特許第6422785号(P6422785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422785
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】変性大豆及びそれを用いた飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/30 20160101AFI20181105BHJP
   A23K 20/00 20160101ALI20181105BHJP
   A23K 50/10 20160101ALI20181105BHJP
【FI】
   A23K10/30
   A23K20/00
   A23K50/10
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-8397(P2015-8397)
(22)【出願日】2015年1月20日
(65)【公開番号】特開2016-131529(P2016-131529A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J−オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】片岡 久
(72)【発明者】
【氏名】椹木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 三四郎
(72)【発明者】
【氏名】荻根 孝範
(72)【発明者】
【氏名】中島 庸一
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−506781(JP,A)
【文献】 特開平3−39050(JP,A)
【文献】 米国特許第5225230(US,A)
【文献】 特開平3−119967(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0274886(US,A1)
【文献】 特開2011−244741(JP,A)
【文献】 特開2006−14687(JP,A)
【文献】 特開2010−220535(JP,A)
【文献】 特開2003−235469(JP,A)
【文献】 特開平1−174341(JP,A)
【文献】 特開昭63−267239(JP,A)
【文献】 特開昭63−267240(JP,A)
【文献】 国際公開第96/008169(WO,A1)
【文献】 特表2009−500039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 − 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全脂大豆に糖類が添加され、そして加熱処理された変性大豆であって、酸性デタージェント不溶性蛋白質の含有量が5重量%(DM)以下、かつ中性デタージェント繊維の含有量が25〜50重量%(DM)となるように加熱処理されたことを特徴とする前記変性大豆。
【請求項2】
前記全脂大豆は、Tyler10メッシュ篩で篩った篩上画分の割合が80重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の変性大豆。
【請求項3】
前記全脂大豆は、大豆を割砕したものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の変性大豆。
【請求項4】
前記糖類は、前記全脂大豆100重量部に対して0.1〜10重量部添加されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の変性大豆。
【請求項5】
中性デタージェント不溶性蛋白質の含有量が10重量%(DM)以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の変性大豆。
【請求項6】
リジン/メチオニン比が、2.7〜4.5である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の変性大豆。
【請求項7】
トリプシンインヒビター活性が、4TIU/mg(DM)未満である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の変性大豆。
【請求項8】
前記糖類が非還元糖を20〜100重量%(DM)含む糖類を用いることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の変性大豆。
【請求項9】
請求項1の変性処理大豆の製造方法であって、以下のステップ:
全脂大豆に糖類を添加する、及び前記糖類の添加された全脂大豆を、前記全脂大豆100重量部に対して0.1〜15重量部の水を添加した条件下で、70〜140℃の温度で2〜24時間、酸性デタージェント不溶性蛋白質含有量が5重量%(DM)以下、かつ中性デタージェント繊維含有量が25〜50重量%(DM)となるように加熱処理する、
を含む前記変性大豆の製造方法。
【請求項10】
大豆を割砕した前記全脂大豆を使用することを特徴とする、請求項9に記載の変性大豆の製造方法。
【請求項11】
前記糖類を、前記全脂大豆100重量部に対して0.1〜10重量部添加することを特徴とする、請求項9又は10に記載の変性大豆の製造方法。
【請求項12】
非還元糖を20〜100重量%(DM)含む前記糖類を用いることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の変性大豆の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の変性大豆を0.1〜100重量%配合した飼料。
【請求項14】
反芻動物用である、請求項13に記載の飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性大豆及びそれを用いた飼料に関し、より詳細には、ルーメンバイパス率が高く、かつ栄養バランスの取れている変性大豆、並びにそれを用いた飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆は、通常、約35%の粗蛋白質と約19%の油脂を含み、栄養源及びエネルギー源を安価に補給する家畜飼料用原料として汎用されている。昨今の飼料用原料及び飼料の価格高騰のため、飼料用原料としての大豆をより一層効率的に使用することが求められている。
【0003】
大豆の飼料効率を改善する一方法として、ルーメンバイパス率を適正化することが挙げられる。牛、羊等の反芻動物は、4つの胃を持ち、そして、ルーメンと呼ばれる第1胃は、中性を示し、飼料用添加物を含む飼料組成物や牧草を咀嚼及び発酵させるためにある。ルーメン内微生物が、咀嚼物を発酵蛋白質へと再合成する。ポンプの機能を有する第2胃、及びフィルターの役割を有する第3胃もまた、反芻胃に属する。第4胃だけが、胃液の分泌により酸性を示し、その他の動物と同様に消化機能を有する。胃に続く腸は、通常の哺乳類と同様に、消化された蛋白質等の吸収及び排泄を行なう。
【0004】
反芻動物は、飼料をルーメン発酵させて得られる発酵蛋白質を腸で栄養分として吸収する。飼料中の蛋白質がルーメン微生物によって消費され過ぎると、腸で吸収される蛋白質が減り、その結果、飼料効率が低下する。したがって、反芻動物を十分に成長させるためには、ルーメン発酵で得られる栄養分と共に、ルーメンをバイパスする栄養分を含む飼料を与える必要がある。
【0005】
ルーメン微生物によって利用され難い蛋白質を分析する指標として、中性デタージェント不溶性蛋白質(NDICP)が知られている。NDICPが高いほど、ルーメンバイパス率(栄養分の小腸への到達率)が向上し、ルーメン微生物ではなく牛自体の栄養分となる。
【0006】
飼料用大豆のルーメンバイパス率を高める方法として、脱脂大豆粉等の飼料蛋白質を還元性炭水化物と共に加熱処理することが特許文献1及び2に記載されている。大豆蛋白質と還元糖との縮合生成物は、ルーメン内での分解性が減るが、ルーメン以降の管の中での消化性が顕著に減少しないとされる。しかし、この加工大豆は、リジン/メチオニン比で示されるような栄養バランスがくずれ、また、有効リジン量で示されるような腸内吸収可能栄養分が低下するといった栄養価の問題を生ずる。この技術は、縮合生成物の生成を促進するために、大豆は粉状である必要がある。大豆粉は、大豆よりも製造コストが高く、また、ハンドリングし難いという欠点を有する。
【0007】
大豆の飼料効率を高める施策の一つとして、家畜動物の育成に与える大豆の負の作用をできるだけ除去することも重要である。大豆には、蛋白質分解酵素であるトリプシンの作用を阻害するトリプシンインヒビターという蛋白質が含まれている。家畜動物が飼料中の大豆トリプシンインヒビターを摂取すると、大豆トリプシンインヒビターが動物の腸内で分泌される蛋白質分解酵素トリプシンと結合してトリプシンを非活性化する。大豆を与えた家畜は、消化不良を起こし、成長が鈍化する。したがって、家畜動物には、大豆中の大豆トリプシンインヒビターを低めるように加工された加工大豆が給餌されている。
【0008】
大豆又は加工大豆中のトリプシンインヒビターは、トリプシンインヒビター活性(TI活性)を測定することにより評価される。大豆のTI活性は、57TIU/mg(DM)程度である。大豆を加熱処理すると、TI活性が低減することが知られている。しかし、市販の加熱処理大豆(圧ぺん大豆やエクストルーダー処理大豆)のTI活性は、10TIU/mg(DM)程度であり、この値は家畜飼料用原料として未だ不十分である。なお、本明細書において、「(DM)」という記載は、乾物換算値を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−267239号公報
【特許文献2】特開昭63−267240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のとおり、現在、高いルーメンバイパス率を持ち、かつ栄養バランス及び腸内吸収可能栄養分を持つ加工大豆は知られていない。そこで、本発明の目的は、ルーメンバイパス性が高く、かつリジン/メチオニン比や有効リジン量で示される栄養価の優れた変性大豆を提供することにある。本発明のさらなる目的は、ルーメンバイパス性が高く、栄養価に優れ、かつトリプシンインヒビター活性の低い変性大豆を提供することにある。本発明の別の目的は、この変性大豆を配合した飼料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、全脂大豆及び糖類を、酸性デタージェント不溶性タンパク質の含有量と中性デタージェント繊維の含有量が特定の範囲に入るように加熱処理することにより、ルーメンバイパス性が向上すると共に栄養価も優れた変性大豆が得られることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、全脂大豆に糖類が添加され、そして加熱処理された変性大豆であって、酸性デタージェント不溶性蛋白質(ADICPともいう)の含有量が5重量%(DM)以下、かつ中性デタージェント繊維(NDFともいう)の含有量が25〜50重量%(DM)となるように加熱処理されたことを特徴とする前記変性大豆を提供する。本明細書において、「中性デタージェント繊維」又は「NDF」は、α−アミラーゼ使用かつ亜硫酸ナトリウム不使用の条件で測定した値を意味する。
【0012】
本発明の変性大豆は、ADICP及びNDFをそれぞれ一定の範囲に収めるように加熱処理されている。ADICPは、動物中で消化され難いため、飼料原料の非消化性の指標となっている。NDFは、ヘミセルロース、セルロース、リグニン及び熱変性蛋白質からなり、従来、総繊維とされている。NDFはルーメン内で揮発性脂肪酸(VFA)の原料となり、反芻やルーメン運動を活性化する機能を持つ。本発明のようにADICP及びNDFを一定の範囲内で制御すれば、高いルーメンバイパス率を持ち、かつ栄養バランス及び腸内吸収可能栄養分を保持した変性大豆が得られることは、従来技術から全く知られていない。
【0013】
前記全脂大豆は、Tyler10メッシュ(目開き1.70mm)篩で篩った篩上画分の割合が80重量%以上であることが好ましい。より好ましくは、大豆を割砕したものである。本明細書において、「割砕大豆」は、大豆粉と相違して、ほぼ1/4〜1/2に砕いた大豆を意味する。
【0014】
前記糖類は、前記全脂大豆100重量部に対して0.1〜10重量部添加されることが好ましい。
【0015】
本発明の変性大豆の中性デタージェント不溶性蛋白質の含有量は、10重量%(DM)以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の変性大豆のリジン/メチオニン比は、2.7〜4.5であることが好ましい。
【0017】
本発明の変性大豆のトリプシンインヒビター活性(TI活性ともいう)は、4TIU/mg(DM)未満であることが好ましい。前記糖類は、非還元糖を20〜100重量%(DM)含む糖類を用いることが好ましい。
【0018】
本発明は、また、上記の変性処理大豆の製造方法であって、以下のステップ:
全脂大豆に糖類を添加する、及び
前記糖類の添加された全脂大豆を、酸性デタージェント不溶性蛋白質含有量が5重量%(DM)以下、かつ中性デタージェント繊維含有量が25〜50重量%(DM)となるように加熱処理する、
を含む、前記変性大豆の製造方法を提供する。
【0019】
前記製造方法は、Tyler10メッシュ篩で篩った篩上画分の割合が80重量%以上である全脂大豆を原料として使用することが好ましい。
【0020】
前記製造方法は、前記糖類を、前記全脂大豆100重量部に対して0.1〜10重量部添加することが好ましい。
【0021】
前記製造方法は、前記加熱処理を、70〜140℃の温度で2〜24時間行なうことが好ましい。
【0022】
前記製造方法は、前記加熱処理を、前記全脂大豆100重量部に対して0.1〜15重量部の水を添加した条件下で行なうことが好ましい。
【0023】
本発明は、また、前記変性大豆を0.1〜100重量%配合した飼料を提供する。
【0024】
本発明の飼料は、特に反芻動物用に好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高いルーメンバイパス率を持ち、かつ栄養バランス及び腸内吸収可能栄養分を保持した加工大豆が得られる。本発明の変性大豆は、飼料価値を向上させる。具体的には、本発明の変性大豆によれば、ルーメンバイパス率の指標となるNDICPは、10重量%(DM)以上となる。これにより、変性大豆の栄養分が、ルーメンをバイパスし、反芻動物自体の栄養分として消費されることなる。
【0026】
大豆蛋白中のリジン及びメチオニンは、家畜動物内で合成することのできない必須アミノ酸である。大豆のリジンとメチオニンとの栄養バランス(リジン/メチオニン比)は、通常、約4.7であり、加工大豆のリジン/メチオニン比もまた、3.0前後であることが好ましい。本発明の変性大豆によれば、リジン/メチオニン比が2.7〜4.5に維持される。
【0027】
特許文献1及び2の発明では、リジンと還元糖との縮合生成物が形成される。この生成物は腸内で吸収され難い。本発明の変性大豆では、リジン含有量及びNDICPが高いことで、リジン含有量とNDICPとの積で表される有効リジン量も0.3重量%(DM)と高い。高い有効リジン量は、腸内に吸収可能な栄養分として多く存在することを意味する。
【0028】
さらに、本発明の変性大豆は、TI活性が4TIU/mg(DM)未満と従来の市販の加工大豆よりも低い点で、消化性の高い飼料用原料となり得る。
【0029】
本発明の変性大豆を配合した飼料は、反芻動物のルーメンをバイパスしやすく、栄養価が高く、そして消化性に優れるために、飼料効率を改善する。その結果、従来よりも少ない量の飼料で、畜産産物を生産することが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施の形態をより詳細に説明する。本発明の変性大豆は、全脂大豆に糖類が添加され、そして加熱処理された変性大豆であって、ADICPの含有量が5重量%(DM)以下、かつNDFの含有量が25〜50重量%(DM)となるように加熱処理される。
【0031】
上記加熱処理に使用される大豆は、全脂大豆であることを必須とする。脱脂大豆は油分の含量が約2重量%と少なく、エネルギー補給の点から本発明の原料には採用されない。全脂大豆のTyler10メッシュ(目開き1.70mm)篩で篩った篩上画分の割合は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。篩上画分の上限は、特に限定されず、100重量%以下でよく、好ましくは99重量%以下である。全脂大豆は、割砕しなくてもよいが、割砕することが好ましい。従来汎用される大豆粉は、加熱処理された変性大豆のルーメンバイパス率が低下する。割砕の程度を過酷にしても、加熱処理された変性大豆のルーメンバイパス率が低下する。よって、割砕の程度は、ほぼ1/4〜1/2が好ましく、より好ましくは、ほぼ1/2である。
【0032】
変性大豆の飼料としての嗜好性を高めるために、上記大豆原料に糖類が添加される。糖類は、単糖、二糖、オリゴ糖、糖アルコール、及びこれらの混合物であり得る。糖類は、還元性及び非還元性を問わずに使用することができる。糖類の具体例には、ショ糖(スクロース)、トレハロース、果糖(フルクトース)、ブドウ糖(グルコース)、乳糖(ラクトース)、麦芽糖(マルトース)、マルトトリオース、ラフィノース、イソマルツロース(パラチノース(登録商標))、還元麦芽糖(マルチトール)、還元パラチノース、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、及びマンニトールが挙げられる。これらの化合物を1種以上、無水又は含水状態で含有する混合物、例えば砂糖、水アメ、コーンシロップ、糖蜜、廃糖蜜、異性化糖、蜂蜜、氷砂糖、黒砂糖、黒蜜等もまた使用することができる。特に糖蜜、廃糖蜜、異性化糖、水あめ、蜂蜜等の糖液が、反応性や混合性の点から好ましい。
【0033】
前記糖類は、非還元糖を好ましくは20〜100重量%、より好ましくは35〜100%含む。本明細書において、「非還元糖」という用語は、加熱時に還元性を示さない糖を意味する。
【0034】
糖類の添加量は、原料大豆100重量部に対して、通常、0.1〜10重量部でよく、好ましくは0.5〜5重量部である。糖類は、通常、水を含んだ糖液(シロップ)として添加される。糖液の糖濃度は、ハンドリング、保存性の観点から、通常、20〜90重量%であり、好ましくは30〜85重量%である。
【0035】
糖類の添加された大豆原料は、加熱処理に供される。加熱処理により、原料大豆の酸性デタージェント不溶性蛋白質(ADICP)及び中性デタージェント繊維(NDF)が変化する。
【0036】
大豆中のADICPの含有量は、通常、0.5〜2.0重量%(DM)である。本発明の変性大豆中のADICPの含有量は、5重量%(DM)以下であり、好ましくは0.5〜4.0重量%(DM)であり、特に好ましくは0.5〜3.5重量%(DM)である。ADICPが5重量%(DM)を超えると、不消化性蛋白が増加する。なお、ADICPは、定法(例えば飼料分析法・解説(2009年版 日本科学飼料協会発行))に基づいて得られた残渣の窒素分を測定することで知ることが出来る。方法の概要は、以下の通りである。
(1)試料に対して酸性デタージェント処理を行う。
(2)酸性デタージェント処理後の残渣に対して、タンパク質含有量の測定を行い、以下の式(A)より、ADICP(重量%(DM))を算出する。
【数1】
【0037】
大豆中のNDFの含有量は、通常、約13重量%(DM)である。本発明の変性大豆中のNDFの含有量は、25〜50重量%(DM)であり、好ましくは25〜48重量%(DM)であり、特に好ましくは26〜48重量%(DM)である。NDFが25重量%(DM)より低いと、反芻やルーメン運動が低下する。逆に、50重量%(DM)より高いと、加熱が進んで栄養が低下すると考えられる。なお、NDFは、定法(例えば飼料分析法・解説(2009年版日本科学飼料協会発行))に基づいて測定される。方法の概要は、以下の通りである。
(1)試料に対して中性デタージェント処理を行う。なお、中性デタージェント処理の際にα−アミラーゼを添加し、亜硫酸ナトリウムを添加しない。
(2)以下の式(B)より、NDF(重量%(DM))を算出する。
【数2】
【0038】
本発明の変性大豆は、飼料用原料として、以下の好適な物性を有する。まず、本発明の変性大豆のNDICPは、特に10重量%(DM)以上、より特定的には10〜45重量%(DM)、さらに特定的には15〜35重量%(DM)である。従来の割砕大豆のNDICPは、2.6重量%(DM)であり、そして市販の加熱処理大豆のNDICPは、約6重量%(DM)である。したがって、本発明の変性大豆は、NDICPが従来品よりも高く、これはルーメンバイパス率が向上していることを意味する。
【0039】
飼料中のアミノ酸バランスの観点から、リジン/メチオニン比を一定範囲に整えることが好ましい。大豆のリジン/メチオニン比は約4.8であり、牛乳、牛肉及びルーメン微生物のリジン/メチオニン比率は、3.0前後である。このことから、ルーメンバイパス蛋白質のリジン/メチオニン比もまた、2.5〜4.5であることが望ましい。本発明の変性大豆のリジン/メチオニン比率は、特に2.7〜4.5であり、より特定的には2.8〜4.2であり、さらに特定的には2.9〜4.2である。
【0040】
変性大豆のリジン/メチオニン比を一定範囲にあっても、リジンが腸内で吸収可能な形態であるか否かを評価する必要がある。それは、下式(C)で示す有効リジン量(重量%(DM))で評価することができる。
【数3】
【0041】
市販の熱処理大豆は、リジン/メチオニン比が高いものの、NDICPが低い。そのため、腸内吸収可能な形態の有効リジン量は0.16重量%(DM)と低い。一方、本発明の変性大豆は、リジン含有量及びNDICPが高いことによって、有効リジン量が0.3重量%(DM)以上、特に0.3〜0.6重量%(DM)、より特定的には0.35〜0.6重量%(DM)と、従来品よりも高い。
【0042】
従来の生大豆のTI活性は約57TIU/mg(DM)である。TI活性は、加熱処理により下げることができる。それでも、従来の市販の熱処理大豆のTI活性は、約7〜10TIU/mg(DM)である。一方、本発明の変性大豆のTI活性は、4TIU/mg(DM)未満であり、特に3TIU/mg(DM)未満であり、より特定的には0.1〜2TIU/mg(DM)である。TI活性が4TIU/mg(DM)以下であると、通常、動物の成長に影響がないと言われている。本発明の変性大豆は、動物の成長に影響しない程度まで低下している点でも、飼料用原料として優れる。
【0043】
本発明は、また、上記の変性処理大豆の製造方法であって、以下のステップ:
全脂大豆に糖類を添加する、及び
前記糖類の添加された全脂大豆を、酸性デタージェント不溶性蛋白質含有量が5重量%(DM)以下、かつ中性デタージェント繊維含有量が25〜50重量%(DM)となるように加熱処理する、
を含む、前記変性大豆の製造方法を提供する。
【0044】
前記製造方法に使用する原料大豆及び糖類は、前記したとおりである。
【0045】
糖類の添加された大豆原料は、加熱処理される。記加熱処理の温度は、通常、70〜140℃であり、好ましくは90〜130℃である。
【0046】
前記加熱処理の時間は、上記加熱温度にもよるが、通常、2〜24時間であり、好ましくは2〜6時間であり、より好ましくは2.5〜5時間である。
【0047】
前記製造方法は、前記加熱処理を、前記全脂大豆100重量部に対して、通常、0.1〜15重量部、好ましくは0.3〜10重量部の水を添加した条件下で行なう。反応時のpHは、特に限定されないが、pH3.5〜7が好ましい。
【0048】
加熱処理に使用する機器は、粒度に影響を与えない限り、特に制限されない。加熱機器の例には、クッカー、オーブン、キルン等が挙げられ、好ましくはクッカーである。
【0049】
本発明は、また、前記変性大豆を配合した飼料を提供する。本発明の変性大豆を反芻動物に給与することにより、変性大豆中の栄養分をルーメンバイパスさせ、飼料の利用効率を改善する。その結果、従来よりも少ない量の飼料で、畜産産物を生産することが可能となる。
【0050】
上記で得られる本発明の変性大豆をそのまま動物に与えてもよい。当業分野で公知の飼料原料へ変性大豆を配合した飼料を動物に与えてもよい。そのような飼料原料としては、米、玄米、ライ麦、小麦、大麦、トウモロコシ、マイロ等の穀類;ふすま、脱脂米ぬか等のそうこう類;コーングルテンミール、コーンジャームミール、コーングルテンフィード、コーンスチープリカー等の製造粕類;大豆油粕、菜種油粕、あまに油粕、ヤシ油粕等の植物性油粕類;大豆油脂、粉末精製牛脂、動物性油脂等の油脂類;硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、ヨウ化カリウム、硫酸コバルト、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、塩化ナトリウム、リン酸カルシウム、塩化コリン等の無機塩類;リジン、メチオニン等のアミノ酸類;ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンD3、ビタミンE、パントテン酸カルシウム、ニコチン酸アミド、葉酸等のビタミン類;魚粉、脱脂粉乳、乾燥ホエー等の動物質飼料;生草;乾草等が挙げられる。
【0051】
配合飼料中の前記変性大豆の配合量は、0.1〜100重量%であり、好ましくは1〜30重量%である。
【0052】
本発明の変性大豆を配合した飼料の形状は特に問わない。配合する変性大豆は飼料の形状により適宜割砕等の加工をしてもよい。変性大豆以外の飼料原料の形状の例には、粉、顆粒、ペレット、ブリケット、及びペーストが挙げられる。
【0053】
本発明の変性大豆を配合した飼料を与える動物には、牛、羊、山羊、豚、鶏、馬、犬、猫等の動物が挙げられる。特に、ルーメンを有する反芻動物にとって好適である。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の実施例及び比較例を示すことにより、本発明をより具体的に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〜5、比較例1〜5〕
1.変性大豆の調製
大豆(非加熱、遺伝子組み換え不分別))を概ね1/2に割砕したものを対照とした。この割砕大豆は、Tyler10メッシュ篩で篩った篩上画分の割合が93〜97重量%であった。この割砕大豆を実施例1〜5及び比較例4及び5の熱処理用原料に供した。また、比較のため、以下に示す市販の熱処理変性大豆を用意し、その物性(ADICP及びNDF)を測定した。その結果を表1に示す。
圧ぺん大豆1:大豆を乾式加熱後、フレーク状にした市販の加工大豆。
圧ぺん大豆2:大豆を湿式加熱後、フレーク状にした市販の加工大豆。
エクストルーダー処理大豆:大豆を高温下でエクストルーダー処理した加工大豆(製品名 フルファットエース、株式会社J−オイルミルズ製)。
【0055】
2.糖類の添加
実施例1及び2では、表1に示す量の廃糖蜜(製品名 南西諸島産糖蜜、三昭株式会社製)を添加した。実施例3〜5及び比較例4では、表1に示す量の異性化糖(製品名:王子の異性化糖HC、王子コーンスターチ社製)を添加した。比較例5では、キシロース(和光純薬製)を用いた。糖類の添加量は、大豆100重量部に対する糖類の重量部で示した。上記糖類の組成及び水分は、以下の通りであった。
(廃糖蜜)
スクロース:53重量%(DM)、
グルコース:3重量%(DM)、
フルクトース:7重量%(DM)、及び
水分28%

(異性化糖)
グルコース:39重量%(DM)、
フルクトース:58重量%(DM)、及び
水分24.6%
【0056】
3.加水
実施例1〜5、及び比較例4及び5では、上記糖類に含まれる水を含めて表1に示す量となるよう水を添加した。加水量は、大豆100重量部に対する水の重量部で示した。
【0057】
4.加熱処理
実施例1〜5では、以下に示す仕様のクッカーを用いて、表1に示す条件で原料を加熱処理した。今回使用したクッカーの加熱域は、5段である。第1段の加熱域に投入された試料は、一定時間後に自動的に下流へ運ばれ、第5段の加熱域から排出される。
【0058】
比較例4及び5では、原料をオーブン(製品名WINDY OVEN 型番WFO−601SD、東京理化機械製)内で、表1に示す条件で加熱処理した。
【0059】
加熱処理の目安として、変性大豆のADICP及びNDFを測定した。ADICPの測定には、全窒素・全炭素測定装置(製品名スミグラフ 型番NC−22F、株式会社住化分析センター製)を用いた。NDFの測定には、繊維分析装置(製品名ファイバーアナライザーA200、ANKOM社製)を用いた。ADICP及びNDFの測定結果を表1に示す。また、比較のため、割砕大豆(対照)、及び市販の熱処理変性大豆(比較例1〜3)の測定結果も、表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
5.飼料用原料としての評価
加熱処理された変性大豆の飼料原料用物性として、中性デタージェント不溶性蛋白質(NDICP)、リジン/メチオニン比、有効リジン量及びTI活性を以下の手順で測定した。比較のため、割砕大豆(対照)、及び市販の熱処理変性大豆(比較例1〜3)の物性も同様に測定した。
【0062】
(NDICP)
NDICPの測定には、全窒素・全炭素分析装置(製品名スミグラフ 型番NC−22F、株式会社住化分析センター製)を用いた。NDICPを表2に示す。
NDICPの測定方法の概要は、以下の通りである。
(1)飼料分析法・解説(2009年版 日本科学飼料協会発行)を参考として、試料に対して中性デタージェント処理を行った。尚、中性デタージェント処理の際にα−アミラーゼを添加し、亜硫酸ナトリウムを添加しなかった。
(2)中性デタージェント処理後の残渣に対して、タンパク質含有量の測定を行い、以下の式(D)より、NDICP(重量%)を算出した。
【数4】
【0063】
(リジン/メチオニン比)
リジン、メチオニン含有量は以下の方法より分析を行い。得られた分析値から以下の式(E)で算出した。
【数5】
【0064】
(リジン含有量の測定方法)
一般的に用いられる塩酸分解法とアミノ酸自動分析法で測定を行った。
(メチオニン含有量の測定方法)
一般的に用いられる過ギ酸酸化法とアミノ酸自動分析法で測定を行った。
【0065】
(有効リジン量)
有効リジン量は、前記式(C)に従って求めた。結果を表2に示す。
【0066】
(TI活性)
TI活性は、以下の方法により分析を行った。TI活性を表2に示す。
(TI活性測定方法)
M.L.KaKadeらの論文(Cereal Chem.,46,518−526(1969)及びCereal Chem.,51,376−382(1974))を参考として測定を行った。概要は以下の通りである。試料を水酸化ナトリウム溶液で抽出し、試験溶液とした。基質としてN−α−ベンゾイル−dl−アルギニン−p−ニトロアニリドハイドロクロライド(DL−BAPA)、酵素としてトリプシンを用いて、反応停止液として酢酸を用いた。410nmの吸光度を測定し、試験溶液のトリプシンインヒビター活性を以下の単位で表した。
(TIU)
DL−BAPAを基質とし、37℃、pH 8.2において、10分間にトリプシン活性を波長410nmの吸光度で0.01阻害する活性を、1TIUとした。
【0067】
【表2】
【0068】
表2から、対照の割砕大豆は、NDICPが低く、ルーメンバイパス性が低いことがわかる。リジン/メチオニン比が高いものの、低いNDICPのために、実効的な栄養価を意味する有効リジン量は極めて低い。また、TI活性が非常に高いために、飼料原料としての消化性も悪い。
【0069】
実施例1及び2では、非還元糖を主成分とする廃糖蜜を用い、実施例3〜5では非還元糖が約2/3を占める異性化糖を用いた。非還元糖を含んだ糖を使用することで、有効リジン量が改善される。非還元糖が35重量%(DM)以上である糖類を添加することが特によいことが判明した。
【0070】
加熱処理された市販の変性大豆(比較例1〜3)は、TI活性が4.6〜9.5TIU/mg(DM)へ改善されている。それでも、飼料用原料のTI活性として不十分である。上記加工大豆のNDICPは、対照より若干改善されているものの、ルーメンバイパス性として不十分である。また、市販の変性大豆は、低NDICPのために、有効リジン量が本発明の変性大豆に比べて低い。
【0071】
実施例1〜5では、NDICPが16.2〜28.5重量%(DM)と著しく改善され、よってルーメンバイパス性は良好である。3.0以上の高いリジン/メチオニン比は、栄養価として改善されている。NDICP及びリジン含有量の両方とも高いために、有効リジン量も高い。さらに、低いTI活性により、飼料原料としての消化性が高い。
【0072】
実施例と同様に加熱処理しているが、本発明の条件からはずれるADICPを有する変性大豆(比較例4)は、NDICPが高く、そしてTI活性が低い。しかし、低いリジン/メチオニン比は、変性大豆の栄養価を低下させる。したがって、この変性大豆は、飼料原料として良好な変性大豆とならない。
【0073】
本発明の条件からはずれるNDFを有する変性大豆(比較例5)は、NDICPがそれほど改善されておらず、ルーメンバイパス性と有効リジン量も低い。また、高いTI活性が、消化性を低下させる。したがって、この変性大豆は、飼料原料として良好な変性大豆とならない。
【0074】
以上のことから、変性大豆のADICP及びNDFを本発明で規定する範囲に管理することで、ルーメンバイパス性、栄養価及び消化性が向上するので、本発明の変性大豆は、飼料用原料として好適になることが判明した。
【0075】
〔実施例6〕
実施例3の変性大豆を用いて、以下の配合で飼料を作成した。
トウモロコシ 19.8重量%、
変性大豆 10.0重量%、
フスマ 6.75重量%、
コーングルテンミール 6.75重量%、
アルファルファミール 5.4重量%、
マイロ 4.5重量%、
炭酸カルシウム 0.765重量%、
リン酸二石灰 0.585重量%、
食塩 0.27重量%、
ビタミンADE 0.09重量%、
微量ミネラル 0.09重量%、
チモシー乾草 45.0重量%