【文献】
須崎 皓平 他,分散アレーアンテナにおけるアンテナ間遅延時間差補償方法,電子情報通信学会2015年通信ソサイエティ大会講演論文集1,2015年 8月25日,p.201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明に係るアレーアンテナ装置の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係るアレーアンテナ装置100の一例を示す。アレーアンテナ装置100は、アンテナ101(1)、アンテナ101(2)、・・・、アンテナ101(M)のM台(Mは正の整数)のアンテナと、送受信装置102(1)、送受信装置102(2)、・・・、送受信装置102(M)のM台の送受信装置と、位相制御装置103と、変復調装置104とを有する。
【0017】
ここで、アンテナ101(1)、アンテナ101(2)およびアンテナ101(M)に共通の事項を説明する場合は、符号末尾の(番号)を省略してアンテナ101と表記する。送受信装置102(1)、送受信装置102(2)および送受信装置102(M)についても同様に表記する。
【0018】
図1において、アンテナ101は、パラボラアンテナであってもよいし、平面アンテナなど他のアンテナであってもよい。
【0019】
送受信装置102は、通信先の通信装置151に送信する送信信号をアンテナ101に出力し、送受信装置102には、アンテナ101が受信する通信装置151からの受信信号が入力される。本実施形態に係るアレーアンテナ装置100は、各アンテナ101毎に送受信装置102を有する独立したアンテナ装置が分散して配置された分散アレーアンテナであり、同一装置に複数のアンテナを有する通常のアレーアンテナに比べてアンテナ101の間隔が大きく、アンテナ101間の遅延時間差も大きくなる。
【0020】
位相制御装置103は、複数の送受信装置102により送受信される信号の位相を制御して、通信先に対する送受信電力が最大になるように制御する。例えば、位相制御装置103は、各送受信装置102により送信される信号の位相を制御して、通信先方向に送信する電力が最大になるように制御する。また、位相制御装置103は、各送受信装置102の受信信号の位相を制御して、通信先から受信する受信信号の電力が最大になるように位相を制御して合成する。ここで、位相制御装置103は、送受信装置102が送受信する信号を所定のサンプリング周期でサンプリングしてデジタル値に変換し、デジタル処理により位相制御などを行う。また、本実施形態に係る位相制御装置103は、アンテナ101間の経路長差(遅延時間差)を高精度に補正する機能を有する。なお、位相制御装置103が行う遅延時間差の補正方法については後で詳しく説明する。ここで、例えばアンテナ101(1)の受信信号を基準とした場合、アンテナ101(2)の受信信号は、遅れている場合もあるし、進んでいる場合もあるが、本実施形態では、進み/遅れを区別する必要がある場合を除いて、進み/遅れの時間を含めて遅延時間と表記する。
【0021】
変復調装置104は、アレーアンテナ装置100に接続される基幹回線などから通信先の通信装置151に送信する送信データを予め決められた所定の変調方式(位相変調や位相振幅変調など)で変調して、変調した送信データを位相制御装置103に出力する。また、変復調装置104は、位相制御装置103から受け取る受信信号を通信先の変調方式に対応する復調方式で復調し、復調された受信データを基幹回線などに出力する。
【0022】
このようにして、本実施形態に係るアレーアンテナ装置100は、複数のアンテナ101により送受信する信号の位相を制御して、送受信電力が最大になるように制御して通信先の通信装置151との間で通信を行うことができる。
【0023】
図2は、伝搬遅延がある場合の合成電力の劣化の一例を示す。
図2において、横軸は時間(t)を示し、縦軸は振幅(amplitude)を示す。
図2において、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との間には伝搬遅延があるので、例えばアンテナ101(1)とアンテナ101(2)との間で受信信号の到達時間が異なる。このため、位相変調や位相振幅変調の変調シンボルが切り替わるタイミングに時間差T1が生じ、このT1区間におけるアンテナ101(1)とアンテナ101(2)との合成電力が減少して通信品質が劣化する。
【0024】
図3は、伝搬路の遅延特性を示す指標(遅延プロファイル)の一例を示す。
図3において、横軸は遅延時間(T)を示し、縦軸は信号強度を示す。
図3は、例えば、アンテナ101(1)を基準にして、アンテナ101(1)に対するアンテナ101(2)の遅延時間Tをサンプリング周期単位で示す。なお、サンプリング周期はTsとする。ここで、以降の説明において、アンテナ101(1)およびアンテナ101(2)の2本のアンテナを有するアレーアンテナ装置100について説明するが、
図1に示すように、M台のアンテナ101を有する場合でも同様に適用可能である。
【0025】
図3の例では、アンテナ101(1)の受信タイミングを基準(遅延時間0)にして、アンテナ101(2)では、9サンプリング周期(9Ts)から10サンプリング周期(10Ts)程度、アンテナ101(1)より遅延して信号が受信されている。ここで、例えば、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との間の実際の遅延時間は、9Tsと10Tsとの間にある可能性があり、サンプルタイミングのずれを補正するだけでは誤差が生じるという問題がある。そこで、本実施形態に係るアレーアンテナ装置100では、先ず、サンプルタイミングのずれを補正し、次に、サンプルタイミング間隔未満のずれを補正する処理を行う。
【0026】
図1の位相制御装置103は、
図3に基づき説明したように、アンテナ101の受信信号から遅延プロファイルを求め、サンプルタイミングのずれ(N(Nは整数)サンプル時間の進み又は遅れ)を検出する。そして、位相制御装置103は、検出されたNサンプルだけ受信タイミングを遅らせる又は受信タイミングを進ませることにより、アンテナ101間の受信タイミングが一致するように制御する。例えば
図3の場合、アンテナ101(2)の受信タイミングがアンテナ101(1)の受信タイミングに対して9サンプル(9Ts)遅れているので、例えばアンテナ101(1)の受信タイミングを9サンプル遅らせる。
【0027】
このようにして、本実施形態に係るアレーアンテナ装置100は、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との間のサンプルタイミングのずれを補正することができる。なお、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との間にサンプリング間隔未満の遅延時間差がある場合、誤差が残っているため、位相変調や位相振幅変調などの変調シンボルが切り替わるタイミングにおいて、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との合成信号品質が劣化する。
【0028】
図4は、サンプリング間隔未満の誤差の一例を示す。
図4において、横軸は時間(t)を示し、縦軸は振幅(amplitude)を示す。なお、白丸印はサンプリングタイミングを示す。
【0029】
図4において、調整前のアンテナ101(2)は、アンテナ101(1)を基準として、約Nサンプル分だけサンプルタイミングが遅れており
図2で説明したような問題が生じるため、アンテナ101(2)のサンプリングタイミングをNサンプル分ずらす。ここで、アンテナ101(1)の信号とアンテナ101(2)の信号とを同じサンプル周期でサンプリングした場合でも、サンプリングする信号の位相は同じにはならない。この理由は、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との間の信号の遅延時間差が必ずしもサンプル周期の整数倍にはならないからである。このため、
図4に示すように、アンテナ101(1)の信号とアンテナ101(2)の信号とを合成した場合、アンテナ101(1)の信号のサンプル点と、アンテナ101(2)の信号のサンプル点との間にはサンプルタイミングのずれdTが生じているので、シンボルの切替り目で誤差が残ってしまう。そこで、本実施形態に係る位相制御装置103は、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との間にサンプリング間隔未満の遅延時間差がある場合でも、位相変調や位相振幅変調などの変調シンボルが切り替わるタイミングにおいて、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との合成信号品質が劣化しないようにサンプリング間隔未満の遅延時間差を補正する。なお、具体的には、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との間の遅延時間だけでなく、振幅も一致するように制御される。
【0030】
ここで、本実施形態では、例えば基準アンテナ(上記の例ではアンテナ101(1))の受信信号を基準信号、他のアンテナ(上記の例ではアンテナ101(2))の受信信号を参照信号とする。そして、基準信号と参照信号とのサンプリング間隔単位の遅延時間を補正した参照信号を第1参照信号とする。つまり、第1参照信号は、基準信号に対してサンプル間隔単位のずれは補正されているが、サンプル間隔未満の誤差を有している。そこで、本実施形態では、サンプル間隔未満の誤差を含むように、第1参照信号を進みまたは遅れの方向に1サンプルタイミングずらした第2参照信号を生成し、第1参照信号と第2参照信号とを補間(例えば線形補間)して基準信号との誤差が最小になるように補間信号を生成する。なお、補間信号の生成方法については、後で詳しく説明する。そして、受信側では、基準信号と補間信号とを合成することにより、分散アレーアンテナ装置100が通信先から受信する電力を最大にすることができ、送信側では、基準信号を基準アンテナから送信し、補間信号を他のアンテナから送信することにより、分散アレーアンテナ装置100が通信先方向へ送信する電力を最大にすることができる。
【0031】
図5は、位相制御装置103の一例を示す。なお、
図5において、
図1と同符号のブロックは、
図1と同一又は同様の機能を有する。
【0032】
図5において、位相制御装置103は、受信側の処理として、A/D(Analog /Digital)変換部201、A/D変換部202、遅延推定/サンプル遅延部203、遅延部(delay/lead)204、乗算部205、乗算部206、加算部207、係数算出部208および合成部209を有する。また、送信側の処理として、サンプル遅延部301、遅延部(delay/lead)302、乗算部303、乗算部304、加算部305、D/A(Digital/Analog)変換部306およびD/A変換部307を有する。
【0033】
まず、受信側の動作について説明する。
【0034】
図5において、A/D変換部201は、アンテナ101(1)から送受信装置102(1)を介して受信する信号をデジタル値f
r1(T
0)に変換する。
【0035】
A/D変換部202は、アンテナ101(2)から送受信装置102(2)を介して受信する信号をデジタル値f
r2(T
0)に変換する。
【0036】
遅延推定/サンプル遅延部203は、
図3で説明した遅延プロファイルの算出により、時間T
0におけるアンテナ101(1)(基準)の受信信号 f
r1(T
0) に対して、アンテナ101(2)の受信信号f
r2(T
0)の進み/遅れ時間NT
s(N:正の整数,T
s:サンプリング周期)を推定する。そして、遅延推定/サンプル遅延部203は、進み/遅れ時間NT
sの調整を行った信号を出力する(信号(1))。なお、アンテナ101(1)の受信信号 f
r1(T
0) は、遅延推定/サンプル遅延部203からそのまま出力される。
【0038】
これにより、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との間の進み/遅れ時間のうち、サンプル周期分のずれが補正される。なお、この時点では、
図4で説明したように、サンプリング間隔未満の進み/遅れ時間は残っており、以降の処理でサンプリング間隔未満の進み/遅れ時間を補正する必要がある。
【0039】
遅延部204は、遅延推定/サンプル遅延部203が出力する信号(1)に対して1サンプル時間遅れ/進みの調整を行った信号を出力する。例えば、遅延推定/サンプル遅延部203が出力する信号(1)がNT
sだけ進んでいる場合は、1サンプル進ませて-(N+1)T
sに調整し、遅延推定/サンプル遅延部203が出力する信号(1)がNT
sだけ遅れている場合は、1サンプル遅らせて(N+1)T
sに調整する(信号(2))。
【0041】
乗算部205は、遅延推定/サンプル遅延部203が出力する信号(1)に係数w
1を乗算する(信号(3))。なお、係数w
1については後で詳しく説明する。
【0043】
乗算部206は、遅延部204が出力する信号(2)に係数w
2を乗算する(信号(4))。なお、係数w
2については後で詳しく説明する。
【0045】
加算部207は、乗算部205が出力する信号(3)および乗算部206が出力する信号(4)を加算する(信号(5))。なお、加算部207から出力される信号(5)を補間信号とも称する。
【0047】
係数算出部208は、遅延推定/サンプル遅延部203が出力するアンテナ101(1)の受信信号f
r1(T
0)と、加算部207が出力する補間信号(信号(5))とに基づいて、係数w
1および係数w
2を算出する。係数算出部208は、MMSE(Minimum Mean Square Error)アルゴリズム(例えばLMS(Least Mean Square)などの最急降下法)を用いて、基準との誤差が最小となる信号波形を生成する。
【0048】
例えば、係数算出部208は、サンプル間隔単位での遅れ/進みを補正した信号(第1参照信号)と、第1参照信号の遅れ/進みを1サンプル分だけずらした信号(第2参照信号)とにそれぞれ係数を乗算して加算した補間信号(信号(5))に対する基準アンテナの基準信号f
r1(T
0)との誤差が最小となるように、係数(w
1,w
2)を更新する処理を繰り返して誤差を低減する。このようにして、位相制御装置103は、アンテナ101(1)の受信信号f
r1(T
0)と、加算部207が出力する補間信号との間の誤差が最小となる係数(w
1,w
2)を求めることができる。ここで、係数w
1の情報は、係数算出部208から乗算部205および乗算部303にそれぞれ入力され、係数w
2の情報は、係数算出部208から乗算部206および乗算部304にそれぞれ入力される。
【0049】
合成部209は、アンテナ101(1)の受信信号f
r1(T
0)と、加算部207が出力する信号(5)とを合成した受信信号を変復調装置104に出力する。
【0050】
このようにして、本実施形態に係るアレーアンテナ装置100は、アンテナ101間におけるサンプリング間隔未満の誤差を補正して合成するので、位相変調や位相振幅変調などの変調シンボルが切り替わるタイミングにおいて合成信号品質が劣化しないようにすることができる。
【0051】
次に、送信側の動作について説明する。
【0052】
図5において、サンプル遅延部301には、送信信号と、受信側の遅延推定/サンプル遅延部203が受信信号の遅延プロファイルにより算出した±Nサンプルの進み/遅れ時間NT
sの遅延量情報とが入力される。そして、サンプル遅延部301は、時間T
0における送信信号をアンテナ101(1)の送信信号f
t1(T
0)と、アンテナ101(2)の送信信号f
t2(T
0)とに分割する。サンプル遅延部301は、分割された送信信号のうち、アンテナ101(2)の送信信号f
t2(T
0)に対して、受信側の進み/遅れ時間NT
sだけ調整する(信号(6))。
【0054】
遅延部302は、サンプル遅延部301が出力する信号(6)に対して1サンプル時間遅れ/進みの調整を行った信号を出力する。例えば、サンプル遅延部301が出力する信号(6)がNT
sだけ進んでいる場合は、1サンプル進ませて-(N+1)T
sに調整し、遅延推定/サンプル遅延部203が出力する信号(6)がNT
sだけ遅れている場合は、1サンプル遅らせて(N+1)T
sに調整する(信号(7))。
【0056】
乗算部303は、サンプル遅延部301が出力する信号(6)に係数算出部208が算出した係数w
1を乗算する(信号(8))。
【0058】
乗算部304は、遅延部302が出力する信号(7)に係数w
2を乗算する(信号(9))。
【0060】
加算部305は、乗算部303が出力する信号(8)と乗算部304が出力する信号(9)とを加算して次式により補間信号を生成する。
【0062】
D/A変換部306は、サンプル遅延部301が出力するアンテナ101(1)の送信信号f
t1(T
0)をアナログ信号に変換して送受信装置102(1)を介してアンテナ101(1)から送信する。
【0063】
D/A変換部307は、加算部305が出力する式(1)の信号をアナログ信号に変換して送受信装置102(2)を介してアンテナ101(2)から送信する。
【0064】
このように、送信側では、サンプル遅延部301がアンテナ101(1)の送信信号f
t1(T
0)に対して遅れ(進み)の信号および進み(遅れ)の信号をそれぞれ生成し、それぞれの信号に受信側の係数算出部208が求めた振幅係数(w
1,w
2)を乗算後に加算して線形補間を行い、補間信号を式(1)により生成してアンテナ101(2)から送信する。これにより、アンテナ101(1)とアンテナ101(2)との間におけるサンプル間隔未満の遅延時間の誤差を補正することができる。なお、送信電力は基準アンテナのアンテナ101(1)と同一になるように正規化する。
【0065】
このようにして、本実施形態に係るアレーアンテナ装置100は、アンテナ101間におけるサンプリング間隔未満の誤差を含む遅延時間のずれを補正して合成するので、位相変調や位相振幅変調などの変調シンボルが切り替わるタイミングにおいて合成信号品質が劣化しないようにすることができる。
【0066】
図6は、補間信号生成方法の一例を示す。
図6(a)は、例えば送信信号を1サンプル遅延前の元の信号と、1サンプル遅延後の信号との一例を示す。なお、横軸は時間(t)、縦軸は振幅(amplitude)、白丸印はサンプリングタイミングをそれぞれ示し、振幅は1に正規化してある。
図6(b)は、1サンプル遅延前の信号に係数w
1、1サンプル遅延後の信号に係数w
2をそれぞれ乗算後の信号の一例を示し、1サンプル遅延前の信号の振幅は1からw
1になり、1サンプル遅延後の信号の振幅は1からw
2に調整される。
図6(c)は、振幅係数(w
1,w
2)の乗算後の1サンプル遅延前の信号401と、1サンプル遅延後の信号402とを加算して補間信号403を生成する例を示す。
【0067】
このように、本実施形態に係るアレーアンテナ装置100は、1サンプル遅延前の信号と、1サンプル遅延後の信号とを用いて、振幅係数(w
1,w
2)により重み付けを行うことにより、サンプリング間隔未満の誤差を補正した補間信号を生成することができる。
【0068】
例えば、f
r1(T0) に対して進み(遅れ)の信号は、次の信号(10)で表され、f
r1(T0) に対して1サンプル遅延後の進み(遅れ)の信号は、次の信号(11)で表される。
【0071】
ここで、上記の場合、サンプリング間隔未満の補間値は、信号(10)と信号(11)との間に存在する。そこで、本実施形態では、信号(10)と信号(11)とにそれぞれ振幅係数(w
1,w
2)により重み付けを行って線形補間してサンプリング間隔未満の補間値を求める。なお、本実施形態では、最適な補間値を求めるために、信号(10)と信号(11)とにそれぞれ振幅係数(w
1,w
2)により重み付けを行って線形補間した補間値と、基準アンテナの受信信号f
r1(T0)との差が最小になるようにLMS法を用いているが、他の手法を用いて補間値を推定するようにしてもよい。
【0072】
本実施形態では、送信側で使用する振幅係数(w
1,w
2)を受信信号から求めて、送信信号にも受信信号から求めた振幅係数(w
1,w
2)を適用する。また、
図1に示した通信先の通信装置151への送信経路と、通信装置151からの受信経路とは、同一経路であるので、送信および受信における遅延時間は同じであり、送信と受信とで遅延時間の進み/遅れの関係が逆になる。
【0073】
図7は、アレーアンテナ装置100における信号処理手順の一例を示す。なお、
図7のフローチャートは、
図5に示した位相制御装置103の各部の処理に対応する。
【0074】
ステップS101において、遅延推定/サンプル遅延部203は、基準アンテナに対するアンテナ間の受信信号の時間差を比較し、遅延プロファイルを作成する。
【0075】
ステップS102において、遅延推定/サンプル遅延部203は、ステップS101で作成した遅延プロファイルに基づいて、アンテナ間の受信信号の時間差(NT
s)を推定する。
【0076】
ステップS103において、遅延推定/サンプル遅延部203は、ステップS102で推定した時間差(NT
s)分だけサンプリング間隔単位の遅延時間(NT
s)を調整する。
【0077】
ステップS104において、係数算出部208は、最小二乗誤差法(LMS)により、サンプリング間隔未満の遅延を補正するための最適化係数(w
1,w
2,・・)を算出する。
【0078】
ステップS105において、遅延推定/サンプル遅延部203が推定したサンプルタイミングの時間差(NT
s)だけ信号を遅延させた後、さらに、1サンプルタイミングの進み/遅れを調整した信号を生成する。
【0079】
ステップS106において、加算部207は、乗算部205,206で係数(w
1, w
2,・・)が乗算された信号を加算して補間信号を生成する。あるいは、加算部305は、乗算部303,304で係数(w
1, w
2,・・)が乗算された信号を加算して補間信号を生成する。
【0080】
このようにして、本実施形態に係るアレーアンテナ装置100は、アンテナ101間におけるサンプリング間隔未満の誤差を補正して合成するので、位相変調や位相振幅変調などの変調シンボルが切り替わるタイミングにおいて合成信号品質が劣化しないようにすることができる。
【0081】
図8は、本実施形態を適用した場合のシミュレーション結果の一例を示す。
図8において、横軸はビットエネルギー対雑音電力密度比Eb/N0(the energy per bit to noise power spectral density ratio)、縦軸は符号誤り率特性BER(Bit Error Rate)をそれぞれ示す。シミュレーションは、変調方式がQPSK(Quadri-Phase Shift Keying)で誤り訂正なし、アンテナ101(1)の送信信号とアンテナ101(2)の送信信号とが0.48サンプル分遅延した信号を同相合成した場合を条件とした。
図8において、(1)が遅延無しの場合の理論値、(2)がサンプリング間隔のみの補正を行った場合の結果、(3)が本実施形態で提案する方法(サンプリング間隔未満の補正を行った場合)の結果をそれぞれ示す。
【0082】
サンプリング間隔未満の補正を行った場合の結果は、サンプリング間隔のみの補正を行った場合の結果に対して、BER=10
-3において約0.4dBほど特性が改善していることが確認できる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態に係るアレーアンテナ装置100は、アンテナ101間におけるサンプリング間隔未満の誤差を補正して合成するので、位相変調や位相振幅変調などの変調シンボルが切り替わるタイミングにおいて合成信号品質が劣化しないようにすることができ、アンテナ間隔が大きい場合であっても、アンテナ間の遅延時間差を高精度に補正することができる。