【0004】
ステンレス鋼をアニールし、熱間圧延すると、薄片層が表面上に形成する。かかる薄片層は、鋼表面の所望の輝く金属的な外観を妨げる。そのため、この薄片層は、この製造工程後に除去されなければならない。この除去は、従来技術による酸洗い工程によって行われ得る。除去される酸化物含有表面層は、低合金鋼または炭素鋼における酸化物層とは根本的に異なる。鉄酸化物とは別に、表面層は、合金化元素、例えばクロム、ニッケル、アルミニウム、チタンまたはニオブ等の酸化物を含む。特に熱間圧延において、表面層においてクロム酸化物の蓄積がある。したがって、酸化物層は鉄よりもむしろクロムに富む。反対に、これは、酸化物層直下の鋼層はクロムが減少することを意味する。適当な酸性酸洗い溶液を用いた酸洗い方法は、好ましくは酸化物層下のこのクロム低下層を溶解し、その結果、酸化物層が除去される。
【0005】
特定の鋼に対する酸洗い方法は当分野においてよく知られている。以前の方法は、硝酸含有酸洗い槽を使用する。これはさらにフッ化水素酸を含むことが多く、これは、鉄イオンに対するその錯化作用により酸洗い方法を促進する。かかる酸洗い槽は経済的に効率が良く、技術的に十分であるが、これはかなりの量の窒素酸化物を放出し、廃水中に多量の硝酸塩を放出するという重大な環境上の不利点をこれは有する。
【0006】
したがって、当分野において、硝酸を使用しない代わりの酸洗いおよび不動態化方法を見出す徹底的な努力がなされてきた。第二鉄イオンは、硝酸の酸化作用の代わりとなり得る。第二鉄イオンの濃度は過酸化水素によって維持され、これは連続式または回分式で処理槽に添加される。かかる酸洗いまたは不動態化槽は、約15〜約65g/lの3価鉄イオンを含む。酸洗い方法において、3価鉄イオンは2価の形状に変換される。同時に、更なる2価鉄イオンが酸洗い表面から溶解される。それにより、この操作中において酸洗い槽は3価鉄イオンが減少し、一方、2価鉄イオンが蓄積する。それにより処理溶液の酸化還元電位は変化され、その結果、この溶液は最終的にその酸洗い作用を失う。酸化剤、例えば過酸化水素または他の酸化剤、例えば過ホウ酸塩、過酸または有機過酸化物の連続式または回分式の添加によって、2価鉄イオンは酸化され3価状態に戻される。このように、酸洗いまたは不動態化作用に必要な酸化還元電位は維持される。
【0007】
EP-B-505 606には、ステンレス鋼を酸洗いおよび不動態化する硝酸不含有の方法が記載され、ここでは、処理される材料を、少なくとも酸洗い方法の開始において、少なくとも150g/lの硫酸、少なくとも15g/lのFe(III)イオン、および少なくとも40g/lのHFを含む、30〜70℃の間の温度における槽中に浸漬させる。この槽はさらに、約1g/l以下の添加剤、例えば非イオン性界面活性剤および酸洗い抑制剤を含む。酸化還元電位が所望の範囲において維持するような量において、過酸化水素を連続式または回分式で槽に添加する。他の槽成分は、その濃度が最も有利な操作範囲内において維持するように、補充もされる。酸洗い槽は、空気を吹き込むことによって攪拌される。酸洗い槽の攪拌は、均一な酸洗い結果を達成するために必要である。調整された酸化還元電位においてのみ基本的に上記の方法とは異なる類似の方法がEP-A-582 121に記載されている。
【0008】
酸洗い後、その表面は化学的に活性化され、これは、空気中において、表面が再度、光学的干渉性表面層で被覆されるようになることを意味する。これは、酸洗い後または酸洗い中に、新たに酸洗いされた表面を不動態化することによって防がれてよい。これは、酸洗い溶液と同様の処理溶液中で行われてよく、高い酸化還元電位は、酸洗い方法に対してよりも不動態化に対して用いられる。この特別の不動態化工程は、金属表面上に光学的に不可視の不動態化層を形成し、それにより鋼表面はその輝く金属的外観を維持する。ステンレス鋼に関する酸洗いまたは不動態化方法において処理溶液の作用がどうかは、設定される酸化還元電位に主に依存する。約2.5未満のpH値を有する酸性溶液は、酸化剤の存在により、銀/塩化銀電極に対して約200〜約350mVの範囲における酸化還元電位を有するならば、酸洗い効果を有する。酸化還元電位が約300より高く350mVまでの値に上がると、ステンレス鋼のタイプによるが、処理溶液は不動態化効果を有する。
【0009】
ステンレス鋼の酸洗い、特にフェライト系およびマルテンサイト系ステンレス鋼の酸洗い、およびまた合金中に硫黄を含むオーステナイト系ステンレス鋼の酸洗いにおいて、灰黒色のスマット(gray black smut)が酸洗いそのものにおいて形成する。これは、酸洗い反応により表面上における副生物の生成による。特に、フェライトおよびマルテンサイト種は、別個の工程における高酸化性化学溶液を用いた酸洗い後に不動態化しなければならない。この工程は、材料の光沢化および表面の不動態化の両方をもたらす。
【0010】
従来技術により用いられている従来の不動態化および光沢化組成物は、場合により少量のフッ化水素酸(一般に1〜10g/l)を含み得る、6%〜20%の範囲の濃度の硝酸によって生成される酸性水溶液である。HFの存在の想定される必要性は、一部のフェライト系およびマルテンサイト系ステンレス鋼種が、表面自体の効率的な漂白(bleaching)を可能とする表面のライトエッチング(light etching)を必要とするという事実のためである。これは、2つの異なる溶液が実際には必要となり、一方は上記の問題を解決するためにHFを含み、他方はHFを含まず、これは、HFの存在がベース合金上における反応速度を上げ過ぎるという事実に起因し、不動態化からエッチングへの溶液の挙動がシフトすることを意味する。これにより、ベース合金の高い金属溶解および表面の更なる黒色化がもたらされるであろう。
【0011】
さらに、非常に低いHF濃度を用いるために、従来の系は、適当な方法で制御され補充するのが極めて難しい。
【0012】
これに関して、EP-A-1552035では、十分な漂白活性を有するがごくわずかなエッチング効果である溶液を提供するために複合フッ化物化合物を含むステンレス鋼種のための不動態化溶液が提案されている。この複合フッ化物化合物は、化学元素の周期表の第4、13または14群(旧表記:第IVa、IIIまたはIV群、すなわちそれぞれ元素Ti、BまたはCから始まる群)の元素に基づく。さらに、EP-A-1552035では、ステンレス鋼の不動態化方法における有害な環境的影響をさらに最小化するためにこの種の不動態化溶液は必ずしも硝酸を含まないことが教示されている。
【0013】
それにも関わらず、合金化元素として多量の硫黄を含むステンレス鋼種を光沢化するために適用される場合、EP-A-1552035による溶液は、輝く外観をあまり有さない金属表面をもたらすことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許第505606号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第582121号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開第1552035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
結果として、処理される特定のステンレス鋼種に関わらず、スマットの除去に関して非常に効果的である組成物に到達するために、酸洗いされたステンレス鋼のための既存の不動態化および光沢化溶液をさらに改良する必要が、従来技術から存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、不動態化および光沢化溶液の更なる成分として少なくとも3個で8個以下の炭素原子を有する複数のヒドロキシル基を含む有機化合物の存在が上記の問題を解決するという発見に基づく。
【0017】
したがって、酸洗いされたステンレス鋼表面の不動態化および光沢化のための酸性水性組成物は、水および次の溶解成分:
(A)フッ素を含まない少なくとも1つの酸;
(B)少なくとも1つのフッ素含有無機化合物;
(C)ペルオキシ部を含む少なくとも1つの物質;および
(D)少なくとも3個で8個以下の炭素原子を有する2より多いヒドロキシル基を含む少なくとも1つの有機化合物
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0018】
有機化合物(D)に関して、2つの近接するヒドロキシル基を有する少なくとも1つのヒドロキシル基が有機化合物(D)内に存在する不動態化および光沢化溶液が好ましい。

【0019】
本発明の不動態化および光沢化組成物中に存在する有機化合物(D)の中で、2つの近接のヒドロキシル基を有する少なくとも1つのヒドロキシル基を有する化合物が好ましい。
【0020】
還元糖およびポリオールから選択される有機化合物(D)が特に好ましい。本発明のさらにより好ましい組成物において、有機成分(D)による少なくとも1つの有機化合物は、1,2,3-トリヒドロキシプロパン、1,2,3,4-テトラヒドロキシブタン、1,2,3,4,5-ペンタヒドロキシペンタン、1,2,3,4,5,6-ヘキサヒドロキシヘキサンから、好ましくはソルビトール、キシリトール、メソ-エリスリトールおよび/またはグリセロールから、より好ましくはソルビトール、キシリトールおよび/またはグリセロールから選択される。本発明の組成物中に含まれるこれらの好ましいポリオールは、酸洗いされたステンレス鋼表面のスマット除去において非常に効果的である。
【0021】
酸洗いされたステンレス鋼の不動態化および光沢化において最も有利なスマット除去性能を達成するために、本発明の組成物中の有機化合物(D)の量は、好ましくは2〜15g/lの範囲、より好ましくは3〜9g/lの範囲である。
【0022】
不動態化および光沢化水性組成物の成分(A)による少なくとも1つの酸は、好ましくは3.5未満の第1脱プロトン化工程に対するpKa値を有し、より好ましくは硫酸、リン酸および/またはクエン酸から選択され、さらにより好ましくは硫酸および/またはリン酸から選択される。
【0023】
酸洗いされたステンレス鋼基材の最も有利なエッチング速度を達成するために、本発明の組成物における化合物(A)による酸の量は、好ましくは0.5〜100g/lの範囲、より好ましくは10〜30g/lの範囲である。不動態化および光沢化組成物における硝酸の量は、有害な亜硝酸蒸気(nitrous fume)を発生し得るため、1g/l未満、より好ましくは100ppm未満の硝酸塩が含まれることが好ましい。ここで開示される組成物の不動態化および光沢化作用が硝酸の存在に依存しないことが本発明の更なる利点である。
【0024】
本発明によれば、フッ素含有無機化合物は、好ましくは遊離(free)または複合フッ化物から選択される。本発明の任意の態様において、複合フッ化物は、遊離酸または塩、好ましくはアルカリ性金属塩として添加されてよく、これは、少なくとも、好ましい示された成分(B)の濃度をもたらす量におけるプロセス溶液中に可溶である。任意の場合において、プロセス溶液のpH値および複合フッ化物酸の解離定数に応じて、酸および塩形状の複合フッ化物イオンの間の平衡状態が確立するであろう。好ましい遊離または複合フッ化物は、周期表の第4群、第13群および/または第14群の元素に基づき、より好ましくは元素B、Si、Tiおよび/またはZrの複合フッ化物から選択される。具体例は、その対応する酸形状、またはその塩の形状いずれかにおける、BF4-、SiF62-、TiF62-およびZrF62-である。経済上および環境上の理由のために、SiF62-が特に好ましい。
【0025】
不動態化および光沢化組成物の成分(B)による化合物の好ましい量は、フッ素含有量として計算して、4〜25g/lの範囲、好ましくは8〜16g/lの範囲にある。
【0026】
本発明による不動態化および光沢化組成物の成分(C)による化合物に関して、ペルオキシ部を含む物質は、過酸化水素、ペルオキシ硫酸、ペルオキシ酢酸、ペルオキシホウ酸、ペルオキシリン酸、ペルオキシ二リン酸、およびその塩から選択されることが好ましい。
【0027】
不動態化および光沢化組成物の成分(C)による化合物の好ましい量は、過酸化水素含有量として計算して、3〜25g/lの範囲、好ましくは5〜20g/lの範囲にある。
【0028】
本発明の不動態化および光沢化組成物は、さもなければ鋼基材から放出される第二鉄イオン等の金属カチオンの存在において部分的に分解される成分(C)の化合物によるペルオキシ部を含む物質に対する安定剤として機能する成分(E)をさらに含んでよい。
【0029】
この目的に対して適当な成分(E)による化合物は、成分(D)の有機化合物とは異なり:
(E1)各分子中に少なくとも1つのエーテル部および少なくとも1つのヒドロキシル部の両方を含む分子から構成される物質;
(E2)各分子中に少なくとも2つのエーテル部を含む分子から構成される物質;および/または
(E3)各分子中に少なくとも1つのエーテル部、および少なくとも2つ、または好ましくは少なくとも3つの炭素原子と共有結合する1つの窒素原子の両方を含む分子から構成される物質
から選択される。
【0030】
本発明の好ましい組成物において、成分(E)による安定剤は、小群(E1)に属し、次の特徴を有する分子から構成される物質から選択され、各好ましい特徴は、他と独立してそれ自体が好ましく、これらの好ましい特徴の組み合わせはさらにより好ましく、全体として好ましいのは、分子において組み合わせられる好ましい特徴が多いほど、全体として好ましさは大きくなる:
− 各分子は、与えられた順に好ましさが高くなるが、少なくとも3、4、5または6個の、かつ独立して好ましくは、与えられた順に好ましさが高くなるが、100、50、40、30、25、20、16、14、12、10または8個以下の炭素原子数を有する;
− 各分子は、与えられた順に好ましさが高くなるが、3、2または1個以下のヒドロキシル基数を有する;および
− 各分子は、与えられた順に好ましさが高くなるが、50、40、30、25、20、15、10、8、6、4、3または2以下のエーテル部の数を有する;および
− 各分子中のエーテル部における少なくとも1つの酸素原子は、少なくとも2、またはより好ましくは少なくとも3個の炭素原子を含む末端1価アルキル基に結合する。
【0031】
不動態化および光沢化組成物において、安定剤成分(E)の小群(E2)および(E3)は、主に、2つのうち少なくとも1つの理由により、(E1)よりもあまり好ましくない:本発明による好ましい濃度における光沢化および不動態化液体の他の必要成分を含む光沢化および不動態化液体における、より大きな費用および/またはより乏しい溶解性。これら2つのあまり好ましくない小群の中で、最も好ましいのは、10〜22個の炭素原子および単一のヒドロキシル部を有する脂肪アルコールをエトキシル化し、次いで末端ヒドロキシ部における水素原子に対してアルキル基またはハロゲン原子(halo atom)を置換することによりポリ(オキシエチレン)鎖をキャッピングすることによって形成され得る分子を有する非イオン性界面活性剤である。アルコキシル化アミンおよびアルコキシル化4級アンモニウムカチオン性界面活性剤が次に最も好ましい;これらはまた、好ましくは少なくとも1個、より好ましくはちょうど1個の、10〜22個の炭素原子を有する疎水性部を有する。
【0032】
本発明による光沢化および不動態化組成物における成分(E)の化合物の濃度は、好ましくは、与えられた順に好ましさが高くなるが、少なくとも0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、2.0、3.0、4.0または5.0g/lであり、与えられた順に好ましさが高くなるが、主に経済性の理由により、75、50、40、30、20または15g/l以下である。
【0033】
最後に、本発明は、好ましくは少なくとも0.10at.-%の硫黄合金化量を有する、ステンレス鋼、特にオーステナイト、フェライトおよび/またはマルテンサイト鋼種の酸洗いされた表面の不動態化および光沢化方法を含み、ここで、その表面を、上記でより詳細に記載した本発明の組成物と(浸漬または噴霧方法によって)接触させる。浸漬方法において、その溶液は、好ましくは空気の噴出または機械的攪拌手段によって攪拌される。そのプロセス溶液は、15〜40℃、好ましくは最大30℃の範囲における温度を有し得る。接触時間は、ステンレス鋼の種類、および不動態化/光沢化工程の前の酸洗い処理の種類に依る。通常の接触時間は、10秒(ストライプに対して[for strip])〜10分の範囲であろう。この接触は、水を用いてステンレス鋼表面をすすぐこと、好ましくは強力噴霧方法において昇圧で水をステンレス鋼表面上に噴霧することによって終了される。
【0034】
本発明による方法は一連の処理(treatment chain):前処理(酸処理、溶融塩処理、ショットピーニング、スケール(scale)の機械的クラッキング等)、酸洗い(1以上の工程において、例えば導入部分において引用されるような酸洗い溶液を用いる)、本発明による不動態化および光沢化、水すすぎ、および乾燥、の一部であることは上記の記載から明らかなはずである。
【0035】
本発明は、任意の形状、例えばワイヤー、棒、管、板、コイルおよび最終製品の形状における、ステンレス鋼、特にオーステナイト、フェライトまたはマルテンサイト種の製造に適用することができる。スマット除去された輝く鋼表面を得るために、硫黄を含む、オーステナイト系、フェライト系およびマルテンサイト系ステンレス鋼の全ての種(例えばAISI 303)に対して、本発明の不動態化および光沢化組成物である単一のプロセス溶液を、用いることができる。
【0036】
従来技術である硝酸不含有の不動態化および光沢化溶液と比較して、本発明の組成物は、特に高硫黄フェライトおよびマルテンサイト種に対する光沢化および不動態化工程において、酸洗いされたステンレス鋼の均一で明るい仕上げをもたらす。
【実施例】
【0037】
熱間圧延されたオーステナイト系ステンレス鋼(EN 1.4029;0.15〜0.25at.-%のS)およびマルテンサイト系ステンレス鋼(EN 1.4035;0.15〜0.35at.-%のS)のワイヤー試料を、還元溶融塩を用いて前処理し、次いで50℃で塩酸(170g/l HCl)において26分間、次に40℃でCleanox(登録商標)溶液において5分間酸洗いを行った(EP-B-582 121による出願人の商業化された酸洗い方法)。
【0038】
すすぎ工程後、ワイヤー試料は、表面上の黒いスマット(smut)の存在により完全に黒みがかっていた。その後、ワイヤー試料について、すぐに25℃において表1による種々の溶液中で5分間、光沢化および不動態化を行った。
【0039】
この工程後、この試料を、低圧水噴霧を用いて1分間すすぎ、乾燥した。
【0040】
乾燥したワイヤー試料を視覚的に評価し、1〜5の範囲の任意の尺度を用いて表面輝度を比較したが、ここで:
1=非常に悪い(元と同様の輝き)
2=悪い(表面が部分的に漂白される−表面を擦ると白色紙が黒ずむ)
3=許容可能(非常に漂白された表面であるが、白色紙で擦るとまだ少し残余物)
4=良好(紙で擦ると、表面上にごく少量の黒色残余物、しかし、均一性が乏しい)
5=非常に良好(完全に漂白され、均一な表面−紙で表面を擦ると黒色残余物がない)
【0041】
【表1】
【0042】
卑金属のオーステナイト種、例えば硫黄含有合金EN 1.4305等のワイヤー試料を、40℃、Cleanox(登録商標)溶液中で40分間酸洗いした(EP-B-582 121による出願人の商業化された酸洗い方法)。
【0043】
すすぎ工程の後、ワイヤー試料は、表面上の黒色のスマットの存在により完全に黒ずんでいた。次に、この試料について、すぐに25℃において表2による種々の溶液中で5分間、光沢化および不動態化を行った。
【0044】
この工程後、ワイヤー試料を、低圧水噴霧を用いて1分間すすぎ、乾燥した。上記の表面輝度の評価のための同じ任意の尺度を、合金EN 1.4305の乾燥したワイヤー試料に適用した。
【0045】
EN 14305ステンレス鋼におけるスマット除去性能への本発明の組成物の効果は、表1のステンレス鋼種と比較してあまる顕著でない。そうではあるが、本発明の組成物は、わずかにより良く機能することが分かる。
【0046】
【表2】
【0047】
種々のグリコール(「発明の説明」によるポリオール)の濃度の効果は、表1の実施例に対して記載されるのと同じ一連の処理に従い、表面輝度の評価に対して同じ任意の尺度が適用され、熱間圧延したEN 1.4029において研究された。
【0048】
【表3】
【0049】
非常に好ましい化合物(D)に対して本発明の組成物によって与えられる光沢化結果は、3〜9g/lの濃度範囲において非常に安定である(表3)。
【0050】
種々の酸化剤(「発明の説明」による)の濃度の効果は、表1の実施例に対して記載されるのと同じ一連の処理に従い、表面輝度の評価に対して同じ任意の尺度が適用され、熱間圧延したマルテンサイト系ステンレス鋼EN 1.4035のワイヤー試料において研究された。
【0051】
【表4】
【0052】
本発明の組成物の成分(A)による強酸としての硝酸の使用は、処理されたステンレス鋼表面の輝度に関して、わずかに劣った結果を生む(E18、E19)。同様に、成分(C)によるペルオキシ部を有する化合物の量が3〜17g/lの範囲において変わる本発明の組成物における光沢化効果は、この特定の範囲において非常に安定である(E20〜E23)。