特許第6422260号(P6422260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422260
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 137/04 20060101AFI20181105BHJP
   C10M 141/10 20060101ALI20181105BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20181105BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20181105BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20181105BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20181105BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20181105BHJP
【FI】
   C10M137/04
   C10M141/10
   !C10M129/10
   !C10M133/12
   C10N30:06
   C10N30:10
   C10N40:06
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-160395(P2014-160395)
(22)【出願日】2014年8月6日
(65)【公開番号】特開2016-37528(P2016-37528A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】坂上 衆一
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−128581(JP,A)
【文献】 特開平11−035964(JP,A)
【文献】 特開2013−155348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 137/04
C10M 141/10
C10M 129/10
C10M 133/12
C10N 30/06
C10N 30/10
C10N 40/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に、下記式(1)で表される酸性リン酸エステル及び酸化防止剤を配合してなる
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【化1】
(上記各式において、R及びいずれも炭素数は20以上30以下のアルキル基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑油組成物において、
前記R及びRのうち少なくともいずれか1つが側鎖を有する
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項3】
請求項に記載の潤滑油組成物において、
前記側鎖の炭素数が6以上18以下である
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の潤滑油組成物において、
前記酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、及び硫黄系酸化防止剤のうち少なくともいずれか1種である
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の潤滑油組成物において、
前記酸性リン酸エステルを、組成物全量基準で0.01質量%以上3質量%以下配合してなる
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の潤滑油組成物において、
当該組成物が緩衝器用である
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項に記載の潤滑油組成物において、
前記緩衝器が四輪自動車用である
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、例えば、自動車や工業用の機械・装置に用いられる緩衝器用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器は乗用車のタイヤと車体を結ぶ部分に設置され、路面の凹凸や車速の増減によって発生する車体の揺れを減衰する役目を担っている。そのため、緩衝器の性能によって乗心地が大きく影響される。
緩衝器のフリクション(摩擦)はオイルシール(ゴム材)とロッド(クロムメッキ)部分に発生するものが主体である。したがって、ゴム材とクロムメッキ間に発生するフリクション特性を改善することが非常に重要な課題となる。また、緩衝器のロッドが伸び縮みする際に滑らかに動くためにはゴムフリクションの絶対値(ゴム材−金属間の摩擦係数)が小さいことが求められる。
そこで、これまで、ゴムフリクションの絶対値によりフリクション特性を評価することが行われ、当該パラメータの小さな緩衝器油が開発されてきた(非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】石油学会石油製品討論会予稿集、96頁(2009年12月)
【非特許文献2】トライボロジスト、567頁、第56巻第9号(2011年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1、2に記載されているようなゴムフリクションの絶対値だけでは、フリクション特性を十分に評価することはできず、フリクション特性に優れる潤滑油を開発することは容易ではなかった。一方、車体の揺れを減衰させるためにはフリクションの仕事量(摩擦エネルギー;フリクションエネルギーとも称する。)が大きいことも重要であることがわかってきた。また、緩衝器は交換されることがないため、5年から10年の間継続的に使用されることが一般的である。そのため、緩衝器用の潤滑油には酸化安定性も高い次元で求められる。
【0005】
本発明はゴム材−金属間の摩擦係数が小さく、かつ摩擦エネルギーが大きく、さらに酸化安定性にも優れる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下に示す潤滑油組成物を提供するものである。
〔1〕基油に、下記式(1)及び下記式(2)で表される酸性リン酸エステルのうち少なくともいずれか1種、並びに酸化防止剤を配合してなることを特徴とする潤滑油組成物。
【0007】
【化1】
(上記各式において、R、R及びRはいずれもアルキル基である。R及びRの少なくともいずれか一方、並びにRの炭素数は20以上30以下である。)
〔2〕上記〔1〕に記載の潤滑油組成物において、前記R及びRのうち少なくともいずれか1つが側鎖を有することを特徴とする潤滑油組成物。
〔3〕上記〔1〕に記載の潤滑油組成物において、前記Rが側鎖を有することを特徴とする潤滑油組成物。
〔4〕上記〔2〕又は〔3〕に記載の潤滑油組成物において、前記側鎖の炭素数が6以上18以下であることを特徴とする潤滑油組成物。
〔5〕上記〔1〕から〔4〕までのいずれか1つに記載の潤滑油組成物において、前記酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、及び硫黄系酸化防止剤のうち少なくともいずれか1種であることを特徴とする潤滑油組成物。
〔6〕上記〔1〕から〔5〕までのいずれか1つに記載の潤滑油組成物において、前記酸性リン酸エステルを、組成物全量基準で0.01質量%以上3質量%以下配合してなることを特徴とする潤滑油組成物。
〔7〕上記〔1〕から〔6〕までのいずれか1つに記載の潤滑油組成物において、当該組成物が緩衝器用であることを特徴とする潤滑油組成物。
〔8〕上記〔7〕に記載の潤滑油組成物において、前記緩衝器が四輪自動車用であることを特徴とする潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゴム材−金属間の摩擦係数が小さく、かつ摩擦エネルギーが大きく、さらに酸化安定性にも優れる潤滑油組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ジテトラコシルアシッドフォスフェートの一例を模式的に示した図。
図2】ジオクタシルアシッドフォスフェートの一例を模式的に示した図。
図3】ジステアリルアシッドフォスフェートの一例を模式的に示した図。
図4】実施例における摩擦試験装置を示す図。
図5】摩擦試験装置により得られたリサージュ波形の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態における潤滑油組成物(以下、「本組成物」ともいう。)は、基油に、所定の酸性リン酸エステル及び酸化防止剤を配合してなることを特徴とする。以下、本組成物について詳細に説明する。
【0011】
[基油]
本組成物で用いられる基油には特に制限はなく、鉱油と合成油のうち少なくともいずれか一方、すなわちそれぞれ単独あるいは2種以上を組み合わせて用いたり、鉱油と合成油を組み合わせて用いてもよい。
緩衝器用であれば、摩擦特性を良好に保つ上で、40℃における動粘度が5mm/s以上40mm/s以下程度の基油を用いることが好ましい。
また、基油の低温流動性の指標である流動点については、特に制限されないが、−10℃以下、特に−15℃以下が好ましい。
【0012】
このような鉱油としては、例えばナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、GTL WAXなどが挙げられる。具体的には、溶剤精製あるいは水添精製による軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストックなどが例示できる。
一方、合成油としては、ポリブテンまたはその水素化物、ポリアルファオレフィン(1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等)、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、ヒンダードエステル、及びシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0013】
[酸性リン酸エステル]
本組成物に配合される酸性リン酸エステルは、下記式(1)及び下記式(2)で表される。
【0014】
【化2】
【0015】
上記各式において、R、R及びRはいずれもアルキル基である。R及びRの少なくともいずれか一方、並びにRの炭素数は20以上30以下である。
このような炭素数が20以上30以下のアルキル基としては、エイコシル基、ヘネイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基が挙げられる。
上記式(1)、式(2)の酸性リン酸エステルとしては、例えばR〜Rがテトラコシル基あるいはオクタコシル基の場合、テトラコシルアシッドフォスフェート、ジテトラコシルアシッドフォスフェート、オクタコシルアシッドフォスフェート、及びジオクタシルアシッドフォスフェートなどが挙げられる。参考までに、ジテトラコシルアシッドフォスフェート及びジオクタシルアシッドフォスフェートの一例を模式的に示したものを図1図2に示す。
酸性リン酸エステルが炭素数20以上のアルキル基を有することで、摩擦係数と摩擦エネルギーを効果的に向上させることができる。また、このような酸性リン酸エステルの存在により酸化安定性も向上する。
さらに、前記したアルキル基の炭素数が30以下であると基油への溶解性を担保できるので好ましい。前記したアルキル基の好ましい炭素数は20以上26以下であり、さらに好ましくは20以上24以下である。
一方、アルキル基の炭素数が上記した下限値を下回ると、摩擦係数が大きくなってしまい、摩擦エネルギーの増大も期待できない。例えば、図3にジステアリルアシッドフォスフェートの一例を模式的に示すが、アルキル基の炭素数が少ないので摩擦係数が大きく、摩擦エネルギーも小さなものとなる。
【0016】
式(1)、式(2)におけるアルキル基は、直鎖でもよいが、側鎖を有することが摩擦係数の低減及び摩擦エネルギーの増大の観点より望ましい。さらに、側鎖が立体障害となり酸化安定性も向上する。すなわち、式(1)においては、R及びRのうち少なくともいずれか1つは側鎖を有していることが好ましい。また、式(2)においては、Rが側鎖を有していることが好ましい。さらに、前記した側鎖の炭素数は、6以上18以下であることが好ましい。側鎖の炭素数が6以上であると、摩擦係数の低減及び摩擦エネルギー増大の観点より好ましい。また、側鎖の炭素数が18以下であると基油への溶解性が良好となるので好ましい。
摩擦係数の低減、摩擦エネルギーの増大、及び酸化安定性の観点より、式(1)の酸性リン酸エステルのほうが式(2)の酸性リン酸エステルよりも好ましい。
【0017】
本組成物では、前記した酸性リン酸エステルは、基油に対し組成物全量基準で0.01質量%以上3質量%以下配合してなることが好ましく、配合量は0.1質量%以上2質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以上1質量%以下であることがさらに好ましい。酸性リン酸エステルの配合量が0.01質量%以上であると、摩擦係数の低減や摩擦エネルギーの増大の観点だけでなく、酸化安定性の観点からも好ましい。また、酸性リン酸エステルの配合量が3質量%以下であると基油への溶解性を担保できるので好ましい。
【0018】
[酸化防止剤]
本組成物には、さらに酸化防止剤が配合される。上記した所定の酸性リン酸エステルにも酸化安定性向上効果があるが、酸化防止剤を併用することで格別な酸化安定性を発揮するようになる。
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤のうち少なくともいずれか1種を好ましく使用することができる。これらの酸化防止剤は、1種を単独でまたは2種以上を任意に組み合わせて用いることができる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系化合物、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系化合物、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系化合物、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系化合物が挙げられる。
【0019】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールなどのモノフェノール系化合物、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系化合物が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、五硫化リンとピネンとの反応物などのチオテルペン系化合物、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどのジアルキルチオジプロピオネートなどが挙げられる。
これらの酸化防止剤の配合量は、本組成物全量基準で、0.01質量%以上10質量%以下程度であり、好ましくは0.03質量%以上5質量%以下程度である。
【0020】
なお、本発明において、「基油に所定の酸性リン酸エステル及び酸化防止剤を配合してなることを特徴とする潤滑油組成物」には、「基油に、所定の酸性リン酸エステル及び酸化防止剤を含む潤滑油組成物」だけでなく、「基油」、「所定の酸性リン酸エステル」及び「酸化防止剤」のうち少なくとも一つの成分の代わりに、当該成分が変性してなる変性物や、当該成分が反応した後の反応生成物を含む組成物も含まれる。
[その他の成分]
本組成物においては、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてさらに他の添加剤、例えば粘度指数向上剤、流動点降下剤、摩耗防止剤、摩擦調整剤、金属系清浄剤、無灰系分散剤、防錆剤、金属不活性化剤、及び消泡剤等を配合してもよい。また、上記各添加剤を含んだ本組成物には、当該添加剤が変性してなる変性物や、当該添加剤が反応した後の反応生成物を含む組成物も含まれる。
【0021】
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、本組成物全量基準で0.5質量%以上、15質量%以下程度である。
流動点降下剤としては、例えば質量平均分子量が1万以上、15万以下程度のポリメタクリレートなどが用いられる。流動点降下剤の好ましい配合量は、本組成物全量基準で0.01質量%以上、10質量%以下程度である。
【0022】
摩耗防止剤としては、例えばチオリン酸金属塩(Zn、Pb、Sb等)やチオカルバミン酸金属塩(Zn等)のような硫黄系摩耗防止剤、リン酸エステル(トリクレジルホスフェート)のようなリン系摩耗防止剤を挙げることができる。摩耗防止剤の好ましい配合量は、本組成物全量基準で0.05質量%以上、5質量%以下程度である。
摩擦調整剤としては、例えば、ネオペンチルグリコールモノラウレート、トリメチロールプロパンモノラウレート、グリセリンモノオレエート(オレイン酸モノグリセライド)などの多価アルコール部分エステルなどが挙げられる。摩擦調整剤の好ましい配合量は、本組成物全量基準で0.05質量%以上、4質量%以下程度である。
【0023】
金属系清浄剤としては、金属サリシレート、金属フェネートおよび金属スルホネートの少なくともいずれかであることが好ましい。金属としては、アルカリ土類金属が好ましく、Caがより好ましい。清浄性保持の観点からは、Caサリシレートが特に好ましい。金属系清浄剤としては、本組成物の清浄性を保つため、塩酸法による塩基価が100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。金属系清浄剤の配合量としては、組成物全量基準かつ金属量換算で、60質量ppm以上6000質量ppm以下であることが好ましい。
無灰系分散剤としては、例えばコハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価または二価のカルボン酸のアミド類などが挙げられる。無灰系分散剤の好ましい配合量は、本組成物全量基準で0.1質量%以上、20質量%以下程度である。
【0024】
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。防錆剤の好ましい配合量は、本組成物全量基準で0.01質量%以上、3質量%以下程度である。
金属不活性化剤としては、例えばベンゾトリアゾール、チアジアゾールなどが、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いられる。金属不活性化剤の好ましい配合量は、本組成物全量基準で0.01質量%以上、5質量%以下程度である。
【0025】
消泡剤としては、例えばシリコーン系化合物、エステル系化合物などが、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いられる。消泡剤の好ましい配合量は、本組成物全量基準で0.05質量%以上、5質量%以下程度である。
【0026】
本組成物は、所定の構造を有する酸性リン酸エステルと酸化防止剤を配合してなるので、ゴム材−金属間の摩擦係数が小さく、かつ摩擦エネルギーが大きく、さらに酸化安定性にも優れる。それ故、緩衝器用として好ましく、特に乗り心地が重視される四輪自動車(乗用車、バス、及びトラック等)の緩衝器用として好適である。
なお、本組成物は、二輪用の緩衝器にも好ましく適用でき、さらに油圧作動油としても好ましく適用できる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、各例における潤滑油組成物(試料油)の性状及び性能は下記の方法で求めた。
【0028】
(1)40℃動粘度
JIS K 2283に準拠して測定した。
(2)40℃動粘度増加率
ISOT試験(JIS K 2514準拠:130℃、24時間)を行った後に40℃動粘度を測定し、ISOT試験前の40℃動粘度に対する増加率(%)を求めた。
【0029】
(3)摩擦係数及び摩擦エネルギー
図4に示す試験装置によりゴム−金属間の摩擦係数(動摩擦係数)及び摩擦エネルギーを求めた。具体的には、図4に示すように、試料油を介してゴムとCr(クロム)めっき鋼板とを所定の荷重で圧接しながら往復摺動させ、リサージュ波形を記録した。図5にリサージュ波形の一例を示す。摩擦力の最大値より摩擦係数(μ)を求め、リサージュ波形の面積(振幅と摩擦力の積であり仕事量に相当)を摩擦エネルギーとして求めた。
試験条件は、以下の通りである。
温度 :30℃
振幅 :±0.4mm(正弦波)
荷重 :3kgf(29.4N)
上側テストピース:NBR(ニトリルゴム)
下側テストピース:硬質Crメッキ鋼板
加振周波数 :5Hz
試料油量 :100mL
【0030】
〔実施例1〜2、比較例1〜12〕
表1、表2に示す配合組成にしたがって各試料油を調製した。各試料油について、前記した方法により性状及び性能を評価した。結果も表1、表2に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
1)基油:パラフィン系鉱油(60N、40℃動粘度 7.8mm/s)
2)酸化防止剤:DBPC(2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール)
3)酸性リン酸エステルアミン塩:リン酸エステルのアルキル基はモノエチル基及びモノメチル基が主体)
4)ZnDTP:炭素数12の一級アルキル基タイプ
5)ZnDTP:炭素数6の一級アルキル基タイプ(若干、イソプロピル基やイソブチル基を有する。)
【0034】
〔評価結果〕
実施例1、2からわかるように、所定の酸性リン酸エステルと酸化防止剤を配合した試料油は、ゴム材−金属間の摩擦係数が小さく、かつ摩擦エネルギーが大きく、さらに酸化安定性に優れることがわかる。それ故、本発明によれば、乗り心地性に優れ、長期間に渡って使用可能な緩衝器油を提供できることが理解できる。
これに対して、各比較例の試料油は、各種の油性剤やリン系極圧剤などを配合したものであるが、いずれも摩擦係数、摩擦エネルギー、及び酸化安定性のすべてを同時に満足させることはできない。例えば、比較例2、3、5、及び10は、実施例1、2と同じ酸化防止剤を同じ量だけ配合しているにもかかわらず酸化安定性に劣る。また、比較例12は、比較的炭素数が多いアルキル基を有する酸性リン酸ジエステルを配合したものであるが、それでもアルキル基の炭素数は18であり、本願発明におけるアルキル基の炭素数の下限値より少ないため、基油単独(比較例1:酸化防止剤のみ配合)の場合にくらべて摩擦係数が大きく、摩擦エネルギーの増大もほとんど認められない。
図1
図2
図3
図4
図5