(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
反射マイクロ波光導電減衰法(以下ではμ−PCD法とも言う)によるシリコンウェーハのキャリアの再結合ライフタイム評価は、シリコン基板特性の評価手段として極めて有用である。金属不純物はもとより、結晶欠陥に対する感度も非常に高く、また、測定に際して素子形成の必要性もないために、幅広く利用されている手法の一つである。近年では、固体撮像素子をはじめとする各種デバイスの特性と再結合ライフタイムとの関係も議論されている。さらに、プロセスモニタとしての用途もあり、特にウェーハ面内のライフタイム分布を高速で取得出来る特性を活かして、炉の清浄度管理などにも使われている。
【0003】
μ−PCD法の原理については、例えば、非特許文献1に記載されているが、簡単に説明すると、励起パルス光をウェーハに照射してキャリアを励起するとともに、サンプルにマイクロ波を照射して反射波の強度を測定し、その反射波の強度が減衰する時間を測定することによりライフタイムを算出する方法である。別の言い方をすれば、反射波の強度は導電率(抵抗率)の関数となっており、励起されたキャリアが再結合過程で消滅することで導電性が変化するので、この導電率の変化の時間から再結合ライフタイムを求める方法でもある。
【0004】
このような原理により再結合ライフタイムを測定することができるが、シリコンウェーハの表面がこの測定結果に大きく影響を及ぼす。シリコンウェーハの表面はダングリングボンドが密集した面であり、ここにキャリアがトラップされることで、測定結果に大きな影響を及ぼす。キャリアがシリコンウェーハの表面でトラップされる速度は、表面再結合速度と呼ばれている。そして、この表面再結合の影響を排除する方法として、酸化膜を形成する方法などの数多くの方法が提案されている。その中でも、特許文献1に記載されているようなヨウ素エタノール溶液によるパッシベーションが広く用いられている。
【0005】
ヨウ素エタノール溶液によるパッシベーションを安定化させるために、特許文献1では、まずシリコンウェーハを洗浄し、その表面の有機物を除去することが提案されており、この有機物除去処理後に、フッ酸(HF)溶液により酸化膜を除去して、その後にヨウ素エタノール溶液によりパッシベーションすることが開示されている。
【0006】
しかしながら、ヨウ素エタノール溶液によりパッシベーションして再結合ライフタイムを測定する際、特にウェーハ面内分布データを取得する際に、ヨウ素エタノール溶液によるパッシベーション(表面処理)が均一に行えないことによる、前処理起因の再結合ライフタイムの面内分布が生じることがある。
【0007】
また、他のパッシベーション処理として、特許文献2−3には、シリコンウェーハの表面に形成された酸化膜または他の絶縁膜にコロナチャージ処理を行い、パッシベーション処理する方法が記載されている。
【0008】
しかしながら、絶縁膜にコロナチャージ処理する前処理方法では、シリコンウェーハ上に酸化膜などを形成するプロセスを経由することから、炉からの汚染を受ける可能性がある。炉からの汚染物が金属不純物であれば、表面から熱処理で拡散されてしまう可能性がある。そのため、このような前処理方法は、例えば、酸化炉の評価には適しているが、シリコンウェーハ自体のライフタイム評価を目的とした場合、炉での高温処理を経ることは、必ずしも得策ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、シリコンウェーハをヨウ素エタノール溶液によりパッシベーションする前処理方法を用いて、再結合ライフタイムのウェーハ面内分布データを取得した時に、再結合ライフタイムのウェーハ面内分布が生じることがあるが、それがサンプルに起因するものか、前処理の影響によるものかを切り分けることが困難であった。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、ウェーハ面内で均一にパッシベーションを行うことができ、それにより正確な再結合ライフタイムを測定することができる、反射マイクロ波光導電減衰法によるシリコンウェーハの再結合ライフタイム測定の前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、反射マイクロ波光導電減衰法によるシリコンウェーハのキャリアの再結合ライフタイム測定の前処理方法であって、
測定対象のシリコンウェーハの表面に付着した有機物を除去する工程と、
前記有機物を除去したシリコンウェーハの表面の自然酸化膜を除去する工程と、
前記自然酸化膜を除去したシリコンウェーハの表面をヨウ素エタノール溶液に浸漬することによりパッシベーションする工程とを有し、
前記自然酸化膜を除去する工程の後、かつ、前記パッシベーションする工程の前に、前記自然酸化膜を除去したシリコンウェーハの表面をコロナチャージ処理する工程を有することを特徴とする再結合ライフタイム測定の前処理方法を提供する。
【0014】
このように、シリコンウェーハの自然酸化膜を除去する工程の後、かつ、パッシベーションする工程の前に、自然酸化膜を除去したシリコンウェーハの表面をコロナチャージ処理することにより、ヨウ素エタノール溶液によるパッシベーションをウェーハ面内で均一に行うことができ、それにより、安定した再結合ライフタイムの測定を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、シリコンウェーハの自然酸化膜を除去した後、かつ、ヨウ素エタノール溶液によりパッシベーションする前に、コロナチャージ処理することで、反射マイクロ波光導電減衰法による再結合ライフタイムを正確に安定して測定することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記のように、ヨウ素エタノール溶液によりパッシベーションを行う再結合ライフタイム測定の前処理方法において、正確で安定した再結合ライフタイム測定を行うことができる前処理方法が求められている。
【0019】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、
測定対象のシリコンウェーハの表面に付着した有機物を除去する工程と、
前記有機物を除去したシリコンウェーハの表面の自然酸化膜を除去する工程と、
前記自然酸化膜を除去したシリコンウェーハの表面をヨウ素エタノール溶液に浸漬することによりパッシベーションする工程とを有し、
前記自然酸化膜を除去する工程の後、かつ、前記パッシベーションする工程の前に、前記自然酸化膜を除去したシリコンウェーハの表面をコロナチャージ処理する工程を有することを特徴とする再結合ライフタイム測定の前処理方法が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
まず、本発明の再結合ライフタイム測定の前処理方法について、
図1を参照して説明する。
【0022】
図1に示したように、本発明の再結合ライフタイム測定の前処理方法は、シリコンウェーハの表面に付着した有機物を除去する工程(A工程)と、有機物を除去したシリコンウェーハの表面の自然酸化膜を除去する工程(B工程)と、自然酸化膜を除去したシリコンウェーハの表面をコロナチャージ処理する工程(C工程)と、コロナチャージ処理したシリコンウェーハの表面をヨウ素エタノール溶液に浸漬することによりパッシベーションする工程(D工程)と、を有している。そして、このような前処理を行ったシリコンウェーハに対して、再結合ライフタイムの測定を行う(E工程)。
【0023】
これに対し、従来の再結合ライフタイム測定の前処理方法では、
図3の工程フローに示すように、シリコンウェーハの表面の有機物を除去する工程(A工程)と、有機物を除去したシリコンウェーハの表面の自然酸化膜を除去する工程(B工程)と、自然酸化膜を除去したシリコンウェーハの表面をヨウ素エタノール溶液に浸漬してパッシベーションする工程(D工程)と、を有し、その後、再結合ライフタイムの測定を行っていた(E工程)。
【0024】
このように、本発明の再結合ライフタイム測定の前処理方法では、自然酸化膜を除去する工程の後、かつ、ヨウ素エタノール溶液によりパッシベーションを行う工程の前に、自然酸化膜を除去したシリコンウェーハの表面をコロナチャージ処理する工程を有する点で、従来の前処理方法とは異なっている。
【0025】
次に、本発明の再結合ライフタイム測定の前処理方法の各々の工程(A−D工程)について詳細に説明する。
【0026】
本発明の再結合ライフタイム測定の前処理方法では、最初に、測定対象のシリコンウェーハの表面に付着した有機物を除去する(A工程)。有機物の除去には公知の洗浄方法を用いることができるが、特に、アンモニア過水(SC−1)、硫酸過水(SPM)、オゾン水等による洗浄が好適である。
【0027】
SC−1洗浄は、APM洗浄とも呼ばれ、水酸化アンモニウム(NH
4OH)/過酸化水素水(H
2O
2)/純水(H
2O)からなる混合薬液による洗浄で、有機物やパーティクルに対する洗浄効果が大きい。SPM洗浄は、硫酸(H
2SO
4)/過酸化水素水の混合薬液による洗浄で、有機物や各種金属の除去効果に優れる。また、オゾン水についても、有機物除去の効果がある。
【0028】
次に、有機物を除去したシリコンウェーハの表面の自然酸化膜を除去する(B工程)。一般に、シリコンウェーハの表面には自然酸化膜が形成されている。また、上述の有機物を除去する洗浄工程においては、酸化力の強い薬液を用いるため、自然酸化膜が形成されやすい。自然酸化膜は制御された環境下で形成された酸化膜ではないため、酸化膜としての膜質が低く、また、ウェーハ面内の分布も不均一である。このため、この自然酸化膜を、例えば、フッ酸溶液(希フッ酸)等に浸漬して除去する。
【0029】
本発明では、続いて、自然酸化膜を除去したシリコンウェーハの表面をコロナチャージ処理する(C工程)。コロナチャージについては、大気中で電荷を発生・制御して利用することが可能であり、特別なチャンバーなどを必要としないという簡便さがある。
【0030】
コロナチャージ処理を行うことで、シリコンウェーハ表面の電荷状態を制御し均一にすることができ、この後のヨウ素エタノール溶液による表面処理(パッシベーション)を均一にすることができる。
【0031】
コロナチャージ処理では、電荷量として、1C/cm
2程度が好適である。但し、この電荷量をベースとして、シリコンウェーハの仕様ごとに最適化を行うことが好ましい。
【0032】
さらに、コロナチャージ処理を行ったシリコンウェーハの表面をヨウ素エタノール溶液に浸漬することによりパッシベーションを行う(D工程)。ヨウ素エタノール溶液に浸漬してパッシベーションを行う方法はヨウ素エタノール法と呼ばれる(特許文献1)。
【0033】
ヨウ素エタノール法は、シリコンウェーハの両面をヨウ素及びエタノールを含むパッシベーション液で覆うことにより、シリコンウェーハの表面再結合速度を十分低くし、この状態でμ−PCD法によりキャリアの再結合ライフタイムを測定することにより、シリコンウェーハ表面での再結合の影響を低減した再結合ライフタイム測定値を得る方法である。
【0034】
そして、前処理が完了したシリコンウェーハの再結合ライフタイムをμ−PCD法により測定する(E工程)。
【0035】
本発明の再結合ライフタイム測定の前処理方法において、自然酸化膜を除去する工程とコロナチャージ処理する工程の間、及び、コロナチャージ処理する工程とヨウ素エタノール溶液によりパッシベーションする工程の間の時間はなるべく短時間とすることが望ましい。自然酸化膜を除去しても、長時間シリコンウェーハを放置しておくと、再び自然酸化膜が形成される。また、コロナチャージ処理によりシリコンウェーハの表面の電荷状態を均一に制御した後、長時間シリコンウェーハを放置せずにすぐにヨウ素エタノール溶液に浸漬することにより、電荷状態を均一に保って浸漬できるためである。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
測定対象のシリコンウェーハとして、直径200mmで、ボロンをドープしたP型、抵抗率10Ω・cmのウェーハを準備した。このシリコンウェーハを1000℃、乾燥酸素1%の窒素雰囲気中で、1時間アニールした。このアニールにより炉の汚染をシリコンウェーハに転写し、意図的に、炉の汚染を反映した再結合ライフタイムの低下が生じるようにした。そして、このアニールによりシリコンウェーハの表面に形成された酸化膜をフッ酸により除去した。次に、このシリコンウェーハに対して、硫酸過水により洗浄を行って有機物除去を行った(A工程)後、硫酸過水により形成された表面の自然酸化膜をフッ酸により除去した(B工程)。さらに、コロナチャージ装置のステージに自然酸化膜を除去したシリコンウェーハを載せて、電荷量が1C/cm
2となるようにしてコロナチャージ処理を実施した(C工程)。その後、コロナチャージ処理を実施したシリコンウェーハを、ヨウ素エタノール溶液に浸漬して表面処理し(D工程)、μ−PCD法でシリコンウェーハの全面の再結合ライフタイム測定(E工程)を行った(1回目の再結合ライフタイム測定)。
【0038】
このシリコンウェーハの再結合ライフタイムの測定結果を
図2に示す。
図2は、本発明の前処理方法で前処理を行ったシリコンウェーハ11の再結合ライフタイムのウェーハ全面の測定結果を示す図である。
図2では、アニール炉のボートと接触する位置12において、周囲と比べて再結合ライフタイムの低下がみられる以外は、面内分布は特に発生していなかった。
【0039】
次に、上述のシリコンウェーハ11を洗浄し、表面に付着したヨウ素エタノール溶液を完全に除去した。そして、1回目の再結合ライフタイム測定の前処理と同様に、硫酸過水により洗浄を行って有機物を除去し、フッ酸溶液を用いて表面の自然酸化膜を除去した後、電荷量が1C/cm
2となるようにしてコロナチャージ処理を実施した。その後、コロナチャージ処理を実施したシリコンウェーハ11をヨウ素エタノール溶液に浸漬して表面処理を行った後、ウェーハ全面の再結合ライフタイム測定を行った(2回目の再結合ライフタイム測定)。
【0040】
さらに、2回目の再結合ライフタイム測定を行ったシリコンウェーハ11に対して洗浄を行い、表面に付着したヨウ素エタノール溶液を除去してから、2回目の再結合ライフタイム測定と同じ手順、条件で前処理と測定を行い、再度、シリコンウェーハの全面の再結合ライフタイム測定を行った(3回目の再結合ライフタイム測定)。
【0041】
1回目の再結合ライフタイム測定を行ったのと同一のシリコンウェーハ11に対して行った、2回目及び3回目の再結合ライフタイム測定により得られた面内分布は、
図2に示したものとほとんど同様であり、アニール炉のボートと接触する位置12において、周囲と比べて再結合ライフタイムの低下が見られたが、その他の面内分布は特に発生していなかった。
【0042】
(比較例1)
測定対象のシリコンウェーハとして、直径200mmで、ボロンをドープしたP型、抵抗率10Ω・cmのウェーハを準備した。このシリコンウェーハを1000℃、乾燥酸素1%の窒素雰囲気中で、1時間アニールした。このアニールにより炉の汚染をシリコンウェーハに転写し、意図的に、炉の汚染を反映した再結合ライフタイムの低下が生じるようにした。そして、このアニールによりシリコンウェーハの表面に形成された酸化膜をフッ酸により除去した。次に、このシリコンウェーハに対して、硫酸過水により洗浄を行って有機物除去を行った後、硫酸過水により形成された表面の自然酸化膜をフッ酸により除去した。その後、シリコンウェーハに対してコロナチャージ処理は行わず、ヨウ素エタノール溶液で表面処理し、μ−PCD法でシリコンウェーハの全面の再結合ライフタイム測定を行った(1回目の再結合ライフタイム測定)。
【0043】
このシリコンウェーハの再結合ライフタイムの測定結果を
図4に示す。
図4は、上述の従来の前処理方法で前処理を行ったシリコンウェーハ13の再結合ライフタイムのウェーハ全面の測定結果を示す図である。
図4では、アニール炉のボートと接触する位置14で再結合ライフタイムの低下がみられるのに加え、特にシリコンウェーハ13の左側で顕著な再結合ライフタイムの低下が生じていた。
【0044】
次に、シリコンウェーハ13を洗浄し、表面に付着したヨウ素エタノール溶液を完全に除去した。そして、1回目の再結合ライフタイム測定の前処理と同様に、硫酸過水により洗浄を行って有機物を除去し、フッ酸溶液を用いて表面の自然酸化膜を除去したシリコンウェーハ13をヨウ素エタノール溶液に浸漬して表面処理を行った後、ウェーハ全面の再結合ライフタイム測定を行った(2回目の再結合ライフタイム測定)。
【0045】
さらに、2回目の再結合ライフタイム測定を行ったシリコンウェーハ13に対して洗浄を行い、表面に付着したヨウ素エタノール溶液を除去してから、2回目の再結合ライフタイム測定と同じ手順、条件で前処理と測定を行い、再度、シリコンウェーハの全面の再結合ライフタイム測定を行った(3回目の再結合ライフタイム測定)。
【0046】
1回目の再結合ライフタイム測定を行ったのと同一のシリコンウェーハ13に対して行った、2回目及び3回目の再結合ライフタイム測定により得られた面内分布は、
図4に示したものとは異なっていた。1回目から3回目の再結合ライフタイムの面内分布は、アニール炉のボートと接触する位置14の再結合ライフタイムの低下具合を含め、それぞれ大きく異なっており、測定結果は安定しなかった。
【0047】
このように、実施例1では、同一のシリコンウェーハに対して行った3回の再結合ライフタイム測定で、ほぼ同一のウェーハ面内分布が得られた。シリコンウェーハの表面の自然酸化膜を除去した後に、コロナチャージ処理を行い、その後、ヨウ素エタノール溶液によるパッシベーション処理を行ったことで、ウェーハ面内で均一なパッシベーションが行われたためと考えられる。これに対して、比較例1では、同一のシリコンウェーハに対して行った3回の再結合ライフタイム測定で、安定した測定結果が得られなかった。コロナチャージ処理を行わなかったために、ヨウ素エタノール溶液によるパッシベーションが均一に行えなかったことが原因と考えられる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。