(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(D)ジチオリン酸亜鉛及び(E)アルカリ金属系清浄剤又はアルカリ土類金属系清浄剤から選択される少なくとも一種を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
組成物全量基準で、(D)ジチオリン酸亜鉛をリン量換算で0.01〜0.15質量%含有し、(E)アルカリ金属系清浄剤又はアルカリ土類金属系清浄剤を金属量換算で0.1〜0.3質量%含有する請求項6に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[内燃機関用潤滑油組成物]
本発明の内燃機関用潤滑油組成物(以下、単に「潤滑油組成物」と称することもある)は、(A)潤滑油基油と、(B)ホウ素含有アルケニルコハク酸イミド及び/又はホウ素含有アルキルコハク酸イミド(以下、単に、「ホウ素含有コハク酸イミド」ということもある)と、(C)ポリ(メタ)アクリレートを含有するものである。以下、各成分についてより詳細に説明する。
【0010】
[(A)潤滑油基油]
(A)潤滑油基油は、鉱油及び/又は合成油からなり、従来、潤滑油の基油として使用されている鉱油及び合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等のうちの1つ以上の処理を行って精製した鉱油やワックスやGTL WAXを異性化することによって製造される潤滑油基油等が挙げられるが、これらのうち水素化精製により処理した鉱油が好ましい。水素化精製により処理した鉱油は、後述する%C
P、粘度指数を良好にしやすくなる。
【0011】
合成油としては、例えば、ポリブテン、α−オレフィン単独重合体や共重合体(例えばエチレン−α−オレフィン共重合体)などのポリアルファオレフィン、例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなどの各種のエステル、例えば、ポリフェニルエーテルなどの各種のエーテル、ポリグリコール、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、GTL WAXを異性化することによって製造される潤滑油基油などが挙げられる。これらの合成油のうち、特にポリアルファオレフィン、エステルが好ましく、これら2種を組み合わせたものも合成油として好適に使用される。
【0012】
本発明においては、潤滑油基油として、鉱油を一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、合成油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。更には、鉱油一種以上と合成油一種以上とを組み合わせて用いてもよい。
また、(A)潤滑油基油は、潤滑油組成物において主成分となるものであり、潤滑油組成物全量に対して、通常、50質量%以上、好ましくは60〜97質量%、より好ましくは65〜95質量%含有される。
【0013】
(A)潤滑油基油の粘度については特に制限はないが、100℃における動粘度が、1.0〜20mm
2/sの範囲であることが好ましく、1.5〜15mm
2/sの範囲であることがより好ましく、2.0〜13mm
2/sの範囲であることがさらに好ましい。本発明では、以上のように、(A)潤滑油基油の動粘度を比較的低粘度とすると、省燃費性能を実現しやすくなる。なお、本明細書において、動粘度は、後述する実施例に記載された方法により測定されるものである。
また、(A)潤滑油基油の粘度指数は、90以上であることが好ましく、95以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。潤滑油基油の粘度指数の上限値は、特に限定されないが、170以下であることが好ましく、160以下であることがより好ましく、150以下であることがさらに好ましい。
潤滑油基油の粘度指数が前記範囲であることにより、潤滑油組成物の粘度特性を良好にしやすくなる。なお、本明細書において、粘度指数は、後述する実施例に記載された方法により測定されるものである。
【0014】
上記鉱油は、環分析によるパラフィン分(%C
P)が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。パラフィン分を60%以上とすることで、基油の酸化安定性が良好になり、潤滑油組成物における塩基価の低下及びコーキングの発生を抑制する。なお、パラフィン分(%C
P)の測定は後述するとおりである。
【0015】
[(B)ホウ素含有コハク酸イミド]
本発明で使用される(B)ホウ素含有コハク酸イミドとしては、アルケニル又はアルキルコハク酸モノイミドのホウ素化物、アルケニル又はアルキルコハク酸ビスイミドのホウ素化物が挙げられる。アルケニル又はアルキルコハク酸モノイミドとしては、例えば、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。また、アルケニル又はアルキルコハク酸ビスイミドとしては、例えば、下記一般式(2)で示される化合物が挙げられる。本発明では、(B)成分を配合することで組成物の清浄性が良好になる。また、(C)成分とともに使用することで、コーキングの発生及び銅溶出を抑制することが可能になる。
【0017】
上記式(1)及び式(2)において、R
1、R
3及びR
4は、アルケニル基又はアルキル基であり、重量平均分子量が、それぞれ、好ましくは500〜3,000、より好ましくは1,000〜3,000である。
上記したR
1、R
3及びR
4の重量平均分子量が500以上であると、基油への溶解性を良好にできる。また、3,000以下であると、本化合物により得られる効果を適切に発揮することが期待される。R
3及びR
4は同一でも異なっていてもよい。
R
2、R
5及びR
6は、それぞれ炭素数2〜5のアルキレン基であり、R
5及びR
6は同一でも異なっていてもよい。mは1〜10の整数を示し、nは0又は1〜10の整数を示す。ここで、mは、好ましくは2〜5、より好ましくは3〜4である。mが2以上であると、本化合物により得られる効果を適切に発揮することが期待される。mが5以下であると、基油に対する溶解性がより一層良好となる。
上記式(2)において、nは好ましくは1〜4であり、より好ましくは2〜3である。nが1以上であると、本化合物により得られる効果を適切に発揮することが期待される。nが4以下であると、基油に対する溶解性がより一層良好となる。
【0018】
アルケニル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン−プロピレン共重合体を挙げることができ、アルキル基としてはこれらを水添したものが挙げられる。好適なアルケニル基としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が挙げられる。ポリブテニル基は、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものが好適に用いられる。また、好適なアルキル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基を水添したものが挙げられる。
【0019】
(B)ホウ素含有コハク酸イミドは、従来公知の方法で製造可能である。例えば、ポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更にポリアミンと酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体と反応させてイミド化させることによって得られる。モノイミド又はビスイミドは、アルケニルコハク酸無水物若しくはアルキルコハク酸無水物とポリアミンとの比率を変えることによって製造することが可能である。
また、(B)ホウ素含有コハク酸イミドは、ホウ素未含有のアルケニル又はアルキルコハク酸モノイミドや、アルケニル又はアルキルコハク酸ビスイミドを、上記ホウ素化合物で処理して得てもよい。
【0020】
上記したポリオレフィンを形成するオレフィン単量体としては、炭素数2〜8のα−オレフィンの1種又は2種以上を混合して用いることができるが、イソブテンと1−ブテンの混合物を好適に用いることができる。
一方、ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン等の単一ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、及びペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン、アミノエチルピペラジン等のピペラジン誘導体を挙げることができる。
【0021】
上記(B)成分は、組成物全量基準のホウ素量換算値で0.001〜0.1質量%含まれる。0.001質量%未満であると、コーキング及び銅溶出の発生を抑制しにくくなる。また、0.1質量%を超えると、沈殿を生じるなどその配合量に見合った効果を発揮しにくくなる。これら観点から、(B)成分の含有量は、組成物全量基準のホウ素量換算値で、より好ましくは、0.005〜0.08質量%であり、さらに好ましくは、0.010〜0.06質量%である。
【0022】
また、(B)成分におけるホウ素と窒素の質量比(B/N比)は、0.8以上であることが好ましく、1.0以上が好ましく、1.1以上であることが好ましい。B/N比の上限値は特に限定されないが、2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。B/N比を上記範囲とすることで、本化合物により得られる効果を適切に発揮しやすくなる。
なお、(B)成分の含有量は、上記ホウ素量換算値が上記範囲内となるような量であればよいが、組成物全量基準で、通常0.1〜10質量%程度、好ましくは0.5〜5質量%、より好ましくは1〜4質量%である。
【0023】
[(C)ポリ(メタ)アクリレート]
本発明の潤滑油組成物に含有される(C)ポリ(メタ)アクリレートは、重量平均分子量をMwとし、
13C−NMRで測定したアルキル基の平均炭素数をXとすると、Mwが10万〜70万であるとともに、Mw/Xが3万以上となるポリ(メタ)アクリレートである。
なお、Mw、Xの測定方法は、後述する実施例のとおりであるが、アルキル基とは、ポリ(メタ)アクリレートに存在する全てのアルキル基を意味し、例えば後述する一般式(3)ではR
7及びR
8を意味し、また、(メタ)アクリレートのCOO−に別の置換基を介してアルキル基が結合される場合には、そのようなアルキル基も含むものとする。また、平均炭素数とは、算術平均値を意味する。
【0024】
本発明では、上記(B)成分に加えて、(C)成分が含有されることで、潤滑油組成物への銅の溶出やコーキングの発生がバランスよく抑制される。その原理は定かではないが、以下のように推定される。ポリ(メタ)アクリレート(以下、「PMA」ともいう)は、一部分が分解等により銅と錯体を形成して、エンジンの軸受け部等の部品の合金から銅を溶出させることがあると推定している。PMAが互いに絡みやすい構造となると、PMAのエンジン金属表面への付着量が低減され、結果として銅の溶出が抑えられる。また、PMAは、分解すると反応性が上がり、そのことが要因となって、コーキングや銅の溶出を発生せやすくなる。本発明では、上記(B)成分の作用により、PMAの絡みやすさが促進されるとともに、PMAの分解が抑えられ、それにより、潤滑油組成物への銅の溶出やコーキングの発生がバランスよく抑制される。
【0025】
本発明では、MwとPMAの側鎖のアルキル基の大きさのバランスが重要であり、小さいアルキル基を側鎖に多数有する場合には、比較的低いMwでもPMAが絡みやすい一方で、大きいアルキル基を側鎖に一定割合以上有する場合、比較的高いMwでもPMAが絡みにくくなると推定される。更には、大きいアルキル基を側鎖に一定割合以上有し、比較的高いMwの場合、PMAは絡みにくくなるものの、PMAの分解が発生しやすいと推定される。したがって、Mw/Xが3万未満となると、エンジン金属表面へのPMAの付着を十分に低減できず、さらにはPMAの分解が生じやすくなり、銅の溶出やコーキングの発生を抑制できにくくなる。
また、Mwが一定範囲にあると、側鎖のアルキル基がある程度の大きさを有するものが多くあってもPMAの反応性が小さくなる一方で、Mwが70万を超えると、側鎖に小さいアルキル基が多数あってもPMAの反応性が大きくなると推定され、コーキングや銅の溶出を発生させやすくなる。また、分子量が10万未満では、側鎖に小さいアルキル基が多くあっても絡みにくくなると推定され、銅の溶出を十分に抑えることができない。
また、Mwと、Mw/Xが一定の範囲にある(C)成分が含有されることで、酸化安定性が高まり塩基価の低下を抑制することができる。
【0026】
銅の溶出やコーキングの発生をバランスよく抑制するには、Mw/Xは3万〜20万であることが好ましく、3万〜13万であることがより好ましく、銅の溶出をより適切に抑える観点からは3万〜10万であることがさらに好ましい。
また重量平均分子量(Mw)は、10万〜70万であることが好ましく、15万〜60万であることがより好ましく、18万〜55万であることがさらに好ましい。
【0027】
(C)ポリ(メタ)アクリレートは、好ましくは、下記一般式(3)で表される(メタ)アクリレートモノマーを含む重合性モノマーの重合体である。
【化2】
一般式(3)中、R
7は水素またはメチル基を示し、R
8は炭素数1〜200の直鎖状または分枝状のアルキル基を示す。R
8は、好ましくは炭素数1〜40のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜28のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1〜25のアルキル基である。
一般式(3)において、R
8は、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、及びオクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基、ヘントリアコンチル基、ドトリアコンチル基、トリトリアコンチル基、テトラコンチル基、ペンタトリアコンチル基、ヘキサトリコンチル基、オクタトリアコンチル基、テトラコンチル基等が例示でき、これらは直鎖状でも分枝状でもよい。
【0028】
本発明では、(C)成分は、非分散型であることが好ましい。非分散型ポリ(メタ)アクリレートとしては、具体的には、一般式(3)で表されるモノマーの1種の単独重合体または2種以上の共重合により得られるポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
ただし、(C)ポリ(メタ)アクリレートは、分散型ポリ(メタ)アクリレートであってもよい。分散型ポリ(メタ)アクリレートとしては、一般式(3)で表されるモノマーと、下記一般式(4)および(5)から選ばれる1種以上のモノマーを共重合させたものが挙げられる。
【0029】
【化3】
一般式(4)中、R
9は水素原子またはメチル基を示し、R
10は炭素数1〜28のアルキレン基を示し、E
1は窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基または複素環残基を示し、aは0または1を示す。
【0030】
【化4】
一般式(5)中、R
11は水素原子またはメチル基を示し、E
2は窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基または複素環残基を示す。
【0031】
E
1およびE
2で表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、およびピラジノ基等が例示できる。
【0032】
一般式(4)(5)で示されるモノマーの好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドンおよびこれらの混合物等が例示できる。
一般式(3)で示されるモノマー(M1)と、一般式(4)及び/又は(5)で示されるモノマー(M2)との共重合体の共重合モル比については特に制限はないが、M1:M2=99:1〜80:20程度が好ましく、より好ましくは98:2〜85:15、さらに好ましくは95:5〜90:10である。
【0033】
本発明の(C)成分は、上記一般式(3)で示されるモノマーが、(C)成分を構成する全モノマー成分中の70質量%であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが好ましい。
また、(C)成分は、上記一般式(3)〜(5)以外のモノマー由来の構成単位を本発明の目的に反しない範囲で含んでいてもよい。通常そのようなモノマー成分は、全モノマー成分中の10質量%以下程度である。
【0034】
上記(C)成分は、より具体的には、アルキル基の炭素数が1〜4のアルキル(メタ)アクリレートモノマーと、アルキル基の炭素数が12〜40のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとを少なくとも共重合したもの、又はアルキル基の炭素数が1〜4のアルキル(メタ)アクリレートモノマーと、アルキル基の炭素数が5〜11のアルキル(メタ)アクリレートモノマーと、アルキル基の炭素数が12〜40のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとを少なくとも共重合したものが挙げられる。これらの中では好ましくは、アルキル基の炭素数が1〜4のアルキル(メタ)アクリレートモノマーと、アルキル基の炭素数が12〜40のアルキル(メタ)アクリレートモノマーを少なくとも共重合したものが挙げられ、より好ましくはメチル(メタ)アクリレートモノマーとアルキル基の炭素数が16〜25のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとを少なくとも共重合するものが挙げられる。
【0035】
(C)ポリ(メタ)アクリレートの含有量は、組成物全量基準で0.1〜30質量%である。0.1質量%未満であると、塩基価の低下、コーキングの発生及び銅溶出の発生をバランスよく抑制することが難しくなる。30質量%を超えると、その含有量に見合った効果を発揮しにくくなる。上記(C)成分の含有量は、好ましくは0.3〜25質量%であり、より好ましくは0.5〜10質量%である。なお、(C)成分の含有量は、その樹脂分の含有量を意味する。
【0036】
[(D)ジチオリン酸亜鉛]
本発明の潤滑油組成物は、(D)ジチオリン酸亜鉛を含有していてもよい。(D)ジチオリン酸亜鉛を含有することで、耐磨耗防止性を良好にしつつ、酸化安定性も良好にすることができる。ジチオリン酸亜鉛としては、下記の一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
【0037】
一般式(6)中のR
12、R
13、R
14及びR
15は、それぞれ独立に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、及び炭素数7〜19のアリールアルキル基のいずれかであるが、これらの中ではアルキル基が好ましい。
ジチオリン酸亜鉛として、具体的にはジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましく、中でも第2級ジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましい。
ジチオリン酸亜鉛の含有量は、組成物全量に対して、リン量換算で0.005〜0.30質量%であることがより好ましく、0.01〜0.15質量%であることがさらに好ましい。上記範囲内とすることで、清浄性、耐コーキング性に影響を与えることなく、潤滑油組成物の耐磨耗防止性及び酸化安定性を良好にできる。
【0038】
[(E)金属系清浄剤]
潤滑油組成物は、さらにアルカリ金属系清浄剤又はアルカリ土類金属系清浄剤からなる(E)金属系清浄剤を含有していてもよい。(E)金属系清浄剤を含有することで、清浄性を良好にしつつ、塩基価低下、及びコーキングや銅溶出の発生を抑えやすくなる。
具体的には、アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート等の中から選ばれる1種以上の金属系清浄剤が挙げられる。また、アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウムが挙げられ、アルカリ金属であるナトリウム、アルカリ土類金属であるマグネシウム、カルシウムが好適に用いられ、カルシウムがさらに好ましい。
【0039】
これらのアルカリ金属系清浄剤又はアルカリ土類金属系清浄剤は、中性、塩基性、過塩基性のいずれであっても良いが、塩基性や過塩基性のものが好ましく、その全塩基価は10〜500mgKOH/gが好ましく、150〜450mgKOH/gのものを使用することがより好ましい。なお、全塩基価は、JIS K−2501の過塩素酸法に従って測定したものである。
(E)金属系清浄剤は、例えば、150〜450mgKOH/gのものを単独使用してもよいが、全塩基価150〜450mgKOH/gのアルカリ金属系清浄剤又はアルカリ土類金属系清浄剤と、5〜100mgKOH/gのアルカリ金属系清浄剤又はアルカリ土類金属系清浄剤を併用してもよい。
(E)金属系清浄剤の含有量は、組成物全量に対して、金属量換算で0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であることがより好ましい。これら下限値以上含有させることで、塩基価低下や、コーキング及び銅溶出の発生をより抑制しやすくなる。また、上限値以下とすることで含有量に見合った効果を発揮することが可能になる。
潤滑油組成物は、組成物全量基準で(D)ジチオリン酸亜鉛をリン量換算で0.01〜0.15質量%含有し、かつ(E)金属系清浄剤を金属量換算で0.1〜0.3質量%含有することがより好ましい。
【0040】
[その他の成分]
潤滑油組成物は、(B)ホウ素含有コハク酸イミドに加えて、ホウ素非含有コハク酸イミドを含有していていもよい。ホウ素非含有コハク酸イミドは、ホウ素を含有しないアルケニルコハク酸イミド及び/又はアルキルコハク酸イミドである。アルケニルコハク酸イミド及び/又はアルキルコハク酸イミドとしては、上記したアルケニル又はアルキルコハク酸モノイミド、又はアルケニル又はアルキルコハク酸ビスイミドが挙げられる。
ホウ素非含有コハク酸イミドは、特に限定されないが、組成物全量基準で、通常0.1〜10質量%程度、好ましくは0.5〜5質量%程度である。
【0041】
潤滑油組成物は、さらに、酸化防止剤を含有していてもよい。酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、モリブデンアミン錯体系酸化防止剤等が挙げられ、これらのなかではアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらは、従来潤滑油の酸化防止剤として使用されている公知の酸化防止剤の中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。
アミン系酸化防止剤としては、例えばジフェニルアミン、炭素数3〜20のアルキル基を有するジアルキルジフェニルアミン等のジフェニルアミン系のもの;α−ナフチルアミン、炭素数3〜20のアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系のものが挙げられる。
また、フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのモノフェノール系のもの;4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系のもの等を挙げられる。
また硫黄系酸化防止剤としてジラウリル−3,3'−チオジプロピオネイト等、リン系酸化防止剤としてはホスファイト等が挙げられる。
モリブデンアミン錯体系酸化防止剤としては、6価のモリブデン化合物、具体的には三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるもの、例えば、特開2003−252887号公報に記載の製造方法で得られる化合物を用いることができる。
これらの酸化防止剤は単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常2種以上を組み合わせて使用するのが好ましい。
酸化防止剤の含有量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%程度が好ましく、0.1〜5質量%程度が好ましい。
【0042】
潤滑油組成物は、さらに、上記以外の摩擦調整剤及び耐摩耗剤の中から選ばれた少なくとも1種の添加剤を含有してもよい。
具体的には、例えば硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィドなどの硫黄系化合物、リン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩などのリン系化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート(MoDTP)、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)などの有機金属系化合物、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ウレア系化合物、ヒドラジド系化合物などの無灰系摩擦調整剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中では省燃費性の観点から、硫化オキシモリブデンジチオカルバメートを使用することが好ましい。これらの摩擦調整剤及び耐摩耗剤の含有量は、組成物全量基準で0.01〜8質量%程度が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
また、潤滑油組成物は、さらに、流動点降下剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、消泡剤等の成分を含有してもよい。
【0043】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、特に限定されないが、通常2〜25mm
2/s程度であり、好ましくは3〜22mm
2/s、さらに好ましくは4〜17mm
2/sである。このように組成物を低粘度とすることで、省燃費性を向上させやすくなる。また、潤滑油組成物の粘度指数は、150以上であることが好ましく、170〜300程度であることがより好ましく、180〜250程度であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明の潤滑油組成物は、四輪自動車、二輪自動車等の各種の内燃機関用に使用される内燃機関用潤滑油組成物である。自動車においてストップアンドゴーを繰り返す市街地運転を、例えば高出力化が可能なターボ機構搭載エンジンで行うと、内燃機関で使用される潤滑油組成物にコーキング及び銅溶出が生じやすくなるが、本発明の潤滑油組成物は、コーキング及び銅溶出をバランスよく抑制することが可能である。
【0045】
[潤滑油組成物の製造方法]
本発明の潤滑油組成物の製造方法は、(A)潤滑油基油に上記(B)及び(C)成分を配合して潤滑油組成物を製造するものである。また、本発明の潤滑油組成物の製造方法では、(B)、(C)成分以外にも、上記した(D)、(E)成分やその他の成分を潤滑油基油に配合してもよい。
(A)潤滑油基油の量、並びに上記(B)〜(E)成分,及びその他の成分が配合される量(配合量)は、上記した各成分の含有量と同様であればよく、また潤滑油組成物の性状や各成分の詳細についても、上記したとおりであるのでその記載は省略する。
本製造方法において、各成分は、いかなる方法で基油に配合されてもよく、その手法は限定されない。
なお、(B)及び(C)成分、さらには必要に応じて、(D)及び(E)成分、及びこれら以外の成分から選択される1以上の成分をさらに配合してなる潤滑油組成物は、通常、これら配合されたものを含有するものであるが、場合によっては、配合された添加剤の少なくとも一部は反応等して別の化合物となってもよい。
【実施例】
【0046】
次に、本発明を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0047】
本明細書において、各物性の測定、及び潤滑油組成物の評価は、以下に示す要領に従って求めたものである。
(1)動粘度
JIS K2283に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した値である。
(2)粘度指数
JIS K 2283に準拠して測定した値である。
(3)NOACK蒸発量
JPI−5S−41に規定の方法に従って測定した値である。
(4)環分析によるパラフィン分(%C
P)
環分析n−d−M法にて算出したパラフィン分の割合(百分率)を示し、ASTM D−3238に従って測定されたものである。
(5)塩基価
JIS K2501に準拠して、過塩素酸法により測定したものである。
(6)ポリ(メタ)アクリレートの平均炭素数(X)
13C−NMRの化学シフトおよび積分値から算出した。具体的には、まず、アルキル基の積分値の合計と、各アルキル基の積分値から、各アルキル基の割合を求め、以下の式により算出した。
平均炭素数X=(各アルキル基の炭素数×各アルキル基の割合)の合計
なお、
13C−NMRの測定条件は以下のとおりである。
装置:ECX-400P(日本電子社製) 溶媒:CDCl3
共鳴周波数:100MHz 測定モード ゲート付きデカップリング法
積算回数:2000〜5000 パルス遅延時間:25s
パルス幅:9.25us x−angle:90°
(7)ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量(Mw)
重量平均分子量(Mw)は、以下の条件で測定され、ポリスチレンを検量線として得られる値であり、詳細には以下の条件で測定されるものである。
装置:アジレント社製1260型HPLC カラム:ShodexLF404×2本
溶媒:クロロホルム 温度:35℃
サンプル濃度:0.05% 検量線:ポリスチレン
検出器 示差屈折検出器
(8)ISOTによる劣化後の全塩基価及び塩基価減少率
JIS K 2514に準拠するISOT試験(165.5℃)にて、試験油(潤滑油組成物)に触媒として銅片と鉄片を入れて、試験油を強制劣化させ、96時間後の全塩基価(過塩素酸法)を測定した。また、新油の全塩基価に対する劣化による試験油の全塩基価の減少率を算出した。減少率が低いほど塩基価維持性が高く、より長期間使用可能なロングドレイン油であることを示す。
(9)ISOTによる劣化後の銅溶出量
上記ISOT試験による劣化後の試験油の銅溶出量を測定した。
(10)パネルコーキング試験
Federal test method 791B・3462に準拠し、パネル温度300℃、油温100℃の条件下で、スプラッシュ時間15秒、停止時間45秒のサイクルで3時間試験した。試験終了後、パネルに付着したコーキング物を評価した。
【0048】
[実施例1〜9、比較例1〜4]
表1に示すように、(A)潤滑油基油に、(B)〜(E)成分、及びその他成分を配合して、(A)潤滑油基油及びこれら各成分を含有する各実施例、比較例の潤滑油組成物を作製し、その潤滑油組成物を評価し、その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
※表1における各成分は、以下を表す。
(A)潤滑油基油
潤滑油基油(A1):GroupIII 150N水素化精製基油、100℃動粘度 6.4mm
2/s、粘度指数131、NOACK蒸発量(250℃、1時間)7.0質量%, n-d-M環分析 %Cp.79.1%
潤滑油基油(A2):GroupIII 100N水素化精製基油、100℃動粘度 4.1mm
2/s、粘度指数134、NOACK蒸発量(250℃、1時間)12.9質量%, n-d-M環分析 %Cp.87.7%
潤滑油基油(A3):GroupIV ポリアルファオレフィン、100℃動粘度 3.7mm
2/s、粘度指数117、NOACK蒸発量(250℃、1時間)15.6質量%
潤滑油基油(A4):GroupIV エステル基油、100℃動粘度4.3mm
2/s、粘度指数139、NOACK蒸発量(250℃、1時間)2.6質量%
(なお、実施例8において、潤滑油基油は、潤滑油基油(A3)と潤滑油基油(A4)を混合したものであり、その混合基油の100℃動粘度は、4.3mm
2/s、粘度指数130であった。)
(B)ホウ素含有コハク酸イミド
ホウ素系含有コハク酸イミド(B1):ポリブテニルコハク酸イミドのホウ素化物、ホウ素含有量1.3質量%、窒素含有量1.2質量%、ポリブテニル基の重量平均分子量1,800、B/N比1.1
(C)ポリ(メタ)アクリレート
ポリ(メタ)アクリレート(C1):ポリアルキル(メタ)アクリレート、重量平均分子量200,000、平均炭素数(X):4.6、樹脂分:28質量%
ポリ(メタ)アクリレート(C2):ポリアルキル(メタ)アクリレート、重量平均分子量510,000、平均炭素数(X):5.7、樹脂分:19質量%
ポリ(メタ)アクリレート(C3):ポリアルキル(メタ)アクリレート、重量平均分子量440,000、平均炭素数(X):5.8、樹脂分:16質量%
ポリ(メタ)アクリレート(C4):ポリアルキル(メタ)アクリレート、重量平均分子量370,000、平均炭素数(X):5.6、樹脂分:26質量%
ポリ(メタ)アクリレート(C5):ポリアルキル(メタ)アクリレート、重量平均分子量430,000、平均炭素数(X):6.3、樹脂分:42質量%
ポリ(メタ)アクリレート(C6):ポリアルキル(メタ)アクリレート、重量平均分子量44,000、平均炭素数(X):7.3、樹脂分:53質量%
ポリ(メタ)アクリレート(C7):ポリアルキル(メタ)アクリレート、重量平均分子量90,000、平均炭素数(X):8.1、樹脂分:46質量%
ポリ(メタ)アクリレート(C8):ポリアルキル(メタ)アクリレート、重量平均分子量210,000、平均炭素数(X):9.4、樹脂分:44質量%
(D)ジチオリン酸亜鉛
ZnDTP(D1):ジアルキルジチオリン酸亜鉛、亜鉛含有量9.0質量%、リン含有量8.2質量%、硫黄含有量17.1質量%、アルキル基;第2級ブチル基と第2級ヘキシル基の混合物
(E)金属系清浄剤
金属系清浄剤(E1):塩基性カルシウムフェネート、全塩基価(過塩素酸法)255mgKOH/g、カルシウム含有量9.3質量%、硫黄含有量3.0質量%
金属系清浄剤(E2):塩基性カルシウムサリシレート、全塩基価(過塩素酸法)225mgKOH/g、カルシウム含有量7.8質量%、硫黄含有量0.2質量%
金属系清浄剤(E3):塩基性カルシウムスルホネート、全塩基価(過塩素酸法)300mgKOH/g、カルシウム含有量11.6質量%、硫黄含有量1.49質量%
・その他の成分
ホウ素非含有コハク酸イミド:ポリブテニルコハク酸ビスイミド、ポリブテニル基の数平均分子量2300、窒素含有量1.0質量%、塩素含有量0.01質量%以下
アミン系酸化防止剤:ジアルキルジフェニルアミン、窒素含有量4.62質量%
フェノール系酸化防止剤:オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
MoDTC:硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、モリブデン含有量10.0質量%、硫黄含有量11.5質量%
【0051】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜9の潤滑油組成物は、ホウ素含有コハク酸イミドと、特定のMwとMw/Xを有するポリアルキル(メタ)アクリレートを含有することで、劣化試験における塩基価の低下を抑えつつ、コーキング及び銅溶出の発生を抑えることができた。
一方で、比較例1〜3では、ポリアルキル(メタ)アクリレートのMwやMw/Xが、所定の範囲になかったため、コーキング及び銅溶出の発生を十分に抑制することができなかった。また、比較例4の潤滑油組成物は、ホウ素含有コハク酸イミドを含有しないため、ポリアルキル(メタ)アクリレートのMwやMw/Xを所定の範囲としても、コーキング及び銅溶出の発生を十分に抑制することができなかった。