特許第6424959号(P6424959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6424959
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】熱電変換材料
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20181112BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20181112BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   H01L35/14
   C22C38/00 304
   B22F3/14
【請求項の数】11
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2017-519080(P2017-519080)
(86)(22)【出願日】2016年4月19日
(86)【国際出願番号】JP2016062315
(87)【国際公開番号】WO2016185852
(87)【国際公開日】20161124
【審査請求日】2017年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-99647(P2015-99647)
(32)【優先日】2015年5月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西出 聡悟
(72)【発明者】
【氏名】深谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】早川 純
(72)【発明者】
【氏名】籔内 真
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 洋輔
【審査官】 石丸 昌平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/093967(WO,A1)
【文献】 特開2015−005653(JP,A)
【文献】 特開2010−226034(JP,A)
【文献】 特開2008−021982(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0032105(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/175571(WO,A1)
【文献】 特開2013−149878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
C22C 38/00
B22F 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成式(化1)で表されるp型またはn型のフルホイスラー合金からなる熱電変換材料において、
(Fe1−xM12+σ(Ti1−yM21+φ(A1−zM31+ω…(化1)
前記Aは、SiおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記M1および前記M2は、いずれもCu、Nb、V、Al、Ta、Cr、Mo、W、Hf、Ge、Ga、In、P、B、Bi、Zr、MnおよびMgからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記M3は、Cu、Nb、V、Al、Ta、Cr、Mo、W、Hf、Ge、Ga、In、P、B、Bi、Zr、Mn、MgおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記σ、前記φおよび前記ωは、σ+φ+ω=0を満たし、
前記x、前記yおよび前記zがx=0、y=0、かつ、z=0を満たすときに前記組成式(化1)で表される合金におけるFe、TiおよびAの含有量を、それぞれu原子%、v原子%およびw原子%とし、
Fe−Ti−Aの三元状態図における前記合金の組成を点(u,v,w)で表すとき、
前記点(u,v,w)は、前記三元状態図において、(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の各点を頂点とする六角形の内部に配置され、
前記M1の価電子数をm1とし、
前記M2の価電子数をm2とし、
前記M3の価電子数をm3とするとき、
前記フルホイスラー合金における一原子当たりの平均価電子数であるVECは、前記σ、前記x、前記φ、前記y、前記ωおよび前記zの関数として、以下の数式(数1)で表され、
VEC(σ,x,φ,y,ω,z)=[{8×(1−x)+m1×x}×(2+σ)+{4×(1−y)+m2×y}×(1+φ)+{4×(1−z)+m3×z}×(1+ω)]/4…(数1)
以下の数式(数2)
ΔVEC=VEC(σ,x,φ,y,ω,z)−VEC(σ,0,φ,0,ω,0)…(数2)
で表されるΔVECが、0<|ΔVEC|≦0.2を満たす、熱電変換材料。
【請求項2】
以下の組成式(化1)で表されるp型またはn型のフルホイスラー合金からなる熱電変換材料において、
(Fe1−xM12+σ(Ti1−yM21+φ(A1−zM31+ω…(化1)
前記Aは、SiおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記M1および前記M2は、いずれもCu、Nb、V、Al、Ta、Cr、Mo、W、Hf、Ge、Ga、In、P、B、Bi、Zr、MnおよびMgからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記M3は、Cu、Nb、V、Al、Ta、Cr、Mo、W、Hf、Ge、Ga、In、P、B、Bi、Zr、Mn、MgおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記σ、前記φおよび前記ωは、σ+φ+ω=0を満たし、
前記x、前記yおよび前記zがx=0、y=0、かつ、z=0を満たすときに前記組成式(化1)で表される合金におけるFe、TiおよびAの含有量を、それぞれu原子%、v原子%およびw原子%とし、
Fe−Ti−Aの三元状態図における前記合金の組成を点(u,v,w)で表すとき、
前記点(u,v,w)は、前記三元状態図において、(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の各点を頂点とする六角形の内部に配置され、
前記M1の価電子数をm1とし、
前記M2の価電子数をm2とし、
前記M3の価電子数をm3とするとき、
前記フルホイスラー合金における一原子当たりの平均価電子数であるVECは、前記σ、前記x、前記φ、前記y、前記ωおよび前記zの関数として、以下の数式(数1)で表され、
VEC(σ,x,φ,y,ω,z)=[{8×(1−x)+m1×x}×(2+σ)+{4×(1−y)+m2×y}×(1+φ)+{4×(1−z)+m3×z}×(1+ω)]/4…(数1)
以下の数式(数2)
ΔVEC=VEC(σ,x,φ,y,ω,z)−VEC(σ,0,φ,0,ω,0)…(数2)
で表されるΔVECが、0.2<|ΔVEC|≦0.3を満たす、熱電変換材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱電変換材料において、
前記点(u,v,w)は、前記三元状態図において、(50,35,15)、(47.5,27.5,25)、(40,25,35)、(50,17,33)、(52.2,22.8,25)および(52.8,25,22.2)の各点を頂点とする六角形の内部に配置されている、熱電変換材料。
【請求項4】
請求項1または2に記載の熱電変換材料において、
前記点(u,v,w)は、前記三元状態図において、(50,32.6,17.4)、(49.2,25.8,25)、(43.9,25,31.1)、(50,23,27)、(51,24,25)および(51,25,24)の各点を頂点とする六角形の内部に配置されている、熱電変換材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の熱電変換材料において、
前記M2は、Vであり、
前記yは、y≦0.25を満たす、熱電変換材料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の熱電変換材料において、
前記M3は、Snである、熱電変換材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の熱電変換材料において、
前記M1は、Cuである、熱電変換材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の熱電変換材料において、
前記フルホイスラー合金の結晶粒の平均粒径は、30nm以上、かつ、500nm以下である、熱電変換材料。
【請求項9】
以下の組成式(化2)で表されるp型またはn型のフルホイスラー合金からなる熱電変換材料において、
(Fe1−xCu2+σ(Ti1−y1+φ1+ω…(化2)
前記Aは、SiおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記σ、前記φおよび前記ωは、σ+φ+ω=0を満たし、
前記xおよび前記yがx=0、かつ、y=0を満たすときに前記組成式(化2)で表される合金におけるFe、TiおよびAの含有量を、それぞれu原子%、v原子%およびw原子%とし、
Fe−Ti−Aの三元状態図における前記合金の組成を点(u,v,w)で表すとき、
前記点(u,v,w)は、前記三元状態図において、(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の各点を頂点とする六角形の内部に配置され、
前記フルホイスラー合金における一原子当たりの平均価電子数であるVECは、前記σ、前記x、前記φ、前記yおよび前記ωの関数として、以下の数式(数3)で表され、
VEC(σ,x,φ,y,ω)=[{8×(1−x)+11×x}×(2+σ)+{4×(1−y)+5×y}×(1+φ)+4×(1+ω)]/4…(数3)
以下の数式(数4)
ΔVEC=VEC(σ,x,φ,y,ω)−VEC(σ,0,φ,0,ω)…(数4)
で表されるΔVECが、0<|ΔVEC|≦0.2を満たす、熱電変換材料。
【請求項10】
以下の組成式(化2)で表されるp型またはn型のフルホイスラー合金からなる熱電変換材料において、
(Fe1−xCu2+σ(Ti1−y1+φ1+ω…(化2)
前記Aは、SiおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記σ、前記φおよび前記ωは、σ+φ+ω=0を満たし、
前記xおよび前記yがx=0、かつ、y=0を満たすときに前記組成式(化2)で表される合金におけるFe、TiおよびAの含有量を、それぞれu原子%、v原子%およびw原子%とし、
Fe−Ti−Aの三元状態図における前記合金の組成を点(u,v,w)で表すとき、
前記点(u,v,w)は、前記三元状態図において、(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の各点を頂点とする六角形の内部に配置され、
前記フルホイスラー合金における一原子当たりの平均価電子数であるVECは、前記σ、前記x、前記φ、前記yおよび前記ωの関数として、以下の数式(数3)で表され、
VEC(σ,x,φ,y,ω)=[{8×(1−x)+11×x}×(2+σ)+{4×(1−y)+5×y}×(1+φ)+4×(1+ω)]/4…(数3)
以下の数式(数4)
ΔVEC=VEC(σ,x,φ,y,ω)−VEC(σ,0,φ,0,ω)…(数4)
で表されるΔVECが、0.2<|ΔVEC|≦0.3を満たす、熱電変換材料。
【請求項11】
請求項9または10記載の熱電変換材料において、
前記フルホイスラー合金の結晶粒の平均粒径は、30nm以上、かつ、500nm以下である、熱電変換材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化現象の原因物質だと考えられているCO削減に関する国際的関心が高まっており、COを大量に排出する資源エネルギーから、自然エネルギーや熱エネルギーの再利用などの次世代エネルギーへ移行するための技術革新が進んでいる。次世代エネルギー技術の候補としては、太陽光、風力などの自然エネルギーを利用した技術、資源エネルギーの利用によって排出される熱や振動等の一次エネルギーの損失分を再利用する技術が考えられている。
【0003】
従来の資源エネルギーは大規模な発電施設を主体とした集中型エネルギーであったのに対し、次世代エネルギーの特徴は、自然エネルギー、再利用エネルギー双方とも偏在した形態をとっていることである。現代のエネルギー利用において、利用されずに排出されるエネルギーは一次エネルギーの約60%にも上り、その形態は主に排熱である。さらに排熱のうち、200℃以下の排熱は70%にも上る。したがって、一次エネルギーにおける次世代型エネルギーの割合を増加させると同時に、エネルギーの再利用技術、特に200℃以下の排熱のエネルギーを電力に変換する技術の向上が求められている。
【0004】
排熱のエネルギー利用を考えると、排熱はさまざまな場面で生じるため、設置形態に関する汎用性の高い発電システムが必要となる。その有力な候補技術として熱電変換技術が挙げられる。
【0005】
熱電変換技術の基幹部は、熱電変換モジュールである。熱電変換モジュールは、熱源に近接して配置され、熱電変換モジュール内に温度差が生じることにより発電する。熱電変換モジュールは、温度勾配に対し高温側から低温側に向かって起電力を発生させるn型熱電変換材料と、起電力の向きがn型とは逆のp型熱電変換材料とが交互に並んだ構造をとる。
【0006】
国際公開第2013/093967号(特許文献1)には、熱電変換素子において、電極で接続されたn型ホイスラー合金とp型ホイスラー合金からなる一対のホイスラー合金対が設けられる技術が、開示されている。
【0007】
熱電変換モジュールの最大出力Pは、熱電変換モジュールに流入する熱流量と、熱電変換材料の変換効率ηとの積で、決定される。熱流量は、熱電変換材料に適したモジュール構造に依存する。また、変換効率ηは、熱電変換材料の無次元の性能指数ZTに依存する。なお、以下では、「無次元の性能指数」を、単に「性能指数」とも称する。
【0008】
性能指数ZTは、下記数式(数5)で表される。
【0009】
【数5】
【0010】
ここで、Sは、ゼーベック係数であり、ρは、電気抵抗率であり、κは、熱伝導率であり、Tは、温度である。したがって、熱電変換モジュールの最大出力Pを向上させるためには、熱電変換材料のゼーベック係数Sを増加させ、電気抵抗率ρを減少させ、熱伝導率κを減少させることが望ましい。
【0011】
次に、熱電変換材料の組成について述べる。
【0012】
熱電変換材料は、主に、金属系の熱電変換材料、化合物系、すなわち半導体系の熱電変換材料および酸化物系の熱電変換材料に、大別できる。このような熱電変換材料のうち、200℃以下での排熱回収に適応可能な温度特性を有する熱電変換材料としては、FeVAl系フルホイスラー合金およびBi−Te系半導体が、代表的な材料として挙げられる。
【0013】
FeVAl系フルホイスラー合金は、金属系の熱電変換材料であり、Bi−Te系半導体は、化合物系の熱電変換材料である。この2種類の材料は、それ自身が構造材料となり得るため、発電所、工場または自動車における排熱回収向け用途の熱電変換モジュールに適している。ただし、Bi−Te系半導体は、Teの毒性が強く、またコストが高いという問題がある。そのため、上記した排熱回収向け用途には、Bi−Te系半導体に比べ、FeVAl系フルホイスラー合金の方が適している。
【0014】
特開2013−102002号公報(特許文献2)には、ホイスラー型鉄系熱電材料において、FeVAl基ホイスラー化合物にて構成され、該ホイスラー化合物の母材内に不可避的不純物として含まれるCが0.15質量%以下で、C+O+Nが0.30質量%以下に規制される技術が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2013/093967号
【特許文献2】特開2013−102002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記したように、熱電変換材料を備えた熱電変換モジュールの出力は、熱電変換材料の性能指数ZTに依存する。しかしながら、FeVAl系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料として、実用的な形態であるバルク材料からなる熱電変換材料の性能指数ZTは、0.1程度であり、実用に耐え得る値であるとは言い難い。
【0017】
本発明の目的は、フルホイスラー合金からなる熱電変換材料において、性能指数ZTを向上させることができる熱電変換材料を提供することにある。
【0018】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0020】
本発明は、以下の組成式(化1)で表されるp型またはn型のフルホイスラー合金からなる熱電変換材料において、
(Fe1−xM12+σ(Ti1−yM21+φ(A1−zM31+ω…(化1)
前記Aは、SiおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記M1および前記M2は、いずれもCu、Nb、V、Al、Ta、Cr、Mo、W、Hf、Ge、Ga、In、P、B、Bi、Zr、MnおよびMgからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記M3は、Cu、Nb、V、Al、Ta、Cr、Mo、W、Hf、Ge、Ga、In、P、B、Bi、Zr、Mn、MgおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記σ、前記φおよび前記ωは、σ+φ+ω=0を満たし、
前記x、前記yおよび前記zがx=0、y=0、かつ、z=0を満たすときに前記組成式(化1)で表される合金におけるFe、TiおよびAの含有量を、それぞれu原子%、v原子%およびw原子%とし、
Fe−Ti−Aの三元状態図における前記合金の組成を点(u,v,w)で表すとき、
前記点(u,v,w)は、前記三元状態図において、(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の各点を頂点とする六角形の内部に配置され、
前記M1の価電子数をm1とし、
前記M2の価電子数をm2とし、
前記M3の価電子数をm3とするとき、
前記フルホイスラー合金における一原子当たりの平均価電子数であるVECは、前記σ、前記x、前記φ、前記y、前記ωおよび前記zの関数として、以下の数式(数1)で表され、
VEC(σ,x,φ,y,ω,z)=[{8×(1−x)+m1×x}×(2+σ)+{4×(1−y)+m2×y}×(1+φ)+{4×(1−z)+m3×z}×(1+ω)]/4…(数1)
以下の数式(数2)
ΔVEC=VEC(σ,x,φ,y,ω,z)−VEC(σ,0,φ,0,ω,0)…(数2)
で表されるΔVECが、0<|ΔVEC|≦0.2、若しくは、0.2<|ΔVEC|≦0.3を満たすことを特徴とするものである。
【0021】
また、別の本発明は、以下の組成式(化2)で表されるp型またはn型のフルホイスラー合金からなる熱電変換材料において、
(Fe1−xCu2+σ(Ti1−y1+φ1+ω…(化2)
前記Aは、SiおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記σ、前記φおよび前記ωは、σ+φ+ω=0を満たし、
前記xおよび前記yがx=0、かつ、y=0を満たすときに前記組成式(化2)で表される合金におけるFe、TiおよびAの含有量を、それぞれu原子%、v原子%およびw原子%とし、
Fe−Ti−Aの三元状態図における前記合金の組成を点(u,v,w)で表すとき、
前記点(u,v,w)は、前記三元状態図において、(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の各点を頂点とする六角形の内部に配置され、
前記フルホイスラー合金における一原子当たりの平均価電子数であるVECは、前記σ、前記x、前記φ、前記yおよび前記ωの関数として、以下の数式(数3)で表され、
VEC(σ,x,φ,y,ω)=[{8×(1−x)+11×x}×(2+σ)+{4×(1−y)+5×y}×(1+φ)+4×(1+ω)]/4…(数3)
以下の数式(数4)
ΔVEC=VEC(σ,x,φ,y,ω)−VEC(σ,0,φ,0,ω)…(数4)
で表されるΔVECが、0<|ΔVEC|≦0.2、若しくは、0.2<|ΔVEC|≦0.3を満たすことを特徴とするものである。
【0022】
また、別の本発明は、p型またはn型のフルホイスラー合金からなる熱電変換材料において、
前記フルホイスラー合金は、Fe、TiおよびA(Aは、SiおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素)を主成分として含有し、
前記フルホイスラー合金は、Cuと、Vを含有し、
前記フルホイスラー合金におけるCuの含有量は、0原子%を超え、かつ、1.75原子%以下であり、
前記フルホイスラー合金におけるVの含有量は、1.0原子%以上、かつ、4.2原子%以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フルホイスラー合金からなる熱電変換材料の性能指数ZTを、向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ゼーベック係数、熱伝導率および電気抵抗率と、結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。
図2】性能指数、出力因子および熱伝導率と、結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。
図3】第一原理計算によるフルホイスラー合金の電子状態を示す図である。
図4】第一原理計算によるフルホイスラー合金の電子状態を示す図である。
図5】計算されたゼーベック係数と平均価電子数との関係を示すグラフである。
図6】計算されたゼーベック係数と平均価電子数との関係を示すグラフである。
図7】計算されたゼーベック係数と平均価電子数との関係を示すグラフである。
図8】計算されたゼーベック係数と平均価電子数との関係を示すグラフである。
図9】計算されたゼーベック係数と平均価電子数との関係を示すグラフである。
図10】計算されたゼーベック係数と平均価電子数との関係を示すグラフである。
図11】計算されたゼーベック係数と平均価電子数との関係を示すグラフである。
図12】計算されたゼーベック係数と置換量との関係を示すグラフである。
図13】計算されたゼーベック係数と置換量との関係を示すグラフである。
図14】計算されたゼーベック係数と置換量との関係を示すグラフである。
図15】計算されたゼーベック係数と置換量との関係を示すグラフである。
図16】計算されたゼーベック係数と置換量との関係を示すグラフである。
図17】計算されたゼーベック係数と置換量との関係を示すグラフである。
図18】Fe−Ti−Siの三元状態図である。
図19】Fe−Ti−Siの三元状態図である。
図20】ゼーベック係数と平均価電子数との関係を示すグラフである。
図21】実施の形態の熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールの構成を示す図である。
図22】実施の形態の熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールの構成を示す図である。
図23】ゼーベック係数と結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。
図24】電気抵抗率と結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。
図25】出力因子と結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。
図26】熱伝導率と結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。
図27】性能指数と結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。
図28】ゼーベック係数とCu置換量との関係を示すグラフである。
図29】性能指数とV置換量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0026】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0027】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことはいうまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0029】
また、以下の実施の形態において、A〜Bとして範囲を示す場合には、特に明示した場合を除き、A以上、かつ、B以下を示すものとする。
【0030】
(実施の形態)
<一原子当たりの平均価電子数(Valence Electron Concentration :VEC)の制御>
FeTiSi系フルホイスラー合金またはFeTiSn系フルホイスラー合金(以下、FeTiA系フルホイスラー合金という)を合成する際に、適当な添加物を添加、すなわちFe、TiおよびAのいずれかを適当な元素で置換し、一原子当たりの平均価電子数VECを制御して後述のΔVECが0<|ΔVEC|≦0.2、若しくは、0.2<|ΔVEC|≦0.3となるようにする。これにより、合成されるFeTiA系フルホイスラー合金が高い性能指数を示すことが分かった。
【0031】
以下に詳細を説明する。
【0032】
先ず、一原子当たりの平均価電子数VEC(以下、単にVECということがある。)について説明する。
【0033】
VECとは、原子一個の最外殻にある電子数の平均値であり、化合物の総価電子数Zを、ユニットセル内の原子数aで割った値である。
【0034】
例えばFeTiSiの場合、鉄(Fe)の価電子数は8であり、チタン(Ti)の価電子数は4であり、シリコン(Si)の価電子数は4である。また、FeTiSiの場合、ユニットセル内の鉄(Fe)の原子数は2個であり、ユニットセル内のチタン(Ti)の原子数は1個であり、ユニットセル内のシリコン(Si)の原子数は1個である。そのため、FeVAl中の総価電子数Zは、Z=8×2+4×1+4×1=24と計算され、ユニットセル内の原子数aは、a=2+1+1と計算され、原子一個当たりの価電子数VECは、VEC=Z/a=6と計算される。
【0035】
VECは、置換元素により制御される。
【0036】
次に、本発明のΔVECの説明に入る。
【0037】
本発明で規定するΔVECは、置換元素を用いない組成でのVECと、置換元素を用いた組成でのVECとの、差である。
【0038】
以下の段落で、さらに詳細にΔVECの定義について述べる。
【0039】
p型またはn型のフルホイスラー合金からなる熱電変換材料が、下記組成式(化1)で表されるものとする。
【0040】
(Fe1−xM12+σ(Ti1−yM21+φ(A1−zM31+ω…(化1)
上記組成式(化1)で、Aは、SiおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。また、M1およびM2は、いずれもCu、Nb、V、Al、Ta、Cr、Mo、W、Hf、Ge、Ga、In、P、B、Bi、Zr、MnおよびMgからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。また、組成式(化1)中、M3は、Cu、Nb、V、Al、Ta、Cr、Mo、W、Hf、Ge、Ga、In、P、B、Bi、Zr、Mn、MgおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。すなわち、組成式(化1)中、Feの一部がM1により置換され、Tiの一部がM2により置換され、Aの一部がM3により置換されるものとする。
【0041】
σ、φおよびωが、σ+φ+ω=0を満たし、x、yおよびzがx=0、y=0、かつ、z=0を満たすときに組成式(化1)で表される合金におけるFe、TiおよびAの含有量を、それぞれu原子%、v原子%およびw原子%とし、Fe−Ti−Aの三元状態図における合金の組成を点(u,v,w)で表す。ただし、u+v+w=100である。
【0042】
このとき、σは、下記数式(数6)で表され、φは、下記数式(数7)で表され、ωは、下記数式(数8)で表される。
【0043】
σ=(u−50)/25…(数6)
φ=(v−25)/25…(数7)
ω=(w−25)/25…(数8)
点(u,v,w)は、三元状態図において、例えば図18に示すように、(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の各点を頂点とする六角形の内部の領域(六角形で囲まれた領域)RG1の範囲である。
【0044】
ここで、M1の価電子数をm1とし、M2の価電子数をm2とし、M3の価電子数をm3とする。このとき、組成式(化1)で表されるフルホイスラー合金における一原子当たりの平均価電子数VECは、σ、x、φ、y、ωおよびzの関数として、下記数式(数1)で表される。
【0045】
VEC(σ,x,φ,y,ω,z)=[{8×(1−x)+m1×x}×(2+σ)+{4×(1−y)+m2×y}×(1+φ)+{4×(1−z)+m3×z}×(1+ω)]/4…(数1)
ここで、x=0、y=0、かつ、z=0を満たすときに組成式(化1)で表される合金における平均価電子数VEC(σ,0,φ,0,ω,0)に対して、平均価電子数VEC(σ,x,φ,y,ω,z)の変化量であるΔVECが、下記数式(数2)で表される。
【0046】
ΔVEC=VEC(σ,x,φ,y,ω,z)−VEC(σ,0,φ,0,ω,0)…(数2)
このΔVECが、0<|ΔVEC|≦0.2、若しくは、0.2<|ΔVEC|≦0.3を満たすように、x、yおよびzを定めることでVECは好ましい範囲となり、性能指数ZTに優れた熱電変換材料が得られる。
【0047】
また、p型またはn型のフルホイスラー合金からなる熱電変換材料が、下記組成式(化2)で表されるものとする。
【0048】
(Fe1−xCu2+σ(Ti1−y1+φ1+ω…(化2)
上記組成式(化2)で、Aは、SiおよびSnからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。
【0049】
σ、φおよびωが、σ+φ+ω=0を満たし、xおよびyがx=0、かつ、y=0を満たすときに、組成式(化2)で表される合金におけるFe、TiおよびAの含有量を、それぞれu原子%、v原子%およびw原子%とし、Fe−Ti−Aの三元状態図における合金の組成を点(u,v,w)で表す。
【0050】
このとき、点(u,v,w)は、三元状態図において、(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の各点を頂点とする六角形の内部に配置される。
【0051】
また、このとき、組成式(化2)で表されるフルホイスラー合金における一原子当たりの平均価電子数VECは、σ、φ、ωの関数として、下記数式(数3)で表される。
【0052】
VEC(σ,x,φ,y,ω)=[{8×(1−x)+11×x}×(2+σ)+{4×(1−y)+5×y}×(1+φ)+4×(1+ω)]/4…(数3)
ここで、x=0、y=0を満たすときに組成式(化2)で表される合金における平均価電子数VEC(σ,0,φ,0,ω)に対して、平均価電子数VEC(σ,x,φ,y,ω)の変化量であるΔVECが、下記数式(数4)で表される。
【0053】
ΔVEC=VEC(σ,x,φ,y,ω)−VEC(σ,0,φ,0,ω)…(数4)
このΔVECが、0<|ΔVEC|≦0.2、若しくは、0.2<|ΔVEC|≦0.3を満たすように、x、yおよびzを定めることでVECは好ましい範囲となり、性能指数ZTに優れた熱電変換材料が得られる。
【0054】
0<|ΔVEC|≦0.2、若しくは、0.2<|ΔVEC|≦0.3とすれば、VECは好ましい範囲となり、フルホイスラー合金がp型のときにゼーベック係数Sの絶対値が極大になるか、または、フルホイスラー合金がn型のときにゼーベック係数Sの絶対値が極大になる。
【0055】
VECを好ましい範囲とするためには、組成式(化1)の組成においては、M1、M2およびM3の各元素を、組成式(化2)の組成においては、CuおよびVを添加し、0<|ΔVEC|≦0.2、若しくは、0.2<|ΔVEC|≦0.3となるように、x、yおよびz、若しくは、xおよびyの組み合わせを選べばよい。なお、後述する図20を用いて説明するように、ΔVECが、0<|ΔVEC|≦0.05を満たすとき、ゼーベック係数Sが150μV/K以上になるので、より好ましい。
【0056】
以下に、フルホイスラー合金からなる熱電変換材料の熱電変換特性の原理について説明する。
【0057】
E1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラー合金は、いわゆる擬ギャップと呼ばれる電子状態を有する。この擬ギャップが熱電変換特性とどのように関係するかを説明するため、熱電変換材料の熱電変換特性と電子状態の関係を説明する。
【0058】
熱電変換材料の熱電変換特性は、性能指数ZTを用いて評価される。前述したように、性能指数ZTは、上記数式(数5)で表される。上記数式(数5)によれば、ゼーベック係数Sが大きいほど、また電気抵抗率ρと熱伝導率κが小さいほど、性能指数ZTは大きくなる。
【0059】
一方、ゼーベック係数Sおよび電気抵抗率ρは、熱電変換材料に含まれる物質の電子状態によって決定される物理量である。ゼーベック係数Sは、下記数式(数9)で表される関係を有する。
【0060】
【数9】
【0061】
ここで、Eは、結合エネルギーであり、Nは、状態密度(Density of states)である。
【0062】
上記数式(数9)によれば、ゼーベック係数Sは、フェルミ(Fermi)準位における状態密度Nの絶対値に反比例し、そのエネルギー勾配に比例する。したがって、フェルミ準位の状態密度が小さく、フェルミ準位近傍でエネルギーの変化に伴って状態密度の立ち上がりが急激に変化する物質が、高いゼーベック係数Sを有することが分かる。
【0063】
一方、電気抵抗率ρは、下記数式(数10)で表される。
【0064】
【数10】
【0065】
ここで、λは、フェルミ準位における電子の平均自由行程であり、νは、フェルミ準位における電子の速度である。
【0066】
上記数式(数10)によれば、電気抵抗率ρは状態密度Nに反比例するため、状態密度Nの絶対値が大きいエネルギー位置にフェルミ準位があるときに電気抵抗率ρは小さくなる。
【0067】
ここで、擬ギャップ電子状態について話を戻す。擬ギャップのバンド構造は、フェルミ準位近傍の状態密度が極端に落ち込んでいる電子状態である。また、E1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラー合金のバンド構造の特徴として、化合物の組成比を変化させたときに、バンド構造が大きく変化せずに、フェルミ準位のエネルギー位置だけが変化するという固定バンドモデル(rigid band model)的な振る舞いをする。したがって、フルホイスラー合金においては、組成を変調させることにより、または、組成を変調させて電子若しくはホールがドープされた状態にすることにより、状態密度が急峻に変化し、かつ状態密度の絶対値が最適化するようなエネルギー位置に、フェルミ準位を制御することができる。これにより、ゼーベック係数Sと電気抵抗率ρとの関係を最適化することができる。変調する組成は、平均価電子数VECを基準に考えることができる。
【0068】
フルホイスラー合金の組成を変調する場合、フルホイスラー合金の組成を変調しない場合に比べて、平均価電子数VECの値が増加または減少する。平均価電子数VECの値が増加または減少することは、前述の固定バンドモデル(rigid band model)において、電子またはホールがドープされることと同等であるため、平均価電子数VECを制御することにより、ゼーベック係数Sの値および極性を変化させることができる。
【0069】
具体的には、平均価電子数VECが6未満の場合、フルホイスラー合金にホールがドープされた状態になり、そのフルホイスラー合金は、p型熱電変換材料となる。一方、平均価電子数VECが6以上の場合、フルホイスラー合金に電子がドープされた状態になり、そのフルホイスラー合金は、n型熱電変換材料となる。さらに、平均価電子数VECを6付近で連続的に変化させた場合、6未満および6を超えるそれぞれの領域、すなわち、p型およびn型のそれぞれの領域で、ゼーベック係数Sの絶対値が極大値を有する。
【0070】
つまり、E1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラー合金は、p型熱電変換材料になることもでき、n型熱電変換材料になることもできる。そして、E1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラー合金の熱電変換特性は、急峻な状態密度の変化を引き起こすエネルギー準位のエネルギー位置と密接に関連する。したがって、組成を変調させるか、または、元素を添加することによって、平均価電子数VECを制御することにより、E1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラー合金からなる熱電変換材料は、熱電変換特性がさらに向上する。
【0071】
図20は、ゼーベック係数Sと平均価電子数VECとの関係を示すグラフである。図20では、Fe、TiおよびAの含有量、すなわちFeTiA系フルホイスラー合金中のFe、TiおよびAの組成比を固定した上で、例えばTiの一部をVで置換することにより、VECを調整した各組成について、第一原理計算によりゼーベック係数Sを求めたものである。
【0072】
図20中に示した3種類のデータは、それぞれFeの含有量が、50at%未満の場合(ケースCA1)、50at%の場合(ケースCA2)、および、50at%を超える場合(ケースCA3)の各々を示す。具体的には、ケースCA1では、Feの含有量が49.5at%であり、ケースCA3では、Feの含有量が51at%である。
【0073】
上記組成式(化1)においてx=y=z=0のときの平均価電子数VECを、平均価電子数VECの中心値とする。このとき、図20に示すように、平均価電子数VECを、平均価電子数VECの中心値から正側に増加させると、ゼーベック係数Sの絶対値がいったん急激に増加し、極大になった後、緩やかに減少する。そして、ゼーベック係数Sの絶対値が100μV/K以上になる範囲は、図20中、平均価電子数VECの好適な範囲として示すように、例えばFeの含有量が50%未満の場合には、平均価電子数VECは5.98〜6.06の幅0.08程度内であり、Feの含有量が50%の場合には、平均価電子数VECは6.01〜6.17の幅0.16程度内である。
【0074】
これらの結果は、Feの含有量が50at%から減少または増加した場合でも、ゼーベック係数Sの絶対値が100μV/K以上になるΔVECの上記範囲が、0<|ΔVEC|≦0.2、若しくは、0.2<|ΔVEC|≦0.3を満たすことにより、ゼーベック係数Sが向上することと整合している。より好ましくは、ゼーベック係数Sの絶対値が150μV/K以上になるΔVECの上記範囲が、0<|ΔVEC|≦0.05を満たすことが望ましい。
【0075】
なお、VECを制御するための元素をCuおよびVとした場合、例えばFe、TiおよびAを主成分とする前記フルホイスラー合金において、上記ΔVECを満たす範囲でさらに特性の高いp型またはn型のフルホイスラー合金からなる熱電変換材料を得るには、原子%で、Cuの含有量は、0原子%を超え、かつ、1.75原子%以下であり、Vの含有量は、1.0原子%以上、かつ、4.2原子%以下である。Cuの含有量は、さらに好ましくは、0.5原子%以上、かつ、1.6原子%以下である。Vの含有量は、さらに好ましくは、2.2原子%以上、かつ、3.2原子%以下である。
【0076】
<FeTiA系フルホイスラー合金組成>
本実施の形態で用いられるFeTiA系フルホイスラー合金が高いゼーベック係数Sを有する理由について説明する。
【0077】
フルホイスラー合金の熱電変換特性を決定する擬ギャップ構造には、フラットバンドという特徴的なバンド構造が存在する。そのフラットバンドが主に熱電変換材料を決定している。したがって、フラットバンドを適切な状態に制御することにより、熱電変換特性が向上した新規の熱電変換材料を提供することができる。
【0078】
図3および図4は、第一原理計算によるフルホイスラー合金の電子状態を示す図である。図3は、組成式FeVAlで表されるフルホイスラー合金の電子状態を示し、図4は、組成式FeTiSiで表されるフルホイスラー合金の電子状態を示す。
【0079】
図3および図4に示すように、組成式FeTiSiで表されるフルホイスラー合金では、組成式FeVAlで表されるフルホイスラー合金に比べ、フラットバンドがフェルミ準位EFに近い。その結果、フェルミ準位近傍の状態密度を急峻に変化させることができる。これにより、熱電変換特性、特にゼーベック係数Sが向上する。さらに、組成式FeTiSiで表されるフルホイスラー合金では、組成式FeVAlで表されるフルホイスラー合金に比べ、擬ギャップのギャップ値が小さいため、電気抵抗率ρが増大しないという利点がある。
【0080】
このようなバンド構造から予想されるゼーベック係数Sの計算値を、図5図11に示す。図5図11は、計算されたゼーベック係数Sと平均価電子数との関係を示すグラフである。各図の右の四角の枠内は、そのグラフの平均価電子数の一部の範囲を拡大表示したものである。
【0081】
図5図11のうち、図5は、FeTiA系(Fe−Ti−Si系)フルホイスラー合金のうち、化学量論組成を有するもの、すなわち組成式FeTiSiで表されるフルホイスラー合金について、第一原理計算を用いてゼーベック係数Sを計算した結果を示している。すなわち、図5は、図4に示すバンド構造から計算されたゼーベック係数Sを示している。
【0082】
図5に示す計算結果から、組成式FeTiSiで表されるフルホイスラー合金は、平均価電子数VECの値を調整することにより、p型のフルホイスラー合金またはn型のホイスラー合金になり、それぞれの導電型になる平均価電子数VECの範囲において、ゼーベック係数Sの絶対値が極大になることが分かる。なお、図示は省略するが、これらの傾向は、組成式FeTiSnで表されるフルホイスラー合金においても、同様である。
【0083】
図5に示す計算結果では、計算されたゼーベック係数Sの値は、p型のときにS=+400μV/K(図5左側におけるゼーベック係数Sの最大値)となり、n型のときにS=−600μV/K(図5左側におけるゼーベック係数Sの最小値)となり、例えば150μV/K程度のゼーベック係数Sの絶対値を有するFeVAl系フルホイスラー合金と比較して、最大で3倍以上に向上している。ゼーベック係数Sが3倍向上することは、性能指数ZTが9倍向上することに相当する。
【0084】
性能指数ZTを実用的なレベルにまで向上させるためには、ゼーベック係数Sの絶対値|S|が100μV/K以上であることが必要である。そして、ゼーベック係数Sの絶対値|S|が100μV/K以上であるためのVECの範囲は、ゼーベック係数Sが0であるときの平均価電子数VECの値である6に対する差であるΔVECが、−0.01〜0.025の範囲であることが分かった。
【0085】
このFeTiA系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料は、Fe:Ti:Aが2:1:1の代表的な化学量論組成を有するものでもよいし、化学量論組成から所定範囲でずれた組成を有するものであっても許容される。以下に、その許容される所定範囲について説明する。
【0086】
図5図11のうち、図6図11は、FeTiA系(Fe−Ti−Si系)フルホイスラー合金のうち、化学量論組成からFe、TiおよびSiの組成比をずらした非化学量論組成を有するものについて、第一原理計算を用いてゼーベック係数Sを計算した結果を示している。
【0087】
具体的には、32個の原子からなる結晶格子、すなわち32原子系を仮定し、化学量論組成Fe16TiSiから原子を1個ずつ置換した組成について、第一原理計算を行っている。図6では、Fe16TiSiの組成について計算を行い、図7では、Fe16TiSiの組成について計算を行い、図8では、Fe15TiSiの組成について計算を行っている。また、図9では、Fe15TiSiの組成について計算を行い、図10では、Fe17TiSiの組成について計算を行い、図11では、Fe17TiSiの組成について計算を行っている。
【0088】
Feの組成比を大幅に大きくした場合は、図10および図11に示すように、その電子状態は崩れてしまい、性能が低下することが分かる。一方、その他の組成では、非化学量論組成をとった場合であっても、図6図9に示すように、ゼーベック係数Sの絶対値は大きく、例えば150μV/K程度のゼーベック係数Sの絶対値を有するFeVAl系フルホイスラー合金と比較して、最大で2.5〜3倍程度大きい。したがって、上記に示す非化学量論組成の変調量程度に化学量論組成から組成を変調しても、適当な組成比に調整すれば、ゼーベック係数Sの絶対値は小さくならないことが分かった。
【0089】
なお、図示は省略するが、Siに代えてSnを用いた場合にも、略同様の結果が得られた。また、同じく図示は省略するが、Siの一部をSnで置換した場合にも、略同様の結果が得られた。
【0090】
FeTiA系(Fe−Ti−Si系)ホイスラー合金において、化学量論組成から非化学量論組成への変調量、すなわち置換量Δと、ゼーベック係数Sとの関係を、図12図17に示す。図12図17は、計算されたゼーベック係数Sと置換量との関係を示すグラフである。なお、図12図17において、左側の縦軸は、p型の場合のゼーベック係数Sを示し、右側の縦軸は、n型の場合のゼーベック係数Sを示す。
【0091】
図12は、Tiの組成比を化学量論組成におけるTiの組成比と等しくし、Siの組成比を化学量論組成におけるSiの組成比よりも増加させ、Feの組成比を化学量論組成におけるFeの組成比よりも減少させた場合について、第一原理計算を行ったものである。すなわち、図12は、E1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するFeTiA系(Fe−Ti−Si系)フルホイスラー合金において、E1サイトのFeの一部をSiで置換した場合について、第一原理計算を行ったものである。
【0092】
図13は、Siの組成比を化学量論組成におけるSiの組成比と等しくし、Tiの組成比を化学量論組成におけるTiの組成比よりも増加させ、Feの組成比を化学量論組成におけるFeの組成比よりも減少させた場合、すなわち、E1サイトのFeの一部をTiで置換した場合について、第一原理計算を行ったものである。
【0093】
図14は、Feの組成比を化学量論組成におけるFeの組成比と等しくし、Siの組成比を化学量論組成におけるSiの組成比よりも増加させ、Tiの組成比を化学量論組成におけるTiの組成比よりも減少させた場合、すなわち、E2サイトのTiの一部をSiで置換した場合について、第一原理計算を行ったものである。
【0094】
図15は、Feの組成比を化学量論組成におけるFeの組成比と等しくし、Tiの組成比を化学量論組成におけるTiの組成比よりも増加させ、Siの組成比を化学量論組成におけるSiの組成比よりも減少させた場合、すなわち、E3サイトのSiの一部をTiで置換した場合について、第一原理計算を行ったものである。
【0095】
図16は、Tiの組成比を化学量論組成におけるTiの組成比と等しくし、Feの組成比を化学量論組成におけるFeの組成比よりも増加させ、Siの組成比を化学量論組成におけるSiの組成比よりも減少させた場合、すなわち、E3サイトのSiの一部をFeで置換した場合について、第一原理計算を行ったものである。
【0096】
図17は、Siの組成比を化学量論組成におけるSiの組成比と等しくし、Feの組成比を化学量論組成におけるFeの組成比よりも増加させ、Tiの組成比を化学量論組成におけるTiの組成比よりも減少させた場合、すなわち、E2サイトのTiの一部をFeで置換した場合について、第一原理計算を行ったものである。
【0097】
図12図17に示す計算結果は、前述した図6図11を用いて説明した32原子系の計算結果と同様に、4原子系、8原子系、16原子系、64原子系および128原子系の各々であって、原子1個分の元素を置換した原子系について、第一原理計算を行ってゼーベック係数Sを求めた結果である。各原子系における全原子数に応じて原子1個分のat%が変化するため、置換量をat%で記述できる。
【0098】
4原子系および8原子系の場合、原子1個分の元素を置換すると、結晶構造の対称性が著しく変化する。例えば4原子系の場合、FeTiSiにおいてFeとTiとの間で置換を行うと、FeSiやFeTiSiとなって、別の結晶構造を有することとなってしまう。それは、図4に示す電子状態から大きく逸脱することを意味するため、そのゼーベック係数Sの絶対値は、著しく減少する。8原子系についても同様に、結晶構造の対称性が著しく変化することによって、ユニットセル内に金属的な電子状態が形成されやすい原子配置を有することとなり、そのゼーベック係数Sの絶対値は、小さくなる。
【0099】
化学量論組成に比べて、Tiの組成比が等しく、Siの組成比が増加し、Feの組成比が減少した場合、ゼーベック係数Sの絶対値|S|が100μV/K以上になり、性能指数ZTを実用的なレベルにまで向上させるための許容置換量は、図12の縦線で示すように、p型、n型とも10.8at%以下である。
【0100】
化学量論組成に比べて、Siの組成比が等しく、Tiの組成比が増加し、Feの組成比が減少した場合、ゼーベック係数Sの絶対値|S|が100μV/K以上になり、性能指数ZTを実用的なレベルにまで向上させるための許容置換量は、図13の縦線で示すように、p型、n型とも4.9at%以下である。
【0101】
化学量論組成に比べて、Feの組成比が等しく、Siの組成比が増加し、Tiの組成比が減少した場合、ゼーベック係数Sの絶対値|S|が100μV/K以上になり、性能指数ZTを実用的なレベルにまで向上させるための許容置換量は、図14の縦線で示すように、p型、n型とも11at%以下である。
【0102】
化学量論組成に比べて、Feの組成比が等しく、Tiの組成比が増加し、Siの組成比が減少した場合、ゼーベック係数Sの絶対値|S|が100μV/K以上になり、性能指数ZTを実用的なレベルにまで向上させるための許容置換量は、図15の縦線で示すように、p型、n型とも12.0at%以下である。
【0103】
化学量論組成に比べて、Tiの組成比が等しく、Feの組成比が増加し、Siの組成比が減少した場合、ゼーベック係数Sの絶対値|S|が100μV/K以上になり、性能指数ZTを実用的なレベルにまで向上させるための許容置換量は、図16の縦線で示すように、p型は5.9at%以下、n型は5.0at%以下である。
【0104】
化学量論組成に比べて、Siの組成比が等しく、Feの組成比が増加し、Tiの組成比が減少した場合、ゼーベック係数Sの絶対値|S|が100μV/K以上になり、性能指数ZTを実用的なレベルにまで向上させるための許容置換量は、図17の縦線で示すように、p型は4.0at%以下、n型は3.2at%以下である。
【0105】
これらの許容置換量から求められた好適な組成の範囲を三元状態図に示した結果を、図18に示す。図18は、Fe−Ti−Siの三元状態図である。
【0106】
化学量論組成に比べて、Feの組成比が等しく、Tiの組成比が増加し、Siの組成比が減少した場合、最大許容置換量は、図15に示すように、12.0at%であり、このときの組成は、図18に示す三元状態図でat%表示した場合、(Fe,Ti,Si)=(50,37,13)となる。
【0107】
化学量論組成に比べて、Feの組成比が等しく、Siの組成比が増加し、Tiの組成比が減少した場合、最大許容置換量は、図14に示すように、11at%であり、このときの組成は、図18に示す三元状態図でat%表示した場合、(Fe,Ti,Si)=(50,14,36)となる。
【0108】
化学量論組成に比べて、Siの組成比が等しく、Tiの組成比が増加し、Feの組成比が減少した場合、最大許容置換量は、図13に示すように、4.9at%であり、このときの組成は、図18に示す三元状態図でat%表示した場合、(Fe,Ti,Si)=(45,30,25)となる。
【0109】
化学量論組成に比べて、Tiの組成比が等しく、Siの組成比が増加し、Feの組成比が減少した場合、最大許容置換量は、図12に示すように、10.8at%であり、このときの組成は、図18に示す三元状態図でat%表示した場合、(Fe,Ti,Si)=(39.5,25,35.5)となる。
【0110】
化学量論組成に比べて、Siの組成比が等しく、Feの組成比が増加し、Tiの組成比が減少した場合、最大許容置換量は、図17に示すように、4.0at%であり、このときの組成は、図18に示す三元状態図でat%表示した場合、(Fe,Ti,Si)=(54,21,25)となる。
【0111】
化学量論組成に比べて、Tiの組成比が等しく、Feの組成比が増加し、Siの組成比が減少した場合、最大許容置換量は、図16に示すように、5.9at%であり、このときの組成は、図18に示す三元状態図でat%表示した場合、(Fe,Ti,Si)=(55.5,25,19.5)となる。
【0112】
そして、三元状態図において、これらの(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の6点に囲まれた領域RG1が、好適な組成範囲である。
【0113】
ここで、x、yおよびzがx=0、y=0、かつ、z=0を満たすときに上記組成式(化1)で表される、p型またはn型のフルホイスラー合金を考える。そして、上記数式(数6)〜数式(数8)にも示すように、σ=(u−50)/25とし、φ=(v−25)/25とし、ω=(w−25)/25とし、Fe−Ti−Aの三元状態図において、Feがu原子%、Tiがv原子%、Aがw原子%である点を(u,v,w)とする。
【0114】
このとき、点(u,v,w)は、(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の各点を頂点とする六角形の内部の領域(六角形で囲まれた領域)RG1内に配置されている。すなわち、点(u,v,w)は、(50,37,13)、(45,30,25)、(39.5,25,35.5)、(50,14,36)、(54,21,25)および(55.5,25,19.5)の各点を順に結ぶ6つの直線に囲まれた領域RG1内に配置されている。
【0115】
これにより、ゼーベック係数Sの絶対値|S|が100μV/K以上になり、性能指数ZTを実用的なレベルにまで向上させることができる。
【0116】
なお、六角形の内部の領域内に配置されている、とは、六角形の6辺の各々の辺上に配置されている場合を含む。また、6つの直線に囲まれた領域内に配置されている、とは、6つの直線の各々の直線上に配置されている場合を含む。
【0117】
さらに三元状態図において、(Fe,Ti,A)=(50,35,15)、(47.5,27.5,25)、(40,25,35)、(50,17,33)、(52.2,22.8,25)および(52.8,25,22.2)の6点に囲まれた領域RG2が、より好適な組成範囲である。
【0118】
言い換えれば、点(u,v,w)は、三元状態図において、(50,35,15)、(47.5,27.5,25)、(40,25,35)、(50,17,33)、(52.2,22.8,25)および(52.8,25,22.2)の各点を頂点とする六角形の内部の領域(六角形で囲まれた領域)RG2内に配置されている。すなわち、点(u,v,w)は、(50,35,15)、(47.5,27.5,25)、(40,25,35)、(50,17,33)、(52.2,22.8,25)および(52.8,25,22.2)の各点を順に結ぶ6つの直線に囲まれた領域RG2内に配置されている。
【0119】
これにより、ゼーベック係数Sの絶対値|S|をより増加させ、性能指数ZTをより向上させることができる。
【0120】
さらに三元状態図において、(Fe,Ti,A)=(50,32.6,17.4)、(49.2,25.8,25)、(43.9,25,31.1)、(50,23,27)、(51,24,25)および(51,25,24)の6点に囲まれた領域RG3が、より好適な組成範囲である。
【0121】
言い換えれば、点(u,v,w)は、三元状態図において、(50,32.6,17.4)、(49.2,25.8,25)、(43.9,25,31.1)、(50,23,27)、(51,24,25)および(51,25,24)の各点を頂点とする六角形の内部の領域(六角形で囲まれた領域)RG3内に配置されている。すなわち、点(u,v,w)は、(50,32.6,17.4)、(49.2,25.8,25)、(43.9,25,31.1)、(50,23,27)、(51,24,25)および(51,25,24)の各点を順に結ぶ6つの直線に囲まれた領域RG3内に配置されている。
【0122】
図12に示すように、Siの組成比を増加させ、Feの組成比を減少させた場合、化学量論組成に比べて、ゼーベック係数Sが向上するという、従来にない知見が得られた。具体的には、化学量論組成に比べて、Siの組成比が1〜9at%増加し、Feの組成比が1〜9at%減少した組成を有する場合に、ゼーベック係数Sが向上することが分かった。つまり、組成式Fe2+σTi1+φSi1+ωに換算したとき、σが−0.36≦σ≦−0.04の関係を満たすときに、σ=φ=ω=0の化学量論組成に比べて、ゼーベック係数Sが向上することが分かった。
【0123】
また、化学量論組成に比べて、Siの組成比が2〜8at%増加し、Feの組成比が2〜8at%減少した組成を有する場合に、ゼーベック係数Sがさらに向上することが分かった。つまり、組成式Fe2+σTi1+φSi1+ωに換算したとき、σが−0.32≦σ≦−0.08の関係を満たすときに、σ=φ=ω=0の化学量論組成に比べて、ゼーベック係数Sがさらに向上することが分かった。
【0124】
同様に、図15に示すように、Tiの組成比を増加させ、Siの組成比を減少させた場合、化学量論組成に比べて、ゼーベック係数Sが向上するという、従来にない知見が得られた。具体的には、化学量論組成に比べて、Tiの組成比が1〜8at%増加し、Siの組成比が1〜8at%減少した組成を有する場合に、ゼーベック係数Sが向上することが分かった。つまり、組成式Fe2+σTi1+φSi1+ωに換算したとき、φが0.04≦φ≦0.32の関係を満たすときに、σ=φ=ω=0の化学量論組成に比べて、ゼーベック係数Sが向上することが分かった。
【0125】
また、化学量論組成に比べて、Tiの組成比が2〜7at%増加し、Siの組成比が2〜7at%減少した組成を有する場合に、ゼーベック係数Sがさらに向上することが分かった。つまり、組成式Fe2+σTi1+φSi1+ωに換算したとき、φが0.08≦φ≦0.28の関係を満たすときに、σ=φ=ω=0の化学量論組成に比べて、ゼーベック係数Sがさらに向上することが分かった。
【0126】
なお、上記の結果は、Siの変わりにSnを用いた場合でも同じ結果であった。
【0127】
また、好適には、Tiの一部をバナジウム(V)で置換する場合、効果が認められる。すなわち、好適には、M2は、Vである。このとき、上記組成式(化1)におけるyは、y≦0.25が好ましい範囲である。この事は後述の実施例にて根拠を示す。
【0128】
一方、上記組成式(化1)中、M1がCuであるとフルホイスラー合金のゼーベック係数Sの絶対値を大きくしやすい。
【0129】
図19は、Fe−Ti−Siの三元状態図である。図19では、図18の領域RG1と同一の領域RG1を示し、領域RG1中に、実際に作製した試料の組成比に対応した複数の点をプロットしている。これらの複数の点における組成比で作製した試料において、十分に高いゼーベック係数Sを発揮する試料が得られている。
【0130】
<熱電変換材料の結晶粒の平均粒径の好適な範囲>
FeTiA系フルホイスラー合金のVECの制御に加え、熱電変換材料の結晶粒の平均粒径(以下、単に結晶粒径ということがある)を小さくすることでも、性能指数ZTを向上させることができる。以下に説明する。
【0131】
金属系の熱電変換材料の性能指数ZTが低い原因としては、主として、その熱伝導率κが高いことが挙げられる。そして、金属系の熱電変換材料の熱伝導率κが高い原因の一つとしては、フォノンの平均自由行程が長いため、格子振動を介した熱伝導が促進されることが挙げられる。
【0132】
格子振動に由来する熱伝導率κを低減するための手段として、熱電変換材料の組織構造を制御する手段が有り、具体的には、金属系の熱電変換材料の結晶粒の平均粒径を小さくすることが考えられる。
【0133】
前述したように、性能指数ZTを向上させるためには、上記数式(数5)から、熱伝導率κを低減することが望ましい。また、熱伝導率κを低減するためには、前述したように、結晶粒径を小さくすることが望ましい。
【0134】
以下に、熱伝導率κと結晶粒径の関係について説明する。
【0135】
熱伝導率κは、下記数式(数11)で表される。
【0136】
【数11】
【0137】
ここで、Cは、熱電変換材料の定圧比熱であり、ζは、熱電変換材料の密度である。また、定数kは、下記数式(数12)で表される。
【0138】
【数12】
【0139】
ここで、dは、熱電変換材料の結晶粒の平均粒径であり、τは、熱電変換材料の結晶粒の裏面から表面に熱が伝わるまでの時間である。
【0140】
上記数式(数11)および数式(数12)に示すように、熱電変換材料の結晶粒の平均粒径dが小さくなるほど、熱電変換材料の熱伝導率κが小さくなる。このように、フルホイスラー合金からなる熱電変換材料においては、熱電変換材料の電子状態を制御してゼーベック係数Sを増大させつつ、さらに結晶粒の平均粒径dを小さくすることにより性能指数ZTをより大きくすることで、熱電変換特性を向上させることができる。
【0141】
ただし、性能指数ZTを大きくするためには、結晶粒径を小さくし、熱伝導率κを小さくした状態でも、さらに、大きな出力因子(=S/ρ)を得ることが可能な何らかの条件を見出す必要がある。つまり、通常の金属系の熱電変換材料としてのフルホイスラー合金は、結晶粒径を小さくすると、出力因子(=S/ρ)が低減してしまうため、性能指数ZTは、同程度にしかならないか、逆に小さくなってしまうからである。
【0142】
例えばフルホイスラー合金として用いられてきたFeVAl系の熱電変換材料では、図1に示すように、結晶粒の平均粒径を小さくして熱伝導率κを小さくすると、電気抵抗率ρは大きくなってしまい、上記数式(数5)で表される性能指数ZT={S/(κρ)}Tにおける出力因子S/ρは、小さくなってしまう。そのため、FeVAl系の熱電変換材料では、図2に示すように、結晶粒の平均粒径を小さくしても性能指数ZTは小さくなる方向にあり、例えば200nm程度まで小さくしても性能指数ZTは期待されるほど大きくはならない。
【0143】
FeTiA系フルホイスラー合金では、FeVAl系フルホイスラー合金と異なり、結晶粒の平均粒径を小さくして熱伝導率κを小さくすると、出力因子(=S/ρ)は基本的にわずかにしか減少しない。それどころか、後述するように、組成と粒径を制御することで、出力因子が大幅に大きくなることもある。
【0144】
好適には、FeTiA系フルホイスラー合金の結晶粒の平均粒径は、30nm以上、かつ、500nm以下である。これにより、結晶粒の平均粒径が1μm以上の場合に比べ、性能指数ZTを向上させることができる。性能指数ZTをより向上させるためには、結晶粒の平均粒径が30nm以上、かつ、200nm以下であることが、より好ましい。また、性能指数ZTをさらに向上させるためには、結晶粒の平均粒径が30以上、かつ、140nm以下であることが、さらに好ましい。
【0145】
また、結晶粒径を小さくしつつ、電気抵抗率ρの増加を抑制し、かつ、ゼーベック係数Sの減少を抑制する効果をより大きくするためには、Cuの含有量(添加量)は、0at%を超え、かつ、1.75at%以下であることが、より好ましい。また、FeTiA系フルホイスラー合金が、V(バナジウム)を含有することが好ましく、後述する図29を用いて説明するように、Vの含有量は、1.0at%以上、かつ、4.2at%以下であることが、より好ましい。
【0146】
さらに、結晶粒の平均粒径を小さくしつつ、電気抵抗率ρの増加を抑制し、かつ、ゼーベック係数Sの減少を抑制する効果をさらに大きくするためには、Cuの含有量(添加量)は、0.5at%以上、かつ、1.6at%以下であることが、さらに好ましい。
【0147】
結晶粒の平均粒径が3nm以上、かつ、500nm以下のFeTiSi系ホイスラー合金を得るには、例えばアモルファス化されたFeTiA系の原料粉末を熱処理することにより、結晶粒の平均粒径が1μm未満の熱電変換材料を製造することができる。また、アモルファス化されたFeTiA系の原料粉末を製造する方法として、メカニカルアロイング、または原料を溶解した後に超急冷する方法等を用いることができる。
【0148】
アモルファス化されたFeTiA系の原料粉末を熱処理する工程において、熱処理する温度が高いほど、また、熱処理する時間が長いほど、製造される熱電変換材料の結晶粒の平均粒径は、大きくなる。熱処理する温度と時間とを適宜設定することにより、結晶粒の平均粒径を制御することができる。例えば熱処理する温度は、550〜700℃であることが好ましく、熱処理する時間は、3分以上、かつ、10時間以下とすることが好ましい。
【0149】
また、結晶粒の平均粒径が30〜500nmの範囲に含まれるためには、アモルファス化されたFeTiA系の原料粉末を、カーボンからなるダイス、または、タングステンカーバイドからなるダイスに入れ、不活性ガス雰囲気中において、40MPa〜5GPaの圧力下でパルス電流をかけながら焼結する方法が望ましい。この焼結の際、550〜700℃の範囲の目標温度まで昇温した後、その目標温度で3〜180分間保持し、その後、室温まで冷却することが好ましい。
【0150】
前述したように、FeTiA系の原料に、Cuを、0at%を超え、かつ、6at%以下の含有量(添加量)で含有することにより、結晶粒の平均粒径を、容易に小さくすることができる。
【0151】
Cuの一部は、主相としてのフルホイスラー合金の結晶に固溶し、他の一部は、主相としてのフルホイスラー合金の結晶には固溶しない。そのため、アモルファス化されたFeTiA系の原料粉末を熱処理すると、一部は、E1E2E3で表されるL2型結晶構造のうちE1サイト、E2サイトまたはE3サイトの各サイトに配置され、他の一部は、主相とは別々に析出し、結晶化する。また、フルホイスラー合金が、Cuを含有することによって、当該元素を主成分とし、主相としてのフルホイスラー合金とは異なる結晶が、FeTiA系を主相とする結晶の成長を抑制するため、結晶粒径を小さくすることができる。また、フルホイスラー合金が、Cuからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有することによって、当該元素が主相としてのフルホイスラー合金に固溶するため、フルホイスラー合金自体の電子状態を制御することもできる。
【0152】
また、炭素(C)、酸素(O)または窒素(N)等の元素が、主相としてのフルホイスラー合金に固溶した場合、主相の析出温度より低い温度で合金や化合物が形成される。そのため、C、OまたはN等の元素が主相に固溶することにより、上記と同様に、結晶粒径を小さくすることができる。これらのC、OまたはN等の元素の含有量(添加量)が1000ppm以下であることが、好ましい。
【0153】
なお、FeTiA系の原料をアモルファス化する方法として、ロール超急冷またはアトマイズ等の方法を用いることができる。アモルファス化したものが粉末で得られていない場合は、水素脆化し酸化が防止されるような環境下で粉砕する方法を用いてもよい。
【0154】
原料の成型の方法として、加圧成型等の各種の方法を用いることができる。焼結を磁場中で行い、磁場配向させた焼結体を得ることもできる。また、加圧成型と焼結を同時に行うことができる放電プラズマ焼結を用いることもできる。
【0155】
<熱電変換モジュール>
次に、本実施の形態の熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールについて説明する。図21および図22は、本実施の形態の熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールの構成を示す図である。図21は、上部基板を取り付ける前の状態を示し、図22は、上部基板を取り付けた後の状態を示す。
【0156】
本実施の形態の熱電変換材料は、例えば図21および図22に示す熱電変換モジュール10に搭載することができる。熱電変換モジュール10は、p型熱電変換部11と、n型熱電変換部12と、複数の電極13と、上部基板14と、下部基板15と、を有する。また、熱電変換モジュール10は、複数の電極13として、電極13aと、電極13bと、電極13cと、を有する。
【0157】
p型熱電変換部11と、n型熱電変換部12とは、電圧の引き出し部である電極13aと電極13cとの間に、電極13bを介して交互に配列し、電気的に直列に接続されている。例えば図21のように配列できる。さらにp型熱電変換部11と、n型熱電変換部12と、電極13a、13bおよび13cと、上部基板14と、下部基板15と、を熱的に接触するように接合する。このとき、例えば上部基板14を加熱、あるいは高熱部に接触させることで、p型熱電変換部11およびn型熱電変換部12には同一方向に温度勾配を発生させることができる。これにより、p型熱電変換部11と、n型熱電変換部12ではゼーベック効果の原理から熱起電力が発生する。このとき、p型熱電変換部11とn型熱電変換部12では温度勾配に対して逆向きに熱起電力が発生することにより、熱起電力は打ち消されずに足し合わされるため、熱電変換モジュール10により、大きな熱起電力を発生させることができる。温度勾配の付け方は、上記の他に下部基板15を冷却、あるいは低温部に接触させてもよい。また、上部基板14を加熱、あるいは高熱部に接触させ、下部基板15を冷却、あるいは低温部に接触させてもよい。
【0158】
p型熱電変換部11およびn型熱電変換部12の各々は、熱電変換材料を含む。また、p型熱電変換部11およびn型熱電変換部12の各々に含まれる熱電変換材料として、本実施の形態の熱電変換材料を用いることができる。ただし、p型熱電変換部11として、FeNbAlまたはFeS等、FeTiA系フルホイスラー合金とは異なる組成を有するフルホイスラー合金からなる熱電変換材料を用いることもできる。
【0159】
一方、上部基板14および下部基板15の各々の材料として、窒化ガリウム(GaN)または窒化シリコン(SiN)等を用いることができる。また、電極13の材料として、銅(Cu)または金(Au)等を用いることができる。
【実施例】
【0160】
以下、実施例に基づき本実施の形態をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0161】
以下の方法により、本発明の熱電変換材料を作製した。
【0162】
まず、E1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラー合金からなる熱電変換材料において、E1サイト、E2サイトおよびE3サイトの各サイトの主成分となる原料として、鉄(Fe)、チタン(Ti)およびシリコン(Si)を用いた。また、E1サイト、E2サイトまたはE3サイトの各サイトで主成分を置換する原料として、銅(Cu)、バナジウム(V)および錫(Sn)を用いた。そして、作製される熱電変換材料が所望の組成となるように、各原料を秤量した。
【0163】
次に、この原料を、不活性ガス雰囲気中において、ステンレス鋼からなる容器の中に入れ、10mmの直径を有するステンレス鋼からなるボールと混合した。次に、遊星ボールミル装置を用いたメカニカルアロイングを行い、200〜500rpmの公転回転速度で20時間以上実施し、アモルファス化した合金粉末を得た。このアモルファス化した合金粉末を、カーボンからなるダイス、または、タングステンカーバイドからなるダイスに入れ、不活性ガス雰囲気中において、40MPa〜5GPaの圧力下でパルス電流をかけながら焼結した。この焼結の際、550〜700℃の範囲の目標温度まで昇温した後、その目標温度で3〜180分間保持し、その後、室温まで冷却することにより、熱電変換材料を得た。
【0164】
得られた熱電変換材料の結晶粒の平均粒径を、透過型電子顕微鏡(TEM)とX線回折(X‐ray diffraction:XRD)法によって評価した。また、得られた熱電変換材料の熱拡散率を、レーザーフラッシュ法により測定し、得られた熱電変換材料の比熱を、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry:DSC)によって測定し、測定された熱拡散率および比熱から、熱伝導率κを求めた。また、電気抵抗率ρおよびゼーベック係数Sを、熱電特性評価装置ZEM(アルバック理工社製)を用いて測定した。
【0165】
得られた測定結果を、表1および表2に示す。表1は、実施例1〜6の測定結果を示し、表2は、実施例7の測定結果を示す。また、比較のために、FeVAl系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料の結晶粒径を、1000nmから200nm程度まで小さくした結果を、表3に示す。表3は、比較例1〜4の結果を示す。さらに、Cuを添加した場合の測定結果を、表4および表5に示す。表4は、実施例8〜18の測定結果を示し、表5は、実施例19〜29の測定結果を示す。
【0166】
【表1】
【0167】
【表2】
【0168】
【表3】
【0169】
【表4】
【0170】
【表5】
【0171】
表1、表2、表4および表5に示すように、Fe、TiおよびAを主成分として含有するフルホイスラー合金は、平均価電子数VECの変化量ΔVECが、0<|ΔVEC|≦0.2、若しくは、0.2<|ΔVEC|≦0.3を満たすものであれば、性能指数ZTが0.1を超えている。
【0172】
次に、結晶粒の平均粒径と特性の関係について調べた。
【0173】
表1〜表5から得られたゼーベック係数Sおよび電気抵抗率ρと、結晶粒の平均粒径との関係を、図23および図24に示す。図23は、ゼーベック係数Sと結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。図24は、電気抵抗率ρと結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。図23および図24の横軸は、結晶粒の平均粒径を示し、図23の縦軸は、ゼーベック係数Sを示し、図24の縦軸は、電気抵抗率ρを示す。
【0174】
図23および図24のグラフでは、実施例1〜8の結果を、「Fe−Ti−V−Si」と示し、実施例9〜18の結果を、「Fe−Cu−Ti−V−Si」と示し、実施例19〜29の結果を、「Fe−Cu−Ti−V−Si−Sn」と示している(図25図27においても同様)。
【0175】
なお、図23および図24では、FeVAl系フルホイスラー合金のゼーベック係数Sおよび電気抵抗率ρを示す。結晶粒の平均粒径が200nmを超えるFeVAl系フルホイスラー合金のゼーベック係数Sおよび電気抵抗率ρは、例えば文献「Materials Research Society Proceedings, Volume 1044 (2008 Material Research Society), 1044-U06-09」に記載されたデータから読み取った値である。また、上記文献には、結晶粒の平均粒径が100nmを超えるFeVAl系フルホイスラー合金のゼーベック係数Sおよび電気抵抗率ρは記載されていないが、結晶粒の平均粒径が100nmを超える場合のデータの傾向から推定している。
【0176】
図23および図24では、参考までに、同様にして測定したFeVAl系フルホイスラー合金のゼーベック係数Sおよび電気抵抗率ρを点線で示している。
【0177】
なお、結晶粒の平均粒径が200nmを超えるFeVAl系フルホイスラー合金のゼーベック係数Sおよび電気抵抗率ρは、例えば上記文献に記載されたデータから読み取った値である。また、上記文献には、結晶粒の平均粒径が100nm以上、かつ、200nm未満の測定値は記載されていないが、図23および図24における、結晶粒の平均粒径がこの範囲でのゼーベック係数Sおよび電気抵抗率ρは、結晶粒の平均粒径が200nmを超える場合のデータの傾向から推定している。
【0178】
図23に示すように、実施例1〜29、特にCuを添加した実施例9〜29の熱電変換材料では、FeVAl系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料とは異なり、結晶粒の平均粒径が200nm程度以下に減少するまで結晶粒径が小さくなった場合でも、ゼーベック係数Sが減少しないことが分かる。
【0179】
一方、図24に示すように、実施例1〜29の熱電変換材料では、結晶粒の平均粒径の減少に伴って、電気抵抗率ρは増加する。
【0180】
次に、表1〜表5から得られた出力因子、熱伝導率κおよび性能指数ZTと、結晶粒の平均粒径との関係を、図25図27に示す。図25は、出力因子と結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。図26は、熱伝導率κと結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。図27は、性能指数ZTと結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。
【0181】
図25に示すように、実施例1〜29の熱電変換材料では、FeVAl系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料とは異なり、結晶粒の平均粒径が200nm程度以下に減少するまで結晶粒が微細化された場合でも、出力因子が減少しないことが分かる。このうち、Cuが添加された、すなわちCuで置換されたFeTiA系フルホイスラー合金からなる実施例9〜18の熱電変換材料では、FeVAl系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料と同程度に出力因子が高いことが分かる。
【0182】
また、図26に示すように、実施例1〜29の熱電変換材料では、FeVAl系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料に比べ、結晶粒の平均粒径が小さいため、熱伝導率κが低く抑えられていることが分かる。
【0183】
また、図27に示すように、実施例1〜29の熱電変換材料では、FeVAl系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料に比べ、結晶粒の平均粒径が200nm程度以下に減少するまで結晶粒径が小さくなった場合でも、出力因子が低下しないため、性能指数ZTが増加していることが分かる。
【0184】
このうち、Cuが添加された、すなわちCuで置換されたFeTiA系フルホイスラー合金からなる実施例9〜29の熱電変換材料では、Cuで置換されていないFeTiA系フルホイスラー合金からなる実施例1〜8の熱電変換材料に比べ、性能指数ZTが高くなることが分かる。したがって、高い熱電変換特性を得るためには、Cuを添加することがより好ましいことが分かる。
【0185】
次に、表4および表5から得られたゼーベック係数Sまたは性能指数ZTと、Cu置換量またはV置換量との関係を、図28および図29に示す。図28は、ゼーベック係数SとCu置換量との関係を示すグラフである。図29は、性能指数ZTとV置換量との関係を示すグラフである。以下に述べるように、CuまたはVで置換されたFeTiA系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料には、ゼーベック係数Sまたは性能指数ZTからなる熱電変換特性と、Cu置換量またはV置換量との間には、強い相関があることが分かった。なお、Cu置換量は、FeTiA系フルホイスラー合金における銅の含有量でもある。また、V置換量は、FeTiA系フルホイスラー合金におけるバナジウムの含有量でもある。
【0186】
図28に示すように、Cu置換量が0at%を超え、かつ、1.75at%以下の場合には、ゼーベック係数Sの絶対値が100μV/Kよりも大きくなった。したがって、好適には、FeTiA系フルホイスラー合金における含有量は、0at%を超え、かつ、1.75at%以下である。これにより、FeTiA系フルホイスラー合金のゼーベック係数Sの絶対値を、100μV/Kよりも大きくすることができる。
【0187】
また、図28に示すように、Cu置換量が0.5〜1.6at%の場合には、Cuで置換されない場合、すなわちCu置換量が0の場合に比べ、ゼーベック係数Sの絶対値が大きくなった。したがって、さらに好適には、FeTiA系フルホイスラー合金におけるCuの含有量は、0.5〜1.6at%である。これにより、FeTiA系フルホイスラー合金のゼーベック係数Sの絶対値を、Cu銅を含有しない場合に比べ、大きくすることができる。
【0188】
また、図29に示すように、V置換量が1.0〜4.2at%の場合、FeTiA系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料の性能指数ZTは、FeVAl系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料の性能指数ZTと同程度か、または、それ以上に大きくなった。したがって、好適には、FeTiA系フルホイスラー合金におけるVの含有量は、1.0〜4.2at%である。これにより、FeTiA系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料の性能指数ZTを、FeVAl系フルホイスラー合金からなる熱電変換材料の性能指数ZTと同程度か、または、それ以上に大きくすることができる。なお、V置換量が1.0〜4.2at%の場合、前述した組成式(化1)におけるyは、y≦0.25を満たす。
【0189】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0190】
10 熱電変換モジュール
11 p型熱電変換部
12 n型熱電変換部
13、13a、13b、13c 電極
14 上部基板
15 下部基板
RG1、RG2、RG3 領域
図1
図2
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