【実施例】
【0044】
実施例1: 形態Aおよび形態B
試料作製
家蚕絹フィブロインの結晶部試料(Cpフラクション)は、精練絹糸を9MのLiBr水溶液に溶解後、透析を経て再生絹フィブロイン水溶液とし、それをα−キモトリプシン処理した後、沈殿部(全体の55%)を集めることによって得た。家蚕絹結晶部モデル化合物(Ala−Gly)
15は、固相法によって合成した。AlaおよびGly残基の選択的
13Cラベル化及び
2Hラベル化は、適宜、該当のラベルアミノ酸を合成時に導入することによって得られた。
【0045】
固体NMR測定
超高速固体NMR用プローブ(70KHzで超高速回転。JEOL RESONANCE(株)製)と分子科学研所(日本国愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38番地)設置のJEOL製 JNM−ECA 920MHz超高磁場固体NMR装置を組み合わせて、家蚕絹結晶部およびモデル化合物の(Ala−Gly)
15のSilkII型について、
1HDQ(Double Quantum)/MAS(Magic Angle Spinning)NMRスペクトルを得た。それによって、すべての固体
1H化学シフトを得るとともに、
1H化学シフトの帰属は、適宜、選択的に
13Cラベル化した(Ala−Gly)
15を用いて、double cross polarization
1H−
13C相関法によって行った。
13Cピークの帰属は、従来の帰属結果に加えて、選択的に
13Cラベル化した(Ala−Gly)
15を用い、
13C DARR(Dipolar Assisted Rotational Resonance)法にて行った。
13C CP/MAS NMRおよびDARR測定は、JEOL製 ECX 400NMR装置を用い、MAS 8kHz下で行った。
【0046】
NMR化学シフト計算
結晶構造を対象としたNMR化学シフト計算法である、GIPAW(Gauge−including projector augmented wave)法(市販のプログラムを使用:Accelys Inc.、San Diego、CA、USA)を用いて、家蚕絹フィブロインのSilkII型結晶部(Ala−Gly)nについて、
1H,
13C,
15N固体化学シフト計算を行った。最終的に、すべての固体NMRデータを満たす家蚕絹フィブロイン結晶部のSilkII不均一構造を決定した。
【0047】
1−a) (Ala−Gly)15SilkIIの1H NMRスペクトルの帰属
1H化学シフトの帰属は、
(Ala−Gly)15および選択的に
13Cラベル化した
(Ala−Gly)15を用い、1H−DQMAS NMRならびにdouble cross polarization
1H−
13C相関法によって行った(
図5,7,8,9)。また、そのための
13Cスペクトルの帰属は、従来の帰属結果に加えて、選択的に
13Cラベル化した(Ala−Gly)
15を用いて、
13C DARR法にて行った(
図6)。試料は(AG)
7[1,2,3−
13C]A[1,2−
13C]G(AG)
7を用いた。
1Hスペクトルは低磁場側からHN、Hα、Hβの3領域となる。Hαは
13C軸との相関から、AlaHα(5ppm付近)とGlyHα(4ppm付近で2本に分かれる)に、容易に帰属できる。HNは
13Cと直接結合していないため強度は弱いが、Ala−HNはGly−CO(169ppmm)と2結合を通しての相関、Gly−HNはAla−CO(172ppm)と2結合を通しての相関となり、AlaHNおよびGlyHNを帰属できる。その結果、AlaとGly残基の間で、HN化学シフトは、おおよそ、一致することが分かる。Ala−Hβは3本に分裂した
13Cβピークと対応して、非晶部あるいはターン部分に由来するピークと2種の結晶ピークとの相関から、
1Hスペクトルを帰属できる。すなわち、1.2ppm(
1H)−16.1ppm(
13C)、1.0ppm(
1H)−19.2ppm(
13C)および1.3ppm(
1H)−22.3ppm(
13C)と対応づけられる。一方、Glyの2本のカルボニル(C=O)ピーク(形態Aと形態Bに対応)との相関から、Gly Hα1が、AとBに分離されると同時にGly Hα2は、分離されないことがわかる。それによって、Gly Hαの帰属を行うことができる。
【0048】
1−b) 1H NMRスペクトルに基づく従来のSilkIIモデルとの比較
次に、詳細なSilkII型の構造に関する知見を得るべく、
1H−DQMASスペクトルにより
1H−
1H相関を調べた(
図5)。まずHNの化学シフトはAlaとGly残基の間で違いは見られなかった。HNの化学シフトは、分子間水素結合したカルボニル基との間の原子間距離を反映することから、βシート内でAlaとGly残基の間で分子間水素結合距離に差がないことが分かる。さらに興味深いのは、2個の非等価なGlyのHα水素のうち、In planeのGly−Hα(4.6ppm)とAla−Hα(5.0ppm)との間に相関ピークが観察されたことである。後に述べるように、
1H化学シフト計算から、2個の非等価なGlyのHα水素のうち、低磁場側がIn plane、高磁場側がOut planeと帰属された。
図1のパネルaに示したようにMarshモデルでは分子間水素結合は同一残基間(Ala−AlaまたはGly−Gly)で形成しているため、両プロトンはβシート内では4.5および5.9Åと、DQMAS観測可能範囲(〜4.0Å)よりも十分に遠い。本提案モデルで、この実測結果を説明できる。さらに、分子間に目を向ける。Marshモデルでは、Out planeのGly−Hα(3.9ppm)とAla−Hαは、より近く、2.2Åであり、In planeのGly−HαとAla−Hαの相関が見られるならば、この相関も当然観察されるはずである。実際にはOut planeのGly−HαとAla−Hαとの相関は見られず、In planeのGly−Hαとの相関のみが観察されていることから、同一残基間(Ala−AlaまたはGly−Gly)で分子間水素結合をとるMarsh型の構造ではなく、異種残基((Ala−Gly)間で分子間水素結合を形成した構造をとっていると結論された。この測定結果は、再度、すべてのAla−Hαを重水素化した([2−d]Ala−Gly)
15の
1H−DQMASスペクトルから、より明確に確認できる(
図9)。すなわち、もし同残基間で分子間水素結合を形成していれば、In planeGly−Hαの分子間自己相関が対角ピークとして現れるはずであるが、
図9において、それは観察されなかったことから明らかである。
【0049】
1−c) SilkII構造モデルの構築
家蚕絹フィブロイン、その結晶部ならびに結晶部モデル化合物の(Ala−Gly)nのSilkII型構造の
13C CP/MAS NMRスペクトルにおいて、AlaCβピークは、いずれも3本に分裂する。高磁場側の約16ppmのピークは、ゆがんだβターンまたはランダムコイルに帰属されてきた。一方、低磁場側の2本のピーク(19.6ppmと21.7ppm)は、いずれも逆平行βシート構造に帰属されるが、その詳細は未だ帰属されていなかった。Ala
13Cβ化学シフトの実験値をAla残基の内部回転角に対してプロットしたRamachandran Mapを検討すると、逆平行βシート構造の領域であれば、内部回転角が変化しても2ppmの大きなシフト差を生ずることはない。したがって、この大きなシフト差は、分子間構造の違いを反映していると考えられた。もちろん、Marshのモデルは単一な分子間構造であるので、Marshのモデルに従うとAla
13Cβ化学シフトの結晶部が単一ピークしか与えないこととなり、矛盾する。すでに述べたように、Marshのモデルは、分子間水素結合が同一残基間(Ala−AlaまたはGly−Gly)で形成することの問題点もある。このように、SilkIIの構造モデルは、Marshモデルとは異なる新たなモデルを提出する必要があった。
【0050】
そこで、SilkIIの正しい構造を解明するために、(Ala−Gly)nについて、分子鎖のAlaおよびGly残基の内部回転角を典型的な逆平行βシート構造の角度(φ,ψ=140°,140°)とし、分子間構造の異なる二つの結晶構造を作製することとした。単位格子に関する報告値として、Marshらの値(繊維軸b:6.97Å、c:9.20Å、a:9.40Å、対称性:P2
1(x,y,z −x,y+1/2,−z)並びにTakahashiらの値(繊維軸c:6.98Å、b:9.49Å、a:9.38Å、対称性:P2
1(x,y,z −x,y+1/2,−z)が報告されているが、大差はない。ここでは、より新しい後者の単位格子を採用した。
【0051】
そこで、Marshモデルと異なり、βシート面に対し交互に反対の方向に(Ala−Gly)nのAlaのβ炭素が向く形でパッキングした2種類のモデルを検討し、初期構造とした。これらの構造は
図10の左パネルの右下の分子鎖を分子鎖軸周りに180°回転することにより得られる。そのモデル作製手順は、以下のようである。
1.
図10に示したMarsh modelに明示されている2分子の座標のうち、左パネル下段右側の分子のみ、分子軸を中心に180°回転させる。上段の2分子は対称操作により自動生成され、
図11の上段のモデル1が作成される(Marsh modelの分子鎖軸は
図11の左パネルと同じb軸)。尚、180°回転した分子鎖は水素結合位置を合わせるため、分子鎖方向に1残基分ずらす。
2. 1で作成した2分子の座標をx軸(a軸)の周りに90°回転させることにより分子鎖軸はz軸(c軸)に向いた構造が生成される。残りの2分子は対称操作により自動生成され、
図11下段のモデル2が作成される。尚、軸回転により作成座標は、対称操作により生成される座標とぶつかりあわないようにするため、分子鎖方向(c軸)に1/2残基分ずらす。
3. 対称性については、分子鎖軸を結晶セルのa軸,b軸,c軸に合わせた3通りのモデルが考えられるが、P2
1の場合x,z(a.c)は同等であり、分子鎖軸をb軸,c軸にあわせた2つのモデルについて検討すればよい。
【0052】
上記2つのモデルについて、Accelrys社製の商品名「Discover」(pcff force field)によりCell parameterを保持したまま構造最適化(energy minimize)した結果、
図12の構造を得た。尚、Model A(
図12下段)の方がModel B(
図12上段)より2.04kcal/mol安定であった。このエネルギー計算の結果から、AlaCβピークの低磁場側の2本のピーク(19.6ppmと21.7ppm)のうち、よりピーク強度の強い19.6ppmのピークをModel Aに、よりピーク強度の弱い21.7ppmのピークをModel Bに帰属することが妥当であると推測された。そして、この帰属は、次に述べる化学シフト計算の結果によって確立された。
【0053】
1−d) 1H,13C,15N固体NMR化学シフト計算
さらに、(Ala−Gly)nのModel AとModel Bの分子間構造について、GIPAW(Gauge−including projector augmented wave)法(市販のプログラムを使用:Accelys Inc.、San Diego、CA、USA)を用いてエネルギーを最適化した後、化学シフト計算を行った。既に報告されている(Ala−Gly)
15の
13Cならびに
15N固体NMR化学シフトの実測結果に、本研究で行った
1H固体NMR化学シフトの実測結果を加えて、計算結果との比較を棒スペクトルを用いて行った(
図13)。
【0054】
まず、
1H固体NMR化学シフトの実測と計算の比較結果を
図13で検討した。その結果、(Ala−Gly)nの
13C CP/MAS NMRスペクトルにおいて、Ala
13Cβの主ピークである19.6ppmのピークに相当するAla
1HCβピーク(
図5)を、よりエネルギー的に安定なModel Aに帰属し、よりピーク強度の弱いAla
13Cβの21.7ppmのピークに相当するAla
1HCβピーク(
図5)をModel Bに帰属することが妥当と考えられるが、実際、計算結果ではこれが再現されていた。すなわち、後者は約0.3ppm、より低磁場シフトするという計算結果を得、実測を良く説明できることがわかった。Model Aのピーク強度に比べて、ModelBのピーク強度を、実測結果を反映して約半分にして棒スペクトルで表示した。特に、この
1H化学シフト計算の実測との良い一致を背景に、2個の非等価なGlyのHα水素を明確に帰属することができた。すなわち、低磁場側をIn plane、高磁場側をOut planeと帰属することができた(
図13)。
【0055】
一方、Model Bについては、Ala
1HCβピークおよびGly
1Hαピークで、明瞭に計算結果と実測結果が一致することが示された。さらに、実測の2個の非等価なGlyのHα水素について、Model AとModelBのシフト差の傾向も良く再現されていた。NHアミド水素についても、Model Aと比較して、わずかにModelBが高磁場に出現するが、この傾向も、計算結果で良く再現されている。
【0056】
実測結果と計算結果の一致は、さらに
13Cおよび
15N固体NMR化学シフトにおいて、強調される。
図13で、次に
13C固体NMR化学シフトの実測と計算の比較結果を検討した。(Ala−Gly)nの
13C CP/MAS NMRスペクトルの実測結果を、Model AとModel Bの計算結果で、良く再現できることがわかった。すなわち、化学シフトの計算結果は、Ala
13Cβの主ピークである19.6ppmのピークをよりエネルギー的に安定なModel Aに帰属させ、ピーク強度が約半分のAla
13Cβの21.7ppmのピークをModel Bに帰属できることを示していた。Ala
13Cβ以外の領域においては、GlyおよびAla
13C=Oについて Model AとModel Bのシフト差が計算結果で、良く再現された。それ以外の全ての
13Cピークについても、Model AとModel Bの計算結果で、実測を良く再現できることがわかった。
【0057】
最後に、
15N固体NMR化学シフトの実測と計算の比較結果を
図13で検討した。Model AとModel Bの計算結果から、後者はAlaピークでは低磁場側に、Glyピークでは高磁場側に出現することが予想される。実測結果は、それに対応している。
【0058】
以上のように、
1H、
13Cそして
15N固体NMR化学シフトの計算結果は十分に実測結果を再現していると結論付けることができた。このことは、本モデル構造を出発点とした量子化学計算が極めて精度良く実測のNMR化学シフトの結果を再現できることを意味する。このように家蚕絹のSilkII構造の逆平行βシート構造のモデルとして上記のModel A とModel Bの共存モデルが確立されたので、前者を形態Aと、また後者を形態Bと名付けた。
【0059】
参考例1: 家蚕絹繊維中の形態Aおよび形態Bの含量
精製した家蚕絹フィブロインの
13C CP/MASNMRスペクトルにおけるAlaCβのピークを、ガウス分布を仮定して分離した。計算は、化学シフト並びにピークの半値幅及び高さを最適化することで行った。分離されたピークを
図2に示した。同図中、中実線は約55〜56%(ピーク面積の百分率。以下、同じ。)を占めるキモトリプシン処理沈殿部の結晶部であり、破線は約44〜45%を占める非晶部である。細い破線は、ガウス分布を考慮して分離した各ピーク(合計5つ)を示している。
図2から、家蚕絹フィブロインは極めて不均一であり、その結晶部は、主に3成分から構成されることがわかる。また、非晶部は、主に2成分から構成されることがわかる。スペクトルにおける最も高磁場側は、ゆがんだ(distorted)βターン構造(ランダムコイル部分)であり、その割合は結晶部(18%)と非晶部(22%)を合わせて、全体で40%であった。結晶部の残りの部分の分子鎖構造は逆平行βシート構造であり、形態A(25%)と形態B(13%)から構成されていた。なお、非晶部のゆがんだβターン構造以外の成分は、形態Aと形態Bの間のピークとして分離され、ゆがんだ(distorted)βシート構造に帰属された(22%)。
【0060】
実施例2〜4: 形態Aおよび形態B含量と物性の関係
形態Aおよび形態Bの含量が、再生絹繊維の物性にどのような影響を及ぼすかを検討した。
再生絹繊維の製造
家蚕(
B.mori)の繭を小片に切断し、0.25%(重量/容量)の炭酸ナトリウムおよび0.25%(重量/容量)のマルセル石鹸を含む溶液に入れて、85℃で15分間処理した。この処理により絹セリシン等の絹フィブロイン以外の成分を除去した。得られた絹フィブロインを十分に純水で洗浄した後に、当該絹フィブロインを9Mの臭化リチウム水溶液に40℃で1時間かけて溶解して、10%(重量/容量)の絹フィブロイン溶液を得た。当該絹フィブロイン溶液を、セルロース膜を用いて、脱イオン水に対し4℃で4日間透析した。透析後の絹フィブロイン水溶液中の絹フィブロイン濃度を2.0%(重量/容量)に調整して凍結乾燥した。
【0061】
実施例2: 前記凍結乾燥した絹フィブロインを、和光純薬工業株式会社(大阪、日本)から購入した分析グレードのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中に2日間かけて溶解し、15%(重量/容量)の絹フィブロイン溶液を調製した。溶液を脱ガスした後に、その絹フィブロイン溶液を、内径0.45mmのステンレス製紡糸口金から、シリンジポンプを用いて室温でメタノールを収容した凝固浴に向けて押出した。凝固浴中で再生された絹繊維を20m/分の速度で巻き取った後に、得られた再生絹繊維を当該凝固浴中に3時間浸し続けることで、HFIP分子をメタノール中に拡散させて再生絹繊維から除去した。次いで、再生絹繊維を蒸留水に浸し、延伸機(株式会社井元製作所製。京都、日本)を用いて、40℃で、元の再生絹繊維の長さの3.0倍まで延伸した。延伸した再生絹繊維は、ボビンに巻き取って、室温で1晩乾燥させた。
【0062】
実施例3: 前記凍結乾燥した絹フィブロインを、和光純薬工業株式会社(大阪、日本)から購入した分析グレードのヘキサフルオロアセトン(HFA)中に2日間かけて溶解した。それ以降の処理は、実施例2と同じであった。
【0063】
実施例4: 前記凍結乾燥した絹フィブロインを、和光純薬工業株式会社(大阪、日本)から購入した分析グレードのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中に2日間かけて溶解し、15%(重量/容量)の絹フィブロイン溶液を調製した。溶液を脱ガスした後に、その絹フィブロイン溶液を、内径0.45mmのステンレス製紡糸口金から、シリンジポンプを用いて室温でメタノールを収容した凝固浴に向けて押出した。凝固浴中で再生された絹繊維を20m/分の速度で巻き取った後に、得られた再生絹繊維を当該凝固浴中に3時間浸し続けることで、HFIP分子をメタノール中に拡散させて再生絹繊維から除去した。次いで、再生絹繊維を蒸留水に浸し、延伸機(株式会社井元製作所製。京都、日本)を用いて、40℃で、元の再生絹繊維の長さの約1〜1.5倍前後の割合で軽く延伸した。延伸した再生絹繊維は、ボビンに巻き取って、室温で1晩乾燥させた。
【0064】
再生絹繊維中のβシート構造形態Aおよび形態Bの含量
参考例1と同様にして、実施例2〜4の再生絹繊維の
13C CP/MASNMRスペクトルにおけるAlaCβのピークを測定し、ガウス分布を仮定して5つのピークに分離した(
図14〜
図16)。表1に示した結果は、絹フィブロインを溶解する溶媒の種類および/または再生絹繊維の延伸率を変更することで、再生絹繊維中のβシート構造形態Aおよび形態Bの含量およびその比率を変え得ることを示している。
【0065】
【表1】
【0066】
再生絹繊維の物性測定
株式会社島津製作所(京都、日本)製のEZ−Graph張力試験機(5Nロードセルを使用)を用い、室温で、上記実施例2〜4の応力(Stress)−歪み(Strain)応答を測定した。測定は、25mmの長さの各試料を用いて、試験速度10mm/秒の条件下で行った。比較のために、同じ条件で測定した天然の絹繊維の応力−歪み曲線も示した(
図17)。
図18〜20に、実施例2〜4の応力−歪み曲線を示した。これらの結果は、10回の測定の平均値として表されている。
【0067】
参考例1、実施例2(
図18)および実施例3(
図19)を比較すると、βシート構造形態Bの含量が多いほど、応力−歪み曲線が滑らかになり、それらの曲線の肩部(Stressが200MPa前後で、Strainが数〜10%前後)が小さくなった。また、実施例4(
図20)は、βシート構造形態Bの含量が少なくなると歪み特性は改善するが、応力は減少する傾向を示している。