特許第6422981号(P6422981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6422981ナトリウム化合物を含有する混合物の押出しによるβ−酸化アルミニウムセラミック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422981
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】ナトリウム化合物を含有する混合物の押出しによるβ−酸化アルミニウムセラミック
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/113 20060101AFI20181105BHJP
   H01M 10/39 20060101ALN20181105BHJP
【FI】
   C04B35/113
   !H01M10/39 A
   !H01M10/39 D
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-541882(P2016-541882)
(86)(22)【出願日】2014年9月3日
(65)【公表番号】特表2016-536263(P2016-536263A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】EP2014068671
(87)【国際公開番号】WO2015036291
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2017年9月1日
(31)【優先権主張番号】13184112.4
(32)【優先日】2013年9月12日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンナ カタリーナ デュル
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター フーバー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン アイヒホルツ
(72)【発明者】
【氏名】カトリン フライターク
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン モイアー
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−125408(JP,A)
【文献】 特開平08−034665(JP,A)
【文献】 特開平08−034664(JP,A)
【文献】 特開平07−272749(JP,A)
【文献】 特開平01−226717(JP,A)
【文献】 特開昭52−121612(JP,A)
【文献】 特開昭58−059055(JP,A)
【文献】 特開昭58−060665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01M 10/39
C01F 7/00−7/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)酸化アルミニウム55〜90重量%、
B)pH7及び20℃で≦300g/lの水溶解度を有し、かつ熱により実質的に唯一の固体としての酸化ナトリウムにのみ変換され得るナトリウム化合物5〜35重量%、
C)酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酸化リチウム、炭酸リチウム及び硝酸リチウムから成る群から選択されたマグネシウム化合物及び/又はリチウム化合物0〜15重量%並びに
D)二酸化ジルコニウム0〜30重量%
を含有する組成物を、押出しによるセラミック成形体の製造のために用いる使用であって、ここで、当該組成物は、押出し前に焼成されず、かつ水から選択される懸濁媒体中に懸濁されている、前記使用。
【請求項2】
前記成分B)のナトリウム化合物が、シュウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム及びシアン酸ナトリウムから成る群から選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記セラミック成形体がナトリウムイオン伝導性セラミックである、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
i)成分A)として酸化アルミニウム55〜90重量%、
ii)成分B)として、pH7及び20℃で≦300g/lの水溶解度を有し、かつ熱により実質的に唯一の固体としての酸化ナトリウムにのみ変換され得るナトリウム化合物5〜35重量%、
iii)成分C)として、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酸化リチウム、炭酸リチウム及び硝酸リチウムから成る群から選択されたマグネシウム化合物及び/又はリチウム化合物0〜15重量%並びに
iv)成分D)として二酸化ジルコニウム0〜30重量%を、水及び/又はアルコールと混合して懸濁液を得てそして
viii)水から選択される懸濁媒体、バインダー及び任意に他の添加剤と組み合わせることによって成形可能な組成物に変え、
ix)これを押し出しし、そして
x)1200℃〜1700℃の温度範囲で熱により処理する、
セラミック成形体の製造法。
【請求項5】
v)工程iv)からの組成物を粉砕し、及び/又はvii)乾燥する工程をさらに含む、請求項4記載の方法
【請求項6】
前記成分B)のナトリウム化合物が、シュウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム及びシアン酸ナトリウムから成る群から選択される、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、v)における粉砕後に0.5〜1.5マイクロメートルの範囲の粒径分布D50を有する、請求項又は記載の方法。
【請求項8】
iii)において、マグネシウム化合物又はリチウム化合物のどちらか一方を用いる、請求項4からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ii)において、シュウ酸ナトリウムを用いる、請求項4からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項4からまでのいずれか1項記載のi)〜viii)で規定された方法によって得られる、セラミック成形体の製造のために使用される成形可能な組成物の製造方法であって、ここで、前記成分A)〜D)が、当該成形可能な組成物に対して10〜60重量%の範囲の量で存在する、前記製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック成形体を製造するための酸化アルミニウム及びナトリウム化合物を含有する組成物の使用、セラミック成形体の製造法、並びにそのつど特許請求の範囲の中で規定された成形可能な組成物に関する。
【0002】
アルミン酸ナトリウムとも称されるナトリウム含有酸化アルミニウムは知られている。これは、当業者たちの間や文献中ではβ−酸化アルミニウム又はβ−Alとも呼ばれている(例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,6th Edition,2000 Electronic Release,Wiley,keyword“Aluminium Oxide”,point 1.6を参照されたい)。通常、アルミン酸ナトリウムにおけるNaO:Alのモル比は、1:1〜1:11の範囲にある。
【0003】
β−酸化アルミニウムとの用語はとりわけ、当業者たちの間や文献中では、理想的にはP6/mmcの空間群をもつ六方晶構造を有するアルミン酸ナトリウムに対して使用される。
【0004】
しかしながら、理想的にはR/3mの空間群の六方晶構造を有するアルミン酸ナトリウムはβ”−酸化アルミニウムと呼ばれる。
【0005】
以下において「β−酸化アルミニウム」との用語は、β−酸化アルミニウムとβ”−酸化アルミニウムの両方(後者が有利である)を含めるものとして使用する。そのうえ、本明細書中で使用されるβ−酸化アルミニウムとの用語は、β−酸化アルミニウムとβ”−酸化アルミニウムとの任意の混合物又は相混合物、好ましくはβ”−酸化アルミニウムの割合が90重量%超、特に有利には95重量%超である混合物を含めるものとする。
【0006】
β−酸化アルミニウムから成る成形体は、頻繁にナトリウムイオン伝導性固体電解質として、例えばナトリウム・硫黄電気化学セル(当業者によって“NAS電池”とも呼ばれる)、ナトリウム/塩化ニッケルセル(“溶融塩電池”とも呼ばれる)においてか、又はナトリウム元素の電気化学的調製に際して使用される。
【0007】
β−酸化アルミニウムから成るこの種の成形体は、通常、例えばEP 0 074 274 A2に記載された次の方法に従って製造される:
ナトリウム成分、例えば炭酸ナトリウム、α−酸化アルミニウム及び場合によっては更なる成分を混合する工程、この混合物を熱処理(“焼成”とも称される)してアルミン酸ナトリウムを形成する工程、このアルミン酸ナトリウムから成形可能な材料を製造する工程、例えば等方圧又は押出しによって形状付与する工程、場合によりこの成形体を更に熱処理する工程。
【0008】
プロセス経済性のために、成形可能な材料は、ナトリウム成分、酸化アルミニウム−例えばα−酸化アルミニウム、γ−酸化アルミニウム−及び場合により更なる成分から直接製造すること、つまり、この混合物を予め焼成せずに製造することが望ましい。
【0009】
JP08−034664A(NGK Insulators Inc.)は、例2において、β−酸化アルミニウム固体電解質の製造法を記載し、その際、α−酸化アルミニウム粉末、シュウ酸ナトリウム、酸化マグネシウムが懸濁、粉砕され、かつ噴霧乾燥されて顆粒が形成され、並びにこの顆粒が等方圧によって成形部材に変えられ、かつこれらが最大1600℃で燃焼されてβ−酸化アルミニウム焼結体が形成される。
JP08−034664は、形状付与法として押出しを開示していない。
【0010】
EP 0 074 274 A(Ford Motor Company Limited)は、炭酸ナトリウム、硝酸リチウム及び特定のα−酸化アルミニウムの焼成によって取得されたβ”−酸化アルミニウム前駆体の押出しを開示している(例21(a)以下)。
EP 0 074 274 Aは、無焼成の前駆体の押出しも、シュウ酸ナトリウムの使用も記載していない。
【0011】
本発明の課題は、先行技術の欠点をなくし、かつ押出しによってセラミック成形体を製造するための簡単な方法又は成形可能な組成物を提供することであった。
【0012】
この課題は、特許請求の範囲の中で規定された方法及び特許請求の範囲の中で規定された使用及び成形可能な組成物によって解決された。
【0013】
本発明による組成物は、成分A)として、そのつど成分A)〜D)の合計に対して55〜90重量%、好ましくは70〜80重量%、特に有利には72〜78重量%の酸化アルミニウム、好ましくはα−酸化アルミニウムを含有する。酸化アルミニウムは知られている。α−酸化アルミニウムは、例えばNabaltec社からNabalox(登録商標)の商品名で販売されている。
【0014】
成分A)の酸化アルミニウム、好ましくはα−酸化アルミニウムの粒度は、通常、0.1〜5μmの範囲、好ましくは0.5μm〜1.5μmの範囲にある。
【0015】
成分B)として、本発明による組成物は、pH7及び20℃で≦300g/l(300グラム以下という意味)の水溶解度を有し、かつ熱により、好ましくは酸素の存在下で、好ましくは1200〜1700℃の範囲の温度で、かつ好ましくは腐食性又は他の不所望の副生成物−例えば、窒素酸化物、ハロゲン、例えばフッ素、塩素、炭素に富んだ付着物、例えばカーボンブラック−が発生することなく、実質的に唯一の固体としての酸化ナトリウムにのみ変換され得るナトリウム化合物を含有する。成分B)は、そのような酸化ナトリウムを含む。
【0016】
20℃及びpH7での成分B)のナトリウム化合物の水溶解度は、0g/l、好ましくは0.0001g/l〜300g/lの範囲、好ましくは0.0001g/l〜300g/lの範囲にある。
【0017】
成分B)として、本発明による組成物は、好ましくは、シュウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム及びシアン酸ナトリウムから成る群から選択されたナトリウム化合物を含有する。
【0018】
特に有利なナトリウム化合物B)は、結晶水を含むか又は含まないシュウ酸ナトリウムである。シュウ酸ナトリウムの量値は、本明細書中では、純物質、つまり、例えば結晶水を含まないものを指す。
【0019】
成分A)〜D)の合計に対する、成分B)、好ましくは結晶水を含まないシュウ酸ナトリウムの量は、5〜35重量%の範囲、好ましくは15〜30重量%の範囲にある。
【0020】
シュウ酸ナトリウムは知られており、かつ商業的に入手可能である。しかしながら、これは本発明による使用のために、例えばシュウ酸と化学量論量の水酸化ナトリウム、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液とから現場で調製されることができる。
【0021】
成分C)として、本発明による組成物は、成分A)〜D)の合計に対して0〜15重量%の範囲、好ましくは0.5〜9重量%の範囲で、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酸化リチウム、炭酸リチウム及び硝酸リチウムから成る群から選択されたマグネシウム化合物及び/又はリチウム化合物を含有してよい。
【0022】
1つの実施形態においては、成分C)は、上で規定されたマグネシウム化合物−好ましくは酸化マグネシウム−又は上で規定されたリチウム化合物−好ましくは酸化リチウムのどちらか一方を、そのつど成分C)について上で規定された量範囲で含有する。
【0023】
本発明による組成物は、成分D)として、二酸化ジルコニウム(ZrO)0〜30重量%、好ましくは0.2〜5重量%を含有してよく、これは、例えばイットリウムイオン及び/又はマグネシウムイオンで安定化されていてよい。
【0024】
1つの有利な実施形態においては、本発明による組成物は、成分D)として、二酸化ジルコニウム(ZrO)、好ましくはイットリウムイオンで安定化された二酸化ジルコニウム(ZrO)を、そのつど成分D)について上で規定された量範囲で含有する。
【0025】
二酸化ジルコニウム(ZrO)、それにイットリウムイオンで安定化されたものも知られており、かつ商業的に入手可能である。
【0026】
成分A)〜D)の合計は100重量%である。
【0027】
本発明による組成物は、セラミック成形体、好ましくはナトリウムイオン伝導性セラミックの製造のために使用される。このために、通常、本発明による組成物は、場合により添加剤を加えながら、懸濁媒体、通常は水及び/又はアルコール、例えばC〜C−アルコール、例えばエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、好ましくは水に懸濁される。
【0028】
前述の懸濁液に対する、本発明による組成物A)〜D)の量は、一般に20〜60重量%の範囲、好ましくは40〜50重量%の範囲にある。
【0029】
それから、得られた懸濁液は直接、成形可能な組成物へと更に加工されることができる。
【0030】
更なる実施形態においては、得られた懸濁液は、好ましくはボールミルにおいて粉砕されることができ、その際、粉砕後の組成物は、好ましくは、0.5〜1.5μm(マイクロメートル)の範囲の、好ましくは約1μmの狭い粒度分布D50を有する。粒度分布は、例えばMalvern Instruments Ltd社又はMalvern Instruments GmbH社のマスターサイザー2000粒度分布測定装置により測定される。マスターサイザー2000装置は、レーザー回折により粒子のサイズを測定する。その際、レーザー光が分散された粒子サンプルを通過する際に散乱する光の強度が測定される。それから、このデータを手がかりにして、生じた回折パターンから粒子のサイズが算出される。
【0031】
好ましくは、本発明による組成物が上記のとおり懸濁されかつ粉砕された場合、このようにして得られた懸濁液は、通常、従来の乾燥法により、好ましくは噴霧乾燥によって、場合によりバインダー及び/又は他の添加剤を加えながら乾燥され、そのときに通常は粉末状又は好ましくは粒状の固体として存在する。
【0032】
このようにして得られた粉末状又は好ましくは粒状の固体は、通常、懸濁媒体、一般には水及び/又はアルコール、例えばC〜C−アルコール、例えばエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、好ましくは水に懸濁され、一般に当該懸濁は、通常このようして生じた混合物(当業者によって“バッチ”とも呼ばれる)を混練可能で押出可能にする、特定のいわゆる“バインダー系”を添加しながら行われる。
【0033】
バインダー系とは、本明細書中では、成分A)〜D)を通常上記の懸濁液中で含有する組成物を混練可能で押出可能な材料に変える化合物及び/又は組成物を意味する。
【0034】
好適なバインダー系は、1つのヘテロ原子又は複数のヘテロ原子をモノマー単位中に含有するモノマー単位をホモモノマー又はコモノマーとして含有するオリゴマー及び/又はポリマーの化合物を含有し、その際、ヘテロ原子は、窒素、酸素及び硫黄から成る群から選択される。かかるオリゴマー及び/又はポリマーの化合物の例は、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体である。
【0035】
バインダー系として使用可能である更なる組成物は、例えばEP 0 074 274 A2、殊に第9頁、第17行目〜第15頁、第6行目に記載されている。
【0036】
好適なバインダー系は、成分B)、好ましくはシュウ酸ナトリウムによって“塩析”されないものであり、つまり、バインダー系を本発明による成分B)と、更なる本発明による成分A)及び/又はC)及び/又はD)の存在下或いはまた不存在下で、上記のような懸濁媒体中で混合した際に、バインダーは、通常は易流動性でしばしば粘液性(schmierig)の、混練可能ではない材料を形成しながら部分的に又は完全に沈殿されるのではなく、混練可能で押出可能な材料が形成する。
【0037】
前で記載されたすべての懸濁液に対する、固体の形における本発明による組成物A)〜D)の量は、通常、成形可能な、好ましくは混練可能な材料が生じ、かつ例えば10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%の範囲にあるように選択される。
【0038】
上記の成形可能な、好ましくは混練可能な材料は、それから押出法により成形体に変えられる。これらの成形体の形状は非常に多岐に亘っていてよく、例えば四角形の平坦な物体又は四角形若しくは円形若しくは楕円形の断面形状を有する中実ロッド又は任意の断面形状、例えば長方形、正方形、四角形、楕円形、円形を有し、かつ両端が閉じられていないか又は一端若しくは両端が閉じられていてもよい長尺中空体である。
【0039】
好適な成形体は、例えば、任意の断面形状、例えば長方形、正方形、四角形、楕円形、円形のロッドであり、好ましいのが円筒形状を有するロッドである;成形体として更に有利なのは、任意の断面形状、例えば長方形、正方形、四角形、楕円形、円形の長尺中空体であり、特に有利なのは両端が開いているか又は一端若しくは両端が閉じられていてもよい円筒管である。
【0040】
成形体として極めて有利なのは、一端が閉じられた円筒管である。
【0041】
押出しによって得られた上記の成形体は、当業者によって、本明細書中でところどころ記載されているように“グリーン体”(焼成前の成形体を意味する)とも呼ばれる。
【0042】
上記の成形体又はグリーン体を得るための適した押出法は知られており、例えばEP 0 074 274 A2に記載されている。
【0043】
簡潔に述べると、上記の成形可能な、好ましくは混練可能な材料は、成形体の所望の形状のためのダイ、例えば円形スリットダイが備わっている市販の押出機中で押出しされる。
【0044】
本発明による組成物の押出しによって得られた上記グリーン体(本明細書中では“本発明によるグリーン体”とも呼ばれる)は、通常は公知の方法により、例えばローラー乾燥機上で15〜60℃、好ましくは20〜35℃の範囲の温度で乾燥され、それから1200℃〜1700℃の範囲、好ましくは1500〜1650℃の範囲の温度で、好ましくは酸素、例えば空気の存在下で、並びに好ましくは焼結錠剤に封入して熱処理される。
【0045】
現状の知識によれば、上述の本発明によるグリーン体は、上述の熱処理に際して、所望のβ−酸化アルミニウム、好ましくはβ”−酸化アルミニウムを形成しながらセラミック成形体に移行する。
【0046】
このβ−酸化アルミニウム成形体、好ましくはβ”−酸化アルミニウム成形体或いはまたセラミック成形体は、例えばJ.L.Sudworth,R.H.Tilley,The Sodium Sulfur Battery,Chapman and Hall Ltd.1985,ISBN 0 412 16490 6の第19頁〜第79頁に記載されているように、好ましくはナトリウムイオン伝導性セラミックである。
【0047】
本出願の対象はまた、
i)成分A)として酸化アルミニウム55〜90重量%、
ii)成分B)として、pH7及び20℃で≦300g/lの水溶解度を有し、かつ熱により実質的に唯一の固体としての酸化ナトリウムにのみ変換され得るナトリウム化合物5〜35重量%、
iii)成分C)として、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酸化リチウム、炭酸リチウム及び硝酸リチウムから成る群から選択されたマグネシウム化合物及び/又はリチウム化合物0〜15重量%並びに
iv)成分D)として二酸化ジルコニウム0〜30重量%を、水及び/又はアルコールと混合して懸濁液を得て、場合により
v)工程iv)からのこの組成物を粉砕し、場合により
vii)乾燥し、そして
viii)懸濁媒体、バインダー及び任意に他の添加剤と組み合わせることによって成形可能な組成物に変え、
ix)これを押し出しし、そして
x)1200℃〜1700℃の温度範囲で熱により処理する、
セラミック成形体の製造法である。
【0048】
成分A)〜D)、それらの量範囲及び前述の方法のそれら以外の全ての特徴には、本明細書中での記載内容が明示的に適用される。
【0049】
本出願の対象はまた、セラミック成形体、好ましくはナトリウムイオン伝導性セラミックを、好ましくは一端が閉じられた円筒体の形で製造するために適している成形可能な組成物であり、その際、この成形可能な組成物は、全ての実施形態を含め上のi)〜viii)の箇所で記載されているように得られる。成分A)〜D)には、成形可能な組成物に関して、本明細書中での記載内容が明示的に適用される。
【0050】
成分A)〜D)の本発明による組成物、好ましくは上記のような成形可能な組成物は、それが本発明によるグリーン体の表面上で、ナトリウム成分−ここでは成分B)−の“流出(放出)物(Ausbluehungen)”を実際には生じず、“適切な”コンシステンシー(稠度ないし堅さ)、すなわち、押出しのための十分に高い粘性を有し、成分B)が、熱処理に際して酸化ナトリウムのほかは実際には残留物を残さず、かつ成分B)が、バインダー系の懸濁液からの沈殿を防止するという利点を有する。
【0051】
実施例
Luvitec(R)K90は、BASF SEの登録商標である。この製品は、約1400kDaの分子量Mw及び約325kDaの分子量Mnを有するビニルピロリドンホモポリマーである。この製品に関する更なる情報は、BASF SEのパンフレット“PVP and more...LUVITEC(R),LUVICROSS(R) und COLLACRAL(R)VAL−Spezialpolymere fuer technische Anwendungen”(2010年1月版)から得ることができる。
【0052】
MethocelTMK4M Premiumは、DowWolff Cellulosics社の商標である。この製品はセルロースのメチルエステルであり、添加物E 461としても知られている。
【0053】
水中ポリビニルピロリドン(Luvitec(R)K90)を用いた、ギ酸ナトリウムとシュウ酸ナトリウムとの比較
【0054】
例V1(比較のため):
水中1重量%のLuvitec(R)K90の溶液50gに、撹拌しながらゆっくりとギ酸ナトリウム18gを飽和するまで配量した。Luvitec(R)K90は、粘液性の沈殿物として沈殿した。
【0055】
例1(本発明による):
水中1重量%のLuvitec(R)K90の溶液50gに、撹拌しながらゆっくりとシュウ酸ナトリウム6.8gを配量した。粘液性の沈殿物は生じず、かつ不溶性のシュウ酸ナトリウムが容器の底で沈殿した。
【0056】
水中メチルセルロース(DowWolff Cellulosics社のMethocelTMK4M Premium)を用いた、ギ酸ナトリウムとシュウ酸ナトリウムとの比較
【0057】
例V2(比較のため):
水中1重量%のMethocelTMK4M Premiumの溶液50gに、撹拌しながらゆっくりとギ酸ナトリウム6.8gを飽和するまで配量した。発泡が生じた。
【0058】
例2(本発明による):
水中1重量%のMethocelTMK4M Premiumの溶液50gに、撹拌しながらゆっくりとシュウ酸ナトリウム6.8gを配量した。発泡は生じず、かつ不溶性のシュウ酸ナトリウムが容器の底で沈殿した。
【0059】
これらの例と比較例は、水に良く溶けるナトリウム塩(ギ酸ナトリウム)が、水に溶け難いナトリウム塩(シュウ酸ナトリウム)とは対照的に、バインダー系の沈殿又は塩析をもたらすことを示す。